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定量分析の試験室間共同試験の設計と解析のポイント
(独)食品総合研究所
内藤成弘
2
目 次
• ガイドラインの紹介
• AOAC Int. ガイドラインのポイント紹介
• 配付試料の均一性確認テスト
• GMO定量分析法の妥当性確認で実際に問題になった点
• 付録
食品の機能性及び安全性に関する総合研究「分析の妥当性確認」 勉強会資料2005年6月3日
食品総合研究所2005年9月14日版
National Food Research Institute, Japan
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1)AOAC Int. (2003). Appendix D: Guidelines for Collaborative Study Procedures to Validate Characteristics of a Method of Analysis. In Official Methods of Analysis of AOAC Int. 17 ed. volume II, Gaithersburg,MD,USA.
2)ISO 5725-1~5725-6 (6分冊): 1994 or 1998 年刊5725-2: 1994 Accuracy (trueness and precision) of measurement
methods and results - Part 2: Basic method for thedetermination of repeatability and reproducibility of astandard measurement method.
JIS Z 8402-1~6:1999年刊 (ISO 5725に対応)
3)Horwitz, W. (1995). Protocol for the Design, Conduct and Interpretation of Method-Performance Studies. Pure & Appl. Chem., 67(2), 331-343.
試験室間共同試験のガイドラインHarmonized protocol -- AOAC Int., ISO, IUPAC
定量分析法を用いた試験室間共同試験に関する国際的ガイドラインにはAOAC International, ISO, International Union of Pure and Applied Chemistry (IUPAC, 国際純正・応用化学連合)の三者が合意したHarmonized protocolがある。三者の中でAOAC Internationalのガイドラインが最も新しいため、ここではこのガイドラインを中心に紹介する。 AOAC InternationalのガイドラインにはHarmonized protocolではないことを明記した上で、定性分析法の試験室間共同試験についても部分的に記載されている。
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食品総合研究所2005年9月14日版
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試験室間共同試験の目的
• 数ある試験室の中の1試験室が1回分析したときの分析誤差 の推定が主目的
• 参加試験室は多数の試験室の代表• 1試験室では室内変動(併行分析)の誤差しか求まらない
分析値=真値+室間変動+室内変動
m
mが推定値
0 0
SrSL
2 2 2R L rS S S= +
ある1カ所の試験室に試料の分析を依頼し、1回分析してもらったときの分析値の誤差の代表的な値を知るために試験室間共同試験を行う。
試験室は一定の分析レベル以上の試験室の代表として参加するため、新しい分析法については参加試験室の分析値のばらつきが一定の目標値以下になるように習熟した後に試験室間共同試験を実施する。
化学分析値についての併行標準偏差Srは室間再現標準偏差SRの1/2~2/3程度と言われている (Horwitz et al., 1980)。
参考文献
Horwitz, W., Kamps, L.R. and Boyer, K.W. (1980). Quality control. Quality assurance in the analysis of foods for trace constituents. J. AOAC, 63(6),1344-1354.
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• 材料数 :5以上例外:3以上(1マトリックス1濃度)
• 試験室数:8以上(外れ値として除去されない有効なラボ数)
例外:5以上(高額機器、専門ラボ)
• 各試験室の反復数:2 ・ Youdenペア(濃度差5%以内)・乱数でコード化した
非明示の2反復試料
設計上の必要最低条件ー 定量分析 ー
参加試験室数の2/9以下
基本的に
(付録1参照)
一つの材料(material)とは、一つのマトリックス(分析対象成分と共存する他の成分 )における、ある一濃度の一成分のことである。
得られる情報の精度とコストのバランスを考えたときの最適試験室数は8~10(valid data)であるが、これ以上の試験室数が認められない訳ではない。一般的には1試験室1分析者である。試薬・検量線作成・カラムなどを独立に準備しなければ、同じ試験室の2人の分析者を2試験室の代わりにすることは一般的にはできない。同じ組織内の異なる試験室は、各々が分析機器、試薬などを所有して独立に運営されているならば、別々の試験室として参加できる。
一般的には試験室内の反復誤差よりも試験室間の誤差の方が大きいため、各試験室の反復数を3回以上にして試験室内の反復誤差の測定精度を高くするよりは、試験する濃度および/またはマトリックスを増やす方が有効である。
試験室内の反復誤差は内部精度管理データで既知な場合などに、各試験室の反復数を1回にして室間再現標準偏差SRのみを求める試験室間共同試験をHarmonized protocolでは認めている。 この場合には各試験室の分析値から計算した不偏標準偏差が室間再現標準偏差SRに一致する。
反復測定する場合に用いる試料に関する試験室間共同試験のHarmonized protocol推奨順位は以下の通りである。1) Split level (Youdenペア)、2)試験の一部はYoudenペアの試料であり、他は非明示の2反復試料、3)乱数でコード化した非明示の2反復試料
4)独立した材料、5)明示した反復、6)品質管理用の材料
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• 試料番号 :乱数を使用
• 試験量:プロトコルに定めた必要量
• 配付試料の均一性確認
• 分析データ(生データ)、検量線データを報告してもらう
• プロトコルからの逸脱点は全て報告してもらう
実施上のポイントー 定量分析 ー
添加回収試験データあれば提出してもらう
注)共同試験では1試料1回分析だが、均一性の確認テストでは1試料2回分析するだけの試料量が必要
余分な量は配付しない
試験室に配付する試料数を多く調製しておき、その中からランダムに10個以上の試料を抜き取り、各試料を2回併行分析して均一性を確認する(スライド14参照)ため、配付試料と均一性確認テストの試料は同一である。したがって、試験室への配付試料の量は2回併行分析が可能な最小の量である(スライド18参照)。
プロトコルで定めた試料量の半分の量でも同程度の精度で定量可能な場合は、均一性確認テストの試料量はプロトコルで定めた試料量の半分でも良い。
配付試料の均一性の確認テストの具体的な方法は、試験室間共同試験のHarmonized protocolに記載されていない。均一性確認テストの国際的ガイドラインとしては、技能試験に関するHarmonized protocol又はAOAC Int.のガイドラインが参考になる。
均一性テストの参考文献
Thompson, M.. and Wood, R. (1993). International Harmonized Protocol for Proficiency Testing of (Chemical) Analytical Laboratories. J. AOAC Int., 76(4), 926-940.
Thompson, M.. and Wood, R. (1993). The International Harmonized Protocol for the Proficiency Testing of (Chemical) Analytical Laboratories. Pure & Appl. Chem., 65(9), 2123-2144.
AOAC Int. (2002). OMA Program Manual Appendix E. A Statistical Model to Evaluate Analyte Homogeneity for a Material. http://www.aoac.org/vmeth/Manual_App_E.pdf
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解析するデータ構造
試験室1 試験室2 ・・・ 試験室L
測定値1 11x 21x ・・・ 1Lx
測定値2 12x 22x ・・・ 2Lx
和 1T 2T ・・・ LT
差 1d 2d ・・・ Ld
SL
Sr
和と差からSrとSRを計算
する方法をガイドラインでは説明
注)Youdenペアと非明示の2反復試料で計算式異なる(付録2参照)
定量分析法の試験室間共同試験で各試験室から集まるデータは、列方向に試験室、行方向に併行分析の測定値を配置すると、2回併行分析した場合には2行L列のデータになる。
列方向の測定値の変動からSL(スライド4参照)を、行方向の測定値の変動からSrを求め、室間再現標準偏差SRはSLの2乗とSrの2乗の和の平方根として求める。
試験室間共同試験のHarmonized protocolでは、測定値1と測定値2の和Tiと差diからSRとSrを計算する方法を説明している。Youdenペアと非明示の2反復試料では測定値の数は同じ2個だが、差diを用いてSrを計算する式が付録2に示すように異なる点は注意が必要である。
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8
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
3 13 9 14 8 7 4 11 2 10 5 15 6 12 1
試験室
分析値
試料1の分析値 試料2の分析値Youdenの2試料プロット
グラフによるデータチェック
試料Xの分析値
試料Yの分析値 1
2
3
4 5 6
7
8
9
10
11
12
13
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15総平均値
データ解析の初めにグラフを作成して測定値の様子を視覚的に確認することは非常に重要であり必須の作業である。例えば、相関係数だけで2変数の関連具合を判断するのは危険であり、相関プロットによる確認が必要である。
試験室間共同試験のHarmonized protocolに記載されている2種類のデータチェック用グラフについて説明する。
Youdenの2試料プロットは、 1個目の分析値の平均値と2個目の分析値の平均値を原点に取り、各試験室の1個目の分析値と1個目の分析値の平均値との差を横軸に、2個目の分析値と2個目の分析値の平均値との差を縦軸に取ったプロットである。分析値が偶然誤差(室内誤差)を主要因にしてばらついていれば、プロットは原点周りにランダムに現れるため縦軸と横軸で区切られた4区分にはほぼ等しい数のプロットが存在する。原点周りのプロットの範囲が狭ければ偶然誤差は小さいことを意味する。原点を通る右斜め45度の直線に近いプロットは室内再現性が高い(室内誤差が小さい)ことを意味するが、原点からの距離が遠いプロットはその試験室にバイアスが存在することを示す。Youdenの2試料プロットにより外れ値になりそうな試験室の有無、偶然誤差のおおまかな大きさを簡単に把握することができる。
右側のグラフは、各試験室の分析値の平均値が小さい順に試験室を左側から並べ、縦軸には各試験室の2個の分析値をプロットした折れ線グラフである。総平均値から大きく離れた試験室の有無、2個の分析値の差が他の試験室と大きく異なる試験室の有無を簡単に把握することができる。
これらのプロットを確認した上で外れ値検定を行えば、外れ値検定にミスがないかも判断しやすくなる。
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データ解析上のポイント
• 外れ値検定 Cochran検定 (各試験室の分散等しいか検定)Grubbs検定 (試験室毎の平均値の中の
外れ値検出)
• 併行標準偏差(repeatability standard deviation)Srの計算
• 室間再現標準偏差(reproducibility standard deviation)SRの計算
• 最終的な平均値および標準偏差は、計算機またはコンピュータで直接計算する。計算途中で四捨五入、切り上げ切り下げのような丸めを行わない。
一元分散分析で計算可
外れ値なくなるまで繰り返し
Single- and paired-
化学分析値のSRはSrの1.5倍~2倍かチェックする(付録2参照)
(付録1参照)
データ解析手順
1)最初に異常値(プロトコルからの逸脱など明らかな理由のあるデータ)を取り除く。
2)次に外れ値検定により外れ値を検出する。外れ値検定の流れは付録1参照。
3)外れ値を除いた残りのデータで報告書に記載する精度指標を計算する。
併行標準偏差Srと室間再現標準偏差SRは付録2に示す計算式で計算できる。
また、Excelの一元分散分析でも同じ計算結果を得ることができる。
Sr =Excelの一元分散分析表の「グループ内分散」の平方根。
SR= Excelの一元分散分析表の
{(「グループ間の分散」-「グループ内の分散」)/r+ 「グループ内の分散」}の平方根。
ただし、 SRの上式中のrは1試験室当たりの併行分析回数である。
参考文献
Cochran, W.G. (1941). The distribution of the largest of a set of estimated variances as a fraction of their total. Annals of Eugenics, 11, 47-52.
Grubbs, F.E. (1950). Sample criteria for testing outlying observations. Ann. Math. Statist. Assn., 21, 27-58.
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データ解析上のポイントその2
• 化学分析値はHORRAT(Horwitz Ratio)の計算
,%,%
R
R
RSDHORRATPRSD
=室間再現相対標準偏差
(実験値)
濃度のみで決まる室間再現相対標準偏差の経験則の値(Horwitzの式)
• Youdenペアは、試料Xと試料Yの分散が等しいかPitman検定行ってから一元分散分析の計算する。
相対標準偏差(又は変動係数)=標準偏差/平均値×100 (%)(付録3参照)
HORRATとは化学分析値について、試験室間共同試験データから求めた室間再現相対標準偏差RSDR(Reproducibility Relative Standard Deviation)とHorwitzの式で求めた室間再現相対標準偏差PRSDR(Predicted Reproducibility Relative Standard Deviation)の比である。AOAC Int.ではHORRATが0.5~2を許容範囲と設定しており、1.5以上については報告書の中で考察することを要求している。
つまり、過去の化学分析値の経験則から求めたPRSDRと比べて、実験で得られたRSDRが小さすぎても大きすぎても実験に何か問題がなかったか検討する方が良いことを意味している。
相対標準偏差(変動係数ともいう)は分析値の精度指標として広く用いられている。
・ HORRATの対象になる分析法多くの化学分析法
・ HORRATの対象外の分析法1)物理特性値粘度、屈折率、密度、pH、吸光度など
2)経験的分析法(empirical methods)例えば、食物繊維、酵素、水分、またはポリマーのように分子量不定なものの分析法
3)品質測定(”Qualty” measurement、品質の善し悪しを判定する測定法)例えば、固形物重量(drained weight)
参考文献
Pitman, E.J.G. (1939). A note on normal correlation. Biometrika, 31, 9-12.
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Horwitzの式
Horwitzの式の近似式
濃度 :a(%)のとき =a×10-2
a(ppm)のとき =a×10-6
実際にはこの式が用られている
50件以上の共同試験の結果を解析
J. AOAC, 63, 1344-1354(1980)
100,%
R
R
CRSD
σ ×=0.84950.02R Cσ =
CC
C
101 0.5log,% 2RCRSD −=
0.15,% 2RRSD C−=
Horwitzの近似式から変形して求めたσRの式は、配付試料の均一性の確認で利用される場合がある(スライド16及び17のσpとしてσRを利用)。
参考文献
Horwitz, W., Kamps, L.R. and Boyer, K.W. (1980). Quality control. Quality assurance in the analysis foods for trace constituents. J. AOAC, 63, 1344-1354.
Horwitz, W., Albert, R., Deutsch, M.J. and Thompson, J.N. (1990). Precisionparameters of methods of analysis required for nutrition labeling. part I. J. AOAC, 73, 661-680.
Horwitz, W. and Albert, R. (1996). Reliability of the determinations of polychlorinated contaminants (biphenyls, dioxins, furans), J. AOAC, Int., 79, 589-621.
Thompson, M. (2000). Recent trends in inter-laboratory precision at ppb and sub-ppb concentrations in relation to fitness for purpose criteria in proficiency testing. Analyst, 125, 385-386.
McClure, F.D. and Lee, J-K (2003). Computation of HORRAT Values. J.AOAC Int., 86, 1056-1058.
Horwitz, W. and Albert, R. (2004). Letters to the editor. J. AOAC Int., 87(2), 34A.
McClure, F.D. and Lee, J-K (2004). Letters to the editor. J. AOAC Int., 87(2), 35A-40A.
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報告書作成時のポイント
• 標準偏差の有効数字は2桁にする。
• 参加試験室はブランクの値を含め、事前説明がない限り、平均をとるなどの加工をしない生データを報告する。
• ブランクの値が試料の値より大きい場合は、ゼロではなく負の値を報告する。
• 「トレース(trace)」、「未満(less than)」の表現は共同試験実施責任者の指示に従う。ただし、言葉を用いた報告は統計処理で扱えないため避けるべきである。
• 例え定量下限以下の場合でも実際に得られた値を報告する。
計算に関する注意点
1)参加試験室の分析値を用いて報告のための最終的な平均値および標準偏差を
計算するときは、計算途中で四捨五入、切り上げ切り下げのような丸めを行わず、
計算機またはコンピュータで直接計算する。
2)1)で得られた標準偏差の有効数字は2桁にする。
3)平均値は標準偏差の表示に合わせる。例えば、SR=0.012ならば平均濃度は0.147、RSDR=0.012/0.147×100=8.2(%)と報
告する。平均濃度を0.1473あるいは0.15としてはならない。
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10)室間再現標準偏差(sR )
11)室間再現相対標準偏差(RSDR )
12)HORRAT(化学分析値の場合)
13)室間再現許容差(R=2.8sR )
14)報告可能なら回収率(% Rec)
報告書に記載すべき事項
1)材料(濃度の昇順に記載)
2)外れ値検定の後に残った試験室数
3)外れ値検定で除外された試験室数
4)平均値(単位)
5)既知ならば真値または設定値
6)併行標準偏差(repeatability standard deviation, sr )
7)併行相対標準偏差(RSDr )
8)併行許容差(r=2.8sr )
9)srが有効でないときのオプション:総室内標準偏差(se )
統計用語の有意差と同じ
2 2 2.82t=
≈∵
( ) ( ). . ; 2 ; 2el s d t df V n t df sα α= = ×Fisherの最小有意差
許容差は、統計用語の有意差と同じ意味であり、この値以上の平均値の差は両側の危険率5%で有意差ありと判定される。
室内の2個の分析値の差を検定するときは併行許容差を、異なる試験室の2個の分析値の差を検定するときは室間再現許容差を用いる。
統計用語の有意差では母集団平均値の推定値(サンプルの平均値)間の差を検定するために、サンプル平均値の変動指標として標準誤差を用いるが、SrおよびSRは不偏
標準偏差なので母集団の標準偏差の推定値である。よって、許容差は比較する2個の分析値の差は平均が0、標準偏差が2の平方根×Srまたは2の平方根×SRの正規分布
に従うと仮定している。許容差の係数2.8は、両側の危険率5%のときの正規分布の棄却限界値1.96×(2の平方根)を計算した値である。分散がS2の確率変数2個の差の分散は期待値の公式より2S2になるため、その標準偏差は2の平方根×Sになる。
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均一性を確認したい材料
分析用試料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
分析試料 分析試料 分析試料 分析試料
配付試料の均一性確認テスト
サンプリング誤差
分析誤差
m個サンプリング
r回併行分析
分析用試料
m=10以上、r=2が目安
AOAC Int. Manual (2002)はm=8、r=3を提案(付録4参照)
Harmonized protocol for proficiency Test(1993)
anS
samS
均一性を確認したい材料からm個の分析用試料をランダムに抜き取り、各分析用試料からサンプリング誤差が最小になるように分析試料r個を取り出し、m×r個の分析試料をランダムな順番に1回ずつ分析する。分析試料間の分析値の変動から分析誤差Sanの推定値を求め、分析用試料の分析値(上図ではr=2個の分析試料の分析値の平均値)の変動からサンプリング誤差の推定値Ssamを求める。具体的計算式は付録5を参照。
技能試験のHarmonized protocol (1993)とAOAC Int.のマニュアル(2002)では、推奨するmとrの値が異なるが、どちらかを参考に決めると良い。
参考文献
Thompson, M.. and Wood, R. (1993). International Harmonized Protocol for Proficiency Testing of (Chemical) Analytical Laboratories. J. AOAC Int., 76(4), 926-940.
Thompson, M.. and Wood, R. (1993). The International Harmonized Protocol for the Proficiency Testing of (Chemical) Analytical Laboratories. Pure & Appl. Chem., 65(9),2123-2144.
AOAC Int.のOMA Program Manual Appendix E (2002). A Statistical Model to Evaluate Analyte Homogeneity for a Material. http://www.aoac.org/vmeth/Manual_App_E.pdf
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反復回数 分析用試料 1 分析用試料 2・・・分析用試料m
1 11x 21x ・・・ 1mx ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ r 1rx 2rx ・・・ mrx
平均 1.x 2.x .mx ..x (総平均)
均一性テストのデータ構造
分析試料の分析値の分散
目安:サンプリング誤差 が分析誤差 と同程度以下なら均一
(付録5参照)
samS の推定
anS の推定
samS anS
2 2 2x an samS S S= +
データ構造は試験室間共同試験のデータ構造と同じになる。試験室と分析用試料が対応する。分析試料1個を1回分析したときの分析値のばらつきを示す分散は分析誤差の分散とサンプリング誤差の分散の和で表される。
各分析用試料を併行分析した分析値の変動から分析誤差Sanの推定値を求め、分析用試料の分析値(上図ではr個の分析試料の分析値の平均値)の変動からSsamの推定値を求める。具体的な計算方法は付録5を参照。
均一な材料とはサンプリング誤差が分析誤差と同程度以下の材料で、サンプリング誤差が分析誤差よりも大きな材料は不均一とみなされる。そのため、均一性の判断基準になる分析誤差が妥当な大きさであるかどうかを確認しておく必要がある。分析誤差が大きければサンプリング誤差が大きくても均一と判定されるので注意すべきである。化学分析値の場合はHorwitzの式から求まる室間再現相対標準偏差を目安にして分析誤差の相対標準偏差が大きすぎないか判断することができる。
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:共同試験の 、もしくはHorwitzの式の (化学分析値のみ有効)
均一性判定方法
1)一元分散分析のF値が有意でなければ均一と判定する。
2)F値が有意(p<0.05)な場合、 既知ならば Harmonized protocol for Proficiency Test (1993) の判定式で判定する。
例:サンプル濃度の設定値(又は平均値)が1ppmの場合、
( )6 0.8495 70.02 (1 10 ) 1.6 10 0.16R ppmσ − −= × × = × =
( )0.3 0.16 0.048samS ppm< × = なら均一と判定する。
判定式:
Rσ
SsamによるSRの増加が5%以下になる条件
0.3sam pS σ<
pσ RS
pσ
( )2 2
1 22 , ,an sam
an
S rSF F df dfS
α+= < α :危険率 1df :分子の自由度
2df :分母の自由度
スライド15で説明したデータ構造をもつ均一性確認データから均一性を判定する最も基本的な判定方法は一元分散分析を用いる方法である。計算上の注意としては、分散分析の前提条件である各分析用試料の分散(r個の分析値の分散)がほぼ等しいと言えるかCochranの検定で確認した後に一元分散分析をする手順をAOAC Int.の均一性確認テストのガイドライン(付録4参照)及びFAPASの技能試験のプロトコル内の均一性確認テスト(付録6参照)は採用している。技能試験のHarmonized protocol (1993)では外れ値を除外してから一元分散分析を行うと記述しているが、外れ値検定の方法を具体的には指定していない。
AOAC Int.の均一性確認テストのガイドライン(付録4参照)によると一元分散分析のF値が1未満の場合にはランダム化の失敗、一元分散分析モデルの仮定が適切でない等の理由が考えられ、F<1のときに均一と判定するのは適切でない。
再現性の高い分析法を採用した場合、分析誤差が非常に小さくなり、一元分散分析の検定統計量であるF値が有意(p<0.05)になることがある。この場合、分析対象とマトリックス、成分が同じ室間再現標準偏差SRの報告値がある、又はHorwitzの式が利用できる化学分析値の場合には、技能試験のHarmonized protocol (1993)の均一性判定条件式で均一と判定される場合がある。その理由は報告されているSRやHorwitzの式で求めたSRが均一性を確認するために用いている分析法のSRよりも大きい値のことがあるためである。
技能試験のHarmonized protocol (1993) の均一性判定式 Ssam < 0.3σpの右辺の0.3は、サンプリング誤差SsamがSRの0.3倍の場合、SRは5%大きく推定されるが、5%程度の誤差は許容できるので、これ以下のサンプリング誤差ならばSRの推定値の大きさに
影響はないことを意味している。
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GMOのようにHorwitzの式が使えない場合は、Proficiency testの報告書の 、共同試験の
論文の が使えないか検討する。
3) でなかった場合、 が既知ならば FAPAS protocol 6th ed. (2002)の判定式で判定する(付録6参照)。
均一性判定方法その2
0.3sam pS σ< pσ
RSRS
技能試験のHarmonized protocol (1993)の均一性判定式でも均一と判定されなかった場合には、σpが既知ならばFAPASのプロトコル (2002)内の均一性確認テスト が採用している均一性判定式(付録6参照)の利用を検討する。
均一性を判定するために、データから一元分散分析を用いて計算したサンプリング誤差Ssamは真のサンプリング誤差(均一性確認テストを多数回実施して得られるサンプリング誤差の値の分布の代表値)の推定値である。計算されたSsamはデータから考えて最も確からしい(その値を取る確率が最も高い)真のSsamの推定値なのであるが、真のSsamがもっと小さい値になる可能性は存在する。そこで、 Ssamの95%信頼区間の下限値を真のSsamの推定値とみなせば、一元分散分析で計算したSsamよりも小さな値になり、技能試験のHarmonized protocol (1993)の判定式の左辺が小さくなり、均一と判定される可能性が高くなる。
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• サンプル量:均一性を確認できる量(2回併行分析可能な量)
• PCRのプレート上のサンプル配置反復試料が同一プレートか別プレートかで分析誤差が
変わる
• 均一性確認テストPCR装置の安定性分析誤差が小さすぎてサンプリング誤差が有意になる
サンプル配置の工夫
FAPASの判定式採用誤差伝搬の法則により有効数字検討
実際に問題になった点- GMO定量分析法-
粒混合サンプルの均一性0.05, 100p n= = 0.05 0.04±のとき( )1
1.96p p
pn−
±(正規分布近似)
比率の95%信頼区間
Clopper and Pearson (1934)の信頼区間の方が正確GMO5%のロットから100粒抜き取ったときのGMO混入率の95%信頼区間
分析用試料から1回の分析に必要な量を1回サンプリングして抽出し、抽出液を2個に分注して各々1回分析しても均一性確認に必要な2個の併行分析値が得られる。しかし、この場合には分析試料の分析誤差は抽出後の誤差になるため非常に小さくなり、均一性を確認したい材料からのサンプリング誤差には分析用試料から分析試料をサンプリングする誤差も含まれるため、分析用試料から分析試料を2個サンプリングして各々抽出する本来の均一性確認テストの方法とは一元分散分析で検定する内容が変わってしまうので注意が必要である。分析用試料から分析試料を2個サンプリングして各々分析した方が試験室間共同試験の分析誤差に近い値で均一性を確認することになる。
同一プレート上に検量線用の標準試料と定量したい未知試料を配置して、PCR装置の定量目的には不安定な要素を改善する工夫をGMO定量法では採用しているが、それでも2個の未知試料を同一プレートに配置した場合と異なるプレートに配置した場合では分析誤差が変わるのでプロトコルで未知試料の配置を規定しておく必要がある。
加工食品のGMO定量分析法に関する試験において、加工原料のトウモロコシ又は大豆のGMO混入率を粒混合で調整することを検討した。粒混合の難しさの原因は、GMOが100%として入手した試料のGMO比率が97%程度、GMOでない試料のGMOでない比率が99.9%程度のため、100%同士の試料を重量混合したときのように設定した混入率に一致するとは限らず、一定の範囲の混入率の試料が確率的に得られることである。例えばGMO混入率5%の試料1kgを上記の加工原料の粒混合により調製した場合、混入率の95%信頼区間は4.7~5.2%になる。比率の信頼区間の計算には正規分布近似式がよく紹介されているが、近似精度が悪いためClopper andPearsonの信頼区間を利用した方が良い。
Clopper and Pearsonの信頼区間の参考文献竹内啓、藤野和建 (1981). 2項分布とポアソン分布. 東京大学出版会, 東京, pp.158-164.
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外れ値になる試験室数の比率が上限(2/9)を超える場合は、上限を超える前に外れ値検定を終了する。
この場合には、外れ値を全く除かず全データを用いて精度指標を計算するか、分析法を疑うべきである。
最終的にある値を外れ値として除くべきかどうかの決定は統計的に決める性質のものではない。
共同試験責任者が、外れ値検定により示された外れ値である確率および関連情報に基づいて判断しなければならない。
ただし、外れ値について独自の判断をしたとしても、他の共同試験結果との調和を保つため、ここでの外れ値検出手順に従った結果は報告すべきである。
付録1 外れ値検出
Cochranの検定有意
Y
精度指標の計算ループ開始
除外する試験室゙数が参加試験室゙数の2/9以内なら削除
外れ値1個のGrubbs検定有意
Y 除外する試験室゙数が参加試験室゙数の2/9以内なら削除
N
N
外れ値2個のGrubbs検定有意
除外する試験室゙数が参加試験室゙数の2/9以内なら削除
このループで除外した試験室有り
Y
終了最初及び最終の精度指標報告
N
N
Y
有効(Valid)でないデータのスクリーニング
異常値の除去
プロトコルに従わなかった等理由が明らかな異常値を除外した後に、外れ値検定の流れ図に従って外れ値を検出・除外する。
外れ値を除去した後のデータ解析に有効な試験室は、解析で得られる精度に関する統計量の信頼区間の精度を確保するため最低8試験室は必要と定められている。
試験室数が多い共同試験の場合には棄却率上限の2/9はもっと低い方が適している。
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付録2 Sr, SRの計算
2 2
2d r
RS SS +=
各試験室が2個の分析値を報告した場合
Youdenペアの場合非明示の2反復試料の場合
非明示の2反復試料、Youdenペアに共通
Excelの一元分散分析の出力の「グループ内の分散」は 、
「グループ間の分散」は に等しい。
2rS
2dS
2
1
2
L
ii
r
dS
L==∑ ( )
( )
2
1
2 1
L
ii
r
d dS
L=
−=
−
∑
( )( )
2
2 1
2 1
L
ii
d
T TS
L=
−=
−
∑
試験室間共同試験のHarmonized protocolには、併行標準偏差Srと室間再現標準偏差SRを各試験室の2個の分析値の和Tiと差diから計算するための式が掲載されている。
非明示の2反復試料の場合は、2個の分析値の差の期待値はゼロであり、L個のdiは自由な値をとることが可能なためL個のdi2乗の和を自由度Lで割って不偏分散を計算する。1個ずつの分析値はSrの2乗を分散にもつ分布に従うため、2個の分析値の差diの分散はSrの2乗の2倍になる。そこで、Srは先に計算した不偏分散を2で割った平方
根になる。
Youdenペアの2個の分析値は5%以内の差があるように試料を調製してあるため、 diはゼロにならず、その真の値はdiの平均値で推測することになる。 Srはdiとdiの平均値との差の2乗をL個足し、それを自由度L-1で割って不偏分散を計算し、その不偏分散を2で割った後の平方根になる。自由度がL-1になる理由は、diの平均値を用いるためL番目のdiは自由な値を取れず自由な値を取れるdiはL-1個しかないからである。分母の2の意味は、非明示の2反復試料の場合と同じである。
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( )( )( )
7
0.8495 7
0.5
0.22 1.2 10
0.02 1.2 10 0.138
0.01 0.138R
C C
C C
C C
σ
−
−
⎧⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎩
< ×
= × ≤ ≤
>
付録3 Horwitzの式の修正案Thompson, M. (2000). Recent trends in inter-laboratory precision at ppb and
sub-ppb concentrations in relation to fitness for purpose criteria in proficiencytesting. Analyst, 125, 385-386.
マイコトキシンに関する研究報告9件の47材料のデータから計算
・FAPAS protocol 6th ed. (2002)は採用・AOAC Int.は今のところ未採用 データ蓄積待ちか
室間再現標準偏差の経験則の値
化学分析値の濃度が1.2×10-7未満の場合と、0.138より高い場合にHorwitzの式を修正した式が2000年に提案された。FAPASの技能試験に関するプロトコル (2002)ではこの修正式を採用しているが、AOAC Int.では2005年7月現在では採用していない。
AOAC Int.の試験室間共同試験に関するガイドラインでは、高濃度側(100%付近)と低濃度側(10-8以下)でのHORRATの有効性については疑問があるため、これらの濃度域でのHORRATの利用はレフリーの判断にゆだねている。
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13sam anS S<
AOAC Int.のOMA Program Manual Appendix E (2002)
判定手順1)Cochran test (等分散の検定、危険率:上側5%)
2)Intra-class correlation analysis (一元分散分析のF検定の変形、危険率:上側5%)
3)
付録4 均一性確認テストのガイドライン
22 2 2 10 1.0543 9
anx an sam an an an
SS S S S S S⎛ ⎞⎟⎜= + = + = =⎟⎟⎜⎝ ⎠
AOAC Official Methods
2
2 2sam
an sam
SS S
ρ=+
F.D.McClure著
:分析試料の分析値の標準偏差
http://www.aoac.org/vmeth/Manual_App_E.pdf
サンプリング誤差による影響が5%以下xS
Cochran testでは均一性を確認したい材料からサンプリングしたm個の分析用試料毎の分散(r個の分析値の分散)が等しいかどうか検定する。これは分散分析の前提条件である等分散性をデータが満たしているかを確認するためである。
次に一元分散分析を行い、 intra-class correlationを計算し、その値が棄却限界値より小さいことを確認する。これは一元分散分析のF検定の結果が有意でないことに相当する。 intra-class correlationの計算に必要なSsamとSanの計算方法は付録5参照。
intra-class correlationの棄却限界値はAOAC Int.のOMA Program Manual Appendix E (2002)内の数表を参照する。サンプリング誤差の標準偏差Ssamが分析誤差の標準偏差Sanの1/3よりも小さいという均一性の判定条件は、技能試験のHarmoized protocol (1993)内の均一性判定式のSRよりもSan(= Sr)の方が一般的に小さいので、より厳しい条件である。
判定式Ssam < 1/3×Sanの右辺の1/3という値は、分析値の誤差を表す標準偏差Sxが
サンプリング誤差により大きくなるのは5%まで許容することを意味している。
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付録5 San, Ssamの計算
( )2. ..2 21
1
m
i ii
an sam
x xS rS
m=
−= +
−
∑
Excelの一元分散分析の出力の「グループ内の分散」に
等しい
Excelの一元分散分析の出力の「グループ間の
分散」に等しい
( )( )
2
.1 12
1
m r
ij ii j
an
x xS
m r= =
−=
−
∑∑
Excelの一元分散分析:「ツール」の中の「分析ツール」の中の「分散分析:一元配置」
anS = グループ内の分散
samSr
= グループ間の分散-グループ内の分散
配付する材料の均一性確認テストで、m個の分析用試料(test sample)をサンプリングし、各分析用試料からr個の分析試料 (test portion)を分析した場合、サンプリング誤差Ssamと分析誤差Sanは一元分散分析を用いて計算することができる。
Sanは各分析用試料の分析値と分析試料の分析値の差の2乗をr個足し、それをm個の分析用試料分足したものを自由度m(r-1)で割った不偏分散の平方根になる。ここで、分析用試料の分析値はr個の分析試料の分析値の平均値である。
m×r個の全分析値の平均値と分析用試料の分析値の差の2乗をm個足したものを自由度m-1で割った不偏分散は、分析誤差の分散とサンプリング誤差の分散のr倍の和に等しい。よって、この分散から分析誤差の分散を引き、rで割るとサンプリング誤差の分散が得られ、その平方根がSsamになる。
Excelの一元分散分析で出力される分散分析表では、「グループ内分散」と「グループ間分散」という2種類の分散を用いてSsamとSanを計算することができる。
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FAPASのprotocol 6th ed. (2002)
1)Cochran test (等分散の検定、危険率:上側5%)
2)判定式:
の条件緩和した判定式
右辺第2項は一元分散分析のF検定と同値
1993年のProficiency TestのHarmonized protocolの判定式
十分に均一な条件“sufficient homogeneity”
付録6 均一性確認テストのガイドラインその2
:Allowable sample SD
:target SD
T.Fearn and M. Thompson (2001)
( )22 2 2 0.3
1.09 1.04
R sam R R
R R
S S S S
S S
+ = +
= =
サンプリング誤差による影響が5%以下
21,0.95 1, ,0.952 2 2 2 2
1 2
11 2
m m msam all an all an
FS S F F S
mχ
σ σ− − −≤ + = +
−
allσpσ
0.3sam all pS σ σ< =
0.3sam all pS σ σ< =
:共同試験のSR、もしくはHorwitzの式の (化学分析値のみ有効)
pσRσ
FAPASの均一性確認テストの手順Cochran testでは均一性を確認したい材料からサンプリングしたm個の分析用試料毎の分散(r個の分析値の分散)が等しいかどうか検定する。これは分散分析の前提条件である等分散性をデータが満たしているかを確認するためである。
一元分散分析から求めたSsamはデータから考えて最も確からしい(その値を取る確率が最も高い)真のSsamの推定値なのであるが、真のSsamはもっと小さい値になる可能性は存在する。そこで、 Ssamの95%信頼区間の下限値を真のSsamの推定値とみなせば、一元分散分析で計算したSsamよりも小さな値になり、技能試験のHarmonized protocol (1993)の判定式 Ssam < 0.3σpの左辺が小さくなり、均一と判定される可能性が高くなる。
技能試験のHarmonized protocol (1993)の判定式 Ssam < 0.3σpの左辺にSsamの95%信頼区間下限値を代入し変形するとFAPASの均一性判定式が導出できる。
FAPASの均一性判定式の右辺第1項がもしなければ一元分散分析のF検定と同じになるので、右辺第1項の分だけサンプリング誤差の分散は大きくても均一と判定されることになる。
技能試験のHarmonized protocol (1993)の均一性判定式を満たす材料は「十分に均一」な材料という。
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付録7 変数変換
1)比率 :0~1の範囲の値しかとらない
ロジット変換
正規分布、t分布などに従う変量の範囲-∞から+∞に変換された値 で検定する
比率や百分率データをそのまま用いて一元分散分析などの検定をしてはならないと指摘された場合への対応
ln1
pyp
⎛ ⎞⎟⎜= ⎟⎜ ⎟⎜ ⎟⎜ −⎝ ⎠
p
y
2)比率 :比率の平均と分散は独立でないp
逆正弦変換
正規分布、t分布などが仮定している平均と分散が独立な値 で検定する
=30~70%では逆正弦変換必要なし
p
1siny p−=
y
比率データや百分率データは統計の検定で仮定している前提条件を満たさないので、そのままのデータを検定してはならないと指摘されることがある。そのような場合には検定の前提条件を満たすように変数変換したデータを用いて検定することを検討する。この場合の変数変換にはロジット変換または逆正弦変換がよく用いられる。
比率データや百分率データ以外のデータへの変数変換利用の目安
・頻度分布が右に裾の長い非対称分布のときに左右対称分布に近づけたい場合
は対数変換の利用を検討する。
例:FAPASのGMOサンプルの技能試験ではGMO混入率の報告値の頻度分布が右に裾の長い分布をするため、GMO混入率(%)を対数変換した後に平均値、標準偏差を計算している。
・平均値と分散に正の相関があるときに平均値と分散を独立にしたい場合は対数
変換を検討する。
変数変換前のデータの信頼区間を求めたい場合は、変数変換した値で求めた平均値、信頼区間下限値、信頼区間上限値を各々逆変換する。逆変換で得られた信頼区間は平均値の両側に対称ではなくなるが、これで良い。
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