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若年労働者の労働災害防止のポイント · 若年労働者の労働災害防止のポイント ~スタッフ・管理者向け~ 若年労働者の労働災害防止のための安全衛生管理手法の開発に関する

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若年労働者の労働災害防止のポイント~スタッフ・管理者向け~

若年労働者の労働災害防止のための安全衛生管理手法の開発に関する

調査研究報告書

平成25年2月

中央労働災害防止協会

は じ め に

本書を作成するきっかけは、平成22年11月に当協会が行った製造業主要7団

体との意見交換会において、ご出席いただいた複数の団体から、若年労働者層に

おいて、ヒヤリハットや擦り傷、切り傷などの災害で人間特性(ヒューマンファ

クター)によるものが多発傾向にあるという報告があったことです。

若年労働者については、労働災害発生率の年齢別年千人率(平成21年)で20

歳未満は2.7となっており60歳以上の3.1に次ぎ高いという傾向が従来からあり

ましたが、若年労働者の労働災害防止は今後の重要な課題であると考え、調査研

究委員会を立ち上げ、2年計画で対策を検討することといたしました。

1年目(平成23年度)は、若年労働者の労働災害発生状況に関するアンケート

やヒアリングを行い、休業災害・不休災害の発生状況、また、若年労働者の災害

を誘発する原因や重点教育事項について実態を調査いたしました。

2年目(平成24年度)は、前年度の調査結果を踏まえ、労働災害の発生要因等

を分析し、若年労働者の災害の傾向と行動特性、安全衛生教育の留意点、指導

(OJT)の仕方、コミュニケーションのとり方、さらには、人間工学的対策、健康

管理の基本的考え方等を盛り込んだ、事業場の安全衛生スタッフ、管理者向けの

本書をまとめました。

本書が全国の事業場において活用され、若年労働者の労働災害の減少に役立て

ることができれば幸いです。

最後に、日本化学工業協会、日本製紙連合会、日本自動車工業会、日本造船工

業会、電機・電子・情報通信産業経営者連盟、日本鉄鋼連盟等の各業界団体、さ

らに製造業の主要な企業をはじめ、本書の作成にご協力いただいた方々に深く感

謝申し上げます。

 平成25年2月

中央労働災害防止協会

企画広報部長  

目 次

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性 ………………… 1(1)若年労働者の災害の傾向 ………………………………………………… 1(2)若年労働者の体力・運動能力と行動特性 ……………………………… 4(3)若年労働者の災害防止における教育の重要性と有効性 ……………… 11

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針 …………… 18

3 若年労働者に対する安全衛生教育 …………………… 24(1)雇入れ時教育 ……………………………………………………………… 25(2)フォロー教育 ……………………………………………………………… 38

4 教育効果を高めるための手法 …………………………… 40(1)安全体感教育 ……………………………………………………………… 40(2)体験教育 …………………………………………………………………… 50(3)社外教育 …………………………………………………………………… 50(4)教材等 ……………………………………………………………………… 51

5 現場での日常指導(OJT)等の充実 ……………… 55(1)OJT ……………………………………………………………………… 55(2)日常の安全衛生活動 ……………………………………………………… 58(3)上司・先輩に対する教育 ………………………………………………… 60(4)コミュニケーション教育 ………………………………………………… 61

6 若年労働者の行動特性に対応した人間工学的対策 …… 65(1)若年労働者の運動能力と行動特性 ……………………………………… 65(2)若年労働者の行動特性に対応した人間工学的対策 …………………… 66

  目 次

目 次

7 若年労働者の健康管理の基本的考え方 …………… 71(1)日常的な健康管理 ………………………………………………………… 71(2)健康診断 …………………………………………………………………… 74(3)有害物取扱い作業への対応 ……………………………………………… 74(4)有害作業等への対応 ……………………………………………………… 74(5)メンタルヘルス対策 ……………………………………………………… 74

8 経験の浅い労働者への対応 ……………………………… 78

付録 学校教育、家庭教育に求めるもの ~委員会からの提言 ………… 79   若年労働者の行動特性別災害事例(製造業) ……………………… 80

調査研究の概要 ………………………………………………………………… 87

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

1

(1)若年労働者の災害の傾向 ア 雇用者数 総務省の「労働力調査」によると、平成22年(2010年)のわが国の産業全体の雇用者数は5,462万人(男性:3,133万人、女性:2,329万人)となっている。 また、平成18年(2006年)から平成22年(2010年)の雇用者数の年齢別推移を見ると、15~34歳及び50~59歳の年齢階層が減少傾向にあるのに対し、35~49歳及び60歳以上の年齢階層が増加傾向にある。 なお、若年労働者に該当する15~29歳の年齢階層の雇用者数の年次別推移は次のとおりである。 平成18年(2006年) 1,194万人 平成19年(2007年) 1,153万人 平成20年(2008年) 1,131万人 平成21年(2009年) 1,088万人 平成22年(2010年) 1,062万人

 業種別に見ると、35~39歳の年齢階層は全産業では増加傾向にあるが、製造業全体では減少傾向にある。

 イ 製造業における年齢別労働災害発生件数(休業4日以上)とその推移 平成21年の製造業における労働災害の年齢別発生件数をみると、最も発生件数が多い年齢階層は、50~59歳の7,087件(構成比:25.3%)で、次いで30~39歳の5,666件(構成比:20.2%)となっている。30歳未満は延べ4,849件で、全体の17.3%であった(厚生労働省「死傷病報告」より)。 労働災害の発生件数からみると、若年労働者に労働災害が多く発生しているわけではないことがわかる。

 ウ 年齢別千人率(休業4日以上の労働災害) イで述べたように、件数的には若年労働者に労働災害が多発しているわけではないが、千人率あるいは度数率を算出すると、年齢別の発生状況の様子は異なってくる。 平成21年の年齢別千人率をみると、60歳以上が3.1で最も高く、次いで20歳未満が2.7となっている。横軸に年齢を配置すると、若年者と高齢者の労働災害が多い、いわゆる“U”字型の分布になっている(図1-1)。

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 図1-2は、ある大手鉄鋼企業の内部資料であるが、不休災害の度数率を年齢階層別に比較すると、「若高老低」型の分布がみられ、U字型とも少し違った傾向を認めた。

図1-1 年齢別年千人率(休業4日以上の労働災害)(平成21年)

図1-2 年代別不休災害度数率

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

3

 いずれにしても、労働災害の発生件数から見ると、必ずしも若年者に多いわけではないが、千人率あるいは度数率で発生状況をみると、若年者の発生頻度が高い傾向を認めることができる。

 エ 精神障害等に係る労災補償状況 現下の労働災害の発生状況を俯瞰すると、災害(事故)の発生と合わせて、メンタルヘルスによる休業が顕著になっている。そこで、精神障害等に係る労災補償状況(平成22年度)を概観した。 請求件数は1,181件で、前年度に比べ45件増加しており2年連続過去最高であった。支給決定件数は308件、前年度に比べ74件の増加で過去最高である。 請求件数の年千人率によって年齢別の比較をすると、30~39歳が最も多く、以下、40~49歳、20~29歳の順に多い(図1-3)。 平成18年(2006年)~平成22年(2010年)の5年間の精神障害等に係る労災補償請求件数の推移をみると、全体的に漸増傾向にあるが、特に、19歳以下の若年者の増加が顕著であることが注目される。平成20年(2008年)の発生率(0.004)をボトムにして、平成22年(2010年)では0.016と4倍である。

図1-3 精神障害等の年齢別請求件数の年千人率(平成22年度)

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 オ 労働災害の事故の型 本調査研究委員会が平成23年度に実施したアンケートにおいて、過去3年間(平成20~22年)の不休災害(軽微な災害を含む)を事故の型別に見るとどのようなものが多いか5つまでの複数回答で尋ねた。その結果、1事業場あたり、全体では平均2.7項目、若年者が被災した労働災害は、平均1.6項目が該当した。 また、労働災害全体、若年労働者、いずれも「はさまれ、巻き込まれ」が最も多く、次いで、「切れ、こすれ」、3番目に「転倒」の順で災害が多い。 労働災害の事故のそれぞれの型に該当した件数から構成比率を算出し、全体と若年労働者で比較したところ、若年労働者の比率が高い型は、「切れ、こすれ」と「はさまれ、巻き込まれ」、さらに「高温・低温の物との接触」の3つであった(図1-4)。 反対に全体の構成比率よりも若年労働者の構成比率が低い型は、「転倒」と「墜落・転落」の2つであった(図1-5)。

(2)若年労働者の体力・運動能力と行動特性 ア 年齢と体力・運動能力 年齢と体力・運動能力の関係を見るため、文部科学省の「平成23年度体力・運動能力調査報告書(平成24年10月)」から、年齢別握力(筋力の指標)、年齢別長座体前屈(柔軟性の指標)、年齢別反復横とび(敏捷性の指標)の成績を取り上げた。①握力は、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準を示し、加齢に伴う男女差は12歳頃から徐々に大きくなる傾向にある(図1-6)。・男子は、17歳頃まで著しい向上傾向を示し、その後も緩やかに向上を続ける。一方、女子は40歳代前半まで緩やかな向上傾向を示している。・男子は35~39歳、女子は40~44歳でピークに達しており、ほかのテスト項目に比べピークに達する年代が遅い。

図1-4 全体構成比率と比べて若年者の構成比率が高い労働災害の事故の型

差  分全体の比率若年者の比率 

3.419.222.6切 れ 、 こ す れ

1.922.524.4はさまれ、巻き込まれ

1.16.17.2高温・低温物との接触

差  分全体の比率若年者の比率 

△3.014.911.9転 倒

△1.76.04.3墜 落 、 転 落

図1-5 全体構成比率と比べて若年者の構成比率が低い労働災害の事故の型

(図1-4、1-5とも「若年労働者の労働災害防止のための安全衛生管理手法の開発

 に関する調査研究中間報告書 平成24年3月 中央労働災害防止協会)から計算)

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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・ピーク時以降は男女とも緩やかな低下傾向を示し、60~64歳には、男女ともにピーク時の約90%に、さらに75~79歳には、男女とも約75%に低下する。

②長座体前屈は、一部の年齢段階を除いて女子が男子より高い水準にある(図1-7)。・男子は11歳以降著しい向上傾向を示し、17歳でピークに達する。その後緩やかな低下傾向を示す。・女子は、6歳から男子よりもやや高い水準を示したまま、14歳頃まで向上傾向を示し、19歳頃ピークに達する。その後緩やかな低下傾向を示す。・60~64歳には、男子でピーク時の約75%、女子で約85%に、さらに75~79歳には、男子で約70%、女子で約80%に低下する。

③反復横とびは、すべての年齢段階で男子が女子より高い水準にある(図1-8)。・男子は14歳頃まで著しい向上傾向を示し、19歳頃ピークに達する。・女子は14歳頃まで著しい向上傾向を示し、19歳頃まで、ほぼその水準が保たれ、その後、緩やかな低下傾向を示す。・60~64歳には、男女ともにピーク時の約70%に低下する。

 筋力、柔軟性、敏捷性のそれぞれの特性に応じた年齢変化を理解しておく必要がある。

図1-6 加齢に伴う握力の変化

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 イ 若年者(19歳男子)の体力・運動能力の年次推移 若年者の体力・運動能力の年次推移を見るため、文部科学省の「平成23年度体力・運動能力調査報告書(平成24年10月)」から、若年者(19歳男子)の体力・運動能力の年次推移を取り上げた。取り上げた指標は、図1-6から図1-8同様、握力(筋力の指標)、長座体前屈(柔軟性の指標)、反復横とび(敏捷性の指標)の3つに加え、持久走(1,500m)(持久力の指標)についても参考として追加した。 調査期間は測定項目によって大きな差がある。握力と持久走は昭和39年(1964年)~平成23年(2011年)までの48年間分のデータが蓄積されているが、長座体前屈と反復横とびは平成元年(1989年)から平成23年(2011年)までの23年分である。

図1-7 加齢に伴う長座体前屈の変化

図1-8 加齢に伴う反復横とびの変化

(図1-6、1-7、1-8とも「平成23年度体力・運動能力調査報告書」(文部科学省)から)

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 図の横軸が年度を示すが、柔軟性(長座体前屈)(図1-9)と敏捷性(反復横とび)(図1-10)についての成績は明らかに向上しているが、筋力(握力)(図1-11)と持久力(1,500m走)(図1-12)の成績の低下が顕著である。 体力・運動能力については個人差の大きいことが知られているが、世代としてみたときにはこうした特性をもつ若年者を雇用することになる。

図1-9 男子19歳長座体前屈の年次推移(平成10年~23年)

図1-10 男子19歳反復横とびの年次推移

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 ウ 若年者の生活状況と健康、体力に関する意識 文部科学省の「平成23年度体力・運動能力調査報告書(平成24年10月)」から生活状況と健康、体力の意識について、若年者(20~29歳)と高齢者(55~64歳)の比較を行った。 朝食の摂取状況は、「毎日食べる」が高齢者では大半(90.7%)なのに対し、若年者は61.9%にとどまり、「時々食べない」が28.4%、「毎日食べない」が9.7%というように、高齢者の比率を上回っている(図1-13)。 睡眠時間に関しては、若年者と高齢者の差はなかった。4分の1強が6時間未満、3分の2強が6~8時間、残りの4~5%が8時間以上であった(図1-14)。 健康状態に関する意識を若年者と高齢者で比較すると、若年者の方が「大いに健康」

図1-11 男子19歳握力の年次推移(昭和39年~平成23年)

図1-12 男子19歳持久走(1,500m)の年次推移

(図1-9から図1-12は「平成23年度体力・運動能力調査報告書」(文部科学省)から)

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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とする比率が高い(若年者31.6%に対し、高齢者は11.8%にとどまる)(図1-15)。 体力に関する意識を若年者と高齢者で比較すると、両者の差はそれほど大きくはないが、「自信がある」も「不安である」も、その両方で若年者の比率が高齢者のそれを若干上回っていた(図1-16)。

図1-13 朝食の摂取状況に関する若年者と高齢者の比較

図1-14 1日の睡眠時間に関する若年者と高齢者の比較

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 エ 健康状態や体力に関する意識と運動・スポーツの実施頻度の関係 20~79歳を対象に、健康状態に関する意識と運動・スポーツの実施頻度の関係(図1-17)について調べたところ、「大いに健康」と回答した人は、「あまり健康でない」と回答した人と比べると、運動・スポーツの実施頻度は明らかに高い。「あまり健康でない」と回答した人の約半数が運動・スポーツを「しない」と回答している。 また、20~79歳を対象に、体力に関する意識と運動・スポーツの実施頻度の関係(図1-18)について調べたところ、体力に「自信がある」と意識する群の約85%が「ほとんど毎日」あるいは「ときどき」運動をしている。一方、「普通である」と意識する群では約55%、「不安がある」と意識する群では約26%になっていた。 THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)などの効用について再確認し、若い頃から運動・スポーツを実施する習慣をつけるよう職場全体で取り組むことを勧めたい。

図1-15 健康状態に関する意識の若年者と高齢者の比較

図1-16 体力に関する意識の若年者と高齢者の比較

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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(3)若年労働者の災害防止における教育の重要性と有効性 ア 若年者教育のスキーム ―若年者教育で何を取り上げるか― 若年労働者の特性等を踏まえると教育のスキームとして次のようなことが考えられる。 産業現場ではすべての労働者に対して要求しているスキル水準があるはずである(図1-19中の横の実線)。これに対して、そこで働く大方の労働者のスキル水準は、その職場で要求するスキル水準をはるかに超えているはずである。それだからこそ、安定した生産ができることになる。 では、若年労働者とりわけ新入社員と採用されたばかり、あるいは採用間もない若年労働者のスキル水準はどうだろうか。おそらく現場が要求するスキル水準をはるかに下回って(図1-19中の横の破線)いることが通常である。この状態で実作業につくことは、品質の面、生産性の面、そして安全の面のどれをとってもリスキーである。 通常は、現場のスキルの要求水準と若年者のもつスキル水準の差を測定し、この格差

図1-17 健康状態に関する意識別運動・スポーツ実施頻度

図1-18 体力に関する意識別運動・スポーツ実施頻度

(図1-17、図1-18とも「平成23年度体力・運動能力調査報告書」(文部科学省)から)

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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を埋めることになる。この方法には2つある。第1は、現場が設備対策や職場環境対策を講ずることで、品質面、生産面、安全面に関する要求水準を下げ、若年者のスキル水準に近づけることである。第2の方策が「教育」である。若年者に対して教育によるスキルアップを図ることで、現場の要求水準に早く近づき、これを早く超えることが重要である。

 イ 若年労働者の災害(不休、ヒヤリハットなど)の特徴 スキルレベルの低い若年労働者の作業を、スキルレベルの高い監督者の作業と比較した場合、やむをえないことだが、品質、生産性、安全のいずれの面を取り上げても「未熟さ」が目立つ。具体的には、若年労働者に共通する3つの未熟さを指摘できる。第1はスキルの未熟さ、第2はコミュニケーション力の未熟さ、第3は予測力(先読み力)の未熟さである(図1-20)。若年労働者の災害の共通軸を整理すると、多くの事故はこの3つの未熟さに行き着くことが多い。

図1-19 若年者教育のスキーム

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 ウ 若年者の就職能力(エンプロイアビリティ) 厚生労働省は平成16年(2004年)1月に「若年者の就職能力に関する実態調査」の結果を公表し、若年者就職基礎能力として次の5つの能力の修得が大事であると述べている。①コミュニケーション能力(意思疎通、協調性、自己表現能力)②職業人意識(責任感、向上心・探究心、職業意識・勤労観)③基礎学力(計算・計数・数学的思考力)④基礎学力(社会人常識)⑤ビジネスマナー このうち、2つの基礎学力は、いわゆる「読み、書き、ソロバン」のことであるので、これを除けば、コミュニケーション能力、職業人意識、ビジネスマナーの3つが就労の入口において必要な基礎能力ということになる。

 エ 若年労働者の3つの未熟さを克服するための教育方法 イで述べた若年労働者の3つの未熟さを克服するためには、基礎能力養成教育と応用力養成教育の2つが必要である。①基礎能力養成教育:主にスキルの未熟さへの対応を図る。生産と安全にとって必要な

基盤的なスキルの獲得と、集団生活にとって不可避なビジネスマナーの教育を実施する。

②応用力養成教育:コミュニケーション力と、近い将来に起こることを読み取り(先読み力または予測力)、予防的に行動できることを意図した教育を実施する。

図1-20 若年者の災害の特徴

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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 教育訓練(訓練を教育プログラムに位置付けることはきわめて重要である)は、長期間にわたり継続的に、計画的に行う必要がある。基礎能力養成教育は、入社直後から、応用力養成教育は現場作業をひと通りクリアした後、通常でいえば勤続2~3年目くらいからはじめることが効果的である。これらについては、「第3章 若年労働者に対する安全衛生教育」において雇入れ時教育及びフォロー教育として具体的な考え方、事例等について触れている。

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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《参考》

日本鉄鋼連盟・労働科学研究所共同研究「新規若年労働者の安全確保に係わる調査研究」(平成20~21年度)

 ・若年者の行動特性を知るため、多くの若年労働者ならびにその若年労働者の直接の管理・監督者を対象に、ヒアリング調査(55件)とアンケート調査(1,300名)を実施した。その結果、図1-21に示したような仕事の特性とそれに対応する若年労働者の取り組みに7つの特性があることが明らかになった。

・ A~Gの7つの特性ごとにヒアリング調査で抽出できた項目を中心に、最終的に55項目の設問を作成し、設問ごとに「まったく当てはまらない」から「非常によく当てはまる」までの5段階での回答を要請した。・ アンケート調査は、日本鉄鋼連盟に所属する会員各社で取り組んでもらい、直営企業と協力企業からの参加を得た。対象者は各企業の若年労働者と管理・監督者で、若年労働者に関しては、各設問が自分にとってどのくらい当てはまるかを5段階で、管理・監督者については、職場の若年者たちにどのくらい当てはまるかを5段階で回答するように要請した。

図1-21 仕事への対応からみた若年労働者の7つの特性

各特性に含まる項目の例示仕事への対応から見た若年者の特性

・自分の仕事に必要な技術を身に付けている技能の向上と教育による支援

特性A・会社は必要な安全教育を行っている

・自分の仕事に誇りをもっている仕事への構えや意識

特性B・失敗するくらいなら挑戦しない方がよい

・仕事でわからないことがあれば気軽に質問することができるコミュニケーション特性C

・職場の飲み会や社員旅行が苦手だ

・職場の一日の仕事の流れを把握している作業・安全の把握特性D

・自分の受け持っている作業内容を人に説明することができる

・仕事が忙しい職場環境と働きやすさ

特性E・職場は騒音が大きい(うるさく感じる)

・作業手順書は理解しやすいマニュアルの使い勝手

特性F・作業中必要なときに作業手順書を活用できる

・職場では機械を止めると怒られる雰囲気がある職場の風土特性G

・直営と協力会社は協力しあえている

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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・回収が得られた調査票は、2つの分析軸によって分析をすすめた。第1は、設問に対する回答がポジティブ(5段階評価の得点が高い)か、ネガティブか、ニュートラル(どちらともいえない)か。第2は、若年労働者の得点と管理・監督者の得点を比較したことである。・その結果、図1-22に示すように、若年労働者と管理・監督者の回答パターンが3つに分かれた。  パターンⅠ:若年労働者の評価が高く、両者の差が大きい。  パターンⅡ:両者とも評価は低く、評価差は小さい。  パターンⅢ:評価はニュートラル(どちらともいえない)で、評価差は小さい。

・この3つのパターンのうち、パターンⅠが注目された。パターンⅠは若年労働者と管理・監督者の見方のギャップが大きいことが特徴である。一例をあげれば、「職場の一日の流れを把握している」(特性D:作業・安全の把握)という設問に対し、若年者は「よく当てはまる」と回答したが、管理・監督者は「どちらともいえないか、そんなには当てはまらない」という回答だった。もう一例。「仕事を通じて成長したい」に対して若年者は「よく当てはまる」と答えたが、管理・監督者は「どちらともいえない」との回答であった。・若年労働者の職場での振る舞いをみたときの若年労働者自身の見方と管理・監督者の見方に差のある項目は、図1-22のパターンⅠに示したように技能の向上と教育による支援(特性A)、仕事への構えや意識(特性B)、作業・安全の把握(特性D)などに配分された項目に多く見られたことが重要である。・仕事に不可欠な「技能」、「仕事への構え」、「作業と安全」といった仕事をすすめる上で最も基盤的な内容についての見方が、若年労働者と管理・監督者の間で差があることに注目される。ひと言でいってしまうと、ある作業を若年労働者自身は「できる」「わかっている」と回答しているが、管理・監督者は「まだできない」「理解が足りない」と回答している。安全に関する項目についても同様なギャップは生じていた。これらのギャップの克服が課題である。

図1-22 若年労働者の特性に対する若年労働者自身の評価と管理監督者による評価の関係

該当する特性パターンの特徴パターン

特性A 技能の向上と教育による支援若年者による評価は高いが、評価差は大きい

パターンⅠ 特性B 仕事への構えや意識

特性D 作業・安全の把握

特性E 職場環境と働きやすさ評価は低く、評価差は小さいパターンⅡ

特性C コミュニケーション評価はニュートラル(どちらともいえない)で、評価差は小さい

パターンⅢ 特性F マニュアルの使い勝手

特性G 職場の風土

1 若年労働者の災害の傾向と行動特性

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・このギャップは何か。管理・監督者が若年労働者に要求する技術(スキル)と安全の水準と、若年労働者の到達水準についての自己評価にギャップのあることが推察できる。・その一方、企業が行う「(安全衛生)教育」については、管理・監督者も若年労働者も一致した評価になっている。つまり、管理・監督者も若年労働者も「会社は教育をよくやっている」という評価であった。ただし、ヒアリング調査において、例えばマニュアルについて、若年労働者からハンマーでの叩き損ねの事例において、「叩く」という手順はマニュアルに書かれていても、「どう叩くか」については書かれていないという意見があった。この種の意見は管理・監督者も含め、いくつか寄せられた。解決のヒントとして受け止めたい。

*なお、労働科学研究所ではこの結果をさらに深堀りし、新しい若年労働者教育プログラムの開発を目指している。

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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 「安全はトップの生き方で決まる」という言葉もあるように、企業あるいは事業場の安全衛生管理を進める上でトップのポリシーが大きな意味を持つ。労働災害を防止するためにはこのトップの安全衛生に関するポリシーを従業員に伝えることが極めて重要である。 特に新入社員をはじめとする若年労働者に会社あるいはトップの安全衛生に関するポリシーを伝え、理解させることは、会社が安全衛生をいかに重要視しているか、従業員をいかに大切に考えているかを示すことであり、効果的に安全衛生管理を進める上でも不可欠なことである。 具体的には次のような点にも留意し各社・各事業場で工夫して行うべきである。●毎年掲げる「会社(社長)の経営方針」「工場(長)方針」のトップに、「安全最優先」「安全第一」を持ってくること。●社長は、各事業場へ行き社長講話をする時は必ず安全の話をする、時間を作って現場を見て歩くということなどをすること。社長が現場を見て歩くとなれば、必ず整理・整頓を行い、事業場内の美化につながるという副次効果も望める。

●工場長は、現場をパトロールすることを日課とし、従業員に声をかけたり、不安全行動を見かけたら注意するなど、総括安全衛生管理者としての役割を果たすこと。

●毎月実施している安全衛生委員会、協力会の安全衛生委員会には必ず出席すること。

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

・年頭に当たり、工場長等事業場トップの安全衛生管理方針を従業員に示している。・社長の年頭挨拶の中で必ず安全衛生について触れている。・全国安全週間に当たり、社長メッセージを発している。

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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資料2-1 「企業の理念」の例<A社>

 安全衛生に関する「企業の理念」「企業の方針」「トップの理念・方針」「労働安全衛生マネジメントシステムにおいて求められる安全衛生方針」それぞれの例を掲げる。

資料2-2 「企業の理念」の例<B社>

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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資料2-3 「企業の理念」の例<C社>

資料2-4 「企業の方針」の例<A社>

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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資料2-5 「企業の方針」の例<B社>

資料2-6 「労働安全衛生マネジメントシステムにおいて求められる安全衛生方針」の例

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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資料2-7 「トップの理念・方針」の例 <A社>

資料2-8「トップの理念・方針」の例<B社・年頭挨拶>

2 企業・事業場の安全衛生に関する方針

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資料2-9「トップの理念・方針」の例<C社・社長メッセージ>

第84回全国安全週間社長メッセージ

  全員参加で「心身ともに健康で働くことのできる安全で快適な職場」を実現しよう  

  本日から、“安全は 家族の願い 企業の礎 創ろう元気な日本!”を統一スローガンとして、「第84回全国安全週間」がスタートします。この機会に社長として皆さんに改めて安全確保を要請します。 当社ではこれまでも安全を最優先し、安全管理体制の整備・強化に努め労働災害の防止に全力で取り組んでおり、災害件数は漸減傾向にあるものの6月15日現在で30件の労働災害が発生し、そのうち休業災害が9件発生しています。更に災害の原因を分析すると、基本的なルール違反や不注意などの「不安全行動」と設備・機械等作業環境の「不安全状態」に起因するものがそのほとんどを占めています。以上の状況を踏まえ、当社では、本年から「新第三次全社安全衛生3ヶ年計画」を策定し基本方針として「全員参加による安全確保」を徹底し、業界トップの安全衛生水準を目指すこととしています。

 安全週間のスタートに当たり、ここ数年来、安全衛生強化月間中にも拘わらず災害が発生していることを鑑み、従業員の皆さんにはまず、安全衛生強化月間にゼロ災を達成するという強い意志を持ち、職場の安全に十分留意して業務に取り組むことを重ねてお願いするとともに、次の事項を基本として安全活動を実施するよう強く要請します。

1 法令順守ならびに重大災害・類似災害防止対策の徹底強化  法令や定められたルールを確実に遵守することにより、労働災害、特に重大災害を撲滅する。また、過去に発生した災害の防止対策を見直し展開することで類似災害を防止する。2 労働安全衛生マネジメントシステムに基づく安全衛生管理の確実な実施  労働安全衛生マネジメントシステムの継続的な運用・改善を図る。特にリスクアセスメントの実施においては、全員参加で職場に潜むリスクを徹底的に抽出・低減し、本質安全化に向けた職場づくりを推進する。3 安全意識の維持・向上と不安全行動による災害の防止  「K・S・KY活動」を推進し、危険体感教育や安全教育、安全活動(5S、相互注意、安全点検パトロール、事業所間安全推進委員会活動等)を更に強化することで安全意識の維持・向上を図り、不安全行動による災害を撲滅する。

 最後になりましたが、皆さんとご家族が安全で健康な日々をおくられることを祈念して、第84回安全週間のメッセージといたします。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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 若年労働者の労働災害防止対策を進める上で中心になるのは安全衛生教育である。 ここでは、若年労働者の労働災害防止上特に重要な雇入れ時の教育とフォロー教育について取り上げるが、安全衛生教育については各種の法定教育、階層別や職能別の教育、また、技能講習等の資格教育等を体系的に実施しているのが一般的である。若年労働者に対する安全衛生教育を考える上でも安全衛生教育体系を整え、これに基づき効果的・効率的な安全衛生教育を実施していくことは非常に重要である。実際の企業の安全衛生教育体系の例を掲げる(資料3-1、3-2)。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

資料3-1 A社の安全衛生教育体系

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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(1)雇入れ時教育 ア 法定の雇入れ時教育 労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)は、第59条第1項で新たに雇い入れた労働者に対し遅滞なくその従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならないと規定しており、労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第35条第1項で教育すべき事項を掲げている(図3-1)。

資料3-2 B社の安全衛生教育体系図

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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 教育時間については特に定めはないが、対象者がその内容を十分に理解するための時間や次項で述べる法定項目以外の内容を教育する時間も確保することが必要である。 教育内容については、各事業場の実態に応じて基本的な事項を最優先に行うとともに、若年労働者が概して危険感受性が低いことに鑑み、リスクアセスメントに関することを含め、安衛則第35条第1項第1号及び第2号に関する部分については重点的に行うべきである。 また、教育は計画的に実施し、実施後は、実施日時、教育内容、教育実施者、教育時間、理解度等の記録をとり保管しておかなければならない。

図3-1 雇入れ時教育に係る法令

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

<雇入れ時教育(新入社員教育)の期間の例> ・新入社員は、半年間を技能、安全、その他の教育期間としている。 ・新入社員見習い期間を多く取っている(半年間)。 ・雇入れ時に全体の集合研修を行うほか、各部課配属時に当該職場の実情を踏まえた教育を行っている。

 ・新入社員教育(約1か月):製品の種類等概要に関する知識教育、製品の製造について。

 ・長期(3か月以上)現場研修にて訓練。 ・技能訓練生への新入社員教育として集中教育をしている(6か月間の養成期間)。 ・職場研修(ローテーション)で1年間実施。うち半年間は集合研修。 ・シフト外期間を長めに設定し、技術を学ぶ(1年以上)。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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 イ 法定項目以外の教育内容等 学校を卒業して入社したばかりの若年労働者は、学校を出たての社会人1年生ということを踏まえ、次のような事項についても雇入れ時教育時に教えることが望ましい。これは安全衛生に限らず職業生活を円滑に送る上でも必要なことである。①企業・事業場の安全衛生に対する姿勢・考え方 学校生活では、安全や衛生ということを意識しなかった者が大部分である。そのような若年労働者に企業・事業場が組織としていかに安全衛生の確保を重視しているのかを示すこと、企業トップが自らの言葉で安全衛生への取り組みをきちんと示すことは第2章で述べたとおり非常に重要である。 その意味でも雇入れ時教育の際に企業・トップの方針を伝えることは必須と言える。雇入れ時教育のテキストの最初にトップの安全衛生に関する考え方・方針を掲載している企業も多い。雇入れ時教育の最初に企業・事業場のトップが出席して安全衛生に関する考え方を語ることは、新入者に対して企業・事業場が安全衛生を重視していることを印象づけ、教育に真剣に取り組む態度を引き出すことにもなる。 また、企業・事業場あるいはトップの安全衛生に関する方針は、年頭、安全週間、労働衛生週間等さまざまな機会に表明することも方針を浸透させる上で大切である。(トップの理念・方針の表明の例は22~23ページ資料2-7、資料2-8、資料2-9参照)。

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

・雇入れ時教育テキストの最初にトップの署名入り安全衛生基本理念を掲載している。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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 実際の新入社員教育テキストにおける企業の安全衛生に関する考え方、取り組み姿勢についての記載例を次に掲げる。

資料3-3-1 A社の例-1

資料3-3-2 A社の例-2

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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②会社ルールの遵守 若年労働者は業務知識が乏しい中で、自己の勝手な判断で業務を行い大きな災害を招くおそれがあることから、会社ルールの逸脱は絶対行わないよう徹底しなければならない。

③学校生活との違い 学校生活と職場生活との違いについてまず十分認識させ、その上で生活環境の変化に早く順応することが必要であることを教える必要がある。 また、職業生活を送る上での社会人としての責任の重さについても認識させる必要がある。

④社会人としての常識 挨拶の励行、ルールの遵守、服装、日常の健康管理等の社会人としての常識について教えることは安全衛生に限らず職業生活を送る上で必要なことである。 最低限の常識やマナーについては雇入れ時教育の際に触れておくことが必要である。

資料3-3-3 A社の例-3

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

・新入者教育の初日には安全衛生担当者が、安全衛生が一番大事であることを強く訴えている。けがをしないこと、自分の身は自分で守ること、そのために作業標準を守ること、そしてけがをして一番困るのは誰かということを新入者一人ひとりに問いかけ、それは自分や家族であることをその場で確認してもらっている。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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 実際の新入社員教育テキストにおける一般的心得の記載例を次に掲げる。

資料3-4 新入社員教育テキストの一般的心得(A社の例)

資料3-5 新入社員教育テキストの一般的心得(B社の例)

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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資料3-6-1 新入社員教育テキストの一般的心得(C社の例-1)

資料3-6-2 新入社員教育テキストの一般的心得(C社の例-2)

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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⑤安全衛生に関する基礎的な知識 アで示したように安衛則第35条第1項には雇入れ時教育で実施すべき8つの事項(26ページ図3-1)が定められているが、これらを理解するための前提として「事故・災害発生のメカニズム」(資料3-7-1)、「労働衛生の3管理」(資料3-7-6)や「労働安全衛生法令」などの基礎的な知識については必ず教えておいた方がよい。 特にハインリッヒの法則(資料3-7-2)等の考え方について徹底し、重大災害の背景には顕在化していない災害が数多く存在すること、また、微小な災害の発生を抑止していくことこそが、統計学的に見て重大災害を減少させていくためには重要であることを理解させることが大切である。 安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材の例は、資料3-7-1から資料3-7-6に示すとおりである。

資料3-7-1 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

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事故・災害発生のメカニズム

多くの事故・災害は、不安全な状態の上に、不安全な行動が重なって発生しています。この不安全状態・不安全行動を撲滅することが重要です。

不安全状態とは

事故の要因となった物理的な状態や環境例えば、設備の故障未修理・整備不良、危険源に対する防護・遮蔽の不十分、通路・作業場所での整理整頓の不十分 など

不安全行動とは

事故の要因となった労働者の行動例えば、合図・確認なしに動かす、不安全な状態にて放置する、動いている機械・装置などに触れる、安全ルール・決められた作業手順を守らない など これらの不安全状態・不安全行動が発生しないよう、周囲に目を配らせ、かつ自分の行動に注意すること、そして周囲・他者にそのような状態が生じていれば、すぐに対処することが災害の撲滅に繋がります。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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資料3-7-2 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

資料3-7-3 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

ハインリッヒの法則

現在、当社で発生している災害は、上記の図の海面上に出ているほんの一部分、まさに氷山の一角であり、その背後には多数の危険源が隠れていることとなります。

言い換えれば、現在多数発生している労働災害から見ると、いつ死亡災害のような重大災害が発生してもおかしくない、極めて危機的な状況にあると言え、この発生を抑えるためにはその底辺である潜在危険を如何に減らしていくか、不安全状態・不安全行動を如何に減らしていくかが重要となります。

左の図は労働災害発生件数の構成を示したもので「ハインリッヒの法則」と呼ばれるものです。1件の重大災害に対して軽傷災害が29件、災害に至らなかった事故が300件発生しているというものです。さらにその底辺には潜在危険として、それを災害に至らなかった事故を遥かに超える災害の種(不安全状態・不安全行動)があります。

不安全状態の改善

労働災害の多くは、作業者の危険予知不足が起因して発生しています。

KY活動を日常的に実践することにより、最近多く見られる「危険を危険として気づかなかった」「うっかり、ぼんやりしていた」「安易な気持ちで行った」などによる事故や災害発生の防止が相当に期待できます。

個人個人が、その作業・行動をする前に「その作業・行動にはどんな危険があるか」を考えてから、作業・行動に移すことが労働災害の防止につながります。

KYT(危険予知訓練)を実作業で活かす実践活動。一日のはじめに、その日の作業において、どんな危険が潜んでいるかを全員で話し合い、作業内容、作業手順、作業場所、作業環境などに潜んでいる危険を話し合い、気づかない人がその危険に気づき、納得して作業にかかる活動。

KY活動とは

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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資料3-7-4 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

不安全行動の改善

日常業務において、事故・災害にはならなかったものの、ヒヤッとしたりハッとしたりしたことはありませんか?

個人のヒヤッとしたり、ハッとしたりした体験を「ヒヤリハット」と呼びます。「ヒヤリハット」は事故・災害にはならなかったものの、その手前で歯止めをかけるための大変重要な情報です。「ヒヤリハット」を個人の体験に留めず、先取りとして具体的な改善にまでつなげることが重要です。

ヒヤリハットとは 「ヒヤリハット」の情報については、職場の安全衛生担当、上長、もしくは各事業所の安全衛生事務局に渡しましょう。(情報の渡し方については各事業所により異なるので、職場の安全衛生担当等に確認してください。)

大事なことは、災害を未然に防ぐためにも、個人の体験に留めず「情報を眠らせない」ことです。

資料3-7-5 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

不安全行動の改善

作業・行動を誤りなく進めていくために、作業・行動の要所で自分の確認・注意すべき行動を「~よし!」と対象を指差して声を出して確認することです。

人は24時間注意を保つことはできません。また人は錯覚をする生き物です。要所で指差呼称を行うことで、注意を喚起し意識レベルを高くすることが重要です。

指差呼称とは

指差呼称の定量的効果については、上記の(財)鉄道総合技術研究所のデータがあり、指差呼称をしたときは、何もしないときの誤り率を6分の1に減らす効果があることが示されています。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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資料3-7-6 企業で使用している安全衛生に関する基礎的な知識に関する教材例

労働衛生の3管理愚

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作業環境管理

作業環境中の有害因子の状態を把握して、できるかぎり良好な状態で管理していくこと。作業環境中の有害因子の状態を把握するには、作業環境測定が行われる。

作業管理

環境を汚染させないような作業方法や、有害要因のばく露や作業負荷を軽減するような作業方法を定めて、それを適切に実施させるように管理することで、改善が行われるまでの間の一時的な措置として保護具を使用させることなども含まれる。

健康管理

労働者個人個人の健康の状態を健康診断により直接チェックし、健康の異常を早期に発見したり、その進行や増悪を防止したり、さらには、元の健康状態に回復するための医学的及び労務管理的な措置をすること。最近では、労働者の高齢化に伴って健康を保持増進して労働適応能力を向上することまでを含めた健康管理も要求されるようになってきている。

 ウ 若年労働者への安全衛生教育の留意点 雇入れ時教育のみならず、若年労働者に対する安全衛生教育については、内容もさることながら、若年労働者の特性や生活環境等も踏まえ企画・実施することが重要である。 若年労働者の特性や生活環境としては、危険に対する感性が欠如あるいは欠落していること、学校教育等で「危険」を体験する機会が少ないこと、便利さが追求され、かつ、最初から安全なものにしか触れないことなどが特にあげられる。 このようなことも踏まえ、後に述べる教材の工夫や安全体感教育の積極的な活用等を行うことが若年労働者に対する安全衛生教育の効果を高めるためのポイントの1つである。 また、OFF-JTの実施方式には、講義方式、討議方式等があるが、講義方式にあっては、講師からの一方的な話にならないよう後ほど述べる視聴覚教材の活用や質問の時間を適宜設け対話形式にする等の工夫を行うことも効果的である。 討議方式は、討議の進め方等について工夫することにより、より高い教育効果を得られるので、講義とうまく組み合わせて実施することが望まれる。

 なお、本調査研究委員会が昨年度実施したアンケート調査結果において、労働災害の事故の型別の発生状況を全体と若年労働者で比べると「はさまれ、巻き込まれ」「切れ、こすれ」「転倒」の上位3つは同様の傾向を示しているが、次の3つは若年労働者における順位が全体に比較して高くなっている。業種等によって差はあると思われるが、安全衛生教育を行う際は留意するとよい。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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①高温・低温の物との接触②交通事故(道路)③踏み抜き 同様に労働災害の発生原因を不安全行動別にみると、次の2つが若年労働者における順位が全体に比較して高くなっている。安全衛生教育を行う際は留意するとよい。①危険場所等への接近②不安全な放置(エンジンをかけたまま離れる、工具・くず等をところかまわず置くなど)

 エ 配属時の教育 基本的な教育が終了した後、各職場に配属する前にはその職場の作業に即した具体的な安全衛生教育を実習、体験等を通じて行うべきである。 また、一定の危険・有害業務に従事させる場合は法令に基づき所定の特別教育を行う必要がある(安衛法第59条第3項、安衛則第36条)。

 オ 教育効果の評価 雇入れ時教育等を終えて現場に配属された若年労働者が、教えられたことを現場での作業に活かさなければ教育を実施した意味がない。教育を行ってもなかなか災害の減少に結びつかない、教育したことが身についていない、現場での作業に活かされていないと感じている事業場も多い。 安全衛生教育の目的は、教育した事項を理解させ、それにより職場での行動変容を促し、最終的には職場の状態・レベルを向上させることにある。 この目的を達成するためにも教育効果を把握することが重要である。具体的には、理解度の評価については、知識教育ならばペーパーテスト等により行う。技能教育については、実技テストや実際に作業を行わせてできばえを見ることにより評価する。また、教えたことがきちんと職場で実施されているか評価する方法としては、上司等による行動観察や職場パトロールを行うことや、また、レポートを提出させること等があげられる(図3-2及び図3-3参照)。

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

・雇入れ時教育終了後、12月に仮配属するまで基本的な技術について順次職場を回りながら体験させ、実際に働くまでに1年をかけている。・集合教育を2か月行った後配属し、その後専門作業や技能教育を2か月行う。・職場配属前に特別教育や必要な技能の教育を実施している。・正規の作業に配置する以前に工具の取扱い等基本技能を教えている。・数日は担当者がつき指導しながら一緒に仕事を行う。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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図3-2 安全衛生教育の評価について

図3-3 教育効果の把握について

安全衛生教育の評価 安全衛生教育の究極の目標は、災害ゼロの長期に渡る継続である。とはいえ、教育訓練の成果をすぐに評価するのは難しいので、以下のような方法で確認するのも一つの方法である。①理解度テスト 入構時教育などの一般的な教育を実施した後に、簡易なテストにより、理解度を確認する。②資格の授与等 教育や訓練に参加し一通りの能力が教育できたら、今後、現場の活動において、リーダーとしての行動や、特殊な作業の実施者として活動を行うために、有資格者名称のワッペン等で表示をしたり、責任者としての資格を与えることも一つの方法である。

(「化学工業における元方事業者・関係請負人の安全衛生管理マニュアル (平成23年2月 厚労省・中央労働災害防止協会)より)

教育効果の把握について 受講者の評価は、教育目標についてその達成状況を評価することであり、基本的には「受講者の理解度」「行動変容」「職場の状態・レベル」と3つのレベルより見ることができる。

方 法評価の内容評価項目(対象)

アンケート質問テスト実技テスト

・受講生がどの程度受け入れたか・受講生がどの程度理解したか受講生の理解度1

レポート行動観察

・教育の結果、仕事への態度などの行動の変化をみる行動変容2

報告書行動観察・職場の状態、業績の変化をみる職場の状態

   レベル3

「安全衛生教育について」(中央労働災害防止協会安全衛生教育センター発行)より

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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(2)フォロー教育 若年労働者対象のものに限らず、教育は繰り返しが重要である。入社後数年経過すると仕事にも慣れ、油断が生じたり、自分は大丈夫とルールを守らなかったりすることなどが起こりやすいので、フォローの安全衛生教育を行うことは若年労働者の災害防止を進める上で重要である。 また、「(1)オ 教育効果の評価」(36ページ)で述べた教育効果の評価結果を受けて、理解度が低い事項について再教育を行う、実行されていないことがあれば実行を促す等教育したことが確実に身に付き実行されるよう継続的にフォローすることも重要なことである。   ア 実施時期 フォロー教育については実施している事業場の例を見ても実施時期、間隔等さまざまであり、一律に決めることはできない。後に掲げる実例等も参考にしながら、全体の教育体系、人事異動の間隔等種々の要素を勘案しながら実施時期を決めていくことが必要である。

 イ 教育内容等 教育内容については、例えば雇入れ時教育終了からそれほど時間がたっていない場合は雇入れ時教育の内容の理解度を測り、理解度が低い部分を補う目的で行うことが重要である。一方、入社数年後に行う教育の内容としては、5S等再度徹底すべき基本的事項に加え、それぞれの作業に応じた安全衛生対策等があげられる。 また、教育のあとにレベルに応じた訓練をさせ、教育と訓練のサイクルをフォローしていくことによって更なる効果が期待できる。 いずれにしろ、安全衛生以外の教育との関連もあることから人事・労務・教育部門と連携をとりつつ事業場の実情に応じた教育内容を設定すべきである。

茅栢 事業場における実例(ヒアリング・アンケートから)栢茅

・入社1年経過時、5年経過時、10年経過時と段階的に集合研修を行っている。・入社2~3か月目を目標に短時間(座学60分、実習45分)のフォロー研修を実施している。・配属1か月後には、座学1時間、実技2時間(危険予知訓練1時間、危険体感教育1時間)のフォロー教育を行っている。・入社5年経過前に、担当している作業に応じた安全衛生教育を実施している。

3 若年労働者に対する安全衛生教育

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・体系的にフォローしている。 ①入社時   ↓ <実習> ②1週間後   入社時の教育内容を覚えているか確認する。   ↓ <現場ごとの専門教育> ③2週間後   その人の弱味をフォローする。   ↓ ④3週間後   仕上げの教育 ⑤その後1か月ごとにフォローアップ(とっさの行動がとれるかどうか。)・若年者を対象としたSTOP*を活用している。*STOP(Safety Training Observation Program) デュポン社が開発した「安全トレーニング観察プログラム」。 日常の安全行動・不安全行動、安全状態・不安全状態の安全観察及び安全監査に焦点を当てるもの。

STOPの活動写真(作業観察の後、作業者本人と会話をしているところ)

4 教育効果を高めるための手法

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 安全衛生教育の効果を高めるためにはその実施手法等について工夫をし、理解度を高め、教えたことを現場で活かすよう促す必要がある。若年労働者についてもその特性に応じて教育効果をより高いものにするよう手法の工夫を行う必要がある。

(1)安全体感教育 本調査研究委員会のアンケート調査結果によると、若年労働者の災害発生割合が高い事業場においては、全体では4番目の「危険感受性が低いため」という災害誘発要因の順位が2番目と高くなっている。 さらに、若年労働者の安全衛生上の課題として最も多い回答は「事故や危険に対する感受性や知識」であった。これらのことからも若年労働者に対しての、危険を危険と感じるための安全体感教育の必要性がうかがえる。 機械設備、環境、作業方法等の改善により労働災害は減少しており、また、若年労働者は職場での経験が短いこともあり災害に直面するという経験自体が稀なこととなっている。このことが危険に対する感受性の低下を助長しているとも考えられる。加えて、作業環境や設備の安全化の進展に伴い危険要因が潜在化し、何が危険なのか、どのようなことをすると危険なのかが分かりにくくなっている、とも言われている。 安全体感教育は、設備・作業に潜む危険を疑似体験することによって危険に対する感受性を高めようとするもので、個々人の安全意識の向上に効果があるものである。一方、指導方法や教育内容によっては単なるビックリ体験に終わったり、受講者の不安全行動を助長しかねない側面があることにも留意が必要である。 また、安全体感教育は「危険感受性」を高めることを目的に実施するものであり、これにより安全行動を促すことが期待されるが、人間の判断や行動は感受性だけで決まるものではない。労働災害防止のためには、危険感受性を高める一方、「危険敢行性」についても留意する必要がある。危険感受性が「どの程度危険に敏感か」を示すのに対し、危険敢行性は「どの程度危険を受け入れるか」を示す。危険敢行性が高ければ、危険感受性が高く危険を感じていてもその危険を受け入れ行動するため災害に繋がることがある。 人の行動は「危険感受性」と「危険敢行性」の組み合わせで図4-1に示すとおり4つのタイプに分類される。・安全確保行動:危険感受性が高く、危険敢行性が低い。危険を敏感に感じ、その危険を

回避しようとする傾向が強い。・限定的安全確保行動:危険感受性、危険敢行性ともに低い。危険に鈍感ではあるが、危

険を回避しようとする傾向が強く、結果的に安全が確保される確率が高い。

・意図的危険敢行行動:危険感受性、危険敢行性ともに高い。危険を感じてもその危険を避けようとしない。

・無意図的危険敢行行動:危険感受性が低く、危険敢行性が高い。危険に対して鈍感で、かつ、危険を回避しない傾向が強い。

4 教育効果を高めるための手法

4 教育効果を高めるための手法

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 危険敢行性については個人の属性による部分もあり若年労働者に自らの危険敢行性について自覚させ注意を促すことも必要であるが、不安全行動を行うことにより手間が省けたり、効率的に仕事を進めることができる等の背景が危険敢行性を高めることもあるので、多角的に危険敢行性のコントロールについて検討することも重要である。 なお、「危険体感教育テキスト」(平成23年厚生労働省委託事業 (社)日本労働安全衛生コンサルタント会編)では、表4-1のとおり体感教育に関する留意事項をまとめている。

図4-1 危険感受性と危険敢行性

4 教育効果を高めるための手法

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 安全体感教育の設備については、本格的な設備を作製した例もあるが、工夫により費用的にも低廉な疑似体験による体感教育を行っている例もある。また、施設・設備を有し体感教育を実施している安全衛生教育機関もあるので活用するのも一つの方法である。 若年労働者に向けてアピールするポイントを中心に、事業場におけるいくつかの疑似体験教育事例を次に紹介する。

表4-1 効果的な体感教育のための留意事項

効果的な体感教育のために -実施及び指導上の留意事項- 危険体感教育を実施する上での留意事項について以下に整理する。1)実技教育は、実際の現場作業と密接に関連する現実的な内容であること。2)実技教育を実施するための条件・設備・手順等について予め安全性を検証し、実施方法を定めること。また、定められた実施方法に基づいて実技教育を実施すること。

3)方法、内容、手順等を変更する際には安全性について再度検証を行い、定められた実施方法に反映すること。

4)より効果的な教育を追及しようとして過度な内容へとエスカレートする場合があるが、過度な体験は実技教育実施の際の安全性を脅かすばかりではなく、教育効果を著しく低下させる。教育における「体験」の意義と位置づけを明確にした上で、全体の構成を工夫すること。

5)実技教育を通じた体験そのものは教育の目的ではなく、あくまで教育の一手段である。  一過性の体験に留まることなく、「体感を通じて何を学ぶのか」という教育の目的を明確にし、常に意識して取組むこと。

6)危険感受性向上とともに、危険敢行性の低下を実現する教育内容・指導方法に配慮すること。

7)体験者の想像力を刺激し、自発的な「気付き」を促す教育内容・指導方法に配慮すること。

8)危険補償行動に留意し、災害防止のための知識・技能の習得と安全態度の形成を促す教育内容・指導方法に配慮すること。

(危険体感教育テキスト《講師用》(社)日本労働安全衛生コンサルタント会)より

4 教育効果を高めるための手法

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資料4-1 疑似体験教育事例-1