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『議会の進化』の概説西川雅史 青山学院大学
『議会の進化』Perfecting Parliament (2011年出版,2015年翻訳版出版)
著者:Roger D. Congleton (West Virginia University)
Congletonの視点
世界はもともと不平等である.
権力を有する者は,その権力を自発的に手放さない.
では,なぜ「普通選挙」が誕生し得るのか?
Cogletonは,人びとが合理的(自発的)に選択する集合的な意思決定メカニズムが,「代議制民主主義」となる必然性について検討したのである.
SummaryKing and Council
効率的な統治構造の模型
Parliament with King
議会(選挙)が誕生する
革命ではなく,漸進的交渉(合意)から生まれた!
おおざっぱな世界観中世ヨーロッパの「諸相」ではなく,いくつかの断面を強調している.
①封建的主従関係●国王と有力諸侯,有力諸侯とその家臣という垂直的関係性において,それぞれの配下が適当に特権を有する統治構造に注目 ●人種・民族,宗教など,中世社会に存在していた水平的異質性にはさほど頓着していない.
②生産性の飛躍的拡大(農業革命,産業革命)
③人の移動の増大(交通網・交通手段の発達による日常的なもの)
④王権下での地域間競争(自治都市間で,人口獲得,商業など経済的発展を競う)
おおざっぱな目次統治構造の理論(1)「王と評議会」という枠組み (2)参政権の誕生(評議会から議会へ) (3)参政権の拡大
理論の妥当性を西洋中世史によって検証 (4)連合王国(Britain,England),スウェーデン,オランダ,ドイツ,日本,アメリカ. (5)先進国のデータを用いた検証
本日の論点「王と評議会の枠組」 ・自発的な協力関係
「参政権の拡大」 ・自発的な権限移譲と,その副産物
公共選択論・伝統的経済学との違い
立憲的政治経済学 ・自発的交換(全員一致)
本日の論点「王と評議会の枠組」 ・自発的な協力関係
「参政権の拡大」 ・自発的な権限移譲と,その副産物
公共選択論・伝統的経済学との違い
立憲的政治経済学 ・自発的交換(全員一致)
議会制民主主義
「王と評議会」肉体的,精神的な優位性から「集団=組織=村」のリーダー・founderが,全員一致で支持される.
王は,信用できる数名の者から成る相談役を欲する.
天才的なリーダーの死後,後継者(非天才)が選出されるまで,集団の生命力は低下する.
相談役としては,後継者争いが長期化することを避けたい.(全員一致での決定に拘っていられない).
リーダーは,自らの子孫が後継者であると信じるほど,死の間際まで集団の強化を図るインセンティブを有する.
「王位」を子孫に継承させることを関係者全員が合意する.
王家の誕生
「王と評議会」(2)天才的リーダーによって村(=集団=組織)が大きくなると,その富を狙った他の村からの脅威が強まる.他の村に負けたくないリーダーは,村の生産性を高くするために相談役を採用する.ただし,相談役へ裁量権を委譲する必然性はない.
村(=集団=組織)が大きくなると,代行者(例えば,地方領主)へ一部の裁量権を委譲する.
リーダーの後継者(非天才)は,初代ほどの異才に欠けているため,相談役への依存度を高め,一部の裁量権を委譲する.
リーダーは,代行者や相談役が自らの地位を犯すことがないよう,指名権を巧みに行使するであろう.具体的には,代行者や相談役には,リーダーに対する貢献度の高さを競わせ,貢献度の低い者を差し替えてしまうことができる.
王の側近には,代行者や相談役によって構成される「評議会」が組成される.
評議会の誕生
中世という社会背景産業革命は,人とモノの移動範囲を大きくし,各国の利害(人口集積,富の集積)が衝突しやすくなった.
科学の進歩は,物的豊かさと宗教との関係性(祈祷で豊穣を願うことの有効性)を薄め,異教徒間での接触に寛容さが生じた.
他の王家(村,国)との利害対立(人口集積,富の集積)に直面し,それぞれの王家は,統治の効率化(生産性の向上)を図り,生存競争を勝ち抜こうとする.
王家の子孫(異才を持たない)たちは,より有能なサポーター(評議会)に意思決定を委ねることが必要になる.
時に発生する戦争や植民地開発の失敗などのため,王家の資産が減耗し,他の有力者からの資金援助(納税)を乞うことになる.その代償として,権限の一部を委譲することもあった.
評議会への権限委譲が進んだ
評議員の選定王家は,聖職者(王権神授),貴族(資金援助,知識の供与),騎士(戦争の道具)や富裕商人(資金援助,納税)などに対して,相応の権利を自発的に委譲した.その中には,以下も含まれていよう.(a) 評議員として選出してもらう(b) 評議員の選出権(いわば参政権)(c) 評議会そのものの権限拡大(租税評議会へのveto権の付与)
評議会の強化と評議会への参加権の拡大(権力の分立)
「王+評議会」という枠組みは,自発的な交換過程(関係者の合意)
によって生み出された効率的な統治構造である.
それゆえ, 多くの組織(国,企業など)が この枠組みを採用しているである.
普通選挙への道のり王家へ貢献しない者たちへ,権限を自発的に委譲することはない.
王家への貢献度合いからすると,評議会への参政が可能になった有力者と,一般市民との間には大きな差がある.
普通選挙へたどり着くには,もう少し異なる要因が追加されなければならない.
議会制民主主義の誕生には「革命」が不可欠か?
これまでは,「革命」などの劇的な構造転換を想像してきた.
革命に成功する効率的な組織は,「リーダー+評議会」の枠組みを有する中央集権構造なのであり,旧体制の支配者をすげ替えるだけで統治構造は変わらない.
啓蒙思想と経済的発展啓蒙思想,自由主義(民権運動)などは,参政権の拡大に寄与する.
産業革命,農業革命などによる工業の発達は,工業労働者が集積する都市を生み出した
都市が生み出す富の大きさには,規模の経済性が存在するため,より多くの人びとを引きつけることが統治者に求められるようになった(ex.オランダの成功).
労働者階級は,自らで職域的な権利を擁護する組織(ギルドなど)を形成し始め,支配階級が厭う行動(怠業,参政権の拡大)を組織的に実行できるようになる.
労働者階級を手なずける相応の対価として,支配階級は彼らへの権限委譲に合意する.
誕生したばかりの政党は,潜在的な有権者(参政権を持たない者)を取り込むために,参政権の拡大を主張し,支持を広げていった.※ギルドは弱体化したが・・・
参政権は徐々に拡大し,現在の「議会」へ至る
本日の論点(再掲)「王と評議会の枠組」 ・自発的な協力関係
「参政権の拡大」 ・自発的な権限移譲と,その副産物
公共選択論・伝統的経済学との違い
立憲的政治経済学 ・自発的交換(全員一致)
関連する領域
Public Choice(公共選択論)
Political Economy(経済学)
Constitutional Political Economy(立憲的政治経済学)
Cliometrics(歴史経済学)
『合意の計算』「自由の限界」(Buchanan 1975)という枠組み個人的自由の一部を放棄し,協働を合理的に選択する
協働のための「ルール」を集合的に決定する.
「ルール」を決めた後,ルールに従って個々に行動する.
立憲段階 立憲後段階
「立憲」とは,Constitutionの訳語であり,基本構造・憲法という多義的な意味を包摂している.
Buchanan and Tullock(1962)
立憲後の世界(所有権や参政権が所与)
完全競争市場
市場の失敗
政府による介入
政治の失敗
ルールによる抑制
経済学の基礎理論
政治家(=有能な個人)による適切な市場介入
・個々人は市場へ影響を及ぼし得ない小さな存在として,個々の利益に基づいて意思決定する.
公共選択論・個々人の政治家は,個々の利益に基づいて意思決定する.そのため,社会的な善を追求しないかも.
『合意の計算』
協働のための「ルール」を集合的に決定する.
「自由の限界」(Buchanan 1975)という枠組み
「ルール」を決めた後,ルールに従って個々に行動する.
立憲段階 立憲後段階
Buchanan and Tullock(1962)
『合意の計算』協働のための「ルール」を集合的に決定する.
「ルール」を決めた後,ルールに従って個々に行動する.
立憲段階 立憲後段階
Buchanan and Tullock(1962)
立憲的政治経済学 伝統的な経済学「公共選択論」
立憲段階(ルールがない世界)
個々人は自由に意思決定する
他者との協働(なんらかの取りきめ)に自発的に合意する.すなわち「全員一致」で決定する.
「全員一致」で決めることができるものは何か?
それは「決め方」である.詳細なことは,個々の利害が背反するので決定できない.
「決め方」=Constitutionの生成.
Congletonの問いの原点個々人は自由に意思決定する
他者との協働(なんらかの取りきめ)に自発的に合意する.すなわち「全員一致」で決定する.
「全員一致」で決めることができるものは何か?
それは「決め方」である.詳細なことは,個々の利害が背反するので決定できない.
「決め方」=Constitutionの生成.
立憲段階
「決め方」=「議会制民主主義」は必然か?Central Question
まとめ世界はもともと不平等である.
権力を有する者は,その権力を自発的に手放さない.
では,なぜ「普通選挙」が誕生し得るのか?
Cogletonは,人びとが合理的(自発的)に選択する集合的な意思決定メカニズムが, 「代議制民主主義」となる必然性について検討した.
時間はかかるが,基本構造として代議制民主主義が自発的に導かれる蓋然性は高い.
おわり