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拡散律速凝集現象 -グラフィックス表現と独自の次元計算の試み- 龍谷大学 理工学部 数理情報学科 T100071 細井 亮介 T110075 樋栄 潤樹 指導教員 池田 概要 雪の結晶成長や稲妻の伝播などに見られる、拡散律速凝集現象(Diffussion Limited Aggregation以下 DLA と表記)の数値シミュレーションを見てその仕組みに興味を持ち、本研究を始めた。 最初に、空間 2 次元および 3 次元 DLA のプログラムを作成し、次いで、空間 3 次元 DLA を視 覚的にわかりやすくするようなグラフィックス表現を試みた。DLA 集合体の空間的な位置関係を 把握できるように「回転」できるようにした。DLA 集合体を構成する種粒子が 1 つ増えるたびに 一定の角度だけ回転するようにした。なお、回転軸と回転角度は自由に指定できるようにした。さ らに、3 種類の光(環境光、拡散光、鏡面光)を組み合わせて設定することによって、DLA 集合体 の構造がよく理解できるように表現することができた。 数値シミュレーションによって生成された DLA 集合体の内部では、種粒子と種粒子の間に隙間 が目立つ。これは、ブラウン運動を行う粒子が集合体の隙間に入り込もうとすると、そのまわりに 生成されている種粒子のいずれかと隣り合わせになって、集合体の一員となってしまうからであ る。ここから DLA 集合体を作る種粒子は、個数を増加させるにつれて、中心から外側に向かって 付着することが確認できる。粒子はブラウン運動をしながら DLA 集合体に近づくが、隙間の奥に 入り込むことができず、集合体に付着する。このような様子をわかりやすく表現するように工夫 した。 DLA はフラクタル図形ではないが、フラクタル図形に適用されるハウスドルフ次元を我々の数 値シミュレーションによって得られた DLA に対して計算してみた。すると、空間 2 次元 DLA 1.74 ± 0.01 次元、空間 3 次元 DLA 2.56 ± 0.01 次元という結果が得られた。これらは先行研究 で発表されている 1.71 次元(空間 2 次元 DLA)、 2.50 次元(空間 3 次元 DLA)に近い数値である。 ハウスドルフ次元はどんどん細かい構造を調べることによって得られるものであるが、DLA どんどん大きくなっていくものであるので、逆に、DLA をどんどん大きくしたときの構造を調べ るという風に発想の転換を行い、独自の次元計算を行った。これは、DLA 集合体を作る種粒子の 個数と DLA 集合体の直径の関係を利用するものである。我々の数値シミュレーションで得られた DLA の次元は、1.59 ± 0.05(空間 2 次元 DLA)、2.41 ± 0.15(空間 3 次元 DLA)であった。こ れらは先行研究で示されている数値よりやや小さいが、フラクタル図形ではない DLA 集合体の次 元としては、我々の定義の方が適切ではないかと自負している。

拡散律速凝集現象 - Ryukoku University2015年度卒業論文 拡散律速凝集現象 -グラフィックス表現と独自の次元計算の試み- 龍谷大学理工学部数理情報学科

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拡散律速凝集現象-グラフィックス表現と独自の次元計算の試み-

龍谷大学 理工学部 数理情報学科

T100071 細井 亮介

T110075 樋栄 潤樹

指導教員 池田 勉

概要

雪の結晶成長や稲妻の伝播などに見られる、拡散律速凝集現象(Diffussion Limited Aggregation,

以下 DLAと表記)の数値シミュレーションを見てその仕組みに興味を持ち、本研究を始めた。

最初に、空間 2次元および 3次元 DLAのプログラムを作成し、次いで、空間 3次元 DLAを視

覚的にわかりやすくするようなグラフィックス表現を試みた。DLA集合体の空間的な位置関係を

把握できるように「回転」できるようにした。DLA集合体を構成する種粒子が 1つ増えるたびに

一定の角度だけ回転するようにした。なお、回転軸と回転角度は自由に指定できるようにした。さ

らに、3種類の光(環境光、拡散光、鏡面光)を組み合わせて設定することによって、DLA集合体

の構造がよく理解できるように表現することができた。

数値シミュレーションによって生成された DLA集合体の内部では、種粒子と種粒子の間に隙間

が目立つ。これは、ブラウン運動を行う粒子が集合体の隙間に入り込もうとすると、そのまわりに

生成されている種粒子のいずれかと隣り合わせになって、集合体の一員となってしまうからであ

る。ここから DLA集合体を作る種粒子は、個数を増加させるにつれて、中心から外側に向かって

付着することが確認できる。粒子はブラウン運動をしながら DLA集合体に近づくが、隙間の奥に

入り込むことができず、集合体に付着する。このような様子をわかりやすく表現するように工夫

した。

DLAはフラクタル図形ではないが、フラクタル図形に適用されるハウスドルフ次元を我々の数

値シミュレーションによって得られた DLAに対して計算してみた。すると、空間 2次元 DLAは

1.74± 0.01次元、空間 3次元 DLAは 2.56± 0.01次元という結果が得られた。これらは先行研究

で発表されている 1.71次元(空間 2次元 DLA)、2.50次元(空間 3次元DLA)に近い数値である。

ハウスドルフ次元はどんどん細かい構造を調べることによって得られるものであるが、DLAは

どんどん大きくなっていくものであるので、逆に、DLAをどんどん大きくしたときの構造を調べ

るという風に発想の転換を行い、独自の次元計算を行った。これは、DLA集合体を作る種粒子の

個数と DLA集合体の直径の関係を利用するものである。我々の数値シミュレーションで得られた

DLAの次元は、1.59± 0.05(空間 2次元 DLA)、2.41± 0.15(空間 3次元 DLA)であった。こ

れらは先行研究で示されている数値よりやや小さいが、フラクタル図形ではない DLA集合体の次

元としては、我々の定義の方が適切ではないかと自負している。

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2015年度卒業論文

拡散律速凝集現象-グラフィックス表現と独自の次元計算の試み-

龍谷大学 理工学部 数理情報学科

T100071 細井 亮介T110075 樋栄 潤樹

指導教員 池田 勉

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目次

1 はじめに 1

1.1 研究の動機と目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

1.2 ブラウン運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

2 DLAの数値シミュレーション 3

2.1 DLAの原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 空間 2次元 DLAの数値シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.3 空間 3次元 DLAの数値シミュレーションとグラフィックス表現 . . . . . 6

2.4 粒子が中心に向かう確率の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.5 DLAの特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3 DLAの次元計算の試み 13

3.1 位相次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2 ハウスドルフ次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.3 ハウスドルフ次元が適用される例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.4 DLAのハウスドルフ次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.5 DLAの独自の次元計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

4 DLAと似た性質をもつ図形 24

4.1 DLD . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

4.2 バリスティック凝集 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

4.3 自然界における DLA . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

5 まとめ 40

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1 はじめに

まずは研究の分担についてまとめる。

DLAの研究を行うにあたり、3年次の数理情報演習の際に学習した DLAの数値シミュ

レーションを実行して特徴を調べた。そして、その考えを 3次元空間に応用し、同様に数

値シミュレーションを実行してその特徴を調べた。(共同)

空間 3 次元 DLA の数値シミュレーションを実行する際に、グラフィックス表現につ

いて考える必要が出た。その際、さまざまな資料を参考にしながら、見栄えの良いグラ

フィックス表現ができるよう試みた。(資料の収集:細井、グラフィックス表現の変更:

共同)

図形の次元に着目し、次元の種類について調べた。そしてハウスドルフ次元の計算式を

DLAに適応して、DLAの次元計算を行う取り組みを始めた。その際、DLAのハウスド

ルフ次元を求めるためのプログラムを作成した。(樋栄)

ハウスドルフ次元の計算式から DLAの次元計算を行う取り組みは、共同で作業を進め

た。(次元計算を行うプログラムの実行および次元計算:樋栄、実行結果の記録:細井)

DLAが生成される過程から、DLA集合体を作る種粒子の個数とそのときの直径の関係

を利用して、DLAの次元計算を行おうと考えた。数値シミュレーションを用いて、この

考えを適応した次元計算に取り組んだ。(樋栄)

DLA に関する文献を集め、DLA の特徴や、DLA に関連した情報を集めた。その際、

DLAの生成過程に似ている DLDやバリスティック凝集というモデルが存在しているこ

とを発見し、そのモデルを発生させる数値シミュレーションを実行した。(細井)

研究資料をまとめるための資料のベース作りを行った。(樋栄)

研究成果をまとめるため、DLAの数値シミュレーションの実行を繰り返し、その結果

の画像・動画を作成した。(細井)

研究成果を発表する際の構成はそれぞれで考えた上で、その考えを 1つにまとめられる

よう相談を繰り返した。また、個々で進めた取り組みについては、随時情報共有を行うこ

とで、お互いの理解不足が起きないように努めた。

次に執筆の分担についてまとめる。

第 1章「はじめに」、第 4章「DLAと似た性質を持つ図形」、第 5章「まとめ」に関し

ては細井が執筆を行った。第 2章「DLAの数値シミュレーション」、第 3章「DLAの次

元計算の試み」に関しては樋栄が執筆を行った。

1

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1.1 研究の動機と目的

図 1 DLAの数値シミュレーションモデル

図 1は、拡散律速凝集現象(Diffusion Limited Aggregation, 以下 DLA)と呼ばれる

モデルの数値シミュレーション結果である。この数値シミュレーションを見た際にその仕

組みに興味をもったことから、この研究を行うことにした。DLAについて詳しく調べて

みると、DLAは雪の結晶成長や雷(稲妻)の伝播、川の形、山の形、海岸線の崖の形、田

んぼのひび割れといった、自然界のさまざまな部分で見られる現象と関係しているという

ことがわかった。

このモデルについて数値シミュレーションを行うことによって、その仕組みや特徴につ

いて調べようと考え、この研究を始めることにした。その際、グラフィックス表現を加え

ることによって、その特徴をより見やすく表現できるようにした。

1.2 ブラウン運動

DLAの説明をするにあたって必要な、「ブラウン運動」という現象について述べる。

ブラウン運動とは、1827年に植物学者であるロバート・ブラウン(1773~1858)によっ

て発見された現象である([1])。ブラウンは、水を含んだ花粉の粒子が不規則な動きをし

ていることを発見し、実験を行った。そして実験を重ねていくうちに、花粉の粒子だけで

なく、鉱物内の粒子も同様に不規則な動きをしていることを発見した。このように、粒子

が行う不規則な運動のことをブラウン運動という。このブラウン運動という現象が、DLA

が生成される過程に大きく関係している。そのことについて第 2章で詳しく述べていくこ

とにする。

2

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2 DLAの数値シミュレーション

DLAについての研究を進めるにあたって、まずは DLAの数値シミュレーションがど

のような仕組みで動いているのかを理解する必要があると考えた。そこでまずは、DLA

のパターンが生成される原理について調べることにした。

2.1 DLAの原理

DLAのパターンが生成される原理について述べる。まずは、図 2に示すように、矩形

を格子で区切り、その中心となる格子点に動きをもたない種粒子を 1つおく。

 

図 2 種粒子の初期位置

次に、境界のランダムな位置から新たな粒子を発生させる。ここで、図 3は、粒子が発

生する格子点の候補を示したものである。

 

図 3 粒子が発生する格子点の候補

発生した粒子は 1.2で述べたブラウン運動を行うことで、格子点を上下左右のいずれか

の方向にランダムに移動する。図 4は、格子点上におかれたある粒子に対して、ブラウン

運動によって粒子が移動する格子点の候補を示したものである。

3

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図 4 粒子(緑)がブラウン運動によって移動する格子点の候補(青)

ブラウン運動を繰り返し行うことで格子点上をランダムに移動し続ける粒子が種粒子と

隣り合わせになっている格子点のいずれかに辿り着くと、その粒子は動きを失う。そし

て、その種粒子とくっついて、新たに DLA集合体を作る種粒子の一員となる。図 5は、

ある格子点上におかれた種粒子に対して、隣り合っている格子点を示したものである。

 

図 5 種粒子(赤)と隣り合わせになっている格子点(青)

ブラウン運動を行う粒子が種粒子と隣り合わせになりくっつき、DLA集合体を作る種

粒子の一員となれば、再度、境界のランダムな位置から新たな粒子を発生させる。そし

て、その位置からブラウン運動を行い、格子点上を上下左右のいずれかの方向にランダム

に移動する。これによってブラウン運動を行う粒子が種粒子の集合体と隣り合わせになっ

ている格子点のいずれかに辿り着くと、粒子は動きを失い、DLA集合体を作る種粒子の

一員となる。

こうしたステップを繰り返すことで、最初においた種粒子を中心として、DLAのパター

ンが現れる。

4

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2.2 空間 2次元 DLAの数値シミュレーション

DLA の数値シミュレーションが 2.1 で述べた原理を基に動いているということが分

かった。そこで、DLAの数値シミュレーションを行うにあたっての過程を詳しく調べて

いくことにした。

数値シミュレーションを行うためには、まず以下の 2つのステップについて考える必要

がある。

1. DLAがおかれる矩形を任意の数の格子で区切る。

(今回の研究では矩形の各辺を均等にm分割することにした。つまり、元の矩形を

1辺の長さが 1/mの相似な矩形m2 個に分けることになる。)

2. その矩形の格子点上に DLA集合体を作る種粒子を j 個発生させる。

ここで、この m, j の値を指定することで、数値シミュレーションを開始することが確

認できた。そして、n個目の種粒子の生成位置を Pn とおいて、その位置の座標を記録す

る。このとき、

Pn = (xn, yn)  (n = 1, 2,…, j)

と表す。ただし、n = 1のとき、P1 = (0, 0)とおくものとする。

P1~Pj までの種粒子がおかれる位置の座標をデータに記録し、そのデータを読み込む

ことで DLA のパターンが生成されていく様子を確かめることができるようにした。ま

た、この数値シミュレーション結果を視覚的にわかりやすくするため、グラフィックス表

現にも一部変更を加えることにした。ここでは、DLA集合体を作る種粒子を、赤色の点

で示すことにした。

こうしてできた空間 2 次元 DLA の数値シミュレーションを実行する。m = 150, j =

1500とおいてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図 6に示すような DLAの

パターンが発生した。

5

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図 6 空間 2次元 DLAの数値シミュレーション結果(6回分)

2.3 空間 3次元 DLAの数値シミュレーションとグラフィックス表現

2.2で見えた DLAの生成の様子を 3次元空間でも見ることができるか確認しようと思

い、空間 3次元 DLAの数値シミュレーションを行うことにした。

数値シミュレーションを行うためのステップを、以下のようにおく。

1. DLAがおかれる立方体を任意の数の立方体で区切る。

(今回の研究では立方体の各辺を均等にm分割することにした。つまり、元の立方

体を 1辺の長さが 1/mの立方体m3 個に分けることになる。)

2. その立方体の格子点上に DLA集合体を作る種粒子を j 個発生させる。

ここで、このm, j の値を指定することで、数値シミュレーションを開始する。そして、

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n個目の種粒子の発生位置を Pn とおいて、その座標を記録する。このとき、

Pn = (xn, yn, zn)  (n = 1, 2,…, j)

と表す。ただし、n = 1のとき、P1 = (0, 0, 0)とおくものとする。

空間 2次元 DLAと同様、P1~Pj までの種粒子がおかれる位置の座標をデータに記録

し、そのデータを読み込むことで DLAのパターンが生成されていく様子を確かめること

ができるようにした。

ここで、空間 3次元 DLAを描画するということで、空間的な位置関係を把握できるよ

うに、「回転」に関する動作の設定を行った。DLA集合体を作る種粒子が 1個増えるたび

に、DLAがおかれた 3次元空間を自由に回転軸・角度を指定して回転させるという動作

を加えた。今回は、回転軸を y 軸、回転の角度を 2度と指定して数値シミュレーションを

行うものとする。

こうしてできた空間 3 次元 DLA の数値シミュレーションを実行する。m = 100, j =

800とおいてこの数値シミュレーションを実行すると、図 7に示すような DLAのパター

ンが現れた。

図 7 空間 3次元 DLAの数値シミュレーション結果

ここからわかるように、空間 3次元 DLAを描画する際も、グラフィックス表現に関す

る工夫を行わないと、種粒子の付着具合に関して、空間的な位置関係が把握しづらいとい

う課題が見つかった。そこで、「光」に関する設定を行った。今回はその中でも代表的な

「環境光」「拡散光」「鏡面光」という 3種類の光について調べ、それらを組み合わせてい

くことで、グラフィックス表現の課題を解決していこうと考えた([2])。

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まず、もっとも重要であるといえる「環境光」と呼ばれる光について述べる。環境光で

は、全体の色味を表現する。この環境光の色の設定や強さの設定で、図形の全体的な色合

いが決まる。環境光の強さを示す値を大きくすればするほど、指定した色味が強くなる。

次に、「拡散光」と呼ばれる光について述べる。拡散光では、図形の明暗のグラデーショ

ンを表現する。拡散光の強さを示す値を大きくすればするほど、光が当たる位置がより明

るく見え、光の当たる位置から遠いところが暗く見える。

最後に、「鏡面光」と呼ばれる光について述べる。鏡面光では、図形の持つ光沢を表現

する。鏡面光の強さを示す値を大きくしていくと、光の当たる位置から広がる光沢の範囲

が広く見える。

環境光・拡散光・鏡面光は自由に光の強さや色を設定したり、使用するかしないかを決

めたりすることができる。なお、光の強さの設定は 0.00~1.00の範囲で行うものとする。

ここで数値シミュレーションの実行を繰り返しながら、回転動作を行う上で空間的な位

置関係を把握しやすい光の設定を見つけようと試みた。そして今回のグラフィックス表現

として適用することにした 3種類の光の色・強さを表 1にまとめる。

表 1 空間 3次元 DLAを描画する際に用いた光の設定

光の種類 色 強さ

環境光 赤色 0.90

拡散光 使用せず

鏡面光 白色 0.01

また、光源の位置の設定も数値シミュレーション結果のグラフィックス表現に大きな変

化をもたらす。今回のグラフィックス表現の取り組みにおいては、視点に対して奥側かつ

高い位置に光源を設定し、そこから上で説明した 3種類の光を描画した DLAのパターン

に照らすことで、DLAの空間的な位置関係を分かりやすく表現できるように調整した。

付随して、数値シミュレーションにおいて図形を見る位置(視点)や、その視点の位置

から DLAのどの部分を見るか(目標の位置)といった「見え方」に関する設定にも変更

を加えた([3])。

ここでは、視点の位置の座標 (x1, y1, z1)と、目標の位置の座標 (x2, y2, z2)をそれぞれ

設定する。これはつまり、(x1, y1, z1)の位置から (x2, y2, z2)の点を見るということであ

る。なおこのとき、目標の位置 (x2, y2, z2)が、図形を表示する画面の中心に表示される

ものとする。

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これらの設定を行うことで、数値シミュレーションの実行によって、DLAの種粒子の

付着の様子を細部まで確認することが可能になった。

こうしたグラフィックス表現の設定を加えて、m = 100, j = 9900とおいてこの数値シ

ミュレーションを 6回実行すると、図 8に示すような DLAのパターンが現れた。

図 8 グラフィックス表現の設定を行った際の空間 3次元 DLAの数値シミュレーショ

ン結果(6回分)

今回行ったグラフィックス表現の設定に関しては、組み合わせる光の種類や光源の位置

などの設定によって実行結果の見え方に大きな差が出てくるので、そのような部分をうま

く調整することが、この研究の大きな課題となった。

また、生成の様子を数値シミュレーションの実行によって回転動作を行いながら確認す

る場合と、実行結果を静止画として確認する場合とでは、使用する光の種類や強さ、光

源の位置を選びなおした方が、より空間的な位置関係をそれぞれ把握しやすくなると考

えた。

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2.4 粒子が中心に向かう確率の設定

DLAの数値シミュレーションを実行する際、DLA集合体を作る種粒子の個数を増加さ

せると、計算に膨大な時間がかかり、DLAのパターンの生成が思うように進まないとい

う問題が発生した。そこで、計算にかかる時間を短縮し、研究を効率よく進めることはで

きないかと考え、粒子が格子点上を動く確率に変化をもたせようとした。

現段階での空間 2次元 DLAの数値シミュレーションでは、粒子がブラウン運動によっ

て格子点上を移動する方向は 4 方向のうちのいずれかで、ある 1 方向に動く確率は 1/4

である。つまり、ブラウン運動を行う粒子が DLAのおかれた 2次元平面の中心に向かう

確率が 4方向のうちの 2方向、すなわち 0.50であるといえる。

ここで、粒子が中心に向かう確率を p とおき、この確率を設定した空間 2 次元 DLA

の数値シミュレーションを実行する。ここでは m = 100, j = 600と固定した上で、pを

0.50, 0.55, 0.60の 3通りにとった。すると、図 9に示すような DLAのパターンが発生

した。

図 9 粒子が中心に向かう確率を設定した際の空間 2次元 DLAの数値シミュレーショ

ン結果(左:p = 0.50,中央:p = 0.55,右:p = 0.60)

ここで、p=0.50のときは、これまで考えてきた DLAの数値シミュレーションと同様

のパターンが現れることが分かる。しかし、種粒子が中心に向かう確率を上げることで、

x軸,y 軸に沿って、DLA集合体を作る種粒子が生成されていくということがわかった。

この考えを空間 3次元 DLAに応用する。現段階での DLAの数値シミュレーションで

10

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は、粒子が格子点上を移動する方向は 6方向のうちのいずれかで、ある 1方向に動く確率

は 1/6である。つまり、ブラウン運動を行う粒子が DLAのおかれた 3次元空間の中心に

向かう確率が 6方向のうちの 3方向、すなわち 0.50であるといえる。

ここで、粒子が中心に向かう確率を pとおき、この確率を設定した空間 3次元 DLAの

数値シミュレーションを実行する。ここでは m = 100, j = 2500 と固定した上で、p を

0.50, 0.55, 0.60の 3通りにとった。なおこの際、光源の位置が 3次元空間の中心にくる

ように設定を変更した。すると、図 10に示すような DLAのパターンが発生した。

図 10 粒子が中心に向かう確率を設定した際の空間 3 次元 DLA の数値シミュレー

ション結果(左:p = 0.50,中央:p = 0.55,右:p = 0.60)

ここでも空間 2次元 DLAと同様、種粒子が中心に向かう確率を上げることで、x軸,y

軸,z 軸に沿って、DLA集合体を作る種粒子が生成されていくということがわかった。

これより、粒子が中心に向かう確率を設定すると、実行結果からも分かるように、2.1に

示した原理による DLAのパターンの生成ができていないということが確認できる。よっ

て、今回行った粒子が中心に向かう確率の設定は失敗であるという結果になった。そのた

め、こうした粒子が中心に向かう確率の設定をおくことを取り止め元の状態に戻したもの

を、DLAの数値シミュレーションとして用いることにした。

2.5 DLAの特徴

数値シミュレーションによって生成された DLAのパターンについて、その特徴を調べ

た。その際、動きをもつ粒子が境界のランダムな位置から発生する点、その粒子がブラウ

ン運動によって格子点上をランダムに移動する点から、全く同じ DLAのパターンが現れ

11

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ることはないが、全体的には似た構造をした DLAのパターンが現れるということが確認

できた。

また、DLA集合体の内部では、種粒子と種粒子の間に隙間が目立つということが見て

とれた。これは、ブラウン運動を行う粒子が集合体の隙間に入り込もうとすると、そのま

わりに生成されている種粒子のいずれかと隣り合わせになって集合体の一員となってしま

うからである。ここから、DLA集合体を作る種粒子は、生成される個数を増加させるに

つれて、外側に向かって枝分かれをするように付着していくことが確認できる。これは、

空間 2次元 DLAだけでなく、空間 3次元 DLAでも同様のことがいえることも確認でき

た。

このように DLAはとても複雑な構造をした図形である。そこで、その図形の複雑さに

ついてさらに調べていくことにした。

12

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3 DLAの次元計算の試み

2.5で述べたように、DLAはとても複雑な構造をした図形である。そこで、DLAのも

つ特徴についてさらに考え、その際、図形の「次元」という観点に着目した。そのため、

まず「次元」とはどういったものであるのかを調べた。ここでは「位相次元」「ハウスド

ルフ次元」という、2種類の次元について説明する。

3.1 位相次元

位相次元はもっとも基本的な次元の考え方である。位相次元は必ず整数の値をとり、位

相次元が nの図形のことを一般的に「n次元の図形」と呼ぶ。

1次元の図形には直線や線分・曲線など、2次元の図形には正方形・五角形といった多

角形や円・楕円・扇形など、3次元の図形には立方体・正四面体といった多面体や円柱・

円錐などがある。

次元といえばこの 1次元,2次元,3次元といったものが一般的であるが、点は位相次

元が 0の図形であり、0次元ということができる。

3.2 ハウスドルフ次元

1辺の長さが r のセル(線分、正方形、立方体)で図形を覆うのに必要最小のセルの個

数を n(r)とする。このとき、

limr→0

rαn(r) =

{∞  (α < αc)0  (α > αc)

を満たす D = αc があれば、それを、図形のハウスドルフ次元という([4])。

したがって、

rNn(r) → C   (C : 定数,r → 0) ならば  D = N

である。

ここで、ハウスドルフ次元の計算式を求めると、

limr→0

rNn(r) → C : 定数

N log r + log n(r) ≃ logC   (r → 0)

N = − limr→0

log n(r)

log r= lim

r→0

log n(r)

log (1/r)

13

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となる。ここから N は、横軸に log (1/r)、縦軸に log n(r)をとったときの傾きに該当す

ると考えることができる。

ここで 1,2,3次元の図形の例としてそれぞれ線分,正方形,立方体を挙げ、それらの

図形のハウスドルフ次元を調べる。

【線分】

長さが 1の線分を、1辺の長さが r の線分で覆う。このとき、線分全体を覆うのに必要

最小な線分の個数を n(r)とすると、

r =1

2 のとき、  n(r) = 2

r =1

3 のとき、  n(r) = 3

ここから、長さが 1の線分について、

r · n(r) → 1  (r → 0)

が成り立つことがいえる。つまり、線分のハウスドルフ次元は 1である。これは、位相次

元と一致する。

【正方形】

1辺の長さが 1の正方形を、1辺の長さが r の正方形で覆う。このとき、正方形全体を

覆うのに必要最小な正方形の個数を n(r)とすると、

r =1

2 のとき、  n(r) = 4

r =1

3 のとき、  n(r) = 9

ここから、1辺の長さが 1の正方形について、

r2n(r) → 1  (r → 0)

が成り立つことがいえる。つまり、正方形のハウスドルフ次元は 2である。これは、位相

次元と一致する。

14

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【立方体】

1辺の長さが 1の立方体を、1辺の長さが r の立方体で覆う。このとき、立方体全体を

覆うのに必要最小な立方体の個数を n(r)とすると、

r =1

2 のとき、  n(r) = 8

r =1

3 のとき、  n(r) = 27

ここから、1辺の長さが 1の立方体について、

r3n(r) → 1  (r → 0)

が成り立つことがいえる。つまり、立方体のハウスドルフ次元は 3である。これは、位相

次元と一致する。

3.1 で述べたような図形では、ハウスドルフ次元は位相次元と一致することがわかる。

なので今後、そのような図形について次元と言えば、位相次元のみを考えるものとする。

3.3 ハウスドルフ次元が適用される例

3.2で述べたハウスドルフ次元は、「どれだけ細かくその図形を区切っても、同じ図形が

現れる」という性質をもった図形に適用する次元である。こうした性質のことを「自己相

似性」といい、この自己相似性をもった図形のことを「フラクタル」と呼ぶ([5])。

ここで、フラクタルな図形の代表例である「コッホ曲線」と呼ばれる図形について考え

る。コッホ曲線とは、図 11に示すような図形である。

図 11 コッホ曲線

このコッホ曲線は、図 12に示す図形を用いて作成することができる。この図形のこと

を、コッホ曲線のジェネレーターと呼ぶ。

15

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図 12 コッホ曲線のジェネレーター

このジェネレーターは、1本の線分を 3等分にし、その真ん中の線分を取り除いて、そ

の部分に底辺を取り除いた正三角形を組み合わせてできた図形である。ここから、ジェネ

レーターは、元の線分の 1/3の長さの線分が 4本集まってできた図形といえる。ここで、

その図形のすべての線分を図 13に示すようにジェネレーターに置き換える。

図 13 ジェネレーターにおける 4本の線分をすべてジェネレーターに置き換えた図形

するとその図形は、元の線分の 1/9 の長さの線分が 16 本集まってできた図形といえ

る。ここで同様に、その図形のすべての線分を図 14に示すようにジェネレーターに置き

換える。

図 14 さらにすべての線分をジェネレーターに置き換えた図形

するとその図形は、元の線分の 1/27 の長さの線分が 64 本集まってできた図形といえ

る。その後も同様に、その図形のすべての線分をジェネレーターに置き換えていく。

この作業を無限に繰り返していくことで、図 11に示すようなコッホ曲線が形成される。

つまりコッホ曲線は、ジェネレーターが無数に集まってできた図形であると考えることが

できる。

16

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ここで、コッホ曲線の次元について考える。コッホ曲線は「曲線」であるため、位相次

元は 1であるといえる。

しかし先行研究から、コッホ曲線のハウスドルフ次元は 1.26 であることがわかった

([6])。コッホ曲線が形成される過程から、コッホ曲線がとても複雑で細かな構造をしてい

ることが見てとれる。このことから、ハウスドルフ次元が位相次元よりも大きくなるとい

うことが推測できた。

ここで、DLAが生成される過程から、DLA集合体をどんどん細かくして構造を見ると

いうことはできないということがわかる。そのため、DLAはフラクタルな図形と呼ぶこ

とはできないが、同じような考え方をして、ハウスドルフ次元を求めていくことにした。

その際、先行研究によって、DLA のハウスドルフ次元は空間 2 次元 DLA では 1.71,

空間 3次元 DLAでは約 2.50であるということがわかった([7])。

そこで、数値シミュレーションによってできた DLAのパターンを用いて、それを確か

めることにした。

3.4 DLAのハウスドルフ次元

図 15に示すように、1辺の長さが 1の正方形におかれた空間 2次元 DLAを、1辺の長

さが r の正方形で覆う。このとき、必要最小な正方形の個数 n(r)を調べる。

図 15 1辺の長さが 1の正方形におかれた空間 2次元 DLAを 1辺の長さが r の正方

形で覆ったときの結果(左:r = 1/4のとき、右:r = 1/5のとき)

図 6に示した 6つの空間 2次元 DLAのパターンについて、r を小さくしていったとき

の n(r)の変化を調べ、データにまとめる。そして、横軸に log (1/r),縦軸に log n(r)を

とって求めた点をプロットし、その点の近くを通る直線を最小二乗法から求める。する

と、図 16に示すような結果が現れた。

17

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0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

図 16 空間 2 次元 DLA のハウスドルフ次元の計算結果(6 回分、すべて横軸:

log (1/r),縦軸:logn(r))

ここで、図 16に示した 6つの直線の傾き、すなわち、図 6に示した 6つの空間 2次元

DLAのハウスドルフ次元を求めると、それぞれ 1.73, 1.74, 1.74, 1.73, 1.74, 1.74という

結果になった。

これより、空間 2次元 DLAのハウスドルフ次元は 1.73 ± 0.01であり、先行研究で示

されている値(1.71)とほぼ一致することが確認できた。

ここで 2.5にも述べたように、空間 2次元 DLAにおいて、集合体の内部では種粒子と

種粒子の間に隙間が目立つことが見てとれる。ここから空間 2次元 DLA集合体を作る種

粒子は「面」を形成することができず、このような結果になると推測した。

この考えを、空間 3次元 DLAに応用する。1辺の長さが 1の立方体におかれた空間 3

次元 DLAを、1辺の長さが r の立方体で覆う。このとき、必要最小な立方体の個数 n(r)

を調べる。

図 8に示した 6つの空間 3次元 DLAのパターンについて、r を小さくしていったとき

の n(r)の変化を調べ、データにまとめる。そして、横軸に log (1/r),縦軸に log n(r)を

とって求めた点をプロットし、その点の近くを通る直線を最小二乗法から求める。する

と、図 17に示すような結果が現れた。

18

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0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

図 17 空間 3 次元 DLA のハウスドルフ次元の計算結果(6 回分、すべて横軸:

log (1/r),縦軸:logn(r))

ここで、図 17に示した 6つの直線の傾き、すなわち、図 8に示した 6つの空間 3次元

DLAのハウスドルフ次元を求めると、それぞれ 2.55, 2.55, 2.56, 2.55, 2.55, 2.56という

結果になった。

これより、空間 3次元 DLAのハウスドルフ次元は 2.56 ± 0.01であり、こちらも先行

研究で示されている値(2.50)とほぼ一致することが確認できた。

ここで空間 3次元 DLAにおいても、集合体の内部では、種粒子と種粒子の間に隙間が

目立つことが見てとれる。ここから空間 3次元 DLA集合体を作る種粒子は「空間」を形

成することができず、このような結果になると推測した。

3.5 DLAの独自の次元計算

3.3で述べたハウスドルフ次元は、どんどん細かい構造を調べることによって得られる

ものであるが、DLAはどんどん大きくなっていくものである。そこで逆に、DLAをどん

どん大きくしていったときの構造を調べていくという風に発想の転換を行い、独自に次元

計算を行うと試みた。

その際、図 18に示すように、DLAが生成される過程において、DLA集合体を作る種

粒子の個数を増やしていくと、DLAの直径も大きくなっていくという点に着目した。

19

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図 18 DLA集合体を作る種粒子の個数を増やした時の直径の変化(左:種粒子 200個

のとき、右:種粒子 500個のとき)

ここでいう DLAの直径とは、DLA集合体の中で、もっとも離れた種粒子間の距離の

ことをさす。

空間 2次元 DLAにおいて、もっとも離れた位置にある 2つの種粒子が k個目と ℓ個目

に発生したものであったとき、その種粒子の座標 Pk,Pℓ を次のようにおく。

Pk = (xk, yk),Pℓ = (xℓ, yℓ)

すると、その種粒子間の距離 dは、

d =

√(xk − xℓ)

2+ (yk − yℓ)

2

と計算できる。これを、空間 2次元 DLAの直径とする。

空間 3次元 DLAでも同様に、もっとも離れた位置にある 2つの種粒子が k個目と ℓ個

目に発生したものであったとき、その種粒子の座標 Pk,Pℓ を次のようにおく。

Pk = (xk, yk, zk),Pℓ = (xℓ, yℓ, zℓ)

すると、その種粒子間の距離 dは、

d =

√(xk − xℓ)

2+ (yk − yℓ)

2+ (zk − zℓ)

2

と計算できる。これを、空間 3次元 DLAの直径とする。

ここで DLAの独自の次元計算を行うにあたって、DLA集合体を作る種粒子の個数と、

そのときの DLAの直径の間にある関係性について考えていく。そのためにまずは 1,2,

20

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3次元の図形の例としてそれぞれ線分,円,球を挙げ、それらの図形の直径と、その図形

の長さ,面積,体積の関係性を調べることにした。

【線分】

直径Dの線分の長さを Lとする。このとき、L = Dとおける。ここで両辺に対数をと

ると、

logL = logD

となる。これは、横軸に logD,縦軸に logLをとったときの傾きが 1であり、それが位

相次元と一致していることを示す。

【円】

直径 D の円の面積を S とする。このとき、S = πD2

4とおける。ここで両辺に対数を

とると、

logS = log

(π · D

2

4

)= 2 logD + log

π

4

となる。これは、横軸に logD,縦軸に logS をとったときの傾きが 2であり、それが位

相次元と一致していることを示す。

【球】

直径 D の球の体積を V とする。このとき、V = πD3

6とおける。ここで両辺に対数を

とると、

log V = log

(π · D

3

6

)= 3 logD + log

π

6

となる。これは、横軸に logD,縦軸に log V をとったときの傾きが 3であり、それが位

相次元と一致していることを示す。

ここで、DLA集合体を作る種粒子の個数は、図形の面積(空間 2次元)、体積(空間 3

次元)にそれぞれ対応すると考えることができる。ここで、DLA集合体を作る種粒子の

21

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個数 nのときの DLAの直径をDとおく。すると、横軸に logD,縦軸に log nをとった

ときの傾きが、DLAの独自の次元計算の結果とみなすことができると考えた。

図 6に示した 6つの空間 2次元 DLAのパターンが生成される過程で、nを大きくして

いったときの D の変化を調べ、データにまとめる。そして、横軸に logD,縦軸に log n

をとって求めた点をプロットし、その点の近くを通る直線を最小二乗法から求める。する

と、図 19に示すような結果が現れた。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

図 19 空間 2次元 DLAの独自の次元計算の結果(6回分、すべて横軸:logD,縦軸:logn)

ここで、図 19 に示した 6 つの直線の傾き、すなわち図 6 に示した 6 つの空間 2 次元

DLAの独自の次元計算の結果は、それぞれ 1.56, 1.64, 1.62, 1.54, 1.58, 1.61となった。

これより、独自に求めた空間 2次元 DLAの次元は 1.59 ± 0.05であり、先行研究で示

されている値(1.71)や、ハウスドルフ次元の計算式から求めた値(1.74± 0.01)よりや

や小さくなることが確認できた。

この考えを、空間 3次元 DLAに応用する。図 8に示した 6つの空間 3次元 DLAのパ

ターンが生成される過程で、nを大きくしていったときの D の変化を求め、データにま

とめる。そして、横軸に logD,縦軸に log nをとって求めた点をプロットする。そして、

プロットした点の近くを通る直線を最小二乗法から求める。すると、図 20に示すような

結果が現れた。

22

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0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

図 20 空間 3次元 DLAの独自の次元計算の結果(6回分、すべて横軸:logD,縦軸:logn)

ここで、図 20 に示した 6 つの直線の傾き、すなわち図 8 に示した 6 つの空間 3 次元

DLAの独自の次元計算の結果は、それぞれ 2.42, 2.50, 2.34, 2.52, 2.45, 2.26となった。

これより、独自に求めた空間 3次元 DLAの次元は 2.41 ± 0.15であり、先行研究で示

されている値(2.50)や、ハウスドルフ次元の計算式から求めた値(2.56± 0.01)よりや

や小さくなることが確認できた。

こうして独自に求めた DLAの次元は、空間 2次元 DLA、空間 3次元 DLAの両方にお

いて先行研究で示された値やハウスドルフ次元の計算式から求めた値よりやや小さくなっ

た。しかし、フラクタル図形ではない DLA集合体の次元としては、我々の定義の方が適

切ではないかと自負している。

23

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4 DLAと似た性質をもつ図形

研究を進めていくうちに、DLA と似た性質をもつモデルが複数存在することがわ

かった。その中で今回は Diffusion Limited Deposition(以下、DLDと表記),Ballistic

Aggregation(以下、バリスティック凝集と表記)という 2 つのモデルに関して述べる

([8])([9])。

さらに自然界の中で実際に見ることのできる DLAのモデルの例として海岸線を挙げ、

その特徴を調べていくことにした。

4.1 DLD

まずは DLD というモデルについて述べる。DLD は DLA とは多少生成される原理が

異なるため、生成される過程を DLAで行ったように順に説明していく。DLAと異なる

点としては、最初の種粒子の位置と数、新たな粒子が発生する位置である。

まずは図 21に示すように、格子で区切った正方形の底辺上に動きをもたない種粒子を

おく。

図 21 種粒子の初期位置

次に境界のうち底辺を除いた 3 つの辺のランダムな位置から、新たに粒子を発生させ

る。ここで図 22は、粒子が発生する格子点の候補を示したものである。

24

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図 22 粒子が発生する格子点の候補

発生した粒子の動きは DLAと同様にブラウン運動を行うことで格子点上をランダムに

移動する。そして、すでに置かれている種粒子と隣り合わせになっている格子点に辿り着

くと、粒子は動きを失い種粒子とくっついて、集合体の一員となる。そして、新たにブラ

ウン運動を行う粒子を発生させ、同様にブラウン運動によって格子点上をランダムに移動

させる。その粒子が種粒子の集合体と隣り合わせになっている格子点上のいずれかに辿り

着くと、種粒子の集合体の一員となる。こうしたステップを繰り返すことで、最初におい

た種粒子を土台として DLDのパターンが現れる。

ここで、DLAの数値シミュレーションを行うプログラムにおいて、DLDの原理が成り

立つように条件を変更することで、DLDの数値シミュレーションを行うプログラムを作

成した。こうしてできた空間 2次元 DLDの数値シミュレーションを実行する。ここで、

m = 150, j = 1500とおいてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図 23に示す

ような DLDのパターンが発生した。

25

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図 23 空間 2次元 DLDの数値シミュレーションの結果(6回分)

図 23 から、底辺から草が生えるように DLD のモデルが成長していることがわかる。

さらにそれぞれのモデルの先が複雑に枝分かれをしているような形になっていることか

ら、DLAと同じような特徴が出ていることも確認することができる。

さらにこのパターンを見ていくと、粒子が付着し始めて間もない状態の部分で、小さな

枝分かれ状のようなものがたくさん生成され始めていることが見てとれる。DLDの集合

体を作る種粒子の個数が少ないときは等間隔でたくさん生成されているが、種粒子の個数

を増やしていくと、その枝分かれ状のものが大きく成長することによって、他のものがほ

とんど成長していないことが見てとれる。このことから、新たに発生した粒子は大きく成

長した部分に付着しやすく、成長が途中で止まってしまった部分には付着しにくいという

ことが確認できた。

大きく成長した部分には粒子が付着しやすいのでさらに大きく成長していき、逆に成長

が止まってしまった部分に新たに粒子が付着するには、発生した粒子が大きく成長した部

分を避けた上で小さな部分にたどり着かなければならないので、結果として新たに粒子が

付着する確率は極めて低いことがわかる。このように自身の集合体の一部によって成長が

26

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妨げられてしまう現象を遮蔽(スクリーニング)効果という([10])。

この考えを応用して、空間 3 次元 DLD の数値シミュレーションを行う。ここで、空

間 2 次元 DLD から変更する点は、種粒子は立方体の底面上一面に敷き詰めるという点

と、底面以外の 5つの面のうちのランダムな位置から新たな粒子を発生させるという点で

ある。

ここで、m = 50, j = 4500とおいてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図

24に示すような DLDのパターンが発生した。

図 24 空間 3次元 DLDの数値シミュレーションの実行結果(6回分)

図 24 から分かるように、空間 2 次元 DLD で見られたような特徴が空間 3 次元 DLD

でも起こっていることが見てとれる。集合体が大きく成長している部分と成長が止まって

しまっている部分とで大きな差が出ている。大きく積み重なった部分にはさらに新たな粒

子が付着しやすくなるためさらに集合体が成長しやすくなっているのに対して、成長が止

まってしまった部分に関しては、他の部分が大きくなればなるほど成長が妨げられてしま

うので、新たな粒子が付着する確率が低くなることが確認できた。

27

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ここで、空間 2 次元 DLD の集合体が成長する過程から、遮蔽効果が起こる様子を確

認していく。ここでは m = 150, j = 1500 とおいて DLD の数値シミュレーションを実

行し、その生成過程を見ていく。まずは、種粒子の個数が 375個のときの結果を図 25に

示す。  

図 25 空間 2次元 DLDの成長過程(種粒子が 375個付着した状態)

まず種粒子の個数が少ない段階では下地に敷き詰められた種粒子に対してほぼ等間隔で

草が生えるように DLDのパターンが成長している様子がわかる。ここで種粒子の個数を

増やしていったときの DLDの様子を図 26に示し、特徴を確認する。その際、図 25の中

で丸く囲まれた部分について着目する。

図 26 空間 2次元 DLDの成長過程(種粒子が 600個付着した状態)

図 26は種粒子の個数を 600個に増やしたときの DLDのパターンである。これを見る

と、図 25と比べて、成長している部分の大きさに少しずつ差が出てきているのが見てと

れる。注目した部分は多少成長しているものの、他の大きく成長した部分と比較すると種

28

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粒子の成長率が低いことが確認できた。注目した部分以外にも、種粒子の成長率が低く、

図 25の状態とほとんど変わらないものが多数見られる。さらに DLDの数値シミュレー

ションの実行を続けて種粒子の個数を増やしていき、その様子を図 27に示し、特徴を確

認する。

図 27 空間 2次元 DLDの成長過程(種粒子が 1200個付着した状態)

図 27は種粒子の個数を 1200個に増やしたときの DLDのパターンである。図 26と比

べるとそれぞれの種粒子の成長率に大きな違いがあることがわかる。大きく成長した部

分がいくつかあるのが目立つが、最初に注目した部分に関しては、図 26と比較してもほ

とんど変化がないことがわかる。さらに DLDの数値シミュレーションの実行を続けてい

き、その特徴を図 28に示し、特徴を確認する。

図 28 空間 2次元 DLDの成長過程(種粒子が 1500個付着した状態)

図 28は種粒子の個数を 1500個に増やしたときの DLDのパターンである。ここで、種

粒子が大きく成長した部分に注目すると、複数存在していた種粒子が大きく成長した部分

29

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はさらに大きく成長してきている部分とあまり成長しなくなった部分とで分かれているの

が見てとれる。このように種粒子が大きくなる部分は少しずつ数を減らし、最終的に最後

まで種粒子が大きく成長するのは数えられる程度しかないことがわかる。注目していた部

分に関しては、比較してきた図と比べてもまったくと言っていいほど成長していないこと

が確認できる。このことから、大きく成長する部分はさらに大きく成長し、成長が止まっ

てしまった部分に関してはほとんど成長しなくなるという現象が起こっている。この現象

のことを遮蔽効果という。これは DLDのみに関わらず、DLAに関しても起こる現象で

ある。

これより、ランダムな位置から粒子を発生させ、格子点上をブラウン運動によってラン

ダムに移動させているにも関わらず、どの DLDのパターンにおいても成長する部分と成

長しない部分で大きく偏りが出てくるという結果を得ることができた。

ここで DLAと同様に、DLDのハウスドルフ次元を 3.2に示したハウスドルフ次元の

計算式から求めようと試みた。ここでも、DLDをどんどん細かくして構造を見ることが

できない点を十分考慮しているものとする。

その際、先行研究によって、DLD のハウスドルフ次元は DLA とほぼ同じ値(空間 2

次元 DLA:1.71, 空間 3次元 DLA:2.50)をとるということがわかった([11])。

そこで、数値シミュレーションでできた DLDのパターンを用いて、それを確かめるこ

とにした。

図 29に示すように、1辺の長さが 1の正方形におかれた空間 2次元 DLDを、1辺の長

さが r の正方形で覆い、このときの必要最小な正方形の個数 n(r)を調べる。

図 29 1辺の長さが 1の正方形におかれた空間 2次元 DLDを 1辺の長さが r の正方

形で覆ったときの結果(左:r = 1/4のとき、右:r = 1/5のとき)

図 23に示した空間 2次元 DLDの 6つのパターンについて、r を小さくしていったと

30

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きの n(r)を調べ、データにまとめる。そして、横軸に log(1/r), 縦軸に log n(r)をとっ

て求めた点をプロットし、その点の近くを通るような直線を最小二乗法から求める。する

と、図 30に示すような結果が現れた。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

図 30 空間 2次元DLDのハウスドルフ次元の計算結果(6回分、すべて横軸:log(1/r),

縦軸:logn(r))

ここで、図 30に示した 6つの直線の傾き、すなわち、図 23に示した 6つの空間 2次元

DLDのハウスドルフ次元を求めると、それぞれ 1.67, 1.67, 1.65, 1.67, 1.65, 1.67という

結果になった。

これより、空間 2 次元 DLD のハウスドルフ次元は 1.66 ± 0.01 であり、空間 2 次元

DLAのハウスドルフ次元(先行研究で示されている値:1.71,ハウスドルフ次元の計算

式から求めた値:1.74± 0.01)とほぼ一致することが確認できた。

次に、DLAと同様に、集合体を作る種粒子の個数とそのときの DLDの直径の関係性

を用いて独自に DLDの次元を求めようとした。しかし、数値シミュレーションの実行結

果から、DLDでは集合体を作る種粒子の個数を増やしたときに、DLDの直径も大きくな

るという関係が成り立たないと考えた。そのため、DLAで試した独自に次元計算を行う

取り組みは DLDでは行わないことにした。

この考えを、空間 3次元 DLDに応用する。1辺の長さが 1の立方体におかれた空間 3

次元 DLDを、1辺の長さが rの立方体で覆う。このとき、必要最小な立方体の個数 n(r)

を調べる。

31

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図 24に示した 6つの空間 3次元 DLDのパターンについて、r を小さくしていったと

きの n(r)の変化を調べ、データにまとめる。そして、横軸に log (1/r),縦軸に log n(r)

をとって求めた点をプロットし、その点の近くを通る直線を最小二乗法から求める。する

と、図 31に示すような結果が現れた。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

図 31 空間 3次元DLDのハウスドルフ次元の計算結果(6回分、すべて横軸:log(1/r),

縦軸:logn(r))

ここで、図 31に示した 6つの直線の傾き、すなわち、図 24に示した 6つの空間 3次元

DLDのハウスドルフ次元を求めると、それぞれ 2.37, 2.37, 2.36, 2.37, 2.37, 2.37という

結果になった。

これより、空間 3次元 DLDのハウスドルフ次元は 2.37 ± 0.01であり、こちらは空間

3次元 DLAのハウスドルフ次元(先行研究で示されている値:2.50,ハウスドルフ次元

の計算式から求めた値:2.56± 0.01)よりやや小さくなっていた。

ここでも同様に、DLD集合体を作る種粒子の個数を増やしたときに、DLDの直径が大

きくなるという考えが成り立たないと考え、DLAで試した独自の次元計算の方法は行わ

ないことにした。

4.2 バリスティック凝集

次に、バリスティック凝集というモデルについて述べる。これは、川や海底などで起こ

る泥の沈殿に関するモデルである。実際に海底などの泥がどういった風に堆積していくの

32

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かを、数値シミュレーションを用いて調べていくことにする。そこで、バリスティック凝

集のモデルがどういう風に生成されていくかについて調べた。

バリスティック凝集では DLDと同じように、まず矩形の底辺に種粒子を配置する。こ

こから新たに粒子を発生させるわけだが、粒子が発生する位置としては矩形の境界のうち

の上辺からとし、発生した位置から下方向にのみ粒子が移動していくものとする。また、

バリスティック凝集は動きをもつ粒子が種粒子の集合体の上部分にのみ付着する場合と、

上部分だけでなく横側にも粒子が付着する可能性がある場合の 2種類のモデルが存在する

ことが知られている。ここではこの 2種類のモデルそれぞれに対して数値シミュレーショ

ンを行い、それぞれの特徴と違いについて調べていくことにする。

ここで、DLDの数値シミュレーションを行うプログラムに変更を加えることで、バリ

スティック凝集の数値シュミレーションを行うプログラムを作成する。まずは DLA や

DLDの粒子が種粒子に付着する条件に近い、粒子が集合体の上部分もしくは横側に付着

する場合から考え、プログラムに変更を加えた。

こうしてできたバリスティック凝集の数値シミュレーションを実行する。m = 150, j =

1500 とおいてこの数値シミュレーションを 6 回実行すると、図 32 に示すようなバリス

ティック凝集のパターンが発生した。

実際に形成されたバリスティック凝集の数値シミュレーション結果を観察するとさまざ

まな特徴が現れていることがわかる。バリスティック凝集の集合体の内部は DLA, DLD

と比べてもかなり密集していて、混み合った状態でありその中でさらに複雑に枝分かれし

ている様子も確認することができる。また粒子が付着していく一番上部のところを見る

と、形成途中段階のバリスティック凝集は表面がかなり荒っぽい状態になっている。この

ことから形成途中では表面上には凹凸が見られるが、粒子が堆積していくにつれてなだら

かな状態へと変化していくことが見てとれる。

次に、粒子が集合体の上部分のみに付着する条件で実際に数値シミュレーションを実行

する。m = 150, j = 1500とおいてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図 33

のようなバリスティック凝集のパターンが発生した。

積み重なった種粒子の高さに注目するとある程度の種粒子の積み重なりはどの場所にも

均等にあるが、最終的な種粒子の高さを比較すると多い部分と少ない部分とで結構なばら

つきがあることがわかる。

次に、2種類のバリスティック凝集のモデルの違いについて考える。図 32,図 33から

33

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図 32 空間 2次元バリスティック凝集の数値シミュレーションの結果(6回分)

わかるように、集合体の上部分のみに粒子が付着する状態のバリスティック凝集と横側に

も粒子が付着することのあるバリスティック凝集では、形成されるモデルにかなりの違い

があるということがわかる。条件としてはほとんど違いがないように思われるかもしれな

いが、このように 2つのバリスティック凝集のパターンは全く違った結果を生み出す。上

部分のみに粒子が付着するバリスティック凝集では、最終的な種粒子の高さが多い部分と

少ない部分とで結構なばらつきがあるのに対し、横側にも粒子が付着することがある場合

だと、最終的な種粒子の積み重なりの高さはどの位置もさほど変わらないということがわ

かった。また図 32から分かるように、DLAや DLDで起こる遮蔽効果がバリスティック

凝集でも同じように起こっている様子が見てとれた。

この考えを空間 3 次元バリスティック凝集に応用する。ここでも空間 2 次元バリス

ティック凝集と同じように粒子が集合体の粒子の上部分のみに付着する場合、集合体の粒

子の上部分と横側に付着する場合の 2つのパターンでそれぞれ数値シミュレーションを実

行しようと試みた。空間 3次元バリスティック凝集の場合、まず立方体の底面全体に種粒

34

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図 33 空間 2次元バリスティック凝集の数値シミュレーションの結果(6回分)

子を敷き詰める。粒子が発生する位置としては立方体の上面のうちのいずれかとし、空間

2次元バリスティック凝集のときと同じく、発生した位置から下向きのみに粒子が移動し

ていくものとする。

空間 2次元バリスティック凝集で考えた際と同様に、まずは粒子が集合体の上部分、横

側に付着する場合を考え、空間 3次元バリスティック凝集の数値シミュレーションを行っ

た。そして、m = 40, j = 7000としてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図

34に示すようなバリスティック凝集のパターンが発生した。

35

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図 34 空間 3次元バリスティック凝集の数値シミュレーションの実行結果(6回分)

次に、粒子が集合体の上部分のみに付着する条件で数値シミュレーションを行った。そ

して、m = 40, j = 7000としてこの数値シミュレーションを 6回実行すると、図 35に示

すようなバリスティック凝集のパターンが発生した。

36

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図 35 空間 3次元バリスティック凝集の数値シミュレーションの実行結果(6回分)

図 35から、空間 3次元バリスティック凝集でも、最終的な種粒子の積み重なりの高さ

を比較すると少ない部分と多い部分とで、結構なばらつきがあることがわかる。

次に、粒子の付着条件を変えた際の 2つのパターンの違いについてまとめる。2つのパ

ターンにおいて、空間の格子の数や発生させる種粒子の個数は同様の条件であるが、明ら

かに種粒子の付着条件を上部分のみに設定したパターンの方が、集合体の高さが低いこと

が分かる。このことから、付着条件を上部分のみに設定したパターンの方では、種粒子は

隙間なく積み重なるのに対し、上部分と横側に付着する条件のパターンではところどころ

隙間を作りながらバリスティック凝集の集合体を形成しているということがわかる。この

ことから、空間 3次元バリスティック凝集でも遮蔽効果が起こっているということを確認

することができた。

ここで DLAや DLDと同様に、バリスティック凝集に関しても、数値シミュレーショ

ンでできたパターンを用いてハウスドルフ次元を求める取り組みを行おうとした。しか

37

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し、さまざまな文献を探しても有益な情報が得ることができなかった。また、DLDと同

様に、バリスティック凝集においても、集合体を作る種粒子の個数を増やしたときにバリ

スティック凝集の直径も大きくなるという関係が成立しないと考えた。そのためバリス

ティック凝集においても、独自に次元計算を行う取り組みは行わないことにした。

4.3 自然界における DLA

1.1でも述べたように、我々の生活する自然界の中には DLAが関係しているようなモ

デルが多数存在している。

一つ一つの図形に注目してみるとそれぞれの図形に関して同じような特徴を持った部分

が存在しているのが確認できる。例えば川の形を注意深く観察してみると、本流の川の流

れの部分から細い川に向かって複数に枝分かれをしていき、さらにその細い川からさらに

同じように複数に枝分かれをしていく。こうして川全体が形成されていくことがわかる。

ただ川とひとくくりに言っても、全体的に曲がりくねっていて複雑な形をしたものや、緩

やかな曲がりのみでほとんど曲がっていない川など、その種類はさまざまである。このこ

とは、海岸線に関しても同じことがいえる。

ここで、日本列島の地図を注意深く観察してみる。一般的にリアス式海岸のように複雑

にうねっている海岸線もあれば、ほとんど直線のようにシンプルな形状をした海岸線も存

在している。ここでは、複雑に入り組んだ海岸線とほぼ直線のようなシンプルな形をした

海岸線、またはその中間程度の海岸線など、海岸線によって次元の差がどの程度存在する

かということを実際の測定によって数値的に比較することにした。そのために、それぞれ

の地形のハウスドルフ次元 3.2に示した計算式から求めていくことにする。ここでも、海

岸線をどんどん細かくして構造を見ることができないという点を十分考慮しているものと

する。ここでは、次のような手順でそれぞれの海岸線のハウスドルフ次元を測定していく

ことにする。

1. 1辺の長さが 1の正方形におかれた海岸線を 1辺の長さが rの正方形で覆い、その

とき必要最小な正方形の個数 n(r)を調べる。

2. r の大きさを変更して、何度か同じように n(r)を調べていく。

3. 横軸に log(1/r)、縦軸に log n(r) をとり、データから求めた点をプロットしてい

く。そして、その点の近くを通るような直線を最小二乗法から求める。このグラフ

の傾きがハウスドルフ次元とみなすことができる。

この考えを用いて、海岸線のハウスドルフ次元を求めていく。今回は、日本列島の中で

38

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も特にリアス式海岸の特徴が出ている三陸海岸(岩手県気仙沼付近)の海岸線、三陸海岸

ほどではないが少し入り組んだ様子が見てとれる熊野灘(三重県付近)の海岸線、これら

とは対照的に直線的な形状をした遠州灘(愛知県、静岡県付近)の海岸線の 3つを選択し

それぞれのハウスドルフ次元を求めていこうと試みた。

その際、文献から海岸線のハウスドルフ次元は約 1.0~1.3 程度となることが確認でき

た([12])。そこで、この実験によってこのことを確かめようとした。

すると、三陸海岸のハウスドルフ次元は約 1.39、熊野灘の海岸線のハウスドルフ次元は

約 1.33となった。これに対して、ほとんど直線的である遠州灘の海岸線のハウスドルフ

次元は約 1.0となった。ここからこうして求めた海岸線のハウスドルフ次元は、参考文献

で調べたものと近い値をとるということがわかった。

また、3.1より、海岸線は曲線であるため位相次元は 1であるといえる。しかし、三陸

海岸や熊野灘の海岸線はとても複雑な構造をしていることからハウスドルフ次元が位相次

元よりも大きくなり、逆にほとんど直線的な海岸線である遠州灘の海岸線は、直線の位相

次元 1とほぼ変わらないことが確認できた。この結果から、海岸線の形状が複雑であれば

あるほど、ハウスドルフ次元が大きくなるということがいえる。

また、DLAが関係したモデルであっても、そのハウスドルフ次元は DLAのハウスド

ルフ次元と近い値をとるとは限らないということがわかった。

39

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5 まとめ

本研究の当初の目的であった DLAの数値シミュレーションから特徴を調べることに加

えて、空間 3次元 DLAを描画する際のグラフィックス表現や DLAの次元計算といった

点にも着目して、この研究を進めていくことができた。

まず第一に行った空間 2次元 DLAの数値シミュレーションによって、DLAモデルの

形成のされ方や最終的に形成される DLAモデルについて理解することができた。

生成された DLAのモデルから種粒子が付着していくたびに種粒子が付着した集合体が

複雑に枝分かれをしながら形成されていくという点や、4.1に示した遮蔽効果によって内

部に種粒子が付着しにくくなるといった点が確認できた。

また空間 2次元 DLAの数値シミュレーションを基に、空間 3次元 DLAの数値シミュ

レーションも行った。しかし、空間 3次元 DLAのモデルを観察する上で、形成された図

形をそのまま表示するだけでは種粒子の付着具合に関して空間的な位置関係を把握しづら

いため、グラフィックス表現に変更を加える必要性が出た。そこでここでは、回転動作の

設定や光の設定を行うことにした。実際に形成されたモデルに回転動作と光の詳細な設定

を付け加えることによって、種粒子一つ一つの付着具合と奥行きを観察できるようになっ

た。また、生成の様子を数値シミュレーションで回転動作を行いながら確認する場合と、

実行結果を静止画として確認する場合とでは、使用する光の種類や強さ、光源の位置を選

びなおした方が、より空間的な位置関係をそれぞれ把握しやすくなると考えた。

空間 3 次元 DLA に関しては参考文献を探しても詳しい情報を見つけることができな

かったが、実際に自分たちで数値シミュレーションを行うことで空間 2次元 DLAと同じ

ように空間 3次元 DLAの特徴を知ることができた。

次に、次元計算の試みについてだが、複雑な構造をしている DLAの次元を求めること

によってどういった特徴をもった図形なのかということを知る重要な要素になったかと

思う。

まず、ハウスドルフ次元の計算式を用いて求めた DLAのハウスドルフ次元は空間 2次

元 DLAでは 1.74± 0.01,空間 3次元 DLAでは 2.56± 0.01となり、先行研究で示され

ている値(空間 2次元 DLA:1.71,空間 3次元 DLA:2.50)に近い結果を得ることがで

きた。

DLAが生成される過程から、DLAは種粒子と種粒子の間に隙間が目立つことがわかっ

た。ここから DLA集合体を作る種粒子は面や空間を形成することができず、このような

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結果になると推測した。

ハウスドルフ次元はどんどん細かい構造を調べることで得られるものであるが、DLA

はどんどん大きくなっていくものである。そこで逆に、DLAをどんどん大きくしていっ

たときの構造を見ていくという発想の転換を行った。そして、DLA集合体を作る種粒子

の個数と、DLA の直径の関係を利用することで、DLA の次元を独自に求めることを試

みた。

こうして独自に求めた DLA の次元は空間 2 次元 DLA では 1.59 ± 0.05,空間 3 次元

DLAでは 2.41± 0.15であり、先行研究で示されている値やハウスドルフ次元の計算式か

ら求めた値よりやや小さくなったが、フラクタル図形ではない DLA集合体の次元として

は、我々の定義の方が適切ではないかと自負している。

最後に、DLAと似た性質をもつ図形と、実際に自然界でも見られる DLAモデルの測

定に関して述べる。DLA モデルの中でも DLD と呼ばれるモデルに関しても DLA と同

じように実験を行っていく上で、DLAと同じ特徴をもっているということを実際に確認

することができた。バリスティック凝集に関しては 2次元平面、3次元空間の両方におい

て、この図形のもつ 2種類のパターンそれぞれで数値シミュレーションを行うことはでき

た。しかし、次元計算や詳しい特徴を調べるまでには至らなかった。

自然界でも見られる DLAモデルに関しては、日本列島の特徴的な海岸線を選択し、そ

れぞれのハウスドルフ次元を測定した。これによって海岸線の形状が複雑であればあるほ

ど、そのハウスドルフ次元は大きくなるということがわかった。さらに、DLAと関係し

た図形であっても、そのハウスドルフ次元は必ずしも DLAのハウスドルフ次元と近い値

をとるとは限らないということも確認できた。

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参考文献

[1] 松下貢,フラクタルの物理(I)-基礎編-,株式会社 裳華房,2002年,p.63

[2] http://www.natural-science.or.jp/article/20101113171100.php

openGL入門 光源のパラメータ設定 1

[3] http://www.wakayama-u.ac.jp/ tokoi/opengl/libglut.html

床井浩平,GLUTによる「手抜き」OpenGL入門

[4] 広中平祐,現代数理科学百科事典,大阪書籍会社,1991年,p.159

[5] Kenneth Falconer,フラクタル幾何学(服部久美子・村井浄信 訳),共立出版株式会

社,2006年,p.157

[6] http://sorauta.bufsiz.jp/index.html

そらはうたたね

[7] 松下貢,フラクタルの物理(I)-基礎編-,株式会社 裳華房,2002年,p.117

[8] 松下貢,フラクタルの物理(II)-応用編-,株式会社 裳華房,2004年,p.95

[9] 松下貢,フラクタルの物理(I)-基礎編-,株式会社 裳華房,2002年,p.100

[10] 松下貢,フラクタルの物理(I)-基礎編-,株式会社 裳華房,2002年,p.107

[11] 松下貢,フラクタルの物理(II)-応用編-,株式会社 裳華房,2004年,p.96

[12] 高安秀樹,フラクタル,株式会社 朝倉書店,1986年,p.33

42