1
10 特 集 エレクトロヒート 特集:工場廃熱活用技術 【総論 2】 1. 工場のエネルギー供給システム 1. 1 現状と課題 近年、工場への高効率機器(例えば、LED や高効 率ボイラ、高効率空調機)の導入が進んでいる。工場 の機器は刷新され、機器性能は大幅に向上されて来た と感じることが多い。しかし、工場の機器性能は向上 したが、依然として膨大な廃熱が捨てられている実態 がある。また、加熱と冷却を繰り返す生産工程では、 必ずしも効率的なエネルギーの供給が行われていない 実態もある。更に、冷却塔からも大量の廃熱が廃棄さ れている実態もある。 こうした問題は、機器単体ではなくシステムに起因 するので、機器性能を改善するだけでは解決する事は できない。そこで、改めて、工場のエネルギー供給シ ステムをエネルギーの観点から振り返り、工場廃熱に 着目することで、工場における新しい省エネ・省コス トに繋げて行きたいと考える。 1. 2 工場廃熱活用の必要性 工場のエネルギー供給システムの一例を、図1 示す。加熱工程は、蒸気を用いて様々な温度に加熱さ れる。また、冷却工程は冷凍機により熱エネルギーが 奪われ、奪われた熱エネルギーは冷却塔から廃棄され る。こうした工場のエネルギー供給システムをエネル ギーの観点で見直すと次の 4 つの問題がある。 (1)廃熱 工場の投入エネルギーは、様々な生産工程で使われ 最終的には、廃熱として外部環境に廃棄される。投入 エネルギーと同等の膨大な廃熱が廃棄されていると考 えられる。 (2)加熱工程/冷却工程の連携 加熱工程は熱エネルギーを与え、冷却工程は熱エネ ルギーを奪う工程である。両工程は別々に行われ、効 率的なエネルギー供給が行われていない場合が多い。 これは廃熱と共通する問題である。 (3)エクセルギー損失 化石燃料の燃焼温度は高温であるが、加熱工程は必 ずしも高温でない場合が多い。(例えば、100℃以下の 加熱)膨大なエクセルギー損失が発生している場合が 多い。 (4)蒸気の有効利用率 蒸気の有効利用率は、工場により千差万別だが、利 用率が高くない工場も多いと思われる。日本エレクト ロヒートセンターで 29 箇所の工場の平均をとったと ころ、蒸気の有効利用率は 54%との結果を得ている。 上記の 4 つの問題の中でも廃熱が最も重要である。 廃熱の問題が解決できると、他の問題も解決できる場 合が多いからである。そこで、以下では、工場廃熱に ついて考えていく。 工場廃熱活用の考え方 井 上 和 茂  (いのうえ かずしげ) 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター 要約 平成 29 年 2 月 15 日に東京ビッグサイトで開催した「工場廃熱活用セミナー」の中から「総論: 工場廃熱と産業用ヒートポンプの概要」について紹介する。本内容は、工場廃熱と工場廃熱活用の考え 方を整理したものである。工場廃熱活用システムの具体的な事例については、後の記事を参考にして頂 ければと思う。 図 1 工場のエネルギー供給システム

工場廃熱活用の考え方10 特 集 エレクトロヒート 特集:工場廃熱活用 総論2 1. 工場のエネルギー供給システム 1.1 現状と課題 近年、工場への高効率機器(例えば、LEDや高効

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

10 特 集 エレクトロヒート

特集:工場廃熱活用技術� 【総論 2】�

1. 工場のエネルギー供給システム

1. 1 現状と課題近年、工場への高効率機器(例えば、LED や高効

率ボイラ、高効率空調機)の導入が進んでいる。工場の機器は刷新され、機器性能は大幅に向上されて来たと感じることが多い。しかし、工場の機器性能は向上したが、依然として膨大な廃熱が捨てられている実態がある。また、加熱と冷却を繰り返す生産工程では、必ずしも効率的なエネルギーの供給が行われていない実態もある。更に、冷却塔からも大量の廃熱が廃棄されている実態もある。

こうした問題は、機器単体ではなくシステムに起因するので、機器性能を改善するだけでは解決する事はできない。そこで、改めて、工場のエネルギー供給システムをエネルギーの観点から振り返り、工場廃熱に着目することで、工場における新しい省エネ・省コストに繋げて行きたいと考える。

1. 2 工場廃熱活用の必要性工場のエネルギー供給システムの一例を、図 1に

示す。加熱工程は、蒸気を用いて様々な温度に加熱される。また、冷却工程は冷凍機により熱エネルギーが奪われ、奪われた熱エネルギーは冷却塔から廃棄される。こうした工場のエネルギー供給システムをエネルギーの観点で見直すと次の 4 つの問題がある。

(1)廃熱工場の投入エネルギーは、様々な生産工程で使われ

最終的には、廃熱として外部環境に廃棄される。投入エネルギーと同等の膨大な廃熱が廃棄されていると考えられる。(2)加熱工程/冷却工程の連携

加熱工程は熱エネルギーを与え、冷却工程は熱エネルギーを奪う工程である。両工程は別々に行われ、効率的なエネルギー供給が行われていない場合が多い。これは廃熱と共通する問題である。(3)エクセルギー損失

化石燃料の燃焼温度は高温であるが、加熱工程は必ずしも高温でない場合が多い。(例えば、100℃以下の加熱)膨大なエクセルギー損失が発生している場合が多い。(4)蒸気の有効利用率

蒸気の有効利用率は、工場により千差万別だが、利用率が高くない工場も多いと思われる。日本エレクトロヒートセンターで 29 箇所の工場の平均をとったところ、蒸気の有効利用率は 54%との結果を得ている。

上記の 4 つの問題の中でも廃熱が最も重要である。廃熱の問題が解決できると、他の問題も解決できる場合が多いからである。そこで、以下では、工場廃熱について考えていく。

工場廃熱活用の考え方井 上 和 茂 (いのうえ かずしげ)�一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター

要約 平成 29年 2月 15 日に東京ビッグサイトで開催した「工場廃熱活用セミナー」の中から「総論:工場廃熱と産業用ヒートポンプの概要」について紹介する。本内容は、工場廃熱と工場廃熱活用の考え方を整理したものである。工場廃熱活用システムの具体的な事例については、後の記事を参考にして頂ければと思う。

図 1 工場のエネルギー供給システム