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1 Ecosimによる資源管理に 向けた取り組み 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 沿岸資源研究室 真 吾(わたり しんご) 1 生態系モデル成果検討会 2011221中央水研

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Ecosimによる資源管理に向けた取り組み

水産総合研究センター

瀬戸内海区水産研究所

沿岸資源研究室

亘 真吾(わたり しんご)

1

生態系モデル成果検討会2011年2月21日 中央水研

22

目 次

0. Ecosimの基本構造・しくみ

1. 瀬戸内海でのEwEの構築に向けた背景

2. Ecosimによる資源管理方策の検討

3. EwEの課題や問題点

2

33Ecopath 被捕食関係の定量化

サワラ

魚食性魚類スズキ

カレイ類

クロダイ

ニベグチ類

ボラ類

カタクチイワシ

プランクトン食性魚類

ベントス食性魚類

シャコ

イカタコ

クルマエビエビ類

ガザミ

カニ類

ベントス(大)

ベントス(小)

ミズクラゲ

動物プランクトン

植物プランクトン海藻 Detritus

生態系の被捕食関係を定量化

EcopathとEcosimの関係

Relative biomass

0 5 10 15 20

Year

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1.6

1.7

Rel

ativ

e bi

omas

s

ある構成群について、漁獲圧を変化させたときの、各構成群の現存量の変動を予測

この状態を初期値として時系列シミュレーション

Ecosim 時系列のシミュレーション

44

Ecosimの基本式

生物量蓄積 ある平衡状態から次の平衡状態へ

移る時の現存量の変化

以下の式に変形(今回は移出入量=0)生物量蓄積=生産量-被食量-漁獲量-その他の死亡

生産量 =被食量 +漁獲量 + 移出入量+ 生物量蓄積 + その他の死亡

Ecopathの生産量の関係式がベース

55

Ecosimの基本式(現存量変化のモデル)

gi=Pi / Qi 消費量のうち生産量の割合(Ecopathの結果から計算)

Qji:消費量(種 jを食べる量)

Qij:被食量(種 jにより食べられる量)

Fi:漁獲率、Bi:現存量

M0i:その他の死亡率(Ecopathの結果を利用)

微分方程式で表すと、(単位時間あたりのBiの変化量)

生産量

被食量

漁獲量

iiiij j

ijjiii MBFBQQg

dtdB 0

その他の死亡量

Qij、Qji 現存量が変化するので消費量を予測する必要あり

66

Ecosimの基本式(消費量のモデル化)

aij 有効探索率 effective search rate

捕食者jの現存量1単位あたりの構成種iの捕食率

jiijjiij BBaBBQ ),(

Biがランダムに分布すれば上式を満たすが、通常被食者iは「隠れる」「群れる」など、捕食から逃れる努力をするこの場合、上式では、逃げている分もカウントするので消費量が過大推定になる可能性がある→aijかBiの補正が必要

Ecosimでは、aijはEcopathのパラメータであるQij、Bi、Bjから計算

ji

ijij BB

Qa

消費量を現存量の関数としてシンプルに表すと

→Biを補正している

Qij:被食量(捕食者 jにより食べられる量)

77

捕食者からの逃避をモデル化

捕食対象でない餌 Bi-Vij 捕食対象の餌 Vij

捕食者 Bj

aijVijBjvij(Bi-Vij)

vijVij

vij:Vulnerabilityパラメータ(交換のスピード)vij 大 Top-Downコントロール

現存量が捕食者によって支配されるvij 小 Bottom-Upコントロール

現存量が環境によって支配される

jijij

jiijijjiij Bav

BBvaBBQ

2),(

)2/( jijijiijij BavBvV

jiijjiij BBaBBQ ),(

jijijijijijiijij BVaVvVBvdtdV )(/

BiとVijを置換

Ecosimの消費量の基本式

Ecosimでは上の関係は釣り合うとする

dVij / dt = 0とし、Vij(捕食対象の餌の

量)について解くと

88

Ecosimの結果に影響するパラメータ

gi=Pi / Qi 消費量のうち生産量の割合

生産量

捕食対象でない餌 Bi-Vij 捕食対象の餌 Vij

捕食者 Bj

aijVijBjvij(Bi-Vij)

jijijijijijiijij BVaVvVBvdtdV )(/

aij 有効探索率

捕食者jの現存量1単位

あたりの構成種iの捕食率

aijはQij、Bi、Bjから計算(一定値)

ji

ijij BB

Qa

vijVij

Ecopathの結果から計算から算定

Ecosim独自のパラメータ vulnerability

iiiij j

ijjiii MBFBQQg

dtdB 0

99

vijの推定

• 飼育実験等で推定できるパラメータではない

• EwEのソフトウェアの機能として、各構成群のCPUEや現存量のトレンドに一致するvijを

探索的に求めることができる

• 現状ではそこまで到達できておらず、vijの値を変化させ感度解析を行う程度

1010

目 次

0. Ecosimの基本構造・しくみ

1. 瀬戸内海でのEwEの構築に向けた背景

2. Ecosimによる資源管理方策の検討

3. EwEの課題や問題点

10

1111

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

燧灘 瀬戸内海中部(岡山、広島、香川、愛媛に囲まれた海域)

周防灘 瀬戸内海西部(山口、福岡、大分に囲まれた海域)

瀬戸内海でのモデル構築海域

1212

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

小型底曳網(小底)

刺網

小底

刺網

定置網

その他

船曳網

定置網

カタクチイワシ, 813

カレイ, 1157

タチウオ, 233サワラ, 190

スズキ, 326

クロダイ, 254

ボラ, 288

アナゴ, 283

ハモ, 206

エソ類, 136

コノシロ, 106

その他魚類, 2394エビ類, 

1814カニ類, 594

イカ類, 718

貝類, 295

海藻類, 608

その他水産

物, 2324

小底、刺網、定置網で底生生物(カレイ類、エビ類、カニ類)の漁獲が中心

1313

周防灘小型機船底びき網漁業対象種資源回復計画

小型底曳網

対象魚種:マコガレイ、メイタガレイ、イシガレイヒラメ、クルマエビ、ガザミ、シャコ

クルマエビ

ガザミ

マコガレイ

複数の魚種を一括した資源管理が行われている

小底と各漁獲対象種の関係が重要

14

カタクチイワシ, 13290

シラス, 1930

カレイ, 558タチウオ, 376

サワラ, 293

スズキ, 292

クロダイ, 279

サバ, 200

その他魚

類, 2667

エビ類, 1015

カニ類, 242

イカ類, 399貝類, 253

その他水産物, 487

14

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

小底

刺網

定置網

その他

船曳網

カタクチイワシの船曳網漁業と、底生生物の漁業

船曳網 カタクチイワシを漁獲

1515

サワラとカタクチ(燧灘)

カタクチ:漁獲量が多い

サワラ:資源回復計画中心の海域

※サワラはTop predatorでカタクチを捕食する※サワラは種苗放流も実施されカタクチを捕食する※カタクチは餌生物としても漁獲物としても重要サワラの漁業⇔サワラの種苗放流⇔カタクチの漁業

食う食われるの量的関係を押さえる必要がある

1616

背 景瀬戸内海では様々な魚種を様々な漁法で漁獲一括して評価する需要はあるが使える評価手法がない

研究室の課題(一般研究)「高次捕食魚資源管理技術の開発」(2006年~)

「生態系モデル勉強会」 水研・水試の有志で立ち上げ生態系モデルを作成するチームの立ち上げの前段としての勉強会(今年度解散)(2005年~)

評価ツールの1つとして、既存のソフトウェアとして利用可能なEwEの使用を検討

この枠組みは瀬戸内水研沿岸資源研前室長 銭谷さんが構築

同時期に私が採用され生態系モデル課題に関わることになった

1717

目 次

0. Ecosimの基本構造・しくみ

1. 瀬戸内海でのEwEの構築に向けた背景

2. Ecosimによる資源管理方策の検討

3. EwEの課題や問題点

17

1818

EwE構築に向けて文献収集+データ収集

瀬戸内水研調査船 しらふじ丸

1919

CTDによるクロロフィル量の計測 ミズクラゲの現存量推定

CTD クラゲ調査

2020

ベントス現存量調査

スミスマッキンタイヤー採泥器によるベントスの採集

2121

種組成、胃内容物組成を調べる

小型底曳き網漁船での調査

2222

Ecopathの基本パラメータ現存量(B)→ 調査データ、資源評価報告書

漁獲量(C)→ 漁獲統計

食性(DC)→ 半分は調査データ

半分は文献の引用

生産量(P/B)→経験式など消費量(Q/B) 文献情報を使用

2323

Q/Bの推定飼育実験より日間摂餌量を推定し

年間の量に引き延ばす

EwEマニュアルに以下の関数式が記載してあるlog(Q/B)=7.964-0.204logW-1.965T+0.083A+0.522h+0.390d

W∞ 極限体重(g)T 水温A Aspect比(=h2/s)h 食性(草食1、肉食、腐食0)d 食性(腐食1、草食、肉食0)

面積s 高さh

2424

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

サワラ

魚食性魚類スズキ

カレイ類

クロダイ

ニベグチ類

ボラ類

カタクチイワシ

プランクトン食性魚類

ベントス食性魚類

シャコ

イカタコ

クルマエビエビ類

ガザミ

カニ類

ベントス(大)

ベントス(小)

ミズクラゲ

動物プランクトン

植物プランクトン海藻 Detritus

構成群 23群 構成群 21群

様々なパラメータを組み合わせてEcopath構築 プロセスの詳細は省略

2525

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

構成群 21群

燧灘のモデルを中心に解析結果を紹介

サワラ マナガツオ

魚食魚類 イボダイ

プランクトン食魚類 ヒラメ

カタクチイワシ イカ・タコ

シラス 甲殻類

マアジ ベントス

サバ ミズクラゲ

カレイ類 カブトクラゲ

マダイ 動物プランクトン

ベントス食魚類 植物プランクトン

デトライタス

26

解析例(vの関係)

2年目から船曳網(カタクチ漁業)の漁獲圧を1.5倍傾向は同じだがvの値により増減幅が変化v=2.0を使用:増減率の議論は困難、傾向から考察基礎生産、環境要因は一定→漁獲圧変化に伴い

現存量、消費量と変化し、次の平衡状態に収束

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 5 10

相対資源量

v=3.0

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 5 10

相対資源量

v=2.0

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 5 10

相対資源量

v=1.5

ミズクラゲカブトクラゲシラスカタクチプランクトン食魚類マアジサバマナガツオイボダイサワラ魚食魚類ヒラメカレイ類マダイベントス食魚類イカ・タコ甲殻類ベントス

27

単一魚種の解析との比較

漁獲係数Fを半減した場合の資源量加入量=親魚量×再生産成功率再生産関係に密度依存の効果が入っていないので無限に増加する

小底の漁獲圧を半減した場合の資源量被捕食関係の制約によりある量で収束

0

0.5

1

1.5

2

1 4 7 10 13

相対資源量

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,0002009

2012

2015

2018

2021

2024

2027

2030

ヒラメ資源量(t)

燧灘EwEモデル(v=2.0)ヒラメ瀬戸内海系群:コホート解析

2828

Ecosimでの解析漁法ごとに漁獲圧を削減したときの

漁獲量の変化をシミュレーション

小底、船曳網、刺網、定置網、全漁法

⇒漁獲圧を2割減小底の混獲投棄の減少 ⇒混獲圧を2割、5割減(投棄量:漁獲量の半分近く)

現状のモデルでは成長段階は考慮していないので成長乱獲の抑制効果ではない

目標:漁獲量の最大化を目指す

29

小底の漁獲圧を2割削減

増加 マダイ、ヒラメ、サワラ減少 マアジ、イカ・タコ、ベントス

※漁獲圧を下げても減少⇒ 捕食圧の増加餌の減少

ミズクラゲカブトクラゲシラスカエリ1プランクトン食魚類マアジサバマナガツオイボダイサワラ魚食魚類ヒラメカレイ類マダイベントス食魚類イカ・タコ甲殻類ベントス動物プランクトン植物プランクトン年 年

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1 2 3 4 5 6 7

資源量(相対値)

0.6

0.8

1.0

1.2

1 2 3 4 5 6 7漁獲量(相対値)

30

0

0.01

0.02

1 2 3 4 5 6 7年

定置網の漁獲量

漁獲(混獲)圧を2割削減した場合のヒラメの漁獲量の年変化

0

0.01

0.02

0.03

1 2 3 4 5 6 7年

刺網の漁獲量

0.1

0.15

0.2

1 2 3 4 5 6 7

漁獲量(t/

km2)

小底の漁獲量

小底に関する要素を減らすと漁獲量増加刺網や定置網の影響は小底より小さい全体の漁獲圧を削減すると漁獲量増加

管理方策2割削減するもの○小底○刺網○全体○定置網

○小底投棄量

31

‐0.2

‐0.1

0

0.1

全漁法

小底

刺網

定置網

船曳網

投棄量

投棄量

漁獲量相対値

小底 刺網 定置網

全漁法

小底刺網定置網

船曳網

投棄量

投棄量

カタクチ船曳網

全漁法

小底刺網定置網

船曳網

投棄量

投棄量

総漁獲量

2 割 減 5割減 2 割 減 5割減2 割 減5

漁法別の漁獲圧削減効果(5年後)

全漁法の漁獲圧を削減→合計の漁獲量の増加にはつながらない

自身の漁獲圧を削減→自分自身の漁獲量は増加しない

→資源の増加が漁獲の削減分を上回らないため

船曳網の漁獲圧削減→小底、刺網、定置網の漁獲対象種増加

漁獲量増には投棄の削減が効果的

削減割合

漁獲圧を削減する漁法

3232

周防(すおう)灘

燧(ひうち)灘

小型底曳網(小底)

刺網

小底

刺網

定置網

その他

船曳網

定置網

カタクチイワシ, 813

カレイ, 1157

タチウオ, 233サワラ, 190

スズキ, 326

クロダイ, 254

ボラ, 288

アナゴ, 283

ハモ, 206

エソ類, 136

コノシロ, 106

その他魚類, 2394エビ類, 

1814カニ類, 594

イカ類, 718

貝類, 295

海藻類, 608

その他水産

物, 2324

周防灘でも同様の解析を行うと。。。

33

漁法別の漁獲圧削減効果(周防灘)

2 割 減 5割減

‐0.20

‐0.10

0.00

0.10

全漁法

定置網

投棄量

投棄量

漁獲量相対値

小底 刺網 定置網

2 割 減 5割減

全漁法

定置網

投棄量

投棄量

総漁獲量

全漁法の漁獲圧を削減→合計の漁獲量の増加にはつながらない

自身の漁獲圧を削減→自分自身の漁獲量は増加しない

漁獲量増には投棄の削減が効果的

削減割合

漁獲圧を削減する漁法

3434

全体の傾向

総漁獲量の増加には小底投棄を減らせばいい

様々な漁獲圧管理のパターンで

量的関係を通じた影響の有無を提示できる

ヒラメのように魚種によっては増加する可能性

カタクチ漁獲量減⇔カタクチ捕食魚増の関係

これらを考慮した管理基準の比較も可能

3535

目 次

0. Ecosimの基本構造・しくみ

1. 瀬戸内海でのEwEの構築に向けた背景

2. Ecosimによる資源管理方策の検討

3. EwEの課題や問題点

35

36

食 性

• 構成種間を連結する情報• 成長段階ごとの調査も必要

非漁獲対象種の調査• 漁獲対象種と比較し知見が少ない

Ecopathに必要な情報がどれだけ把握できるか

3737

消 費 量 (被 食 量)

gi=Pi / Qi 消費量のうち生産量の割合

生産量 被食量 漁獲量 その他の死亡

aij 有効探索率:捕食者jの現存量1単位あたりの構成種iの捕食率 ji

ijij BB

Qa

減耗要因:漁獲と被食 漁獲量は正確、被食量は?

EwEに限らず生態系モデル全般に共通する課題消費量をより正確に把握する工夫が必要 ! !

iiiij j

ijjiii MBFBQQg

dtdB 0

3838

プロダクションモデルとの比較

tttt YB

KBr

dtdB

1

生産量 被食量

tttt YBBfr

dtdB

)(

Logisticモデル K 環境収容力

生産量 漁獲量r 内的自然増加率

f( Bt ) 抑制項

プロダクションモデル

Ecosim基本式

Ecosimは生産量が線形の関係 抑制項はない(被食が抑制項の役割)

iiiij j

ijjiii MBFBQQg

dtdB 0

漁獲量 その他の自然死亡量

3939

生態系モデル=EwE?EwEは基本構造は変えられない自分の調べたいことをEwEの構造・仕組みに合わせる必要がある(無理する場合もある)

被捕食関係の定量化→EcopathEcopath構築に必要な情報があれば環境要因の考慮した独自モデル構築

も可能(途中で検証のプロセスが必要か…)

4040

グループ分けの問題

Ecopathの量的平衡は成り立つが、Ecosimでのシミュレーションの挙動が非現実的となる可能性がある

実際は様々なデータの制約で決まる

カタクチ ハゼ類

魚食性魚A 魚食性魚B 魚食性魚(A+B)

カタクチ ハゼ類

50%50%100%100%

パラメータをAとBの平均値を使用

ケース1 ケース2