23
症  例 症 例:83 歳 男性 現病歴: 健診は毎年受診していた。 平成 24 年の健診で一度尿蛋白(2+)を指摘 されたが,再検査では陰性であった。 平成 25 10 月頃より体重が増加傾向となり, 平成 25 12 月末より下腿浮腫を自覚した。同 時期より血圧は上昇傾向となり, 190/100mmHg 程度となった(通常家庭血圧:140/80mmHg)。 平成 26 1 8 日に近医を受診,Cre1.10mg/ dlBUN17.3mg/dlAlb2.8g/dl,尿蛋白(2+), 尿潜血(-)を指摘された。ネフローゼ症候群 の疑いで 2 26 日当科紹介受診。精査・加療目 的に入院となった。 既往歴: 平成 12 年 直腸癌(手術,再発なく経過) 高血圧症 HCV 陽性を指摘 平成 16 年 糖尿病 平成 23 年 白内障(両側手術) 生活歴: 喫煙(-) 飲酒(-) アレルギー(-) 輸血歴(-) 家族歴: 腎疾患の家族歴なし 妻 HCV 陽性 常備薬: バルサルタン 40mg 1 錠 分 1 朝食後 アムロジピンベシル酸塩 2.5mg 1 錠 分 1 朝食後 ボグリボース 0.3mg 3 錠 分 3 毎食直前 タムスロシン塩酸塩 0.2mg 1 錠 分 1 夕食後 ラニチジン塩酸塩 150mg 2 錠 分 2 朝夕食後 酸化マグネシウム 330mg 3 錠 分 3 毎食後 入院時現症: 身長 157cm,体重 51.3kg(もともと 47kg), 体温 36.9℃,血圧 194/84mmHg,脈拍数 75bpmSpO2 99%(室内気) 身体所見: 頭頸部 眼瞼結膜貧血(-) 眼球結膜黄染(-) 頸部リンパ節触知せず 胸 部 呼吸音清 心音 S1 S2 S3 (-)→ S4 (-), 心雑音(-) 腹 部 平坦・軟,下腹部正中に手術痕,圧 痛なし 下 肢 両側下腿圧痕性浮腫(+皮 膚 皮疹なし Key Word:ネフローゼ症候群,細線維構造,軽鎖沈着症 1 横須賀共済病院 腎臓内科 2 日本医科大学 解析人体病理学 3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座  4 山口病理組織研究所 電子顕微鏡で細線維構造を有する 内皮下沈着を認めたネフローゼ症候群の一例 中 村 真理子 1 長 濱 清 隆 2 髙 橋 直 宏 1 樋 口 真 一 1 矢 嶋   優 1 内 田 真梨子 1 安 藝 昇 太 1 青 柳   誠 1 田 中 啓 之 1 田 村 禎 一 1 病理コメンテータ 城   謙 輔 3 山 口   裕 4 88 腎炎症例研究 32 巻 2016 年

電子顕微鏡で細線維構造を有する 内皮下沈着を認め …...線維状沈着物を認めた。蛍光抗体法ではκ優位の沈 着と考えた。 血中・尿中の免疫電気泳動は陰性であったが、遊離L

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症  例症 例:83歳 男性現病歴:健診は毎年受診していた。平成24年の健診で一度尿蛋白(2+)を指摘

されたが,再検査では陰性であった。平成25年10月頃より体重が増加傾向となり,

平成25年12月末より下腿浮腫を自覚した。同時期より血圧は上昇傾向となり,190/100mmHg

程度となった(通常家庭血圧:140/80mmHg)。平成26年1月8日に近医を受診,Cre1.10mg/

dl,BUN17.3mg/dl,Alb2.8g/dl,尿蛋白(2+),尿潜血(-)を指摘された。ネフローゼ症候群の疑いで2月26日当科紹介受診。精査・加療目的に入院となった。

既往歴:平成12年  直腸癌(手術,再発なく経過)

高血圧症 HCV陽性を指摘

平成16年 糖尿病平成23年 白内障(両側手術)生活歴:喫煙(-) 飲酒(-) アレルギー(-)輸血歴(-)家族歴:腎疾患の家族歴なし妻 HCV陽性

常備薬:バルサルタン 40mg 1錠 分1 朝食後アムロジピンベシル酸塩 2.5mg

1錠 分1 朝食後ボグリボース 0.3mg 3錠 分3 毎食直前タムスロシン塩酸塩 0.2mg

1錠 分1 夕食後ラニチジン塩酸塩 150mg

2錠 分2 朝夕食後酸化マグネシウム 330mg

3錠 分3 毎食後

入院時現症:身長 157cm,体重 51.3kg(もともと47kg),

体温 36.9℃,血圧 194/84mmHg,脈拍数 75bpm,SpO2 99%(室内気)

身体所見:頭頸部  眼瞼結膜貧血(-) 眼球結膜黄染(-)

頸部リンパ節触知せず胸 部 呼吸音清     心音 S1→S2→S3(-)→S4(-),

心雑音(-)腹 部  平坦・軟,下腹部正中に手術痕,圧

痛なし下 肢 両側下腿圧痕性浮腫(+)皮 膚 皮疹なし

Key Word:ネフローゼ症候群,細線維構造,軽鎖沈着症(1 横須賀共済病院 腎臓内科(2 日本医科大学 解析人体病理学(3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 (4 山口病理組織研究所

電子顕微鏡で細線維構造を有する内皮下沈着を認めたネフローゼ症候群の一例

中 村 真理子1  長 濱 清 隆2  髙 橋 直 宏1

樋 口 真 一1  矢 嶋   優1  内 田 真梨子1

安 藝 昇 太1  青 柳   誠1  田 中 啓 之1

田 村 禎 一1

 病理コメンテータ   城   謙 輔3  山 口   裕4

― 88 ―

腎炎症例研究 32巻 2016年

検査所見

<尿定性>pH 7.5比重 1.030

Pro (4+)Glu (+)OB (+)

<尿沈渣>RBC 5-9個未満 /hpf

WBC 1-4個 /hpf

扁平上皮 0-1個 /hpf

尿細管上皮 1-4個 /hpf

硝子円柱 30-49個 /hpf

上皮円柱 20-29個 /hpf

顆粒円柱 10-19個 /hpf

蝋様円柱 1-4個 /hpf

赤血球円柱 1-4個 /hpf

変形赤血球 (+)ヒストグラム 糸球体性

<尿定量>尿NAG 67.3 U/l

推定一日尿蛋白量 7.87 g/gCre

Selectivity Index 0.273

<蓄尿検査>1日尿蛋白 5.24 g

<血算>WBC 4400 /μl

 Neutro 60.6 %

 Lymph 28.9 %

Hb 11.7 g/dl

Hct 46.6 %

Plt 18.0万

<生化学>LDH 361 IU/l

AST 45 IU/l

ALT 27 IU/l

γGTP 32 U/l

T-Bil 0.6 mg/dl

TP 5.1 g/dl

Alb 2.2 g/dl

UA 5.2 mg/dl

UN 21 mg/dl

Cre 1.20 mg/dl

Na 137 Eq/l

K 4.3 mEq/ml

Cl 101 mEq/l

Ca 8.9 mg/dl

P 2.9 mg/dl

CRP 0.02 mg/dl

T-Chol 238 mg/dl

LDL-C 127 mg/dl

TG 122 mg/dl

glu 189 mg/dl

HbA1c 6.8 %

<凝固>PT 100 %以上INR 0.89

APTT 27.4 sec

Fib 478 mg/dL

<感染症>HBs抗原 (-)HC抗体 (+)HCV抗体価 14.4 S/CO

HCV RNA定量 5.6 LogIU/ml

HCV群別 GROUP1

<免疫学的検査>IgG 924.5 mg/dl

IgA 169.2 mg/dl

IgM 195.3 mg/dl

RA因子 陰性抗核抗体 陰性抗2本鎖DNA抗体 40倍補体価CH50 24.4 /ml

C3 76.9 mg/dl

C4 13.4 mg/dl

MPO-ANCA 1.0 U/ml未満

<免疫学的検査>血清免疫電気泳動 陰性尿中免疫電気泳動 陰性遊離L鎖κ/λ比 2.40

クリオグロブリン 陰性

図 2

【入院後経過①】

入院時、Alb:2.2 mg/dl (TP:5.1 mg/dl)、1日尿蛋白量5.24g/日でありネフローゼ症候群と診断した。

組織学的診断のため、経皮的腎生検を施行した。

図 1

【胸部X線】

CTR:45.1% CPA両側sharp 肺野異常所見なし

【心電図】

HR 62bpm normal sinus rhythm 左室肥大

【CT】

全身性浮腫著明

肺野:明らかな結節影、浸潤影なし

腎:腫大や委縮なし 左腎に微小嚢胞

頸部から骨盤部までリンパ節腫大なし

― 89 ―

第63回神奈川腎炎研究会

【光学顕微鏡(HE染色)】

X40

図 1

【光学顕微鏡(PAS染色)】

X40

図 2

【光学顕微鏡(PAS染色)】

図 3

図 4

【光学顕微鏡(PAM染色)】

X400 X200

図 5

IgG(-) IgA(-) IgM(+-)

C3(+-) C4(+-) C1q(+-)

X200

【蛍光抗体法】

図 6

【蛍光抗体法】

Κ(+) λ(+-)

X200

― 90 ―

腎炎症例研究 32巻 2016年

k l

【酵素抗体法】

図 7

k l

【酵素抗体法】

図 8

【電子顕微鏡】

X3000 X100000

図 9

図 10

【診断】

光学顕微鏡でMPGN patternを認め、電子顕微鏡で細線維状沈着物を認めた。蛍光抗体法ではκ優位の沈着と考えた。

血中・尿中の免疫電気泳動は陰性であったが、遊離L鎖κ/λ比の上昇を認めた。

以上よりLCDD(κ型)を第一に考えた。

図 11

【鑑別診断】

◆Fibrillary glomerulonephritis

電子顕微鏡所見で細線維構造のある沈着物を認めている。蛍光抗体法ではIgGの沈着なし。

◆糖尿病性腎症

10年以上の糖尿病歴あるが、網膜症は認めなかった。典型的なIgGの沈着はなし。細動脈の硝子様変化も乏しい。

◆クリオグロブリン腎症

HCV陽性患者だが血中クリオグロブリンは陰性であった。電子顕微鏡所見でもクリオグロブリンを示唆するような構造は認めなかった。

図 12

【考察】

・LCDDの沈着物はほとんどがκ鎖であり、線維構造ではなく顆粒構造を呈する(Randall型)。 Rostagno A, et al. Tumoral non-amyloidotic monoclonal immunoglobulin light chain deposits : presenting feature og B-cell dyscrasia in three cases with immunohistochemical and biochemical analyses. Br J Haematol 2002; 199 : 62

・LCDDの中でも上皮下に沈着物を認める膜型や細線維構造をもつ症例も報告されている(non-Randall型) 。

・LCDDは多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、マクログロブリン血症、M蛋白血症に合併するが、約32%は特発性とされる。 Pozzi C, et al. Light chain deposition disease with renal involvement : clinical characteristics and prognostic factors. Am J Kidney Dis 42 : 1154-1163, 2003

― 91 ―

第63回神奈川腎炎研究会

【考察】

・LCDDの治療に関する報告は少ないが多発性骨髄腫に準じて治療がおこなわれている。

・予後に関しては腎生検時に血清クレアチニン1.5mg/dl以上の症例は高頻度に末期腎不全に進行すると報告され、MIDDの中ではLCDDが最も予後不良とされている。 Nasr SH, et al : Renal monoclonal immunoglobulin deposition desezse : a report of 64 patients from a single institution. Clin J Am Soc Nephrol 7 : 231-239, 2012

図 13

【入院後経過②】

腎生検

浮腫

体重

フロセミド 20mg フロセミド 20mg

血圧

アムロジピン 5mg アムロジピン 5mg アムロジピン

10mg アムロジピン

10mg

バルサルタン 40mg バルサルタン 40mg

180/90mmHg 130/65mmHg 150/70mmHg

51.3kg 47.4kg 46.1kg

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0

0.5

1

1.5

2

2.5

尿蛋白(g/gCre)

Cre(mg/dl)

Alb(g/dl)

図 14

【退院後の経過】

入院

腎生検

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

尿蛋白量

Cre

Alb

図 15

図 16

◆典型的なLCDDと合致しない点

・沈着物は細線維構造を呈していた

・蛍光抗体法でκ鎖の沈着が弱い

◆Fibrillary glomerulonephritisや糖尿病性腎症も否定はできない

本症例の診断と今後の治療適応について

ご教授いただきたく存じます

― 92 ―

腎炎症例研究 32巻 2016年

んでした。 入院後の経過です。検査所見よりネフローゼ症候群と診断し,腎生検を施行しております。腎生検の所見ですが,糸球体は8個採取され,4個が全節性に硬化しておりました。半月体の形成は認めませんでした。 PAS染色では,尿細管の萎縮と,間質への軽度の単核球浸潤を認めました。左側の糸球体のように,分葉状を呈する糸球体が散見され,mesangium細胞の増生のほか,管内増殖性の変化も見られました。また,右のような別の糸球体では,上皮細胞の腫大を伴っております。 PAM染色では,結節状の変化があり,また,基底膜の二重化も一部に認めました。 コンゴレッド染色も行っておりますが,こちらは陰性でした。 次に,蛍光抗体法です。IgGと IgAは陰性,IgMが係蹄壁に(+-),またC3,C4,C1qも係蹄壁の一部に沈着しているように見え,(+-)としております。C1qについては,硬化しかけている糸球体を見ている可能性もあるかと思います。 次にκ/λですが,κがλに比べてやや優位に係蹄壁に沈着しているように見え,(+)ととっております。κ,λに関しては,酵素抗体法でも検討しましたが,κ,λとも,糸球体への沈着ははっきりしませんでした。 間質に浸潤する形質細胞に関しては,ややλが優位染色されておりました。 電子顕微鏡です。内皮下にやや淡いdensity

の沈着物が散見されました。沈着物を拡大しますと,一部,細線維状の構造を呈し,線維の幅は20nmでした。 診断です。光学顕微鏡でMPGNパターンを認め,電子顕微鏡で細線維状の沈着物を認めました。蛍光抗体法では,κ優位の沈着と考えました。血中と尿中の免疫電気泳動は陰性でしたが,遊離κ/λ鎖比の上昇を認めました。以上より,LCDDのκ型を第一に考えました。 そのほか,鑑別診断として以下のものを挙げ

討  論 中村 よろしくお願いします。 症例は,83歳の男性です。健診は毎年受診していた方で,平成24年の健診で一度尿蛋白2

(+)を指摘されましたが,再検査では陰性でした。平成25年の10月ごろより体重が増加傾向となり,年末より下腿浮腫を自覚しております。 同 時 期 よ り 血 圧 が 上 昇 傾 向 と な り,190/100mmHgと著明な高血圧を認めました。平成26年1月8日に近医を受診し,軽度の腎機能障害と,低アルブミン血症,尿蛋白2(+)の所見を認め,ネフローゼ症候群の疑いで,2

月26日に当科紹介受診,精査・加療目的に入院となりました。 既往歴ですが,平成12年に直腸癌の手術歴があります。このときに高血圧症と,HCV陽性を指摘されております。平成16年に糖尿病を指摘されました。 常備薬は記載のとおりです。 入院時現症です。体重が51.3kgと,もともとの47kgより4kgほど増加しておりました。血圧が194/84mmHgと著明高値でした。身体所見では,両側下腿に圧痕性の浮腫を認めました。 検査所見です。尿定性検査では,尿蛋白が4

(+),尿潜血が1(+)でした。沈渣では,各種多彩な円柱が検出されており,変形赤血球も陽性でした。selectivity indexは0.273と低選択性で,蓄尿検査では1日尿蛋白量が5.24g/日でした。血液検査です。Hb11.7と軽度の貧血を認めました。BUN,クレアチニンが軽度上昇しており,TP,アルブミンも低下を認めました。HCV抗体が陽性でした。HbA1cは6.8%でした。 免疫学的な検査です。CH50が正常をわずかに下回り,低値と出ております。C3,C4に関しては,正常下限程度の値が検出されました。血清,尿中とも電気泳動は陰性でしたが,遊離κ/λ比は2.4と上昇を認めました。 レントゲン,心電図では,特記すべき所見は認めず,CTでは腎臓の腫大や萎縮はありませ

― 93 ―

第63回神奈川腎炎研究会

て上昇し,ネフローゼの状態を脱しており,安定して経過しておりました。クレアチニンに関しても,1.3 〜 1.5mg/dl程度までで安定して経過しています。ただ,平成26年末より再度尿蛋白が上昇,増加傾向となり,血清のアルブミンも3g/dlを切って減少してきております。現在は浮腫も認められますが,利尿剤でコントロール可能な状態でありますので,ステロイド等の免疫抑制剤は使わず,保存的な加療を続けて経過を見ております。 本症例ですが,典型的なLCDDと合致しない点としては,沈着物が細線維構造を呈していたところと,蛍光抗体法でκ鎖の沈着がやや弱い印象があったこと。また,Fibrillary腎症や,糖尿病性腎症も完全には否定できないと考えております。本症例の診断と,今後の治療適用について,臨床的な側面と,病理学的な側面からご教授いただければと思っております。座長 はい。ではまず,臨床的なことからご質問,よろしくお願いいたします。 非常に高齢の方なのですが,過去に手術や治療もしていて,そのときに糖尿病とか,高血圧とか,そういったものの指摘はされていなかったですか。中村 手術の時点で高血圧を指摘されました。その後,降圧療法が始まって,コントロールは良かったようです。座長 糖尿に関しては。中村 糖尿病に関しては,手術の3年後に指摘されております。座長 分かりました。山口 HCVのアクティビティーや臨床経過でどうですか。蛋白尿が増えてきた時期と,HCV

のアクティビティーは特に関係ない?中村 外来で診ていて,尿蛋白が増えてからHCVのアクティビティーに関してはフォローできていないのですが,もともと入院時に測定したRNAの定量検査では,5.6 Log IU/mlと高ウイルス量でした。ただ,年齢と,肝炎の状態等も考えまして,保存的な加療をということで,

ております。Fibrillary腎症に関しては,電子顕微鏡所見で細線維状の構造のある沈着物を認めておりましたが,蛍光抗体法で IgGの沈着はありませんでした。糖尿病性腎症に関しては,糖尿病歴は長いものの,網膜症は認めませんでした。典型的な IgGの沈着はなく,また,細動脈の硝子様変化も乏しい印象でした。 クリオグロブリン腎症に関しても,HCV陽性患者であり,繰り返しクリオグロブリンを測定しておりますが,いずれも陰性でした。電子顕微鏡所見でもクリオグロブリンを示唆するような構造は認めませんでした。 LCDDに関する考察です。沈着物のほとんどκ鎖であり,線維構造ではなく顆粒構造を呈するといわれておりますが,LCDDの中でも上皮下に沈着物を認める膜型や,細線維構造を持つ症例も報告されています。 多発性骨髄腫や悪性リンパ腫等に合併することが多いですが,約32%は特発性との報告もあります。 LCDDの治療に関する報告は少ないですが,多発性骨髄腫の治療に準じて治療が行われていることが多いようです。予後に関しては,腎生検時にクレアチニンが1.5mg/dl以上の症例に関しては,高頻度に末期腎不全に進行すると報告されており,MIDDの中ではLCDDが最も予後不良とされております。 本症例の入院後の経過です。入院時は血圧が著明に高値,尿蛋白も多量でしたが,まず塩分制限食,タンパク制限食で経過を見たところ,速やかに血圧は低下しました。降圧薬,利尿剤を調整することで血圧は正常範囲まで低下しました。尿蛋白量も,血圧の低下とともに減少し,血中アルブミンは1.5mg/dlまで低下しましたが,その後,上昇に転じております。クレアチニンに関しては,1.2mg/dl程度で,安定して経過しております。 本症例の退院後,現在までの経過です。外来でフォローしておりますが,尿蛋白は退院後さらに減少し,血清のアルブミンも3g/dlを超え

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腎炎症例研究 32巻 2016年

ある程度ある。【スライド03】 線維化のちょっと強いところで,萎縮した尿細管と小葉間動脈の軽度の線維性肥厚が見られます。

【スライド04】 PAMが厚いので,よく分かりづらいのですが,crescent-likeな変化でしょうか。lobulation

で結節を示唆する。糖尿病のaneurysm,あるいはnodular regionを示唆する所見が一部に見られます。

【スライド05】 少しcrescent-likeになって,一部癒着してfoamy cell,あるいはボウマン嚢上皮下に泡沫状の内容が染み込んでいる所見です。mesangial matrixは増えてしまって,係蹄の肥厚,二重化を伴っています。polar vasculosisを示唆する血管系が増えているような印象です。

【スライド06】 血管極部のPASに陰性Massonでブルーに染まるのですが,大体60以降にvascular poleのfi-

brous nodule,agingで間質のコラーゲンが出てくるので,mesangiumの拡大があって,dough-

nut region的な血管腔ができかかっています。【スライド07】 foamyな癒着もあるのかもしれないですが,crescentの形成もあります。

【スライド08】 泡沫状の細胞が浸潤し,硬化した,segmental

な硬化像を伴っています。【スライド09】 PAMが分かりづらいのですが,aneurysm,あるいはmesangiolyticなnodular regionか,seg-

mentalな病変の可能性もあります。【スライド10】 基底膜下沈着を示唆するような所見で,dou-

bleになっている。細動脈のhyalinosisが進展して,polar vasculosis様変化が出ています。

【スライド11】 血管極部のpolar vasculosisで,糖尿病に出や

特に治療はせず経過を見ています。座長 城先生,お願いします。城 κ/λ比が2.4ですね。中村 はい。城 骨髄穿刺は,やっていないのですね。中村 はい,行っておりません。城 軽鎖沈着症を疑っていらっしゃるということで,血清のκ/λ比は2.4ですね。骨髄では大体3倍が一つの基準になっているように思います。κbearing cellsとλbearing cellsの比が大体3対1ぐらいが一つの thresholdになっていると思うのですが,血清的には,どこら辺がthresholdなのですか。中村 2.4でも高値と取って良かったと思います。座長 鎌田先生,お願いします。鎌田 クリオグロブリンは何回ぐらい測定して,何回ぐらい陰性だったのですか。中村 3回測定しています。鎌田 3回ですか。中村 はい。陰性でした。鎌田 もう数回は測ったほうがいいと思います。中村 はい。鎌田 本例では,明らかにHCV-RNAが陽性なので,HCV関連腎炎を完全に否定するのは難しいと思うのです。HCVの治療をしてみて,ウイルス量が減って蛋白尿が減れば,関連があったと言えるのではないかと思います。中村 ありがとうございます。座長 では,病理のほうを,山口先生,お願いします。山口 今,幾つか意見が出ましたので,少し話がしやすくなったという感じがします。

【スライド02】 最初から強拡大で申し訳ないのですが,me-

sangial proliferationがあって,管内にも少し炎症細胞があって,癒着もあります。polar vascu-

losis的な変化も見られます。 細動脈,小葉間の末梢にかけてhyalinosisが,

― 95 ―

第63回神奈川腎炎研究会

す。上皮がずっと剥離しております。【スライド21】 MPGN secondaryで,HCV associateのcryoなのか,fibrillaryなのか。DMも恐らく,diffuse type,GBMの肥厚はかなり厚いので間違いないと思いますので,恐らくHCVに関係したMPGNと,糖尿病の合併ということが言えると思います。

【スライド22】 HCVのcryoで,まれに IgMκだけというのもある。

【スライド23】 fibrillaryだと,HCVでも絡むと。

【スライド24】 fibrillaryだと,線維が個々に区別できるような印象が強いので,cryoのほうがいいです。以上です。座長 山口先生,ありがとうございます。続きまして,城先生,お願いします。城 私は,この細線維構造は非特異的なもので,cryoが合併したのかどうか,あるいは糖尿病が合併したのかどうか,その判断が悩ましいところです。山口先生とちょっと違う意見なのですけれども,正解はよく分かりません。

【スライド01】 被膜下の糸球体ですが,mesangiumが拡大していることは確かです。硬化病変もあります。

【スライド02】 尿細管は萎縮して,間質の幅が拡大しております。

【スライド03】 小葉間動脈にかなり強い動脈硬化がありますので,二次的に糸球体がかなりつぶれてきています。

【スライド04】 残った糸球体がどうかということですけれども,mesangium領域が拡大して,mesangium細胞の細胞増多があります。

【スライド05】 こちらの糸球体はそれほど強いmesangium細

すい病変であります。【スライド12】 細動脈全周まではいかないのですが,hyali-

nosisは明らかにあります。patchy tubular injury

もある。【スライド13】 間質炎が目立つ場所が,一部に見られています。

【スライド14】 Mは陽性に取って,染み込みと区別が付かないのですが,peripheralに少しmesangiumにも陽性です。

【スライド15】 C3は明らかです。κ,λは,κが優位で,λはnegativeに近い。

【スライド16】 電顕では,mesangiumの増殖,それからGBM

の肥厚がはっきりしています。homogeneousに厚ぼったくなっています。segmentalな硬化像,上皮の剥離像があるので,二次的な修飾もあると思います。内皮下に軽度の沈着,paramesangiumにも,ややdenseなmaterialがあって,mesangiumの増殖もある。

【スライド17】 paramesangium,あるいは内皮下へ沈着があって,GBMは厚くなっていますから,糖尿によるGBMの肥厚が考えられます。内皮下の沈着,あるいはparamesangiumの軽度沈着が言えると思います。

【スライド18】 microtubularよりは,fibrillarといったほうがいいでしょうか,細繊維状で,所々 dot様になって,いろいろな断面で切れているので,dot-like

にもなっている。【スライド19】 GBMが厚いので,糖尿病は間違い。mesan-

gial matrixがdoughnut regionが形成されます。【スライド20】 segmental foamyなボウマン嚢との癒着部位で,一部はcellular crescentなのかもしれないで

― 96 ―

腎炎症例研究 32巻 2016年

sisがあります。【スライド14】 所見のまとめとしては,6個の糸球体の2個に全節性硬化があって,mesangium細胞増多が4分の3個,mesangium基質が拡大して,ろ過面を持たない小血管の増生がある。管内性細胞増多を伴う。macro phage浸潤がかなり顕著な糸球体が1個ありました。

【スライド15】 山口先生は半月体と捉えたのですが,私は,FSGSなどで見られるように,毛細血管係蹄がcollapseを起こして,その周囲に反応性に上皮が腫大してくる変化と見ることができ,半月体は区別できるのではないかと思います。

【スライド16】 山口先生と私が半月体の identificationに差があるということは,本当はあってはならないことなのですけれども,きちんと僕らの間でコンセンサスを得ていかなければいけない課題です。

【スライド17】 糸球体基底膜の二重化が見られます。また,大部分は内皮下の沈着です。

【スライド18】 PAM染色では,巣状分節性の二重化で,大部分は二重化に至っていないと思います。

【スライド19】 尿細管間質ではかなり尿細管が萎縮しています。40%の萎縮があって,拡大した間質にはリンパ球浸潤が30%,軽度の形質細胞と好酸球の浸潤があります。好中球浸潤はありません。

【スライド20】 κ鎖が糸球体基底膜に陽性です。TBMにも陽性が出ております。一方,λ鎖は陰性で,私は,light chainのmonoclonal deposition disease

を無視できないのではないかと思います。【スライド21】 もちろん,糖尿病歴があって,網膜症がないことは糖尿病を否定することにはなりませんので,糖尿病が背景にあると思いますが,このκ

胞増多はありません。【スライド06】 山口先生はdoughnut legionというふうにおっしゃいました。僕は,これをろ過面を持たない小血管が拡大したmesangiumの領域に見られる病変と表現します。 doughnut lesionは,afferent arteryからhilar ar-

teryになり,それからこの各分節に移行していく動脈が,いわゆるarteriolizationを起こし,その血管を輪切りにしたときに出てる病変をさすのだと思います。この領域は糸球体内動脈のarteriolizationがまだ出来ておりませんので,むしろ表現としては,拡大したmesangium領域にろ過面を持たない小血管が埋没している状況かなと思います。糖尿病以外では light chain de-

position diseaseでも同様な所見を呈します。【スライド07】 結節性病変化が強くない糸球体もあります。

【スライド08】 この場所では炎症細胞の inductionはあまり強くないです。また,細動脈あるいはhilar ar-

teryの内膜の硝子様肥厚が目立ってきています。

【スライド09】 毛細血管係蹄にも,同じように内皮下にde-

positを思わせる病変があるのではないかと思います。

【スライド10】 糸球体毛細血管係蹄の二重化には至っておりません。

【スライド11】 ここには,炎症細胞の浸潤があります。mac-

rophageの浸潤がかなり顕著です。【スライド12】 もちろん糖尿病のときに出てきてもよいわけですが,腎炎の変化としてこの炎症細胞浸潤を捉えることもできると思います。

【スライド13】 動脈ですけども,さっき弱拡でお示ししましたように,小葉間動脈にかなり強いfibroelasto-

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第63回神奈川腎炎研究会

ギウム基質の中に根を張っているわけです。これをよく見ますと,actin filamentがblanchingを起こしています。もしMIDDの細線維だとすれば random arrangementで,non-blanching, 要 するに枝分かれを起こすことはないです。この症例では大体8nmぐらいの細線維幅でblanching

があります。【スライド28】 この領域では,細線維だとすれば,その形態は非常にアクチン細線維によく似ています。fi-

brillary GNだと,20nmぐらいにもっと太い細線維ですけれども,ここに見える細線維を測りますと幅8nmぐらいのblanchingを起こしたfi-

brilなので,action filamentと思います。【スライド29】 light chain deposition diseaseの場合には,先ほどのκがTBMに出ておりました。糖尿病でもTBMが肥厚してくるのですけれど,κの沈着との鑑別が必要です。

【スライド30】 私はこのκ鎖の染色性が,線状に陽性だというふうに取って,これを重要視しております。

【スライド31】 メサンギウム領域の結節性の変化は,糖尿病で来るのか,light chain deposition diseaseからくるのか判断しなくてはなりません。確かに電顕でよく見ますと,通常の糖尿病的なmesangi-

um matrixの拡大ではない。やっぱりmonoclo-

nal deposition diseaseの様相を呈しております。この症例は,糖尿病の長い経過があるので,その影響があると思います。このmesangium領域の結節を,どちらか判断できません。

【スライド32】 電顕でも同様です。細顆粒状の内皮下沈着物なのか,あるいは浸出性病変なのか,あるいはcryoのdepositなのか,そんなところの鑑別診断は,私は分かりません。

【スライド33】 IgMの塊状の陽性所見は浸出病変として解釈しております。

とλのこの差は有意ではないかと思います。【スライド22】 cryoの場合は,IgM,C1q,C3が強く出てくる傾向がありますが,軽いcryoがここにかぶさっている可能性はもちろん否定できない。しかし,このκ,λの違いは,cryoでは説明はつかないのではないかと思います。

【スライド23】 light chain deposition diseaseの場合には,こういうふうに内皮下に細かいdepositが出てくることがあると思います。

【スライド24】 この場所は,糖尿病性糸球体硬化症によりcollapseを起こした糸球体とみるべきかも知れません。糸球体基底膜の肥厚があって,こういうものも light chain deposition diseaseの所見かなというふうに最初は思ったのですけれども,いざ見直してみたり,山口先生の説明を聞くと,糖尿病でいいのかなと思います。ただ,κのGBMへの線状の沈着を考えると,これも light chain deposition diseaseの肥厚と見えるのではないかなと思いました。

【スライド25】 山口先生は,こういうところはみんなcryoであると。それから基底膜の肥厚が糖尿病性のものだと。そういう見方もあると思います。

【スライド26】 この場所をどうとらえるかということなのですけれども,細動脈硬化があるので,血漿成分の浸出と見てもおかしくないのかなと思います。IgM,C1q,C3が出てくるような浸出性病変で,その背景としては糖尿病性の細動脈硬化がありますので,こういう変化が出現してくるのではないかと思います。

【スライド27】 ただし,細線維がある場合には,細線維幅をちゃんと見てみなければいけない。この細線維は,actin filamentだと思います。基質に見られる細線維は,ここにdense patchがありますけれども,mesangium細胞のactin filamentがメサン

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腎炎症例研究 32巻 2016年

を含めて,どなたかコメントをいただきたいのですが。 星野先生,よろしくお願いします。星野 虎の門病院の星野です。どちらかというとLCDDよりもDMやcryoのほうが考えやすいと思って臨床経過を拝見しました。というのは,ARBなどの,治療に反応していましたが,われわれが今までに話した8例くらいのLCDDの方にはARBで良くなった経験はないからです。 もしLCDDだったとした場合に,必ずM蛋白であったり,骨髄の異形性が少し前面に出てきてもいいのかなと思います。κ/λ比がさらに変化するとか,そういった所見はありますでしょうか? cryoと考えた場合に,糖尿病もHCV関連も言われていますし,特に最近はインターフェロンを使わない低侵襲の薬も出ていますので,今後,内服のHCV錠を検討してみるのもいいのかなと思って,拝聴しました。座長 ありがとうございます。ほかに。よろしくお願いします。長濱 日本医大病理の長濱です。最初に診断したのですけれども,僕も全然分からなくて,それで,山口先生に免疫染色がよく染まっていないからもう一回染めろと言われたのです。 実は,それを染める前に,未染の標本を切って 糸 球 体 だ けmicrodissectionを 行 い,Mass Spectrometryで蛋白を解析してみました。 クリオグロブリン腎症も典型的ではないけれど,蛋白を見れば何か分かるだろうと思って,日本医大の大学院生に,お願いしたのですけれど,残念ながら免疫グロブリン,軽鎖含めて何も検出されませんでした。 ただ,actinとかは出ていたので,城先生がおっしゃっているように見えたのは,もしかしたらactinだったのかもしれないです。 いずれにしても,細胞内骨格とか,細胞外基質のものしか検出されませんでした。 Mass Spectrometryももちろん完璧ではなくて,可溶性のタンパク質だけしか見られないの

【スライド34】 糖尿病性硬化症の合併は否定できないと考えています。

【スライド35】 細線維腎炎については否定的で,細線維はactin filamentと解釈されます。

【スライド36】 軽症型cryoの合併については,その可能性は100%否定できないと思います。

【スライド37】 私の診断では,κ型の軽鎖沈着症を主軸に置いて,それによりnephrosisを説明できるのではないかと思います。背景である糖尿病も影響があると思います。またHCVが陽性ということで,cryoも可能性があると思います。

【スライド38】 この所見は,light chain deposition diseaseの特徴で,κ鎖がmesangium matrixに陽性と同時に,糸球体毛細管係蹄を縁取るように陽性です。

【スライド39】 light chain deposition diseaseのパターンだと私は思いますので,この症例ではこの疾患があったのではないかと思います。

【スライド40】 電顕でdepositは内皮下に出てきます。一部は基底膜の中に出てくることもあります。

【スライド41】 本当は自分の施設で電子顕微鏡を撮って納得のいくまで所見を取っていかないと判断できません。

【スライド42】 この細かいdense depositを本当に light chain

なのか,浸出性病変なのか,また,cryoなのかということを詰めていかなければいけない。病理医としては,責任を持った写真で判断すべきもので,このような症例に関しては,非常に慎重であるべきだと思います。以上です。座長 城先生,ありがとうございました。糖尿,cryo,高血圧,さらにLCDDも否定できないちょっと難しい症例ですけれども,治療の経過

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で,手技的な限界はあるとは思うのですけれども,補助的な実験では,免疫グロブリンと,補体の沈着は確認できず,現時点では,糖尿病として矛盾しないのかなと考えています。座長 ありがとうございます。城 cryoも否定していいということですね。長濱 Mass Spectrometryでは,沈着すれば何らかの免疫グロブリンは,軽鎖を含めて出るはずだという話なので,cryoも否定的だと考えています。城 でも,この症例のdense depositは浸出性病変だけではないと思います。座長 中村先生,何か質問やコメント,ありますか。中村 先ほどご質問いただいたκ/λ鎖比の経過なのですが,最初は2.6だったのですけれども,少し上がっていて,直近で測定した12月のデータでは2.8ぐらいです。ですが,著増している印象はあまりなくて,特に変化はないと考えております。座長 どうもありがとうございました。中村 ありがとうございました。

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腎炎症例研究 32巻 2016年

II-1:電子顕微鏡で細線維構造を有する内皮下沈着を認めたネフローゼ症候群の一例(横須賀共済病院)

症例:83歳、男。3ヶ月前下腿浮腫、血圧上昇200/100で入院。ネフローゼ症候群を呈し、HCV抗体陽性、10年以上の糖尿病歴。

臨床病理学的問題点:

1.LCDDで良いか?

2.糖尿病性腎症や細線維性腎炎は?

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病 理 診 断 (63-II-1) 1. Membranoproliferative glomerulonephritis, secondary

(HCV-associated cryoglobulinemic or fibrillary glomerulonephritis , probable) 2. Diabetic glomerulosclerosis, diffuse type, probable

cortex/medulla = 10/0, global sclerosis/glomeruli= 5/12 光顕では、糸球体にやや分節状でメサンギウム域拡大、増殖が見られ、係蹄壁の二重化と内皮下沈着或いは浮腫を認め、1ヶ小細胞性半月体と2ヶ分節状硝子化及び癒着を伴っています。硝子化を伴うpolar vasculosisを散在性に認めます。 尿細管系には近位上皮の硝子滴変性が見られ、一部に上皮の扁平化と内腔の拡張を認め、硝子円柱を散見します。間質に好酸球を一部に伴う単核球浸潤が散在して見られ、尿細管萎縮と線維化を疎らに伴っています。 動脈系には中等度の小葉間動脈内膜肥厚と細動脈硝子化が見られます。

蛍光抗体法では、IgM(+), C3(+), κ(+), λ(-): mesangial & peripheral patternです。

電顕では、観察糸球体には分節状硝子化、硬化が見られます。かなり厚いGBMに内皮下沈着物が散在性に見られ、傍メサンギウム域に及び、メサンギウム間入を認めます。内皮の腫大と内皮下浮腫が目立ちます。傍メサンギウム域から基質内にも沈着物を認め、メサンギウム細胞増生と癒合性の基質増加が見られます。脚突起癒合が所々で見られます。沈着物は細線維状構造を示し、幅は約20nmを呈しています。 以上で、糖尿病性糸球体硬化症を合併した上記の診断と思われます。

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Fibrillary glomerulopathy Clinical Issues Rare: < 1% of native kidney biopsies Associated with malignancy, dysproteinemia, and autoimmune disease Proteinuria (100%) Hematuria (~ 50%) 40-50% progress to ESRD within 2-4 years 35-50% recur in kidney allografts Microscopic Pathology Diffuse mesangial expansion by eosinophilic material

Congo red negative Several histologic patterns

Mesangial proliferation Membranoproliferative GN Crescents ~ 25% Segmental &/or global glomerular scarring

IF: IgG and C3 in mesangium and along GBM Usually IgG4, rarely IgM and IgA Usually kappa = lambda

EM: Nonbranching, randomly arranged fibrils Thicker than amyloid Average: 20 nm; range: 10-30 nm

Top Differential Diagnoses Amyloidosis Immunotactoid glomerulopathy Cryoglobulinemic glomerulonephritis Fibronectin glomerulopathy Diagnostic Checklist IgG, kappa and lambda light chains strongly positive

Fibrils contain IgG, usually IgG4 ± IgG1, with both light chains (polyclonal) Occasional cases monotypic light chains (10-20%) Most cases idiopathic

Associations Malignancy (23%) Dysproteinemia (17%) Autoimmune disease (15%), including systemic lupus erythematosus Infection, including hepatitis C virus (3%)

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Fibrillary GN

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Pediatr Nephrol. 2008 Jul;23(7):1163-6. A case of fibrillary glomerulonephritis with unusual IgM deposits and hypocomplementemia. Shim YH1, Lee SJ, Sung SH. Author information 1Department of Pediatrics, Ewha Womans University Mokdong Hospital, #911-1 Mok-Dong Yangcheon-Ku, Seoul, South Korea. Abstract Fibrillary glomerulonephritis (FGN) is rare immune-mediated GN with predominant immunoglobulin (Ig) G deposits, normal serum complement levels, and poor prognosis. The incidence of FGN is less than 1% in the adult population, and only six pediatric cases have been reported in the English literature. A 12-year-old girl presented with acute nephrotic-nephritic syndrome mimicking atypical clinical features of acute poststreptococcal GN (APSGN). Clinical features had completely resolved in 2 weeks, but the serum complement levels remained low. Renal biopsy was done 6 months later, and she was diagnosed as having FGN with unusual IgM deposits. Despite persistently low serum complement levels during the subsequent 3 years, clinical relapse did not develop. This case was an atypical form of FGN characterized by unusual IgM deposits, persistent hypocomplementemia, and good prognosis, which suggests that childhood FGN is not necessarily a disease with poor prognosis.

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電子顕微鏡で細線維構造を有する 内皮下沈着を認めたネフローゼ症候群の一例

横須賀共済病院 腎臓内科 、日本医科大学 解析人体病理学 中村真理子 先生、長濱清隆 先生、髙橋直宏 先生、樋口真一 先生、矢嶋 優 先生、 内田真梨子 先生、安藝昇太 先生、青柳 誠 先生、田中啓之 先生、田村禎一 先生

東北大学大学院・医科学専攻・病理病態学講座

城 謙輔

第63回 神奈川腎炎研究会2015年2月21日(土)15:30~19:45 横浜シンポジア

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<光顕> 標本は1切片採取。 糸球体 2/6個 (33%)に全節性硬化 残存糸球体において、メサンギウム細胞増多を3/4個(75%)認め、 メサンギウム基質が拡大し、濾過面を持たない小血管の増生を認めます。 管内性細胞増多を1/4個(25%)認めます。 半月体形成ならびに分節性硬化、癒着、虚脱はありません。 糸球体基底膜は肥厚し、PAM染色にて巣状分節性に二重化を認めます。 しかし、大部分は内皮下の塊状沈着物が主体で、 基底膜の二重化に至っていません。糸球体の腫大はありません(200μm)。 尿細管・間質 尿細管の萎縮ならびに間質の線維性拡大を中等度に認め(40%)、 同域にリンパ球浸潤を30%認めます。 少量の形質細胞と好酸球を認めます。好中球浸潤はありません。 血管系 小葉間動脈に高度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入細動脈に高度の内膜の 硝子様肥厚を認めます。

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G M

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κ

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Actin filaments は branching(枝分かれ)が特徴 Risca VI, et al. Actin filament curvature biases branching

direction. PNAS January 30, 2012

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<免疫染色> κが糸球体末梢毛細血管係蹄に線状に陽性です。 メサンギウム領域の結節性病変を取り囲む様なパターンで、 κ型軽鎖沈着症に相応する所見です。尿細管基底膜にκの沈着は目立ちません。 <電顕診断> 糸球体基底膜は肥厚し、軽鎖沈着症特有の細顆粒状沈着物を認めます。 さらに、傍メサンギウムならびに内皮下に塊状のdense depositを認めますが、 浸出性病変によるものと思われます。メサンギウム領域には泡沫細胞の 浸潤を認めます。中等度の足細胞脚突起消失を認め、 微絨毛形成を伴っています。尿細管上皮に泡沫化が見られ、 尿細管基底膜も肥厚し、軽鎖沈着症の可能性が示唆されます。 間質細胞には泡沫化がありません。

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免疫染色ではκ型軽鎖沈着症の診断です。 電顕的にも糸球体末梢係蹄から内皮下にかけて軽鎖沈着症の所見を認めます。 さらに、浸出性病変と思われるdense depositが見られ、免疫診断のIgMの塊状沈着物 に相応しています。このdepositは浸出性病変と思われ、 κ型軽鎖沈着症の所見とは区別されます。 以上の所見から、 光顕診断においてもKW結節様の所見が見られ、 軽鎖沈着症に矛盾しません。 臨床的に骨髄穿刺によりplasma cell dyscrasiaの有無を確認して下さい。 また、血中・尿中のパラプロテインの検索を続いて追試する必要があります。 また、良性腎硬化症が進行し、それによる糸球体の全節性硬化ならびに 尿細管の萎縮が加わっています。 糖尿病性糸球体硬化症の合併は否定出来ません。 細線維性腎炎については、観察される細線維はメサンギウム細胞から出ている アクチンフィラメントと思われます。

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P14-1702 83歳 男性 臨床診断 ネフローゼ症候群、糖尿病、HCV抗体:陽性、血清中パラプロテイン:陰性 病因分類 膜性増殖性糸球体腎炎 病型分類 κ型軽鎖沈着症、高度の良性腎硬化症の合併 IF診断 κ型軽鎖沈着症 電顕診断 軽鎖沈着症 皮質:髄質=10:0 糸球体数:6個、全節性硬化:2個、 メサンギウム細胞増殖:3個、管内性細胞増多:1個、 半月体形成:0個(細胞性半月体:0個、線維細胞性半月体:0個、線維性半月体:0個) 分節性硬化:0個、癒着:0個、虚脱: 0個、未熟糸球体:0個

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城先生 _29

47歳男性 軽鎖沈着症 福岡東医療センター 片渕律子先生より借用

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IgM (-) IgG (-) IgA (-)

C1q (+) C4 (+) C3 (+)

47歳男性 軽鎖沈着症 福岡東医療センター 片渕律子先生より借用

κ (-) λ (+)

城先生 _27

47歳男性 軽鎖沈着症 福岡東医療センター 片渕律子先生より借用

単クローン性免疫グロブリン沈着症 (monoclonal immunoglobulin deposition disease:広義のMIDD) 糸球体沈着症 1.細線維構造をもつ疾患群、 AL Amyloidosis (L鎖沈着によるアミロイドーシス) 細線維沈着性糸球体症fibrillary glomerulopathies イムノタクトイド腎症Immunotactoid glomerulopathy 細線維性腎炎Fibrillary glomerulonephritis) I型クリオグロブリン血症性糸球体腎炎 2.細顆粒構造をもつ疾患群、 狭義のMIDD(Randall 型MIDD) 軽鎖沈着症(light chain deposition disease) 軽鎖重鎖沈着症(light and heavy chain deposition disease) 重鎖沈着症(heavy chain deposition disease) PGNMID (proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits) 3. 結晶構造をもつ疾患群 尿細管沈着症 軽鎖円柱腎症(light chain cast nephropathy) 軽鎖ファンコニ症候群(light chain Fanconi syndrome)

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κ λ

単クローン性免疫グロブリン沈着症に共通する軽鎖の偏在

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単クローン性免疫グロブリン血症( IgG, IgA, IgM: LCD, HLCD, HD, Bence Jones protein)

骨髄腫、症候性骨髄腫、MGUS、リンパ形質細胞腫

糸球体沈着症 尿細管沈着症

Amyloidosis (AL,AH, ALH)

Cryoglobulin GN FGN/IT

MIDD PGNMGD

Myeloma Cast Light chain Fanconi Syndrome

細線維構造

細顆粒構造

針状結晶

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47歳男性 軽鎖沈着症 福岡東医療センター 片渕律子先生より借用

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