11
日消外会議 12(3),139~ 149,1979年 Elemental dietの 指腸内注入時 における 肝外分泌におよぼす影響 千葉大学第2外科(主任 :佐 藤 博教授) 坂 本 昭 雄 THE EFFECr OF INTRADUODENAL ADMINISTRAT10N OF AN EttEMENTAL DIET ON PANCREATIC EXOCRINE SECRET10N AkiO SAKAMOTO The 2nd Department oF Surgery,Chiba University Scho 素引用語 Elemental diet,膵 外分泌,慢性膵療犬,immunoreactive insulin,immunorea I Elemental diet(以 EDと 略す)とは ,ほ とん ど完 全 に消化 され,そ のままの形 で吸収 され もの ,す なわ ち 化学的に成分の明確 なもののみを配合 した特殊食餌であ る。この EDは 高カロリ 輸液法 (IntraVenOus hyPeral‐ imentatio弓 以下 IVHと 略す)とならんで,すでに欧 米では外科手術 の 術前術後の栄養管理 に 重要なものと なっている。 Roseの 成人 における 必須 ア ミノ酸比率 に 立脚 し, 1957年 Creenstein,Winitzら はア ミノ酸,ブ ドウ糖,脂 肪, ビタミン , ミネラルな ど化学的に明 らかな成分か ら なる合成食の基礎的研究 を 続け QuantitiVe nutritional studies with water・ soluble, chemically denned diet と 題 した 連 の報告を行 った い1° 。この よ うに化学的 に合 成 された低残湾食品は ,そ の後種 々の医学的特性のある ことがわかり,NIH(National lnstitute of Healtめ NASA(ァ メリカ航空宇宙局)の積極的 な 協力を ック に開発改良を重ね,1968年 ViVOnexの 名称 製品化さ れ宇宙飛行士用 の 食餌 (SPace diet)1'と して利用 され た ことも有名である。本邦においては,われわれ は成分 栄養法の名称を提唱 し 1の ‐19,日 本人に ッチ した製品化 をめざし,味 の素 (株)と協同 して ED‐ ACを 試作 し, 現在臨床的また基礎的 に 検討が進められている 1り ,24). EDの 特性は経腸的に hyperalihentationが できること, ほ とん ど無残澄 糞便量が極端 に減 少 し腸 内細菌叢 の減 少ない し変化す ること,抗原性 のないことのほかに ,そ の主成分であるア ミノ酸,オ リゴ 糖が最終分解物の形を とってお り,消化液分泌を刺激 しない といわれている. その中でも EDの膵外分泌におよばす影響に関す る報 告 は多 く,膵分泌を刺激す るか否 かで 議論の分れている ところである。 今回著者は慢性膵療犬を用いてに 指腸 EDぉ ょび ブ ドウ糖,ア ミノ酸,脂肪 な どを注入 し,それ らの膵外分泌 にお よぼす影響 について検討 し若 子の知見を得たので文献的考察 とあわせて報告す る。 Elemental dictの 十二指腸内注入時の膵外分泌にお よぼす影響をみるために ,慢性膵濃犬 を用いてセ クレチ ン 持続刺激下に Elemental diet,全 粥 ミキサ 食,0,1%HCl,脂 質,50%ブ ドウ糖溶液,12%ア ノ酸溶液を十二指腸内に注入 し,膵外分泌お よび内分泌 の変動を観察 した。中性に近い Elemental diet, 10%脂 肪字L剤は膵外分泌 に 対 し無刺激であったが,Elemental dict(PH 3.0),全 ミキサ 食,0・ 1% HCl,リ 酸は膵外分泌を強 く刺激 した 。 方50%ブドウ糖溶液,12%ア ミノ酸溶液 (PH 3.0)は 外分泌を抑制 した。血中 immunoreactive insulinャ 海 o%ブドウ糖液で有意に上昇 した が, そ の他では有 意差を認めなかった。血中 immunoreactive glucagonャ ま膵外分泌に対す る 定の傾向は得られ な かっ ブこa

Elemental dietの十二指腸内注入時における 肝外分 …journal.jsgs.or.jp/pdf/012030139.pdfElemental dictの十二指腸内注入時の膵外分泌におよぼす影響をみるために,慢性膵濃犬を用いてセ

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日消外会議 12(3),139~ 149,1979年

Elemental dietの十二指腸内注入時における

肝外分泌におよぼす影響

千葉大学第2外科 (主任 :佐藤 博 教授)

坂 本 昭 雄

THE EFFECr OF INTRADUODENAL ADMINISTRAT10N OF AN

EttEMENTAL DIET ON PANCREATIC EXOCRINE SECRET10N

AkiO SAKAMOTO

The 2nd Department oF Surgery,Chiba University School oF Medicine

素引用語 Elemental diet,膵 外分泌,慢性膵療犬,immunoreactive insulin,immunoreactive giucagon

I ・描 言

Elemental diet(以下 EDと 略す)と は,ほ とんど完

全に消化され,そ のままの形で吸収されもの,す なわち

化学的に成分の明確なもののみを配合した特殊食餌であ

る。この EDは 高カロリー輸液法 (IntraVenOus hyPeral‐

imentatio弓以下 IVHと 略す)と ならんで,す でに欧

米では外科手術 の術前術後の栄養管理 に重要なものと

なっている。

Roseの 成人 における必須 アミノ酸比率 に立脚し,

1957年 Creenstein,Winitzらはアミノ酸,ブ ドウ糖,脂

肪, ビタミン, ミネラルなど化学的に明らかな成分から

なる合成食の基礎的研究を続け QuantitiVe nutritional

studies with water・soluble, chemically denned diet と

題した一連の報告を行ったい1°。このように化学的に合

成された低残湾食品は,そ の後種々の医学的特性のある

ことがわか り,NIH(National lnstitute of Healtめ と

NASA(ァ メリカ航空宇宙局)の 積極的 な協力をパック

に開発改良を重ね,1968年 ViVOnexの 名称で製品化さ

れ宇宙飛行士用 の食餌 (SPace diet)1'として利用され

たことも有名である。本邦においては,わ れわれは成分

栄養法の名称を提唱し1の‐19,日

本人にマッチした製品化

をめざし,味 の素 (株)と 協同して ED‐ACを 試作し,

現在臨床的また基礎的 に検討が進められている1り,24).

EDの 特性は経腸的に hyperalihentationができること,

ほとんど無残澄で糞便量が極端に減少し腸内細菌叢の減

少ないし変化すること,抗 原性のないことのほかに,そ

の主成分であるアミノ酸,オ リゴ糖が最終分解物の形を

とっており,消 化液分泌を刺激しないといわれている.

その中でも EDの 膵外分泌におよばす影響に関する報

告は多く,膵 分泌を刺激するか否かで議論の分れている

ところである。今回著者は慢性膵療犬を用いてに 指腸

内に EDぉ ょびブドウ糖,ア ミノ酸,脂 肪などを注入

し,そ れらの膵外分泌におよぼす影響について検討し若

子の知見を得たので文献的考察とあわせて報告する。

Elemental dictの十二指腸内注入時の膵外分泌におよぼす影響をみるために,慢 性膵濃犬を用いてセ

クレチン持続刺激下に Elemental diet,全粥ミキサー食,0,1%HCl,脂 質,50%ブ ドウ糖溶液,12%ア ミ

ノ酸溶液を十二指腸内に注入し,膵 外分泌および内分泌の変動を観察した。中性に近い Elemental diet,

10%脂肪字L剤は膵外分泌 に対し無刺激であったが,Elemental dict(PH 3.0),全粥 ミキサー食,0・1%

HCl,リ ノール酸は膵外分泌を強く刺激した。一方50%ブ ドウ糖溶液,12%ア ミノ酸溶液 (PH 3.0)は 膵

外分泌を抑制した。血中 immunoreactive insulinャ海o%ブ ドウ糖液で有意に上昇したが, その他では有

意差を認めなかった。血中 immunoreactive glucagonャま膵外分泌に対す る一定の傾向は得られ なかっ

ブこa

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24(140)

H・ 実 験材料ならびに方法

体重 15~20kgの雑種成犬 6頭を用い,ネ ンブタール

静脈麻酔下に開腹し,副 膵管結繁切離後主膵管開田部対

側の十二指腸壁にThOmas式 カニューレを装着して慢性

膵痩犬を作成し,同 時に胃痩も造設した.術後 2週間の

回復期間の後,実 験前24時間を絶食とし,実 験は無麻酔

下にて陣凄および胃痩を開放し,No.5のネラトンチェー

ブを ThOmas式 カニューレより十二指腸肛門側に挿入

し,そ の後細いガラス管を主膵管に挿入して膵液を採取

し種々の測定に供した (図1).

図 1 実 験模式図.威 犬15~20kg

成分栄養 :十二指腸内に持続注入secretin 2U/kg/hi・V・

実験にあたってはセクレチン 2U/kg/hを 持続注入ポ

ンプにて末梢静脈より持続注入し,膵 液を10分毎に採取

し,セ クレチン注入後40分から60分ほどで排出される陣

液畳がプラトーに達した後,お のおのの実験成績の項で

述べるような条件によって持続注入ポンプにより負荷実

験を行った。また注入直前,注 入後45分,90分 に末梢静

脈より採血し,immunoreactive insulin(以下 IRI)と

immunoreactive glucagOn(以下 IRC)を 測定し,静 注

用10%脂 防乳剤とリノール酸注入時には血清中性脂肪,

遊離脂酸を測定した。

採取した膵液はおのおの液量測定後,重 炭酸塩は微量

血液中ガス分析装置29により,ア ミラーゼはアミロクロ

ム (Roche社 )20に て測定した。IRI ャまダイナボット

2抗体法2の,IRGは 30‐142ゆにて測定した。血清中性脂

肪はアセチルアセ トン法,遊 離脂酸はパンクプロイン法

にて測定した。セクレチンはエーザイ社製 (算arper単

位)の ものを用いた。

十二指腸内 に注入 した もの は,ED製 品 としては

Elemental dietの 十二指腸内注入時における膵外分泌 日 消外会誌 12巻 3号

Vivonex‐HN(high nitrogen,Eaton Lお oratories)を, 全

粥 ミキサー食 (以下全 ミキ食)は 普通患者に使用してい

るもので千葉大学附属病院栄養係にて作成したものを,

10%脂 肪乳剤はイントラフアット (大五栄養),リノール

酸 (和光純薬),50%ブ ドウ糖液 (大塚製薬),12%ア ミノ

酸溶液は12%イ スポール (大五栄養),PH 3.0の 50%ブ

ドウ糖液および12%ア ミノ酸溶液は上記の製品を千葉大

学附属病院薬剤試験室にて HClに て調製したものを使

用した.

各実験成績において個体差が大きいため,膵 液量,重

炭酸塩排出畳,ア ミラーゼ値はプラトーに達した各種溶

液注入前の連続する3つ の値 の平均値を100%と し,注

入後の変化を百分率で表した。IRI, IRG,血 清中性脂

肪,遊 離B旨酸は注入前値を100%と し,注 入後 の変化を

同様に百分率で表した。

II・ 実 験成機

A.EDな らびに全 ミキ食注入時の陣外分泌の変動

1.生 理食塩水,ED(PH 5.2),全 ミキ食注入時の膵

液畳の変動

対照として生理食塩水を 60m17hの速度で十二指腸内

に90分間注入, 4頭 の大に5回 の実験を行ったが,注 入

前値 と比較して変化 なく一定 であった。無調製の ED

は 1パ ック80gを 300mlの 水で溶いた (lCa1/ml).pH

は5.2でありこれを 60mIァhで 注入した。ED注 入は6頭

図2 ED(PH 5.2),全 ミキ食注入時の鮮液量の変動

MttSE

x―x全ミキ食(nギ)

の大に9回 の実験を行ったが,膵 液量は生理食塩水注入

と同様に変化なく一定であった。全 ミキ食注入は4頭 の

大で7由 の実験を行ったが,EDと 同じく 60m1/hで注

入し,際 液量 は注入後漸増し注入前値 に対し最高20土

15%● <0・005)の 増加を示した (図2).

2.ED(PH 3.0),0・ 1%HCl(pH 3.0)注 入時の膵

液量の変動

成分栄衰

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1979年3月

図 3 ED(PH 3.0), 0.1%HCl注 入時の膵液量

の変動

MiSE

十二指腸内を酸性化すると膵外分泌を刺激するといわ

れているが, これに関し pH 3.0に 調製した EDと 0.1

%HCl(PH 3,0)を 十二指腸内に前実験 と同様 60m17h

で注入した。ED(pH 3.0)注 入は4頭 の大に6回 の実

験を行った。膵液畳は注入後より漸増し注入前値に対し

最高24±8%(0・ 01<P<0.025)の 増加 を示した.0・1

%HCl(PH 3.0)注 入は4頭 の大に6回 の実験を行っ

た。膵液量は ED(PH 3.0)注 入と同様 に注入後より

漸増し注入前値 に対し最高28±11%(P<0.005)の 増

加を示した (図3).

3.ED(PH 5。 2),ED(PH 3.0)な らびに全 ミキ食

注入時の重炭酸塩排出量の変動

ED(PH 5.2)注 入 では陣液量 と同様の傾向で一定

値 を示し注入前値 とほとんど変らなかった。全 ミキ食

注入 では注入後増加し,注 入前値 に対し最高21±15%

(0.025<P<0.05)の 増加を示した。ED(PH 3.0)注

入では注入後40分までは注入前値と比較 してほとんど変

化はなかったがその後増加し,注 入前値に対し最高15土

10%(0,025<P<0.05)の 増加を示した (図4).

4. ED(PH 5.2),ED(PH 3.0)な らびに全 ミキ食

注入時のアミラーゼ値の変動

ED(PH 5。 2)と 入では注入後40分で19±15%の増加

をみたが注入前値と比較して有意差は認められず,そ れ

以外は±10%以 内の増減でありほとんど二定であった。

全 ミキ食注入では注入後より増加し,注 入前値に対し最

高51±30%① く0・005)と増加したが90分で15±19%と

やや低い増加となった.ED(PH 3.0)注 入では注入後

40分までは注入前値 に対し最高44±30%(0・ 025<P<

0.05)の増加を示したが,そ れ以後は変動が大きく一定

の傾向は認められなからた (図5).

25(141)

図 4 E D ( P H 5 . 2 ) , E D ( P H 3 . 0 ) ,全 ミキ食注入

時の重炭酸塩排 出量の変動

MttSE

富, 30 60 00,〕

図 5 E D ( P H 5。 2 ) , E D ( P H 3 . 0 ) ,全 ミキ食注入

時のア ミラーゼ値の変動

MttSE

▼前 50 60 00分

B.脂 質注入時の膵外分泌の変動

1.10%脂防乳剤, リノール酸注入時の際液量の変動

10%脂 肪乳剤, リノール酸 ともに前実験同様 60m1/h

の速度にて注入した。

10%脂 防字L剤注入を4頭 の大に6回 の実験を行った

が,注 入後30分までは注入前値と変らなかったが,40分

より90分まで注入前値に対し最高12±8%の 減少をみた

が有意の差は認められなかった (0・10<P<0。25).lo%

脂肪乳剤の主成分であるリノール酸注入を4頭 の大に6

回の実験を行ったが,注 入後より漸増し,注 入前値に対

し最高24±10%(P<0・ 005)の増加を示した (図6).

2.10%脂 防乳剤, リノール酸注入時の重炭酸塩排出

量の変動

重炭酸塩排出量は際液量と同様の傾向をとり,10%脂

肪字L剤注入では注入後40分から90分まで注入前値に対し

最高13±6%の 減少をみたが,注 入前値と比較して有意

の差は認められなかった (0・10<P<0.25).リ ノール酸

注入では注入後より増加し,注 入前値に対し最高46±17

%(0・ 01<P<0.025)の 増加を示した (図7).

料 全ミキ負ln=7)

6_。E,(pHi4何・9)

X―‐X全ミキ食(nヨ7)

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26(142) Elemental dietの 十二指腸内注入時における膵外分泌 日 消外会議 12巻 3号

図 6 脂 質注入時の麻液量の変動

MttSE

50 60 90分

図 7 脂 質注入時の重炭酸塩排出量の変動

― Aリノリ崚 (1=F)h-10%朋 抑 衛→

図 8 脂 質注入時のアミラーゼ値の変動

MttSE卜もりかル醸(nま6)-10拷 】勧乳翻(打・8)

図9 50%ブ ドウ績溶液注入時の鮮液量の変動

M t t S E

王 皆螢傘

ワ精

伊描併望|

0箭

3. 10%脂 肪乳剤, リノール酸注入時のアミラーゼ値

の変動

10%脂 肪乳剤注入では膵液畳,重 炭酸塩排出量と同様

の傾向をとり,注 入後50分より90分まで注入前値に対し

最高19±21%の 減少をみたが有意の差は認められなかっ

た (0.05<P<0。10).リ ノール酸注入 では注入後増加

し,注 入前値 に対 し最高57±28%(0・005<p<0.01)

の増加を示したが,50分 から70分までは増加が小さかっ

た ( 図8 ) .

C.50%ブ ドウ糖液注入時の膵外分泌の変動

膵外分泌に対し PHの 変化による影響をみるため,

50%ブ ドウ糖液と次に述べる12%ア ミノ酸溶液を無調製

前 30 60 9o分

のものと PH 3.0に 調製したものとを十二指腸内 に注

入した。注入速度は他実験と同条件である。

1.50%ブ ドウ糖液 OH 4.2),50%ブ ドウ糖液 CPH

3.0)注 入時の膵液量の変動

無調製50%ブ ドウ糖液 tpH 4.2)注 入を6頭 の大に

9回 の実験を行ったが,膵 液量は注入後漸滅し注入前値

に対し最高32±8%(0,01<p<0.025)の 減少 を示し

た,一 方50%ブ ドウ糖液 OH 3.0)注 入を3頭 の大に

5回 の実験を行ったが,無 調製のものと同様の傾向をと

り,注 入前値 に対 し最高28±7%(P<0・ 005)の 減少

を示した (図9).

2.50%ブ ドウ糖液 OH 4.2),50%ブ ドウ糖液 CPH

3.0)注 入時の重炭酸塩排出量の変動

50%ブ ドウ糖液 CPH 4.2)注 入では膵液量 と同様の

傾向をとり注入後より漸減し,注 入前値に対し最高24土

8%(P<0・ 005)の 減少を示した。50%ブ ドウ糖液 (PH

3.0)注 入では注入後40分 までは変動があったが,そ れ

以後は無調製のものと同様に漸減し,注 入前値に対し最

高27±5%(P>0,005)の 減少を示した (図10).

3: 50%ブ ドウ糖液 (PH 4.2),50%ブ ドウ糖液 CPH

3.0)注 入時のアミラーゼ値の変動

図10 50%ブ ドウ糖溶液注入時の重炭酸塩排出量の

変動

‐40

‐20

‐00

80

40

20

00

%‐

MttSE

.副%ブ特ウ猫1糾||‖:||

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1979年3月

図11 5 0 %ブ ドウ糖溶液注入時のアミラーゼ値

の変動

約0MiSE

90分

50%ブ ドウ糖液 (PH 4.2)注 入 では注入後30分まで

は注入前値に対し最高37±28%の 増加をみたが有意の差

は認めず (0。10<P<0。 25),そ の後は漸減し注入前値に

対し最高24±10%(P<0・ 005)の 減少 を示 した。一方

50%ブ ドウ糖液 OH 3.0)注 入 では変動が大きく,注

入後50分までは注入前値に対し最高40±29%の 増加をみ

たが有意の差は認めず (0。10<P<0.25),そ の後は70分

で注入前値に対し最高38±24%の 減少をみたが有意の差

は認められなかった (0,10<P<0.25)個 11).

D.12%ア ミノ酸溶液注入時の膵外分泌の変動

1. 12%ア ミノ酸溶液 OH 5.5),12%ア ミノ酸溶液

KPH 3.0)注 入時の膵液量の変動

無調製12%ア ミノ酸溶液 CPH 5.5)注 入を5頭 の大

に8回 の実験を行った。注入後20分までは注入前値に対

し最高14±6%(0,025<P<0.05)の 増加をみたが,そ

の後漸減し注入前値に対し最高22±6%(P<0・ 005)の

図12 12%ア ミノ酸溶液注入時の膵液量の変動

減少 を示した。PH 3.0に 調製した12%ア ミノ酸溶液注

入を3頭 の大に5回 の実験を行ったが,膵 液量は注入後

も5%以 内の増滅であり,減 少せずほとんど一定であっ

た (図12).

2. 12%ア ミノ酸溶液 OH 5.5),12%ア ミノ酸溶液

27(143)

図13 1 2 %ア ミノ酸溶液注入時の重炭酸塩排出

量の変動

(PH 3.0)注 入時の重炭酸塩排出量の変動

12%ア ミノ酸溶液 (PH 5.5)注 入では膵液量 と同様

の傾向をとり,注 入後10分に注入前値に対し最高19±9

%(0.025<P<0.05)と 増加したが,そ の後漸減し注入

前値に対し最高26±4%(Pく 0・005)の 減少を示した.

12%ア ミノ酸溶液 CPH 3.0)注 入も膵液量 と同様の傾

向をとり,8%以 内 の増減でほとんど変化 がなかった

Cヨ13).

3, 12%ア ミノ酸溶液 KPH 5,5),12%ア ミノ酸溶液

(pH 3.0)注 入時のアミラーゼ値の変動

12%ア ミノ酸溶液 (PH 5.5)注 入 では,注 入後30分

までは注入前値に対し最高28±16%の 増加を示したが有

意差は認めず (0.10<P<0.25),そ れ以後は漸減し注入

前値に対し最高26±10%(0,025<P<0.05)の 減少を示

した。一方12%ア ミノ酸溶液 KpH 3.0)注 入 では,注

入後40分より増加し注入前値 に対し最高52±20%(P<

0.005)の の増加を示した (図14).

E.脂 質注入時の血清中性脂肪,遊 離脂酸の変動

10%脂 肪乳剤, リノール酸注入時に注入直前,注 入後

塩分,90分 と末梢静脈より採血し血清中性脂肪,遊 離脂

図14 12%ア ミノ酸溶液注入時のア

の変動

ミラーゼ値

MttSE

100

60

20

120100測60

1瞥|二世生4器壁出堂主望|〓控ヲ珊欄

軍鱗ノ酸脇翻

ぎ%畔棚欄|

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28(144) Elemental dietの十二指腸内注入時における膵外分泌 日 消外会誌 12巻 3号

p<0.25)の 上昇をみた.全 ミキ食注入 では注入前値10

0%に 対し注入後45分で209±73%,90分 で211±117%の

上昇をみた.12%ア ミノ酸溶液 OH 5.5)注 入 では注

入前値100%に 対 し注入後45分で151±47%と 上昇した

が,90分 では100±30%と 注入前値 に戻ってしまった。

リノール酸注入 では注入前値100%に対し注入後45分で

104±17%,90分 で131±19%と やや上昇し,10%脂 肪乳

剤注入では注入前値100%に対しま入後45分で114±17%

とわずかに上昇し,90分 では90±19%と 注入前値よりや

や低い値となったが, リノール酸,10%脂 肪乳剤ともに

変動は少なかった.

C.各 種溶液注入時の血清 IRCの 変動

血清 IRCの 変動は田17に示すごとくである。ED(pH

5.2)注 入では注入前値100%に 対し注入後45分で111土

9%,90分 で138±28%(0・ 10<P<0.25)の 上昇をみ

た。50%ブ ドウ糖液 (PH 4.2)注 入では注入前値100%

図17 各 種溶液注入時の血清 IRCの 変動

MttSE

図1 5 脂質注入時の血清中性脂防,遊 離脂酸の変動

i三:|れを化研|」肝『!|=6) MttSE

図16 各 種溶液注入時の血清 IRIの 変動

MttSE

9 0分

酸を測定した。血清中性脂肪は10%脂肪乳剤, リノール

酸注入においてもともにはんのわずかに減少しただけで

あった.し かし遊離脂酸は10%脂肪乳剤注入では45分で

注入前値と変らず,90分 では6± 4%の 減少をみた.一

方リノール酸注入で遊離月旨酸は注入直前値に対し,45分

で18±4%,90分 で20±22%の増加をみた (図15).

F.各 種溶液注入時の血清 IRIの 変動

血清 IRIの 変動 は図16に示 すごとくである。当然

の事 ながら50%ブ ドウ糖液 (pH 4.2)注入 で は注入

前値100%に 対 し注入後塩分 で356±164%(0・01<P<

0.025),9o分で471±242%(0,01<P<0.025)と 大幅な

上昇をみた。ED(pH 5.2)注 入 では注入前値100%に

対し注入後分 で152±41%,90分 で241±101%(0・10<

ED(洲乾何=4)

50%沐ウお撤=5)

リブリレ酸(‖・5)

全ミ告夜(口・4)

7ミ′酸(,H的‖r0

付C/0施崩孝↓朝(1・4)

に対し注入後45分で113±17%,90分 で127±18%(0。10

<P<0.25)の 上昇をみた。リノール酸注入では注入前

値100%に 対し注入後45分で99±19%で あったが,90分

で122±11%(0・10<P<0。25)と上昇した.全 ミキ食注

入では注入前値100%に対し注入後45分で112±14%,90

分で114±13%と上昇した.12%ア ミノ酸溶液 (PH 5.5)

注入は注入前値100%に対し注入後45分で117±26%と上

昇したが, 90分では107±22%ま で減少した。10%脂肪

乳剤注入で は注入前値100%に 対し注入後塩分で94±8

%,90分 で90±16%と次第に低下した。

90分

Triglyceride

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1979年3月

I V ・考 察

1968年 Dudrickが 経中″b静高力Fリ ー輸液を報告し

て以来,そ れを用いて外科手術の術前術後の栄養管理は

飛躍的に向上してきた。一方高力■リー輸液施行におけ

る繁雑さと合併症が問題となっている。それに対し ED

ではとくに重篤な合併症はなく安全かつ簡便に経腸的に

高力Fリ ー (enteral hyperalimentation)3の を 投与でき

る.

経静脈的に各種溶液注入による膵外分泌への効果の報

告は臨床的,実 験的にも多く,古 くは ThOmas ら 3つが

膵外援息者に対し糖液 ・アミノ酸の静脈内注入にて壕孔

よりの膵液の減少を認め Dudrick ら3のは外傷性膵十二

指腸濠の息者に対し IVHが 有効であったことを述べて

いる。また著者ら3り

も慢性膵痩犬を用いて高張糖液およ

び12%ア ミノ酸溶液の経静脈内投与にて膵外分泌の抑制

を認め,ま た急性壊死性膵炎息者に対する有効性を述べ

てきた。

一方 ED注 入においての膵外分泌に関する研究も多

く,VOitkら3つは敗血症 や上部消化管出血 などの合併

症を有する膵炎息者に対し EDに よる治療にて良好な

結果を得,そ れは EDが 胃液,陣 液の分泌を刺激せず

蛋自分解酵素の活性化が最小限に抑制されるためと,各

栄養素が効率よく吸収されるためであると報告し,Hill

ら39は

回腸慶の息者に Chemical17 denned diet投与に

より痩孔よりのトリブシンの減少を認めたと報告してい

る.Raginsら 30は慢性膵濠犬の空腸内に ED(Vittnex_

100)を 60m1/hに て注入し,中 性に近い EDは 膵外分

泌を刺激しなかったと述べている.山 室ら3のはラットを

用 ヽヽて空腸慶よりの ED(Vivonex_100)注 入にて際外

分泌を刺激しなかったと述べている.一 方 WOlfeら 38

は慢性膵痩犬の十二指腸内に EDを 150mvhに て注入

し,膵 液畳と蛋白量が著名に増加し,そ れは ED中 の

アミノ酸によるものではないか,ま た EDヵ ミ十二指腸

粘膜に作用し ChOleCystokinin,pancreozymin(CCK‐PZ)

を放出するのではないかと報告している。しかしこの場

合 1時間 150mlと ぃう速い注入速度も考慮されなけれ

ばならないと思われる。今回の ED注 入では陣液量,

重炭酸排出量,ア ミラーゼ値のいずれも注入前値と比べ

て変動はなく膵外分泌を刺激しなかった。それに対し全

ミキ食,PH 3.0に 調製した ED,0.1%HClは 強い陣外

分泌刺激 を示した.Henriksenら 3りは慢性膵痩大 にて

meat meal摂 取後膵外分泌が増えると報告しており,

Ragins3o,w。lfe3め ら は慢性膵濠大にて希塩酸の腸内注

29(145)

入は強く膵外分泌 を刺激したと述べ,Wayら4いは慢性

膵慶猫にて十二指腸内への胃液の流入は膵外分泌を強く

刺激したと述べており著者の実験結果と一致する。

10%脂 肪乳剤注入では膵液畳,重 炭酸塩排出量は注入

後40分から,ア ミラーゼ値は注入後50分より注入終了時

まで注入前値100%に対しゃや低 ヽヽ値となっているが有

意の差は認めず,膵 外分泌に関しては無刺激であった.

これは10%脂肪乳剤のPHが 中性であり, しかも浸透圧

もほぼ生体と等しいことも大きな一因であろう.リ ノー

ル酸注入では膵液量,重 炭酸塩排出量,ア ミラーゼ値と

もに注入前値より有意 をもって増加した。Meyerら 4り

は慢性膵慶大にて種々の脂肪酸を腸内に注入した結果,

炭素鎖が9つ以下のものでは膵外分泌を刺激しなかった

が,そ れ以上の長さの脂肪酸では膵外分泌を強く刺激し

たと報告している。

脂質注入時の血清脂質の変動では陣液を体外に誘導し

ているため,10%脂 肪乳剤は腸内で分解が遅れると思わ

れるが血清中性脂防,遊 離脂肪酸は変動なく, リノール

酸注入で遊離脂酸の上昇を認めた.

高張糖液腸内注入による膵外分泌 に関する報告は多

く,Raginsら30は

慢性膵痩犬を用いて高張糖液 の空腸

内 60m1/h注入注入にて重炭酸塩 と蛋白の排出を有意

に抑制 したと報告 している.Drapanas4の,schaPir04め,

Lawrence4り ら は慢性陣凄犬を用い,ま た Dyckら 4めは

健常人を被検者として十二指腸内あるいは空腸内に高張

液を One shotで注入して実験を行い,ヽ ずヽれも膵外分

泌を抑制したと述べている。実験者により注入量はやや

異 なるが,高 張液注入 による膵外分泌抑待!のメカニズ

ムヤま dumPing syndrOmによって引き起こされると唱え

る説とそれ以外 のものによると示唆 する説とがある。

DraPanaSら4のは serOtOninが大きな体液性因子として機

能していると述べ,Lawrenceら4ゆは血管収縮と膵臓自体

の血流減少によるものであろうと述べている。SChaPirO

ら4めらは実験中に犬には下痢 とかrtF気などの dumping

症状と思われるものは認められなかったが,膵 外分泌の

抑制には Serotoninも1つの大きな役害」りを果している

であろうと述べている。一方 Dyckら 4ゆは被検者には実

験中に下痢とか「区気などの dumPing症 状と思われるも

のは認められず,膵外分泌抑制のメカニズムは glucattn

を介するものが大きな役割 りを果しているのではないか

と述べている。著者の今回の実験では市販の無調製50%

ブドウ糖液 (PH 4.2)と PH3.0に 調製した50%ブ ドウ

糖液注入ではともに膵外分泌を減少せしめた。50%ブ ド

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30(146)

ウ糖液 は浸透圧が 2,000mOsm/L以 上と高いが,今 回

の実験の注入量は 60m1/hと 前述 の研究者 らに比べて

も少 なく,ま た実験中も下痢 とか嘔気 ・嘔吐 は認 め

られず,50%ブ ドウ糖液注入 による膵外分泌 の減少は

dumPing症 状に起困するとは考えがたい。

アミノ酸の腸内注入 における膵外分泌 に関し Ettan

ら40は

健常人15人に対し8種 類のアミノ酸混合液を注入

したところ膵外分泌を刺激 しこれは経静脈的に CCK‐

PZ注 入による maximum dosc以 上のものであり内因

性 CCKsPZ放 出によるものであろうと述べている。し

かしこのアミノ酸混合液は中性でありしかも等張ではあ

るが,注 入量が 11・4m1/minと 非常に多畳であることが

疑問となる。Meyerら 4つは PH 7.0の L‐フェニルアラ

エンの十二指腸内注入では膵外分泌 を刺激し,D‐フェ

ニルアラニンでは変化なく, また L‐フェニルアラニン

ヤま PH l.3ま での酸性にしてもなお陣外分泌 を刺激 し

たと述べている。Dimagnoら 4めは必須アミノ酸は十二

指腸や空腸内注入にて CCK‐PZを 放出し陣外分泌を刺

激するが,ア ミノ酸吸収後は次第に膵外分泌は減少し,

その減少は血清 glucagonの 増加によるものではないか

と述べている。■方 Raginsら 3のは pHが 中性に近いア

ミノ酸混合液もしくはフェニルアラニン,ロ イシン, ト

リプトファンの混合液を空腸内に注入してもわずかな膵

外分泌刺激しかもたらさないが,そ れを PH 3,5と 酸

性化して注入すると強く膵外分泌を刺激 したと報告して

いる。著者が実験に用いたアミノ酸は市販の静注用アム

ノ酸溶液であり,必 須アミノ酸と非必須アミノ酸比率は

約 1:1の ものである。この12%ア ミノ酸溶液注入にお

ぃて,PH 5.5と 中性に近い無調製のアミノ酸では注入

後10分で注入前値 に対し14±6%の 増加 をみたが,そ

の後漸減し最高22± 6%の 減少 をみた.こ の結果は,

Dimagno ら 4めの報告 と良く一致する。しかし PH 3.0

に調製したものでは膵液量,重 炭酸塩排出量は変らず,

アミラーゼ値のみ増加した。これはアミノ酸の何らかの

膵外分泌抑制のメカニズムが十二指腸内ノ酸性化により

内因性 CCK‐PZが 放出され相殺されたのではないかと

考えられる。また12%ア ミノ酸溶液 の浸透圧は 1,200

mOsm/Lで ぁり,ED(PH 5。 2)で は500~1,100mOsm/L

とやや範囲は広いが,両 者は近いところにあるにもかか

らず EDに 膵外分必抑制作用がないことは,EDが 標

準希釈の場合アミノ酸を約4.7%し か含 まずそのアミノ

酸含有量の差によるものと思われる。

各種溶液注入時における IRIの 変動であるが,50%

Elemental dietの 十二指腸内注入時における膵外分泌 日 消外会議 12巻 3号

ブドウ糖 OH 4.2)注 入 では多くの報告にみられると

同様の結果を示し,今 回使用した EDに もブドウ糖は

22.6%含 まれ,ま た全 ミキ食にも庶糖などが当然含まれ

ており IRIの 上昇は当然の結果と思われる。12%ア ミ

ノ酸溶液 (PH 5.5)で は注入後45分にやや上昇したが,

90分には注入前値に戻っている。これは12%ア ミノ酸溶

液中の giucogenicなアミノ酸が少ないためと思われる。

リノール酸,10%脂 肪字L剤注入では IRIは ほとんど変

化しなかった。

glucagonに関する研究は1959年 Ungerら により免疫

学的ull定法 が開始 され,1969年 に Unger ら による膵

glucagon特異抗体 (30‐K)の 作成以来盛 んになってき

た。各種溶液注入時の IRCの 変化に関し Ohnedaら 4め

は大の十二指腸内にアミノ酸混合液 を注入し,そ れが

際 gluCagOn分 泌を刺激し, しかもそのうち測定可能な

量の glucagon iike immunoreactivity“ょ含まれていな

かったと述べている.Dyck ら 4Dは健常人に対し十二指

腸内への高張糖液注入によって陣外分泌が抑制されそれ

と同時に IRCヵ 上ヽ昇し,膵 外分泌抑制は glucagonを

介するものではないかと述べている。DimagnOら は上

部小腸への必須アミノ酸注入にて膵外分泌が減少するの

は,吸 収 されたアミノ酸 が glucagonを 放出しそれに

よって際外分泌 が減少 するのであろうと述べている。

Rochaら 5のは各種アミノ酸の glucagonに対する刺激効

果をみるため経静脈的にアミノ酸を負荷したところ,ア

スパラギン酸が最も強い刺激を示し,つ ぎにグリシン,

フェニルアラニンなどが続くと述べている。一方1948年

に Sutherlandらい)により陣臓以外に胃粘膜,小 腸にも

glucagon様 物質があることを報告して以来陣外 gluca_

gOnに 関する研究も盛んになってきた。Orciら 3のは電

顕にてラット消化管に膵α細胞に類似した分泌類粒をも

つ細胞を認め,Sasaki5め は 豚十二指腸 からの抽出物に

て IRCと 交叉反応を示し分子量 3,500の膵 glucagOn

と区別できない物質 を発見しており,そ れは生物活動

も 摯 ucagOn と 差 がなかったと報告している。Vranic

ら50は

際全摘犬にて術後膵 glucagOnに 非常に特異的な

抗体と反応する glucagOn immumreactivitァが増加し,

それは insulin欠乏により引き起こされ陣臓以外での過

度の IRCの 産生 によるものであろうと述べている。

しかし人間での膵全摘後の IRGの 結果 は一致せず,

Palmer5け ゃ Botha50 らは全摘後特果抗体と反応する

IRGの 存在を認めているが,Barnesら5のは全摘後は空

腹時もアルギニン負荷後も IRCを 検出できなかったと

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1979年3月

述べている。著者 の今回 の実験でヤ海0%ブ ドウ糖液,

12%ア ミノ酸溶液注入においても有意のある変化は認め

られず,膵 外分泌抑制に対する glucagOnの関与を示唆

するような成績は得られなかった。

V ・ 結 憶

慢性膵慶犬を用いセクレチン持続刺激下に各種溶液を

十二指腸内に注入し膵外分泌の変化を観察した。

1. 中性に近い ED(PH 5。 2)に 注入 では膵外分泌

に対し無刺激であった。

2. PH 3.0に 調製した EDぉ ょび 0.1%HCl注 入で

は強く膵外分泌を刺激した。

3。 10%脂 肪乳剤注入では膵外分泌に対し無刺激であ

ったが, リノール酸注入では強く膵外分泌を刺激した。

4. PH 4.2ぉ ょび pH 3.0の 50%ブ ドウ糖液注入で

は両者ともに膵外分泌を抑制した。

5.PH 5.5の 12%ア ミノ酸溶液注入では膵外分泌を

抑制したが,pH 3.0に 調製したものでぎ抑制効果を示

さなかった。

6. 末 梢血 IRI ャま注入後90分にて50%ブ ドウ糖液

(PH 4.2),ED(PH 5.2),全 ミキ食, リノール酸,12

%ア ミノ酸液 OH 5.5),lo%脂 肪乳剤 の順 に上昇し

た。IRCは 膵外分泌 に対する一定 の傾向 は得られな

かった。

稿を終るにあたり,ご 指導とご校閲を頂いた佐藤博教

授に感謝する。また終始ご指導ご鞭撻を頂いた小越章平

講師,筑 波大学臨床医学系竹島徹講師に深甚の謝意を表

するとともにご協力頂いた研究室諸兄に感謝する。

なお本論文の要旨は第14回術後代謝研究会,第 78回日

本外科学会総会において発表した。

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