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広品国際大学者遺学ジャーナル簡6巻軍 1号 2008
資料
肺がん告知後の患者と家族の心理的変化と看護介入に関する文献研究
A S胞の onPsychological S阻tusof Patie国 阻dFa皿 lyunder Informed-Consent of Lung Cancer
姐 dNursing Inもerventionby Litera加reReview
竹迫鱗代., 小笠原知枝"古岡さおり幻
Yasuyo Takesako!】, Chie Ogasawara幻 . Saori Yoshioka幻
要旨
本研究は,肺がん血者とその家族のがん告知の受け止め方と告知後の看護介入を,文献研究により
明らかにすることを目的とした「肺がんJ,r肺腫痕J,r告知Jをキーワードとして得られた文献9件
から,患者の心理状態!家族の思い!看護介入に閲する文章を抽出してコード化 L.,さらに内容の共
通性に注目してカテゴリ 化し命名したその結果,告知直後の L、思状態は「強度の不安によるパニシ
クや混乱J, その桂現実を再評価することによる苦悶Jの経過をたどり, r現実をみつめた新しい悩
値観や自己イメージJr家族との関わりの凡直Lと医療者による主援の希求Jr積極的な意思決定j へ
と変化していた家族の思いは, 1)肺がん告知による衝撃, 2)患者に対する積極的サポー ト, 3)
自分の事直な気持ち, 4)現実直視による不安, 5) 医療者の盛助に対する希望,に分類された告知
怯の看護介入としては, 1)インフォームド ・コンセントの補足, 2)患者に寄り添うこと, 3)忠者の
曹、いの傾聴把握,4)家族との連絡, 5)仕事の区切りがつくよう設定, 6)セカンドオピエオンの勧
め,7)医療従事者の述悦,などが示唆された
キーワード 肺がん,愚者j 家族,告知,看護介入
1)鹿児島大学病院 (KagoshimaUnivcrsity H凶 pitaU2)広品国際大学看護学部 (Dcpartmcntof Nursing, Hiroshima JntcmationaJ Univcrsity)
57
肺がん告知能の患者と家族の心理的変化と宥謹介入に閲する文献研究
I はじめに
インフォームド ・ヨンセント(以下, rc)の
浸透や個人情報保護訟の開始に伴し¥世、者の幡
利昌識が広がり, 自己決定椛を求める動きが椛
んになってきている(氏家ら, 2005) がんの
病名告知により忠者がショックを受けているこ
とが報告されており(鼎江ら, 2005),告知後
の精神的ケアが重要な課題になっている 盟、者
の中にはがん」すなわち 「托J と結びつけ
る人も少なくなく,筆者が臨床実習で受け持った
肺がん患者との関わりから,!品者の心理而に脊り
添ったm助が特に重嬰であることを痛感した
肺がんは部位別死因で第 1位を占めており ,
男女ともに増加の一途をたどっており,他臓掃
の癌と比較して再発や転移の頻度が高く治療の
難しさが指摘されている(厚生統計協会, 2007)
50歳代から70歳代をピークとL.,特に中高年の
男性に多いことから(厚生統計協会, 2007),
患者は家族を韮し勺職場では中ιし、的存在である
といえる そのような状況において患者は,家
族や仕事のことなどさまざまな心配事を抱え込
み,精神的苦痛も大きいことが推測される さ
らにj 肺がんの症状の一つである呼吸苦は,死
を連想させることカ推測され,肺がん患者は告
知を受けた直後から,死を意識する傾向がある
ことが示唆されている(氏家ら, 2005) しか
しa こうした患者の心理的変化を明らかにした
研究や,忠者の気持ちに沿った宥誰や,告知lに
よる家族への影響を考慮した看護に関する研究
はまだ十分ではない
そこで本研究は, 1)肺がん告知後j 患者及
び家族が告知をどのように受け止めているのか1
2 )患者iの治療意欲やQOLを高めるためにどの
ような援助が必要なのかについて,文献研究に
より明らかにし 1 そこから示唆されたことを基
に,具体的な看護介入を検討する ことを目的と
Lている
58
E 研究方法
1 研究方法
研究デザインは文献研究である 医学中央雑
誌の2002年から2007年の原著論文を対象とする
f肺がんJ. r肺順揚J. r告知j をキーワードと
して医学中央雑誌WEBを検非L., 20件の文献
が得られた そのうち l 退院後の夜宅ケアに関
するもの 1件,治療に関するもの 4件,学生の
告知lこ伴う行動 1件,看護師の告知に伴うジレ
ンマ i件,来告知lの場合の看護介入 2件,資料
として宰考にできなかったもの 2件を除いた 9
件を分析対象にした
2 分析方法
先ず!各文献より, I~師から rcを受けた佳,
患者がどのように考えているかを表現している
文章をとりだしてコー ド化L.,さらに内容の共
通性に注目してカテゴリー化して命名した な
お,文中の [ 1はカテゴリーを表寸 告知を
受けた家族の思い,告知後の看護介入において
も同様にしてコード化,カテゴリー化,命名と
いう手順をとった
皿結果
1 肺がん告知lを受けた肺がん出、者の心理的な
変化
患者が肺がんの告知をどのように受け止めて
いるかを報告している安藤ら (2001),伊藤ら
(2002) ,柏木ら (2004),占宇田ら (2002),原
ら (2004),世良井ら (2005) らの研究 5文献
から,忠者の心理的な状態を表現Lているデー
タを取り出L.,時間的経過に沿って分析した結
果 5つのカテゴリーが得られた(表 1)
段初のカテゴリーは r強烈な不安によって
パニックや混乱を示すJr現在の状況を備やむ
気持ちJr苦痛への不安Jr告知直後はそのとき
の状況が直接把握できなかったJr予想もしな
広島国際大学石謹学ジャナル那6巷貫n号 2008
表 1 肺がんの告知を畳けた患者の心理的査化
カテゴり名 コド
1 強度の不安によるパエ yクや 強烈な不安によってパニックや混乱を示す
混乱 納得できる病院を探そうとする現在の状況を悔やむ昆持ち昔痛への不安
告知直後はそのと きの状況が直接担揖できなかった
告知により衝移がおしはかられる予怨もしない極患で衡感を受ける
過陪な治療に戸惑う
初めて重大な病気を実感する遣くない録期のときを思う終わりの見えない治療のx1'L,いへ¢不安は肱〈
自分をコントロールできない苦しさ無凶心や現実車避や否認などの退行を示す
2. ~~艇を再得価寸ることによる 過去の苦しみの緩り返り
苦闘 がん忠者に対する偏見の務知身体的苦痛
現災を見つめて再度不安や混乱や苫聞を示す柑気への疑問
生活への気がかり入院生活で自分が思うよフに仮舞えない
す-不を立般のジメイ己山肘
く
る
や
ゆ
き
銅
慨
を
る
生
値
道る送にジ価
い削除を分-い
必を活十メし
川被求ら方正をイ新
宅希なさいきのて
ののぼ生たと活め
さ命れてりる生っ
し生け得送れの且
ら的なをのさ後を
分会ま報分か院災
自社進情自生
退現
や鋭敏価IV
し新ためジ
つ一見メ
をイ
実己
製自
3
4 家族との聞わりの見直しと医療 病気とともに生きる今後を考える家僚との聞係を考える
者による支躍の希求 家主集という存在の見直し
家族との心の機会のやりとりをする
家族との鮮を思ヲ同耐の仲間との時聞がiじのよりどころになる誰かとかかわっていたい
家族周囲からのサポートへの期待気持ちを畳け止めてくれる存在としての看護師会頼る
看麓師とのかかわりで安心サ感を得る
5 繍極的な意思決定 がん新薬への期待
納得できる情報を収集する
納専できる判断をする
納得のいく行動をとる
結果を吟味し続ける
治療に向けて心の準備会する
納得のし、かない結泉を受け入れる
い橋忠で衝聖書を受けるJr過酷な治療に戸惑うJ
「初めて重大な病気を実感する Jr速 く な い最期
のときを思う Jr自分をコン トローノレできない
苦しさ Jr無関 心 や 現 実 逃 避 や 否 認 な ど の退行
を示すj などの13コードから成立していた こ
れらは,医療者から告知を受けることによって,
患者が強烈な不安を抱きパニックや混乱を示し
たり,現在の状況を悔やんだりしていることを
示しており,告知直後の I強度の平安によるパ
ニックや混乱lと命名した
59
肺がん告知桂の患者と家族の心理的重北と看護介入に閲する文献師究
第2のカテゴリーは過去の苫しみの振り
返り Jrがん忠喜一に対する偏見の察知Jr身体的
苦捕Jr現実を且つめて再度不安や混乱や苦闘
を示すJr病気への疑問Jr生活への気がかり j
たい生活を送るJr生かされる ときを|分に生
きるJr退院後の生活をイメージJr現実を見つ
めて新しい価値観や自己イメ ーンの確立を示すj
などの 8コ ドから成立 していた 社会的生命
の希求や退院後の生活のイメ ージを示 している
ことから. [現実を且つめた新しい価値観や自
己イ メ}ジ]と命名した
「入院生活で自分が思 うように振舞えない」な
どの 7コードから成立 していた これらは,患
者が告知によって衝撃を受けた後,過去の苦し
みの仮り返りや生活への気がかりなど現実を見
つめなおす内容であることから. [現実を再評
価することによる苦悶1と命名 した
第 4カテゴリーは f病気とともに生きる今後
を考える家族との関係を考えるJr家族という
存存の見直 しJr家族との心の機会のやりとり
をするJr家族との幹を思う Jr同病の仲間との
時間が心のよりどころになるJr散かとかかわっ
ていたいJr家族 ・周囲からのサポートへの期
第 3カテゴリ は 「自分らしさの主張Jr社
会的生命の希求Jr進まなければならない道を
ゆく Jr情報を得て生き方を探るJr自分の送り
カテゴリー名
1 肺がんの告知による衝鯵
韮2 肺がんの告却を畳lすた家族の思い
コード
予想外の肺がん診断に衝隼を畳ける
早すぎる再発転移の悔しさを味わう
急激な病状変化に動織する
覚悟はしているがι、が乱れる
衝撃を萱ける
患者の苦しそうな状態に対して戸惑う
2 患者に対する積極的サポート 患者を励まそうとする
3 自分の素直な気持ち
4 現実直観による不安
5 医療者の撞助に対する希望
どうにかして助けになりたい
血者の気持ちに自分を治わす
どうにかして患者を理解したい
気持ちを分かち合いサポートしたい
とにかく拍療を試してほしい
抗癌剤治療のつらさをもう見たくない
もっと楽に生きさせたい
無理に治療することは決して級苦ではない
このまま治ることを願っている
.~者がつらい思いをしていて も何もできないむどかしさを感じている
化学療法を行っている愈者をみて、覚悟はしていたがγョックだった
今までの拍療のありがたさを語る
最期はどっなるのか
治療負但への不安を抱〈
残される自分の準備をする
主拍医に嗣状の変化を頻回に聞けないので看纏師から平めに知らせてほしい
相艶相手として看謹師を頼る
- 60一
広島国際大学宥謹学ジャーナル第6巷第 l号 2008
待Jr気持ちを受け止めてくれる存在と しての
石強師を頼るJr看護師とのかかわりで安心感
を得るJなどの 9コードから成立していた こ
れらは家族関係の箪要性の認識,友人や看護師
などによる支援の希求などを示Lていることか
ら. (家族との関わりの見直しと医療者による
主盛の希求]と命名した
2 肺がん告知を受けた家族の思い
表 2は,告知を受けた肺がん患者の草族の思
いについて報告されている原ら (2004). 111崎
(2006) .金源ら (2007) らの研究からι 家族の
思いについて記述されたデータを取り出してコー
ド化 L.内容の類似性から6カテゴリーに分類
したものである
第 5カテゴリーはがん新薬への期待Jr納
得できる情報を収集するJr納得できる判断を
するJr納得のいく行動をとるJr結果を吟味し
続けるJr治療に向けて心の準備をするJr納得
U 、かない結果を受け入れるJなどの 7コードか
ら成立していた 治療に対して情報をしっかり
収集して判断し許価する態庄であることから,
第 1カテゴリーは,告知能 I 患者と同様,家
族も大きな衝撃を受けており. (肺がん告知に
よる衝撃1と命名した 第2カテゴリ ーでは?
家族は,患者を励ましたり力になりたいと思っ
たり,患者を支えようとする内蒋から成り』
[患者に対する積極的サポートlと命名した
しかし,一方では楽に生きさせたい,治療のつ
らさをもう見たくないとする内蒋から成る第3I積極的な意思決定]と命名した
重3 患者・章旗に対する看護介入
カテゴリー名
1. ICの補足
2 血者に寄り総う
3 思考の担~.~明傾聴把蝿
4 家旗との連絡 ,調整
5 仕事の区切りがつくよう設定
6 セカンドオピニオンの勧め
コード
前もって時間 湯所について相談していたため 患者にあった適切な IC
により柑争的な衝怒が和らいだ
医師の説明に対する補足
病状に対しての質問について害える
ICに同席
aIi間待の戸かけ
頗固なlIi問
告知後に衝繋を畳けた程度や龍明を畳けた内容に核解がないかを杷践した
病状に対する思いの傾聴
告知後の思いの傾聴
.~.者の自立と凹L を家族が支担する必要性を伝える
惣者 家臨附の話し合いの場の置定
米銀に頼回の面会の依頼
家族に箇会の依頼
家族に荷絞して支えになるよう勧める
家族と面会の獲の世定
仕事に対して梅いが残らないようひと段落できるよう醐幣
仕事がひと段落し 安心して手術が畳けられるよう穂聖
iEしく期解できていない部分}納得できていない部分についてセカンドオ
ピニオンを畳けられるよう勧める
-61-
肺がん告知後の患者と家臨の心理的変化と宥謹介入に閲する文献研究
カテゴリーは [自分の事直な気持ち1と命名さ
れた 第 4カテゴリーは治療費など現実的な!日l
題や自分自身の生活に降りかかる問題に関する
内容であることから, [現実を見つめることに
よる不安]と命名した 第 5カテゴリーは,家
族では抱えきれないことに対しては看護師や医
療職者への援助を求めていたことから。 [医療
者の援助に対する希望!と命名された
W 考察
1 肺がん告知を受けた患者の心理的変化
5件の文献を質的に分析することによって,
愚者の心理状態は,告知直後には I強度の不安
によるパニックや梶乱lがみられた その後,
I現実を再評価することによる苦闘1がみられ。
最終段階では, [現実吟味に基づく新しい価値
観や自己イメージ[ [家族との関わりの見直し
と医療者による支援の希求J[積槻的な意思決
3 患者家肢に対する看護介入 定]などl 現実を吟味し評価しながら肯定的な
表 3は,告知を畳けた肺がん患者と家族に対す 心理状態へと変化していった
る看積介入について報告されている原ら (2004), 山崎 (2006)は,がん患者平家族の心理的状
小畑ら (2005),山崎 (2006) らの研究から看 況に関する研究の中で,治療初期の時期,再発
謙介入について記述されたものを取り出 してヨ一 転移の時期,積極的な治療を畳け止めた時期の
ド化L.,内容の類似性から7カテゴリーに分額 3時期に心理的変化が見られたことを報告 し て
したものである いる本研究の文献による時間的な経過からの
看護師は, JCに同席L.,患者がどのように病 分析においても,告知直後,現実的に再評価す
気を受け止めているか思いを把握した上で』理 る時期 1 そして現実を受容してゆく時期の 3つの
解度を確認していた I第 1カテゴリーインフォ一 時期があることが示唆され,告知による衝態度や
ムド ・コンセントの補足Iそして, JCの場面 つらさの大きさは異なるが, JCが行われた後にた
だけでなく患者の気持ちに帯り添い,傾聴する どる心理的変化の状況に概ねー放していた
ことよって,患者の現在の心理的変化を把担し 本研究において示唆された心理的な変化にっ
ていた I第 2カテゴリー 患者に寄り添う 1・ いて具体的に考鎖する 先ず,告知直接におい
[第 3カテゴリー 患者の思いの傾聴 把握l て患者は,肺がんという言葉に対して激しい衝
家族に連絡し調整をとることによって家族との 撃を受けていることが示唆された 一例ではあ
面会の機会を意図的に作り,患者の心理により るが防衛機制が顕著にとられていた 突然のが
働きかけていた [第 4カテゴリ一 家族との連 ん確血に対して, ,¥!!.者が適切に対処する能力が
絡 ・調整l また,患者によっては,仕事の区 備わっておらず。危機的状況に陥っていた 危
切りがつくことで治療に専念できるようしてい 機に直面した患者は激しい衝撃を畳け強い不安
た I第 5カテコリー 仕事の区切りがつくよう や混乱状態に陥るが,なんとか心理的安定を求
設定l また,正しく理解できていない部分, めようとして p 現実逃避や否認などの自我の骨
納得していない部分についてセカンドオピニオ 威に対する防衛反応が現れたものと惟測される
ンの説明を受けることを勧めていた [第 6カテ しかし,こうした危機的状況は長く持続する
ゴリー セカンドオピニオンの勧め1そして, ことはないとされている(山本, 1996) 本研
医療者との連携をとり,医療従事者間での共通 究の文献分析においても告知直後のパニックや
認識を持ち統ー したケアを行っていた I第 7カ 混乱は長くは続いておらず,患者は家族や仕事
テゴリー 医療従事者の連携I のことを現実問題として直視する状況〈と変化
62一
していた こうした問題を直視することによっ
て1 家族を含めた今後の生活に対する新たな不
安が I現実を再評価することによる苦悶!とし
て生じたものと考えられる
最終的には 1 患者はさまざまな苦悩の過程を
たどることによって, [現実を見つめた新しい
価値観や自己イメージ[ [家族との関わりの見
直しと医療者による支援の希求J [積極的な意
思決定]に行き着いたものと考える
患者は,自分の生に対して何らかの拝えが見
1Mせたときに,自分の存在の意味について気づ
きj 自分らしく生きてきたという肯定的な存在
感を回彼することによって,病気に立ち向かう
ことができるのではないかと考える
患者は病気を総識したとき,家族のかかわり
の重要性を再認識すると同時に,家脹や友人ら
との関わりを持っていたいという思いが強くなっ
ていることが示唆されている
患者は, 自己決定をする時だけ情報を得るの
ではなく,自己決定した後も情報を求め,判断
行動し,吟味するという行動がみられている
これは,自分の決定に肉信を持ちたいという行
動であると考えられている 嗣名告知を行うこ
とで患者の自 己決定権を椋草することができ,
さらに患者のQOLを高めることにつながること
が指摘されているように(氏家ら. 2005). 患者
が病態を理解し,治療に意欲的に取り組むため
に告知は前提であると考える
2 肺がん告知による家族への心理的な影響
告知後の家族の思いを分析した結果. [s市が
ん告知による衝撃J. [患者に対する積極的サ
ポート J. [自分の素直な気持ちJ. [現実直視
による不安J. [医療者の侵助に対する希望1
の5つのカテゴリーに分類された
患者と問様に家族も告知によって衝撃を受け
ていた 患者の家族にはj 突然の役割の変化や
63
広島国際大学宥種学ジャーナル軍6巻第 1号 2008
人生設計の変更をせざるを得ない状況に立たさ
れ,大きな変化が起こることになる そのため,
草族は患者を支えなければならないという責任
感や,生活環境の変化による苦痛とのジレンマ
に陥っていると考えられる しかし,衝撃をう
けながらも現実的な対応を余儀なくされる状況
のなかでj 患者のがんと向き合っていかなけれ
ばならないという現状を受容しようと試みられ
ていたことが惟測される
告知されていないケースでは,症状が改善し
ないことに対するいら立ちゃ治棋の意義につい
て患者の理解が得られず,治療に対して消極的
な場両が見られている さらに,患者家族聞の
コミ z ニケーションに不自然さが出てしまい,不
安定な家族関係が生じやすいと考える これは,
患者と家族のそれぞれの目標が一致してし、なし、た
めにこのような状況が生じたものと推測される
再発転移期や再入院の場面においては,患者
に対する積極的なサポートが見畳けられたが,
自分の素直な気持ちの中にはa 無理に治療をさ
せたくない思いや患者が苦しそうにして頑張って
いても何もできないもどかしさなどa 自分の素直
な気持ちを感じることになったものと考える
家族が患者の治療に対して意思決定をする場合
には,家族にも精神的に負担を強いており,自
分だけで問題を抱える緊張感や重圧感が示され
ている このことより,家族にとっても告知は重
要なことであり,医療者が安易に家族に意思決
定を要請することには注意しなければならない
さらに,家族は,治療費や生活のことなどさ
まざまな問題と直面1.-.現実をみつめて不安を
抱くことになったと考える そして,考えたく
はないとは思いつつも,残される自分のことを
考えるようになったものと推測される そして,
自分自身だけでは,解決できない問題に対1.-.
医療者の暖助を求めていると考えられる
肺がん告知後の患者と家臨の心理的変化と晋誼介入に閲する文献研究
3 患者の心理的変化や家族の思いに応じた看
護介入の必要性
1) ICの補足, 2)愚者に'寄り添う, 3)患
者の思いの傾聴 ・肥握。 4)家族との連絡, 5)
仕事の区切りがつくよう設定, 6) セカンドオ
ピニオンの勧め, 7)医療従事者の連携という
7つのカテゴリーが示唆された.しかしながら,
これらの看護介入は,文献分析の結果示唆され
た告知能の患者の心理的変化や家族の思いとの
関連性は明らかではでない
そこで,患者のιし、理的変化の関連で,家族の
思いやこれらの 7つの看鰻介入を基に具体的に
どのような援助が必要であるのかを考察したい
I強度の不安によるパニックや混乱]の状況
における介入では,安全を確保して患者を保護
することが必要である 患者は,自分の眠かれ
た状態を受存するのに時間を要する そのため1
患者自身の力で立ち直ることが出来るよう,軍
ti師は,思いやりを持った態度で患者に接し比
守る必要がある 結果においては, IC補足を
行ったり訪問毎の声かけを行ったりしている介
入が見られ,愚者の心理に寄り添うことが重要
であるといえる また。セカンドオピエオンを
勧めることによって新たな観点が発見でき,よ
り考えの幅が広がる 防衛機制による消極的コ
ントロールでは,危機に対する骨威から自分を
守るために,告げられた事実に対して直接対面
することができず,無関心を装い,否認などの
防衛機制による行動を示していた この段階の
介入で注意するべきことは,強度の不安を軽減
L自己が傷つかないようにするために防衛機制
をとっているので,そのことを念頭に置き,静
かに見守り,精神的にゆとりが出てくるまで持
つという姿勢が重要になる したがって l 肺が
んの告知直後には,生命の危機と自我の骨威か
ら強度の不安を導き,混乱平衝撃にまで進展す
る危険性を意識する必要がある そのため,告
64
矢口直笹には,頻固な観察と患者の衝盤を受け止
めようとする看護師の姿勢や環境づくりが看護
介入として重要であると考える
I現実を再評価することによる苦闘]は,身
体的苦痛と同時に,現実問題として家主主や仕事
のことなど対応していかなければならないこと
を具体化Lていく過程の中で生じていた した
がって,この段階の看護介入はt 血者ーと看護自li
の聞に信頼関係を成立させ』本分析で示唆され
たように,患者に寄り添いl 忠者の苦悩を表出
してもらい傾聴することが基本であると考える
[現実を見つめた新しい価値観や自己イメー
ジ1li,初期の危機的状況から脱出して,適切
に現実を吟味して,次第に自信を得て,骨威と
なった危機にも適応していく段階にあることを
示している 自分の生に対して何らかの答えが
見出せたときに自分の存在の意味について気づ
き,自分ら!.-(生きてきたという肯定的な存在
感を回複することによってa 病気に立ち向かう
ことができるのではないかと考える したがっ
てa この段階の介入は,患者やその環境を適切
に評価L.,患者がもっ能力でこの危機を乗り経
え,新たな自己イメージをつくり成長すること
に気付かせていくことが必要であると考える
I家族との関わりの見直しと医瞭者による支
援の希求lの心理状態は,血者は病気を認識し
たとき,家族のかかわりの重要性を再認識する
と同時に,家族や友人らとの関わりを持ってい
たいという思いが強くなっていることを示めし
ている ことでは,特に,告知を受けた家族が
どのような思いをもっているのかを配慮しなが
ら1 患者にアプローチすることが必要である 具
体的には』家族が患者を積極的にサポー卜 して
いることを患者に気づかせること(福西, 1997).
またl 家族自身の索直な内面の気持ちにも看護
師は共感して患者と同時に家族への控助が必要
であろう 文献に示されたように,患者の生活
広島国際大学者瞳学ジャーナル第6巻第 1号 2008
により宮、帯した具体的な働きかけがもとめられる ある看護師の看護介入が必要である 告知とい
[積極的な意思決定]を望む心理状態は。治 う危機的状況において,看護師は,家族と深く
療や予桂に対する意思決定をする時だ吋に情報 関わり,家肢の機能が保たれるよう支援するこ
を得るのではなく i 自己決定した桂も情報を得 とが重要であるといえる 看護師は,家族が今
続け,判断 ・行動 G,吟味するという行動に示 の状態をどのように促えているのかを担握 G,
されている これは,自分の決定に自信を持ち その状態を客観的に家族に伝えることが必要で
生きていきたいという気持ちが表われた結果と ある そうすることで,草族自身が今起きてい
考える 従って, .~"t\者自身が意思決定できるよ る変化を自覚することができ j 一度立ち止まつ
うに主盛するために、各・観的な情報の提供,社 て物事を考えられるようになり,問題に対処す
会資源の活用!医療従事者聞の連携ももとめら ることで安定を保つことができるのではないか
れるであろう 一方でI 息者の積極的な意思決 と考える また,近藤 (2003) が示唆している
定の狭間にみられる患者の苦悩に対する情動的 ように。告知をしたことに対する家族内での評
な支僚も忘れてはならない 看護師は,忠者が 価や意味付けに対G,継続的に関わっていくこ
安心して治療が望める探境を整え,家肢と話し とが重要であると考える
合う機会を設けるなどj 患者の精神而に対して さらに,患者に病名告知を行わない意向で治
援助を行ってし、く必要がある 治療の開始とと 療が進められる場合,帯設師は倫理的ジレンマ
もに看鰻者は串者,家旗とゴーノレを設定し,そ を抱きやすい(今川, 1996) これは 1 真実を
れに向けて患者の意思決定を高める支援が必要 告げてほしくないという家肢の約束を司る義務
であると考える と,患者の知りたい情報を提供してあげたいと
4 肺がん告知における看謹師の役割
がん告知が行われた場合においては,医師が
行ったICの補足的な役割を看護師が行っている
部分があり J 告知にお吋る役割は主体的ではな
く1 補足的な役寄りと見えてしまう しかし。医
師のICの補足的役割に留まらず,全体の状況を
客観的に提え,患者 ・家族の受けとめ方,心理
的状況を+分に理解した上で,白神的な意思決
定や問題解決が行われるような働きかけをする
ことが重要であるといえる 特に肺がんは死の
イメージを抱く場合が多く,本研究においても
肺がん告知による衝繋は強く患者に強度の不安
を与えることが示唆されたように,肺がん告知
による衝撃から危機状況に陥りやすいことを看
護師は認識する必要があると考える
本来家族には,問題解決能力が備わっている
が!その力を発相するために,時には第三者で
いう気持ちがあり,患者の心理的綬助が満足に
できないという思いから生じている 看護師は,
一人ひとりが倫理原則の知識を深めj 感受性を
高めるよう学習していく必要がある(犠尾,
1993) また?看護師聞のカンファレンスで話
し合い,医師などの他職種の協力も得ながら,
息者とともに看護締も満足感の得られるケアに
つなげられるようにしていく必要があると考える
V,おわりに
今回,9件の文献を質的に分析することによ
り,肺がんi也者は告知されることによって,患
者の心理状態は I強度の不安によるパニックや
混乱J,(現実再評価上の者間J, (現実をみつめ
た新Lい価値観や自己イメージJ, ( 家族との関
わりの見直しと医療者による支援の希求J, (積
極的な意思決定】へと変化していた また,家
族も告知されることにより,家族の思いは, (
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肺がん告知桂の患者とま篠の心理的変化と宥謹介入に関する文献研究
肺がん告知による衝態), [忠者に対する積極的 柏木タ香 (2001) 中高年肺がん忠者の告知後の
サポート l. [自分の素直な気持ちl. [現実直悦 心情と 告知前後の密閉'J. j:j本看護学会論文集
による不安l. [ 医療者の援助に対する希望Iに 成人看護I!, 34号, 255-257
分煩された 告知後の看謙介入としては, [イ 小畑絹代,岡本美代子(2005) インフォームド・
ンフォーム l'・コンセントの補足],[インフォー コンセントにおける看護師の役'111ーパッドニュー
ムド コンセントの補足l. [患者の思いの傾聴 スにおける関わり,日本看護学会論文集(宕
担健l. [家族との連絡l. [仕事の区切りがつく 護総合), 36号, 192-194
ょう設定l. [セカンドオピニオ〆の勧め],[医 近藤まゆみ (2003) がん告知における家族の意
療従事者の連機lなどの必要性が示唆された 思決定,家侠看護, 10), 41・47
厚生統計協会 (2007) 厚生の指標国民衛生の
本論文は2007年度卒業研究を一部修正,加筆し 動向, 54(9),腐済堂,印
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