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27 企業の境界に関する意思決定と組織文化 1.はじめに 半導体や薄型テレビなどに代表されるエレクトロニクス産業では、1990 年 代中頃までは日本メーカーが圧倒的な地位を築いていた。しかし、1990 年代 後半以降、アジアを中心とする海外企業の台頭によって市場シェアは急速に低 下し、日本のエレクトロニクス企業の業績悪化や市場からの撤退という事例が 相次いでいる。シャープの経営危機、携帯・スマートフォン事業からの NEC などの撤退、ソニーの業績低迷などがその代表的な例である。日本のエレクト ロニクス企業が競争力を失った原因を、製品生産に必要な部品のほとんどを自 社で生産する「自前主義」に拘り、自社に残すコア領域と外部に委ねる非コア 領域を的確に線引きしなかったことに求める主張がある(小川 , 2014)。そこ では、日本企業が自前主義に固執することによって、企業間の国際分業として のビジネス・エコシステムを自社に優位に設計できなかったことが競争力の低 下につながったとされる。 また、情報通信白書(2013 年度版 , pp. 307-308)では、日本企業が「自前 主義」に拘ったことがイノベーションの創出を阻害したとして次のように述べ ている。  <論 説> 企業の境界に関する意思決定と組織文化 小本 恵照

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27企業の境界に関する意思決定と組織文化

1.はじめに

 半導体や薄型テレビなどに代表されるエレクトロニクス産業では、1990 年

代中頃までは日本メーカーが圧倒的な地位を築いていた。しかし、1990 年代

後半以降、アジアを中心とする海外企業の台頭によって市場シェアは急速に低

下し、日本のエレクトロニクス企業の業績悪化や市場からの撤退という事例が

相次いでいる。シャープの経営危機、携帯・スマートフォン事業からの NEC

などの撤退、ソニーの業績低迷などがその代表的な例である。日本のエレクト

ロニクス企業が競争力を失った原因を、製品生産に必要な部品のほとんどを自

社で生産する「自前主義」に拘り、自社に残すコア領域と外部に委ねる非コア

領域を的確に線引きしなかったことに求める主張がある(小川 , 2014)。そこ

では、日本企業が自前主義に固執することによって、企業間の国際分業として

のビジネス・エコシステムを自社に優位に設計できなかったことが競争力の低

下につながったとされる。

 また、情報通信白書(2013 年度版 , pp. 307-308)では、日本企業が「自前

主義」に拘ったことがイノベーションの創出を阻害したとして次のように述べ

ている。 

<論 説>

企業の境界に関する意思決定と組織文化

小本 恵照

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28 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

 「我が国の大企業は、他社技術の導入については、パーツや部材として完成

している技術については製品開発に当たり多種多様なものが利用されている

が、技術を持つベンチャー企業や中小企業の M&A や、大学や他社からの技

術そのものの購入など、第三者が開発した技術を自らのものとする動きや、グ

ローバルな共同研究開発への取組が弱い。例えば、大企業の新規事業創出への

研究投資は、海外拠点を含めた自社研究所の研究開発にその大宗が使われてい

る」

 これらの議論は、いわゆるオープン・イノベーション(Chesbrough, 2003)

の重要性を指摘するものと捉えることができる。オープン・イノベーションが

どのような状況で有効となるのか、エレクトロニクス産業が本当に自前主義だ

ったのか、自前主義が日本企業の競争力を低下させた真の要因であるのかとい

った点を判断するにはより精緻な分析が必要である。しかし、上記のような主

張が数多く述べられ、一定の賛同を得ていることは、自社の事業領域を適切に

定めることが企業経営で極めて重要だという認識がその背景にあることは疑い

のないところである。

 こうした認識を反映し、事業領域の決定問題は、経営戦略論の中で企業戦略

(全社戦略)の問題として捉えられ、垂直統合といったテーマの中で議論され

てきた。また、マーケティング論でも、事業領域の決定は、マーケティング戦

略を策定する前提として取り上げられることが多い(石井他 , 2013; 和田他 ,

2012)。さらに、企業活動の範囲を決定することは、企業自体の範囲を確定さ

せることであり、企業理論の中で企業の境界問題として扱われる。事業領域や

企業の境界を決定する理論には、取引費用理論を初めとする新制度派経済学、

資源依存理論、知識ベース理論など様々な理論が提唱されている(Santos and

Eisenhardt, 2005)。それぞれの理論には一定の説明力があるが、単独の理論で

あらゆる状況における企業の境界の決定要因を説明することは事実上不可能で

あり、それぞれの理論が補完的な役割を果たしているのが現時点での状況と判

断される。

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29企業の境界に関する意思決定と組織文化

 こうした状況を踏まえると、企業の境界決定を包括的に論じることは容易な

ことではなく、筆者の能力を超える。したがって、本稿では、企業が保有する

文化(組織文化、一部では国民文化)を視点に、企業の境界決定問題を巡る議

論を整理し、今後の分析枠組みを提示する 1。組織文化に着目するのは、企業

の境界を決定する場面では、最終的な意思決定を行うのは経営者もしくは経営

陣であり、組織文化が意思決定者の判断に無視できない影響を与えていると考

えるからである。

 組織文化については、企業の競争優位を決定する要因として経営資源を指摘

する議論が支配的となる中で(Barney, 1991; Wernerfeld, 1984)、組織文化に

ついても競争優位につながる要因となることが指摘されている(Barney,

1986)2。このため、組織文化と企業業績を関連づける研究は数多く行われ

(Sackman, 2011; 北居 , 2014)、組織文化が企業業績に有意な影響を与えるとい

う実証分析も数多く報告されている。

 組織文化が企業業績に影響を与えるのは、従業員に共有される価値観や信念

という組織文化が、従業員の行動を左右すると考えられているからである。組

織文化が組織内部の従業員の活動を左右するほどの影響力を有するならば、組

織文化が企業の境界決定に関する意思決定に影響を与えている可能性は大き

い。なぜなら、企業の境界決定に関する意思決定は、企業経営に多大な影響を

与える、不確実性が大きな意思決定と判断されるからである。経営戦略上重要

な意思決定は一般に大きな不確実性を伴うが、そのような意思決定においては、

選択肢を合理的に評価することは難しく、組織文化に代表される企業に関係す

る様々な状況(context)が影響を与える。たとえば、企業の境界を広げる意

1 グローバル経営やグローバル・マーケティングにおいては、国民文化も重要な影響を与える(Hofstede et al., 2010)。このため、一部では国民文化の影響にも言及する。2 近年の組織文化研究では、組織文化を活動の制約と捉えるのではなく、個人や組織が実用的な資源として文化的材料を用いるという理論(道具箱としての文化 , cultural toolkits)がある(Weber and Dacin, 2011)。しかし、本稿では、組織文化を個人が私的に保有する価値観や信念を対象にし、その価値観などが個人や組織の活動を制約すると捉える、1980 年頃から発展してきた組織文化研究のパラダイムをもとに検討を加える。

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30 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

思決定の代表的な手段である M&A(Mergers and Acquisitions)の成果を実

証的に分析すると、買収企業の株主価値は M&A によって毀損することが多

いことが明らかとなっている(Moeller et al., 2005)。これは、M&A という企

業の境界の変更に関する意思決定において、一定のコストを支払って企業の境

界を広げることが企業価値の向上につながるかどうかを、事前に評価すること

がいかに難しいかを示している。換言すると、M&A の案件を実行するかしな

いかは、M&A の結果がプラスになるのかマイナスになるのかがほとんど分か

らない中で意思決定されていると言える。このような微妙な判断が求められる

場面では、限定合理性(Simon, 1997)に基づく組織の意思決定モデルなどは

十分な説明力を持たない。個人の意思決定でも、意思決定時の問題設定方法や

感情などによって合理性が損なわれることは広く知られており(Bazerman

and Moore, 2009)、個人の集合体である組織の意思決定プロセスでも同様のこ

とは十分に起こりうるからである。不確実性が大きく合理性の追求が困難な場

合や、選択肢の結果がほぼ同等と見られる場合には、過去の企業活動の中で形

成された組織文化が意思決定者の判断基準に一定のバイアスを与え、最終的な

意思決定を左右するケースは少なくないのではないかと考えられる。

 本稿は、以上のような問題認識を踏まえ、企業の境界の決定を組織文化と関

連させる中で考察する。以下の、構成は次のとおりである。第 2 節では、企業

の境界を巡る議論を整理する。第 3 節では、組織の意思決定を巡る議論を整理

する。第 4 節では、組織文化と関連させる中で企業の境界問題を考える。第 5

節では、本稿のまとめを行い、今後期待される研究の方向性について述べる。

2.企業の境界を巡る理論

 企業の境界の決定は経営にとって大変重要な意思決定であり、過去 50 年以

上にわたって多くの研究が蓄積されてきた。しかし、垂直統合や多角化といっ

た企業の境界の変更には、戦略や組織構造の様々な変化が関係する。このため、

取引費用理論(Williamson, 1985)といった特定の理論で企業の境界決定に関

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31企業の境界に関する意思決定と組織文化

するすべての意思決定を説明することは不可能である(Zenger et al., 2011)。

したがって、様々な理論による説明が試みられてきた。

 近年では、こうした現状を踏まえ、企業の境界に関する理論を整理し、今後

の研究に指針を与える論文が現れている。たとえば、Santos and Eisenhardt

(2005)は、境界を定める概念には、効率(efficiency)、パワー(power)、能

力(competence)、アイデンティティ(identity)の 4 種類があるとして議論

の整理を行っている。そこでは、企業の境界 3 を「企業と環境を区分するもの

(demarcation)」と定義することによって 4、異なる視点に立つ理論を公平に

扱うこととなり、企業に関するより深い理解が可能になると主張している。具

体的には、従来の企業の境界理論は法律上の会社を想定して企業の境界を議論

してきたのに対し、より幅広い企業組織の概念を用いることによって企業の境

界に関する新たな見方を提示している。たとえば、効率にもとづく理論として

取引費用理論が取り上げられ、そこでは法的な企業を企業の境界とする議論が

展開されるのに対し、能力にもとづく理論では法的な企業を超えて、経営資源

のポートフォリオの価値を最大化できる限界が企業の境界となるといった視点

から理論の整理を行っている。

 法的な企業の境界にこだわらず、上述のような視点で企業の境界を考えるこ

とはできるものの、一般の企業経営の現場で企業の範囲を解釈する基本は、法

律的に定められた企業(会社)だと考えられる 5。なぜなら、企業の重要な利

害関係者の株主や従業員は、法的な会社を基準に定められるからである。した

がって、本稿では、企業組織は法律的に定められた会社であるという立場から、

企業の境界を巡る理論を整理する。

3 Santos and Eisenhardt(2005)は組織の境界(organizational boundaries)という言葉を使用しているが、本稿では企業と読み替えることにする。4 ただし、組織の複数のメンバーが組織の成果(outcomes)を考慮して境界を設定するという状況を対象とするため、個人的な利益が関心対象となる実証的エージェンシー理論(positivist agency theory)などは分析の対象外としている。

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32 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

2.1.取引費用理論取引費用理論では「取引」を分析対象とし、取引費用が最小となるように企業

の境界が設定されると考える(Coase, 1937)。しかし、取引費用理論における

取引費用を計測することは事実上不可能であるため、取引費用が大きくなると

考えられる取引に関連する属性を取り上げ、企業の境界が決定される要因を特

定する(Williamson, 1985, 1991, 1999)。その要因を特定するためには人間行動

に伝統的な経済学とは異なる前提が必要となる。その一つが限定合理性である。

伝統的な経済学では完全合理性を仮定するが、人間には認知能力に限界がある

ため、その制約の中で合理的に行動するというより現実に近い仮定を設ける。

もう一つが機会主義的行動である。機会主義は自己の利益を追求する行動を意

味するが、そこでは悪賢い方法を使ってでも自己の利益を追求することも含め

ている。ただし、自己の利益を追求する自利心は伝統的経済学において人間行

動の基本的動機と考えられてきたが、自利心には Adam Smith の共感の概念

が基礎に流れているとする見解があり(井上 , 1994)、この視点に立つと、

Williamson の機会主義は Adam Smith の自利心とは内容が異なっている可能

性がある。

 こうした前提の下で、企業は取引に関する統治費用を最小化するために、取

引が市場か企業組織のいずれで行われるべきかを考える。そこで、取引費用の

大きさに影響を与える要因として取引費用理論が取り上げるものが、不確実性

と資産の特殊性である。限定合理性と機会主義のもとで不確実性が存在するな

らば、市場での取引の履行が保証されるためには、契約による詳細な取引条件

の設定や監視が必要である。また、契約不履行が生じた場合には訴訟などの手

5 厳密には、主として持株比率によって決定される子会社と関連会社を含めた企業グループを想定する。ただし、企業の境界を考察する場合に、法的な企業組織と企業グループを区別して検討することは重要である。たとえば、A 社が B という事業部門を A 社の内部組織とする場合と、100%子会社の B 社にする場合では、何らかの異なる影響が出ると思われる。しかし、この点については、伊藤・林田(1997)などの研究は存在するものの、これまでのところ十分な研究が蓄積されているとは言いがたい。これは、企業が分社化する動機は多様(成長の追求、不採算事業の整理など)であり、様々なケースを包括的に説明することが難しい点にあると考えられる。

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33企業の境界に関する意思決定と組織文化

間が生じる可能性もある。したがって、不確実性が大きいほど、市場取引では

なく企業組織が選択されると取引費用理論では考える。なお、不確実性には、

一般に、将来の状況が定かでない「環境の不確実性」と、取引相手の行動に不

確実性がある場合の「行動の不確実性」に分けて議論されることが多い

(Rindfleisch and Heide, 1997)。行動の不確実性は、情報の非対称性から生じ

るモラル・ハザードなどが該当する。

 一方、資産の特殊性とは、特定の取引相手との取引では価値があるが別の取

引相手との取引では価値が低下してしまう資産の特性を意味する。こうした資

産が関係する取引にあっては、契約を締結すると準レントが生じるため、機会

主義的行動によって、事後的に準レントを搾取するという行動を取引相手がと

る可能性が生じる(ホールドアップ問題)。ホールドアップ問題の懸念が生じ

るのであれば、取引相手はその防御のために契約内容を詳細にするといった行

動に出るが、契約相手が限定されることとなることなどから(fundamental

transformation)、契約内容の交渉などに多大なコストがかかってしまう。つ

まり取引費用が大きくなる。したがって、資産の特殊性が大きな取引では、市

場を用いるのではなく、企業組織が利用される。なお、取引の頻度も取り上げ

られ、取引の頻度が多くなると取引相手の機会主義的行動が抑制されるため、

市場取引が選択されると主張される。

 取引費用理論に関する実証研究は非常に多く、その研究蓄積をレビューした

研 究 を み る と(David and Han, 2004; Geyskens et al., 2006; Macher and

Richman, 2008)、資産の特殊性や取引相手の行動の不確実性が大きくなるほど、

市場取引よりも企業組織が選好されることを示す結果が得られている。一方、

環境の不確実性が大きいことが取引費用を高めることによって企業組織が選好

されるという仮説については、仮説を支持しない結果が多い。また、取引頻度

については、その仮説を支持しない研究が多い。ただし、上述の見解で研究者

が一致しているわけではなく、Carter and Hodgson(2006)は、影響力が大

きな実証的研究を詳細に検討する中で、取引費用理論に必ずしも十分な実証的

な裏付けがないことを主張している。特に、提携などの混成的関係(hybrid

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34 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

relationship)と企業組織とを区別する場合において、取引費用理論にもとづ

く要因の説明力が乏しいことを指摘している点は注目に価する。また、

Geyskens et al.(2006)は、(1)市場と企業組織の選択、および(2)市場と

混成的関係の選択についてメタ分析を行い、前者については取引費用理論が多

くのケースで当てはまることを確認している。しかし、後者の混成的関係と企

業組織の選択については、混成的関係と企業組織に関する選択とメタ分析に用

いた構成概念の間にほとんど相関がなく、分析が不可能だったとしている。さ

らに、Brouthers and Hennart(2007)は、企業がグローバル展開を行う際の

参入形態(entry mode)の決定要因に関する研究をレビューしているが、契約、

合弁会社(ジョイント・ベンチャー)、完全子会社という参入形態を決定する

際に、取引費用理論の説明力の弱さを指摘している。

 オープン・イノベーションやビジネス・エコシステム(Adner, 2012)では、

提携などによる企業間の協力関係が重要であることを踏まえると、混成的関係

と企業組織の選択に取引費用理論が十分な実証的な証拠を提示できていないこ

とは、この理論の大きな弱点であると考えられる。これは、企業間の協力では、

費用の最小化という効率性のみならず、機会主義とは相容れない公正などにも

とづく信頼(Ring and Van de Ven, 1994)などの要因が果たす役割がかなり

大きいことを示す結果と解釈することができる。また、Santos and Eisenhardt

(2005)は、効率性にもとづく取引費用理論は、経済的活動の仕組みが確立さ

れた安定的な状態を想定しており、その状況で行われる取引を対象とする分析

枠組みであると位置づけている。その結果、資産の特殊性や行動の不確実性な

どで決定される取引の属性は不変とされ、取引費用を最小化するためにガバナ

ンスのメカニズムが即座に変更できることが想定されていると捉える。したが

って、取引費用理論の論理が当てはまるのは、効率性が重視され価格競争など

が厳しい産業であるという見解を示している。換言すると、技術変化などが激

しい不安定な状況では取引費用理論の説明力が低下すると主張している。

 また、取引費用理論の本質的な部分についても、現時点でもいくつかの限界

が指摘されている。一つは、資産の特殊性と取引形態の因果関係である。取引

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35企業の境界に関する意思決定と組織文化

費用理論は、資産の特殊性によって取引費用が高まるために、市場取引ではな

く企業組織が選択されると考える。しかし、市場取引ではなく企業組織が選択

されることによって、資産の特殊性が高まるという逆の因果関係が働いている

との指摘がある(Kogut and Zenger, 1992; Poppo and Zenger, 1998)。例えば、

特殊な設備に対する投資の事例では、企業特殊的投資を行うことが、

Williamson の主張するホールドアップ問題を引き起こすという論理は理解で

きる余地は大きいが、人的資源投資については疑問が湧く。企業特殊的人的資

産(資本)は、企業が従業員を雇用した後に 6、従業員が職務を遂行する中で徐々

に形成されるものであることを想起するならば、取引費用理論が主張するホー

ルドアップ問題による説明には説得力が欠ける面がある。また、取引費用理論

の実証研究の内容をみると、理論を支持する実証分析の大半が、資産の特殊性

として企業特殊的人的資産を計測した研究となっている(Carter and

Hodgson, 2006)ことも、この理論の脆弱性を示している可能性がある。

 さらに、個々の取引には社会的な関係が伴っているが、取引費用理論は取引

に付帯する社会的な要素を考慮していないという理論の前提に対する批判もあ

る(Granovetter, 1985)。また、取引費用理論は意思決定者がリスク中立的で

あると仮定するが、現実的にはリスク選好は個人や組織によって異なる。この

ため、主観的なリスク選好の違いを理論に取り込み、主観的なリスク選好の違

いに応じて望ましい組織形態が異なるという議論も展開されている(Chiles

and McMackin, 1996)。

 こうした検討を踏まえると、取引費用理論には、理論の前提や論理展開に関

する疑問が依然として残っていることが分かる。理論面でこれらの疑問が生じ

るということは、取引費用理論の改良や取引費用理論を補完する理論が求めら

れていることを意味する。

6 これは、他社の労働を利用しないという点から垂直統合に該当する。

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36 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

2.2.知識ベース理論 知識ベース理論は、知識の移転や統合に着目して企業の境界を考える理論で

ある(Conner, 1991; Grant, 1996; Kogut and Zander, 1992)。知識ベース理論

では、調整費用(coordination cost)の概念を用いることによって、機会主義

を前提としなくとも議論が展開できる点に特長がある 7。先述のように、取引

費用理論では、市場取引のガバナンス費用が高まることを導くためには機会主

義が必要条件となっている。

 その内容をみると、個人はそれぞれ異なる知識を保有しているので、何らか

の活動をいかに遂行するかについて各個人が異なる見解を持つことが起こりう

ると想定する(Conner and Prahalad, 1996)。したがって、見解の異なる個人

が取引ないしは活動を行う場合には、その違いを解消するために調整が必要と

なるが、市場取引では交渉という手間がかかるのに対し、企業組織では権限を

行使することにより調整を容易に行うことができる。特に、不確実性が大きい

場合には調整費用が大きくなるため 8、市場取引ではなく企業組織が利用され

ることになる。

 しかし、知識ベース理論には、資源ベース理論あるいはケイパビリティ理論

との境界が必ずしも明確ではないという問題がある。たとえば、Eisenhardt

and Santos(2002)は、知識に関する議論は、組織内と組織間で異なる論点が

ないため、知識ベース理論は資源ベース理論に包含されるという見解を示し、

知識ベース理論による企業理論は存在しないとしている。これに対し、渡部

7 調整費用に関する議論については、Foss(1996)や Nickerson and Zenger(2004)では異なる見解が示されている。Foss(1996)は、機会主義を必要としない例外的ケースの存在は認めるものの、一般的には知識ベース理論が導く要因は必要条件に過ぎず、機会主義が理論の展開には必要であるとの見解を示している。また、Nickerson and Zenger(2004)は、問題解決などの知識の創出に焦点を当て議論を展開する。そこでは、解決の対象となる問題の性質に応じて、(1)市場、(2)権限を基礎とする企業組織、(3)合意を基礎とする企業組織、という 3 種類の形態の中から異なる選択が行われることを示す理論を提示している。8 たとえば、自然災害などによって状況が急変した場合には、契約内容を変更して取引内容を変えることは時間と手間がかかるが、会社内であれば即座に指示を出して対応することができる。

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37企業の境界に関する意思決定と組織文化

(2014)は、資源ベース理論は、戦略的に重要な内部資源を強化することで、

競争優位を保持し、これによって企業の持続可能性を実現するというコアとな

る前提を持つとした上で、(コア)ケイパビリティが重要な内部資源として重

要視されるようになったとする。ケイパビリティの内容としては、企業内部の

個別資源間・活動間の補完性を高めるような企業独自の資源活用能力もしくは

学習能力としている。知識ベース理論については、知識こそが強化すべき重要

な戦略的資源と捉え、企業は知的資源の集合体とされるが、正確には、強化す

べきは個々の知的資産そのものではなく、個々の知的資産を選び、組み合わせ、

統合するケイパビリティに求められるとする。そして、資源ベース理論という

企業の能力についての研究をもとにしながら、特に企業における知識に焦点を

当て、個々の知識を用いる組織的能力としての知識こそが企業に優位性をもた

らすことを指摘した研究群が「知識ベース論(理論)」であるという見方を示

している。

 また、知識ベース理論が理論的には相応の説得力を有することは疑いないが、

実証分析に必要な操作性に欠け、検証すべき明快な仮説を提示することが難し

いことも事実である(Brethnahan and Levin, 2013)。たとえば、暗黙的な知

識やルーティンといった知識ベース理論の重要な概念を構成する明確な次元は

明らかにされていない。このため、知識ベース理論を踏まえて、的確な計測尺

度を用いて企業の境界決定の問題を取り上げた実証分析は少ないのが現状であ

る。こうした点を踏まえて、取引費用理論は不確実性や資産の特殊性といった

概念による精緻なミクロ的基礎づけを有するのに対し、知識ベース理論には確

固たるミクロ的基礎づけが欠けているという評価もなされている。

 上記のような状況を踏まえ、以下では、数少ない研究の中から代表的な研究

を紹介する。まず、Poppo and Zenger(1998)の研究がある。この研究では、

取引費用理論での資産の特殊性と知識ベース理論での資産の特殊性が企業の成

果に与える影響の違いを検討することで、資産の特殊性に関する取引費用理論

と知識ベース理論の仮説の妥当性を検証した。これは、(1)取引費用理論では、

資産の特殊性は市場を利用した場合に多大なコストを発生させ企業の成果を悪

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38 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

化させるが、(2)知識ベース理論では、企業特殊的なスキルやルーティンなど

の資産の特殊性は企業組織の有能性を高め企業の成果を向上させる、という影

響の違いに着目した分析となっている。より具体的に述べると、従来の企業の

境界の選択問題に関する実証分析は、市場を利用した場合の費用もしくは成果

と企業組織を利用した場合の費用もしくは成果を計測して、その大小の比較に

よって企業の境界が決定されているということを検証するものではなかった。

企業の境界選択の結果(市場か企業組織か)を被説明変数とし、被説明変数に

影響を与える資産の特殊性などの要因を独立変数として回帰分析を行い、独立

変数の影響の有無を検定するという手法をとることによって、異なる統治構造

のもとでの費用などの計測問題を省略させる、いわゆる誘導型での計測が行わ

れてきた(Masten, 1993; Masten et al., 1991)。Poppo and Zenger(1998)は、

情報サービス企業を対象に、市場を利用した企業と企業組織を利用した企業で

成果に与える資産の特殊性の影響に違いが生じるのかどうかを分析した。なお、

影響の違いを正確に計測するため、企業の境界の選択行動を考慮した分析とな

っている。これは、サンプル ・ セレクションの問題が存在する場合の分析であ

り、Heckman(1979)の 2 段階推定法を用いて推定を行っている。推定結果は、

取引費用理論による影響は確認されたものの、知識ベース理論にもとづく影響

は確認できないというものであった。ただ、この研究における知識ベース理論

による効果の計測を見ると、たとえば、計測された資産の特殊性が、組織内の

コミュニケーションを容易にする(知識移転を容易にする)ことなどを通じて

企業の成果を高めるという論理によって仮説を構築している。しかし、資産の

特殊性と成果の間に介在するコミュニケーション(知識移転)に関する計測尺

度はないため、資産の特殊性と成果の関連が知識を介在して生じたものかどう

か判然としない。また、外部にアウトソースしている割合が 75%を超える場

合は市場の利用(outsourced)とし、それ以外を企業組織の利用(internal)

と分類しているが、企業組織に分類される範囲が広いことも問題である。これ

らの点を総合すると、この研究は知識ベース理論を検証するという視点に立つ

と、知識を直接的に計測していないため十分な説得力をもつ研究とは言えない。

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39企業の境界に関する意思決定と組織文化

 次に、Leiblein and Miller(2003)の研究がある。この研究は、同一の経営

環境にあると考えられる同一産業内の企業(自動車産業の GM とクライスラー、

パソコンの IBM と Compaq)で垂直統合化の程度が大きく異なることに着目

し、取引費用理論で説明される影響を控除した上で、企業固有の要因が垂直統

合の判断に与える影響を分析している。企業固有の影響(firm-specific effects)

としては、知識ベース理論をもとに、(1)垂直統合の対象となる活動に関連す

る技術の利用経験、(2)外部企業に対する活動のアウトソーシングの経験が、

垂直統合に影響を与えるとする。この 2 つの要因が影響を与えるのは、何らか

の経験を積んだことが将来の行動を促す要因に影響を与えるという経路依存性

(path dependence)が存在するということが前提となっている。前者の要因は、

関連する経験を積むことによって垂直統合に関する活動を学習する機会を増や

し、垂直統合した事業の遂行能力を高め、垂直統合を促す要因となる。後者の

要因は、アウトソーシングの経験を積むことによって、外部企業と共同して事

業を遂行する能力が高まり、垂直統合ではなく外部の企業を的確に選別し、効

果的な協力関係が構築できることに寄与する。この結果、アウトソーシングの

経験は垂直統合を抑制する効果を持つことになる。

 実証分析では、集積回路を生産する 116 社から、複数の部品に関する生産情

報(内製またはアウトソース)などを収集し分析を行っている。収集されたサ

ンプルは 469 である。分析方法は、内製かアウトソースかという選択を被説明

変数とし、取引費用理論と企業固有の要因を説明変数とするロジット回帰分析

を行っている。それによると、取引費用理論については、不確実性や資産の特

殊性に関係する仮説を支持する有意な結果を得ている 9。企業固有の要因につ

いては、関連する生産経験を積むほど内製化する傾向が強く、アウトソーシン

グの経験を積むほど内製化しない傾向が強まるという、知識ベース理論にもと

づく仮説を支持する結果を得ている。この研究は、生産やアウトソーシングの

9 資産の特殊性の影響については、メイン効果では有意な影響は観測されず、不確実性が大きいほど資産の特殊性の影響が大きくなるというモデレート効果が観測されるという結果となっている。

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40 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

経験によって企業のケイパビリティを計測し、ケイパビリティに示される知識

が企業の境界に影響を与えることを示したものと言える。しかし、この論文の

著者が述べているように、なぜ、そもそも生産もしくはアウトソーシングの経

験を積むに至ったかという初期の段階の説明が欠落している点で、不十分な面

が残っている。

 最後に、小本(2015)は、近年の小売・飲食業による農業(青果物)の 6 次

産業化に関する分析を行っている。小売・飲食業の農業の 6 次産業化は、いわ

ゆる垂直統合であり、企業の境界変更と解釈される。この企業の境界変更の理

由を分析するためには、伝統的な青果物の流通システムである卸売市場でのセ

リ・入札方式が衰退し、相対取引や市場外取引が大多数を占めているという青

果物流通の現状を理解しておく必要がある。つまり、純粋な市場取引は衰退し、

契約を利用した取引(hybrid relationship)が取引の中心となっているという

状況を踏また上で、なぜ、小売・飲食業が自ら農業生産法人など設立して農業

参入(6 次産業化)を進めるのか、換言すると、契約の利用ではなぜ不十分な

のかを説明する必要がある 10。こうした点を踏まえて分析を行うと、(1)生産

される青果物が市場での取引が難しい特殊な作物であるならば、取引費用理論

による 6 次産業化の説明は可能である、(2)農産物の生産方法に大きなイノベ

ーションを導入する場合などでは、知識ベース理論であれば説明ができる、と

いうことを理論的に説明している。その上で、農業の 6 次産業化を進める小売・

飲食業 2 社を対象に事例研究を行い、知識ベース理論の妥当性を確認している。

 これまで、知識ベース理論を検証した論文を紹介してきた。それらの論文お

よび本稿では紹介しなかった論文をみると、知識ベース理論にもとづく研究で

は、(1)知識もしくはケイパビリティに関連すると判断される変数を研究者が

適宜設定し、定量的な実証分析を行う、(2)企業の境界の変更を経時的に捉え、

10 農業生産法人を通じた農業参入では、株式会社の場合には、農業従事者との共同出資が条件となっているため、いわゆるジョイント・ベンチャーという形態での参入に限定される。農地の取得ではなくリース方式で参入するのであれば、一般の農業法人として通常の株式会社形態で参入することが可能である。

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41企業の境界に関する意思決定と組織文化

変更を生じさせた要因を事例研究によって定性的に分析する、という方法が主

として採用されている。前者は、知識もしくはケイパビリティを計測する尺度

に関して一致した見解がないため、理論との整合性が十分とは言えない結果が

多い。後者の事例研究は、限定された事例をもとにした議論であり普遍性に欠

ける面がある。

 こうした現状を克服するために、たとえば Foss(2011)は、ミクロ的基礎

づけの必要性を述べている。そこでは、マクロ経済現象を分析するケインズ経

済学が、ミクロ的基礎づけの欠如を克服するために、個人や企業の最適化行動

をベースにしてマクロ経済現象を説明できる理論を構築する方向に研究が向か

っていったことなどになぞらえている。つまり、知識ベース理論は、組織レベ

ルの分析を組織レベルで行っているために、十分な基礎づけが確立できないと

して、組織から個人に分析対象を移すことなどを主張している。実際、こうし

た主張を受けて、経営戦略を個人の認知能力(管理的認知能力:managerial

cognitive capability)から分析するというフレームワークなどが提示されてい

る(Helfat and Peteraf, 2014)11。

 以上の検討を踏まえると、知識ベース理論がより説得力を有する理論として

発展するためには、より精緻な実証分析を可能とするために不可欠な操作性を

高めた理論構築が強く求められていると言える。

3.組織の意思決定

3.1.戦略的意思決定 企業が何らかの行動を起こす場合、組織としての意思決定が伴う。企業の境

界を巡る決定でも、最終的には経営者もしくは経営陣がその判断を下す。取引

費用理論や知識ベース理論では、資産の特殊性や知識移転の困難性などによっ

て、企業の行動が決定されると考える。例えば、取引費用理論では、取引にお

11 ただし、こうした見解には反論もある(Winter, 2013)。

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42 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

いて資産の特殊性が大きい場合、企業は外部企業との取引よりも垂直統合がよ

り望ましいと考え生産の内製化を選択すると考える。しかし、内製化を最終的

に決定するのは、企業内で働く経営者もしくは経営陣の意思決定である。

 Leiblein and Miller(2003)が述べているように、同一産業で活動する企業

にあっても、企業の境界の選択行動には違いが見られる。つまり、客観的には

ほぼ同じ状況に置かれたとしても、企業によって異なる企業戦略が採用される

ことは珍しいことではない 12。自動車産業の歴史で、米国メーカーが垂直統合

を志向したのに対し、日本企業は系列企業を活用した提携戦略を重視したこと

などが一例である。また、わが国の回転ずし業界では、あきんどスシロー(ス

シロー)やくらコーポレーション(無添くら寿司)は直営店のみを運営してい

るが、海王コーポレーション(かいおう:富山県)はフランチャイズ店を中心

に展開している。

 こうした企業戦略の違いを理解するためには、組織の意思決定を再検討する

必要がある。ただし、意思決定の対象が何かによって、当然ながら組織の意思

決定方法は大きく変化する。代表的な意思決定は次の 2 つに大別される(Simon,

1977)。一つは規則や手続きが定められ、同様の意思決定が過去に繰り返し行

われることによってプログラム化された意思決定(programmed decision

making)であり、もう一つが、不確実性が伴う状況の中で新たな解決策を探

索するプログラム化されていない意思決定である(unprogrammed decision

making)。本稿が分析対象とする企業の境界の選択は、頻繁には起こらない意

思決定であり、プログラム化されていない意思決定に該当する。また、企業の

境界決定は企業戦略であり(Grant, 2013)、経営学での意思決定問題としては

戦略的意思決定(strategic decision making)と呼ばれて特に注目を集めてき

た意思決定問題となる。そこで、以下では、戦略的意思決定に焦点を絞って議

論を進める。なお、戦略的意思決定の定義としては、Mintzberg et al.(1976)

12 Chiles and McMackin(1996)は、取引費用理論のフレームワークの中に、主観的なコスト概念とリスク選好を取り入れることで、こうした現象を説明できるとする概念モデルを提示している。

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43企業の境界に関する意思決定と組織文化

のよる定義が代表的である。それによると、戦略的意思決定は、「行動(actions

taken)、経営資源(resources committed)、前例(precedents set)などの点

において重要な」意思決定と定義される。なお、Mintzberg et al.(1976)は、

主として社会心理学の実験によって得られる組織の意思決定プロセスに関する

知見は、意思決定の構造を扱っていない点や分析の単純さから、プログラム化

されていない意思決定プロセスの分析には有用ではないとしている。

 戦略的意思決定は 2 つのカテゴリーに分けることができる(Elbanna,

2009)。戦略的な意思決定の内容分析(content research)とプロセス分析

(process research)である。前者は、多角化や M&A など企業の境界決定を

変更するといった戦略的意思決定の内容を分析対象とするものであり、後者は

戦略的意思決定が行われるプロセスを対象とするものである。Elbanna(2009)

によると、過去 20 年間は内容分析が中心で、プロセス研究は蓄積が少ないと

している。その上で、内容分析とプロセス分析は代替的ではなく補完的なので、

両者の研究が影響し合うとしプロセス分析の重要性を指摘している。本稿が対

象とするのはプロセス研究である。

3.2.意思決定プロセスの代表的モデルの概要 戦略的意思決定を検討する前提として、組織の意思決定を説明する代表的モ

デルを概観しておく。

(1)合理的モデル

 合理的モデルでは意思決定のプロセスを一般に 3 段階に分ける。第 1 段階は

解決すべき問題の特定である。技術革新や競争状況などの環境変化に対応して、

何らかの新たな行動が必要とされる問題を特定することなどが該当する。第 2

段階は、特定された問題を解決するための活動計画の策定である。策定に当た

っては考えられる複数の代替的な案を提示する。第 3 段階では、策定された複

数の代替的な活動計画の結果を評価し、最も効果的な活動計画を選択する。

 このような意思決定が可能となるために、合理的モデルでは、(1)意思決定

者はあらゆる情報を保有している、(2)意思決定者には最適な代替案を評価 ・

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44 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

選択できる能力がある、(3)意思決定者間に意見の相違はないといった条件を

想定する。しかし、戦略的意思決定においては、上記の前提が成り立つとは考

えにくい。あらゆる情報を収集することは不可能であるし、仮に集めようとす

るならば膨大なコストがかかってしまう。また、代替案の評価 ・ 選択について

も、意思決定者が必要な認知能力を有しているとは限らないことや意思決定の

ための時間的制約などから、最適な選択ができない可能性も大きい。さらに、

組織内では、メンバー間で目標が一致しているとは限らないため、メンバーに

よって異なる目標が追求されることは頻繁に起こる。こうした事実を踏まえる

と、合理的モデルは現実の意思決定からかけ離れたものとなっていると判断さ

れている。したがって、合理的モデルに代わるより現実の場面に近い意思決定

モデルが模索されることとなった。

(2)カーネギー・モデル

 Herbert Simon や James March などの米カーネギー・メロン大学に在籍し

ていた研究者が中心になって提唱した意思決定モデルはカーネギー・モデルと

称される(Daft, 2013)。このモデルは、合理的モデルをより現実の意思決定プ

ロセスに近づけるために、合理的モデルの前提に修正を加える(March and

Simon, 1993)。

 まず、カーネギー・モデルでは、意思決定に必要な情報入手の限界から不確

実性が存在すると想定する。また、意思決定には複数の者が関係し、意思決定

者は異なる目標、意見、価値観、経験などを持っていると想定する。

 意思決定者は合理的な判断を行うという点では合理的モデルの前提を踏襲す

るが、意思決定者の情報処理能力の限界から代替案の評価には制約があると考

えるモデルである。これは、限定合理性と呼ばれている。また、カーネギー・

モデルでは、意思決定プロセスで連合体(coalition)が形成されるとする。こ

れは、組織の目標は曖昧なことが少なくなく、首尾一貫しないことも多いため、

意思決定者間での目標や意見に関する優先順位が異なることが大きな要因とな

る。つまり、目標の優先順位を決定するために、意思決定の関係者が交渉し連

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45企業の境界に関する意思決定と組織文化

合体を形成することで目標の設定を行う。さらに、連合体を形成することによ

って、メンバーがアイデアを出し合うことが可能となり、個人の情報処理能力

の限界が克服できる面もある。

 カーネギー・モデルにおける意思決定の特徴としては、次のような点も指摘

される。まず、問題の解決に当たっては最適化を求めるのではなく、満足化原

理によって解決を図ると考える。これは、一定の満足できる水準を満たす解決

方法が見つかったならば、それ以上の探索は行わないことを意味する。また、

経営上の課題の探索や解決では、身近な問題に関心を寄せ、短期的な解決策が

採択されるとする。つまり、情報入手の制約などから、当面の課題に焦点を当

てた意思決定行動が行われる。最後に、課題の特定の段階における議論や交渉

が非常に重要であるという点が挙げられる。

(3)ゴミ箱モデル(Garbage Can Model)

 不確実性が非常に大きく「組織的な無秩序な状態(organized anarchies)」

における意思決定を説明するモデルがゴミ箱モデルである(Cohen et al.,

1972)。このモデルの特徴は、外部環境の高度な曖昧性によって、組織が無秩

序となっている状態を想定している点にある。

 曖昧性は、次の 3 点によってもたらされる。第 1 は、問題含みの選好である。

これは意思決定者の選好が首尾一貫せず、選好が不明確なものとなっているこ

とである。第 2 は不明確な技術である。これは、試行錯誤によって意思決定参

加者は知識を得るが、因果関係の明確な理解を欠くため、手段と目的に関して

不明瞭な理解しかない状況を意味する。第 3 は、意思決定参加者の流動性であ

る。時間の経過や参加者の関心の変化によって、意思決定プロセスにおける参

加者に入れ替わりが生じる。

 ゴミ箱モデルでは、以下の 4 つの要因が偶然もしくはランダムに組み合わさ

れることで意思決定が行われると考える。4 つの要因は、次のとおりである。

第 1 は、選択の機会である。これは意思決定の機会を意味する。第 2 は、解で

ある。これは問題を求める解答である。第 3 は、意思決定の参加者であり、多

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46 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

忙なスケジュールで働いている。第 4 は、問題であり、組織内外の人々の関心

事である。すなわち、問題を探し求める選択の機会、選択されることを求める

問題、自らの解答に対する問題を探し求める解、何らかのことを決定すること

を求める意思決定者という 4 者が、偶然に出会った時に意思決定につながると

このモデルでは想定する。

 ゴミ箱モデルについては、シミュレーション分析や事例研究がある。そこで

は、このモデルを支持する結果が得られている。ただし、意思決定の期限が決

まっている場合や問題が短期的な課題の場合ではゴミ箱モデルの当てはまりは

悪く、合理性を重視した連合体の形成による意思決定プロセスの説明力が高ま

る(Eisenhardt and Zbaracki, 1990)。

 これまで、代表的な組織の意思決定モデルを見てきた。現時点では、(1)意

思決定者が完全合理性ではなく限定合理性のもとで行動していること、(2)意

思決定プロセスが政治的であること、(3)意思決定が偶然に左右されることに

は、研究者間で共通の理解があるとされる(Eisenhardt and Zbaracki, 1990)。

しかし、これらのことは現実の職場での活動を想起すれば自明のことと言える。

したがって、意思決定に対して研究者が何らかの新たな知見を提供するために

は、さらに一歩踏み込んだ分析が求められている。そこで、戦略的意思決定を

分析するに当たっては、より実態に近い視点からの研究の必要性が主張されて

きた(Eisenhardt and Zbaracki, 1990)。

3.3.戦略的意思決定分析のフレームワーク 組織の意思決定モデルは先述のように複数のモデルが提示されているわけだ

が、戦略的意思決定の実態からかけ離れたレベルに止まっているという問題が

あった。また、これらのモデルは、企業の経営戦略の次元から見ると、主とし

て事業レベルもしくは機能レベルの問題を扱っており、より高次の企業レベル

の問題を扱っていないという難点もある。このため、企業の方向性を決定する

非常に複雑な戦略的意思決定を分析するモデルとしては十分なものとは言えな

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47企業の境界に関する意思決定と組織文化

い。

 この課題を克服するためには、より精緻な分析のフレームワークが必要であ

る。例えば、多角化について考えると、1980 年代末のバブル期のように企業

の業績が好調な時に多角化を検討する場合と、2000 年代に入り本業の業績が

不振となる中で多角化に活路を求める場合では、戦略的意思決定プロセスに違

いが出ることが予想される。また、ソフトバンクや日本電産のように創業者が

経営者であるファミリー・ビジネスと、昇進した従業員の中から経営者が選抜

される業歴の長い企業では戦略的意思決定プロセスは異なるだろう。

 したがって、何らかの分析フレームワークを作らなければ、戦略的意思決定

プ ロ セ ス 研 究 の 全 体 像 を 理 解 す る こ と は 不 可 能 で あ る(Ginsberg and

Venkatraman, 1985)。本稿では、1992 年から 2005 年 4 月までに発表された戦

略的意思決定プロセスに関する研究をレビューした Hutzschenreuter and

Kleindienst(2006)の論文が提示しているフレームワークを紹介する中で、

企業の境界に関する戦略的意思決定プロセスを考察する。

 Hutzschenreuter and Kleindienst(2006)は、戦略的意思決定プロセスの研

究には、(1)先行要因(antecedents)、(2)戦略プロセス、(3)結果(outcomes)

という大きな 3 つの要因が関係するというフレームワークを設定する。そこで

は、ある時点(t 時点)における先行要因によって、戦略プロセスとして定義

される戦略の形成と実行が行われ、実行された戦略によって次期(t + 1 期)

に結果が生まれる。なお、t+1 期の結果は、t+2 期の結果に対する先行要因と

なる。戦略プロセスは、(1)先行要因、(2)戦略プロセス、(3)結果というサ

イクルが回転することによって進められる。

 なお、意思決定プロセスは、そのプロセスを作り出すあるいはプロセスが生

み出す様々な状況(context)に埋め込まれている(Pettigrew, 1997)ことを

踏まえ、先行要因などの中身を分類している。以下では、その内容を見ていく。

(1)先行要因

 先行要因については、まず環境的背景が挙げられる。環境的背景は、

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48 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

Sharfman and Dean(1991)が示しているように、政治状況や規制に加え、環

境を理解する上で必要な「知識の複雑さ」、環境変化が予測できるかどうかと

いう「不確実性」、環境から企業が利用できる「経営資源の状況」などが代表

的なものとして挙げられている。次に、同一の環境的背景のもとでも、組織は

戦略的背景によって特徴づけられる。組織の戦略的なポジションや行動などが

戦略的背景の具体的内容となる。たとえば、戦略類型には、Miles et al.(1978)

が提示する、分析型(analyzer)、防衛型(defender)、探索型(prospector)、

受身型(reactor)があるが、戦略的背景の影響としては、現時点において企

業が採用している戦略のタイプが、その後の戦略の策定・実行に影響を与える。

かりに企業が分析型の戦略を実行しているならば、それが現時点の戦略の策定・

実行の制約要因となるため、分析型の戦略を前提に戦略を策定することとなる。

 戦略的背景が同一だとしても、組織の状況という先行要因がある。組織の状

況については、静態的な組織的特徴(static organizational characteristics)と

動態的な組織的特徴(dynamic organizational characteristics)に分類される。

前者の例としては、企業規模、業歴、組織構造、技術などが挙げられる。たと

えば、創業間もない数人の企業と従業員数が 10 万人を超える大企業では、組

織構造も異なり、意思決定プロセスに違いが生じることは容易に推察できる。

後者の例としては、ルーティン、文化、価値などが挙げられる。最後の要因と

しては企業業績がある。過去の企業業績が、情報収集の範囲や強度を決定する

ことが知られている(Cyert and March, 1963; Fredrickson, 1985)。たとえば、

業績が悪くいわゆる経営上のスラックが乏しい状況にある企業ほど、包括的に

かつ熱心に情報収集するといったことである。

(2)戦略プロセス

 環境要因が定まったとしても、戦略プロセス自体を構成する要因によって結

果などは影響を受ける。戦略プロセス自体は、(1)戦略策定者(strategists)、(2)

課題(issue)、(3)活動の流れ(sequence of action)という 3 つの主要要素か

ら構成される。

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49企業の境界に関する意思決定と組織文化

 第 1 要素の「戦略策定者」については、組織の意思決定が個人および個人の

集団で行われることを考えると、戦略策定者自身の特徴が意思決定を左右する

ことが挙げられる。これは、(1)戦略策定者の静態的な特徴(strategists’

static characteristics)と(2)戦略策定者の個人的および認知的状況(strategists’

personal and cognitive context)に分けられる。前者の戦略策定者の静態的な

特徴は、戦略策定者のメンバーの規模、開放性、多様性などである。後者の戦

略策定者の個人的および認知的状況は、戦略策定者の出自や経験などによって

形成される個人的気質などである。

 第 2 要素の「課題」については、同一組織内であっても戦略プロセスは、課

題の内容によって変化することが挙げられる。たとえば、課題の複雑性、緊急

性、戦略との関連性などがある。

 第 1 と第 2 の要素は、第 3 要素である「活動の流れ」に影響を与える。活動

の流れは、「プロセスの特徴」と「プロセスと結果の関係の特徴」に分けられる。

前者は、合理性の程度、包括性、意思決定への参加などである。後者は、意思

決定のスピード、コミットメントの水準、意思決定の質がその内容となる。

(3)結果

 先行要因と戦略プロセスは、経済的および非経済的な結果に影響を与える。

戦略プロセスを繰り返し生じるイベントとして概念化するならば、戦略プロセ

スの結果は、次の戦略プロセスが生じる際の前提条件(状況)となる。たとえ

ば、結果が業績の悪化につながったならば、その悪化した業績が前提として、

次の戦略プロセスが策定・実行される。したがって、結果に関する要因は、先

行要因と内容としては同一となる。

 これまでの説明を図で示すと図 1 のようになる。図 1 で示される分析枠組み

は、先行要因、戦略プロセス、結果という 3 要因の結びつきは何か、なぜ結び

ついているか、いかに結びついているかを説明している。戦略的意思決定の分

析では、これらの要素間の関係について多くの研究が蓄積されてきている。

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50 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

4.組織文化と意思決定

 Hutzschenreuter and Kleindienst(2006)が示した戦略的意思決定のフレー

ムワークにおいては、組織文化は、意思決定プロセスの先行要因の中の動態的

な組織の特徴の一つとして挙げられていた。本節では、組織文化と意思決定の

関係を考察する。

4.1.組織文化の内容と意思決定の関係 組織文化は、一般に「組織のメンバーに共有されている価値観、規範、信念、

理解」と定義され、組織の新たなメンバーは組織文化を企業内での活動を通じ

先行要因 (Antecedents) 戦略プロセス(Strategy Process) 結果(Outcomes)

環境的背景

成果

t t + 1

戦略的背景

課題の特徴 プロセスの特徴

戦略策定者の静態的特徴

プロセスと結果の関係の特徴

戦略策定者の個人的・認知的特徴

静態的な組織の特徴

動態的な組織の特徴

環境的背景

成果

戦略的背景

静態的な組織の特徴

動態的な組織の特徴

【図1 戦略の策定・実行のプロセスの枠組み】

(出所)Hutzschereuter and Kleindienst(2006, p. 678)の Figure 1 をもとに作成。

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51企業の境界に関する意思決定と組織文化

て学び取るとされる(Hofstede et al., 1990)。価値観などは組織のメンバーの

個人の内面に存在するため他者から観察することはできないが、価値観や規範

などを反映した振る舞いや会話、逸話や儀式などは目に見える。このため、組

織文化は複数の階層から構成されるという主張がある。たとえば、Schein(2010)

は、組織文化は、人工物(artifact)、信奉される信条と価値観(espoused

belief and values)、暗黙の前提認識(assumption)という 3 つの階層からな

るという見解を示している。暗黙の前提認識は、メンバーが無意識の中で共有

している信条や価値観である。この見解によると、人工物や信奉される信条や

価値観は目に見えるものだが、暗黙の前提認識は目には見えないものとなる。

 上記の組織文化の定義から明らかなように、組織文化の根底をなす個人の内

面に潜む価値観などを外部から直接的に観察することは難しい。このため、組

織文化の定量的な計測方法に関しては様々な主張がなされてきた(Ashkanasy

et al., 2000)。一つは、質問票を用いた計測は、Schein(2010)の人工物や信

奉される信念や価値観といった浅いレベルの組織文化を計測できるが、メンバ

ーが共有している価値観(暗黙の前提認識)といった深いレベルの組織文化を

質問票調査で明らかにすることは難しいという立場である。この見方によると、

綿密な観察や詳細なインタビューというエスノグラフィーによる定性的分析に

よってのみ、共有されている価値観などを知ることができることになる。

 しかし、いわゆる「強い文化(strong culture)」のもとでは、Schein の 3

階層の文化は統合されている(Deal and Kennedy, 1982)。すなわち、従業員

の話しぶりや振る舞いなどに共有されている価値観は反映されている。また、

価値観が個人の内面に存在するものとするならば、個人が組織に対して知覚す

るイメージや認識を聞き出すことが、組織文化を構成する価値観を知る有力な

方法になると考えることもできる。

 上記のように、組織文化の質問票を使った計測には賛否両論があるわけだが、

組織文化と企業業績との関係を分析する中で、組織文化を質問票調査によって

計測し業績との関係を分析することに一定の賛同が得られていることは事実で

ある(Rousseau, 1990)。このため、企業の境界の意思決定プロセスを定量的

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52 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

に分析する際に、組織文化の要因を組み込むことが広く行われている。これは、

組織文化が経営者や従業員の活動や思考を規定するため、企業の境界決定とい

う不確実性の大きなケースで、意思決定の方向を左右すると考えられるからで

ある。

 組織文化が戦略的意思決定の内容に与える影響を考える上では、問題(issue)

が経営者に戦略的課題として認識されるプロセスへの着目が有益である。そも

そも、組織の中で戦略的な課題として位置づけられるためには、何らかの問題

を経営者もしくは経営陣が戦略的な課題として認識する必要がある。その際に

は、Dutton(1997)や Dutton and Ashford(1993)が述べるように、必ずし

も経営者自身が戦略的課題を提示するとは限らず、中間管理者が問題を経営者

に売り込む(selling issues)ことによって、組織の中で戦略的課題として位置

づけられることも多い 13。売り込みが成功するためには、Dutton and Ashford

(1993)が示すように、(1)経営者や問題を売り込む中間管理者の特徴、(2)

不明確な問題を理解できるようにするアレンジ(packaging)、(3)売り込み

の方法といった様々な要因が複雑に影響する。しかし、戦略的な議題(agenda)

が形成される上で、組織内のルーティンや生態学的要因が影響を与えているこ

とを考慮すると(Dutton, 1997)、 売り込みの手順にはルーティンの形成などに

関係する組織文化が無視できない影響を与えていると考えられる。

4.2.組織文化が企業の意思決定に与える影響に関する実証分析 組織文化が意思決定に影響を与えることを分析した研究としては、Liu et

al.(2010)がある。この研究は、インターネットによるサプライチェーン・マ

ネジメント・システム(eSCM)が企業に導入される要因を組織文化と制度の

視点から研究したものである。具体的には、制度理論(DiMaggio and Powell,

1983)で主張される、模倣的圧力(mimetic pressures)、規範的圧力(normative

pressures)、強制的圧力(coercive pressures)が、eSCM の導入に影響を与

13 企業規模が大きくなり組織構造が複雑になると中間管理層が増えるため、この傾向はより強まると考えられる。

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53企業の境界に関する意思決定と組織文化

えるとした上で、組織文化要因が調整変数(moderator)として影響を与える

ことを分析している。組織文化については、Quinn and Rohrbaugh(1983)の

競合価値モデルを利用している。組織文化を規定する軸として、柔軟性

(flexibility)と管理(control)を志向する文化を取り上げ、それぞれが、制度

的圧力に与える影響を分析している。柔軟性の志向については、柔軟性に富む

企業は他の競合企業とは差別化を志向するため、制度的圧力の影響が弱まると

いう仮説を提示している。一方、管理志向の強い企業は、制度的圧力による他

の企業との一致は安定を維持する上で良い機会だと判断するため、制度的圧力

をより強化する方向に作用すると考える。以上のような組織文化の影響を分析

するために、中国で eSCM を導入していない 131 の企業を対象に、質問票調

査を行っている。それによると、強制的圧力については柔軟性と管理のいずれ

についても仮説は支持されたが、模倣的圧力については仮説とはいずれも逆の

符号で係数は有意となり仮説が支持されないという結果となっている。規範的

圧力については、管理についてのみ仮説が支持されるという結果となっている。

 また、グローバル経営では、組織文化とともに国民文化も重要となる。そこ

で、組織文化から離れるが、国民文化の違いが戦略的提携のタイプの選択の意

思決定に与える影響を分析した論文を紹介したい。Steensma, et al.(2000)は、

製造業の中小企業が、(1)戦略的提携を行っているかどうか、(2)戦略的提携

をしている場合に資本拠出が伴っているかどうか、という 2 種類の意思決定の

結果に対して国民文化が与える影響を検証している。国民文化については、

Hofstede(1980)が計測、類型化した国民文化を用いている。より具体的に述

べると、提携が形成される主たる要因である不確実性に着目し、不確実性が存

在するもとでの提携形成行動を資源依存理論(Pfeffer and Salancik, 1978)と

取引費用理論から仮説を導出している。提携形成については、資源依存理論を

もとに技術的不確実性(technological uncertainty)を強く知覚するほど提携

が形成されやすいという仮説を提示している。一方、提携を選択した場合に、

資本を拠出するかどうかについては、不確実性に伴う機会主義的行動のリスク

を重視する取引費用理論をもとに、技術的不確実性が大きいほど関係的不確実

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性(relational uncertainty)を強く知覚するため、資本拠出が選択されるとい

う仮説を提示している。

 この研究では、上記の要因の影響を控除した上で、国民文化が戦略的提携に

影響を与えるかどうかを、(1)不確実性の回避度、(2)男性度、(3)個人主義

の程度という国民文化の 3 つの次元をもとに仮説を提示している。このうち、

男性度は、社会が攻撃的あるいは競争的かどうかという次元である。女性的な

社会では協調などが重視される。個人主義は、個人間の結びつきが弱いことを

意味し、他の集団からの独立を強く望むという文化を意味する。

 不確実性の回避度については、その程度が大きいほど、提携による技術的不

確実性の低下を高く評価するため提携が選択されるという仮説を設定する。ま

た、資本拠出に伴う関係的不確実性の低下も高く評価されるため、資本拠出の

傾向も強まるとする。なお、技術的不確実性が提携や資本拠出に与える効果に

ついては、不確実性の回避度が強いほどその効果が強まるとする。男性度につ

いては、男性度が強いほど協調を志向しないため、提携は選択されなくなる。

また、技術的不確実性が提携を促進させるという効果については、男性度が大

きいほど不確実性の影響の受け止め方が弱いとして、技術的不確実性の提携促

進効果を低下させるという仮説を提示している。個人主義については、個人主

義の程度が弱い(集団主義が強い)ほど、長期の相互依存関係を形成すること

を受け入れやすいため、資本を拠出する傾向が強まる。一方、技術的不確実性

が資本拠出に与える効果については、個人主義が強いほど技術的不確実性に対

して機敏に対応するとして、技術的不確実性の資本拠出促進効果を強めるとい

う仮説を示している。

 実証分析については、オーストラリア、インドネシア、メキシコ、ノルウェ

ー、スウェーデンの 5,578 の中小企業に質問票を送付し、1,470 の回答を得たが、

その中の 494 の製造業を分析対象としている。分析結果をみると、男性度と個

人主義については、メイン効果と交互効果のいずれについても仮説を支持する

有意な結果を得ている。一方、不確実性の回避度については、資本拠出につい

ては有意な結果は得られず、提携形成についても交互効果についてのみ仮説が

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55企業の境界に関する意思決定と組織文化

支持されるという結果となっている。

4.3.組織文化と企業の境界の意思決定 企業の境界決定を巡る意思決定では、不確実性が極めて大きく、明確な判断

を下しにくいケースも多い。純粋な市場取引と企業組織との選択問題であれば

比較的明快にメリットとデメリットを判断できるものの、混成的関係と企業組

織との選択問題では実態的に両者の違いが非常に小さいと判断されるケースも

多いからである。たとえば、企業の職務をモジュール化し、さらにモジュール

化された職務の内容を非常に単純なものにしたとする。モジュール化や職務内

容の単純化は、作業内容の見直しや情報機器などの装備などによって、かなり

の程度実現可能である。こうした状況では、契約によって企業組織に近い組織

間形態を創り出すことができるし、自律性を持たせたチームからなる企業組織

として運営することも有力な選択肢となるだろう。つまり、取引費用理論での

資産の特殊性や不確実性は大きな問題とならないし、知識ベース理論での組織

間の知識移転の問題もクリアできる。すなわち、市場取引や企業組織が持つい

ずれの弱点もかなりの程度克服可能となる。こうした状況では、いずれの理論

も企業の境界決定に関して強力な説明力を持たない。しかし、企業の境界問題

が戦略的意思決定問題に位置づけられているならば、経営者は何らかの意思決

定を下さなくてはならない。そこでは、経営者や中間管理者の価値観などに代

表される組織文化が大きな影響を与える。

 こうした見解に立つならば、企業の境界問題では、職務の設計や他の企業と

の協力関係の形成 ・ 維持を中心とするビジネス ・ モデルの構築が、重要な概念

として浮かび上がってくる。ビジネス・モデルを規定する有力な要因の一つと

しても、企業が過去の活動の中で形成・維持してきた組織文化が挙げられるだ

ろう。

 以上のような検討を踏まえると、企業の境界の意思決定問題の中に組織文化

を明示的に組み込んだ理論モデルの構築が強く求められていると言えよう。

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56 駒澤大学経営学部研究紀要第 44 号

5.おわりに

 本稿では、戦略的意思決定と組織文化の要因を考慮する中で企業の境界問題

に検討を加えた。それによると、取引費用理論などの企業の境界決定を説明す

る既存の理論は完全なものではなく、依然として改善の余地があることが判明

した。実証分析についても、知識ベース理論を中心にさらなる精緻化が必要で

あることが明らかとなった。

 その上で、企業の意思決定問題を考えると、企業の境界問題は戦略的意思決

定問題の一つと位置づけられ、戦略的意思決定のプロセスに組織文化が影響を

与える可能性の大きいことを示した。また、組織文化が意思決定プロセスに影

響を与えることを示す実証分析は存在するものの、組織文化を企業の境界決定

の意思決定と関連づける研究の蓄積は乏しく、今後の研究の余地が大きいこと

も判明した。

 これまでの検討を踏まえると、冒頭で取り上げた日本企業の「自前主義」は、

日本企業を特徴づける国民文化もしくは組織文化が、「自前主義」を志向する

という意思決定を促した結果とも考えられる。とするならば、グローバル展開

する様々な国の企業を対象に、国民文化や組織文化を計測し、研究開発の推進

態勢や他企業との提携関係との関連を分析することは有力な研究領域になるだ

ろう。これは、一つの事例であるが、これに止まらず、組織文化を組み込んだ

より精緻な理論の構築と実証分析を推進する余地は大いにあると考えられる。

企業の境界決定は、企業の成長などに大きな影響を与える経営上の重要な意思

決定であることを踏まえると、今後さらなる研究が進められることを強く期待

したい。

 

謝辞

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号 25380515)の助成を受けてお

ります。

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