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 この研究成果報告書は平成17年度から19年度までの3年間にわたって文部省科学研究費補助金を受けて行われた基盤研究(C)「物理学教育・学習デバイスとしてのコンピューター活用の工夫」(課題番号 17500601)の研究成果をまとめたものである*。

* 研究内容の性格上、この報告書ではMicrosoft Powerpoint、DHTML等の動画へのリンクを多用します。動画を見るには、付属のCD上の「成果報告書本文.doc」をMicrosoft Wordで表示し、それぞれのリンクをクリックしてください。なお、Microsoft Word 2003, Microsoft Powerpoint 2003以上のバージョンが必要です。

研究組織

 研究代表者 : 赤間啓一 (埼玉医科大学医学部准教授)

 研究分担者 : 赤羽 明 (埼玉医科大学医学部准教授)

 研究分担者 : 勝浦一雄 (埼玉医科大学医学部准教授)

 研究分担者 : 向田寿光 (埼玉医科大学医学部講師)

交付決定額(配分額)                    (金額単位:円)

直接経費

間接経費

合計

平成17年度

1,300,000

0

1,300,000

平成18年度

700,000

0

700,000

平成19年度

700,000

210,000

910,000

総計

2,700,000

210,000

2,910,000

研究発表

雑誌論文

1) 赤羽 明, 物理(科学)の基礎を学習できるカリキュラム編成, 第29回日本科学教育学会年会論文集(査読有), 29, 学会企画課題研究「新しい理科教育の枠組み」, (2005), 71~72.

2) 赤羽明, 高橋浩, 玉置豊美, 後藤牧太と簡易理化器械―群馬師範学校との関わりからの一考察―, 埼玉医科大学医学基礎部門紀要(査読有), 11, (2006) 1~9. 

3) 赤間啓一, 赤羽明, 勝浦一雄, 向田寿光, 物理学教育におけるコンピューター演示機能活用の工夫, 埼玉医科大学医学基礎部門紀要(査読有), 11, (2006) 53. 論文

4) 赤間啓一, 電子画面言語は難しい物理や数学を易しくする, 埼玉医科大学医学基礎部門紀要 (査読有), 11, (2006), 45. 論文

5) Y. Sakamoto, C. Itoi, H. Mukaida, Effect of second-rank random anisotropy on critical phenomena of a random-field O(N) spin model, Progress of Theoretical Physics(査読有), 157, (2005) 139.

6) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, and Chigak Itoi, Effect of second-rank random anisotropy on critical phenomena of a random-field O(N) spin model in the large N limit, Phys. Rev. (査読有)B 72, (2005), 144405. 論文

7) K. Akama, T. Hattori, K. Katsuura, Probabilistic naturalness measure for dipole moments due to new physics. 埼玉医科大学医学基礎部門紀要(査読有),11, (2006) 31.

8) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, Chigak Itoi, Stability of fixed points in the (4+) -dimensional random field O(N) spin modelfor sufficiently large N, Phys. Rev. (査読有) B 74, (2006), 064402.

9) 向田寿光, An asymptotic formula for marginal running coupling constants and universality of loglog corrections, 数理解析研究所講究録1482 pp. 153-162, くりこみ群の数理科学での応用 (2006). 論文

10) 坂元啓紀、向田寿光、糸井千岳, Validity of dimensional reduction in the random field O(N) spin model for sufficiently large N. 数理解析研究所講究録1482 pp.191-204 くりこみ群の数理科学での応用 (2006). 論文

11) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, and Chigak Itoi , Comment on “Random-Field Spin Models beyond 1 Loop: A Mechanism for Decreasing the Lower Critical Dimension” Phys. Rev. Lett. (査読有) 98, (2007), 269703. 論文

12) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida and Chigak Itoi, Random field O(N) spin model near four dimensions, J. Phys. Condens. Matter(査読有) 19, (2007), 145219. 論文

学会発表等

1) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,画面言語を用いた物理学習システム, 全国大学IT活用教育方法研究発表会, 2005年7月2日, 東京.

2) 赤間啓一,服部孝, 量子的複合場の理論における複合性条件, 日本物理学会2005年秋季大会, 2005年9月14日, 大阪.

3) H. Mukaida, An asymptotic Formula for Marginal Running Coupling Constants and loglog Corrections, 京都大学数理解析研究所研究集会, くりこみ群の数理科学での応用, 2005年9月, 京都.

4) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, Chigak Itoi, Validity of Dimensional Reduction in the random Field O(N) Spin Model for Sufficiently Large N, 京都大学数理解析研究所研究会「くりこみ群の数理科学での応用」, 2005年9月, 京都.

5) 坂元啓紀, 向田寿光, 糸井千岳, くりこみ群による4+ε次元ランダム磁場O(N)スピン模型の臨界現象の解析-スピン成分数Nが十分大きい時のdimensional reduction の安定性, 日本物理学会2005年秋季大会, 同志社大学京田辺キャンパス2005年9月19日, 京田辺.

6) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,高校物理未履修者教育におけるコンピュータ演示機能活用の工夫, 日本物理学会2005年秋季大会, 2005年9月20日, 京田辺.

7) 赤羽 明, 高橋浩, 玉置豊美. 後藤牧太と簡易器械―群馬県師範学校との関わりからの一考察―、第9回科学史西日本研究大会、2005年11月、龍谷大学.

8) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,大学物理学教育におけるコンピュータ演示機能活用の工夫, CBI研究会, 2005年11月19日, 東京.

9) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,大学物理学教育におけるコンピュータ演示機能活用の工夫, CBI研究会, 2005年12月17日, 松戸.

10) K. Akama, Field Theoretical Foundation of the Braneworld, ダラム大学物理学セミナー, 2006年, 6月14日, ダラム, イギリス.

11) K. Akama, Field Theoretical Foundation of the Braneworld, ケンブリッジ大学物理学セミナー, 2006年, 6月17日, ケンブリッジ, イギリス.

12) 坂元啓紀, 向田寿光, 糸井千岳, ランダム磁場O(N)スピン模型におけるdimensional reduction の成立する条件について, 日本物理学会第61回年次大会, 2006年3月27日, 松山.

13) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,画面言語,論理のアニメーションを用いた教育・学習システム,日本物理学会第61回年次大会, 2006年3月27日, 松山.

14) 赤間啓一,服部孝, Scale independence of coupling constants in massive Gross-Neveu model,日本物理学会第61回年次大会, 2006年3月28日, 松山.

15) T. Tamaki, A. Akabane, et al., Easily Readied Experiments In Science Lessons, 国際会議Toward Development of Physics for All, 2006年, 東京.

16) O. Aono, A. Akabane, K. Akama, K. Katsuura, H. Mukaida, et al., Present Situation and Problems of Physics Education for Pre-medical Students in Japan "In the Viewpoints of IMPEMUJ" 国際会議Toward Development of Physics for All, 2006年, 東京.

17) A. Ejiri, A. Akabane, et al., Product of DVD Remedial Physics for The College Students, 国際会議Toward Development of Physics for All, 2006年, 東京.

18) 高橋 浩, 赤羽 明, 所澤 潤, 玉置豊美, 群馬県師範学校時代の宇田川準一に対する周囲の評価の変遷, 日本科学史学会53回年会.

19) Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, Chigak Itoi, Random field O(N) spin model near 4 dimensions, Highly Frustrated Magnetism 2006, Osaka, Japan, 2006年8月, 大阪.

20) Sakamoto Y, Mukaida H, and Itoi C, Random field O(N) spin model near four dimensions, 国際会議Highly Frustrated Magnetism 2006, 2006年8月, 大阪.

21) K. Akama, Missing link in classical braneworlds to Einstein gravity and quantum theoretical resolution, Brane-World Gravity, Progress and Problems, 2006年9月, Portsmouth, England.

22) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,画面言語,論理アニメによる教育・学習システム:力学, 日本物理学会2006年秋季大会, 2006年9月23日, 千葉.

23) 赤間啓一,講義、自習用パワーポイントの論理アニメーションの工夫, CBI研究会, 2007年4月21日, 東京.

24) 赤間啓一, 赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,大学物理学教育におけるコンピューター演示機能活用の工夫, New Education Expo 2007 in 東京, CBI研究会セミナー, 2007年6月9日, 東京.

25) K. Akama, Field Theoretical Foundation of the Braneworld, カンタベリー大学物理学セミナー, 2007年, 8月10日, クライストチャーチ, ニュージーランド.

26) K. Akama, Field Theoretical Foundation of the Braneworld, メルボルン大学物理学セミナー, 2007年, 8月22日, メルボルン, オーストラリア.

27) 赤間啓一, Braneworld Gravityの場の力学的基礎, 埼玉医科大学物理学教室セミナー, 2007年9月12日, 埼玉.

28) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,論理アニメを用いた学習・教育システムの開発と教育実践,日本物理学会第62回年次大会, 2007年9月22日, 札幌.

29) 赤間啓一,服部孝, Brane Induced Gravityの場の理論的基礎,日本物理学会第62回年次大会, 2007年9月24日, 札幌.

30) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,相対性理論紹介システム, CBI研究会, 2007年12月15日, 松戸.

31) 赤間啓一,赤羽明,勝浦一雄,向田寿光,式が動いて教える講義、学習システム,日本物理学会第63回年次大会, 2008年3月24日, 大阪.

32) 赤間啓一,服部孝, Braneworld上の重力,日本物理学会第63回年次大会, 2008年3月26日, 大阪.

研 究 成 果

 以下に次の順で研究の成果を述べる。

1. 研究の目的

2. 以前の関連研究  

§1以前の教育研究、§2以前の専門研究

3. 専門分野の基礎研究

§1複合場の理論、膜宇宙(brane world) 、§2相転移、§3物理学史

4. 教育に関する基礎研究  

§1物理学教育、§2コンピューター教育

5. 情報技術に関する基礎研究

  §1 画面言語、§2コンピューターの伝達機能

6. 動画言語による科学伝達

  §1 画面要素、§2 意味伝達のための諸機能、§3科学伝達システム

7. 科学伝達システムの作成

§1物理学教育システム、§2コンピューター教育システム、§3研究発表システム

8. システムを用いた実践と評価

9.結論と考察 

1.研究の目的

 この研究は当初、物理学の教育・学習のデバイスとしてコンピューターを活用するさまざまな手法を考案し、一般物理教育や専門研究紹介の教育・学習システムを構築することを目的として発足したが、研究の過程で、単に物理学の教育・学習だけでなく、数理科学の伝達方法の開発と捉えることが適切であるとの結論に達した。科学は、人類の知識の論理的ネットワークであり、コミュニケートする個体の集団がつくる関係空間に保持され、発展してきた。専門家集団はこの保持、発展に大きな役割を担っているが、それを人類の共有財産として支持するのは幅広い層の適切な理解である。科学は個体や世代を超えて広く伝達されていかなければならない。しかし、今日、その急速な発展により、内容は益々高度化し、より分かりやすい効率的な伝達が求められている。幸い我々人類は近年コンピューターという新しい伝達デバイスを獲得した。この観点から、本研究の主な目的、進め方を要約すると次のようになる。

1) 物理学等の研究報告・教育・学習のデバイスとしてコンピューターを活用する手法を考案する。特に画面要素のアニメーションによる参照誘導を駆使して、スムーズな科学内容の伝達を図る。

2) 物理学等の基礎的、専門的研究を推進し、研究成果を伝達・紹介する手法を開発する。

3) 広く諸科学や自然環境、生活文化、社会活動の中に物理学等の原理・成果に基づく題材を収集し、伝達する手法を開発する。

4) これらに基づき物理学等の研究報告、教育、学習のシステムを構築する。

5) これらを用いて研究発表を行い、また、教育・学習システムを講義、実験、自習などの体系に組み込み、教育を試行、実践する。

6) 物理学等の専門分野研究者が教育を担当し、教育・学習システムを構築することの、教育、研究両面における意義、必要性、問題点などを分析、検討し、相乗効果を期して研究を進める。

 従来、研究報告・教育・学習のデバイスとして、書物、ノート、プリント、黒板、ポスター、模型、スライド、テレビ、ビデオ、OHP、OHCなどさまざまなものが使われてきたが、近年、コンピューター、インターネット技術の急速な進展にともない、コンピューターが重要な研究報告・教育・学習のデバイスになってきている。コンピューターは従来の各デバイスを全面的、部分的ないしは仮想的に代替することができる。たとえば教科書を画面に表示すれば文書の代わりになり、プレゼンテーションソフトでスクリーンに投影すれば黒板の代わりになる。スクリーン上の画像は実物や模型を完全に代替できるものではないし、文書作成ソフトをノートの代わりにするのは、学生の負担が大きすぎて現実的ではないかも知れない。このように、コンピューターは、劣った、ないしは、不完全な代替である場合もあるが、一方、計算を実行させたり、文書を効果的に編集し直したり、表ソフトを使ってデータを整理したり、インターネットを通して世界中の情報に瞬時にアクセスしたり、従来のデバイスにはなかった多くの優れた機能を持っている。ここでは、コンピューターを研究報告・教育・学習のデバイスとして用いる場合、単に従来のデバイスの代替として利用するのではなく、多岐にわたるコンピューター独自の機能を生かすさまざまな新しい可能性を追求する。特に注目したいのは要素アニメーションによる優れた引用、参照機能である。ページの内外への参照機能を駆使することで学習者の思考の流れを著しく容易にすることができる。コンピューターを用いることにより、新しい機能を豊富に付加した"書物"、"ノート"、"黒板"ないしは今までの概念では捉えられないようなデバイスの構築を目論むものである。

 この目的のため、専門分野、教育、情報技術に関する基礎研究を行い、動画言語による科学伝達の技術を開発し、科学伝達のシステムを作成した。このシステムを用いて教育、研究発表を実践し、アンケート調査等を実施して結果を評価した。 このために、書籍、コンピューター、ソフトウェアを購入し、出張旅費を支出した。

2.以前の関連研究

§1 以前の教育研究

 教育・学習の支援のためのコンピューターの利用はCAI(Computer-Aided Instruction)として広く行われ研究されて来た。多数の端末コンピューターでの教材を提示したり、教材をコンピューター上のハイパーカードでシステム化し、個別学習を支援したりするものが主流である。近年はこれをネットワークで管理するe-ラーニング(e-Learning)が試みられ、また、インターネットを通しての情報取得に利用されている。しかし、本研究はコンピューター画面自体の伝達デバイスとしての側面に注目し、その能力を最大限に活用し、科学伝達の強力な手法を確立しようとするものであり、今まで研究されていない全く新しい分野である。

筆者らは1970年代以来、埼玉医科大学等において、医学生等の物理学教育、コンピューター教育を担当し、医学・生命科学系学生に対する物理学教育の研究を行ってきた。その中で、CAIの研究、開発、教育実践を行い、本研究への基礎を培ってきた。その一部は、研究費補助金[1~3]を受けて行った。これらの研究を通して、学生課題研究のためのデータベースの構築、医学・生命科学関連に取材した基礎物理学教育の教材を多数収集・作成、コンピューター支援学習システムの作成などを行った。特に[1]の中でMS DOS 上のハイパーテキスト・ソフトウェアHDR(だばけん氏作)のアプリケーションとして、物理学の教育システムを試作した。これは当時の埼玉医大1年生の物理学の講義ノート(授業傍用テキスト)をコンピューター画面化し、関連事項への参照ジャンプをシステム化したものである。また、その後科研費を受けない研究[4]および[2], [3]において、HTML, DHTMLを用いた教育システムを作成した。内容は次のとおりである。

○HTMLガイド ホームページ作成のためのオンラインマニュアル。HTMLからJava Script, Javaの入門、スタイルシート、DHTMLまでカバーする。学生実験指導に使用した。

○電子教科書 穴埋め表示の方式を用いて、物理学の問題の解法をインタラクティブに解説する。また、相対性理論、素粒子論などトピックをアニメーションで解説する。

本研究で本格的に展開される穴埋め表示方式や、本文要素、本文と図解の連携などはこれらのシステムから継承し発展させたものである。これらは、筆者らの教育実践の中で使用し、非常に有用であった。

§2以前の専門研究

 本計画では、物理学等の基礎的、専門的研究を推進し、研究成果を伝達・紹介する手法を開発することをひとつの目的としているが、筆者らが従来進めて来た関連専門研究の概要は次のとおりである。

素粒子論 筆者らは1970年代以来、quark、lepton、gauge boson、Higgs粒子の複合模型 [5]、induced gravity [6]、膜宇宙(brane world)[7]の場の理論的な模型の提唱と研究を行ってきた。これらの研究の一部は、科学研究費[8~11]の補助を受けて行われた。これらの研究を通して、筆者らは、複合模型の現象論的解析、複合性と漸近自由性の間の理論的な相補性、膜宇宙上の場の理論の量子論的導出、複合場の結合定数の厳密なスケール不変性などの理論的な知見を得た。膜宇宙(brane world)とは我々の住んでいる3+1次元時空は、高次元時空の中に埋め込まれた3+1次元の部分時空であるとする考え方である。万有引力の起因は一般相対性と時空の曲がりによって説明される。筆者は論文[6, 7]で一般相対性と時空の曲がりの起因を説明する模型として今でいう膜宇宙の描像を提唱した。今日、膜宇宙は宇宙論、素粒子論などの幅広い動機から精力的に研究されている。

相転移(担当 向田) 水が氷に変わったり、水蒸気に変化するように、一つの物質がその温度や圧力に応じて全く異なる性質を示すようになることを「相転移」と呼ぶ。物質が相転移を起こす瞬間には、何の関係もなさそうな物質同士(例えば水と鉄など)が、共通の性質(普遍性)を示すことが知られている。この普遍性に基づいて物質を分類することが、70年代以降急速に発展せられ、今も多くの研究者が精力的に研究を行っている。向田はここ数年、無限次の相転移と呼ばれる相転移現象[12]や、不純物質がランダムに入り込んだ物質の相転移に関して理論的な研究[13]を行ってきた。

物理学史(担当 赤羽) わが国における明治期における物理学受容過程の研究―後藤牧太他著『小学校生徒用物理書』の位置づけ。研究の発端は、2001年6月に群馬大学付属図書館本館特殊資料室において、多数の明治期の整理待ち和装本を見出したこと。以来、同図書館の依頼を受け、物理学及び理科教育関連の書籍のデータベース化を行ってきた。とくに日本人によるオリジナルな物理教科書といわれる後藤牧太・他著『小学校生徒用物理書』(明治18年刊行)がその資料から見出されたことから、同教科書の物理学教育史における位置づけについて種々の面から研究を開始した [14]。

[1] 科学研究費 研究種目 一般研究(C)、期間 平成6-7年度、研究題名「大学における物理教育の研究 物理教育における個別化と多様化の研究」、研究経費 160万円、研究課題番号06680181 研究代表者 勝浦一雄、研究分担者 赤羽明、赤間啓一、林昌樹

[2] 科学研究費 研究種目 基盤研究(C)(2)、期間 平成8-10年度、研究題名「生命科学教材による基礎物理教育体系の構築」、研究経費 280万円、研究課題番号08680206研究代表者 

赤間啓一、研究分担者 赤羽明、勝浦一雄、向田寿光、林昌樹

[3] 科学研究費 研究種目 基盤研究C(2)、期間 平成12-14年度、研究題名「医学と生命科学の題材を取り入れた物理教育」、研究経費150万円、研究課題番号 12680188研究代表者 

勝浦一雄、研究分担者 赤間啓一、赤羽明、向田寿光、林昌樹

[4] 赤間啓一、赤羽 明、勝浦一雄、向田寿光、林昌樹、埼玉医科大学進学課程紀要、7(1998) 13; 8(2000),67; 赤間啓一、赤羽 明、勝浦一雄、向田寿光、埼玉医科大学医学基礎部門紀要、9(2002) 33.

[5] H. Terazawa, Y. Chikashige, and K. Akama, Phys. Rev. D15, (1977), 480.

[6] K. Akama, Prog. Theor. Phys. 60, (1978), 1900.

[7] K. Akama, Lect. Notes in Phys. (Springer) 176, (1983), 267-271.

[8] 科学研究費 研究種目 総合研究B、期間 昭和61年度、研究題名「統一ゲージ模型」研究経費250万円、研究課題番号61306008、研究代表者 原康夫(筑波大)、研究分担者 赤間啓一他8名、分担課題「quark、lepton、gauge boson、Higgs粒子の複合模型の研究」.

[9] 科学研究費 研究種目 総合研究A、期間 平成3--5年度、研究題名「素粒子のゲージ理論の現象論的研究」研究経費 1630万円、研究課題番号03302015、研究代表者 猪木慶治、研究分担者 赤間啓一他15名、分担課題「quark、lepton、gauge boson、Higgs粒子の複合模型の研究」.

[10] 科学研究費 研究種目 総合研究A、期間 平成7—9年度、研究題名「対称性の力学的破れと統一理論」研究経費 1160万円、研究課題番号07304029、研究代表者 九後汰一、研究分担者 赤間啓一他、分担課題「quark、lepton、gauge boson、Higgs粒子の複合模型の研究」.

[11] 科学研究費 研究種目 基盤研究C(2)、期間 平成13-15年度、研究題名「Induced Field Theory on the Brane World」、研究経費 270万円、研究課題番号 13640297.

[12] C. Itoi and H. Mukaida, Renormalization group for renormalization-group equations toward the universality classification of infinite-order phase transitions, Phys. Rev. E 60, (1999), 3688.

[13] H. Mukaida and Y. Sakamoto, Renormalization Group for the Probability Distribution of Magnetic Impurities in a Random-Field 4 Model, Int. J. Mod. Phys. B, 18, (2004), 919.

[14] 高橋 浩、赤羽 明、所澤 潤、玉置豊美、森下貴司、滝沢俊治、群馬県における明治中期の「科学」・「理科」教育の実態と群馬県師範学校、『科学史研究』第43巻(No.230)(2004年)、74-82頁

3.専門分野の基礎研究

 この研究を展開するにため、まず、伝達される科学の内容として、メンバーの科学専門分野の基礎研究を進めた。

§1複合場の理論、膜宇宙(brane world)  

 一般に非複合の基本粒子場の結合定数は繰り込み群方程式にしたがってエネルギー・スケールとともに変化するが、量子的複合粒子場の場合、多くの模型で、結合定数はエネルギー・スケールによらず一定になるという性質がある。これについて、理論的に扱いやすい6次元スカラー場につて検討した(担当 赤間) [1]。

 いわゆる基本粒子が実は複合粒子であるというような、素粒子の標準模型を超える物理からの効果があると、いわゆる基本粒子に異常磁気能率が生じる。しかし、これにはnaturalnessからの制限がある。これについての確率論的な測度を研究した(担当 赤間、勝浦) [2]。

 また、上述のように、筆者は長年で膜宇宙の研究を行ってきた。膜宇宙の理論は今や素粒子論から宇宙論まで広い分野で研究されているが、筆者はその物理的基礎の研究が重要であると考える。本研究の期間中に、量子効果からの万有引力を導出する定式化、高次元時空も曲がっている場合の定式化等について研究を行った [3] (担当 赤間)。この研究のため、次のような討論および研究発表を行った。

 2006年2月 イギリス ダラム大学 L. Kanti氏らとの討論および講演

            ノッティンガム大学 Ed Copeland氏との討論

            ケンブリッジ大学 G. Gibbons氏らとの討論および講演

 2006年9月 イギリス ポーツマス大学 研究会Braneworld Gravity に参加および講演

 2007年8月 ニュージーランド カンタベリー大学 D.L. Wiltshire 氏らとの討論および講演

       オーストラリア メルボルン大学 Raymond R. Volkas氏らとの討論および講演

 また、これらの研究について日本物理学会等で発表を行った。

§2 相転移

 向田は、無限次の相転移および、ランダム磁場中のスピン系の相転移について、くりこみ群を用いた研究を行った。

 無限次の相転移に関わる結合定数は次元を持たないため、そのベータ関数は固定点付近で一次係数がゼロになる。したがって、固定点付近で微分方程式が線型化できず、解の漸近的性質を見いだすことが難しくなる。向田はこの困難を回避するような変数変換を見いだした。これを用いて、固定点に吸い込まれていく解の漸近公式を導いた [4]。

 ランダム磁場中のスピン系を場の理論で記述すると、低温領域ではmarginalな結合定数が無限個現れる。通常のくりこみ群の方法では無限個の結合定数を制御することはできないが、汎関数くりこみ群の方法を用いるとこれが可能になる場合がある。向田は日本大学理工学部の糸井千岳教授および坂本啓紀講師とともに、スピン成分が十分大きい場合における、汎関数くりこみ群の固定点を発見し、その物理的な有効性について議論した [5]。

 これらの結果を学術雑誌や学会において発表したが、口頭発表においては聴衆にわかりやすく伝えるために、PDFファイルでアニメーションを利用することを試みた。

§3 物理学史 (担当 赤羽) 

 群馬大学付属図書館本館特殊資料室において、多数の明治期の整理待ち和装本を見出し、以来、同図書館の依頼を受け、物理学及び理科教育関連の書籍のデータベース化を行ってきた。また、所蔵資料である後藤牧太他著『小学校生徒用物理書』の物理学教育および物理学史における位置づけと役割について研究を行っている。これらの研究は群馬大学の高橋 浩、玉置豊美、森下貴司、滝澤俊治(以上、群馬大学工学部)、所澤潤(群馬大学教育学部)氏ら教員との共同研究によるものである。これらの成果は学術雑誌や学会における発表、教科書中の実験の再現などを行い、理科教室などで子ども達に実際に操作させ物理現象を体験させることを試みた。主な成果は次の通りである。1)明治期教科書のデータベース作成と一部教科書の画像化とWEBでの公開を行ったこと。資料の画像化は歴史的に貴重な資料をPCへの取り込みなど有効活用への可能性を実現させた。2)日本人によるオリジナルな物理教科書といわれる後藤牧太・他著『小学校生徒用物理書』(明治18年刊行)が群馬大学資料から見出され、同教科書の教育現場での使用実績について調査し、これまで未解明とされていた使用実績を2005年に確かめた。この教科書は群馬県勢多郡内の高等小学校において実際に使用されていたという確証を得ることができ、日本科学史学会に報告した。2)後藤牧太・他著『小学校生徒用物理書』は身近な材料で手作り可能な実験テーマを取り入れ展開されている教科書である。教科書中のいくつかの実験を手作り再現し、理科教室などで現代の子ども達に実際に演示し、物理現象を体験させることを試みた。大変好評であった。このことは後藤の展開する実験教材が子ども達にも現象をわかりやすい形で提示していることを確かめることができた。これらの実験教材を動く教材としてアニメ化を図ることは今後の課題であるが、これらの教材の教育的効果を解明する手法として期待できる[6, 7]。

[1] Keiichi Akama, Takashi Hattori, Scalar-composite model in 6 - 2 epsilon dimensions, SMC-PHYS-174, Aug 2006. 12pp. e-Print: hep-th/0608079.

[2] K. Akama, T. Hattori, K. Katsuura, Probabilistic naturalness measure for dipole moments due to new physics. 埼玉医科大学医学基礎部門紀要,11, (2006) 31.

[3] Keiichi Akama, Missing Link in Classical Braneworlds to Einstein Gravity and Possible Solutions. SMC-PHYS-175, Jul 2006. 4pp. e-Print: gr-qc/0607106

[4] H. Mukaida, An asymptotic formula for marginal running coupling constants and universality of loglog corrections 数理解析研究所講究録1482 pp. 153-162 くりこみ群の数理科学での応用 (2006)

[5] Yoshinori Sakamoto, Hisamitsu Mukaida, and Chigak Itoi, Stability of fixed points in the (4+) -dimensional random field O(N) spin modelfor sufficiently large N, Phys. Rev. B 74, (2006), 064402.

[6] 玉置豊美、赤羽明他, 群馬県における明治期科学教育の検証―群馬師範・女子師範から継承された群馬大学付属図書館の膨大な教科書群をプローヴとして、平成16年度~平成18年度科学研究費補助金(基盤C:16500575)研究成果報告書、平成19年3月.

[7] 玉置豊美、赤羽明他, 群馬県における明治期科学教育の検証―群馬師範・女子師範から継承された群馬大学付属図書館の膨大な教科書群をプローヴとして、平成16年度~平成18年度科学研究費補助金(基盤C:16500575)研究成果報告書、平成19年3月.

4.教育に関する基礎研究

§1物理学教育

 筆者らは埼玉医科大学医学部、保健医療学部、埼玉医科大学短期大学、毛呂病院看護専門学校、東京大学、中央大学、同大学院、群馬大学で定期的な講義、実習を担当し、力学、電磁気学、熱学、波動、近代物理学、量子力学、素粒子物理学、計算機実習等の教育内容、方法、教材などの研究を行った。また東京都立科学技術高校で授業を行い、東京学芸大学附属高校で物理学の教育を担当した兼田氏と共同研究し、高校教育についての実地情報を収集した。筆者らの担当する講義実習等の概要は次のとおりである。

○物理学 対象 埼玉医科大学医学部1年生 通年必修 担当 赤間 赤羽 勝浦 向田

カリキュラム上の科目名は自然科学の基礎・物理学、医学の物理学である。高校物理の履修未履修で組分けを行っている。高校物理未履修クラスの内容は次のとおりである。 

力学基礎 直線運動 平面空間運動 力と運動 静力学 仕事とエネルギー 

     運動量 振動

力学応用 円運動 弾性体 流体の定量的な記述 粘性流体

電磁気学 電気力と電場 電流 電位とコンデンサー 磁気 

     電磁誘導と電磁気学の基本法則 交流回路 

波動   波動 音 光

熱学   熱エネルギー 熱力学

近代物理学 原子の世界 放射線

通常の一般物理学のコースであるが、高校物理未履修であることを考慮して基本から丁寧に講義し、正規講義とは別に演習の時間が設けられている。高校物理履修クラスの内容の内容は次のとおりである。 

力学

電磁気学 電気力と電場 電位とコンデンサー 電流 磁気 

     電磁誘導とマックスウェルの方程式 交流回路 神経の興奮伝導

熱学   気体分子運動論 気体のする仕事とKelvinの原理 変分原理

波動   波動 音 光

近代物理学 相対性理論 エネルギーと質量 量子論 周期律と化学結合 

      素粒子と原子核 放射線 核磁気共鳴 生命の物理

高校物理の理解を前提に一般物理学の講義を行う。履修、未履修両クラスとも、医学・生命科学に取材した例を多数用いている [1]。

○物理学 対象 埼玉医科大学短期大学臨床検査学科1年生 担当 勝浦 

物理学の内,熱学関連分野を対象として講義した。物理学を履修している学生の割合は少ないが化学や基礎医学では自由エネルギーなど比較的高度な概念が使われる。講義では基礎的な内容から比較的高度な内容までを深入りせずカバーした。内容は次のとおりである。

熱と温度,熱の移動,理想気体の比熱,熱力学第一法則,熱機関,熱力学第二法則,カルノーサイクル,熱機関の効率,気体分子運動論,エントロピー増大の原理,自由エネルギー,熱現象と物質の状態に関する実験

○物理学 対象 毛呂病院看護専門学校1年生 担当 勝浦 赤間

通常の一般物理学のコースであるが、高校物理未履修であることを考慮して基本から丁寧に講義する。内容の内容は次のとおりである。 

力学   物理量と単位,力とつりあい,力のモーメント,安定と不安定,運動の法則,撃力,摩擦力

熱学   熱と温度,体熱の産生と喪失

流体   圧力 非粘性流体 粘性流体

波動   波動 音 光

電磁気学 電気力と電場 電位 電流 抵抗 

近代物理学 原子 原子核 放射線 核磁気共鳴

○物理学 対象 東京大学1年生 半年ごと必修 担当 赤間 

カリキュラム上の科目名は物理学A、年により変わるが赤間は理科系の高校物理履修者数十人から百人のひとつのクラスを担当する。力学と電磁気学それぞれ半年13回の講義からなる。内容は次のとおりである。

力学  力学の生い立ち 粘性流体中の運動 微分方程式 ばねの振動 エネルギー

    惑星の運動 万有引力 振子 相対運動 質点系 こま 解析力学

電磁気学 静電場 電流 静磁場 時間変動する電磁場 物質中の電磁場

○素粒子物理学 対象 中央大学 4年生 平成18年度前期実施 選択 担当 赤間

内容は次のとおりである。

基本粒子と複合粒子 ハドロンの性質と分類 核力と中間子 基本的相互作用

基本粒子の性質と分類 場の量子化 散乱断面積と崩壊幅 対称性 

○素粒子論特論 対象 中央大学大学院修士課程1,2年 通年、隔年実施 選択 担当 赤間

内容は次のとおりである。

素粒子論特論1

物質の究極構造 ローレンツ対称性 自由場の量子化 ゲージ対称性 ファインマン則

散乱断面積と崩壊幅 ループダイアグラム 繰り込み 

素粒子論特論2

素粒子の標準模型 対称性の自発的破れ 非可換群gauge対称性の自発的破れ

Weinberg Salam 模型 非可換群gaugeg理論の量子化 ファインマン則 

QCD 繰り込み 繰り込み群 一般相対性理論とBraneworld

§2コンピューター教育

 筆者らの専門は物理学であるが、次のように埼玉医科大学医学部でコンピューター実習にかかわる科目を担当し、本研究の科学伝達システムについての実地情報を収集した。

○コンピューター実習 対象 埼玉医科大学医学部1年生 担当 勝浦 赤間 赤羽 向田 他

        (カリキュラム上の科目名 医学の数学・コンピューター実習)

内容は次のとおりである。

パソコンの設定 コンピューターネットワークとネチケット Windowsと電子メール

ウェブページの閲覧 文書の作成 プレゼンテーションスライドの作成

ウェブページの作成 スプレッドシートによる計算

スプレッドシートによる統計処理

○物理学実験テーマ コンピューター 対象 埼玉医科大学医学部1年生 担当 赤間 向田

        (カリキュラム上の科目名 基礎科学実験・物理学実験の1テーマ)

内容は次のとおりである。

物理現象のシミュレーション 

ホームページプログラミング

[1] 赤間啓一, 赤羽明, 勝浦一雄, 向田寿光, 物理学教育におけるコンピューター演示機能活用の工夫, 埼玉医科大学医学基礎部門紀要, 11, (2006), 53.

5.情報技術に関する基礎研究

§1 画面言語

 図解、グラフのように画面要素を用いて意味内容を伝達する体系を画面言語と呼ぶ。画面言語は、画面要素とその配位・動作の意味に関して、送り手受け手間で共通の了解を持って行われる意味内容伝達の記号体系である。特に、電子画面の動的特性を駆使して実現する画面言語を「動的画面言語」、略して「動画言語」と呼ぶことにする。この名称は本研究における新造語であるが、実態としては、各種電子画面のヒューマン・インターフェース等の中に幅広く存在していると考える [1]。

 画面言語は音声言語、文字言語、手話等に対置される概念である。言語は、人々の様々な活動において大きな役割を果たし、人類の共有財産である学問その他の知識体系の形成を支えてきた。これらの知識は言語を介して個体の脳(または心)と文献の作る関係空間の中に蓄えられ、共有されている。知識体系の中には、物理学や数学のように基本的で重要だが難解なものもある。効率的に継承していくには分かりやすい言語が必要である。グラフ、図解、設計図などの画面言語はそれぞれある範囲の知識を直観的に分かりやすく伝達し保存する。知識体系の醸成と蓄積における画面言語の寄与には無視できないものがある。

 画面言語は有意味の要素の組み合わせを用いて意味内容を伝達する点において、音声・文字言語と同じである。音声・文字言語では線状の文中の要素の位置が表現の意味に関わるが、記号表現と意味の対応は恣意的で離散的である。これに対し、画面言語では、配置は線状ではなく、面的で、要素の画面上での絶対、相対の位置や要素の形、大きさなどにも直接的、連続的意味が付与されることがある。このため、画面言語は音声・文字言語の線状の本文には組み込まれず、本文から引用する形で付加され、直観的に表記したい事柄を表記するのに利用される。文字言語では、記号の恣意性、離散性、記述の線状性という特性があるので、連続的事象や多次元的相関の平易な記述ができず、画面言語の力を借りるのである。人類が、個体の脳と文書の作る関係空間に保有する膨大な情報の多くは、音声・文字言語とそれを補完する画面言語によって記述されている。

 電子画面上の画面言語では、これらの性質や機能に加えて、画面要素が動的で操作可能であるという、重大な特性を持つ。送り手の意図によって画面要素を出現させたり、消滅させたり、移動、変形、点滅、回転、振動などの動作をさせたりすることができる。また、受け手の意思によって、その動作を操作し、画面と相互作用しながら、希望の情報を受け取ることができる。画面要素の操作を通じて、受け手が送り手になることもできる。伝達の様式も、送り、受け取るタイミングも多種多様である。電子画面言語は、この著しい機能によって、従来の画面言語とは質的に異なる新しい種類の言語、動的画面言語ともよぶべきものになる。この陰には、複雑で膨大なハードウェアとソフトウェアがあるが、それらはブラックボックスとして、入力に対するレスポンスが正しく知られていればよい。ここで着目したいのは、このような動作をする画面を用いて、人間が行うコミュニケーションである。これらの画面要素とその動作の意味について送り手と受け手が共通の了解を持って情報の伝達が行われるのでなければならない。

 このような画面要素の意味のルールは人工的作られたもので、言語とはいえないと思うかも知れない。しかし、この種のルールは恣意的に作られているわけではない。すでにある同種の機械や類似の機械で使われ、世の中で支持されているものを参考に作られているはずである。支持されなければやがては消えてゆく運命にある。長い目で見れば、これらのルールは社会の中で自然発生的に形作られるといえる。どんな文字もはじめはだれかが書いた人工的なものである。各種ソフトウェアやアプリケーションのウィンドウシステム、メニューシステム、ヘルプシステム、インストラクティブな画面などを言語学的な視点から解析し、社会で支持されている共通のルールの体系を見出し、いわば文法を確立していくのは重要な仕事である。このような文法の確立は、ユーザーの便宜のためにも、新しいソフトウェアの作成の指針としてもきわめて有益と思われる。

 実際、画面要素の動作を使うと、例えば、物理学の難解な数式変形やベクトルの図示などが分かりやすく表記できることがわかる。筆者らはこれを物理学研究の学会発表のプレゼンテーションに適用し、「分かりやすい」との評価を聞くことができた。筆者らはまた、最近、これを用いて物理学の講義演示、学生自習兼用の学習教育支援システムを作成し、教育の実践に使用した。「分かりやすい」と学生にも好評で、成績向上に効果があることがわかった。これが分かりやすい理由は、動的表示機能によって、言語内容同士の論理的関係を必要な時だけ表示できるからである。このような論理的関係の構造は多重的、多次元的なので、線状的な音声・文字言語では表現できなかった。もし、文字言語上にこの関係を結線で表記したら、結線だらけで本文が見えなくなってしまうであろう。動的画面では、そのつど消去できるのでこれが可能なのである。音声・文字言語では、受け手の作業記憶内の検索でこれを行っている。通常はひとの脳は難なくそれに耐える能力を持っており、何の支障もなく言語を使うことができる。ところが物理や数学の記述となると別である。論理構造検索の心的負荷は相当大きなものになる。そこで、動的画面の結線などでこれを支援すれば、初心者もスムーズに進むことができ、ベテランでもあまり重要でないところに労力を割く無駄を避けることができる。もちろん、この心的負荷に耐えて論理を進める訓練は必要である。それはそれで適切に行う必要がある。動的画面は実はこの訓練のためにも有効である。上記の論理関係の表示を、一旦作業記憶内外での検索を行い、自分で答を出してから表示すれば、まさに訓練になるわけである。

 論理構造の表示は言語学の言葉を使うとメタ言語情報の明示的表示といえる。音声・文字言語の線状性の原因は、意識の時系列的線状性にある。人間の意識はいくつものことに同時に集中できないことが知られている。これは避けがたい制約である。したがって、動的画面言語でも時系列的線状性は保持されるべきである。人々は音声・文字言語の線状構造のルールをよく知っているので、これも尊重すべきである。これを両立させて分かりやすい表記をするには次のように多重線状的に配置するのがよい。音声・文字言語の要素を面上に表記するルールに従って配置する。このとき、通常の行揃えは行わず、論理構造の結線が入れやすいように適宜改行し、行頭も見やすいように配置する。音声・文字言語の線状性の指示する順序をメインストリームとする。音声・文字言語の要素をメインストリームに従って出現させていく。参照を必要とする要素が現れるところで、一旦メインストリームを止め、参照に関する要素の動作を実行する。これをサブストリームとする。サブストリームの動作が完了したら、消去してメインストリームの要素の出現を再開する。このようにして、時系列的線状性と音声・文字言語の線状性を両立させつつ、論理構造の明示的表示を実現することができる。

 これらの表記は、音声・文字言語の要素が数式から構成されている場合などは特に分かりやすさが際立つ。教科書・論文などでは式に番号を付け、その番号で引用することによってこの論理構造を示しているが、それを目視で検索するのはベテランでも抵抗感のある作業であり、また細かいところまでは示すことができない。動的画面の場合は、結線で誘導し、複写移動で代入するなどすれば、ほとんど心的負担なく論理構造を把握することができる。同様の平易化は図の引用に関しても見られる。前にも述べたように、文字言語では、恣意性、離散性、線状性という特性から、連続的事象や多次元的相関の平易な記述ができず、画面言語の図や表を引用するという形で補っていた。しかし、これは回りくどいやりかたで、この検索は心的抵抗感を生じる。動的画面では、結線で誘導して、直接、詳細に対象物を指示することができる。しかし、もし、この種の手法が確立し普及したとしても、教科書、論文などは、従来の文字言語+静的画面言語の手法で書かれるべきである。学習教育支援、学術研究のプレゼンテーションや討論には動的画面言語と使い分けるのがよい。厳密性と、平易さの兼ね合いの問題である。

§2コンピューターの伝達機能

 物理学の研究発表と例題解法の講義プレゼンテーション兼自習用学習支援を想定して、動画言語について研究し、次のような表記手法を提案をした[1]。

○運動のアニメーション 運動のアニメーションを図式的に表示して、問題の運動を視覚的にイメージさせる。学生の躓きの一因はイメージの困難にある。イメージの把握には実験が望ましいが、時間的制約がある。また,図式化したアニメーションは、実物では埋もれてしまう本質を抽出したイメージを与えられるという利点もある。運動のアニメーションは動的画面言語の有力な手法である。

○解法ガイドの表示 問題の解法を提示するページの適当な位置に枠を設け、解法のまとめを提示する。理論展開の中で事前にまとめておいたものを使う。繰り返し使用して学生に印象付ける。解法のまとめはこの位置に表示され続け、その時点で行う項目を強調表示してガイドする。学生は、難しい論理展開の細部に集中するあまり、大局を見失いがちであるが、ガイドの表示は、いつでも自分の位置を確認するのに役立つ。

○点滅、視線誘導、スポットライト 上述のガイドの、該当項目を強調表示し、実行する部分のキーワードの背景を点滅させ、ここから図中の対象の位置へ点線矢印が伸びて受け手の視線を誘導し、これを選んでスポットライトをあてる。こうして受け手の心的負荷なく対象に注目させることができる。初心者の困難感の一因は対象や参照情報を心内外に検索し、妨害情報排除する心的負荷にある。これが苦手意識、挫折につながるケースも少なくない。

○表示と消去 視線誘導の点線矢印は、不要になったらすぐ消去する。消去せずに残しておくと、画面中矢印だらけになり、何も分からなくなってしまう。必要な要素を随時表示し、不要な要素を消去できるのは、動的画面言語の有力な利点である。

○図解の生成 たとえばガイドに、「力を図示」との項目があるとする。この「力」の部分の背景を点滅させ、ここから図中の対象へ点線矢印を伸ばし、図中の適切な位置に該当する力のベクトルを図示する。このような動作を繰り返し、図解を生成する。

○指示参照 指示代名詞などで、指示する内容を視線誘導の点線で連結する。

○複写移動 ガイドの文字の位置から視線誘導の点線矢印が伸び、複写された文字が点線の先端に乗って滑り移動する。複写移動には必ず視線誘導の点線矢印を同時に表示し、軌跡を残すようにする。複写して移動するだけだと、出発点を見失う恐れがあり、検索の心的負荷が生じるからである。滑り移動は同一のものを書き込むときだけに用いるというルールを設ける。これによって見る人は同じものを書き込んだということを瞬時に直感的に理解することが期待される。

○等値代入 文字式に数値を代入するとき、各文字の数値を与える式をページの別の場所に書いておく。まず文字式=に続けて穴埋め枠を表示する。文字の部分の背景を点滅させ、この文字の値を与える式中の文字の位置に点線矢印が伸びる。次に値を穴埋め枠に複写移動する。この手法は数値に限らず、文字、式の代入にも用いることができる。

○数値計算 数値の計算を実行する。このとき、振動する電卓のアイコンを表示し、ここで数値計算を実行した感覚を与える。

 動的画面でこれらの効果を実際に見ると、驚くほど考えやすいことがわかる。百聞は一見に如かずで、いくら文で読み、静止画で見てもなかなかわからないかもしれない。これらの手法は、前節で述べた学習教育支援システムに多数使用している。埼玉医科大学物理学教室電子教科書のページに掲載してあるので参照されたい。

その他次のような手法が考えられる。

○式の演算で、移項、分母をはらう、逆算、置換代入などをアニメーションでビジュアルに行う。

○複写移動と点線矢印の視線誘導を同期して行い、最後に定数倍、微分などの変形を加えてから代入する加工代入。

○参照してオブジェクトや操作を生成する参照生成、式や図解の参照のための視線誘導の点線矢印。

○枠を設けて説明、定義、定理、公式などを表示し、視線誘導の点線矢印で参照する。または枠と点線矢印の代わりに吹き出しを用いる。

○説明のためのシートを一時的に出現させる。

○アニメーションのコマ撮り図解。

○アニメーションによるグラフの生成。

○穴埋め枠に「?」を点滅させ記入すべきものを考えさせる。

○整理された複数の穴埋め枠に、文を上から読み下しながら該当箇所を記入していく。

○複数組の対応関係を示すため、対応するものを一対ごとに同時に枠で囲んで表示し、順次対応枠を移していく。

○複数の似た形のものを示しそこから一般形を類推抽出する帰納的抽出。

○帰結を指示するための点線矢印。

[1] 赤間啓一, 電子画面言語は難しい物理や数学を易しくする, 埼玉医科大学医学基礎部門紀要, 11, (2006), 45.

6.動画言語による科学伝達

 この科学伝達のシステムは、動画言語(動的画面言語)によって記述される。動画言語とは画面要素とその配位・動作の意味に関して、送り手受け手間で共通の了解を持って行われる意味内容伝達の記号体系である。共通の了解には、通常の言語と同様、一定社会集団に周知の部分と正確を期するため改めて定義する部分とがある。動画言語は発生して日が浅いために社会に周知の部分は極めて不完全で局所的である。特定の集団で研究報告・教育・学習等に用いる場合は、了解内容を明確にしておく必要がある。ここでは以下のような了解のもとにこれを用いることにする。その意味の多くは使用形態から推定できるものであるが、必要に応じて、事前あるいは使用時に送り手、受け手に伝えるものとする。

§1 画面要素

 伝達内容は電子画面上に、画面要素をステップ毎に順次配置し、動作させることによって記述される。ステップは演示者または受け手の操作によって進められ、必要に応じて戻ったりジャンプすることができる。画面要素はその役割によって恒久要素と補助要素に分けられる。補助要素は機能を終了したら消去され、恒久要素は最終的には位置形態が確定して恒久画面を形成する。恒久画面は定義、論理の骨子、結論等、自己完結的で要点を想起するに足る内容を含まなければならない。恒久画面は、静的画面、印刷体としても意味をなすものである。図1aに例として本研究で作成した力学基礎の教育システム(後述)第1回7ページ冒頭部分のすべての要素を示し、図1bに恒久画面を示す。図1aの要素のうち補助要素は順次表出、動作、消去され、恒久要素は動作の後確定して図1bの恒久画面を形成する。電子画面での読者は動画を参照されたい。

 通常言語は一本の流れに沿って記述される。これを線状性と呼ぶ。線状性は人間の主意識が同時に多数の事柄にフォーカスできず、時間軸に沿って一次元的になることに由来している。音声言語では実時間軸に沿って流れが設定される。文字言語では、実時間とは関係なく、平面上に表記されるが、音声言語との整合のため、行を追って線状の流れが設定される。動画言語でも、順次動作の原則により、時間軸に沿った線状性が保証され、意識の線状性と整合する。しかし、伝達内容の論理構造は一般に多次元的重層的で決して線状的なものではない。通常言語ではこれを線状化しなければならないので、まわりくどく分かりにくい表現になってしまう。動画言語では表記平面上の行を追う線状性を外すことでこれに対応し、分かりやすい効率的な伝達を実現する。もう少し細かく見ると、恒久要素は行を追う線状性を保つが、補助要素は、主流(メインストリーム)から外れて要素間の関係を表記することによって、より的確な表現を志向するのである。

 使用される画面要素としては、文、式、図、表等の他に囲み線、結線、矢印、取消線、囲み枠、巻紙枠、吹出し枠、穴埋枠、マーク、リンクボタン等を用い、それぞれの機能に応じて表出、消去、表示、点滅、複写、移動、振動、回転、変形、変色、褪色、暗転、照明等の動作を行う。

○囲み線は文字、文、図形等の対象を囲む閉曲線で、囲まれた対象に注目させるために用い、必要に応じて表出、点滅、消去の動作を行う。曲線(主として角丸形、即ち角を丸くした四角形)、折線(主として四角形)の形態があり、ここでは曲線を一時的な注目のため、四角形を重要事項を恒久的に示すために用いる。

○結線は二つの(或はそれ以上の)対象を結ぶ直線又は曲線で、単線、複線、実線、破線、矢印なし、片矢印付、両矢印付等の形態があり色でも区別する。片矢印付きの場合は始点から終点に向かって伸びるように表出する。両矢印付きの場合は中点から両端点に向かって伸びるように表出する。結線は参照、移動、原因結果、変化、極限、説明、相等、同等、相反、比較等の対象の間の関係や、図中の長さ、間隔等を示す。ここでは暖色系破線片矢印で参照を、緑色系破線片矢印で移動軌跡を表すものとする。このとき、結線先端と対象が同期して移動するようにする(図3)(動画)。移動軌跡を明示するのは、瞬間的な移動は受け手にとっては見失いがちだからである。また、黒色系の矢印は図形や言葉に名称や説明を付加するとき、及び図中の長さ、間隔等を示すのに用いる。原因結果、変化、極限なども片矢印の結線で表すが、その場合は、そのつど吹出し等を付して意味を説明するものとする。矢印なし複線は相等を表す。両矢印結線は同等、同値、比較等を表し吹出し説明等で意味を区別する。

○矢印は二つの対象を結び、片矢印、両矢印等の形態がある。片矢印は原因結果、変化、極限等を、両矢印は相等、同等、相反、比較等を表し、吹出し説明等で意味を区別する。

○取消線は文字、文、図形等に重ねて表示する線分で、これらの対象を意味的に消去したことを表す。単線、複線、横線、斜線、×線等の形態があり、必要に応じて囲線と組み合わせて用いる。主として赤系統の色を用いる。表示上、対象を消去してしまわず消去線を用いるのは、何を消去したかが重要な情報なので、それを明示し、意識させるためである。実際、消去線を付して消去対象を周知した後、消去線と対象のすべてを消去することが多い。ただし、恒久表示の本文を説明のため一時消去する場合は、適当な時期に対象を復活する。数式操作における相殺のように対応して消去する場合は色形態をそろえてそのことを示す(図4)。対象移動により元の位置に存在しなくなる対象については、元の位置にも褪色した表示を残し、四角形囲み線と×線を重ねて表示することにする(動画)。このようにすることにより、受け手がどこから移動したのかを把握できるようにする。

○囲み枠は形は実線の角丸(角を丸くした四角形)で、中に文字、文などの対象を表示し、テーマ・方針・要旨・流れ等の提示、包括的説明などに用いる。巻紙枠は巻紙の形をした枠で既出事項、参考事項、使用する定理、公式などを提示するのに用いる。吹出し枠は中に文字、文などの対象を表示し、特定対象の名称・定義・説明などに用いる。穴埋枠は破線の四角形で、本来表示するべき文字、文、式などの位置に予め表示し、受け手の注目、考察を促し、後、その対象を、枠を埋めるように表示する。講義演示・自己学習等において、受け手が穴埋枠未記入の印刷体(プリント)を持って受講・学習を行い、受け手自身で考え、あるいは画面の表示を見て穴埋枠に記入するようにすれば効果的である。

○マークは一定の意味を付与された図柄・記号、計算、微分、積分などのマークを用いる。計算マークは小さな電卓の形をした記号で数値などの計算を実行することを示す(動画)。計算を必要とする式に引き続き等号と穴埋枠が表示されたとき、その近傍に表示され、小さく振動することで計算を行うことを象徴する。この後、穴埋枠に計算の結果が表示される。微分マークは小さな囲み枠に文字

d

または該当する微分演算子を記したもので微分を施すことを表す。積分マークは小さな囲み枠に積分記号∫または該当する積分演算子を記したもので積分を施すことを表す(動画)。

○リンクボタンは立体感を持たせたボタン状の図形で、特定対象の近傍に表示され、文書内外へのハイパーリンクが付与されている。リンク先は対象の導出等が記述された既出のページ、参考事項、解説などが記述されたページ等である。

 次に動作について考えてみよう。

○表出はその要素を出現させることで、一定の位置に一瞬で出現、次第に出現、滑り込んで出現など色々なオプションが考えられる(動画)。通常の文字、文、式、説明などには単純に一瞬で出現を用いるが、既出事項の再掲、参考事項提示などにはページ外から滑り込んで出現がよい。

○表示は出現してそこに提示され続ける状態を表す。これに対し表出は最初に出現する動作に注目した呼び方である。

○消去は、対象を非表示にすることである。出現と同様に一瞬で消す、次第に消す、滑り去るなど色々なオプションが考えられる(動画)。不要になった補助要素等を消去する場合、一瞬で消すと不要に注目を集める恐れがある。一瞬、隠れていたものが新たに出現したとの誤解を与えることもある。他の注目が必要な動作と同時には行わない方がよい。時間をかけて次第に消すか、いくつかまとめて一斉に消し、不要なものの消去であることを認識させる工夫が必要である。

○点滅は短時間に出現、消去を繰り返すことによりその対象を強調するときに用いる(動画)。画面上の離れた位置に注目を誘導するときに効果がある。対象自体またはそれに付した囲み線を点滅させる方法がある。参照や移動の予備動作としても有効である。

○複写は全く同じ文字や図形を表出することである。

○移動は文字や図形を連続的に運動させ、別の位置に持っていくことである。文字がそのまま移動して元の位置には残らない、元の位置に複写を表出して直ちに移動する(複写移動)、元の位置に淡い複写を残して移動する等のオプションがある(動画)。移動においては文字や図形の形態は変化しないものとする。通常、対象を複写表出すると、受け手は同じものであることの確認の心的負担が強いられるが、移動を用いるとこの負担感が著しく軽減される。複写、移動は数式変形における代入、本文から図への参照、図から式への代入などに多用される。

○振動、回転、変形、変色等の動作は注目を誘導するためにや、象徴的な運動、物理現象の動画等に用いる。例えば計算マークは小さな電卓の形をした記号で数値などの計算を実行することを示すが、その実感を出すために小さく振動させる(動画)。

○褪色、暗転、照明 褪色は対象を表示を淡くすることで、論理的には消去すべきものを覚えのため保持する場合、その部分から注目を外し他の褪色しない部分に注目を誘導する場合等に用いる(図5) (動画)。暗転は背景も含めて明度を落とすことで、暗転した部分から注目を外し他の暗転しない部分に注目を誘導するために用いる。照明は暗転した画面の中で一部の対象だけを明るく表示することで、そこに注目を誘導するために用いる(図6) (動画)。

§2意味伝達のための諸機能

 画面要素の説明の中で例示したように、これらの要素、動作は、単独または複合して、意味伝達のための一定の機能を持って使用される。次に、動画言語ではどのような機能が実現できるか、そのためにどのように要素、動作を用いたらよいか、どのような注意が必要か見ていこう。

○参照 意味伝達の論理展開はメインストリームからさまざまな事項を参照しながら進められる。通常の音声言語や文字言語では参照対象を直接明示的に指示しない。例えば「図の矢印のように」という表現を考えてみよう。音声や文字の言語は「図の矢印」に直接関わることなく、メインストリームの中の説明によってそれを指示する。表記の線状性の制約のため直接指示ができないのである。受け手は文章内外の対象を検索し、指示対象を同定しながら理解を進めなければならない。物理、数学、哲学、法学などのように厳密を期する込入った論理の表記においては、このことが受け手に大きな負担を強い、また負担感が意欲をそぎ、時に正しい伝達を困難にする。動画言語ではこれを直接行うことができる。メインストリームから外れる対象に一時的に注目を誘導すればよい。例えば、参照対象がページ内にすでに表示されている場合は

 参照対象を点滅させる

  参照対象に囲み線を表出、点滅する

  参照元から参照位置に矢印結線を引く

等の方法がある。ページにない事項への参照には、

  適当な枠に情報を表示して上の動作を行う

  該当ページのコピーを一部に表示して上の動作を行う

  該当ページへのハイパーリンクを設けて受け手の能動的な参照促す

方法もある。これらの動作により、受け手は検索の負担と負担感から開放される。

 しかし、実は、受け手が言語情報を受け取るとき、意味を確立するため、たえず心内外を検索し、整合性を検討しながら情報受容を進めるという事実がある。理解はそれ自体の受容と同時にネガティブなケース、関連するケースについての暗黙の認識を包含してはじめて確立する。この意味で検索の困難は意味確立の質を高める。過度な負担は読み聞き続ける意欲をそぎ、スムーズな理解を妨げるが、適切な理解には適切な検索が必要である。特に上のような動作が突然起こると、受け手は幅広い検索の機会を失うことになりかねない。受け手は参照が行われることを予め知り、心の準備をする必要がある。そこで筆者は、これらの動作は、次に参照を行うことを伝える予備動作の後に行うべきであると考える。参照の予備動作としては

  参照元を点滅させる

  参照対象に囲み線を表出、あるいは表出即点滅する

等の方法がある。必要なら参照したい理由や内容を吹出し等の説明枠で指定する。これを講義補助等に用いるときは、予備動作の段階で受け手に考えさせてから参照動作に移る、これを自己学習用に用いる場合も考えてから参照動作を表示するなど、色々な使い方が可能である。特に重要な参照に関しては、予備動作の段階で、説明枠のコメントで検索を促すこともできる。

 以上まとめると、参照は次のように行うのがよい(動画)。

①参照元または参照元の囲み線を点滅させる。必要なら説明枠をつける。

②ページ内に参照対象の表示がなければ枠を設けて表示する。

③参照元から参照対象に矢印結線を引く。

④参照対象または参照対象の囲み線を点滅させる。

ただし、自明な部分は適宜省略する。

○代入 式の計算、変形において、代入は非常に多数回行われる重要な操作である。ある文字にある代入表式を代入するとき、代入元 (その文字がその代入表式に等しいことを示す記述)を参照して、代入位置(変形結果の表記位置)にその代入表式を表出する。このうち、通常の紙上、静止画面または黒板等の表記において顕わに行われるのは表記位置での表出だけである。線状性の制約のため代入元の参照は直接表記できない。全く表記しないか、またはメインストリームの中に言葉でそのむね表記する。従って、受け手は、代入元の検索、文字の一致の確認、代入元と表出した代入表式の一致の確認などの作業を強いられる。代入元はページ内に顕わに表示されていないかも知れない。その場合はさらに大きな負担が生じる。負担自体と同時に負担感も障害になることが多い。これに対し、画面言語では、

  代入元の参照を上記の「参照」の項で述べたように顕わに行い、

  次に代入元から代入表式を顕わに複写移動させて代入位置に定置する。

複写移動による代入は受け手の確認作業の負担、負担感を大きく軽減する。よく考えてみると、実際我々は頭の中では複写移動をイメージして代入を行っている。動画言語は脳内のイメージに近い表記を実現する。一般に動画言語であってもただ闇雲に動かせばよいというものではない。実際の思考の流れをサポートする動きを設定しなくてはならない。

 しかし、検索の場合と同様、確認作業は意味確立の質を高めるという側面がある。確認を行えば何を代入したのかという認識が深まる。過度な負担は読み聞き続ける意欲をそぎ、スムーズな理解を妨げるが、適切な理解には適切な確認作業が必要である。特に複写移動が突然起こって終了すると、受け手は代入元を見失い、再検索の負担が発生し、確認はおろか代入自体の認識を失することになりかねない。そこで、

  予備動作として代入元の代入表式自体またはその囲み線を点滅させ、

  複写移動と同期して複写元から代入位置へ矢印結線を伸ばす

ようにする。この予備動作により、受け手は代入が行われることと代入表式の内容を予め認識し、代入位置どのように定置するのかを能動的に予測することができる。また結線は代入の動作終了後も残るので、代入元の認識を容易にし、同一性の確認を助ける。

 以上まとめると、代入は次のように行うのがよい(動画)。

①代入元の参照を上記の「参照」の項で述べたように行う。

②予備動作として代入元の代入表式自体またはその囲み線を点滅させ、

③代入表式を代入元から複写移動させ代入位置に定置し、

④③に同期して代入元から代入位置へ矢印結線を伸ばす。

ただし、自明な部分は適宜省略する。

 代入位置は通常、メインストリームで原式の次の位置(右側又は次行)に設定される。従って代入によって置換しない部分も新しい位置に新たに表出する必要がある。これも同様の予備動作の後原式から複写移動によって定置するものとする(動画)。簡便な使い方として、次の位置ではなく、原式で直接代入置換してしまうことも考えられる(動画)。これは置換前の形が消えてしまい、何を置換したのか分からなくなってしまう欠点がある。用いる場合は置換後の表式に囲み線をつけて置換前の形をそばに付記するなどの方法をとることができる。

 式の一回の変形において複数個の代入を行うことも少なくない。このような場合は上の代入を順次繰り返すものとする。ひとつの危惧は未完成の段階では等式等が成立せず、スナップショットでは正しくない式が現れてしまうことである。これは通常のノート、板書などでも起こることなので、多くの受け手は正しく受容できるものと思われるが、適切な大きさの穴埋め枠または空白の括弧などを設定しておいて余白があれば未完成であることを示すことができる。

 ここまで代入元の表式をそのまま代入する場合を考えてきたが、代入元が一般公式などで、変数等の置換を要する場合がある。このような場合は置換した部分を色を変えて表出するものとする(動画)。置換する部分がさらに参照代入を要する場合もある。この場合は、一回目の代入では、その部分に空白の括弧や囲み線を表示しておき、再度の参照代入を行う(動画)。

 代入元の表式に微分、積分等の操作を加えて代入する場合は、移動の途中に設定した特定の部位で変形して代入する(動画)。

○式の変形 移項、逆算、同類項の整理、共通因子のくくりだし、相殺、約分、通分、辺々の和などの数式の変形も動画言語を使って分かりやすく表記することができる。電子画面での読者は動画を参照されたい。

○穴埋め表示 本文や式の変形において、適宜穴埋め枠を用いる。システムを講義のプレゼンテーションとして用いる場合、恒久画面でポイントの部分を穴埋め枠にし、空欄にしたものを学生に配り、この部分をノートさせる。すべてをノートする場合よりもノートの負担が軽減される。また、適宜ノートをさせることにより、学生の緊張を維持する効果がある。すぐに答えを示さず、学生に考えさせた後答えを表示すれば、練習にもなる。

○生成 ある記述に対応して離れた位置に新しい対象を生成する場合がある。例えば本文で変数を定義して、それを図中に図示する場合等である。動画言語では、結線、文字の複写移動などで対応を顕示することができる。具体的には次のように行う(動画)。

①予備動作として対応元の要素(名称、文字など)またはその囲み線を点滅させ、

②対応元要素を複写移動させ対応先の位置に定置する。

③②に同期して対応元から対応先の位置へ矢印結線を伸ばす。

④目的の対象を生成する(例えば図示の実行等)。

この機能により受け手は本文や式と図等の対応を強く意識し、具体的現象のイメージを抱いて文章や式を理解することができる。

○現象の動画 現象の動画、シミュレーションは現象、法則の理解に極めて有効である。本研究で作成したシステムで用いたアニメーションの抜粋をここに掲げる(動画)。内容は、加速度運動、定滑車、動滑車、水平面上の物体と滑車、斜面を滑る運動、シーソーのつりあい、足に働く力、仕事とエネルギーの導入、滑り台、棒高跳び、スケーターの運動量授受、質点系の運動、弾性衝突、非弾性衝突、完全非弾性衝突、平面内の衝突、壁との衝突、ばねの振動、振子、こま、惑星の周回運動、連成振動、斜面を転がる運動、回転の運動方程式、転がる車輪のカーブ、誘電体、振動、振動のグラフ、波動、光電効果の模式動画、ボーア原子模型の模式動画、原子核崩壊の模式動画、素粒子、放射線の物質への作用の模式動画、加速器の模式動画、検出器の模式動画、マイケルソンモーレーの実験の解説等である。

○グラフ描画 運動その他で現れるグラフの描画の伝達には、動画は極めて有効である。本研究で作成したシステムで用いたグラフ描画の抜粋をここに掲げる(動画)。内容は等速度運動、等加速度運動、振動である。

○テーマ、方針、目的、流れの提示 動画言語では、画面上のメインストリームから離れた余白にその時点のテーマや論理の流れ、方針、目的、一般的説明などを適宜表示しまた消去することができる(図7)(動画)。また、講義における声による詳細の説明のように、消えてしまってもよい一時的な情報を説明枠で表示し、適宜消去することができる。このような情報はすべて残しておくと画面が一杯になり、分からなくなってしまう。必要な時だけ表示できるのは、動画言語の大きな利点である。一般に、演示画面、ノート、板書等は箇条書き的で整理されているが、それだけでは情報不足で理解に骨が折れることが多い。講演、授業等の現場では音声その他による情報によって補われて全体として分かりやすくなっている。その意味で、演示画面、ノート、板書は意味内容の伝達手段としては自己完結していない。これに対し、動画言語は、音声を付加することもできるし、また上述のように一時的に表示する説明によって、自己完結した伝達手段にすることができる。

○ページ送り 通常の文字言語ではページをめくると前ページの情報は見えなくなり、記憶力に頼るか、何回もめくり返したりしなければならない。動画言語ではページからページへさまざまな方法で受け渡すことができる。例えばページを縦に配置して上へスクロールしてページを切り替えるとき、半分だけスクロールした状態で前ページの必要情報を複写移動して次ページに定置し、残りのスクロールを行う等の方法がある(図8)(動画)。前ページを巻き取って次ページを出現させてページを切り替える場合は同様に半分だけ巻き取った状態で前ページの必要情報を複写移動して次ページに定置し、残りの巻取りを行えばよい(図9)(動画)。また、特別の情報枠を設けて必要情報そこに複写移動してこれを最前面に表示したままページを切り替えるなどの方法もある(動画)。このようなページ切り替えにより、受け手の負担は著しく軽減され、スムーズで効率的な伝達が可能になる。

○ページ参照 これまで述べた機能はほとんど、ステップを送ることによる動作に基づいているが、動画言語では、受け手の意思によって選ぶ動作を設定することもできる。典型的な例はハイパーリンクを設定したボタンをクリックして既出や参考のページを参照することである。参照が有効な位置に適宜リンクボタンを配置しておいて、受け手が必要に応じて参照を実行すれば、より深い理解が期待される。例えば練習問題のページから原理のページを参照する、公式の導出のページを参照する等である。学習というと練習問題が自己目的化しがちであるが、本来、原理理解のための練習であることに立ち返って考えれば、ページ参照リンクは実は本質的な重要性を持っていることに気がつく。繰り返し積極的に原理を参照し、原理への理解を深めて問題解決力をつけるのが望ましい姿である。動画言語はそれに向かっての非常に有力な支援となる。

○目次リンク 受け手の意思による選択動作でもう一つ重要なのは、いつどこにでもに自由に跳べるしくみの保障である。そのために各ページから決まったボタンで目次に跳び、目次から好きなページに飛べるようにする。これを目次リンクと呼ぶことにする。もちろんこのような仕組みは本研究のオリジナルではない。たいていの電子文書システムでは備えているしくみである。ここでもその考え方を採用する。

§3科学伝達システム

 ここでは前節までに述べた要素、機能を用いて実際の科学伝達システムを作るとどうなるだろうか。以下、力学基礎の講義第1回第7ページを例にとって説明しよう。1ページから6ページで変位、速度、加速度の概念を導入し、それぞれのグラフの関係を学び、等加速度運動の例として自由落下運動を扱う。第7ページでは、これらに引き続いて、一般の等加速度運動の速度、加速度の公式、放物運動の最高点、落下点の条件などを学習する。学生は、このページに関して、図11のように恒久画面で穴埋枠を空欄にしたプリントを手にしている。

 このページの画面の動作を図12から図17に示す。図中①②③…の番号は画面上での表示、動作の順序を示し、細い破線の矢印は文字、記号の移動の方向を示す。これらはここの説明のために付したもので、実際は表示されない。電子画面での読者は動画を参照されたい(7ページ全体)。

 はじめ、図12①のように画面左上の「等加速度運動」というタイトルと左下の「一般の等加速度運動について考えよう」というテーマが表示されている。テーマは一連の関連する動作の間表示されており、これによって学習者は大きな流れを把握することができる。②次に、「= 加速度一定の運動」の文字が表示され、定義を与える。③④で画面下半に、「例」としてりんごが落ちる「自由落下」運動と、自動車が等加速度運動する「例b」のアニメーションが表示される。これらは前ページまでに学習したもの再掲であり、学習者の興味をひき、具体的イメージを喚起する。⑤で2行目に「加速度 a a0は定数」と表示され、等加速度運動の基本となる性質を同定する。

 続いて画面上半に図13a~dのように表示され、等加速度運動の速度、加速度の公式を導出する。まず、図