21
手術前の全身チェックを十分に行っ てください:特に他科受診依頼 麻酔科医 米国麻酔学会(American society of anesthesiology: ASA)による分類 様々な病状に対して推定される麻酔の危険性のgrading system 分類 内容 48時間以内の 死亡率(%) 7日以内の死 亡率(%) 正常健康人 0.08 0.06 軽度の全身疾患;機能は正常 0.27 0.4 重度の全身疾患;明らかな機能 障害 1.8 4.3 常に生命を脅かす重度の全身疾 7.8 23.4 致死的状態、手術の有無に関わ らず24時間以内に死亡する危険 9.4 50.7 “e” 緊急手術の際には付け加える 緊急時には3倍の危険性 注意:この研究では、手術の種類を考慮していない(手術の種類によっては死亡率が非 常に高くなる)。 手術前の全身チェックを十分に行ってください。 重度の全身疾患がある場合には、麻酔の危険性および手術による死亡率は 高くなります。明らかな機能障害のある全身疾患があれば 7 日以内の死亡 率は 4.3% です これは正常人の死亡率 0.06% に対して 70 倍になります 他科受診依頼を余裕をもって行ってください。特に麻酔科依頼はできるかぎり早 目に行ってください。 障害のある全身疾患があると 70倍危険ですよ 6‐15: 麻酔と手術、中央材料室 6‐15‐1 ●手術前の全身チェック 医療安全対策 文書 No.232 < 6-15: p.1 >

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手術前の全身チェックを十分に行ってください:特に他科受診依頼

麻酔科医

米国麻酔学会(American society of anesthesiology: ASA)による分類

様々な病状に対して推定される麻酔の危険性のgrading system 分類 内容 48時間以内の

死亡率(%) 7日以内の死亡率(%)

Ⅰ 正常健康人 0.08 0.06

Ⅱ 軽度の全身疾患;機能は正常 0.27 0.4

Ⅲ 重度の全身疾患;明らかな機能障害

1.8 4.3

Ⅳ 常に生命を脅かす重度の全身疾患

7.8 23.4

Ⅴ 致死的状態、手術の有無に関わらず24時間以内に死亡する危険

9.4 50.7

“e” 緊急手術の際には付け加える 緊急時には3倍の危険性

注意:この研究では、手術の種類を考慮していない(手術の種類によっては死亡率が非常に高くなる)。

●手術前の全身チェックを十分に行ってください。

●重度の全身疾患がある場合には、麻酔の危険性および手術による死亡率は高くなります。明らかな機能障害のある全身疾患があれば、7日以内の死亡率は4.3%です。これは正常人の死亡率0.06%に対して、約70倍になります。

●他科受診依頼を余裕をもって行ってください。特に麻酔科依頼はできるかぎり早目に行ってください。

障害のある全身疾患があると70倍危険ですよ

6‐15: 麻酔と手術、中央材料室

6‐15‐1 ●手術前の全身チェック 医療安全対策

文書  No.232

< 6-15: p.1 >

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手術室への入室方法:独歩、車椅子、ストレッチャー

医療安全対策

文書  No.371

手術室

 手術室への入室方法を決めるには、次のような事項を考慮に入れる必要があります:患

者の状態(歩行可能かどうか、意識の有無など)、前投薬の有無、手術台への移動の安全

性などを考慮に入れる必要があります。

●外来患者の手術  原則として「独歩」で入室。

ただし独歩が危険な場合(高齢者、歩行障害ありなど)には車椅子。

●入院患者の手術  原則として「ストレッチャー」か「車椅子」での入室をお願いします。

ストレッチャー

車椅子

独歩

6‐15‐2 ●手術室への入室

1)手術室への入室方法

< 6-15: p.2 >

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手術室入室に関する 電話連絡方法

医療安全対策

文書  No.699

 不適切な電話連絡により、手術室入室時に患者まちがいが発生する可能性があります。

手術室 Aさんの入室をお願いします。

はい。

Aさん

Bさん Bさん

患者まちがいです。お呼びしたのはAさんです。

手術室(電話連絡看護師)

病棟(電話対応看護師、入室担当看護師)

「手術室の○○です。○○科の○○△△さんの手術室入室は、□ 時□分でお願いします。」

【注意】 入室の連絡をする

ときは、手術予定表を見て、病棟・診療科・患者氏名・入室時刻等を確認すること。

「○○病棟の○○です。○○科の○○△△さん、□時 □分 に入室ですね。わかりました。」

【注意】 復唱しながら、患者氏名・入室時刻

等についてメモをとる。

【注意】 電話対応看護師・クラークは、手術

予定表で病棟・診療科・患者氏名を確認すること。

【注意】 患者を入室させる際、入室担当看護師は、患者に氏名を名乗ってもらい、さらに、患者氏名をカルテとリストバンドで照合し確認すること。

患者まちがい

★ 手術室入室に関する電話連絡は、次のような方法で行ってください。

2)手術室入室に関する電話連絡方法

< 6-15: p.3 >

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手術室入室時の患者確認手順 (No.147を改訂)

医療安全対策

文書  No.602

手術室では、患者誤認を防ぐために、入室時に次のような患者確認を行っています。

③:リストバンドの名前と同じかどうか確認します。はい、同じお名前です。ID番号も合っています。   

麻酔科医

②:私は○○○○す。

間違いなく術前訪問した患者さんで、同じお名前です。ID番号も合っています。

(1)前室における確認手順   (入替えホール)

病棟ナース

手術室ナース

①:お名前を確認させていただきます。ご自分からお名前をおっしゃってください。ID番号は□□□□です。

3)手術室入室時の患者確認手順

< 6-15: p.4 >

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麻酔科医

③: 「患者名は○○○○です。」

(2)各手術室における確認手順:  タイムアウトの実際(予

定手術、全身麻酔)

①: 「今からタイムアウトを行います。」 ②: 「患者氏名は?」

④: カルテ患者名とリストバンドで患者を確認し、「合ってます。」 ⑤: 「病名、術式は何ですか?」

⑦: 「手術部位はどこですか?指差してください。」

間接介助看護師

執刀医

⑥: 病名は○○で、術式は△△です。

⑧: 「手術部位は□□です。指差します。ここで

す。」

手術 申し込み書

タイムアウト

麻酔 記録用紙

③: 「患者名は○○○○です。」

⑨: 「合ってます。」

⑨: 「合ってます。」

⑩: 「では、よろしくお願いします。」

< 6-15: p.5 >

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注意! 病棟、救急外来から

意識のない患者が入室する場合 の確認手順

1、病棟、救急外来から出棟するときの確認  次の3者で確認する

  ①患者の関係者(家族または同僚、友人などの関係者)

  ②担当医師

  ③病棟または救急外来の看護師

2、手術室入室時の確認  次の4者で確認する

  ①担当医師

  ②麻酔科医

  ③病棟または救急外来の看護師

  ④手術室看護師

3、各手術室における確認  次の3者で確認する

  ①担当医師

  ②手術室看護師

  ③麻酔医

不明な点があればご連絡ください。

 上井(PB 7134)

< 6-15: p.6 >

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部位取り違え手術(wrong-site surgery)の防止

左 ●腹臥位では、左右を誤認しやすいですよ。

●側臥位でも、左右を誤認しやすいですよ。

●仰臥位でも、部位取り違えは起こりますよ。

●手術申し込み書の記入時に、左右・部位を確認し、正確に記入すること。

●特に、左右どちらなのか、何番目の指なのかに注意すること。

●体位をとる、皮切の印をつけるなどは主治医が責任を持って行うこと。

●関係者は手術部位について「?」と思ったら、遠慮することなく「部位が間違っていませんか?」と発言してください。

●①フィルム、②主治医、③カルテ、④申し送り、⑤何らかのマーク、これらを100%信用しないでください。間違っているかもしれませんよ。

6‐15‐3 ●手術体位と部位の確認

医療安全対策

文書  No.107

1)部位取り違え手術の防止

< 6-15: p.7 >

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側臥位の左右に注意

 正解は「右側臥位」です。右側臥位とは右を下にした体位のことです。

●側臥位のとき、左右の誤りが生じる可能性があります。

●どちらが患側なのか、どちらが健側なのかに十分に注意してください。

●手術のとき間違えたら、部位取り違え手術(wrong-site surgery)になってしまいます。

下図の体位は

左側臥位ですか? 右側臥位ですか?

医療安全対策

文書  No.106

2)側臥位の左右に注意

< 6-15: p.8 >

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臥位も褥瘡も“Decubitus”

●右側臥位では、下になっている右側に褥瘡ができやすい。

●仰臥位(背臥位)では、下になっている背中に褥瘡ができやすい。

 Decubitusの語源はラテン語のdecumbere(=lie down 横たわる)です。ここから臥位(寝ている体位)という意味になりました。さらに横たわった

ときにできる潰瘍(褥瘡)をdecubitus ulcerといい、略してdecubitusとなりました。decubitusには、①臥位、②褥瘡の二つの意味があるのです。

●腹臥位とは腹部を下にして寝ている体位です。腹臥位の英語は、prone position, ventral decubitus positionです。

●仰臥位は背臥位(背中を下にして寝ている体位)ともいいます。英語で

はsupine position, dorsal decubitus positionです。

●側臥位は英語で、lateral position, lateral recumbent position, lateral decubitus positionといいます。右側臥位はright lateral

decubitus positionです。つまり右側臥位とは右を下にして寝ている体位のことです。要するに下になっている部位で名称が決まります。                   参考:Doland’s Illustrated Medical Dictionary 27版

                   (注意:日本語の翻訳本には誤訳があります)

右側に褥瘡ができやすい。

背中に褥瘡ができやすい。

左右取り違えに注意

医療安全対策

文書  No.115

3)臥位も褥瘡も“Decubitus”

< 6-15: p.9 >

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術中体位により起こりやすい神経障害 医療安全対策

文書  No.663

術中末梢神経障害の原因 (体位とその他の要因)

① 体位に関連した神経の圧迫・伸展による虚血 ② 肘部管症候群(特に男性にみられる肥厚した肘部結節)

③ 長時間の肘関節屈曲 ④ 併発症:  糖尿病、ビタミン欠乏症、アルコール中毒、悪性腫瘍

⑤ 先天性奇形(頸肋など)

⑥ 手術の種類(胸骨縦切開による心臓手術、リトラクター) ⑦ 長時間の截石位(切石位): 通常4時間を超える場合

⑧ 長時間の駆血: 通常2時間を超える場合 ⑨ 圧迫性神経麻痺を惹起しやすい遺伝性神経症

腓骨神経障害 尺骨神経障害

上腕神経叢障害

顔面神経障害 眼窩神経障害

橈骨神経障害

B.切石位

A.仰臥位

C.腹臥位

D.側臥位

閉鎖神経障害 大腿神経障害

尺骨神経障害

上腕神経叢障害 顔面神経障害

眼窩神経障害

橈骨神経障害 腓骨神経障害

坐骨神経障害

尺骨神経障害

眼窩神経障害 上腕神経障害 腓骨神経障害

上腕神経叢障害 腓骨神経障害

【注2】 頭部の過度の側屈などによる過伸展で腕神経叢の障害が生じる。

● 手術体位と使用器具については、器具の取扱説明書の禁忌・禁止の項を確認するなど、再度安全確認を行ってください。

● 手術前のインフォームド・コンセントで、「手術後の合併症として手足の麻痺やしびれもある」と、必要に応じて患者・家族に説明してください。

基本的な術中体位と起こりやすい神経障害

【注1】 麻酔例における尺骨神経障害の発生頻度は、0.5% (非心臓手術)。

【注3】 上肢の過外転や屈曲、離被架などによる圧迫で橈骨神経麻痺や尺骨神経麻痺が生じる。

【注5】 麻酔関連訴訟の上位4 ①尺骨神経損傷(28%) ②上腕神経叢損傷(20%) ③腰仙部神経根損傷(16%) ④脊髄損傷(13%)

次頁に続く

【注4】 截石位(切石位)に関する統計 ● 下肢の神経障害の発生頻度は 1.5%。(991例の截石位中15例) ● 15例の内訳   閉鎖神経:     5例   外側大腿皮神経: 4例   坐骨神経:     3例   腓骨神経:     3例

麻酔覚醒時に「手足が動かない、しびれる」⇒

末梢神経障害?

約1%に発生

< 6-15: p.10 >

4)術中体位により起こりやすい神経障害

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末梢神経障害

末梢神経障害の発生要因 仰臥

切石

腹臥

側臥

頭部眼窩神経障害

①特に腹臥位の場合に眼周囲の圧迫 ②仰臥位でも術者の手や手術器具による圧迫

○ ○ ○

顔面神経障害

①マスク喚気時のヘッドバンドによる圧迫 ○ ○ ○

上肢上腕神経叢の

障害

①上腕の90度以上の外転 ②頭部の反対側への過度の屈曲 ③トレンデレンブルグ体位時の肩に当てる支持器による圧迫 ④側臥位での上腕骨頭への圧迫 ⑤腹臥位での過度の頭低位 ⑥胸骨縦切開術時のリトラクター

○ ○ ○ ○

橈骨神経障害

①手術台からはみ出した上腕の側方部が離被架で圧迫 ②肘上部がターニケットで長時間駆血

○ ○

尺骨神経障害

①手術台や手台などで圧迫 ②過度の上肢の外転や前腕の屈曲や回内 ③長時間の駆血帯の使用や頻回の血圧測定 ④胸骨縦切開術時のリトラクター 【注】症状が術後48時間以降に発生することもある

○ ○ ○

下肢腓骨神経障害

①下腿の支持器による直接圧迫 ②膝の過屈曲 ③ターニケット・弾性ストッキング・下腿の間歇的圧迫装置 ④長時間の側臥位

○ ○ ○ ○

閉鎖神経障害

①股関節部の過度の屈曲 ②鉗子分娩が困難な場合

大腿神経障害

①股関節部の過度の外転・外旋あるいは屈曲 ②開腹手術時のリトラクターによる直接圧迫 ③外腸骨動脈圧迫による虚血

坐骨神経障害

①股関節部の過度の外旋あるいは屈曲 ○

術中体位により発生する可能性がある末梢神経障害とその発生要因

参考文献(a): 辻本三郎、術中体位と神経障害、麻酔科診療プラクティス 14.麻酔偶発症・合併症 p.192-198, 2004

参考文献(b): 濱田宏、限局した運動麻痺・感覚麻痺がある、麻酔科診療プラクティス 17.麻酔科トラブルシューティング p.312, 2005

< 6-15: p.11 >

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上腕神経叢の障害を防ぐための基本中の基本

医療安全対策

文書  No.664

体軸と90度以下の外転と前腕の内旋

前腕の外旋

体軸と90度以下の外転

顔の向きが上げている腕と逆向き

顔が上げている腕と同じ向き

 手術中の体位による上腕神経叢の障害を防ぐための基本中の基本を次に示します。手術中、関係者はお互いに注意しあってください。

上腕骨頭で圧迫

参考文献  一柳邦男:絵でみる手術室看護(JJNスペシャル37); 37-46, 1994

      高崎眞弓:イラスト麻酔学; 64-65、文光堂、2003

5)上腕神経叢の障害を防ぐための基本中の基本

< 6-15: p.12 >

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砕石位(さいせきい)は誤り、切石位(せっせきい)が正しい

医療安全対策

文書  No.673

閉鎖神経障害 大腿神経障害

尺骨神経障害

上腕神経叢障害 顔面神経障害

眼窩神経障害

橈骨神経障害 腓骨神経障害

坐骨神経障害

● lithotomy positionを砕石位という人がいますが、これは誤りです。切石位(せっせきい)が正しいのです。日本麻酔学会の麻酔学用語集にも「切石位」しか載っていません。

● lithotomyは、ギリシャ語のlithos(石)とtome(截る=切る)からなっており、「截る」は切るという意味であり、砕くという意味はありません。

● また「截」の訓読みは「きる」または「たつ」であり、音読みは「セツ」です。「サイ」と発音することはありません。

参考文献

一柳邦男:絵でみる手術室看護(JJNスペシャル37); 50-55, 1994

「せっせきい」で起こりやすい神経障害

さいせきい

せっせきい

< 6-15: p.13 >

6)砕石位は誤り、切石位が正しい

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手術中の器具・ガーゼの置き忘れの危険因子

●手術後の異物置忘れ群54人とコントロール群235人を比較した。

●異物置き忘れの種類: ガーゼ:64%、 器具:31%

●異物置きわすれのあった患者のうち37例(69%)は再手術が必要だった。

●緊急手術、予期せぬ手技の変更、ガーゼ・器具のカウントなし、患者の体格指数が高い場合には、異物置き忘れが有意に高い。

●Gawande AA, et al. Patient safety: Risk factors for retained instruments and sponges after surgery N Eng J Med 2003; 348:229-235

異物置き忘れ群 コントロール群 p

緊急手術 33% 7% P<0.001

予期せぬ手技の変更 34% 9% P<0.001

ガーゼ・器具のカウント(+) 66.7% 79.4% P=0.01

体格指数(体重/身長2) 体格指数が高い P=0.04

手術中の異物置き忘れの危険因子 ●緊急手術

●予期せぬ手技の変更

●ガーゼ・器具のカウントなし

●肥満患者

 2003年のN Eng J Medに、Gawandeらによる「手術後の異物置き忘れ群とコントロール群を比較した研究」が発表されました。

当院では、下記因子が原因と考えられた事例もあります。

●医師・看護師間のコミュニケーション不足

●大量出血

医療安全対策

文書  No.238

6‐15‐4 ●麻酔中、手術中の管理

1)手術中の器具・ガーゼの置き忘れ

< 6-15: p.14 >

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縫合針の折損を防ぐための3つの注意点

縫合針の折損事故が報告されています。折損を防ぐには次の3点が重要です。

●縫合針は円周に沿って作られています。組織貫通に際しては、「まっすぐ

に刺したり引っ張ったりする」のではなく「回転させる」こと。

●縫合針の頭の部分またはその近くを把持しないこと。

●一旦曲がった針は折れやすくなっています。針付き縫合糸でもすぐに交換

すること。

参考:縫合針を持針器で把持するとき、どこを把持すると強度が高くなるように作られてい

るのかを、医療機器メーカーに問い合わせました。術者は、この基本設計を頭に入れた上で、

個々の状況に柔軟に対応してください。

●下図のように強弯針は円周の4/8=1/2に合わせてあり、針の1/4の位置を把持すると強度が

高くなるように設計されているそうです。

●弱弯針は円周の3/8に合わせてあり、針の1/3の位置を把持すると強度が高いとの返答でし

た。

●針の種類には、この他、弱々弯、強々弯、中弯などがあります。

強弯針 弱弯針

針頭

バネ穴(弾機孔)

ナミ穴(普通孔)

医療安全対策

文書  No.132 2)縫合針の折損を防ぐための3つの注意点

< 6-15: p.15 >

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麻酔中の誤注射防止対策

麻酔中に起こしやすい誤注射の例と対策 1)単純な薬の取り違え 例:硬膜外カテーテルに他の薬剤を注入する

 本来、キシロカインを入れるべきところを入れるべきところをエフェドリン(昇圧剤)、マスキュラックス(筋弛緩剤)を注入してしまう。この原因の多くは、キシロカイン、エフェドリン、マスキュラックスを10mlのシリンジに用意しておくため、ケアレスミスとして起こる。

 また、この間違いは本来投与すべきではない薬剤を異なる経路から投与するため不適切な量の投与にも繋がる。

2)薬の吸い間違い 例:薬を準備する時に、自分が準備しようと思っていたのと異なる薬を吸ってしまう。患者に投与してから作用が異なるためにおかしいと思いはじめて気付く。

3)投与経路の間違い 例:キシロカインを硬膜外カテーテルに注入しなければと思いながら、キシロカインを静脈ルートから投与してしまう。この場合も投与経路が異なるため、不適切な量の投与にも繋がる

●対策

①手術室において薬剤をシリンジに吸う場合は、必ずシリンジに薬剤名を油性マジックで記入する。硬膜外に投与する薬剤は青色シリンジに吸

い、「硬膜外」と記入する。シリンジを同じ場所に置かない。

②薬剤の注入時には、確認すべき5つの“R”に従う。

    正しい患者に、正しい薬剤を、正しい量、正しいルートから、

    正しい時間に投与する。

  ★誤注入は致命的になることがありますよ!

③投与に際しては、声を出して確認する。

麻酔科医

医療安全対策

文書  No.162 3)麻酔中の誤注射防止対策

< 6-15: p.16 >

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麻酔科管理の手術中、0.06%に心停止が発生

医療安全対策

文書  No.324

入田和男、他:「麻酔関連偶発症例調査2002」および「麻酔関連偶発症例調査1999-2002」について総論、麻酔:53; 320-335, 2004

● 日本麻酔科学会の安全委員会による全国調査「麻酔関連偶発症例調査2002」および「麻酔関連偶発症例調査1999-2002」によると、手術室で麻酔

科が管理した症例の0.06%に心停止が発生した(総数1,277,045例中739例に心停止=5.79/1万例)

● 心停止の原因は、①術前合併症:47%、②手術そのもの:24%、③術中発症の病態:21%、④麻酔管理:7%

麻酔科管理による手術中の心停止の原因

①術前

合併症

 47%

②手術

 24%

③術中発症の病態

 21%

④麻酔管理 7%

①術前合併症に起因する原因

●出血性ショック: 45.4%

●循環器疾患: 36.4%

(心筋梗塞、冠虚血、心不全、先天性心疾患)

●多臓器不全、敗血症: 6.5%

●中枢神経系:      4.2%

●呼吸器系:       3.7%   

④麻酔管理に起因する原因

●薬剤投与: 44%

●換気:   13%

●気道:   11%

●輸液・輸血: 9%

●看視: 9%

③術中発症の病態に起因する原因

●心筋梗塞、冠攣縮、冠虚血: 37.3%

●重症不整脈:        30.7%

●肺塞栓:          13.2%

●アナフィラキシーショック: 2.1%

●気管支喘息:         1.3%

●中枢神経系障害: 0.8%

●悪性高熱: 0.2%

4)麻酔科管理の手術中、0.06%に心停止が発生

< 6-15: p.17 >

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「ひかり物刺し事故」を防ぐための方法

医療安全対策

文書No.338

メス、縫合針などの「ひかり物」による刺し事故が起こりやすい状況とその予防対策

発生状況 予防対策

①持針器の手渡し時に刺してしまう

●術者は、介助者に手渡さずに器械板(メイヨー板)の上に置く(ニュートラルゾーンの

設定) ●介助者は、ニュートラルゾーンに置かれた持針器を取り上げて次の操作を行う

②縫合後の糸結びのために手を出したときに刺してし

まう

●縫合時に介助者は手前の糸のみを把持し、持針器が糸から離れるまで手を出さない

③物品を取ろうとして、放置された局所麻酔の注射器

の針やメスで刺す

●「ひかり物」は、使用後に必ず離れた場所に置く。その後、次の操作を始める

④後片付けの際に清潔覆布=四角布を丸め込んだとき、

覆布にくるまれた針やメスで刺す

●処置の終了後、「ひかり物」を全て取り除いて廃棄する。その後、覆布をかたづける

★千代孝夫、針刺し事故、研修医ノート医の基本、p.609,2001、診断と治療社

5)ひかり物刺し事故を防ぐための方法

< 6-15: p.18 >

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静脈血栓塞栓症 予防マニュアル (平成16年4月20日から使用開始)

医療安全対策

文書  No.258

● 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが発行されました(添付)。これにしたがい、当センターでも院内で統一した対策を実行することになりました。 ● 肺血栓塞栓症予防管理料について  2004年4月1日より、上記の名目で入院中1回に限り305点が請求可能となります。 ただし条件として   ①関係学会より示された標準的な管理方法に準じること   ②一般病棟に入院中の患者であること   ③弾性ストッキングまたは間歇的空気圧迫装置を用いて計画的な医学管理を行なった場合 となっています。このため当センターでは以下の方法で静脈血栓塞栓症の予防を行ないます。

● 当センターの静脈血栓塞栓症予防マニュアル

①肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症予防ガイドラインに原則として従う(資料添付)  (Medical Front International Limited)

②一般病棟入院中の患者には以下の弾性ストッキング、間歇的空気圧迫装置を使用する ・弾性ストッキング:テルモ社 コンプリネットプロ(ハイソックスタイプ)サイズは3種類 ・間歇的空気圧迫装置:テルモ社 DVT予防ポンプVeno Sstream これらは現在、各部署に配置されるべく進行中です。

③現在使用しているフロートロンは医療用具としての許可がとれていません。肺血栓塞栓症予防管理料の加算を請求する場合は、テルモ社 DVT予防ポンプVeno Sstreamを使用してください。

④特定入院料算定患者(ICU・CCU・A3病棟に3次救急で入院した患者)には肺血栓塞栓症予防管理料は請求できません。これらの患者にも肺塞栓予防は必要ですのでICU・CCU・手術室・A3病棟のHCUなどでは今まで使用していたフロートロンを使用してください。

⑤ DVT予防ポンプVeno SstreamはMEセンター管理とする予定で進行中です。圧迫するスリーブはデイスポとリユース(洗濯可能)があります。最初は両方を用意します。

⑥ハイソックスはサイジングをして適切なサイズを選択してください。腓骨神経麻痺の報告がありますので意識のあるうちにハイソックスをはいて問題のないことを確認してください。ソックスをはかせる補助具もついています。

⑦患者に配布するわかりやすい肺塞栓症のパンフレットがありますので、弾性ストッキング・間歇的空気圧迫装置を使用する患者・家族には渡してください。

⑧ソックスは原則として動けるようになるまではかせておいて下さい。詳細は主治医より指示を受けて

ください。                                              

次に注意

6‐15‐5 ●静脈血栓塞栓症の予防

1)静脈血栓塞栓症予防マニュアル

< 6-15: p.19 >

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看護師による予防法の実施  医師の指示にしたがって予防法を実施する

●間歇的空気圧迫装置の選択  一般病棟では「テルモ社 DVT予防ポンプVeno Sstream」を使用する  特定入院料算定患者(ICU・CCU・A3病棟に3次救急で入院した患者)に対しては、「フロートロン」を使用する

●手術前の弾性ストッキングの装着  弾性ストッキングを手術中に使用する場合、手術の3時間前からはかせておく。

●弾性ストッキングの副作用  次のような弾性ストッキングによる副作用を発見したらすぐに対処する。  ①痛み、②かゆみ、③発赤・水泡

●弾性ストッキングまたは間歇的空気圧迫装置を使用したときの請求方法  ①弾性ストッキング:診療材料請求ラベルを入院処置伝票に貼る。  ②間歇的空気圧迫装置:入院処置伝票にチェックの記載をする。

医師:指示の出し方 ●リスクレベルの決定  予防ガイドライン内の次の表を参考にしてそれぞれの患者のリスクレベルを決定する      (低リスク、中リスク、高リスク、最高リスク)  ①一般外科における静脈血栓塞栓症の予防  ②泌尿器科手術における静脈血栓塞栓症の予防  ③婦人科手術における静脈血栓塞栓症の予防  ④産科領域における静脈血栓塞栓症  ⑤整形外科手術における静脈血栓塞栓症の予防  ⑥脳神経外科手術における静脈血栓塞栓症の予防  ⑦重度外傷、脊髄損傷、熱傷における静脈血栓塞栓症の予防  ⑧内科領域における静脈血栓塞栓症の予防

●各病棟入院中の患者に対する指示の出し方  それぞれのリスクに応じて、各病棟の指示表に指示を記載する。  例:「弾性ストッキング」、「間歇的空気圧迫装置」など

●手術患者に対する指示の出し方  それぞれの患者のリスクに応じて、手術指示表に指示を記載する   例:「弾性ストッキング」、「間歇的空気圧迫装置」などと記載する。

●弾性ストッキングの副作用に対して  弾性ストッキングによる副作用( ①痛み、②かゆみ、③発赤・水泡)が出現したら、必要に応じて皮膚科依頼を行う。

< 6-15: p.20 >

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静脈血栓塞栓症のストッキング・マッサージ器の禁忌・注意

医療安全対策

文書  No.556

 静脈血栓塞栓症の予防処置をしたために合併症が生じ、紛争になった事例があるそうです(糖尿病+ストッキング⇒動脈閉塞⇒下肢壊死⇒紛争)。添付文書の禁

忌・注意等を熟知し、インフォームド・コンセントをしっかり行い記録に残してください(特に予防処置を行うリスク・行わないリスクについて)。

参考:医療安全対策文書No.258「静脈血栓塞栓症予防マニュアル」

空気圧式マッサージ器 ベノストリームの取扱説明書(テルモKK, 2004年2月)

禁忌・禁止: 本装置は以下の患者には使用しないでください。

1) スリーブで圧迫する下肢部分に、皮膚炎、壊疽を有する患者および静脈結紮(手術直後)または最近植皮を行った患者

2) 重症の動脈硬化または虚血性疾患を有する患者

3) 広範囲な下肢の浮腫またはうっ血性心不全による肺浮腫が見られる患者

4) 極度の下肢変形が見られる患者

5) 深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症もしくはそれらの疑いがある患者

間欠型空気圧式マッサージ器 プレキシパルスの取扱説明書(輸入販売業者:日本シグマックス、 2004年3月8日)

禁忌・禁止: 以下の症状のある(または疑いのある)患者には使用しないこと

1) 深部静脈血栓症(DVT)

2) 肺塞栓症(PE)

3) 虚血性心臓疾患

4) 鬱血性心臓疾患

5) 血栓性静脈炎

6) 四肢が無感覚

7) 感染症

8) その他医師が本品を使用することが適切でないと判断した患者

弾性ストッキングの説明書(テルモKK, 2004年3月、弾性ストッキングを正しくご使用いただくために)

患者さんの状態(血行障害、高齢、炎症)によっては、弾性ストッキングを使うことで合併症などをおこす危険があります。

1) 急性期の深部静脈血栓症: 血栓が剥がれ、肺塞栓症を起こす危険があります。

2) うっ血性心不全: 心臓の負担が大きくなり、うっ血性心不全を悪化させることがあります。

3) 動脈血行障害: 血行障害が増悪する危険があります。

4) 皮膚の急性炎症: 炎症が悪化することがあります。

5) 糖尿病: 動脈硬化になりやすく、神経障害が起こりやすくなります。痛みを感じにくく、合併症の発見が遅くなりがちです。

2)静脈血栓塞栓症のストッキング・マッサージ器の禁忌・注意

< 6-15: p.21 >