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柔軟なポリ乳酸マルチブロック共重合体の合成と医療分野への応用
秋田大学大学院工学資源学研究科
教授 寺境 光俊
天然由来の高分子材料、生分解性
生体適合性、優れた剛性
結晶性が高く脆い
Poly(L-lactide)(PLLA)
やわらかい成分の導入
(低Tgポリマーのブレンド、共重合)
長所
短所
生分解性高分子
Tg:-60℃、Tm:60℃
Polyε- caprolactone(PCL)
Tg:56℃、Tm:179℃
短所の改善
PLLA
ハードセグメント
PCL
ソフトセグメント
柔軟性の向上
PLLA-PCL block copolymer
: PLLA , : PCL
PLLA , PCLブロック : 非晶体 力学的特性が極めて低い。
PLLA , PCLの平均鎖長が長い。 ↓
自己硬化
・高分子量体において、PLLA,PCLの平均鎖長を制御することが可能。 →自己硬化性の抑制 ・ある程度の結晶性も有する。
重合直後こそ高い柔軟性を有するものの、その後放置しているうちに次第に柔軟性を失ってしまうこと。
自己硬化 :
~ ~ ~ ~
ランダム共重合体
ジブロック共重合体
トリブロック共重合体
マルチブロック共重合体
+
2
3
+
2
3
Sc(OTf)3
Sn(Oct)2
H2 , Pd/C
DIPCI,DPTS
DMAP 4
1
1
PLLA-PCL multiblock copolymer
Scheme1. Synthetic pathway for Poly(L-lactide)-poly(ε-caprolactone) multiblock copolymer
PLLA-PCL MBC薄膜の作製
PLLA-PCL MBC(再沈殿後)
クロロホルムに溶解(0.03-0.05g/mL)
ガラス基板にキャスト後、乾燥。
<乾燥条件> 1. 室温・大気圧下で2時間乾燥 2. 室温・真空下で12時間乾燥 3. 水に浸け、ガラス基板から膜を剝す 4. 真空下、30℃・1時間+40℃・4時間
・透明 ・柔軟
PLLA-PCL MBC薄膜表面の親水化・多孔質化
0h-71.9° 12h-43.1°
24h-33.1° 60h-測定不可
1M-60時間 膜に染み込んでしまい液滴にならない
多孔質化
<加水分解条件> ・1M-水酸化ナトリウム水溶液 ・室温
PLLA-PCL MBC薄膜表面の親水化・多孔質化 (SEM)
親水化処理132時間後、膜に直径約10μmの空孔が不規則に形成
処理時間0h-接触角:71.9° 処理時間24h-接触角:33.1°
処理時間60h-接触角:測定不能 処理時間132h-接触角:測定不能
100μm 100μm
100μm 100μm
Figure3. SEM micrographs of PLLA-PCL multiblock copolymer porous membranes .
引張試験
1cm
1cm
3cm
0.5cm
0.5cm
Table3. 引張試験結果
親水化時間 PLLA/PCLa 対数粘度b 引張強度 破断伸び 引張弾性率
MBC(処理なし) ― 25/25 0.88dL/g 16.1MPa 416% 64.4MPa
MBC(多孔質) 36h 25/25 0.88dL/g 13.4MPa 370% 81.2MPa
PLLA(処理なし) ― - 1.13dL/g 35.5MPa 9% 1340MPa
PLLAホモポリマーと比較し、合成したPLLA-PCL MBCフィルムは柔軟性が大幅に向上
MBCフィルムは多孔質化した後も高い柔軟性、力学的特性を保持
a:PLLA、PCL各ブロックにおける重合度 b:溶媒:クロロホルム、温度:30℃、濃度:0.5g/dL
A B
Figure4. PLLA、PLLA-PCLマルチブロック共重合体の伸び比較 (A:PLLA 、B:PLLA-PCL MBC)
新技術の特徴
• ポリ乳酸は硬い材料であったが,マルチブロック共重合体にすることで柔軟な材料となった。
• 各セグメントの長さ,比率を変えることで柔らかさと強さが制御できる。
• 親水化により水がしみこむ多孔質材料となる。
• 癒着防止膜
• 細胞培養用基材
• 血管補修材料
柔軟な生体吸収性材料としての可能性!
想定される用途
癒着防止膜とは?
外科手術による開腹などで内部臓器を大気にさらしたあと閉腹すると,正常な組織同士が接着してしまう現象
7.5 cm x 12.5 cm, 1枚/¥20,000 極めて高い親水性,密着性良好 取り扱いが難しい 一週間程度でほとんど消滅 吸収が早すぎる?
PLLA-PCL共重合体膜
完全合成高分子であるため感染症の心配がない 共重合体組成により物性を制御可能 生体内でゆっくり吸収される 原材料費 約50円でセプラフィルムと同等の膜を作成可能 膜表面が疎水性であり,親水化処理が必要 安全性(残存触媒など)を確認する必要あり 生体内で本当に癒着を防止できるか? 生体内で吸収されるのか?
共重合体合成条件の最適化 共重合体薄膜の親水化処理 ラットを用いた動物実験
Figure5. Porous hydrophilic membrane of PLLA-PCL MBC
PLLA-PCL MBC薄膜の癒着防止膜としての評価
Figure6. The adhesion prevention test.
B C A
A : Hydrophilic membrane B : Control C : Porous hydrophilic membrane
使用したPLLA-PCL MBC PLLA:PCL=27:27 対数粘度:1.34dL/g
・6体のラットの肝臓に膜を一部糸で固定し密着させる。 ・1つの肝臓に2種類の膜を使用。 ・6日後、再開腹し様子を観察(目視・光学顕微鏡)。
Hydrophilic membrane Control Porous hydrophilic membrane
film 癒着状態 癒着状態 film 癒着状態
6Days-A 分解せず/ズレた (C)癒着アリ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 癒着ナシ
6Days-B 分解せず/ズレた 癒着ナシ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 癒着ナシ
6Days-C 分解せず/ズレた 癒着ナシ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 (A) 癒着アリ
6Days-D 分解せず/ズレた 癒着ナシ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 癒着ナシ
6Days-E 分解せず/ズレた (C)癒着アリ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 (A)癒着アリ
6Days-F 分解せず/ズレた 癒着ナシ (C)癒着アリ 薄く残る/密着 (B)癒着アリ
Table4. 癒着防止膜としての評価(6日間)
(A):癒着した部分を軽く引張ると剥がれる程度の癒着。癒着部分も極めて小さい。 (B):(A)の癒着のレベルよりも強い。 (C):癒着の範囲も広く、極めて強い癒着。
B C A
A : Hydrophilic membrane 接触角:20~30° 膜厚:0.016~0.020mm 大きさ:3cm×3cm
B : Control
C : Porous hydrophilic membrane 接触角:測定不能 膜厚:0.019~0.021mm 大きさ:3cm×3cm
PLLA-PCL MBC薄膜の癒着防止膜としての評価
Hydrophilic membrane film
Porous hydrophilic membrane film
癒着アリ 癒着ナシ
癒着アリ 癒着ナシ
癒着アリ:膜がズレ、患部に強い癒着を観察。膜は分解せず。
癒着ナシ:癒着は防いでいたが、膜は患部からズレ、全く分解が進行していなかった。
癒着アリ:狭い範囲に、弱い癒着を観察。膜は分解が進行し、患部に薄く残っていた。
癒着ナシ:膜は患部に密着し、分解が進行した状態で薄く残っていた。
PLLA-PCL MBCフィルムには高い癒着防止効果がある
膜が患部からズレなければ、癒着を防ぎ、膜の分解が進行する
PLLA-PCL MBC薄膜の癒着防止膜としての評価
PLLA-PCL MBC薄膜の癒着防止膜としての評価
Figure7. Results of the adhesion prevention test.
Grade4:Grade4 indicates over three strands of full-thickness band adhesions. Grade3:Two strands of thick band adhesions. Grade2:Loose adhesions. Grade1:A single thin and easily separable adhesion. Grade0:Complete absence of adhesions.
参考文献:J.Biomed.Mater.Res.Part B: Appl.Biomater, 2008, 86B, 353-359.
PLLA-PCL MBC薄膜の癒着防止膜としての評価
Control:6日後 Porous hydrophilic membrane:6日後
移植前
Figure8. The cross sectional micrograph of rat’s liver after 6days of the implantation.
再生医療では
細胞の再生能力を最大限発揮させるために、損傷を起こした組織に細胞の足場となる基盤材料を用いる方法が有効
基盤材料 ・生体細胞との接着性が高く、多孔質 ・細胞の成長を促進 ・生体組織が発達するまで支持体として存在 ・生体内で分解吸収される
コラーゲンとは ・機械強度に優れた構造体
・生分解性 ・高い細胞接着性・増殖を促進 ・動物(ウシ、ブタ)由来
コラーゲン分子構造
細胞培養基盤材料研究に実用化されている
そのために
細胞培養用基材
・力学的強度が低い ・分解吸収速度が高い
・動物由来のため医療用での安全性が確保されていない(ウイルス感染の懸念の問題などが残っている)
コラーゲンの欠点
マルチブロック共重合体多孔質膜での細胞培養
実験手順
3×3cmシャーレ 多孔質膜(2×2cm)を入れる 1.5ml培地を入れる 培養した(Hela )cell 150/1000入れる 培地を除去し、PBS で洗う 無血清培地1ml を入れ 蛍光試薬 (CellTracker Green CMFDA 1mM) 5μlを入れる PBS で2回洗い、4%パラホルムアルデヒドで入れる PBS で洗う 共焦点レーザー顕微鏡で観察
48h
45分エンキュベート
MBC フィルム
培養したcell
培地
r.t. 15分放置
PBS(PH=7.1) .NaCl:8g .KCl :0.2g .Na2 HPO4:0.61g .KH2PO4:0.19g .H20 :900ml
HeLa細胞培養の結果
25~30μm膜 ・27h処理後膜、多孔質性 25~30μm膜・処理ナシ
・細胞接着性が高く、細胞が仮足を延ばしていることを確認できた ・一部が膜の中に入り込んでることが確認できた
×6000 ×2000
細胞培養した膜を下からスライスして観察した結果
想定される業界
• 利用者・対象
医療機器メーカー,製薬関連会社,化学メーカー
• 市場規模
癒着防止膜として国内100億円以上の市場規模
再生医療分野で国内6億円の市場
(30年後は3000億円)
実用化に向けた課題
• 癒着防止膜として
市販品(セプラフィルム)と比較して臓器密着性に劣る。腹腔孔鏡手術などで利用可能な密着性向上を目指す。
• 細胞培養基材として
線維芽細胞などの培養を実施し,細胞外マトリックスの分泌状態などを検討する必要あり。
企業への期待
• 将来の医療分野で認可を得るためには膨大な動物実験データが必要であり,実用化には企業との共同研究が不可欠。
• サンプルの提供は可能なので,医療分野に限らず幅広い企業との共同研究を希望。
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称: 親水性多孔質膜及びその製造方法,並びに,
医療用癒着防止膜及び細胞増殖用基材
• 出願番号 :特願2011-198550
• 出願人 :国立大学法人秋田大学
• 発明者 :寺境 光俊,松本 和也,竹山 佑樹,
石橋 和幸,山本 文雄,久保田 広志