1
2013.5 Laser Focus World Japan 16 1997年に、最初の白色発光ダイオー ド(LED)が窒化ガリウム(GaN)と蛍光 体セリウム:イットリウムアルミニウム ガーネット( Ce:YAG )を使って製造さ れた (1) 。この LED は、高効率で、高輝 度であるが、製造工程に一貫性がなく、 高価な無機蛍光材料を使用する。その 代替法として、イタリアのパレルモ大学と スイスの半導体工場ノバガン(Novagan) の研究チームは、有機物質の光ルミネセ ンス、特にペリレン系色素の光周波数 ダウンコンバージョンのポンプとして機 能する1 つの光源を使用することで、白 色 LED をより簡便、より低コストで製 造する方法を開発した (2) 有機色変換 高効率の冷白色 LED 光は GaN/ イン ジウム GaN( GaN/InGaN )青色 LED か ら黄色ダウンコンバージョンを通して得 られた。従来の無機色変換プロセスを 使わず、青色 LED を使って米 BASF 社 製のルモゲンペリレン系色素を励起し た。市販品の色素(または顔料)は450 nm の吸収極大と 500nm 周辺の広い蛍 光ピークを持つ。 最初に、標準的なInGaNベース青色 LED をサファイア基板上に金属有機化 学蒸着(MOCVD)によって組み立て た。この LED のピーク発振波長は CIE 色度図中の色度座標(0.1477、0.0338) で表される 450nm に中心があった。 ルモゲン色素を、溶媒として酢酸エ チルを使って、ポリメタクリル酸メチル ( PMMA )溶液に溶解させ、さまざまな PMMA 分子量を試験した。サファイア 基板の裸の側面にスピンまたはディップ 法で色素溶液をコートし、異なる厚みの コーティングを得た。LED を定電流( 5、 10、または 20mA )で駆動して、発光ス ペクトルと色度座標を分光計と校正済 みフォトダイオードで測定した。 LED 出力パラメータ(表1)を最適化す るために、重量パーセントの異なる3 種の 溶液、2 つは 8%(PMMA1とPMMA2)と 1 つは11%( PMMA3 )を調製した。溶液 PMMA1とPMMA3は分子量350,000の 重合体を使って準備し、PMMA2 には 分子量996,000の重合体を使った。等 量の色素を各溶液に対して使用し、ス ピナー速度は 1200rpm とした。 商品レベルの性能 測定されたパラメータから、最良の 結果は PMMA1 溶液のディップコーテ ィングで得られることが分かった。こ のコーティングは均質性に乏しいが、 スピンコーティングに比べてかなり厚 かった。研究チームは自己評価データ で9.37lmの光束と118.23lm/Wの光学 効率(駆動電流20mA)ならびに(0.2687、 0.3629)の色度座標を持つ純粋で強力 な白色光を実証した。色素ベース白色 LEDの仕様は、5~6.3lmの出力と50lm /Wの効率を持つ市販の独OSRAMオ プトセミコンダクターズ社( OSRAM Opto Semiconductors)製 TOPLED 長 寿 命 LUW T6SG白色LEDよりも優っている。 パレルモ大学のマウロ・モスカ氏 ( Mauro Mosca )は、「従来の蛍光体で はなく、有機材料を使う白色 LED の製 造の利点は、グラフィックアートで汎用 されている顔料だけからなる安価で処理 が容易な色素を用いることにある。堆積 操作の簡便性を考えれば、この工程は 工業的生産に適しており、低駆動電流 で高効率の白色 LEDは低電力消費のラ イティングソリューションにふさわしい」 と語っている。 ( Gail Overton ) 青色 LED と安価な色素で 構成する白色 LED LED world news 参考文献 (1) S. Nakamura and G. Fasol, The Blue Laser Diode ( The Complete Story ) ; Springer- Verlag; Heidelberg, Germany (1997) . (2) F. Caruso et al., IEEE Electron. Lett., 48, 22, 1417‒1419 (Oct. 25, 2012) . LFWJ 800 600 White LED DIP-coated 400 700 500 1.0 波長〔nm〕 相対強度〔a.u.〕 (a) 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.8 0.6 0.4 0.7 0.5 0.2 0.3 0.1 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 x y (b) 図1 有機色素(LED 上にスピンコートまたは ディップコートされる PMMA 溶液に懸濁させ た顔料からなる)の励起に青色LEDを使用す るタイプの白色LEDを製造した。PMMA1は、 LED 出力パラメータ(表 1 )、彩度スペクトル ( a )と CIE 色度座標( b )によって証拠付けら れているように、最良の結果を生み出した。(資 料提供:パレルモ大学) 表1 三種類のPMMA溶液を使って作製さ れた LED の光束と光学効率 LED PMMA1 供給電流 5 10 20 光束 1.73 2.99 5.11 光学効率 106.23 86.74 67.73 LED PMMA2 供給電流 5 10 20 光束 0.84 1.55 2.72 光学効率 51.95 45.71 37.29 LED PMMA3 供給電流 5 10 20 光束 1.40 2.61 4.80 光学効率 86.59 76.87 64.99

青色LEDと安価な色素で 構成する白色LEDex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0016wn03.pdf16 2013.5 Laser Focus World Japan 1997年に、最初の白色発光ダイオー

  • Upload
    others

  • View
    6

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 青色LEDと安価な色素で 構成する白色LEDex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0016wn03.pdf16 2013.5 Laser Focus World Japan 1997年に、最初の白色発光ダイオー

2013.5 Laser Focus World Japan16

 1997年に、最初の白色発光ダイオード(LED)が窒化ガリウム(GaN)と蛍光体セリウム:イットリウムアルミニウムガーネット(Ce:YAG)を使って製造された(1)。このLEDは、高効率で、高輝度であるが、製造工程に一貫性がなく、高価な無機蛍光材料を使用する。その代替法として、イタリアのパレルモ大学とスイスの半導体工場ノバガン(Novagan)の研究チームは、有機物質の光ルミネセンス、特にペリレン系色素の光周波数ダウンコンバージョンのポンプとして機能する1つの光源を使用することで、白色LEDをより簡便、より低コストで製造する方法を開発した(2)。

有機色変換 高効率の冷白色LED光はGaN/インジウムGaN(GaN/InGaN)青色LEDから黄色ダウンコンバージョンを通して得られた。従来の無機色変換プロセスを使わず、青色LEDを使って米BASF社製のルモゲンペリレン系色素を励起した。市販品の色素(または顔料)は450

nmの吸収極大と500nm周辺の広い蛍光ピークを持つ。 最初に、標準的なInGaNベース青色LEDをサファイア基板上に金属有機化学蒸着(MOCVD)によって組み立てた。このLEDのピーク発振波長はCIE色度図中の色度座標(0.1477、0.0338)で表される450nmに中心があった。 ルモゲン色素を、溶媒として酢酸エチルを使って、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液に溶解させ、さまざまなPMMA分子量を試験した。サファイア基板の裸の側面にスピンまたはディップ法で色素溶液をコートし、異なる厚みのコーティングを得た。LEDを定電流(5、10、または20mA)で駆動して、発光スペクトルと色度座標を分光計と校正済みフォトダイオードで測定した。 LED出力パラメータ(表1)を最適化するために、重量パーセントの異なる3種の溶液、2つは8%(PMMA1とPMMA2)と1つは11%(PMMA3)を調製した。溶液PMMA1とPMMA3は分子量350,000の重合体を使って準備し、PMMA2には分子量996,000の重合体を使った。等量の色素を各溶液に対して使用し、スピナー速度は1200rpmとした。

商品レベルの性能 測定されたパラメータから、最良の結果はPMMA1溶液のディップコーティングで得られることが分かった。このコーティングは均質性に乏しいが、スピンコーティングに比べてかなり厚かった。研究チームは自己評価データで9.37lmの光束と118.23lm/Wの光学効率(駆動電流20mA)ならびに(0.2687、

0.3629)の色度座標を持つ純粋で強力な白色光を実証した。色素ベース白色LEDの仕様は、5~6.3lmの出力と50lm /Wの効率を持つ市販の独OSRAMオプトセミコンダクターズ社(OSRAM Opto Semiconductors)製TOPLED長 寿 命LUW T6SG白色LEDよりも優っている。 パレルモ大学のマウロ・モスカ氏(Mauro Mosca)は、「従来の蛍光体ではなく、有機材料を使う白色LEDの製造の利点は、グラフィックアートで汎用されている顔料だけからなる安価で処理が容易な色素を用いることにある。堆積操作の簡便性を考えれば、この工程は工業的生産に適しており、低駆動電流で高効率の白色LEDは低電力消費のライティングソリューションにふさわしい」と語っている。 (Gail Overton)

青色LEDと安価な色素で構成する白色LED

LED

world news

参考文献(1) S. Nakamura and G. Fasol, The Blue Laser

Diode (The Complete Story); Springer-Verlag; Heidelberg, Germany (1997).

(2) F. Caruso et al., IEEE Electron. Lett., 48, 22, 1417‒1419 (Oct. 25, 2012).

LFWJ

800600

White LEDDIP-coated

400 700500

1.0

波長〔nm〕

相対強度〔a.u.〕

(a)

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

0.80.60.4 0.70.50.2 0.30.1

0.80.70.60.50.40.30.20.10.0

x

y

(b)

図1 有機色素(LED上にスピンコートまたはディップコートされるPMMA溶液に懸濁させた顔料からなる)の励起に青色LEDを使用するタイプの白色LEDを製造した。PMMA1は、LED出力パラメータ(表1)、彩度スペクトル(a)とCIE色度座標(b)によって証拠付けられているように、最良の結果を生み出した。(資料提供:パレルモ大学)

表1 三種類のPMMA溶液を使って作製されたLEDの光束と光学効率

LED PMMA1

供給電流 5 10 20光束 1.73 2.99 5.11光学効率 106.23 86.74 67.73LED PMMA2

供給電流 5 10 20光束 0.84 1.55 2.72光学効率 51.95 45.71 37.29LED PMMA3

供給電流 5 10 20光束 1.40 2.61 4.80光学効率 86.59 76.87 64.99