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吹雪時の視界予測情報提供と活用状況について 國分 徹哉 原田 裕介 ** 武知 洋太 *** 大宮 哲 **** 松澤 勝 ***** 1.はじめに 積雪寒冷地の冬期道路では、吹雪による視程障害や 吹きだまりによる交通障害がしばしば発生し、社会的 に影響を与えている。特に北海道では、近年急激に発 達した低気圧の影響により、極端な暴風雪による吹雪 災害が発生するケースが見られる。平成25年3月に北 海道を襲った暴風雪では、多数の道路が長期間に渡り 通行止めになり、さらに9名の方が亡くなる等、大き な被害が発生した。これら暴風雪の被害を減らすため には,ドライバーが吹雪に巻き込まれないように、吹 雪の現況及び予測情報を提供し、吹雪時におけるドラ イバーの行動判断を支援することが必要と考えられる。 著者らは,平成25年2月よりインターネットサイト 「吹雪の視界情報」において、北海道内の視界の予測 情報の提供を開始した。本報では「吹雪の視界情報」 システムの概要、平成26年度シーズンに行った利用者 アンケート調査による吹雪の視界予測情報の活用状況 について報告する。 2.これまでの経緯 表-1に「吹雪の視界情報」の取り組みの経緯を示 す。「吹雪の視界情報」は、平成21年度に北海道の石狩、 空知、留萌、宗谷、釧路、根室地方を対象に19エリア に細分化し現況の視界を提供開始した。翌年度は全道 を対象に46エリアに細分化し提供を行っている。その 後利用者アンケートを実施した結果、市町村単位の提 供を希望していることが判明したため、平成24年度に 概ね旧市町村単位の203エリアで提供を行った。平成 25年度からは,従来のパソコン向けの情報提供に加え て、スマートフォン向け情報提供サイトの構築と注意 喚起メール配信を開始した。さらに、平成26年度は北 海道を完全に旧市町村単位の221エリアに細分化し、 年々アクセス数が増大しているためシステムの増強を おこなった。 3.平成26年度の吹雪情報提供の概要 3.1 視程予測情報の作成方法 気象庁から配信される降水強度と風速、気温の気象 値を入力値として、当研究所で開発した気象条件から 視程を推定する手法 1) を適用することで視界情報(現 況、予測)を作成している。これらの気象値は、5km メッシュ現況値と33時間先まで1時間毎の予測値が3 時間毎に配信される。加えて、降水強度は、1km メッ シュの現況値と6時間先までの1時間毎の予測値が30 分毎に配信される。 3.2 吹雪の視界情報 吹雪の視界情報(PC版)は、 図-1の画面上段に「吹 雪の視界情報」,「吹雪の投稿情報」、「気象警報・注意 報」、「道路通行止め情報」、「お役立ち情報」を集約し たもので、平成25年2月1日から運用を行っている。 ここでは①吹雪の視界情報と②吹雪の投稿情報につい て詳述する。 吹雪の視界情報 「吹雪の視界情報」は、北海道を221に細分化したエ リアごとに提供している。このエリア区分は、市町村 合併前の旧市町村を基本とする。提供情報は現況と予 測であり、予測時間は1~6時間先までは1時間ごと、 表-1 「吹雪の視界情報」取り組み 技術資料 寒地土木研究所月報 №750 2015年11月  47

吹雪時の視界予測情報提供と活用状況について - ceri.go.jp...結果を自動で通知するプッシュ型のサービスである(図 -4(c))。図-4

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  • 吹雪時の視界予測情報提供と活用状況について

    國分 徹哉* 原田 裕介** 武知 洋太*** 大宮 哲**** 松澤 勝*****

    1.はじめに

     積雪寒冷地の冬期道路では、吹雪による視程障害や吹きだまりによる交通障害がしばしば発生し、社会的に影響を与えている。特に北海道では、近年急激に発達した低気圧の影響により、極端な暴風雪による吹雪災害が発生するケースが見られる。平成25年3月に北海道を襲った暴風雪では、多数の道路が長期間に渡り通行止めになり、さらに9名の方が亡くなる等、大きな被害が発生した。これら暴風雪の被害を減らすためには,ドライバーが吹雪に巻き込まれないように、吹雪の現況及び予測情報を提供し、吹雪時におけるドライバーの行動判断を支援することが必要と考えられる。 著者らは,平成25年2月よりインターネットサイト「吹雪の視界情報」において、北海道内の視界の予測情報の提供を開始した。本報では「吹雪の視界情報」システムの概要、平成26年度シーズンに行った利用者アンケート調査による吹雪の視界予測情報の活用状況について報告する。

    2.これまでの経緯

     表-1に「吹雪の視界情報」の取り組みの経緯を示す。「吹雪の視界情報」は、平成21年度に北海道の石狩、空知、留萌、宗谷、釧路、根室地方を対象に19エリアに細分化し現況の視界を提供開始した。翌年度は全道を対象に46エリアに細分化し提供を行っている。その後利用者アンケートを実施した結果、市町村単位の提供を希望していることが判明したため、平成24年度に概ね旧市町村単位の203エリアで提供を行った。平成25年度からは,従来のパソコン向けの情報提供に加えて、スマートフォン向け情報提供サイトの構築と注意喚起メール配信を開始した。さらに、平成26年度は北海道を完全に旧市町村単位の221エリアに細分化し、年々アクセス数が増大しているためシステムの増強をおこなった。

    3.平成26年度の吹雪情報提供の概要

    3.1 視程予測情報の作成方法

     気象庁から配信される降水強度と風速、気温の気象値を入力値として、当研究所で開発した気象条件から視程を推定する手法1)を適用することで視界情報(現況、予測)を作成している。これらの気象値は、5kmメッシュ現況値と33時間先まで1時間毎の予測値が3時間毎に配信される。加えて、降水強度は、1kmメッシュの現況値と6時間先までの1時間毎の予測値が30分毎に配信される。

    3.2 吹雪の視界情報

     吹雪の視界情報(PC版)は、図-1の画面上段に「吹雪の視界情報」,「吹雪の投稿情報」、「気象警報・注意報」、「道路通行止め情報」、「お役立ち情報」を集約したもので、平成25年2月1日から運用を行っている。ここでは①吹雪の視界情報と②吹雪の投稿情報について詳述する。① 吹雪の視界情報

     「吹雪の視界情報」は、北海道を221に細分化したエリアごとに提供している。このエリア区分は、市町村合併前の旧市町村を基本とする。提供情報は現況と予測であり、予測時間は1~6時間先までは1時間ごと、

    表-1 「吹雪の視界情報」取り組み

    技術資料

    寒地土木研究所月報 №750 2015年11月  47

  • それ以降は9、12、18、24時間先となっている(図-1、2)。 視界不良の程度は、吹雪時のドライバーの運転挙動に関する研究成果2)をもとに、視程100m未満、100~200m、200 ~ 500m、500m~ 1,000m、1,000m以上の5ランクに区分し、エリアごとに色分け表示している(図-1)。なお、気象庁以外の事業者が天気などの予測業務を行う場合は、気象業務法により気象庁長官の許可を受け、現象の予想は気象予報士が行う事になっている。当研究所では、気象庁からの許可(予報業務許可事業者第183号)を受け、予測結果を配信する6時、9時、12時、15時、18時、21時に合わせて、当研究所の気象予報士が演算結果の妥当性を事前に確認の上、公開を行っている。 ② 吹雪の投稿情報

     「吹雪の投稿情報」は、道路利用者のパソコンや携帯電話等から、視界情報を投稿してもらい、その情報をウェブサイト上で提供するサービスを平成23年1月27日より開始した。災害時にソーシャル・ネットワーキング・サービスを用いて、一般市民から提供された情報を収集する取り組みは、国の IT総合戦略本部で検討3)されてれおり、消防庁では一般市民から提供された情報を収集する取り組み4)も行われている。吹雪時においてもドライバーから寄せられた吹雪情報は、非常に有益であると考えられる。 投稿者(登録ユーザ)は、投稿画面に市町村名、路線名、視界状況、天候、コメント(任意)などを記入し、道路の静止画像を添付して投稿する。この情報は、吹雪の投稿情報ページで図-3に示す2種類の形式で公開される。なお、不適切な投稿を防ぐために投稿者は、事前登録制とし「北の道サポータ」と称することとしている。Twitter 等は匿名投稿のため不適切な投稿が考えられるため利用しないこととした。

    図-2 吹雪の視界情報のエリアと予測時間

    図-3 吹雪の投稿情報閲覧画面

    図-1 パソコン版 吹雪の視界情報

    URL:http://northern-road.jp/navi/touge/fubuki.htm①吹雪の視界情報はサイトの左側(北海道の地図)で表示。②吹雪の投稿情報は同右上(緑色)から別画面に移動する。

    48  寒地土木研究所月報 №750 2015年11月

  • 15

    fuyumichi@�me-n-rd.jp

    [email protected]

    21

    2015/12/16 21:00:12

    3.3 スマートフォン版 吹雪の視界情報

     移動中の閲覧の利便性向上を図るため、平成25年12月1日より、スマートフォン版のサイトでの情報提供を開始した(図-4(a))。移動中に使われることを配慮し気象情報、通行止め情報などを画面上にボタンを配置した。また、位置情報を送信することにより、現在地の視界情報を確認できる機能を追加した(図-4

    (b))。

    3.4 メール配信サービス

     視界不良について、事前に注意喚起を促すためのメール配信サービスを、平成25年12月20日より開始した。利用者が事前にメールアドレスと表-2に示す配信条件を登録すると、条件に合致した際に視界不良の予測結果を自動で通知するプッシュ型のサービスである(図-4(c))。

    図-4 吹雪の視界情報の概要

    表-2 メール配信サービスの配信条件

    寒地土木研究所月報 №750 2015年11月   49

  • 4.3 アンケート結果

     「吹雪視界情報提供」と「メール配信サービス」の効果を把握するため、平成27年4月から、ホームページ上でアンケート調査を実施し20代~ 70代以上の幅広い年代から回答を得た。

    (1) 視界情報提供に関するアンケート

     図-7はパソコンサイトとスマートフォンサイトの満足度である。共に86%以上が満足(“非常に満足”、“満足”、“やや満足”の総和)と回答した。 図-8は“提供された情報と実際の視界に差を感じたか”の問いに対する回答である。257名(63%)の方が差を感じないと回答している。しかし、24%の方が2ランク以上実際の視程の方が良いと回答しており、13%が提供された視程より実際の視程の方が2ランク以上悪いと回答していることがわかった。

    4.2 吹雪の投稿情報アクセス数

     図-6に平成26年11月~平成27年3月の「吹雪の投稿情報」アクセス数と投稿数の推移を示す。平成26年12月17日に過去最大の4,969件のアクセスがあった。また、投稿数が最も多かったのは平成27年1月7日に35件であった。この日は北海道の日本海側、太平洋側西部を中心に暴風雪が発達し、7日の24時時点で国道5路線5区間、道道40路線42区間の通行止めが発生した。 これらの結果から、天候悪化時には、多くのアクセス数ならびに投稿数があったことから、道路利用者の協力による道路情報収集の可能性が確かめられた。なお、平成26年度の登録ユーザ数は432人、投稿件数は620件であった。

    4.平成26年度の吹雪情報提供の結果

    4.1 吹雪の視界情報アクセス数について

     「吹雪の視界情報」の平成26年11月~平成27年3月アクセス数を図-5(a)に示す。比較のために平成25年12月~平成26年3月アクセス数を図-5(b)に示す。 平成25年12月~平成26年3月に比べて、平成26年11月~平成27年3月の日平均アクセス数は、約1.7倍に増加した。特に気象庁が「数年に一度の猛吹雪のおそれ」と発表した平成26年12月17日には、3万件を超えるアクセス数があった。

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    図-5 「吹雪の視界情報」アクセス数の推移

    図-6 「吹雪の投稿情報」アクセス数の推移

    (a)平成26年11月~平成27年3月までに日アクセス数(b)平成25年12月~平成26年3月までに日アクセス数

    50  寒地土木研究所月報 №750 2015年11月

  • (2) メール配信サービスに関するアンケート

     図-10は「メール配信サービス」の満足度である。満足度については90%の利用者が満足(“非常に満足”、“満足”、“やや満足”の総和)と回答しており一定の評価を得ることが出来た。一方、不満の理由を自由記述で回答してもらったところ、吹雪予測情報の精度が低いと回答された方が多かった。 図-11は、メールを受け取った後どのように活用したか尋ねた結果である。46%(194人)が「吹雪の視界情報」を、17%(70人)が気象情報等を確認する等、メール受信をきっかけとして積極的に情報収集を行っていることが判明した。

     図-9は、「吹雪の視界情報」で視界不良(200m未満)が予測された際に、行動や予定の変更することが多いか尋ねた結果である。“行動や予定を変更する”または“変更をする場合が多い”の回答者が354名(79%)と多かった。また、これらのうち出発時刻を変更した方が211名(60%)、外出や移動を取りやめた方が209名(59%)であった。このことから、吹雪情報を利用して吹雪を回避する行動変化を起こしていることが明らかになった。

    259 263

    409

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    図-7 吹雪視界情報提供サイトの満足度

    図-8 提供された視程と実際の視程との差

    図-9 吹雪情報による交通行動の予定の変更の有無

    左:パソコンサイト 右:スマートフォンサイト

    寒地土木研究所月報 №750 2015年11月   51

  • る実態が明らかになった。その内訳は、出発時刻を変える、出発を取りやめる等に加え、ルートを変更したという回答が多いことが確認できた。

    (3) 「メール配信サービス」の利用者にアンケート実施した結果、視界不良のメールを受信した後、積極的に情報収集を行っていることが確認された。

     一方提供された吹雪視界の精度はまだ不十分であり、今後精度向上に関する研究に取り組む予定である。

    6.おわりに

     今年度も、吹雪視界情報の精度向上等を取り組み、11月下旬から運用を開始する予定である。下にURLを示したので、活用して頂ければ幸いである。・ 吹雪の視界情報(PC版)  URL:http://northern-road.jp/navi/touge/fubuki.

    htm・ 吹雪の視界情報(スマートフォン版)  URL:http://northern-road.jp/navi/touge/sp/

    fubuki.htm・ 吹雪の視界情報(携帯電話版)  URL:http://n-rd.jp/

    謝辞

     本研究の実施に関して、吹雪視界情報サイトの周知やアンケートに協力していただいた各位に謝意を示す。

    参考文献

    1) 松澤 勝、竹内政夫:気象条件から視程を推定する手法の研究、雪氷64巻、pp.77-85、2002

    2) 加治屋安彦、松澤 勝、鈴木武彦、丹治和博、永田泰浩:降雪・吹雪による視程障害条件下のドライバーの運転挙動に関する一考察、寒地技術論文・報告集 vol20、pp.325-331、2004

    3) 首相官邸:防災・減災におけるSNS等の民間情報の活用等に関する検討会の報告書、2014

      (http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/bousai/dai6/houkokusyo.pdf)

    4) 総務省消防庁:災害時におけるツイッターの活用の開始~「災害情報タイムライン」スタート~、消防の動き、No472、p.4-5、2010 (http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2207/2207_01.pdf)

    5.まとめ

     吹雪時における交通行動の判断を支援するため、吹雪時の視程予測に関する情報提供実験を行った。その結果、以下の効果が確認できた。(1) 「吹雪の投稿情報」については、天候悪化時に多

    くのアクセス数及び投稿件数があったことから、道路利用者の協力による道路情報収集の可能性が確かめられた。

    (2) 「吹雪の視界情報」の利用者にアンケートを実施した結果、このサイトを利用して交通行動を変更す

    411

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    図-10 メール配信サービスの満足度

    図-11 メールを受け取った後の活用

    52  寒地土木研究所月報 №750 2015年11月

  • 武知 洋太***TAKECHI Hirotaka

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム研究員

    國分 徹哉*KOKUBU Tetsuya

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム研究員

    原田 裕介**HARADA Yusuke

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム研究員博士(農学)技術士(建設)気象予報士

    大宮 哲****OMIYA Satoshi

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム研究員博士(環境科学)

    松澤 勝*****MATSUZAWA Masaru

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム上席研究員 博士(工学)技術士(建設)気象予報士

    寒地土木研究所月報 №750 2015年11月   53