8
26 Vol.20 季刊 新日鉄住金 鉄よりも軽い素材もありますが、鉄はつくるときの環境負荷がとても小さいのです。 ※高強度鋼材ハイテン(鉄)は従来材(鉄)に比べ約25%軽くでき、環境負荷も小さくなります。 WorldAutoSteel(世界鉄鋼協会の自動車分科会)公表データに基づき作成 851 990 ハイテン(鉄) アルミ 炭素繊維強化 プラスチック 機能等価重量(kg) 75 67 45 単位重量当たり CO2 排出量(kg・CO2/kg) 2.3 12.7 22.0 169 従来材(鉄) 100 2.2 223 製造時負荷 使用時効率が優れていても、ライフサイクル全体では、 環境負荷が高い場合もあり得る。 1 2 1 2 GOOD BAD GOOD BAD Life Cycle Thinking の重要性 使用時負荷 廃棄処理負荷 リサイクル効果 ライフサイクル 総合負荷 見落とされがちな 環境負荷 ここだけに ハイライト 見落とされがちな 環境負荷 新日鉄住金のものづくり Advanced Technology ライフサイクル全体でエコを考える 鉄はエコマテリアル 新日鉄住金の鉄づくり クルマやビルなど製品の環境負荷を評価するとき、製品の材料をつくる段階 から寿命を迎えて廃棄処理される段階に至るまで、ライフサイクル全体で考 えること(Life Cycle Thinking)が重要になっています。新日鉄住金はライフ サイクル全体で見たエコな鉄づくりを通じ、私たちの暮らしや産業を支える 製品の環境負荷低減に貢献しています。 図1 ライフサイクル全体で考えることの重要性 製品のライフサイクル全体でエコを考える(製品のLCA)と、見落とされていた大切なことが見えてきます 図1Life Cycle Thinking 図2 従来材(鉄)100kg と同じ強さの自動車部材をつくるときの CO2 排出量比較 (kg・CO2

新日鉄住金のものづくり 鉄はエコマテリアル - Nippon SteelVol.20 季刊 新日鉄住金 26 鉄よりも軽い素材もありますが、鉄はつくるときの環境負荷がとても小さいのです。※高強度鋼材ハイテン(鉄)は従来材(鉄)に比べ約25%軽くでき、環境負荷も小さくなります。WorldAutoSteel(世界鉄鋼協会の自動車分科会)公表データに基づき作成

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 26Vol.20 季刊 新日鉄住金

    鉄よりも軽い素材もありますが、鉄はつくるときの環境負荷がとても小さいのです。※高強度鋼材ハイテン(鉄)は従来材(鉄)に比べ約25%軽くでき、環境負荷も小さくなります。

    WorldAutoSteel(世界鉄鋼協会の自動車分科会)公表データに基づき作成

    851 990

    ハイテン(鉄) アルミ 炭素繊維強化プラスチック

    機能等価重量(kg) 75 67 45単位重量当たりCO2排出量(kg・CO2/kg) 2.3 12.7 22.0

    169

    従来材(鉄)

    100

    2.2

    223

    製造時負荷

    使用時効率が優れていても、ライフサイクル全体では、環境負荷が高い場合もあり得る。

    製品1

    製品2

    製品1

    製品2

    GOOD

    BAD GOOD

    BAD

    Life CycleThinkingの重要性

    使用時負荷廃棄処理負荷リサイクル効果

    ライフサイクル総合負荷

    見落とされがちな環境負荷

    ここだけにハイライト

    見落とされがちな環境負荷

    環境負荷

    製品の材料は…

    新日鉄住金のものづくり

    Advanced Technology

    ライフサイクル全体でエコを考える

    鉄はエコマテリアル新日鉄住金の鉄づくりクルマやビルなど製品の環境負荷を評価するとき、製品の材料をつくる段階から寿命を迎えて廃棄処理される段階に至るまで、ライフサイクル全体で考えること(Life Cycle Thinking)が重要になっています。新日鉄住金はライフサイクル全体で見たエコな鉄づくりを通じ、私たちの暮らしや産業を支える製品の環境負荷低減に貢献しています。

    図1 ライフサイクル全体で考えることの重要性

    製品のライフサイクル全体でエコを考える(製品のLCA)と、見落とされていた大切なことが見えてきます(図1)。

    Life Cycle Thinking

    図2 従来材(鉄)100kgと同じ強さの自動車部材をつくるときのCO2排出量比較(kg・CO2)

  • 27 季刊 新日鉄住金 Vol.20

    平木岳人他 , 第 23回廃棄物資源循環学会研究発表会 , 2012 23_269

    アルミニウムには多くのトランプエレメントが存在する。このため、本来品質を維持したリサイクルは極めて困難。

    鉄にとってのトランプエレメントは他金属に比べて圧倒的に少ない。このため、本来品質を維持したリサイクルが容易。

    ガス化により除去可能

    酸化物として除去可能

    除去困難(トランプエレメント)

    Fe Al

    Ti Mg

    Gasphase

    Matalphase

    Slag phase

    のでしょうか。答えは「NO」です。材料

    をつくるときのCO2排出量を見てみると、

    鉄はアルミや炭素繊維に比べて大幅に低

    いことがわかります(図2)。さらにクルマ

    としての役割を終えて廃車になったあと、

    鉄はほぼ完全にリサイクルされ、再び自

    動車用鋼板によみがえるだけでなく、ビ

    ルや橋、船などさまざまな材料に使われ

    る鉄鋼製品に生まれ変わっています。一方、

    クルマに使われているアルミの大半は廃

    車後、アルミ缶のように同じ展伸材には

    リサイクルされていません。それは磁石に

    くっつく鉄とは違って他の金属との分別が

    難しいことに加え、リサイクルの際、鉄と

    比べて除去困難な不純物成分(トランプエ

    レメント)が多い(図3)ため、品質の劣化

    が生じやすいことも要因の1つとなってい

    ます。また炭素繊維については焼却する

    ことも難しく、リサイクル技術もまだ確

    立されていない状況です。

    このように、製品に使われる材料をつ

    くるときの環境負荷や、製品を使い終え

    たあとの材料を廃棄処理する際の環境負荷・

    リサイクルのしやすさは見落とされがち

    です。たとえ製品を使うときの環境負荷

    が改善されても、製品のライフサイクル

    全体では必ずしも環境負荷の低減につな

    がらない場合があるのです。

    新日鉄住金は「鉄は地球環境にやさしい」

    「だからこそ鉄はカッコイイ」と評価して

    いただけるように、製品のライフサイクル

    全体で環境負荷の低減に貢献する鉄づく

    りに邁進しています。

    つくるときの環境負荷や

    リサイクルのしやすさも重要

    製品をライフサイクル全体で考える

    ことの重要性について、例えばクルマの

    CO2排出の環境負荷評価を例にして考え

    てみましょう。近年、クルマは世界中で燃

    費規制が強化されています。最も厳しいヨー

    ロッパでは2021年に乗用車などから

    のCO2排出量を15年に比べて30%近く減

    らすことが求められています。またアメリ

    カでも乗用車の燃費規制が強化され、中

    国では20年には先進国並みの燃費規制が一

    斉に導入される見通しとなっています。

    そこでクルマの燃費向上を図るため、

    軽量素材の採用が広がっています。長年

    主要な材料として使われてきている鉄は、

    「古い」「重い」「カッコ悪い」というイメー

    ジを持たれがちで、例えば、「もっとアル

    ミを使ったクルマを開発したほうが良いの

    ではないか」「これからは炭素繊維の時代

    だ」という意見も聞かれます。新日鉄住金

    は従来よりもはるかに強い、軽量化と安

    全性を両立できる最新技術の高強度鋼板(ハ

    イテン)を開発・製造し、多くのクルマで

    利用されています。しかし走行時のCO2

    排出量だけを見ると、その差が縮まり肉

    薄しているとはいえ、ハイテンよりもアル

    ミや炭素繊維を使ったクルマのほうが現

    状では軽く、走行時の環境負荷が低い状

    況です。

    鉄は時代遅れの材料になってしまった

    図3 リサイクルに伴う不純物の材料品質への影響

    鉄の強みは無限のリサイクル

    環境意識の高まりを受けて、行政、企業

    によるグリーン調達(環境にやさしい製品や

    サービスの調達)が進展しています。材料に

    関しては、環境負荷が少ない材料やリサイ

    クルされた材料が優先的に調達されるよう

    になりました。そのようななかで鉄鋼材料

    については、鉄スクラップを主原料とする

    電炉鋼材が注目を集めています。

    鉄のつくり方は主に2つあります。1つは、

    天然資源からつくるもので、酸素と鉄が結

    びついた鉄鉱石から、石炭を用いて酸素を

    引き剥がす(このときにCO2が発生)こと

    により溶けた鉄にし、さらに鉄スクラップ

    を混ぜ、さまざまな鉄鋼製品がつくられます。

    その代表が高炉を用いて行われる高炉法です。

    もう1つは、鉄スクラップを電気炉で

    溶かしてつくる方法(電炉法)で、主に建築

    材料がつくられています。高炉法、電炉法

    いずれも鉄スクラップを使用しており、国

    内の高炉法でのスクラップ使用率は10〜

    20%です。新日鉄住金グループでは年間約

    1500万トンのスクラップを使用してお

    り、消費量としては国内最大となります。

    製品としての役割を終えたあと、その製

    品で用いられた材料がどのようにリサイク

    ルされるのかは、社会的・経済的な条件に

    加えて、前述のトランプエレメントのよう

    にその材料が本質的に持っている特性に左

    右されます。さまざまな材料があるなか、

    鉄は持続可能な材料リサイクルに必要な条

    件を満たしているため、全ての鉄スクラッ

  • 28Vol.20 季刊 新日鉄住金

    リサイクルするとき

    鉄スクラップは環境価値も持っている

    つくるとき

    0

    高炉法   電炉法

    環境負荷120

    100

    80

    60

    40

    20

    0

    -20

    -40

    -60

    -80

    A:鉄鋼プロセス

    代替

    B1:利用に伴う配分

    B2:回収に伴う配分

    高炉転炉電炉

    製品寿命の終わり

    鉄鋼資源循環システム(無限のクローズドループリサイクル)

    スクラップ環境価値

    B1:利用に伴う配分

    B2:回収に伴う配分

    スクラップ環境価値

    鉱石採掘から

    製鉄所出荷までの

    環境負荷

    スクラップ利用に

    伴う環境負荷配分

    スクラップ回収

    に伴う環境価値控除

    Total.スクラップリサイクル

    効果を含むライフ

    サイクル全体の

    環境負荷

    + =製鉄所で

    つくるとき

    =

    worldsteel LCA 方法論 高炉・電炉別鉄のLCAの考え方

    原料スクラップリサイクル

    効果を含むライフ

    サイクル全体の

    環境負荷

    Total.

    スクラップ回収

    に伴う環境価値控除

    天然資源および

    スクラップ

    B1A

    B2

    製造プロセスのみでの環境負荷は、鉄鉱石を還元する際にCO2が多く発生するため、高炉法が電炉法よりも大きい(A)。しかしスクラップリサイクルも含めて考える場合、鉄スクラップがもつ環境価値を、スクラップの利用(B1)や回収(B2)にあたって、適切に反映させる必要がある。鉄のライフサイクル全体で見ると環境負荷はどちらも同じ値になる(Total)。

    鉄は資源循環を持続できる柔軟な材料ライフサイクル全体でエコを考えると、鉄は資源循環を持続できる柔軟な素材で、製品の環境負荷の低減に貢献できていることがわかります。

    図4 鉄鋼製品のライフサイクル 図5 世界鉄鋼協会のLCA方法論と鉄のLCAの考え方

    プが高炉法と電炉法によって新たな鉄鋼材

    料に何度でも何にでもよみがえるという「完

    全なクローズドループリサイクル」が確立さ

    れています(表1)。高炉法と電炉法を組み合

    わせて、鉄スクラップの無限リサイクルを実

    現できている鉄は、「環境にやさしい材料のチャ

    ンピオン」といえます。また鉄の板では、理

    論強度の10〜20%しか実用化できていないと

    言われており、さらに強く、軽くなる可能性

    に満ちた材料でもあります。

    環境価値を持っている

    鉄スクラップ

    回収された鉄スクラップを原料として利

    用すると、そのぶん天然資源が節約され、そ

    れに伴いCO2(高炉での鉄鉱石還元に伴う

    CO2)も削減できるため、高炉鋼材より電

    炉鋼材のほうがより環境にやさしいと思われ

    る方が多いかもしれません。しかし、一度鉄

    鉱石から鉄に還元されたあとは、鉄のまま無

    限にリサイクルされる鉄のライフサイクルの

    なかでは、高炉鋼材も電炉鋼材もそれぞれラ

    イフサイクルの1ステージに過ぎません。こ

    のような材料の場合、環境負荷はライフサイ

    クル全体を通して見る(ライフサイクルアセ

    スメント、LCA)必要があります。そして、

    そのように見ると、次に説明するように高炉

    鋼材も電炉鋼材も環境負荷は同じと考える

    べきです。

    新日鉄住金をはじめとする世界の高炉・

    電炉メーカー、鉄鋼業界団体などが加盟し

    ている世界鉄鋼協会(worldsteel)

    では、鉄スクラップのリサイクル効果を加味

    Sustainability&

    Flexibility

    ① 分別が簡単にできること 鉄は磁性を持っているため、磁力選別によって簡単に他素材との分別が可能

    ② 再生利用のための負荷が低いこと 鉄はスクラップの再生利用の際のエネルギー消費量や環境負荷が、天然資源からつくる場合に比べて少ない

    ③ 経済合理的なリサイクルシステムが整備されていること鉄はスクラップの回収と原料としての利用の両面で、経済合理的なリサイクルシステムが世界中で成り立っている

    <無限リサイクルに必要な追加条件>

    ④ リサイクルによる材料品質の低下が生じにくいこと 鉄は品質低下の原因となる不純物のほとんどを製造・再生プロセスで取り除くことが可能

    ⑤ さまざまな製品に再生可能であること鉄は主に熱処理技術により、いろいろな微細組織構造をつくり出すことができるため、スクラップの溶融後再度ニーズに応じた微細構造をつくり出すことができ、さまざまな鉄鋼製品への再生が可能になる

    表1 持続可能な材料リサイクルの必要な条件

  • 29 季刊 新日鉄住金 Vol.20

    新日鉄住金のものづくりAdvanced Technology

    損失0.3億 t

    社会貯蓄300億 t = 4.0t /人

    (日本:13.6億 t = 10.7t /人)

    製品供給(= 需要)12.7億 t

    天然資源

    老廃スクラップ2.3億 t

    天然資源を使った高炉材(銑鉄)

    12.2億 t

    2015 年世界鉄鋼循環

    鋼材生産14.0億t

    粗鋼生産16.0億t

    電炉4.0億t

    転炉

    12.0億t

    製鉄所内スクラッ

    プ:2.

    0億

    t

    加工スクラ

    ップ:

    1.3億

    t

    データ出典:日本鉄鋼連盟・Bureau of International Recycling aisbl

    CO2排出量の変化鉄鋼需給の変化国内鉄鋼需要

    国内鉄鋼需要

    海外鉄鋼需要

    天然資源

    スクラップ

    スクラップ

    天然資源

    高炉製鉄所のエネルギー効率比較(日本=100)世界のスクラップ発生量は有限

    海外鉄鋼需要

    日本の高炉は最も効率が高い

    電炉鋼材優先利用

    高炉鋼材利用増加

    国内

    CO2排出

    海外

    CO2排出

    A:国内 CO2  排出量減少

    B:海外 CO2  排出量増加

    世界CO2排出量増加

    B:海外CO2排出増加量

    A:国内CO2排出減少量

    高効率国内高炉減産

    低効率海外高炉増産

    地球規模で見れば、CO2排出量が増加

    温暖化対策としては逆効果に日本 韓国 ドイツ 中国 フランス 英国 インドブラジル 米国 ロシア

    100 104112

    117121 123 124 124

    132 136140

    120

    100

    80

    国内電炉シフト

    出典:日本鉄鋼連盟

    図7 鉄鋼需給の変化とCO2排出量への影響

    した環境負荷の評価法(LCA方法論)を確

    立しました。この方法論では、高炉法、電炉

    法が1つの鉄鋼資源循環システムを形成し

    ている点に着目し、そのシステムのなかで鉄

    スクラップは環境価値を有して循環している

    と考えます。鉄スクラップの環境価値とは、

    その利用によって天然資源やCO2などの環

    境負荷が削減されることに対する価値であ

    り、鉄スクラップの回収時に控除され、利用

    時に付加されます(図4・5)。この計算に

    よると高炉鋼材、電炉鋼材の環境負荷は同

    一です。このような、製造時だけではなくラ

    イフサイクル全体で環境負荷を計算する世

    界鉄鋼協会のLCA方法はクローズドルー

    プリサイクルが成り立っている鉄ならではの

    LCAの考え方ですが、現在は、グローバ

    ルスタンダードな考え方になっており、国際

    標準(ISO)化も進められています。

    1つの大きな資源循環システム

    日本国内で私たちの生活を支える社会

    資本として蓄積されている鉄鋼材料の量は

    13億トン超にのぼります。これは日本国民

    1人当たり10・7トンに相当します。世界

    ではどうでしょうか。世界の鉄鋼蓄積量は

    約300億トン(2015年)と推計されて

    いますが、これは世界人口1人当たりでは

    約4トンに過ぎません。世界人口はこれか

    らも増え続け、また途上国が経済発展を遂

    げていくことを考えれば、世界の鉄鋼蓄積

    量は今後もまだ増え続ける必要があると考

    えられます。このため高炉法などによる新

    たな鋼材生産が必要です。2015年の世

    界鉄鋼需要は12・7億トンあったのに対し

    て社会蓄積から回収された鉄スクラップは

    2・3億トンに過ぎなかったため、不足分

    の鉄が高炉法によって新たに供給されまし

    た(図6)。

    このようななか、鉄のライフサイクル全

    体ではなく、製鉄所での製造時負荷のみの

    評価によって電炉鋼材を優先した場合、ど

    うなるのでしょうか。そうすると国内での

    鉄スクラップ利用量が増え、そのぶん日本

    図6 鉄の資源循環

    天然資源からつくられた鉄鋼製品は、社会インフラとしての役割を終えたあと、鉄はスクラップとして回収されて再び新たな鉄鋼製品の原料として利用されることで、天然資源の使用量を減らし、消費エネルギーと環境負荷を大きく減らしている。鉄はこのライフサイクルが無限に繰り返されている。

    から鉄スクラップを輸入しているアジア諸

    国など海外での鉄スクラップ利用可能量が

    減ることになります(図7)。鉄スクラップ

    は鉄鉱石などの天然資源とは異なり、発生

    量をコントロールすることはできない(鉄ス

    クラップが不足しているからビルやクルマを

    壊すというわけにはいかない)からです。こ

    のため、海外での鉄スクラップの不足分は

    エネルギー効率が世界最高の日本の高炉メー

    カーではなく海外の高炉メーカーの鋼材で

    補われることになります。つまり、地球規模

    で見るとCO2排出量がかえって増え、温暖

    化対策としては逆効果となってしまいます。

    地球環境対策というグローバルな視点から

    も、高炉鋼材と電炉鋼材で区分けをするので

    はなく、鉄づくりを1つの大きな資源循環シ

    ステムとしてとらえることが重要なのです。

    これからも新日鉄住金は、鉄のライフサイク

    ル全体で環境負荷の低減を実現し、地球規模

    でのCO2排出量削減に貢献していきます。

  • 30Vol.20 季刊 新日鉄住金

    セメント原料他産業最終処分量24万トン

    外販・委託リサイクル 69%廃棄物 1%

    社外利用

    81%副生ガスや排熱を活用

    所内発生エネルギーによる自家発電

    81%燃料を使わず排熱により生産

    熱源となる蒸気の生産

    加熱炉

    ビレット

    ブルーム

    スラブ

    熱間圧延・冷間圧延

    焼鈍炉

    厚板

    建材

    鋼管

    交通産機品

    薄板

    棒鋼・線材

    OUTPUT

    粗鋼生産量(単独)

    4,262万トン

    鉄のライフサイクルのあらゆる段階で環境価値を生み出す

    新日鉄住金は、鉄のライフサイクルのあらゆる段階で環境価値を生み出し、「Eco Process(エコプロセス)」「Eco Products(エコプロダクツ®)」「Eco Solution(エコソリューション)」の3つのエコと革新的技術開発によって、CO2排出量削減に取り組んでいます。

    3つのエコ

    ecoPRODUCTS

    ecoSOLUTION

    ecoPROCESS

  • 31 季刊 新日鉄住金 Vol.20

    新日鉄住金のものづくりAdvanced Technology

    90% 100%

    エネルギー

    原料

    燃料石油系燃料854千kl

    電力購入電力45.4億kWh

    工業用水補給水6.2億m3

    鉄鉱石6,255万トン

    原料炭2,937万トン

    廃プラスチック20万トン廃タイヤ7万トン

    社会などで発生する廃棄物など

    数字は2016年度実績

    再生して繰り返し利用 所内エネルギー源として活用

    エネルギーリサイクル

    資源リサイクル

    用水 副生ガス

    冷却水として活用時の蒸発など

    社内発生スクラップ

    409万トン

    再利用副産物2,380万トン

    社内利用 30%

    水の再生・循環利用 副生ガスの活用

    99%副産物の再資源化

    INPUT焼結施設

    高炉転炉 連続鋳造設備

    熱風炉 電気炉

    鉄鉱石石灰石

    原料炭

    高炉ガス(副生ガス) 転炉ガス

    (副生ガス)

    高炉スラグ(副産物) 製鋼スラグ

    (副産物)

    コークス炉ガス(副生ガス)

    廃プラスチック 空気コークス炉

    TRT

    CDQ

    購入スクラップ

    資源・エネルギーを無駄なく利用する新日鉄住金のエコプロセス

    さらに社内副産物の循環利用

    によるゼロエミッションの実現や、

    社会や他産業で発生する廃棄物

    の再資源化にも積極的に取り組

    んでいます。例えば、副産物の

    高炉スラグを微粉砕しポルトラ

    ンドセメントと混合してつくっ

    た高炉セメントは、自然砕石採

    掘の削減やセメント製造時の

    CO2排出量を40%削減できるこ

    とから、グリーン購入法の特定

    調達品目に指定されるとともに、

    各自治体のリサイクル認定も受

    けています。また廃プラスチッ

    クのリサイクルでは、新日鉄住

    金1社で、全国で回収される量

    の約30%にあたる年間約20万ト

    ンの容器包装プラスチックを、

    製鉄所内のコークス炉で熱分解

    し、40%を新しい製品になる油に、

    20%を鉄の原料になるコークス

    に、40%を電気をつくるガスへと、

    100%再資源化しています。

    新日鉄住金は限りある資源・

    エネルギーを、全てのプロセス

    で無駄なく利用しています。こ

    うした省エネ・省資源を実現し

    たエコプロセスで鉄をつくるこ

    とで、製品をつくるときの環境

    負荷低減に貢献しています。

    新日鉄住金は海外で採掘され

    た鉄鉱石、その鉄鉱石を還元す

    るためのコークスの原料となる

    石炭、そして社会から発生した

    鉄スクラップを主な原料として、

    さまざまな鉄鋼製品をつくって

    います。その製造過程では、例

    えば石炭からコークスを製造す

    る際に発生するコークス炉ガスや、

    高炉から発生する高炉ガスなど

    の副生ガスを、鋼材加熱用の燃

    料や製鉄所構内にある発電所の

    エネルギー源として100%有

    効に活用しています。製鉄所で

    使用する電力の81%は、副生ガ

    スや排熱の回収でまかなってい

    ます。水資源については、製品

    や製造設備の冷却や洗浄に使用

    する水の90%(残り10%は主に蒸

    発など)を再生して繰り返し使用

    しています。 鉄のライフサイクルのあらゆる段階で

    環境価値を生み出す鉄をつくるときの

    エコ

    ecoPROCESS

  • 32Vol.20 季刊 新日鉄住金

    新日鉄住金(株)技術総括部 小野 透 上席主幹

    梁幅一定

    梁高さ一定

    (梁高さ・梁幅共変化)

    ハイパービーム® 従来のH形鋼(梁高さ・梁幅共変化)

    新日鉄住金は優れた技術力

    に基づいて、高い機能性や信

    頼性を誇るエコプロダクツ®

    (環境にやさしい製品)をつく

    り、クルマやビルなど製品の

    効率化や軽量化、長寿命化を

    通じて、使うときの省資源・

    省エネ・CO2排出量削減を

    実現し、環境負荷低減に貢献

    しています。

    現在、1人当たりの鉄の社会ストックは

    日本で10・7トン、世界全体で4トンと言

    われています。日本が4トンに達したのは

    1972年でした。当時まだ車を所有して

    いる人は少なく、建物も木造が多かった時

    代でしたが、今や車は一家に1台以上の時

    代を迎え、高層ビルが林立するなど、私た

    ちの暮らしは豊かになりました。

    世界全体が豊かになれば、鉄の社会ストッ

    クは大きくなります。世界人口は2100

    年には112億人に達すると予測されてお

    り、まだまだ多くの鉄が必要になるでしょ

    う。新たな社会インフラを生み出すためには、

    天然資源の投入が不可欠ですが、鉄は他の

    素材が追随できないほど製造時の環境負荷

    が圧倒的に少ないこと、素材としてさらな

    る進化の可能性があること、経済合理的に

    リサイクルできていることから、新規の天

    然資源投入をミニマムに抑制できる素材な

    のです。

    いま皆さんが使っている鉄は、イギリス

    の産業革命期に鉄鉱石からつくられ、蒸気

    機関車として活躍していたものかもしれま

    せんし、22世紀には宇宙船となって宇宙へ

    の旅を楽しませてくれているかもしれません。

    鉄はずっと生き続け、豊かな社会を実現し

    ていきます。

    使うときのエコ

    Voice     鉄はずっと生き続け、豊かな社会を実現します

    タイヤ用スチールコード

    細くて軽く高強度タイヤを支えて燃費向上

    外法一定H形鋼 ハイパービーム®

    省資源で地震にも強い鋼材使用量を5%減らし軽量化

    高耐食性亜鉛めっき鋼板 スーパーダイマ®

    さびで覆って長寿命化進行しないさびのため、切断面も塗装不要

    耐摩耗鋼板 ABREX® (アブレックス)

    硬くて長寿命摩耗に耐え交換頻度を低減

    高圧水素用ステンレス鋼 HRX19®

    水素に強く、安全な水素社会に貢献

    自動車用ハイテン

    薄くて軽く高強度低燃費と安全性を両立

    チタン屋根

    軽くてきれいに長寿命変わることのない風合いと安心

    ecoPRODUCTS

    エコプロダクツ®の例

  • 33 季刊 新日鉄住金 Vol.20

    世界へ広げる環境技術

    海外でのエコプロダクツ®の安定供給

    新日鉄住金のものづくりAdvanced Technology

    新日鉄住金(株)技術総括部 礒原 豊司雄 上席主幹

    新日鉄住金は優れた省エ

    ネ技術の海外への移転が世界

    的なCO2排出量削減に最も

    効果的であるという認識のも

    と、世界鉄鋼協会などの多国

    間、日中・日印の2国間など

    さまざまな形で世界的な省エ

    ネ・環境対策の取り組みに参

    画しています。また新日鉄住

    金グループの海外生産拠点に

    エコプロダクツ®製造技術を

    移転したり、海外メーカーに

    技術供与するなど、グローバ

    ルな視点で優れた技術・ノウ

    ハウを活用するエコソリュー

    ションによって、地球規模で

    のCO2削減への貢献に努め

    ています。

    鉄の技術開発もまた「木を見て森を見ず」

    になってはならないと思っています。お客様

    の環境負荷低減に寄与する軽量化ニーズに

    応えて、さまざまなエコプロダクツを開発し

    てきましたが、私たち自身もまた鉄の使用時

    というミクロの視点だけでなく、ライフサイ

    クル全体といったマクロの視点でものづくり

    を考えることの重要性を感じています。

    鉄鋼業はその生産量の大きさから製造時

    のCO2

    排出量が多く、一般的にネガティブ

    なイメージを持たれがちです。しかし、鉄の

    1トン当たりの製造時負荷は実は他素材と

    比べて非常に低いのです。さらに、日本の場合、

    1970年代から築き上げてきた省エネ環

    境技術によって、海外の鉄鋼業に比べてさら

    に製造時負荷が低くなっています。そしてク

    ルマや家電など製品としての寿命が訪れたあ

    とも、使われていた鉄は何度でも何にでも

    同じ品質の鉄に生まれ変わり、クローズドルー

    プリサイクルできている唯一の金属なのです。

    世界は鉄でできていると言っても過言で

    はありません。私たちは鉄の特性に磨きを

    かけ、これからも3つのエコで環境負荷低

    減に寄与する技術革新を追求していきます。

    その鉄のチカラを、ぜひ多くの皆さんに知っ

    ていただきたいと願っています。

    I/N Tek, I/N Kote(アメリカ)

    首鋼京唐鋼鉄(中国)大型CDQ

    優れた技術・ノウハウを提供するエコ

    タタ・スチール(インド)CDQ

    AM/NS カルバート(アメリカ) TENIGAL(メキシコ)

    Voice       エコな鉄のチカラに磨きをかけていきます

    ecoSOLUTION

    Advanced Technology 鉄はエコマテリアル 新日鉄住金の鉄づくりP26P27P28P29P30P31P32P33