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心の減災教育プログラムの開発と試行実施
本研究は日本学術振興会挑戦的萌芽研究(No.24653193)、基盤研究(B)(No. 25285191 )および2012年度名古屋大学地域貢献事業 の助成を受けた
栗本真希*1,2 足立知子*1,2 窪田由紀*1,2
坪井裕子*1,3 松本真理子*1,2 森田美弥子*1,2
(*1名古屋大学心の減災研究会 *2名古屋大学大学院教育発達科学研究科 *3人間環境大学)
問題と目的
学校における防災教育
「災害後に起こる心理的ストレス反応」や「対処法」についてはほとんど触れられていない。
災害メカニズムについての知識 災害に備える
具体的手立て
心の減災能力とは
•災害時に生じる心理的な被害を減らす能力。
→ 災害時に生じうる心理的影響についての理解と,適切に対処するスキルを育成することが必要。(心の減災教育)
•根底に自尊感情や対人関係スキルの育成を置くことで,児童生徒の日常的な心の健康増進に繋がることが期待される。
連携・協力組織
名古屋大学心の減災研究会
実施組織
名古屋大学減災連携研究センター
協力組織
• A県教育委員会
• B町教育委員会• B町立小学校
• C市教育委員会• C市立小学校
• D市立小学校
• D市消防局防災部
• D市港防災センター
• E市教育委員会
連携・協働・協力組織
プログラム開発指導案提示授業実施
ホッとせい
プログラム検討指導案検討
フィードバック
イメージキャラクター
CHECK(評価段階)
効果検証■児童アンケート(事前事後比較)■教師アンケート(授業観察)
協力校における授業の試行実施
DO(実施段階)
ACTION(改善段階)
プログラム改編
1.防災教育プログラムの収集・内容分析
2.プログラム開発
PLAN(計画段階)
3.プログラム検討・修正
教材開発
普及啓発のための教材開発・呼吸法カード・ポスター・リーフレット
既存のプログラムの内容分析 教員のニーズ調査
フォローアップ調査(3カ月後)
こころの減災教育プログラムの開発・実施
事前質問紙
事後質問紙
プログラムの実施
行動の意図や実行を促進する要因
恐怖感情の喚起
反応効果性
自己効力感脅威の深刻さ
脅威への脆弱性
Witte &Allen(2000)
●地震発生メカニズムの説明や揺れの映像
●地域ごとの被害予測
●具体的な地震対策の方策
既存のプログラム
自己効力感を高める工夫や恐怖感情への対処が扱われていない。
恐怖感情の喚起
脅威への脆弱性脅威の深刻さ
反応効果性
教員のニーズ調査
•調査期間:2012年8月~9月•調査対象:A県内の
・小学校32校810名・中学校14校438名・特別支援学校1校36名
計1284名の教員
•調査内容:災害・防災教育に関する項目(現状に
ついて:7項目,意識:4項目,ニーズ5項目),心の健康教育に関する質問項目
教員のニーズ調査の結果
• 防災教育の見直しを含め, 災害に備える必要性が意識されていた。
• 心の減災教育についての必要性や災害時のストレス反応,心理的援助について知りたいというニーズが高かった。
• 一方で,実際に心理に関する教育は実施されておらず,新たに実施するのは様々な制約(時間,知識など)のために難しいと言う意見も見られた。
詳細は学校心理学会(2013.9)にて発表予定
心の減災教育プログラムの内容
②東海地震の発生可能性を示し,身近な問題であるという認識を高める。
恐怖感情の喚起①映像教材を用いて巨大地震
発生時の状況を提示する。
③実際の被災時の写真を提示し,巨大地震によって生じる様々な被害について知らせる。 脅威の深刻さ
恐怖感情の喚起
脅威への脆弱性
1854年
1944年
明日起きるかもしれない!!!
東海地方に地震が起こったのは東南海地方では?
南海地方では?
東海地方だけが150年以上も地震が起こっていない!
1945年
もし地震が起こったら
建物がこわれる!
もし地震が起こったら
家具が倒れる!
心の減災教育プログラムの内容
④③に対してどのような備えが必要であるかを考えさせる。
反応効果性
もし地震が起こったら
食べ物がなくなる水が止まるトイレが使えない電気が使えない
どうしたらいい?
水 食べ物乾電池
17
もし地震が起こったら
家にとじこめられる(外に出られない)家具の下敷きになる
どうしたらいい?
笛の準備家具の固定
心の減災教育プログラムの内容
⑤被災時には落ち着いて行動することが重要であると知らせる。
⑥強い恐怖を感じた際の効果的な対処方法の1つとして「10秒呼吸法」を提示し,実施
する。(実施の前後に脈拍計による脈拍測定を行う)
反応効果性
自己効力感
本当に地震が起こったら?
どんな気持ちになる?
こわい!
胸がドキドキ
どうしたらいい?
まず、落ち着こう!落ち着くことが大事
どうしたら落ち着けるの?
どうしたらいい?パニックになる
21
10秒呼吸法
① 姿勢をととのえる② 静かに目を閉じる③ 口から息を全部はき出す④ 1,2、3と
鼻から息をすいながらおなかをふくらませる
⑤ 4で、いったん息を止める⑥ 5,6,7,8,9、10で、
口から息をはきだしながらおなかをへこませる
⑦ ④~⑥をくり返す
自分のぺースでやってみよう
心の減災教育プログラムの内容
⑦10秒呼吸法以外の対処方法
について生徒から意見を出してもらい共有する。(身近な人に気持ちを話すなど)
ほかには?
こわいことがあった時に落ち着く方法は?
先生や友だち、お家の人に話をきいてもらうのも、落ち着くための良い方法です。
心の減災教育プログラムの内容
① 映像教材を用いて巨大地震発生時の状況を提示する。
恐怖感情の喚起
② 東海地震の発生可能性を示し,身近な問題であるという認識を高める。
脅威への脆弱性
③ 実際の被災時の写真を提示し,巨大地震によって生じる様々な被害について知らせる。
恐怖感情の喚起脅威の深刻さ
④ ③に対してどのような備えが必要であるかを考えさせる。
反応効果性
⑤ 被災時には落ち着いて行動することが重要であると知らせる。
⑥ 強い恐怖を感じた際の効果的な対処方法の1つとして「10秒呼吸法」を提示し,実施する。(実施の前後に脈拍計による脈拍測定を行う)
反応効果性自己効力感
⑦ 10秒呼吸法以外の対処方法について生徒から意見を出してもらい共有する。(身近な人に気持ちを話すなど)
Table1 プログラムの内容
プログラムの実施
• 実施期間:2012年10月~2013年1月• 実施校:A県内の
・B小学校(5,6年生;計5学級)
・C小学校(5年生;計5学級)
・D小学校(5,6年生;4学級)
• 質問紙:プログラムの前後に,効果検証の
ための質問紙(4件法)を実施
質問項目
事前 事後 3カ月後
・ 実際に10秒呼吸法をやってみて落ち着きましたか?(呼吸法の主観的な効果)
○ ○
・ 地震が怖いと思いますか?(恐怖感情) ○ ○ ○
・ 地震が来たら胸がドキドキし,怖い気持ちになると思いますか?(脅威の深刻度)
○ ○ ○
・ 地震が来ても,10秒呼吸法をしたら心が落ち着くと思いますか?(呼吸法の対処効力感)
○ ○
・ 地震が来ても落ち着いて避難できると思いますか?(避難行動の対処効力感)
○ ○ ○
・ 地震が起きたあとで,10秒呼吸法をやってみようと思いますか?(災害時の呼吸法の行動意図)
○ ○
・ ふだんの生活の中で,ドキドキしたときに 10秒呼吸法をやってみようと思いますか?(平常時の呼吸法の行動意図)
○ ○
・ 困ったことがあっても,頑張れば自分で解決できると思いますか?(一般的な効力感)
○ ○ ○
・ 自分に満足していますか?(自尊感情) ○ ○ ○
・ 嫌なことがあっても我慢できると思いますか?(自己制御) ○ ○ ○
Table2 質問紙の項目
質問項目(測定内容)
① しせいをととのえる② 静かに目を閉じる③ 口から息を全部はき出す④ 1、2、3、と鼻から息をすいながら
おなかをふくらませる⑤4で、いったん息を止める⑥5,6,7,8,9,10で、
口から息をはき出しながら、おなかをへこませる① ④~⑥をくり返す
10秒呼吸法
★ぼく・わたしのリラックス法★
名前: 血液型:
名古屋大学 こころの減災研究会
ホッとせい
効果検証
測定変数 実施前 実施後 t値
恐怖感情 3.71 3.74 0.87 0.03
(0.62) (0.60)
脅威の深刻度 3.41 3.51 2.22 * 0.10
(0.81) (0.74)
避難に対する対処効力感 2.62 2.94 6.13 *** 0.32
(0.89) (0.85)
一般的な効力感 2.46 2.70 4.66 *** 0.24
(0.86) (0.90)
自尊感情 2.38 2.52 2.94 ** 0.17
(0.97) (0.99)
自己制御 2.63 2.79 3.38 ** 0.19
(0.96) (0.97)*p<.05,**p<.01,***p<.001
Table 3 プログラム実施前後の平均値(SD)およびt検定の結果(N =290)
効果量
質問紙の事前・事後比較
Figure1 プログラム実施前後の平均値およびt 検定の結果
0
1
2
3
4
実施前
実施後
児童の感想
プログラムの要因間の影響
x2=48.660 (df=18, N=255), GFI=.982,AGFI=.954, CFI=.991, RMSEA=.038※モデルに示されたパス係数はすべて有意。
石川ら(2013)
R²=.40 R²=.34
R²=.38
R²=.17
R²=.20
R²=.14
呼吸法 主観的効果
恐怖感情
呼吸法対処効力感
避難行動
効力感一般的
効力感
自尊感情
自己制御 災害時呼吸法行動意図
.38
.16
.12
.16
.19
.13
.62
.41
.39
.31
平常時呼吸法行動意図
R²=.23
.17
.16
.28
.36
.18
プログラムの長期的効果の検討
藤井ら(2013)
①事前 ②事後 ③3ヶ月後 F 値 多重比較
恐怖感情 3.75 (.55) 3.77 (.53) 3.75 (.60) .15
脅威の深刻度 3.46 (.76) 3.52 (.72) 3.55 (.68) .958
避難行動の効力感 2.56 (.88) 2.93 (.86) 2.79 (.82) 11.862** ①<②=③
一般的な効力感 2.45 (.84) 2.70 (.90) 2.72 (.88) 7.474** ①<②=③
自尊感情 2.38 (.97) 2.55 (.99) 2.53 (.99) 2.034
自己制御 2.66 (.95) 2.82 (.97) 2.83 (.90) 2.668
括弧内は標準偏差。**p <.01
Table4 3時点の各尺度の平均値および一元配置分散分析の結果 (N =255)
まとめと今後の課題
• 心の減災教育プログラムの実施により,避難行動に対する対処効力感や一般的な効力感,自尊感情が高まることが示され,一定効果が得られた。
→ しかし3カ月後のフォローアップで効果が持
続されていたのは,避難に対する対処効力感と一般的な効力感のみであった。
まとめと今後の課題
• 定期的に実施できるよう,日常的に教師が簡便に実施できる方法が求められる。
→ 本研究会ではその一助として本プログラムのDVDソフトを作成し,配布予定である。
まとめと今後の課題
• 実際に対処スキルを活用するための基盤となる,自尊感情や対人関係スキルの育成を含めた包括的なプログラムの開発が求められる。
→ 本研究会では,災害後の心理的影響についてのより詳しい心理教育や,自尊感情や周囲の人々との絆を深めることをねらいとした全3回のプログラムを現在作成中である。
ご清聴ありがとうございました。