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1 原子力の安全規制システム:経済性、安 全性、社会信頼性の向上を目指して 「科学技術と社会安全の関係を考える市民講座: 科学技術と規制を考える」 2008111鈴木達治郎 (財)電力中央研究所 社会経済研究所 研究参事 東京大学公共政策大学院 客員教授(兼務) [email protected]

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原子力の安全規制システム:経済性、安全性、社会信頼性の向上を目指して

「科学技術と社会安全の関係を考える市民講座: 科学技術と規制を考える」

2008年11月1日

鈴木達治郎 (財)電力中央研究所 社会経済研究所 研究参事 東京大学公共政策大学院 客員教授(兼務) [email protected]

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目次

 背景と問題意識   安全性、経済性、社会信頼性を同時に達成できる安全規制システムとは?

 安全規制「システム」の改革:日米比較   運転・再開規制の比較   自主民間規制機関の比較   規制当局の独立性の比較

 日米比較からの示唆

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背景と問題意識(1)

 原子力安全規制システムは、社会の要請により変遷してきている   自由化市場で原子力の安全性は維持されたか   米国安全規制システムはどう変わってきたか   日本の安全規制システムはどう変わってきたか   安全性に関わる社会合意はどう形成されるか

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背景と問題意識(2)

 米国の原子力パフォーマンス改善と安全規制の合理化はどのように同時達成されたか?

 産業界自主規制機関の運用実態は?どのようにして産業界、規制機関、専門家、NGOなどから信頼を得られるようになったのか?

 政府規制機関の「独立性」とは?  日本との相違点、学ぶべきことは何か?

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米国航空機事故率の推移 Table 10. Accidents, Fatalities, and Rates, 1987 through 2006, U.S. General Aviation

Year Accidents Fatalities

Accidents per 100,000 Flight Hours

All Fatal Total Aboard Flight Hours All Fatal 1987 2,494 446 837 822 26,972,000 9.18 1.63 1988 2,388 460 797 792 27,446,000 8.65 1.66 1989 2,242 432 769 766 27,920,000 7.97 1.52 1990 2,242 444 770 765 28,510,000 7.85 1.55 1991 2,197 439 800 786 27,678,000 7.91 1.57 1992 2,111 451 867 865 24,780,000 8.51 1.82 1993 2,064 401 744 740 22,796,000 9.03 1.74 1994 2,021 404 730 723 22,235,000 9.08 1.81 1995 2,056 413 735 728 24,906,000 8.21 1.63 1996 1,908 361 636 619 24,881,000 7.65 1.45 1997 1,844 350 631 625 25,591,000 7.19 1.36 1998 1,905 365 625 619 25,518,000 7.44 1.41 1999 1,905 340 619 615 29,246,000 6.50 1.16 2000 1,837 345 596 585 27,838,000 6.57 1.21 2001 1,727 325 562 558 25,431,000 6.78 1.27 2002 1,715 345 581 575 25,545,000 6.69 1.33 2003 1,740 352 633 630 25,998,000 6.68 1.34 2004 1,619 314 559 559 24,888,000 6.49 1.26 2005 1,669 321 563 558 23,168,000 7.20 1.38 2006 1,515 303 698 538 22,800,000 6.64 1.32

Source: Federal Aviation Agency (FAA), Accidents, Fatalities, and Rates, 1987 - 2006, U.S. General Aviation http://www.ntsb.gov/aviation/Table10.htm

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89.6

40

50

60

70

80

90

100

1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006

U.S. Nuclear Industry Capacity Factors 1971 - 2006

Source: Global Energy Decisions / Energy Information Administration

Updated: 10/07

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U.S. Nuclear Refueling Outage Days Average

104 106

8895 92

66 6681

5140 44

37 3340 42 38 39

1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006

Source: 1990-98 EUCG, 1999-2006 Energy Velocity / Nuclear Regulatory Commission

Updated: 1/07

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ISAR = Number of accidents resulting in lost work, restricted work, or fatalities per 200,000 worker hours.

Source: World Association of Nuclear Operators Updated: 4/07

U.S. Nuclear Industrial Safety Accident Rate One-Year Industry Values

0.23

0.17 0.17

0.21

0.18 0.17

0.12

0.200.22

0.26

0.38

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2010 Goal

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0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

Coal - 2.37Gas - 6.75Nuclear - 1.72Petroleum - 9.63

2006

U.S. Electricity Production Costs 1995-2006, In 2006 cents per kilowatt-hour

Production Costs = Operations and Maintenance Costs + Fuel Costs

Source: Global Energy Decisions Updated: 6/07

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自由化市場下の安全性確保

  コストダウンと安全性両立は自動的には起こらない   安全規制体制の変更と合理化

  米国FAA:規制緩和と同時に独立官庁へ   米国NRC:リスク・インフォーミング規制   内部告発者保護制度も重要な役割

  自主規制体制の強化と効率化   米国INPOの役割:監査機能をもつ自主規制   NSネットへの期待

  透明性と第三者機能が鍵

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米国原子力安全規制体制の概要

 連邦政府原子力安全規制委員会(NRC)   規制権限をもつ唯一独立の機関

 原子力発電運転者協会(INPO)   原子力発電所所有電力会社が創設した自主安全監査機関

 米国原子力協会(NEI)   原子力産業界の広報・政策提言機関

 全米機械学会(ASME)   原子力に関する維持基準等の民間規格を設定

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安全規制比較(1) :停止・再開の安全規制

 米国のROP (Reactor Oversight Process)   90年代に確率論的安全評価(PSA)を導入   2000:パフォーマンス・ベースのROPを導入

  PI (performance indicator)ー運転者からの報告   安全防護、原子炉安全性、放射線防護などの指標で評価

  NRC検査官による検査

  比較結果を4段階(緑、白、黄、赤)の4段階で評価   黄の段階→CAL (Confirmation Action Letter)送付   事業者は自発的にプラント停止   赤の段階→強制停止

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安全規制比較(1) :停止・再開の安全規制

 米国運転再開のプロセス   停止中はIMC-0350(NRC Inspection Manual

Chapter 0350)が適用される   運転再開監視パネル(IMC-0350 Oversight Panel)が監視項目を決定、チェックリスト(Restart Check List)、活動ごとの主体を規定したプロセス計画を作成   パネルはNRCの地域局長が設置、NRCスタッフにより構成   パネル議長は州政府、自治体との対話に努力   再開の権限はNRC地域局長にある   プラント再開後も、パネルはパフォーマンス回復まで監視(その監視プロセスにはROPが適用される)

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安全規制比較(1) :停止・再開の安全規制

  日本運転停止規制   原子炉等規制法、電気事業法、経済産業大臣通達などの規制で規定。自主保安規定もある。

  トラブルについては、地元自治体、規制当局に連絡義務、運転停止には自主的判断でとめる場合も含む

  再開まで   異常停止事例(1966~2002):609件   国際原子力事象評価尺度(INES)で「異常な事象」は29件   再開までの期間:数日~3年8ヶ月   長期にわたったケース(6件)

  原子力発電技術顧問会、原子力安全・保安院タスクフォースが検討   地元の「原発安全対策協議会」の審議などで検討

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「異常な事象」:運転再開までの日数 1966~2002年

自動停止 手動停止 自動停止 手動停止 自動停止 手動停止

3

2 2

1 8 4 3

3 1*

2 1

1 1 2*

- 1*

3

2 1

1 2 1

3

2

1 1

11 6 1 4 2 4

注:*印は、原子力発電技術顧問会もしく は原子力安全・保安院内タスクフォースの案件であったことを示す。

短期間(~90日)

5

建設→トラブル→運転開始

6

中期間(~180日) 長期間(1 80日超)

トラブル発生から運転再開までの概略日数

期間・ 停止方法別合計

表2. 5 「異常な事象」 に類するトラブルの整理

期間別合計

レベル運転再開までのパターン

トラブル→運転再開

トラブル→定検→運転再開

定検→トラブル→運転再開

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安全規制比較(1) :停止・再開の安全規制(日米比較)

 日常的運転管理規制に相違   日本:トラブル報告に細かい規定、ただしトラブル情報の判断についての基準はあいまい

  米国:ROPによりリスク情報に基づく規制が徹底

 再開までのプロセスに相違   日本:再開にいたるまでのプロセスが曖昧   米国:IMC0350で明確に規定、再開決定権限も明確(地方自治体の意見、意思決定への参加プロセスも明記)

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安全規制比較(2):民間自主規制機関 米国原子力発電者協会(Institute for Nuclear Power Operators: INPO)

  歴史と概要   1979年TMI事故調査委員会の提言受け入れ   原子力産業界全体のパフォーマンス向上(”standards for

excellence, beyond regulatory requirements”)を目的に1979年12月設立。

  組織体制   原子力発電所を所有する電力会社全56社が参加。

  メーカー、エンジニアリング会社、保険会社(NEIL)も参加

  理事会メンバーは電力会社のCEO。   諮問評議会には非原子力の専門家(航空、化学、海軍、経営組織、心理学、健康・保険など)が参加

  PR機関ではない。原子力広報はしない。   「メンバー以外は誰もその存在を知らないような組織が目標」

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INPOの組織図

約14人 25人未満 約40人 約40人 約60人 80~100人

機器信頼性s サポート評価s 支援s 訓練・認定s 事象分析s

理 事 会

会 長(CEO)

国際s

情報交換委員会 国際諮問委員会

諮問委員会

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INPOの運用実態とその特徴(2)

INPOの主要プログラム

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INPOの運用実態とその特徴(2)   評価プログラム

  常に改善を目指す「安全文化」(秀逸性基準)で評価   各プログラム毎に5段階評価。報告書はCEOのみに通知。メンバー以外には非公開。

  評価はNEIL保険料算定の「参考資料」   「優秀」「良」は最大10%保険料に差   「標準以下」にはペナルティ

  評価体制   組織、運転、信頼性、化学、放射線防護などの専門家と電力会社の技術者によるチームが評価

  事前評価に1週間、オンサイトで約8週間   最終的な評価は、INPO重役メンバーが投票で決定

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INPOの運用実態とその特徴(3)

  事象分析・情報交換プログラム   運転情報のデータ集積(非公開)とその分析   事象の分類:「重要事象通知(SEN)」「重要事象報告(SER)」「重要運転経験報告(SOER)」   全2,660件(SEN 11件、SER 6件、SEOR2件)[2003]   メンバー、NRCに通知される。

  SOERが最重要   年1~2件のSOER   全ての電力会社が対応を義務付けられている

  機器信頼性データベース(EPIX)   Equipment Performance and Information Exchangeと呼ばれる機器・設備故障のデータベースは、確率論的安全評価(PSA)に重要

  非公開(cf. NRCのLicensee Event Report(LER)は公開)

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INPOの運用実態とその特徴(4)

 NEI(Nuclear Energy Institute)との関係   INPOは規制改善にむけての分析はするが提言・交渉はしない

  産業界として意思統一を図り、政府にむけて提言・交渉する機関が必要

  1987年、Nuclear Management Resources Council (NUMARC)を設立

  1994年、NUMARC、US Council of Energy Awareness (広報機関)、EEI Nuclear Div.(電力業界団体)が合併してNEIを設立

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INPOの運用実態とその特徴(5)

  NRCとの関係   Memorandum of Agreement (覚書)を締結

  運転経験データの交換   検査および評価活動   訓練・教育活動   NRCの事故調査チームへの参加

  公式には年1回の公開会合を開催  会合には誰でも参加することができる

  各専門家レベルでは、ほぼ毎週のように電話で情報交換を実施、年1回非公開のスタッフ会合

  INPOのデータは非公開であるため、NRCはINPOのデータを用いての規制権限発動は行わない

  長年の交流や活動を通じて、INPOを信頼

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INPOに対する評価   産業界内部

  当初は内部にも懸念   「二重規制ではないか?」「原子力でない専門家に評価ができるのか?」「規制の合理化につながるのか?」

  現場のパフォーマンス改善に伴い、評価高まる   NRC

  当初は懐疑的。データの蓄積やその分析を通じての意見交換を通じて、専門家としての評価を高める

  NGO   データが非公開であることをもっとも憂慮。訴訟もおこすが、敗訴。

  現在は、EPIXデータへのアクセスを主張(PSAの信頼性に関わる)。しかし、全般としては専門家として評価されている

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日本の自主規制体制

  1979年TMI事故の教訓に基づき、原子力発電情報の共有を目的に「原子力情報センター」を(財)電力中央研究所内に設置(1983)

  1999年、JCO臨界事故の教訓から、核燃料施設も含めた安全文化向上のための組織「ニュークリアーセーフティネット(NSネット)」を設立。

  不祥事が続き、国民の信頼感回復を目的に、運転情報の全面公開:「原子力発電情報公開ライブラリー(NUCIA)」が運用開始(2003)

  2005年、日本版INPOを目指して、日本原子力技術協会を設立(上記2機関を統廃合)

  2006年、日本版NEIを目指して、日本原子力協会設立 (日本原子力産業会議を改組)

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NUCIAの活動概要

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日本原子力技術協会のミッション

①運転情報の収集・分析・活用 ②民間規格の整備促進 ③安全文化の推進 ④技術力基盤の整備 ⑤原子力技術者育成・維持

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日本原子力技術協会の概要

科学的合理的データに基づき、ベストプラクティスを追及し、世界最高水準のパフォーマンス達成を支援

原子力産業界

運転経験に基づく科学的・合理的な運用ルールの適用を働きかけ

安全規制機関

民間規格策定

活動を支援

学 協 会

公開・第三者評

一般社会

日本原子力技術協会

情報収集・分析・活用 ○電力中央研究所・原子力情報センターの活動をベースに改善○専門家によるデータに基づく分析

と勧告の実施および公開

安全文化の推進 ○NSネット活動をベースに改善 ○外部を含めた専門家を加えての適切な評価の実施および公開

民間規格の整備促進 ○法律は性能規定化、詳細は民間規格という流れの中で整備に膨

大な作業が必要 ○具体的整備計画と必要な資源を明確にすることにより着実かつ効率的整備促進を実現

技術者の維持・育成

(将来構想)

 専門性・持続性のある技術力基盤の整備(シニアエンジニア、独立コンサルタントとの知的ネットワークなども順次構築)

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民間自主規制:日米比較

  米国INPOは、パフォーマンスの向上を目的とした「自主規制」(権限委譲をもつ)機関であり、社会への説明責任は目的ではない   厳しい監査とインセンティブ   情報公開は十分ではない

  日本原子力技術協会は、同様の目的を持つが、社会への説明責任達成を主要目的としている点が大きな違い   自主規制権限は持っていない   情報はすべて公開している

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安全規制比較(3):独立性担保 米国原子力規制委員会Nuclear Regulatory Commission (NRC)(1)

  1974. 原子力委員会(Atomic Energy Commission:AEC)が廃止されて成立   AECに集中していた推進と規制の権力を分割

  使命:原子炉・核物質・核廃棄物からの放射線に対し、公衆の安全保障、健康・安全、環境を保護すること   Atomic Energy Act of 1954 (amended)   Energy Reorganization Act of 1974 (amended)   Nuclear Waste Policy Act of 1982 (amended)   Diplomatic Security and Anti-Terrorism Act of

1985 など多くの法律で、その活動が規定されている

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米国原子力規制委員会 Nuclear Regulatory Commission (NRC)(2)

  組織・体制   5人の委員で構成、委員は大統領が上院の勧告・同意を経て任命。委員長は大統領によって任命

  地方局が4都市(Philadelphia, Chicago, Arlington, Atlanta)にあり、各地域の原子力施設の検査・規制の執行に責任をもつ

  2003年7月に運営総局次長(国土防衛・緊急対応担当)、原子力安全確保・事故対応室が新設

  職員:2,985人(1998年現在)   原子炉規制室(600名)

  年間予算:5~6億ドル。運営費は主に手数料として各電力会社が負担(総費用の約90%)。2005年度は、一社当たり300万ドル/年。

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NRCの「独立性」について

  NRC「適正な規制の原則」に「独立性」の記述

ー 「規制に影響を与えるものは,可能な限り最高水準の倫理的遂行能力及び専門性をおいてない.ただし,独立性には孤立という意味は含まれない.すべての入手可能な事実及び意見を,許認可取得事業者及び一般国民のその他の利害関係者から率直に求めなれればならない.それに関わる多数の相反する恐れがある公益を考慮しなければならない.最終決定は,すべての情報の客観的で公平な評価にもとづいたものでなければならず,十分な根拠に基づいた記述をもって文書化されなければならない.」

  2つの「独立性」   政治的独立性:行政府(政権)・議会(政党)からの独立性   技術的独立性:民間組織・他の技術機関からの独立性

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NRC「政治的独立性」(1)   連邦議会との関係

  連邦法の下、議会により設立されたので、行政府からは「独立機関」の位置づけ(後述)

  任命権は大統領だが、上院が同意する必要   政党の影響力:同一の政党からは3名以下

  予算の承認権   例・1998年ミルストン原子力発電所規制をめぐる事件

  強化しすぎた安全規制に対し、産業界からNRC歳出削減の要望→上院が予算削減を実施

  議会の調査権限   例:1991年GAOによる調査報告「NRCとINPOとの関係は適切でない」→「透明性確保のため、INPOとは独立して安全性確保のための通告を発行すべき」

→政権・政党からの「独立性」はある程度担保されているが、一定の限界もある。連邦議会の影響力は強く、あるいは議会を通しての圧力団体の影響力は避けられない

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NRCの「政治的独立性」(2)   政権との関係

  大統領が委員の任命権、委員長の交代人事権を持つ(ただし、解任は違法行為など特別の理由がない限り行使できない)

  行政管理予算局(OMB)による監査:NRCを対象にした監査は一度も実施されていない(レーガン政権で試みたが、NRCが拒否)

  エネルギー省(DOE)との関係:施設の許認可権限を持つ(軍事用は別)   被規制事業者との関係:被雇用者への制約

  NRC委員の兼職禁止   電力会社株式保有、被規制事業者からの収入、食事や旅行など接待の禁止   被規制事業者には大学も含まれているため、大学研究者・専門家はしばしば問題になる

  退職直後に被規制事業者への就職制約(就職してもよいが、電力代表者となるには2年間の猶予が必要)

→政権もそれなりの影響力はもてるが、制約は強い。被規制事業者との独立性には厳しい配慮がされている

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NRCの「技術的独立性」 ー被規制機関には依存しない

  民間自主規格機関(学会など)、産業界自主機関などとの関係   ASME(全米機会学会)の民間基準決定プロセスにも専門家として参加し、意見を述べる

  NRCの規制として導入する際には、独自の評価を実施してから採用

  INPO(米原子力運転事業者協会)の非公開情報:安全性に深刻な影響があると判断すれば、提出要請。INPOからの報告の独自分析を実施。

  DOEユッカマウンテン処分場の許認可   信頼性分析は、DOE国立研究所に依頼せず、南西部研究所核廃棄物規制分析センターにて独自に分析

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日本の原子力安全規制

  1974年、原子力船「むつ」放射線漏れ事件を契機に、75年原子力行政懇談会(有沢広巳教授座長)が首相の下に設置された。

  76年に原子力行政体制の改革を提言   原子力委員会から安全規制を分離し、安全委員会を設置。規制官庁の安全審査を「ダブルチェック」する

  公開ヒヤリングの実施

  1978年原子力安全委員会設立   2001年中央省庁再編で「原子力安全・保安院」設立、原子力安全委員会は内閣府へ移動。独自の事務局を設置。

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原子力安全委員会・保安院の「独立性」

  安全委員会「決定の尊重」   「ダブルチェック」による規制官庁への監査権限   内閣総理大臣は安全委員会の決定を尊重   内閣総理大臣を通じて関係行政機関に勧告権

  2002年、東電不正事件の際、信頼回復のため、経済産業省に対し、初めて勧告権を行使。

  原子力安全・保安院   資源エネルギー庁の「特別機関」で、「独立性」を重視   行動規範

  「強い使命感」「科学的・合理的な判断」「業務執行の透明性」「中立性・公正性」の四つを行動規範

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原子力安全・保安院の組織

(定員) 合計:803名 本院:443人 (原子力保安検査官、原子力防災専門官

及び原子力安全研修担当職員含む)

監督部等:360人 平成19年10月現在

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(独)原子力安全基盤機構(JNES)の役割

  2002年3月閣議決定「公益法人に対する行政の関与のありかたの改革実施計画」   原子力安全行政事務について「被規制者からの独立性・中立性の確保を図りつつ、更なる効率的・的確な実施を図る」ための組織設立を提言

  2003年、原子力安全行政の実施専門機関として設立   安全性の解析、評価を独自に実施   民間事業者の安全解析を独自に評価

→「技術的独立性」の確保に向けての一歩

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「独立性」に対する不安・疑問

 民主党『原子力の安全性に関する検討委員会』最終報告(2003/07/16)

提言1:独立した3条機関設置による安全規制体制の強化

「昨年の不正事案の根本的要因は、推進機関と規制機関を明確に区分せず、緊張感無き原子力行政を放置し続けてきたことにあり、民主党がかねてより提唱してきた独立した安全規制機関の早期設置が不可欠です」

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安全規制比較:独立性の担保

  米国の「独立性」担保   法制度により「政権からの独立性」「他省庁との独立性」は担保。一方で議会からの制約は強い。

  技術的独立性の確保にも重点。独自の技術評価能力を抱える。   被規制事業者との「独立性」は厳しく担保されている。

  日本の「独立性」担保   制度的な「政治的独立性」はかなり担保されてきているが、実態として機能にはまだ不安がある

  「技術的独立性」は、改善されつつも米国に比べ不十分   特に「被規制事業者」からの「独立性」が不十分

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日米比較からの示唆(1)

  リスクベース規制とパフォーマンス   市場の自由化にあわせて、合理的な規制の導入が必要   運転再開へのプロセス明確化も重要

  自主規制のあり方と産業界のインセンティブ   米国;パフォーマンス向上にむけての企業トップのコミットメントが大   INPOの「監査(独立の評価)機能」が効果をもたらした。   自主規制の効果を挙げるにはこの「権限委譲」が必要。   産業界のインセンティブも存在(ex. 保険料とのリンク)

  安全情報の公開の在り方   日本では社会信頼醸成を目的に全て公開   米国ではパフォーマンス向上を目的に非公開   「安全情報」の目的を明確にして情報公開の判断を明確にすべき。

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日米比較からの示唆(2)

 規制体制の変遷は、米国先行だが日本も似たような経緯をたどる   「効率性」「独立性」「実効性」の担保が大きな課題

 米国のNRCが持つ機能を、日本は複数の機関が分担。規模は米国NRCに匹敵する程度となった。   NRCは集中した機能を持つ巨大組織   保安院・原子力安全委員会・安全基盤機構の3者でほぼ同じ規模と機能を担う

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日米比較からの示唆(3)

 原子力の社会的信頼性を確保すべく、日米において原子力安全規制は変遷を遂げてきた。

 その鍵になるのが「独立性」の担保である。   「独立性」には「政治的独立性」と「技術的独立性」の両方を担保する必要がある。

  特に「被規制事業者」からの独立性が重要と思われる。

 特に「技術的独立性」を高めていくことが日本にとっては重要である。