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環境生物学領域 ってどれほど重要な現象であるのか, また光の強弱を関知しているのはど のような色素系であるのかを解析し てきた。光受容や移動のメカニズに ついてはまだ解明されていない部分 が非常に多く,今後の我々の研究に 託されている。 遺伝子解析の結果,アミノ酸配列 が明らかになったが機能がわからない 遺伝子が膨大な数に上っている。 我々は機能未知の遺伝子作用を明ら かにする手法を開拓するために,相 同組み換え技術の開発,トランスポ ゾンの解析,遺伝子サイレンシング の利用法などをイネやシダを使って 行っている。新しいトランスポゾンの 発見や,シダにおける特異な遺伝子 サイレンシングの発見があり,これら の現象の今後の利用に向けて技術の 確立を急いでいる。 食物を食べてエネルギーを獲得す る動物と違って,植物は太陽光をエ ネルギー源として光合成を行い,有 機物を自ら合成して自活している。 植物の生活にとって最も重要な戦略 は,いかにして光合成を効率的に行 うかである。植物は弱光下では葉緑 体を細胞表面に集め,効率よく光を 吸収し,強光下では,葉緑体の傷害 をさけるために細胞の 脇側の細胞壁に移動す る。これらの現象は1 9世紀から知られてお り,また植物細胞には 普遍的な現象であるこ とから,植物にとって は重要な現象であると 考えられる。そこで 我々は実際に植物にと 50 たちは植物の形作りに重要な光の 作用をシダやシロイヌナズナを使 って研究している。特に光合成が行われ る細胞小器官である葉緑体が光条件に よって葉の細胞内を移動する現象を解 析し,そのメカニズムと意義を明らかに したい。また遺伝子機能の解明に有効 な技術の開発にもたずさわっている。 光情報研究部門(客員部門) 基礎生物学研究所 要覧 2004 葉緑体光定位運動 研究活動 参考文献 1. Kikuchi, K., K. Terauchi, M. Wada and H. Hirano (2003) mPING plant MITE mobilized in anther culture. Nature 42: 167-170. 2. Wada, M., T. Kagawa and Y. Sato (2003) Chloroplast movement. Annu. Rev. Plant Biol . 54: 455-468. 3. Oikawa, K., M. Kasahara, T. Kiyosue, T. Kagawa, N. Suetsugu, F. Takahashi, T. Kanegae, Y. Niwa, A. Kadota and M. Wada (2003) CHOLOROPLAST UNUSU- AL POSITIONING1 is essential for proper chloroplast positioning. Plant Cell 15: 2805-2815. 4. Kagawa, T., M. Kasahara, T. Abe, S. Yoshida and M. Wada (2004) Function analysis of Acphot2 using mutants deficient in blue light- induced chloroplast avoidance movement of the fern Adiantum capillus-veneris L. Plant Cell Phys- iol . 45: 416-426. 5. Kasahara, M., T. Kagawa, Y. Sato, T. Kiyosue and M. Wada (2004) Phototropins mediate blue and red light-induced chloroplast move- ments in Physcomitrella patens. Plant Physiology in press. STAFF 和田 正三 教 授 末次 憲之 特別協力研究員 (東京都立大学大学院理学研究科菊池 一浩 助 手 小倉 康裕 研究員 山内 大輔 助教授 (姫路工業大学大学院理学研究科葉緑体光定位運動の集合反応も逃避反応も欠損 した chup1 突然変異体の原因遺伝子 CHUP1 はアクチン結合ドメイン,ロイシンジッパーなど を持つタンパク質をコードしており,葉緑体の 運動に重要な役割を持つと考えられる。柵状組 織の細胞内で一過的に発現させたCHUP1 N 端部分とGFP の融合タンパク質は,葉緑体の 外包膜に存在するOEP7 GFP の融合タンパ ク質の分布(G, H) と同じ分布を示した(J, K) 一方 GFP のみは細胞質(B, C) に,RBCS GFP の融合タンパク質は葉緑体内(E, F) に存在 することが示された。これらの結果は,CHUP1 が葉緑体の包膜上に存在し,葉緑体の移動に関 与していることを強く示唆している。写真上段 chlorophyll の蛍光,中段は GFP の蛍光, 下段は両者を重ね合わせたもの。 トランスポゾンと 遺伝子サイレンシング 上中 秀敏 及川 和聡 高橋 文雄 特別共同利用研究員 左右田 茜 清水 峰子 技術支援員

光情報研究部門(客員部門)基礎生物学研究所 要覧2004 葉緑体光定位運動 研究活動 参考文献 1. Kikuchi, K., K. Terauchi, M. Wada and H. Hirano (2003)

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  • 環境生物学領域

    ってどれほど重要な現象であるのか,

    また光の強弱を関知しているのはど

    のような色素系であるのかを解析し

    てきた。光受容や移動のメカニズに

    ついてはまだ解明されていない部分

    が非常に多く,今後の我々の研究に

    託されている。

    遺伝子解析の結果,アミノ酸配列

    が明らかになったが機能がわからない

    遺伝子が膨大な数に上っている。

    我々は機能未知の遺伝子作用を明ら

    かにする手法を開拓するために,相

    同組み換え技術の開発,トランスポ

    ゾンの解析,遺伝子サイレンシング

    の利用法などをイネやシダを使って

    行っている。新しいトランスポゾンの

    発見や,シダにおける特異な遺伝子

    サイレンシングの発見があり,これら

    の現象の今後の利用に向けて技術の

    確立を急いでいる。

    食物を食べてエネルギーを獲得す

    る動物と違って,植物は太陽光をエ

    ネルギー源として光合成を行い,有

    機物を自ら合成して自活している。

    植物の生活にとって最も重要な戦略

    は,いかにして光合成を効率的に行

    うかである。植物は弱光下では葉緑

    体を細胞表面に集め,効率よく光を

    吸収し,強光下では,葉緑体の傷害

    をさけるために細胞の

    脇側の細胞壁に移動す

    る。これらの現象は1

    9世紀から知られてお

    り,また植物細胞には

    普遍的な現象であるこ

    とから,植物にとって

    は重要な現象であると

    考えられる。そこで

    我々は実際に植物にと

    50

    私たちは植物の形作りに重要な光の作用をシダやシロイヌナズナを使って研究している。特に光合成が行われ

    る細胞小器官である葉緑体が光条件に

    よって葉の細胞内を移動する現象を解

    析し,そのメカニズムと意義を明らかに

    したい。また遺伝子機能の解明に有効

    な技術の開発にもたずさわっている。

    光情報研究部門(客員部門)

    基礎生物学研究所 要覧2004

    葉緑体光定位運動

    研究活動

    参考文献

    1. Kikuchi, K., K. Terauchi, M. Wadaand H. Hirano (2003) mPING plantMITE mobilized in anther culture.Nature 42: 167-170.

    2. Wada, M., T. Kagawa and Y. Sato(2003) Chloroplast movement.Annu. Rev. Plant Biol. 54: 455-468.

    3. Oikawa, K., M. Kasahara, T.Kiyosue, T. Kagawa, N. Suetsugu,F. Takahashi, T. Kanegae, Y.Niwa, A. Kadota and M. Wada(2003) CHOLOROPLAST UNUSU-AL POSITIONING1 is essential forproper chloroplast positioning.Plant Cell 15: 2805-2815.

    4. Kagawa, T., M. Kasahara, T. Abe,S. Yoshida and M. Wada (2004)Function analysis of Acphot2 usingmutants deficient in blue light-induced chloroplast avoidancemovement of the fern Adiantumcapillus-veneris L. Plant Cell Phys-iol. 45: 416-426.

    5. Kasahara, M., T. Kagawa, Y. Sato,T. Kiyosue and M. Wada (2004)Phototropins mediate blue and redlight-induced chloroplast move-ments in Physcomitrella patens.Plant Physiology in press.

    S T A F F

    和田 正三教 授

    末次 憲之特別協力研究員

    (東京都立大学大学院理学研究科)

    菊池 一浩助 手

    小倉 康裕研究員

    山内 大輔助教授

    (姫路工業大学大学院理学研究科)

    葉緑体光定位運動の集合反応も逃避反応も欠損した chup1突然変異体の原因遺伝子 CHUP1はアクチン結合ドメイン,ロイシンジッパーなどを持つタンパク質をコードしており,葉緑体の運動に重要な役割を持つと考えられる。柵状組織の細胞内で一過的に発現させたCHUP1 N末端部分とGFPの融合タンパク質は,葉緑体の外包膜に存在するOEP7とGFPの融合タンパク質の分布(G, H)と同じ分布を示した(J, K)。一方 GFPのみは細胞質 (B, C)に,RBCSとGFPの融合タンパク質は葉緑体内(E, F)に存在することが示された。これらの結果は,CHUP1が葉緑体の包膜上に存在し,葉緑体の移動に関与していることを強く示唆している。写真上段は chlorophyllの蛍光,中段はGFPの蛍光,下段は両者を重ね合わせたもの。

    トランスポゾンと遺伝子サイレンシング

    上中 秀敏及川 和聡高橋 文雄

    特別共同利用研究員

    左右田 茜清水 峰子

    技術支援員