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第4章 免震・制震設計 4.1 橋梁の免震・制震設計について 4.1.1 免震橋の設計についての歴史 現在見られる免震橋(道路橋)の免震設計の方法は,道路橋示方書V耐震設計編 1) (現時 点では平成 14 年版)での規定が標準的な基準で,また実際多くの道路橋の免震設計がこれに 基づいて行われています.実際の道路橋における免震設計の方法の考え方を知るには,道路 橋示方書V耐震設計編の中での規定や解説を中心に見ることが基本になるでしょう. ところで,現状の免震設計の方法は,どのような経緯で今の形になったのでしょうか.橋 梁の免震設計法の考え方が日本で初めて公式に現れたのは,(財)国土開発技術研究センター が 1986 年~1989 年に設置した“免震装置を有する道路橋の耐震設計委員会”の成果として 公表された「道路橋の免震設計法ガイドライン(案)」 2) という文書です.これに続いて,1989 年~1992 年に建設省と民間企業 28 社が参加して行なわれた“道路橋の免震構造システムの 開発に関する共同研究” 3) の成果として,「道路橋の免震設計法マニュアル(案)」 4) がまとめら れました.3 章で紹介した宮川橋をはじめとして,免震設計が取り入れられた実際の橋梁が 1990 年代初めに建設されるようになった背景には,こうした研究が精力的に進められていた ことがあります.また,道路橋示方書が平成 2 年に改訂された際には 5) ,「地震の影響の低減 を期待する構造」の中で「上部構造の慣性力を分散させる構造」,「慣性力の低減を期待する 構造」という2つの概念が規定されました.前者が現在,水平力分散構造と呼ばれているも ので,後者については免震支承の利用を例として挙げており,ここで免震設計の考え方を規 定したことになります. 1995 年 1 月に兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)が発生し,被災地域において多数の橋梁 に深刻な損傷や被害が発生しました.この 1995 年の兵庫県南部地震は,免震設計の普及に関 しても一つのターニングポイントになりました.まず,被災した道路橋の復旧の一つの方針 として 1995 年 2 月にいわゆる「復旧仕様」が通知され 6) ,この中で連続桁橋に免震支承を用 いた多点弾性固定方式の採用や,鋼桁主桁連結工法が推奨されたこと,道路橋示方書の平成 8 年の改訂 7) で積層ゴム免震支承を用いた「慣性力の低減を期待する構造」を採用する場合の 設計法として免震設計が明確に規定されたこと,そして日本道路協会から道路橋の耐震設計 に関する資料 8) の中で,免震橋梁の具体的な設計例が提示されたこと,などの事情から免震 設計の急速な普及が進み,定着したのです.現在の道路橋示方書V耐震設計編では,免震橋 の耐震性能の照査に関して一つの章が設けられて規定されるまでになったのです. このようにして普及してきた橋梁構造物の免震設計ですが,建築構造物の免震設計とは設 計思想が異なるものとして独自の発展を遂げています.3 章でも紹介した世界初の免震橋で あるニュージーランドの South Rangitikei 高架橋(鉄道橋)では(写真-4.1 参照),鉄道が 走る上部構造部分は 80m もある高い橋脚に支えられているため,免震デバイスを橋の基部に 配置することで Base Isolation(地震力の基礎地盤からの絶縁)が実現可能となり,橋梁に 作用する地震力が低減することが期待されています.

構造設計工学グループ - 第4章 免震・制震設計参考文献 1) 道路橋示方書・同解説 V耐震設計編,(社)日本道路協会,2002年. 2) 道路橋の免震設計法ガイドライン(案),(財)国土開発技術センター,1991年

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第4章 免震・制震設計

4.1 橋梁の免震・制震設計について

4.1.1 免震橋の設計についての歴史

現在見られる免震橋(道路橋)の免震設計の方法は,道路橋示方書V耐震設計編 1)(現時

点では平成 14 年版)での規定が標準的な基準で,また実際多くの道路橋の免震設計がこれに

基づいて行われています.実際の道路橋における免震設計の方法の考え方を知るには,道路

橋示方書V耐震設計編の中での規定や解説を中心に見ることが基本になるでしょう.

ところで,現状の免震設計の方法は,どのような経緯で今の形になったのでしょうか.橋

梁の免震設計法の考え方が日本で初めて公式に現れたのは,(財)国土開発技術研究センター

が 1986 年~1989 年に設置した“免震装置を有する道路橋の耐震設計委員会”の成果として

公表された「道路橋の免震設計法ガイドライン(案)」2)という文書です.これに続いて,1989

年~1992 年に建設省と民間企業 28 社が参加して行なわれた“道路橋の免震構造システムの

開発に関する共同研究”3)の成果として,「道路橋の免震設計法マニュアル(案)」4)がまとめら

れました.3 章で紹介した宮川橋をはじめとして,免震設計が取り入れられた実際の橋梁が

1990 年代初めに建設されるようになった背景には,こうした研究が精力的に進められていた

ことがあります.また,道路橋示方書が平成 2 年に改訂された際には 5),「地震の影響の低減

を期待する構造」の中で「上部構造の慣性力を分散させる構造」,「慣性力の低減を期待する

構造」という2つの概念が規定されました.前者が現在,水平力分散構造と呼ばれているも

ので,後者については免震支承の利用を例として挙げており,ここで免震設計の考え方を規

定したことになります.

1995 年 1 月に兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)が発生し,被災地域において多数の橋梁

に深刻な損傷や被害が発生しました.この 1995 年の兵庫県南部地震は,免震設計の普及に関

しても一つのターニングポイントになりました.まず,被災した道路橋の復旧の一つの方針

として 1995 年 2 月にいわゆる「復旧仕様」が通知され 6),この中で連続桁橋に免震支承を用

いた多点弾性固定方式の採用や,鋼桁主桁連結工法が推奨されたこと,道路橋示方書の平成

8 年の改訂 7)で積層ゴム免震支承を用いた「慣性力の低減を期待する構造」を採用する場合の

設計法として免震設計が明確に規定されたこと,そして日本道路協会から道路橋の耐震設計

に関する資料 8)の中で,免震橋梁の具体的な設計例が提示されたこと,などの事情から免震

設計の急速な普及が進み,定着したのです.現在の道路橋示方書V耐震設計編では,免震橋

の耐震性能の照査に関して一つの章が設けられて規定されるまでになったのです.

このようにして普及してきた橋梁構造物の免震設計ですが,建築構造物の免震設計とは設

計思想が異なるものとして独自の発展を遂げています.3 章でも紹介した世界初の免震橋で

あるニュージーランドの South Rangitikei 高架橋(鉄道橋)では(写真-4.1 参照),鉄道が

走る上部構造部分は 80m もある高い橋脚に支えられているため,免震デバイスを橋の基部に

配置することで Base Isolation(地震力の基礎地盤からの絶縁)が実現可能となり,橋梁に

作用する地震力が低減することが期待されています.

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写真-4.1 South Rangitikei rail Viaduct

(http://www.flickr.com/photos/raurimu_spiral/4769773698/?reg=1)

しかし,標準的な日本の都市内高架橋は橋脚高さが 10m~20m と背が低い構造であるために,

免震化しても極端な長周期化は望めません.また,兵庫県南部地震で経験したようなゆっく

りとした破壊力のある地震が発生する可能性がある日本では,橋梁構造物の固有周期を地震

動の揺れやすい周期帯から完全にずらすことは難しく,逆に長周期化することで構造物の応

答が地震動と共振して,桁が落下したり橋脚が倒壊などして,橋梁構造物の耐震性が低下す

る恐れがあります.

建築構造物の免震設計が構造物の長周期化による地震力の絶縁(Base Isolation, Seismic

Isolation)を基本としているのに対して,橋梁構造物の免震設計では,“程々の長周期化に

よる地震力の緩和と減衰性能の向上による変形の低減”により耐震性向上が図られている点

で異なっています(海外では敢えて Menshin Design と呼び区別することもあります).

橋梁構造物における免震設計は,過度の長周期化が制限されるために免震化のメリットを

享受できていないのではといった指摘がなされることもありますが,あらゆる危険性を考慮

した安全な設計体系なのです.少ない建設コストにより高い耐震性を確保できるというメリ

ットがあり,持続発展可能な社会資本整備の観点からも重要な設計技術といえるでしょう.

参考文献

1) 道路橋示方書・同解説 V 耐震設計編,(社)日本道路協会,2002 年.

2) 道路橋の免震設計法ガイドライン(案),(財)国土開発技術センター,1991 年.

3) 建設省土木研究所耐震研究室ほか:道路橋の免震構造システムの開発に関する共同研究報

告書(その3),共同研究報告書第 75 号,建設省土木研究所,1992 年.

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4) 建設省土木研究所:道路橋の免震設計法マニュアル(案),土木研究所彙報第 60 号,1992

年.

5) 道路橋示方書・同解説 V 耐震設計編,(社)日本道路協会,1990 年.

6) 日本道路協会:「兵庫県南部地震により被災した道路橋の復旧に関わる仕様」の準用に関

する参考資料(案),1995 年.

7) 道路橋示方書・同解説 V 耐震設計編,(社)日本道路協会,1996 年.

8) 日本道路協会:道路橋の耐震設計に関する資料,1998 年.

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4.1.2 耐震補強としての免震工法 9)

ここでは,平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震により被災した高架橋に対して,

免震工法を適用した事例を紹介します.図-4.1.1 に示すように,被災橋梁の上部工は5つの

支間 25m,1つの支間 18m の PC 単純桁からなっています.また,下部工は単柱橋脚6基とラ

ーメン橋脚1基からなっています.柱部は基礎から5mの位置で損傷を受け,重度なものは

全周にわたりかぶり部分が剥離し,主鉄筋の座屈が発生しました.これにより,損傷部より上

の柱が 0.5~2.2°傾斜しました.桁は橋軸直角方向に 30~100mm 程度ずれ,アンカーバーお

よびその端横桁取付け部に損傷が発生しました.

図-4.1.1 復旧後の橋梁側面図

復旧にあたっては,今回のような地震が再び発生しても小さな損傷となるように設計しま

した.そのために,各桁を連結するとともに免震支承により,地震時上部工慣性力を各橋脚

に分散させるともに,低減化を図りました.図-4.1.2 に示すように,本橋はもともと6つの

単純桁であり,6基の橋脚で地震時上部工慣性力を受け持っていましたが,両端の橋脚が支持

する隣接橋梁の支承条件が可動であることから,7基の橋脚に地震時上部工慣性力を分散さ

せることとしました.図-4.1.3 に示すように,地震時の上部工慣性力を端横桁に取り付けた

免震支承が受け持ち,荷重による鉛直反力は主桁に取り付けたすべりゴム支承に受け持たせ

ています.使用した免震支承は鉛プラグ入り積層ゴム支承で,平面形状は端横桁に取り付け

やすい矩形としています.また,すべりゴム支承は,すべり面はステンレス板とフッ素樹脂

からなり,すべり時に微少な摩擦が発生することで減衰性が付加される構造となっています.

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図-4.1.2 連結前後の状態

図-4.1.3 免震支承の模式

9)吉川実,西森孝三,金治英貞,宇野裕恵:阪神高速道路神戸線味泥地区の PC 橋の復旧,

橋梁と基礎, pp.11-15, Vol.30, 1996.11

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4.1.3 制震橋の歴史と近年の動向

制震構造は,1960 年代に,当時京都大学建築学の教授であった小堀鐸二博士が「従来の耐

震構造を墨守するだけでは不十分で,建築物への入力地震動について具体的な予測が出来な

い以上,建物の側でその応答をコントロールして安全性を図る以外に方策はない」として,

提唱したのが始まりとされています 10).現在では,制震構造は,建築構造設計における損傷

制御設計(Damage Control Design)の枠組みの中での中心的なコンセプトとなっています.

このような歴史的経緯から,制震構造に関する施工例は建築分野に格段に多くあります.土

木分野における制震橋の調査研究は,主として耐震補強を目的として 2000 年になってから盛

んに行われるようになったばかりで,建築に比べれば施工例は少ないという状況にあります.

表-4.1.1 制震橋によく用いられる制震ダンパー11)

粘性減衰

付加

オイルダンパー 速度依存有り

粘 性 ダ

ンパー

粘性型ダンパー

摩擦履歴型ダンパー 速度依存小

履歴減衰

付加

鋼 材 ダ

ンパー

座屈拘束ブレース

せん断パネルダンパー

高減衰積層ゴムダンパー

制震橋に適用しやすい受動(パッシブ)型の制震に限定すれば,現在多用されている制震

ダンパーは表-4.1.1 のように分類されます 11).また,2009 年に実施された,1996 年~2009

年の間における,制震橋に関する学術論文の調査結果の一部(ダンパー種類別および適用対

象橋梁形式別)は表-4.1.2 に示すとおりです 12).論文の総数は 37 編と限られており,調査

結果がそのまま実際の施工例に比例するわけではないのですが,それに近い比率であること

が推察されます.以降,制震ダンパー別に制震橋の進展の歴史と動向を施工例を示しながら

見ていきます.

表-4.1.2 制震橋に関する論文調査結果 12)(合計 37 編)

ダンパー種類別(%) 対象橋梁種類別(%)

座屈拘束ブレース 39 長大橋・特殊橋 53

せん断パネルダンパー 29 桁橋・ラーメン橋 47

摩擦履歴型ダンパー 17

オイルダンパー 3

高減衰ゴムダンパー 2

その他 10

Note: 1996 年~2009 年

(1) 粘性ダンパー

粘性ダンパーは,橋梁においては,主としてシリンダー型が用いられ,シリンダー内の粘

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性流体の抵抗力( VCF , F :抵抗力,V =速度,C , :定数)を減衰抵抗力とします.

抵抗力と変位の間の関係は, の値によって種々変化しますが,通常 1.0 以下が用いられま

す. の値が比較的大きい場合には抵抗力は速度依存になりますが, の値が 0.1~0.2 と小

さい場合(充填材がシリコン系高分子あるいは鉛等)には,速度依存性が小さくなり,抵抗

力と変位の履歴関係はクーロン摩擦型ダンパーと同じような矩形に近くなります(図-4.1.4

の =0.1 の場合).この種のダンパーは摩擦履歴型ダンパーと呼ばれ,構成則として鋼材の

履歴型ダンパーと同様に完全弾塑性型の硬化則が使用でき,汎用解析コードとの整合性がよ

いことから,近年使用実績が多くなってきています 11),12).粘性ダンパーは,許容変位が 500mm

と大きく,それを生かしてしばしば橋台上の桁端部あるいは橋脚に,単独またはゴム支承と

併用した機能分散型支承として用いられます.また隣接する桁の端部間に連結型ダンパー

(Joint Damper)としても用いられ,これらのダンパーの機能の特色として次の点が上げら

れます 12)

1)橋台,橋脚への上部構造慣性力を,ダンパーの抵抗力を調整することにより下部構造の

強度に応じて分散することが可能である.

2) ゴム支承あるいは免震支承による上部構造と橋台との大きな相対変位を抑制することが

出来る(塩殿橋,2006).

3) 減衰機能による応答の低減を図れる.

図-4.1.4 摩擦履歴型ダンパーの復元力特性

(2) 鋼材ダンパー

鋼材ダンパーとしてよく用いられるものに軸降伏型の座屈拘束ブレース(BRB),せん断降

伏型のせん断パネルダンパー(SPD)があります.これらの制震ダンパーは耐震補強用に採用

されるのが主となりますが,新設橋梁にも用いられます.

BRB は主として横構,対傾構などのブレース材として用いられます.BRB が世界で初めて採

用されたのは橋長 140m の新設鋼上路式ローゼ橋(王渡橋,2004)の横構,対傾構,主構ブレ

ース材(総計 48 本)です.BRB の採用により,従来工法に比べ総鋼重を 12%,上部構工事費

を 5%減少できたとされています.その後 BRB は鋼トラス橋(港大橋,2007),鋼方杖ラーメ

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

=0.1 =1.0

変位

抵抗

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

=0.1 =1.0

変位

抵抗

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ン橋(千草橋,2010),鋼ランガー橋(伊達橋,2007),鋼および RC ラーメン式橋脚,などの

耐震補強用に採用され効果を挙げています.BRB の他の使用例としては,高架橋の落橋防止

用に用いた例(名古屋高速道路公社,2004)があります.また,新しいアイディアとして,

ブレース材を BRB に取り替えるかわりに,既設のブレース材を生かし,その上に拘束材を被

せて BRB 化する試みもなされています 13).さらに,まだ施工例はありませんが,アーチ橋端

柱基部およびアーチリブ支承の浮き上がりを許容し,基部あるいは支承部に設置した BRB で

変位制御するロッキング式制震機構の鋼アーチ橋への適用があります 14).

SPD の使用法としては,1)ブレース材を主構造に取り付けるガセット部に使用する方法(天

保山大橋,2010),2)橋台上に設けてストッパーの機能を併用させ,レベル1地震動に対し

ては固定,レベル2地震動に対して履歴型ダンパーとして使用する方法(新浜寺大橋,工事

中),3)鋼製ラーメン構造の中間はり中央にせん断リンク(Shear link)として使用してエ

ネルギー吸収をさせる方法(New San Francisco-Oakland Bay Bridge, 工事中:図-4.1.5 )

などがあります.

(a)

Parallel Links

(b)(a)

Parallel Links

(b)

図-4.1.5 New San Francisco-Oakland Bay Bridge に使用されるせん断リンク

(3)高減衰積層ゴムダンパー

高減衰積層ゴムダンパーは,免震支承として用いられている高減衰積層ゴムを鉛直力が加

わらないように使用してダンパーとしての機能を期待するもので,オールフリー形式の東神

戸大橋(2009)の橋軸方向の応答変位を低減させる目的に使用されています.

今後の展望

制震橋の研究が学術論文として公表されるようになってから未だ10年余が経過したばかり

です.その間,研究者,技術者の努力により,制震橋の施工例は 2009 年の時点で 50 橋に達

したといわれます.今後も主として鋼橋の耐震補強の有力な手段として用いられていくもの

と思われます.建築構造では大地震後は制震ダンパーを取り替えるという思想で設計を行っ

ているようですが,橋梁構造物では,大地震後の機能維持,あるいは施工が大規模になるこ

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とから,可能な限り取り替え不要な制震ダンパー(高機能制震ダンパー)の開発を目指すべ

きであると考えられます.また制震ダンパーの素材として現在は鋼材が用いられていますが,

アルミニウム,形状記憶合金など他の高機能金属材料の特色(例えば,耐食性,軽量性,自

己修復性等)を生かした新しい制震ダンパーの研究開発が望まれます.

参考文献

10) 宇佐美勉編著/日本鋼構造協会編:鋼橋の耐震・制震設計ガイドライン,技報堂,2006.

11) 日本鋼構造協会:鋼橋の耐震設計の信頼性と耐震性能の向上,JSSC テクニカルレポート,

No.85, 2009.

12) 土木学会:地震時保有耐力法に基づく耐震設計法研究小委員会報告書,地震工学委員会,

2010.

13) 本荘清司,横山和昭,前原直樹,田崎賢治,川神雅秀:鋼上路式アーチ橋の耐震補強設計

に関する検討,構造工学論文集,Vol.55A, 2009

14) 後藤芳顯,奥村徹:ロッキング挙動を利用した免震・制震機構の上路式鋼アーチ橋への適

用,土木学会論文集A,Vol.62, No.4, pp.835-853, 2006.

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4.1.4 免震デバイスと高架橋の常時振動

1) ゴム支承と高架橋の常時振動との関係

従来,橋梁の支承形式として鋼製支承が多く採用されていましたが,平成 7 年に起きた兵

庫県南部地震における支承部の破損,またそれに伴う 2次的被害が数多く発生したことから,

それ以降,上部構造から下部構造に加わる慣性力を分散させる目的として反力分散型ゴム支

承が採用されるケースが多くなっています.また近年では,支承変形により減衰を確保させ

る鉛プラグ入りゴム支承や高減衰ゴム支承などの免震デバイスも高架橋全体の耐震性能を向

上させるために作用されるケースが増えています.今後もゴム支承は橋梁の耐震性を確保さ

せる上で重要な役割をなすものと期待されています.

このようなゴム支承化により,鋼製支承を有する高架橋に比べてゴム支承を有する高架橋

では,耐震性や維持管理が向上したことは言うまでもありませんが,車両走行に伴い発生す

る高架橋の振動にどのような影響を与えているのでしょうか.変形しやすいゴムの特性によ

り,高架橋上を車両が走行した場合,高架橋が揺れやすくなるのでしょうか.それとも高架

橋の揺れが低減するのでしょうか.

まず,車両走行に伴う高架橋の振動について説明をしましょう.高架橋は,支持地盤上に

杭などの基礎を立て,その上に鋼製またはコンクリート製の橋脚を架設し,さらにその橋脚

上に鋼製支承またはゴム支承を設置して橋桁を架けています.その橋桁上を車両が走行する

と,車両の振動は段差や路面凹凸によって励起され,さらに,高架橋の振動と連成振動を起

こします.車両の振動と連成した高架橋の振動は,図-4.1.6 に示すように,高架橋の周辺環

境に地盤振動,騒音および低周波音として伝播または放射されます.特に,受振点または受

音点となる家屋(床,建具,人体など)の振動と加振源となる高架橋の振動(橋梁振動)の

振動数領域が近接した場合に振動,騒音および低周波音に関する苦情が生じる場合が多く,

一般に高架橋の環境振動とも呼ばれています.

地盤振動地盤振動

路面凹凸,段差路面凹凸,段差

橋梁振動橋梁振動

橋脚振動橋脚振動橋脚振動橋脚振動

車両振動車両振動

低周波音低周波音

家屋振動家屋振動人体人体

地盤振動地盤振動

ゴム支承にゴム支承による振動よる振動

ゴム支承にゴム支承による振動よる振動

図-4.1.6 常時の高架橋振動の概要図

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走行車両による橋桁の振動は,支承による拘束条件,下部構造(橋脚や基礎など)と地盤

の境界条件などの影響を受けます.特に,柔らかい地盤(軟弱地盤)上に架設された高架橋

の場合,鋼製支承からゴム支承に交換したことにより,高架橋の卓越振動数が低下し,今ま

でと違った振動数領域に存在していた家屋固有の振動との共振が起こる場合や軟弱地盤上で

地盤振動が増幅する可能性があります 15).

既往の研究結果 16)からは,鋼製支承からゴム支承に変更した場合,橋梁全体系での固有振

動数や振動モード形の違いが生じ,卓越振動モードによって,固有振動数,減衰および一般

化質量の低下に伴い,交通荷重や風による振動応答を助長させる可能性があることを指摘し

ています 16).

そこで,交通振動などにより,橋梁が微小な振幅で振動している状態での鋼製支承とゴム

支承の変位挙動の違いについて述べます 17)18).一例として,約 20 年の供用年数を経た単純

桁高架橋の鋼製支承(BP 支承)をゴム支承に交換したときの支承部の変形挙動の違いについ

てお話します.

重量20tf(196kN)の試験車が走行車線を約40km/hで走行したときのP1橋脚上(図-4.1.7(a)

参照)G1 桁の可動側となる鋼製支承における橋軸および橋軸直角方向の実測での変位波形を

それぞれ図-4.1.7(b)および図-4.1.7(c)に示します.これより,可動側の鋼製支承は,橋軸方

向の変位がほとんど生じていないことがわかります.ゆえに,約 20 年の供用年数を経た鋼製

支承は,通常の車両走行状態では可動支承が橋軸方向に変位していないものと考えられます.

したがって,鋼製支承の場合は,上部構造と下部構造が一体化した挙動をしているものと考

えられます.

P1P1P2P2

MoveMoveFixFix

G3G3

G5G5

G1G1

(a) 車両走行状況

-0.10

-0.05

0.00

0.05

0.10

0 1 2 3 4 5 6 7 8Time(sec)

P2 P1

時間(sec)

P1P2

変位

(m

m)

0.10

0.05

0.00

-0.05

-0.100 1 2 3 4 5 6 7 8

Time(sec)

P2 P1

時間(sec)

変位

(mm

P1P2

(b) 橋軸方向変位 (c) 橋軸直角方向変位

図-4.1.7 BP 支承時の変位挙動

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1.0

0.5

0.0

-0.5

-1.0

-1.50 1 2 3 4 5 6 7 8

Time(sec)

P1P2

変位

変位

δ((m

mm

m))

時間(sec)

P1P2

1.0

0.5

0.0

-0.5

-1.0

-1.50 1 2 3 4 5 6 7 8

Time(sec)

P1P2

変位

変位

Δ((m

mm

m))

時間(sec)

P1P2

(a) 橋軸方向変位 (b) 橋軸直角方向変位

G1G1

P1P1

δ+ -

+ -

P1P1

G1 G3 G5

Δ

(c) 橋軸方向変位の概略図 (d) 橋軸直角方向変位の概略図

図-4.1.8 ゴム支承時の変位挙動

一方,ゴム支承時の橋軸および橋軸直角方向の変位(支承部上側と下側の相対変位)をそ

れぞれ図-4.1.8(a)および図-4.1.8(b)に示します.なお,図の符号については,図-4.1.8(c)

および図-4.1.8(d)に示すとおりです.

橋軸方向の変位は,図-4.1. 8(a)に示すように,まず,はじめに試験車が P2 橋脚上に接近

した際,P1 側の支承はマイナス方向(図-4.1.8(c)参照)に変位しはじめます.これは,橋

脚の倒れに伴う上部構造全体のずれに起因するものと考えられます.次に,車両がスパン中

央まで進んだ際には,(下フランジ下面から中立軸までの距離)×(たわみ角)の距離だけマ

イナス方向に変位し,さらに P1 橋脚上に車両が載荷するとプラス方向に変位しています.鋼

製支承の橋軸変位は,ほとんど見られなかったが,ゴム支承の橋軸変位は 1.0mm 程度の変位

が確認され,活荷重の載荷に対して挙動していることがわかります.

また,橋軸直角方向の変位は,図-4.1.8(b)に示すように,橋軸方向の約半分程度の振幅量

が見られ,橋脚直上に車両が載荷した場合に 大変位を示しています.この変位挙動は,図

-4.1.8(d)に示すように,車両が橋脚上に載荷された場合,橋脚の張り出し梁(車両載荷側)

はたわむが,一方の主桁は橋脚の倒れに追従せずに変位しないことから生じるものです.よ

って,支承部上側と下側の相対変位では,あたかもマイナス方向に変位したかのようになっ

ています.このような変位挙動が橋脚のロッキング振動の励起に影響するものと推察されま

す.

また,鉛直方向と橋軸方向の変位挙動から考察した橋軸直角回りの回転変位については,

鋼製支承時には鉛直方向にほとんど変位せずに回転支点となっていますが,ゴム支承時には,

ゴムの圧縮変位によって桁全体が沈み込んで回転していることが明らかになっています 17).

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つぎに,橋脚上で観測したゴム支承化に伴う振動挙動の違いについて述べます 18).試験車

が走行車線を約 60km/h で走行した時の鋼製支承時とゴム支承時の P2 橋脚天端における橋軸

直角方向の加速度スペクトルを図-4.1.9 に示します.これより,鋼製支承時,ゴム支承時と

もに 3.5~3.6Hz に橋脚のロッキング振動と考えられる大きな卓越振動成分が見られます.ま

た,鋼製支承時,ゴム支承時ともに 4Hz までの振動に大きな違いが見られません.また,ゴ

ム支承時には 10Hz 付近の高い振動成分が低減していることがわかります.

既往の研究からは,ゴム支承の弾性変形に伴う桁端段差によって騒音や振動が大きくなる

ことを懸念して,実測により確かめた事例 17)18)があります.その結果,鋼製支承とゴム支承

で支承の回転角はほとんど変わらないこと,ゴム支承の場合,ゴム自体が圧縮されることか

ら桁端部の跳ね上がりによる段差は相殺され,隣接桁との段差は生じておらず,さらに騒音

レベル(L50)および振動レベル(L10)の増幅は認められなかったとの報告をしています 17).

MoveMoveFixFix

G3G3

G5G5

G1G1

P1P1P2P2

(a) 測点と車両走行状況

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

0 2 4 6 8 10振動数(Hz)

3.6

2.8

フ-

リエ

振幅

(gal

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0 2 4 6 8 10

3.53.0

振動数(Hz)

フ-

リエ

振幅

(ga

l)

(b) BP 支承時 (c) ゴム支承時

図-4.1.9 橋脚天端の橋軸直角方向における加速度スペクトル

2) ゴム支承とモノレール車両の乗心地との関係

モノレールは構造物の占有面積が少なくて済むため高架化が容易であり,地下鉄に比べて

工事期間が短くて済み,低コストで建造が可能であると知られています 19).日本では写真

-4.1.2 に示すような跨座型モノレールが一般的で,その特徴としては軌道桁の上辺に車輪が

接して車両重量を支え,また軌道桁の左右に接する案内輪および安定輪により走行時の安定

性を確保する構造になっています.

現在,跨座型モノレール高架橋は鋼製支承を採用しているが,耐震性向上を目指してゴム

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支承の採用も検討されています.しかし,前節の道路高架橋と同様に,ゴム支承の採用によ

るモノレール高架橋の振動特性の変化による走行モノレール車両の乗心地が懸念されていま

す.ここでは,支承の違いによる常時のモノレール車両の乗心地の検討例を紹介し,免震デ

バイスの今後の課題として常時における振動使用性の確保を取り上げます.検討対象とした

橋梁は桁長 28m の PC 桁(スパン長 27.0m)であり,桁部分については図-4.1.10,下部構造

については図-4.1.11 に示します.桁部は上下線の 2 本あり,その間隔は 3.7m の構造をして

います.

モノレール高架橋の一部を図-4.1.12 に示すように有限要素にモデル化し,その上を図

-4.1.13 に示す理想化したモノレール車両 20)が走行するシミュレーションを行い,その結果

得られた車両の振動加速度から支承種別の乗り心地の評価を行います.

写真-4.1.2 跨座型モノレール

図-4.1.10 PC 軌道桁の詳細

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図-4.1.11 下部構造詳細図

図-4.1.12 モノレール高架橋の有限要素モデル

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Analyzed point-2(Floor on Rear Axle)

Analyzed point-1(Floor on Front Axle)

Yv11

Ivz11

vz11

Yv21

vz21

Ivz21

vz22

Ivz22 Yv22

Kv1312,Cv1312

Kv1412,Cv1412

Kv1311,Cv1311

Kv1411,Cv1411

Kv1321,Cv1321

Kv1322,Cv1322

Kv2321,Cv2321

Kv2322,Cv2322

Kv1311,Cv1311

Kv2312,Cv2312

Kv2412,Cv2412

Kv2411 ,Cv2411

Zv11

vy11

mv11, Iy11FRONTREAR

Zv21 vy21Zv22 vy22

mv22 Ivy22 mv21 Ivy21

IvX11

vx11

Yv11

Yv21 vx21 Ivx21

Kv1112, Cv1112Kv2112, Cv2112

Kv2212,Cv2212

Kv2222,Cv2222

Kv1222,Cv1222

Kv1212,Cv1212

Kv1111 , Cv1111

Kv1211, Cv1211

Kv1312,Cv1312

Kv1412,Cv1412

Kv1411,Cv1411

Kv1311,Cv1311

FRONT

Lvx4

Lvx1

Lv

Lvx4

Lvx3Lvx3

Lvx4Lvx4

Lvx3Lvx3

Lvx2

Kv1511,Cv1511

Lz

2L

z3

Lvy2Lvy2

Lvy4 Lvy4

Lvy3 Lvy3

Lvy1 Lvy1

Lz1v

vv

x

図-4.1.13 モノレール車両モデル

まず,常時のシミュレーション結果について考察してみます.モノレール車両の営業 高

速度である時速 72km で走行する場合のシミュレーション結果を図-4.1.14 および図-4.1.15

に示します.図-4.1.14 は車両の上下方向の加速度波形を,図-4.1.15 は横方向の振動を示し

ています.また,それぞれの図の(a)はモノレール PC 軌道桁が鋼支承を持つケースを,(b)

はゴム支承を持つケースを示しています.図-4.1.14 からわかるように,車両の上下振動に

関しては,支承の違いによる加速度振幅に大きな差は見られません.一方,図-4.1.15(a)お

よび(b)に示した横揺れに関しては,ゴム支承を採用した高架橋上を走行した車両の加速度振

幅が大きい結果となり,ゴム支承を採用した軌道桁上を走行した時の乗心地は,鋼製支承を

採用した時に比べて相対的に悪くなります.しかし,鉄道総合研究所の乗心地評価基準と比

べると(図-4.1.15(c),(d)参照)両方ともに「非常に良い」判定になっています.ここに,

鉄道総合研究所の乗心地評価基準 21)を表-4.1.3 に示します.

加速

度 (

Gal

)

0 2 4 6 8 10

-200

-100

0

100

200

最大値= 207 Gal

実効値 = 80.7 Gal

時間 (秒)

(a) 鋼製支承採用の橋梁上走行時の車両加速度 (b)ゴム支承採用の橋梁上走行時の車両加

速度

図-4.1.14 常時のモノレール車両の上下方向の振動加速度

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0 2 4 6 8 10

-200

-100

0

100

200最大値 = 92.8 Gal

実効値 = 23.8 Gal

時間 (秒) (a) 鋼製支承採用の橋梁上走行時の車両加速度 (b)ゴム支承採用の橋梁上走行時の車両加

速度

Gal)

加速

度 (

加速

度 (G

al)

(c) 鋼製支承採用の橋梁上走行時の乗心地 (d) ゴム支承採用の橋梁上走行時の乗心地

図-4.1.15 常時のモノレール車両の水平振動加速度と乗心地

表-4.1.3 鉄道の乗心地基準

区分 乗心地係数 乗心地の評価

① 1 以下 非常に良い

② 1~1.5 良い

③ 1.5~2 普通

④ 2~3 悪い

⑤ 3 以上 非常に悪い

常時の振動使用性とは少しずれる話になりますが,構造物の安全を阻害しない中小規模の

地震において,モノレール車両の乗客の振動感覚も興味があるところです.なぜなら,写真

-4.1.2 からも分かるように,モノレール車両は細い軌道桁の上を走るため,乗客の視野に入

りこむ景色は,まるで宙に浮いているような風景だけになります.その結果,小規模の地震

による弱い横揺れでも乗客は大きな不安を抱える可能性があります.それで,高架橋の安全

に問題を起こさない中小規模地震時のモノレール車両の乗客の振動感覚の間接的な評価とし

て,モノレール車両の乗心地に着目し,支承の違いによる地震時のモノレール車両の乗客の

振動感覚をシミュレーションの例を用いて検討してみます.

中小規模地震時の走行車両の横揺れのシミュレーション結果を図-4.1.16 に示します.常

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時に比べ,地震により横揺れが大きくなっていることがわかります.さらに,ゴム支承を採

用した高架橋上を走行する場合(図-4.1.16(a))の方が,鋼支承を採用したケース(図

-4.1.16(b))より大きい揺れを感じることがわかります.同じく鉄道総合研究所の乗心地評

価基準に基づき評価すると,図-4.1.16 (c)および(d)に示すように,鋼支承を採用した高架

橋上を走行した場合(図-4.1.16 (c)参照)は,「乗り心地が悪い」,ゴム支承を採用した場合

は「非常に悪い」という結果(図-4.1.16 (d)参照)となっています.

ゴム支承のような免震デバイスは耐震安全性の面からは十分その機能を果たしているが,

振動使用性の観点から考えると,耐震安全性を確保しつつ,常時の振動使用性をどのように

確保するかが免震デバイスの今後の課題ではないかと考えます.

(a) 鋼支承採用の橋梁上走行時の車両加速度 (b)ゴム支承採用の橋梁上走行時の車両加速度

加速

度 (

Gal

)

加速

度 (

Gal

)

(c) 鋼支承採用の橋梁上走行時の乗心地 (d) ゴム支承採用の橋梁上走行時の乗心地

図-4.1.16 地震時のモノレール車両の水平振動加速度と乗心地

参考文献

15) 石田博,岡本晃,久保真一,浜博和:支承構造の違いによる橋の振動特性に関する調査,

橋梁と基礎,Vol.39,No.1,pp.51-56,2005.1.

16) 山田均,沢田繁樹,篠原修二,風間浩二:支承特性差に着目した橋梁振動応答特性に関

する研究,土木学会論文集,No.623/VI-43,pp.271-276,1996.6.

17) 徳永法夫,吉川実,川北司郎,山本豊:高力黄銅支承板(BP)支承からゴム支承への取

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替えに対する有益性に関する一考察,土木学会論文集,No.581/VI-37,pp.17-25,1997.12.

18) 梶川康男,深田宰史,林秀侃,川北司郎,浜博和:連続立体ラーメン免震橋の車両走行

時の振動特性,構造工学論文集,Vol.44A,pp.801-810,1998.3.

19) 大阪モノレール技術委員会:第 5回大阪モノレール技術委員会検討資料,2007.

20) C.H. Lee, M. Kawatani, C.W. Kim, N. Nishimura, Y. Kobayashi: Dynamic response of

a monorail steel bridge under a moving train, Journal of Sound and Vibration, Vol.294,

pp.562-579, 2006.

21) 鈴木浩明,高井秀之,手塚和彦:鉄道の乗心地,鉄道総合研究所 Railway Research Review,

Vol.52, No.2, pp.6-13, 1995.2.

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4.2 免震設計

4.2.1 いろいろな用語についての準備

平成 14 年改訂の道路橋示方書・同解説V耐震設計編(以下,単に道路橋示方書と呼びます)

の規定に準拠しながら,免震設計の方法の流れを見て行くことにします.免震橋の話の中で

も,特に設計法についてはそのための独特の用語や概念があって,どうしてもこれらの意味

を理解しておくことが必要となります.3章までにも説明された事柄も含まれていますが,

そのおさらいの意味も兼ねて,橋の免震設計を行うための言葉の定義を確認していきましょ

う.

(1) 2種類の地震動:「レベル1地震動」と「レベル2地震動」

地震を考慮した構造物の設計を行おうと思ったら,その地震の揺れの強さや性質などを予

め仮定して決めておかなければなりません.そうでないと,どんな地震に対して安全性を確

保することを目標にして構造物を設計したら良いのかがわからないからです.

道路橋示方書では,その設計のために仮定する地震として2種類を考えなければならない

ことになっています.それらを「レベル1地震動」と「レベル2地震動」と呼んでいます.

レベル1地震動よりもレベル2地震動の方が揺れが強い地震であると考えてください.なぜ

2種類の地震動を考える必要があるのかと不思議に思うかもしれません(揺れの強いレベル

2地震動の方だけ考えれば十分なのでは?).揺れがより強い地震は,その構造物の建設され

る地点に実際に来る可能性は小さくなると考えられます.ですから,揺れの強さだけではな

くて,構造物が使われている間に発生する可能性や頻度がより高い地震も設計上考える必要

があるのです.道路橋示方書は,それらを考えて地震動の揺れの強さを2つに分類したとい

うことになります.

さらにレベル2地震動については,プレート境界型大規模地震による地震動と,内陸直下

型地震による地震動の2種類が考えられており,それぞれ「タイプIの地震動」と「タイプ

II の地震動」として定義されています.設計上は,タイプIのレベル2地震動は大きな振幅

が長時間繰り返して作用する地震であるのに対し,タイプ II のレベル2地震動は短い揺れの

継続時間で非常に大きな振幅が作用する地震で,特性が違う地震動として考えられたもので

す.

(2) 「免震橋」と「地震時水平力分散構造を有する橋」

道路橋示方書には,「免震橋」とまた別の種類の橋として「地震時水平力分散構造を有する

橋」が定義されています.道路橋示方書の中では,免震橋で用いられる支承を「免震支承」,

地震時水平力分散構造を有する橋で用いられる支承を「地震時水平力分散支承」と呼んでい

て,その機能については 3.1 節でも説明されている通りです.しかしながら,この章で扱っ

ている設計法という観点からは,この2種類の支承の本質的な差はどのような設計方針で使

われるかという違いで,支承そのものは同じものを指していることもありますので,この章

の説明では用語を簡単にするために,敢えてどちらの種類のゴム支承も単に「免震支承」と

呼ぶことにします.そして,この免震支承を使った橋の設計法を「免震設計」として説明し,

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道路橋示方書で言うところの「免震橋」と「地震時水平力分散構造を有する橋」(「水平力分

散構造の橋」と呼ぶことにします)の設計法での違いがあれば,その相違を説明することに

します.

(3) 橋の重要度

設計しようとする橋は,重要度に応じて「A 種の橋」「B種の橋」の2種類に区分されます.

B 種が相対的に A種よりも重要度の高い橋となります.B 種の橋として,例えば高速自動車国

道,都市高速道路,一般国道の橋,跨線橋/跨道橋,地域の防災計画上の位置付けや道路の

利用状況から見て重要な橋,などが挙げられています.

(4) 橋の耐震性能

考慮すべき地震が決まったとして,設計を行おうとしたら,対象となる橋の構造物として

の挙動の設計上の目標が必要です.その目標を「耐震性能1」「耐震性能2」「耐震性能3」

の3段階に分けて考え,場合に応じて使い分けることになっています.

耐震性能1:地震によって橋としての健全性を損なわない性能

耐震性能2:地震による損傷が限定的なものにとどまり,橋としての機能の回復が速やか

に行い得る性能

耐震性能3:地震による橋が致命的とならない性能

大まかに言って,耐震性能1とは地震があっても修復作業などが一切不要という目標のこ

とで,耐震性能2とは地震があっても復旧が容易で,交通機能をすぐに再開できる状態に損

傷をとどめるという目標と考えられます.耐震性能3は, 悪の事態である落橋(橋桁の落

下)を生じないことを目標とします.

4.2.2 免震設計の流れ

橋の免震設計を行う時の手順は,単純にステップに分ければ次のようになります.(1) 常

時に対する設計 (2) レベル1地震動に対する設計 (3) レベル2地震動に対する設計変位の

設定 (4) 動的解析による照査 (5) 落橋防止システムの設計 以上の5ステップです.しか

し,このステップを順に追っていけば設計できるわけではなく,事情はもう少し複雑です.

設計を行う場合,橋の下部工・上部工が先に決まって,次に免震支承をそれに合わせて決

めるというわけでも,その逆の順序でもありません.免震支承の特性と,たとえば橋の部材・

橋脚の断面に対応する特性が互いに影響しあうことを考えて,免震支承と橋の下部工・上部

工なども含めた全体系として要求される性能を満足するように設計しなければならないので

す.

免震支承の復元力特性は非線形が強く,剛性は一定ではなくて変位振幅(設計変位)に応

じた等価剛性を使う必要があります.また,減衰定数も同様に,設計変位に依存する等価減

衰で記述します.等価剛性に基づいて橋全体系の固有周期が決まります.固有周期と,等価

減衰が決まれば橋全体が受ける地震力の大きさが決まり,それによって設計変位が決まりま

すが,これが 初に仮定した設計変位から変わっていれば,等価剛性や等価減衰もまた変化

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してしまいます.一般的には,設計の初期段階では簡単な仮定に基づいた手順で支承や下部

工の断面を決め,その後で上記のような繰り返し計算を行うことで,全てがうまく整合した

特性値を見つけるという手順になります.

これを押さえた上で,各段階のステップでの手順を簡単に見ていくと,次のようになりま

す.

(1) 常時に対する設計

免震支承の寸法などの設計を,鉛直反力,温度変化,乾燥収縮の影響などをもとにまず決

めます.

(2) レベル1地震動に対する設計

「耐震性能1」を目標として,静的照査法に基づいた設計を行います.この段階では実質

上,上で与えられた免震支承を前提として,下部工の断面などが決まることになります.な

お,静的照査法とは,仮定された地震による作用を,固有周期と減衰定数に対応した静的な

力で置き換え,その静的な力が作用した時に構造物が許容値を満足していることを確かめる

方法のことです.

なお,この静的な力の大きさを求める時に,免震構造では等価減衰による低減を考慮しま

すが,水平力分散構造の橋では減衰定数による低減を行ってはいけないことになっています.

(3) レベル2地震動に対する設計変位の設定

A 種の橋の場合「耐震性能3」を,B種の橋の場合「耐震性能2」を目標として設計を行い

ます.そのために,レベル2地震動に対する免震支承の設計変位を決めますが,橋脚の終局

水平耐力または基礎の 大応答変位に対応する水平力を基本的に免震支承に作用する力とし

て一つに決め,免震支承の非線形復元力特性に対応する等価剛性と考え合わせて設計変位を

決めるようになっています.

(4) 動的解析による照査

レベル2地震動に対する設計は動的照査に基づいて行うことになっており,動的照査には

実は2種類の方法が定められていますが,免震設計の場合は動的解析を使うことになってい

ます.動的解析を行って,橋の部材や要素が定められた許容値以下を満足しているかどうか

を調べます.

このうち,鉄筋コンクリート橋脚については,応答塑性率と,耐震性能2ではさらに加え

て残留変位が許容値以下となっていることを照査します.ここで,水平力分散構造の橋では

通常の免震支承を使わない橋と同じ許容値を使いますが,道路橋示方書でいう「免震橋」で

は,応答塑性率に関する安全率を通常の2倍として,より厳しい許容値を用いることが定め

られています.なお,これは鉄筋コンクリート橋脚に対する規定で,鋼製橋脚ではこのよう

な規定は設けられていません.

次に,免震支承については,目安としてひずみ 250%を許容値として,応答ひずみを照査し

ます.また,支承の等価剛性が設計値から許容誤差 10%以内に収まっていること(支承に生

じる変位が設計変位から許容誤差 10%以内であること)で整合性を確認し,もしこれを満足

していなければ,設計変位を変更して同じ計算を繰り返します.

これ以外にも,橋脚基礎,橋台基礎,上部工についても同様に応答値が許容値以下である

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ことなどを照査します.

(5) 落橋防止システムの設計

フェイルセーフ機構として,けたかかり長,落橋防止構造,変位制限構造,段差防止構造

の4つの構成要素を設計します.