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mono Pelikan ●[ペリカン] SINCE1838~ VOL.36 20 8 9 「ペリカン」のマークが商標登録 されたのは1878年。まだまだ 商標意識の低かった時代の話であり 品質保証のためのマークを 商標登録することは、当時の ヨーロッパでも珍しいことだった。 現在のマークは2003年デザイン。 Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP) Pelikan Text / Teruhiko Doi (WPP)

商標意識の低かった時代の話であり Pelikan 商標登録することは … · 商標意識の低かった時代の話 ... 紳士の胸ポケットからクルマには〝名車〞と呼ばれるロゴ

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Page 1: 商標意識の低かった時代の話であり Pelikan 商標登録することは … · 商標意識の低かった時代の話 ... 紳士の胸ポケットからクルマには〝名車〞と呼ばれるロゴ

mono

Pelikan●[ペリカン]SINCE1838~

VOL.36

詩人と思想家の国……歴史的に

ドイツはそう呼ばれてきた。

ゲーテもハイネも

ヘルマン・ヘッセも、

そしてかのグリム兄弟も

ドイツ人である。

世界的な哲学者も音楽家も

枚挙にいとまが無い。

さらには、20世紀のデザインや

建築に多大な影響を与えた

バウハウスも

ドイツで誕生している。

こうした文化的背景の中で、

この国が画材や筆記具に関する

世界的なブランドを

多数抱えていることは、

当然といえば

当然の話なのかもしれない。

世界的に知られる

万年筆ブランド『ペリカン』の

歴史は、1832年に

カール・ホーネマンという

化学者が、独自の製造方法で

絵の具の生産を開始した

ところから始まっている。

イギリスから始まった

産業革命の波が

フランス、ベルギーに押寄せ、

ドイツではその礎が

生まれた時代である。

ドイツ人の気質でなければ

決して生まれることのなかった

万年筆の名品『ペリカン』の

魅力を探ってみることにする。

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「ペリカン」のマークが商標登録されたのは1878年。まだまだ商標意識の低かった時代の話であり品質保証のためのマークを商標登録することは、当時のヨーロッパでも珍しいことだった。現在のマークは2003年デザイン。

Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP)Pelikan

Text / Teruhiko Doi(WPP)

Page 2: 商標意識の低かった時代の話であり Pelikan 商標登録することは … · 商標意識の低かった時代の話 ... 紳士の胸ポケットからクルマには〝名車〞と呼ばれるロゴ

mono「ペリカン」の名前を一躍有名にしたスーベレーン・シリーズのボディは独自のストライプ模様が特徴。2種類の異なる樹脂を交互に貼り合わせたブロックを縦にスライスして作る。こうした手作りによる風合いや個性を愛するペリカン・ファンは多い。

さほど自動車に興味が無い人でも、

目の前を通り過ぎたクルマの

車種やブランドがすぐに判明する

ときがある。そうしたデザインや

ロゴマークに明確な特徴を持つ

クルマには〝名車〞と呼ばれる

ものが多い。紳士の胸ポケットから

取り出された万年筆が、

どこのブランド製であるのかを知るのも、

同じように特徴的なスタイリングや

ロゴマークから判断されやすい。

当然、名品であればあるほど

その個性は際立っている。

ペリカンの『スーベレーン』が持つ

独特の存在感は、数ある万年筆の中でも

飛び抜けて完成されたデザインから

生まれている。ドイツ語で「卓越した」

あるいは「優れたもの」という意味の

スーベレーンを名前に持つこの

シリーズは、5種類のボディサイズに

6〜10種類のペン先が揃えられている。

特にジェード・グリーンの

ストライプ模様のボディは、

誰が見ても『ペリカン』であることが

判り、同時にペリカンの口ばしのような

形のクリップもまた、

洗練された伝統を感じさせるものだ。

1925年頃のフライヤー。絵の具を始め、筆記用、コピー用、あるいは公文書用などさまざまな用途のインクを製造。製品としての万年筆がペリカンから発売されたのは1929年のこと。

万年筆のみならず、文房具の歴史にその名を残す名品「スーベレーン1000」。シリーズの中では最もサイズが大きく毛筆を思わせる弾力のある書き味で

日本では昔からファンが多い。胴軸はブラックとグリーン。ペン先はロジウム装飾18金で、字幅は10種類が用意されている。ピストン吸入式。価格6万8250円。

ボトルインクは「エーデルシュタイン」のサファイア。宝石の名がつけられた

8種類のインクが揃う。価格2415円(各色)

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世界の

文豪も愛す

傑作品

 

ドイツ、ハノーバー家の宮

廷画家を父に持つ化学者カー

ル・ホーネマンがハノーバー

の工房で、独自の製造法によ

る絵の具の生産を開始した1

832年が『ペリカン』の歴

史の始まりとされてい

る。そして1863年

に化学者ギュンター・

ワーグナーが経営に参

加。近隣諸国へのイン

クの販売を拡大し、1

878年にペリカン製

品の品質を保証するために商

標を登録。母性愛の象徴とさ

れるそのペリカンの母子像は、

古来よりヨーロッパでは母性

愛の象徴とされており、ギュ

ンター・ワーグナー家の家紋

でもあったという。世界に知

られるインクのトップメーカ

ーとして業績を伸ばしていた

ペリカン社は、1929年に

筆記具の製造に着手する。最

ペリカン社のアーカイブに残されている1900年頃のプライスリスト。最も重要な筆記用インクとコピー用インクに2001、3001、4001、5001がラインナップされている。後に6001も追加された。

ドイツ北部に所在する美しい都市ハノーバーの20世紀初頭のペリカン本社。

カニズム部分の誤差は、わず

か100分の1ミリだったそ

うだ。インクの残量が目で確

認できる別名「透明ペリカン

万年筆」と呼ばれるこのモデ

ルにはまた、ピストン式吸入

機構が備わっていた(この機

構を開発したのはハンガリー

の技術者だったが、権利をペ

リカンが買い取り、後にワー

グナーがそれにインクフィー

ダー技術を追加し、ペリカン

の名で特許の再取得を行って

いる)。以降、次々と新製品を

発表していく中で、ペリカン

は万年筆の完成度をより高め

るために、さまざまな技術開

発を行っている。1958年

にはインクのボタ落ち問題を

飛躍的に改善したサーマル・

インク・フィード、1960年

には最初の学童用万年筆「ペ

リカーノ」を発売する。こう

した創業当時からの技術力、

開発力の高さは同社の伝統で

あり、1996年に発売され

た、まったく斬新なインク注

入システムを採用した「レベ

ルペン」が、世界にその実力

を示したことは記憶に新しい。

しかし従来の3倍のインク容

量を誇ったレベルペンは、保

初の製品は緑縞のモデル10

0型、14金ペン先の万年筆で

あった。19世紀末にはウォー

ターマンによる万年筆の特許

が認められ、新しい筆記具に

当時の人々は関心を寄せてい

たが、ギュンター・ワーグナ

ーはその特許から2〜3年後

には万年筆用インクの製造を

始めていたという。

 

産業革命ではイギリスやフ

ランスの後塵を拝したとはい

え、ドイツの製造業に携わる

職人たちの腕は、ヨーロッパ

随一の高さを誇っていた。ペ

リカンが最初に作った万年筆

である、モデル100型用に

開発されたピストンノブのメ

守的な万年筆市場では大きく

受け入れられることなく、後

に生産が中止されている。

 

ペリカンの筆記具は万年筆

だけではない。1934年に

はシャープペンシルを発売し、

1955年には万年筆とペア

になるボールペンも発売して

いる。1993年には現代の

潮流にもなっている、収集家

や愛好家のための特別デザイ

ン限定品を発売。最初の限定

品は「Blue Ocean

」で、以降

発売された限定シリーズは数

多くの文房具賞や工芸賞を受

賞している。

 

日常的な筆記具から、ステ

ータス性も含めた新しい価値

観の中で語られるようになっ

た万年筆であるが、ペリカン

という愛すべきブランドへの

思いは、創業から175年経

ったいまでも変わらぬ人が多

いのではないだろうか。

1929年頃に製作されたポスター。この絵が最初の透明ペリカン万年筆だ。ギュンター・ワーグナーはピストン吸入機構にインクフィーダー技術を追加し、この特許を新しく彼の会社名で再取得している。右下のペリカンのマークが現在とは異なっているのにお気づきだろうか。

右の写真は現行のスーベレーンのイメージ写真。ペリカンの代表的シリーズで5種類のボディサイズがあり、最良の筆記具バランスを選ぶことができる。

1932年に発売された「T111 Toledo」はトレドの製造技術を用いてペリカンが胴軸に描かれている。ペリカンの歴史上最も美しい万年筆といわれており、コレクター垂涎の的。その価値は数千ユーロだといわれている。現在は新しいToledoとして発売中。

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1895年頃のドイツの工場

1930年代頃の広告。透明ペリカン万年筆を始め、当時販売されていたインクなどが描かれている。

1950年に発売されて以来、わずかのデザイン変更のみで60年以上、中心的モデルであり続けるロングセラー。ピストン吸入式。ロジウム装飾14金ペン先。価格3万1500円

Souverän 400(ホワイト)

価格3万1500円

Souverän 400(レッド)

価格3万1500円

Souverän 400(ブラック)

Souverän 400(ブルー)

価格3万1500円

Souverän 400(グリーン)

彫金細工で栄えたスペインの古都の名を冠した現代版の名品「トレド」。100を超える工程と1ヶ月以上の日数が費やされる職人技は圧巻。1本ごとに製造番号が付く。価格18万9000円

Toledo M900

ペリカンの万年筆には伝統的なインク吸入式が多いが、こちらはカートリッジ専用万年筆。ブラスのキャップにスマートなピンストライプ。フラットな18金ペン先が特徴。価格4万7250円

Ductus P3100

ペリカンの筆記具に関するお問い合わせはペリカン日本☎03-3836-6541まで。http://www.pelikan.com/

Souverän 1000カラーはブラックとグリーン。シリーズの中で最も大きいサイズのモデルであり、弾力性のあるペン先が生み出す、毛筆のような書き味を好むファンが多い。最もペリカンらしい一本。価格6万8250円(ブラック/グリーン)

価格3万1500円

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