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44 JAGREE 81. 2011・5 1 はじめに ストックマネジメントによる開水路コンクリー トの維持管理対策として種々の表面被覆工法が行 われていますが,いずれの工法においても下地と の高い付着性能が要求されています。断面修復工 や表面被覆工施工前の下地処理がきわめて重要と なっています。 下地処理方法としてはディスクサンダー,サン ドブラスト,ウォータージェットなどがあります が,水路の特性からウォータージェットの使用頻 度が高く高圧・超高圧ウォータージェットによる 下地処理について述べます。 よく用いられているのは 30 ~ 100 MPa の水圧 で処理する高圧洗浄ですが,本稿ではもう一歩踏 み込んで,下地処理能力の高い超高圧ウォーター ジェットについて紹介します。 超高圧ウォータージェットとは超高圧発生装置 を使用して 150 MPa 以上の水圧でブラスト処理 を行う方法です。コンクリート表面の脆弱層を短 時間で完全に除去することができ,使用する水も 高圧洗浄の半分以下です。 現場での試験施工によるや経済性の比較から超 高圧ウォータージェットの有用性を見ていただき ます。 2 試験施工 図- 1 に試験施工のフローを示します。 試験施工は下地処理方法を選定するために行 い,試験箇所の両側壁と底版各々 1 m 2 程度を対 象としました。試験面を高圧(30 ~ 70 MPa)と 超高圧(150 ~ 180 MPa)で下地処理を行い,単 軸引張試験による付着強度と下地処理前後の凹凸 (不陸)量を確認しました。 試験は一処理面当たり 3 個の試験とし,総試験 数は圧力種類× 3 面× 3 個で行いました。 表- 1,2 は異なる 2 現場で行った下地処理後 のコンクリートの単軸引張試験結果です。 高圧処理と超高圧処理の違いは明らかです。 超高圧ウォータージェットによる下地処理施工例について (株)デーロス 栗原 慎介 新技術 ストックマネジメント ストックマネジメント 図- 1 試験施工フロー

超高圧ウォータージェットによる下地処理施工例に …...46 JAGREE 81. 2011・5 表-4 底版不陸量計測結果(平均値) 圧力(MPa) 下地処理前

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● ストックマネジメント ●●

44 JAGREE 81. 2011・5 45JAGREE 81. 2011・5

1 はじめに

 ストックマネジメントによる開水路コンクリートの維持管理対策として種々の表面被覆工法が行われていますが,いずれの工法においても下地との高い付着性能が要求されています。断面修復工や表面被覆工施工前の下地処理がきわめて重要となっています。 下地処理方法としてはディスクサンダー,サンドブラスト,ウォータージェットなどがありますが,水路の特性からウォータージェットの使用頻度が高く高圧・超高圧ウォータージェットによる下地処理について述べます。 よく用いられているのは 30 ~ 100 MPa の水圧で処理する高圧洗浄ですが,本稿ではもう一歩踏み込んで,下地処理能力の高い超高圧ウォータージェットについて紹介します。 超高圧ウォータージェットとは超高圧発生装置を使用して 150 MPa 以上の水圧でブラスト処理を行う方法です。コンクリート表面の脆弱層を短時間で完全に除去することができ,使用する水も高圧洗浄の半分以下です。 現場での試験施工によるや経済性の比較から超高圧ウォータージェットの有用性を見ていただきます。

2 試験施工

 図- 1に試験施工のフローを示します。 試験施工は下地処理方法を選定するために行い,試験箇所の両側壁と底版各々 1 m2 程度を対象としました。試験面を高圧(30 ~ 70 MPa)と超高圧(150 ~ 180 MPa)で下地処理を行い,単軸引張試験による付着強度と下地処理前後の凹凸

(不陸)量を確認しました。 試験は一処理面当たり 3個の試験とし,総試験数は圧力種類× 3面× 3個で行いました。 表- 1,2 は異なる 2現場で行った下地処理後のコンクリートの単軸引張試験結果です。 高圧処理と超高圧処理の違いは明らかです。

超高圧ウォータージェットによる下地処理施工例について(株)デーロス 栗原 慎介

新技術

ストックマネジメントストックマネジメント

図- 1 試験施工フロー

Page 2: 超高圧ウォータージェットによる下地処理施工例に …...46 JAGREE 81. 2011・5 表-4 底版不陸量計測結果(平均値) 圧力(MPa) 下地処理前

● ストックマネジメント ●

44 JAGREE 81. 2011・5 45JAGREE 81. 2011・5

表- 1 単軸引張試験結果 1(試験圧力 3種類)

水圧(MPa)

試験位置 単軸引張強度(N/mm2)備考(破壊状況)

30

右岸1 0.90,3.59,1.67(2.05) 母材2 3.45,2.11,4.28(3.28) 母材

左岸1 0.80,1.58,2.33(1.57) 1箇所再試験でOK2 2.48,3.23,1.26(2.32) 母材 1,界面 2

底版1 0.95,0.96,0.83(0.91) 母材2 0.45,0.00,0.57(0.34) 界面

150

右岸1 2.84,3.11,3.95(3.30) 母材2 2.60,5.16,6.03(4.59) 母材

左岸1 2.72,2.42,2.58(2.57) 母材 2,界面 12 4.46,4.32,4.26(4.34) 母材

底版1 1.85,1.71,2.70(2.08) 母材 2,界面 12 1.82,1.53,1.75(1.69) 母材

180

右岸1 3.86,4.26,1.22(3.11) 母材2 4.02,4.06,5.35(4.47) 母材

左岸1 4.99,1.91,2.80(3.23) 母材 2,界面 12 4.28,4.79,4.04(4.37) 母材

底版1 1.22,2.09,1.36(1.55) 母材2 2.40,2.54,1.55(2.16) 母材

註:( )内は平均値,網掛けは 1.0 N/mm2 未満の値を示す。

表- 2 単軸引張試験結果 2(試験圧力 5種類)

圧力(MPa)

試験位置 単軸引張強度(N/mm2)備考(破壊状況)

30右岸 0.75,1.14,1.21(1.03) 母材 2,界面 1左岸 0.67,1.77,1.97(1.47) 母材 2,界面 1底版 0.93,0.70,0.56(0.73) 母材

50右岸 0.85,0.66,1.55(1.02) 母材左岸 1.14,1.76,2.28(1.72) 母材 2,界面 1底版 1.14,0.63,1.36(1.04) 母材

70右岸 1.50,1.63,1.09(1.40) 母材左岸 1.01,1.41,2.73(1.72) 母材 2,界面 1底版 0.73,0.46,1.55(0.91) 母材

150右岸 1.49,1.38,1.36(1.41) 母材 2,界面 1左岸 2.06,1.38,3.10(2.18) 母材 2,界面 1底版 1.00,1.26,1.05(1.10) 母材 2,界面 1

180右岸 1.36,3.31,1.68(2.11) 母材 1,界面 2左岸 1.41,1.44,1.49(1.44) 界面底版 1.01,1.01,1.11(1.04) 母材

註:( )内は平均値,網掛けは 1.0 N/mm2 未満の値を示す。

 高圧処理結果(30,50,70MPa)から,側壁では 4 箇所 5 点で,底版では 5 箇所 12 点で1.0 N/mm2 未満となっています。 一方超高圧処理(150,180MPa)ではいずれも1.0 N/mm2 を超えています。超高圧処理で安定した下地コンクリート付着強度を得られることが分ります。

 試験結果から,下地処理後の付着強度の要求性能を 1.0 N/mm2 とすれば,表- 1 の現場では側壁 30 MPa 以上,底版 150 MPa 以上,表- 2 の現場では側壁 70 MPa 以上,底版 150 MPa 以上の圧力が必要であることが分ります。 次に不陸について表- 2で示した現場の調査例で説明します。図- 2に示す方法で計測したコンクリート表面の不陸量を表- 3,4に示します。 本現場では高圧 4分間,超高圧 1分間の下地処理により試験施工を行いました。

 処理前後の不陸量の差異をコンクリート脆弱部の除去量と読み替えれば,超高圧では 1 分でも,70 MPa で 4 分間処理した結果とほぼ同等の処理が出来たことが分かります。逆に言えば,70 MPa では,同じ処理結果を得るために 4倍の時間とそれに見合う水量が必要となります。 表- 1,2 の引張試験結果と合わせると,超高圧処理の有利性が明らかになったと言えます。

表- 3 側壁不陸量計測結果(平均値)

圧力(MPa) 下地処理前 下地処理後 差異30 1.56 1.75 0.1950 1.70 2.20 0.5070 1.54 2.54 1.00150 1.47 2.49 1.02180 1.66 2.90 1.24

単位:mm

図- 2 表面不陸量測定方法

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46 JAGREE 81. 2011・5

表- 4 底版不陸量計測結果(平均値)

圧力(MPa) 下地処理前 下地処理後 差異30 8.28 9.61 1.3350 8.42 9.78 1.3670 9.83 13.05 3.22150 8.96 12.33 3.37180 9.80 13.22 3.42

単位:mm

3 施工性の比較

 ウォータージェットによる水洗は,洗浄レベルとはつりレベルがあり,単純な比較は出来ず,また,単価設定や歩掛にまだ大きなバラツキがあり厳密な経済比較は出来ないため,ある試算の概要を紹介します。 下地処理に要求されるウォータージェットのエネルギー密度(Ec)を 1.5 kWh/m2 程度と仮定します。Ec は次式で表わされます。 Ec =水動力 /処理能力 ここで 水動力(kW)=圧力(MPa)×吐出水量

(ℓ/min)/ 60 …………(式 1) 処理能力(m2/h)=時間当たり処理面積 (式 1)にウォータージェットの実際の値を入れて Ec = 1.5 kWh/m2 に近い値が得られるように試算すると表- 5の結果が得られます(単純化して結果のみ記載)。 使用した数値は 30,50,150 MPa について各々吐出水量 20,15,12 ℓ /min,日(5 時間当たり)施工能力を 30,40,100 m2/day としています。

表- 5 試算結果

圧力(MPa)Ec(kWh/m2)施工時間(min/m2)

使用水量(t/day)

30 1.67 10.0 6.050 1.53 7.5 4.5150 1.50 3.0 3.6

 表- 5 から高圧処理は超高圧処理の 2.5 ~ 3.3倍の時間が必要となり,濁水処理が必要な場合には,処理量も表の使用水量に 2.5 ~ 3.3 を乗じて,高圧処理では約 10 ~ 20 t(超高圧が 3.6 t の場合)

となり,ここでも大きな時間と労力が必要になります。 ただし,Ec が同じであれば高圧でも超高圧と同じ処理結果が得られるかどうかについては定かではないため,今後の研究が必要と考えられます。

4 おわりに

 超高圧ウォータージェットによる下地処理について,高圧ウォータージェットと比較しながら紹介してきました。 老朽化したコンクリート開水路の補修では,側壁は高圧水洗による施工も可能ですが,底版については,下地コンクリートの劣化が著しいため,超高圧でないと劣化部の除去が十分に出来ない場合が多い状況です。 側壁と底版で使用機械を変えることは大変なため,超高圧用機械を使用し,その水圧調整により対応することが有利になるものと考えられます。 コンクリートの脆弱部を下地処理により除去することは,表面被覆材と躯体の付着力を保持し,所要の耐用年数を確保するために不可欠です。本事例では,150 MPa 以上の超高圧ウォータージェットの有利性を明らかにしましたが,高圧ウォータージェットでも所要の付着力を確保出来る場合もあるため,工事に先立つ設計の段階で必ず試験施工を行い,適切な下地処理工法を選択し,仕様書に反映させることが必要と考えます。

参考文献1) 日本洗浄技能開発協会「産業洗浄」2005,5,p.3082) 日本道路公団「ウォータージェット施工マニュアル」2000,12,p.53) 日本ウォータージェット施工協会「ウォータージェット工法 計画・施工の手引き」2004,3,pp.4 ~ 64) ㈱クランツレ「高圧洗浄機カタログ」5) (社)日本農業集落排水協会「農業用集落排水施設のコンクリート劣化点検・補修の手引き(案)」2002,7,p.436) (社)地域資源循環技術センター「農業集落排水施設のコンクリート防食設計・施工の手引き」2006,9,p.127) 日本下水道事業団「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」2007,7,p.128