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平成25年9月 第717号
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1.はじめに国連宇宙空間平和利用委員会の議長に、50有余年の歴史の中で日本人として初めて2012年6月から2014年6月まで就任することとなったので、その活動の概要、我が国の対応について解説する。
2.宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)概要1959年開催の第14回国連総会にて「宇宙空
間の平和利用に関する国際協力」と題する決議が採択され、宇宙空間平和利用委員会(COPUOS:Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)が国連の常設委員会として設置された。日本の松平国連常駐代表大使が起草委員会委員として参加するなど積極的に貢献し、日本は設立当初の24ヵ国の一員となった。COPUOSは、宇宙空間の研究に対する援助、情報の交換、宇宙空間の平和利用のための実際的方法及び法律問題の検討を行い、これら
の活動の報告を国連総会に提出することを任務としている。開催地は当初ニューヨークであったが、
1993年以降はウィーン開催となった。現時点の構成国は日本を含む74ヵ国であり、他にオブザーバ国、恒久オブザーバ組織(IGO、NGO、NPO)が参加している。
COPUOS本委員会の下には、法律小委員会(LSC)及び科学技術小委員会(STSC)が設置されている。COPUOS本委員会は毎年6月に1.5週間、法律小委員会は毎年3~4月に2週間、科学技術小委員会は毎年2月に2週間開催される。
COPUOSの特徴としては、全てがコンセンサスで決定され、多数決はしない点があげられる。すべての国に拒否権があるため、議決を通すには全参加国が合意できる妥協点を探さねばならない。また、6言語に同時通訳されることも、議事進行の上で考慮する必要がある。
国連宇宙空間平和利用委員会の役割と我が国の対応
国連宇宙空間平和利用委員会議長宇宙航空研究開発機構 技術参与
堀川 康
国連 ウィーン事務局 ニューヨーク国連本部
工業会活動
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また、名称から明白であるように、COPUOSの対象は宇宙の平和利用に限定されている。軍事に関連した宇宙利用については、ジュネーブの軍縮会議の範疇である。近年は参加国が増えたこともあって、条約等の法的拘束力のある合意形成が困難になってきており、ガイドライン等のソフトローを指向している。会議は非公開であるが、会議のデジタル録音と資料は国連宇宙部(UN OOSA)のウェブサイトで公開されている。日本代表団長は国連ウィーン代表部大使が務める。本委員会及び各小委員会の議長は世界5地域(欧米、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、東欧)から持ち回りで選任される(任期は2年)。前、現、次の議長がG-15ビューローを構成することにより、継続性を維持している。第55会期(2012年)から2年間は、日本人が
初めて議長を務めている。各地域の持ち回りで任期が2年ということは、次にアジア地区に議長職が回ってくるのは10年後であり、アジア地域の中でいくつかの国が候補を立てることを考慮すると次に日本が議長となるには数十年かかることが予想される。
COPUOSの運営はUN OOSAが担っている。部長はマレーシアの Mazlan Othman氏が2007年から務めているが2013年末で退職のため、後継者が選定されているところである。UN OOSAには委員会運営・調査課(Niklas Hedman課長)が置かれている他、宇宙応用課長としてJAXA宇宙飛行士であった土井隆雄氏が2009年から勤務し宇宙利用に取り組んでいる。ここ数年、COPUOSではいくつかの記念行事が実施された。2011年にはCOPUOS 50周年及び有人宇宙飛行50周年、2012年はLandsat衛星打上げ運用開始40周年の祝うイベ
COPUOS本委員会
COPUOSイベント風景
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ントを実施した。そして今年、2013年には、テレシコワ女史も参加した女性宇宙飛行50周年記念イベントとアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)20周年記念イベントを実施した。
3.COPUOSの歴史COPUOSは、1968年、1982年、1999年と3
回の国連宇宙利用平和会議(UNISPACE)を開催し、ここで決められた勧告事項について継続審議している。1999年UNISPACE-Ⅲではウィーン宣言が出され、地球環境保護と資源管理、人類の安全、発展、幸福のための宇宙利用、宇宙の科学的知識の進展と宇宙環境保護、教育訓練機会の向上と宇宙活動の重要性の広報、UNシステムにおける宇宙活動強化と再配置、国際協力の推進等、33項目の勧告事項が設定された。また、うち12項目でアクションチームが設置された。
これらの勧告事項の実施状況は2004年にレビューされ、国連災害管理・緊急対応のための宇宙情報プラットフォーム(UNISPIDER)や衛星航法システムに関する国際委員会(ICG)等が創出された。
COPUOSの主要な業務は宇宙の平和的利用を平等の原則のもとに推進するための規範作りである。これまでにCOPUOSが決議した宇宙条約には以下の5条約がある。(批准国は2013年6月現在) - 宇宙条約(1967年):月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約(批准国:102ヵ国)- 宇宙救助返還協定(1968年):宇宙飛行士の救助および送還ならびに宇宙空間に打上げられた物体の返還に関する協定(批准国:92ヵ国)- 宇宙損害責任条約(1972年):宇宙物体
Galileo (EU)
IRNSS (インド)
source : ESA
source : insidegnss.com
QZSS (日本)
source : JAXA
GLONASS (ロシア)
BeiDou/COMPASS (中国)
source : gpsworld.com
source : ROSCOSMOS
各国の航法衛星
GPS (アメリカ)
source : gps.gov
工業会活動
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により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約(批准国:89ヵ国)- 宇宙物体登録条約(1976年):宇宙空間に打上げられた物体の登録に関する条約(批准国:60ヵ国)- 月協定(1984年):月その他の天体における国家活動を律する協定(批准国:15ヵ国)これらの条約に加え、以下の原則、ガイド
ライン等が発行されている。 -宇宙法原則宣言(1963年)-直接放送衛星原則(1982年)-リモートセンシング原則(1986年)-原子力電源利用原則(1992年)-スペース・ベネフィット宣言(1996年)-打上げ国概念の適用(2004年)-宇宙物体登録勧告(2007年)-宇宙デブリ低減ガイドライン(2007年)- 宇宙における原子力電源の使用の枠組み(2009年)
4.COPUOSにおける主要議題現在の科学技術小委員会(STSC)の主な議題には、リモートセンシング活動、スペースデブリ低減活動、宇宙システムによる災害管理支援、衛星航法システムの利用、宇宙用原子力電源の使用(WG)、地球近傍天体(WG) IAWN、 MOPG、国際宇宙状況監視(SSA)、宇宙活動の長期持続性(WG)、静止軌道の物理的特性および技術的属性などがある。法律小委員会(LSC)の議題には、宇宙5条約の状況と適用(WG)、宇宙法に関するIGO、 NGOの活動、宇宙空間の定義(WG)、静止軌道問題、宇宙における原子力電源の利用原則のレビュー、稼動物件の国際的権益に関する条約宇宙資産、議定書予備草案の検討、宇宙法に関する能力開発、スペースデブリ低減に関する国内メカニズムの情報交換、宇宙の平和利
用に関する各国の国内法制の情報交換(WG)がある。本委員会では、宇宙空間の平和利用を維持するための方策と手段、持続的開発のための宇宙技術、宇宙技術のスピンオフ、宇宙と水、宇宙と気候変動、国連システムにおける宇宙技術の利用、持続可能な開発に資するための地理空間データの活用促進の国際協力、会議の進め方(記録、小委員会会期、技術発表)などが議論されている。小委員会に設置されているワーキンググ
ループおよびアクションチームは以下のとおり。
科学技術小委員会- Working Group Long-term sustainability of
outer space activities - Working Group on the Use of Nuclear Power
Sources in Outer Space- Action Team on Near-Earth Objects (2009-
2010)
法律小委員会- Working Group on the Definition and
Delimitation of Outer Space - Working Group on the Status and Application
of the Five United Nations Treaties on Outer Space - Working Group on National Legislation
Relevant to the Peaceful Exploration and Use of Outer Space (2012年完了)- Review of international mechanism for
cooperation in the peaceful exploration and use of outer space
5.COPUOSにおける今後の議題COPUOSが取り組むべき課題は多彩であり、地球環境問題(GEO、災害、健康、エネ
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ルギ、 気象、気候、水、生態系、農業、生物多様性など)、Rio+20のアクション、能力開発、周波数問題(ITUと連携)、宇宙物体の資産評価、データポリシー(GEOと連携)、月惑星探査、GNSS、地域活動、COPUOSの役割りと会議の進め方、Observerの資格とECOSOCのConsultative Statusの取得、宇宙利用の長期持続性(ワーキンググループ)などについて考慮の必要がある。これらを考察し、2012年のCOPUOS議長就任時に議長声明を出し、宇宙研究・利用の次世代に向けた視点として、次の3本柱を打ち出した。(1)宇宙利用の国際協力推進のためのCOPUOS役割強化-適合性、相互運用性、情報共有- 有形な成果の創出:共同プロジェクト(相乗りペイロードによるプラットフォーム)- 小型衛星(平和的、安全、持続可能な宇宙利用への考慮)
(2)地域及び地域間協力における宇宙利用の能力強化の推進-地域協力の創出と推進- ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの地域活動を通じた連携-有識者による宇宙開発の教訓の伝授
地域協力の例
(3) 持続的開発のための宇宙技術とその応用の強化-地理空間情報及びデータの利用の推進
-宇宙技術の更なる応用(健康、食料等)-他UNシステムとの協調なかでも、軌道上デブリの増加を受け2010
年に科学技術小委員会の下に設立された宇宙活動の長期持続性ワーキンググループの活動が重要となっている。このワーキンググループは、宇宙空間における活動の長期持続性に関する報告書を作成することになっており、長期持続性を確保するために適時に実施できる実際的かつ賢明な対策実施に焦点を当てた任意ベースのBest Practice Guidelineを示すことを目指している。また下部組織として、地上での持続的開発を支援するための持続的宇宙利用、スペースデブリ・宇宙での運用・共同で行う宇宙状況監視の使用ツール、宇宙天気、宇宙活動の参加者に対する規制の枠組みとガイダンスの4つの専門家会合が設置されている。
2012年、各専門家会合で課題に対するBest Practice Guidelineを収集し、同年10月にはナポリでの国際宇宙会議(IAC)で非公式な会合を実施し、本年2月には、民間の意見等を聴取するためのセミナー及びワークショップを開催した。本年は9月にはIAC北京で非公式会合を予定している他、来年2月には科学技術小委会にて各専門家会合の報告書案とBest Practice Guidelineが提示されることになっている。
6.宇宙活動に関する国際議論COPUOSを含め、宇宙活動の長期的持続性については、様々な視点での国際議論の場が持たれている。以下に例を示す。- Transparency and Confidence Building
Measures(TCBM):透明性信頼性醸成措置(政治、外交に関する議論の場)- Hague Code of Conduct Against Ballistic
Missile Proliferation(HCOC)2002- Conference on Disarmament:軍縮会議(活
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動停止中)- PPWT:Trea ty on Preven t ion o f the
Placement of Weapons in outer Space and the Threat of the Use of Force against Outer Space Objects- PAROS:Prevention of Arms Race in Outer
Space- UNCOPUOS:平和目的利用 2014年報告書、宇宙活動の長期持続性WG- EU行動規範(COC):すべての宇宙活動
2013年外交会議予定- UN Group of Government Experts (GGE):
15ヵ国 2013年報告書これらの議論は、それぞれに連携、情報交
換をしながら、あるべき姿としての宇宙活動が調整されている。これらの議論を通じていかなるルールが必要かが今後の課題である。
7.宇宙開発・利用の現状理解と将来展望世界の宇宙開発に対する関心は研究フェーズから実利用へ移りつつある。温暖化に伴う気候変動の現象解明と気候変動対策の検証、災害観測、森林観測(伐採、火災)、水循環、食糧安全保障、健康、疫病、生物多様性などへの関心が高まっている。COPUOSの最大のテーマである持続可能な宇宙開発・利用という点では、宇宙デブリ、衛星登録・管理、衛星利用による社会活動への貢献、途上国能力開発に焦点を当てている。振り返って日本の宇宙開発技術の能力とい
う点では、H-ⅡAやH-ⅡBのロケット開発では、最先端を求めたが高価格という現実を理解する必要がある。科学衛星分野でも「はやぶさ」のような最先端ミッションは、技術的にチャレンジングであるが単発的になりがちである。実利用衛星については、打上げ機会の少なさ、利用や運用要求、安全保障や軍事
利用の側面を理解する必要がある。また、日本の技術が重量・容積・機能などの面で10~15年の後進性があることを払拭せねばならない。宇宙利用と産業化という観点で、衛星やロケットの商業化が進み、先進国の寡占化が起こっている。これまではNASA、 ESA、 JAXAといった各国・地域の宇宙庁が技術開発を行い、米気象機関、欧州気象機関、その他政府機関が実利用を行うという形がさらに進展し、非政府機関、民間企業が宇宙活動に参画してきている。GPS、GALIREO、GLONAS、KOMPAS、IRNSS、QZSSなどの測位衛星分野では民間利用と安全保障が鍵となっている。また、小型衛星の打上げも増えており、利用目的と増大化へ対応が課題となっている。途上国の開発、利用に対する動向にも注目すべきである。このような世界の動きの中で日本がどのように宇宙活動を推進し、どのようにリードしていくかを考慮していくことが重要である。
8.おわりに我が国が宇宙開発を目指すに当たり、ワールドクラスの宇宙開発において常にミッションサクセスを達成する宇宙開発を進めるべきである。そのためには、高度なミッション要求、高信頼性、長寿命、低コストを追求して独自性を発揮していく必要がある。また、技術能力の向上のためのたゆまぬ努力は必須である。体系化された開発プロセス、標準化された規準、教訓を踏まえた評価、審査の徹底が求められる。そのうえで衛星実利用機関の確立、育成、産業基盤の確立、国際競争力の確保、宇宙外交の確立、国際協力とリーダーシップを目指していくことが大事である。