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障害児の母親に対する支援 Support for the Mother of Children with the Disability 須田真侑子・坂田周一 Mayuko Suda Shuichi Sakata <Abstract> This study is aimed at to clarify the needed support for the mothers of children with the disability. A questionnaire survey was conducted to the mothers of children who were the pupil of the special education schools in Saitama, Japan. The measurement of burden was constitute of seven items which asked to the mothers how they feel the care-giving to their children. From the comparison of mean scores of the burden inventory by occupational sub- groups of the mother, it was revealed that the regularly employed mothers felt lesser burden than the others. And the factors affected the burden were mainly related with the self-con- ception of the mothers. It was suggested from these result that the important and needed support for the mothers has to be related to temporal revelation from care-giving and extending the involvement to the community they belong. 本研究は、障害児の母親への支援として有効な方法と、今後充実させるべきサポートについ て検討することを目的として、障害児(養護学校に通っている子)の母親 157 名について質問 紙調査により負担感を測定したうえで、負担感と関連すると考えられる項目との相関関係につ いて分析を行い、課題についての示唆を得るために行ったものである。 障害児の母親の負担感を測定していると考えられる 7 つの質問項目によって負担感スケール を構成し,質問紙への回答から負担感得点を計算した。サブグループ別に平均値の比較を行った 結果、常勤的職業をもつグループの方がもたないグループよりも負担感得点が低いという結果 を得た。また、偏相関分析の結果、「子どもに障害があることを、人に話すのは抵抗がある。」 「子どものことで、自分が非難されていると思うことがある。」をはじめとする9項目が負担感 と関連していることが明らかになった。 この結果から、障害児の母親の負担感に影響を与えるのは子どもの障害の状況・状態だけで はないこと、そして母親の負担を軽減するためには子どもの世話から母親が一時的に解放され ることが必要になることが示唆された。そして母親の社会参加の機会を作り、母親が肯定的な 自己概念をもち、地域社会の一員であることを確認できることが必要である。 立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 8 号(2006) 101

障害児の母親に対する支援障害児の母親に対する支援 Support for the Mother of Children with the Disability 須田真侑子・坂田周一 Mayuko Suda Shuichi Sakata

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Page 1: 障害児の母親に対する支援障害児の母親に対する支援 Support for the Mother of Children with the Disability 須田真侑子・坂田周一 Mayuko Suda Shuichi Sakata

障害児の母親に対する支援Support for the Mother of Children with the Disability

須田真侑子 ・ 坂 田 周 一Mayuko Suda Shuichi Sakata

<Abstract>

This study is aimed at to clarify the needed support for the mothers of children with the

disability. A questionnaire survey was conducted to the mothers of children who were the

pupil of the special education schools in Saitama, Japan. The measurement of burden was

constitute of seven items which asked to the mothers how they feel the care-giving to their

children. From the comparison of mean scores of the burden inventory by occupational sub-

groups of the mother, it was revealed that the regularly employed mothers felt lesser burden

than the others. And the factors affected the burden were mainly related with the self-con-

ception of the mothers. It was suggested from these result that the important and needed

support for the mothers has to be related to temporal revelation from care-giving and

extending the involvement to the community they belong.

本研究は、障害児の母親への支援として有効な方法と、今後充実させるべきサポートについ

て検討することを目的として、障害児(養護学校に通っている子)の母親157名について質問

紙調査により負担感を測定したうえで、負担感と関連すると考えられる項目との相関関係につ

いて分析を行い、課題についての示唆を得るために行ったものである。

障害児の母親の負担感を測定していると考えられる7つの質問項目によって負担感スケール

を構成し,質問紙への回答から負担感得点を計算した。サブグループ別に平均値の比較を行った

結果、常勤的職業をもつグループの方がもたないグループよりも負担感得点が低いという結果

を得た。また、偏相関分析の結果、「子どもに障害があることを、人に話すのは抵抗がある。」

「子どものことで、自分が非難されていると思うことがある。」をはじめとする9項目が負担感

と関連していることが明らかになった。

この結果から、障害児の母親の負担感に影響を与えるのは子どもの障害の状況・状態だけで

はないこと、そして母親の負担を軽減するためには子どもの世話から母親が一時的に解放され

ることが必要になることが示唆された。そして母親の社会参加の機会を作り、母親が肯定的な

自己概念をもち、地域社会の一員であることを確認できることが必要である。

立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 8 号(2006) 101

Page 2: 障害児の母親に対する支援障害児の母親に対する支援 Support for the Mother of Children with the Disability 須田真侑子・坂田周一 Mayuko Suda Shuichi Sakata

Ⅰ 本研究の目的と先行研究の状況

1993年に心身障害者対策基本法が障害者基本法に改正された際、新たに障害者基本計画等

の施策が追加されて以降、障害者に対する制度や政策は急速に変化してきている。また2003年

度には支援費制度がスタートし、障害をもつ人へのサポートは今後ますます増加・多様化して

いくものと思われる。現行の公的なサポートは、対象となる障害者の障害の程度によってその

内容が異なっている。多くは障害の程度が重度であるほど、受けられるサポート量が増える仕

組みである。しかし障害をもつ子どもにとって必要なサポートやサービスは、障害児だけに注

目していては判断できないのではないだろうか。障害をもつ子どものニーズは、その子の世話

をする家族の状況に大きく影響されると考えられる。

家族の中で子どもと最もかかわる時間が長いのは母親である場合が多い。子ども本人のみで

はなくその母親をサポートすることも、障害児サポートにつながるはずである。本研究の目的

は、障害児をもつ母親の主観的負担感と、それに影響を及ぼす諸要因を探りだすことである。

そして母親への支援としてはどのようなものが有効なのかを検討し、今後充実させていくべき

サポートについて考察する。

子育てをする上でストレスや負担を感じるのは、子どもの障害の有無によるものなのだろう

か。稲浪、小椋、Rodgers、西〔1994〕は、55項目11尺度からなるQuestionnaire on Resource

and Stress(QRS)簡易型を作成し、障害児を育てる親のストレスを測定した。そして、障害

のない子の親との比較を行っている。障害のない子の親との比較の結果、11尺度のすべてにお

いて障害のない子の親に比べて、障害のある子の親のストレスがより高いとの結果を得ている。

中谷・東條〔1989〕は「介護負担感スケール」として、痴呆性老人を介護する家族の主観的

負担感を測定する12項目、4段階評定による尺度を開発した。彼らは負担を「心理的圧迫と社

会・経済的困難」と定義し、これに基づいて客観的負担を「第3者によって測定可能な負担」、

主観的負担は「客観的な負担状況に対する介護者の主観的な解釈」であると位置づけた。この

研究では主観的負担感を測定できるスケールの開発を目指しての試みと同時に、測定された主

観的負担に影響を及ぼしている客観的負担はどのようなものかを探ろうとしている。

中谷・東條〔1989〕は主観的負担である負担感として現れてくる側面として、「不安として

の負担感」、「疲労としての負担感」、「人間関係の悪化からくる負担感」、「社会活動の制約から

くる負担感」、「介護からの解放欲求」、「介護意志の欠如」といったものを挙げ、介護者に直接

質問することによって負担感の測定を行っている。そして次の段階で、負担感に規定力をもつ

要因を探るために、得られた合成得点(因子得点)を従属変数にして分析している。説明変数

とした変数は、「痴呆老人の身体状況」、「主介護者の健康状態」、「主介護者の就業状況」、「他

の要介護者の有無」、「副介護者の有無」、「経済状況」の6つである。

スケールの主成分分析の結果から、主介護者の健康に支障があるほうが負担感が高く、主介

護者が常勤的職業についていないほうが負担感が高く、また副介護人がいないほうが負担感が

障害児の母親に対する支援102

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高いという結果であった。常勤的職業についていないほうが負担感が高いという結果について

は、常勤的職業に就くことが、介護場面からの一時的な解放を意味していると捉えている。つ

まり主介護者を介護場面に縛りつけるよりも、ある程度介護から解放および社会と接する機会

を提供することにより、負担感を軽減できるということが示唆されたと考えるべきであろうと

いうことである。

老人の介護と障害のある子どもの世話は、介助・見守りを必要とするという点が共通してい

る。そこで本研究では中谷・東條〔1989〕の研究を、障害をもつ子の母親の負担感とその要因

を探る手がかりとした。

Ⅱ 方法

Ⅱ-1 調査方法

調査方法:質問紙法(養護学校を通して母親に配布し、郵送法によって回収。)

研究対象母集団:養護学校に通っている子の母親

サンプル:埼玉県内の養護学校3校に通っている子の母親

実施期間:2004年7月15日~2004年9月30日

有効回収率:有効回収率35.0%(157/449)

Ⅱ-2 分析の視点と方法

本研究では、障害をもつ子の母親に研究対象を限定した。中谷・東條〔1989〕の研究を参考

にし、主観的負担は「客観的な負担状況に対する介護者の主観的な解釈」であると定義する。

主観的負担感については中谷・東條〔1989〕の「介護負担感スケール」に修正を加え、障害児

をもつ母親の負担感スケールを作成して測定した。そして負担感に影響を与えると思われる事

柄、「子の障害の程度」「回答者の年齢」「障害児の兄弟の有無」「母親の就業状況」「母親の環

境に対する認知」についての質問を負担感スケールとともに質問紙に記載した。

本研究では第3者によって測定可能な客観的負担のみが負担感に影響を与えるのではなく、

その人の自己概念や疎外感、あるいは好奇の目で見られることへの不快感等も自身の負担感に

影響することもありうると仮定した。そこで、母親による環境のとらえ方についての質問項目

も記載した。

質問紙に記載した12項目の負担感に関する質問への回答について因子分析を施した。その

結果、因子負荷の高い7つの項目を障害児の母親の負担感尺度を構成するものとして選定した。

各質問項目は「少し当てはまる」を1点、「当てはまる」を3点、「とても当てはまる」を5点と

し、「少し当てはまる」と「当てはまる」との間を2点、「当てはまる」と「とても当てはまる」

との間を4点として集計をした。この主観的負担と、負担感の要因と考えられる事柄や質問項

目との関連について統計的に検討した。

立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 8 号(2006) 103

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Ⅲ 結果

負担感尺度それぞれに対する回答の結果は表1の通りである。これら7項目の負担感尺度を

合計したものを、負担感得点とした。負担感得点の分布は図1に示すとおりである。負担感得

点の平均値は18.5点であるが、図1のヒストグラムからは負担感得点の高いグループと低いグ

ループとに分かれていく2峰型の傾向が見られる。

障害児の母親に対する支援104

表1 負担感尺度項目に対する回答

1. 子どもの世話は、重荷だと感じる

2. 子どもの世話のために、趣味・学

習・その他の社会的活動などに使

える時間がもてなくて困る

3. 子どもの世話で、精神的にとても

疲れてしまう

4. 子どもの世話のために、家事やそ

の他の事に手が回らなくて困る

5. 今後、子どもの世話が私の手にお

えなくなるのではないかと心配に

なる

6. 子どもの世話をしていると、自分

の健康のことが心配になる

7. 子どもの世話のために、経済的な

負担が大きい

18 11.3% 12 7.5% 33 20.8% 35 22.0% 55 34.6% 2.3

16 10.1% 18 11.3% 25 15.7% 41 25.8% 53 33.3% 2.3

22 13.8% 17 10.7% 29 18.2% 34 21.4% 51 32.1% 2.4

16 10.1% 10 6.3% 38 23.9% 35 22.0% 56 35.2% 2.3

56 35.2% 22 13.8% 32 20.1% 24 15.1% 23 14.5% 3.4

55 34.6% 24 15.1% 37 23.3% 15 9.4% 27 17.0% 3.4

23 14.5% 11 6.9% 36 22.6% 27 17.0% 55 34.6% 2.4

とても当てはまる

5 4当てはまる

3 2少し

当てはまる

1

平均値

図 1 負担感得点の度数分布

30

20

10

04.16.3

12.915.117.319.521.723.926.1 30.5

32.734.98.5

10.7 28.3

標準偏差=7.24 平均=18.5 有効数=157

度数

(無回答を除く)

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有効票をフェースシートの回答から「常勤的職業をもつグループ」と「常勤的職業をもたな

いグループ」の2グループに分け、各グループの負担感得点の平均値を比較した。比較の結果

は図2に示す箱ひげ図の通りである。「常勤的職業をもつグループ」の平均値は16.1、「常勤的

職業をもたないグループ」の平均値は19.1となっている。差は統計的に有意であり、常勤的職

業をもつグループの方が負担感得点が低いという結果である。

負担感得点と有意な相関関係があると認められた質問項目を表2に示した。これらの項目は、

母親による環境のとらえ方について尋ねている。ここには母親の「自己概念」についての項目

も含まれている。自己概念とは、自分自身を客体化したときに、自分自身に関して抱いている

考えのことをさす。自己概念が否定的なものであるほど、負担感は高くなる傾向があることが

わかる。

立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 8 号(2006) 105

表2 負担感得点との偏相関

1.子どもに障害があることを、人に話すのは抵抗がある

2.子どもと外出していると、他人の視線が気になる

3.子どものことで、自分が非難されていると思うことがある

4.家族以外の人に子どもの世話を頼むのは不安だ

5.子どもは将来、親の手を離れても生活できるようになると思う

6.放課後、子どもを預けることができたらよい

7.多少具合が悪くても、子どもの世話は自分がする

8.養護学校のような、似た状況の子だけが集まっている中で育てたいと思う

9.誰にも相談せず、自分1人で解決しようとする

0.23 P<.004

0.51 P<.001

0.44 P<.001

0.22 P<.006

-0.24 P<.003

0.30 P<.001

0.33 P<.001

0.37 P<.001

0.28 P<.001

負担感得点

相関係数 有意確率

制御変数=身体障害者手帳・養育手帳の等級

図 2 負担感得点の箱ひげ図

p<0.05

40

30

20

10

035 121有効数= 有 無

負担感得点

常勤的職業の有無

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相関関係があると言うことはできても、他の要因が中継ぎをすることで、擬似的な相関があ

る場合も考えられる。また、「常勤的職業の有無」では、常勤的職業がないと答える人の方が

負担感得点が高くなっているが、子の障害の程度が低いから働くことができ、負担感も低いの

ではないかと考えることもできる。こういった疑問から、負担感得点と相関関係が認められた

項目との偏相関分析を行った。その結果は以下の表2のとおり、すべて1パーセント水準で有

意であった。

Ⅳ 解釈と考察

Ⅳ-1 自己概念について

すでに述べたように自己概念とは、自分自身を客体化したときに、自分自身に関して抱いて

いる考えのことである。自分が自分をどのように見ているかの内容のことであり、他者との相

互作用によって明確化されるものとされる。質問項目のうち、「1. 子どもに障害があることを、

人に話すのは抵抗がある」「2. 子どもと外出していると、他人の視線が気になる」「3. 子どもの

ことで、自分が非難されていると思うことがある」といった項目は、社会や他者に対して隔た

りを感じ、障害をもつ子とその母親とが閉じこもりがちになる様子を表していると考えられる。

否定的な自己概念を持っていることを表しているともいえる。この項目と負担感得点が正の相

関関係を持っている。

そして「5. 子どもは将来、親の手を離れても生活できるようになると思う」という質問に含

意されるように、障害があっても社会の中で生きてゆくことができると感じることと負担感得

点が負の相関を持っている。自分の子どもは社会の一員として他者とかかわることができる、

と感じているかどうかが負担感と関係しているといってよいだろう。障害をもつことで、子ど

もや母親本人が社会という枠から外れてしまっていると感じていると考えられる。社会からの

隔絶感が、障害への負のイメージや否定的な自己概念を持つ要因となっていると考えられる。

母親がこういった考え方を持つかどうかに影響を与える事柄が何であるかは、本研究で述べ

ることはできない。しかし、障害をもつ子どもを育てる際のサポートでは、その子の障害の程

度や年齢にばかり注目するのではなく、育てる親の状態にも気を配るべきであることを示して

いるといえる。

Ⅳ-2 常勤的職業の有無について

常勤的職業を持っている方が負担感は低いという結果は、先行研究同様子どもの世話からの

一時的な解放が負担感の軽減につながる事を示していると考えることができる。サポートには、

経済的な支援、家庭におけるホームヘルプサービス、ショートステイ、デイサービス、補装具

や生活用具の給付などがある。もしこれらの中で、家庭内での世話をサポートするようなサー

ビスばかりを充実させるならば、親と子どもとの二者関係での時間を増やすことになる。そう

障害児の母親に対する支援106

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なれば、一般他者と接する機会は母子ともに少なくなると考えられる。一般他者と接する機会

を減少させていくならば、社会からの隔絶感を解消することはいっそう難しくなる。

Ⅳ-3 自己概念と社会参加

こどもの世話に専念することは、ある程度の社会参加の機会を失わせることになるだろう。

社会参加の意義のひとつは、多くの人々と接触し、母親という役割以外の自分を確認すること

である。そして自分は社会の一員であり、その中でどのように生活していくかを考えることで

ある。第5項目のように「子どもは将来、親の手を離れても生活できるようになると思う」よ

うになるためには、親の手から一時的にでも離し、子どもを他者の中で生活させる経験が必要

であると考えられる。そうすることで、社会の一員である自分たちを確認することができるだ

ろう。

他者との相互作用によって、自己概念は明確化されるとされていることからも、他者とのか

かわりを持つ機会は重要である。だが、職業をもつことは社会参加のひとつの形であるが、す

べての人に可能なものではない。就業以外の形で、地域の人々と関わる機会を作ることが必要

である。障害は人を区別するカテゴリーではなく、属性のひとつであると考えれば、地域の中

でさまざまな人とかかわりながら生活することが自然なあり方である。そのような生活が難し

いために、孤立感や負担を感じるようになるのである。

Ⅳ-4 サポートについて

負担感得点と相関のある項目のもつ特徴から、母親が子どもの世話から一時解放されうるよ

うなサポートが有効であると示唆された。子どもの世話を安心して委託することができ、かつ

さまざまな人とかかわる機会を作ることのできる方策が望ましい。さまざまな人とは障害のあ

る子とその親だけではなく、障害をもたない子どもやその親も含まれなければならない。学童

保育のように学校が終わってからの数時間だけこどもの世話を引き受けるようなサービスを、

障害のある子どもと共に利用できるように整備していくことが望まれる。

ショートステイといった短期入所事業も有効であろう。あるいは宿泊を伴わない日中のみの

利用をしやすくするなど、デイサービスのようなケアの提供を充実させることが有効であると

考えられる。そのサービス提供を行っている施設周辺地域の子供を障害の種類や程度に関係な

く、受け入れることができれば、子どもに対してできる限り多様な人と接する機会を作ること

ができる。さらにそのサービスを、地域の人ならば誰でも利用できるように解放することが望

ましい。障害児・者のためだけではなく、より広範囲の人のためのサービスにすることで、親

子ともにさまざまな人と触れ合う機会を作ることも可能となる。

障害をもつ人やその親の負担感を軽減するためには、サービスを提供するだけでなく、母親

の障害に対する知識や向き合い方を療育の初期段階から学ぶ機会を提供することも重要である。

立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 8 号(2006) 107

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また、就業に代わる地域参加の機会を提供することも必要である。地域の人々が共同で作業や

学習を行う場を提供し、人々のコミュニケーションの機会を作ることもサポートとして有効で

ある。今後充実させるサポートやサービスでは、客観的に測ることのできる負担の軽減だけで

はなく、障害をもつ子とその親とが地域の多くの人と関わりながら生活できるよう、サポート

することを重視すべきである。

Ⅴ 謝辞

今回の調査は、障害を持つ子を育てている母親にアンケートをお願いし、データを収集した。

子どもの世話をしていて忙しい中アンケートに回答し、データ収集に協力してくださった方々

にはこの場を借りて深く御礼を申し上げたい。また、アンケートの実施、収集に協力してくだ

さった養護学校の先生方やPTAの方に対しても、感謝の意を述べたい。

Ⅵ 参考文献

鎌原雅彦、宮下一博、大野木裕明、中澤潤〔1998〕『心理学マニュアル 質問紙法』、北大路書房

坂田周一〔2003〕『社会福祉リサーチ』、有斐閣アルマ

深谷澄男、喜田安哲〔2001〕『SPSSとデータ分析1:基礎編』、北樹出版

深谷澄男、喜田安哲〔2003〕『SPSSとデータ分析2:展開編』、北樹出版

三土修平〔2001〕『数学の要らない因子分析入門』、日本評論社

山本真理子(編集)、堀洋道〔2001〕『心理測定尺度集1』サイエンス社

稲浪正充、小椋たみ子、Catherine Rodgers、西信高〔1994〕『障害児を育てる親のストレスにつ

いて』、特殊教育学研究 №32

今川民雄、古川宇一、伊藤則博、南美智子〔1993〕『障害児を持つ母親の評価と期待の構造』、

特殊教育学研究 №31

田中正博〔1996〕『障害児を育てる母親のストレスと家族機能』、特殊教育学研究 №34

中谷陽明、東條光雅〔1989〕『家族介護者の受ける負担』、社会老年学 №29

橋本厚生〔1980〕『障害児を持つ家族のストレスに関する社会学的研究』、特殊教育学研究 第

17巻 

障害児の母親に対する支援108