8
鋼床版のデッキプレートとトラフリブ間の 縦方向溶接部の疲労に対する EFFECTIVE NOTCH STRESSによる評価 菅沼久忠 1 ・三木千壽 2 1 正会員 東京工業大学大学院 理工学研究科土木工学専攻(現 株式会社TTES(〒152-8552東京都目黒区大岡山2-12-1E-mail: [email protected] 2 フェロー 東京工業大学大学院教授 理工学研究科土木工学専攻 (〒152-8552東京都目黒区大岡山2-12-1鋼床版に生じるき裂の中で,デッキとトラフの片面溶接ルート部から生じるき裂がデッキを貫通する方 向に進展する例が数多く報告されはじめている.このき裂はルート部から発生するため発見が困難な上, デッキの陥没を誘発し大変危険である.本論文では,このデッキとトラフの片面溶接ルート部から生じる き裂について,エフェクティブノッチストレスの概念を取り入れることで,発生要因の解明と発生を抑制 するための構造の検討を目的とする.載荷パターンおよびデッキ板厚・トラフリブスパン・溶接形状をパ ラメータとして,それらの影響について詳細なFEM解析により検討を行った. 本研究では,エフェクテ ィブノッチを導入した詳細なFEM解析により,デッキ貫通型き裂の発生を抑制する構造の提案を行う. Key Words : effective notch stress, orthotropic steel deck, fatigue crack 図-1 デッキとトラフリブの溶接部に生じる疲労き裂 ルート き裂B 止端 ルート き裂B 止端 デッキプレート ルート き裂A き裂B 止端 疲労き裂Bの例 . はじめに 鋼床版構造の疲労上の特徴は,薄い鋼板を組み合 わせた構造である点と,自動車荷重を直接に受ける 点にある.そのため構成する板は自動車荷重の通過 により複雑な変形を余儀なくされ,接合部に極めて 高い局部応力を発生させることとなる.また,橋梁 内に同じディテールが繰り返し使用されることか ら,結果として,鋼床版構造において数多くの疲労 損傷が報告されている 1),2) デッキプレートとトラフリブ間の縦方向溶接部か ら発生するき裂はルート部を起点として発生する が,それらは図-1 に示すように溶接ノド断面に侵入 する方向のき裂と,デッキプレートに進入する方向 のき裂の 2 種類が存在する.このうちデッキプレー トを貫通するき裂 B は,時に路面を陥没させること もあり,走行車両の事故につながる可能性があるこ とから特に注意が必要なモードのき裂である.デッ キプレート侵入型き裂は,デッキプレートを貫通時 に路面が陥没するか,あるいは舗装にひび割れが生 じることで初めてその存在を確認することができ る.すなわち桁下からの点検では発見することが困 難な疲労き裂である. 鋼床版のデッキ周辺に生じるき裂については,世 界各国で問題となっている.フランスでは 1960 代初頭から鋼床版構造が用いられている.1970 年代 35 Vol.63 No.1, 35-42, 2007. 1 土木学会論文集A

鋼床版のデッキプレートとトラフリブ間の 縦方向溶 …ttes.co.jp/.../2014/05/21bc228b40a348537f9b83d45a5bea73.pdf2014/05/21  · とされ,いくつかの検討が行われている9),10)

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鋼床版のデッキプレートとトラフリブ間の 縦方向溶接部の疲労に対する

EFFECTIVE NOTCH STRESSによる評価

菅沼久忠1・三木千壽2

1正会員 東京工業大学大学院 理工学研究科土木工学専攻(現 株式会社TTES) (〒152-8552東京都目黒区大岡山2-12-1)

E-mail: [email protected] 2フェロー 東京工業大学大学院教授 理工学研究科土木工学専攻

(〒152-8552東京都目黒区大岡山2-12-1)

鋼床版に生じるき裂の中で,デッキとトラフの片面溶接ルート部から生じるき裂がデッキを貫通する方

向に進展する例が数多く報告されはじめている.このき裂はルート部から発生するため発見が困難な上,

デッキの陥没を誘発し大変危険である.本論文では,このデッキとトラフの片面溶接ルート部から生じる

き裂について,エフェクティブノッチストレスの概念を取り入れることで,発生要因の解明と発生を抑制

するための構造の検討を目的とする.載荷パターンおよびデッキ板厚・トラフリブスパン・溶接形状をパ

ラメータとして,それらの影響について詳細なFEM解析により検討を行った. 本研究では,エフェクテ

ィブノッチを導入した詳細なFEM解析により,デッキ貫通型き裂の発生を抑制する構造の提案を行う.

Key Words : effective notch stress, orthotropic steel deck, fatigue crack

図-1 デッキとトラフリブの溶接部に生じる疲労き裂

デッキプレート

ルート

き裂A

き裂B

止端

デッキプレート

ルート

き裂A

き裂B

止端

デッキプレート

ルート

き裂A

き裂B

止端

疲労き裂Bの例

1. はじめに

鋼床版構造の疲労上の特徴は,薄い鋼板を組み合

わせた構造である点と,自動車荷重を直接に受ける

点にある.そのため構成する板は自動車荷重の通過

により複雑な変形を余儀なくされ,接合部に極めて

高い局部応力を発生させることとなる.また,橋梁

内に同じディテールが繰り返し使用されることか

ら,結果として,鋼床版構造において数多くの疲労

損傷が報告されている 1),2).

デッキプレートとトラフリブ間の縦方向溶接部か

ら発生するき裂はルート部を起点として発生する

が,それらは図-1 に示すように溶接ノド断面に侵入

する方向のき裂と,デッキプレートに進入する方向

のき裂の 2 種類が存在する.このうちデッキプレー

トを貫通するき裂 B は,時に路面を陥没させること

もあり,走行車両の事故につながる可能性があるこ

とから特に注意が必要なモードのき裂である.デッ

キプレート侵入型き裂は,デッキプレートを貫通時

に路面が陥没するか,あるいは舗装にひび割れが生

じることで初めてその存在を確認することができ

る.すなわち桁下からの点検では発見することが困

難な疲労き裂である.

鋼床版のデッキ周辺に生じるき裂については,世

界各国で問題となっている.フランスでは 1960 年

代初頭から鋼床版構造が用いられている.1970 年代

35

Vol.63 No.1, 35-42, 2007. 1土木学会論文集A

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には幹線道路の立体交差を短期間に実現するために,鋼

床版構造が全国的に数多く採用された.しかしながら,

架設後数年でデッキ貫通型・ノド貫通型の疲労き裂がト

ラックのタイヤが通過する位置の周辺に多数発見された

例が報告されている 3).また,1966 年に当時の技術の粋

を集めて架設されたイギリスのセバーン橋においても,

わずか 15年後に疲労損傷の報告がなされている 4).オラ

ンダでも,Van Brienenoord可動橋を始めとして 2004年ま

でに,交通量の多い 10 橋からデッキ貫通型疲労き裂が

発見されたと報告されている 5). 三木ら 6)は大型疲労試験および解析から,トラフリ

ブ・横リブ交差部におけるトラフリブとデッキプレート

の溶接について,溶け込み深さが疲労強度に対して非常

に重要であることを示している.また,森 7)はこのき裂

に対し,トラフリブの一部を模した試験体を用いた実験

と解析から,デッキプレートとトラフリブの溶接の溶け

込み深さについて論じている.筆者ら 2)は詳細な FEM解

析結果と実橋での車両走行試験の結果を比較検討するこ

とで,床版の局部曲げが原因であると結論付けた.ま

た,疲労き裂を抑制する一つの方法としてデッキの変形

を抑制するためにデッキ厚を増すことを提案している.

しかしながら,ルートき裂がデッキ板厚貫通方向に伸び

る発生要因については,明らかになっていない.

本研究ではデッキの変形挙動に着目して,デッキとト

ラフの溶接部に生じるき裂を抑制する構造について検討

を行う.

2. エフェクティブノッチストレス(ENS)

デッキとトラフの溶接部に生じる溶接は,いずれも溶

接部の止端ではなくルートから発生する特長を有する.

局部応力を扱う手法として,ホットスポット応力手法 8)

は広く適用されているが,溶接止端部近傍の表面から発

生するき裂を対象としており,また,溶接の形状による

ローカルな応力の乱れを含まないことから,溶接内部に

あるルートから発生するき裂に適用することは出来な

い.そこでローカルな応力を直接に評価する手法が必要

とされ,いくつかの検討が行われている 9),10).本研究で

は,ルート部からの疲労き裂に対して,国際溶接学会

(IIW)において近年検討が盛んに行われているエフェクテ

ィブノッチストレス手法を用いて検討を行う 11),12). エフェクティブノッチストレスは,線形弾性体を仮定

して得られたノッチの応力である. すなわちエフェクテ

ィブノッチストレスは,ホットスポットアプローチで除

外していた局部応力を直接に考慮している.その算出モ

デルは,図-2 のようにルート部・止端部ノッチを仮想的

な半径の円弧と仮定することで,一定の結果が得られる

という仕組みである.これにより,ルートき裂と止端き

裂の発生可能性,およびき裂の進展方向の推定が出来

る.通常の FEM シェル解析ではルート部の応力の評価

は困難であり,またソリッド要素を用いても溶接交差部

あるいは溶接ルート部の表現は難しい.このエフェクテ

ィブノッチストレスは仮想の半径を用いることで応力の

特異性を除くことに特徴がある.IIW においても,その

適用性や疲労強度の絶対評価についてはなお検討の余地

があるが,その有効性は評価されている.

本研究では,ルート部へのエフェクティブノッチの導

入に伴うデッキプレートの断面減少による,実現象に即

さない応力上昇を最低限に抑えるべく,エフェクティブ

ノッチの半径を 0.5mm,エフェクティブノッチストレス

として,IIW の基準に従って Von Mises の等価応力を用

い,相対評価により検討を行う.

半径0.5~1.0mm程度

図-2 エフェクティブノッチストレス算出モデル

s s s

t

t = 12, 14, 16, 18

s = 310, 360, 400, 450 (mm)

床版厚さ

トラフスパン

s s s

t

t = 12, 14, 16, 18

s = 310, 360, 400, 450 (mm)

床版厚さ

トラフスパン

デッキプレート

トラ

フリ

デッキプレート

トラ

フリ

デッキプレート

トラ

フリ

デッキプレート

トラ

フリ

デッキプレート

トラ

フリ

デッキプレート

トラ

フリ

(a)すみ肉溶接 (b)75%溶け込み溶接

図-3 検討パラメータ

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.

310mm12mm

22002

13),14)

8mm6mm

75%75%

.

FEM 3

37

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2

2) 33

6

75%4

243 1

1T

25t

50kN50kN 100kN

3

20mm20mm

.

310mm

325

200

205

205

200

205 50kN

50kN

50kN

325

200

205

205

200

205

200

205 50kN

50kN

50kN

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により支持されていると考えられる.“ダブル”荷重の

際には,トラフ溶接部を中心としたデッキプレートの角

折れにより発生応力が高くなると考えられる.一方,シ

ングルタイヤの場合は,偏載によるトラフリブの変形に

より,発生応力が高くなっていると考えられる.そのた

め,デッキプレートを増厚した際に,ルート部ダブルの

載荷パターンにおいて,最も応力低減の効果が表れてい

ると考えられる.以後,一般部については“ダブル”の

パターンにより検討を行うものとする.

交差部について各荷重パターンと発生応力の関係に

着目したグラフが図-9 である.ダブルタイヤの荷重が

100kN に対して,シングルタイヤの荷重が 50kN にも関

わらず,荷重パターン“シングルイン”により発生する

ルート部でのエフェクティブノッチ応力の方が,荷重パ

ターン“ダブル”に比べて高いことが分かる.これは,

ダブルタイヤが載荷した場合は,横リブ上に載荷した片

輪が横リブを押し下げることにより,トラフリブ側の片

輪による局部変形が抑制されるためである.

一般部と交差部を比較すると,横リブに拘束されてい

る交差部においてルート部のエフェクティブノッチスト

レスが高い.これより,交差部の方がより疲労き裂が発

生しやすいことがわかる.

6. 溶け込み量の影響

一般部・交差部における疲労き裂発生について,溶け

込み量に着目して検討を行う.一般部について,図-10

に載荷パターン“ダブル”がトラフ幅 400mm,デッキ厚

16mm に作用した際のエフェクティブノッチストレスを

コンター図で示す.

全体的に“すみ肉溶接”では“75%溶け込み”に比べ

て応力が高く,疲労き裂が発生しやすい状態にあるとい

える.これは実橋での発生の傾向と一致している.ま

た,“75%溶け込み溶接”と比べて高いノッチストレス

の発生箇所に顕著な違いが生じている.“75%溶け込み

溶接”では,エフェクティブノッチストレスはデッキ貫

通方向に向かう可能性が高いルート部上端にだけ生じて

いる.しかしながら,“すみ肉溶接”では,先のルート

部上端だけではなく,ルート部ノッチの下端にも高いエ

フェクティブノッチストレスが生じている.すなわち,

“すみ肉溶接”では,ルートからデッキ貫通方向に生じ

るき裂が“75%溶け込み溶接”に比べて発生しやすい上

に,ノド貫通方向のき裂をも発生する可能性を有してい

る.なお,止端部デッキ側については,溶接形状によら

ず同程度のエフェクティブノッチストレスが発生してい

る.

交差部においても,溶接状態に応じてノッチストレス

図-8 一般部のルート応力と止端応力

図-9 交差部のルート応力

0

100

200

300

400

500

600

12 14 16 18

0

100

200

300

400

500

600

12 14 16 18

デッキプレート厚 (mm) デッキプレート厚 (mm)

ルー

ト部

エフ

ェク

ティ

ブノ

ッチ

スト

レス

(MPa

)

止端

部エ

フェ

クテ

ィブ

ノッ

チス

トレ

ス(M

Pa)

a) ルート応力 b) 止端応力(デッキ側)

ダブル

シングルイン

シングルアウト

ダブル

シングルイン

シングルアウト

0

200

400

600

800

1000

1200

12 14 16 18

ダブル

シングルイン

シングルアウト

ルー

ト部

エフ

ェク

ティ

ブノ

ッチ

スト

レス

(MP

a)

デッキプレート厚 (mm)

39

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75 A B

C D R S

Q2 75 B

(mm) (mm)

(MP

a)

(MP

a)

A

B

C

D

P

Q

R

S

a) 75% b) (mm) (mm)

(MP

a)

(MP

a)

A

B

C

D

P

Q

R

S

a) 75% b)

40

Vol.63 No.1, 35-42, 2007. 1土木学会論文集A

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7. デッキ貫通き裂とパラメータ

前述のとおり,対象としているデッキプレートとト

ラフリブの溶接部に生じるルートき裂は大変危険かつ

発見が困難である.抑制方法としてデッキプレートの

増厚を行った結果,多少の鋼重の増加を招いてでも,

その抑制に努める必要がある.

対象き裂の最も発生しやすい交差部における,デッ

キプレート板厚とトラフリブ幅をパラメータとして算

出したルート部エフェクティブノッチストレスを図-13

に示す.

デッキプレート板厚をあげればあげるほど,対象き

裂の発生を抑制することが出来る.また,トラフリブ

間隔についても,間隔を狭くするほど対象き裂の発生

を抑制することが出来ることがわかる.

しかしながら,デッキプレートの増厚は鋼重増加を

意味し,価格の上昇を招くこととなる.また,トラフ

リブはバルブプレートに比べて,溶接線を半分にする

ことで作業性の向上を狙っているにも関わらず,その

間隔を狭くすることでトラフリブ本数が増し,作業性

を悪化させる.

そこで,それぞれのパラメータについて,120m×20mの鋼床版を想定し,価格を算出したのが図-14 である.

価格は,デッキプレート・トラフリブ・横リブの重量,お

よびデッキプレートとトラフリブの溶接延長から算出

した.算出根拠は鋼 78,500円/tonと溶接 13,000円/mであ

る.価格はデッキプレート厚の増加に伴い上昇し,ト

ラフリブ幅の拡幅に伴い減少することが分かる.

従来のデッキプレート厚 12mm トラフリブ幅

310mm(12/310 型)に比べて,価格の上昇を 5%に抑えるこ

とを目標とする.デッキプレートの 5%の価格上昇は,

橋梁の全体工費から考えると,ほぼ同価格と考えられ

る.デッキプレート厚 16mmトラフリブ幅 400mm(16/400型)が条件を満たしている.図-13 に戻って,16/400 型に

着目する.従来形式である 12/300型すみ肉溶接の場合,

エフェクティブノッチストレスは 1311MPa である.一

方,16/400 型 75%溶け込みの場合,エフェクティブノッ

チストレスは 963MPa であり,27%の応力低減が図れる

ことがわかる.

これより,従来と変わらないコストで,疲労耐久性

を向上させるには,デッキプレート厚 16mmトラフリブ

幅 400mmがよい.

8. 結論

本論文から得られた結論を以下に示す.

・トラフ幅 400mm,デッキ厚 16mm,75%溶け込みを

有する鋼床版構造は,従来と同程度の価格でデッ

キ貫通型き裂を発生する応力を 27%減少すること

が可能である.

・デッキとトラフの溶接量が 75%ある場合は,溶け

込みが悪い場合に比べて,疲労耐久性が高い.溶

け込みが悪い場合は,デッキ貫通型き裂が発生し

やすいのみでなく,ノド貫通のき裂を生じさせる

可能性がある.

・デッキプレート増厚の効果は,載荷パターンに応

じて異なる.トラフリブが変形する載荷パターン

では,デッキの角折れに比べて効果が比較的小さ

い.

・一般部と比べて交差部の方が,デッキ貫通き裂を

生じやすい.また,交差部のクリティカルな荷重

パターンは,100kNのダブルタイヤが載荷される場

合ではなく,50kN のシングルタイヤがトラフリブ

内側に載荷した場合である.

参考文献

1)土木学会鋼構造シリーズ4:鋼床版の疲労,1990.

2)三木千壽,菅沼久忠,冨澤雅幸,町田文孝:鋼床版箱桁

橋のデッキプレート近傍に発生した疲労損傷の原因,土

木学会論文集,No.780/I-70,pp.57-69,2005.1.

3)Mehue, P.:Cracks in Steel Orthotropic Decks, Proceedings of the

International Conference of Bridge Management, University of Surrey,

Elsevier Publications ISBN 1-85166-456-4, pp.633-642, March, 1990.

図-13 パラメータとエフェクティブノッチストレス

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

12 14 16 18

ルー

ト部

エフ

ェク

ティ

ブノ

ッチ

スト

レス

(MPa

)

デッキプレート厚 (mm)

トラフリブ幅

310

360400

450 すみ肉溶接 (その他のプロットは75%溶け込み)

トラフ幅310mm,デッキ厚12mm

図-14 パラメータとデッキプレート価格

\30,000,000

\35,000,000

\40,000,000

\45,000,000

\50,000,000

\55,000,000

12 14 16 18

トラ

フを

含む

デッ

キプ

レー

ト周

り価

310

400450

360

トラフリブ幅

デッキプレート厚(mm)

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Vol.63 No.1, 35-42, 2007. 1土木学会論文集A

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FATIGUE STRENGTH EVALUATION WITH EFFECTIVE NOTCH STRESS OF THE WELD BETWEEN TROUGH RIB AND DECK PLATE ON ORTHOTROPIC

STEEL DECK

Hisatada SUGANUMA and Chitoshi MIKI

Many cases of fatigue damage on orthotropic steel deck structures were reported. This paper addressed a control of the fatigue crack occurrence on the deck plate and trough rib. The crack is the most serious one, because it causes depression of road surface and functional depression of an orthotropic steel deck. The investigation was performed by 3-dimensional fine meshed FEM and Effective Notch Method. This paper is also interesting from the view point of the practice of effective notch stress method. As a result of parametric analysis; parameters are trough width, deck plate thickness and welding condition, we propose the suitable geometry of deck plate and trough ribs.

4)Gurney, T.: Fatigue of steel Bridge Decks, TRL State of the Art Review/8,

HMSO Publications, 1992. 5) De Jong, F.B.P., : Overview fatigue phenomenon in orthotropic bridge

decks in the Netherlands, 2004 Orthotropic Bridge Conference,

Sacramento, California, USA - August 25-27, 2004. 6)三木千寿,舘石和雄,奥川淳志,藤井祐司:鋼床版横リ

ブ・縦リブ交差部の局部応力と疲労強度,土木学会論文

集,No.519/I-32A,pp.127-137,1995.7.

7)森猛:片面すみ肉溶接継手の疲労強度に対する溶接溶け込

み深さの影響,鋼構造論文集,Vol.10, No.40, pp.9-15, 2003.12.

8)Niemi, E., Fricke, W. and Maddox, S. : Structural Hot-Spot Stress

Approach to Fatigue Analysis of Welded Components –Designer’s

Guide, IIW-Doc. XIII-1819-00/XV-1090-01, International Institute of

Welding, 2004.

9)Dong, P. : A Structural stress definition and numerical implementation

for fatigue analysis of welded joints, Int. Journal of Fatigue, Vol.23, pp.

865-876, 2001.

10) Poutiainen, I., Tanskanen, P., Martinsson, J., Byggnevi, M. :

Determination of the structural hot spot stress using finite element

method, IIW-1991-03, International Institute of Welding, 2003.

11)Radaj, D. and Sonsino, C.M.: Fatigue assessment of welded joints by

local approaches, Abington Publ., Cambridge, 1998.

12)Hobbacher, A. : Recommendations for fatigue design of welded joints

and components, IIW document XIII-1965-03/XV-1127-03,

International Institute of Welding, 2003. 13)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 I共通編 II鋼橋編,

2002.3. 14)日本道路協会:鋼道路橋の疲労設計指針,2002.3.

(2005. 7. 1 受付)

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Vol.63 No.1, 35-42, 2007. 1土木学会論文集A