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本書のお求めは WEB書店、最寄りの書店にお申し込みください。 A5 判 608 頁 定価(本体 8,500 円+税)ISBN978-4-86003-495-5 2017 年 11 月刊行 18 F-FDG PET 基礎読本 〈主要目次〉 Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎 Ⅱ.サイクロトロンと放射性医薬品製造 の基礎 Ⅲ.PET 臨床とがん Ⅳ.PET 検査マネージメント Ⅴ. 18 F-FDG 画像所見の基本的な考え方 Ⅵ.PET 検査の放射線安全 Ⅶ.CT(Computed Tomography) Ⅷ.PET 装置の最新の展開 18 F-FDG PET 画像の所見を適切に理解するには、人体解剖や疾患の知識が必要で すが、その検出原理、画像再構成、放射性医薬品、サイクロトロン、適切な画像 を得るための PET 検査マネージメントを熟知しておくことが欠かせません。また、 CT を利用した体内 18 F-FDG の減弱補正や解剖学的位置情報を補完する低線量 CT 画像が利用できる PET/CT のために CT の概略を理解しておくことも欠かせ ません。核医学専門職のための教材作成に係る IAEA Technical Contract No.16236 を基に、国際原子力機関(IAEA)の PET 技術標準化やトレーニング コースなどの経験から、PET 検査を包括的に理解し、 18 F-FDG PET 画像を適切 に読影したいと考えている読者に対して 18 F-FDG PET についてワンストップシ ョップ的で基礎的な説明を本書で試みています。 (著者序文より) 著:渡邉 直行 元国際原子力機関 原子力科学応用局ヒューマンヘルス部核医学課高等医官 国際原子力機関 原子力科学応用局ヒューマンヘルス部コンサルタント 18 F-FDG PET 基礎読本 (図Ⅰ-59) に見られるように、肝臓の上部にバナナ様アーチファクトを引き起 こす。これは減弱補正と肝臓のドーム、肺の基底部や横隔膜における病変の定量性に問題を引 き起こす。しかしながら、そのような病変は稀であり、このアーチファクトの臨床的な意義は 少ない。一般的にアーチファクトの重大性は、PET/CT システムの CT 装置の特性による。 スライス数の少ない古いタイプの CT 装置がこうしたアーチファクトを生じさせやすい。 心臓の不随意運動による誤登録は、より大きな問題である。心筋 PET 画像所見は相対的な 放射性医薬品の集積を評価するのが普通だからである。 (図Ⅰ-60) に、PET と CT データの 誤登録を示す PET/CT 画像がある。 (図Ⅰ-60b) におけるスプラッシュ画面には、1人の患 PET CT PET CT a b 図Ⅰ- 58.検査ベッドに係るエラー (a)ガントリ内の移動の不十分な調整がある場合、CT 部分で頭部の上部をスキャン(データ収集)す るが、PET 部分では目の位置のレベルがスキャンされることになる。また、(b)不適切に設置された 検査ベッドでたるみが生じる。これにより CT と PET 部分で頭部のスキャン位置にずれが生じる。 図Ⅰ- 59.呼吸運動が原因となるバナナ様アーチファクト PET と減弱補正に使用される CT における肝臓のドームと肺の位置の登録ミスマッチによりアーチ ファクトが生じる。 Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎 71 者の対の画像が示されている。その対で上段は誤登録に対し補正された画像、下段は (図Ⅰ- 60a) の誤登録から生じた画像である。誤登録から生じた画像(各下段)では、心臓側壁の基 底部における取り込みの減少が明確に見える。 a b a b 図Ⅰ- 60.心筋 18 F–FDG PET/CT 検査(誤登録アーチファクト) (a)減弱補正用の CT データと PET データの誤登録により PET 画像は左側へ、肺内への誤登録が見ら れる。(b)各上段はPETとCTの適切な登録画像で、各下段は(a)に基づいた誤登録画像。その誤登 録画像で側壁の基底部にアーチファクト(集積低下や欠損)が見られる。 (2)切り詰めアーチファクト(Truncation Artefact) 多くの PET/CT システムにおいて、PET の体軸方向の有効視野(FOV)は 70 cm である が、機械的および幾何学的制限のため、CT の FOV は 50 cm と小さくなる。大抵、これは問 題とはならない。しかしながら、大きな体格 の患者をスキャン(データ収集)する場合、 または患者が腕を体側に沿って置く場合、対 象は FOV の外へ拡がる (図Ⅰ-61) 。しかし、 CT の FOV は拡がらないので、PET データの 減弱補正を正確に行うことができない。この 問題に製造業者が対処するひとつの方法は、 データの切断(Truncation)が少ないと思わ れる多くの側面投影を利用してデータを再構 成することである。これらの画像は質的に診 断用ではないが、これらの領域における減弱 に係る適切な推測を与えることができる。 Gantry BorePET FOV CT FOV 図Ⅰ- 61.切り詰めアーチファクト PET/CT 装置で CT の FOV が PET の FOV より 小さいことが多い。これが不適切な減弱補正とな りアーチファクトが生じることがある。 18 F-FDG PET 基礎読本 40 によりカラースケールに割り当てられる画素値の上限値(UL)、下限値(LL)(カットオフレ ベル)を設定し画像が表示され、そのコントラストを変化させることができる。 一貫性のある画像解釈のために、最大放射能レベルの代わりに、10 Standardized Uptake Value(SUV)に最大表示色を設定することがしばしば有用である。最大放射能レベル表示の 時、脳や心臓を含む画像は明るいグレイレベルで表示される腫瘍は見逃されやすい。最大放 射能レベルで表示される画像と 10 SUV(SUV of 10)に最大表示色を設定する画像の読影に 関する影響は (図Ⅰ-31) に見られる。 a b c a b c 図Ⅰ- 31.画像表示 18 FFDG 全身 PET/CT 検査 CT 冠状 MPR 像(a)、PET 冠状断層像最大放射能レベル表示(b)、 PET冠状断層像10 SUV表示(c)。(c)で肝臓に限局性の 18 FFDG 集積がより明白に認められる (矢印)。 ほとんどの画像がグレイスケールで表示される。しかし、他のカラースケールも使用され る。線形グレイスケール表示は各放射能レベルに対し同じ重み付けの印象を画像観察者に与 0255025500 2550 2550 2550 100 200 300 0 100 200 300 0 100 200 300 0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 図Ⅰ- 30.RGB の線形寄与を利用したグレイスケール 放射能濃度が低い場合、明るい赤(R)、緑(G)と青色(B)の、一方放射能濃度が高い場合、暗い 赤(R)、緑(G)と青色(B)の線形寄与から、白からグレイを介して黒までの強度を示す線形グレ イスケールで表される。 Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎 41 えやすい。多数のレベルが使われると画像解釈は難しくなる。心筋 PET 画像では、青 / 赤 / 橙 / 黄(クール)カラースケールが、最大放射能レベルから軽度および中等度の減少につい てより適切に表示されるようデザインされている。脳 PET 画像では、グレイスケールでない カラースケールがよく使用されている。 18 F–FDGを使用するアルツハイマー病のイメージン グで、10 段階の Step 状カラースケールでの表示が有用であろう。適切なカラースケールを使 用することにより無理なく読影することができ、不適切なカラースケールの使用は読影を困難 にする。それは画像へ間違った辺縁や輪郭が描かれることになるからである。 (図Ⅰ-32) に、 18 F–FDGによる腹部(腫瘍)、心筋や脳 PET 画像が 3 種類のカラースケールで示されている。 異なるカラースケールがどのように画像読影の助けになるか、もし不適切なカラースケールが 使用されたならば、どのくらい画像読影が困難になるかを示している。 線形カラースケールが PET 画像の表示においてに使用される一方、非線形カラースケール による表示も有用である。それは、非減弱補正画像を見るときである (図Ⅰ-33) 。その画像で は、身体内部構造による有意な減弱のため、内部は一見すると放射能がわずかで、または放射 a b c 図Ⅰ- 32. 18 F–FDG PET/CT 画像の異なるスケールによる表示 腹部 PET 横断像(左よりグレイスケール、レインボウカラースケール、ステップ状レインボウカラー スケール)(a)、心筋PET垂直長軸断面像(b)、脳PET横断像(c)。 18 F-FDGPET 基礎読本 13.治療による影響 13.1 外科的介入(処置) ほとんどどんな外科的介入もその部位で 18 F–FDGが集積する原因となり得る (図Ⅴ-73、図 Ⅴ-74、図Ⅴ-75) 18 F–FDG集積は時間とともに減少するが、最大 3 カ月もしくはそれ以上 集積が続くことがある。このため残存がんや感染と間違えられる可能性がある。 18 F–FDG積はドレナージ管やカテーテルが最近留置された部位に見られる。例えば胸腔ドレナージの ために挿入された胸壁部位で 18 F–FDG集積が認められる (図Ⅴ-75) 18 F–FDG集積は縦隔鏡 検査で内視鏡が最近挿入された胸骨切痕上部に認められる (図Ⅴ-76) 。また腹腔鏡検査の場合 はその後臍周囲に見られる。気管切開と胃瘻造設部位周囲に 18 F–FDG集積がしばしば認めら れる。それは気管切開と胃瘻造設の開口部から導管に沿った 18 F–FDG集積の拡がりが見られ る。胸部食道内に留置されたステント(食道ステント) (図Ⅴ-77) や主要な動脈内に置かれ たステント(動脈ステント)の周囲に 18 F–FDG集積が認められることは珍しくない。軽度の 集積は動脈グラフトの周囲に見られることがある。しかしながらこれは必ずしもグ ラフト周囲の感染を意味するものではない。同様に軽度の 18 F–FDG集積が人工股関節周囲に b c 図Ⅴ- 73.開腹術後での 18 F–FDG 集積  18 F–FDG PET/CT 検査 CT横断像(a)、PET横断像(b)、PET/CT横断像(c)。前腹壁に強い 18 FFDG 集積が見られた(白 抜き矢印)(a、b、c)。開腹術部であった。 図Ⅴ- 74.術後部位への 18 F–FDG 集積  18 F–FDG PET 検査 PET 冠状断層像。頸部右側面に 18 FFDG 集積(矢印)が見られる。右頸部リンパ節廓清術部であっ Ⅴ. 18 F–FDG画像所見の基本的な考え方 353 a b c 図Ⅴ- 75.術後ドレインに沿った 18 F–FDG 集積  18 F–FDG PET/CT 検査 CT冠状MPR像(a)、PET冠状断層像(b)、PET/CT冠状断層像(c)。 18 FFDG 集積が右胸壁に見 られる(楕円で囲まれた領域)(a、b、c)。僧帽弁術後に留置された胸腔ドレインに沿った 18 FFDG 集積が見られる。また、左心房拡張と心房壁への 18 FFDG集積が認められる(矢印)(b、c)。 a b c 図Ⅴ- 76.縦隔鏡検査後での 18 F–FDG 集積  18 F–FDG PET/CT 検査 CT矢状MPR像(a)、PET矢状断層像(b)、PET/CT矢状断層像(c)。縦隔鏡検査1週間後のPET/ CT 検査で 18 FFDG集積が胸骨切痕上に認められた(矢印)(a、b、c)。 18 F-FDGPET 基礎読本 324 4.筋・骨格系(Musculo-Skeletal System) 4.1 褐色脂肪(Brown Fat) 褐色脂肪による 18 F–FDG集積は頸部で最も一般的に認められる (図Ⅴ-25、図Ⅴ-26、図Ⅴ -27、図Ⅴ-28) 。それは胸部、上腹部および脊椎の周囲でも対称性に見られる。しかしなが ら、腎臓のレベルより下ではほとんど見られない。 リンパ節と褐色脂肪へ 18 F–FDG集積を区別することは重要である。 この鑑別のポイントは: 1)褐色脂肪への 18 FFDG 集積は通常左右対称性である。 2) 18 FFDG 集積は PET/CT 検査時の CT 画像上でみられる脂肪組織と一致している。 3) 18 FFDG PET/CT 画像で認められるほかの場所にある褐色脂肪にも 18 FFDG 集積がみら れる。 褐色脂肪の 18 F–FDG集積は患者が寒さを覚えることによる。患者が 18 F–FDG投与と撮像の 間、暖かい温度で管理された待機室などでゆったり過ごすことで褐色脂肪の集積が少なくなる。 a b c 図Ⅴ- 25a.褐色脂肪への 18 F–FDG 集積  18 F–FDG PET/CT 検査 CT冠状MPR像(a)、PET冠状断層像(b)、 PET/CT冠状断層像(c)。鎖骨上窩(矢印)に 18 FFDG の左右対称性の集積が認められる(b、c)。CT画像にて低吸収域で褐色脂肪組織であることがわ かる(a)。 18 FFDG の軽度の集積(曲矢印)が下行大動脈壁に見られ、アテローマであった(a、b、 c)。左腎上極の外側に 18 FFDG 集積(白抜き矢印)が認められ、それは CT 画像より脂肪への集積で あった(c)。 Ⅴ. 18 F–FDG画像所見の基本的な考え方 325 a b c 図Ⅴ- 25b.腫大リンパ節への 18 F–FDG 集積 18 F–FDG PET/CT 検査 CT 冠状 MPR 像(a)、PET 冠状断層像(b)、PET/CT 冠状断層像(c)。頸部から鎖骨上窩へ 18 FFDG 集積(矢印)を認める(a、b、c)。また頸部、腋窩、胸部にも 18 FFDG 集積が見られる(b、 c)。 それらは腫大したリンパ節と一致している。 a b c d 図Ⅴ- 26.褐色脂肪への 18 F–FDG 集積 18 F–FDG PET/CT 検査 18 FFDG PET MIP画像(a)、 CT冠状MPR像(b)、PET冠状断層像(c)、PET/CT冠状断層像 (d)。 18 FFDG の集積が鎖骨上窩の褐色脂肪(CT 画像で見られる脂肪に一致)に見られる(b、c、 d)。胸部の椎体両側にある褐色脂肪に一致して 18 FFDG集積が認められた(b、c、d)。

F-FDG PET基礎読本

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Page 1: F-FDG PET基礎読本

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● A5 判 608 頁 ● 定価(本体 8,500 円+税)● ISBN978-4-86003-495-5 ● 2017 年 11 月刊行

18F-FDG PET 基礎読本

〈主要目次〉Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎Ⅱ.サイクロトロンと放射性医薬品製造  の基礎Ⅲ.PET 臨床とがん

Ⅳ.PET 検査マネージメントⅤ.18F-FDG 画像所見の基本的な考え方Ⅵ.PET 検査の放射線安全Ⅶ.CT(Computed Tomography)Ⅷ.PET 装置の最新の展開

18F-FDG PET 画像の所見を適切に理解するには、人体解剖や疾患の知識が必要ですが、その検出原理、画像再構成、放射性医薬品、サイクロトロン、適切な画像を得るための PET 検査マネージメントを熟知しておくことが欠かせません。また、CT を利用した体内 18F-FDG の減弱補正や解剖学的位置情報を補完する低線量CT 画像が利用できる PET/CT のために CT の概略を理解しておくことも欠かせません。核医学専門職のための教材作成に係る IAEA Technical Contract No.16236 を基に、国際原子力機関(IAEA)の PET 技術標準化やトレーニングコースなどの経験から、PET 検査を包括的に理解し、18F-FDG PET 画像を適切に読影したいと考えている読者に対して 18F-FDG PET についてワンストップショップ的で基礎的な説明を本書で試みています。

(著者序文より)

著:渡邉 直行 元国際原子力機関 原子力科学応用局ヒューマンヘルス部核医学課高等医官国際原子力機関 原子力科学応用局ヒューマンヘルス部コンサルタント

18F-FDG PET 基礎読本

70

呼吸運動は、(図Ⅰ-59)に見られるように、肝臓の上部にバナナ様アーチファクトを引き起こす。これは減弱補正と肝臓のドーム、肺の基底部や横隔膜における病変の定量性に問題を引き起こす。しかしながら、そのような病変は稀であり、このアーチファクトの臨床的な意義は少ない。一般的にアーチファクトの重大性は、PET/CTシステムの CT装置の特性による。スライス数の少ない古いタイプのCT装置がこうしたアーチファクトを生じさせやすい。心臓の不随意運動による誤登録は、より大きな問題である。心筋 PET画像所見は相対的な放射性医薬品の集積を評価するのが普通だからである。(図Ⅰ-60)に、PETと CTデータの誤登録を示す PET/CT 画像がある。(図Ⅰ-60b)におけるスプラッシュ画面には、1人の患

PET CT

検査ベッド

ba

患者 患者

PET CT

検査ベッド

a b

図Ⅰ- 58.検査ベッドに係るエラー(a)ガントリ内の移動の不十分な調整がある場合、CT部分で頭部の上部をスキャン(データ収集)するが、PET部分では目の位置のレベルがスキャンされることになる。また、(b)不適切に設置された検査ベッドでたるみが生じる。これによりCTと PET部分で頭部のスキャン位置にずれが生じる。

図Ⅰ- 59.呼吸運動が原因となるバナナ様アーチファクトPET と減弱補正に使用されるCTにおける肝臓のドームと肺の位置の登録ミスマッチによりアーチファクトが生じる。

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Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎

71

者の対の画像が示されている。その対で上段は誤登録に対し補正された画像、下段は(図Ⅰ-60a)の誤登録から生じた画像である。誤登録から生じた画像(各下段)では、心臓側壁の基底部における取り込みの減少が明確に見える。

a

短軸断像

垂直長軸断面像

水平長軸断面像

誤登録

誤登録

誤登録

誤登録

誤登録修正

誤登録修正

誤登録修正

誤登録修正

b a b

図Ⅰ- 60.心筋 18F–FDGPET/CT 検査(誤登録アーチファクト)(a)減弱補正用のCTデータとPETデータの誤登録によりPET画像は左側へ、肺内への誤登録が見られる。(b)各上段はPETと CTの適切な登録画像で、各下段は(a)に基づいた誤登録画像。その誤登録画像で側壁の基底部にアーチファクト(集積低下や欠損)が見られる。

(2)切り詰めアーチファクト(Truncation Artefact)多くの PET/CT システムにおいて、PET の体軸方向の有効視野(FOV)は 70 cm である

が、機械的および幾何学的制限のため、CT のFOV は 50 cm と小さくなる。大抵、これは問題とはならない。しかしながら、大きな体格の患者をスキャン(データ収集)する場合、または患者が腕を体側に沿って置く場合、対象は FOV の外へ拡がる(図Ⅰ-61)。しかし、CT の FOV は拡がらないので、PET データの減弱補正を正確に行うことができない。この問題に製造業者が対処するひとつの方法は、データの切断(Truncation)が少ないと思われる多くの側面投影を利用してデータを再構成することである。これらの画像は質的に診断用ではないが、これらの領域における減弱に係る適切な推測を与えることができる。

ガントリボア(Gantry Bore) PET FOV

CT FOV

患者

図Ⅰ- 61.切り詰めアーチファクトPET/CT装置でCTの FOVが PETの FOVより小さいことが多い。これが不適切な減弱補正となりアーチファクトが生じることがある。

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18F-FDG PET 基礎読本

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によりカラースケールに割り当てられる画素値の上限値(UL)、下限値(LL)(カットオフレベル)を設定し画像が表示され、そのコントラストを変化させることができる。

一貫性のある画像解釈のために、最大放射能レベルの代わりに、10 Standardized Uptake Value(SUV)に最大表示色を設定することがしばしば有用である。最大放射能レベル表示の時、脳や心臓を含む画像は明るいグレイレベルで表示される腫瘍は見逃されやすい。最大放射能レベルで表示される画像と 10 SUV(SUV of 10)に最大表示色を設定する画像の読影に関する影響は(図Ⅰ-31)に見られる。

a b c a b c

図Ⅰ- 31.画像表示18F–FDG 全身 PET/CT 検査 CT 冠状 MPR 像(a)、PET 冠状断層像最大放射能レベル表示(b)、PET 冠状断層像 10 SUV 表示(c)。(c)で肝臓に限局性の 18F–FDG 集積がより明白に認められる

(矢印)。

ほとんどの画像がグレイスケールで表示される。しかし、他のカラースケールも使用される。線形グレイスケール表示は各放射能レベルに対し同じ重み付けの印象を画像観察者に与

赤色

強度

(0 ~

255)

緑色

強度

(0 ~

255)

青色

強度

(0 ~

255)

放射能濃度(0 ~ 255) 放射能濃度(0 ~ 255) 放射能濃度(0 ~ 255)

0 100 200 300 0 100 200 300 0 100 200 3000

50100150200250300

050

100150200250300

050

100150200250300

図Ⅰ- 30.RGBの線形寄与を利用したグレイスケール放射能濃度が低い場合、明るい赤(R)、緑(G)と青色(B)の、一方放射能濃度が高い場合、暗い赤(R)、緑(G)と青色(B)の線形寄与から、白からグレイを介して黒までの強度を示す線形グレイスケールで表される。

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Ⅰ.PET 原理と画像化の基礎

41

えやすい。多数のレベルが使われると画像解釈は難しくなる。心筋 PET画像では、青 /赤 /橙 / 黄(クール)カラースケールが、最大放射能レベルから軽度および中等度の減少についてより適切に表示されるようデザインされている。脳 PET画像では、グレイスケールでないカラースケールがよく使用されている。18F–FDGを使用するアルツハイマー病のイメージングで、10 段階の Step 状カラースケールでの表示が有用であろう。適切なカラースケールを使用することにより無理なく読影することができ、不適切なカラースケールの使用は読影を困難にする。それは画像へ間違った辺縁や輪郭が描かれることになるからである。(図Ⅰ-32)に、18F–FDGによる腹部(腫瘍)、心筋や脳 PET画像が 3種類のカラースケールで示されている。異なるカラースケールがどのように画像読影の助けになるか、もし不適切なカラースケールが使用されたならば、どのくらい画像読影が困難になるかを示している。線形カラースケールが PET画像の表示においてに使用される一方、非線形カラースケールによる表示も有用である。それは、非減弱補正画像を見るときである(図Ⅰ-33)。その画像では、身体内部構造による有意な減弱のため、内部は一見すると放射能がわずかで、または放射

a

b

c

図Ⅰ- 32.18F–FDGPET/CT 画像の異なるスケールによる表示腹部PET横断像(左よりグレイスケール、レインボウカラースケール、ステップ状レインボウカラースケール)(a)、心筋PET垂直長軸断面像(b)、脳PET横断像(c)。

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18F-FDG�PET 基礎読本

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13.治療による影響

13.1 外科的介入(処置)ほとんどどんな外科的介入もその部位で 18F–FDGが集積する原因となり得る(図Ⅴ-73、図

Ⅴ-74、図Ⅴ-75)。18F–FDG集積は時間とともに減少するが、最大 3カ月もしくはそれ以上集積が続くことがある。このため残存がんや感染と間違えられる可能性がある。18F–FDG集積はドレナージ管やカテーテルが最近留置された部位に見られる。例えば胸腔ドレナージのために挿入された胸壁部位で 18F–FDG集積が認められる(図Ⅴ-75)。18F–FDG集積は縦隔鏡検査で内視鏡が最近挿入された胸骨切痕上部に認められる(図Ⅴ-76)。また腹腔鏡検査の場合はその後臍周囲に見られる。気管切開と胃瘻造設部位周囲に 18F–FDG集積がしばしば認められる。それは気管切開と胃瘻造設の開口部から導管に沿った 18F–FDG集積の拡がりが見られる。胸部食道内に留置されたステント(食道ステント)(図Ⅴ-77)や主要な動脈内に置かれたステント(動脈ステント)の周囲に 18F–FDG集積が認められることは珍しくない。軽度の18F–FDG集積は動脈グラフトの周囲に見られることがある。しかしながらこれは必ずしもグラフト周囲の感染を意味するものではない。同様に軽度の 18F–FDG集積が人工股関節周囲に

a b c

図Ⅴ- 73.開腹術後での 18F–FDG集積 18F–FDGPET/CT 検査CT横断像(a)、PET横断像(b)、PET/CT横断像(c)。前腹壁に強い 18F–FDG集積が見られた(白抜き矢印)(a、b、c)。開腹術部であった。

図Ⅴ- 74.術後部位への 18F–FDG集積 18F–FDGPET 検査PET冠状断層像。頸部右側面に 18F–FDG集積(矢印)が見られる。右頸部リンパ節廓清術部であった。

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Ⅴ.18F–FDG�画像所見の基本的な考え方

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a b c

図Ⅴ- 75.術後ドレインに沿った 18F–FDG集積 18F–FDGPET/CT 検査CT冠状MPR像(a)、PET冠状断層像(b)、PET/CT冠状断層像(c)。18F–FDG集積が右胸壁に見られる(楕円で囲まれた領域)(a、b、c)。僧帽弁術後に留置された胸腔ドレインに沿った 18F–FDG集積が見られる。また、左心房拡張と心房壁への 18F–FDG集積が認められる(矢印)(b、c)。

a b c

図Ⅴ- 76.縦隔鏡検査後での 18F–FDG集積 18F–FDGPET/CT 検査CT矢状MPR像(a)、PET矢状断層像(b)、PET/CT矢状断層像(c)。縦隔鏡検査1週間後のPET/CT検査で 18F–FDG集積が胸骨切痕上に認められた(矢印)(a、b、c)。

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18F-FDG�PET 基礎読本

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4.筋・骨格系(Musculo-Skeletal System)

4.1 褐色脂肪(Brown Fat)褐色脂肪による 18F–FDG集積は頸部で最も一般的に認められる(図Ⅴ-25、図Ⅴ-26、図Ⅴ

-27、図Ⅴ-28)。それは胸部、上腹部および脊椎の周囲でも対称性に見られる。しかしながら、腎臓のレベルより下ではほとんど見られない。

リンパ節と褐色脂肪へ 18F–FDG集積を区別することは重要である。 この鑑別のポイントは:1)褐色脂肪への 18F–FDG 集積は通常左右対称性である。2)18F–FDG 集積は PET/CT 検査時の CT 画像上でみられる脂肪組織と一致している。3 )18F–FDG PET/CT 画像で認められるほかの場所にある褐色脂肪にも 18F–FDG 集積がみら

れる。

褐色脂肪の 18F–FDG集積は患者が寒さを覚えることによる。患者が 18F–FDG投与と撮像の間、暖かい温度で管理された待機室などでゆったり過ごすことで褐色脂肪の集積が少なくなる。

a b c

図Ⅴ- 25a.褐色脂肪への 18F–FDG集積 18F–FDGPET/CT 検査CT 冠状 MPR 像(a)、PET 冠状断層像(b)、 PET/CT 冠状断層像(c)。鎖骨上窩(矢印)に 18F–FDG の左右対称性の集積が認められる(b、c)。CT 画像にて低吸収域で褐色脂肪組織であることがわかる(a)。 18F–FDG の軽度の集積(曲矢印)が下行大動脈壁に見られ、アテローマであった(a、b、c)。左腎上極の外側に 18F–FDG 集積(白抜き矢印)が認められ、それは CT 画像より脂肪への集積であった(c)。

ブック 1.indb 324 2017/10/22 16:24:27

Ⅴ.18F–FDG�画像所見の基本的な考え方

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a b c

図Ⅴ- 25b.腫大リンパ節への 18F–FDG集積18F–FDGPET/CT 検査CT 冠状 MPR 像(a)、PET 冠状断層像(b)、PET/CT 冠状断層像(c)。頸部から鎖骨上窩へ 18F–FDG 集積(矢印)を認める(a、b、c)。また頸部、腋窩、胸部にも 18F–FDG 集積が見られる(b、c)。 それらは腫大したリンパ節と一致している。

a b c d

図Ⅴ- 26.褐色脂肪への 18F–FDG集積18F–FDGPET/CT 検査18F–FDG PET MIP 画像(a)、 CT 冠状 MPR 像(b)、PET 冠状断層像(c)、PET/CT 冠状断層像

(d)。18F–FDG の集積が鎖骨上窩の褐色脂肪(CT 画像で見られる脂肪に一致)に見られる(b、c、d)。胸部の椎体両側にある褐色脂肪に一致して 18F–FDG 集積が認められた(b、c、d)。

ブック 1.indb 325 2017/10/22 16:24:27