47
ノート 農業集落の変容と共同作業 一一農業集落調査のデータを用いて一一 1. はじめに 2. 農業集落の変容 111 立地条件と耕地 121 世帯構成 131 生産組織と生産基盤の整備 141 集格運営の特徴 石原豊美 3 農道管理と農業用用排水路管理 (j)農道の管理 (21 農業用用排水路の管理 (31 農業集落の変容と共同作業 4. むすびにかえて 1. はじめに 107 日本の農村社会学は,インテンシヴな実態調査に裏づけられた事例研究を主 要な方法としてきた。そうした方法によって農村社会に接近しようとする際に, しばしば集落が基礎的な単位として注目され,調査や議論の対象となってきた。 農村社会学において調査の具体的な範域とされてきた集落は,鈴木栄太郎が, 日本の「農村界における社会化の単位」のひとつで、ある村のなかでも特に自然、 村と称してその社会的統一性ないしは自律性の高さに注目した,第二社会地区 に相応する地域圏であった(1)。 また, 1950 年代に農地改革と日本の農村社会についての調査を実施した ドーアは,集落が「農民の忠誠心のもっとも大きな焦点であり,その重要な社 会経済的交渉の土台であり,生活全般を通じ, もっとも濃密な社会的圧力を受 ける源泉である Jとさえ述べている (2)(3) 農村社会の研究において,単なる事例研究の蓄積がなされてきたわけでは無

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ノート

農業集落の変容と共同作業

一一農業集落調査のデータを用いて一一

1. はじめに

2. 農業集落の変容

111立地条件と耕地

121世帯構成

131生産組織と生産基盤の整備

141集格運営の特徴

石 原豊 美

3目 農道管理と農業用用排水路管理

(j)農道の管理

(21農業用用排水路の管理

(31農業集落の変容と共同作業

4. むすびにかえて

1. はじめに

107

日本の農村社会学は,インテンシヴな実態調査に裏づけられた事例研究を主

要な方法としてきた。そうした方法によって農村社会に接近しようとする際に,

しばしば集落が基礎的な単位として注目され,調査や議論の対象となってきた。

農村社会学において調査の具体的な範域とされてきた集落は,鈴木栄太郎が,

日本の「農村界における社会化の単位」のひとつで、ある村のなかでも特に自然、

村と称してその社会的統一性ないしは自律性の高さに注目した,第二社会地区

に相応する地域圏であった(1)。

また, 1950年代に農地改革と日本の農村社会についての調査を実施した

ドーアは,集落が「農民の忠誠心のもっとも大きな焦点であり,その重要な社

会経済的交渉の土台であり,生活全般を通じ, もっとも濃密な社会的圧力を受

ける源泉であるJとさえ述べている (2)(3)。

農村社会の研究において,単なる事例研究の蓄積がなされてきたわけでは無

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108 農業総合研究第46巻第3号

論なし、。時の社会のなかで農村がおかれた位置と密接に関わって,例えば

1950年代の農村社会学では,共同体論が議論の焦点とならざるをえなかった(4)。

また, やはり 1950年代に提起された議論のなかに, 個別の村の事例的な検討

を超えて,日本の村落の性格を類型論的に把握しようとするものがあった。よ

く知られている,福武直による同族結合の村および講組結合の村の二類型(5)

は,有賀の家連合論のなかにあったアイディアを明示的に類型として発展させ

たものである。 ほぼ同じ時期に, 他にも同族型と年齢階梯型(6),家格型と無家

格型(7)など,いくつかの類型が提起されている (8)。

類型論の再検討を直接の目的とするにせよしないにせよ, 日本の農村社会の

全体的な像を, しかもその変容過程も含めて捉えようとするならば,事例研究

の丹念な蓄積と少なくとも同時に,統計資料の利用が積極的になされてよいだ

ろう。

しかし,農業集落への統計的な接近の試みは,これまで日本農村の社会学的

研究においてなされてきた事例的な研究の蓄積と比べるとそれほど多くの例を

みるものではない。また,そもそもデータとしても,ある程度体系的に準備さ

れているものとしては農林業センサスにおける農業集落調査が代表的なものと

してあげられるにすぎない(9)。

農業集落調査を実施するにあたっては,農業集落を統計的に捉えるために,

例えば以下のような定義が与えられている。すなわち,農業集落とは,概略,

「……もともと自然発生的な地域社会であって, 家と家が地縁的, 血縁的に結

び付き,各種の集団や社会関係を形成してきた社会生活の基礎的な単位であ

るJ0990年世界農林業センサス農業集落調査),というほどのものである。

この「自然発生的な地域社会」あるいは「社会生活の基礎的な単位」に対し

て与えられる呼称は,地域により多様である。また今日までに混住化や過融化

の進展によって上の定義にかなうものとしての農業集落の原型をとどめなく

なってしまっている地域社会も多いと考えられる O 実際に,統計上の定義も,

調査の度に書きかえられてきたものである。

例えば, 最初の農業集落調査 0955年臨時農業基本調査)では農家聞の,

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 109

特に農業生産面での密接な共同関係が成立している点が重視されていた。が,

1970年の調査までには共同関係を強調する視点によって農業集落を把握する

ことが困難になっており,これを属地的に捉えようとする視点が加えられた(10)。

1960年以降農家点在地は調査対象から除外されており, また, 1980年の調

査では市街化区域内の農業集落は主要な分析対象から除外された。さらに,北

海道と沖縄,特に沖縄については,歴史的にも地理的にも特殊な地域であるた

めに,調査項目も他地域と異なるばあいが多L、。

が, こうしたいくつかの制約を伴いながら, ともかくも,大規模な非農家集

団が入り込んでくることによって地域社会としての構成世帯聞の紐帯が変質し

てしまった都市近郊の例を別とすれば, しばしば集落として或いは部落と称さ

れて持続してきた地域社会の範域を,統計的に「農業集落」として捉えようと

してきた農業集落調査が,一定以上の利用価値をもっデータの蓄積をしている

ことには違いない(11)。

本稿では,この農業集落調査によって統計的に描き出された限りでの農業集

落の変容過程をたどることによって,日本の農村社会が全体としてどのような

変化を経験してきたのかについて考えてみたい。これまで繰り返し掲げられて

きた問い一一農業集落は,その激しい変容過程のなかで,固有の共同性を発揮

する機能をもはや喪失してしまったのだろうかーーを共有しつつ,集落の変容

過程がどのようなものであったかをまず追い,それがいわゆる集落の機能低下

を帰結したのかどうかについて検討しようとするものである。

時期的には,利用可能なデータとの関係で, 1955年から 1990年までの 35

年間のうち何年間かを捉えることにする(12)。この時期は,高度経済成長を背

景にして農村から農家の非嫡系成員が多く都市へ排出され非農業労働力化した

ばかりか,嫡系成員も出稼ぎ,他出,兼業化などのかたちで農業以外の領域に

包み込まれることになり,農村社会が大きな変容を経験した時期を含んでいる。

本稿ではまた地域的な多様性にも同時に目を向けていきたい。農業集落が遂

げた変容過程について,農業集落がその内部においても外部においてもますま

す多く非農業的要素と接触をもつようになってきたと要約できるのではないか。

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110 農業総合研究第 46巻第 3号

しかしその変容の進行の仕方は,地域により多様であっていわば地域間でもま

た地域の内部でも肢行性を帯びているのではないか。例えば農業集落の世帯構

成が変化したことが,集落の機能的な変化を帰結していることもあれば,そう

した帰結をみていない農業集落もあるのではないか。こう考えるからである。

が,本稿では,さしあたり農業地域別に農業集落の特徴を捉えていくことで,

地域性の問題に触れるにとどめることにする。

以下,第 2節ではまず 4つの側面-→1)立地条件と耕地 (2)世帯構成 (3)生

産組織と生産基織の整備,および(4)集落運営の特徴ーーから農業集落の変容過

程に検討を加えてみたい。そしてその上で,第 3節において,農業集落の自立

的な活動としての農道管理および農業用用排水路管理がどのように維持されて

いるのか,いないのかについてみてみたい。第 3節ではまた,第2節でみるい

くつかの指標を含めた農業集落の変容を示すことがらと,農道や農業用用排水

路の維持とのあいだに相関関係が見いだされるのか否かについても検討する。

注(1) 鈴木(30]。鈴木の用語では第二社会地区は「行政上の地方自治体ゃいわゆる集落では

なくしてJr部落」であるとも邑い換えられる O が,本稿では同じ地域圏をさすために

「集落」の語を採用していく。

(2) Dore. R. P (3].216頁。

(3) 農村社会学が事例研究を基礎とするものであることが,同時に,展開される議論が,

依拠するフィールドの性格によって規定されがちとなるという制約条件にもなってきた

ことにもふれておく必要があろう。

一例をあげると, 村の崩壊がいわれるようになっていた 1970年代に, 戦後以来の議

論のなかでともすれば打破すべきものとされてきがちであった「伝統的な価値観」が根

づくことによって,かえって生き生きとした生活が営まれ続けている村が紹介された。

それに対して,特異な事例からの立論には無理があるのではないか,同時代の日本にあ

る多くの村は活気を喪失した状態にあるのではないか,という批判が寄せられた。山本

陽三(34]。なお,戦後の農村社会学の万法論的展開に関して,蓮見(6]が「村落の構造分析」の

意義等に論及しており,参考になる O

(4) 農村社会学において展開された共同体論については,例えば似団員香門(24]などを参

照。

(5) 福武[8]。

(6) 江守[2]。

(71 磯田(12]。

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 111

181 いま,福武の二類型のみについて繰り返しておくならば,この類型は「段階的な発展

に照応するものでなく,同時併存的な単なる条件のちがいを示す形態的なものにすぎ」

ないとされた。河村・蓮見(15)(16)。またそれ以上に,氏自身が, 白らの類型論につ

いて「単純な一般的被括論を脱して,農村の現実に適合する類型把握」が求められてい

るとし, r(1)本家親方的な同族支配の村や, (21自作地主支配の村のほかに131寄生地主に

よる差配支配の村や, 141商品化の進んだ村における組合統制の村なども加え,さらには

(51都市近郊における解体型の村も考慮しながら,より豊富な実証的研究によって基礎づ

け,広い視野から再構成すること」の必要性を提起した。同(9),53頁。および同(10),

39頁。

なお,福武は上記の両文献のなかで,そのために事例研究以外にも質問紙を用いた大

量観察などの調査方法を積極的に採択してはどうかと述べている。

(91 1955年に実施された臨時農業基本調査および世界農林業センサスにおける農業集落

調査をあわせると, 1990年までに 5回(中間センサスを含めると 7回)の調査の蓄積

がある。 この調査の経緯と概要について, 1975年までのものは農業集落研究会 (25)

にまとめられている。また,先行研究の例をいくつかあげておくと,農業集落の散布状

況を規定する主成分を析出した西国春彦(23)一一引lえば 1980年の農業集落カードから

抽出した 4.167集落について, r農業従事性」と「離農性」という 2つの主成分(累積

寄与率 73%) が析出されているーーや, 1980年までの農業集落調査の府県別データを

用いて地域類型の再検討を行い, r東北地方諸県と近畿・中国の諸県と」が「地域分化

の主要な内容をなしている」ことを示した蓮見(5)が参考になる。 1990年の調査結果iこ

ついては,速報値にもとづく概括が浮田集(33)でなされている。

なお,戦後行われた農村調査について,福武直編C11lなどに総括されている。

(J曲 1970年の農業集落調査を実施するにあたって与えられた定義は,以下のようなもの

であった。すなわち, (農業集落とは)r一定の土地(地理的な領域)と家(社会的な領

域)とを成立要件とした農村の地域社会(ルーラル・コミュニティ)である」。

なお, この年の調査によって, 総数 14万を超える日本の農業集落のうちの約 8割が

「明確な領域をもっ」ことが結果的にも示された。

日11 農業集落調査の,統計調査としての位置づけをめぐっては,臨時農業基本調査時のそ

れへの, r本来共同慣行等を統計的に集落別に把握すること自体に無理があ」り「共同

体の重視の見解に影響されたJr余計な調査」であるとする加用氏の批判(加用(7),

14頁)を含めて,室谷(20)にまとめられている。

(j~ 過去の農業集落調査についてレビューしてみると,必ずしも同ーの調査項目・同ーの

集計方法によってデータの蓄積がなされているわけではないことに気づく。追って明ら

かになることではあるが,本稿では, しごく基礎的なデータ(例えば,農業集落を構成

する世帯数やそのうちに農家の占める割合など)については長期にわたる変容過程をみ,

また後発的なトピックや,一度の調査しか行われていないものについては随時可能な限

りで利用していくことにする。

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112 農業総合研究第 46巻第 3号

2.農業集落の変容

(1) 立地条件と耕地

1970年に全国平均で 7割弱の農業集落が DID市町村まで 1時間の圏内に

あった。この割合は, 1980年には 8割を超え,さらに 1990年には 9割を超え

た。特に北関東, 南関東と東海および北陸の 4地域では, 1990年に農業集落

の7割以上で DID市町村までの所要時間 30分未満となっている。これら 4地

域のなかでも,南関東地域の, 1980 -90年間の変化はとりわけ顕著であり,

DID市町村までの所要時間 30分未満の農業集落が 47.1%から 82.7%にまで

増加している。

一方で, 山陰地域のように, 1990年においても DID市町村までの所要時間

30分未満の農業集落が半数に満たない農業地域もある。山陰地域のほかに,

山陽, 南九州についても同様である。また, 山陰以南の農業地域では DID市

町村までの所要時間 1時間以上の農業集落がなお 1割以上ある。

全般に, 1970年の時点で西日本の諸地域では東日本の諸地域と比べて DID

市町村までに多くの時聞を要する農業集落が多かった。また,東日本の農業集

落で 1970-80年, 1980 -90年の聞にコンスタントに DID市町村までの所

要時聞が短縮してきた(1)のに対して,西日本ではいくつかの農業地域で停滞

的な時期があった。(1980-90年間の山陰地域, 1970 -80年間の四国地域,

および 1980-90年間の南九州地域。)結果として, 1990年にほヨリ明確に東

西の農業集落の相違があらわれてきている(以上,表 1)(2)。

農業集落が立地の上で「都市」に近接し, i都市」との連続線上あるいはそ

の内部に位置するようになっていることは,土地利用の面からも捉えられる。

表 2に示されている通り, 1960 -70年のあいだに,全国の農業集落の

37.9%で耕地の転用がなされた。 この割合は, 次の 10年間(1970-80年)

には 67%に,さらに 1980-90年間には 75.2%にまで増加した(3)。面積でと

らえると 1ha未満の例が最も多いが,もともと 1集落当りの耕地面積はそれ

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DID市町村までの所要時間別農業集落割合表 1(単位:%)

1990年1980年1970年

《¥

l

T》

同脚叫蹄帖柳誠

S凶阿誠九打淋亙守叫柿

1時間以上

27目 2

32.2

27.0

26.2

17.6

21. 6

25.6

28.2

18.7

29.0

35.0

35目 5

26.9

32.6

30.5

FhdnudFhdpopon白

890vFhu弓

t

ρ口

n百円

UFhu弓

I

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

白U

寸'aupond--t-a

ヮ,

FO

氏U

F

b

n

u

η

t

Aせ

11

ヮ“

1

1

1

1

1

1

30分~1時間

29.8

37.5

29.4

31. 7

24.7

21. 4

15.9

34.5

19. 2

29.0

41. 6

40.7

29.6

30.5

39.3

29.2

30分未満

61. 7

54.6

62.1

61. 7

71.7 76.8

82. 7

58.6

74.4

64.3

42.8

48. 5

53. 2

55.5

49. 3

58. 1

1時間以上

18. 1

19. 1

18. 1

15.5

10.6

11. 0

23.3

15.6

13.4

20. 1

16. 5

24.5

25. 1

22.5

14.8

17.9

30分~1時間

37.4

37. 1

37.4

41. 5

34.5

30.5

29.5

38.1

31. 1

37.7

42.0

43.5

37.9

41. 3

38.6

37.4

30分未満

44. 5

43.8

44.5

43.1

55.0

58.6

47. 1

46.3

55.6

42.2

41. 4 32.0

37. 1

36. 1

46. 5

44. 7

1時間以上

30分~1時間

39. 0

42.4

38.8

43.8

42.8

33.6

38.3

38. 9

37.0

39. 2

37.6

37.7

37.9

40.5

35.8

30分未満

33.8

25.4

34.2

30.0

39.6

44.8

36. 1

32.9

44.3

31. 8

27.4

26.8

35.2

26.9

33. 7

全国

北海道

都府県

東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近畿

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

沖縄

NH匂

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

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114 農業総合研究第46巻第3号

表 2 耕地の転用があった農業集落数および割合(単位:集落, ~め

1970年 1980年 1990年

全国 54,063 ( 37.9) 95,358 (67.0) 105, 303 (75. 2 )

北海道 2, 526 ( 33. 7) 3, 842 (53. 5 ) 2, 510 (36. 0)

東北 5, 922 ( 33. 7) 11. 366 (64. 9 ) 11, 233 (64. 5 )

北陸 4, 794 ( 42.8) 8,221 (74.0) 8,480 (77. 1)

北関東 5, 554 ( 40. 6 ) 5, 423 (58. 7) 6, 832 (74. 4 )

南関東 3, 413 ( 56. 3) 6, 404 (61. 0 ) 8,455 (81. 5)

東山 2, 039 ( 32. 2) 4, 831 (76. 7) 5, 162 (83. 2 )

東海 7,179 (56.9) 8,525 (67.8) 10,560 (85. 0 )

近畿 5,861 (48.5) 9,188 (77.1) 9, 709 (82. 4 )

山陰 1,452 (26.0) 4, 195 ( 75. 5) 4, 310 (79. 3 )

山陽 4, 542 ( 31. 6 ) 10,491 (73.0) 11,825 (83. 5 )

四国 2, 950 ( 26. 7) 7,366 (67.2) 8, 998 (83. 6 )

北九州 5, 243 ( 33. 0 ) 9,416 (59.7) 11,750 (77. 0)

南九州 2, 588 ( 29. 6) 5, 668 (65. 5 ) 5,226 (61. 8 )

沖縄 422 (59.4) 253 (35目 7)

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注.過去 10年間における耕地の転用についての数値である.表 3も同じ.

ほど大きくない (1980年の全国平均で 38ha)ことからも,転用による耕地の

誠少は軽視できない。

農業地域別にみると,耕地の転用があった農業集落割合の高いのは,東海,

近畿及び南関東である。他に,北陸,北関東,山陽,四国および東海などでも

比較的多くの耕地の転用が行われている。

上述のように,耕地転用は, 1960年から 70年までの 10年間と, 1970年か

ら80年までの 10年間とのあいだで顕著な増加傾向を示した。つづく 1970年

から 80年までの 10年間と, 1980年から 90年までの 10年間とのあいだには

増加傾向が緩やかになり,北海道と沖縄では耕地転用に歯止めがかかっている。

が,後者の期間にあっても,南関東と東海および北九州では,変化率2%(年

率)を超える増加がつづいていることに注目しておきたL、。

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 115

いうまでもないことだが, こうした耕地転用は,主として道路建設のため,

また住宅敷地とするために行われてきたものである。 1970-80年間には,全

国平均でみて耕地の転用目的の半分は道路建設であった(4)。次の 10年間には

転用目的の第 l位が道路建設から住宅敷地としての利用に交替し,また期間中

に住宅敷地への耕地転用の割合は,すべての農業地域で増加した。この割合は

特に関東,東海,沖縄で多く,過半数を占める(表 3)(5)。

(2) 世帯構成

「…… 1970年センサスが把握した農業集落と, 1980年センサスが把握した

農業集落との決定的な違いは, 1980年は都市部(ニ「農業集落」以外の領域,

石原)が確実に衰弱の様相を示し,それに対して農業集落は確実に膨張の様相

を示しているという点である。 1970年には,この関係は全く逆であった(6)J。

1980年農業集落調査の分析のなかで,このように述べて農業集落が居住地

としての重要性を増してきていることを指摘したのは,松田昌二であった。松

田が論拠としたのは,1)農業集落のなかに日本の総世帯数の 56%が居住して

いる, 2)農業集落内に居住する非農家の総数は, 都市部(= I農業集落」以

外)に居住する世帯の総数に匹敵する (97.4%)の 2点であった。 1990年調査

は,松田に倣って数値のみを置き換えるならば,1)農業集落のなかに日本の総

世帯の 59%が居住しており, 2)農業集落内に居住する非農家の総数は, 都市

部に居住する世帯の総数を凌駕した 020.3%) ことを示している。農業集落

の, (非農家世帯の)居住地としての性格がさらに顕著になったといってよい(7)。

最初の農業集落調査(臨時農業基本調査による)が行われた 1955年から

1990年までの 35年間に,日本の農業集落の平均戸数規模は 52戸から 172戸

に増加し,また一方では平均農家率は 75%から 16%に減少した。平均値で捉

える限りで, 1990年までに日本の農業集落は戸数規模の大きな,農家よりも

非農家を多く擁するものとなった。 0960年には,同じく全国平均でみて,農

業集落の 4割は農家率90%以上であった。同年の平均戸数から推して, 数十

戸の農家と数戸の非農家とから構成される農業集落がイメージされてよかろ

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i

『』町農業集落における耕地の主な転用先表 3

(単位:%)

油精参砂恵湖

1990年1980年1970年

判明品目鵡鴻

ω岨

その他

19.9

21. 0

18.9

25.5

16.3

23.9

16.0

31. 1

23. 9

17.4

17.0

14.0

17. 1

17.4

25. 1

44. 1

24.3

20.4

18.3

13.6

32.4

14.9

16.6

41. 9

38.0

28.8

28.4

24.6

26.1

植林

10.8

5.0

7.8

13.3

2.5

2.3

8. 0

9.9

12.9

12.0

7.9

15. 1

16.3

26.6

O. 0

公共用地

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住宅敷地

38. 7

24.9

29. 7

32. 7

51. 8

65.4

38.5

53. 1

45目 2

19.2

28.2

33.5

34.0

31. 9

68.4

道路

17.8

17.4

27.7

19.9

18.2

9. 7

13.5

13.1

15.9

21. 3

21. 6

19.4

15.8

13.0

3.2

その他

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公共用地

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1

1

住宅敷地

25.0

24.1

18.7

24.0

27.9

38.4

24.0

33.5

35.3

15.2

23.6

20.3

19.5

19.8

27.0

道路

49.3

36. 7

50.2

57.9

40.7

36. 5

62.3

46.5

55.3

59. 1

60.6

52. 1

40.9

44.4

40. 7

その他

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1

工場敷地

1

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1

1

1

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1

住宅敷地

16.8

12.6

12.9

15.3

21. 1

38.0

13.8

27. 7

26.2

7.1

13.5

11. 0

12. 7

8. 9

道路

全国

北海道

東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近畿

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

沖縄

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注.複数回答であり.また総農業集落数に占める表記の目的の転地転用のあった集落の害IJ合を示しているので,合計は100にならない.また転用先の項目については時系列比較の便を考慮して若干整理した.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 117

う(8))。戸数規模の増加は. 1970年一 80年の聞に特に顕著であり(全国平均

で年率 7.5%),農家率の減少は同じ 10年間に比較的大きかった(年率一 4.9%)。

世帯構成の変化については,農業地域別に次のように 4つに大別することに

よって,全体像を得ることができょう。

すなわち. (1)変化が先行的に,顕著に進行した地域:南関東,近畿など(9)

(2)中間的な地域:山陽,北九州 (3)世帯構成が不変的な地域:山陰,南九州な

ど(10) (4)特異な特徴をもっ地域:北海道,沖縄がそれである(図1)。

(1)類のなかでも特に,南関東では,全国的な動向に先駆けて,顕著に戸数の

増加と農家率の低下とが進行した。 1955-60年間に,この地域では年率

19.4%のベースで戸数規模が増加し,その後も一貫して全国平均より高い年率

で増加がつづいているo 農家率については,同様の傾向を示しつつ減少してい

る。同地域においては. 1990年に農業集落の 3分の l以上が農家率 10%未満

であり. 2割以上が 500戸以上の世帯群を抱えている。

(2)類に含まれる 2つの農業地域は,世帯構成上の変化に特に顕著な特徴のみ

られない,いわば中間的な地域である。

(3)類は,世帯構成の変化に関して停滞的と形容してよい地域である。この傾

向が最もあきらかな山陰では. 1955年から 90年までの 35年聞をならしてみ

ると, 戸数規模は年率1.1%のペースで増加し, 農家率は年率1.6%のペース

で減少したにすぎない。

また, (3)類に属する農業地域ではしばしば過疎化が顕著に進行しており,な

かでも南九州では農業集落の 65.1%が 1990年には過疎地域の指定を受けてい

る。

(4)類に該当する 2つの農業地域一一北海道と沖縄一ーは,元来独特の世帯構

成をもっ上に限られた時期に激しい変化を経ており,他の諸地域とは区別して

おく必要がある。このうち北海道についてのみ述べよう。

もともと農家率が高く,戸数規模が小さい農業集落の多い北海道では, 1960

-90年の 30年間に戸数で 11.3%. 農家率で-2.9%の変動一一これは(1)類の

南関東と並ぶほどの大きな変化であるーーがあった。にもかかわらず,全体と

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% 90

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o 1955年十 1960年ム 1970年口 1980年。1990年

l北海道

2東北

3北陸

4北関東

5南関東

日東山

7 東海

8近畿9山陰

10山陽

11 四国12北九州

13南九州

14沖縄ー¥

平 80

農 70家

60

20

ハりー

50

40

30

t 。500戸400

平均戸数

平均戸数と平均農家率の推移

300 200

図 1

100

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 119

しては, 1990年においても農家率 80%以上の農業集落が 44%,戸数30戸未

満の農業集落が67%を占める(表は省略)。都市近郊の農業集落においてのみ,

激しい変貌がもたらされたとみるべきだろう(11)。

(3) 生産組織と生産基盤の整備

1960年,日本の農業集落の殆どすべてに農事実行組合が存在していたし,

1990年に至るまで,全体としてはほぼ同様であるo が, 30年のあいだに西日

本のいくつかの農業地域で,農業集落は実行組合を喪失した。四国,南九州、1,

山陽がそれである。このうち四国と南九州では 1970-80年間に,山陽では

1980 -90年間に,実行組合をもっ農業集落の割合が激減している。

農業団体については, 1960年に 8割以上の農業集落で農業団体への参加農

家があったが,この割合が 1970-80年聞に 1割強の減少を示した(12)。農業

地域別にみると,東山は 1960-80年の間,参加農家のある農業集落9割台を

維持した地域である。一方,北陸と近畿はもともと農業団体への参加農家のあ

る農業集落の少ない地域である。なお,北海道では,他の地域では減少がみら

れなかった 1960-70年間に農業団体への参加農家のある農業集落割合が7割

から 5割に減少した。

ととろで, 1970年の調査によって, 3割弱の農業集落で生産組織への参加

農家があることが確かめられ, 1990年にこの割合は 4割を超えた。農業地域

別にみると,北海道では 1970-80年聞にこの割合が急増し, 18%から

52.5%になった。北九州では 1980-90年間に 25.8%から 66.9%に, 南九州

でも同年間に 10.2%-45.1%に,増加している。東北,東山,東海は中堅的

位置を保持しており,また近畿,山陽,四国は生産組織がつくられにくい地域

のようである。 1970年に全国で最も生産組織への参加農家のある農業集落割

合が高かった山陰では, その後 1980年までの聞に位置が低下し, また沖縄は

激しい変動を示している(以上,表4を参照)(13)。

ところで,自然村的な側面から特徴づけられがちな農業集落であるが,特に

1970年代以降, I集落機能」などと称されてその保有する共同性や合意形成の

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Nq

実行組合の有無,農業団体・農業生産組織への参加状況表 4(単位:%)

冊脚糠勢市岬豊川刊

1990年

実行組合

のある

集 落

農業生産組織に参加農家のある集落

1980年

実行組合

の あ る

集落

農業生産組織に参加農家のある集落

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農に家集

1970年

実行組合

の あ る

集落

農業生産組織に参加農家のある集落

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団加あ

業参の

農に家集

1960年

実行組合

の あ る

集落

体農る落

団加あ

業参の

農に家集

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61. 6

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24.2

42. 2

23.6

35.6

21. 8

34.5

34.3

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10.2

59.0

66.5

49. 7

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45.6

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74.1

91. 1

66.1

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75.9

53.6

77.9

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71. 6

76.8

87.3

92.4

87.1

86. 1

94.8

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97.6

91. 8

92.0

87.2

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59.4

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66.2

28.6

18.0

29. 2

35.0

28.4

30.2

16.2

30.8

35.7

21. 3

42.8

22.5

20.1

36.5

26.0

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49.9

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回 8

94.5

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88目 4

69. 2

95. 1

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86.7

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79.4

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全国

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東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近畿

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

沖縄

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 121

場としての意義が注目され,行政サイドから諸種の事業の実質的な遂行単位と

して利用されてきた向きも少なくなL、。基盤整備事業の実施にあたっても,こ

の傾向が見受けられる(14)。

大ざっぱにいえば,基盤整備事業は(1)東日本の諸地域で先行的に実施され,

(2)西日本の諸地域ではあまり進んでいない(表 5)。

(1)について,まず農業構造改善事業を北海道の農業集落では多く実施してお

り, 1990年には過半数にのぼっている。東山,東北,北九州がこれに次ぐ (5)。

田の区画整理については 1970年までに北陸の農業集落の過半数が実施してい

る。東北がこれに次弘北関東,南関東,東海が比較的高水準にある。用排水

改良についても,北陸が先進地であるo ただし,早い時期 (1960年)に山陽

をはじめとする西日本のいくつかの地域で暗渠排水事業が行われており,また

区画整理についても 1960年に南九州で半数の農業集落がこれを実施していた

点にも同時に目を向ける必要がある。

(2)について,西日本の農業地域でも特に山陽と四国とは, 1970年以降の事

業としての区画整理や用排水改良があまり実施されていなL、。付け加えておく

ならば,このこととも関連して,生産基盤の整備が完了していることを前提と

してその上に進められてきた集落排水事業一一1970年代にはじまり 80年代よ

り本格化したーーについても,西日本の諸地域では導入がやや遅くなっている

ようである。

また,減反という政策課題の実質的な遂行単位としても,農業集落が念頭に

おかれることがしばしばであるO

簡単にふれておこう。表6に示されているように,全国的には集団転作に取

り組んだ農業集落は 2害IJに満たない 0990年)。しかも,その半数は市町村か

らの働きかけによるものである。また,集団転作に取り組んでいても作業につ

いては個別に行っている例が殆どである。こうしたなかで,北海道 市町村

からの働きかけを契機とし,同定団地方式によるものが多い一一,北陸一一市

町村からの働きかけよりも集落が自主的に取り組む例が多く,田畑輪換・ブ

ロックローテーションにより,共同作業が多くなされている および東北

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~‘ ゎ。れコ基盤整備を実施した農業集落の割合表 5

(単位;第)

1990年

備一一帥

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基一の一

回一画理一

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4

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8

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6

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8

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7

3

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1

0

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5

6

5

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7

7

6

6

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3

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1980年1)

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1970年

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農業

構造

改善

事業

27.3

54.1

25.9

34.3

26.9

29.2

15.1

36.2

24.9

20.0

34.2

13.4

24.1

32.5

24.5

改良

49.703.6)')

30.0 (88. 6)

50.8(73.0

64.8 (鈎 0)

77.1 (88. 8)

60.8 (83. 0)

40.9 (74. 5)

41.0(58.4)

ω7 (72. 4)

46.3(70 7)

62.5 (83. 2)

31.8(67.2)

45. 1 (26. 2)

42.5 (77.8)

33.8 (64.1)

用排水

Qun40UFbaqoO勾tηLoon4ヮ,勾

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2

区画整備

全国

北海道

都府県

東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近鍛

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

沖縄

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注. D 1980年は,市街化区域内の農業集落を除いた集計結果である.2) カッコ内は,用排水分離を実施した農業集落の割合であり,うち数である.

一quQdntA吟

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17.7

27.7

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21. 4

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7

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7

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良一

改一備

地一整

土一画

一区

6. 5

O. 6

6. 9

7. 2

11. 7

15.4

9. 4

3.2

18. 7

1.6

2.1

0.2

0.6

1. 1

9.9

20.5

6.3

21. 3

36. B

50.1

28.0

27.0

8.5

29.1

9.9

15.4

4.6

4.1

7.7

29.7

業造善業一

6

9

4

9

8

2

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1

4

7

9

7

6

0

9

農構改事一

m

u

m

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5

8

5

7

日ロ

1960年

6

3

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2

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5

9

1

8

9

2

U

土基盤を施一“日付印刷出品切

mMMW

交換

11. 6

11. 3

11. 8

14.4

9.2

14.0

3.8

4.1

3.5

10.8

18.9

17.2

15.3

分合

区画

整理

31. 1

45.6

46.0

39.8

37.5

22.0

33.7

15.1

25.6

16.0

13.9

25.4

50.1

暗渠

40.9

19.0

36.4

38.7

22.6

42.5

26.3

43.8

39.7

57.5

26.5

42.8

46.4

排水

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 123

表 6 集団転作への取り組み(1990年) (単位:%)

集 転 取り組みの契機 土地利用の方法 共同作農施業作lζ

んIL団取だ農り組g作業~J 市町村か農協から集落の白 固定田畑輪換のよ実る 業

受Eコ落の らの働きの働きか主的取りその他 ZEZZ 転作作物 水稲

かけ け 組み 団地ション

全国 18.7 50.0 20.6 28. 2 1.2 51. 8 48.2 17.5 3.3

北海道 37.6 61. 9 22.9 14.4 0.8 86.8 13.2 9.3 6.1

都府県 17.7 48.6 20.4 29.8 1.2 47.9 52.1 18.4 3.0

東北 29.7 39.9 26.9 31. 9 1.3 83.7 16.3 13.6 2.8

青森 41. 2 79.6 8.6 11. 6 0.2 89.3 10.7 13.9 9.2

岩手 20.6 37.8 38.9 21. 8 1.5 94.1 5.9 10.5 1.5

宮城 30.4 54.2 26.2 18. 4 1.2 75.6 24.4 20.4 2.7

秋田 34.0 17.1 26.6 54.5 1.8 79.2 20.8 13.5 2.0

山形 43.7 16.5 37.3 45.4 0.8 78.2 21. 8 15.2 1.0

福島 20.6 51. 4 18.3 28.0 2.3 89.6 10.4 7.6 1. 7

北陸 33.4 33.1 26.5 39.7 O. 7 28.9 71. 1 31. 7 3.2

新潟 26.8 38.9 22.3 38. 0 0.8 61. 5 38.5 32.3 3.8

富山 45.4 16.5 35. 9 47.0 0.6 5.4 94.6 17.5 2.6

石川 23.4 30.0 2J.l 47.1 1.8 26.5 73. 5 31. 8 3.1

福井 47.3 45.8 24.4 29.6 0.2 6.9 93.1 48.3 3.0

北関東 18.6 64.1 13.0 20.7 2.2 60.4 39.6 10.5 2.4

南関東 8.4 76.5 9.0 11. 3 3.2 63.8 36.2 19.6 3.7

東山 11. 5 57.5 22.1 20.0 0.4 41. 5 58.5 12.1 0.3

東海 18.1 59.3 21. 5 18. 6 0.6 28. 8 71. 2 17.6 3.2

近畿 20.8 40.5 9.9 48.0 1.6 12.4 87.6 35.3 4.3

滋賀 52.2 48.0 6.0 45.5 0.5 1.7 98. 3 37.5 0.8

京都 26.1 40.2 13.5 45.4 0.9 19.1 80.9 36.2 4.5

大阪 2.8 60.5 23.7 15.8 15.8 84.2 26.3 2.7

兵庫 26.4 34.7 8.3 54.1 2. 9 15.1 84.9 35.1 7.1

奈良 4.3 20.0 55.4 21. 5 3.1 46.2 53.8 13.8 1.6

和歌山 0.6 80.0 0.0 20.0 90.0 0.0 0.0

山 陰 16.1 53.6 16.9 28.4 1.1 42.6 57.4 14. 1 1. 7

山陽 9.9 37.4 23.2 37.7 1.7 47.7 52.3 30.1 6.0

四国 6.7 61.4 26.1 10.8 1.7 67.6 32.4 4.1 0.7

北九州 16.2 49.3 20.3 29.6 0.8 35.4 64.6 5.5 3.4

南九州 12.6 87.3 4.8 7.2 0.7 53.3 46.7 6.3 0.4

資料 1990年世界農林業センサス農業集落調査による.

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124 農業総合研究第46巻第3号

市町村からの働きかけと並んで集落の自主的な取り組みが多く,固定団地

方式が多い では 3割を超える農業集落で集団転作への取り組みがみられる。

また,滋賀県では過半数の農業集落で集団転作に取り組んでいる。

(4) 集落運営の特徴

こうした集落を基盤とする活動一一生産面に限ったことではない につい

ては,集落の寄り合いの場での議論のうえに立って実行がなされる。

集落活動がどの程度に行われているかを,表 7にしたがって寄り合い回数に

着目してみてみると(16),農業集落の寄り合いは,年聞に 1-3回程度開催し

表 7 寄り合いの開催回数別農業集落割合(単位:%)

1980年1) 1990年

1回 -5回 - 10回~ 計2) l回- 5回~叩回~ 計2)

全国 40.9 29.7 29.4 100. 0 034,348) 46.7 26.3 27.0 100.0 (135, 699)

北海道 61. 8 23. 7 14.5 100. 0 ( 6, 947) 58.8 25.1 16. 2 100.0 ( 6, 198)

都府県 39.8 30. 1 30目 l 100.0 027,401) 46. 2 26.4 27.5 100.0 (129,501)

東北 39.2 32.2 28.6 100. 0 ( 17, 180) 47目 2 28.8 24.0 100.0 ( 16,998)

北陸 32.2 33.5 34.3 100. 0 ( 10, 798) 40.0 33. 1 26.9 100. 0 ( 10, 806)

北関東 47.8 30.0 22.2 100. 0 ( 8, 777) 53目 7 29.8 16.5 100. 0 ( 8, 862)

南関東 38. 5 29. 2 32. 2 100.0 ( 8,333) 47.0 24. 0 29.0 1∞.0 ( 9,968)

東山 35. 1 37.4 27.5 100. 0 ( 6, 155) 37.0 27.9 35. 1 100.0 ( 6, 124)

東 海 31. 0 29.6 39.4 100.0 ( 11,138) 43.2 24.6 32.2 100.0 ( 12,234)

近 畿 33.6 27.2 36.6 100.0 ( 10,519) 38.6 26. 7 34. 7 100.0 ( 11, 181)

山陰 27.5 26.3 46. 1 100. 0 ( 5, 497) 27目 9 22.0 50.1 100. 0 ( 5, 367)

山 陽 53.4 24.2 22.4 100. 0 ( 13, 499) 57. 5 19.1 23.3 100. 0 ( 13, 633)

四国 46.2 26.6 27.1 100.0 ( 10,521) 50.0 22. 1 27.9 100.0 ( 10,500) 北九州 38.2 33.8 28.0 100.0 ( 15,341) 47.8 28.2 24. 1 100.0 ( 14,802) 南九州 49.6 29目 7 20.6 100. 0 ( 8,435) 51. 6 28.3 20.2 100. 0 ( 8, 337) 沖縄 13.8 34.6 51. 6 100.0 ( 710) 23.6 41.1 35.2 100.0 ( 689)

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注. 1) 1980年は,農市ー業主桑ヒ落区主域Lのて農ゐ業寄集り落'を除いた調査結果である.2) カ yコ内は 合いを実施した農業集落の総数である.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 125

ている例が多く, 1980年から 90年の 10年聞に寄り合い回数はやや減少して

いる o 1980 -90年を通じて年 10回以上の寄り合いを開催している農業集落

が多いのは, 山陰地域で-ある。沖縄では 1980年には寄り合い開催の頻繁な農

業集落が過半数を占めて多かったが 90年には減少している。他に, 寄り合い

開催回数に減少傾向が認められるのは東海地域であるo 両年とも 1-3固と少

ない農業集落の多いのは,北海道と,山陽であるC!7l。

寄り合いの内容についてはどうだろうか。

全国的にみると, 1980年には生活環境施設の整備と農道・農業用用排水路

の維持・管理が多く議題となり, 1990年には農道・農業用用排水路の維持・

管理が多く議題となっている。 1980-90年間に補助事業の導入と水田農業確

立対策への対応をめぐって寄り合いを開催する農業集落の割合が減少したが,

農道・農業用用排水路の維持・管理をめぐっては若干の増加がみられる点に注

目したい。この傾向は,南九州で最も顕著であるほか,四国や東山などにおい

ても共通して指摘できる。

寄り合い開催回数の多かった山陰では,補助事業の導入,水田利用再編対策

への対応(以上2つの議題については 1980年の調査による。以下, カッコ内

の注記形式同様)。および、水田農業確立対策への対応 (1990年)を議題として

寄り合いを開催した農業集落の割合が,他の農業地域と比較しでも特に高い。

(ただし,同地域でこれらを実施している割合はせいぜい全国平均程度であ

る。)1980年に寄り合い回数が特に多かった沖縄は,補助事業の導入C1980

年),農道・農業用用排水路の維持・管理 (1980,90年)を議題として大半の

農業集落が寄り合いを開催しているo また 1980年に生活環境施設の整備をめ

ぐって寄り合いを開催した農業集落の割合も,他の農業地域と比較して最も多

かった(以上については,表8を参照)。

集落の運営方法に関しては, 1980年の調査結果にもとづいて以下のように

要約できょう。すなわち,農業集落の代表者はしばしば選挙によって農業を主

とする人が選ばれ, 1年以内あるいは 2年程度を任期として交替がなされる。

近畿では選挙による代表者の選出をする農業集落が 8割を超えて多く,北関東

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主な寄り合いの議題別農業集落割合表 8』h

川町

(単位 %)

同醐叫耐掛酔ゆ事尚

1990年

補助事業

の計画・

実施

農排維理

・用の管

道用路・

農業水持

71<.回農業確立対策の対応・推進

1980年1)

補助事業

の計画・

実施

生活環境

施設の整

恒例行事

の計画・

推進

集落有の

財産の管

理・処分

用策・

利対応

回編対進

水再の推

農排維理

・用の管

道用路・

農業水持

川相品目株瀦ω咽

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44. 7

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87.2

95.3

82. 1

93.4

92.3

92.9

95.6

27.5

6.1

28.7

33.2

29.4

16.3

12. 7

40. 7

27.3

43. 9

35. 7

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18.4

38.2

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19.6

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40. 1

41. 9

39.4

43.5

45. 1

43.0

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73.2

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全国

北海道

都府県

東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近畿

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

沖縄

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注 1) 1980年は,市街化区域の農業集落を除いた集計結果である2 ) 比較の便を考慮して,項目については若干の整理を行った. 1980年には掲表した以外の農協・共済組合等の業務への協力,

生活環境悪化への対応など. 5項目の議題について調査されている. また1980年には,他に集落有の施設の利用など 3項目の議題について調査されている.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 127

では「特定の人」を選出する農業集落が5割近くあるなど,地域的な特徴も示

されている O 運営費については山陽と四国以外の地域で殆どの農業集落が徴収

している。その算定基準は全体としては均等割が多いが,沖縄,近畿,北陸な

ど,均等割を採択している農業集落が過半数に満たない農業地域もある。都府

県の農業集落では, しばしば共有財産を保有している。南関東と山陰では共有

財産のある農業集落の割合がやや低くなっている(8)。

最後に,農業集落の(固有の)領域の問題に関して述べておこう。 1970年

の調査によって, 総数 14万を超える日本の農業集落のうち 8割近くが「明確

な領域をもっ」ことが結果的にも示された。そのなかでも近畿,南関東,およ

び北陸では領域の明確な農業集落が多くなっている(表 9)。また, 関連して

農業集落の範囲が大字や行政区,および実行組合の範囲と一致しているか否か

についてもこれまで何度か調査されている。大字と一致する例は少なく,行政

表 9 明確な領域のある農業集落の割合 (1970年)(単位:%)

耕地の境界 山林・原野の 全体として

が明確 境界が明確注) 領域が明確

都府県計 82. 6 72.5 79.4

東北 77.0 71.1 71.9

北陸 85.6 81. 4 83. 5

北関東 83.5 78.3 80.4

南関東 89. 3 85.3 88.3

東山 70.1 55.1 55.4

東海 82.5 77.3 85.9

近畿 90. 7 86. 7 ω.4

山陰 89.5 79目 3 87.1

山陽 86.6 58.9 83. 1

四国 88.3 78.7 84.9

北九州 84. 1 74.4 81. 6

南九州 60.9 46.8 51. 4

資料 1970年世界農林業センサス農業集落調査による.

注. 山林・原野のある農業集落総数に占める害IJ合である.

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128 農業総合研究第46巻第3号

区や実行組合の範囲と一致する例は多い。そのなかでも,北陸と近畿の農業集

落は行政区および実行組合の範囲と一致している割合が高く,また大字との範

囲の一致も他の農業地域と比べて高いことが注目される(表 10)(19)。

表 10 大字,行政区および実行組合の範囲と一致している農業集落の割合

(単位 %)

大字と一致 行政区と一致 実行組合と一致

1970年 1960年 1970年 1980年 1955年 19閃年 1970年 1980年

全国 78目8 70.4 69. 7 65.4

北海道 74.9 61. 9 66.2 62.9

都府県 27.4 75.6 79. 0 70.9 70.6 71. 1 69.9 65.5

東北 17.0 71. 3 73. 2 68. 7 64.0 65.2 62.5 62. 7

北陸 70. 7 88. 7 92.5 84.3 86.8 85. 7 86.3 85.5

北関東 25.5 61. 8 71. 8 60.4 75.0 65.1 63.4 55.4

南関東 40.2 76.0 80.2 62.4 74.8 6ゆ.7 69.4 75. 1

東山 13. 5 70. 1 78.9 70.7 76.8 70.9 68.2 64.8

東海 39目。 77目1 77.3 68.0 74.9 78.5 75.9 76.0

近畿 64. 7 89.0 91. 3 77.2 81. 8 倒.4 83.0 78.8

山陰 17.0 87.3 85. 1 79.8 59.0 84.1 82.8 78.2

山陽 7.4 68.6 71. 1 61. 9 57.6 57.9 52.9 56.3

四国 14.4 78.6 80.9 74. 3 臼.7 69.0 71.4 74.3

北九州 16.2 74.2 76.3 74. 7 64. 7 61. 3 63.3 63.7

南九州 4.2 77.9 81. 6 73.6 85.0 80.7 78.3 51. 1

資料:臨時虐業某本調査および各年次世界農林業センサス農業集落調査による.注. 大字,行政区,実行組合のない農業集落について特に考慮に入れず,総農業集落数

に占める割合を示した.

出1) 1980 -90年間の南関東は例外である。

(2) DID市町村までの所要時聞が短縮傾向にあることは,移動手段一一自動車ーーの所

有がすすんでいた上に,道路が整備されたことによる。このことが,例えば自動車を利

用できない高齢専業農家の集落内や社会的な位置を不利なものとしがちである点にも留

意しておきたい。

なお,農業集落のある市町村じたいの人口規模については,全国平均でみる限り,

1980年と 90年のあいだに殆ど変化がない。日本の農業集落の 3割以上は,人口 1万人

-3万人の市町村にあり,人口規模5千人-1万人と 1万人-3万人をあわせると過半

数の農業集落がこれに含まれる。

農業地域別では,南関東, 東海, 山陽で 10万人以上の人口規模の市町村にある農業

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 129

集落が多L、。南関東,東海,のほか,北陸,北関東,近畿においては人口規模5千人未

満の小さな地域は少なく,人口規模の大きい市町村にある農業集落が,各々層をなして

立地している。また一方で,北海道と山陰では,人口 l万人未満の市町村にある農業集

落が多い。また沖縄も,農業集落を擁する市町村には人口規模の大きいものが少なく中

小規模の人口の市町村が多い,特徴ある地域である。

(3) 耕地転用に関する調査項目は, 1970年と 1980および90の両年とで若干異なってい

る。すなわち, 1970年の調査では過去 10年間における耕地の「集団的転用」について

問うており,つづく 2屈の調査一一単に, I耕地の転用」が問われた と厳密には併

置することができない。

(4) これらが農林業生産以外を目的とした耕地の転用であるのに対して,一方で植林のた

めの転用も多くなされている点を強調しておきたい。植林のための転用は, 1970 -80

年間の南九州,山陰,および東山で多くみられる。

(5) 耕地価格について,耕地転用の多い南関東,東海の 2地域と近畿とでは他地域と比べ

て耕地の価格が高く,沖縄や北海道では低い価格で耕地の売買がなされていることを補

足しておこう。耕地として売買されたばあいも,宅地に転用されたばあいも,このこと

はほぼ共通して指摘できる。

(6) 松田(18),323頁。

(7) このことは, しかし, I農業集落」の範域をどう設定するかという調査の根本問題と

再びかかわってもくるので,本稿では深く立ち入らないことにする。以下では,農業集

落内部の権成世帯の変化のみを追っておこう。

(8) ただし,後にも触れるが,北海道では農家率の高い農業集落が多い上に戸数規模の小

さい農業集落が特に多く,他の農業地域とは著しく性格を異にするものであることが示

されている。また中園地方でも戸数規模の小さい農業集落の割合が大きい。

(9) 他に.東海および北関東がこれに該当する。

(1()) 他に,世帯構造上の変化が緩やかに生起した農業地域として,東北,北陸,東山,四

国があげられる。

(!D 北海道は,南九州と並んで過疎地の指定を受けた農業集落が 6割を超えて多い農業地

域である。

(12) 農業集落調査における「農業団体」とは,総合農協を除く実行組合以外の農業団体を

さす。酪農組合,養豚組合,果樹組合,農産加工組合などがその例である。

(1~ 共用の農業用機械および農業用施設の普及状況に関して,補足しておこう。 1960年

に.共用の農業用機械 電動機,動力籾摺機,動力撤粉機が普及台数の上では代表的

である一ーの多くは, I部落有・部落実行組合有」であった。 1970年にはトラクターが,

80年には田植機とコンパインが, 90年には乾燥機が普及してくる。 しかも, これらは

集落有ではなしおそらく生産組織などを所有母体として普及していったものである。

特に北海道でトラクターが多く導入され, 1980年には 1集落当たりに換算して l台以

上を共用している。

また共用施設については, 1960年から 90年までを通して,共同作業所と農産物共同

出荷場とが代表的であるが, 田植機の導入と同時期, 1980年までに, 共同の育苗施設

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130 農業総合研究第46巻第3号

がいくつかっくられてきたことを付け加えておこう。

(]4) ある地域のある農業集落で何かの基盤整備事業が実施されたりされなかったりするこ

とじたいは,基本的には地域や個々の集落が抱えている耕地の条件によるところが大き

い。が,基盤整備事業を実施するにあたっては,関係者のあいだで実状に即した細かな

合意が形成されることが必要になってくることからも,農業集落内での意志決定は重要

なものとなる。相}l1C1l. 15章. Moore.R (191. 77 -79頁などを参照。

11日 農業集落調査においては,基盤整備事業の実施状況についての調査項目のなかに「農

業構造改善事業」が独立して含まれており,事業内容については判別不可能である。

11日 なお,寄り合いの開催回数が集落活動がど、の程度に行われているかを知るためのひと

つの指標にすぎないことはいうまでもない。この点に関して,高度経済成長期以降,農

業集落の活動が活発化しているのは「外部条件の変貌とそれとの接触の増加,構成農家

の異質化等により,さまざまな利害調整の必要性がいままで以上に増し」たためである

とする相川の指摘を参照。相川C1l. 290頁。

(]百 しかし,このうち北海道一一全国の農業地域のなかで農業集落としての寄り合いを開

催する割合よりも実行組合としての寄り合いを開催する割合の方がわずかながら多い唯

一の地域であるーーについては,実行組合の寄り合いを年 10回以上開催する農業集落

が非常に多く (1990年で 47.7%). またその主要な議題は,水田農業確立対策の対応・

推進(同 49.7%)や農道・農業用用排水路の維持・管理 (44.2%)である。(山陽のば

あいは,実行組合の寄り合いは集落の寄り合いをさらに下回る程度にしか行われていな

い。) この地域の農村社会の歴史的形成過程について分析し 府県の村とは性格を異に

する農事実行組合型の村落組織をもつものであると結論つ町けた田畑保[31lを参照。

日目 蓮見(4)は. 4市町 302集落を対象とした質問紙調査(有効解答は 214) にもとづい

て. ["部落運営」の「伝統型J.["近代型J.および「解体型」の 3類型を析出した。また,

関連して,村の役職が「権威ある仕事」から「ただ骨の折れる敬速される仕事」になっ

ているとする蓮見(7). 175 -176頁の指摘を参照。

11日 生活関連問題について項を起こして扱う余裕がない。(農業集落内の農家の主な) し

尿処理と家庭雑排水処理のみについてごく簡単に概観しておく。

し尿処理方法としては自家処理によるくみ取りが一一一徐々に減少してきてはいるが

一一多い。 1970年以降北海道および北関東において公共機関によるくみ取りが,また

北関東.東北,南九州では個人業者によるくみ取りが増加している。水洗処理を主とす

る農業集落は 1980年以降になって若干みられるようになり,地域的には沖縄 (11.4%)

が多L、。家庭雑排水については,農業用用排水路へ流す例が最も多く.集落内排水溝へ流す例

がこれに次ぐ。 1980年以降, 南関東で公共下水道が若干整備され, 南九州,北九州,

および東海では集落内排水溝の整備がなされた。また,北海道で、は宅地内給水槽での処

理が非常に多く,東山と山陰では家庭雑排水を河川に流すことの多い農業集落の害IJ合が,

他の農業地域と比較しでも特に多い。

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 131

3.農道管理と農業用用排水路管理

(1 ) 農道の管理

日本の農村の多くが構成世帯聞の共同作業によって地域の社会生活や農業生

産の仕組みを維持していた 1955年には, 農業集落の 9 割以上が農道管理(~、

わゆる,道普請)を行っていた(1)。この割合は,以後農業集落調査がなされ

る度に確実に低下傾向を示してきているo が,前節で概略みてきたような農業

集落が辿ってきた変容過程一ーとりわけ,耕地の転用と減少,構成世帯に占め

る農家率の低下が代表的に示しているように,農業集落がその内外においてま

すます非農業的要素と接触するようになってきたことーーを想起するならば,

1990年に至っても 6割以上の農業集落が農道管理を行っているという調査結

果は,注目されてよい(表 11)。しかも,出役の方法は, 1990年の調査によれ

ば,全戸出役によるものが農家のみの出役によるものより多く,農道管理を行

う農業集落の 58.3%を占めていた(表 12)(2)。

農道の維持・管理状況という観点、から,次の 3つに分けて農業地域別に農業

集落の特徴を把握できょう。すなわち, (1)-1高水準で農業集落による農道管

理が行われている地域:北陸,近畿(1)-2比較的高水準で農道管理が行われて

いる地域:東山北九州,南九州(2)-1農道管理の低下傾向が顕著な地域:山

陰,東北(2)-2の農道管理の低下傾向が示されている地域:山陽,南関東(3)特

異な性格の農業地域:北海道,沖縄がそれである。

(1)に関して,北陸地域の農業集落の特徴を捉えておこう。この地域では,

1955年に農業集落の 95.1%が農道管理を行っており, 1990年においてもその

割合は 79.9%と高水準に維持されている。また北陸は,農道管理の割合の高

さのみでなく,農道管理の方法においても際だった特徴を呈している地域であ

るO

すなわち,北陸では, 1955年に出役割当日数を定める基準を各農家同一に

している農業集落の割合が 9割に満たず全農業地域のなかで最も低かった。ま

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132 農業総合研究第 46巻第3号

た. 1970年に全農家の出役によって共同作業を行う農業集落の割合が北九州

に次いで低く,農道管理の共同作業への出役者に日当を支払う例が 23.6%

あった。 これは他の地域には殆どみられなかったことである。 10年後, 他の

農業地域で多くの農業集落が専ら出不足金の徴収を行うようになるなかで,北

陸では一一出不足金を徴収する例も過半数にのぼってはいるが一一日当の支払

いをする農業集落が増加していた。

北陸地方では,北海道と共に全農業集落が豪雪地帯の指定を受けている。ま

表 11 農道および農業用用排水路の管理を行う農業集落の割合

(単位:%)

1955年 1970年 1980年 1990年

農管道理 農管理道 路用管排理水 農管道理 用排水路管理 農道管理 用排水路管理

全国 68. 1 63.5(69.9) 61. 5 (65.0) 69.4 (75.5)

北海道 10.7 37.2 (51. 5) 15.9 (20. 2) 35.8 (45.7)

都府県 94.3 74.2 64.0 71. 2 54.9 (70. 7) 53.8 (67. 1) 71. 2 (75. 9)

東北 92.8 52.3 51.1 50.4 53.5 (55. 8) 55.8 (59. 8) 71. 4 (75. 5)

北陸 95.1 89.2 85.4 85.1 83.8 (86. 8) 79.9 (81. 6) 85目 0(84.4)

北関東 95.0 77. 9 58.6 71. 8 68.5 (72. 2) 55.2 (57. 8) 68.5 (72. 6)

南関東 86.7 71. 3 55.9 53. 7 64.9 (78.5) 41. 8 (45.1) 53.5 (59.3)

東山 97.3 74.5 52. 5 79.8 73.7(80. 1) 72.5(78. 1) 80.4 (86. 1)

東海 93.9 71. 4 57.5 59.5 71.5 (78. 4) 56. 7C59. 5) 74.1 (80. 7)

近畿 94.7 82.0 77.5 81. 0 75.3 (80.3) 74.8 (80. 7) 83.3 (85. 8)

山陰 95.7 51. 5 47.4 51. 5 45.4 (59. 2) 47.2 (49. 7) 55.7 (59.5)

山陽 94.0 65.9 54.9 58. 7 59.2 (53. 7) 51. 3 (64. 8) 67.5 (70. 8)

四国 92.7 79.5 53.5 59.9 51. 7 (57. 1) 56.7 (58.9) 70.7(75目 5)

北九州 96.3 79目 2 66目 8 75.9 57.3 (73. 7) 73.7 (76.3) 74.4 (78. 8)

南九州 96.5 73.5 45目 l 73.8 43.9 (52.5) 77.5 (82. 4) 59.9 (71. 0)

沖縄 78.3 31.7(32.5)

資料:1955年臨時農業基本調査(5分の l拍出)および各年次世界農林業センサ

ス農業集落調査による.

注. 1) 1980年は,市街化区域内の農業集落を除く集計結果である.2) カッコ内は農道および農業用周排水路のない農業集落を除いたばあいの数値であり,他は農業集落総数に占める農道および農業用用排水路管理を行う農業集落の割合である.

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農業集落による農道の管理方法表 12 (単位 %)

1990年川1980年3) 1970年 2)1955年 1)

共同作業の出役形態共同作業の出不足への対応共同作業の出役方法出役割当日数を定める基準

の出よ

家のに

農み役る

戸役よ

全出にる

対応

しな

対応方法対応その役る日

出すと当

しと足

役い不

出な出金

その作

落費比

部会に例

農同日

各家じ数

その他

日当出不足金する他他

Aハ¥l'T》v

同脚糠袖抑制

S胤附州刊作一淋耳脊糠

41. 7

55.5

41. 6

49.9

48.9

47.4

54.6

19.0

48. 1

48. 7

38.0

25. 7

32. 2

48.2

27.5

6. 7

58.3

44.5

58.4

50.1

51.1

52.6

45.4

81. 0

51. 9

51. 3

62.0

74.3

67.8

51. 8

72.5

93.3

35.2

58.5

35.0

24.5

23. 2

56.9

49. 7

28. 1

47.4

31. 6

39.0

43. 7

43.6

23.8

25.2

41. 2

12.8

37.3

12.7

8.8

6.0

16.3

25.8

15. 1

23.5

11. 7

14.7

14.5

15.8

7.1

12.6

41.2

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ヮ,

nuAH・0dQdQUQUη'u

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qJVRU1AnuRuntphunuA“19uqd

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76.8

46. 7

77.0

85.8

52.5

80目 2

68.8

83. 1

65.8

79.4

77.9

79.6

73.4

88.0

84.6

45.6

64.8

41. 5

65.0

75.5

76.8

43. 1

50.3

71. 9

52.6

68.4

61. 0

56.3

56. 4

76.2

74.8

58.8

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3. 7

1.3

23.6

0.8

1.3

0.6

2.4

2.5

O. 3

1.2

2.6

1.5

0.8

23. 4

29. 2

22. 1

13.3

10.7

30. 7

15.6

18. 7

17.7

20. 0

10.0

43.6

40.9

70.3

67.2

53.0

81.1

84.6

67.5

79.3

75.9

81. 2

76.0

86.1

52.0

55.9

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2.2

3.4

5.2

1.7

1.5

0.6

1.1

2.2

0.4

0.5

2.9

3.5

1.3

3

5

6

1

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5

0

1

3

3

1

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95.4

92. 0

88. 7

97.4

96.8

98.9

97目 5

95.0

98.8

97. 7

95.0

93. 3

98.1

同匂匂

資料;1955年臨時農業基本調査および各年次世界農林業センサス農業集落調査による.

注.1) 農道管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 97.9%(都府県平均)である.2) 農道管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 99.8%(都府県平均)である.3) 農道管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 99.4%(全国平均)である.4) 農道管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 98.8%(全国平均)である.

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134 農業総合研究第 46巻第3号

た, 1970年に出稼ぎ農家率が 3割を超える農業集落の割合は, 北海道, 東北

に次いで多かった。にもかかわらず, もともと他の農業地域よりも農家率が低

く,さらに急速に農家率の低下傾向を示した近畿地方と並んで,相対的に高い

水準で農道の管理が農業集落によって行われつづけているは)。

(2)については,山陰地域で早く 1955-70年の聞に農道管理を行う農業集落

の割合が 96.7%から 61.5%にまで低下したことを述べておきたい。山陰の農

業集落では,その後も農道管理を行う農業集落の割合が低下しつづけ, 1990

年には半数を割っている。

この類に含まれるもうひとつの代表的な農業地域は東北である。東北でも山

陰とほぼ同様に, 1955 -70年間に農道管理を行う農業集落の割合が大幅に低

下した。そしてその後も回復せず, 1990年には 5割台になっている。

他に, 1955 -70年間の山陽,および 1980-90年間の南関東でも,農道管

理を行う農業集落の割合が顕著な低下傾向を示した。南関東ではもともと農道

管理を行う農業集落の割合が低かったが,上記の期間中の大幅な減少により,

1990年には 4害IJほどの農業集落が農道を管理しているにすぎない。

(3)に関しては,再び,北海道と沖縄のそれぞれに特異な性格に触れることに

なる。北海道では,農道管理を行う農業集落はわずかに 1割台にすぎない

0980年および 90年。ただし,この期間中に若干の増加傾向が示されてはい

る)。また出不足への対応も,他地域と比べて少ない。

沖縄では 1980年には比較的高い水準で、農業集落による農道管理が行われて

いたが, 90年までに 2分の l以下に誠少した。同じ 10年聞に農道・農業用用

排水路の維持・管理を議題とした寄り合いを開催した農業集落の割合は若干の

増加傾向を示し,また他の農業地域と比べてこの割合が非常に高かったにもか

かわらず,である O

(2) 農業用用排水路の管理

農業集落調査がデータを蓄積してきたもうひとつの共同作業,農業用用排水

路管理についてはどうだろうか。

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 135

農業用水路の汚染は,混住化の進むなかで,農業集落にとっての最も深刻な

問題のひとつとなっている。 これに関して, 例えば, 1976年に混住化の進ん

だ5集落を対象として農村生活研究センターが実施した調査は, I農家・非農

家聞に顕著な意識差が現れているのは農業生産にかかわる問題であ」 り, Iと

りわけ農業用水路の汚染はいずれの集落にも深刻な問題としてみられ,農家・

非農家聞に有意な去が現れている」ことを示している(4)。 また, 中田実も,

混住化が進んだ地域での農業用水路の汚染から,やがて生活排水路改修事業が

実施され,非農家の人びとによって牛.活排水路ニ農業用水路の定期的な清掃が

行われるに至る経緯について,地域社会の再編というモティーフとの関連で述

べている (5)。

表 11に立ち返ってみよう。全国平均でみると, 1970年および 80年には農

業集落の 6割強が農業用用排水路の管理を行っていた。この割合が,北海道と

南関東を除くすべての農業地域で, 1990年までに若干ではあるが増加してい

る点には留意しておきたい。そのうえで,傾向を大別して (1)農業集落が高水

準で農業用用排水路の維持・管理を行ってきた農業地域 (2)中間的な農業地域

(3)農業集落による農業用用排水路の管理が行われていない農業地域としよう O

(1)類の代表格は北陸である。この地域では 8害IJ台の農業集落が農業用用排水

路の維持・管理を行ってきた。表 13に示されているように, 出役方法との関

連で,農道の場合と同様出役者への日当の支払がしばしばなされていることが

他地域と異なる際だった特徴である。またこの地域で基盤整備,特に用排水改

良を実施した集落が多かった点が想起される。北陸では農業用水の管理を集落

が主体となって行う割合も他の農業地域と比べて高く (27.8%)なっている。

北陸と並んで高水準を示しているのは,農道管理の場合と同様,近畿である。

農業色豊かな北陸と異なり,大都市闘を抱え非農家を多く含みこんでいるこの

地域の農業集落で全戸出役によってこれほど多く農業用用排水路の管理がなさ

れていることは特筆されてよかろう O 近畿地域に一一一山陽および四国地域の瀬

戸内海沿岸と並んで ため池潅j慨を主とする農業集落が集中してみられるこ

とが, この地域の農業集落の領域確認率や共有財産保有の水準の高さとあわせ

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農業集落による農業用用排水路の管理方法表 13

』匂町

(単位 %)

1990年3) 1980年 2) 1970年 1)

冊脚糠券市岬豊浦

共同作業の出役形態共同作業の出不足への対応共同作業の出役方法

みに

の役

家出る

農のよ

全戸出役対応し対応方法対応出役するな不

し出

役と金

出い足

全農家

判明会峨鴻ω岨

による

全国

北海道

都府県

東北

北陸

北関東

南関東

東山

東海

近畿

山陰

山陽

四国

北九州

南九州

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DntηtnruFhuFhυ

組処訓告

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42.8

31. 4

43.1

39;5

47.9

24.9

28.5

72. 6

42.2

40.5

50.6

52.6

46.0

38. 1

43. 1

tJし、

34.4

58.2

33.6

22.4

22.9

54.3

49.3

28.4

47.0

30.2

35.2

42.5

34.2

24.6

23.4

その他

12.2

28.2

11. 9

8.4

6.0

16.5

24. 9

14.0

21. 0

11. 5

14. 1

13. 2

13. 2

7.2

11. 3

日当

12.3

20.0

12.2

5.8

43.5

4.6

7.4

2. 5

12.4

11. 3

7.9

8.2

12. 7

6.5

3.4

出不足金

rDoonuoDEUAudρocon口内LQUηtsiqaηJ

-

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-

-

-

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-

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65.6

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77. 1

45.7

50. 7

71. 6

53.0

69.8

64.8

57.5

65.8

75.4

76.6

その他

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-

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と日当

4.8

1.7

25.2

1.1

1.9

1.0

3.3

3.5

0.4

2.3

4.9

2. 1

2.2

22.6

28. 7

21. 6

13.2

10.9

30.6

14.0

18. 7

17.2

16.6

12.8

43. 7

35.4

が出役

68.4

66.8

52.2

76.0

82. 1

66.5

77. 7

74.4

80.9

74.9

80.1

50.4

57.2

資料:各年次世界農林業センサス農業集落調査による.注.1) 農業用用排水路の管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 99.6%(都府県平均)である.

2) 農業用用排水路の管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 99.3%(全国平均)である.3) 農業用用排水路の管理を行う農業集落のうち,共同作業によるものは 99.0%(全国平均)である.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 137

て,農業用用排水路管理が維持されていることの説明を与えてくれよう(表

14を参照)。

(2)類は,およそ 5害IJ-7割台の水準で農業集落による農業用用排水路の管理

が行われている農業地域である。 1970-80年間に割合が微減し, 80 -90年

間に増加した例が多い。そのなかで,東山地域は一貫して増加傾向を示し,

1990年には農業用用排水路の管理を行う農業集落の割合が 8割を超えた。一

方, 南関東では 1980-90年間に 10ポイント以上の減少をみている。なお,

南九州および山陰の 2地域については(2)類と(3)類の中間領域に位置すると考え

るのがよいだろう。

(3)類を構成する代表的な地域は北海道である。北海道では,農道のばあいほ

どではないにせよ,他の農業地域と比べて農業用用排水路管理を行う農業集落

の割合が 3割台と大変低い。出不足への対応もあまりなされていない。広大な

表 14 集落の耕地面積,水田率および主要な護概形態(1980年)

(単位:ha, %)

集落当り 主要な濯滅形態水田率

耕地面積 ため池 河川 渓流 その他

全国 38.0 55.8 15.0 62. 2 11. 4 11. 5

北海道 151. 5 24.5 5.4 77.2 6. 7 10.7

東北 55.9 69.9 9.1 68.5 9.8 12.6

北陸 34.2 87.1 8. 7 76.6 9.1 5.6

北関東 51. 0 56.0 4. 1 63.6 5.6 26.7

南関東 31. 3 52.3 8.4 63.2 4.0 24.5

東山 29. 1 47.1 5. 7 75.2 15.9 3.2

東海 28. 7 60.9 9.6 68.5 10.3 11.7

近 畿 24.5 76. 7 28.8 47.6 10. 5 13. 1

山陰 17. 7 70.6 11. 3 70.2 15.3 3.3

山 陽 16.9 74. 1 30.6 49.3 13.6 6.5

四国 19. 1 56.0 29.2 36. 7 24. 7 9.5

北九州 30.0 62目 6 18.6 61. 9 8.9 10.6

南九州 26.8 40. 6 6. 7 68.6 15.6 9. 1

資料:1980年世界農林業センサス農業集落調査による.

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138 農業総合研究第 46巻第3号

畑作地帯をなすこの地域の資源管理は,府県の農業集落のような共同作業によ

るものにはなじまないだろうか。もっとも,北海道のなかでも水田が圧倒的に

多い空知地域をとり出してみると. 1980年に農業集落の 72.7%が農業用用排

水路の管理を行っていた。(ただし,この割合は 1990年には 36.9%にまで低

下するのだが。)また, この地域では農業用水の管理主体が,圧倒的に 実

行組合でも集落でもなく 土地改良区(あるいは水利組合)であることを,

補足しておく O

(3) 農業集落の変容と共同作業

さて,では農道管理や農業用用排水路管理を行っていることと,農業集落の

他の諸特性とはどのように関連しているだろうか。さし当たり農業地域の特徴

としてあらわしてきたことがらについて,要素的に捉え直してみることによっ

て,どのような知見が導き出されることになるのだろうか。

第2節で追った農業集落のいくつかの特性と本節で検討している 2つの共同

作業一一農道管理と農業用用排水路管理一←の実施の如何とのあいだにみられ

る相関関係について検討した結果を要約していくなかで, この間いへの答えを

探りたい。

第一に,立地条件,特に都市に近接しているか否かは,それ自体としては農

道や農業用用排水路の管理との関連をもっていない(6)。すなわち,農業集落

が人口規模の大きな都市に近接していたり都市の内部に包摂されていることは,

農業集落調査のデータが示す限り,そうした集落が農道や農業用用排水路の管

理を放棄しがちであることを意味しない。

なお,耕地の条件一一一第 2節では,変容過程のみを扱ったため,特に述べな

かったーーについては,基盤整備等と共に生産基盤として小括し,後述する。

第二に,集落の世帯構成と農道や農業用用排水路管理との関連も,特に明確

ではなL、。農業集落が非農家を多く擁し戸数規模の面で肥大化してきても,そ

のこととはそうした集落が農道や農業用用排水路の管理を放棄しがちであるこ

とを必ずしも直接的に意味しない(7)。出稼ぎ農家や兼業農家を多く抱えること

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139

佐 賀長崎熊 本大 分宮崎鹿児島

創刊MGNHKMM叩

農業集落の変容と共同作業

厳 阜

静岡愛知三重滋賀京 都大 阪兵 庫奈良和歌山鳥取島綬岡山広島山口徳島香川愛援高知福岡

-lつ曲内ぺ

υdqRUCU司

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τFhUFO勺

40603Aυ

つhqLqL9ゐフ

uqL今ゐワ'uq4qJ内

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北海道青森

岩手宮域秋田山形福島茨城

栃木群馬埼玉干薬東京神奈川新潟富 山石川福 井山梨

長野

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

37 16 o 17

18 19 20

《ノート》

幻ロ28 ロ

33 2930 【

ロロ u 34

ロ42

40 ロロ41

17 ロ

ロ35

%

100

町16

自ロ7

里 80J 221

書 120PELロ12 刷

用 Ih'白114UG-

tJF I fす邑汀 Q 口水|ヱ1P6門

警 6011~'a ~ 44

主 11486

1) 白1.

昼叫むυ

業 I!丹i集落の害!JA 20

ロ32

13

。l∞% 20 40 60 80

ため池かんがいを主とする農業集落の割合

ため池かんがいと農業用用排水路管理¥. 1980年,都道府県別)

図2-1

も,農道や農業用用排水路の管理放棄と明確には関連していなかった (8)(9)。

第三に,生産基盤と農道・農業用用排水路管理との関連については,一,

の点で,特に農業用用排水路管理との注目すべき相聞が示される (0)。水田率

の高い農業集落が多い地域では,農道および農業用用排水路の管理がしばしば

しばしば指摘される農業集落によって行われている (IJ)。濯概形態に関して,

ようなため池港紙と農業用用排水路の管理のあり様との関係をみようとしたが,

この点については明確な傾向を引き出すことができなかった(図2-1を参照)(2)。

基盤整備事業との関連は,特に用排水改良を実施した農業集落の多いまた,

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畿陰陽国州州縄

九九

近山山四北南沖

8901234

道北陸東東山海

北東北北南東東

EAn〆un4usa晶「「

upnuη

,a

農道管理

農業用用排水路管理• ロ

• 14

第 46巻第3号農業総合研究140

出ρ

農道・農業用用水路管理を行う農業集落の割合

100% 20

農道・農業用用排水路の維持・管理を議題として

寄り合いを開催した農業集落の割合

80 60 40

寄り合いの開催と農道・農業用用排水路

の維持・管理(1990年,農業地域別)

図 2-2

地域では,農業用用排水路の管理が農業集落によってなされているという結果

が示されている (3)。

これについては農道管理,農業用用排第四に,集落活動との関連であるが,

ではなく)集落で

水路管理ともいくつかの点において認められた(14)。

すなわち,両事項を議題とした寄り合いを(実行組合で,

行っている例の多い地域では, しばしば農道や農業用用排水路の管理が農業集

この傾向は,農業用用排水路管理よりも農道管理に

また 1980年よりも 90年に明確に示されていた(図2

落によってなされている。

おいてヨリ顕著であり,

集団転作に取り組む農業集落がわずかながらある生産活動では,(15) 。2 )

これの多い地域においても農道管理がしばしば農業集

落によってなされている。

ことを示しておいたが,

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% 100

農 80道管理を 60行つ農

差40

落の割合 20

O

・.9

《ノート》

.3 8・.6

4 孟・12

112 L・7• 2

農業集落の変容と共同作業

1北海道 8近畿2東北 9山陰3北陸 10 山陽4 北関東 11 四国5南関東 12北九州6東山 13南九州7東海

20 40 60 80 100 %

共有財産のある農業集落の割合

図 2-3 共有財産の保有と農道管理

( 1980年,農業地域別)

141

なお,共有財産をもっ農業集落の多い地域では農道管理や農業用用排水路管

理がしばしば集落によって行われている。 この関連は,特に農道管理とのあい

だで強く示されていた(図 2-3) (16)。また集落の領域,特に山林・原野の領

域が明確な農業集落の多い地域では,農道管理がしばしば農業集落によって行

われている傾向が指摘できる。

第五に,農道や農業用用排水路の管理じたいにかかわる要素との関連につい

て検討した結果を補足しておこう(17)。農道管理を行う農業集落の多い地域で

は農業用用排水路もまたしばしば農業集落によって管理されている。 この傾向

は, 1970年以降調査を重るたびに強くなっている(8)。 また, 管理方法との関

連で, (出不足金の徴収ではなく) 出役者への日当の支払いをする農業集落の

多い地域では,農道や農業用用排水路の管理が農業集落によってなされている

傾向が見だされた。負の条件付けよりも正の条件付けの方が,共同作業形態に

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第 46巻第 3号農業総合研究142

よる共有資源の管理にとって有効であるようである。

以上のことは,農業集落の立地条件 人口規模の大きな都市に近接さて,

したり包摂されているか否か一ーや世帯構成は,農道や農業用用排水路の管理

が農業集落によって維持されるか否かとは,少なくとも明確には関連していな

このうち,農業集落の構成世帯の変化が直接的にはいということを意味する。

農道管理の衰退に結び、付いていないという点について,兵庫県の農業集落を例

にとって補足的に確認しておこう o

農道管理が農家率1970年一 80年聞は,図3-1にも示されているように,

との関連を弱めた特徴ある期間である。同期間に戸数規模の増大と農家率のさ

らなる低下が顕著に進んだ近畿地方にあって,農道管理が北陸地方と並んで比

が,較的高水準で維持されてきたことについてはすでにみたとおりである (9)。

農業集落の農家率と農道管理の動向についてヨリ正確に把握するためには,個

% 100

二二ジク~一一一一一一一\

nU

ハU

ハU

ハHununU

ハU

n

u

n

U

9

8

7

P

0

5

4

3

2

1

a

農道管理を行う農業集落の割合

O -100 % -90 -50 -70

農 家 率

-30 -10

1980年一 1990年

農家率別にみた農道管理を行う

農業集落の割合(全国)

- 1970年

図 3-1

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143 農業集落の変容と共同作業《ノート》

% 100

一一一一一-一一~. .J;-一個.-.;.-ーーー一一 一

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3

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0

農道管理を行,つ農業集落割合

70

60

50

40

30

20

10

-100% -90 -70

農 家 率

一1980年一一 1990年

-50 -30 -10 O

一一 1970年

農家率別にみた農道管理を行う農業集落の

割合(近畿)

図3-2

% 100

/

一/

-/

/ /

'

農 90

善80

雪70

fJ 60 つ重50

集 40落書IJ 30 A 口 20

10

O -100 % -90 -50 -70

農家率

-30 -10

一一 1990年

農家率別にみた農道管理を行う農業集落の

割合(山陰)

198併手一一 1970年

図 3-3

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144 農業総合研究第46巻第3号

票の追跡が必要になってくる。

1970年の兵庫県の農業集落のなかから 411サンプル(平均農家率 70.0%)

を抽出したところ(20〉,全体としてこのうち 75.7%が農道管理を行っており,

農家率 50%以上 70%未満層がピークをなしていた。農家率 10%未満で農道

管理をおこなっている農業集落は 38.1%にすぎなかった。同じサンプル集落

について農家率と農道管理の変動を追跡した結果, 1980年時点でもこれらの

農業集落(平均農家率 59.6%)のうち 84.9%が農道管理を行っていた(21)。

ピークは農家率 70%以上 90%未満層にあり, 10年前に他の階層と比べて特

に低い管理割合を示していた農家率 10%未満層でも, 70.6%の農業集落が農

道を管理していた(以上,表 15)。また両年間の農家率階層別に農道管理割合

表 15 農家率階層別にみた農業集落数および農道管理を行う農業集落数(兵庫県)

(単位:集落, %)

1970年

説話レ うち,農道管落総数1) 理を行う集落

-10%未満 21 8 (38. 1)2)

10%-

30%-

50%-

21 (61. 8)

23 (67. 6)

55 (83.3)

49aqp口

q叫u

nベυρnu

1980年

サンプル 市を街除化く集区域落 うち行,農.集道落管集落総数3) 理を つ

35 17 12 (70. 6)4)

50 40 33 (82. 5)

38 35 26 (74.3)

85 83 72 (86.7)

119 119 107 (89. 9)

71 70 59 (84. 3)

70%- 137 112 (81. 8)

90%- 119 92 (77. 3)

言十 411 311 (75.7) 398 364 309 (84. 9)

資料:世界農林業センサス農業集落調査(1970年個票および1錦O年農業集落カード)

による.注.1) 兵庫県の 1970年農業集落調査個票(合計4,104)ファイノレのなかから, 10集落

間隔で抽出したものである.2) カッコ内は.サンプル集落数中に占める割合である.3) 411サンプル集落のうち, 11集落については少戸数 (4戸未満)のため 1980年の農業集落カードに記載されておらず,また 1集落については農家数減少のため1980年の調査対象外となっていた.他に,県営ダム建設に伴って集団移転し,1980年の調査対象外となった集落が 1集落あった.

4) 1980年の農業集落調査では農道管理等について市街化区域内の農業集落を除いて調査されたため,カッコ内には追跡可能であった農業集落から市街化区域内の農業集落を差し号|いた集落数(合計364)に占める割合を示した.

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 145

の変動を検討すると, 1970年に農家率が高かった階層では, 10年後の農道管

理の維持率がヨリ高くなっていた(表 16)。

農家率の変化(低下)は直接的には農道管理の放棄に結び付かず,農家率と

農道管理との相聞が弱まってきたかにみえる。しかし農道管理はかつて農家率

の高かった農業集落でヨリ堅固に維持されてもいるのであり,この時期

1970年 80年 に農道管理に関して集落の構成世帯の現状と活動とのかい

離が進行しはじめていると小括することもできょう。

表 16 農家率階層別にみた農道管理をしている農業集落および‘割合

(単位:集落, %)

1980年

10%未満 10%- 30%- 50%- 70%- 90%- 計

1970年

10%未満 3/0 1/0 4/0

(100.0) (100.0) (100.0)

10%- 3/1 9/1 1/0 0/1 13/3

( 66. 7) ( 83. 3) ( 100.0) (100.0) ( 80.0)

30%- 2/0 11/2 1/3 0/1 14/6 ( 66. 7) ( 86. 7) (66. 7) ( 50. 0 ) ( 76.9)

50%- 0/1 6/1 16/1 22/4 3/0 1/0 48/6

( 100.0) ( 77目 8) (85. 0) ( 86. 7) ( 100. 0) (100. 0) ( 84. 4 )

70%- 0/1 2/1 3/0 28/7 56/8 7/2 96/19

(100.0) (100.0) (50.0) ( 85.4) ( 92. 8) ( 69. 2) ( 86. 5)

90%- 1/1 2/0 8/1 31/8 36/12 78/22

( 66.7) (66.7) (100.0) ( 84. 8) ( 87. 3) ( 85. 5)

計 9/3 28/5 22/4 59/13 91/16 44/15 253/56

( 70.6) ( 82.5) (74.3) (86.7) ( 89. 9) ( 84. 3) ( 84. 9 )

資料:表15と同じ.注. 1970年に農道管理を行っていたサンプル集落のうち, 1980年にもつづけて農道管

理を行っている農業集港の数を両年次における農家率別に上段左に示し, 1970年には農道管理を行っていなかったが 1980年に行っている農業集落の数を同様にして上段右に示した.なお,下段カッコ内には,両年次における農道管理の有無が確認できる農業集落の総数(サンプル集落総数から, 1980年の市街化区域集落およびその他の理由から追跡不能であった農業集落を差し引いた 364集落)中に占める, 1980年に農道管理を行っている農業集落 (1970年の農道管理の有無とは関係なく)数の害IJ

合を示した.

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146 農業総合研究第46巻第3号

注(l) 農村社会における共同労働の慣行について,竹内(32J.第8章が示唆深い。

(2) 農村生活総合研究センターが実施した地域社会の諸活動の変化に関する研究において,

道普請や川ざらいを含む自治活動は.消滅したり新生する活動があるなかで,現存する

活動としての位置づけを与えられている。もっとも.1)農業生産面の共同的対処が作目

や品種の変化,農業の機械化,生産基盤の整備等により.成立しにくくなった の従来,

村仕事としてあった……生活基盤維持の共同的対処を行政が肩代わりしていったことに

より,集落の自治活動全体が停滞の方向を示す,の 2点が,変化の徴候として指摘され

てはいる。農村生活総合研究センター(28J.176頁。

(3) 他にこの地域の農業集落の特徴としては.(1)明確な領域をもち. (2)大字,行政区およ

ぴ実行組合の範囲と一致する例が多い. 131実行組合のある農業集落割合が高水準のまま

に維持されている. (4)農道・農業用用排水路の維持・管理を議題として寄り合いを開催

した例が多いなどの点があげられるo このうちは)と(2)については近畿地域にも共通して

指摘できる特徴である。なお,これらの点が農道管理の割合と相関関係をもっているこ

とを,次項で再び示すことになる。

141 農村生活総合研究センター (27J。

(51 中田[21]. 288 -298頁。

なお,農村社会における水利組織のあり様をめぐって,余田(35J.第2章に詳しい記

述がなされており,参考になる。

(6) DID市町村まで 30分以内,市町村の人口規模5万人以上の農業集落書IJ合と 2つの共

同作業一一農道管理および農業用周排水路管理一ーを実施する農業集落割合との関係を,

農業地域に検討した。(以下の注では,検討を試みた説明変数についてのみ略記する。〉

(71 ただし,相関係数の計算結果は. 1970年の平均農家率と農道管理割合. および 1980年の戸数規模 000戸未満)と農業用用排水路管問割合とのあいだに若干の相関関係の

可能性を示してはいる (r= 0.63および 0.57)。

石見によれば,地域資源の共同出役による菅理のためには「混住集落の中に最低農家

30戸を確保する必要がある」 という o また「住民が一堂に会して意見を表明する機会

が与えられ.あるいはなんらかの形の住民参加が実行できるのは 200戸を限界とするん

石見(13J.166頁。

(8) 平均農家率,および出稼ぎ農家 30%以上. II兼農家率 70%未満,戸数規模 100戸未

満の農業集落割合について検討した。

(9) 本稿では詳しく触れることができないが,出稼ぎの多い東北地方で基盤整備こそ進展

しでも「ムラ仕事」が放棄され,その結果としてますます基盤整備事業が必要となるの

に対して,兼業機会に恵まれている西南地方では「ムラ仕事」が維持されやすいという

指摘を川本彰氏が行っている。 111本(14J. 3 -12頁。

また相川も,農道管理をしない農業集落の割合が. ["混住化の進行(農家率の減少)

により増えるが,逆に兼業深化(恒常勤務者率の増加)により減少する」ことを指摘し

ている。相111[lJ. 296 -99頁。

(JO) 水田率,およびため池潅概が主,農業用水の管理主体が集落,諸種の基盤整備事業

(農道整備,田の区画整理,用排水改良,構造改善事業)を実施した農業集落の割合に

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 147

ついて検討した。

I1D 1990年に r二 0.62および0.690(12) 潅滋形態と村の社会関係については, (河川潅概と比較したばあいに, )ため池潅概を

主とする村で,その水量の絶対的な制約の故に厳しい統制がとられることになる側面が

つとに指摘されてきた。農業集落論との関係では, さしあたり,川本[14J,12 -18頁

を参照。

(13) 1970年に r= 0.75。ただし 1980年には r= 0.62。

(14) 農道・農業用用排水路の維持・管理を議題とした寄り合いを開催する,集落/実行組

合の寄り合いが年 10回以上ある.集団転作に取り組む,共有財産がある, 集落の代表

者が農業を主とする,全体として/山林・原野の明確な領域がある,行政区/実行組合

と範囲が一致する農業集落の割合について,それぞれ検討した。

(1日 1980年および90年に農道管理については r= 0.70および0.91(ただし 90年は沖

縄を除いた計算結果である〕。農業用周排水路については r= 0.60および 0.740

(1日 r = 0.96および 0.770

共有財産をもつことが必ずしも直接その集落の連体の保持・形成に寄与するわけではな

し介在する諸々の社会集団が機能的に分離してしまっている現状もあること,しかし

なお「集落の財産という意識が強く残っている」ことが,農村生活総合研究センター

(29)において指摘されている。

(J百 農道管理/農業用用排水路管理を行う,出不足金を徴収する,日当を支払う,共同作

業の慣行がある農業集落の害IJ合について,それぞれ検討した。

ω 1970, 80,および 90年に, r = 0.68, 0.73,および0.850

(19) 同じ期間中に,同織に農家率との関連を弱めながら全体として農道管理の水準を大幅

に低下させている山陰地域との対比が興味ぷかい。図 3-2-3を参照。

側兵庫県の 1970年農業集落調査個票(合計4.104) ファイルのなかから 10集落間隔で

抽出し.411のサンプルを得た。

(2D 411のサンプル集落(1970年)のうち, 1980年の農業集落カードを追跡できたのは

398である。そのうち,農道管理についてのデータが得られたのは,市街化区域の農業

集落を除く 364集落であった。

4.むすびにかえて

かつての耕地が道路や住宅建設のために転用され,農業集落の領域内には多

くの非農家世帯が来住して,集落はしばしば農家よりも非農家の多い混住形態

をとる。昭和 30年代以降の日本の農業集落の変容過程は, その内部においも

また外部でもますます多く非農業的要素と接触するようになってきたと要約さ

れる。

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148 農業総合研究第 46巻第 3号

しかし農業集落が非農業的要素を多く擁し,あるいは農業集落の外部に非

農業的要素がますます濃厚になってくるからといって,そのことはそのまま農

業集落の固有の機能が消滅したり衰退していくことを意味するものではない(l)。

「ムラ」の解体あるいは崩壊をいう前に,歴史のなかのどの時期にも, それぞ

れの条件の下にさまざまなムラがあったのだということを再認識せよとした中

野卓氏の言葉を借りるならば. Iもとからある条件, なくなろうとしている条

件,あらわれようとしている条件,あらたにあらわれた条件,それらのいずれ

もがその現在のムラの現実のなかに並存して,ムラが再編成されていく条件と

なりうる」からである(2)。

日本の農業集落のばあい,耕地(水田が主か畑が主か,また平坦地に立地し

ているか傾斜地か)や水平IJ (ため池潅紙が主か河川潅概が主か)の特徴などは,

「もとからある」不変的な条件の代表例といえよう。 もっとも, そうした不変

的な条件に働きかけて生産性の向上を図ろうとしてきたのが,例えば基盤整備

事業の歴史なのであるし,また農業集落内の耕地が多く転用されて道路や住宅

に姿をかえてきていることについてはすでにみた通りであるのだけれども。共

有財産や自己の領域一一耕地および山林 の有無も,古くから備わった,

各々の農業集落に固有の条件といってよかろう。(これについても, 例えば共

有財産の切り売りの例も希有なことではないが。〉

これらの不変的な条件が不変的なものとして存続していることが,農業集落

の,どちらかといえば生活面よりは農業生産面に深く関わった自立牲をあらわ

す指標ともいえる,共同作業一一具体的には農道管理と農業用用排水路管理

の維持とよく関連していた。

しかしまた,農業集落のなかには,そうした自立性を喪失しつつある例も少

なくなL、。全成員参加型の共助的な作業による集落の農業生産や社会生活の維

持・再生産は,全体として捉え返してみれば,また方向としては,緩急の度合

こそさまざまであれ. Iなくなろうとしている」形態である。それは成員の多

くが通勤兼業などによって非農業的世界に関与していくことになったこと自体

によるというよりは,農業用機械が導入されたり種々の施設が整備されること

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 149

で共助的な作業にとってかわる受容可能なオプションが与えられたことによる。

農業集落の領域内に非農家世帯が多く入り込んでくることによって,農業集

落は内部の構成における異質性をさらに増してきた。生活面で必要な施設の整

備がなされないまま耕地が住宅に転用され,急増した非農家世帯の家庭排水を

主原因とする農業用水(路)の汚染などの問題が生じる。このことが,今度は農

業集落と制度的な施設整備等の問題に通じてくる。近年すすめられている集落

排水事業などは,農業用水(路)の汚染に対するひとつの現実的な解決方向の例

であろうは)。排水処理以外にも,ゴミ処理やし尿処理が立ち後れた生活関連

施設整備問題として近年の農業集落に投げかけられている。

一方,再び農業生産面についていえば,農業集落としての意志決定を求めら

れる場面が,基盤整備事業の導入や水回転作の実施をめぐって生じている。こ

れらは農業集落にとって「あらたにあらわれた条件」といえよう。また,かつ

てあった農事実行組合や,農業団体への参加農家は減少し,新たに生産組織が

結成されてきている。

農業的要素と非農業的要素。もとからある条件,なくなりつつある条件,あ

らたにあらわれた条件……。これらが重層し交錯し,あるいは単に混在して,

今日の農業集落は存在している。農業・農村の将来展望が描きにくいとされが

ちな中で,農業集落についてもまた,その特性の多面性一一一居住空間,耕地の

領界,生産手段の共有範囲,意志決定機関など に即した多面的な戦略を決

定していくことが,ますます求められているには違いない。

最後に,本稿で扱わなかった課題のうち 2つを確認しておきたい。

1つは分析単位に関することがらである。本稿では一方で農業集落の変容過

程について検討を加えてきた。が,農業集落の変容をもたらした諸変数聞の布

置連闘をさらに厳密に分析するためには,例えば個票(農業集落カード)の追

跡などをもう少し丹念に行ってみる必要があるのかもしれない。また本稿では

同時に基本的に農業地域を分析単位としつつ農業集落の地域的なヴァリエー

ションに目を向けてきた。が,地域類型化を明確な目的とした分析を行うので

あれば,都道府県を単位とした分析を通じていくつかの地域類型を析出するこ

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150 農業総合研究第 46巻第3号

とが適切と思われる。

2つめは,統計資料を利用することによって得られた(農業集落の変容過程

やその地域的ヴァリエーションについての)知見の,事例研究の蓄積のなかに

ある知見との重ね合わせである。これについては本稿ではあまり試みることが

できなかった。研究対象のおかれている小状況を熟知した上で特定の出来事を

めぐる意志決定の過程なと‘について,実態に即して丹念に検討し対象の特徴を

描き出すことのできる事例研究と,集計値にもとづく,いってしまえば希釈さ

れた, しかしある程度広がりをもった像を構築するためにはどうしても必要と

なってくる統計的アプローチとを,農村社会学の今日的な課題の下に,どのよ

うに有効に統合していくことができるだろうか。

これら 2つの他にも多く諜題は残されていようが,ともあれ,以上の作業を

通じて,日本の農業集落の変容過程を,地域的なヴァリエーションも含めて素

描することはできたかと思う o

注(1) 今Hの農業集落の存在形態の二面性について, 蓮見氏が, i依然として生産と消費の

未分離なままに小規模な営農をつづける家族経営の農家」が「相互に共同することに

よって自己の経営と共同団体の維持をはかつていくという形態」が維持されつつ(=

「共同体的な村落の残存J),i農業の技術的な変化,就業構造の変化,生活様式の変化,

農民の生活空間の多様化等」の影響により, i農家のあいだでの共同場面」が「きわめ

て僅かなものにな」り,また「村落の空間」と「無関係につくられるJとのべている。

蓮見(7), 205頁。

(2) 中野卓(22),259頁。

(3) 集落における排水処理に関しては,技術的な側面に焦点をあわせたものであるが,農

村開発企画委員会(26)などが参考になる。

〔引用文献〕

(1J 相川良彦『農村集団の基本構造J(農業総合研究所, 1991年)。

(2) 江守五夫『日本村落社会の構造J(弘文堂, 1976年)。

(3) Dore, R. P. , Land Refom in Japan, Oxford University Press, 1959 (並木正吉ほ

か訳「日本の農地改革』岩波書庖, 1965年)。

(4) 蓮見音彦「部落運営とその類型 村落の統計的分析の一つのこころみ一一J(渡辺

兵力編著『農業集落論』龍渓書舎, 1978年), 135-170頁。

(5) 蓮見音彦「農業集落と風土J(九学会連合風土調査委員会『日本の風土』弘文堂.

1985年), 37 -50頁。

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《ノート》 農業集落の変容と共同作業 151

(6) 蓮見音彦「戦後農村社会学の射程Jcr社会学評論』第 38巻第2号. 1987年). 39-

52頁。

(7) 蓮見音彦「苦悩する農村JC有信堂. 1990年)。

(8) 福武直『日本農村の社会的性格(著作集第4巻)Jc東京大学出版会. 1976年)。

(9] 福武直「村落構造JC村落社会研究会編『村落研究の成果と課題』時潮社. 1954年).

41-55頁。

(0) 福武直「日本村落の社会構造(著作集第5巻)Jc東京大学出版会. 1976年)。

(11l 福武直『戦後日本の農村調査J(東京大学出版会. 1977年)。

02] 磯田進「村落構造の二つの型Jcr法社会学J1. 1951年). 50 -64頁。

03] 石見尚「混住社会化にともなう農村集落の遷移過程Jcr現代のエスプリ』第203号,

1984年). 161 -173頁。

(14] 川本彰「村落類型の諸問題一一東北型と西南型 J cr明治学院論叢』第 324号,

1982年). 1 -34頁。

(15] 河村望・蓮見音彦「近代日本における村落構造の展開過程(上)Jcr思想JNo. 407.

1958年). 55 -71頁。

06] 河村望・蓮見音彦「近代日本における村落構造の展開過程(下)Jcr思想、JNo.408.

1958年). 87 -103頁。

07] 加用信文「わが国農業統計の発達と展望」農林省図書館編『農林文献解題 農業統

計編』日本農業文庫. 1966年). 1 -24頁。

08] 松田昌二「農業集落の住民構成JC磯辺俊彦・窪谷順次編著「日本農業の構造分析』

農林統計協会. 1982年). 316 -328頁。

09] Moore.R I土地利用の展開と社会関係Jcr農業と経済」第56巻第 l号. 1990年).

73 -79頁。

(20] 室谷武彦「農業集落調査J(渡辺兵力編著「農業集落論』龍渓書舎. 1978年). 51

-96頁。

(21] 中田実「都市内農業と非農家一一家庭排水問題を中心に一一JC農業研究会編著

「都市と農村』大成出版社. 1980年). 269 -300頁。

(22] 中野卓 Irむら」の解体の論点をめぐって nJ C村活社会研究会編『村落社会研究

第二集』塙書房. 1966年). 255 -282頁。

(23] 西国春彦『農業集落の計量的研究J(東北大学行動科学研究室. 1988年)。

(24) 似団員香門 11共同体J研究に関する一試論一一「共同体」論的視角と「同族」論

的視角との交叉をめぐって J (村落社会研究会編「村落社会研究 第七集」塙書房,

1971年).235 -270頁。

(25] 農業集落研究会『日本の農業集落J(農林統計協会. 1977年)。

(26] 農村開発企画委員会『集落排水処理技術の展開(農村工学研究 Vol目 26)J(1980

年)

(27] 農村生活総合研究センター『混住社会の形成,特に人々の行動を決定している要因

にかんする研究(1)J(1977年)。

(28] 農村生活総合研究センター「農家・農村における慣習および慣行の変化に関する研

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152 農業総合研究第46巻第3号

究.1(1980年)。

[29) 農村牛活総合研究センター『農村集落の共有財産と連体性j(1983年)。

(30) 鈴木栄太郎『日本農村社会学原理(上)(著作集I)J(未来社, 1968年)。

[31J 田畑保『北海道の農村社会.1(日本経済評論社, 1986年〕。

[32J 竹内利美『村落社会と共同慣行(著作集1).1(名著出版, 1990年)。

[33) 浮田集「農業集落調査J(1"農林統計jNo.81. 1991年), 83-111頁。

[34J 山本陽三「農業集落の構造分析.1(御茶の水害房, 1981年)。

[35) 余田博通「農業村落社会の論理構造J(弘文堂, 1961年)。

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農業総合研究 第46巻第3号 167

〔要 旨〕

農業集落の変容と共同作業

ー 一農業集落調査のデ ー タを用いて一一

石 原 豊 美

農業集落は, その激しい変容過程のなかで, 固有の機能をもはや喪失してしまったの

だろうか, という繰り返し掲げられる問いを共有し, 農業集落調査のデー タを用いて,

地域的な多様性も含めて農業集落の変容過程について検討することが本稿の目的である。

(1)立地条件と耕地,(2)世帯構成,(3)生産組織と生産基盤の整備,(4)集落運営, の4側

面から農業集落の変容過程を捉え返した結果は, 以下のように要約される。(1)農業集落

はDID市町村への所要時間を短縮し,また耕地転用を多く経験してきた。(2)農業集落の

戸数規模は大幅に増大し, 農家率は大幅に減少してきた。この傾向は, 特に南関東と近

畿で顕著である。(3)農事実行組合や農業団体への参加農家のある農業集落は減少し, 生

産組織への参加農家のある農業集落は増加傾向にある。基盤整備事業一一導入にあたっ

て農業集落での意志決定が重要になる一� 東日本の諸地域で先行的に実施されてき

た。(4)農業集落の寄り合い開催回数は減少傾向にあるが, そのなかで農道・農業用用排

水路の維持・管理などは変わらず議題となっている。

また農道および農業用用排水路の管理がどの程度なされているかー一これらは農業集

落の機能維持について知ろうとする際の重要な指標である一ーについて検討し,先に概

観した農業集落の変容過程との関連をみた。結果を要約すると,(1) 1955 - 90年の35

年間に, 農道を管理する農業集落の割合は減少傾向を示してきたにも抱らず, なお6割

以上の農業集落で農道管理が行われている。 北陸と近畿でこの水準が高い。(2)農業用用

排水路管理は, 1970年以降6割台が維持されており, 1980 - 90年間に北海道と南関東

を除く全ての農業地域で農業用用排水路管理を行う農業集落の割合が微増している。(3)

農業集落がこれらの資源の管理を行うかどうかは,農業集落の立地条件や世帯構成とは

あまり関連しておらず,共有財産の保有などとの強い相関関係が認められた。

農業集落の変容過程について, 農業集落がその内部においてもまた外部でもますます

多く非農業的要素と接触するようになってきたと要約できる。が, 農道や農業用用排水

路管理の比較的高い維持率が示すように,このことがそのまま農業集落の機能喪失に結

び付いているわけではない。 農業集落の変容については, その存立を支える種々の諸条

件のあり様とともに多局的に捉えていくことが必要である。