新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』に対する Evaluation of bonding properties of self-adhesive resin cement to new glass ceramics Initial LiSi Press. ○菅原 彩香, 福島 庄一, 熊谷 知弘 P-8 株式会社ジーシー 目的 材料 方法 近年,審美性への要求やメタルアレルギーの観点から,オールセラミックス修復に対する関心が高くなり,ガラスセラミックスの市場が急速に拡大している。 ジーシーでは新たにプレス用リチウムシリケートガラスセラミックス,『イニシャル LiSi プレス』 が開発された。 本製品は高密度に微細化した LDS 結晶 ( リチウムダイシリケート ) を持つ ことにより,高い審美性と耐久性を兼ね備えているだけでなく,埋没材 『LiSi プレスベスト』 と併用することにより,従来の複雑な反応層除去操作が不要となる新しいシステムを導入 している。 本研究ではイニシャル LiSi プレスに対するセルフアドヒーシブレジンセメント,『ジーセム リンクエース』 の接着性能を様々な表面処理方法にて評価し,イニシャル LiSi プレス に対する最適な処理方法を検証した。 表 1. 使用した材料 【接着試験】 結果及び考察 まとめ 図 1. イニシャル LiSi プレス 図 2. ジーセムリンクエース 材料及び方法 図 3. セラミックプライマーⅡ 【反応層の除去】 プレス 掘り出し ガラスビーズ ブラスティング フッ酸処理 アルミナサンド ブラスティング 調整・仕上げ プレス 掘り出し ガラスビーズ ブラスティング 調整・仕上げ 15~20分の短縮 従来品のステップ 新システムのステップ (LiSi プレスベスト使用 ) 図 4. LiSi プレスベスト 新システムの LiSi プレスベストでは,ガラスビーズブラスティングのみで反応層の除去が可能となり,従来必要とされてきたフッ酸処理 ・ アルミナサンドブラスティングが不要となっている 被着面にセメントを塗布し, ステンレスロッドで圧接 フッ酸処理有り/フッ酸処理無し + プライマー処理有り/プライマー処理無し 被着面はφ3 mm (100 µmテフロンシール ) 37℃ 水中に 24 時間浸漬後 (0TC) , また は5-55℃/5000回サーマルサイクル後 (5000TC)に 引張接着強度試験を行った (n=5) 【フッ酸処理】 フッ酸による処理なし (無処理) または 5% フッ酸 20 秒処理後に注水 ・乾燥 (HF処理) 【プライマー処理】 シランカップリング材による処理なし セラミックプライマーⅡによる処理 (プライマー処理) 【被着面条件】 #1500 研磨面 ② 従来品のステップ 反応層除去面 ③ 新システムのステップ 反応層除去面 15 mm 4 mm レーザー顕微鏡を用いて各被着面のフッ酸処理有り/無しの条件における線粗さを測定し,算術平均粗さ (Ra) を算出した。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 無処理 HF処理 無処理 +プライマー処理 HF処理 +プライマー処理 引張接着強さ (MPa) 0TC 5000TC 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 無処理 +プライマー処理 HF処理 +プライマー処理 無処理 +プライマー処理 HF処理 +プライマー処理 ②従来品のステップ ③新システムのステップ 引張接着強さ (MPa) 0TC 5000TC 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 #1500 Ra (μm) 無処理 HF処理 0 1 2 3 4 5 6 従来品 ステップ 新システム ステップ Ra (μm) 無処理 HF処理 ①#1500 研磨面 a a イニシャル LiSiプレス 円盤状にプレス成型 * * a a a a (*:1%有意) 図 5. #1500 研磨面における接着強度 ②,③従来品/新システムのステップ 反応層除去面 図 8. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面における接着強度 図 6. #1500 研磨面の SEM 像 無処理 /HF処理 無処理面 HF 処理面 無処理面 HF 処理面 無処理面 HF 処理面 初期 (0TC) においては,プライマー処理やフッ酸処理の有無に 関わらず,接着強さに統計的有意差は確認されなかった。 サーマルサイクル後 (5000TC) においては,プライマー処理なしの 条件において接着強さが著しく低下した。 図 7. #1500 研磨面の表面粗さ 図 9. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面の SEM 像 無処理 /HF処理 図 10. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面の表面粗さ ②従来品のステップ ③新システムのステップ イニシャル LiSi プレスの #1500 研磨表面は HF 処理後,表面粗さが 高くなることが明らかとなったが,接着性には影響しなかった。 セラミックプライマーⅡを使用することにより,イニシャル LiSi プレスと ジーセム リンクエースの間にシランカップリング材による化学的な接着 が得られたため,サーマルサイクル後も高い接着強さを保っていたと 考えられる。 臨床を想定した試験として, 従来品 / 新システムのステップで 反応層を除去した面に対して 接着試験を行った。 両ステップ共に反応層除去面に対し プライマー処理をすることにより, 0TC/5000TC 共に高い接着強さを 保っていた。 新システムにおける反応層除去 はガラスビーズブラスティングのみ であるが,表面粗さは無処理面 /HF 処理面共に従来品と同等以上 であった。 種類 製品名 メーカー プレス用リチウムシリケートガラスセラミックス イニシャル LiSiプレス GC セルフアドヒーシブレジンセメント ジーセム リンクエース GC シランカップリング材 セラミックプライマーⅡ GC 【表面粗さ】 本研究より,イニシャル LiSi プレスとセルフアドヒーシブレジンセメントの長期接着耐久性には,HF 処理などによる表面の粗造化によって得られる機械的嵌合よりも,プライマー処理 することによって得られる化学的接着が重要であることが示された。 また,新システムのステップではガラスビーズブラスティングによる反応層除去のみで従来品と同等以上の表面粗さを 示し,接着強度も同等であることから,『イニシャル LiSi プレス』 および 『LiSi プレスベスト』 による新システムはより簡便で臨床においても有用なシステムということが示された。 被着表面処理の効果を見るため凹凸の少ない #1500 研磨面,また臨床を想定した試験として従来品および新システムのステップにおける反応層除去面を被着面とし引張接着試験した。 セルフアドヒーシブレジンセメントの接着性能評価 クロスヘッドスピード 1 mm/min a * (*:1%有意) (*:1%有意) * 学術情報 平成 28 年度春季第 67 回日本歯科理工学会学術講演会

新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』 …新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』に対する Evaluation of bonding properties

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Page 1: 新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』 …新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』に対する Evaluation of bonding properties

新規ガラスセラミックス『イニシャル LiSiプレス』に対する

Evaluation of bonding properties of self-adhesive resin cement to new glass ceramics Initial LiSi Press.○菅原 彩香, 福島 庄一, 熊谷 知弘

P-8

株式会社ジーシー目的

材料

方法

近年,審美性への要求やメタルアレルギーの観点から,オールセラミックス修復に対する関心が高くなり,ガラスセラミックスの市場が急速に拡大している。ジーシーでは新たにプレス用リチウムシリケートガラスセラミックス,『イニシャル LiSi プレス』 が開発された。 本製品は高密度に微細化した LDS 結晶 ( リチウムダイシリケート ) を持つことにより,高い審美性と耐久性を兼ね備えているだけでなく,埋没材 『LiSi プレスベスト』 と併用することにより,従来の複雑な反応層除去操作が不要となる新しいシステムを導入している。 本研究ではイニシャル LiSi プレスに対するセルフアドヒーシブレジンセメント,『ジーセム リンクエース』 の接着性能を様々な表面処理方法にて評価し,イニシャル LiSi プレスに対する最適な処理方法を検証した。

表 1. 使用した材料

【接着試験】

結果及び考察

まとめ

セラミックプライマーⅡを使用することにより,イニシャル LiSi プレスとジーセムリンクエースの間にシランカップリング材による化学的接着が得られるため,プライマー処理有りの条件においては高い接着強さを有していたと考えられる。 また,どの被着面においてもフッ酸処理の有無に関わらず,プライマー処理することによって優れた接着耐久性を示したことから,イニシャル LiSi プレスとセルフアドヒーシブレジンセメントの長期接着耐久性にはセラミックプライマーⅡによる処理が重要であることが示された。 また,新システムのステップではガラスビーズブラスティングによる反応層除去のみで従来品と同等以上の表面粗さを示し,接着強度も同等であることから,新システムによる反応層除去はより簡便で臨床において有用な方法と考えられる。

図 1. イニシャル LiSi プレス 図 2. ジーセムリンクエース

材料及び方法

図 3. セラミックプライマーⅡ【反応層の除去】

プレス 掘り出し ガラスビーズブラスティング フッ酸処理 アルミナサンド

ブラスティング 調整・仕上げ

プレス 掘り出し ガラスビーズブラスティング 調整・仕上げ15~20分の短縮

■従来品のステップ

■新システムのステップ (LiSi プレスベスト使用 )

図 4. LiSi プレスベスト

新システムの LiSi プレスベストでは,ガラスビーズブラスティングのみで反応層の除去が可能となり,従来必要とされてきたフッ酸処理 ・ アルミナサンドブラスティングが不要となっている

被着面にセメントを塗布し,ステンレスロッドで圧接

フッ酸処理有り/フッ酸処理無し+

プライマー処理有り/プライマー処理無し被着面はφ3 mm(100 µmテフロンシール )

37℃ 水中に 24時間浸漬後 (0TC) ,または5-55℃/5000回サーマルサイクル後 (5000TC)に引張接着強度試験を行った (n=5)

【フッ酸処理】フッ酸による処理なし (無処理)または 5%フッ酸 20秒処理後に注水 ・乾燥 (HF処理)【プライマー処理】シランカップリング材による処理なしセラミックプライマーⅡによる処理 (プライマー処理)

【被着面条件】① #1500 研磨面② 従来品のステップ 反応層除去面③ 新システムのステップ 反応層除去面

15 mm4 mm

レーザー顕微鏡を用いて各被着面のフッ酸処理有り/無しの条件における線粗さを測定し,算術平均粗さ (Ra) を算出した。

0

5

10

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無処理 HF処理 無処理+プライマー処理

HF処理+プライマー処理

引張

接着

強さ

(MPa

) 0TC

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25

30

35

40

45

無処理+プライマー処理

HF処理+プライマー処理

無処理+プライマー処理

HF処理+プライマー処理

②従来品のステップ ③新システムのステップ

引張

接着

強さ

(MPa

) 0TC

5000TC

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

#1500

Ra (μ

m)

無処理

HF処理

0

1

2

3

4

5

6

従来品ステップ

新システムステップ

Ra (μ

m)

無処理

HF処理

①#1500 研磨面

A A

AA

a

a

bb

イニシャル LiSiプレス

円盤状にプレス成型

**

A A A Aa a a a

(*:1%有意)

図 5. #1500 研磨面における接着強度

②,③従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面

図 8. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面における接着強度

図 6. #1500 研磨面の SEM 像無処理 /HF処理

無処理面

HF 処理面

無処理面

HF 処理面

無処理面

HF 処理面

初期 (0TC) においては,プライマー処理やフッ酸処理の有無に関わらず,接着強さに統計的有意差は確認されなかった。サーマルサイクル後 (5000TC) においては,プライマー処理なしの条件において接着強さが著しく低下した。

図 7. #1500 研磨面の表面粗さ

図 9. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面の SEM 像無処理 /HF処理

図 10. 従来品 / 新システムのステップ 反応層除去面の表面粗さ

②従来品のステップ ③新システムのステップ

イニシャル LiSi プレスの #1500 研磨表面は HF 処理後,表面粗さが高くなることが明らかとなったが,接着性には影響しなかった。セラミックプライマーⅡを使用することにより,イニシャル LiSi プレスとジーセム リンクエースの間にシランカップリング材による化学的な接着が得られたため,サーマルサイクル後も高い接着強さを保っていたと考えられる。

臨床を想定した試験として,従来品 / 新システムのステップで反応層を除去した面に対して接着試験を行った。両ステップ共に反応層除去面に対しプライマー処理をすることにより,0TC/5000TC 共に高い接着強さを保っていた。新システムにおける反応層除去はガラスビーズブラスティングのみであるが,表面粗さは無処理面/HF 処理面共に従来品と同等以上であった。

種類 製品名 メーカープレス用リチウムシリケートガラスセラミックス イニシャル LiSiプレス GC

セルフアドヒーシブレジンセメント ジーセム リンクエース GCシランカップリング材 セラミックプライマーⅡ GC

【表面粗さ】

本研究より,イニシャル LiSi プレスとセルフアドヒーシブレジンセメントの長期接着耐久性には,HF 処理などによる表面の粗造化によって得られる機械的嵌合よりも,プライマー処理することによって得られる化学的接着が重要であることが示された。 また,新システムのステップではガラスビーズブラスティングによる反応層除去のみで従来品と同等以上の表面粗さを示し,接着強度も同等であることから,『イニシャル LiSi プレス』 および 『LiSi プレスベスト』 による新システムはより簡便で臨床においても有用なシステムということが示された。

被着表面処理の効果を見るため凹凸の少ない #1500 研磨面,また臨床を想定した試験として従来品および新システムのステップにおける反応層除去面を被着面とし引張接着試験した。

セルフアドヒーシブレジンセメントの接着性能評価

クロスヘッドスピード1 mm/min

a

A b

*

(*:1%有意)

(*:1%有意)

*

学術情報 平成 28年度春季第 67回日本歯科理工学会学術講演会