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肺癌患者における METex14 skipping 検査の手引き 2020 9 15 1.0 日本肺癌学会バイオマーカー委員会 谷田部 恭, 後藤功一,松本慎吾,畑中 豊,荒金尚子,池田貞勝, 井上 彰,木下一郎 木村英晴,阪本智宏, 里内美弥子, 清水淳市, 角南久仁子,蔦 幸治, 豊岡伸一, 西尾和人 西野和美,三窪将史,横瀬智之, 秋田弘俊

肺癌患者における METex14 skipping検査の手引きº伝子検査...肺癌患者における METex14 skipping検査の手引き 2020 年9 月15 日 第1.0 版 日本肺癌学会バイオマーカー委員会

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肺癌患者における

METex14 skipping 検査の手引き

2020 年 9 月 15 日 第 1.0 版

日 本 肺 癌 学 会 バ イ オ マ ー カ ー 委 員 会

谷田部 恭, 後藤功一,松本慎吾,畑中 豊,荒金尚子,池田貞勝, 井上 彰,木下一郎

木村英晴,阪本智宏, 里内美弥子, 清水淳市, 角南久仁子,蔦 幸治, 豊岡伸一, 西尾和人

西野和美,三窪将史,横瀬智之, 秋田弘俊

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 2

Table of Contents

1. MET 遺伝子と MET exon 14 skipping (METex14 skipping) .................................... 3

1.1 MET がん遺伝子............................................................................................. 3

1.2 METex 14 skipping ........................................................................................ 4

2. MET チロシンキナーゼ阻害薬 .................................................................................. 4

2.1 METex14 skipping に対する MET チロシンキナーゼ阻害薬の種類 ............................. 4

2.2 VISION 試験について ...................................................................................... 5

2.3 GEOMETRY mono-1 試験について .................................................................... 5

3. METex14 skipping の診断 .................................................................................... 5

3.1 ArcherMET .................................................................................................. 5

3.1.1 用いられる検体 ........................................................................................ 6

3.2 FoundationOne CDx (F1CDx) ......................................................................... 7

3.3 保険点数について .......................................................................................... 7

3.4 保険点数についての留意点 .............................................................................. 7

4.肺癌の遺伝子検査における METex14 skipping 検査の位置づけ .................................. 7

5.最後に .......................................................................................................... 11

6.参考文献 ...................................................................................................... 12

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 3

1. MET 遺伝子と MET exon 14 skipping (METex14 skipping)

1.1 MET がん遺伝子

MET は 7q21-q31 に位置する proto-oncogene で、RAS/MAPK、Rac/Rho、PI3K/AKT シグナル伝達経路につな

がる受容体型チロシンキナーゼをコードしている。これらの経路を活性化することで、腫瘍の増殖、抗アポトーシス、転

移と関与することが知られている(図 1)1。遺伝子変化としては、MET 増幅・過剰発現が広い癌腫(大腸癌、胃

癌、肝癌、肉腫)で見いだされ、肺癌においても腺癌の 4%、扁平上皮癌の 1%に見いだされる 2, 3。この遺伝子増

幅・過剰発現に対して、ヒト化抗体が開発されたが、臨床第Ⅲ相試験でその有用性は見いだされなかった 4。一方

で、EGFR-TKI 治療の耐性機序の一つとして MET 増幅が獲得されることが示され 5、EGFR-TKI と MET 阻害薬によ

る治療法についても模索されている 6。

図 1 MET とそのライガンド HGF の機能とその異常、それに対する薬剤の概要.

この他、小細胞癌においては遺伝子変異も報告されているが 7、2006 年 MET 遺伝子のイントロン領域などの変異

により、Exon 14 が翻訳されなくなる METex14 skipping 変異が報告され 8、MET 阻害薬の開発に伴って注目される

ようになった。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 4

1.2 METex 14 skipping1 図 2 に示すように METex14 そのものの

欠失のほかに、イントロン/エクソン部分の

遺伝子欠失や遺伝子変異により、スプラ

イス部位の異常をきたし、エクソン 14 の

欠失した転写物の生成を生じる。このよう

な異常を METex 14 skipping と呼ぶ。

METex14 は膜近傍領域

(juxtamembrane domain)をコード

し、c-Cbl E3 ubiquitin ligase binding

site を含んだ領域である。そのため、

METex14 がないことにより、ユビキチン化

や分解が抑制され、その結果 MET の活

性化が生じると考えられている。このユビキ

チン化に重要な MET Y1003 の変異にお

いても METex14 skipping と同等の分解

異常を来す(”functional analogue”)

9, 10。この分解異常によって、タンパク質の

異常集積が生じ、後述の遺伝子増幅と

合わせて、免疫染色での過剰発現と関

連することが知られている 9, 11, 12。

METex14 skipping は、肺腺癌のおよそ 3-4%を占め、高齢者に多く、性差、喫煙とはあまり関係ない。また、他のド

ライバー変異(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、KRAS、HER2)とは相互排他的である。METex14 skipping を示す腫

瘍は、MET コピー数の増加・遺伝子増幅を高頻度に伴うことが知られているほか 9, 11, 12、肺腺癌以外の組織型で

は、肉腫様癌で頻度が高いことが知られている 9, 13。

2. MET チロシンキナーゼ阻害薬

2.1 METex14 skipping に対する MET チロシンキナーゼ阻害薬の種類

現在知られている低分子METex14 skippingに対するMETチロシンキナーゼ阻害薬について表1にまとめた14。この

うち、テポチニブ(商品名:テプミトコ)は、先駆け審査指定制度に基づいて臨床第Ⅱ相試験であるVISION試験

15を基に2019年11月19日に承認された。また、GEOMETRY mono-1 study16をもとに2020年6月4日に、カプ

マチニブ(商品名:タブレクタ)が承認されている。いずれの試験もMETex14 skippingを来す変異を有する腫瘍に

対しての臨床試験であり、いずれとも変異部位(splice acceptor site, splice donor site, whole-exon 14

deletion)や変異種類(indels, point mutations)と治療効果との間に関連は認めなかった15, 16。

1 MET exon 14 skipping という現象は RNA、タンパク質で生じる現象であり、スプライス異常をきたす遺伝子変異について様々な呼称が存在する。本手引きでは、より正確に

記載するため MET exon 14 を METex14 として、そのあとにどのような異常であるか(METex14 skipping, METex14 deletion, METex14 mutations)を記載することとした。

図 2 METex14 skipping を生じる遺伝子異常の分布.J Thorac Oncol

016;11:1493-1502 より改変

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 5

表 1 METex14 skipping を標的とした治療薬

Compound 本邦における承認 Company Targets Type of inhibitor

Enzyme IC50, nM

Clinicaltrials.gov NCT number

/EuDraCT number

Reference (PMID)

Crizotinib 未承認 Pfizer MET, ALK, ROS1 Type Ia <1.0

NCT00585195 (PROFILE-1001)

NCT02465060 (NCI-MATCH)

NCT02499614 (METROS)

NCT02664935 (Matrix)

21812414, 19459657

Capmatinib 承認済み

(2020/6/29) Novartis MET Type Ib 0.13

NCT02750215 NCT01324479

21918175

Tepotinib 承認済み

(2019/11/19) Merck MET Type Ib 3

NCT02864992/2015-005696-24

23553846

Savolitinib 未承認 AstraZeneca/

Hutchison MET Type Ib 5 NCT02897479 25148209

AMG337 未承認 China Meditech Amgen/Nanbio

MET Type Ib 1 No current clinical

trials; 27196782

Cabozantinib 未承認 Elexis MET Type II 1.3 NCT01639508 21926191

Glesatinib 未承認 Mirati VEGFR2, RET, KIT, TIE-2,

AXL MET, VEGFR

Type II 1 NCT02544633 Cancer Res 2012;72,

S8:Abstr 1790

Merestinib 未承認 Therapeutics

Lilly

RON, TIE-2 MET, TIE-1, AXL, ROS1, DDR1/2, FLT3,

MERTK, RON, MKNK1/2 Type II 4.7 NCT02920996 23275061

2.2 VISION 試験について

VISION 試験は、MET 遺伝子エクソン 14 スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌

(NSCLC)患者を対象にテポチニブ 500mg を 1 日 1 回投与における抗腫瘍効果と忍容性及び安全性を評価す

る、国際共同、非盲検、単群、第Ⅱ相試験である 15。主要評価項目は奏効率で、RECIST ver1.1)に基づく独立

評価判定による有効性評価対象 99 例で 42.4%(95%信頼区間:32.5-52.8)であった。

2.3 GEOMETRY mono-1 試験について

GEOMETRY mono-1 試験は MET 遺伝子エクソン 14 スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞

肺癌患者を対象とした国際共同、非盲検、単群、第Ⅱ相試験である 16。コホート 5b では化学療法歴のない患者

28 例、及びコホート4:化学療法歴のある患者 69 例にカプマチニブ 1 回 400mg を 1 日 2 回経口投与した。主

要評価項目である独立画像判定機関の評価による奏効率(RECIST ver 1.1 基準に基づく)は、それぞれコホート

5b は 67.9%(95%信頼区間:47.6-84.1)及びコホート4は 40.6%(95%信頼区間:28.9-53.1)であった。

3. METex14 skipping の診断

3.1 ArcherMET Vision 試験では、組織検体に対しては Oncomine Focus アッセイ、および血漿 cfDNA に Guardant360 CDx

Test を用いて患者選択が行われたが、組織・血液が同一プラットホームで検討可能な ArcherMET の分析学的妥

当性が確認され、本邦におけるコンパニオン診断薬として承認された。ArcherMET は、テポチニブ用に開発された

Illumina MiSeq Dx を用いた次世代シークエンサー(next generation sequencing, NGS)によるアッセイ

で、モレキュラーバーコードを有している点や Anchored Multiplex PCR を用いている点が新しい(図 3)。組織

標本では RNA を、血漿では cfDNA をもとに解析する。これまで cfDNA の解析としては、Cobas v.2.0 による

EGFR T790M アッセイが唯一保険承認されていたのみであったが、NGS による解析が加わった意義は大きい。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 6

図 3 ArcherMET のワークフローと特徴づけるアンカーマルチプレックス(AMP)テクノロジー.

3.1.1 用いられる検体

図 4 に示すように、組織であれば 10ng 以上の RNA が得られる

未染標本(10%以上の腫瘍細胞を含み、総面積として

20mm2 以上になるような組織)が必要である。例えば、10%以

上の腫瘍細胞含有率を持つ検体で、HE 標本上で 2mm2 の組

織であれば、10 枚の未染標本が必要となる。なお、必要とされる

RNA 10ng はオンコマインで必要な RNA 量と同じである。血液の

場合は、PAXgene cfDNA 採血管に採血された 10mL 以上が

必要である。

図 4 ArcherMET で用いられる検体とその条件.

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 7

3.2 FoundationOne CDx (F1CDx) GEOMETRY mono-1 試験では、中央測定機関で RT-PCR 法により検査された。当該検査との分析学的妥当性が

確認された FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルがコンパニオン診断として承認されている。FoundationOne

CDx における METex14 skipping の解析にはエクソン 14 近傍の splice site mutation/deletion の検出によって検

出する。具体的な解説については、日本肺癌学会 「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル

検査の手引き 第 1.1 版」17 を参照されたい。

3.3 保険点数について

ArcherMET: 非小細胞肺癌患者へのテポチニブによる治療法の選択を目的として、患者 1 人につき 1 回のみ算

定できる。

▪ 組織による ArcherMET:5,000 点

▪ 血漿による ArcherMET:5,000 点 (ただし組織での ArcherMET が困難な場合に限る)

FoundationOne CDx: コンパニオン診断薬として用いた場合には検査費用として保険償還されるコンパニオン部

分のみである。そのため検査会社が病院に請求する額との間には大きな相違が生じ、病院側が多額の負担を負うこと

になるため、実質的には使用が困難な状態となっている 17。

3.4 保険点数についての留意点

「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」 等の一部改正において、オンコマイン DxTT

との同一月での併用は請求可能と解釈できる。

他の個別遺伝子検査と同時に行った場合は項目数に応じた点数により算定すべきとされており、肺癌では EGFR、

ALK、ROS1、KRAS は処理の容易なものとして、2項目=4,000 点、3項目=6,000 点まで、BRAF 遺伝子検

査、NTRK 融合遺伝子検査、MET 遺伝子検査は処理が複雑な検査として、2項目=8,000 点、3項目以上

=12,000 点までの請求が可能である。

血漿での ArcherMET 検査は、医学的な理由により、組織による ArcherMET 検査が困難な場合に限り、医学的な

理由を診療録および診療報酬明細書に記載する必要がある。また、血漿検査の取り扱いは 1 患者1回のみと規定

されているが,血漿 EGFR 検査に準じており、肺癌組織 ArcherMET 検査を施行した場合には同一月に血漿

ArcherMET 検査を同時に算定することはできない。したがって、翌月に血漿 ArcherMET 検査を提出し、算定するこ

とは可能であるが、後述のように推奨できない(表 3 およびその説明を参照)。

4.肺癌の遺伝子検査における METex14 skipping 検査の位置づけ

MET 阻害薬の高い奏効率を考えると、他のドライバー変異である EGFR、ALK、ROS1、BRAF と同等の位置づけで、

すべての非小細胞肺癌患者でその遺伝子変異を知った上で治療計画を立てる必要がある。可能性が高い現状での

遺伝子検査の実施組み合わせを、その特徴と併せて表2にまとめた。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 8

表 2 可能性の高い実地診療上での検査の組み合わせとその特徴

表2における②③の組み合わせにおける ArcherMET について、血漿での検査を考えたくなるが、組織検査ができない

理由が必要である。また、VISION 試験で用いられた検体で、ArcherMET で組織検査と血漿検査がともに解析でき

た 96 サンプルの結果が公表されている(表 3)18。この結果からは、血漿検査では、組織で検出された METex14

skipping のおよそ半数しか検出されておらず、血漿検査においてはその感度に十分に留意する必要がある。また、陰

性であった場合はテポチニブの使用が査定される可能性があるため、推奨できない(3.4 保険点数についての留意点

を参照)。

表 3 VISION 試験で使用した検体での ArcherMET 分析学的・臨床的妥当性を検討した際に、同一患者での血漿検体及び組織

検体が解析された 96 検体での比較

組織検体

METex14 + METex14 -

血漿

検体

METex14 + 18 1

METex14 - 19 58

オンコマイン DxTT では、解析アルゴリズムとして RNA における METex14 skipping と DNA での MET イントロン-エクソ

ン境界領域の遺伝子解析を行う。Archer 社が行ったオンコマイン focus assay(VISION trial で用いられた clinical

application assay)とコンパニオン診断薬である ArcherMET の陽性一致率(PPA)は 93.88%、陰性一致率

(NPA)は 98.33%であった。オンコマイン Focus Assay は、オンコマイン DxTT とは全く同じアッセイとは言えないが、

オンコマイン DxTT の開発ベースとなったアッセイであり、同じ原理を用いている。分析学的妥当性を検証すべきである

が、実際の保険診療においてはオンコマイン DxTT を施行し、陽性であった症例に対してのみ、コンパニオン診断薬で

ある ArcherMET を施行するというアルゴリズムが現実的である(図 5)。また、後述の声明にもあるようなオンコマイ

ン DxTT の結果をがんゲノム医療エキスパートパネルにより承認することにより、保険償還される制度も期待したい。

ドライバー

遺伝子検査の

アルゴリズム

一次検査 二次検査 特徴

EGFR ALK ROS1 BRAF MET MET 利点 欠点

5 遺伝子

同時実施

【単一】

qPCR

【単一】

IHC or

FISH

【単一】

qRT-PCR

(Amoy

ROS1)

【単一】

NGS

(ODxTT

BRAF)

【単一】

NGS

(ArMET)

・EGFR, ALK は TAT

が短い

・これまでの経験が生か

せる。

・最も検体量を必要とするた

め,微小検体では検査不

可となる場合がある

・マルメによる保険点数上の

持ち出しに注意が必要

5 遺伝子

同時実施

【マルチ】

NGS(OdxTT マルチ)

【単一】

NGS

(ArMET)

・すべての CDx 結果が

一度に手に入り、治療

選択が容易

・マルメによる保険点数上の

持ち出しに注意が必要

4 遺伝子

同時実施後に

MET 実施

【マルチ】

NGS(ODxTT マルチ) ―

【単一】

NGS

(ArMET)

・ODxTT マルチ等実

施後の残余 RNA の利

用を考慮できる場合が

ある

・TAT が長い

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 9

図 5 保険診療における進行再発非小細胞癌の分子標的治療へのアルゴリズム.後述のように個別遺伝子検査の施行は施設持ち

出し費用が発生するため、オンコマイン DxTT による検査が推奨される。コンパニオン診断となる EGFR、ALK、ROS1、BRAF の異常が見

出されれば、そのまま分子異常に基づく治療が開始可能である。

*1 METex14 skipping, NTRK 融合遺伝子はオンコマイン DxTT で検出可能であるが、研究目的として医師の要望があった場合に参考

情報として返却される。その情報をもとに、コンパニオン診断薬である ArcherMET, F1CDx を施行する。

*2 オンコマイン DxTT で組織が著しく欠乏し、ArcherMET への提出が困難な場合には再生検が可能か十分考慮し、不可能な場合は

陽性感度が低いことを留意しつつ血漿検査を施行してもよい。

*3 F1CDx を METex14 skipping, NTRK 融合遺伝子のコンパニオン診断として用いる場合には、検査費用と診療報酬に大きな差が生

じることに注意する。

一方で、検体の状況等からオンコマイン DxTT の結果を得られない場合も存在する。その場合には、「肺癌患者にお

ける次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き 第 1.1 版」17 を参照し、適宜必要に応じた検査を

行う必要がある。NTRK については、肺癌の場合は IHC によるスクリーニングが推奨されている 19。なお、METex14

skipping を検出する簡便なスクリーニング法として、MET IHC の可能性を上げる論文もあるが 20, 21、否定する報告

が明確であり 15, 22、現時点では推奨できない。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 10

図 6 検査項目数による診療報酬.2020 年 4 月の診療報酬改定により、検査項目数による診療報酬の改定が行われた。現在臨

床検査会社ではこの改定に対応していないため、EGFR、ALK、ROS1 で 1,500 点の持ち出しとなる。これに加えて BRAF 遺伝子検査と

METex14 skipping 検査とは別項目としてマルメの対象となり、2,000 点の持ち出しとなる。そのため、個別遺伝子検査を EGFR, ALK,

ROS1, BRAF, MET で施行すると、3,500 点の施設持ち出しになる可能性がある。

また、現在、個別遺伝子検査を施行している施設は少なくないが、それぞれ EGFR、ALK、ROS1、BRAF 検査を施行

すると、マルメにより 6,000 点+5,000 点となる。しかしながら、検査会社は多くの場合、このマルメを考慮していないた

め価格交渉していなければ 7500 点+5000 点の請求で、1,500 点の持ち出しとなっている。そこに METex14

skipping が加わるとその価格差は 3,500 点となり、その持ち出しは大きく増加する。表2の遺伝子検査の組み合わ

せと対応した保険点数について表 4 に詳細を記した。経済的な観点、および組織の消費量の観点より、個別遺伝

子検査からマルチプレックス検査への移行を考える必要がある。

一方で、カプマチニブ、エントレクチニブでは F1CDx がコンパニオン診断薬となるが、検査費用と診療報酬との間に大き

な差が生じる可能性があり、現状としては診断時に検査が困難な状態にある(3.3 保険点数について、を参照)。

このような状況に対して、日本肺癌学会では厚生労働省に対し、オンコマイン DxTT マルチシステムの結果をがんゲノ

ム医療エキスパートパネルで当該薬剤の使用が妥当とした場合、薬剤の保険償還を認めることを求める要望を提出し

ている 23。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 11

表 4 肺癌コンパニオン診断項目の保険点数と留意事項(表2に対応)

MET 検査法別

のドライバー遺

伝子検査

肺癌コンパニオン診断項目の保険点数

保険点数算定上の留意事項

イ 処理が容易なもの

・2項目 4,000 点

・3項目 6,000 点

・4項目以上 8,000 点

ロ 処理が複雑なもの

・2項目 8,000 点

・3項目以上 12,000 点

EGFR

2500 点

ALK

2500 点

ROS1

2500 点

BRAF

5000 点

MET

5000 点

NTRK

5000 点

ArcherMET

①ODxTT マル

チを用いない場

【単一】

Cobas therascreen

【単一】

IHC FISH

【単一】

Amoy ROS1

【単一】

ODxTT

【単一】

ArMET ー

検査会社との交渉によるが、最大

3500 点分が持ち出しとなる

(・EGFR/ALK/ROS1 マルメ検査の

費用持ち出しは 1500 点分

・BRAF/MET マルメ検査の費用持ち

出しは 2000 点分) 3 項目 6000 点 2 項目 8000 点

ArcherMET

②ODxTT マル

チを用いる場合

【マルチ】

ODxTT マルチ

【単一】

ArMET ー

検査会社との交渉によるが、最大

2000 点分が持ち出しとなる

(・BRAF/MET 検査のマルメ点数に

よるの検査費用持ち出しは 2000 点

分) 3 項目 6000 点 2 項目 8000 点

F1CDx

【マルチ】

F1CDx

【単一】

ODxTT

【マルチ】

F1CDx

・F1CDx の肺癌 CDx 項目には

BRAF は含まれない

・F1CDx は保険点数上,使用は実

質的に困難*1 3 項目 6000 点 3 項目 12000 点

*1 「3.3 保険点数について」参照

5.最後に

EGFR、ALK、ROS1、BRAF に加え、METex14 skipping に対する治療薬が誕生し、そのコンパニオン診断薬が導入

された。とくに、次世代シークエンサーによる cfDNA 解析が保険診療に組み入れられた意義は大きく、さらなる拡大が

望まれる。現状としては、オンコマイン DxTT で METex14 skipping も検出可能であるため、とりあえずはこのマルチプレ

ックス遺伝子検査を施行することが重要となってくる。その理由としては、進行再発肺癌で得られる検体の多くは小検

体であり、これら5つの遺伝子を個別に調べることは難しいことが多い。また、今回の保険診療上のマルメ措置により、

個別遺伝子検査による持ち出しの発生から、ますますマルチプレックス遺伝子検査に移行する必要が生じた。現在は

オンコマイン DxTT で METex14 skipping が検出されても、コンパニオン診断薬の ArcherMET、F1CDx を保険診療

上は施行しなくてはいけないが、このような臨床的に不合理な規制も改善する必要がある。

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肺癌患者における METex14 skipping検査の手引 12

6.参考文献

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