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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title唾液蛋白シスタチンの遺伝的多型および組織発現に関す
る研究
Author(s) 新谷, 益朗
Journal 歯科学報, 92(6): 941-958
URL http://hdl.handle.net/10130/2098
Right
941
唾液蛋白シスタチンの遺伝的多塾
および組織発現に関する研究*
新 谷 益 朗
東京歯科大学法歯学講座
(指導:鈴木 和男教授)
(1992年3月4日受理)
Genetic Polymorphism of Salivary Cystatins and
Tissue Expression of Salivary-type Cystatms
Masuro Sffl NTANI
Department of Forensic Odontology
Tokyo Dental College
(Director : Prof. Kazuo Suzuki)
原 著
緒 言'
近年の遺伝子工学に関する技術の進歩は,多くの蛋自
賛を合成する遺伝子群の解析を可能にし,その結果,楽
似した塩基配列が様々な動物,植物に広く存在している
ことが明らかになってきた。ヒトの血液,体液を用いて
検出されてきた遺伝的多型を支配する遺伝子群にも,構
造や機能の薮似した遺伝子が並列してクラスターをな
し,そのなかに機能しなくなった偽遺伝子群を含む,いわ
ゆる遺伝子ファミリーを構成する例が多数見つかってき
ている.唾液蛋白のamylase, proline-rich protein,
cystatin, histatinなどを産生する遺伝子も,いずれも
遺伝子ファミリーを構成している1)2)。
Cystatinは様々な体液や組織中に兄いだされる小さ
な分子で papain, ficin, cathepsinなどのシステイン
プロテアーゼ活性を阻害する3)魂)。この蛋白が唾液中に
存在することは,古くから気付かれていたが,これらが
プロテアーゼインヒビターであることが知られたのは,
*本論文の要旨の一部は,第31回歯科基礎医学会総会(平成1年9月1日,徳島),第32回歯科基礎医学会総会(平成2年10月20日,千葉),第330歯科基礎医学会総会(平成3年10月8日,鹿児島)において発表した。
近年のことである。 Juriaanse and Booji は顎舌下
腺唾液から3つの酸性蛋白と1つの中性蛋白を分離し
た Shomersetal.{ は顎舌下腺唾液より3種楽の
蛋白を分離し, cysteine-containing phosphoprotein
と命名したところ,これは古くから知られるいわゆる
"double-component" と同一のものであることが
わかった.その後Isemura et al.i5)は全唾液より酸性
の蛋白質SAP-1を分離し,一次構造を解明したが,こ
れは7-traceと54%のホモロジーを有しており, Juria-
anse and Booji7)8), Shomersetal.9'の単離した蛋
白と互いに戴似した蛋白群に属することが示された。
唾液にシステインプロテアーゼインヒビターが存在す
ることは MinakataandAsanol により明らかにさ
れたが, SAP-1もシステインプロテアーゼ阻害活性を
有することから cystatin Sと改名された17)。つづい
てIsemuraetal.1 は全唾夜よりcystatinSNおよ
びcystatin SAを単離し,その-次構造を決定した0
1985年, 「システインプロテアーゼとそのインヒビ
ターに関する国際会議」において, chicken cystatm
に顛似した蛋白の命名と分蔑法が決定され,これらは
シスタチンスーパーファミリーとしてまとめられた20)。
27
942 新谷:唾液シスタチンの遺伝的多型および組織発現
シスタチンスーパーファミリーはその構造の特徴から
Family I (stefin family), Family II (cystatin
family), Family III (kininogen family)の3つの
subfamilyに分けられ,唾夜cystatmはFamily IIに
分歎された21)
Saitoh et al/はcystatmに関連する3種の遺伝子
(CSTl, CST2, CSTPl)をクローニングしたところ,
CSTlはcystatinSNを, CST2はcystatinSAをコー
ドし, CSTP月まpseud0-geneであることを兄い出し
た。さらにSaitohetal.2 はcystatinCをコードする
CST3が同じ遺伝子ファミリーのメンバーであることを
示した。これらの遺伝子群はいずれも20番染色体上に位
置している23)24)。
つづいてSaitoh et aL25>はcystatm遺伝子ファミ
リーのメンバーとしてCST2B, CST4, CST5を分離
し, CST2BはCST2のalleleで, CST4はcystatin S
をコードし, CST5は2つめのpseud0-geneであるこ
とを示した。このようにfamily ]] cystatinはこれま
でに6つのメンバーが分離されているが,おそらく鼻終
的には7つのメンバーからなるであろうと推測されてい
る22)26)27)。最近cystatin Dと呼ばれる新しいfamily II
のメンバーがクローニングされ,そのアミノ酸配列は
cystatin S, SN, SA, Cと51-54%の楽似性を持っと報
吾されている28)
唾波豆はこれまでにcystatinS, SN, SAおよびCが
存在することが知られているが, S型のcystatmは
戻,尿,精液にも兄いだされている4)29)30)これに対
し cystatin Cは精液,脳脊髄液,腎禾全患者の血
清,初乳,関節液,廃液,羊水等種々の体液から検出さ
れ, cystatin CのC]⊃NAを用いたnorthern blotに
よれば,肝,管,塵,腺,外耳遺,冒,気管支,肺にも
発現されており,ほとんどすべての組織に発現すること
が報吾されている27)。またcystatinl)はnorthern blot
の結果では耳下腺に特異的に発寛しているという28)
このようにcystatmは唾液蛋白の主要構成成分のひ
とつであり, 4-5種の遺伝子産物が唾液中に存在して
いるにもかかわらず,個人的な違いを検索した報吾は見
当たらない。そこで著者は鼻もcystatinの発現室の多
い顎舌下腺唾液を試料とし, cystatin Sに対する抗体
を用いた免疫学的検出法により,多検体の試料から個人
的な変異を検索したところ, 2種の新しい遺伝的多型を
見い出した。そこでこれらの多型の遺伝生化学的調査を
おこなうとともに,数種の体液中のcystatinの発現に
ついて検討したので,ここにその詳細を報告する。
実験材料および方法
1.試料の採敬
顎舌下腺唾液:多検体の顎舌下腺唾液の採取は新たに
開発した顎舌下腺唾液採取装置を用いた(図1 ).
従来の採取装置は各個人の口腔内を印象し,個別に作
製するもの31)32)や,ガラス33)テフロン34)などで作製さ
れたものがあるが,個別に作製するものは多人数からの
採取に適していない。またガラス,テフロンなども軟組
織の-部が強く圧迫されることがあるため,非常に使用
感が悪い欠点があった。そこで圧迫による痛みのない材
質を選び,発泡ポリエチレンで本体を作製した。本体の
吸着部は唾液腺の開口部が吸引によって閉鎖されること
のないように, 3ヶ所に小孔のあるポリプロピレン製の
ディスクを本体内部に組み込んだ。誘導された唾液は,
本体底面の中央から塩化ビニル製のチューブを介して途
中のトラップに貯えられるO本装置はどのような形態に
も適合させ得ることから, Universal Cup(U-Cup)と
名付けた。
唾液採取はあらかじめ被検者に洗口させ,ただちに歯
科用ロール綿にて両側の耳下腺乳頭部からの耳下腺唾液
の分泌をブロックし,さらに舌下部に残った唾液を歯科
用脱脂綿で拭掃し, U-Cupを装着した。続いて2%ア
スコルビン酸溶液をピペットを用いて被験者の舌背およ
び舌縁部に数滴ずつ滴下し,刺激唾液を採取した。な
お,試料は血縁関係のない日本人および親子から待たも
のである。
耳下腺唾液:耳下腺唾夜の採取はCurby Cupを用い
たo唾波の採取にはスライスレモンまたはレモンキャン
ディーを用いて刺激唾液を採取した。
濠液:戻液はガラス製マイクロキャビラリーチューブを
用いて結膜嚢内に貯溜した廃液を採取した。 1回の濠液
図1顎舌下腺唾液採取装置(U-Cup)
28
歯科学報 Vol.
採取室は20idとし,慮回採取によってプールしたもの
を検査の必要に応じて凍結乾燥して用いた。
脳脊髄液:脳脊髄液は東京歯科大学市川総合病院内科の
入院・外来患者から,臨床検査の冒的で穿刺吸引採取し
た脳脊髄液の残りの一部の供与をうけたo
精楽:精巣は健康な成人男子から採取した新鮮精液を
5000r.p.m.15分間遠心した上活を用いた。
尿:尿は健康な成人男子から採取したもの,および腎疾
患患者から採取した新鮮尿または蓄尿を用いた。
2.寒気泳動法
1)塩基性ポリアクリルミドゲル電気泳動法
酸性域の蛋白の検出は, Tris硫酸-Tris珊酸緩
衝液系の塩基性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法35)
(以下,塩素性PAGEと略),またはLaemmli36'の
SDS-PAGEからSDSを抜いたTris塩酸-Tris glyc-
ine緩衝液系の塩基性PAGEによりおこなった37)
(1) Tris硫酸-Tris珊酸緩衝夜系PAGE
ゲルプレートは13.5×12.5×0.1cmのものを使
用した。分離ゲル(ゲル濃度12.5%)の作製は, 20.8%
acrylamide溶液(98%acrylamide, 2 %N, N'-methy-
lene-bisacrylamide) : 10. 8mZ, 1. 25M Tris硫酸緩衝液
(pH9. 0):7. 2ml, 10%ammoniumpersulfate : 200fiI
を混合し, N, N, N', N'-tetramethyl-ethylenediamin
(TEMED) :20//Zを加えてゲル化させた。分離ゲルの長
さは10cmになるように作製した。濃縮ゲル(ゲル濃度
5 %)は, 20.8%acrylamide溶液: 3ml, 1.25M Tris
硫酸緩衝液(pH9.0): 4ml,蒸留水:3ml, 10%
ammonium persulfate : 100jteZ, TEMED -.10filを混
合し.ゲルの長さが1.5cmになるように作製した.泳動
槽用緩衝液は0. 13M Tris瑚酸緩衝液(pH9. 0)を用い
m
サンプルは凍結乾燥後, 1. 25M Tris硫酸緩衝液(pH
9.0):4ml, glycerol : 5ml,蒸留水: 1ml, bromo-
phenol blue : 5mgの泳動用サンプル溶液で2-10倍
濃縮になるように適宜溶解したo泳動は定電圧300Vで
bromophenol blueマ-カーがゲル下席に達するまで
泳動した。
(2) Tris塩顧-Tris glycine緩衝液系PAGE
ゲルプレートは13.5×12.5×0.lcmのものを使用し
たo分離ゲル(ゲル濃度10%)の作製は, 45.6% acryl-
amide溶液(97. 4%acrylamide, 2. 6%N,N'-methyl-
ene-bisacrylamide) : 1. 6mZ, 1. 5M Tris塩酸緩衝液
(pH8.8):5.0mZ,蒸留水:10.Oml, 10%ammonium
persulfate : 200illを混合し, TEMEI) : 20filを加え
I, No. 6 (1992) 943
てゲル化させた。分離ゲルの長さは10cmになるように
作製した。濃縮ゲル(ゲル濃度5%)は, 45.6%acryl-
amide溶液:1. 17mZ, 0.5M Tris塩酸緩衝液(pH6.8):
2. 5mZ,蒸留水:6. 17ml, 10%ammonium persulfate :
100vl, TEMED : 10illを混合し,ゲルの長さが1.5cm
になるように作製した。泳動槽用緩衝液は0.05M Tris
glycine緩衝夜(pH8. 3)を用いた。
サンプルは凍結乾燥後1 %glycine, 15%sucrose,
0. 05%bromophenol blueの泳動用サンプル溶液で2
-10悟濃縮になるように適宜溶解した。泳動は定電圧
100Vで開始し,マーカーが分離ゲル内に浸入してから
は定電圧300Vに調整し, bromophenol blueマーカー
がゲル下端に達するまで泳動した0
2)等電点電気泳動法
等電点電気泳動法(以下IEFと略す)は pH3.5-
5. 2のゲルはAzen and Denniston の方法により作製
L pH6 のゲルはLKB社のプロトコルにした
がって作製した。泳動は予備通電を60分間おこなった
後,サンプル約40illを0.5×1.0cmの慮紙2枚に含ませ
てゲルにのせたのち,定電力15Wで4℃冷却下において
約5時間泳動した。
3)二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法
二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法は,一次元
E]の泳動をIEF (pH3.5-5.2),二次元目の泳動を
Tris塩酸-Tris glycine緩衝液系による塩基性PAGE
(分離ゲル濃度10%)によりおこなった。
-次元目のゲルは前記の等電点ゲルと同じ組成のゲル
溶夜を内径0. 5cm,長さ12cmのガラス管に達人して長
さ10cmのロッドゲルを作成した。これをディスク電気
泳動法により,定電圧500Vの条件下で予備通電60分後
に試料溶液を添加し,その後6時間以上4℃冷却下で泳
動したo電極液は陽極側に1 M phosphoric acid,陰
極側に0.1M sodium hydroxideを使用し,試料は凍
結乾燥した顎舌下腺唾液を, 5 %sucroseおよび0. 01%
bromophenol blueの溶液に5倍濃縮になるように溶
解して用いた。
一次元目の泳動終了後,ゲルをガラス管から抜き取
り,両端を1cmずつ切断除去し,さらに残った長さ約
8cmのゲルを長軸方向にそって2等分し,分割された
一方のゲル片を,あらかじめ分離ゲルを作成しておいた
二次元目の塩基性ポリアクリルアミドゲルの平板の上席
にのせ,濃縮ゲルを注入しながら,濃縮ゲルの深さが
1. 5cmになるように一次元目のゲル片ごと重合ゲル化さ
せた。
29
944 新谷:唾夜シスタチンの遺伝的多型および組織発現
二次元Ejの泳動は前記のTris塩酸-Tris glycine緩
衝液系の塩素性PAGEと同じ条件でおこなった0
4)酸性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法
塩基性域の蛋白の検出はTris乳酸緩衝液系の泳動に
よりおこない,濃縮ゲルのみにTris塩酸緩衝液系を用
いた39)。ゲルプレートは13.5×12.5×0. lcmのものを使
用した。分離ゲル(ゲル濃度15%)は60%acrylamide溶
液(98 % acrylamide, 2 % N,N'-methylene-bisacryl-
amide) :5. Oml, 0. 06M Tris乳酸緩衝液(pH2. 4):10.
ml, 6M尿素暮夜: 10.OmZ, ascorbic acid : 0.02g,
ferrous sulfate : 0.0002gを混合し冷却した後, 15%
hydrogen peroxide lOβを加えてゲル化させた。分離
ゲルの長さは11.5cmになるように作製した。濃縮ゲル
(ゲル濃度10%)は60%acrylamide溶液(95%acryl-
amide, 5 % N,N'-methylene-bisacrylamide):1. 0
ml, 1. 14M Tris塩酸緩衝夜(pH7.2):3. 0mZ,蒸留水:
2. Oml, 10%ammonium persulfate : 60fd; TEMED
5plを混合し,濃縮ゲルの長さが0.5cmになるように作
製した。泳動槽用緩衝液は0. 03M Tris乳酸緩衝液(pH
2.4)を用いた。
サンプルは凍結乾燥後, 0. 03M Tris乳酸緩衝液(pH
2. 4), 15%sucrose, 0. 05%basic fuchsinの泳動用サン
プル溶液で0. 5-10悟濃度になるように適宜溶解した.
泳動は定電流50mAで泳動をおこない, fuchsinマー
カーの先端がゲル下席を通過してから,およそ15分で泳
動を停止した。
5)蛋白の検出
電気泳動後の蛋白の検出は,直接ゲルを染色するか,
またはウェスタンプロット法による免疫学的検出法を用
団wm
(1)ゲルの蛋白染色
ゲルからの蛋白の検出は,等電点ゲルの場合には20%
trichloroacetic acidにゲルを浸し,白い蛋白バンドを
窯の背景下で透過光で観察した。その他のゲルは0. 1%
coomassie brilliant blue R-250寺容液と40%trichloro
acetic acidを等量ずつ混合した染色液で3時間染色
し, 2%acetic acid溶液で12時間脱色した。
(2)ウェスタンプロット法
Cystatinの検出はウェスタンプロット法によりおこ
なった。一次抗体は抗cystatin S抗体(以下抗S抗体と
略す)および抗cystatin C抗体(以下抗C抗体と略す)を
用い,これらの抗体は日本歯科大学新潟歯学部口腔生化
学教室の伊勢村知子博士より供与をうけた。
ポリアクリルアミドゲル電気泳動後,蛋白バンドは
Transblot Cell(Bio-Rad社製)を用いてpolyvinyl-
idene d主fluoride膜(Immobilon PVDF, Millipore
社製 pore sizeO.45fim)(以下PVDF麓と略す)に
転写したo転写バッファーは0. 1%acetic acidを用い,
陰極から陰極方向に,電極間距離1cmあたり7Vの定
電圧で4℃冷却下で2時間転写した。転写後ブロッティ
ング操作は以下のようにおこなった.
1.転写した膜を0.01M Tris塩酸緩衝液, 0.05M
EI)TA-4Na, 0.9%NaClを含んだpH7.4のTris-
EDTA-NaCl緩衝液で15秒間洗浄するo以下の洗浄操
作にはすべてこの緩衝液を使用する。
2. Tris-EDTA-NaCl緩衝液にgelatin 2. 5%, tween
80を0. 05%になるように溶解した溶夜中に浸漬し, 37℃
で3時間インキュベートする。
3. Tris-EDTA-NaCl緩衝液で5分間洗浄
4. 0. 25%gelatinを含むTris-EDTA-NaCl緩衝液に
ウサギ免疫cystatin S抗体を1 /200希釈になるように
添加し37℃で3時間インキュベートする。
5. Tris-EDTA-NaCl緩衝液で10分間3回洗浄
6. 0. 25%gelatinを含むTris-EDTA-NaCl緩衝液に
ヤギ免疫抗ウサギIgG peroxidase標識抗体を1 /3000
希釈になるように添加し室温で1時間インキュベ-トす
る。
7. Tris-EDTA-NaCl緩衝液で10分間3回洗浄
8. 0. 04% 4 -Methoxy- 1 -naphtol(Aldrich社製)を
5mlのmethanolに溶解し, 0.9%NaClを舎む0.5M
Tris塩酸緩衝液(pH7.5):50mZを加え, 40illの31%
hydrogen peroxideを溶液に混合し, PVDF麓を浸達
する。
9.蛋白バンドを充分に発色させた後,蒸留水で5分×
2回洗浄し, PVDF膜を慮紙上にのせて,風乾する0
6)アミノ酸配列の決定
蛋白のアミノ酸配列の決定は,アクリルアミドゲル
により分離した蛋白をPVDF月莫に転写したものを,
Applied Bio Systems社製プロテインシークエンサー
477AおよびPTHアナライザー120A型によって, N末
端のアミノ酸配列構造を解析した。
寛舌下腺唾液1mlを凍結乾燥し, 10倍濃縮したもの
を1枚の酸性ポリアクリルアミドゲルの試料溝に10等分
して達人し泳動分離した後,同一サイズのPVDF膜2
枚をゲルの両面に重ね, Transblot Cellで両方向に対
し交互に電流を切り換え転写したo 転写バッファーは
0. 1% acetic acidを用い, 4-C冷去目下で電極間距離1 cm
あたり7Vの定電圧でおこなった。転写開始より5分間
30
歯科学報 Vol.
ずつ交互に6回(一方向あたり3回)転写した後,片面の
PVDF麓を除去し,その後残ったPVDF膜に対して
2時間転写した。先にとり除いた漠は抗S抗体を用いて
ウェスタンプロット法によりcystatinのバンドを検出
した。残りの膜は転写終了後,蒸留水で洗浄,風乾し,
つづいてウェスタンプロナト法によってすでに蛋白のバ
ンドを検出した膜にかさねあわせて目的のバンドを切り
だし,アミノ酸配列の分析に供した。
7)アルカリフオスファクーゼ処理
顎舌下腺唾液試料1 mlに対しbacterial alkaline
phosphatase (Worthington社) : 20 ^(310. 4 U /mZ),
0. 125M annmonium formate緩衝液(pH8. 0): 2 ml
を加え, 37℃で12時間処理した。処理の停止は100℃で
5分間加熱して酵素活性を不活化した.
8)全唾液の沈連による顎舌下腺唾液の処曹
パラフイルムを噛ませて刺激全唾夜を5mJ採取し,
9000× gで10分間遠心した.沈連を50mM NaClを含む
IOmMのリン酸緩衝液(pH7.に懸淘し,再び9000× 9
で10分間遠心後,得られた沈漆を10倍濃縮になるように
同じ緩衝液に再懸薗した 0.5mlの顎舌下腺唾液と濃
縮した沈漆の溶夜0.05mlを混合し, 37-Cで30分, 1時
間, 6時間インキュベート後,再度遠心して待られた上
溝を凍結乾燥後ウエスタンプロット法により検出した。
9)等電点ゲルからの蛋白の溶出
脱塩後10倍濃縮した顎舌下腺唾夜1. lmZを等電点ゲ
ル(pH6-8. 5)に11等分してのせ泳動した。泳動条件は
LKB社のプロトコルによった。泳動終了後,ゲルの片
側1 cmを切りとり, 20%trichloroacetic acid溶波に
浸漬しバンドを検出した。 pI6.8のバンドの泳動位置に
は蛋白バンドが認められるため,これをガイドとし,残
りのゲルからpI6.8の分画を切り出したo さらに10ml
の0. 5M Tris塩酸緩衝液(pH7. 5)を加えて透析チュー
ブ内に入れ,同じ緩衝液に対して30分間透析しながら蛋
白を溶出した後,蒸留水に換えて15分間× 2回透析をお
こない,溶出した溶液を凍結乾燥した。
I, No. 6 (1992) 945
特に強い反応を示すバンドが認められた。この泳動像は
Tris塩酸-Tris glycine系の塩素性PAGEを用いても
ほぼ楽似した泳動像が得られた。 Isemuraet al.A は数
似した系のcystatmの泳動像を示し,原点に近いバンド
はcystatin SNに相当し,陰極の先端部分にはN末席か
ら1番目と3番E]のserineがリン酸化されたcystatm S
(以下di-P-Sと略す), N末端から3番目のserineのみ
がリン酸化されたcystatin S (以下mono-P-Sと暗
す)およびcystatinSA と,リン酸化されていない
cystatin S (以下non-P-Sと略す)に由来する3本のバ
ンドが認められると報吾している。本研究で用いた泳動
法によると,陰極先端部分には通常抗S抗体に強く反応
する4本または5本のバンドが認められた。これらを仮
に陽極側よりa,b, c,d,eで示すと,精製されたdi-
p-Sおよびmono-P-S(日本歯科大学,伊勢村知子博士
より供与を受けたもの40)¥はそれぞれa, bに相当した。
a, bは検査したすべての個体に認められた。 Cは多検
体の調査でバンドを持つものと持たないものがしばしば
諸められ, dは大部分の検体はバンドを持つが,持たな
-いものもわずかに認められた。またeは, a,bと同様
にすべての検体に存在した。 a-eのバンドは試料の室
を増やすと,蛋白染色によっても識別可能であった。
酸性cystatinの等電点は4. 6付近であることが報吾さ
れているため¥ pH域3.5-5.2のIEFを用いて,多型
の検出を試みたo図3は6人の顎舌下腺唾液のIEF後
のtrichloroacetic acid固定および抗S抗体に対するイ
実 験 結 果
1.酸性域に認められたcystatinの多型
1)多型性cystatmの検出
図2は5人の顎舌下腺唾液のTris硫酸-Tris瑚酸緩
衝液系の塩基性PAGE後のcoomassie brilliant blue
R-250による蛋白染色および抗S抗体によるイミュノブ
ロット像を示したものである。抗S抗体に対する反応
は,原点に近い部分と酸性PRPの陰極側の2ヵ所に,
-妄il-
図2 酸性シスタチンの検出。 12.5%Tris硫酸ITris珊酸緩衝液系塩基性PAGE。顎舌下腺試
料はゲル染色には各40両,イミュノブロッティングには各10fiIを使用した。
Ianel :SAl,2 lane2 :SAllane3 :SAl,2 lane4 :SAl
lane5 :SA2
946 新谷:唾夜シスタチンの遺伝的多型および組織発現
ミュノブロット像を示している。 Trichloroacetic acid
固定をした泳動像ではpI4. 4-4. 7の範囲には酸性PRP
のみが認められ, cystatinのバンドを確認することは
できなかったが,抗S抗体に対する反応ではpI4. 4-4. 7
の間に塩基性ゲルと同様に4本または5本のバンドが認
められた。
これらの二種の電気泳動法により検出されたcystatm
のバンドの相互関係を知るため, 4本のバンドを持つ検
体および5本のバンドを持っ検体について二次元電気泳
動により分離した後,抗S抗体によるイミュノブロット
法をおこなった。なお二次元電気泳動法は一次元目に
IEF,二次元目に塩素性PAGEで展開した。図4に示
したように4本のバンド(a,b,d, e)を持っ検体では
5つのスポットが,また5本のバンド(a,b,c,d,e)
を持つ検体では6つのスポットが認められた。つまり
a,b,c,dの4つばいずれも1つのスポットに該当す
るが, eのバンドはeとe'で示した2つの蛋白の混合
物であることがわかった。さらにeつまIEFではbと重
なっていることになる。また多型を示すCのバンドは塩
素性PAGEではb(mono-P-S)より原点に近く,塩基
性側に泳動されているが,等竃点はbより酸性のpIを持
つことになる。
2)多型性cystatmの性婁
二次元電気泳動法によりa,b,c,d,e,e'の6つの
cystatmが分離されたが,これらの蛋白の性薯を知る
手がかりを待るため, alkaline phosphatase(以下ALP
1 2 3 4 5 6
図3 6人の顎舌下腺唾夜の等電点電気泳動像(a)等電点電気泳動(pH3.5-5.2)後, 20%trichloroacetic acidで固定したもの。サンプ
ル室は40///。自蔵して検出されるバンドは酸性PRPおよびstatherinのバンドであり,
cystatinのバンドを同定することは不可能である。 (b)抗S抗体によるイミュノブロット像.
pl4. 4-4. 7の領域に抗S抗体反応性のバンドが4本ないし5本認められる。 lane 1, lane 4
およびIane 6のサンプルは矢印の位置に∴抗S抗体に強く反応する過剰なバンドを持っ。
IEF
(b〉
図4 顎舌下腺唾液の二次元電気泳動像(一次元冒:等電点電気泳動法pH3. 5-5. 2,二次元日: 10%Tris塩酸I
Tris glycine緩衝液系塩基性PAGE)サンプル量は各20fil。 aは4本の濃いバンドを持つサンプル, bは5
本の濃いバンドを持つサンプルの泳動像o泳動像はcystatm関連のスポット部分だけを表示している.また比較のため,同じ試料の等電点電気泳動および塩基性PAGE像を並べて示した。
32
歯科学報 Vol. 92, No. 6 (1992)
丁寺 田9Vd翌朝頭
Control sample
b)図5 号貢舌下腺唾液のAlkaline phosphatase処理後の二次元電
気泳動像. (一次元日:等電点電気泳動法pH3. 5-5. 2,二次元日: 10%Tris塩酸-Trisグリシン緩衝液系塩基性PAGE)サンプル量は各20/」lでcoomassie brilliant blue R250により染
色したもの。 Aはa,b,c,d,eを持つサンプル, Bはa,b,
C, eを持つサンプル。 Cystatin関連のスポット部分だけを表示した。
5 0
Cystatin SN
Cystatin SA
band c
Cystatin S
I
I
I
I
S3-fc-Ss-S3
J - J- J
P- Q- Q
AI A-<-<
|Z Q-Q-Q
JM- >H- JH- >H
H - H - H - H
CD- CD- CD- CD
0- 0- 0- o
cu pq - w a.
H - H - H -
H - H - H - H
a¥ os
Q- Q- Q
w- w- E- 【Ⅱ
W - w - w- pq
a
a
-
o
l
K
&4 - 04 - CU W
CO - CO - CO- CO
c^ W
図6 CystatinS, SN, SAとband cのN端末側アミノ酸配列の比較。合致するアミノ酸残基をIで結び,判定不能のアミノ酸残基は?で示
した CystatinS, SA, SNのデータは, Saitoh et aL,22)Bobek et
al.4 のcystatinS, SA, SNそれぞれをコードする遺伝子から推測されるアミノ酸の配列を示した0
33
947
948 新谷:唾夜シスタチンの遺伝的多型および組織発現
と略)により顎舌下腺唾液を処理し,泳動像の変化を調
べたo 図5(a)は塩素性PAGEでa,b,d, eの4本の
バンドを持つ個体であるが, ALP処理をしたところ
a,bのスポットは消失し, eのスポットは濃度を増
し, dのスポットに変化はなかった。つまりd,eはリ
ン酸化されていないことがわかる。しかもeの濃度が増
したことは, eがnon-P-Sであり, aおよびbは脱リ
ン化により塩基性側のeの位置に泳動されたと考えられ
るoまたcystatinSAがリン酸化されていないこと,お
よびnon-P-Sがcystatin SAと移動度が戴似してい
ることが知られているため ¥ dはcystatinSAに相当
するものと考えられる。
同様にCのバンドを有する検体(a,b, c, eを持ちd
を欠く)につきALP処理をしたところ(図5(b)),やは
りa,bは消失し, eが濃度を増したが, Cのバンドに
変化はなかった。つまりCもリン酸化されておらず,
cystatin SAと同じ性質を示すことがわかった。
本研究の結果とIsemura et al.'の泳動像を比較す
ると,彼らの精製しているcystatin SAは本研究にお
けるdに相当すると考えて矛盾はない。そこで, Cに相
当する多型性cystatmのバンドを塩素性ゲルで分離
し, PVDF膜へ転写後, N末席から20残基目までのア
ミノ酸配列を解析した。図6はbandcについて待られ
たアミノ酸配列をcystatin S41¥ cystatin SNおよび
SA22)のN末撮20残基と比較をおこなったものである.
判定可能な18残蓋はいずれもcystatin SAの配列と完
全に合致しており, S,SNに相当しないことは明らか
である。以上の轟吉栗から, band cとbanddは互いに
cystatin SAのalleleの産物であることがわかった0
3) Cystatin S Aの遺伝学的検討
Band cおよびband dに相当する2種のcystatm
SAが存在することが明らかになったため, band dに
相当する従来のcystatinSAをSAl, band cに相当
する新しい変巽をSA2と命名し,遺伝学的検討をおこ
なった。
血縁関係のない341人から採取した寛舌下腺唾液につ
いて検査した結果は, 300人(88. 0%)がSAlのみを有し
(SAl型), 38人(ll.1%)がSAlとSA2(SAl,2型), 3
人(0. 9%)がSA2のみ(SA 2型)を有していた。
SA2の蛋白を有する家系を含めた16家系32人の子供か
ら採取した唾液試料について, SAlおよびSA2を検出
したところ,表1に示したようにSAlxSAlの組み合
せからはSA lのみが生まれ, SAlxSA 1.2の組み合せ
からはSAlとSAl.2塾が, SAIXSA2型の組み合せ
からはSAl.2型が, SAl,2×SA1,2,型の組み合せか
らはSA 1.2とSA2型が生まれていた。さらにcystatin
SAlおよびSA2は男女共に認められ,かつ男から男へ
も遺伝していることから,その遺伝子の座位は性染色体
表1 CystatinSAの遺伝
M ating typeN o.of
m atm gs
C hildren
SA 1 SA 1.2 SA 2
SA 1 ×1 5 13
12
2
SA 1 ×1,2 8 2
SA 1 ×2 1 2
SA 1,2×1,2 2 1
表2 Cystatin SAの出現塵度・遺伝子頻度
P h en o ty p es S A 1 S A l.2 S A 2 total
O b served n u m b er 300 38 3 341
E x p ected nu m b er 298.4 4工2 上4 341
x2-l.1041 d.f.- 1 0.3>p>0.2
Gene frequencycystatin SA*1-0. 935±0. 009
cystatin SA*2-Q. 065±0. 009
34一
歯科学報 Vol.
上にはなく,常染色体上に座位を持つ共優性遺伝形式を
とるものと判断された。
以上の結果から, cystatin SAの遺伝子頻度はcystatin
SA*1が0. 935±0. 009, cysta,tinSA*2が0. 065±0. 009と
いう値が得られた(表2)。
2.塩基性域に認められたcystatinの多型
1)塩素性域cystatmの多型の検出
図7は8人の顎舌下腺唾液の酸性尿素ポリアクリルア
ミドゲル電気泳動(以下酸性PAGEと略する)後のイ
ミュノブロット像を示している。いずれのサンプルもゲ
ルの全域にわたって抗S抗体に強く反応したが,陰極端
のバンドは個人的変異を示したo さらに図に示したよう
にゲル全域を4つに区分し,変異を示すバンドを含む領
域をA,最も強く反応する4本のバンドを含む領域を
B,原点側の幅広いバンドを含む領域をC,さらに原点
側の部分をDとして表すと '
950 新谷:唾液シスタチンの遺伝的多型および組織発現
を加え, 30分, 1時間, 6時間の間37℃でインキュベー
トし,バンドパターンの変化をみたo図9に示したよう
に, 1型のサンプルでは時間の経過とともに陰極側にマ
イナーバンドが出現し,それと平行してαのバンドが消
失していった。 2型のサンプルにおいても同様に,時間
の経過とともに陰極側にマイナーバンドが出場し, β,
γのバンドの反応性が弱くなっていった。しかし, 2型
のマイナーバンドはαの位置とは異なり,本研究で用い
た通常の顎舌下腺唾液の採取試料を用いた検査では変性
によるパターンの変化が型判定に影響を及ぼすことはな
いものと判断された。
2)塩基性多型性cystatma, β, γの性聾
塩素性域に泳動される唾液中のcystatmは,寛在
までに知られているものではcystatinC, SN,および
Dの3種幾が考えられるoそこでa, β, γの多型性
cystatmがいずれに相当するものか検討した。
図10は精製cystatin C(Dr. A. Grubbより供与を
うけた尿より精製したもの4)),および3検体の顎舌下
腺唾液を酸性PAGEによって泳動した後,同一ゲルか
ら両方向に2枚のPVDF膜に転写し,抗C抗体および
抗S抗体に対する反応をみたものであるo精製cystatin
Cは抗C抗体に対してはi, C, Dの領域にわたって反応
し,フルサイズのcystatinCの泳動位置を特定すること
ができなかったが, α, β, γに相当するバンドは含ん
でいなかった(図10(a), lane 1)。精製cystatin Cは抗
S抗体に対しても交差反応を示し(図10(b), lane 1),
a, β, 7,を含めた唾液の塩基性域のcystatinも,抗
C抗体に対して交差反応を示した(図10(a), lane 2, 3,
4)。つまりα, β, γはcystatinCではないが,抗C
抗体に対する免疫学的特異性を共有することが明らかに
なった。
図11は精製cystatin SN(日本歯科大学,伊勢村知子
博士より供与をうけたもので, N末席の8残蓋が欠落し
ている18)")とα, β, γを有する2検体の顎舌下腺唾液
の酸性PAGE後の抗S抗体に対するイミュノブロット
像を示している.精製SN(図11, lane3)はゲル全域に
わたって反応したが,最も反応の強い部分はB領域で
あった。またA領域ではβ付近とαの陰極側にバンドが
認められた。つまりα, β, γがSNに含まれているか
否かは明らかにできなかった。
Isemuraet al.はフルサイズのcystatinSNの等
電点を6.8であると報告しているo そこで顎舌下腺唾夜
蛋白を等電点電気泳動法(pH 6 -8. 5)で分離し, pI6. 8
の分画から蛋白を溶出し,酸性PAGEで泳動したとこ
36
(a) (b)
anti-cystatin C anti-cystatin S
図10 抗C抗体,抗S抗体を用いた唾液からの
cystatmバンドの検出015%Tris乳酸緩衝液系酸性PAGE。一枚のゲルから両面に転写し抗C抗体,抗S抗体を
用いたイミュノブロット像。
lane 1 :精製cystatin CIO//g,舌下腺唾液(aのみの1型nOfii,
2
ena1
つ乱ena
1
舌下腺唾液(a, β, γの1,2型noiii,項舌下腺唾液(β, γのみの2型notii
顎顎
4
eaa1
図11精製cystatin SNの泳動像Iane l 顎舌下腺唾液(β, γのみの2型)10〃I
lane 2 :顎舌下腺唾夜(aのみの1型)10fil
lane 3 :精製cystatin SNIO(jlI
歯科学報 Vol. 92, No. 6 (1992)
ろ,図12(a)に示したようにpI6.8の分画にαのバンドが
含まれていた。しかし同時に1, C D領域にもブロー
ドなバンドが認められ,このうちB領域のバンドは写桑
からは識別しがたいが,精製cystatinSNのメインバ
ンドの泳動位置に一致していた。この結果からはpI6.8
分画に数種のcystatinが存在するか,非常に変性しや
すいcystatinが存在するかのいずれかが考えられるo
そこでpI6. 8分画より溶出した蛋白を再び同じ等電点ゲ
ルで泳動したところ, pI6.8の位置に加えて酸性側に
cystatinの変性により生じたと思われる3本のバンド
が認められた(図12(b))。つまりpI6. 8のcystatinは非常
に変性しやすい性寛を有することがわかった。
以上を総合すると, a, β, γの多型性cystatinは
pI6.8のcystatmであるが,抗Cより抗S抗体によく反
応するところから, S型の構造を有すると考えられるo
しかし精製SNにa, β, γのバンドが含まれていな
かったことから cystatinDがa, β, γがSNに由
来するか否かは確定的でない。またcystatin Dは顎舌
下腺唾液中の存在が証明されていないため, α, β, γ
に相当するか否かは不明である。そこで本研究において
はa, β, 7,が塩基性のcystatinであり, S型の特徴
を有することから,仮にcystatinSBと名付けたo
origin
(a) (b)
匪性PAG E 等要点寒気泳勤
図12 等電点電気泳動ゲルのpI6.8の分画の泳動像o aバンドを有する唾液を等電点電気泳動後
pI6.8の分画から蛋白を溶出し泳動したもの。aは酸性PAGE像で, bは等電点電気泳動像0
1 :等電点ゲルのpI6.8分画2 :顎舌下腺唾液20fil。
951
3) cystatinSBの遺伝的検討
血縁関係のない222人の項舌下腺唾液についてSB型
を検査したところ, 48人(21.6%)がcystatinSBl型,
118人(53. 1%)がcystatin SB 1,2型, 56人(25.3%)が
cystatin SB2型であった。そこで19家系39人の子供に
ついて遺伝関係を調査したところ(表3), SBI XSBl
の組み合せからSBl型のみが産まれ, SBI XS]〕1,2の
組み合せからはSBl型とSBl,2型が, SBI XS]〕2の
組み合せからはSBl,2型のみが, SBl,2×SB1,2の組
み合せからはSBl型とSBl,2型が, SB2型とSB2型
の組み合せからはSB2型のみが生まれていた。 SBの
各型は男女ともに認められ,かつ男性から男性へも遺伝
していることから,その遺伝子の座位は性染色体上には
なく,常染色体上に座位を持つ共優性遺伝形式をとるも
のと判断された。
以上の結果より遺伝子強度を算出すると, cystatin
SB*1-0. 482±0. 024, cystatinSB*2-Q. 518±0. 024と
いう値が得られた(表4)0
3.体液におけるcystatinの発現
Cystatinは諸種の体夜に存在することが報告さ
れている4)29)30)また本研究に用いた電気泳動法で,
cystatin S, SA, SN等の異同識別が可能となった
ため,数種の体液を用いて塩基性PAGEおよび酸性
PAGEの泳動像を比較し,体液におけるcystatinの発
現について検討した。
漠液は12例,脳脊髄液は17例,精巣は12例,腎疾患尿
および正常尿は18例,血清は10例を用い,項舌下腺唾液
および耳下腺唾液の泳動像と比較したO各体液の個体間
の違いは,廃液と精巣ではほとんど認められずいずれも
幾似したパターンを示し,脳脊髄液は試料によっては変
性産物と患われるようなバンドを認めるものも存在し
たoまた尿は腎疾患患者尿においてcystatinが多量に
認められたが,個体間の違いはなく,血清からほとんど
表3 CystatinSBの遺伝
M a tin g ty peN o . of
m a tm g s
C h ild ren
S 1∋1 S B 1,2 S B 2
SI∋1 ×1 4 7
2
6
S B 1 ×1,2 2 2
3
S B 1 ×2 2 3
S B l,2 X l,2 4 4
S B 1,2 ×2 5 6 4
S B 2 ×2 2 5
-37一
952 新谷:唾液シスタチンの遺伝的多型および組織発現
表4 Cystatin SBの出寛強度・遺伝子傾度
P h en oty p es S B 1 S B 1,2 S B 2 to ta l
O b served n u m b e r 48 118 56 222
E x p ected n u m b er 51.6 110. 8 59.6 222
x2-0.9262 d.f.- 1 0.5>p>0.3
Gene frequencycystatin SB*1-0. 482ア0. 024
cystatin SB*2-0. 518± ). 024
cystatinを検出できなかったo
そこで各体液の典型的な泳動像を示すと 113,
14のようになる。塩素性PAGE(図13)ではdi-P-S,
mono-P-S, non-P-S, SA, SNおよびSUの6種の
cystatmが識別可能である。腎疾患尿は塩基性PAGE
で1本のバンドのみが認められた。これは尿に認められ
た唯一のcystatinであること,および抗S抗体に対し
て交差反応性を持っこと,東涯にも同じバンドが存在す
ることから, Abrahamson et al.'のcystatin SUで
ある可能性が高い。 cystatin SUについてはその後詳細
な報吾はないが,本研究ではこのバンドをcystatin SU
と考え比較をおこなったo顎舌下腺唾液にはcystatin
SUを除くすべてのバンドが識別できる.耳下腺唾液は
cystatin SAおよびSNが多く発現しているが,di-P-S
およびmono-P-Sはサンプル室を増加すると識別でき
-non P-S-SA
-mono P-S
drP S
図13 各種体液の塩素性PAGEにおける泳動像。
Iane 1 :顎舌下腺唾夜(SA 1)10jul, lane2 :顎舌下腺唾夜(SA 1,2) 10ill, lane 3 :精巣50
fil,lane4 :脳脊髄液100fil, lane 5 :腎疾患尿100til, lane6 :東涯40fil, lane7 :顎舌下腺唾液10fil, lane 8 :耳下腺唾液40ill
38
た。またnon-P-Sは100illの唾液室でも識別が固兼
で, SA, SNに比較して耳下腺唾液ではSの発現室が少
ないことがわかったo廃液はmono-P-S, non-P-S,
SU, SNが認められたが, SAおよびdi-PISは検出で
きなかった SA2の個体の廃液からもSA2が検出で
きなかったことから, cystatinSAは戻夜には発壊して
いないと思われたo また戻液にdirPISが検出されな
かったことはIsemuraetal.s の結果と同様であっ
たo精巣はmono-P-S, non-P-S, SUが認められたo
つまりSは存在するが, SA,SNは発現していないと考
えられるo また精乗にdi-P-Sが検出できなかったこと
と, SNが発現していないことは, Isemuraetal.c
の結果と同様であった。脳脊髄液は尿と同様にSUのみ
が検出された。
これらの塩基性PAGEの泳動結果をまとめると,
origin 1 2 3 4 5 6
図14 各種体液の酸性PAGEにおける泳動像Iane 1 :戻液40///
lane 2 耳下腺唾液(SB2型HOfillane 3 :精巣50nl
lane 4 :顎舌下腺唾液(SBl型)10βlane 5 :脳脊髄夜100///lane 6 :腎疾患尿100ill
歯科学報 Vol.
cystatin Sは唾液,廃液,精巣に発現するが,脳脊髄
液,尿には認められず cystatinSNは唾液および戻液
に発現するが,精巣,脳脊髄液,尿には認められないo
これに対してcystatin SAは唾液にのみ発窮してい
る。またcystatin SUは唾液以外の体液に認められた.
酸性PAGEによる泳動では cystatin CおよびSN
が検出可能と思われるが,すでにのべたように精製試
料と比較してもバンドの特定が困難である。しかし酸性
PAGEでは各体液に特徴ある像が待られた。耳下腺唾
液はバンドの抗体反応性は低いが,顎舌下腺唾液とほぼ
同じ泳動像が待られたo涙夜はB低域に3-4本の反応
性の高いバンドが認められたが,顎舌下腺唾液のB餞域
のバンドとわずかに移動度が異なっていた。これは塩基
性PAGEの結果と合わせるとcystatin SNの可能性が
高いが,唾液とは異なる修飾を受けているかもしれな
い。精巣および尿はB領域に薄いバンドが出現するが,
抗S抗体に対する反応性が低く,精製cystatin Cも抗
S抗体を用いるとB事貢域に扇動\反応を示すこと,塩素性
PAGEでcystatin SとSUだけしか認められないこと
を合わせて考えると, cystatin S由来ではなくcystatm
cに由来するものかもしれない。これに対し,脳脊髄液
はD領域に共通してブロードなバンドが認められたが,
試料によってはB棲域にもバンドが出現した。 Abra-
hamson et al.A)によれば脳脊髄夜にはcystatin Cが多
く存在すると報吾していることから, D使域のバンドは
cystatin Cに由来する可能性があるo
以上の結果からcystatmが同じS型のものであって
も各体液に特徴的に出現し,それぞれの遺伝子が組織特
異的な発現をしている可能性が示された。
% m
唾液中に認められるcystatmはcystatinS, SN, SA,
Cが存在することが証明されている4)15)18)19)26)41)42)が,
義近新たにcystatin Dを合成する遺伝子がクローニン
グされ,これが耳下腺に特異的に発現されると報吾され
ている28)ところから,唾夜中の5番E]のcystatinと
して存在する可能性が高くなってきた Family II
cystatinに関連する遺伝子は,何人かの研究者21)26)27)
が,いずれも7つの遺伝子が存在すると推測している。
Saitohetal.' がすでにCSTPl, CST5の2つの偽
遺伝子の存在を示しているところから cystatm Dは
7番目のメンバーである可能性が高い。すなわち塊在の
時点では,唾液には5種のcystatinが存在すると考え
られる。本研究においては, cystatinの個人的変異を
92, No. 6 (1992) 953
検索する冒的で,多検体の顎舌下腺唾液の試料を用い
て,二種の電気泳動法によりこれらのcystatinの多型
の検索を行った。
塩素性PAGEによる検索では個人的変異を示す蛋白
が兄い出されたが, cystatinSAの新しい多型であっ
た。これは唾液蛋白cystatmの多型とDNA遺伝子座
位との関連が証明された最初の報吾である。 SAlとSA2
は塩基性PAGEおよび等電点電気泳動法により分離さ
れたため,おそらく大きさの違いによる多型というより
も,点突然変異による荷電の違いを持つものと考えられ
る。 SA2の等電点はmono-P-Sよりも酸性であるが,
塩素性PAGEでは塩基性側に泳動されたo これはクロ
マトグラフィーの違いによる蛋白の構造上の違いと関連
しているのであろう43'。 Saitoh et at.'の分離した
CsT2はSAlのアミノ酸配列をコードしていたが,SA2
はCST2のもう一つの対立遺伝子の産物と考えられる。
CST2の対立遺伝子にはCST2の3'側にSac I siteを
持つCST2Bが分離されている25)日本人においては
CST2とCST2Bに相当すると思われるRFLPが高頻
度に認められるが,この多塾とは関連を持つものではな
かった44)。つまりCST2にはすでに2種の多型が見つ
かったことになる。塩基性PAGEではcystatin SAlと
sA2の他に, S, SNが識別されるが, cystatin Dも出
現する可能性が考えられるo LかL non-P-S, mono-
P-S, di-P-S, SN, SA J以外のcystatmのバンドは比較
的反応が弱く,個体による濃度の違いが大きいところか
ら,変性産物である可能性が高く cystatin Dに相当
すると思われるバンドは確認できなかった。
酸性PAGEではcystatin C, SNおよびDが認めら
れる可能性があるが,精製cystatin Cに対する抗S抗
体の反応性が低いところから,酸性PAGEで検出され
たバンドはいずれも抗S抗体に対して特異性の高い構造
を持つものと考えられる Freijeetal.'によれば,
cystatin DはcystatinC, S, SNおよびSAと約50%の
アミノ酸配列の薬似性を持つと報吾されているため,抗
S抗体に対して高い反応性を示すとは思われない。精製
Cや精製SNが酸性PAGEで非常に幅広く数多くのバ
ンドとして認められること, pI6.8の分画をできる限り
変性の少ない条件で溶出し泳動した試料についても,広
範囲にcystatmが泳動されたことなどを考えあわせる
と, pH2.の酸性PAGEではSNやCが分解されやす
く,断片となって分離されている可能性が高いと思われ
る0本研究で兄い出されたもう-つのcystatinの多型
sBは,抗S抗体に強く反応すること, pIが6.8である
39 -
954 新谷:唾液シスタチンの達伝的多型および組織発現
ことなどがSNと共通することから, SNに由来する可
能性が高い.しかも酸性PAGEでcystatinSNが変性
しやすいものならば, SBの多型はフルサイズでは荷電
の差として区別できなかったものが, SNの一部が断片
となったために,荷電の違う二種の多型として出場した
ものと推副できる。そうであれば, S]〕のバンドが精製
SNに認められない理由としては,精製試料の変性によ
るか,または精製SNがフルサイズのSNのN末端8残
基を欠いていることから, SBがN末端部分を含む断片
であることが考えられる。しかしまた, SBがSNの一
部ではないとすれば, pI6.8の分画にはSNと共に多型
性を示す別のcystatmが存在することになるo
各組織に発現するcystatinC, S, SN, SA, Dの5種
のアミノ酸構造の類似性はcystatin Cと他の4つとは
51-57%, cystatin Dと他の4つは51-55%である28)
またcystatinS, SN, SAは互いに87-89%の戴似性を
持っ45'。この結果からFamily II cystatinは3つの
sub-familyに分楽することができる.しかしいずれも
同じ位置に4つのcysteineを含み, 2つのS-S loop
を形成し待ることから,同じ構造的特徴を共有してい
る。一方これらのcystatmの各体液における発覚は,
それぞれ異なっている cystatin Sは唾液,廃液,精
巣に認められるが,廃液,精楽でにはdi-P-Sは認めら
れず,リン酸化のメカニズムが体液により異なることを
示している。 cystatin SNも唾液,廃液に存在する
が,酸性PAGEでは養液に認められた3-4本のバン
ドと,唾夜のメインバンドとはわずかに移動度が異なっ
ていた.つまりcystatinSNも体液によって別の形の
修飾を受けているものと考えられる。またcystatinSA
は本研究の結果から廃液および精巣には存在していない
ことがわかった。このように互いに非常に戴似性の高い
S型cystatmも,各体液に特有な発場をすることは,
各体液の特徴を把擾することがS型cystatmの機能の
違いを解明する引き金になるかも知れない。これに対し
cystatinCは検査されたすべての組織に認められ,
house-keeping geneの性格を持つと考えられる。
Ghisoetal.4 はアイスラインド塑造伝性アミロイドーシ
スの患者のアミロイド繊維の主要構成成分が, Leu. -
Gluに変異したcystatin Cであることを報吾した。これ
はcystatin Cの変異が致命的な結果をもたらす例であ
り, cystatin Cの機能の重要性を示唆している.また,
cystatm Cの室は深い歯肉ポケット内では減少している
という報吾47)48)や, cystatin CがHSV(Herpes Simplex
Virus)の複製を阻害するといった報吾49)もあり,
cystatinが生体防衝機能を有することが徐々に示されてき
ている。
cystatin DはS型cystatmと構造が多少異なるにも
かかわらず,耳下腺に限局して発場されているというo
唾液にはSA, Dの2種の唾液特有なcystatinが存在
し体夜中で最も多種薫のFamily II cystatinが存在す
ることになる。
S型cystatmについては未だその生体の防御的役割
についての報吾はないが,口腔が外来からの最も多種の
異物の侵入口であり,金物,編菌,ウィルスなど様々な
刺激に対する防御機構を備える必要があるところから,
多種のcystatmはそれぞれ特異性の異なるインヒビ
ター活性で防御的役割を営んでいると考えてよいのでは
ないか。
体液に認められたcystatmのうちcystatin SUば
末だその構造が明らかになっていない。 Abrahamson
et al.A)によれば, SUのpIは6.85でN末端はブロックさ
れており,抗cystatin S抗体に反応するが,抗cystatin
C抗体には反応しないという。 CystatinSUがS型
cystatmの一つであるとすれば,環在の知識ではその
pIの戴似性からcystatin SNである可能性が高い。し
かし本研究においてはSUは唾液以外の体液にも認めら
れており, SNが唾夜,濠液のみから検出されている結
果と合致しない。 SUとSNが同じ遺伝子産物であると
するならば, SNは唾液以外の休演では達伝子産物が修
飾をうけ, cystatinSUとして検出されると考えること
ができるoそうであるならば, SNはcystatinCのよう
に様々な体液に存在し, house-keeping geneとしての
性格を持つものと思われるが,遺伝子の解析22)および
RNAの発現の結果50)からはそのような証拠は待られて
いない。 Cystatin SUはまだ解明されていない別の遺
伝子産物の可能性もあるものと思われる。
以上のように本研究はcystatmの遺伝的多型を検索
し,各種体液における発現の違いを検討したものであ
る Cystatinに関連する遺伝的多型は寺田51)も耳下腺
唾液を用いてacidicl, acidic 2と名付けた2種の多型
を額吾しているo またCST3に関連する3種のRFLP
もAbrahamson et at.により報吾されており,
cystatm遺伝子ファミリーが今後の法医学的個人識別
に有用なマーカーとなり待ることを示唆している。また
各種体液に特徴的な発現の違いは,法医学的物体検査に
おける体夜斑の証明などに役立てて行くことも可能な
データを提供したものと考えられる。
40-
歯科学報 Vol. 92, No. 6 (1992)
結 論
以上を総括して以下のような結論を得た0
1.多検体の顎舌下腺唾液を試料とした塩基性PAGE
と抗cystatin S抗体を用いた免疫学的検出法によっ
て cystatin SAの新しい遺伝的多型を兄い出した。
sAにはSAlとSA2の2種の遺伝子産物が存在する。
16家系32人の子供を調盃した結果,常染色体上に座位を
持っ共優性遺伝形式をとることがわかった 341人の血
縁関係のない試料を用いてSA型を判定したところ,逮
伝子頻度はcystatin SA*lfiく0. 935, cystatin SA*鋤く
0. 065であった。 Cystatin SA2のN末端20残基のアミノ
酸配列のうち18残基を決定したところ,すべてCST2
にコードされるcystatinSAの配列と一致した。
2.顎舌下腺唾液および耳下腺唾液の酸性PAGEによ
り,新しいcystatinの遺伝的多型(仮称cystatin SB)
を兄い出した。 SBは1本のバンドを持つSBl型, 2
本のバンドを持つSB2型,両方のバンドを持つSBl,2
型に分顛された。 19家系39人の子供を調査した結果,
sB lとSB2は常染色体上に座位を持つ共優性遺伝形
式をとることがわかった。血縁関係のない222人の試料
を用いてSB型を判定したところ,遺伝子頻度は,
cystatin SB*用く0. 482, cystatin SB*鋤く0. 518であっ
た。 SBは抗cystatin S抗体に強く反応し,抗cystatm
c抗体には弱い反応を示した。また等竃点は6.8であっ
た。
3.顎舌下腺唾液,耳下腺唾夜,涙液,精巣,脳脊髄
級,尿のcystatmを電気泳動的に比較したところ,各
体液はそれぞれ特有な泳動像を示した。 3種のcystatm
S (di-phosphorylated-S, mono-phosphorylated-S,
non-phosphorylated-S)は唾液にはすべて存在した
が,廃液,精巣にはmono-phosphorylatec上S, non-
phosphorylated-Sのみが存在し,脳脊髄液,尿には
cystatin Sは認められなかった。 Cystatin SAは唾液の
みに認められ, cystatinSNは唾液,廃液のみに認めら
れた。疾患尿に特徴的なcystatin SUは廃液,精巣,
脳脊髄液,腎疾患尿に認められた。
4.本研究で兄い出されたcystatinの多型は,法医学
的個人識別,人薬学的比較検査に有効な指標となり待る
とともに,各体液における発現の違いは法医学的物体検
査への応用を含めた今後の研究に有力な情報を与えるも
のと患われる。
謝 辞稿を終えるにあたり,終始御指導,伽校閲を賜りました法歯
955
学教室講座主任鈴木和男教授に深甚なる感謝の誠を捧げます.
また本研究について詳細な御指導を戴いた水口 活助教授に感
謝するとともに,研究の遂行に御協力戴いた東京歯科大学市川
総合病院内科水野嘉夫教授および法歯学教室貢各位に謝意を表
しますoさらに抗体の提供ならびに多くの貴重な御助言を戴い
た日本歯科大学新潟歯学部口腔生化学教室の真田-男教授,伊
勢村知子博士斎藤英-博士,アミノ酸配列の決定に御協力透
いたアプライドバイオシステムズ株式会社銭場信彦博士に感謝
いたします。
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(Department of Forensic Odontology, Tokyo Dental College, Chiba 261,
Japan)
Key words : Cystatin-Submandibular-sublingual saliva-Body fluids-Genetic poly-
morphism- Cystatin SA- Cystatin SB.
Abstract
Polymorphisms of cystatin in human saliva were investigated, and expressions of
salivary-type cystatins in various body fluids were studied.
Results
l. A genetic polymorphism of cystatin SA was identified in human submandibular-
sublmgual saliva by means of basic gel electrophoresis and immunoblotting with anti-cystatin
S. Two proteins, SAl and SA2, were determined by two alleles, SA*1 and SA*2. Inheritance was
controlled by two codominant alleles at an autosomal locus. This hypothesis was supported by
studies of 16 families, including 32 children. Gene frequencies for SA*1 and SA♯2 were 0.935
and 0.065, respectively (n-341). Eighteen amino acids determined among 20 N-terminal
residues of cystatin SA2 were completely identical with the sequence encoded by CST2.
2. Another genetic polymorphism of cystatin (tentatively named cystatin SB) was found
m human submandibular-sublingual and parotid saliva by means of acidic gel electrophoresis
and immunoblotting with anti-cystatin S. SB phenotypes were classified into three types : SB 1
possesses a single band with faster mobility, SB 2 possesses two bands with slower mobilities,
and SB 1,2 possesses all three bands. Inheritance is controlled by two codominant alleles at an
autosomal locus. This hypothesis was supportedbystudiesin 19 families, including 39 children.
Gene frequencies for SB*1 and SB*2 were 0.482 and 0.518, respectively (n-222).
Cystatin SB reacted strongly to cystatin S antiserum but weakly to cystatin C antiserum.
The isoelectric point of cystatin SB was 6.8.
3. When submandibular-sublingual saliva, parotid saliva, lacrimal fluid, seminal plasma,
cerebrospinal fluid, and urine were compared with anti-cystatin S by means of electrophoresis
and immunoblotting-, each body fluid showed characteristic cystatin electrophoretograms.
Three forms of cystatin S (di-phosphorylated S, mono-phosphorylated S, and non-phosphor-
ylated S) were observed in saliva ; but only two forms (mono-phosphorylated S and non-phos-
phorylated S) were observed in lacrimal fluid and seminal plasma. No cystatin S was observed
in cerebrospinal fluid and urine. Cystatin SA was observed only in saliva, and cystatin SN was
observed only in saliva and lacrimal fluid. Cystatin SU, present in urine samples obtained
from patients suffering from kidney failure, was observed in lacrimal fluid, seminal plasma, c
erebrospmal fluid, and urine.
4. Polymorphisms of cystatin found in this study will provide practical information in
personal identification in forensic medicine and in anthropological comparisons. Differential
expression of cystatin genes in various body fluids can provide better insights for future
studies in material examinations in forensic science.
44