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金型って何?
第 章1
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新谷は約1カ月間の新入社員研修を終えたのもつかの間、早く製品設計の戦力になってほしいという掛橋部門長の要請もあって、早速OJT(On the Job Training)で実戦に入ることとなった。新谷の会社はコンポーネント系の応用電子製品を製造販売しており、彼は新製品の構成部品を設計担当することとなった。掛橋からは金型設計を担当する型山と良く打ち合わせて設計を進めるようにとのアドバイスがあった。
型山さん、今お時間よろしいですか。
おおっ、来たか。今年の新人がそちらへ行くからよろしくとの連絡を受けたばかりだよ。
このたび製品設計に配属となりました新谷と申します。早速、新製品の立ち上げに関わることになり、構成部品の設計を担当することになりました。どうぞよろしくお願いします。
こちらこそ、よろしく。納期が厳しいと聞いているので早速本題に入ろう。早速だけど君が担当する製品図面はあるかい?
はい。これが今回の製品図面(図1)です。お客様からきているデザイン図や要求仕様をもとに、製品図面へ盛り込んでいる最中なので、まだ完成はしていないのですが。
いや、完成してなくてもいいんだ。逆に言うとこのレベルの仕様情報でも早い段階で教えてもらえると、製品に関する知識が得られて、どのような金型をつくれば良いかの全体構想を練ることができる。金型設計としては大いに助かるんだ。ところで君は「金型」のことはどれくらい知っているのかな。
「パーティング」って何?1.1
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1.1 「パーティング」って何?
恥ずかしながら、ほとんど知りません。
そうか、でも恥ずかしいことではないよ。金型設計をしている私だって入社当時は知らなかったのだから。しかし、これから製品設計をしていくうえでは、自分が設計した部品図面で金型がどうつくられ、部品がどう成形されるのかを知ることは非常に重要だよ。今回、射出成形で部品製作をすることになると思うので、一連の流れを説明しておこう。
よろしくお願いします。
射出成形の加工法のイメージを一言でいうと「材料を溶融して、流し
図1 製品図面
80
50
3-20
30 10
30
20
A AR3
R3R3
R5
R3
R3
SEC A-A
(単位:mm)
①
②
本製品は、部品①と部品②からなるものである。MATERIALNAMEDESIGN
ABSPRODUCT DRAWING2009.5.11 S.SHINTANI
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て固める」。まず材料。これは製品設計が図面指定したものだ。今回の材料はABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)と呼ばれるプラスチック材料。実際の材料は「ペレット」と呼ばれる粒状のもので、これをホッパから投入する(図2)。 次は溶融。射出シリンダーに入った材料は、高温に熱せられスクリューで撹拌されてドロドロの高温流体となる。最後に流して固める。溶融材料を射出シリンダー先端のノズルから高速・高圧で金型内へ注入する。金型の温度は溶融材料の温度よりも低いため、注入された材料は冷却されて固まる。
その固まったものが、部品というわけですね。
そのとおり。金型はキャビティ型(固定側)とコア型(可動側)で構成され、双方の金型を開くことで中の部品を取り出すんだ(図3)。キャビティ型とコア型にはそれぞれ形状が彫り込んであって、この形状にならって材料が固まり部品形状となる。キャビティ型とコア型の
図2 射出成形法の概要
③材料(冷却→成形固化)
キャビティ型(固定側)
②材料(高温→溶融状態) ①材料(ペレット状態)
ホッパ
スクリュー前進射出
スクリュー後退
ノズル
コア型(可動側)
<形閉じ状態>
<形開き状態>
成形品(離型して落下)
射出シリンダー
スクリュー
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1.1 「パーティング」って何?
形状をどのようにするかは、部品仕様に関わる非常に重要なことなんだ。金型仕様の打合せでは製品機能や性能までを考えて、まず初めに金型の「パーティング」仕様を決めることになる。
すみません、その「パーティング」って何ですか?
あっ、そうか。これはまだ専門用語だったよな。では簡単に説明しよう。パーティングとは金型をキャビティ型とコア型に分割することなんだ。分割してできる面をパーティング面といい、具体的には部品図面でパーティング・ライン(P.L.)として指定する。製品設計がどんなに詳細に部品形状を描いても、P.L.指定を間違えるとできた部品の仕上がりは大きく異なってしまう(図4)。それゆえ製品設計は、製品および部品形状の設計意図を金型設計に明確に伝えながら、パーティング仕様の決定に当たらなくてはならないんだ。
部品形状が同じでも、P.L.指定1つでまったく違うものとなってしまうんですね。今回の部品は外観品となるので、A案では外観に線が入ってしまうのでだめですね。そこでB案で金型をつくることになります
図3 キャビティ型とコア型と成形品形状
キャビティ型
コア型
キャビティ型
コア型
キャビティ型
コア型
キャビティ型
コア型
キャビティ型に彫り込まれた形状が転写する(太線部)
<成形部品>
コア型に彫り込まれた形状が転写する(太線部)
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よね。
どうだあ。設計は順調に進んでいるか? 見たところ密にコミュニケーションをとって進めているようだな。「パーティング」仕様の検討か。では、私からも1つ形状例を出すから考えてみてほしい。部品(図5)は、つばのある帽子のような形状だ。この場合のパーティング仕様
(C案、D案)(図6)の違いについて考えてごらん。
先ほどの例と同じに考えて、キャビティ型に外観形状をすべて彫り込むタイプのC案でいいんじゃないかなぁ。D案のようにわざわざつば形状をコア型に彫り込む必要もないと思うのですが。
製品設計がC案のようなパーティング仕様を指定してきたら、金型設計としてはその仕様を承諾するわけにはいかないなぁ。
えっ。どうしてですか? 外観仕様はキャビティ型で形成するのではないのですか?
図4 パーティング面(A案、B案)と成形品の外観品位
パーティング面の位置
P.L(パーティングライン):2次元図面において、パーティング面を設定する位置を指示するもの
金型の略形状 成形品の外観品位
分割線バリ
分割線なし
キャビティ型
コア型
コア型
キャビティ型
コア型
A案
B案
P.L.
P.L.
キャビティ型
キャビティ型
パーティング面
パーティング面パーティング面
コア型
コア型