4
33-1 転倒降伏耐震壁に関する実験的研究 上枝 豊 1 研究目的 本研究においては、従来にない降伏機構を有する耐 震壁の提案を行った。提案する耐震壁は、耐力が転倒 モーメントにより支配されることから転倒降伏耐震壁 と呼ばれ、履歴型ダンパーを内蔵し、フレーム架構の変 形モードと同じ変形モードを有する所に特徴がある。 本論においては、試設計を行った 12 層建物の部分架 構に関する実験結果について報告する。研究の目的は 次の 2 点である。 1)利便性を考慮した転倒降伏耐震壁を提案し、想定し たとおりの降伏機構を形成することの検証 312 層建物の静的及び動的挙動の解析 1) に用いた解析 プログラムの精度の検証 2 実験計画 試験体は、 12 層建物より取り出した 1 1 スパン耐震 壁の 1/4 縮尺モデルで、 4 体製作した。なお、試験体製作 に当っての共通仕様を以下に述べる。 1)柱のコンクリー トは縦打ちであるが、壁板のコンクリートは横打ちとし た。 2)壁のせん断補強筋は直径4mm の丸鋼(間隔50mm で配筋)を用い、周辺の鉄骨枠とは接合を行わなかった。 したがって、鉄骨枠と鉄筋コンクリート壁板は一体的に 挙動するようには製作されていない。 3)柱脚部分が極短 柱となり大きなせん断力を負担することになる。そのた め全試験体の柱には、コンクリート充填角形鋼管柱(以 CFT 柱と書く)を用いている。 4 体の試験体の詳細について述べる。 WCO 試験体:繋梁を 2 階床梁の中央に設置した中央開 口型試験体で、壁板の詳細と繋梁の耐力は異なるが、他 は試設計建物 1) 1/4 縮尺モデルである。壁板は板厚 70mmの高強度プレーンコンクリート壁板と板厚3.2mm の鋼板(周辺鉄骨枠とは両面隅肉溶接により接合)より なる合成壁板となっている(図1 a 参照)。 WSO 試験体:片側開口型試験体で、開口の幅は中央開 口試験体(WCO)より若干大きい。壁板は板厚 100mm で、高強度コンクリートを使用し、ひび割れ分散のため に鉄筋を配筋している。壁筋と周辺鉄骨枠には溶接を 行っていない。壁板には鋼板を用いず、鉄骨枠の四隅を 三角形スチフナー(板厚 9mm)で補強している。CFT 柱脚においては殆どの水平力を壁の付いた柱が負担す ることになるため、壁付き柱の脚部ウエブ両側に板厚 9mm の鋼板でせん断補強している。また、繋梁はせん 断降伏させるため、フランジ部分に板厚 9mm の鋼板で 曲げ補強している(図1 b 参照)。 WVD 試験体:中央鉛直スリット開口耐震壁試験体で、 スリット幅は10mmである。この試験体のエネルギー吸 収部材には、鉛直ダンパーが用いられている。壁板の設 計はWSO 試験体と同様である(図1c 参照)。鉛直ダン パーは圧縮時の座屈が問題となるため、アンボンドブ レースの構造詳細を参考としている。 WHD 試験体:提案する転倒降伏耐震壁においては、繋 梁や鉛直ダンパーを取替え(あるいは補修)可能なエネ ルギー吸収部材(デバイス)と考えている。本試験体は、 実験が終了したWVD試験体の鉛直ダンパーを、水平ダ ンパーに取替えることにより作成した試験体である 図1d参照)。水平ダンパーとしては、 WCOおよびWSO の繋梁と同じ寸法の H 形鋼を用いている。 試験体に用いた鋼材の力学的性質と、コンクリート の試験時材令における力学的性質を表1に示す。 加力装置の概略図を図2に示す。試験体には、12 建物の 1 層に生じる軸力に対応する鉛直荷重 529kN 載荷し、実験中一定に保持した。水平力は油圧ジャッキ により繰返し載荷を行った。正負荷重とも図3に示す ように圧縮力により載荷した。この事は、梁に圧縮力が 導入されることを意味する。図3に示すδ 1 、δ 2 、δ 3 を計測し、骨組の層間変形角と繋梁の部材角を測定し 表1 材料の力学的性質 σ y (MPa) σ u (MPa) c σ B (MPa) H-175x175x7.5x11 287 455 Steel Tube(-175x175x6) 338 451 Columns, Beams 40 Wall Panel 108 H-175x175x7.5x11 327 485 Steel Tube(-175x175x6) 411 480 Columns 41 Wall Panel 113 Vertical Damper 335 499 Steel Tube(-175x175x6) 411 480 H-175x175x7.5x11 334 489 Steel Tube(-175x175x6) 411 480 Columns 38 Wall Panel 87 WVD, WHD WCO WSO WVD WHD

転倒降伏耐震壁に関する実験的研究...CFT柱 水平力載荷用PC鋼棒 PC鋼棒 カウンターバランス装置 ジャッキ(100ton) ワイヤー 面外補剛装置

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33-1

転倒降伏耐震壁に関する実験的研究

上枝 豊

1 研究目的 本研究においては、従来にない降伏機構を有する耐震壁の提案を行った。提案する耐震壁は、耐力が転倒モーメントにより支配されることから転倒降伏耐震壁と呼ばれ、履歴型ダンパーを内蔵し、フレーム架構の変形モードと同じ変形モードを有する所に特徴がある。 本論においては、試設計を行った12層建物の部分架構に関する実験結果について報告する。研究の目的は次の 2点である。1)利便性を考慮した転倒降伏耐震壁を提案し、想定したとおりの降伏機構を形成することの検証

3)12層建物の静的及び動的挙動の解析 1)に用いた解析プログラムの精度の検証

2 実験計画 試験体は、12層建物より取り出した1層1スパン耐震壁の1/4縮尺モデルで、4体製作した。なお、試験体製作に当っての共通仕様を以下に述べる。1)柱のコンクリートは縦打ちであるが、壁板のコンクリートは横打ちとした。2)壁のせん断補強筋は直径4mmの丸鋼(間隔50mm

で配筋)を用い、周辺の鉄骨枠とは接合を行わなかった。したがって、鉄骨枠と鉄筋コンクリート壁板は一体的に挙動するようには製作されていない。3)柱脚部分が極短柱となり大きなせん断力を負担することになる。そのため全試験体の柱には、コンクリート充填角形鋼管柱(以下CFT柱と書く)を用いている。 4体の試験体の詳細について述べる。WCO試験体:繋梁を 2階床梁の中央に設置した中央開口型試験体で、壁板の詳細と繋梁の耐力は異なるが、他は試設計建物 1)の 1/4縮尺モデルである。壁板は板厚70mmの高強度プレーンコンクリート壁板と板厚3.2mm

の鋼板(周辺鉄骨枠とは両面隅肉溶接により接合)よりなる合成壁板となっている(図1 a参照)。WSO試験体:片側開口型試験体で、開口の幅は中央開口試験体(WCO)より若干大きい。壁板は板厚 100mm

で、高強度コンクリートを使用し、ひび割れ分散のために鉄筋を配筋している。壁筋と周辺鉄骨枠には溶接を行っていない。壁板には鋼板を用いず、鉄骨枠の四隅を三角形スチフナー(板厚 9mm)で補強している。CFT

柱脚においては殆どの水平力を壁の付いた柱が負担することになるため、壁付き柱の脚部ウエブ両側に板厚9mmの鋼板でせん断補強している。また、繋梁はせん断降伏させるため、フランジ部分に板厚9mmの鋼板で曲げ補強している(図1 b参照)。WVD試験体:中央鉛直スリット開口耐震壁試験体で、スリット幅は10mmである。この試験体のエネルギー吸収部材には、鉛直ダンパーが用いられている。壁板の設計はWSO試験体と同様である(図1c参照)。鉛直ダンパーは圧縮時の座屈が問題となるため、アンボンドブレースの構造詳細を参考としている。WHD試験体:提案する転倒降伏耐震壁においては、繋梁や鉛直ダンパーを取替え(あるいは補修)可能なエネルギー吸収部材(デバイス)と考えている。本試験体は、実験が終了したWVD試験体の鉛直ダンパーを、水平ダンパーに取替えることにより作成した試験体である(図1d参照)。水平ダンパーとしては、WCOおよびWSO

の繋梁と同じ寸法のH形鋼を用いている。 試験体に用いた鋼材の力学的性質と、コンクリートの試験時材令における力学的性質を表1に示す。 加力装置の概略図を図2に示す。試験体には、12層建物の 1層に生じる軸力に対応する鉛直荷重 529kNを載荷し、実験中一定に保持した。水平力は油圧ジャッキにより繰返し載荷を行った。正負荷重とも図3に示すように圧縮力により載荷した。この事は、梁に圧縮力が導入されることを意味する。図3に示すδ

1、δ

2、δ

3

を計測し、骨組の層間変形角と繋梁の部材角を測定し

表1 材料の力学的性質σy

(MPa)

σu

(MPa)cσB

(MPa)

H-175x175x7.5x11 287 455

Steel Tube(□-175x175x6) 338 451

Columns, Beams 40

Wall Panel 108

H-175x175x7.5x11 327 485

Steel Tube(□-175x175x6) 411 480

Columns 41

Wall Panel 113

Vertical Damper 335 499

Steel Tube(□-175x175x6) 411 480

H-175x175x7.5x11 334 489

Steel Tube(□-175x175x6) 411 480

Columns 38

Wall Panel 87WVD, WHD

WCO

WSO

WVD

WHD

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33-2

配筋図立面図H-175×175×7.5×11

H-100×100×6×8

□-175×175×6CFT柱

壁板t=100

水平ダンパー

350

650

260

D13@50

625 1500 6252750

ダイヤフラムシュミレーター

H-175×175×7.5×112-D2

配筋図立面図H-175×175×7.5×11

H-100×100×6×8

□-175×175×6CFT柱

壁板t=100

鉛直ダンパー

350

650

260

625 1500 6252750

ダイヤフラムシュミレーター

D13@50

2-D2

図1 試験体の形状および寸法(c)WVD試験体 (d)WHD試験体

2-D22

□-175×175×6

H-175×175×7.5×11

PL-450×150,t=9

2750625 1500 625

1000

400 175 750

CFT柱

D13@50

繋梁H-175×175×7.5×11

壁板t=100

175

H-175×175×7.5×11

(a)WCO試験体 (b)WSO試験体

(単位:mm)

た。載荷プログラムは正負交番漸増振幅繰返し載荷で、各変位振幅で 3回の繰返し載荷を行った。3 実験結果と結果の考察3.1 荷重-変形関係と降伏機構 図4に各試験体の水平荷重と層間変形角の関係を示す。図中の一点鎖線は、試設計12層建物の各種地震波に対する動的解析 1)により得られた最大応答水平荷重(耐震壁の1層部分における設計用せん断力)である。全ての試験体は、一点鎖線で示す設計用せん断力を上回る水平力時において転倒降伏機構を形成しており、せん断破壊を生じていない。最大応答水平力を上回る水平力を発揮しているのは、耐震壁の反曲点位置高さが12層建物の地震応答時と実験時では異なり、実験時の反曲点位置(2

層床位置)の方が低い位置にあるからである(図2参照)。耐震壁のせん断耐力は、最大水平力耐力実験値よりも大きいことは明らかであるから、いずれの耐震壁もせん断設計に関しては十分な余裕があると言える。図中の点線は転倒モーメント降伏機構時の全塑性耐力の計算値で、その計算式は図5に示すとおりである。M

t、M

c、Q

の計算に用いる鋼材の材料強度として降伏応力度σyお

よび引張強さσu(表1参照)を用いた場合について計算

し、それぞれ細線と太線で示している。 全ての試験体において、設計時に想定した降伏機構を生じた。所定の繰返し載荷を行った後、大変形時まで載荷を行ったWSO試験体及びWHD試験体の実験終了後の

図2 加力装置

図3 計測方法

h

Nδ2δ1

−PP δ3

θH P N= + cosθN kN= 529

δδ δ

=+1 2

2

N kN WCF=1587 ( )

状況を写真1に示す。図4より、試験体は耐震壁特有の高い水平剛性及び水平耐力を保有しており、履歴ループの形状は、比較的小さな層間変形時からエネルギー吸収が可能な形状となっているのが分かる。これが、本研究で提案する転倒降伏耐震壁の特性である。鉛直ダンパーを用いたWVD試験体はR=1.8×10-2rad.時に水平耐力を

1000

2750625 1500 625

繋梁H-175×175×7.5×11

壁板:コンクリート t=70   鋼板 t=3.2

□-175×175×6CFT柱

水平力載荷用PC鋼棒

PC鋼棒

カウンターバランス装置

ジャッキ(100ton)

ワイヤー

面外補剛装置

球座

ロードセル

滑り止め

加力梁

試験体 面外補剛装置

滑り止め

球座

球座

ロードセル

ピン

ジャッキ(200ton)

ロ型フレーム(上梁)

ロ型フレーム(柱)

ロ型フレーム(下梁)

正加力負加力

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33-3

喪失している。これは、鉛直ダンパーが2本とも破断したためである(写真2参照)。この場合も、鉛直荷重保持能力は維持している。履歴ダンパーには、鉛直荷重保持能力を期待しない設計となっているからである。 壁板に鋼板と高強度コンクリートを用いたWCO試験体は剛性が高く、他の 3体はWCOに比べると剛性がやや低い。特にWSO試験体の剛性が低いが、これは他の試験体に比較すると開口幅が若干大きいためである。壁板コンクリートには全ての試験体において、微細なひび割れが発生したが、特に損傷は見られなかった。壁板に鋼板を用いていない試験体においては、鉄骨枠とコンクリート壁板の間に肌別れが生じているのが観察された。鉛直ダンパーが破断したWVD試験体の鉛直ダンパーを繋梁に取り替えたWHD試験体は、再び転倒モーメント降伏機構による安定した復元力特性を示した。 壁板の終局水平耐力(転倒モーメント耐力)は、図5に示す算定式において、鋼材の引張強さσuを用いることによりほぼ評価できることが分かる。この耐力は、理論的には上限耐力であるが、実験値は大変形時にこの上限計算値より若干大きな耐力を発揮している。これ

は、繋梁のせん断耐力の評価にH型鋼フランジの枠効果を無視しているためと思われる。3.2 試験体各部の変形 図6に繋梁を用いた試験体の繋梁に生じた部材角と層間変形角の関係を示す。図6より、繋梁には、層間変形角の3~5倍の部材角が生じていることが分かる。この事より、繋梁は小さな層間変形角で早期降伏し、地震時における履歴型ダンパーの役割をすることが期待できる。従って、実際の設計にあたっては、疲労破壊、溶接部の亀裂が生じない様に細心の配慮が必要である。 転倒降伏耐震壁として、想定したような挙動を示したWCO,WSO,WHD試験体の3体について、耐震壁の軸方向伸縮量および2階床位置における回転角と層間変形角の関係を、それぞれ図7、図8に示す。前者は2

本の柱の伸縮量の平均値であり、後者は2本の柱の伸縮量の差をスパン長さで除したものである。回転角については各変形角振幅における除荷点の値を示している。WSO試験体のみ、回転角の大きさが正負荷重時で対称となっていないが、これは開口位置が対称でないためとCFT柱の軸方向剛性が圧縮時と引張時で異なるため

写真2 鉛直ダンパーの破断写真1 実験終了後の状況(左:WSO、右:WHD)

図4 各試験体の荷重 -変形関係

である。図7、図8よりいずれの量も小さく、純フレームの変形モードと同じであることが分かる。これが、転倒降伏耐震壁の特徴で、建物の構造解析時に立体効果の影響がそれほど問題とならない事を意味している。4 解析結果と実験結果の比較 本節においては、文献1で報告されている解析的研究で用いた解析手法による解析結果と実験結果の比較を行う。解析手法は、線材要素を用いた有限要素法によるもので、幾何学的非線型性を考慮している。断面の剛性はファイバーモデルにより評価されている。材

δHP P

Q

Mt McL

h

θ

θ θ

図5 全塑性耐力の計算仮定

M Hh M M QLOTM t C= = + +

H M M QLh

t C=+ +

Mt、M

c:軸力(P±Q)を考慮に

入れたCFT柱の曲げ耐力   Q:繋梁のせん断耐力

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

WHD

層間変形角(×10-2rad)

解析結果による耐震壁の負担せん断力

全塑性耐力σu全塑性耐力σy

実験値解析値

解析結果による耐震壁の負担せん断力

全塑性耐力σu全塑性耐力σy

実験値解析値

WSO

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

WVD

解析結果による耐震壁の負担せん断力

全塑性耐力σu全塑性耐力σy

水平力(

kN)

層間変形角(×10-2rad)

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1000

WCO

水平力(

kN)

解析結果による耐震壁の負担せん断力

全塑性耐力σu全塑性耐力σy

実験値解析値

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33-4

図6 繋梁の部材角と層間変形角の関係

図7 軸方向の伸縮量と層間変形角の関係

図8 2階床位置における回転角と層間変形角

料のモデル化については,鋼材の応力 -歪関係を大井・秋山モデルとし,コンクリートの応力 -歪関係を崎野・孫モデルとした。ここで説明を要する事項は、壁コンクリートのモデル化である。実験において、コンクリートと鉄骨枠の間に隙間が観察されたことから、コンクリートには引張応力は生じていなかったと考えられる。そこで、図9に示す斜材は圧縮力のみを負担する壁モデルとした。また、斜材の両端はピン接合とし、曲げモーメントを生じないようにしている。解析結果を実験結果と合わせて図4に示す。いずれの試験体についても比較的精度良く評価していることが分かる。また、破壊性状についても、図10および図12に示すとおり、繋梁の部材角、壁板のせん断変形角、ともに精度良く評価しており、各試験体の特徴を良く捉えていることが分かる。壁板のせん断変形角の値は式 1に基づいて算定している(図 11参照)。

4 結論 本研究で提案する転倒降伏耐震壁に関して、4体の実験及び解析を行い、以下の結論を得た。(1)耐震壁の変形性状は、柱脚に形成される塑性ヒンジと繋梁の変形性状に支配され、エネルギー吸収能力の大きい安定した復元力特性を示した。ただし、WVD試験体のみに関しては鉛直ダンパーの破壊性状が不安定であったため鉛直ダンパーの設計詳細を検討し直す必要がある。

(2)繋梁は、小さな層間変形角でせん断降伏し、繰り返し載荷時において大きなエネルギーを吸収することから、履歴ダンパーとしての性能を持つことが期待できる。

図 10 繋梁の部材角(実験結果と解析結果の比較)

図 12 壁板のせん断変形角(実験結果と解析結果の比較)

図9 試験体の解析モデルWSO試験体 WHD試験体

図 11 壁板部の変位計測

γ =(d1+d

2)/(2・h・cosθ)……(1)

γθ

d d1 2

(3)節点挙動で見た場合、フレーム架構と同様な節点挙動を示しており、曲げ降伏する耐震壁特有の引張側柱の浮き上がり現象を生じていない。

(4)線材要素を用いた有限要素法解析により、実験結果を精度良く評価出来ることが明らかとなった。

参考文献1)山口達也、日高桃子、崎野健治:転倒降伏耐震壁を有する建物に関する解析的研究(その 1・2)、日本建築学会九州支部研究報告 第 42号・1、pp.417~ 424、2003

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

WCO

層間変形角(×10-2rad)

2階床位置の回転角(×

10-2

rad)

0.25 0.5 0.75 1.0 1.25 1.5 1.75 2.0

WHD

層間変形角(×10-2rad)0.25 0.5 0.75 1.0 1.25 1.5 1.75 2.0

WSO

層間変形角(×10-2rad)0.25 0.5 0.75 1.0 1.25 1.5 1.75 2.0

-2 -1 0 1 2層間変形角(×10-2rad)

WHD

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

-2 -1 0 1 2層間変形角(×10-2rad)

柱の伸縮量(×

10-2) WCO

-2 -1 0 1 2

WSO

層間変形角(×10-2rad)

-2 -1 0 1 2層間変形角(×10-2rad)

WSO

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

-2 -1 0 1 2

繋梁部材角(×

10-2

rad)

WCO

層間変形角(×10-2rad)-2 -1 0 1 2層間変形角(×10-2rad)

WHD

-2 -1 0 1 2

○● 実験値解析値

層間変形角(×10-2rad)

WHD

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-2 -1 0 1 2

○● 実験値解析値

層間変形角(×10-2rad)

繋梁部材角(×

10-2

rad)

WSO

-2

-1

0

1

2

-2 -1 0 1 2

壁板のせん断変形角(×

10-2

rad)

層間変形角(×10-2rad)

WSO

○● 実験値解析値

-2 -1 0 1 2層間変形角(×10-2rad)

WHD

○● 実験値解析値