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修士論文
次元正孔系の量子ホール効果
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻修士 年
学生番号
高堂 寿士
指導教官 家 泰弘 教授
年 月
概 要
本研究は、次元正孔系の量子ホール効果について実験的に調べたものである。次元正孔系は、有効質量が大きいことや、スピン軌道相互作用が強いことなど 次元電子系とは異なる特徴を持つ。本研究では、量子ホール系においてキャリア間の相互作用が重要となる多体状態について新たな知見を得ることと、スピン自由度に関わる新たな現象を発見することを目的とした。
まず高次ランダウ準位の において、ストライプ相を反映した磁気抵抗の異方性を観測した。面内磁場を印加する実験を行うことで、ストライプ相が 方向に強く安定化されていることを見出した。そして、異方性を決める要因としてこの系では界面のステップ構造によるポテンシャル変調が影響していると考察した。次に、 付近と という特定のランダウ準位占有率において、非周期的な抵抗振動を観測した。振動の原因として、量子ホール液体相と絶縁相の 相が共存し、細い伝導チャンネルのネットワークができているというモデルを考え、実験結果を定性的に説明することに成功した。
スピン自由度が関わる現象としては、背後に存在する磁性不純物や核スピンがキャリアのスピン自由度に絡む現象に注目した。まず、長時間にわたり磁気抵抗が緩和する現象を観測した。系には、準安定状態と安定状態の つの状態が存在し、 を境にしてどちらが安定状態かが切り替わることが分かった。抵抗検出
の手法により核スピンの関与を否定した。この現象を説明するモデルとして、励起状態に取り残された正孔が最低ランダウ準位に緩和していく過程が抵抗の変化として現れていると考えた。この緩和には正孔のスピン反転を伴うが、磁性不純物が正孔のスピン反転に関与していると考察した。また、抵抗検出 の測定系を構築し、次元電子系において抵抗検出 の信号の観測に成功した。特に、 付近における抵抗検出 で分散型共鳴線形を観測し、スカーミオン結晶との関連について調べた。
目 次
第 章 序論
第 章 研究の背景
磁場中の 次元系の輸送現象
磁場中電子の半古典モデル
ランダウ量子化
整数量子ホール効果
分数量子ホール効果
次元正孔系
零磁場でのバンド構造
ランダウ準位
次元系の多様な基底状態
高次ランダウ準位のストライプ相
ウィグナー結晶
量子ホール系におけるスピン自由度
スピン転移とヒステリシス現象
スカーミオンとスカーミオン結晶
第 章 試料作製と実験手法
試料の作製
次元正孔系
フォトリソグラフィーによるホールバーの作製
実験手法
測定装置
電気伝導の測定系
抵抗検出 の測定系
第 章 高次ランダウ準位における異方性と面内磁場の効果
高次ランダウ準位の異方性
面内磁場依存性
本章のまとめ
第 章 ~と における非周期的抵抗振動
付近の抵抗振動
の抵抗振動
考察
本章のまとめ
第 章 長時間緩和を伴うヒステリシス現象
ヒステリシス現象の観測と緩和時間の測定
緩和時間の電子温度依存性と電流量依存性
緩和時間の面内磁場依存性
考察
本章のまとめ
第 章 次元電子系における抵抗検出
抵抗検出 の基礎
核磁気共鳴 の原理
半導体中の核スピンと電子スピンの相互作用
量子ホール領域での抵抗検出 の観測
のスピン相転移と動的核スピン偏極
付近での「分散型共鳴線形」の観測
共鳴線のフィリング依存性と温度依存性
の測定
本章のまとめ
第 章 結論
第章 序論
整数量子ホール効果の発見 年と分数量子ホール効果 年の発見は、世紀後半に発見された物理現象の中で、最も重要な発見のうちの一つである 。量子ホール効果は今日まで実験的、理論的研究が精力的に行われ、磁性、超伝導と並ぶ物性物理学の一大分野にまで成長した。そして、量子ホール系の研究の発展は、半導体 次元系の試料の質の向上と共にあったともいえる。半導体 次元電子系の試料の質が上がるにつれて、分数量子ホール効果が発見されたことがこのことを端的に表している。また、ストライプ相やバブル相などの新たな基底状態も移動度が
を超えるような、不純物による影響を極力減らした試料で観測されている。そのような背景もあり、膨大な先行研究が存在する 次元電子系に対し、高移動度の試料が得にくい
次元正孔系を用いた量子ホール効果の研究は非常に少なかった。
しかしながら、 次元正孔系に関する研究は近年大きな注目を集めている。一つは、「強相関 次元系」として 次元正孔系を捉える研究である。次元正孔系は電子に比べ有効質量が大きいため、同じキャリア密度でも実効的に運動エネルギーが小さくなる。そのため、実効的にクーロン相互作用が重要となるのである。零磁場での金属的振る舞いは強相関系としての特徴が現れているのではないかと考えられている 。もう一つは、次元正孔系のスピン自由度に注目した研究である。次元正孔系はスピン軌道相互作用が強いため、スピンに関連した現象を探る格好の舞台である 。次元正孔系のスピン依存伝導を探る実験も行われている 。また、希薄磁性半導体である が正孔をキャリアとする遍歴強磁性を示すことからも、正孔のスピン状態を探ることは重要であると考えられている。
このような特徴を持つ 次元正孔系を舞台とすることで、量子ホール系において、電子系では見えていなかった新たな現象を発見すること、あるいは、今まで知られている現象に新たな知見を与えることが期待できる。本研究では、広大な量子ホール系の分野の中でも、大まかに以下の二つの切り口から研究を行った。
キャリア間相互作用が織り成す、新たな多体の基底状態の探索
量子ホール系におけるスピン自由度に関わる現象の探索
の観点では分数量子ホール効果も電子間相互作用によるものであるといえる。しかし、強磁場下の 次元系で実現するのは、分数量子ホール液体だけではない。複合フェルミオンのペアリング状態、電子が三角格子を組むウィグナー結晶、電荷密度波の一種であるストライプ相、電子が数個集まったものが格子を組むバブル相など多体の基底状態が存在する。このような電子間相互作用が大きく影響する現象は移動度が を超えるような、不純物による影響を極力減らした試料で観測されている。量子ホール系では、ランダウ量子化によって運動エネルギーが欠如するため、単純には正孔系が電子系よりキャリア間相互作用が重要だとはいえない。しかしながら、有効質量が大きいことによりランダウ準位間のミキシングが無視できなくなる効果がある。また、正孔と電子でランダウ準位を構成
する波動関数が変わるので、相互作用の様子も変わると考えられている。したがって、これらのキャリア間相互作用が重要となる現象について新たな知見を得ることが期待できる。
の観点ではスピン自由度は、強磁場下においても凍結することはなく、量子ホール系に多彩な現象を引き起こすことが知られている。具体的には、 のスカーミオン励起や、分数量子ホール状態のスピン相転移などが挙げられる。関連して、量子ホール系の電子スピンが核スピンと結合することによっておこる輸送現象も注目を集めている。 のスピン偏極状態と非偏極状態の転移点で、長時間の抵抗緩和現象が発見され、抵抗検出核磁気共鳴 抵抗検出 の方法により、核スピンの関与が確認されている。これは量子ホール系の電子スピンを用いて核スピンを制御できる可能性を秘めており、固体中の核スピンを量子ビットとして用いようという研究もなされている。スピン軌道相互作用が強いという特徴を持つ正孔系においては、量子ホール系での新たなスピン現象が期待できると同時に、スピン現象が電気伝導という形で現れやすい可能性がある。また、抵抗検出の手法を用い、次元正孔系および 次元電子系における核スピンに依存した現象を探ることも興味深い。
以上のことを踏まえて、本研究の具体的な目的を述べる。
高次ランダウ準位における異方的磁気抵抗の観測
高次ランダウ準位で見られるストライプ相は、クーロン相互作用パラメータに敏感である。正孔系では電子系と同じフィリングでもクーロン相互作用のパラメータが異なるため、電子系と異なるフィリングでストライプ相を反映した異方的磁気抵抗が観測される可能性がある。また、異方性の向きが何によって決まるかは未だ解明されていない問題である。面内磁場を印加し、異方性の向きを決める要因について探ることを目的とする。
付近と における非周期的抵抗振動の観測
量子ホール領域における抵抗振動は、メゾスコピック試料や量子細線などではよく観測されている現象である。本研究では、 幅のマクロスコピックなホールバーで非周期的抵抗振動を観測し、分数量子ホール液体相と絶縁相の 相共存の可能性を探ることを目的とする。
長時間緩和を伴うヒステリシス現象の観測
のランダウ準位占有率で長時間にわたり抵抗が緩和する現象を観測し、この現象の起源、特に正孔のスピンがどのようにこの現象に関わっているかを明らかにすることを目的とする。
次元電子系における抵抗検出 の観測
抵抗検出 の測定系を構築し、抵抗検出 における 付近の「分散型共鳴線形」とスカーミオン励起との関わりを明らかにすることを目的とする。
本論文は以下のような構成となっている。第 章では、本研究の背景となる先行研究について紹介する。第 章では、試料作製と実験手法について述べる。第 章では、高次ランダウ準位における異方的磁気抵抗の実験結果について述べる。第 章では、 付近と における非周期的抵抗振動の実験結果について述べる。第 章では、長時間緩和を伴うヒステリシス現象の実験結果について述べる。第 章では、次元電子系における抵抗検出 の実験結果について述べる。第
章で本研究の結論を述べる。
第章 研究の背景
磁場中の次元系の輸送現象
磁場中電子の半古典モデル
磁場中の 次元系の伝導測定では通常、図 のような試料 ホールバーを用いる。試料の幅を、電圧端子間距離を とすると、対角抵抗率 およびホール抵抗 は、
により求められる。ドゥルーデモデルによれば、磁場中の伝導度は、
となる。ここで、は電子の有効質量、 は電子密度、 は散乱時間、 サイクロトロン角振動数である。伝導率テンソルと抵抗率テンソルは互いに逆行列で結びつくので、抵抗率は
となる。よって、
となる。 は移動度である。これより、電子密度 と移動度 を実験的に求めることができる。
B
L
WI
V
VH
図 磁気抵抗測定の概念図
ランダウ量子化
次に量子力学的に考える。磁場中の 次元電子の軌道運動は
というハミルトニアンで表される。、!方向の一様磁場を表すベクトルポテンシャルとして、ランダウゲージ 、あるいは対称ゲージ をとると、エネルギースペクトルは
という離散準位 ランダウ準位に量子化される。ここで、 はサイクロトロン角振動数、 をランダウ指数と呼ぶ。図 "に示したように、零磁場のときの連続状態密度が磁場中では離散的なランダウ準位に束ねられるのである。また、ゼーマンエネルギーを考慮すると、式 は
となり、図 #のようにさらに分裂する。は $因子、 はボーア磁子である。ランダウ量子化の特徴としては
各ランダウ準位には単位面積あたり の縮重度がある。また、 と書けることから、 は「系の単位面積を貫く磁束を磁束量子を単位として数えた本数」とみなせる。
ランダウ指数 の軌道運動は、半径
のサイクロトロン円運動に対応する。ここで
は磁気長と呼ばれる長さである。 %で
ランダウ準位占有率 は を電子密度とすると と表される。このことから「
は電子 個あたりの磁束量子の本数」とみなすことができる。
EB = 0
EF
D(E)
(a)E
EF
D(E)
(b) B = 0
hωc
E
EF
D(E)
(c) B = 0
g µBB*
図 零磁場の状態密度。エネルギーに依らず一定値をとる。" 有限磁場下でのランダウ準位。# ゼーマンエネルギーも考慮に入れると、更に つの準位に分かれる。
整数量子ホール効果
磁場中の 次元系のランダウ準位の形成は、系の輸送特性に大きな影響を及ぼす。その最たるものが整数量子ホール効果である。この副節では簡単に量子ホール効果の解説を行う 。図 を見ると、整数の占有率 の周りで、対角抵抗 が零になり、 が に量子化されている。古典モデルでのホール抵抗は で与えられる。個のランダウ準位までがちょうど電子で詰まるという条件は であるが、この を代入するとホール抵抗は となり、形式的にホール抵抗の量子化値が出てくる。しかしながら、これは電子密度と磁場が という特定の関係になる 点において、ホール抵抗が特別の値をとるということにすぎない。量子ホール効果の驚くべき点は、この特別な条件から少しずれたところでもホール抵抗が量子化値に厳密に留まる、という点にある。なぜそのようなことが起こるかを理解するには、強磁場中の電子局在の様子を議論しなければならない。現実の系ではポテンシャルの乱れがあるため、各ランダウ準位の状態密度が有限の幅を持つことになる 図 。量子ホール効果が起こるような強磁場では、電子は小さなサイクロトロン運動をしながらポテンシャルの等高線に沿って動くことになる。有限幅のランダウ準位のうち裾の部分は極大点や極小点を囲む閉曲線になるから、局在状態である。ランダウ準位の中央にのみ試料の端から端までつながるような非局在状態ができる。量子ホール効果が起こるような強磁場領域で磁場を変化させると、フェルミ準位が局在状態にあるときに限り、絶対零度における系の伝導度は に留まり、ホール伝導度 は一定値をとりつづける。よって、式 より対角抵抗 となり、は量子化する。これが、非常に簡略化した整数量子ホール効果の説明である。
図 整数量子ホール効果
E
D(E)
localized states
extended states
図 系の乱れによりランダウ準位が幅を持つ様子を模式的に表した図。裾は局在状態で、中央に広がった状態ができる。
この説明において注目すべきなのは、電子相関の効果は全く無視されていることである。基本的に、整数量子ホール効果は「体問題」として理解することができる。しかしながら、強磁場下の量子ホール領域では電子相関が本質的な役割を果たす現象も多く見られる。代表的なものが次で述べる分数量子ホール効果である。
分数量子ホール効果
図 にみられるように、整数以外に奇数を分母とする分数の占有率のところでも量子ホール効果が起こっている。これを分数量子ホール効果と呼ぶ。粒子描像では、 にはエネルギーギャップがないので、分数量子ホール効果の存在は系が特別な多体状態になっていることを示唆するものである。
図 分数量子ホール効果
ラフリンの試行関数 は、非常によく は奇数の状態を記述している。
&
'()
ここで は電子の位置座標 をまとめて表す複素座標 である。図 に の場合を示す。これは各電子が 本ずつの磁束量子を背負っている状態に対応する。この場合、ある電子 の周りの他の電子の密度が つの電子間の距離に対して という関数になり、電子間のクーロン反発を有効に避けるような波動関数になっているのである。
B ν = 1/3
図 ラフリン状態
複合フェルミオン描像
分数量子ホール効果は 以外にも、 、 などの多くの分数占有率で観測される。整数量子ホール効果と分数量子ホール効果との類似性に着目して、*は複合フェルミオン描像を提唱した 。図 をみると、 状態は 状態の各電子にもう 本ずつ磁束量子を背負わせたものとなっている。そこで、磁束量子を 本ずつ背負った電子を複合フェルミオンとみなす。 の状態は複合フェルミオンにとっての零磁場状態とみなせる 図 "。 からずれると、複合フェルミオンは有効磁場
を感じる。そして、複合フェルミオンが有効磁場によって複合フェルミオンのサイクロトロンエネルギー で隔てられたランダウ準位を作る。結果的に複合フェルミオンの占有率 は元の電子の占有率 と次の関係で結ばれる。
例えば、 は複合フェルミオンの とみなせる。
E Beff = 0EF
(b)
E
(a)
E
EF
(c)
ν = 1/2
Beff = 0
νCF = 2
ν = 2/3
CF Fermi Liquid IQHE of CF
図 複合フェルミオンモデル。 では強く相関している電子系 は 個の磁束を付着した複合フェルミオン +,のフェルミ液体 "となる。 からずれると、複合フェルミオンは複合フェルミオンのランダウ準位に分離する。
分数量子ホール効果以外にも、量子ホール領域では電子相関が重要となる現象が多彩に現れる。また、スピン自由度を考えると、分数、整数にかかわらず、キャリア間相互作用は重要となる。
次元正孔系
ここでは本研究で用いた 次元正孔系の特徴について述べる。次元正孔系には、次元電子系と比較して異なる点が大別して 点ある。
有効質量が大きい つは、有効質量 が大きいことである。有効質量が大きいことは、キャリア間相互作用の重要性を増す。キャリア間相互作用の大きさを見積もる重要なパラメータとして、
!!
がある。は有効質量、 はキャリア密度を表す。運動エネルギー フェルミエネルギーは "
! 、クーロンエネルギーは " ! !で表されるので、 "" 、つまり、クーロ
ンエネルギーと運動エネルギーの比を表している。つまり、 が大きいほど、実効的にクーロン相互作用が重要となる。次元正孔系は 次元電子系より有効質量が約 倍大きいという特徴をもつ。式 より、同じキャリア密度でも 次元正孔系は実効的にクーロン相互作用が強い系であるといえる。
スピン軌道相互作用が強い もう つの特徴はスピン軌道相互作用が強いことである。スピン軌道相互作用の表式は
#
で与えられる。とくに原子のような球対称ポテンシャルの場合は
#
-
-
$
のように、軌道角運動量とスピンの内積の形で書くことができる。正孔は %的軌道からできており、軌道角運動量 をもつので、スピン軌道相互作用が働く。のように比較的重い元素からなる物質においては特に重要となる。このスピン軌道相互作用により、次元正孔系のランダウ準位は 次元電子系とは様相が異なってくる。量子ホール系におけるスピン状態も大きく影響されることが予想される。
零磁場でのバンド構造
まず、バルクの のバンド構造について考える。価電子帯の上端は .点に位置し、角運動量 の )的軌道で表される。この状態はスピンを含めると 重に縮退しているが、この縮退はスピン軌道相互作用によって、全角運動量 & の 状態に分離する。& と & 状態間の分離は大きいので、価電子帯の上端近傍の状態を議論する際には、& だけに注目すれば十分である。& の状態は .点では 重に縮退している。.点近傍ではそれらは重い正孔 /'01
/2'//と軽い正孔 3$45 /2'3/の つに分かれる。それぞれはスピンに関する 重縮退をもつ。
LH
HH
SO
E
k
bandconduction
valence band
j=3/2
1/2
3/2
j=1/2
(p)
(s)E0
0
∆
図 バルクの のバンド構造
次に、正孔のサブバンド構造について述べる。正孔のサブバンドを計算するには、価電子帯の縮退を考慮しなければならない。その場合のハミルトニアンは 行 列の 3655$'7 /52で記述される。
' (
' (
( '
( '
' "
) )*
*
) )*
)* **
(
)*
* )**
ここで、基底は全角運動量の !成分 &が 、、、の状態である。)、)、)は3655$'7
パラメータと呼ばれる量で、有効質量の逆数を表している。サブバンドを計算するには、式 で* を
に置き換え、閉じ込めポテンシャル を付け加えればよい。これを数値的に解いた結果を図 に示す。
次元正孔系では界面ポテンシャルによる閉じ込めのために !方向の運動は量子化され、離散的なエネルギー準位が形成される。.点の近傍においては、サブバンドを重い正孔と軽い正孔に分類することができる。通常の面密度の範囲 #では、正孔はすべて、重い正孔の性格を持つ最低エネルギーのサブバンドに収容される。このとき、ヘテロ接合のように閉じ込めポテンシャルが非対称の場合には、スピン軌道相互作用を通して、エネルギーに 8の 次の項をもたらし、スピン縮退が解かれる。このような効果によって、
次元正孔系内には 種類の有効質量を持った重い正孔が存在することになる。図 は最低準位のサブバンドのフェルミ円である。内側が有効質量の軽い方 //バンドで、外側が有効質量の重い方 //バンド である。//バンドは異方性が大きいことがわかる。
図 ヘテロ構造の価電子帯のエネルギーバンド 。
図 最低準位のサブバンドのフェルミ円。スピン縮重が解けたことを反映して 種類の有効質量をもつ つのバンドに分かれている 。
ここで述べたような価電子サブバンド構造の特徴は、低磁場の 9-/振動に反映される 。ヘテロ接合試料では、種類の正孔のうち、低磁場においてはまず有効質量の小さい方 図 の内側のフェルミ円の正孔の 9-/振動が見えはじめる。一方、磁場が十分に強くなって、ランダウ準位間が十分に離れたような状況 量子ホール領域では、9-/振動の周期は、各ランダウ準位の縮重度と全正孔数との関係のみで決まり、サブバンド構造の詳細には依らない。
ランダウ準位
価電子帯の複雑性を反映して、次元正孔系のランダウ準位も非線形となる。磁場の効果を入れるには、ハミルトニアンに次の修正を加えればよい。ここでは、面内の異方性を無視する近似を取り入れて )と)を :) ))で置き換えることにする。まず、を!
に置き換える。ここで、 は外場 を表すベクトルポテンシャルである。!の (成分と1成分は交換しなくなり、交換関係 ! ! が成り立つ。更に、価電子帯ではゼーマン項に対応する +& ,&
の項が加わる。実際には ,の値は非常に小さいので無視できる。
ここで、次の昇降演算子を定義する。-
! !、-
! !、- - その結果、ハミルトニアンの全ての項がこれらの昇降演算子で表現される。固有関数は次の列ベクトルの形で表現される。
#
#
#
#
基底は全角運動量の !成分 .が 、、 、 の状態である。は 番目の調和振動子の波動関数を表す。
では、つの重い正孔と つの軽い正孔状態が存在する。しかし、 では #のいくつかが消える。例えば、 のランダウ準位は & で他の状態と混ざらないので、磁場に対して線形である。それに対して、他の状態は異なる & の混合状態であることと、準位間反発が存在することの つの要素が重なり、ランダウ準位が磁場に対し非線形な振る舞いをする。最低ランダウ準位である の状態は主に & の状態が占めている。
図 次元正孔系のランダウ準位の計算の 例 。
次元系の多様な基底状態
分数量子ホール効果以外にも、量子ホール領域では強い電子相関に起因する現象が多彩に現れる。例を挙げると、ウィグナー結晶、ストライプ相、バブル相などである。次元正孔系を用いると、キャリア間の相互作用がより重要になるため、これらの現象について新たな知見を得ることが期待できる。本節では、特にストライプ相とウィグナー結晶について取り上げる。
高次ランダウ準位のストライプ相
近年、高移動度の 次元電子系では、 の高次ランダウ準位の半占有状態 、
など付近で抵抗に巨大な異方性が現れることが報告された 。図 に 31らの実験結果を示す。
0 1 2 3 4 5
0
250
500
750
1000
B (Tesla)
ρ xx (
Ω)
N=123...
IVI
V
5/27/2
9/2
11/2
13/2
T=25mK
図 などの高次ランダウ準位の対角抵抗の異方性。点線が 方向の対角抵抗で、実線が 方向の対角抵抗である。
2.7RC
図 ストライプ相の概念図。青点はサイクロトロン半径の $6-$ #'5'7で実際の電荷密度分布は青点より広がっている。
この異方性の特徴として、
移動度が / を超える超高移動度の試料で見られる。
温度に非常に敏感で、 ; 以上で異方性が消失する。
高抵抗の方向 <47-< -7'#52が 結晶方向となり、低抵抗の方向 <'1< -7'#52が結晶方向となる。
の特徴から、ここで見られる異方的状態は不純物や熱的励起を極力排した状況で初めて発見された多体状態であると考えられる。
この異方的状態は、現在ではストライプ相の出現を反映したものと理解されている。異方的状態が実験的に発見される前から、,2$'7らのハートリーフォック近似の計算により、高次ランダウ準位の半占有状態ではストライプ相の存在が予言されていた 。ストライプ相の出現は、ハートリーフォック近似では、次のように理解することができる。系のエネルギーは ハートリーエネルギー 交換エネルギーと、ハートリー項と交換項の差として表される。このストライプ相はいわば $6-$ #'5'7の密度波というべきもので、$6-$ #'5'7
の局所密度は非常に不均一だが、電荷密度分布はサイクロトロン半径分の広がりを持つため、電荷密
度の変化はかなり小さい。ハートリー項は電荷密度の変化のみによるので、それほど増加しない。一方、交換エネルギー項に対しては、フィリングの変化が重要なので、$6-$ #'5'7の密度が不均一になることで、交換エネルギーが上昇する。その結果、ストライプ相を作った方がエネルギー的に安定になると考えられている。異方性の実験的発見の後も、'!1ら の有限サイズの厳密対角化の計算や、94"5と =2428 により密度行列繰り込み群 >の計算により、理論的にストライプ相の存在が確かめられている。
図 面内磁場の導入による抵抗異方性の変化 。
また、の特徴からは、ストライプの向きが決まってある一定の方向を向くことがわかる。
の 次元電子系の場合、何らかの対称性を破る要因があると考えられる。しかし、その要因が何であるかは現在でも不明なままである。異方性の向きに関して興味深い実験結果が、試料を傾けて面内磁場を入れたときに得られている
。図 は ?らの実験結果である 。 、では面内磁場を 方向に入れたときに<47- -7'#52<の方向が変わっている。
、をみると、0 では、等方的で 、 共に量子ホール状態が発達しているが、面内磁場の導入とともに面内磁場の方向と同じ方向にピークが現れ、抵抗が異方的になっている。理論的には、*6$@754らによって、面内磁場に垂直な方向にストライプが発達するという計算がなされている 。 については、長年どのような機構で量子ホール状態が発達するのか謎であったが、パフィアン状態と呼ばれる つのスピン偏極した複合フェルミオンがペアを組んだような状態になっていると考えられている。理論的研究 により の分数量子ホール状態とストライプ相はエネルギー的に非常に近いことが指摘されている。面内磁場の導入は、次元電子系の面直方向の厚みを縮めるので、相互作用の様子が変わると考えられる。したがって、この実験結果は面内磁場の導入により、ストライプ相がエネルギー的に有利になったとみることができる。
高次ランダウ準位の半占有状態の異方性は 次元正孔系においても観測されている。941'$ら
図 面に成長した 次元正孔系における抵抗異方性。 、 に異方性がみられるが、 は等方的になっている 。
は に異方性を観測している。しかし、面上での測定のため、方向と 方向で零磁場での異方性が大きいことに注意が必要である。ごく最近では、A7らによって異方性が観測されている 。彼らは、面上に成長した
量子井戸に +7"2 -2)'した 次元正孔系を用いている。図 は磁気抵抗の全体図を示したものである。 ;以下の低温で 、に異方性が見られるが、 は等方的である。次元電子系では は等方的で、 は異方的であるので、この結果は、次元電子系とは対照的である。また、 、の異方的状態の間の の等方的状態がはさまる「7''575」な振る舞いも非常に特徴的である。彼らはこの振る舞いを 次元正孔系の強いスピン軌道相互作用がランダウ準位の軌道状態を変えるからだと主張している。ランダウ準位の軌道状態が変わると /-'の擬ポテンシャルが変わる。彼らは、彼らの試料のパラメータを用いて /-'の擬ポテンシャルの計算を行っている。そして、 の擬ポテンシャルの形が、次元電子系の のランダウ準位よりも のランダウ準位に近く、一方、 の擬ポテンシャルは、 と の間の値をとるという結果を得ている。
ウィグナー結晶
量子ホール系においては、運動エネルギーはランダウ量子化のため存在しないため、不純物の影響を考えない限り、系の基底状態は完全に電子間相互作用で決まる。 の極限では、系は古典的な 次元系に近づき、電子が三角格子を組むウィグナー結晶 B+になる。有限の では、電子はサイクロトロン半径、もしくは磁気長
より小さいところに局在することができないの
で、基底状態は気体か液体である。しかしながら が電子間の平均間隔より小さくなるとき すなわち は長距離斥力を主要に考えたウィグナー結晶が実現されると考えられている。
高移動度の 次元電子系では、 付近で絶縁体C量子ホール液体C絶縁体という転移が、抵抗の温度依存性から観測されている 。直接的な証拠はないものの、非線形な D特性、しきい値電圧より上での "72- "- 2'などの結果からこの絶縁相は不純物によりピン止めされたウィグナー結晶を反映していると考えられている。よく似た 7''575な絶縁相は 次元正孔系でも見られている。しかしながら、より大きなフィリング の周りで観測されている 。
図 次元正孔系での 7''575な絶縁相
gas (or liquid)
solid
2DHS
ν
rs
2DES
1/6.50
~37
図 気体C固体転移の模式的な相図
この違いは有効質量の違いによるものであると考えられる。電子系は に対して、正孔
系は であり、約倍である。大きな有効質量
は、ランダウ準位の間隔
を狭めるので、系の基底状態のエネルギーはランダウ準位のミキシングによって修正される。=2428
によってランダウ準位のミキシングによって、分数量子ホール液体とウィグナー結晶のエネルギー差が縮まることが示されている 。したがって、ちょうど では分数量子ホール状態が基底状態であるが、 からずれると、ウィグナー結晶がエネルギーが低いということが起こりうる。より直観的には、パラメータ の違いを考えればよい。 は有効ボーア半径 -を単位として測った粒子間の距離である。次元正孔系は有効質量が大きいため、次元電子系と同じ密度であっても、 はより大きくなる。したがって、実効的に系が希薄となりウィグナー結晶がより有利になるとみることもできる。
次元正孔系では、このような 7''575な絶縁相の他に、近年分数量子ホール状態とウィグナー結晶の混合相の存在を示唆する実験結果が +E541らによって報告されている 。彼らは
ただ、正孔系の場合、バンド構造の非放物性のため、 について確定した値を決めることは難しい。
付近の絶縁相に予期されない準周期的な振動を観測した。典型的な周期は %であり、 ;程度の温度上昇で振動は消失する。
0.0 0.4 0.8 1.20
20
40
60
0
1
2
3
38 55 83115 xx
[k
/ ]
B [T]
1/3
2/3
32
=1
Rxy (h/e
2)
0.95 1.00 1.05
34
35
36
Ωρ
図 付近の準周期的振動 。
図 複合フェルミオンによる F振動のモデル 。
彼らは、図 のようなモデルを考えている。つまり、分数量子ホール液体相が、ウィグナー結晶相の中で、液滴状に形成されていると考えるのである。彼らは、この小さな液滴の中の複合フェルミオンが F干渉効果を起こすことで、抵抗が振動すると主張している。そのときの液滴の特徴的な大きさは約 となる。
量子ホール系におけるスピン自由度
分数量子ホール効果においては、しばしば強磁場極限 を仮定して議論される。そこでは、全ての電子は最低ランダウ準位にいて、完全にスピン偏極していると仮定される。しかし、電子の $
因子はでは ととても小さいので、ゼーマンエネルギーによってスピンが揃っているとはみなせない。したがって、量子ホール系のスピン状態がどのようになるかは自明ではなく、電子相関が重要な役割を果たす。この節では、量子ホール領域においてスピン自由度が関わる現象をいくつか紹介する。
スピン転移とヒステリシス現象
ランダウ準位交差における相転移
量子ホール系において、反対スピンを持つランダウ準位が交差すると、スピン状態が変化するスピン相転移が起こる。例として、整数量子ホール系での傾斜磁場の方法を挙げる。
(0, )
(1, )
(0, )
(1, )
gµΒBtot
heB⊥/m*
Btot
Landau L
evels
BC
E
ν = 2EF
図 傾斜磁場中の電子のエネルギー準位。 は、ランダウ準位の上向きスピン準位を表す。
試料を磁場に対して垂直方向から角度 0だけ傾けていく。このとき占有率が で一定となるように磁場の大きさ #2 0を調節するようにする。サイクロトロンエネルギー
は一定であり、一方、スピンのゼーマン分裂G はに比例して増大する。したがって、
となる磁場 で、と がフェルミ準位上で交差し、基底状態は のスピン非偏極状態から / のスピン偏極状態へと遷移する。クーロン相互作用を考慮すると、交換エネルギーによってスピン偏極状態は非偏極状態に比べて有利となり、そのため遷移は非相互作用描像で予想されるよりも低い磁場
で起こることになる。ここで重要なのは、この遷移は相互作用によって引き起こされるのであって、多数の電子が から へといっせいにスピンを反転することによって生じる相転移であるということである。転移点では秩序変数であるスピンの磁化が不連続に変化するため、これは 次の相転移である。
分数量子ホール系における相転移
電子の 粒子準位交差が存在しない の分数領域においても、スピン偏極度の異なる基底状態間の遷移は存在する。分数量子ホール状態の基底状態がスピン偏極となるか、スピン非偏極となるかはゼーマンエネルギーとクーロンエネルギーとの競合で決まる。+487"2751の数値計算により、 や
では、ゼーマンエネルギーの無い場合、スピン非偏極状態となることが示されている 。低磁場ではスピン非偏極状態が安定で、高磁場ではスピン偏極状態が安定になり、ある臨界磁場 でスピン転移が起こると考えられる。
hωCF
gµBB
B
CF
Energ
y
図 複合フェルミオンのサイクロトロンエネルギーとゼーマンエネルギーの関係。
(0, )
(1, )
(0, )
(1, )
gµΒBhωCF
B
CF
Landau L
evels
BC
E
νCF = 2EF
図 複合フェルミオンのランダウ準位の模式図。
このスピン転移がなぜ起こるかを、 を例にとって複合フェルミオン描像を用いて説明する。分数量子ホール状態では、複合フェルミオンのサイクロトロンエネルギー はクーロン相互作用に起因するので、次式のように書ける。
( !
したがって、図 のように、準位交差が起こる。 は磁束 本を伴う複合粒子にとって となるので、図 の様に、を境に低磁場側ではスピン非偏極状態が実現し、高磁場側ではスピン偏極状態が実現する。
このようなスピン転移は主に磁気輸送を用いて調べられてきた。H'5'らは実験的にはじめて分数量子ホール領域でスピン転移を観測した 。 と電子正孔対称性で結びついている の活性化エネルギーの測定において、彼らは励起エネルギーに つの異なる傾きを見出した。が小さい領域では負の傾きで、 が大きい領域では正の傾きであった。つの異なる磁場領域での異なる傾きは、基底状態のスピン偏極が異なることを示している。
図 の活性化エネルギーの測定 。
そして、近年、転移点近傍で対角抵抗がヒステリシスを示したり、数分から数時間という非常に長いスケールで時間変化する現象が多くの研究グループにより発見されている 。図 は、;72I6'7らの磁気抵抗の測定結果である 。 %という早い掃引速度では、普通の振る舞いをみせるが、掃引速度を %と非常に遅くすると、 に異常な抵抗なピークが現れる。また、図 の挿入図は、抵抗のピーク値の時間変化を示したもので、約 時間という非常にゆっくりとした緩和をしていることがわかる。このゆっくりとした時間スケールは核スピンの関与が考えられる。そこで、;72I6'7らは核スピンの関与を確かめるために の抵抗ピークで ,磁場を照射する実験を行った 。図 にみられるように 、、、それぞれの核磁気共鳴周波数で抵抗値が下がっている。このことより核スピンが の抵抗ピークの出現に関与していることがわかった。
図 %と非常にゆっくり磁場を掃引したとき、 の対角抵抗に大きなピークがみられる 。
図 のピークにおける抵抗検出
の共鳴線 。
の抵抗ピークの起源は次のように考えられている。スピン転移点では、スピン偏極状態と
図 スピン転移点におけるドメイン構造の模式図。?はスピン偏極率を表し、?がスピン偏極状態、? がスピン非偏極状態である。
スピン非偏極状態がエネルギー的に縮退するため、その近傍では つの相がドメインを作って共存していると考えられている。電子がドメイン境界を通るにつれて、電子スピンが反転し、それに伴い、核スピンも反転する。これにより、核スピンが動的に偏極され、電子スピンのゼーマンエネルギーが局所的に揺らいで、ドメイン構造が変化する。このサイクルが繰り返されることで、長時間の抵抗緩和が起きて、さらに核スピンが動的に偏極していくと考えられている。
スカーミオンとスカーミオン結晶
では、交換相互作用により、ゼーマンエネルギーが存在しない場合でも、スピン偏極状態が実現する 図 。 からの励起状態を考える。ゼーマン分離が大きい場合、ゼーマンエネルギーで得をするため、図 "のように つの電子がスピン反転した状態が安定である。しかしながらゼーマン分離が小さくなると、クーロンエネルギーで得をするために、図 #のように中心付近のスピン反転した部分から遠方のスピンが磁場方向に揃った部分までスピンの向きをゆっくり変化させた構造をとる。この励起状態をスカーミオンと呼ぶ。スカーミオンのスピン反転の数は、交換相互作用とゼーマンエネルギーとの競合によって決まる。スカーミオンの存在は F77'55らの の実験によって確かめられた 。彼らは の
のナイトシフトによって 次元電子系のスピン偏極率を測定した。図 の実線は、ゼーマン分離が大きく単に反対向きスピンが付け加わったと考えたときの結果であるが、丸で印された実験結果は実線とは大きくずれている。点線はスピンフリップが の有限な大きさのスカーミオンだと仮定したときの計算結果で実験結果と一致している。
(a)
(b)
(c)
図 スカーミオンの模式図。 におけるスピン偏極状態。"スピン反転した準粒子。#スカーミオン励起。 図 次元電子系による のナイトシフ
ト 。
付近の領域では、有限密度のスカーミオンが存在し、理論的には正方格子を組んで結晶化することが予想されている 。図 はスカーミオン結晶のスピンの向きを示したもので、つの正方形の副格子の上に磁化の面内成分の向きが互いに異なるスカーミオンが置かれて、部に分かれた正方格子を作っている。
+J25E'らによって、スカーミオンの正方格子の低エネルギー励起が理論的に調べられている 。図に集団モードのスペクトルを示す。つのエネルギーギャップのない 2-52' 2-'が存在する。丸がフォノンモードで、十字がスピン波モードである。量子ホール系では電子スピンと核スピンのゼーマンエネルギーに差があるため、エネルギーギャップのない低励起モードが存在することは、核スピンの緩和にとって非常に重要である。彼らは、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によって核スピン緩和率が %のフェルミガスよりも 桁以上早くなると主張している。 が大きくなると、スカーミオンの密度が増えるため、量子揺らぎが大きくなりスカーミオン結晶が壊れることが予想されている。図 は絶対零度におけるスカーミオン結晶の理論的相図である。影のついた部分がスカーミオン結晶が安定な部分である。また、温度を上げることによっても、スカーミオン結晶の融解転移が起こると予想されている。スカーミオン結晶の形成を示唆する実験結果も幾つか報告されている。F125らは多重量子井戸を
図 スカーミオン結晶のスピン配置 。
図 、 における集団モードの励起エネルギー 。
図 絶対零度におけるスカーミオン結晶の理論的相図。影のついた部分がスカーミオン結晶が安定な部分である 。
用いて、低温における 付近の熱容量の測定を行った 。そして、 付近で、温度に対して熱容量が鋭いピークを示すことを発見し、スカーミオン結晶の液体C固体転移を反映しているのではないかと述べている。抵抗検出 では、図 のように、 付近において核スピン緩和率 が増大する現象が見られており、スカーミオン結晶の低エネルギー励起によると考えられている 。
図 核スピン緩和率が 付近で増大している 。
図 付近の分散型共鳴線形 。
また、>'75らは 付近で、抵抗検出 の共鳴線形にディップ構造とピーク構造が同時に現れる分散型共鳴線形を観測しており、スカーミオン結晶との関連を主張している。しかし、その起源は未だによく分かっていない。
第章 試料作製と実験手法
試料の作製
次元正孔系
本研究で使用した半導体 次元正孔系 >/9をどのように実現したかを簡単に説明する。本研究では、勝本研究室で作製された 次元正孔系を用いた。分子線エピタキシー法 FH により、という異種半導体のヘテロ接合を単原子層の精度で作製することができる 図 。この構造の界面では、とのバンドギャップの違いから、エネルギーバンドが不連続になっている。ここで、にF'を)型に変調ドープすることにより、層に正孔が導入される。このとき、ドープ層に残ってイオン化している F'の作る電場により、放出された正孔は
界面の三角ポテンシャルに閉じ込められる 図 。このため、正孔は !軸方向に閉じ込められ、界面に沿って 次元正孔系が実現される。
GaAs cap layer
p-AlGaAs (Be-dope)
spacer AlGaAs
GaAs
(001) GaAs Substrate
2 DHG
図 ヘテロ構造
E
EF
Z
2DHS
p-AlGaAsBe-doped
AlGaAsSpacer GaAs
図 ヘテロ構造のエネルギーバンドの模式図
本研究では、 種類の異なる半導体 次元正孔系の基板を使用した。図 にそれぞれの基板の設計図を示す。今回の試料は全て面上に薄膜成長されており、下から順に、基板から薄膜への影響を避けるための超格子構造、次元系が形成される 層、スペーサーの 層、キャリアドープ層、表面から距離を稼ぎ影響を減らすための 層、そして の酸化を防ぐためのキャップ層となっている。近年の 次元正孔系の研究では、面上に成長された 次元正孔系基板が主に用いられている。その理由は、面上に成長した基板の場合、F'よりも拡散係数が小さい 9をアクセプターとして用いることができ、より高移動度の試料を作成することができるからである。しかし、問題も存在する。ひとつめは、面の対称性の低さからバンド構造がより複雑になることである。ふたつめは、面に特有な表面のうねり構造により、方向の移動度が 方向より ~ 倍の大きさになることである。この二つの要因から、データの解釈が複雑になっていた。そこで、本研究では基板に由来する異方性をなるべく排除するために、面上に成長された試料を用いた。また、F'は拡散しやすいために高移動度の試料を得ることが困難であったが、 スペーサー層を ~ と広くとることによって、比較的高移動度の試料を得ることができた。
GaAs 3 nm
AlGaAs 7 nm
GaAs 15 nm
AlGaAs 15 nm
p-AlGaAs 100 nm
(Be-doped)
AlGaAs 100 nm
GaAs 1µm
2 DHS
GaAs/AlGaAs
superlattice
(001) GaAs Substrate
Sample #002
GaAs 25 nm
AlGaAs 15 nm
p-AlGaAs 100 nm
(Be-doped)
AlGaAs 100 nm
GaAs 1µm
2 DHS
GaAs/AlGaAs
superlattice
(001) GaAs Substrate
Sample #001
GaAs 5 nm
AlGaAs 10 nm
p-AlGaAs 50 nm
(Be-doped)
AlGaAs 50 nm
GaAs 1µm
2 DHS
GaAs/AlGaAs
superlattice
(001) GaAs Substrate
Sample #004
GaAs 5 nm
AlGaAs 30 nm
AlGaAs 58 nm
GaAs 1µm
2 DHS
GaAs/AlGaAs
superlattice
(001) GaAs Substrate
Sample #005
δ-dope
AlGaAs 20 nm
δ-dope
図 次元正孔系試料の設計図
フォトリソグラフィーによるホールバーの作製
異なる結晶方位の対角抵抗と /抵抗を同時に測定することができるように、主に 3字型のホールバーを作製した。以下にその作製手順を示す。
次元正孔系のエッチング
試料を約 ~ にへき開した後、トリクロロエチレン・アセトン・メタノールで超音波洗浄をし、フォトリソグラフィー用レジスト ?9 Cをスピンコーターで塗布した。プリベークを 、分行い、マスクを合わせて紫外線により感光させた。現像液 ,Cで分間現像して、ホールバーの部分のみにレジストが残るようにした。エッチング液 /?K
/K /K を用いて、ウエットエッチングにより深さ約 ほど削った。アセトンに浸してレジストを除去することにより、ホールバーの部分だけ >/9が残ることとなる。
次元正孔系とのオーミックコンタクト
工程 と同様に露光、現像して電極部分のレジストを除去した。真空蒸着により 6Lを蒸着した後、アセトンにつけ全てのレジストを除去し電極部分のみに 6Lが残るようにした。次に、窒素雰囲気中で に加熱して 21$することにより 6L電極と 次元正孔系とのオーミックコンタクトをとった。
ゲート電極の作製
一部の試料に関しては、工程 と同様に露光、現像した後、イオンスパッタリングにより %を約 6を約 蒸着することで、ゲート電極を作製した。ゲート電極に電圧をかけることで、正孔密度を制御することができる。
表 は上記の工程で作製した試料の特性を示したものである。正孔密度と移動度は温度 ;
での低磁場領域での /抵抗と零磁場の対角抵抗から算出した値である。
[110]
y
x[110]
図 3字型ホールバーの概略図
また、抵抗検出 の実験に用いた 次元電子系の試料の特性も表 に示す。次章からは、特に断りのない場合は図 のように 方向を (方向、方向を 1方向とする。また、、 はそれぞれ 方向の対角抵抗とホール抵抗を表し、、はそれぞれ
方向の対角抵抗とホール抵抗を表すこととする。
実験手法
測定装置
実験は全て %2)32-$型の希釈冷凍機 図 を用いて行った。試料は混合器内に直接挿入される試料ホルダーに取り付けられ、/' /'混合液に直接浸されるようになっている。最低到達温度は約 ;であり、ヒーターによって温度調節が可能である。温度は試料と共に入れてある較正された 6K温度計によって決定した。磁場の印加には %超伝導マグネットを使用した。試料ホルダーは必要に応じて磁場に対して試料を回転できるようになっている。
電気伝導の測定系
測定は全てシールドルーム内で行った。測定系は図 に示す通りで、デジタル計測器が発生するノイズを軽減するため、シールド内にはアナログ機器のみを設置し、ローパスフィルターを通して外
表 次元正孔系の )'特性)'番号 ホールバー形状 $5' 方向 正孔密度 移動度
M 5-7- 有
M 3C4)'- 無
M 3C4)'- 無
M 3C4)'- 無
表 次元電子系の )'特性)'名 ホールバー形状 $5' 電子密度 移動度
5-7- 有
のデジタル計測器に入力し、そこからコンピューターに取り込んだ。測定は交流周波数 /!の定電流 ~ を試料にかけ、ホールバーでの 端子測定によって試料の対角抵抗およびホール抵抗をロックイン測定した。また、一部の試料については、ソースメジャーユニットを用いてフロントゲートに電圧を印加し、試料の正孔密度を制御した。ゲート電圧にヒステリシスはなく、いずれのゲート電圧でも試料からのリーク電流は )以下であることを確認してある。
抵抗検出の測定系
核磁気共鳴 は電子スピン状態を測定する有用な方法として広く用いられている。しかし、通常のでは信号強度をかせぐために、次元電子系を 層程度積層した試料を用いる必要があり、そのためにゲート電圧による電子密度の制御ができない。一方、抵抗検出は通常の 次元電子系を用いることができることと、セットアップが比較的簡便であることが利点である。図 は抵抗検出 の測定の模式図である。次元面に垂直な静磁場をかけた状態で、次元面に平行にラジオ波 ,の高周波磁場を照射して抵抗の変化を測定した。一般的に の実験では、連続的な,波 +Bを用いる方法と、パルス的な,信号を用いる方法の 種類あるが、今回は連続的な,波を用いた。電気伝導の測定系は前節と同じであるが、電流量は ~ とした。,磁場は、図 のような 巻きコイルに信号発生器 $'5 Fから ,信号を入力することで発生させた。巻きコイルは試料の近くに巻き、同軸ケーブルに直接取り付けた。信号発生器か
1K pot
Still
Mixing
chamberSample
RuO2
RuO1
Injection
Recovery1K pot pump
Signal
Superconducting
solenoid
図 %2)32-$型希釈冷凍機の概略図
Sample
Differential
pre-Amp
Lock in Ampsynchronize
Digital Multimeter
Ri
I+
I-
V+
V-
図 交流定電流測定の模式図。は Nと十分高抵抗である。
ら入力する )2@'7は -F から -F とした。実際に,磁場の振幅がどれくらい出ているか見積もるために、室温で予備実験を行った。,磁場発生用のコイルに信号発生器から ?2@'7 -F、周波数 /!の信号を入力し、検出用のコイルを近づけた。電磁誘導の法則 -O-1 において今の場合、周波数が固定されているので O
となる。したがって、検出用のコイルの誘導起電力を測定することで、発生している磁束が分かる。検出用コイルの面積を予め調べておくことで、磁束密度を見積もることができる。この方法により、?2@'7 -Fにおける ,磁場は約 %と見積もることができた。また、インピーダンスマッチングの影響により、,周波数によって、,磁場の強さが変わってくる。図 は、温度 ;、 %における、試料 の対角抵抗の,周波数依存性を示したものである。導入される,磁場が強いところほど、電子温度の上昇が大きく、抵抗値も高くなっている。ただし、測定の際は 8/!程の狭い範囲で周波数を掃引しているため、電子温度の変化はほとんどないと考えられる。
1-turn coil
rf field
B
図 抵抗検出 の測定系
20
15
10
5
Rxx
( k
)
12010080604020
RF (MHz)
– 20 dBm – 10 dBm – 5 dBm 0 dBm
sample #002
図 試料 の%における対角抵抗の ,周波数依存性。
を としたもので
で定義される。
第章 高次ランダウ準位における異方性と面内磁場の効果
本章では、試料 で観測された高次ランダウ準位の異方的磁気抵抗について詳述する。
高次ランダウ準位の異方性
6
5
4
3
2
1
0
R (
k
)
0.50.40.30.20.10.0
1/
23456
Rxx [110] Ryy [110]
ν = 5/2
ν = 7/2
ν = 9/2
ν = 11/2
図 温度 ;、電流量 での試料 の対角抵抗。青線が 方向の磁気抵抗で、赤線が方向の磁気抵抗である。
図 は温度 ;、電流量 での試料 の対角抵抗を に対してプロットしたものである。3字型ホールバーを用いて 方向の対角抵抗と 方向の対角抵抗を同時に測定した。青線が 方向の磁気抵抗で、赤線が 方向の磁気抵抗である。と を測定している場所の違いにより正孔密度に差があり、その差は %であった。そのため、磁場でプロットすると横軸がわずかにずれるため、横軸を でプロットした。
に顕著な異方性が見られる。方向の抵抗のピーク値が 方向の抵抗のピーク値に比べ 倍となっている。 ほどではないが 、 にも異方性が存在し、抵抗のピーク値の比をとるとそれぞれ 、 となった。それに対し、 には異方性は見られなかった。
零磁場においても異方性はわずかに存在するが、零磁場抵抗の比が であることから、 の大きな異方性を説明できない。また、二つの方向の密度の違いも気になる点であるが、密度差はわずか %であることと、 が等方的であることから、 の大きな異方性の主要な原因とは考えにくい。
5
4
3
2
1
0
Rxx
( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
40 mK 60 mK 80 mK 100 mK 150 mK
ν = 7/2
ν = 5/2ν = 9/2
図 各温度における 方向 の磁気抵抗
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0R
( k
)30025020015010050
T (mK)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
Rxx / R
yy
Rxx [110] Ryy [110] Rxx / Ryy
ν = 7/2
¯
図 における と のピークの温度変化。赤線が、青線がを表している 左軸。緑線はを表している 右軸。ピークの異方性が ;で消えている。
次に のピークの温度変化について述べる。 の磁気抵抗の異方性は温度に非常に敏感である。図 は、 ;から ;までの各温度における、方向の磁気抵抗である。 付近の抵抗値は温度に対してほとんど変化していないのに対して、 付近の抵抗値は温度の増加と共に急速に減少している。図 は、 における 方向と 方向の抵抗のピーク値の温度依存性である。 の抵抗の異方性は約 ;で消失している。これは、電子系において異方性が消失する温度とほぼ同じである。また、図 は 方向の磁気抵抗の電流量依存性で、図 "は 方向の磁気抵抗の電流量依存性である。方向の の抵抗ピークのみが電流量の増加とともに減少していることがわかる。この変化は電子温度の上昇に起因すると考えられる。磁気抵抗のその他の部分は電流量の変化に対して変化していない。このことからも、 の異方性が非常に温度に敏感であることがわかる。以上の結果を踏まえると、この異方的磁気抵抗は 次元電子系で見られているような異方的な磁気抵抗と同等なものであると考えられる。特徴的なのは次の 点である。
次元電子系では等方的である で異方性がみられる。
高抵抗の結晶方位が 方向である。
での異方性は、A7らの 次元正孔系でも観測されている 。電子系の場合、
など のランダウ準位は、ストライプ相の兆候は見られず、通常の量子ホールプラトー
5
4
3
2
1
0
Rxx
( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
1 nA 2 nA 5 nA 10 nA
5
4
3
2
1
0
Ryy
( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
1 nA 2 nA 5 nA 10 nA
(a) (b)
図 方向 "方向の磁気抵抗の電流量依存性。
間遷移が観測される。ただしこれは、相互作用のパラメータに非常に敏感である。第 章でみたように面内磁場によって、 の量子ホール状態が壊れ、異方性が発達する。また、外部から
次元静電ポテンシャル変調を加えた系では においてもストライプ相を反映した抵抗の異方性がみられている 。
で異方性が観測された要因として、正孔の波動関数が電子の波動関数と異なるため、同じフィリングでも、/-'の擬ポテンシャルで表現される距離の関数としての正孔間相互作用が変わることが考えられる。ストライプ相の出現は、/-'の擬ポテンシャルの形に敏感であることが知られている。/-'の擬ポテンシャルが変わることにより、低フィリングでもストライプ相が安定となった可能性が考えられる。
異方性の向きに関しては、次元電子系では、面内磁場を導入すると、異方性の向きが変わるという現象がみられるが、次元正孔系では高次ランダウ準位の異方性に関して面内磁場を印加した実験は未だ報告例がない。そこで、この異方的磁気抵抗について更なる知見を得るため、面内磁場を印加し異方的磁気抵抗がどのように変わるかを調べた。
面内磁場依存性
面内磁場は、図 のように磁場の方向に対してサンプルホルダーを傾けることで導入することができる。面内磁場 と面直磁場 は、傾斜角 0の関数として 0 、 #2 0で与えられる。また、サンプルホルダーを傾ける方向を変えることによって、面内磁場の方向を変えることができる。
θ
B
BB
図 面内磁場の導入
図 はサンプルホルダーを 方向に 0 Æまで傾けたときの磁気抵抗を示したものである。の 、 、 付近の抵抗値が傾斜角の増加と共に急激に大きくなっているのがわかる。それに対し、 は の抵抗はほとんど変化がなく、 、 の抵抗は減少している。
4
3
2
1
0
Ryy ( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
B || [110]
ν = 9/2
ν = 7/2ν = 5/2
0° 46° 56° 61° 64° 68°
14
12
10
8
6
4
2
0
Rxx
( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
ν = 5/2ν = 7/2
ν = 9/2
0° 46° 56° 61° 64° 68°
B || [110]
(a) (b)
x [110]
y
[110]
B [110]
図 方向に面内磁場 を入れたときの磁気抵抗。 方向 " 方向
を各傾斜角に対してプロットしてある。の 、 、 の抵抗ピークが傾斜角の増加と共に急激に大きくなっている。と "の縦軸のスケールが異なることに注意されたい。
低磁場 %では、に面内磁場依存性はほとんどなかった。また、 については、面内磁場の印加とともに の増加が見られた。0 Æ で 0 Æ に比べ %の増加であった。 、 に関しては、0 Æにおいても異方性が見られていたため、面内磁場の印加によって、異方的状態が更に安定化されたとみることができる。また、 に関しては、0 Æでは等
方的であったので、面内磁場の印加によって異方的な状態が現れたとみることができる。この振る舞いは 次元電子系と同じである。
次に、低抵抗である の方向に面内磁場を印加した。その結果を図 に示す。、共に の抵抗が傾斜角と共にやや増加しているが、 、 はほとんど変化していない。次元電子系では、低抵抗の方向に面内磁場を印加すると高抵抗となり、垂直方向の抵抗が低抵抗となっていた。
7
6
5
4
3
2
1
0
Rxx
( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B( T )
B || [110] 0° 45° 55° 60° 63° 68°
¯
ν = 5/2
ν = 7/2
ν = 9/2
(a) (b)7
6
5
4
3
2
1
0
Ryy ( k
)
4.54.03.53.02.52.01.5B ( T )
ν = 5/2
ν = 7/2
ν = 9/2
B || [110]¯ 0° 45° 55° 60° 63° 68°
y[110][110]
x [110]
B[110]
図 方向に面内磁場 を入れたときの磁気抵抗。 方向 " 方向
を各傾斜角に対してプロットしてある。、 共に の抵抗が傾斜角と共にやや増加しているが、 、 はほとんど変化していない。
図 は 方向に磁場を 0 Æ傾けたときの の抵抗ピーク値の温度変化である。
;まで温度を上げても異方性が残っている。これは面内磁場の印加によって異方的な状態がより安定となっていることを裏付ける結果となっている。図 は 方向に 0 Æまで傾けたときの の抵抗ピーク値の温度変化である。この場合は、0 Æのときとふるまいはほとんど変わっていない。このことから 方向に面内磁場を入れたときには面内磁場は異方的状態には影響をあまり及ぼしていないことがわかる。
8
7
6
5
4
3
2
1
R (
k
)
25020015010050T (mK)
4
3
2
1
Rxx / R
yy
ν = 7/2
Rxx [110] Ryy [110] Rxx / Ryy
B || [110], θ = 55°
図 方向に 0 Æ まで傾けたときの の温度変化。赤線が、青線がを表している 左軸。緑線は を表している 右軸。ピークの異方性は ;まで残っている。
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
R (
k
)
2001601208040
T (mK)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
Rxx /R
yy
ν = 7/2
Rxx [110] Ryy [110] Rxx /Ryy
B || [110] , θ = 55°
図 方向に 0 Æ まで傾けたときの の温度変化。赤線が、青線が を表している 左軸。緑線はを表している右軸。ふるまいは面内磁場を入れないときとほとんど同じである。
より定量的に面内磁場の効果をみるために、図 に 、 、 における
とのピーク値を面内磁場 の関数としてまとめた。方向に面内磁場を入れた場合、 が
~%を超えたあたりから抵抗の変化が起こり、面内磁場が強くなるにつれ、抵抗の変化も大きくなっている。一方、方向に面内磁場を入れた場合、を %以上かけると、 と に関しては、抵抗の異方性はわずかながら小さくなっていることが分かる。次元電子系では
%で、異方性の方向が反転していた。我々の系では 方向に面内磁場を入れた場合でも、抵抗の変化が現れるのが ~ %を超えてからなので、面内磁場の効果が現れるには、電子系と比較して強い面内磁場が必要であるといえる。
面内磁場依存性の結果を踏まえて、異方性の向きについて考察する。我々の実験結果では 方向が高抵抗なので、ストライプの向きと垂直に電流を流した方が抵抗が高くなると考えると、ストライプ相は 方向に沿っているということになる。まず、実験結果から、結晶基板に元々備わっているストライプ相の向きを一方向に揃えようとする効果が強いことが言える。移動度が低い場合、ストライプ相は存在していても、系の乱れによってストライプ相の向きが巨視的に安定しないため、抵抗の異方性が現れないと考えられている。今回の我々の 次元正孔系の試料は移動度が と、次元電子系で異方的磁気抵抗が見られるときの移動度 に比べ低い。それにも関わらず、抵抗の異方性が見られることはストライプ相の向きを一方向に揃えようとする効果が強いことを示している。また、実験結果から面内磁場の効果が 次元電子系と比較して相対的に弱いことがわかる。このことも、ストライプ相の向きを一方向に揃えようとする効果が強いことを示唆している。元々備わっているストライプの向きを一方向に揃えようとする効果が強いと考えると、 の面内磁場依存性も説明することができる。方向に面内磁場を印加した場合には、元々備わっているストライプ
12
10
8
6
4
2
0
R (
k
)
86420B|| ( T )
ν = 5/2
Rxx [110]
Ryy [110]¯
12
10
8
6
4
2
0
R ( k
)
86420B|| ( T )
ν = 5/2 Rxx [110]
Ryy [110]¯
10
8
6
4
2
0
R ( k
)
543210B|| ( T )
ν = 9/2
Rxx [110]
Ryy [110]¯
12
10
8
6
4
2
0
R ( k
)
6543210B|| ( T )
ν = 7/2
Rxx [110]
Ryy [110]¯
10
8
6
4
2
0
R (
k
)
543210B|| ( T )
ν = 9/2
Rxx [110]
Ryy [110]¯
12
10
8
6
4
2
0
R (
k
)
6543210B|| ( T )
ν = 7/2
Rxx [110]
Ryy [110]¯
(a) (b)
(c) (d)
(e) (f)
B [110]
B[110]
図 、 、 のと の面内磁場 依存性。左側の図が 方向に面内磁場を入れたときで、右側の図が 方向に面内磁場を入れたときである。
を安定化させようとする方向と面内磁場によって安定化させようとする方向が一致するため、異方的状態が発達する。それに対し、方向に面内磁場を印加した場合には、結晶基板に元々備わっている、ストライプを安定化させようとする方向と面内磁場によって安定化させようとする方向が一致しないため、 の異方的状態が巨視的に発達しないと考えられる。
次に、このストライプ相の向きを一方向に揃えようとする効果が何に起因するかについて考えてみる。理論的には、次元周期ポテンシャルを加えた場合のストライプ相の方向に対する影響が 21
らによって計算されている 。ポテンシャルの強さが強い場合や周期がストライプの周期に近い場合には、ストライプ相の方向と周期ポテンシャルの方向が平行となる 図 。一方、ポテンシャルの強さが弱い場合や周期がストライプの周期から外れている場合は、ストライプ相の方向と周期ポテンシャルの方向が垂直となる 図 "。
110
[110] [110]
110
図 界面のステップ構造によるポテンシャル変調の模式図。ポテンシャル変調に対して平行にストライプ相ができている。"ポテンシャル変調に対して垂直にストライプ相ができている。
今回の試料は、人為的には 次元的なポテンシャル変調は加えていない。可能性の一つとして、界面のステップ構造によって 次元的なポテンシャル変調がかかっている可能性が考えられる。
方向に伸びるステップ C51)' 5')は、比較的滑らかに真っ直ぐ伸びるのに対し、方向に伸びるステップ FC51)' 5')はぎざぎざになることが知られている。%2867らは から の高移動度の 次元電子系の試料で、方向の移動度が 方向より ~
倍大きくなるという報告をしている 。そして、彼らは微傾斜基板で成長した 次元電子系を用いて、C51)' 5')が異方的な移動度の原因であることを示した 。彼らはステップによる格子の歪みが、ピエゾ効果により局所的に -)2'を作っていると考え、電子密度に対する移動度の依存性を説明している。ステップによる格子の歪みが、ピエゾ効果により局所的に -)2'を作るが、C51)'
5')は真っ直ぐ伸びているので -)2'の影響が生き残るが、FC51)' 5') はステップがぎざぎざであるために、-)2'の影響が残らないと考えることができる。結果として、方向に平行なポテンシャル変調が働くと考えられる。今回の我々の系でも、同様の機構により、界面のステップによって 方向に平行な 次元的ポテンシャル変調が働いている可能性がある。ただし、ステップ構造は完全な周期ポテンシャルでないことに注意が必要である。
ここで、異方性の向きについて過去の実験結果と比較する。我々の実験結果では、高抵抗の方位は、方向となっている。それに対し、初期の 次元電子系の実験では典型的に高抵抗の方位は方向となっている。ただし、L46らによる、広い範囲で電子密度を変えた実験では、電子密度が を超えると、高抵抗の方位が 方向から 方向へと変化する振る舞いがみられている 。これまで述べたような界面のステップ構造によるポテンシャルが効いているとすると、異方性の向きを決める要因としてストライプの周期が重要な役割を果たすと考えられる。そこで、ストライプの周期を以下の方法で見積もった。理論的には、ランダウ指数 ではストライプの周期が -
となり、 では - となることが指摘されている 。我々とA7は で異方性を観測している。正孔系は、ランダウ準位の混ざりがあり複雑だが、ここでは単純に の場合の値 - で見積もった。L46らはランダウ指数 で異方性を観測しているので -
で見積もった。表 はストライプの周期と、高抵抗の方位を過去の実験結果を含めてまとめたものである。
表 異方性の向きの比較 本研究 >/ A7>/ L46>H
ストライプ相の周期 - - - -
高抵抗の方向 方向 方向 方向 方向
予想されるストライプ相の周期と、高抵抗の方向は各々の実験結果で矛盾しない結果となっている。このことから、一つの可能性として我々の系では、ストライプ相の周期が短くなることで、界面のステップによるポテンシャルの周期と合うようになったと考えられる。その結果、ポテンシャルの影響を強く受けストライプの向きが 方向になったと考えることができる。ただし、正孔系の場合は より高次のランダウ準位の混ざりも無視できないので注意が必要である。A7らが指摘しているように、我々の系でも が、 の特徴を持っている可能性はある。我々の系で、 のときの理論値を用いてストライプの周期を見積もると -
となる。すると、周期のみを考えると L46らの結果とは食い違いを生じる。このことから、単純にストライプの周期のみだけでなく、波動関数の違いなど正孔系としての特徴が異方性の向きを決めている可能性も否定できない。更なる理論的、実験的研究が必要である。
本章のまとめ
本章では、次元正孔系の高次ランダウ準位の異方性の実験結果を示した。ここでの結論を以下にあげる。
において、ストライプ相を反映した磁気抵抗の異方性を観測し、高抵抗の方向が
方向であることを見出した。 にストライプ相が観測された理由として、/-'の擬ポテンシャルで表現される距離の関数としての正孔間相互作用が電子と異なるためであると考えた。ただし、より定量的な比較のためには我々の系のパラメータを用いた詳細な理論計算が必要である。
面内磁場を 方向に印加すると、 、の異方的状態がより安定化した。等方的であった にも異方性が現れた。
面内磁場を 方向に印加しても、磁気抵抗に変化は現れなかった。
このことから、我々の系においては元々結晶に備わっているストライプを揃える効果が強いことが分かった。元々備わっているストライプを揃える要因の可能性の一つとして、界面のステップ構造による 次元的なポテンシャル変調を考えた。
第章 ~と における非周期的抵抗振動
本章では、~付近と で観測された非周期的抵抗振動について述べる。量子ホール領域における抵抗振動は、メゾスコピックな試料や量子細線などではよく見られているが、今回の試料は ~ と幅の広いホールバーである。また、特定のフィリングのみで観測されている。本章では試料 と の測定結果について述べるが、 と についても で同様の振動が観測されている。
25
20
15
10
5
0
Ryy
( k
)
14121086420B ( T )
60
40
20
0
Ryx ( k
)
2 1 2/3 2/5
1nA, 13Hz, sample #002
25
24
23
22
21
20
Ryy ( k
)
14.414.013.613.2B ( T )
ν ∼1/3
8
6
4
2
0
Ryy
( k
)
4.44.03.63.22.8
B ( T )
1 <ν <2
図 温度 ;、電流量 における対角抵抗 赤線とホール抵抗 青線試料 。下側の図は と ~付近の対角抵抗を拡大したものである。両方の抵抗に非周期的な抵抗振動がみられる。
~ については、試料の正孔密度が多く、磁場が まで届かなかったため、確認できていない。
図 は、試料 の試料温度 ;、電流量 における対角抵抗と /抵抗をプロットしたものである。結晶方向は である。下側に 付近の対角抵抗と の対角抵抗を拡大した図を示した。 付近の対角抵抗と の対角抵抗に非周期的な抵抗の振動が現れた。次節以降で、この現象の詳細について述べていく。
付近の抵抗振動
この節では、 付近の抵抗振動について述べる。
32
30
28
26
24
22
20
Rxx
( k
)
14.814.414.013.6B ( T )
20 mK 60 mK 100 mK 200 mK
図 付近の抵抗の温度依存性 試料。
32
30
28
26
24
22
20
Rxx
( k
)
14.814.414.013.6B ( T )
0.1 nA 1 nA 10 nA
図 付近の抵抗の電流量依存性 試料。
図 は 付近の抵抗の温度依存性を示したものである。 ;以上の温度で振動が消失していることがわかる。また、図 は 付近の抵抗の電流量依存性を示したものである。
以上の電流量で振動が消失していることがわかる。
20
15
10
5
0
Ryy
( k
)
14.414.013.613.2B ( T )
1st cooldown 2nd cooldown
図 赤線が 回目のクールダウンの磁気抵抗で、青線が 回目のクールダウンの磁気抵抗。
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
R
yy (
k
)
14.414.214.013.813.6B ( T )
1st cooldown 2nd cooldown
図 振動成分。回目のクールダウンと 回目のクールダウンでは振動の振幅や磁場間隔はほぼ等しいものの、振動パターンは異なっている。
次に 付近の抵抗振動の再現性について議論する。振動のパターンは磁場の掃引速度や掃引
の方向にも依らず一定であった。また、図 は同じ試料 試料 を一度室温に戻した後再び
;まで冷やしたときの磁気抵抗を示したものである。図 は図 の振動成分を抜き出したものである。これをみると、回目のクールダウンでも振動が残っている。そして、振動の磁場間隔や振幅はそれほど変わっていないが、振動パターンは変化している。これはメゾスコピック系における伝導度揺らぎに類似している。このような振動が現れる測定上の要因として、電圧端子や電流端子の接触不良によるものが考えられる。しかしながら、電圧端子と電流端子を入れ替えて測定した場合でも振動は観測されたので、ある特定の端子の接触不良によるという可能性は排除できる。このことから、この振動は試料そのものに起因するものであると考えられる。
20
15
10
5
0
Ryy
( k
)
14.414.214.013.813.6B ( T )
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
R
yy ( k
)
ν ∼ 1/3
図 付近の対角抵抗 赤線とバックグラウンドを差し引いて振動成分のみ取り出したもの 青線。
20.0
19.5
19.0
18.5
18.0
17.5
Ryy
( k
)
10.810.610.410.210.0
B ( T )
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
R
yy (k
)
ν ∼ 1/2
図 付近の対角抵抗 赤線
とバックグラウンドを差し引いて振動成分のみ取り出したもの 青線。振動はほとんど見られない。
次に、振動の特徴的な磁場間隔と振動の振幅を見積もってみる。図 の青線で示したのは、
付近の対角抵抗のバックグラウンドを差し引いて振動成分のみ取り出したものである。振動の特徴的な磁場間隔は約 ~ %であった。振動の振幅は N ~ Nである。抵抗を変換公式 に従って伝導度に変換したところ G '4となった。また、他のフィリングでは振動は見られなかった。図 は 付近の磁気抵抗とそのバックグラウンドを差し引いたものであるが、振動成分はほとんどないことがわかる。この振動の起源についてより深く探るため、ゲート依存性について調べた。試料 の
付近における磁気抵抗のゲート電圧依存性を図 に示した。また、縦軸をゲート電圧、横軸をフィリングの逆数にとり、振動成分をグレースケールプロットしたものが図 である。振動のピークとディップはゲート電圧を変えるにつれ、ほぼフィリング一定の線に沿って動いている。ただ、場所によってはフィリング一定の線から揺らいでいる。
60
40
20
0
Ryy
( k
)
13.012.512.011.511.010.5B ( T )
0V to 0.0154Voffset 2kΩ
図 付近の磁気抵抗のゲート電圧依存性 試料 。 ~ まで変えている。
14
12
10
8
6
4
2
0
VG (
mV
)
3.02.92.82.72.62.5
1/
-0.6
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
∆R
( kΩ )
図 抵抗の振動成分を縦軸をゲート電圧、横軸を としてグレースケールプロットしたもの試料 。
の抵抗振動
この節では、 の抵抗振動について述べる。
8
6
4
2
0
Ryy
( k
)
5.04.54.03.53.02.5B ( T )
30 mK 60 mK 100 mK 150 mK 200 mK 300 mK 400 mK
図 の対角抵抗の温度依存性 試料 。 ;で振動が消えている。
8
6
4
2
0
Ryy
( k
)
5.04.54.03.53.02.5B ( T )
0.1 nA 1 nA 10 nA 20 nA
図 の対角抵抗の電流量依存性 試料 。で振動が消えている。
図 は試料 の対角抵抗の温度依存性を示したものである。~ ;以上で振動が消失している。 付近の振動に比べ、高温まで振動が残っている。図 は試料 の対角抵抗の電流量依存性を示したものである。 以上で振動が消失している。電流量増加は電子温度の上昇を引き起こすと考えられる。よって、この結果からも、 の振動は 付近の振動よりも温度に対する減衰が小さいといえる。次に、 付近と同じように特徴的な磁場間隔と振幅を見積もってみる。図 は
付近の対角抵抗とバックグラウンドを差し引いて振動成分のみ取り出したものである。振動の磁場間隔は %、振幅は Nとなった。これは の振動と同程度である。ただ、振幅を抵抗か
7
6
5
4
3
2
1
0
Ryy
( k
)
4.24.03.83.63.4B ( T )
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
Ryy ( k
)
図 付近の対角抵抗 赤線とバックグラウンドを差し引いて振動成分のみ取り出したもの 青線。
ら伝導度に直すと、G '4 となり、Gの振動成分は のときの約 倍となっている。
31
30
29
28
27
26
Rxx ( k
)
13.613.212.812.4B ( T )
ν ∼ 1/3
10
8
6
4
2
0
Rxx
( k
)
4.03.63.22.8B ( T )
1 < ν < 2
30
20
10
0
Rxx
( k
)
14121086420B ( T )
I || [110]
図 試料 の 方向の対角抵抗。下の図は と を拡大したものである。方向とは対照的に振動がみられない。
試料 では、ここまで結晶方向が の対角抵抗の結果を述べてきた。ここで、方向の対角抵抗の結果を述べたいと思う。図 は 方向の対角抵抗を示したもので、下の図は
と を拡大したものである。方向とは対照的に振動がみられなかった。このような異方性は試料 の においても観測されている。また、試料 は 3字型ホールバーとなっていないため異方性についてはっきりしたことは言えないが、電流方向は 方向である。この異方性の起源は不明であるが、 の振動と の振動がある一定方向にのみ観測されることから、二つの振動には何らかの相関があるように思われる。ただ、試料 の は、方
向、方向に関わらず振動が観測されている。試料 は他の試料に比べ正孔密度が多いことが影響しているかもしれないが、今回の測定からは異方性が振動現象に本質的なものか、試料の不純物によるものなのか、はっきりしたことは分からなかった。
考察
この振動の起源について考察する。量子ホール領域における抵抗振動はメゾスコピックな試料や、量子細線などではよく観測される現象である 。我々が観測した磁気抵抗の振動は、ヒートサイクルによって振動パターンが変化する点、温度上昇と共に振動パターンが消失していく点などで、メゾスコピックな試料で観測されている振動と類似している。しかしながら、このようなメゾスコピック試料で見られる磁気抵抗の振動と以下の点で異なっている。
我々の試料は 幅のホールバーであり、幅が 程度のメゾスコピック系の試料で見られる典型的な伝導度ゆらぎ現象では説明できない。
抵抗振動は や など特定のランダウ準位占有率で起こっており、その他の占有率における磁気抵抗には振動はみられない。
図 分数量子ホール液体相とウィグナー結晶相の 相共存の模式図。
この実験結果から、一つの可能性として 付近や でのみ、メゾスコピック試料とよく似た状況が実現していると考えることができる。次元正孔系の場合、952らが、 の両側でウィグナー結晶相とみられる絶縁相を観測している 。したがって、 付近では、分数量子ホール液体相とウィグナー結晶相の 相の共存が考えられる。一つの可能性として、図
のように量子ホール液体相と、ウィグナー結晶相の 相が共存することで細い伝導チャネルのネットワークが形成されることが考えられる。すると、ウィグナー結晶相が絶縁相となることで、伝導を担う分数量子ホール液体相の部分が量子細線のようになる。したがって、メゾスコピック試料で見られるような磁気抵抗が観測されるのである。そのように考えると、ゲート依存性でみられた振動のパターンの変化は、不規則ポテンシャルの変化により 相共存の空間パターンが変わったためであると考えられる。
第 章で触れたように、 付近の抵抗振動は +E541によっても観測されている。彼らは周期が %程度の準周期的振動を観測しており、分数量子ホール液体とウィグナー結晶の 相共存による F振動の可能性を指摘している。
我々の結果は、周期が %から %と大きいことと、それほど周期性がないことが彼らの結果との違いである。我々の結果は非周期的な抵抗振動であることから、彼らのモデルのような F
振動が起源であるとは考えにくい。我々の現象を説明するためには、量子細線的な構造が形成されていると考えたほうが妥当であると考えられる。また、温度依存性で振動のパターンがそれほど変化せずに振動が消失しているので、温度による振動の消失は量子細線的な構造が壊れるからではなく、位相緩和長が短くなるためであると考えられる。
の間の振動においても、 付近の議論と同様に、相の共存に起因してメゾスコピック試料の状況ができている可能性が考えられる。
図 電子系における 、、のランダウ準位の基底状態の計算結果
図 は 94"5 - =2428による、次元電子系における のランダウ準位の基底状態の計算結果である 。この計算は、密度行列繰り込み群 >という手法を用いられており、ランダウ準位ミキシング、スピン、不純物の効果は入っていない。ランダウ準位占有率 が
までの結果が示されているが、電子C空孔対称性により、→ は ← と同等である。これによると、 のランダウ準位 33では、 や で見られる 57)' D相は存在しないが、57)' DD相と名づけられた電荷密度波状態の存在が示唆されている。また、ランダウ準位がからわずかに外れた部分をみると、ウィグナー結晶相の実現が示唆されている。実験的には、+4'
らのマイクロ波を照射する実験によって、この整数量子ホール状態付近のウィグナー結晶相の形成を示唆する結果が得られている 。また、上で述べた計算結果は電子系の結果であるが、正孔系は電子系に比べ、ストライプ相やウィグナー結晶相が発達しやすい傾向にある。ウィグナー結晶に関しては、電子系では で見られるのに対し、正孔系では で見られる。また、第 章でみたように我々の実験結果においても、ストライプ相は電子系より低フィリング側で見られている。したがって、正孔系では でも、絶縁相が発生している可能性は電子系よりも高い。このことから、 の振動も、量子ホール液体相と絶縁相の共存に起因する可能性が考えられる。
本章のまとめ
~、 の非周期的抵抗振動を観測し、以下のことを見出した。
抵抗振動は、温度や電流密度を上げると消失した。~の振動は ; で消失し の振動は、 ; で消失した。
振動パターンはヒートサイクルで変化し、現象としてはメゾスコピック系における伝導度ゆらぎに類似している。
付近では、抵抗振動を説明する一つのモデルとして、分数量子ホール液体相とウィグナー結晶相の共存により細い伝導チャンネルのネットワークが形成されている可能性を考えた。
については、絶縁相は実験的にはこれまで知られていないが、理論的にはストライプ相の存在やウィグナー結晶の存在が指摘されている。 付近と同様に、それらの絶縁相が量子ホール液体と共存することが抵抗振動の原因であると考えた。
第章 長時間緩和を伴うヒステリシス現象
本章では、試料 において観測した長時間緩和を伴うヒステリシス現象について詳述する。
ヒステリシス現象の観測と緩和時間の測定
30
20
10
0
Rxx
( k
)
14121086420B ( T )
80
60
40
20
0
Rxy ( k
)
2 4/3 1 2/3 1/2 2/5 1/3
up sweep down sweep
図 温度 ;、電流量 における対角抵抗とホール抵抗 試料 。アップスイープが赤点線でダウンスイープが青実線である。 、 、 付近の磁気抵抗にヒステリシスがみられる。
図 は温度 ;、電流量 で 方向に電流を流し、掃引速度 %で磁場を掃引したときの、対角抵抗とホール抵抗である。赤点線がアップスイープで、青実線がダウンスイープの測定結果であるが、 、、 付近の抵抗にヒステリシスがみられた。方向にも程度は小さいものの、同様のヒステリシスが観測された。掃引速度を %まで遅くしたところ、アップスイープとダウンスイープの差は小さくなった。具体的に述べると、 、付近はアップスイープの抵抗値からダウンスイープの抵抗値に近づき、 付近はダウンスイープの抵抗値からアップスイープの抵抗値に近づいた。これは、 の量子ホール領域より高磁場側ではダウンスイープの状態が安定で、低磁場側ではアップスイープの状態が安定であるとみることができる。そこで便宜上、高磁場側で安定な状態を「/C55'」と呼び、低磁場側で安定な状態を「3C55'」と呼ぶことにする。
25
20
15
10
5
0
Rxx
( k
)
7.57.06.56.0B ( T )
40 mK 40 mK 80 mK 80 mK 150 mK 150 mK
図 と の間の対角抵抗の温度依存性。点線がアップスイープで実線がダウンスイープである。 ;でヒステリシスが消失している。
25
20
15
10
5
0
Rxx
(
)
7.47.27.06.86.66.46.26.0B ( T )
10 nA 10 nA 20 nA 20 nA 100 nA 100 nA
図 と の間の対角抵抗の電流量依存性。点線がアップスイープで実線がダウンスイープである。 でヒステリシスが消失している。
図 と図 はそれぞれ、 と の間の対角抵抗の温度依存性と電流量依存性である。温度に関しては ;以上、電流量に関しては 以上でヒステリシスは消失した。
24
22
20
18
16
Rxx
( k
)
1501209060300
Time (min.)
Bwait = 6.78 T
τ = 24 min.
図 %から磁場を掃引し %
で止めたときのの時間変化。電流量は
である。
18
16
14
12
Rxx
( k
)
200150100500 t wait (min.)
Bwait = 5 T B = 6.8 T
= 68 min.
図 %で 1分だけ待ったときのの変化 赤点。青実線は指数関数でフィットした結果である。
ヒステリシスは %付近の抵抗ピークで最も顕著にみられた。この抵抗ピークは と の間の量子ホール遷移領域に当たる。そこで、この磁場位置での抵抗ピーク値を系の平衡状態への緩和の指標とした。図 は、磁場を %からアップスイープし、 %で止めたときの抵抗の時間変化を示したものである。この時間変化を指数関数
'()
1
でフィッティングしたところ、緩和時間は となった。この緩和時間は3C55'から/C55'
への緩和時間とみることができる。次に /C55'からの 3C55'への緩和時間を調べた。測定は以下の手順で行った。
%まで磁場をスイープし、/C55'になるまで、十分な時間待つ。
%へダウンスイープし、1分待つ。
%までアップスイープし、 %の抵抗ピーク値を調べる。
1に対し、抵抗ピーク値を赤点でプロットしたのが図 である。指数関数でフィットしたときの緩和時間は となった。
25
20
15
10
5
0
Rxx
, Rxx
(6.8
T) (
k
)
14121086420
B ( T ), B wait ( T )
2 4/3 1 2/3 1/2 2/5 1/3
Rxx (6.8T)
twait = 60 min.
図 系の緩和の磁場位置依存性。様々な磁場位置で異なる時間 1だけ待ったときの
%での抵抗ピークをプロットした。
3C55'から /C55'の緩和が待つ磁場位置によってどのように変わるのか調べた。測定は以下の手順で行った。
磁場を %までスイープし、分待つ。3C55'にする。
磁場までスイープし、1分だけその磁場位置で待つ。
%までスイープし、 と の間の抵抗ピーク値を調べる。
この手順を待ち時間 1と待つ磁場位置 を系統的に変化させながら測定を行った。図 は待つ磁場位置 に対して %での抵抗ピークの値
をプロットしたもの
したものである。である。磁場に対する抵抗 を同じグラフにプロットしてある。また、図
は、待つ磁場位置での待ち時間をそれぞれ、1 と変えたときの %での抵抗ピークの値
をプロットしたものである。
/ で待っているときには、分待っても %の抵抗値に変化はないが、 の領域で待つと待ち時間の増加と共に抵抗値が大きく増加している。抵抗ピークの値
が高いほど、
/C55'への緩和が進んでいるとみることができる。したがって、ちょうど の磁場位置を超え
24
22
20
18
16
14
12
10
Rxx
(6.8
T) (
k
)
14121086420
B wait ( T )
2 4/3 1 2/3 3/5 1/2 3/7 2/5 1/3
60 min. 30 min. 10 min.
twait
図 系の緩和の磁場位置依存性。様々な磁場位置で異なる時間 1だけ待ったときの
%での抵抗ピークをプロットした。
たところを境にして、3C55'から/C55'への緩和が起こっていることがわかる。図 に、3C55'
と/C55'の安定状態が で切り替わる模式図を示した。また、 で同じ待ち時間でも、待つ磁場位置 によって、抵抗変化が早い場所と遅い場所がある。図 を見ると、 や、 付近では抵抗変化が早い。一方、
では抵抗変化が遅い。 や はスピン完全偏極状態になっているので、これは正孔のスピン偏極率が高いほど /C55'への緩和が早いことを示唆している。
ν = 1
L -State H-State L -State H-State
B
E
Stable Metastable Metastable Stable
図 3C55'と /C55'の安定状態が で切り替わる模式図
緩和時間の電子温度依存性と電流量依存性
このヒステリシス現象の起源についてより深く探るため、様々な実験パラメータを変えたときに3C55'から /C55'への緩和時間がどのように変化するかを調べた。まず、緩和時間の電子温度依存性について述べる。温度を制御するために本研究では主にヒーターを用いていたが、ここでは高周波用の一巻きコイルを用いて電子温度を制御した。一巻きコイルによってラジオ波 ,を試料に照射すると電子温度が上昇する。,のパワーを変化させることで電子温度を変化させた。,パワーと電子温度の較正は以下のように行った。まず、 %に止めて /!の周波数を ?2@'7を変えながら照射し、抵抗の変化を調べた 図 。 %は に相当する。次に、 %でヒーターによって熱浴の温度を変化させて、抵抗値の変化を調べた 図 "。図 の抵抗変化は電子温度の変化によると仮定し、図 と図 " の抵抗を対応させて、,パワーと電子温度を対応づけたのが図 #である。
350
300
250
200
150
100
50
0
T (
mK
)
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20
Power (dBm)
B = 10 TI = 10 nA50 MHz
Electron Temperature Bath Temperature
19.0
18.5
18.0
17.5
17.0
16.5
16.0
Rxx
( k
Ω )
-80 -40 0Power (dBm)
B = 10 TI = 10 nA50 MHz
19
18
17
16
15
Rxx
( k
Ω )
10008006004002000Bath Temperature (mK)
B = 10 T = 10 nA
(a)
(b)
(c)
図 ,パワーと電子温度の較正。 %において、/!の周波数をかけたときの ,パワーと抵抗値の関係。" %における抵抗値の熱浴の温度依存性。#,パワーと電子温度の較正図
緩和時間の電子温度依存性の測定手順を以下に示す。この方法の利点は、,照射により瞬間的に電子温度を上下させることができる点である。
%で十分な時間待って 3C55'にする。
の磁場位置まで磁場を掃引し、で,を照射する。
%の抵抗ピーク値を測定する。
,照射時間を変えながら ~の操作を繰り返して、照射時間に対するピーク変化をプロットし、緩和時間を算出する。
図 は %のときの、,照射時間に対するピーク変化を示したものである。図には,パワーが -Fから -Fのときのデータを示してある。実線は指数関数でフィッティング
26
24
22
20
18
16
14
12
Rxx
(6.8
T) (
k
)
302520151050
RF time (min)
Bwait = 5.5 T
0 dBm -1 dBm -2 dBm -3 dBm -5 dBm
-12, -10, -9, -8, ... -5 dBm
図 緩和時間の温度依存性の測定例。
5
6
7
89
10
2
(
min
.)
181614121081/Te ( K
-1 )
607080100125Te ( mK )
Bwait = 5.5 T
209 mK
図 %における緩和時間を電子温度に対するアレニウスプロット。
した結果である。このようにそれぞれの ,パワーを照射したときの緩和時間を算出した。この方法によって、において局所的に温度を上昇させた場合に、3C55'から/C55'への緩和がどのように変わるかを調べることができる。図 #の較正図を用いて ,パワーを電子温度に換算して、緩和時間の電子温度依存性を調べた。電子温度の逆数に対して、緩和時間を片対数プロットした結果が図 である。ここでは、が %の結果を示している。緩和率 が熱活性型の温度依存性
'()
を示すと仮定し、フィッティングした結果が図 の青実線である。緩和時間が熱活性型の温度依存性を示していることがわかる。 ;となった。この結果から、 の領域では、準安定な 3C55'と安定な /C55'との間には ;オーダーのエネルギー障壁が存在していることがわかる。そして、温度を上げることにより、熱活性的に 3C55'から/C55'への緩和が促進されるとみることができる。また、この結果は ;でヒステリシスが消失するという結果とも矛盾しない。図 は ,を照射する磁場が %、 %、 %のときの緩和時間の電子温度依存性をアレニウスプロットしたものである。,を照射する磁場位置が変わると、電子温度依存性が変わる。 %では ;となり、 %では ;となった。
この結果を 節の結果と比較してみる。節では、 %での抵抗ピーク値から緩和の早さを見積もったのだが、そのときの結果は緩和の早い順に が 、、 %であった。が小さいほど、3C55'から/C55'への緩和が進みやすいと考えられるので、この節の結果は 節の結果と一致する結果である。
図には 式の両辺の逆数をとった でフィッティングした結果を示してあるが、結果は同じである。
5
6
789
10
2
181614121081/Te ( K
-1 )
607080100125Te ( mK )
246 mK
Bwait = 7.5 T
4
5
6789
10
2
181614121081/Te ( K
-1 )
607080100125Te ( mK )
Bwait = 6.73 T80 mK
5
6
789
10
2
(
min
.)
181614121081/Te ( K
-1 )
607080100125
Te ( mK )
Bwait = 5.5 T
209 mK
15
10
5
0R
xx (
k Ω
)
7.57.06.56.05.55.04.5B ( T )
ν = 1
図 がそれぞれ %、 %、 %のときの緩和時間の電子温度依存性。
∆/kB =
209 mK
B = 5.5 T
∆/kB =
80 mK
B = 6.73 T
∆/kB =
246 mK
B = 7.5 T
L H L H L H
図 がそれぞれ %、 %、 %のときの 3C55'と /C55'のエネルギー障壁を模式的に示したもの。
次に、電流量依存性について述べる。測定は、磁場を %からアップスイープし、 %
で止めたときの抵抗の時間変化を指数関数でフィッティングすることで求めた。
10
20
30
40
50
(
min
.)20151050
IAC ( nA )
13.83 nA
図 緩和時間を電流量に対して片対数プロットしたもの。
図 は、緩和時間を電流量に対して片対数プロットしたものである。電流量が上がるにつれ、緩和時間は短くなっている。また、片対数プロットで緩和時間が電流量に対して、直線に乗っているようにみえる。そこで、指数関数的変化を仮定して、
'()
でフィットしたのが、図 の青線である。また、典型的な電流量 となった。この変化は電子温度の上昇に起因すると考えられる。
緩和時間の面内磁場依存性
2
3
4
56
100
2
(
min
.)
20151050 IAC ( nA )
62° 0°
図 0 Æ の緩和時間 赤点と 0 Æ の緩和時間 青丸を各電流量に対して片対数プロットしたもの。
55
50
45
40
35
30
(
min
)
121086420B|| ( T )
0 20 30 40 50 55 60 (deg.)
B⊥= 6.86 (T)
10 nA
図 面直磁場 %における緩和時間の面内磁場依存性。電流量は 。
この節では、緩和時間の面内磁場依存性について述べる。試料を磁場に対して傾けることで面内磁場を印加した。図 は、0 Æの緩和時間 赤点と 0 Æの緩和時間 青丸を各電流量に対し
てプロットしたものである。0 Æ は、 %で面直磁場が %に当たるので、磁場を %からアップスイープし、 %で止めたときの抵抗の時間変化を指数関数でフィッティングすることで緩和時間を求めた。面内磁場を印加したときの方が、3C55'から /C55'への緩和時間が長くなっている。また、電流量に関わらず、面内磁場印加による緩和時間の増加は起こっていることがわかる。次に、傾ける角度 0を様々な角度に変えて緩和時間を測定した。図 は面内磁場 に対して緩和時間をプロットしたものである。面内磁場に対して緩和時間が単調に増加している。
考察
ここまで述べてきた実験結果をまとめると以下のようになる。
、、 付近でヒステリシスが観測された。
抵抗緩和は指数関数的に変化する。時間スケールは数 分である。
ヒステリシスは温度 ;、電流量 で消失する。
つの準安定な状態が、 を境にどちらが安定であるかが変化する。
緩和時間は温度 電子温度上昇とともに減少し、熱活性的な振る舞いをみせる。
緩和時間は面内磁場印加と共に増加する。
我々が今回観測したヒステリシスについて考察するために、まず、量子ホール系で報告されているヒステリシス現象をいくつか紹介し、我々の系と比較する。まず、非平衡な電荷分布によるヒステリシスが観測されている。L46らは平行伝導のチャネルが存在する 次元電子系でヒステリシスを観測している 。また、%656#らも同様のヒステリシスをアンバランスな 層 次元正孔系で観測している 。これらのヒステリシスは つの伝導チャネル間でゆっくりとした電荷移動が起こるために生じる。その場合、電荷の移動に伴い、量子ホール状態の磁場位置が変化するという振る舞いが観測されている。我々の系では、量子ホール状態の磁場位置は変化していないため、平行伝導によるものではないと考えられる。
別のタイプとして、近年高移動度 次元電子系における高次ランダウ準位のストライプ相でヒステリシス現象が観測されている 。この場合の準安定状態はストライプの方向が結晶軸の 方向を向くか、方向を向くかの状態である。つの状態がエネルギー的に非常に近いため、アップスイープとダウンスイープでヒステリシスが生じる。しかしながら、我々の系では、ヒステリシスは最低ランダウ準位で起きており、方向と 方向で顕著な異方性は観測されていないため、この現象とも起源は異なる。
今回の我々の実験結果では、 、、 付近でヒステリシスが観測されている。また、緩和が数 分スケールと非常に長い点は、次元電子系で観測されている核スピンの関与したスピン転移 と非常に類似している。このことから、我々の系のヒステリシス現象に核スピンが関与している可能性が考えられる。そこで、節で述べた抵抗検出 の測定系を用いて、ヒステリシスの観測されている磁場位置で抵抗検出 の実験を行った。しかしながら、 、、 付近のいずれの磁場位置でもの信号は観測されなかった。第 章で後述するように、次元電子系では同じ実験条件で
抵抗検出 の信号が観測されたので、実験のセットアップの問題は排除される。正孔系で
信号が観測されなかった理由の一つとして正孔は %軌道からなり核スピンとの接触相互作用が無いため、核スピンとの結合が非常に弱いことがある。仮にヒステリシスが正孔系のスピン転移によるとしても、核スピンが関与する可能性は非常に低い。以上の結果から、我々の系のヒステリシス現象には核スピンが関与していないと結論づけられる。
そこで、他のメカニズムについて考える。つの状態が を境に切り替わることに注目すると、次元電子系でよく似た現象が観測されている 。
図 零磁場で ;まで冷やしたときの磁気抵抗。" 、約 %の高磁場で ;から ;まで冷やしたときの磁気抵抗。
図 から磁場を まで掃引し、戻ったときの磁気抵抗の様子。 / まで掃引すると系の乱れが大きくなる。
;68648らは冷やしていく過程によって、不純物による系の乱れの程度が違うように見える現象を報告している。図 は、零磁場で ;まで冷やしたときの磁気抵抗で、図 " は 、約 %の高磁場で ;から ;まで冷やしたときの磁気抵抗である。高磁場下で冷やしたほうが、零磁場で冷やすよりも多くの分数量子ホール状態がみられ、系の乱れが少なくなっているように見える。この乱れの少ない状態は、 の範囲では保たれるが、ひとたび より低い磁場に行くと零磁場で冷やしたときの状態に戻ってしまう 図 。この安定状態のスイッチングは / になり、反対向きのスピンが導入されたことにより起こったと考えられている。我々の観測した現象も似たような起源で起こっている可能性がある。つまり、不規則ポテンシャルが を境にしてゆっくりとした変化をしており、3C55'と/C55'が異なる不規則ポテンシャルを持っていると考えるのである。
図 長時間緩和現象を説明するモデルの模式図。 / 、" のときのランダウ準位の様子。不規則ポテンシャルによりランダウ準位が空間的に揺らいでいる。低磁場 / から高磁場 へと磁場を早く掃引したとき、不規則ポテンシャルの谷の部分は上の準位 & に取り残される可能性がある。取り残されたキャリアが基底準位 & へ落ちる過程は、基底準位の空孔との結合とみることもでき、スピン反転を伴うため低温下では長時間の緩和過程となる。
このモデルについて更に説明する。図 に長時間緩和現象を説明するモデルを示した。 / のときには、& と & の二つのスピン状態のランダウ準位をキャリアが占めている。この状況から の高磁場側にゆっくりと磁場を掃引した場合には全てのキャリアが & の最低ランダウ準位へと移る。ここで、 / から の高磁場側へ早く掃引した場合、不規則ポテンシャルの谷の部分へキャリアが & のランダウ準位を占有したまま取り残される状況が起こりうると考える。すると、取り残されたキャリアが最低ランダウ準位 & へと緩和するためにはスピン反転が必要となるため、低温ではゆっくりとした緩和となるはずである。この取り残されたキャリアが最低ランダウ準位へと緩和していく過程が、3C55'から /C55'への緩和として観測されていると考えることができる。また、3C55'と /C55'で抵抗に違いが現れるのは、& に取り残されたキャリアの存在によって不規則ポテンシャルの様子が変化するためと考えることができる。
最低ランダウ準位への正孔の緩和は、& に取り残された正孔と最低ランダウ準位 &
のポテンシャルの山の正孔がいない部分 本論文ではこれを空孔と呼ぶとの結合プロセスとみることもできる。励起準位にいる正孔と最低ランダウ準位にいる空孔は空間的に離れた場所に局在しているため、緩和のプロセスはホッピングや量子トンネルによって起こると考えられる。
L45278らによると、スピンフリップを伴うサブバンド間の緩和は、温度が ;から ;
に下がるにつれ急速に遅くなる 。;68648らの実験結果では、 / まで磁場を下げて 3C55'
になると、 ;以下に保っている限り、高温のフォノンが関与する過程が凍結するため、 の高磁場側に磁場を掃引しても /C55'への緩和は起こらない。対照的に我々の実験結果では、最低温の ;でも、3C55'から/C55'への緩和が起こっている。我々の系での最低温における /C55'への緩和は、高温域のフォノンが関与する過程とは別の過程を経て起こっていると考えられる。
最低ランダウ準位には 以外の要素も混ざっているが、主に の要素で占められているのでここでは単純に の要素のみがあると考えることにする。
フォノン以外のスピン反転の過程として考えられる可能性の一つとして、伝導層に希薄に存在する磁性不純物が関係しているということが挙げられる。我々の試料は、普段希薄磁性半導体である を成長しているチャンバーで結晶成長したものであるため、微量のが結晶中に混入してしまっていることがありうる。そこで、我々の試料を エッチングして、次元正孔系部分を完全に除去した試料のホール抵抗を室温で測定した。その結果、密度 程度の )型キャリアが存在することを確認した。通常のチャンバーで成長した 次元系は、層の背景に存在する不純物濃度が 程度である。つまり、我々の系で通常より 桁多い背景に存在する不純物は蒸気圧の高い である可能性が高い。このことから、伝導層中に希薄に存在するなどの磁性不純物が角運動量保存則を満たすようにスピン反転するため、我々の系では ;という低温でも伝導正孔がスピン反転して緩和することができると考えられる。
Hole Spin
Magnetic Impurity
(eg. Mn)
図 正孔スピンと磁性不純物との相互作用の概念図。
ここまでで述べたモデルに従って、実験結果を考察してみることとする。まず、緩和時間の磁場位置依存性について述べる。 で同じ待ち時間でも、待つ磁場位置
によって、抵抗変化が早い場所と遅い場所があることは先に述べた。図 を見ると、
の領域では、待つ磁場位置の増大に従い、緩和率の増加が見られる。これは、高磁場では、ゼーマンギャップの増加によって二つのランダウ準位が十分分離するために準安定状態である 3C55'が不安定になることが原因である。 や ~の量子ホール領域で特に緩和率が早くなっているのは、単純なゼーマンギャップの開きだけでなく、交換相互作用によってスピンが揃おうとするため、より 3C55'が不安定になるとみることもできる。また、 の領域をみると、緩和率が量子ホール状態の部分 と の部分に比べて、つの量子ホール状態の間の遷移ピークの部分の方が緩和率が大きいことが分かる。これは、遷移ピークの部分では、基底ランダウ準位の正孔状態が非局在化するため、& に取り残されていた局在正孔が & の準位に量子トンネルしやすくなるからである。
最後に面内磁場による効果について、もう少し詳しく考察する。つには、全磁場が増大して、同じ面直磁場にゼーマンエネルギーが増加する効果がある。正孔のスピン偏極度が増すことにより、緩和率 が減少したと考えることができる。すると、節でみたスピン偏極度が高いところで待つと抵抗緩和率が早いという結果とは逆となる。もう つの可能性として、面内磁場の印加により、正孔の波動関数の厚みが収縮する効果が考えられる。,$&/2@7-の波動関数
$ 2
'()2
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0 /
0
121086420B|| (T)
図 面直磁場 %における緩和時間の面内磁場依存性。面内磁場の無いときの値で規格化してある。青実線は、面内磁場の効果が波動関数の厚みの収縮によると仮定したときに予想される緩和時間の振る舞い。
によると、波動関数の幅 3は、3
2で見積もることができる。+487"2751らによると面内磁場の印加により、パラメータ 2が
2
2
2
2
2
に従って変化する 。ここで、2は面内磁場がないときのパラメータ 2で、 は磁気長
である。抵抗緩和に 伝導層中に存在する磁性不純物が関係していると考えると、相互作用できる磁性不純物の数が少なくなることで、緩和率 が減少すると期待される。この磁性不純物が !方向に一様に存在すると考えると、相互作用できる磁性不純物の数は正孔の波動関数の幅 3に比例する。そこで、緩和率 が波動関数の幅 3に比例すると仮定すると、 3つまり、 22が成り立つ。ここで、面内磁場がないときの緩和時間を とした。式 に従って、22をプロットした結果が図 の青実線である。 / %を除くと、の面内磁場依存性とよく一致している。入力パラメータ 2 とした。波動関数の幅は 3
2 で見積もることができ
て、入力パラメータから求めた波動関数の幅は である。計算から求めた波動関数の幅に比べやや厚いが、,$& /2@7-の近似自体が現実の波動関数より厚く見積もる傾向があることを考えると妥当な値である。以上の解析から、面内磁場の印加による緩和率の減少は波動関数の厚みが収縮する効果が大きく効いているといえる。これは、層の背景にいる磁性不純物が 3C55'から /C55'への緩和に寄与しているというモデルを裏付ける結果である。
本章のまとめ
本章では、長時間緩和を伴うヒステリシス現象の実験結果を示した。ここでの結論を以下にあげる。
、、 付近で長時間緩和を伴うヒステリシスを観測した。
系には準安定状態と安定状態の つの状態 3C55'と /C55'が存在し、 を境にしてどちらが安定状態であるかが切り替わることが分かった。
準安定状態から安定状態への緩和時間は最低温で数 分スケールで変化し、温度依存性は熱活性的であることが分かった。
数 分スケールの抵抗緩和は核スピンの関与を想起させるが、抵抗検出の実験から核スピンは関係していないことを明らかにした。
この現象を説明するために、次のようなモデルを考えた。 / から へ磁場を早く掃引した際に、励起ランダウ準位に正孔が取り残されることで、静電ポテンシャルの様子が変化する。励起状態の正孔が最低ランダウ準位に緩和していく過程が、抵抗の変化として現れていると考えるのである。この緩和にはスピン反転を伴うが、層に希薄に存在する磁性不純物が正孔のスピン反転に関与していると考えた。このモデルに従い、緩和時間の面内磁場依存性や、緩和の磁場位置依存性などの実験結果を定性的に説明できることを示した。
第章 次元電子系における抵抗検出
第 章では、抵抗検出 のセットアップに問題がないことを確認するための参照実験として、次元電子系での結果を簡単に述べた。しかし、量子ホール系における抵抗検出 の研究はそれ自体、近年大きな注目を集めている。核スピンをプローブとして量子ホール系の電子スピン状態を探るという基礎物理的観点からの研究から、量子ホール状態を利用して半導体中の核スピンを制御し、量子コンピュータへの応用に結びつけようという研究 まで幅広く行われている。そこで本章では、次元電子系における抵抗検出の実験結果について詳細に述べる。節で抵抗検出 の基礎について述べた後、節では、幅広い磁場領域で観測された抵抗検出 の実験結果について述べる。節では、
における動的核スピン偏極についての実験結果について述べる。 節では、 付近で観測された「分散型共鳴線形」-)'70' '4)'について、詳細な実験結果を示すとともに、スカーミオン結晶 9817' +715 との関連を議論する。
抵抗検出の基礎
核磁気共鳴 の原理
核スピンの磁気モーメント は、次式で表される。
)
ここで、 !はプランク定数で、は核スピン演算子、) は核磁気回転比で核固有の定数である。!軸方向に定常磁場 をかけた場合、核スピンは磁場と相互作用する。エネルギー固有値は
" )
となる。ここで、は核スピンの固有値で、 の値をとり、核スピン系は
個のエネルギー準位に分かれる。そのエネルギー差は
G " " )
となる。式 において ) は、ラーマー共鳴周波数と呼ばれ、核磁気モーメントを古典的に見たときの、歳差運動の周波数と等価である。図 は、 の場合の核のゼーマンエネルギー分裂の模式図である。核スピンが上向きの状態が、下向きの状態よりエネルギー的に有利である。準位 /と /を占める核スピンの数をそれぞれ 、とすると、比はボルツマン因子によって決められる。
'()
G
*
'()
)
*
高温領域 G*では、はほぼ であり、準位は均等に埋まっているとみてよい。また、核スピンのゼーマンエネルギーは %で、G* ;位であるため、 ;以上の温度は高温領域とみなすことができる。
+1/2
-1/2
∆N
+1/2
-1/2
(a) (b)
hωL = ∆N
図 磁場の下での核スピンのエネルギー分裂の模式図。"ラーマー周波数 に相当する,磁場を照射したときの準位間遷移の様子。上の準位と下の準位の核スピンの数が同じになる。
一方、低温領域 G*になると、核スピンの熱的な偏極を考慮に入れなければならない。 %、 ;で、核スピンの偏極率は約 %となる。
はラーマー周波数に一致したラジオ波 ,を試料に照射することで起こる 図 "。高周波磁場 1 が静磁場に対し、垂直にかかるとき、遷移は隣接するエネルギー準位間で起こる。 /から /への遷移と、 /から /への遷移は同じ確率で起こり、両方の準位が等しく占められるようになるので、,照射により全体の核スピンの磁化4 が減少する。高周波磁場1の周波数が共鳴周波数から外れると、核スピンの磁化4は熱平衡値に戻る。それは次式で表される。
4 4
'()
1
は一般的に、縦緩和時間またはスピンC 格子緩和時間と呼ばれ、核スピンが熱平衡値に戻るまでの典型的な時間である。本論文では、を核スピン緩和時間とよび、その逆数である を核スピン緩和率と呼ぶことにする。核スピンの緩和は、核スピンのラーマー周波数に相当する電子スピン揺らぎの周波数成分を拾い状態間の遷移が起こることによる。核スピンのラーマー周波数は電子スピンに比べ 位と非常に小さい。よって、核スピン緩和率を測定することにより、通常の方法では観測できない電子スピンの低エネルギー励起を探ることができる。
半導体中の核スピンと電子スピンの相互作用
核スピンと電子スピンとの間の相互作用は、超微細相互作用 41)'7P' 5'7#52と呼ばれており、ハミルトニアンは次の形をとる。
!
Æ
ここで、 はそれぞれ自由電子の $因子と核の $因子で、 は核磁子、 はボーア磁子、は核スピンで は電子スピンである。式 の第 項はフェルミの接触相互作用と呼ばれており、第 項は双極子相互作用と呼ばれている。次元電子系において伝導に寄与するのは、の伝導帯の 電子で、核スピンの位置に零でない存在確率を持っている。そのため、フェルミの接触相互作用が主要な相互作用となる。一方、次元正孔系の場合は価電子帯の %電子が伝導に寄与する。%電子は核スピンの位置における存在確率は零であり、フェルミの接触相互作用がない。そのため双極子相互作用が主要な相互作用となり、フェルミの接触相互作用よりもはるかに弱くなる。
以下では、フェルミの接触相互作用に注目する。式 の第 項は次の形で書ける。
'
ここで、'
!
5
は超微細定数で、5は核スピンの位置に電子を見つける確率である。式 を昇降演算子を用いて書き直すと、
'
このハミルトニアンは静的な効果と動的な効果の両方を生じさせる。
静的な効果 K0'746'7 4A5
' の項は電子のゼーマンエネルギーに変更をもたらす。核スピンが偏極すると核スピンは局所磁場 を作り出す。
' /
この局所磁場を電子スピンが感じることにより、電子のゼーマンエネルギーは
G"
と変更を受ける。これをK0'746'7 4A5と呼ぶ。
動的な効果 電子スピンと核スピンの反転
' の項は電子スピンと核スピンの反転を表す。電子と核のスピン反転はエネルギー保存則を満たさなければならない。そのためには、電子スピンと核スピンのゼーマンエネルギーの大きな違いを埋め合わさなければならない。量子ホール領域においては、電子系にエネルギーギャップが存在するため、埋め合わせるのは難しい。したがって、低エネルギー励起が存在するときにのみ電子と核のスピン反転が起こりうる。
量子ホール領域での抵抗検出の観測
この節では、量子ホール領域で観測された抵抗検出の実験結果について述べる。特定のフィリングでなく幅広い磁場範囲で観測されたことから、熱平衡による核スピン偏極の効果によるものと考えられる。図 は典型的な抵抗検出の共鳴線を示したものである。面直磁場を %に固定して、
?2@'7 -Fの ,磁場を 8/! で掃引した結果、 /!の位置に抵抗値のディップを観測した。この周波数は の共鳴周波数に対応する。抵抗値の変化は %であった。
636
634
632
630
628
626
624
Rxx
(
)
90.0089.9589.9089.85
RF (MHz)
75As
B = 12.3 T
ν = 2/3
図 % における共鳴線
7
6
5
4
3
2
1
0
Rxx
( k
)
14121086420
3 2 1 2/3
120
100
80
60
40
20
0
RF
( MH
z )
14121086420
B ( T )
γAs = 45.95 MHz/Tliterature = 45.81 MHz/T
(b)
(a)
図 における対角抵抗 "磁場に対する の共鳴周波数の依存性
このような共鳴線は、だけでなく、、の共鳴周波数でも観測された。また、特定のフィリングで観測されるわけではなく幅広い磁場範囲で観測された。に対するは観測されなかったことから、の 次元面のみがに関与していることがわかる。図 はゲート電圧 における対角抵抗で、図 "は磁場に対する の共鳴周波数の依存性を示している。共鳴周波数は磁場に比例しており、赤線は直線でのフィッテングの結果である。傾きから磁気回転比 )を求めたところ、) /!%となった。これは文献値ともよく一致している。抵抗検出 は が有限の値をとるときのみ可能であるため、量子ホール状態が発達し零抵抗となっているところでは、信号は得られないことに注意が必要である。
このような抵抗値の変化が見られる理由について考察する。式 においての場合、スピン軌道相互作用により $因子は で負であり、' / である。したがって、 となるので、核スピンの偏極によりゼーマンエネルギーは減少する。そこで、共鳴周波数に相当する ,磁場を照射し、核スピンの偏極を減少させると、ゼーマンエネルギーが増加する。もし、次元電子系が充填率が奇数の量子ホール状態にある場合、ゼーマンエネルギーが励起を支配し、対角抵抗は
'()
G
*
となる。G "で、"は交換エネルギーの項である。G の増加により、
が減少するので、抵抗検出 の信号はディップとなって現れる。
図 は異なる磁場位置 %での測定結果である。共鳴線が 本に分かれる様子を観測した。G6 8/!である。これは、核四重極相互作用を反映していると考えられている。
、、のように を持つ核は、球対称でない電荷分布をもつため、核四重極モーメント 7 をもつ。核の周りの電場勾配が立方対称でない場合、核四重極モーメントと電場勾配がカップルして、エネルギー分裂が起こる 図 。
609
608
607
606
605
Rxx
(
)
38.1038.0538.0037.9537.90
RF (MHz)
75As
B = 5.2 T
ν = 5/3
∆ RF
図 % における共鳴線
hωL
hωL
hωL
hωL + 2∆
hωL
hωL - 2∆
図 核四重極相互作用によるエネルギー準位の分裂
次に、抵抗検出 が見えた領域において の測定を行った。図 に 測定の例を示す。まず、共鳴周波数から少し外れた周波数 %の場合 /!を 秒間照射する。そして、共鳴周波数 % の場合 /!を 秒間照射する。再び共鳴周波数から外れた周波数を照射すると、抵抗は平衡値へと指数関数的に戻っていく。この抵抗緩和を
'()
1
でフィッティングすることで、を求めた。
1.160
1.158
1.156
1.154
1.152
1.150
1.148
Rxx
( k
)
5004003002001000
Time (s)
off resonance40.20 MHz
on resonance40.24 MHz
off resonance40.20 MHz
B = 5.5 T
図 %における 測定
7
6
5
4
3
2
1
0
Rxx
( k
)
14121086420B ( T )
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
1/T1 (s
-1)
3 2 1 2/3
図 核スピン緩和率 青丸の磁場依存性
図 は核スピン緩和率 の磁場依存性である。 の領域では、試料の抵抗値に対して が比例して増大している。この結果は、がフェルミ準位での状態密度に比例するという
;277$則に従っている。また、 付近で核スピン緩和率が異常に増大している。これは低エネルギーのスピン励起であるスカーミオン励起が関係していると考えられる。これらの の振る舞いは>'75や/4252の結果と一致している。 付近の の詳細な結果については後述する。
のスピン相転移と動的核スピン偏極
では、低磁場ではスピン非偏極状態、高磁場ではスピン偏極状態が安定となり、磁場を変化させることでスピン転移が起こることが理論的 、実験的 に明らかにされている。そして、近年、転移点近傍で対角抵抗がヒステリシスを示したり、数分から数時間という非常に長いスケールで時間変化する現象が多くの研究グループにより発見され、抵抗検出 により、核スピンの関与が明らかにされている 。この節では、我々も において、同様の抵抗のヒステリシスを観測し、抵抗検出 を観測したことを報告する。
図 はゲート電圧を 、、と変えていったときのアップスイープとダウンスイープの磁気抵抗を表している。では、アップスイープとダウンスイープに顕著なヒステリシスが観測された。これは、 の磁場位置が低磁場側に移動し、前述したスピン転移点に到達したためである。また、図 はゲート電圧で、磁場を %に固定したときの対角抵抗の時間変化である。赤点線がアップスイープで %に近づけたときの時間変化で、青実線がダウンスイープで %に近づけたときの時間変化である。アップスイープのときは抵抗変化がほとんどないが、ダウンスイープのときは、抵抗値がアップスイープの抵抗値に近づいていく様子がわかる。抵抗の時間変化を指数関数でフィットして緩和時間を求めたところ、 となった。この緩和時間は過去の実験結果と同程度の値であり、核スピンの関与が予想される。そこで、抵抗が飽和した状態で ,磁場を印加したところ、と 双方の核で信号を観測した。図 は の信号で、図 は の信号である。抵抗変化は、と 双方において約 %で、他の磁場位置より約 倍の大きな信号が得られた。アップスイープとダウンスイープで信号が非対称なのは、@'') 75'が早いため、核スピンの緩和に伴う抵抗緩和が追随していないためである。
40
30
20
10
0
Rxx
( k
)
121086420B ( T )
- 0.1 V
- 0.3 V
- 0.5 V
down sweep up sweep
ν = 2/3
図 異なるゲート電圧での磁気抵抗 @'') 75'
%、電流量 。 8Nのオフセットがつけてある。赤点線がアップスイープ、青実線がダウンスイープである。
5.0
4.5
4.0
3.5
Rxx
( k
)
6050403020100
Time (min.)
Bwait = 6.5 ( T )
up sweep down sweep = 8.9 ( min. )
図 ゲート電圧 、磁場 %で止めたときの時間変化。
5.45
5.40
5.35
5.30
Rxx
( k
)
47.7047.6047.5047.40RF (MHz)
75As
図 での の抵抗検出の信号 ?2@'7 -F、@'') 75' 8/!。
5.41
5.40
5.39
5.38
5.37
5.36
5.35
5.34
Rxx
( k
)
66.8066.7566.7066.6566.60
RF (MHz)
69Ga
図 での の抵抗検出 の信号 ?2@'7 -F、@'') 75' 8/!。
付近での「分散型共鳴線形」の観測
節での議論では、フィリングが奇数の量子ホール状態では、抵抗検出の共鳴線はディップとして現れることが期待される。しかし、 付近ではしばしば予想に反して、共鳴線にディップとピーク構造が同時に現れる「分散型共鳴線形」が観測される 。また、節で見たように、 付近では、他のフィリングに比べ、核スピン緩和率 が増大することから、スカーミオン励起との関連が予想される。分散型共鳴線形を初めて観測した >'75らは、スカーミオン結晶の形成が起源だと主張している 。その後も、いくつかのグループで 付近で分散型共鳴線形の報告例がある 。しかしながら, )2@'7依存性や温度依存性で、互いに異なる結果を得ており、分散型共鳴線形の起源、特にスカーミオン励起との関連についてはまだ不明な点が多い。そこで、この節では 付近での分散型共鳴線形について、フィリング依存性、温度依存性を調べた結果について述べ、その起源について考察する。
共鳴線のフィリング依存性と温度依存性
図 "は、磁場 %、ゲート電圧 に相当 における抵抗検出 の信号である。測定条件は温度 ;、電流量 、, )2@'7 -F、@'') 75' 8/!である。分散型共鳴線形が現れている。この図はアップスイープの図だが、ダウンスイープでも同じ信号が得られている。この分散型共鳴線形のランダウ準位占有率依存性を調べるために、磁場は %に固定したままでゲート電圧 を変化させた。図 は、 、 における抵抗検出の信号である。分散型共鳴線形が消失し、線幅の広いディップ構造を観測した。また、抵抗の変化も分散型共鳴線形に比べ小さくなっている。図 はゲート電圧を ずつ変えてフィリング を変化させたときの、信号の変化をカラースケールプロットしたものである。 付近で分散型共鳴線形が消失し、 付近からそれまでピークだった部分もディップとなり線幅の広いディップ構造が現れていることがわかる。図 は において、温度を変化させたときの 信号の変化をカラースケールプロットしたもので、図 は 、温度 ;の 信号である。 ; を超えてから分散型共鳴線形が消失している。
(a)
(b)
ν = 0.84
= 0 ( mV )
ν = 0.81
= – 40 ( mV )
図 " での
信号 温度 ;、電流量
0.85
0.84
0.83
0.82
0.81
73.2073.1573.1073.05RF (MHz)
20
0
-20
R
xx (
図 を変化させたときの 信号の変化をカラースケールプロットしたもの。
-4
-2
0
2
4
R
xx (
73.2073.1573.1073.05
RF(MHz)
200 mKν = 0.84
図 、温度 ;での
信号。
3040
70
100
120
150
170
200
350
T (
mK
)
73.2073.1573.1073.05RF(MHz)
30
20
10
0
-10
-20
R
xx ()
図 において、温度を変化させたときの 信号の変化をカラースケールプロットしたもの。
の測定
分散型共鳴線形の起源をより深く探るために、核スピン緩和時間 の測定を行った。方法は、以下の通りである。
共鳴周波数から少し外れた周波数 , を 秒間照射する。
共鳴周波数 ,、,を 秒間照射する。
再び共鳴周波数から外れた周波数を照射すると、抵抗は平衡値へと指数関数的に戻っていく。
この抵抗変化は、核スピンが により擾乱された状態から熱平衡状態へと戻るために起こると考えられる。そこで、この抵抗緩和を
'()
1
でフィッティングすることで、を求めた。ここで、, は /!、,はディップに対応する周波数で /!、,はピークに対応する周波数で /!である。図 に において 測定を行った際の抵抗の時間変化を示す。図 "はディップに対応する共鳴周波数 , を入れた場合で、図 #はピークに対応する共鳴周波数 , を入れた場合である。ディップの緩和時間は
で、ピークの緩和時間は
と
なり、ディップの緩和時間の方が早くなっていた。同様の傾向は %7#1ら も観測している。この結果は次のように解釈できる。抵抗検出 の低周波数側は、最も;$45 4A5の影響が大きい、つまり、電子のサブバンドの波動関数が一番大きいところに存在する核スピンが寄与していると考えることができる。これらの核は、サブバンドの波動関数が小さいところにいる核よりも電子との相互作用が強くなるため、緩和がより早くなると考えられる。図 はディップの核スピン緩和率
とピークの核スピン緩和率
のフィリング
依存性をプロットしたものである。 / の領域で、 が増大している。 / における
の飽和は、測定系の時間分解能の限界によるものである。
この結果を図 を比較する。分散型共鳴線形が観測される範囲では、 が増大し、線幅
の広いディップ構造が観測される範囲では、 の増大が起こらなくなっている。
の増
大は、スカーミオン結晶の低エネルギー励起と関連していると考えられる。また、線幅の広いディップ構造が見えている範囲では、
の値が、節での他のフィリングでの値と同じ位であるこ
とから、この領域ではスカーミオン励起は に大きな影響を与えていないことがわかる。
以上の結果から、分散型共鳴線形から線幅の広いディップ構造への変化は、スカーミオン密度が大きくなり量子揺らぎが大きくなることによる、スカーミオン結晶の融解を反映したものであると考えられる。分散型共鳴線形が消失する という値は、+J25E'ら の理論とも比較的よく一致している。
ただし、分散型共鳴線形は 以外のフィリングでも見られるため、スカーミオン結晶とは直接関係ないという主張もある 。95'7ら は や で分散型共鳴線形を観測している。'70ら は、 や 付近のウィグナー結晶が形成されている領域で分散型共鳴線形を観測し、スカーミオンは必要なく電子の結晶化のみが関係していると述べている。今回の我々の測定からは、スカーミオン結晶の形成がどのような形で分散型共鳴線形に具体的に反映しているかを決定することはできない。スカーミオン結晶の形成により、何らかの要因で Æ とÆの関係が変わりピーク構造が現れると推測される。
30
20
10
0
-10
-20
R
xx (
)
73.2073.1573.1073.05RF (MHz)
ν = 0.84RFoff
RFpeak
RFdip
3.87
3.86
3.85
3.84
3.83
3.82
Rxx
( k
)
4003002001000Time (s)
RFoffRFpeak RFoff
3.84
3.82
3.80
3.78
Rxx
( k
)
4003002001000Time (s)
RFoff RFdip RFoff
(a)
(b)
(c)
図 での核スピン緩和率測定。
温度 ;での分散型共鳴線形。"ディップ #
ピーク に対応する周波数を入れたときの抵抗の緩和の様子
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
1/T
1 (s
-1)
0.850.840.830.820.81
1/T1(dip)
1/T1(peak)
図 と
のフィリング依存性
図 の電子温度 依存性 。が上がるにつれて、が長くなっている。
図 分散型共鳴線形が観測されているランダウ準位占有率 における の温度依存性。
;の;277$則に従っている 。
次に の温度依存性について述べる。 付近における の温度依存性に関しては、過去の研究において、異なる報告がなされている。'70ら は、 付近で、強い ,磁場を印加した場合のみ分散型共鳴線形を観測している。低い ,磁場では分散型共鳴線形ではなく、ディップのみの線形を観測している。この実験事実を報告しているのは、現在のところ '70らのみである。の測定は低い ,磁場領域で行っている。そして、電子温度 が上がるにつれ、が長くなるという異常な振る舞いを報告している図 。彼らはこの異常な温度依存性がスカーミオン結晶の融解に起因していると主張している。それに対し、%7#1ら は、 付近の分散型共鳴線形が観測される範囲においても、;277$
則 一定、つまり、温度 が上がるにつれ、は短くなるが成り立っているという結果を得ている。そして、+J25E'ら の理論においても、スカーミオン結晶の励起は ;277$則に従うという指摘がある。
以上の過去の研究を踏まえて、我々の実験結果について述べる。図 は 分散型共鳴線形が観測される領域 におけるディップの核スピン緩和率
の温度依存性で、図 は
線幅の広いディップ構造が観測される領域におけるディップの核スピン緩和率
の温度依存性である。 では、核スピン緩和率は ;277$則、すなわち に従っ
ているようにみえる。直線でフィッテングしたところ、 ;が得られた。対照的に、 では、
が温度が増加するにつれて減少するという異常な振る舞いがみ
られた。 ;では、広いディップ構造が見られる範囲の とほぼ同じ位の値となっている。この結果は、温度を上げるにつれて、 が減少するという点では '70らの結果と振る舞いが同じである。ただし、'70らの結果は 付近の緩和率 の絶対値が、我々や他の研究グループに比べて 以下となっている。この異常な温度依存性は、スカーミオン結晶の融解を示唆していると考えられる。
%7#1らとの結果の食い違いについては、%7#1らの測定では温度を上げてもスカーミオン結晶の融解が起こっていなかったために ;277$則に従っていると考えることで説明をつけることができる。我々の試料は %7#1らに比べ、移動度が低いため不純物の効果により、スカーミオン結晶の融解
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
1/T
1(dip
) ( s
-1 )
120100806040200T (mK)
ν=0.84
図 における の温度依存性
0.06
0.04
0.02
0.00
1/T
1(dip
) (s
-1 )
120100806040200T (mK)
ν = 0.805T1T = 1.8 ( s K )
図 における の温度依
存性
が低温で起きたという可能性が挙げられる。
本章のまとめ
本章では、次元電子系での抵抗検出 についての実験結果を示した。ここでの結論を以下にあげる。
広い磁場範囲で抵抗検出 の信号を観測し、測定系のセットアップに問題がないことを確認した。
でヒステリシス現象を観測し、抵抗検出 により動的核スピン偏極が起こっていることを確認した。
また、 付近で、分散型共鳴線形を観測し、フィリング依存性や温度依存性を調べることにより、以下の事を見出した。
付近でフィリングを変化させることにより、 / で線幅の広いディップ構造から分散型共鳴線形へ変化するという現象を初めて観測した。
;まで温度を上げると、分散型共鳴線形は消失した。
また、のフィリング依存性、温度依存性から以下のことを見出した。
/ で、分散型共鳴線形のディップ部分における核スピン緩和率 が急激に増大し
た。この核スピン緩和率の増大は、スカーミオン結晶の形成を示唆している。ピーク部分ではの増大は起こっていないので、分散型共鳴線形のディップ部分が、スカーミオン結晶の低エネルギー励起を反映していると考えられる。
分散型共鳴線形が見られる領域での核スピン緩和率 が温度とともに減少するという振
る舞いを観測し、温度上昇によるスカーミオン結晶の融解を示唆していると考察した。
第章 結論
最後に本研究の結論をまとめる。
高次ランダウ準位における異方的磁気抵抗の観測
高次ランダウ準位の において、ストライプ相を反映した磁気抵抗の異方性を観測し、抵抗の極大が見られる方向が 方向であることを見出した。 にストライプ相が観測された理由として、/-'の擬ポテンシャルが電子と異なるためであると考えた。面内磁場を印加する実験では、面内磁場を 方向に印加すると、 、の異方的状態がより安定化した。等方的であった にも異方性が現れた。一方、面内磁場を 方向に印加しても、磁気抵抗に変化は現れなかった。このことから、我々の系においては元々結晶に備わっているストライプを揃える効果が強いことが分かった。元々備わっているストライプを揃える要因の可能性の一つとして、界面のステップ構造による 次元的なポテンシャル変調を考え、ポテンシャルの方向と平行な 方向にストライプ相が安定化していると考えた。
付近と における非周期的抵抗振動の観測
幅のホールバーで 付近と の特定のランダウ準位占有率における非周期的抵抗振動を観測した。振動の原因として、 については、分数量子ホール液体相とウィグナー結晶相の 相が共存することにより、細い伝導チャンネルのネットワークが形成され、実効的にメゾスコピックな試料と同じ状況ができていると考えた。 においても、量子ホール液体相と絶縁相が共存することにより振動が生じると考えた。
長時間緩和を伴うヒステリシス現象の観測
、 、付近のランダウ準位占有率で長時間にわたり抵抗が緩和する現象を観測した。系には準安定状態と安定状態の つの状態 3C55'と/C55'が存在し、 を境にしてどちらが安定状態であるかが切り替わることが分かった。数 分スケールの抵抗緩和は核スピンの関与を想起させるが、抵抗検出 の実験から核スピンは関係していないことを明らかにした。この現象を説明するために、 / から へ磁場を早く掃引した際に、励起ランダウ準位に正孔が取り残されることで、静電ポテンシャルの様子が変化するというモデルを考えた。励起状態の正孔が最低ランダウ準位に緩和していく過程が、抵抗の変化として現れていると考えられる。この緩和にはスピン反転を伴うが、層に希薄に存在する磁性不純物が正孔のスピン反転に関与していると考えた。このモデルに従い、緩和時間の面内磁場依存性や、緩和の磁場位置依存性などの実験結果を定性的に説明できることを示した。
次元電子系における抵抗検出 の観測
付近における抵抗検出 で分散型共鳴線形を観測し、フィリングを変化させることにより、分散型共鳴線形から線幅の広いディップ構造への変化を観測した。そして、の測定から、分散型共鳴線形のディップ部分がスカーミオン結晶の低エネルギー励起を反映していることを明らかにした。また、 のフィリング依存性より、量子揺らぎの増大によるスカーミオン結晶の融解を示唆する結果を得た。分散型共鳴線形が同時に消えることから、分散型共鳴線形とスカーミオン結晶の形成が関係していると考えられる。分散型共鳴線形が見られる領域での核スピン緩和率
が温
度とともに減少するという振る舞いを観測し、温度上昇によるスカーミオン結晶の融解を示唆していると考察した。
謝辞
本研究を遂行し、論文を執筆するにあたり、多くの方のお世話になりました。ここに感謝の意を表します。
家泰弘教授には、興味深いテーマと恵まれた研究環境を与えて頂き、また指導教官として多大なる御指導を賜りました。深く敬意を表し、心より御礼申し上げます。勝本信吾教授には、様々な局面において貴重な御助言と御協力を頂きました。深く御礼申し上げます。遠藤彰助手には、多くの有益な議論と懇切丁寧な御指導を賜り、研究生活のあらゆる面でお世話になりました。心より感謝いたします。橋本義昭技術専門職員には、半導体基板の成長と評価、さらには実験装置の取り扱いや実験手法に関して、多大な御助言と御協力を頂きました。大変感謝しております。阿部英介助手、$ ;$博士には、実験に関して御助言を頂きました。川村順子秘書、小野明子秘書には研究生活のあらゆる面においてお世話になりました。研究生活を共に過ごした、小寺克昌氏、加藤雅紀氏、佐野浩孝氏、山岸俊之氏、内田隆洋氏、大塚朋廣氏、鈴木一也氏、飯田悠介氏、田辺正樹氏、木村洋介氏、田宮慎太郎氏には、研究に関して様々な助言や議論をしていただき、また研究生活を楽しいものにしていただきました。特に、年間にわたり共同研究をし御指導いただいた小寺克昌氏には大変感謝しております。
最後に、私の研究生活を支え、応援してくれた家族、友人に感謝致します。
参考文献
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