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0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 T1R2aT1R2b T1R3 T2R1aT2R1bT2R2a T2R3 T2R4 T2R5 gnb1a plcb2 mRNA発現量 魚類の嗜好性制御メカニズムの解明 食品生産科学部門 助教 長阪玲子 配分予算額 我々はこれまでマウスにおいて生育温度の違いによりマクロ栄養素に対する嗜好性が変化することを明らかにした.この嗜好性の違いは生 育温度によって代謝が変化し,味覚受容体発現量が変化したことによりもたらされたことを示唆した.魚類においても同様のことが起こる と考えられるが,飼育温度により嗜好性が異なることは示唆されているものの,その嗜好性制御メカニズムについては明らかになっていな い.一方,魚類の味覚システムの研究は,情報伝達や処理を行う神経回路が解明され始め,哺乳類と同様の機構が存在することが明らかに なりつつある.味覚における末梢器官である味蕾は脊椎動物に保存されている器官であり,魚類の味受容機構の解明は哺乳類,脊椎動物の 味覚受容のメカニズムを解明する上でも重要視されつつある.味蕾の構造は魚種によって異なり,アミノ酸が哺乳類よりも強い味刺激と なっていることなどが報告されているが,前述したような受容体発現量の変化による嗜好性制御,また,代謝の変化による嗜好性制御メカ ニズムについては全く知見がない.そこで本研究では魚類のマクロ栄養素に対する嗜好性制御因子を解明するとともに,味覚受容体および 代謝変動が嗜好性に及ぼすメカニズムを検討することを目的とした. ① 嗜好性評価系の確立 10 min. Alexa Fluor 680 HSD IR Dye 800 HFD 蛍光標識 HFD 蛍光標識 HFD HCD IR Dye 800 蛍光標識 HCD 蛍光標識餌の 写真 蛍光標識餌の 蛍光像 蛍光標識餌 Alexa Fluor 680 IR Dye 800 図8. HFD/HSD 給餌試験結果 図9. HFD/HCD 給餌試験結果 HFD vs HSD 給餌試験 HFD vs HCD 給餌試験 飽食/絶食区で5日間飼育 代謝と嗜好性の関係 ④ Image J softwareにより蛍光強度を数値化 ③ 麻酔下でOdyssey infrared imagerにより測定 ② キンギョに蛍光標識餌を数分間摂餌させる ① 飼料に近赤外蛍光色素を標識する 蛍光標識餌F680は700 nmの波長の蛍光を F800は800 nmの波長の蛍光を発する ②水温と嗜好性の関係 二瓶選択法を元にして,近赤外蛍光色素を用いた 小型魚の嗜好性評価方法を確立した 図1. 近赤外蛍光イメージング法の概要図 【近赤外蛍光イメージング法】 【Maxillary Barbellを用いた味覚受容体mRNA発現量測定】 ゼブラフィッシュにおいて,絶食により味覚受容体, 味覚受容体関連因子mRNA発現量が増加した ゼブラフィッシュ(Danio rerio )は ヒゲに味蕾が局在している 図3. ゼブラフィッシュにおけるヒゲの味蕾 図4. 飽食/絶食区のヒゲにおける 味覚受容体 mRNA発現量 図5 飽食/絶食区の口唇における 味覚受容体 mRNA発現量 甘味/旨味 苦味 味覚受容関連因子 Maxillary Barbell(MB)とNarsal Barbell(NB),鰓, 口唇,胸鰭の味覚関連因子の発現を比較した ゼブラフィッシュのヒゲが味覚受容体の発現量測定に有用であり, 継続的に味覚受容体発現量の測定が可能であることを明らかにした 平成28年度:1986千円 平成29年度:1270千円 平成30年度:1900千円 A 査読付学術論文 計3件(うち責任著者1件、国際共著1件、オープン アクセス1件) 1. Pahila J., Kaneda H., Nagasaka R., Koyama T., Ohshima T. (2017) Effects of ergothioneine-rich mushroom extracts on lipid oxidation and discoloration in salmon muscle stored at low temperatures, Food Chem, 233, 273–281. doi:10.1016/j.foodchem.2017.04.130. 2. Nagasaka R., Harigaya A., Ohshima T. (2018) Effect of proteolysis on meat quality of brand fish, red sea bream Pagrus major, Food SciTech Res, 24(3), 465-473. doi: https://doi.org/10.3136/fstr.24.465 (責任著者) 3. Nagasaka R., Swist E., Sarafin K., Gagnon C., Rondeau I., Massarelli I., Cheung W., Laffey P., Brooks S.P.J., Ratnayake W.M.N., (2018) Low 25- hydroxyvitamin D levels are more prevalent in Canadians of South Asian than European ancestry inhabiting the National Capital Region of Canada, PLoS One13(12): e0207429, doi: 0.1371/journal.pone.0207429. (国際共著 論文,オープンアクセス論文) D 学会発表 計7件(うち責任著者6件、国際学会1件) 1. Demonty I., Qiao C., Xiao C., Swist E., Nagasaka R., Wood C., Ratnayake W., Associations between red blood cell fatty acids and cardiometabolic risk markers differ in White vs. South Asian Canadian adults living in Ottawa, AOCS Annual Meeting, 2017, 4.30-5.3, Orlando, Florida, USA 2. 末武綾子・長阪玲子・石川雄樹 「ストレス条件下における糖質嗜 好性の変動」2017年度生命科学系学会合同年次大会,2017127神戸ポートアイランド (責任著者) 3. 林風咲子・石川雄樹・長阪玲子 「近赤外蛍光イメージング法を用 いたキンギョの摂食嗜好性評価」2017年度生命科学系学会合同年次 大会, 2017127日神戸ポートアイランド(責任著者) 4. 林風咲子・小林令奈・笠原万有璃・石川雄樹・長阪玲子「ゼブラフ ィッシュ maxillary barbelにおける味覚受容体発現の解析」平成30年度 日本水産学会春季大会 2018328日,東京海洋大学品川キャンパス (責任著者) 5. 末武綾子・中地はづき・長阪玲子「環境温度による食嗜好性変動メ カニズムの解明」第3回食欲・食嗜好の分子・神経基盤研究会,2018 63日,岡崎カンファレンスセンター・大会議室,(責任著者) 6. 林風咲子・末武綾子・石川雄樹・長阪玲子「絶食ゼブラフィッシュ における食欲関連因子および嗜好性に関する研究」第3回食欲・食嗜 好の分子・神経基盤研究会 201863日,岡崎カンファレンスセン ター・大会議室,(責任著者) 7. 林風咲子・末武綾子・石川雄樹・長阪玲子「ゼブラフィッシュにお ける絶食による炭水化物嗜好性の亢進」第41回分子生物学会大会, 20181128-30日パシフィコ横浜,(責任著者) 図2. ノナン酸の嗜好性試験の結果 試験区 コントロール区 ドジョウにおける忌避物質として知られているノナン酸をF800に添加し,F800’を 作製した.前日に絶食させたキンギョ3匹×2グループを用いてコントロール区に はF800とF680の混合餌を試験区にはF800’とF680の混合餌を給餌した 試験区はコントロール区に比べ、 800 nmにおける蛍光強度が低下した 0 20 40 60 80 100 120 700 800 700 800 蛍光強度[/cm 2 ] Nonanoic acid Control MBは口唇と同様の発現パターンを示した 水温がマクロ栄養素嗜好性 に与える影響を調べるため, 高炭水化物食 (HPD), 高炭水化物食 (HCD) を 用いて飼育試験を行った. 水温がアミノ酸嗜好性へ与える影響を調べるため, アミノ酸非含有食 (ND),アミノ酸含有食 (AD) を 用いて飼育試験を行った. 【マクロ栄養素嗜好性】 低温飼育により高タンパク質の嗜好性が高くなることが 明らかとなった.また,魚類のTRPM5も温度感受性が あることが示唆された.低温飼育でアミノ酸感受性の高 い受容体であるT1Rの発現量が高くなったことにより, 高タンパク質の嗜好を高めていることが示唆された. GnRHについては魚類では哺乳類ほど食欲制御に直接関 わるものではなく,水温や日照と関連する生殖のシグナ ルとして関与していることが示唆された. 【マクロ栄養素嗜好性への影響】 【アミノ酸嗜好性への影響】 0 10 20 30 40 50 60 70 80 Cold Cont. Hot 蛍光強度 ND AD ND AD ND AD 図7.給餌試験結果 0 2 4 6 8 10 12 14 16 Cold Cont. Hot 蛍光強度 HPD HCD HPD HCD HPD HCD 【アミノ酸嗜好性】 摂餌量については高温飼育が最も高く,低温になるにつ れて摂餌量の減少が見られた.低温飼育でアミノ酸の嗜 好性が高いことが確認された.水温に応じた栄養の選択 をしていることが示唆された. 前述の結果と同様に絶食によって味覚受容体mRNA発現量が増加したが,視床下部に おける炭水化物嗜好性関連因子mRNA発現量は減少した.また,嗜好性の評価におい ては,スクロースへの嗜好性が亢進した一方,コーンスターチに対する嗜好性が低下 した.魚類では主なエネルギー源はアミノ酸であり,哺乳類が甘味を感じる味覚受容 体であるT1R2/T1R3のヘテロ受容体は魚類ではうま味を感じるとされているが,本実 験の結果より,魚類においても甘味を感じている可能性があることが示唆された. 炭水化物は一般に魚類の成長を低下させることが知られているが,本結果から,エネ ルギーに変換しやすい形での炭水化物源の投与は代謝状況によっては有益であること が明らかになった. HCの炭水化物の種類について,甘味そのものを感じるスクロース(HSD)と, 甘味を感じないコーンスターチ(HCD)の2種を用意し,飽食/絶食における嗜好性試験を行った. 水温を変えた飼育実験で脳における15502個の遺伝子について網羅的解析を行った結果,高温飼育と低温飼育の発現 比率が2倍以上,もしくは1/2倍以下の変動があったものは1625個であった.アミノ酸代謝シグナル因子や,EDEMの ような小胞体でのタンパク質折りたたみに関与する因子,転写因子STAT1等の発現量に変動があったことから,生育 水温の違いが代謝を変化させ,味覚応答を変動させる可能性が示唆された 図6.給餌試験結果 0 2 4 6 8 10 12 14 T1R2aT1R2b T1R3 T2R1aT2RabT2R2a T2R3 T2R4 T2R5 gnb1a plcβ2 mRNA発現量 甘味/旨味 苦味 味覚受容関連因子 研究成果リスト

魚類の嗜好性制御メカニズムの解明 - 東京海洋大学 Tokyo ......IR Dye 800 蛍光標識 HCD 蛍光標識餌の 写真 蛍光標識餌の 蛍光像 蛍光標識餌

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Page 1: 魚類の嗜好性制御メカニズムの解明 - 東京海洋大学 Tokyo ......IR Dye 800 蛍光標識 HCD 蛍光標識餌の 写真 蛍光標識餌の 蛍光像 蛍光標識餌

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NA発現量

魚類の嗜好性制御メカニズムの解明 食品生産科学部門 助教 長阪玲子

配分予算額

我々はこれまでマウスにおいて生育温度の違いによりマクロ栄養素に対する嗜好性が変化することを明らかにした.この嗜好性の違いは生育温度によって代謝が変化し,味覚受容体発現量が変化したことによりもたらされたことを示唆した.魚類においても同様のことが起こると考えられるが,飼育温度により嗜好性が異なることは示唆されているものの,その嗜好性制御メカニズムについては明らかになっていない.一方,魚類の味覚システムの研究は,情報伝達や処理を行う神経回路が解明され始め,哺乳類と同様の機構が存在することが明らかになりつつある.味覚における末梢器官である味蕾は脊椎動物に保存されている器官であり,魚類の味受容機構の解明は哺乳類,脊椎動物の味覚受容のメカニズムを解明する上でも重要視されつつある.味蕾の構造は魚種によって異なり,アミノ酸が哺乳類よりも強い味刺激となっていることなどが報告されているが,前述したような受容体発現量の変化による嗜好性制御,また,代謝の変化による嗜好性制御メカニズムについては全く知見がない.そこで本研究では魚類のマクロ栄養素に対する嗜好性制御因子を解明するとともに,味覚受容体および代謝変動が嗜好性に及ぼすメカニズムを検討することを目的とした.

① 嗜好性評価系の確立

10 min.

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Alexa Fluor 680

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IR Dye 800

HFD

蛍光標識HFD

蛍光標識HFD

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写真

蛍光標識餌の

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蛍光標識餌

Alexa Fluor 680

IR Dye 800

図8. HFD/HSD 給餌試験結果 図9. HFD/HCD 給餌試験結果

HFD vs HSD 給餌試験

HFD vs HCD 給餌試験

飽食/絶食区で5日間飼育

代謝と嗜好性の関係

④ Image J softwareにより蛍光強度を数値化

③ 麻酔下でOdyssey infrared imagerにより測定

② キンギョに蛍光標識餌を数分間摂餌させる

① 飼料に近赤外蛍光色素を標識する 蛍光標識餌F680は700 nmの波長の蛍光を F800は800 nmの波長の蛍光を発する

②水温と嗜好性の関係

二瓶選択法を元にして,近赤外蛍光色素を用いた 小型魚の嗜好性評価方法を確立した

図1. 近赤外蛍光イメージング法の概要図

【近赤外蛍光イメージング法】

【Maxillary Barbellを用いた味覚受容体mRNA発現量測定】

ゼブラフィッシュにおいて,絶食により味覚受容体, 味覚受容体関連因子mRNA発現量が増加した

ゼブラフィッシュ(Danio rerio )は ヒゲに味蕾が局在している

図3. ゼブラフィッシュにおけるヒゲの味蕾

図4. 飽食/絶食区のヒゲにおける 味覚受容体 mRNA発現量

図5 飽食/絶食区の口唇における 味覚受容体 mRNA発現量

甘味/旨味 苦味 味覚受容関連因子

Maxillary Barbell(MB)とNarsal Barbell(NB),鰓,口唇,胸鰭の味覚関連因子の発現を比較した

ゼブラフィッシュのヒゲが味覚受容体の発現量測定に有用であり,継続的に味覚受容体発現量の測定が可能であることを明らかにした

平成28年度:1986千円 平成29年度:1270千円 平成30年度:1900千円

A 査読付学術論文 計3件(うち責任著者1件、国際共著1件、オープンアクセス1件) 1. Pahila J., Kaneda H., Nagasaka R., Koyama T., Ohshima T. (2017) Effects of ergothioneine-rich mushroom extracts on lipid oxidation and discoloration in salmon muscle stored at low temperatures, Food Chem, 233, 273–281. doi:10.1016/j.foodchem.2017.04.130. 2. Nagasaka R., Harigaya A., Ohshima T. (2018) Effect of proteolysis on meat quality of brand fish, red sea bream Pagrus major, Food SciTech Res, 24(3), 465-473. doi: https://doi.org/10.3136/fstr.24.465 (責任著者) 3. Nagasaka R., Swist E., Sarafin K., Gagnon C., Rondeau I., Massarelli I., Cheung W., Laffey P., Brooks S.P.J., Ratnayake W.M.N., (2018) Low 25- hydroxyvitamin D levels are more prevalent in Canadians of South Asian than European ancestry inhabiting the National Capital Region of Canada, PLoS One13(12): e0207429, doi: 0.1371/journal.pone.0207429. (国際共著 論文,オープンアクセス論文)

D 学会発表 計7件(うち責任著者6件、国際学会1件)

1. Demonty I., Qiao C., Xiao C., Swist E., Nagasaka R., Wood C., Ratnayake W., Associations between red blood cell fatty acids and cardiometabolic risk markers differ in White vs. South Asian Canadian adults living in Ottawa, AOCS Annual Meeting, 2017, 4.30-5.3, Orlando, Florida, USA

2. 末武綾子・長阪玲子・石川雄樹 「ストレス条件下における糖質嗜 好性の変動」2017年度生命科学系学会合同年次大会,2017年12月7日 神戸ポートアイランド (責任著者) 3. 林風咲子・石川雄樹・長阪玲子 「近赤外蛍光イメージング法を用 いたキンギョの摂食嗜好性評価」2017年度生命科学系学会合同年次 大会, 2017年12月7日神戸ポートアイランド(責任著者) 4. 林風咲子・小林令奈・笠原万有璃・石川雄樹・長阪玲子「ゼブラフ ィッシュ maxillary barbelにおける味覚受容体発現の解析」平成30年度 日本水産学会春季大会 2018年3月28日,東京海洋大学品川キャンパス (責任著者) 5. 末武綾子・中地はづき・長阪玲子「環境温度による食嗜好性変動メ カニズムの解明」第3回食欲・食嗜好の分子・神経基盤研究会,2018 年6月3日,岡崎カンファレンスセンター・大会議室,(責任著者) 6. 林風咲子・末武綾子・石川雄樹・長阪玲子「絶食ゼブラフィッシュ における食欲関連因子および嗜好性に関する研究」第3回食欲・食嗜 好の分子・神経基盤研究会 2018年6月3日,岡崎カンファレンスセン ター・大会議室,(責任著者) 7. 林風咲子・末武綾子・石川雄樹・長阪玲子「ゼブラフィッシュにお ける絶食による炭水化物嗜好性の亢進」第41回分子生物学会大会, 2018年11月28-30日パシフィコ横浜,(責任著者)

図2. ノナン酸の嗜好性試験の結果

試験区 コントロール区

ドジョウにおける忌避物質として知られているノナン酸をF800に添加し,F800’を作製した.前日に絶食させたキンギョ3匹×2グループを用いてコントロール区にはF800とF680の混合餌を試験区にはF800’とF680の混合餌を給餌した

試験区はコントロール区に比べ、 800 nmにおける蛍光強度が低下した

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MBは口唇と同様の発現パターンを示した

水温がマクロ栄養素嗜好性に与える影響を調べるため,高炭水化物食 (HPD), 高炭水化物食 (HCD) を 用いて飼育試験を行った.

水温がアミノ酸嗜好性へ与える影響を調べるため,アミノ酸非含有食 (ND),アミノ酸含有食 (AD) を 用いて飼育試験を行った.

【マクロ栄養素嗜好性】 低温飼育により高タンパク質の嗜好性が高くなることが明らかとなった.また,魚類のTRPM5も温度感受性があることが示唆された.低温飼育でアミノ酸感受性の高い受容体であるT1Rの発現量が高くなったことにより,高タンパク質の嗜好を高めていることが示唆された.GnRHについては魚類では哺乳類ほど食欲制御に直接関わるものではなく,水温や日照と関連する生殖のシグナルとして関与していることが示唆された.

【マクロ栄養素嗜好性への影響】 【アミノ酸嗜好性への影響】

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【アミノ酸嗜好性】 摂餌量については高温飼育が最も高く,低温になるにつれて摂餌量の減少が見られた.低温飼育でアミノ酸の嗜好性が高いことが確認された.水温に応じた栄養の選択をしていることが示唆された.

前述の結果と同様に絶食によって味覚受容体mRNA発現量が増加したが,視床下部における炭水化物嗜好性関連因子mRNA発現量は減少した.また,嗜好性の評価においては,スクロースへの嗜好性が亢進した一方,コーンスターチに対する嗜好性が低下した.魚類では主なエネルギー源はアミノ酸であり,哺乳類が甘味を感じる味覚受容体であるT1R2/T1R3のヘテロ受容体は魚類ではうま味を感じるとされているが,本実験の結果より,魚類においても甘味を感じている可能性があることが示唆された. 炭水化物は一般に魚類の成長を低下させることが知られているが,本結果から,エネルギーに変換しやすい形での炭水化物源の投与は代謝状況によっては有益であることが明らかになった.

HCの炭水化物の種類について,甘味そのものを感じるスクロース(HSD)と, 甘味を感じないコーンスターチ(HCD)の2種を用意し,飽食/絶食における嗜好性試験を行った.

水温を変えた飼育実験で脳における15502個の遺伝子について網羅的解析を行った結果,高温飼育と低温飼育の発現比率が2倍以上,もしくは1/2倍以下の変動があったものは1625個であった.アミノ酸代謝シグナル因子や,EDEMのような小胞体でのタンパク質折りたたみに関与する因子,転写因子STAT1等の発現量に変動があったことから,生育水温の違いが代謝を変化させ,味覚応答を変動させる可能性が示唆された

図6.給餌試験結果

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T1R2aT1R2b T1R3 T2R1aT2RabT2R2a T2R3 T2R4 T2R5 gnb1a plcβ2

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NA発現量

甘味/旨味 苦味 味覚受容関連因子

研究成果リスト