18
茨城県霞ケ浦環境科学センター 湖沼環境研究室 技師 神谷 航一 霞ヶ浦の底泥を用いた 嫌気-好気溶出実験中 のリンの挙動について 1

霞ヶ浦の底泥を用いた 嫌気 好気溶出実験中 のリンの挙動に …-霞ヶ浦におけるリンの溶出過程- Fig. 2 H23年度北浦釜谷沖(底泥直上50

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Page 1: 霞ヶ浦の底泥を用いた 嫌気 好気溶出実験中 のリンの挙動に …-霞ヶ浦におけるリンの溶出過程- Fig. 2 H23年度北浦釜谷沖(底泥直上50

茨城県霞ケ浦環境科学センター

湖沼環境研究室

技師 神谷 航一

霞ヶ浦の底泥を用いた嫌気-好気溶出実験中のリンの挙動について

1

Page 2: 霞ヶ浦の底泥を用いた 嫌気 好気溶出実験中 のリンの挙動に …-霞ヶ浦におけるリンの溶出過程- Fig. 2 H23年度北浦釜谷沖(底泥直上50

1. はじめに -湖沼のリンの重要性-

2

過剰な

リン

悪臭 利水障害 生態系の

破壊

・生活排水 ・工場排水 ・農業排水 など

有機物

(植物プランクトン)

の大量増殖

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-霞ヶ浦のリン濃度推移-

Fig. 1 霞ヶ浦(西浦)のTP,PO4-P濃度(国交省データ)

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

Apr-06 Apr-07 Apr-08 Apr-09 Apr-10

mg/L

TP

PO4-P

3

年平均全リン(TP)濃度

0.1 mg/L前後

(環境基準:0.03 mg/L)

夏季に特にPO4-P濃度が上昇する傾向

しかし,

流入河川濃度は増加していない!!

(石井ほか,2007)

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-湖沼のリンの重要性-

4

過剰な

リン

悪臭 利水障害 生態系の

破壊

・生活排水 ・工場排水 ・農業排水 など

有機物

(植物プランクトン)

の大量増殖

底泥からのリンの溶出

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-底泥からのリン溶出とは?-

5

リンの溶出 : 泥から湖水に,リンが溶け出すこと

湖水

底泥

有機物

PO4-P

1. 有機物の分解 2. 鉄と結合したリンの解離

間隙水

※泥粒子の間の隙間にある水

PO4-P

PO4-P

PO4-P

(1) 湖水中で,DO濃度が低下する(嫌気化)

(2) 底泥中で,鉄と吸着していたリンが解離して間隙水に移行

(3) 底泥中で,間隙水濃度が高くなり,濃度の低い湖水へ移行

(4) 湖水中で,リン濃度が高くなる

(1)DO濃度の低下

(2)

(3)

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-霞ヶ浦におけるリンの溶出過程-

Fig. 2 H23年度北浦釜谷沖(底泥直上50 cm)のDO濃度の推移

夏季にDO濃度が低下しやすい。

鉄と吸着していたリンが溶出しやすい

6

0

2

4

6

8

10

12

14

May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec Jan Feb Mar

DO

(m

g L

-1)

H23

霞ヶ浦では,夏季に特にPO4-P濃度が上昇する

合致

間隙水中のリン濃度が,湖水リン濃度に大きく寄与すると推測されている。

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-現地調査で得られた間隙水リン濃度の結果-

7

既存の研究結果 : 夏季に間隙水中リン濃度が高くなる(細見ほか,1987)

北浦では,湖水DO濃度の高い10月に間隙水中リン濃度が最大値を示した。

湖水リン濃度は8月に最大を示し,10月は低い濃度を示した。

Fig. 3 北浦釜谷沖(神谷, 2012)の間隙水中リン濃度

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

底泥深度

(cm)

PO4-P (mg/L)

10月

8月

○間隙水が濃度が高くなる時期

が既存研究とずれた。

○湖水リン濃度と間隙水中リン

濃度の最大値を示す時期が

ずれた。

しかし,

しかも,

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-研究の目的-

8

湖水中のDO濃度の推移によって,底泥からのリンの溶出に寄与すると考えられている間隙水中のPO4-P濃度が,

どのような条件下で高濃度になるのか?

を明らかにすることを目的とした。

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○底泥の前処理

・底泥の長さを22 cm(10層+2 cm)に調節

・底泥直上水を,現地湖水をGF/Fフィルターでろ過した水に入れ替えた

2. 方法 -底泥の採取~前処理-

西浦湖心

Fig. 5 底泥採取地点 Fig. 4 重力式コアサンプラーと採取した底泥コア

室内でDO濃度をコントロールした,底泥を用いた溶出実験

○使用底泥コア

西浦湖心 (H25.6.4)

半径200 m以内の範囲で複数本採取

9

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-溶出実験の概要-

22 cm

10

No.1

0日

No.2

3日

No.3

8日

No.4

15日

No.5

18日

No.6

23日

No.7

30日

嫌気条件 初期条件

○同じ初期条件の底泥 ○続けて嫌気条件から好気条件にする ⇒DO濃度の変化に対する間隙水の変化

⇒ 好気条件

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-直上水,間隙水の処理方法-

10,000 rpm,

20 min,5 ℃

TP,PO4-P等

GF/F

(0.7 μm)

N2 Condition

含水比等測定

2 cm

11

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0

5

10

15

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

DO

(m

g/L

)

Fig. 9 底泥からのリン溶出速度

3. 結果と考察 -間隙水リン濃度の変化-

Fig. 6 湖水DO濃度と間隙水PO4-P濃度の推移

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th (

cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th (

cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th (

cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th (

cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th (

cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th

(cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Dep

th

(cm

)

PO4-P (mg/L)

1

2

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

12

PO4-P濃度(mg/L)

嫌気条件 好気条件

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-湖水中TP濃度と間隙水中挙動-

13

0

5

10

15

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

DO

(m

g/L

)

湖水DO濃度

間隙水 PO4-P最大濃度

湖水TP濃度

嫌気条件 好気条件

0.0

0.2

0.4

0.6

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

TP

(m

g/L

)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

ma

x.

PO

4-P

in

po

re w

ate

r

(mg

/L) 最大 最小

上昇傾向 ⇒溶出

Fig. 7 上から湖水DO・リン濃度,間隙水中の平均・最大PO4-P濃度の推移

溶出が起きた条件 : 嫌気条件下(No.3,No.4) 間隙水PO4-P最大濃度 : 嫌気条件下⇒好気条件下(No.6)

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○嫌気条件下から好気条件下に移行後,最大が濃度。

○溶出時には分布が垂直

⇒ 北浦の現地調査結果を再現

※溶出時 ※好気条件下

-間隙水PO4-P濃度の推移-

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嫌気 好気

No.4 濃度

深度

No.6 No.1

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嫌気

高いPO4-P濃度を持つ分布が,嫌気⇔好気が繰り返されると?

Fig. 8 西浦現地の間隙水の挙動

-従来の現地観測結果との整合性-

従来観測されていた夏季の高い間隙水リン濃度は,嫌気⇔好気の繰り返しによるものと考えられる 15

No.6

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.0 1.0 2.0 3.0

Dep

th (

cm)

PO4-P (mg/L)

7/31(6.5)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.0 1.0 2.0 3.0

Dep

th (

cm)

PO4-P (mg/L)

7/31(6.5)

8/8(1.7)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.0 1.0 2.0 3.0

Dep

th (

cm)

PO4-P (mg/L)

7/31(6.5)

8/8(1.7)

8/16(5.7)

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4. 結論

● 溶出実験により,湖水DO濃度に対する間隙水PO4-P濃度の

挙動を調査したところ,嫌気条件から好気条件に移行した後 にPO4-P濃度が最大となることが確認された。一方,溶出時 には分布が垂直になっていたことが確認された。 ● 現地調査で夏季に高い間隙水中リン濃度が確認されていた 理由については,嫌気⇔好気の繰り返しによるものと推測さ れる。

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高いPO4-P濃度は,浅い底泥層(深度10 cm程度内)で現れることが多い(例: 諏訪湖,カナダの湖沼,イギリスの運河など)

17

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

底泥深度

(cm

PO4-P (mg/L)

5. 今後の課題

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 10 20

深度

(cm

)

NH4-N濃度(mg/L)

8月

10月

6-8 cm

4-6 cm

しかし,

アンモニア態窒素

Fig. 9 北浦間隙水(左)と本実験(右)のPO4-P分布 Fig. 13 北浦間隙水NH4-N分布

● 底泥からのリンの溶出に大きく寄与する深度

● 間隙水中のPO4-P濃度が湖水濃度に及ぼす影響

を把握し,底泥からのリンの溶出抑制対策に役立てる。

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6. 水質改善対策への展望 次の3つのステップにより,研究を水質改善対策に生かす 1. 底泥からのリンの溶出メカニズムの解明 メカニズムの解明により,底泥からのリンの溶出を 抑える効果的な手法を検討することができる。 2. 水質予測モデルの構築 水質予測モデルを構築することで, (1)様々な対策の具体的な効果 (2)適切な対策の実施範囲 の検討ができる。 3. 水質予測モデルを活用した効果的な対策の選定・実施 水質予測モデルを活用し,各対策の費用対効果を把 握することで,より効果的な対策を選定・実施する。

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