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京都産業大学益川塾 Maskawa Institute for Science and Culture (MISC) Kyoto Sangyo University 年次報告 第4報 Annual Report 2013 平成25年度

京都産業大学益川塾 - kyoto-su.ac.jp · 杉山 弘晃 自然科学系研究員 池田 憲明 2. 2 自然科学系の研究活動および研究業績 3. 2.1 自然科学系活動報告:

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京都産業大学益川塾

Maskawa Institute for Science and Culture

(MISC)

Kyoto Sangyo University

年次報告  第4報

Annual Report 2013

平成25年度

はじめに

京都産業大学益川塾は、過去4年、研鑽を積んだすべての塾生(博士研究員)

を無事に社会に送り出すことができました。 これは、塾生たち自身のたゆまぬ

研究活動と努力はもちろんのことながら、多くの大学や研究教育機関と諸企業の

理解とご協力の結果であり、心から感謝いたします。この4年間、自然科学系は

「素粒子の標準模型を越えて」を指針として掲げ、研究を進めて参りました。平成

25年度は、4月より九後太一教授を新たな副塾頭に迎え、博士研究員3名、研

究員1名の計4名の塾生、学内外の指導教授らと共に新体制で活動を始めました。

本報告書は平成25年度の塾生および指導教授の活動成果をまとめたものです。

益川塾は、設立当初から、私立大学の連携を大きな柱としてきました。その狙

いは、互いに連携を図ることによって、国公立の諸機関に負けない研究成果を挙

げることにあり、その第一歩として取り組んだ日本大学理工学部との協力は着実

に実を結びつつあります。一昨年の平成23年度 第1回の連携シンポジウムは日

本大学(東京)で、昨年度の第2回連携シンポジウムは京都産業大学(京都)で

それぞれ開催しましたが、今年度は再び日本大学でかつ国際シンポジウムとして

開催し活発な研究討論がなされました。次年度は京都産業大学での開催が企画さ

れています。

以上のように基礎的な研究を推進すると共に、益川塾は広く市民に向けて科学

の情報を発信する活動にも取り組んでいます。本年度は、特に、開設以来毎年開

催しているシンポジウムを本学創立50周年記念事業の一環として12月に東京

国際フォーラムで開催しました。第6回益川塾シンポジウム「宇宙にときめく」

と題し、高校生200名に対する塾頭の特別授業、高校生および一般参加者60

0名への JAXAの川口淳一郎氏の特別講演、本学理学部 河北秀世教授(神山天

文台長)を交えたパネルディスカッションのほか、全国41チームの高校生のポ

スターセッションも持たれ、益川塾塾生による特別ポスター発表、益川塾指導教

授らによる講評や交流が行われました。

本塾が更なる発展を遂げますように、今後とも皆様のご理解とご支援を賜りま

すようお願い申し上げます。

平成26年4月

京都産業大学 益川塾塾頭

益川 敏英

i

目次

0. はじめに i

1. 本年度の構成員                     2

2. 自然科学系の研究活動および研究業績           3

2.1 自然科学系活動報告:個人研究 5

2.2 自然科学系研究報告会および活動報告会の実施    14

2.3 速報会    15

2.4 原著論文等   15

2.5 国際会議・セミナー等での講演    18

2.6 外部資金等の獲得    22

2.7 その他の業績    22

3. セミナー・集中講義           23

4. 京都産業大学 益川塾 第 6回シンポジウム

「宇宙にときめく」 42

5. 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム

-CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics- 44

6. 塾頭の講演・広報活動・報道等 46

ii

2013年 4月 8日 入塾式

1

1 本年度の構成員

塾頭 益川 敏英

副塾頭 柴 孝夫 九後 太一

(汰一郎)

学内指導教授 原 哲也 外山 政文

学外指導教授 植松 恒夫 高杉 英一

仲 滋文

自然科学系博士研究員 荒木 威 酒谷 雄峰

杉山 弘晃

自然科学系研究員 池田 憲明

2

2 自然科学系の研究活動および研究業績

3

2.1 自然科学系活動報告: 個人研究

本年度、自然科学系研究員が取り組んだ研究活動および研究について各研究員

がまとめたものを以下に掲載する。

• 荒木 威 (Takeshi Araki)

ニュートリノ振動は3つ混合角 (θ12, θ23, θ13)、1つCP位相そして2つのニュー

トリノ質量二乗差 (∆m212 = m2

2 −m21, ∆m2

23 = |m23 −m2

2|)で記述される。ニュートリノ振動実験による混合角の測定精度はここ10年ほどで飛躍的に向上し、そ

れに合わせ様々な理論研究が精力的に行われてきた。質量二乗差も精度良く測ら

れており、∆m223に比べて∆m2

12は非常に小さいことが分かっている。このこと

は第1,2世代のニュートリノ質量が擬縮退している可能性を示唆しており(順

階層で第1世代のニュートリノ質量が極端に小さい場合を除く)、本年度は主に

この部分的な擬縮退に注目し研究を行なってきた。

近年、レプトンの世代間混合のパターンを対称性により説明しようとする試み

が活発に行われてきた。これにより、実験値に近い(が完全には一致しない)混

合行列を理論的に導出することが可能であるが、実験値を完全に再現するために

は得られた混合行列に補正を加える必要がある。その際、第1,2世代のニュート

リノ質量が擬縮退していると、たとえ僅かな補正だとしても θ12角は大きな影響

を受け、実験値とかけ離れた値になってしまうことがある。これを防ぐためには、

補正項に含まれるパラメータを微調整する必要があるのだが、どのパラメータを

どの程度微調整すればよいのかは調べられていなかった。そこで、各パラメータ

の θ12角への寄与を詳細に調べ、θ12角を実験の誤差内に留まらせるためには、そ

れらをどの程度微調整する必要があるのか見積もった。また、このような不自然

な微調整が起こらないためにはどのようにモデルを構築する必要があるか考察し

た。これらは益川塾学外指導教授の高杉氏との共同研究であり、論文にまとめ雑

誌に投稿した。

対称性により導かれた混合行列を補正する際、θ23角と θ13角への寄与は全く同

じパラメータで記述される。この点に動機付けられ、θ23角と θ13角の間に何らか

の関係性が存在する可能性について調べた。しかしながら、補正項の詳細を知る

手立ては今のところ無く、これを一般的に行うのは困難である。そこで、最新の

実験結果を鑑み θ23 = 45◦ ± θ13/√2という関係を仮定し、これを導くためにはど

のような補正項が要求されるか調べた。また、対称性がどのようにして破れれば、

そのような補正項を導出することができるか考察した。この研究成果をまとめた

単名の論文が雑誌に掲載された。

5

• 酒谷 雄峰 (Yuho Sakatani)

1. de Sitter時空の非平衡熱力学的性質に関する研究 [MISC-2013-04]

de Sitter時空は熱力学的性質を持つことが知られているが、この熱力学的性質を

調べる方法として、de Sitter 時空上でスカラー場と相互作用する Unruh-DeWitt

検出器の挙動を調べる方法がある。実際、スカラー場の状態が Bunch-Davies 真

空と呼ばれる無限の過去での瞬間的基底状態にあったときには、検出器はあたか

も温度 TdS = 1/2πℓ (ℓ: de Sitter 半径) の熱浴の中にいるかのような振る舞いを

することが知られている。一方、もしスカラー場の状態がある有限の過去での瞬

間的基底状態にあったとすると、検出器は非平衡な環境の中にいるかのように振

る舞うことが予想される。本年度の研究 [MISC-2013-04] では、この予想を確認

するため、まず検出器の密度行列の時間発展を記述するマスター方程式を導き、

その解を調べた。その結果、検出器は、はじめは非平衡な環境の中にいるかのよ

うな振る舞いをするが、十分に時間が経つと分布関数が Boltzmann 分布に緩和

することを確認した。特に、周りの環境にすばやく適応する理想的な検出器の場

合には、平衡分布への緩和時間は、検出器の物性の詳細には依らず ℓ/2という de

Sitter時空固有の時間スケールで与えられることがわかった。本研究は、de Sitter

時空の非平衡熱力学的な性質を明らかにした数少ない例となっている。

2. 場の理論におけるエンタングルメント・エントロピーに関する研究

超弦理論の研究から、(d + 2)次元の (量子)重力理論と (d + 1)次元の場の理

論の間にホログラフィックな双対性があることが期待されている。特に、[Ryu-

Takayanagi, Phys. Rev. Lett. 96 (2006)181602] の研究から、場の理論におけるエ

ンタングルメント・エントロピー (EE)は双対な重力理論における最小曲面の面

積に一致することが期待されている。本年度の研究では、場の理論側で粗視化を

行った際に EEがどのように変化するかを調べた。そして、その振る舞いから、

対応する重力理論における時空の計量をどのように再現するかを考察した。

3. T -foldに関する研究

昨年度の研究 [MISC-2012-09] では、522-ブレーンと呼ばれるブレーンを含む時

空の解を構成した。この時空には、522-ブレーンを端点とするブランチカットがあ

り、そのカットを越えると計量などの場は T -duality群の作用を受けて変換する。

そのため、この時空は T -foldと呼ばれる。このカットの存在のため、運動量 (P)

のチャージを持つプローブが 522-ブレーンの周りを回ると、一周回った後のプロー

ブのチャージは F1(反基本弦)+Pに変化することが分かる。全チャージを保存さ

せるためには、プローブのチャージが変化した後には、背景時空には 522-ブレー

ンのチャージ以外に、F1(基本弦)チャージが誘導されると考えられる。本年度の

研究では、このような 522-ブレーンのチャージとF1チャージの両方を持つ時空に

対応する解を構成し、その性質を詳しく調べた。

6

• 杉山 弘晃 (Hiroaki Sugiyama)

素粒子理論において「標準模型」と呼ばれているものは、ほとんど全ての実験

結果を高精度で説明できる。その「標準模型」を構成する素粒子のうちで長らく

未発見であった最後のピースがヒッグス粒子であるが、近年 LHC実験において

ついにそれが発見されている。ヒッグス粒子は素粒子質量の生成に関わる素粒子

であり、その発見は素粒子質量の本質の理解に挑める時代の到来を意味する。

一方、「標準模型」においては質量ゼロとされていたニュートリノに、微小な質

量が存在していることが 1998年から明らかになっている。他の素粒子の質量に

比べてニュートリノ質量が極端に小さいことは、それが他の素粒子質量とはまっ

たく異なる機構によって生成されていることを示唆している。そしてその質量生

成機構には、何らかの新ヒッグス粒子が関与していると考えられる。LHC実験に

おけるヒッグス粒子発見という大成功は、近未来における新ヒッグス粒子の発見

すらも期待させるものであり、それによってニュートリノも含めた素粒子質量生

成機構の全容が明らかにされる可能性がある。そのような観点に基づき、ニュー

トリノ質量を与えるために「標準模型」をどのように拡張すべきか、またそのと

き LHC実験ではどのようなシグナル(特に新ヒッグス粒子からのシグナル)が

起こりえるかを探究してきた。

ニュートリノ専用のヒッグス場が存在し、その専用ヒッグス場の真空期待値に

よってニュートリノ質量が生成されているというのは、標準模型のシンプルな拡

張のひとつとして知られている。その真空期待値が非常に小さければ、ニュート

リノ質量の小ささに繋がる。そこで論文 [MISC-2013-05]では、ニュートリノ専用

ヒッグス場の真空期待値を量子効果によって生成するような新物理模型を提案し

た。量子効果であるがゆえに、真空期待値は自然に小さくなる。さらにその量子

効果は、暗黒物質の寄与によってもたらされるようになっている。暗黒物質は光

で観測することはできないが、宇宙に通常の物質の数倍も存在することが明らか

になっている。暗黒物質となりえる素粒子は「標準模型」には存在しないため、

新物理模型においては暗黒物質候補の導入が望まれるが、その存在がニュートリ

ノ質量生成にも関与する状況は非常に興味深い。

ニュートリノ専用ヒッグス場の荷電成分(荷電ヒッグス粒子)は、非常に特徴

的な崩壊パターンを示すことが知られている。論文 [MISC-2013-06]ではこの崩

壊パターンの予言を精査し、近年のニュートリノ振動観測によって新たに得られ

ている知見がどのように影響しているかを明らかにした。このような研究は、新

物理模型の識別のために重要になってくる。また、ニュートリノ質量を生成する

新物理模型を識別するための新たな手法を提示した別論文(本年度の業績ではな

い)に対して第8回素粒子メダル奨励賞を受賞することができた。

今後も、ニュートリノ質量を生成する新物理模型の提案を行なっていくのみな

らず、それらの模型の識別可能性の提示も進めていくつもりである。

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• 池田 憲明 (Noriaki Ikeda)

物理理論、特に素粒子論、宇宙論において基本的な理論は場の理論、ゲージ理

論である。場の理論やゲージ理論には現在「くりこみ」「非摂動効果」などの数

学的に正当化されない計算法が含まれており、「物理法則を数学的に矛盾なく構

成できるか。自然界でなぜその法則が選ばれているか」という大きな 2つの問題

がある。

この2つの問題へのひとつのアプローチとして、物理理論の数学的に可能な構

造の研究を、主に「カレント代数」「bulk-boundary対応」の観点からおこなった。

「カレント代数」の理論は物理法則にある対称性を考察する基本的な手法であ

り、素粒子論では、歴史的にカレント代数の解析から基本的な数学的構造である

ゲージ対称性がわかってきた。AdS/CFT対応などの「bulk-boundary対応」の

概念は最近物理理論で活発に研究されている。

場の量子論においてこれまでカレント代数の数学的構造は Lie 群およびその無

限小変換である Lie 代数であるとされてきたが、筆者らの研究から、ゲージ理

論おいて Lie groupoid, Lie algebroid の構造が可能であることが明らかになって

きた。

小泉耕蔵氏との共同研究である「Current Algebras and QP Manifolds」におい

ては、カレント代数を algebroid 構造に拡張した。

その際、QP多様体という超多様体構造を基礎とするというアイデアを提唱し、

物理的なカレント代数が明快に理解できることがわかった。これに基づいて任意

次元の既存のカレント代数を algebroidに拡張することに成功した。この論文は

今年度学術雑誌に発表した。

Xiaomeng Xu 氏との共同研究である「Current Algebras from DG Symplectic

Pairs in Supergeometry」では、前論文の考察をさらに進めて、より基本的な構造

として超シンプレクティック多様体とその部分シンプレクティック多様体の「QP

Pair」という概念を提唱した。カレント代数の異常項が超多様体上のこのシンプ

レクテイック構造の正準変換から導出されることを発見した。このような理解は

異常項の構造のまったく新たな見方であり、いわゆる異常項のWess-Zumino無矛

盾条件を含んでいる。

超シンプレクティック多様体とその部分シンプレクティック多様体は「bulk-

boundary対応」の概念とも関連している。

研究活動においては、数学、物理の双方の研究会、学会に出席し上記の結果を

発表し、さまざまな分野の研究者と意見交換をおこなった。またこちらからも新

しい概念の提供をおこなった。これらの交流から新しい見方がもたらされ、発展

が期待される。

今後、より具体的な物理の問題へのアプローチ、場の理論の基本的な問題への

適用、双方の方向性から研究を発展させていく予定である。

8

• 九後 汰一郎 (Taichiro Kugo)

現在の素粒子の標準模型は、1970年代の成立以来数々の実験的検証によって

益々その正しさが確証され、自然界の基本相互作用を記述する揺るぎない基礎理

論としての地位を確立した。この標準模型は、局所的 SU(3)×SU(2)×U(1)対称

性に基づくゲージ理論であり、場の量子論を基礎としている。場の量子論には必

ず真空エネルギーが付随している。特に、

1. 電弱対称性 SU(2)×U(1)の自発的破れを起こすHiggs凝縮:O((100 GeV)4

)2. 強い相互作用の SU(3) QCDにおけるカイラル対称性の自発的破れに伴う凝

縮:O((100 MeV)4

)の 2種の真空凝縮が存在することは間違いない。そして真空凝縮は重力理論の枠

内で考えると宇宙項と同じものである。ところが、現実のEinstein重力は、これ

らの真空凝縮エネルギーを全く感じていない。逆に、最近のWMAP等による宇

宙背景放射の観測によれば、我々の宇宙には、これらよりも遥かに小さな、Higgs

凝縮に比して 10−56、カイラル凝縮から見ても 10−44しかない、極めてかすかな

宇宙項がある!、というのである。これが場の量子論とEinstein重力理論双方に

関する最大の謎の一つである。

極めて困難なこの問題にはすぐには答えられないが、これの解決に向けた試み

の一つとして考えられている “Massive Gravity”について本年度は研究した。重

力場に質量を持たせると、重力がシールドされ、引力の到達距離が有限になるの

で、宇宙の大域的構造に大きく影響し、実効的な宇宙項の意味が変わってくる。

それで上述の二種の宇宙項問題に新たな視点や解決の糸口が見いだせるのではな

いかという期待があるのである。

ところが、Fierz-Pauli以来古くから研究されているMassive Gravityには、そ

れ自身の問題がある:

1) van Dam-Veltman-Zakharov (vDVZ)不連続問題:質量をゼロにする極限で

Einstein重力にスムーズにつながらない問題、

2) Boulware-Deser ghost の問題:gµνの 10変数からEinstein-Hilbert作用に時

間微分が現れない 4変数 g0µを引けば、6自由度残るが、spin 2 のmassive

粒子は 5自由度なので、もう 1自由度残っている。この自由度のモードは

一般に負計量を持つのでBoulware-Deser (BD) ghostと呼ばれるが、これが

出てこない様にする機構が必要である。

Fierz-Pauliの理論を素直に非線形にしたArkani-Hamed-Georgi-Schwartzの理

論は、平坦なMinkowski空間の上では、Fierz-Pauliの線形理論と同様、BD ghost

は現れないが、それ以外の背景時空の上ではBD ghostが出てくる。これに対し、

2011年になって、de Rham-Gabadadze-Tolley (Phys. Rev. Lett. 106 (2011))は、

9

重力変数の行列の平方根を含む質量項を持つ新しいmassive gravity理論を提唱し、

任意の背景時空の上でBD ghostが出ないと主張した。この理論はすぐにHassan-

Rosenらによりラプス変数が 1次でしか現れない事が示され、その変分が他の力

学変数に対し一つ余分な拘束を導くのでBD ghostが出ない証明とされた。

彼らの証明は、本質的に力学変数の数勘定であり、本当に負計量のBD ghostが

現れないという直接証明ではない。そこで我々は、Arkani-Hamed-Georgi-Schwartz

達の導入した Stuckelberg場を用いれば、BD ghostが、Stuckelbergスカラー場

の高階微分項と同定出来ることに注目した。dRGT理論を任意の背景時空上で展

開し、Stuckelberg場の 2次の運動項を計算し、実際に Stuckelbergスカラー場の

高階微分項が全てなくなっていることをあらわに示すことに成功した。この仕事

は、近畿大学の太田信義教授との共同研究(arXiv:1401.3873 [hep-th])である。

今後はこのmassive gravity理論、あるいはその超対称拡張版が、果たして所期

の宇宙項問題に新しい解決の糸口を与えるのかを研究したい。

• 原 哲也 (Tetsuya Hara)

広い意味での「宇宙論」と「宇宙の大規模構造の形成」を研究テーマとしてお

り、最近では宇宙初期の密度揺らぎについてと、現在の加速膨張について考察し

ている。

密度揺らぎについては、宇宙初期のインフレーション時代の真空(Bunch-Davies

真空)のゼロ点量子揺らぎが、地平線の外へ引き伸ばされると古典化し、それが

現在の宇宙の大規模構造の種になったというシナリオが標準とされている。その

問題点の1つは、量子揺らぎが、古典化するという点である。形式的には、場の

正準変数とその共役な変数の間の交換関係が、一般には非可換であるが、地平線

よりも大きくなる極限で、可換になるという形で古典化されるとしているが、こ

の極限のとり方について疑義があるのではないかと検討している。もう1つの問

題点は、この量子揺らぎがランダムガウシアン場であるということで、確かに異

なる波数の揺らぎに関しては、ゼロ点振動は相関が無いわけであり、それがラン

ダムガウシアン場であると説明されている。しかし、それ以外にランダムガウシ

アン場になる別のメカニズム、もしくは理由があるのではと検討している。

宇宙が加速膨張していることが、ここ十数年前から種々の観測により明らかに

なってきた。しかし、その原因であるダークエネルギーについては、全く分かっ

ていない。ダークエネルギーに関して、いくつかのモデルがあるが、スカラー場

(クインテセンス)のトラッカー解に興味を持っている。これは、何故現在ダー

クエネルギーが見えてきたかという偶然性問題(coincidense problem)に関して、

相対的に説明可能なように思える。また、過去の膨張速度の観測も少しづつでは

あるが、そろいだして、その状態方程式w =圧力/密度の時間的変化を議論でき

るようになってきている。モデルと観測を結びつけるのに、現在では、w とその

時間による1階微分とを、 パラメーターとして用いていることが多い。ここで、

10

将来観測が増えるにつれて、wの時間変化がより詳しくわかると想定して、w の

時間による1階微分と、そして2階微分まで含めた解の振る舞いを検討している。

その他に、宇宙生物学の問題に関心を持っている。今後は、観測系で粒子が発

生するアンルー効果、ホーキング放射、また自己重力系のエントロピーの問題等

を調べて行きたい。

• 外山 政文 (Masafumi Toyama)

本年度は下記の基本的な問題を調べた。

1.近年、量子重力理論や超弦理論からの要請として、位置や運動量の拡張さ

れた非可換性を取り入れたいわゆる非可換量子力学の研究が活発に展開されてき

た。このような状況で、最近、2次元逆調和振動子系という不安定系での波束状

態解の時間発展において、この拡張された位置空間非可換性が、本来ならば急速

に崩壊するはずの波束状態に対して逆に安定した非崩壊状態という極限的状況を

もたらすという興味ある問題が示された [1]。この反直観的な帰結のメカニズム

は、非可換空間の効果を取り入れた通常空間での有効ハミルトニアンの特徴から

一応理解できるが、本研究では、敢えてこの有効ハミルトニアンから量子・古典

対応で得られる古典的ダイナミクスを調べることにより如何にこの奇妙な帰結を

直観的に理解できるかを調べた。そして、量子力学の波束解の特異な振る舞いに

対応した幾つかの興味ある古典解を見出し、この古典解の振る舞いにより非可換

空間の特質がより直観的に理解できることを示した。

2.シュレーディンガー方程式の調和振動子のコヒーレント波束解を、固有状

態の時間発展重ね合わせという従来から良く知られた方法とは異なる方法として

時間発展演算子を直接用いて解くと、その解は非常に複雑な形をしており従来の

方法で求めた解とは大きく異なっているということが指摘された [2]。そして、こ

れが未解決な概念的パラドックスであるとされていた。本研究では、この見かけ

上全く異なる形をした2つの解析解が実は同じであることを解析的に示せること

を明らかにした。更に、シュレーディンガー方程式の時間発展解析解として、従

来から良く知られているコヒーレント解の他に、任意の次数のHermite-Gaussian

を初期状態とする複雑な波束の時間発展解析解が得られることを示した。更に、

それらの解から得られる位置と運動量の不確定性関係の時間変化についても詳細

に調べた。

3.量子力学におけるWelcher-Weg問題を量子力学の時間対称解釈に基づく弱

測定・弱値という概念を用いて分析した。本研究では、最近Vaidmanによって分

析されたマッハツエンダー干渉計におけるWelcher-Weg問題 [3]を詳しく分析し、

それに基づき更にその拡張モデルについて調べた。そして、光子の経路状態を用

いた射影演算子に対する弱値として-1/2, -1, 2という奇妙な弱値が得られる事実

を明らかにし、そのような奇妙な弱値も順時間発展のみから構成されている通常

11

の量子力学による非実在的な量子の過去に対する解釈と無矛盾な結論を得るため

に必要な要素であることを示した。

[1] G.J. Guo, Z.Z. Ren, G.X. Ju and C.Y. Long, J. Phys. A: Math. Theor. 44,

425301 (2011) .

[2] P.C. Garcia, Quijas and L.M. Arevalo Aguilar, Eur. J. Phys. 28, 147 (2007).

[3] L. Vaidman, Phys. Rev. A 87, 052104 (2013).

• 植松 恒夫 (Tsuneo Uematsu)

2012年 7月にCERN(欧州共同原子核研究所)は陽子・陽子衝突型加速器LHC

において質量が 125GeV付近にヒッグスらしい新粒子が見つかったと発表した。

その後、2012年 12月までに得られたデータを使ってさらに解析を進めたところ、

スピン・パリティが 0+であることや、結合定数が標準模型と矛盾しないことが

確認された。この粒子が標準模型のヒッグス粒子かどうかをさらに精度を上げて

確かめるにはより多くのデータが必要である。今後再開される LHC の実験が期

待されている。特に、ヒッグス粒子は短い時間に 2個の光子や 4個のレプトンな

どの他の粒子に崩壊するが、観測されたボソンの崩壊率が標準模型の予想に精度

良く合致するか否かを今後詳細に調べなければならない。

一方,将来の電子・陽電子リニアコライダーの衝突実験では、ハドロン・コライ

ダーのような始状態の複雑さが伴わないため、よりクリーンなヒッグス粒子の生

成が可能である。e+e−衝突では treeレベルで e++e− → Z∗ → Z+H がゴールデ

ン・チャンネルと呼ばれる生成プロセスである。それに加えて、ヒッグス粒子の2

光子崩壊の逆過程である2光子融合過程を通してのヒッグス粒子生成 (γγ → H)

に興味が持たれる。まず手始めに e+e− 衝突実験での2光子過程によるヒッグス

粒子生成で、片方の電子 (陽電子) に大きい運動量の遷移 (仮想光子の質量の 2乗

Q2が大)を与え、single taggingする eventの理論的計算を行った。

この研究に関して、2013年 9月にイギリス・ダラムで開催された第 11回輻射

補正に関する国際会議「RADCOR 2013」でその成果を発表した。上記の過程は、

電子から放出された仮想光子 γ∗と on-shellに近い光子 γとの衝突過程と見なすこ

とができ、トップ・クォークやWボソンが回る三角ループのグラフが散乱振幅に

寄与する。ちょうど e+e− 衝突過程でのπ中間子生成の場合と同様に、ヒッグス

粒子のいわゆる transition form factorおよび e+γ → e+Hの微分断面積のQ2依

存性を知ることができ、これが標準理論と合致するのか否かに興味が持たれる。

この研究については、学術誌と上記会議のプロシーディングズに報告した。

将来の e+e−リニアコライダーについては、他のオプションとして、e−e− 、e−γ、

γγなどのコライダーが考えられる。特に、高強度の光子ビームが電子とレーザー

光線を衝突させたときの逆コンプトン効果で得られる。この光子 γと電子 e−が

衝突する過程でのヒッグス粒子の生成を、次の 3つのグラフの寄与について計算

12

した。すなわち、(1)仮想光子-実光子融合過程(γ∗γ-fusion)、(2)Zボソン-実光子

融合過程(Z∗γ-fusion)、(3)Wボソン-νe1ループ過程(Wνe-one-loop process)

での散乱振幅およびそれを構成する遷移形状因子を求め、さらに eγ → eH の微

分断面積を解析した。preliminaryな結果は上記会議で共同研究者より報告し、現

在学術雑誌に投稿する論文を準備中である。

• 高杉 英一 (Eiichi Takasugi)

1.同じCPの破れの起源からの質量行列の構築

昨年度は、Froggatt-Nielsen(FN)型の模型 (U(1)対称性を仮定)を考察した。こ

こでは、異なるZ2パリティーをもつ2つのU(1)場を導入し、これらの真空期待

値の位相差がCPを破る模型を考察した。湯川行列の (3,3)成分にのみ自由度を与

えることで、hierarchicalな構造を持った質量行列から、CKMの hierarchicalな

構造と PMNSのmildな構造やニュートリノの質量の2乗の差がよく説明でき、

また quarkや荷電 leptonの質量に関しては、第2世代と第3世代の比に関しては

定性的に合う結果を得た。

本年度は、1世代と第2世代の質量の比の説明ができるかどうかを検討し、湯川

結合をシステマティックに変えることで可能となることを見つけた。この模型は、

一つの複素位相を持つ hierarchicalな構造をもつ質量の模型であり、少ないパラ

メータ数ながら実験結果を再現する模型が得られたのは驚きであった。(論文準

備中)

2.ニュートリノ質量項への摂動の効果の研究

ニュートリノ混合や質量の 2乗の差についての実験結果は精密になってきている。

理論の仮説から導出される質量行列から導かれるこれらの値は、大体は再現で

きても、微細にまでは説明できないのが現状である。そこで、ある質量行列が理

論的に得られたとして、それに小さな摂動項を加えることにより実験値を再現す

ることを考える必要がある。摂動的取り扱いができることを利用して、解析的に

計算を進めることができ、実験値と導入した摂動パラメータとの関係を解析的に

求めることができることを示した。特に、二重ベータ崩壊が近い将来計画されて

いるフェイズ–II実験で観測されると期待される場合、つまりNH hierarchyで質

量に縮退m1 ≃ m2があり、マヨラナ CP位相が constructive な場合、または IH

hierarchyの場合、θ12が大きく動かないためのパラメータ間の条件が必要なこと

を見つけた。この条件を利用すると、パラメータと予言の関係を解析的に見るこ

とができるようになった。この方法の応用範囲は広く、model builder に必要な

ツールとなることと考える。

将来の計画としては、今回考察した FN型の質量行列についての意義や実験値

を再現する質量行列の理論的考察を行う。

13

2.2 自然科学系研究報告会および活動報告会の実施

自然科学系では、下記のとおり研究報告会および本年度の活動報告がセミナー

形式で行われ、活発な意見交換や議論がなされた。

1. 平成25年6月5日 発表者:杉山 弘晃,

“Lepton number violation at the LHC with leptoquark and diquark”.

2. 平成25年10月7日 発表者:九後 汰一郎,

「Massive Gravity の諸問題」.

3. 平成25年11月25日 発表者:益川 敏英,

「超対称性雑観」.

4. 平成26年3月3日 発表者:植松 恒夫,

“Transition Form Factor in Higgs Production”.

5. 平成26年3月3日 発表者:荒木 威,

「部分縮退型のニュートリノ質量について」.

6. 平成26年3月3日 発表者:酒谷 雄峰,

“Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the universal relax-

ation time in de Sitter space”.

活動報告会の様子

発表者:酒谷 博士研究員 質問をする益川 塾頭

14

2.3 速報会

1. 平成25年5月15日 報告者:酒谷 雄峰,

“Generalized gravitational entropy”, Aitor Lewkowycz and Juan Malda-

cena, JHEP 1308 (2013) 090 (arXiv:1304.4926 [hep-th]).

2. 平成25年5月28日 報告者:荒木 威,

“Is θPMNS13 correlated with θPMNS

23 or not?”, Takeshi Araki, PTEP 2013

(2013) 10, 103B02 (arXiv:1305.0248 [hep-ph]).

3. 平成25年6月18日 報告者:杉山 弘晃,

“Loop Suppression of Dirac Neutrino Mass in the Neutrinophilic Two Higgs

Doublet Model”, Shinya Kanemura, Toshinori Matsui and Hiroaki Sugiyama,

Phys. Lett. B 727 (2013) 151-156 (arXiv:1305.4521 [hep-ph]).

4. 平成25年6月19日 報告者:池田 憲明,

“Canonical Functions in Graded Symplectic Geometries and AKSZ Sigma

Models”, Noriaki Ikeda and Xiaomeng Xu, (arXiv:1301.4805 [math.SG]).

5. 平成25年10月23日 報告者:荒木 威,

“Implications of the first AMS-02 measurement for dark matter annihilation

and decay”, H. B. Jin, Y. L. Wu and Y. F. Zhou, JCAP 1311 (2013) 026

(arXiv:1304.1997 [hep-ph]).

6. 平成25年12月4日 報告者:杉山 弘晃,

“Discrimination of models including doubly charged scalar bosons by using

tau lepton decay distributions”, H. Sugiyama, K. Tsumura and H. Yokoya,

Phys. Lett. B 717 (2012) 229-234 (arXiv:1207.0179 [hep-ph]).

2.4 原著論文等

• Misc-2013-No.

1. Propagators in de Sitter space,

M. Fukuma, S. Sugishita and Y. Sakatani,

Phys. Rev. D 88 (2013) 024041 (arXiv:1301.7352 [hep-th]).

2. Neutrino Mass in TeV-Scale New Physics Models,

Hiroaki Sugiyama,

(arXiv:1304.6031 [hep-ph]).

15

3. Is θPMNS13 correlated with θPMNS

23 or not?,

Takeshi Araki,

PTEP 2013 (2013) 10, 103B02 (arXiv:1305.0248 [hep-ph]).

4. Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the universal

relaxation time in de Sitter space,

M. Fukuma, Y. Sakatani and S. Sugishita,

Phys. Rev. D 89 (2014) 064024 (arXiv:1305.0256 [hep-th]).

5. Loop Suppression of Dirac Neutrino Mass in the Neutrinophilic

Two Higgs Doublet Model,

Shinya Kanemura, Toshinori Matsui and Hiroaki Sugiyama,

Phys. Lett. B 727 (2013) 151-156 (arXiv:1305.4521 [hep-ph]).

6. Dependence of the leptonic decays of H± on the neutrino mixing

angles θ13 and θ23 in models with neutrinophilic charged scalars,

A. G. Akeroyd, S. Moretti and Hiroaki Sugiyama,

Phys. Lett. B 728 (2014) 157-164 (arXiv:1308.0230 [hep-ph]).

7. Current Algebras from DG Symplectic Pairs in Supergeometry,

Noriaki Ikeda and Xiaomeng Xu,

(arXiv:1308.0100 [math-ph]).

8. CKM matrix and flavor symmetries,

Takeshi Araki, Hiroyuki Ishida, Hajime Ishimori, Tatsuo Kobayashi and

Atsushi Ogasahara,

Phys. Rev. D 88 (2013) 096002 (arXiv:1309.4217 [hep-ph]).

10. Higgs production in two-photon process and transition form fac-

tor,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, Ken Sasaki and T. Uematsu,

Phys. Lett. B 728 (2014) 202–205 (arXiv:1311.1601 [hep-ph]).

• Misc-2014-No.

1. Covariant Approach to the No-ghost Theorem in Massive Gravity,

Taichiro Kugo and Nobuyoshi Ohta,

(arXiv:1401.3873 [hep-th]).

2. Effects to sin θ12 from perturbation of the neutrino mixing matrix

with the partially degenerated neutrino masses,

Takeshi Araki and Eiichi Takasugi,

(arXiv:1402.7188 [hep-ph]).

16

• その他

1. Lepton number violation at the LHC with leptoquarks and di-

quarks,

Hiroaki Sugiyama,

EPJ Web Conf. 49 (2013) 18002.

2. Current Algebras and QP Manifolds,

Noriaki Ikeda and Kozo Koizumi,

Int. J. Geom. Meth. Mod. Phys. 10 (2013) 1350024 (arXiv:1108.0473

[hep-th]).

3. Quantum search with certainty based on modified Grover algo-

rithms: Optimum choice of parameters,

F. M. Toyama, W. van Dijk and Y. Nogami,

Quantum Information Processing 12 (2013) 1897-1914.

4. Comment on ’Overcoming misconceptions in quantum mechanics

with the time evolution operator’,

F. M. Toyama and Y. Nogami,

European Journal of Physics 34 (2013) L73-L75.

5. Analytic time-dependent solutions of the one-dimensional Schrodinger

equation,

W. van Dijk, F. M. Toyama, S. Jan Prins and K. Spyksma,

American Journal of Physics (to appear).

6. Transition Form Factor in Higgs Production through Two-photon

Processes,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, Ken Sasaki and T. Uematsu,

PoS (RADCOR 2013) 053.

7. Higgs production in two-photon process and transition form fac-

tor,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, T. Uematsu and Ken Sasaki,

PoS (to appear).

8. Higgs production in e and γ collision,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, T. Uematsu and Ken Sasaki,

PoS (RADCOR 2013) 050.

17

2.5 国際会議・セミナー等での講演

《国際会議・国内研究会における招待講演》

1. 杉山 弘晃,「輻射ニュートリノ特化 Two-Higgs-Doublet Model」, 新ヒッグ

ス勉強会第 5回定例会, 富山大学, 2013年 5月 12日.

2. Takeshi Araki, “Neutrino mass spectrum after Planck”, The International

Workshop on Particle Physics and Cosmology after Higgs and Planck, Sep.

5, 2013, Chongqing, China.

3. Hiroaki Sugiyama, “Dependence of the leptonic decays of H− on the neu-

trino mixing angles θ13 and θ23 in models with neutrino phillic charged

scalars”, The 7th meeting of new Higgs working group, Oct. 16, 2013, Univ.

of Toyama, Japan.

4. Hiroaki Sugiyama, “TeV scale new physics models of neutrino masses (Re-

view)”, The 8th meeting of new Higgs working group, Jan. 12, 2014, Univ.

of Toyama, Japan.

5. Takeshi Araki, “Possible fine-tuning in the lepton sector”, International

conference on Flavor Physics and Mass Generation, Feb. 10, 2014, Singa-

pore.

6. Hiroaki Sugiyama, “Knowledge About Neutrino-masses and Branching-ratios

Using Relevant yukawa-Interactions”, Basis of the Universe with Revolu-

tionary Ideas 2014 (BURI 2014), Feb. 13, 2014, Univ. of Toyama, Japan.

7. Taichiro Kugo, “Complex Group Gauge Theory”, CST-MISC Joint Interna-

tional Symposium on Particle Physics, Mar. 15, 2014, Nihon Univ., Japan.

8. Hiroaki Sugiyama, “Discrimination of Models Including Doubly Charged

Scalar Bosons by Using Tau Lepton Decay Distributions”, CST-MISC Joint

International Symposium on Particle Physics, Mar. 15, 2014, Nihon Univ.,

Japan.

《国際会議における発表》

1. Noriaki Ikeda, “QP Pairs and Their Applications, Higher Algebras and Lie-

infinity Homotopy Theory”, Jun. 27, 2013, Univ. of Luxembourg, Luxem-

bourg.

18

2. Yuho Sakatani, “Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the

universal relaxation time in de Sitter space”(ポスター), KIAS-YITP joint

workshop 2013, String Theory, Black Holes and Holography, Jul. 1, 2013,

Kyoto, Japan.

3. Takeshi Araki, “Neutrino mass degeneracy and CP violation”, The 19th

International Summer Institute on Phenomenology of Elementary Particles

and Cosmology, Aug. 17, 2013, Jirisan, Korea.

4. Tsuneo Uematsu, “Transition Form Factor in Higgs Production through

Two-photon Processes”, 11th International Symposium on Radiative Cor-

rections (Applications of Quantum Field Theory to Phenomenology), Sep.

22, 2013, RADCOR 2013 Durham, United Kingdom.

5. Hiroaki Sugiyama, ”Dependence of the leptonic decays of H− on the neu-

trino mixing angles θ13 and θ23 in models with neutrino phillic charged

scalars”, KEK Theory Meeting on Particle Physics Phenomenology (KEK-

PH2013 FALL), Sep. 30, 2013, KEK, Japan.

6. Yuho Sakatani, “Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the

universal relaxation time in de Sitter space”(ポスター), KEK Theory

Workshop 2014, Feb. 18, 2014, KEK, Japan.

《国内研究会における発表》

1. 杉山 弘晃, “Toward discovery of lepton number violation at collider exper-

iments”, 加速器・物理合同 ILC夏の合宿 2013, 呉羽ハイツ, 富山, 2013年 7

月 20日.

2. 杉山 弘晃, “Lepton number violation at the LHC with leptoquark and di-

quark”(ポスター), 素粒子物理学の進展 2013, 京都大学・基礎物理学研究

所, 2013年 8月 7日.

3. 酒谷 雄峰, “On propagators in de Sitter space”, 基研研究会「場の理論と弦

理論」, 京都大学・基礎物理学研究所, 2013年 8月 19日.

4. 池田 憲明,「Supergeometry における QP Pair と ポアソン幾何、カレント

代数への応用」, 非可換幾何湯谷研究集会, 湯の風 HAZU, 愛知, 2013年 11

月 26日.

5. 荒木 威, 「質量の起源とヒッグス粒子」(ポスター), 益川塾 第6回シンポ

ジウム「宇宙にときめく」, 東京国際フォーラム, 東京, 2013年 12月 7日.

19

6. 酒谷 雄峰,「相対性理論と宇宙」(ポスター), 益川塾 第6回シンポジウム

「宇宙にときめく」, 東京国際フォーラム, 東京, 2013年 12月 7日.

7. 杉山 弘晃,「小林・益川理論」(ポスター),益川塾第6回シンポジウム「宇

宙にときめく」, 東京国際フォーラム, 東京, 2013年 12月 7日.

8. 荒木 威, “Possible fine-tuning in the lepton sector”,松江現象論研究会 2014,

くにびきメッセ, 松江, 2014年 2月 8日.

9. 杉山 弘晃, “Dependence of the leptonic decays of H− on the neutrino mix-

ing angles θ13 and θ23 in models with neutrino phillic charged scalars”, 松

江現象論研究会 2014, くにびきメッセ, 松江, 2014年 2月 8日.

《他大学・他の研究機関におけるセミナー講演》

1. 九後 汰一郎, “Superconformal Tensor Calculus”, 京都大学・基礎物理学研

究所, 2013年 4月 17日.

2. 杉山 弘晃, “Lepton number violation at the LHC with leptoquark and di-

quark”, 日本大学, 2013年 5月 15日.

3. 酒谷 雄峰, “Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the uni-

versal relaxation time in de Sitter space”, 日本大学, 2013年 7月 17日.

4. 酒谷 雄峰, “Master equation for the Unruh-DeWitt detector and the uni-

versal relaxation time in de Sitter space”, 岡山光量子科学研究所, 2013年 7

月 18日.

5. 杉山 弘晃, “Toward new physics via neutrino physics”, 京都大学, 2013年 8

月 22日.

6. Hiroaki Sugiyama, “Lepton number violation at the LHC with leptoquark

and diquark”, Sep. 6, 2013, SISSA, Italy.

7. 杉山 弘晃, “Lepton number violation at the LHC with leptoquark and di-

quark”, 埼玉大学, 2013年 9月 11日.

8. 酒谷 雄峰, 「非定常時空における伝播関数と de Sitter時空の非平衡熱力学

的性質」, 茨城大学, 2013年 10月 21日.

9. 池田 憲明, 「物理理論としての数学」, 立命館大学, 2013年 10月 21日.

10. 杉山 弘晃, “Lepton number violation at the LHC with leptoquark and di-

quark”, 名古屋大学, 2013年 10月 31日.

20

11. 荒木威, 「部分縮退型のニュートリノ質量構造と微調整問題」, 埼玉大学,

2013年 11月 11日.

12. 九後 汰一郎, “Stuckelberg-BRST Approach to the No-Ghost Theorem in

Massive Gravity”, 日本大学, 2013年 11月 20日.

13. 九後 汰一郎, “Stuckelberg-BRST Approach to the No-Ghost Theorem in

Massive Gravity”, 大阪市立大学, 2013年 11月 26日.

14. 九後 汰一郎, 「カラー閉じ込めとHiggs現象の逆定理」, 第 36回素粒子論

グループ四国セミナー, 徳島大学, 2013年 12月 14日.

15. 酒谷 雄峰, “Propagators in nonstationary spacetimes and a nonequilibrium-

thermodynamic character of de Sitter space”,名古屋大学, 2014年1月14日.

16. 池田 憲明, 「Groupoid, Algebroid のゲージ理論」, 東京理科大学, 2014年

2月 26日.

17. 九後 汰一郎, 集中講義:「4次元時空での超共形テンソル算法」, 京都大学・

基礎物理学研究所, 2014年 2月 26日.

18. 九後 汰一郎,「超共形テンソル算法による超重力理論」, 近畿大学, 2014年

3月 5日.

19. 九後 汰一郎, “Stuckelberg-BRST Approach to the No-Ghost Theorem in

Massive Gravity”, 京都大学・基礎物理学研究所, 2014年 3月 7日.

《学会一般講演》

1. 荒木威, 「PMNS行列の摂動展開および 13角と 23角の関係性について」,

日本物理学会 2013年秋季大会, 高知大学, 2013年 9月 20日.

2. 酒谷雄峰, 福間将文, 杉下宗太郎, “Master equation for the Unruh-DeWitt

detector and the universal relaxation time in de Sitter space”, 日本物理学

会 2013年秋季大会, 高知大学, 2013年 9月 20日.

3. 酒谷雄峰, 福間将文, 杉下宗太郎, 「エンタングルメントに基づいた粗視化

の手法について」, 日本物理学会第 69回年次大会, 東海大学 湘南キャンパ

ス, 2014年 3月 27日.

4. A. G. Akeroyd, S. Moretti,杉山弘晃, “Dependence of the leptonic decays of

H± on the neutrino mixing angles θ13 and θ23 in models with neutrinophilic

charged scalars”, 日本物理学会第 69回年次大会, 東海大学 湘南キャンパス,

2014年 3月 27日.

21

5. 太田信義,九後汰一郎, “Covariant Approach to the No-ghost Theorem in

Massive Gravity”, 日本物理学会第 69回年次大会, 東海大学 湘南キャンパ

ス, 2014年 3月 27日.

6. 九後汰一郎, 小長谷大介, 小沼通二, 田中正, 「湯川記念館史料室の現状」,

日本物理学会第 69回年次大会, 東海大学湘南キャンパス, 2014年 3月 27日.

2.6 外部資金等の獲得

1. 杉山 弘晃, 「ニュートリノ質量とレプトン混合を記述する新物理模型の現

象論」, 科学研究費補助金(若手研究B-課題番号 23740210-代表).

2. 九後 太一,「標準模型を越えて統一理論へ」, 科学研究費補助金(基盤研究

(B)-課題番号 24340049-代表).

2.7 その他の業績

• Hiroaki Sugiyama, Koji Tsumura and Hiroshi Yokoya, “Discrimination of

models including doubly charged scalar bosons by using tau lepton decay

distributions”, 第8回素粒子メダル奨励賞, 2013年 11月 21日.

22

3 セミナー・集中講義

23

益川塾セミナー・集中講義

• 平成25年5月7日講演者: 田中 貴浩 (京都大学基礎物理学研究所)

タイトル: インフレーション宇宙論 after Planck 2013

講演内容:

2013年 3月に Planck衛星の観測結果が発表され、その結果はインフレーション

宇宙論が益々確からしいことを示唆している。それと同時に、インフレーション

のモデルに対する制限が厳しくなってきた。特にゆらぎの非ガウス性に関する制

限は予定されていた精度をほぼ達成し、ある種の複雑なインフレーションモデル

を排除する結果となっている。一方、重力波ゆらぎに関しては、偏光観測の結果

がまだ発表されていないためWMAPと比較してそれほど制限が強くなったとい

う印象はないが、単純なべき乗型のインフラトンポテンシャルと観測が矛盾を生

じつつあるという状況にある。このような現状を踏まえつつ、インフレーション

のモデルに対する制限についてレビューしていただいた。

田中氏によるセミナーの様子

25

• 平成25年5月22日講演者: 高田 昌広 (カブリ数物連携宇宙研究機構)

タイトル: 観測的宇宙論の現状:ダークマターとニュートリノ

講演内容:

ダークエネルギー、ダークマターが支配的な冷たい暗黒物質構造形成モデルが、

宇宙背景放射の高精度データをはじめとする様々な宇宙論データを説明すること

に成功し、宇宙構造形成の標準モデルとなっている。本セミナーでは宇宙の観測

データから如何にしてダークマターの総量が制限されているかについて、最新の

データをもとに解説していただいた。宇宙の大規模構造形成や温度ゆらぎの観測

データを用い、パワー・スペクトラムなどの統計量がどのようして計算されるの

か、ゆらぎが宇宙の進化とともにどのように発展するのか、そしてダークマター

がそれにどのように関わっていくのか詳しく説明していただいた。また、宇宙論

におけるニュートリノの役割についても言及された。ニュートリノは微小ながら

質量を持つことが分かっており、その効果を考慮することにより質量の和に制限

を課すことができる。ニュートリノ質量が宇宙背景放射や構造形成にどのような

影響を及ぼすか、ご自身の研究結果を交えて解説していただいた。

高田氏によるセミナーの様子

26

• 平成25年6月11日講演者: 日高 義将 (理化学研究所)

タイトル: 南部・ゴールドストンの定理の非相対論的な系への一般化

講演内容:

南部・ゴールドストンの定理の非相対論的な系への拡張に関する最近の進展を紹

介していただいた。ローレンツ不変性が明白な場合は南部・ゴールドストンモー

ド (NGモード)と対称性の破れの数は一致し、NGモードのエネルギーは運動量

に比例する (Type-I NGモード)。Lorentz対称性が明白でない場合は対称性の破

れの数とNGモードの数は一般に一致しない。時空対称性の破れが伴わない場合

は、上記のType-I NGモードに加えエネルギーが運動量の 2乗に比例するType-II

NGモードが現れる場合がある。これらのNGモードの数と対称性の破れの数の

間の関係について、最近の進展を説明していただいた。また、時空対称性の自発

的破れが伴う場合の南部・ゴールドストンの定理についても議論された。

日高氏によるセミナーの様子

27

• 平成25年6月26日講演者: 中家 剛 (京都大学)

タイトル:T2Kニュートリノ実験とニュートリノにおける

CP対称性の測定に向けて

講演内容:

T2K(Tokai-to(2)-Kamioka)実験は、東海村にある大強度陽子加速器 J-PARCを

使って生成するニュートリノビームを 300km遠方に設置された岐阜県飛騨市神岡

町にあるスーパーカミオカンデに向けて打ち、ニュートリノ振動を高感度で測定

する実験である。T2K実験では、2011年 6月にミューオンニュートリノから電

子ニュートリノへの振動モードを発見することで、世界で初めてニュートリノ混

合角 θ13がゼロでないことを示した。電子ニュートリノへの振動発見により、よ

り多くのデータを蓄積し、原子炉反ニュートリノ振動実験の高精度 θ13測定と組

み合わせることで、いよいよニュートリノ振動におけるCP対称性についての研

究が始まろうとしている。本講演では、これまで得られた T2K実験の物理結果

の概観がなされ、更に今後T2K実験で期待される (CP測定を含む)ニュートリノ

振動の実験感度についての解説がなされた。また、T2K実験で最終的に得られる

探索感度と、ニュートリノ測定器スーパーカミオカンデを凌駕するハイパーカミ

オカンデ計画についても紹介していただいた。

中家氏によるセミナーの様子

28

• 平成25年7月10日講演者: 橋本 幸士 (大阪大学)

タイトル: A landscape in boundary string field theory

講演内容:

ボゾン弦の理論における真空構造を境界弦の場の理論を用いて調べた研究につい

て紹介していただいた。まず、真空構造を調べるための非摂動的な手法として境

界弦の場の理論が有効であることを説明していただいた。そして、massiveな場

が凝縮している場合に境界弦の場の理論のポテンシャルを求めることで、ボゾン

弦の理論には数多くの真空が存在することを示していただいた。さらに、それら

の真空が持つエネルギーを数値的に解析することで、それらの真空が物理的にど

のような状態に対応するかを議論していただいた。

橋本氏によるセミナーの様子

29

• 平成25年7月17日講演者: 瀬名波 栄問 (名古屋大学)

タイトル: 電弱バリオン数生成の最近の発展について

講演内容:

LHC実験におけるヒッグス粒子の発見以降、ヒッグス粒子に関する様々な実験

データが得られており、これにより電弱バリオン数生成の検証は大きく進展しつ

つある。特に、電弱バリオン数生成が成功する為の条件の一つである『電弱相転

移が強い一次』に対して実験からの制限がより強くなった。まず前半では、電弱

バリオン数生成のメカニズムについての一般的なレビューをしていただき、その

後、標準模型の場合における電弱バリオン数生成の問題点を説明していただいた。

LHC実験で測定された 126GeVのヒッグス質量は、電弱バリオン数生成に必要な

強い一次相転移を起こすには重すぎるため、標準模型を拡張して新たなボゾンを

導入する必要がある。また、小林・益川位相では十分なCP対称性の破れを引き

起こせないため、新たなCP位相も必要である。これらを満たす拡張として超対

称性が挙げられており、いくつかの超対称模型における最近の進展について紹介

していただいた。

瀬名波氏によるセミナーの様子

30

• 平成25年10月28日講演者: 浜口 幸一 (東京大学)

タイトル: Supersymmetry after Higgs discovery

講演内容:

標準模型が抱える暗黒物質問題や自然さの問題などの解決策として、超対称模型

が広く考えられてきた。一方、LHC実験におけるヒッグス粒子の発見や超対称粒

子の直接探索などにより、これら超対称模型の検証が進んでいる。講演の前半で

は、LHC実験で測定された 126GeVのヒッグス質量を踏まえ、自然さの問題・暗

黒物質問題・ゲージ結合定数の統一などへの示唆について解説していただいた。

特に自然さの問題に関しては、完全に解決することは難しく、1%程度の微調整

が必要であることが指摘された。後半は、ミューオン異常磁気能率の理論値と実

験値のずれを説明出来るような超対称性模型の紹介がなされた。このずれに関し

ても、超対称模型であれば説明できると期待されてきたが、LHC実験の最新結

果と照らし合わせると、最も単純な模型では難しいことが分かっている。この点

を改善するために新たに vector likeな粒子を導入する試みや、重心エネルギーが

14TeVにアップグレードされた LHC実験における示唆について説明していただ

いた。

浜口氏によるセミナーの様子

31

• 平成25年11月13日講演者: 小林 達夫 (京都大学)

タイトル: Phenomenological aspects of magnetized brane models

講演内容:

背景磁場を持つコンパクト空間の現象論的性質について説明していただいた。世

代数、ゼロモード波動関数、湯川結合、フレーバー対称性など 4次元低エネルギー

有効理論の様々な性質をまとめ、現実的な模型の構成を議論していただいた。

小林氏によるセミナーの様子

32

• 平成25年11月18日講演者: 川村 嘉春 (信州大学)

タイトル: 「自然さ」と「ゲージ階層性」を巡って

講演内容:

電弱スケールのヒッグス質量を説明するためには、tree levelのパラメータと量

子補正との間で、10桁以上の不自然な微調整を行う必要がある。この観点から、

TeVスケールに新しい物理が存在すると期待されてきたが、そのような兆候は未

だ見られていない。本講演では、このような従来の考え方の大替案として、標準

模型がプランクスケールのような高エネルギーまで有効であるというシナリオを

拠り所として、有効理論の観点から「自然さ」とその周辺についての再考がなさ

れた。具体的には、標準模型の背後に (究極の理論の特徴と深く関わる)隠れた対

称性が存在し、その効果によりスカラー粒子の質量に関する不自然な性質が解消

されるという期待の下で、積分変数に関する双対性を考慮した量子補正の計算方

法の提案がなされた。

川村氏によるセミナーの様子

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• 平成25年11月21日講演者: 高江洲 義太郎 (KIAS)

タイトル:原子炉反ニュートリノ実験による質量階層性への感度とその課題

講演内容:

二ュートリノ物理では、θ13の精密測定を受けて質量階層性の決定が次の重要課

題となっている。それにはニュートリノ振動実験が有効であると考えられるが、

その中でも原子炉反ニュートリノ実験は、CP位相や θ23とは独立に質量階層性の

情報を得られる点でユニークである。本講演では、次世代原子炉実験における質

量階層性決定への感度や課題について、韓国で計画されているRENO-50を例に

して紹介していただいた。

高江洲氏によるセミナーの様子

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• 平成25年12月2日講演者: 立川 裕二 (東京大学)

タイトル: Supersymmetric dynamics with non-Lagrangian sectors

講演内容:

近年、四次元超対称ゲージ理論の研究から、強結合超対称理論でラグランジア

ンが (書けそうに)ない理論が沢山みつかっている。本講演では、まず、ラグラ

ンジアンがない理論を考える動機を説明していただいた。そして、具体例として

Minahan-Nemeschanskyの理論を用いて、ラグランジアンがない理論をどのよう

な手法で解析するかを説明していただいた。さらに、ラグランジアンがない理論

の現象論への応用例として、ダイナミカルな超対称性の破れの模型に関するこれ

までの研究をより一般化する研究についても紹介していただいた。

立川氏によるセミナーの様子

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• 平成25年12月16日講演者: 釜江 常好 (スタンフォード大学、東京大学)

タイトル:宇宙線・ガンマ線観測によるダークマター探索:過去、現在、未来

講演内容:

ダークマターは、宇宙全体や銀河以上の大きな天体の多くの観測事実を説明する

には必要不可欠の要素となっている。他方、素粒子物理学でも、ヒグス粒子の発見

で完結したかに見える「スタンダード模型」も、数 100GeVを超えるエネルギー

になると理論が破綻することが知られている。何か重い粒子が必要なのだ。身の

回りにある「標準物質」とほとんど相互作用しない重い粒子が宇宙を満たしてい

てくれると、素粒子物理学にも天体物理学にも好都合である。1970年代後半から

数年前まで、このような条件を満たす「奇跡のWIMP」があると信じて、多くの

実験や観測がなされてきた。しかし、未だに発見されていない。これまでのダー

クマター探索の結果と、CERNの巨大衝突型加速器、LHCで得られている結果

をあわせると、「奇跡のWIMP」は夢に過ぎなかったと考える研究者も増えてい

る。まったく違う可能性を考えるべき時期が来ているのかもしれない。この講演

では、宇宙線、γ線観測から得られてきた結果を中心に、最近のダークマター探

索を解説していただき、新しいダークマターの可能性についても議論していただ

いた。

釜江氏によるセミナーの様子

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• 平成26年1月22日講演者: 田中 実 (大阪大学)

タイトル: 原子・分子過程によるニュートリノ物理

講演内容:

原子・分子の準安定状態からの光子を伴うニュートリノ対の放出 |e⟩ → |g⟩+ γ +

νi+ νj(radiative emission of neutrino pair, RENP)による、ニュートリノの未知の

性質、すなわち、絶対質量・階層性パターン・DiracかMajoranaか・CP位相の決

定の可能性について議論していただいた。どのようにしてこれらの性質がRENP

により決定されるのか、その原理についての説明の後に、RENPを実現するため

に重要となるマクロコヒーレンス機構について解説された。また、このマクロコ

ヒーレンス機構を実証するために考えられているRENPのニュートリノ対を光子

で置き換えたQED過程 |e⟩ → |g⟩ + γ + γ(paired super radiance, PSR,対超放

射)についても説明していただいた。PSRはそれ自体新しいコヒーレントな量子

過程であり、RENPの前段階の過程としても重要である。

田中氏によるセミナーの様子

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• 平成26年1月27日講演者: 淺賀 岳彦 (新潟大学)

タイトル:Probing the origins of neutrino masses

and baryon asymmetry of the universe

講演内容:

質量がほぼ等しく、K中間子よりも軽い 2つの右巻きニュートリノを導入するこ

とによる標準模型の拡張を紹介していただいた。このシンプルな拡張によって

ニュートリノ振動と物質反物質非対称な宇宙を同時に説明可能であることを示さ

れた。また、そのような軽い右巻きニュートリノに対する直接観測実験や宇宙論

からの制限を踏まえたうえで、K中間子を用いた将来実験における右巻きニュー

トリノの検証可能性を議論された。

淺賀氏によるセミナーの様子

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• 平成26年2月17日講演者: 丸藤 祐仁 (東北大学)

タイトル:KamLAND-Zen 実験による

ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索

講演内容:

近年のニュートリノ振動パラメータの精密測定を受け、次のニュートリノ研究の

課題は、質量の値と階層問題、CP対称性の破れ、粒子と反粒子の同一性 (マヨラ

ナ性)、不感ニュートリノ (ステライルニュートリノ)の存在などが挙げられてい

る。これらの中で、質量とマヨラナ性を検証出来る、ニュートリノを伴わない二

重ベータ崩壊を探索する実験が世界各地で稼動・計画されており、現在最も活発な

テーマの一つとなっている。本講演では、KamLAND (Kamioka Liquid scintillator

Anti-Neutrino Detector) に約 400kgのキセノン 136二重ベータ崩壊核を導入する

事で二重ベータ崩壊探索を行っているKamLAND-Zen実験、および将来計画と

探索感度について紹介していただいた。

丸藤氏によるセミナーの様子

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• 平成26年2月24日講演者: 阿部 智広 (高エネルギー加速器研究機構)

タイトル:Gauge invariant Barr-Zee type contributions

to fermionic EDMs in the two-Higgs doublet models

講演内容:

Z2対称性がソフトに破れた two-Higgs doublet modelsにおいて、フェルミオン

の電気双極子モーメントへの Barr-Zee型の寄与をゲージ不変な形式に計算した

結果を紹介していただいた。また、two-Higgs doublet modelsのType-I, Type-II,

Type-X, Type-Yという 4種類について物理変数への制限を示された。ACME実

験が得た電子の電気双極子モーメントに対する最新の上限値によってType-IIと

Type-Xは強く制限を受けている点や、将来的に電子や中性子の電気双極子モー

メントの探索実験によって数 10TeV程度までの two-Higgs doublet modelsを探索

し得ることも議論された。

阿部氏によるセミナーの様子

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4 京都産業大学 益川塾 第6回シンポジウム

「宇宙にときめく」

平成 25年 12月 7日、東京国際フォーラムにおいて、京都産業大学 益川塾 第

6回シンポジウム「宇宙にときめく」が開催され約 600人が参加した。

益川教授の特別授業

「夢の追求 ~高校生の君たちへ~」

益川教授からの質問に答える

山村国際高校の生徒

 今回のシンポジウムでは高校生200

人を対象にした「益川敏英教授によ

る特別授業」や、一般の参加者と高

校生を対象とした独立行政法人宇宙

航空研究開発機構(JAXA)シニア

フェロー・宇宙科学研究所 宇宙飛翔

工学研究系 川口 淳一郎 氏による基

調講演「『やれる理由』を見つける」

および「宇宙にときめく」をテーマ

にしたパネルディスカッションが行

われた。

 また、会場では全国から高校生 41

チームが参加し、研究成果を発表す

る理系のポスターセッションを開催。

シンポジウム講師の川口氏や益川教

授のほか、登壇者全員が高校生の各

ブースを熱心に見学し、緊張しなが

らも、研究の取り組みをしっかりと

説明する生徒たちを激励された。

  41チームの研究テーマから、北海

道、札幌日本大学高等学校の「細胞

分裂エネルギーを利用した衛星推進

システム」および群馬県、群馬県立

前橋女子高等学校の「月の色の不思

議」が代表として選ばれ、2校のチー

ムは、シンポジウムの中で活動成果

を発表し、川口氏、益川教授からの

講評をいただいた。

参加した高校生からは「偉大な研究者のかたがたと実際に会い、発表を聞いて

いただけるなんて夢のよう。緊張したけれど、嬉しかった」と感想が寄せられた。

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参加高校名とポスターセッションのテーマ

• 札幌日本大学高等学校「細胞分裂エネルギーを利用した衛星推進システム」

• 北海道札幌啓成高等学校「アライグマによるエゾサンショウウオ捕食」

• 宮城県立仙台第一高等学校「Influence of the East-West Effect on Cosmic Rays」、「C/2012S1アイソン彗星の測光観測」

• 福島県立磐城高等学校「ウィリアムソンエーテル合成法の検討」、「電波望遠鏡の製作と太陽電波の観測」、「オカダンゴムシにおける交替性転向の限界」

• 群馬県立前橋女子高等学校「月の色の不思議」、「アイソン彗星の観測」、「夜空の明るさの経時変化」

• 茨城県立並木中等教育学校「4節リンク機構における入力・出力点の関係の数式化」

• 埼玉県立蕨高等学校「BSアンテナによる太陽フレアの観測」

• 山村国際高等学校「ペーパーディスクを使用した天然防腐剤の抗菌効果の測定」

• 玉川学園高等部「井戸水の水質調査」、「非接触型体温計の開発(大人から子供まで簡単に使える体温計の開発)」

• 東海大学付属高輪台高等学校「太陽の電波観測~オーロラの発生~」

• 東京都立富士高等学校「レゴを活用したロボットの開発」

• 東京都立府中工業高等学校「都立府中工業高校における流星の電波観測事始」

• 広尾学園高等学校「Belle実験データを用いた新粒子の探索」、「深海生物の構造研究に向けた高圧装置の開発」

• 神奈川県立川崎工科高等学校「土壌菌を用いた水質浄化」

• 神奈川大学附属高等学校「放射線とは何か」

• 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校「キノコを用いた廃棄物の有効利用にむけて」

• 静岡県立御殿場南高等学校「ポリ乳酸のケミカルサイクルに関する研究~コメのとぎ汁から生分解プラスチックの合成と分解~」

• 愛知県立岡崎高等学校「美しい稿膜様を作る!!~リーゼガング現象による考察~」

• 愛知県立明和高等学校「ライフゲーム3D」

• 名古屋大学教育学部附属高等学校「特殊相対性理論の世界」

• 滝高等学校「静電捕集法によるラドン検出」

• 立命館守山高等学校「ロボカップジュニアレスキューの取り組み」

• 京都府立桃山高等学校「グリセリンの不凍性にせまる」

• 京都府立洛北高等学校「牛乳タンパク質の界面活性作用」

• 奈良県立奈良北高等学校「単分子膜を利用してアボガドロ定数を求める。」、「空き缶でつくる手作り綿菓子」

• 大阪府立春日丘高等学校(定時制課程)「微小重力を作る」

• 和歌山県立海南高等学校「酸化物半導体膜と有機導電膜のコラボレーション」

• 兵庫県立加古川東高等学校「地元高級石材凝灰岩「滝山石」の廃棄粉末を利用した陶器の色相変化」

• 広島県立国泰寺高等学校「ピレノイドを持つツノゴケは地球の救助隊!?~ルビスコのループ配列の解析から~」、「カイミジンコの走性・耐性に関する研究」、

• 京都産業大学附属高校「クマゼミとアブラゼミの腹部背面の白帯の型と分化」

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5 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム

-CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-

平成 26年 3月 15、16日、「日本大学理工学部・益川塾連携 素粒子物理学シン

ポジウム -CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-」が

開催された。

挨拶をする益川 塾頭

研究発表を行う杉山 博士研究員

 このシンポジウムは、日本大学理工学

部物理学科の素粒子論研究室と京都産業

大学益川塾が連携し、素粒子物理学の最

近の話題を取り上げ、研究報告と討論を

行い、研究の進展と研究者の交流を促す

ことを目的としたものである。

 第 1回は日本大学理工学部駿河台キャ

ンパスにて、第 2回は京都産業大学壬生

校地「むすびわざ館」にて開催された。第

3回となる今回は、日本大学駿河台キャ

ンパスに会場を戻し、海外から 2人の講

師を招き、国際シンポジウムとして開催

された。

 16日には益川塾頭が挨拶を行い、本シ

ンポジウムの基本理念となっている『私

立大学の連携』について、「私立大学にお

ける素粒子物理学の研究グループは必ず

しも大きくないため、互いに協力し連携

し合うことが重要ではあるが、それぞれ

の大学の考え方を尊重し、ゆるく連携し

ていくべきであろう」と話された。

また、15日には九後 副塾頭による “Complex Group Gauge Theory”の講演

が、16日には杉山 博士研究員により、第 8回素粒子メダル奨励賞を受賞した

“Discrimination of Models Including Doubly Charged Scalar Bosons by Using

Tau Lepton Decay Distributions”の講演が行われた。

招待講師を含め、両日で合計 14人の講師による講演等が行われたシンポジウ

ムには、本学益川塾関係者、日本大学関係者および他大学の教員等、約 50人が

参加し、活発な議論や意見交換が行われ充実したものとなった。

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以下にシンポジウムのプログラムを添付する。

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6 塾頭の講演・広報活動・報道等

《講演・対談等》

1. 2013年 4月 8日 益川塾入塾式

2. 2013年 5月 18日 沖縄タイムス 講演会

3. 2013年 5月 27日 国士舘大学 記念講演会

4. 2013年 5月 28日 日本大学 学部長との対談

5. 2013年 5月 30日 栄町商店街 除幕式出席

6. 2013年 6月 30日 シニア自然大学校 講演会

7. 2013年 7月 21日 京都府教育委員会 講演会

8. 2013年 9月 11日 茨木県水戸高等学校 講演会

9. 2013年 9月 23日 「知と学びのサミット」 対談

10. 2013年 9月 27日 日本能率協会 講演会

11. 2013年 10月 12日 東京工業大学 講演会

12. 2013年 12月 7日 京都産業大学 益川塾 第 6回シンポジウム

13. 2014年 2月 8日 「ノーベル賞受賞者フォーラム」 講演会

14. 2014年 2月 27日 日本経済新聞社「星新一賞」最終選考会出席

15. 2014年 3月 15日 日本経済新聞社「星新一賞」授賞式出席

16. 2014年 3月 16日 日大理工・益川塾連携シンポジウム

《新聞・雑誌等掲載記事》

1. 2013年 5月 17日 沖縄タイムス 朝刊 1面

沖縄タイムス 65周年記念・新社屋落成記念

タイムス文化講演会

2. 2013年 6月 27日 毎日新聞 夕刊 2面 特集ワイド

3. 2013年 8月 18日 日本経済新聞 朝刊 9面 日曜に考える

4. 2013年 9月 22日 京都新聞 朝刊 24面 憲法 9条京都の会

5. 2013年 9月 30日 エデュコ(教育情報誌) 秋号 巻頭インタビュー

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6. 2013年 10月 7日 朝日新聞 朝刊 15面 知と学びのサミット

7. 2013年 10月 9日 京都新聞 朝刊 26面

毎日新聞 朝刊 27面

読売新聞 朝刊 2面

朝日新聞 朝刊 3面

日本経済新聞 朝刊 38面

ヒッグス博士ら 2013年ノーベル物理学賞受賞

8. 2013年 11月 28日 朝日新聞 朝刊 1面 特定秘密保護法案

9. 2013年 11月 29日 京都新聞 朝刊 28面 特定秘密保護法案

10. 2013年 12月 6日 京都新聞 朝刊 23面 特定秘密保護法案

11. 2013年 12月 26日 読売新聞 朝刊 12面

益川塾 第 6回シンポジム 「宇宙にときめく」

12. 2014年 2月 27日 読売新聞 朝刊 13面 ノーベル賞受賞者フォーラム

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京都産業大学益川塾 2013年度年次報告書 第4報

発行   2014年 4月

発行者  京都産業大学益川塾

     〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山

印刷   中西印刷株式会社

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