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2017/10/28
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海の中のウイルスたち
長﨑慶三(高知大学・農林海洋科学部)
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2017年11月3日(金)高知大学物部キャンパス一日公開物部フォーラム資料
1892年:ウイルスの発見(TMV)
ウイルス=『病気を起こすもの』
「ウイルス研究」に投ぜられた努力・予算・時間のほとんどはウイルス病・病原ウイルスの研究に遣われてきた
2017年2
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まだ小さな子どもたちの頭の中でさえ「ウイルス→病気」という構図ができている
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病気の研究はまず血税により成される
「ウイルス研究」=「病気の研究」これはどこの国でも当然のこと
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しかしごく最近、ウイルスについて、驚くべき事実が明らかとなった
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地球上のウイルス粒子数
1031
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人・動物・植物に病気を起こすウイルス
生態系内の何らかの生物に感染する未知なるウイルスがウヨウヨしている
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ウイルスといえば・・・
• ほとんどのウイルスは人間の健康や産業に影響しない• いわゆる「病原ウイルス」は、全体のごくほんの一部• おそらく地球上の全ての生物はウイルス感染を受ける
病気野郎
病気起こす
病気やろ病毒や
病気の原因
病気だろ
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ネオウイルス学 生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ
領域リーダー: 河岡 義裕(東京大学医科学研究所)
新学術領域研究(国家的研究プロジェクト)
H28~H32年度
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カワオカ先生
日本の各大学で新たな視点からのウイルス学研究が、現在、絶賛展開中!
高知大学
我らが高知大学では海洋ウイルス研究を担当しています!
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…というわけで、本日は海のウイルスのお話を紹介します
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スプーン1杯の海水を汲んでみましょう
その海水は澄んでみえるけれども・・・・
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光学顕微鏡でこの海水を観察すると・・・(数十倍~数百倍)
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様々な美しいプランクトンを観ることができる
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この海水を電子顕微鏡でさらに拡大して観察すると・・・(数千倍~数万倍)
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海水中に多くのウイルスが存在することが分かる…
Wommack & Colwell (2000)16
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蛍光顕微鏡でみる “ウイルスたちが作る星空”
Fuhrman 1999
bacteria
Virus particles
Fuhrman (1999)
細菌類
ウイルス
真核生物
蛍光顕微鏡
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1mlの沿岸海水中に数千万~数億個のウイルスが浮遊
の1cm
1cm
1cm (全海洋で1031個)
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では、これだけたくさんのウイルスたちは海の中でいったいどのような役割を担っているのか?
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一つ一つのウイルスはとても小さい。ウイルスの働きを人間が認識できるのは、宿主に「病気」や「大量死滅」が起き、その原因がきちんと調べられたときに限られる
出典:水産研究・教育機構,東海大学HP20
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赤潮を起こす藻類は何種類もあるが、幾つかの種類では、赤潮の消滅にウイルスが関わっている
ヘテロシグマ・アカシオ
ヘテロシグマ赤潮時の水色
細胞径は1/50mm 21
接種後0日目 3日目
見事、ウイルスを捕まえることができれば、実験室内で宿主プランクトンの死滅を再現できる
元気 死滅
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感染細胞内部
Nagasaki et al. 199423
皆で新しいウイルスを必死に「採集」した時代があった
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しかし、ウイルスの採集には必ず…
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「宿主プランクトン細胞の死滅」という現象が伴った・・・
元気な藻類培養 死滅
ウイルス接種
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•ウイルスは宿主を殺すもの•宿主はウイルスに殺されるもの
ただそう信じて、「弱い宿主」と「強いウイルス」を望んできた。そして、両者の間で起こる「劇的な死滅現象」に注目してきた。
せっかく時間と労力かけて実験するなら
はっきりした結果が見たい!
高価な機械をそうそう何度も
使えないわけだし!
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そんな単純な図式ではなかった
1細胞=1つの命、である単細胞生物でさえ
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宿主はウイルス感染に対して一部生き残る!
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単細胞生物の群れ、1つ1つの細胞間での相互連絡は困難なはず。だが、3/1000の割合が抵抗性ON、あとはOFF(感受性)などといった制御が可能!
× ×
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相互連絡不能?
「ウイルスの宿主に対する許容」の幅は広いはず。
「共存」という選択肢もあり得る?
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陸上植物ではエンドルナウイルスの存在が見つかっている
• 全組織で一定の低コピー数(約100コピー/細胞) で検出• 宿主に明確な病徴を与えない(悪さはしない?)• 高率で次世代に伝播する(ex. イネ 95%)
(健全なイネ、ピーマン、アボカド等から・・・)
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海洋におけるウイルス共存の事例
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サンプルは海辺から拾ってきた一握りの藻屑もくず
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Stramenopiles
Viridiplantae
Not assigned
cellular organisms
Opisthokonta
Bacteroidetes/Chlorobi group
Amoebozoa
Proteobacteria
Alveolata
Cyanobacteria
Euglenozoa
Chlamydiae/Verrucomicrobia
Rhizaria
Apusozoa
Katablepharidophyta
Planctomycetes
緑藻
rRNA配列の相対割合
ケイ藻の一種アクナンテス
ほとんどをケイ藻の繁茂群体が占める(アクナンテス属)
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FLDS法“Fragmented and Loop primer ligated DsRNA Sequencing”FLDSによるdsRNA抽出の原理
〔原理〕
• 2本鎖RNA(dsRNA)はEtOH存在下でセルロースカラムに特異的に吸着
• 試料由来の抽出核酸からdsRNAをカラムクロマトで特異的に抽出
→ 新規RNAウイルス探索
Urayama et al. 2015
【ウイルス探索のための方法】
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輩缶ィñォ§跡⺌消䬸⻞⻝暖盛錠ょ̂べ挑¯
何と、完全長配列の得られた21のRNAウイルス全てが新種!うち19種がdsRNAウイルス!
何と、完全長配列の得られた21のRNAウイルス全てが新種!うち19種がdsRNAウイルス!
この新技術適用(FLDS法)の結果、藻屑から・・・
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この技術はウイルスハンターらにとって魔法の杖かもしれない
なぜなら、ネコとネズミが仲良くしていてもウイルスを効率的に見つけられるから!
×37
この技術を使って早速、渦鞭毛藻ブルーム中のdsRNAウイルスを探索
渦鞭毛藻リングロディニウムが大量増殖(高知県浦ノ内湾)
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試料採取および処理方法
→ 細胞懸濁液を遠心によりペレット化
→ ビニール袋に入れ液体窒素中で凍結
→ ハンマーで粉砕
→ 凍結したままFLDS法に供するプランクトンネットで濃縮(20μm) 39
ペレット粉砕
フェノクロによる
除タンパク操作
核酸画分
液体
窒素
【RNAの抽出工程】
片栗粉状まで
遠心攪拌
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渦鞭毛藻類
RNA-Seqによる多様性確認
その他の真核生物
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カラムでの精製
エタ沈・電気泳動
セルロース担体
M NA dsRNA
M: 分子量マーカーNA: 全核酸dsRNA: ウイルスバンド候補
洗浄・溶出
長鎖dsRNA検出
dsRNAはセルロースに特異的に吸着
【dsRNAの精製工程】
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FLDS法で出てきたウイルス配列を解読する
一本一本の配列がウイルスゲノム(設計図)に相当 43
既存のデータベースには当たらない遺伝子も見つかる!
query_title
query_length subject_desc subject_species subject_
length eval score
F1 3153顕著なヒットなし
F2 3188顕著なヒットなし
F3 3370顕著なヒットなし
P1 8712 APG77854.1 hypothetical protein Xinzhou nematode virus 1(線虫ウイルス) 2708 1.00E-66 264
F4 2139 APG78241.1 RdRp, partial Hubei partiti-like virus 27(植物・菌類ウイルス) 557 2.00E-103 337
F5 4529 XP_002285986.1 predicted protein| EED95627.1 predicted protein
Thalassiosira pseudonana CCMP1335(珪藻)
711 3.00E-33 149
F6 1931顕著なヒットなしF7 1935顕著なヒットなし
F8 2270 APG78241.1 RdRp, partial Hubei partiti-like virus 27 557 5.00E-93 310
F9 1731 YP_004429258.1 RNA-dependent RNA polymerase| CBW77436.1 RNA-dependent RNA polymerase Fig cryptic virus(植物ウイルス) 472 9.00E-107 338
P2 2485
P3 2681 ALD89125.1 RNA-dependent RNA polymerase Rhizoctonia solani mitovirus 6(菌類ウイルス) 657 6.00E-33 146
P4 3946顕著なヒットなし
P5 1877顕著なヒットなしP6 2612顕著なヒットなし
F10 1888顕著なヒットなしP7 2166顕著なヒットなし
未知の酵素をコードしているのか?(全く新規なウイルスか?)44
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今後の課題【フォーカス】
• 海洋生物とウイルスとの共存現象をより広い目線で見出す
• 海洋生物とウイルスとの共存様態を明らかにする
• ウイルスの共存がもたらす生態学的意味を考察・検証する
• 新たな遺伝子資源としてのウイルスの価値を探る
【ナゾ】
• 共存性ウイルスが宿主に牙をむくことはあるのか?
• 共存により得られる相互のメリットとデメリットは?
• 宿主の分裂により細胞あたり0個にならないだけの増殖が必要?
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謝辞(この研究はいろんな人たちの協力で成り立っています)
• 浦山俊一(筑波大)• 高野義人(高知大)• 外丸裕司(水産機構)• 櫻井哲也(高知大)• 高木善弘(JAMSTEC)• 布浦拓郎(JAMSTEC)• 吉田光宏(JAMSTEC)• 平井美穂(JAMSTEC)• 吉田ゆかり(JAMSTEC)• 木村 圭(佐賀大)• 野村暢彦(筑波大)• 高知県水産試験場 46
【主な推進予算】 新学術領域研究「ネオウイルス学:生命源流から超個体、
そしてエコスフィアーへ」 農水技会プロ研「有害プランクトンに対応した迅速診断
技術の開発」