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酵 素抗 体 法(EIA)に よ りBartonella henselae抗 体 価 上 昇 を

確 認 で きた猫 引 っか き病 の1例

1)久留米大学第二内科,2)同 第一病理,3)公立八女総合病院内科

草場 信 秀1) 吉 田 博3) 中村 博 子1) 草場 朗 子2)

吉本 幸 治1) 緒 方 秀章1) 佐 田 通 夫1) 谷 川 久 一)

(平成9年6月25日 受付)

(平成9年7月15日 受理)

Key words : cat scratch disease, Bartonella henselae,

enzyme immunoassay

序 文

猫 引 っか き病 の 診 断 法 の 一 つ と して,起 炎 菌 で

あ るBartonella henselaeの 抗 体 価 測 定 な どの 血

清 学 的 診 断 法 が 注 目 され て い る1)～3).今 回 我 々 は

EIA法(酵 素 抗 体 法)に よ るB.henselae抗 体 価 測

定 が 診 断 に有 用 で あ っ た猫 引 っか き病 を経 験 した

ので報告する.

症 例

患者:68歳,男 性.

主訴:発 熱,右 鼠径部腫瘤.

既往歴:67歳 時心不全のため入院歴あり.

生活歴:猫 を8年 前か ら飼育.

Table 1 Laboratory data on admission

別刷請求先:(〒830)福 岡県久留米市旭町67

久留米大学第二内科 草場 信秀

平成9年10月20日

1076 草場 信秀 他

家族歴:特 記すべ きことなし.

現病歴:平 成8年9月20日 より有痛性の右鼠径

部腫瘤を認めるようになった.同 月29日 より悪寒

を伴 う38度 の発熱が出現 したため30日 当科 を受

診.Ofloxacin(OFLX)及 び消炎鎮痛剤を投薬 さ

れ約1週 間で解熱 した.し か し,鼠 径部の腫瘤 は

増大傾向を示したので,精 査加療 目的にて10月7

日当科入院となった.

入院時現症:体 温36.2℃,脈 拍84/分 整,血 圧

172/84mmHg.胸 部聴診上,第2肋 間胸骨左縁,

心尖部でLevineII/VIの 収縮期雑音 を聴取 した.

腹部は,平 坦で肝脾は触知 しなかった.皮 膚 には

創傷や皮疹はみられなかった.右 鼠径部 に3cm大

の圧痛を伴 う弾性硬,表 面平滑なリンパ節を数個

触知 した.ま た,右 頸部,左 腋窩に圧痛を伴わな

い径5mmの 弾性軟,可 動性良好 な リンパ節を数

個触知 した.四 肢は脛骨部で浮腫 を認 めた.

入院時検査成績(Table1):白 血球増多 はな

かったが血沈 の亢進 とCRPの 軽度上昇 を認 め

た.血 液生化学検査ではGOT,GPT,LDHの 軽

度上昇を認めた.血 清学的検査では,HTLV-1抗

体128倍,可 溶性IL-2receptor1,000U/mlと 上昇

していた.末 梢血液像 には異型 リンパ球を認 めな

かった.

Fig. 1 Clinical course.

感染症学雑誌 第71巻 第10号

EIA法 が有用であった猫引っかき病の1例 1077

入院後経過(Fig.1):入 院時すでにCRPは 軽

度陽性で発熱は改善 していた.し かし,鼠 径部 リ

ンパ節の増大を認 め,リ ンパ節腫脹が鼠径部以外

にもみられることや,HTLV-1抗 体が陽性であっ

た ことか らリンパ腫型 の成人T細 胞性 白血病

(ATL)と の鑑別 のため鼠径部の リンパ節生検を

10月7日 施行 した.病 理組織所見は,類 上皮細胞

よりなる多数の肉芽腫が認められ,肉 芽の中心部

には壊死巣が存在 し好中球の浸潤 ・核破砕物を伴

うsuppurative granulomaの 像 を呈 した(Fig.

2).猫 による引っかき傷や咬傷 は受けてない もの

の リンパ節の組織像及び猫の飼育歴より猫引っか

き病を疑 いWarthin-Starry鍍 銀染色 を行った と

ころ,肉 芽腫中央の膿瘍形成部 に一致 して,多 形

Fig. 2 Note epithelioid granulomas with central

necrosis and suppuration. (H.E stain,•~ 32)

Fig. 3 Warthin-Starry silver staining of the lymph

node. Warthin-Starry stain-positive pleomorphic

bacilli are present in the abscess. (•~400)

桿 菌 を多 数 認 め た(Fig、3).培 養 は未 施 行 で あ っ

た が猫 引 っか き病 を疑 っ て い た の で,起 炎 菌 と考

え られ るB.henselaeの 抗 体 価 をEIA法 に て 測 定

した.10月14日 のIgG型 抗体 価 が42EIAunitと 有

意 な上 昇 を認 め1カ 月 後 に は感 度 以 下 へ 低 下 して

い た.以 上 よ りB.hense/aeが 起 炎 菌 の 猫 引 っか

き病 と診 断 した.

治 療 に 関 して は,猫 引 っか き病 を疑 い10月14日

よ りCefepime(CFPM),Tosufloxacin(TFLX)

を投 与 した.経 過 良 好 で リンパ 節 の腫 脹 と疼 痛 は

徐 々 に改 善 し炎 症 反 応 も11月 上 旬 に は消 失 した.

その 後,以 前 か ら認 め られ て い た 心不 全 症 状 が 大

動 脈 弁 閉 鎖 不 全 に よ る もの と診 断 され た の で 加 療

目的 で 循 環 器 科 へ 転 科 した.

考 察

最 近,猫 引 っ か き病 の病 原 体 と して グ ラ ム陰 性

桿 菌 で あ るB.hense/aeが 注 目 され て い る2)4)～6).

従 来 か ら猫 引 っか き病 の 診 断 基 準 と して,1.猫

との 接 触 歴 が あ り,引 っ掻 き傷 ま た は 皮 膚 か 眼 に

病 変 を有 す る,2.皮 内 反 応 が 陽 性,3.他 の リ ン

パ 節 腫 脹 を示 唆 す る検 査 結 果 が み られ な い,4.特

徴 的 な リンパ 節 の 病 理 組 織 像 の4項 目の う ち3項

目 を満 足 す る こ とが 必 要 で あ る とさ れ て きた.し

か し,皮 内反 応 の 入 手 が 困難 で 抗 原 の安 全 性 に 問

題 も あ り現 在 は 用 い られ て い な い.ま た,リ ンパ

節 生 検 な どの 観 血 的 検 査 は本 症 が 予 後 の 良 い感 染

症 で あ る こ と を考 慮 す る な ら勧 め られ る検 査 法 で

な い.そ の た め,血 清 診 断 法 の 開 発 が 必 要 で あ っ

た.近 年 に な っ て猫 引 っか き病 の起 炎 菌 で あ る β

hense/aeの 血 清 抗 体 価 測 定 が 可 能 と な っ た.欧 米

で は間 接 蛍 光 抗 体 法(IFA)が 繁 用 され,診 断 法 の

一 つ と して確 立 され つ っ あ る2)一`).ま た,酵 素 抗 体

法(EIA)も 開 発 され コ マ ー シ ャル ベ ー ス で 使 用 さ

れ て い る7).我 が 国 で は吉 田 ら が 初 め て 猫 引 っ か

き病 患 者 のB.hense/aeに 対 す る抗 体 をIFA法 で

検 討 したD.10例 の 検 討 で あ った が50%に 抗 体 価

の 上 昇 を認 め,我 が 国 の猫 引 っか き病 に もB.hen-

selaeが 関 与 して い る こ とを 明 らか に した.今 回,

我 々 はEIA法 に てB.hense/ae抗 体 価 を 測 定 し

た.EIA法 はIFA法 よ り高 感 度 で あ る こ とが 報

告 され て い るが7)8),抗 体 価 上 昇 の 検 出 され る期 間

平成9年10月20日

1078 草場 信秀 他

は 明 らか に さ れ て い な い.発 症 か らか な り経 過 し

て い た た め かIgM型 抗 体 価 の 上 昇 は と ら え ら れ

な か った.し か しIgG型 抗 体 価 の 推 移 に よ りB.

henselaeの 感 染 が 証 明 され た.

本 症 例 を従 来 の 診 断 基 準 に適 合 さ せ て み る と,

猫 との 接 触 歴 はあ るが,受 傷 歴 は明 らか で は な く

皮 膚 所 見 も認 め な か っ た.HTLV-1抗 体 陽 性 で あ

り,リ ンパ 腫 型ATLを 完 全 に否 定 で き な か った.

適 合 す る も の は リ ン パ 節 の 病 理 所 見 の み で あ っ

た.し か し,Warthin-Starry染 色 で桿 菌 を認 め る

こ と や,EIA法 に よ る 血 清 診 断 の 結 果 か らB.

henselaeが 起 炎 菌 で あ る 猫 引 っか き 病 と診 断 さ

れ た.猫 引 っ か き病 の診 断 に とっ て,我 々 の症 例

の様 に苦 慮 す る場 合 はIFA,EIA法 な どの 血 清 学

的診 断 法 が 有 用 と考 え られ る.し か しな が ら,抗

原 性 の変 異 の た め 従 来 のIFA法 で は陽 性 とな ら

な い 症 例 も存 在 す る こ と がDrancourtら に よっ

て 報 告 され て お り9),そ の 結 果 の 解 釈 に は注 意 が

必 要 で あ る.

血 清 学 的 診 断 法 は簡 便 で あ る こ とか ら,将 来,

従 来 の 猫 引 っ か き病 の診 断 基 準 に とっ て か わ る可

能 性 が 大 き い と思 わ れ る.

稿 を終 えるにあた り,B.hense/ae抗 体価の測定 に協力 を

頂いたSRLに 深謝致 します.尚,本 論文 の要 旨は,第237

回日本内科学会九州地方会(平 成9年5月,開 催地大分)

で発表 した.

References

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scratch disease in Japan. Microbiol Immunol

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kins BA, Regnery RL, Edwards KM : Ser-

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setae in pathogenesis of AIDS encephalopathy.Lancet 1992 ; 340: 1722-1727.

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感染症学雑誌 第71巻 第10号

EIA法 が有用であった猫引 っか き病の1例 1079

A Case of Cat Scratch Disease Identified by an Elevated Bartonella

henselae Antibody Level Using Enzyme Immunoassay

Nobuhide KUSABA, Hiroko NAKAMURA, Kohji YOSHIMOTO, Hideaki OGATA,Michio SATA & Kyuichi TANIKAWA

Second Department of Medicine, Kurume University School of Medicine, KurumeAkiko KUSABA

First Department of Pathology, Kurume University School of Medicine

Hiroshi YOSHIDADepartment of Medicine, Yame General Hospital

A 68-year-old male was admitted to our hospital because of fever and a 2-week history of

inguinal adenomegaly. Since he owred a cat, cat scratch disease was suspected. But it was

necessary to distinguish cat scratch disease from lymphoma type adult T-cell leukemia because

he showed a high level of antibody against HTLV-1. An excisional biopsy of the inguinal nodewas performed. Histopathologic examination revealed abscess-forming granulomatous

lymphadenitis compatible with cat scratch disease. A Warthin-Starry silver stain showed

pleomorphic bacilli in the lymph node. So we confirmed a serological response to Bartonellahenselae, the causative agent of cat scratch disease, using enzyme immunoassay (EIA). The IgG

antibody level to B. henselae was positive at 42 EIA Unit before treatment. After treatment withintravenous cefepime and oral tosufloxacin, his physical symptoms improved and the antibody

level decreased to less than 12 EIA Unit. EIA was very useful for diagnosis of this case. Serology

to B. henselae may replace traditional diagnostic criteria for cat scratch disease.

平成9年10月20日