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技術報告 技術報告 1.はじめに SSGStructural Sealant Glazing)構法は、カーテ ンウォール(以下CW)フレームとガラスとをシリコー ン系構造シーラントにより構造接着する構法である。 SSG 構法により、外観上フレームレス化が図れ、デザ イン性や熱的性能などメリットを享受できる 1。国際的 には、 4SSG 構法がCWにおける支持形態の一つとして、 既に定着している 14SSG 4辺とは、図-1に示す様 な構造接着部の支持辺数を表し、SSG による支持辺数 が多いほど外観上フレームレスに近づく。わが国では、 1980年代後半から1990年代半ばにかけて2SSG の実 績を積んできたが、4SSG での経験は試験的なものを 除きほとんどない。しかしながら、最近では、4SSG への関心が高まり、採用計画や適用例も出始めている。 また、JASS 17 2の改定では、SSG 構法のアップデート も進められており 3、今後の適用拡大が期待される。 国内における SSG 構法の設計思想は、原則構造接着 部に地震時ムーブメントを生じさせない様、フレーム 部と構造接着部間に層間変位を吸収する接着用形材を 設けている 2,4図-2上)。そのため、複層ガラス(以下 IGU)などを CW ユニットに直接接着するダイレクト ボンディング型の4SSG 構法(図-2下)は、わが国で は存在していない。そこで、弊社では、国内初となる IGU を使用したダイレクトボンディング型4SSG 構法 の適用を試みた。本報では、その実施例について、設計 上の注意点や現状の課題などを踏まえながら、概要を報 告する(本報は、日本建築学会大会(関東)学術講演会 に投稿した大会論文 5を基に加筆したものである)。 Implementation of four sided SSG systems due to direct bonding between interlocking type unitized curtain wall and insulating glass unit. *1 ISHII Hisashi:(株)LIXIL Technology Research 本部 住環境要素研究所 主任研究員 博士(工学) 石井 久史 * 1 複層ガラスを用いたダイレクトボンディング型 4辺 SSG 構法の実施例について 図-2 接着用形材あり(上)とダイレクトボンディング(下)の違い 図-1 SSG 構法における支持形態 14

複層ガラスを用いたダイレクトボンディング型 4 …IGU)などをCWユニットに直接接着するダイレクト ボンディング型の4辺SSG構法(図-2下)は、わが国で

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技術報告技術報告

1.はじめにSSG(Structural Sealant Glazing)構法は、カーテンウォール(以下CW)フレームとガラスとをシリコーン系構造シーラントにより構造接着する構法である。SSG構法により、外観上フレームレス化が図れ、デザイン性や熱的性能などメリットを享受できる1)。国際的には、4辺SSG構法がCWにおける支持形態の一つとして、既に定着している1)。4辺SSGの4辺とは、図-1に示す様な構造接着部の支持辺数を表し、SSGによる支持辺数が多いほど外観上フレームレスに近づく。わが国では、1980年代後半から1990年代半ばにかけて2辺SSGの実績を積んできたが、4辺SSGでの経験は試験的なものを除きほとんどない。しかしながら、最近では、4辺SSG

への関心が高まり、採用計画や適用例も出始めている。また、JASS 172)の改定では、SSG構法のアップデートも進められており3)、今後の適用拡大が期待される。国内におけるSSG構法の設計思想は、原則構造接着部に地震時ムーブメントを生じさせない様、フレーム部と構造接着部間に層間変位を吸収する接着用形材を設けている2),4) (図-2上)。そのため、複層ガラス(以下IGU)などをCWユニットに直接接着するダイレクトボンディング型の4辺SSG構法(図-2下)は、わが国では存在していない。そこで、弊社では、国内初となるIGUを使用したダイレクトボンディング型4辺SSG構法の適用を試みた。本報では、その実施例について、設計上の注意点や現状の課題などを踏まえながら、概要を報告する(本報は、日本建築学会大会(関東)学術講演会に投稿した大会論文5)を基に加筆したものである)。

Implementation of four sided SSG systems due to direct bonding between interlocking type unitized curtain wall and insulating glass unit.

*1 ISHII Hisashi:(株)LIXIL Technology Research本部 住環境要素研究所 主任研究員 博士(工学)

石井 久史 *1

複層ガラスを用いたダイレクトボンディング型4辺SSG構法の実施例について

図-2 接着用形材あり(上)とダイレクトボンディング(下)の違い

図-1 SSG構法における支持形態

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CWの詳細を図-3と図-4に示す。図-3は、CWの基準部縦横断面である。図-4は、換気窓ユニット部の縦横断面であり、上段は縦断面、下段は横断面、左側は基準部、右側は換気窓ユニット部である。CWユニットには、高遮熱断熱型Low-E複層ガラスを採用しており、ガラスの遮熱断熱性に加えて、4辺SSGの特徴である外観上のフレームレス化により、フレーム部からの熱流が抑制され、高い熱的性能と平滑なデザイン性が同時に得られる6)。

3.設計要件本ファサードにおける設計要件等を表-1に示す。こ

こでは、SSG構法を検討するに当たり、設計要件・設計仕様として主要な項目だけを抽出している。構造接着部を設計する上でのクリティカルな要件は、主

に引張応力が発生する負圧時やせん断変形を生じさせる層間変位追従時および耐温度差性にある(表中網掛部)。構造接着部の設計では、発生応力に対して許容応力度や許容変形率以下となる様に接着幅や接着厚を決定する。具体的には、引張応力や圧縮応力が発生する部位であれば接着幅、せん断応力が発生する部位であれば接着厚を決定する。接着幅や接着厚には適用範囲があるため、必要であれば、各規格7)~9)をまとめた文献3)などから確認することもできる。

2.建物およびファサード概要対象建物は、東京都江東区に建設され、地上8階建、建物高36.7m(階高4150㎜~5760㎜)、平面サイズは59.2

m×47.6m、構造はS造で免震装置が施された弊社事務所ビルである。この建物のファサードは、東西南北面および既存建物を結ぶリンクブリッジも含め、5238m2にガラスCWを採用し、各階スラブ部には白色ボーダーが施されている(写真-1)。本ファサードは、1フロア1ユニットのインターロッキング形式によるユニットCWで構成され、基準部W寸法は1280㎜、三角形状換気窓ユニット部の辺長は1327㎜であり、それらがファサードにランダムに配置されている(写真-1右下)。この換気窓ユニットは、換気通風効果を高める目的で最適に配置され、快適性向上のために自動制御される。本ファサードに適用したCWは、CWユニットとガラスを工場でダイレクトボンディングしており、そのユニット数は大小含め全1038体である。

( )

写真-1 ファサード外観(建設時)

図-3 基準ユニット部断面詳細(上:縦断面 下:横断面)

( )

図-4 三角形状換気窓ユニット部断面図

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4. 2 慣性力に対する安全性(接着幅と接着厚)慣性力に対する安全性は、地震により生じる加速度を

考慮して、水平方向はKH=1.0,鉛直方向ではKV=1.0が要求される(表-1)。構造接着部における鉛直方向荷重は、セッティングブロックを介してCWフレームで IGUの自重を支持しており、鉛直下方は考慮する必要はない(自重支持部材は要検討)。そのため、鉛直上方に対する動きと水平方向について確認する。鉛直上方は、せん断応力が構造接着部に生じるため、JASS 17の式(5)より許容せん断変形率以下となる様に設計する。鉛直上方荷重は、比較的小さいため、接着厚決定の支配要因とはならない。また、水平方向は、ガラス面外と面内の作用荷重が考慮され、面外では接着幅、面内では接着厚に対して、許容引張応力や許容せん断変形率以下となる様に設計する。通常、ガラスの面外方向荷重は、耐風圧設計より小さい値を取るため、接着幅に関しては耐風圧設計値が支配的となる。

 ……………………………………………(5)

ここに :接着厚(㎜) :最大線荷重(N/㎜):設計用せん断応力度(N/㎜2)

4. 3 層間変位追従性(接着厚)建築主要構造部は、一般的に地震動により層せん断力が作用し変形するが、その際、ファサードの構成部材は、破損や脱落が無い様に変形に対して追従しなければならない。図-5には、層間変位時におけるCWフレームとガラスとの挙動差を模式的に示す。図-5左は、フレームが菱形変形(実際はS字変形)するのに対して、ガラスはフレームの様な変形ができないため、フレームとガラス間のクリアランス内でスライドやロッキング挙動により層間変位を吸収する。その際、フレームとガラスを繋ぐ構造接着部には、せん断変形が作用する。JASS 17

では、原則、層間変位時に構造接着部へせん断変形を生じさせてはならないが、本件では、接着用形材(図-2上)を設けずにCWユニットのロッキング率をできるだけ100%に近付けて、構造接着部と IGU封着部へのせん断変形を最小化した(図-5右)。仮に構造接着部にせん断変形が繰返し生じたとしても、被着面の接着性やゴム疲労の観点から何ら問題が無いことを試験により確認している。また、2階分の高さに相当する実大風洞試験において、層間変位追従性試験も実施し、層間変位角1/100

でも十分に安全であることを確認している(写真-2)。

4.詳細検討4. 1 耐風圧性(接着幅)

4辺SSGにおける負圧時の荷重は、外側ガラス、IGU

封着部、内側ガラス、構造接着部を介してCWユニットに伝達される(図-2)。そのため、SSG構法の接着幅は、IGU封着部と構造接着部を検討する。構造接着部における接着幅の決定は、JASS 17の式(1)により行い、ETAG

0028)の式(2)でも可能である。算定方法は、線荷重(N/㎜)に対して設計許容応力度で除して接着幅を決定する。一方、IGU封着部は、現状、国内ガイドラインに規定

されておらず3)、IGU封着部の算定にはISO 28278-19)の式(3)、またはETAG 002の式(4)を活用する。ただし、既往の研究10)~12)では、ガラスが同厚の場合、荷重分担率が異なることが指摘されているため、本プロジェクトでは、その増分荷重を見込んでIGU封着部の接着幅を決定している。また、中空層の一次シール部(図-2)も通常のIGUとは異なり、試験結果から新たな仕様としている。

 …………(1)  ………(2)

 ……(3)  ………(4)

ここに   :接着幅(㎜)      :IGUの接着幅(㎜)

:短辺部材長(㎜)  :風荷重(kPa, Pa)

:許容応力度,設計応力度(MPa)

     :IGUのガラス構成厚さに依存する係数

表-1 主にSSG構法に関係する要求性能および仕様等

表-2  IGUのガラス構成厚さに依存する係数 8),9)

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フリーとなる境界構造側の最長辺部を選定し、高モジュラスの長期許容せん断変形率の15%2),4)から,JASS 17

の式(6),(7)により接着厚を算定する.その際、実効温度差は、JASS 17や文献4)に示されているが、これらは、単板ガラスを想定していると考えられるため、本件とは条件が異なる。そこで、ここでは、IGUを使用していること、三角形状換気窓のCWユニットによるディテールおよび構造上の特殊性を有していること、実効温度差における数値が過去の実測結果や熱伝導解析による検討結果などから、各基準が本件には一様に合致しないと判断した。そのため、CWユニット全体をモデル化し、各部材の境界条件を踏まえた上で、熱伝導解析を実施して実効温度を決定した。その算定プロセスは、建設地近傍の最大日射量から相当外気温・相当室温の算定、各部材の終局温度算定、CWユニットにおける熱変形量を算定し、閾値となるせん断変形率から接着厚を導いた。図-6には熱伝導解析結果の一例を示す。また、ISOの式(8)、(9)でも評価は可能である。本プロジェクトでは、接着厚算定は勿論のこと、繰返し変形や温度ひずみに対する耐久性も確認している。

4. 4 水密性本プロジェクトでは、水密性において実績のある等圧

工法を採用している。等圧工法は、外部側とCWユニット間ジョイント部との圧力差を等価とすることで、雨水の誘引を防ぐ工法である。在来工法とは異なり、現場でウェザーシールを打設する必要がなく、性能品質を維持し易い。一方、ガラス廻りの水密性に関しては、図-3の通り、構造接着部に依存することが見て取れる。構造シーラントは、従来のシーリング材に比べて格段に耐久性や耐候性が高いため、構造シーラントが剥離、破断もしくは打継部に 間が生じていない限り、水密性に関する問題は生じない。したがって、本件のガラス廻りの水密性は、効率的かつ効果的に配置された構造シーラントにより、安全に止水されていると考えられる。

4. 5 耐温度差性(接着厚) CWのアルミフレーム部とガラスなどの部材間では、熱伸縮差が生じることにより、構造接着部にせん断変形が作用する。そのため、構造接着部の許容せん断変形内となるように接着厚を決定する必要がある。耐温度差性の検討は、通常、CWユニットの拘束部から鉛直方向に

図-5 層間変位時におけるCWの挙動例

写真-2 実大試験による確認の様子

 …………………………………………(6)

…………………………(7)

 …………………………………………(8)

…………(9)

28.5 27.8

27.6 27.8

28.8

30.0 32.3

28.5 29.0

29.0

31.0

31.2

28.6 29.7

29.8 30.1

29.4

29.0 293

29.7

28.6

29.5 28.6 28.9

29.9 31.5

29.4 29.8

54.0

61.4

56.5 58.3

47.8 52.1

図-6 換気窓ユニット部熱伝導解析例

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留し続けると日射により暖められた雨水が構造接着部へ悪影響を及ぼす可能性が考えられるため、本件では、雨水が溜まり難いディテールを採用し、接着耐久性に与える影響要因を極力排除している。また、何らかの影響で雨水が溜まってしまった状況を想定した試験も実施し、十分な安全性を確認している。

4. 7 落下防止機構SSG構法は、ISO 28728-1やETAG 002に記されてい

るType-ⅠやType-Ⅲのように、万が一のガラス破損や構造接着部の不良などを想定し、落下防止機構を設けている(図-8, 写真-3右)。本件では、上下CWフレーム中央部にアルミ小片を1つずつ嵌合配置して落下防止材を設けている(通常は2つずつ配置)。この落下防止材は、ガラスが脱落しないように幾何学的な関係性を確認しており、かつガラスに局部応力が生じない様にガラスと落下防止材とが接触しない距離に配置してある。写真-3左には、本プロジェクトにおいて落下防止材

が設置されたCWユニット全体を示している。落下防止材自体は小さく目立たないため、安全性を確保しながらデザイン性にも十分配慮できていることがわかる。

落下防止材は、ガラスを落下させないための保持機構ゆえ、負の最大風圧力に耐え得る構造とまでする必要はない。この点は設計思想にもよるが、仮に何かの不具合

ここに

4. 6 構造接着部周辺のディテール構造接着部は,被着体であるCWフレームとガラスと

を2面接着しているが,周囲にはCWフレームの一部やガスケットなどが配置されるため(図-7)、これらと接着すると3面接着となり、局部応力の発生による破断懸念や可塑剤の移行などのコンパチビリティによる問題が生じる恐れがある。構造シーラントは、2面接着で十分な性能を発揮するため、各規格やガイドラインでは原則3面接着を禁止している。本件では、3面接着防止フィルム(ボンドブレーカー)の採用により、健全な接着面となる様に配慮している。

構造接着部は、長期に亘り安全に荷重伝達できる様に耐久性が要求されるため、被着体との接着耐久性や構造シーラント自体の耐久性および耐候性は重要である。構造接着部は、繰返し荷重や様々な環境的アタックにより終局耐力の低下に加え、周辺部材との接触により接着耐久性などに影響を与えることも懸念される。また、仮に構造シーラントと接触する部材種が過去に使用したものと同一素材(e.g. EPDMなど)であったとしても、製造者や製造工場が異なるだけで影響を与える恐れもあるので、事前にコンパチビリティを確認することを推奨する。本件では、想定される全ての種類に関して試験を実施し、十分に安全であることを確認している。

SSG構法は、フレームレスな外観が維持される一方で、等圧工法の採用により、雨水が排水経路を介して構造接着部に達することも想定される。雨水が構造接着部に滞

図-7 構造接着部における3面接着の例 図-8 SSG構法における自重支持・落下防止支持による違い

写真-3 CWユニット外観(左)と落下防止機構部(右)

:接着厚(mm)

:設計用せん断応力度(N/mm2)

:設計せん断応力度(N/mm2)

:ガラスの実効温度差(℃):フレームの実効温度差(℃):ガラスの線膨張係数(/℃)

:フレームの線膨張係数(/℃)

:ガラス横辺長(mm)

:熱伸縮量(mm)

:長期せん断変形率

:ガラスの温度(℃):フレームの温度(℃):ガラス辺長(mm)

:SSG打設時温度(℃):ガラス縦辺長(mm)

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6.現場再施工ダイレクトボンディングによる課題は、不具合発生時の現場再打設にある。そのため、現場特有の影響要因を排除していく必要がある。課題は主に3つある。

1つ目は、工場施工時と同一素材の構造シーラントで再打設できることである。従来は、同一性能を有する2

成分形のシリコーン系構造シーラントを再打設する機器がなかったため、低位材料により再打設することが行われてきたが、本件では現場で主剤と硬化剤が正確な比率でミキシングできるハンディー型打設装置を新たに開発し、この課題をクリアした。

2つ目は、打設方法や打設環境および養生環境である。打設方法としては、前処理としてCWフレームの被着面側に構造シーラントの一部を残す方が(図-10)完全に除去するよりも被着体塗膜面を痛める可能性が低く、接着性を担保し易い。もちろん、被着体表面を傷めない何らかの措置が講じられるのであれば、完全除去でも良い。また、打設環境は、被着体温度や気象状況が打設可能範囲(一般的には12~35℃で品質管理能力に応じて変わる)とする必要があるため、本件では被着体温度を制御する施工方法および養生方法も新たに開発した。現場での風速環境は、打設部へのコンタミ混入や作業安全性を考慮して決定するので、この問題はある程度調整が効く。打設された構造シーラントは、外押縁が取付けられるディテールとすれば、それを活用して仮固定が安定的に行える。

3つ目は、現場打継部の接着性である。打継が完了しても、十分な性能が発揮できなければ、再施工が可能とは言えない。そのため、本件では、工場打設時の構造シーラントと同一材料か否かで試験を実施し(図-10)、同一材料での打継であれば何ら問題ないことを各種条件にて確認している。以上より、ダイレクトボンディング型4辺SSG構法に

おける不具合発生時の現場再打設に関して、現場特有の想定した影響要因をある程度排除できた。これによりスムーズな運用が可能となると考える。

7.おわりに本報では、わが国初となる複層ガラスを用いたダイレクトボンディング型4辺SSG構法を実物件のファサード全面に適用した事例について報告した。4辺SSG構法

で構造接着部が一部剥離していたとしても、室内外圧力差による 間音や雨漏り等で気付く。また、構造接着部が全周全長に亘り剥離していること自体考えにくく、さらに、風圧力設定時の再現期間などを考慮すれば、負の最大風圧力に対して、あの小さな落下防止材だけで支えることへの合理性が得られないからである。もちろん、落下防止材だけで負の最大風圧力を負担するのであれば、それは、点支持構法と同義となるのでSSG構法である必要は無く、ガラスに局部応力が生じることを想定したガラスの仕様変更を行うことになる。

5.熱的性能SSG構法は、フレームレス効果により断熱性の向上

が期待できる。一般的にCWフレームは、熱伝導率の高い素材を採用しており、ファサード面積に占める割合が少なくても、その影響は大きい。既報6)では、一般のCW(フレームあり)とSSG構法(フレームレス)との比較において、両者ともLow-E IGUを採用した場合の熱伝導解析結果が報告されている(表-3)。そこでは、SSG構法が一般のCWより断熱性において20%以上向上することが示されている。本プロジェクトでは、採用したCW断面において、熱的効果を確認する上で一般のCW(フレームあり)とSSG構法(フレームレス)による比較を熱伝導解析により実施した。解析条件は、室温20℃、室外0℃、室内側表面熱伝達係数9W/(m2・K)、室外23 W/(m2・K)である。熱伝導解析結果例を温度コンターで図-9に示す。一般のCWは、方立部の表面温度が10℃であるのに対して、SSG構法では15℃を示している。この結果から、室内から室外への熱流が抑制されている様子が見て取れる。

表-3 一般のCWとSSG構法の熱伝導解析による断熱性比較6)

図-9 一般のCWとSSG構法との熱伝導解析による断熱性比較

図-10 再打設試験における試験体

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は、フレームレス化によるデザイン性と熱的性能の向上および汚れの緩和など様々なメリットを有するが、その一方で構造接着への懸念や現場での再施工性に課題があった。これらの懸念や課題の解決は、研究開発活動と実プロジェクトへの適用を通じて加速され、わが国における4辺SSG構法の新たな在り方や可能性を示すことができた。今後は、これまでに得た知見を有効に活用して、SSG構法の浸透に努め、社会に貢献していきたい。

謝辞本プロジェクトを実施するに際し、弊社ビル事業部門

の塩田浩一氏、西村雅雄氏、岩瀬静雄氏、武蔵栄一氏、弊社研究部門の安尾貴司氏、信越化学工業㈱ 岩崎功氏、㈱三菱地所設計ならびに鹿島建設㈱の関係諸氏に多大なるご協力を頂きました。ここに記して謝意を表します。

【参考文献】

1) 石井久史:ガラスファサードの4辺SSG構法の適用可能性について,GBRC Vol.38 No.1, pp.14-21, 2013.1

2) 日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS17 ガラス工事,2003.12

3) 石井久史:SSG構法における国内外ガイドラインに関する比較検討,GBRC Vol.43 No.2,pp.1-13, 2018.4

4) 日本建築学会材料施工委員会建具工事運営委員会:SSG構法研究報告書,1989.11

5) 石井久史:ダイレクトボンディング型4辺SSG構法の適用事例,日本建築学会大会(関東)学術講演 概集,2020

6) H.Ishii:Study on the Application of Four Sided Structural Sealant Glazing Systems in Japan, ASTM Selected Technical Paper, pp.85-105, 2015.8

7) ISO 28278-2 “Glass in building - Glass products for structural sealant glazing - Part 2:Assembly rules” 2010.12

8) ETAG 002 “STRUCTURAL SEALANT GLAZING KITS (SSGK)”,2012.5

9) ISO 28278-1 “Glass in building - Glass products for structural sealant glazing - Part 1 : Supported and unsupported monolithic and multiple glazing”, 2011.12

10) 石井久史:SSG構法における複層ガラス封着部の接着幅算定式に関する検討,日本建築学会大会(東北)学術講演概集2018

11) 石井久史:SSG構法における複層ガラス封着部の接着幅算定式に関する検討その2,日本建築学会大会(北陸)学術講演 概集2019

12) H.Ishii:Comparative study of guidelines regarding the design of four-sided SSG systems applied to facades, ASTM Selected Technical Paper, pp.243-274, 2017.6

【執筆者】

*1 石井 久史(ISHII Hisashi)

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