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4 目 次 第1章 労災補償とは Q1 労災補償の歴史 ......................... 10 Q2 労災補償制度の特徴 .................. 12 Q3 労災保険適用のしくみ ............... 14 Q4 適用労働者 ................................. 18 Q5 労働の安全・衛生 ..................... 20 Q6 健康保険との関係 ..................... 23 第2章 業務災害 Q7 業務災害 ..................................... 26 Q8 業務上外の認定 ......................... 29 Q9 業務上外認定と行政実務・解釈 ... 31 Q10 就業時間中の災害 ..................... 33 Q11 休憩時間中の災害 ..................... 36 Q12 就業時間前後の災害 .................. 39 Q13 事業場施設利用中の災害 ........... 41 Q14 外勤・出張、赴任途中の災害 .. 44 Q15 海外出張中の災害 ..................... 47 Q16 運動会・宴会での災害 .............. 50 Q17 他人の暴行による災害 .............. 53 Q18 通勤途上の業務災害 .................. 56 Q19 天災地変による災害 .................. 58 Q20 原因不明の災害 ......................... 61 Q21 在宅勤務中の災害 ..................... 64 Q22 療養中の災害 ............................. 67 第3章 通勤災害 Q23 通勤災害保護制度 ..................... 72 Q24 通勤災害の「通勤による」 ......... 74 Q25 通勤災害の「就業関連性」 ........ 76 Q26 通勤災害の「合理的経路・方法」 ... 78 Q27 通勤災害の「住居」 .................... 80 Q28 通勤災害の「就業の場所」 ........ 82 Q29 単身赴任者の通勤災害 .............. 84 Q30 二重就業者の通勤災害 .............. 86 Q31 通勤の逸脱・中断 ..................... 88 Q32 逸脱・中断の例外 ..................... 90 第4章 業務上の疾病 Q33 業務上の疾病 ............................. 94 Q34 業務上疾病の範囲 ..................... 96 Q35 例示疾病の具体例 ..................... 98 Q36 過労死の労災認定 .................. 100 Q37 精神障害の労災認定 ................ 102 Q38 自殺の業務起因性 ................... 107 Q39 パワハラ被害 .......................... 109 実務者のための労災保険制度Q&A 労災保険の疑問を裁判例などで専門家が解説します SAMPLE

実務者のための労災保険制度Q&A...Q63 損害賠償額の算定方法 ..... 158 Q64 過失相殺 ..... 160 第7章 労災保険給付と損害賠償の調整 Q65 第三者への損害賠償請求

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目 次

第1章 労災補償とはQ1 労災補償の歴史 ......................... 10

Q2 労災補償制度の特徴 .................. 12

Q3 労災保険適用のしくみ ............... 14

Q4 適用労働者 ................................. 18

Q5 労働の安全・衛生 ..................... 20

Q6 健康保険との関係 ..................... 23

第2章 業務災害Q7 業務災害 ..................................... 26

Q8 業務上外の認定 ......................... 29

Q9 業務上外認定と行政実務・解釈 ... 31

Q10 就業時間中の災害 ..................... 33

Q11 休憩時間中の災害 ..................... 36

Q12 就業時間前後の災害 .................. 39

Q13 事業場施設利用中の災害 ........... 41

Q14 外勤・出張、赴任途中の災害 .. 44

Q15 海外出張中の災害 ..................... 47

Q16 運動会・宴会での災害 .............. 50

Q17 他人の暴行による災害 .............. 53

Q18 通勤途上の業務災害 .................. 56

Q19 天災地変による災害 .................. 58

Q20 原因不明の災害 ......................... 61

Q21 在宅勤務中の災害 ..................... 64

Q22 療養中の災害 ............................. 67

第3章 通勤災害Q23 通勤災害保護制度 ..................... 72

Q24 通勤災害の「通勤による」 ......... 74

Q25 通勤災害の「就業関連性」 ........ 76

Q26 通勤災害の「合理的経路・方法」 ... 78

Q27 通勤災害の「住居」 .................... 80

Q28 通勤災害の「就業の場所」 ........ 82

Q29 単身赴任者の通勤災害 .............. 84

Q30 二重就業者の通勤災害 .............. 86

Q31 通勤の逸脱・中断 ..................... 88

Q32 逸脱・中断の例外 ..................... 90

第4章 業務上の疾病Q33 業務上の疾病 ............................. 94

Q34 業務上疾病の範囲 ..................... 96

Q35 例示疾病の具体例 ..................... 98

Q36 過労死の労災認定 .................. 100

Q37 精神障害の労災認定 ................ 102

Q38 自殺の業務起因性 ................... 107

Q39 パワハラ被害 .......................... 109

実務者のための労災保険制度Q&A労災保険の疑問を裁判例などで専門家が解説します

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Q40 セクハラ被害 ............................ 111

Q41 治療機会の喪失 ....................... 113

Q42 業務に起因することの明らかな疾病 ... 115

第5章 労災保険の給付Q43 保険給付の種類 ....................... 118

Q44 療養(補償)給付 ................... 120

Q45 給付基礎日額 ........................... 122

Q46 休業(補償)給付 ................... 124

Q47 障害(補償)給付 ................... 126

Q48 遺族(補償)給付 ................... 128

Q49 葬祭料 ....................................... 130

Q50 傷病(補償)年金 ................... 131

Q51 介護(補償)給付 ................... 133

Q52 解雇制限 ................................... 135

Q53 請求の時効 ............................... 137

Q54 支給制限 ................................... 139

Q55 社会復帰促進事業 ................... 141

Q56 特別支給金 ............................... 143

Q57 二次健康診断等給付 ................ 145

Q58 社会保険との調整 ................... 147

Q59 労災隠し ................................... 149

Q60 請求と不服申立ての手続 ........ 150

第6章 使用者等の損害賠償責任Q61 損害賠償責任 ........................... 154

Q62 安全配慮義務 ........................... 156

Q63 損害賠償額の算定方法 ............ 158

Q64 過失相殺 ................................... 160

第7章 労災保険給付と損害賠償の調整Q65 第三者への損害賠償請求 ....... 164

Q66 加害者との示談 ....................... 166

Q67 将来給付分の調整 ................... 168

第8章 労災保険の管掌と財政Q68 労災保険の管掌 ....................... 172

Q69 労働保険 ................................... 174

Q70 特別加入制度 ........................... 176

Q71 特別加入者の業務上外認定 .... 178

Q72 労災保険の財政 ....................... 180

Q73 メリット制 ................................. 183

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Answer

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労規則・別表1の2で業務上の疾病の範囲をかなり詳しく定めていますが、これにはどのような意味があるのでしょうか。

業務上疾病の範囲Question ▶ 34

1 業務上の疾病の列挙の意味

 一言でいえば、労働者がかかった病気が「業務上の疾病」であるかどうかの判断、立証を容易にするとい

う意味があります。災害性の疾病を別にすれば、労働者は職場でさまざまな危険あるいは病気の原因にさら

されて業務に従事していますので、自分がかかった病気が「業務上」のものであるとは判断しにくいのが通

例です。しかし、産業医学の発展によって、業務の内容、職場環境、取扱化学物質などに起因して医学経験

上発生する蓋然性の高い特定の疾病についてはかなり明らかになってきています。したがって、労基則・別

表1の2で列挙されている2号から7号の疾病については、労働者が、そこで示されている特定の業務に従事し

ていて当該疾病にかかったこと(たとえば、暑熱な場所における業務に従事していて熱中症にかかったこと、

重量物を取り扱う業務に従事していて腰痛を発症したことなど)、およびその業務の内容、従事期間その他

の点で当該業務が当該疾病を引き起こすに足るだけのものであることを立証すれば、特段の事情がないかぎ

り業務起因性が推定されることになります。

2 業務起因性の立証責任

(1)業務起因性の立証責任 労働者のこうむった災害・かかった疾病が業務によるものであるかどうかの、業務起因性の立証責任自

体は、補償を求める被災労働者の側にあると考えられています。この点について最高裁の判例(横浜西労

基署長事件・最3小判昭63・3・15新訂体系労災保険判例総覧309頁)は、次のように判示しています。労

基則35条(昭和53年労働省令11号による改正前のもの)は職業性疾病を列挙しているが、「これは、業務

に伴う有害因子によって発症しうることが医学的知見において一般的に認められている疾病を具体的に挙

げているものであって、当該疾病を発症させるに足りる条件のもとで業務に従事してきた労働者が当該疾

病に罹患した場合には、業務災害の認定上、特段の反証がない限り、これを業務に起因する疾病として取

り扱うこととしているのである。この意味において、右労働基準法施行規則35条の規定は、職業性疾病に

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112

● 第4章 業務上の疾病

113

Answer

1 私傷病と業務従事による治療機会の喪失

 労働者がそれ自体としては業務との相当因果関係(業務起因性)が認められない私傷病をこうむった場合、

業務外として被災者(あるいは遺族)には労災保険法の補償は行われないのが通常です。もっとも、従来の

ケースにおいても、労働者(船員・公務員)が海上にあるなど地理的・物理的な環境要因のために、医療を

受ける機会が奪われ、あるいは十分な救護の処置を受けることができない状況のもとで、私病が悪化したよ

うな場合に、それを業務環境危険と評価して、業務上(公務上)と判断してきました(川南工業船員社会保

険審査会事件・東京高判昭32・12・25労民集8巻6号1037頁、水産庁漁業調査船天鷹丸事件・東京高判昭45・6・

30判時608号132頁)。

 労働者が業務従事中にそれ自体として業務との因果関係(業務起因性)が認められない傷病をこうむった

場合でも、勤務ないし業務の態様いかんによっては適切な医療措置を受けることができないことがあります。

そうした「治療機会の喪失」あるいは欠如が業務上外の認定に重要な影響を及ぼすということです。

2 最高裁の判決

 近時の最高裁の判決も、公務員の災害補償に関してですが、医療機会の喪失あるいは欠如による傷病の増

悪が、場合によっては「公務に内在する危険が現実化した」ものと捉えることができることを示しています(地

公災基金愛知県支部長事件・最3小判平8・3・5労判689号16頁)。このケースは、小学校の教諭であるAが児

童のポートボールの審判中に倒れ、意識不明となって入院後に死亡した事例に関するものですが(死因は、

特発性脳内出血)、Aは、当日午前7時40分過ぎの出勤後間もない頃から頭痛等の不調を訴え、体調が悪いか

ら同僚の教諭らに審判の交替を頼んだが聞き入れられず、やむなく午後2時に始まったポートボールの試合

に審判として臨んでいました。最高裁は、「出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える

増悪の原因となったことにより、またはその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤

仕事の関係で病気の治療ができなかったことにより病気が悪化したような場合は労災になりませんか。

治療機会の喪失Question ▶ 41

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156

Answer

157

使用者の安全配慮義務とはどのようなものでしょうか。

安全配慮義務Question ▶ 62

1 不法行為責任追求上の問題点

 労働災害にあって損害をこうむった労働者は、不法行為という民法上の制度を用いて使用者に損害賠償を

求めることが可能です(民法709条。Q61参照)。ただ、これには損害の発生について少なくとも使用者に過

失があり、それが原因となっていたことを証明する必要があります。それは、要するに、使用者が具体的に

どういう手段をとっていれば災害の発生を防げたかという主張ですから、災害の原因は何で災害との間の因

果関係はどうかが明らかでないとなかなか証明はできないわけで、これが不法行為責任の実務上の難点です。

2 安全配慮義務の観点

 そこで、労働契約では、使用者は主たる債務である賃金支払義務とならび、附随的な義務として労働者の

生命、身体に配慮する義務があるとされてきました(配慮義務というものでドイツ民法には明文の規定があ

ります)ので、これを根拠に契約責任(債務不履行責任)としての損害賠償が考えられるのではないか、い

ろいろ議論されてきました(最初の過労死事件として注目された電通事件・最2小判平12・3・24民集54卷3

号1155頁がそうでした)。

 本来の契約責任(債務不履行責任)であれば、使用者が自らに帰責事由がなかったことを主張・立証する

ことになりますし、時効期間も10年になって(民法167条参照)、労働者に有利だと考えられたのです。

3 安全配慮義務の確立

 この問題は判例によって解決されました。判例は、当初自衛隊の隊員について、「国は、公務員に対し、

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