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成長するインド経済と消費市場開拓 Copyright 2013 FUJITSU LIMITED 2013610富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 長島 直樹 [email protected]

成長するインド経済と消費市場開拓 - Fujitsu...27 <相違点> ・ 菜食主義者は中間所得者以上でも約4分の1

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成長するインド経済と消費市場開拓

Copyright 2013 FUJITSU LIMITED

2013年6月10日

富士通総研

経済研究所 上席主任研究員

長島 直樹

[email protected]

1 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

報告概要(目次)

はじめに:背景と問題意識

Ⅰ. 新たな都市中間層の登場

・ 現地消費者調査に基づく消費者像の提示 ・ 日本との共通点・相違点は

Ⅱ. インド小売業の現状と日本企業の可能性

・ 小売分野は細分化された市場 ・ スーパーはやや消極的、コンビニエンスストアは可能性あり

Ⅲ. 直面する課題と示唆

・ 許認可制、不動産価格の高騰、労働力の確保、物流 etc. ・ 伝統的な小規模店との協力・共存に向けて

まとめ

はじめに:背景と問題意識

<背景>

・ インドでは、(複数ブランドを扱う)小売業が外資規制のため参入できない 状態が続いたが、昨年秋に条件付きながら解禁。

・ これに伴って、外資大手企業などが店舗展開の準備を進めている。

<問題意識>

・ 日本小売業が最初から全インドを相手にすることは困難だが、都市人口の 増加、都市部中間層のプロファイルが先進国化・均質化しつつあるという 現象も生じている。

・ インドでの事業を検討する上で、都市中間層の消費者像を明らかにする 必要がある。

・ こうした新たな消費者をターゲットにして参入する際、何が課題になるか。 今回は小売を中心に考える。

2 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

Ⅰ.新たな都市中間層の登場

3 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

NCAER(インド国立応用研究所)による定義

富裕層 世帯年収:50万ルピー以上 (現在、全体の3.4%) 中間層 20万ルピー以上50万ルピー未満 (同、11.5%)

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都市部中間層は今後急増

都市部:30% 都市部:40%

現在 10~15年後

地方:70% 地方:60% うち15%

うち70%

全体の4~5% (約5,000万人)

全体の30%弱 (約4億人)

<チェンナイ>

4大都市の1つ

人口470万人

(都市圏は770万人)

対面聞き取り調査を実施

行動観察も重要だが、

傾向の把握には定量調査も必要

<コインバトール>

チェンナイの近郊都市

人口92万人

(都市圏145万人)

南インドは、日本企業にとって

文化的親和性が高いといわれる

2都市で実施(各160人)

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6 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

消費者像:日本との共通点・相違点

・ 冷凍食品・インスタント食品への需要が急増

小売店の店頭でのサービスに対する多様なニーズがある

・ 顧客経験価値が最大の差別化要因

従来は価格重視

品質と価格のバランス(バリュー・フォー・マネー)重視へ

近年は、顧客経験(利便性・快適性)も大いに重視される

先進国型に近づく側面

7 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

冷凍食品・インスタント食品の需要増加

食生活の先進国化

・ 冷凍食品・インスタント食品の需要が増加

ビスタ・プロセスト・フーズ

(マクドナルドやサブウェイへ納入する食品会社) 冷凍フライドポテトの発売開始

冷凍オムレツの開発(3~6ヵ月後に発売)

(朝、調理する時間のない共働き家族向け)

ウォルマート:冷凍食品のPB投入を準備中

・ お弁当など中食需要も増加

・ ファーストフード店の隆盛

ごく最近の現象

このほか、携帯電話の充電、ネットビューなどニーズ大(自由回答から)

(注)チェンナイ、コインバトールの中間所得者層、320人対象

8 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

店頭でのサービス・ニーズは大きい

1位:公共料金支払い

2位:バス等チケット予約

3位:荷物の配送・受取り

9 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

満足要因 不満要因 満足要因 不満要因

 (1)品質 72 74 94 8

 (2)価格 42 26 39 41

 (3)顧客経験(利便性・快適性) 160 78 236 128

    立地(近さ・環境) 124 1 7 3

    品揃え・お買い得品 8 10 66 7

    ワンストップショッピング 0 4 124 0

    サービス(配送・ツケ・量・表示など) 20 6 16 8

    店の概観・環境 1 23 4 1

    店内の雰囲気・美観・混雑 1 16 4 21

    店員のアプローチ・反応 4 13 12 22

    時間(レジ・パッケージ・売り場移動) 2 1 3 58

    パッケージの適切さ 0 4 0 0

    駐車スペース 0 0 0 8

食品スーパー・ハイパーマーケットキラナ

小売店舗の満足と不満

(注)チェンナイ、コインバトールの中間所得者層、320人対象

顧客経験は重要

・ 総合評価と相関が高いのは、顧客経験価値、次いで品質。

・ SEC(社会階層)が上位の層は、特にその傾向が強い。

10 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

総合評価(全体的な顧客満足度)の決定要因

満足への影響

総合評価との

相関係数

総合評価が悪い理由は「品質への不満」、

逆に、総合評価が良い理由は「顧客経験に対する満足」

言い換えると、

品質は満足のための必要条件

顧客経験は(必要条件を満たした上で)十分条件

11 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

より詳細に分析すると・・・

12 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

消費者像:日本との共通点・相違点

・ 品質、価格、顧客経験の3要因で総合評価がほぼ

説明できる

・ ロイヤルティは比較的容易に獲得できる

・ 買い物効率・時間を重視(ややせっかち)

日本とは異なっている側面

13 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

総合評価を説明するモデル

上記のモデルで

日本の場合3割程度しか説明できないが

インドの場合は8割程度説明できる

(明快で合理的)

総合評価

品質

価格

顧客経験

ロイヤルティは・・・

インド 日本

ロイヤルティ(再来店の意図)

必ず

たぶん

もしかしたら

無し

不満 まあ満足 満足

14 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

総合評価

再来店意図

ロイヤルティ(再来店意図)は

インドのほうが獲得しやすい

(特に総合評価がまずまずの時)

この点も

日本の消費者との違い

スーパーなどはまだ少ないので、

先行者利得が得られやすい段階か

顕著に異なる

満足と不満の箇所でも不満要因として

「レジなどで時間がかかる」という指摘が多く出ていた

15 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

インド消費者はスピード重視

<顧客経験のプロセス>

入店 買い回り 会計・配送

(序盤) (中盤) (終盤)

日本

評価のポイント

インド

スピード 確実性 共感性

スピード スピード スピード &快適性

16 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

急増する都市中間層の消費者像

<例えば・・・>

・ 30代夫婦(子供1人)の核家族。

夫は大学卒の専門職、共働きでメイドなし。

・ 普段は近所で買い物を済ますが、週末は夫の運転で

近隣のハイパーマーケットへ。

(冷凍食品、シリアル、日用品、化粧品などを購入)

・ 週末には家族で外食も楽しむ。ファーストフード店も利用。

サービスへのニーズも大きく時間効率を重視、時にせっかち。

健康意識も高いが食習慣は先進国化。

・ 小売店での顧客経験にやや不満もあるが、選択肢も少ない

ので現在の買い物パターンを続けるつもり・・・ 店舗は品質・価格・顧客経験で合理的に評価する。

Ⅱ. インド小売業の現状と

日本企業の可能性

17 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

インド小売業の現状

18 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

細分化された市場

家族経営の小規模(零細)店舗

“キラナ”

全店舗の93.5%を占める

(2011年時点)。

主に食料品・日用品・雑貨を販売し、

全国に1,500万店存在。

20位までのシェア(%)

シェア %

 チリ 54.5

 ハンガリー 47.4

 英国 41.6

 チェコ 40.9

 タイ 28.8

 メキシコ 27.8

 マレーシア 25.3

 台湾 24.4

 ロシア 18.1

 インドネシア 9.1

 中国 7.8

 インド 1.9

(出所)IIM: Center for Retailing

供給側:業者の細分化

小売の寡占化は進んでいない

(20位までの業者のシェア)

19 Copyright 2013 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

地域ごとの違い

例:英語・ヒンディ語以外21の公用語

(英語がわかる人は15%未満、ローカル言語は1,600以上)

穀類、食用油は州ごとに売れ筋がすべて異なる。

(都市部中間層のライフスタイル・価値観は似通ってきているが・・)

全般に規模の経済性を追求しにくい

全国展開のスーパー・ハイパーマーケットは財閥系の大手地場企業も

利益率は低い状況

米国ウォルマートなどの外資大手も苦戦か?

インド小売業の現状

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日本小売業の考え方

A社(スーパー) 地場の財閥系や巨大外資との差別化は困難と判断している模様

B社(スーパー) サーチコストが大きく、フィージビリティ・スタディに至っていない。

C社(コンビニエンスストア) インドの中食需要に関心。不動産賃貸料の高騰、人材確保等が不安。

D社(コンビニエンスストア) 様々な困難もあるが、提携パートナー次第。

まとめると

スーパーは消極的

コンビニは可能性あり

確かに環境は厳しいと思われる

チャンスは大きいのではないか

・ 消費者像に照らし、彼らに訴求できる

・ ドミナント出店ならば地域差は克服可

・ 新しい業態(競合する先行企業は少)

Ⅲ.直面する課題と示唆

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課題

許認可制

インド政府の政策=開放路線だが、諸条件あり。

<条件>

・ 外資資本上限51%

・ 最低投資額1億ドル

・ 都市部に限定

・ 倉庫等後方インフラ投資を投資額の半分以上とする

・ サプライチェーンにおいて30%以上を地場中小・中堅企業から調達

別途、州政府の許認可も必要 (州政府によって方針・態度が異なる)

現実には、IKEAのような大規模投資が歓迎される

・ スモールスタートの限界

・ 長期計画の必要性

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サプライチェーンと物流

自前で構築するか提携するか。

例: 米国系ファーストフード・チェーン

農家と直接契約(灌漑技術などの改善指導も) コールドチェーンの確立と工夫

(事前空冷機能を備えた倉庫、3層に分割した輸送トラックなど) 現在、インドに約500店舗を展開

倉庫・物流システムが貧弱なため、インドでは毎年、農作物の約3分の1が腐敗

投資効果も大きい。(ただし、長期計画が必要)

不動産価格高騰・人材確保など

キラナの活用は一案(後述)

課題

・ 大型チェーン店に反感? またキラナの競争力は強い・・・

・ 低コスト経営

・ 地域密着型

・ 付加サービス(配送サービス、得意客にはツケ払いも)

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「キラナ」の存在

キラナとの共存・協力の必要性を説くコンサルタント・研究者は多い

しかし、キラナ店主の意識が問題

課題

反感が強い(半数) やはり反発(3分の1)

チェーン店への意識

興味は薄い(半数)

チェーン店との協力で売上増と仮定すると・・・

考える余地あり(3分の2)

あまり興味はない(全員)

(経営が思わしくない店舗多)

(すべて経営が順調な店舗)

例:地場の食品チェーン

(約90店舗を展開する食品チェーン)

・ キラナに隣接し、実際には大きな店舗だが、間口を2分割して

大きく見せない。中央のスペースを飲食店に賃貸ししているため、

2店舗のように見える。

・ 陳列は整然としているが、キラナ風でもある。

・ 大型店・専門店では、入り口に警備員がいて、荷物のチェックなどに

目を光らせているが、この店ではキラナ同様、警備員を配置していない。

「溶け込み」の事例

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まとめ

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<相違点>

・ 菜食主義者は中間所得者以上でも約4分の1

→ 彼らへ配慮必要 (現地の食習慣や嗜好に合わせる必要性は共通)

・ 「買い食い文化」は東南アジアほど顕著でない

→ 食品中心ではなく、サービスニーズへの本格的な対応が必要

・ 州政府の協力を得るにはある程度の大規模投資が必要、

またパート労働力の確保は難しい

→ 腰を据えた長期計画&リスクテイクが必要(機動性は期待できない)

・ 進出する地域の候補は多数ある(パートナー選定とも関連) → フィージビリティ・スタディは時間をかけて入念に。

<共通点>

・ 都市部を中心とした中間所得者層が今後急増

→ 有望な市場性(東南アジア以上に顕著な可能性も)

東南アジアへのコンビニ進出と比較して

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消費者:Consumer

・ インド全体では多様だが、都市部中間層は均質化・先進国化

(食生活・サービス需要・顧客経験重視の価値観) ・ 厳しい消費者であっても、評価軸は明快。

(品質、価格、顧客経験の3要素を愚直に追求すればよい) ・ 「まあ満足」の総合評価ならロイヤルティ獲得につながる傾向

競合相手:Competitor

・ キラナには競争力あり、容易に勝てない。

・ 協力が理想、少なくとも(対立せず)共存が必要

政府・規制健康:Government

・ 保険業の例(政府規制により大きく変動)

・ インド政府・州政府のバックアップは必須。

(実際には大規模投資が歓迎される。リスクテイクと長期計画が必要)

C.C.G.による整理

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健康・美容・娯楽・外食・保険など各分野に可能性

例:E社(健康器具メーカー)(2009年~) 高いメタボ率(都市部男性の20%、女性の16%、糖尿病患者5,100万人) ヘルスメーターをハイパーマーケットなどを通じて販売

病院・スポーツジムへも販路拡張

F社(インスタント食品メーカー) (1991年~) 低カロリー商品も投入

G社(大手牛丼チェーン) H社(日本式カレー・チェーン)

提供方法としてのeコマース

ネット環境はあっても、オンラインショッピングに抵抗を感じる傾向。

キラナ店頭で商品受取りと決済を同時に行うビジネスモデルなどに注目。

進出を準備中・・・

関連する他の分野でもチャンス大

新たな都市中間層の消費者像を多面的に追求する必要がある

30 Copyright 2012 FUJITSU RESEACH INSTITUTE