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入院医療のための DPCの基礎からレセプトチェックまで 保険診療 ガイド 東京医科歯科大学医学部附属病院 保険医療管理部 教授 編著

保険診療ガイド のための 保険診療ガイド...38 第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.2 入院時のポイント 39 レセプトをチェックする審査委員会(社会保険診療報酬請求書審査委員会)の

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入院医療のための

DPCの基礎からレセプトチェックまで

保険診療ガイド

入院医療のための保険診療ガイド

DPCの基礎からレセプトチェックまで

藍 真 澄東京医科歯科大学医学部附属病院保険医療管理部 教授

編著

編著

藍 真 

38  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.2 入院時のポイント  39

レセプトをチェックする審査委員会(社会保険診療報酬請求書審査委員会)の先生方や保険者側の担当者に,「この病院は入院していくら調べても診断ができないヤブ医者ぞろいだ」と思われるでしょうし,何らかのトラブルでレセプト開示が行われた際にはかなり不利な状況に立たされるでしょう。

入院の時点では「胃がん疑い」とか「甲状腺機能亢進症の疑い」といった疑い病名がつくことが少なくないのが実情です。さらに「胸痛」や「めまい」といった症候はあるものの,疾患がわからないために精査目的で入院する場合もあるでしょう。このような場合に鑑別診断として行う検査については,その鑑別対象疾患を疑い病名として登録(傷病名欄に記載,入力)することになります。ただし,いくら鑑別をしなければならないとはいっても,常識的にありえない疑い病名(たとえば,女性の患者さんに前立腺がんの疑い)をつけているとその病院や医師の質が疑われます。また,必要に応じてつけられた疑い病名は,検査の結果,鑑別が進んで否定されたものから適宜,終了年月日とともに転帰欄に「中止」と記載(入力)します(図2.2)。疑い病名と同様に,急性腸炎などの一過性の疾病,すなわち「急性病名」も退院時までに治癒しているものであれば,終了年月日とともに転帰を「治ゆ」と記載(入力)します(病名の記載・入力については退院時にすることの項も参照)。退院時にカルテの傷病名欄に疑い病名が大量に残ったままになっていれば,レセプトにもそのまま大量の疑い病名が転帰のないまま記載されることになります。このレセプトをみる限り,その患者さんは多くの病気を疑われながら,その決着がつかないままに退院したことになります。これでは審査支払機関で

2.2.5

疑い病名とその後の処理

P oint

必要に応じてつけられた疑い病名は否定されたものから適宜,終了年月日とともに転帰を「中止」と記載(入力)する

病名の管理は,どこの病院でもなかなか完璧にはいかないもので苦労しているのが実情と思われます。病名は原則的には医師が管理するものですが,多忙をきわめる現場の医師だけに任せると診療報酬請求上,重要なものが抜けたり,疑い病名がそのまま残ったりします。医師に病名管理を徹底させることも重要ですが,同時に事務担当者にこれをサポートさせるのも有効です。ただし,あくまでもサポートであって,事務担当者が勝手に病名管理してしまってはいけません。レセプト作成の担当者が医師の病名管理のサポートをすることができれば,日本中で生じているレセプトとカルテの傷病名の不一致問題は解決するでしょう。具体的には,カルテ上の病名の過不足について,事務担当者からできるだけすみやかに医師に検討,修正を促すしくみづくりが重要です。

管理者の視点

図2.2 傷病名の記載例

1)

2)

3)

4)

5)

6)

7)

傷   病   名 開 始 終 了 転 帰 診 療実日数

期間満了予 定 日業務

上外上外上外上外上外上外上外

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

 年 月 日

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止死亡

治ゆ

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止死亡

治ゆ

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止死亡

治ゆ

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

24 611

6 1426

2 26

262 2626

2 26

263 7

脂質異常症

胃潰瘍

肺炎

肺癌の疑い

肺結核の疑い

38  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.2 入院時のポイント  39

レセプトをチェックする審査委員会(社会保険診療報酬請求書審査委員会)の先生方や保険者側の担当者に,「この病院は入院していくら調べても診断ができないヤブ医者ぞろいだ」と思われるでしょうし,何らかのトラブルでレセプト開示が行われた際にはかなり不利な状況に立たされるでしょう。

入院の時点では「胃がん疑い」とか「甲状腺機能亢進症の疑い」といった疑い病名がつくことが少なくないのが実情です。さらに「胸痛」や「めまい」といった症候はあるものの,疾患がわからないために精査目的で入院する場合もあるでしょう。このような場合に鑑別診断として行う検査については,その鑑別対象疾患を疑い病名として登録(傷病名欄に記載,入力)することになります。ただし,いくら鑑別をしなければならないとはいっても,常識的にありえな

い疑い病名(たとえば,女性の患者さんに前立腺がんの疑い)をつけているとその病院や医師の質が疑われます。また,必要に応じてつけられた疑い病名は,検査の結果,鑑別が進んで否定

されたものから適宜,終了年月日とともに転帰欄に「中止」と記載(入力)します(図2.2)。疑い病名と同様に,急性腸炎などの一過性の疾病,すなわち「急性病名」も退院時までに治癒しているものであれば,終了年月日とともに転帰を「治ゆ」と記載(入力)します(病名の記載・入力については退院時にすることの項も参照)。退院時にカルテの傷病名欄に疑い病名が大量に残ったままになっていれば,

レセプトにもそのまま大量の疑い病名が転帰のないまま記載されることになります。このレセプトをみる限り,その患者さんは多くの病気を疑われながら,その決着がつかないままに退院したことになります。これでは審査支払機関で

2.2.5

疑い病名とその後の処理

P oint

必要に応じてつけられた疑い病名は否定されたものから適宜,終了年月日とともに転帰を「中止」と記載(入力)する

病名の管理は,どこの病院でもなかなか完璧にはいかないもので苦労しているのが実情と思われます。病名は原則的には医師が管理するものですが,多忙をきわめる現場の医師だけに任せると診療報酬請求上,重要なものが抜けたり,疑い病名がそのまま残ったりします。医師に病名管理を徹底させることも重要ですが,同時に事務担当者にこれをサポートさせるのも有効です。ただし,あくまでもサポートであって,事務担当者が勝手に病名管理してしまってはいけません。レセプト作成の担当者が医師の病名管理のサポートをすることができれば,日本中で生じているレセプトとカルテの傷病名の不一致問題は解決するでしょう。具体的には,カルテ上の病名の過不足について,事務担当者からできるだけすみやかに医師に検討,修正を促すしくみづくりが重要です。

管理者の視点

図2.2 傷病名の記載例

1)

2)

3)

4)

5)

6)

7)

傷   病   名 開 始 終 了 転 帰 診 療実日数

期間満了予 定 日業務

上外上外上外上外上外上外上外

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

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止死亡

治ゆ

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治ゆ

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治ゆ

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治ゆ

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

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治ゆ

 年 月 日

 年 月 日  年 月 日 日中

止死亡

治ゆ

24 611

6 1426

2 26

262 2626

2 26

263 7

脂質異常症

胃潰瘍

肺炎

肺癌の疑い

肺結核の疑い

64  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  65

また,診療報酬請求の根拠であるカルテには,処置範囲が後でわかるように記載しなければなりません。カルテに書かれているのが,たとえば「処置do」だけだと事務担当者は前日と同様のことしか判断できず,結果的に過小請求や過大請求といった不適切な診療報酬請求につながります。医師は,できるだけ処置内容を図示するなど,自分以外の者でもカルテをみれば客観的に判断できるように記載しなければなりません。とくに処置範囲の変更はカルテ上も明確に記載する必要があります。

処置は,診療報酬点数表では内容によって創傷処置,熱傷処置,重度褥瘡処置,皮膚科軟膏処置などに区分され,さらに処置範囲によって点数が異なるようになっています。熱傷処置であれば創傷処置や皮膚科軟膏処置の2.5〜4.5倍の点数,重度褥瘡処置なら同じく2倍の点数になるので,何に対する処置かを医師と事務担当者がきちんと情報共有し合うことが重要です。また,指先だけの処置なのに,全身に相当する処置範囲で診療報酬請求を出すようなことがないよう十分に注意してください。DPC/PDPSでは,1,000点未満の処置は包括になりますが,1,000点以上の処置は包括範囲外で出来高払いとなります。DPCでは処置は包括とたかをくくっていると,高額点数の処置の請求もれが起こりますので,医師,コメディカルも事務担当者も患者さんの処置内容について日ごろから情報共有しておきましょう。病院によって医師が自ら処置伝票記入や端末入力するか,事務担当者に行った内容を連絡するか,方法に違いはあるでしょうが,大事なことは,処置を行った医師の判断で正しい処置範囲(大きさ)を決めることです。気をつけたいのは,熱傷処置のように長期間行う処置の場合,徐々に処置範囲が変わっていく(よくなれば小さくなる)ので,最初だけ処置範囲をオーダー(指示)するのではなく,適宜変更しなければなりません。傷が治って処置を終了する際も明確な医師の判断および指示が必要です。

2.3.6

カルテ記載時の注意点 2(処置範囲など)

P oint

処置範囲は図示するなど,客観的に判断できるようにする

事務担当者の視点

処置や手術の範囲について不明な点がある場合には,必ず医師や看護師に確認することが重要です。とくに外傷などで,複数箇所の処置や手術が行われている場合には注意を要します(処置範囲や大きさが変わりやすいです)。また,処置に使用した医薬品や特定保険医療材料について,出来高払いでは薬剤料,特定保険医療材料料として算定もれのないように気をつけなければなりません。ここでも病棟医や看護師との連携が重要です。

医師は,できるだけ処置内容を図示するなど,自分以外の者でもカルテをみれば客観的に判断できるように記載する。

64  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  65

また,診療報酬請求の根拠であるカルテには,処置範囲が後でわかるように記載しなければなりません。カルテに書かれているのが,たとえば「処置do」だけだと事務担当者は前日と同様のことしか判断できず,結果的に過小請求や過大請求といった不適切な診療報酬請求につながります。医師は,できるだけ処置内容を図示するなど,自分以外の者でもカルテをみれば客観的に判断できるように記載しなければなりません。とくに処置範囲の変更はカルテ上も明確に記載する必要があります。

処置は,診療報酬点数表では内容によって創傷処置,熱傷処置,重度褥瘡処置,皮膚科軟膏処置などに区分され,さらに処置範囲によって点数が異なるようになっています。熱傷処置であれば創傷処置や皮膚科軟膏処置の2.5〜4.5倍の点数,重度褥瘡処置なら同じく2倍の点数になるので,何に対する処置かを医師と事務担当者がきちんと情報共有し合うことが重要です。また,指先だけの処置なのに,全身に相当する処置範囲で診療報酬請求を出すようなことがないよう十分に注意してください。DPC/PDPSでは,1,000点未満の処置は包括になりますが,1,000点以上の処置は包括範囲外で出来高払いとなります。DPCでは処置は包括とたかをくくっていると,高額点数の処置の請求もれが起こりますので,医師,コメディカルも事務担当者も患者さんの処置内容について日ごろから情報共有しておきましょう。病院によって医師が自ら処置伝票記入や端末入力するか,事務担当者に行った内容を連絡するか,方法に違いはあるでしょうが,大事なことは,処置を行った医師の判断で正しい処置範囲(大きさ)を決めることです。気をつけたいのは,熱傷処置のように長期間行う処置の場合,徐々に処置範囲が変わっていく(よくなれば小さくなる)ので,最初だけ処置範囲をオーダー(指示)するのではなく,適宜変更しなければなりません。傷が治って処置を終了する際も明確な医師の判断および指示が必要です。

2.3.6

カルテ記載時の注意点 2(処置範囲など)

P oint

処置範囲は図示するなど,客観的に判断できるようにする

事務担当者の視点

処置や手術の範囲について不明な点がある場合には,必ず医師や看護師に確認することが重要です。とくに外傷などで,複数箇所の処置や手術が行われている場合には注意を要します(処置範囲や大きさが変わりやすいです)。また,処置に使用した医薬品や特定保険医療材料について,出来高払いでは薬剤料,特定保険医療材料料として算定もれのないように気をつけなければなりません。ここでも病棟医や看護師との連携が重要です。

医師は,できるだけ処置内容を図示するなど,自分以外の者でもカルテをみれば客観的に判断できるように記載する。

70  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  71

無駄な検査をオーダーしないためには,以下の2点が重要です。① 患者さんの病歴聴取や身体所見といった,消耗品を使わずに得られる情

報をあらかじめとる(計画的に行う)② 適応や結果の解釈など,検査の意味を理解する(根拠を確認する)「大きな病院の医師は検査結果ばかりみていて患者の顔をみない」という指摘がありますが,医師が病歴聴取や身体所見をとらず検査結果を偏重していると,病院経営にも影響が出ることになります。一方で,コストを優先するあまり,検査を控えすぎることも問題です。かかるコストを考えつつ,必要に応じて実施するというバランス感覚が求められます。なお,DPC/PDPSでも検査のためのいわゆる試験穿刺や検体採取の手技料

(内視鏡検査,病理検査等)は包括範囲外のため,出来高で算定します。病棟で動脈血採取,腹水や胸水の試験穿刺などを行った場合,きちんと情報を共有することが必要です。

2.3.9

無駄な検査をしないための注意点

P oint

医師が検査項目の計画性や根拠を常に確認する

血液検査のオーダーでは入院,外来の別を問わず,無駄が生じやすくなります(医師にとっては座って入力するとか用紙を記入して,あとは待っていれば結果が出て簡単なため)。かつては,入院患者さんの採血は研修医の仕事であったため,研修医は無駄なオーダーを多く出せば自分の首を絞めることになり,これによって検査の必要性を自然と考えたものでしたが,いまではそのようなこともありません。また,ほとんどの医師にとって検査室での血液の処理や機械設定,検査結果の確認など検査技師の業務は見えにくいため,検査室の状況に対する関心が薄い傾向があります。一方,検査オーダー数が1割増えれば,検査にかかる時間や手間もそれだけ増え,検査技師の仕事が増え,検査結果が出るのが遅れるというデメリットが生じます。さらに病院の収支を考えた場合,検査の多くはDPC/PDPSでなくても包括(まるめ)であり,項目数が多くなっても保険点数は同じで,支出のみが増えることにもなります。それぞれの医療機関で,検査項目数によって所要時間がどのくらい変わるかとか,各検査1回あたりの費用を算出して収支が赤字となる合計検査数を示すとか,できるだけ具体的な情報を現場の医師らに発信し,効率化を図ることが重要です。また,DPC対象病院では,検査のほとんどが入院中は包括になるため,入院時検査を外来で行っておき後日入院とする場合が少なくないと思います。経営上,このほうがよいことは明らかですが,外来担当医と入院担当医が異なり連携が悪いと,入院時にも同じ検査を行ってしまい,病院以上に患者さんが不幸な目に遭うはめになりますので注意が必要です。

管理者の視点

問診はていねいに,

検査は必要に応じて

70  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  71

無駄な検査をオーダーしないためには,以下の2点が重要です。① 患者さんの病歴聴取や身体所見といった,消耗品を使わずに得られる情

報をあらかじめとる(計画的に行う)② 適応や結果の解釈など,検査の意味を理解する(根拠を確認する)「大きな病院の医師は検査結果ばかりみていて患者の顔をみない」という指摘がありますが,医師が病歴聴取や身体所見をとらず検査結果を偏重していると,病院経営にも影響が出ることになります。一方で,コストを優先するあまり,検査を控えすぎることも問題です。かかるコストを考えつつ,必要に応じて実施するというバランス感覚が求められます。なお,DPC/PDPSでも検査のためのいわゆる試験穿刺や検体採取の手技料

(内視鏡検査,病理検査等)は包括範囲外のため,出来高で算定します。病棟で動脈血採取,腹水や胸水の試験穿刺などを行った場合,きちんと情報を共有することが必要です。

2.3.9

無駄な検査をしないための注意点

P oint

医師が検査項目の計画性や根拠を常に確認する

血液検査のオーダーでは入院,外来の別を問わず,無駄が生じやすくなります(医師にとっては座って入力するとか用紙を記入して,あとは待っていれば結果が出て簡単なため)。かつては,入院患者さんの採血は研修医の仕事であったため,研修医は無駄なオーダーを多く出せば自分の首を絞めることになり,これによって検査の必要性を自然と考えたものでしたが,いまではそのようなこともありません。また,ほとんどの医師にとって検査室での血液の処理や機械設定,検査結果の確認など検査技師の業務は見えにくいため,検査室の状況に対する関心が薄い傾向があります。一方,検査オーダー数が1割増えれば,検査にかかる時間や手間もそれだけ増え,検査技師の仕事が増え,検査結果が出るのが遅れるというデメリットが生じます。さらに病院の収支を考えた場合,検査の多くはDPC/PDPSでなくても包括(まるめ)であり,項目数が多くなっても保険点数は同じで,支出のみが増えることにもなります。それぞれの医療機関で,検査項目数によって所要時間がどのくらい変わるかとか,各検査1回あたりの費用を算出して収支が赤字となる合計検査数を示すとか,できるだけ具体的な情報を現場の医師らに発信し,効率化を図ることが重要です。また,DPC対象病院では,検査のほとんどが入院中は包括になるため,入院時検査を外来で行っておき後日入院とする場合が少なくないと思います。経営上,このほうがよいことは明らかですが,外来担当医と入院担当医が異なり連携が悪いと,入院時にも同じ検査を行ってしまい,病院以上に患者さんが不幸な目に遭うはめになりますので注意が必要です。

管理者の視点

問診はていねいに,

検査は必要に応じて

92  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  93

通常,入院契機病名を入院中に変えることはあまりありません。しかし,診断目的での検査入院や緊急入院で確定診断が入院時についていない場合や,当初の疑い病名や状態名については,最終的な確定診断の病名に変更しなければならないことがあります。また,入院時併存傷病名が入院後に変わることはありませんが,入院後発症病名は名前のとおり,入院時にはなかった傷病名ですから,発生した時点ですみやかに医師が病名記載しなければなりません。多くの場合,入院契機病名が医療資源病名になります。しかし,治療内容や入院中の経過によっては,入院時併存傷病名や入院後発症傷病名に医療費が多くかかって,医療資源病名が入院契機病名ではなくなることがあります。医療資源病名が変更になると診療報酬の点数が大きく変わることになり,さらには副傷病名の有無によっても影響を受けます。入院期間が長い場合や入院中に転科する(内科から外科というように主たる

担当科が変わる)場合には,傷病名が追加されるだけでなく,DPC/PDPSの

場合,医療資源病名が変わる,すなわちDPCを変更することも少なくないということに気をつけてください。医療資源病名が変われば副傷病名の有無も変わります。入院中に訂正しなくてもよいですが,最終的には,退院時の診療報酬請求までに訂正することになります。主治医と事務担当者の連携を密にとり,退院時のいそがしいときにあわてることがないよう,なるべく変更が生じた時点で対処しましょう。

2.3.18

入院中のDPC変更と病名管理

P oint

必要に応じてDPC変更について医師と請求事務担当者と協議する

事務担当者の視点

病名記載(入力)や管理は,本来,医師の業務です。しかし,診療報酬請求においても病名は非常に重要であり,事務担当者は医師の病名管理をサポートする必要があります。① 入院の途中からオーダーが増える場合入院の途中からオーダーが増える場合には,何か問題が起きています。つまり,多くの場合,追加病名が必要です。また,DPC/PDPSでは,薬価の高い医薬品の投与が始まったり,手術や処置が行われたりした場合には,医療資源病名が変わってDPC(診断群分類)が変更になることも念頭において医師に確認する必要があります。② 長期入院となった場合長期入院では,追加病名だけではなく,不要となった疑い病名や急性病名の整理も必要になります。なお,長期入院で月が変わってからのDPC変更の場合,それまでの請求分

を含めて診療報酬請求額を調整しなくてはなりません。③ 転科の場合複数の診療科が併診として関与している場合,事務担当者が主体的に診療報

酬の発生源となっている診療科を把握して連携することが望まれます。転科の場合には,転科前の担当医と転科後の担当医双方に患者さんの病名等を確認してください。比較的入院期間が長く,DPCの特定入院期間から外れて出来高になっている場合や,DPC/PDPSでも出来高部分が多い場合には,転科までの仮レセプトを作成して医師の確認を得るほうが結果的にトラブルは少なくなります。

DPC/PDPSでは,

薬価の高い医薬品の投与が

始まったときなどに注意。

92  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  93

通常,入院契機病名を入院中に変えることはあまりありません。しかし,診断目的での検査入院や緊急入院で確定診断が入院時についていない場合や,当初の疑い病名や状態名については,最終的な確定診断の病名に変更しなければならないことがあります。また,入院時併存傷病名が入院後に変わることはありませんが,入院後発症病名は名前のとおり,入院時にはなかった傷病名ですから,発生した時点ですみやかに医師が病名記載しなければなりません。多くの場合,入院契機病名が医療資源病名になります。しかし,治療内容や入院中の経過によっては,入院時併存傷病名や入院後発症傷病名に医療費が多くかかって,医療資源病名が入院契機病名ではなくなることがあります。医療資源病名が変更になると診療報酬の点数が大きく変わることになり,さらには副傷病名の有無によっても影響を受けます。入院期間が長い場合や入院中に転科する(内科から外科というように主たる

担当科が変わる)場合には,傷病名が追加されるだけでなく,DPC/PDPSの

場合,医療資源病名が変わる,すなわちDPCを変更することも少なくないということに気をつけてください。医療資源病名が変われば副傷病名の有無も変わります。入院中に訂正しなくてもよいですが,最終的には,退院時の診療報酬請求までに訂正することになります。主治医と事務担当者の連携を密にとり,退院時のいそがしいときにあわてることがないよう,なるべく変更が生じた時点で対処しましょう。

2.3.18

入院中のDPC変更と病名管理

P oint

必要に応じてDPC変更について医師と請求事務担当者と協議する

事務担当者の視点

病名記載(入力)や管理は,本来,医師の業務です。しかし,診療報酬請求においても病名は非常に重要であり,事務担当者は医師の病名管理をサポートする必要があります。① 入院の途中からオーダーが増える場合入院の途中からオーダーが増える場合には,何か問題が起きています。つまり,多くの場合,追加病名が必要です。また,DPC/PDPSでは,薬価の高い医薬品の投与が始まったり,手術や処置が行われたりした場合には,医療資源病名が変わってDPC(診断群分類)が変更になることも念頭において医師に確認する必要があります。② 長期入院となった場合長期入院では,追加病名だけではなく,不要となった疑い病名や急性病名の整理も必要になります。なお,長期入院で月が変わってからのDPC変更の場合,それまでの請求分

を含めて診療報酬請求額を調整しなくてはなりません。③ 転科の場合複数の診療科が併診として関与している場合,事務担当者が主体的に診療報

酬の発生源となっている診療科を把握して連携することが望まれます。転科の場合には,転科前の担当医と転科後の担当医双方に患者さんの病名等を確認してください。比較的入院期間が長く,DPCの特定入院期間から外れて出来高になっている場合や,DPC/PDPSでも出来高部分が多い場合には,転科までの仮レセプトを作成して医師の確認を得るほうが結果的にトラブルは少なくなります。

DPC/PDPSでは,

薬価の高い医薬品の投与が

始まったときなどに注意。

94  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  95

ほとんどの病院では,入院中に他の科を受診する場合には外来診察の手続きをとり,その科では外来カルテに診療記録を記載しています。しかし,入院中の患者さんについては外来診療の診察料,すなわち初診料や外来診療料(再診料)は入院基本料に含まれますので算定できません(他科で行われた検査や投薬,処置などの費用は算定できますが,DPC/PDPSでは包括範囲に含まれるものは算定できません)。つまり,入院中に他科受診があった場合には,仮に患者さんが外来診察室に出向いたとしても,診療報酬請求の上では入院で一括され,1通のレセプトに全科の分を記載することになります。したがって,他科受診があった場合,その病名がレセプトからもれないよう,医師と事務担当者とで十分に情報の共有を図ってください。

2.3.19

入院中の他科受診

P oint

入院中の患者さんでは外来受診の基本診療料は算定できない受診の記録は入院,外来双方のカルテに残るようにすることが望ましい

保険診療の原則は,「診療→カルテ→レセプト」です。したがって,カルテが診療報酬請求の根拠ですから,入院と外来のカルテを分けている医療機関(電子カルテや入外一元化カルテではない医療機関)でも,入院中の記録はすべて入院カルテに記載するべきだという意見があります。しかし,外来診療側の目線で考えれば,入院中に入院の原因とは別に受診

もっと詳しく

事務担当者の視点

入院中の他科受診については,担当医との連携を図りづらいことも多いと思います。病棟配置の事務担当者でしたら,患者さんの動向をつかむことで他科受診にもタイムリーに対処できますが,そうでない場合には後になってからの対処となり,病名や指示に不明なことがあった場合に煩雑な作業が増えてしまいます。他科受診の有無は,病棟では必ず把握されていますので,主体的に情報をとるようにしてください。他科受診があった場合には少なくとも,傷病名だけは必ず確認するようしましょう。医師の記載(入力)もれなどの問題がある場合には,できるだけすみやかに医師に依頼するよう心がけてください。

入院中の他科受診は,患者さんの診療上どうしても必要なことがあります。ただし,DPC/PDPSの場合はほぼ病院の無償サービスとなりますから,必要性と医療機関の運営とのバランスを検討することも病院管理上は重要といえます。

管理者の視点

した科の記録が外来カルテにないのは非常に都合が悪く,かといって,入院中にその科を受診した記録が入院カルテにまったくないというのも都合が悪いことになります。理想的には両方のカルテに記載されるとよいのですが,現実的には,入院カルテには受診したことのみを記録し,詳細は外来カルテ参照などと記録の所在を明確にしておくのが妥当と考えられます。

他科受診の有無は,病棟では必ず把握されているので,

主体的に情報をとる。

94  第2章 患者さんの入院から退院,退院後までと診療報酬 2.3 入院中のポイント  95

ほとんどの病院では,入院中に他の科を受診する場合には外来診察の手続きをとり,その科では外来カルテに診療記録を記載しています。しかし,入院中の患者さんについては外来診療の診察料,すなわち初診料や外来診療料(再診料)は入院基本料に含まれますので算定できません(他科で行われた検査や投薬,処置などの費用は算定できますが,DPC/PDPSでは包括範囲に含まれるものは算定できません)。つまり,入院中に他科受診があった場合には,仮に患者さんが外来診察室に出向いたとしても,診療報酬請求の上では入院で一括され,1通のレセプトに全科の分を記載することになります。したがって,他科受診があった場合,その病名がレセプトからもれないよう,医師と事務担当者とで十分に情報の共有を図ってください。

2.3.19

入院中の他科受診

P oint

入院中の患者さんでは外来受診の基本診療料は算定できない受診の記録は入院,外来双方のカルテに残るようにすることが望ましい

保険診療の原則は,「診療→カルテ→レセプト」です。したがって,カルテが診療報酬請求の根拠ですから,入院と外来のカルテを分けている医療機関(電子カルテや入外一元化カルテではない医療機関)でも,入院中の記録はすべて入院カルテに記載するべきだという意見があります。しかし,外来診療側の目線で考えれば,入院中に入院の原因とは別に受診

もっと詳しく

事務担当者の視点

入院中の他科受診については,担当医との連携を図りづらいことも多いと思います。病棟配置の事務担当者でしたら,患者さんの動向をつかむことで他科受診にもタイムリーに対処できますが,そうでない場合には後になってからの対処となり,病名や指示に不明なことがあった場合に煩雑な作業が増えてしまいます。他科受診の有無は,病棟では必ず把握されていますので,主体的に情報をとるようにしてください。他科受診があった場合には少なくとも,傷病名だけは必ず確認するようしましょう。医師の記載(入力)もれなどの問題がある場合には,できるだけすみやかに医師に依頼するよう心がけてください。

入院中の他科受診は,患者さんの診療上どうしても必要なことがあります。ただし,DPC/PDPSの場合はほぼ病院の無償サービスとなりますから,必要性と医療機関の運営とのバランスを検討することも病院管理上は重要といえます。

管理者の視点

した科の記録が外来カルテにないのは非常に都合が悪く,かといって,入院中にその科を受診した記録が入院カルテにまったくないというのも都合が悪いことになります。理想的には両方のカルテに記載されるとよいのですが,現実的には,入院カルテには受診したことのみを記録し,詳細は外来カルテ参照などと記録の所在を明確にしておくのが妥当と考えられます。

他科受診の有無は,病棟では必ず把握されているので,

主体的に情報をとる。