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貧困削減戦略の考察PRSP におけるオーナーシップから― 貧困削減戦略の考察 PRSP におけるオーナーシップからリベラルアーツ学群 4 207D0087 伊藤のはら 指導教員 牧田東一 1

貧困削減戦略の考察 - 桜美林大学...貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから― 序章 『世界がもし100 人の村だったら』。この著書やテレビ番組を知っている人も多いだろう。筆

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

貧困削減戦略の考察

―PRSP におけるオーナーシップから―

リベラルアーツ学群 4 年 207D0087 伊藤のはら

指導教員 牧田東一

1

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

目次 序章 ......................................................................................................................................3 第 1 章 「貧困削減」への過程

第 1 節 世界銀行の概要.................................................................................................4 第 2 節 これまでの開発.................................................................................................6 第 3 節 現在の援助方向.................................................................................................8

第 2 章 貧困削減戦略ペーパーの意義と問題点―オーナーシップを例に―

第 1 節 貧困削減戦略ペーパー(PRSP)とは.................................................................10 第 2 節 PRSP の意義...................................................................................................12 第 3 節 PRSP の考え方の問題点.................................................................................13 第 4 節 第 2 章のまとめと今後の展開 .........................................................................14

第 3 章 貧困削減戦略ペーパー作成の実際―タンザニアの例― 第 1 節 タンザニアの概要 ...........................................................................................15 第 2 節 タンザニア PRSP 作成の概要 ........................................................................17 第 3 節 I-PRSP から第 1 次 PRSP 作成の実際 ...........................................................17 第 4 節 第 2 次 PRSP 作成の実際 ...............................................................................19 第 5 節 タンザニア PRSP 作成の考察 ........................................................................20

終章 貧困削減戦略の課題と今後

第 1 節 オーナーシップとグッド・ガバナンス...........................................................22 第 2 節 貧困削減戦略の今後........................................................................................23 第 3 節 日本の貢献 ......................................................................................................23

参考文献 .............................................................................................................................25 参考 HP..............................................................................................................................27

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

序章

『世界がもし 100 人の村だったら』。この著書やテレビ番組を知っている人も多いだろう。筆

者が貧困問題を学ぶきっかけともなったものである。この本の中では、全世界を 100 人の村に縮

小すると、6 人が全世界の富の 59%を所有し、80 人は標準以下の居住環境に住み、70 人は文字

が読めず、50 人は栄養失調に苦しみ、たった 1 人が大学の教育を受けている、などの人口統計比

率が記されている[池田 2001]。

現在、筆者を含め大半の日本人は、先進国と呼ばれる日本で物質的に不自由ない生活を送って

いると言える。しかし、それは世界の中のほんの一部であって、この地球上には貧困という問題

を抱え、私たち先進諸国とは全く異なる生活をしている人々が数多くいるという現実がある。

筆者は、自分自身の生活と比較することで、上に記したような不平等な世界に問題を感じてき

た。そして、貧困や飢餓、差別などがない平和な世界にするためには、何ができるのかを考えた

いと思い、大学で国際協力について学んだ。そこでは、国際協力の幅の広さや問題の深さ、多様

性を痛感した。国際協力といっても多岐にわたり、例えば戦争・紛争、地球環境問題、ジェンダ

ー、子どもの権利、教育、保健衛生、難民・移民、市民社会、などの分野がある。そして、その

どれもが独立して存在しているのでなく、関連しているということを学んだ。同時に、それら多

くの問題には、貧困という問題が根本に存在し影響を与えていて、その解消こそが平和な世界を

創造する上で必要だと筆者は理解した。

そこで、この論文では、「貧困削減」というテーマに沿い研究を進める。その際、世界銀行が

途上国に作成を義務付けている貧困削減戦略ペーパー(PRSP)に基づき、現代の貧困削減戦略とは

どのようなものなのか、今後どうなっていくのか、研究していきたい。世界 大の援助機関とい

われ、開発援助界において多大な影響力を持っている世界銀行が打ち出す現在の貧困削減戦略は、

果たして有効なのか、その意義や問題点を、オーナーシップという理念から考えたい。

世界的には、国連から「ミレニアム開発目標(MDGs)」という世界共通の目標が掲げられ、PRSP

も含め、基本的に開発政策は MDGs 達成に向けて進められている[朽木 2004:92]。MDGs の中で

も極度の貧困の撲滅は目標の一つとして取り上げられており、貧困削減、及びそのための一体化

された援助方針である PRSP がどのようなものであるか探っていくことは意義のあることだと考

える。

第 1 章では、なぜ近年の開発援助界で貧困削減が重視されるのか、貧困削減戦略への過程をた

どる。第 2 章では、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)について、その特徴や性格に触れ、途上国のオ

ーナーシップという理念を取りあげ、PRSP について考察する。

第 3 章では、日本で実際に PRSP の作成に携わった人物へのインタビューを元に、実際の現場

での PRSP 作成の現状を見ていき、終章でオーナーシップのあり方や貧困削減戦略の今後につい

てまとめる。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

第 1 章

「貧困削減」への過程

第 1 章では、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)に大きく関わり、世界的にも世界 大の援助機関

といわれている世界銀行について論じる。なぜ、世界銀行は貧困削減を重視する昨今の考え方に

至ったのか、その過程を見ていく。世界銀行を対象にするのは、開発援助において同機関が途上

国にとって主要なドナーであり、金銭的にも能力的にも影響力が非常に大きいと考えられるから

である。

第 1 節で世界銀行の概要を述べた後、第 2 節でこれまでの開発政策について構造調整政策を中

心に振り返り、第 3 節ではその結果としての近年の開発援助界における援助の方向性・潮流をま

とめる。

第 1 節 世界銀行の概要

まず、世界銀行の概要を説明する。

世界銀行(以下世銀)とは、後に述べる国際通貨基金(IMF)とともに、第 2 次世界大戦後の資本主

義世界システムを支えてきた国際金融機関である [北沢・村井 1995:8]。

4

ていく。

世銀とは一般的に、市場金利での貸付を行う国際復興開発銀行(IBRD)1と、条件の緩やかな融

資を行う国際開発協会(IDA)2の 2 機関を指すことが多い。また、世界銀行グループというのは、

上記 2 つの機関に加え、民間企業を対象に開発投融資を行う国際金融公社(IFC)、投資の非商業的

リスク保証と政策助言をする多数国間投資保証機関(MIGA)、投資紛争の調停・仲裁を行う投資紛

争解決国際センター(ICSID)の 3 つの機関を加えたものである[世界銀行東京事務所HP

2010/1/19]。この論文では、IBRDとIDAを世銀と位置づけ、話を進め

なお、名目上世銀は国連グループに属しているが、その予算や人事、意思決定は国連とはほと

んど関係を持たず、独立した組織である[大野 2000: 25]。

(1)設立

世界銀行は、1944 年に開催されたブレトンウッズ会議3によって、第 2 次世界大戦後の世界経

済体制の柱の一つとして、IMF(IMFについては後述)とともに設立が合意された。翌年 1945 年に

正式に発足し、加盟国は各国の政府であり、一般的に融資の対象は政府や公的機関である。

1 International Bank for Reconstruction and Development の略。加盟国は 184 カ国と世銀グループの中でも

多であり、中心的存在となっている。 2 International Development Association の略。ヨーロッパ復興後、途上国に目が向けられ始めた結果、 貧途

上国により緩やかな条件で貸し出しができる機関として 1960 年に創設された。グラント(贈与)に近い融資を行う。 3 連合国代表が米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズに集合し、戦後の世界経済の安定と復興について協議

したもの。

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設立当初は、国際復興開発銀行という正式名称に示されるように、第 2 次世界大戦後のヨーロ

ッパ諸国の復興を目的として業務を行っていたが、復興後は発展途上国の開発へと重点を移して

いった。1960 年の IDA の設立もその潮流による[大野 2000:23-24]。

(2)目的・使命

世銀は、設立後やがてヨーロッパが復興すると、世界情勢に影響を受け何度もその形や目的を

変えながら、現在に至っている。

現在は、貧困のない世界の実現を目指し、発展途上国の開発のため、発展途上国や移行経済諸

国に対しての融資や調査研究によって支援を行っている[大野 2000:23]。

(3)特徴・強み

世銀は、世界全地域を対象に、援助開発分野において幅広い活動を展開していることが特徴で

ある。その強みとしては、開発のプロジェクトにおいて経済・財務・社会・制度・技術・環境な

どの多角的視点で評価する能力を兼ね備えていることがまず挙げられる。また、世界 大の援助

機関ともいわれるように、支援のための大規模な資金を動員できることや、調査分析に基づいて、

各国の政府と政策対話を行える能力があることなども強みである。これらの能力によって、これ

まで開発援助界においてリーダーシップをとってくることができた [大野 2000:24-25]。

(4)IMF との関係

ここで、しばしば世銀とともに取り上げられる IMF との関係について整理しておく。

国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)は、前述のブレトンウッズ会議によって世

銀とともに設立が決定された。IMF の主な目的は、世界経済が安定を保ちながら発展していける

ように、加盟国に為替の安定と為替制限の撤廃の義務を持たせ、その収支の赤字には融資を行う

というものである。当時は、姉妹機関として世銀とともに資本主義世界システムの再建・強化と

いう明確な目的を持っていた[北沢・村井 1995:10]。

世銀と IMF は、前者が主に開発援助、後者が国際金融という違いがあるといえる。世銀は 20

~30 年といった中長期の開発問題に広く取り組み、IMF は金融的側面を中心に 1 年程度の短期の

融資を行う[大野 2000:33]。

そして、これら 2 つの機関は、合わせてブレトンウッズ機構と呼ばれる。このブレトンウッズ

機構は、第 2 次世界大戦の勝利国であるアメリカを中心としたものであり、それぞれの 高権力

者はアメリカ人とイギリス人が就くのが慣例となっている[北沢・村井 1995:11-15]。

世銀について言えば、世銀総裁を任命するのはアメリカ政府であり、世銀職員の人事権を持つ

のは世銀総裁である。よって、世銀の開発戦略の決定には、アメリカ政府の意向や、世銀総裁の

意向が大きく関係する[朽木 2004:89]。

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これら両機関は、たびたび世界的に批判の対象ともなってきた。批判され始めた理由としては、

西側の資本主義の性格が強く、その世銀や IMF が行った経済開発が、南の途上国において貧富の

差の拡大や環境破壊、人権侵害などを引き起こしたとされるからだ[北沢・村井 1995:11-15]。

第 2 節 これまでの開発 第 2 節では、これまでの世銀の開発援助を見てみる。

世銀の行ってきた開発支援活動の中でも、もっとも大きな批判を受け、失敗だったとされてい

るのが構造調整である。第 2 節ではこの構造調整を主に取り上げ、世銀の変革の歴史を振り返る。

(1)世銀の開発の主な歴史

まず、世銀設立後これまでどのような分野が重視され、支援活動が行われてきたのか見てみる。

表 1 世銀の主な支援分野と考え方

~1950s

1960s

1970s

1980s 1980s 後半

1990s 1990s 後半

第 2 次世界大戦後の、欧州の経済復興支援

経済成長志向の開発。経済インフラ整備に重点。「トリックル・ダウン4」思考

「人間の基本的ニーズ(BHN)」の視点→農村開発、教育、保健衛生、栄養など

構造調整融資の開始→経済改革支援にシフト

経済危機からの貧困層・社会的弱者保護、ジェンダー、環境の視点追加

市場経済化支援、持続可能な開発、人間中心の開発

「包括的な開発フレームワーク(CDF)」、「貧困削減戦略ペーパー(PRSP)」。

貧困削減や非経済的側面支援重視

([大野 2000:30]より筆者作成)

設立から 60 年代までは、経済成長志向の開発戦略が支配的であり、電力や運輸部門など経済イ

ンフラ整備が中心に行われ、これは戦後復興をめざすヨーロッパや日本のニーズに合っていた。

しかし、70 年代に入ると、経済成長と所得配分の関係性への疑問や貧困問題が顕著になり、そ

こから貧困層に重点を置いた「人間の基本的ニーズ(Basic Human Needs: BHN) 5」という概念が

生まれた。

80 年代になると、70 年代にオイルマネーをあてに借金を続けた一部の開発途上国で、対外債

務の増大、国際収支危機、財政赤字などの債務危機、経済危機が起こった。このようなマクロ経

済の不均衡が存在すると、経済政策を根本的に変革しなければ、いくら融資を行ってもこれまで

のプロジェクトの効果は得られないという状況であった。これを受け、世銀と IMF は構造調整融

資(SAL)を導入していく[大野 2000:27-28]。

4 資本蓄積の不足が克服され経済成長が持続すれば、その成果は自動的に国内全体に浸透し、停滞している部門

の経済成長も成果が出るという考え方である[国際協力機構 2003:xi]。

6

5 BHN とは、生活水準に基礎を置く考え方で、具体的には 低限必要とされる一定量の衣食住の設備や、安全な

水、衛生、教育などを指す[国際協力機構 2003:i]。

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構造調整の目的は、短期的に国際収支の赤字を緊急の融資で埋めること、そして途上国などマ

クロ経済の安定化のために、中長期で構造を調整することであった。構造調整融資は、途上国政

府が構造調整政策を実施するという融資条件(コンディショナリティー)のもと行われ、1980 年か

ら 1991 年まで 75 カ国という多くの途上国で実施された[朽木 2004:41-42]。

そして、80 年代後半になると、経済危機や構造調整政策からマイナスの影響を受ける、貧困層

や社会的弱者への配慮の必要性が認識され始めた。SAL導入当初、世銀の想定では経済危機の克

服と成長軌道への修正は数年で達成されると見られていたため、貧困層への特別措置は不要だと

されていた。しかし、実際は仮定通りにいかず、ソーシャル・セーフティネット6という観点から

再び貧困問題に重点が置かれるようになったのである[大野 2000:28-29]。

やがて、冷戦後の 90 年代以降は、体制移行国の市場経済化支援、環境・社会・制度など非経済

的側面、地球規模視点の持続可能な開発などに重点が置かれた。また、アフリカに象徴されるよ

うに、構造調整政策がうまく機能しなかった 貧国に対する支援も強化され、CDF(詳細は第 3 節)

や貧困削減といった概念が現在は重視されている[大野 2000:29]。

このように、今日に至るまでの世界銀行は、経済成長から貧困問題へ重点分野をシフトし、そ

れを何度か繰り返しながらその活動を拡大、展開してきた。中でも大きな変革だったのは、1970

年代マクナマラ総裁の、貧困問題への方向転換であった[大野 2000:30-31]。

(2)構造調整とは

世銀変革の全体の流れを見た上で、ここからはとりわけ問題視される、IMF とともに行った構

造調整を取り上げる。

構造調整とは、前述したように、途上国の収支の修正と、経済構造の調整を目的とした経済改

革のことである。世銀には、構造調整融資(SAL)に従って実施される構造調整プログラム(SAP)

があり、これがマニュアル化され、どの国に対しても共通の政策が実施された。SAPの原則は経

済の自由化であり、これは「ワシントン・コンセンサス7」という、価格の自由化を中心とする政

策として知られる。この政策を実施することが融資の条件であった[朽木 2004:43]。

しかし、本来国際通貨の調整機関である IMF と、開発融資を行う世銀が構造調整政策を押し付

けることは、主権国家の経済への介入であり、それぞれの権限を逸脱したものであった[北沢・村

井 1995:58]。

(3)構造調整の結果

7

構造調整政策が、世界中の多くの国で実施されたが、その後の展開は国ごとに異なっている。

様々な意見の対立はあるが、一言で言うと、中所得国では一定の成果を上げたが低所得国では失

敗した、というのが一般的な見解である。

6 貧困軽減のための総合的施策として提供されるもので、飢餓などの予想外のショック等から貧困層を助けるた

めの生活保障制度の総称である。食料補助、公的雇用制度、社会保障などがある[国際協力機構 2003:x]。 7 1993 年世銀の J.ウィリアムソンによってまとめられたものである。(1)為替レートの自由化、(2)金利の自由化、

(3)貿易の自由化、(4)外資の自由化、(5)民営化、(6)規制緩和、(7)公共支出改革、(8)税制改革、(9)財政の自律、(10)私的所有権の保障等 10 カ条からなる[朽木 2004:43]。

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実際、構造調整政策の履行率が高い国ほど財政赤字は小規模にとどまり、成長も高いという世

銀の実証結果もある[北村 1993:139]。しかし、低所得国や 貧国において、2000 年を目途に対

外債務残高を帳消しにせざるを得なくなったことなどから、構造調整の基本的な目標であった債

務返済能力の構築は達成されず、この構造調整の試みは失敗であったといえる[坂元 2008:87]。

また、構造調整が大きな批判を受けた理由として、貧困層や社会的弱者に悪影響を及ぼしたと

いう点がある。債務の急増や貧富の格差の拡大、失業の増大、物価の高騰、環境破壊、低賃金、

教育・医療支出の削減、さらに民主主義の弱体化など、様々なデータをもとにNGOなどから強く

批判されている8[北沢・村井 1995:78-141]。またこのような不満から、各地で多くの暴動も起こ

った[坂元 2008:92-93]。

(4)問題点・反省

では、上記のように構造調整が債務を軽減できず貧困をより悪化させた原因は何なのか、主に

世銀の計画の設計いう視点から考えてみる。

反省点として挙げられるのは、主権国家政府に対する IMF.と世銀の過度の政策介入である。債

務を抱えた途上国政府は、構造調整政策を受け入れなければあらゆる資金の供給を断たれてしま

うため、融資条件であった構造調整政策を実施せざるを得なかった[北沢・村井 1995:20]。よっ

て、これは強制的に執行されたものであり、途上国政府のオーナーシップの欠如という問題を生

じた。また、その政策条件は過大であり、当該政府の実施能力も無視されていた。この点につい

ては、世銀も自身のレビューで指摘している[坂元 2008:88]。

また、構造調整のスピードと順序も指摘されていて、世銀などが急速な実施を求めたこと、政

策実施の順序をすべて同時に行うことを求めたことによる失敗でもある[坂元 2008:89]。

第 3 節 現在の援助方向 第 2 節では、構造調整を中心にこれまでの世銀の援助活動を見たが、第 3 節では、これらの失

敗を受け生まれた、現在の開発援助界における開発援助の方向性を説明する。

現在、世銀などの国際開発機関を初め、途上国や援助国など援助界で活発に議論されているの

が、この論文のテーマでもある貧困削減である。これは、90 年代の経済偏重の姿勢を世銀自身の

経験や研究結果を通して反省したことに加え、2001 年 9 月 11 日の米国同時多発テロによる影響

も受けている。9.11 によって、テロと貧困問題の関係性や、平和構築の意識が高まり、重要性が

再認識される契機となった[国際協力機構 2003:1-2]。

そして、貧困削減重視の近年において認識されている主な概念は、包括的開発フレームワーク

(Comprehensive Development Framework: CDF) 、 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 (Millennium

Development Goals: MDGs)、参加型、持続可能性、パートナーシップ、そして、第 2 章以降取

8

8 一方で、構造調整全体から見ると貧困面の軽減は副次的なものであり、SAP がなければ経済状況はさらに悪化

していて、国際収支赤字是正という根本的な問題解決のためには致し方なかったという見方もある[坂元 2008:94]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

り上げる貧困削減戦略ペーパー(PRSP)やオーナーシップなどである[秋山・秋山・湊 2003:9-10]。

どれも関連してくる概念であるが、この論文に関連するものをいくつか簡単に説明する。

まず、CDFというのは、開発とはそれぞれの国がオーナーシップを持ち、参加する枠組みによ

り、包括的なアプローチで実施されるべきだとした総合的・包括的な開発貧困削減計画である。

1998 年に世銀の総裁ウォルフェンソンによって提唱された9[国際協力機構 2003:i]。

MDGsというのは、国連や世銀、IMFによって 1990 年代に策定された国際開発目標を、2000

年に国連が採択したものである。これは、世界の貧困層の生活を改善するために、達成可能な利

益を特定し、数量化していて、世銀も援助戦略として掲げている10[世界銀行 2005:42]。MDGs

は、各援助国、国際機関、途上国、市民社会などから強い国際的コンセンサスを得ているといえ

る[国際協力機構 2003:5]。

また、参加型とは、「参加」を単に開発援助を効果的に行う手段としてとらえるのではなく、

基本的な人権、エンパワメントの過程としてとらえ、開発において多くの利害関係者が関わる概

念のことである[国際協力機構 2003:164]。

PRSP とオーナーシップについては第 2 章で論じるため、ここでは省略する。

現在の援助の潮流をまとめると、何度も言うように、「貧困削減」が 1 つの大きな開発目標と

して国際的に認識され、ほとんどの開発アジェンダが貧困問題という枠組みで語られているとい

える。そして、貧困削減のためには包括的なアプローチが必要で、先進国・途上国との援助協調、

持続可能な開発の認識などが広がっている[国際協力機構 2003:3-8]。

様々な要因を経て、援助は経済成長重視から貧困削減や社会開発へと視点が移り、以前の援助

と比べて途上国の主体性や参加、オーナーシップが認められてきたことに筆者は注目したい。構

造調整では、国際機関の過度の介入が反省され現在のような認識が台頭してきたが、果たして実

際にそのようなオーナーシップの概念が開発において公正に適用されているのか、その概念に問

題や限界はないのか、第 2 章以降で見ていきたい。

9

9 基本概念は、①当該国自身のオーナーシップによる開発アジェンダの作成、②開発関係者との強力なパートナ

ーシップの構築重視、③開発効果を達成するためのツールであること、④マクロ経済とともに、市場経済の基盤

も重視する、という 4 点である[国際協力機構 2003:i]。 10 2015 年までの達成目標は以下の 8 つである。①極度の貧困と飢餓の撲滅、②初等教育の完全普及、③ジェン

ダーの平等・女性のエンパワメントの達成、④子どもの死亡率削減、⑤妊産婦の健康の改善、⑥HIV/AIDS・マラ

リアなどの疾病の蔓延防止、⑦持続可能な環境の確保、⑧グローバルな開発パートナーシップの構築[国際協力機

構 2003:xiii]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

第 2 章

貧困削減戦略ペーパーの意義と問題点

―オーナーシップを例に―

第 2 章では、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)について、その意義や問題点を考察し、現代の貧困

削減の取り組みについて考えを深める。PRSP は、第 1 章で触れた「貧困削減」の概念が具体化

されたものであり、現在多くの途上国が作成している。この文書やその概念を見ていくことは、

貧困削減戦略を知る上で効率的であると考える。

なお、PRSP には、理念や原則に対するある程度の評価、あるいは現実とのギャップという指

摘など、様々な声が上がっている。その中でも第 2 章では、PRSP の意義、そして議論を呼んで

いる理念などについて、PRSP の中でも重要な理念である途上国のオーナーシップを取り上げな

がら見ていく。この議論に対する実際の状況の分析や論証は、第 3 章で行うこととする。

第 1 節では、まず PRSP の概要を説明する。そして第 2 節で、PRSP ができたことやその理念

に対する意義を説明し、第 3 節では PRSP の問題点を、オーナーシップの概念から説明する。

第 1 節 貧困削減戦略ペーパー(PRSP)とは まず、貧困削減戦略ペーパーがどのようなものか、その概要や理念を説明する。

貧困削減戦略ペーパー(PRSP)とは、第 1 章で見てきた、貧困削減や MDGs、CDF の概念を受

けて、1999 年以降新たに開発されたものであり、簡単に言えば CDF の内容や原則を行動計画と

して示したものだと言える[柳原 2004:20]。

(1)概要

PRSP(Poverty Reduction Strategy Paper: PRSP)は、1999 年世界銀行・IMF の年次総会にお

いて、重債務貧困国11およびIDA融資対象国に対して作成を要請することが決定された。PRSPは、

貧困削減を達成するため、3~5 年の期間においてなすべき政策に焦点をあてた、経済・社会開発

の戦略、行動計画である[外務省HP 2010/1/21]。途上国政府がオーナーシップを持ち、ドナーや

NGO、市民など幅広い関係者とともに作成するものである[国際協力機構 2003:iii]。また、この

PRSPが、世銀やIMFからの融資の判断材料となり、PRSPの実施が融資の条件となる。

2003 年 11 月時点では、35 カ国で 終版 PRSP が策定され、暫定版は 47 カ国で策定されてい

る[外務省 HP 2010/1/21]。

10

(2)目的

11 HIPC イニシアティブ(重債務貧困国救済計画)の対象国で、アフリカに多い[ 牧野・足立・松本 2001:29]。HIPCイニシアティブは、貧困国が対処できないほどの債務を抱えないよう、1996 年に IMF と世銀により提唱された

もので、二国間もしくは国際機関に対する債務の負担を軽減する包括的なスキームのこと[国際協力機構 2004:用語解説]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

PRSP が作成される目的は、低所得国の貧困削減を推進すること、世銀・IMF の債務削減国認

定の判断材料となること、CDF の概念を行動につなげること、途上国が明確なビジョンと計画に

基づいた貧困削減に取り組むこと、などである[世界銀行東京事務所パンフレット 2004:1]。

(3)原則・理念

PRSP は、以下の 6 つの原則を持つ。

① 当該国のオーナーシップ

PRSP は、途上国の主導によって作成・モニタリング・評価されなければならないとされ、そ

の主体性を重視する[牧野・足立・松本 2001:22]。これは、これまでの戦略とは異なっていて PRSP

の大きな特徴である[世界銀行東京事務所 HP 2010/1/21]。

② 結果重視

まず、その国の貧困の現状や原因を分析し、DACの国際開発目標12に基づいた達成目標を設定

し、その上で目標達成の政策手段を選択する、というものである。また、その指標に基づいて評

価を行い、結果を反映させた新たな政策の実施・評価とういうプロセスを踏んでいく [牧野・足

立・松本 2001:22]。

③ 包括性

経済成長を、貧困削減の基盤とはするものの、十分条件とするのではない。各部門の問題、構

造的な問題も幅広く対象とする包括的アプローチを基本とする [牧野・足立・松本 2001:22]。

④ 優先付け

制度や機構、財政の面から、より実現可能な導入を目的とし、その優先順位をつけて実施して

いく [世界銀行東京事務所パンフレット 2004:1]。この原則は、省略されることもある。

⑤ パートナーシップ

途上国のオーナーシップの下、各ドナー、国際機関、市民社会、NGO、学界等幅広い関係者の

参画を経て作成されることが重要である、という考え方である。これによって、各関係者が PRSP

に対する所有意識を持ち、戦略が持続性を持って実施されるようになる[牧野・足立・松本

2001:22]。

⑥ 長期的取り組み

貧困削減、および国の能力構築には時間がかかるため、長期的視野で計画・実施を考え、必要

に応じて中間目標も定める。また、ドナー側も、PRSP に対して中長期的なコミットメントをす

るべきである、という原則である[牧野・足立・松本 2001:22-23]

(4)構成要素

PRSP には、以下の 4 つの内容を含むとされる。

①指標を用いた貧困診断・現状分析

11

12 DAC (Development Assistance Committee)とは OECD(Organization for Economic Co-operation and Development)開発援助委員会のことである。OECD/DAC 開発戦略に設定された、国際開発目標(International Development Goals)が MDGs に発展した[国連フォーラム HP 2010/1/21]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

②参加者・社会による貧困削減ビジョンの共有

③結果を重視した上での、貧困削減のための政策優先順位設定

④参加型による、政策実施とそのモニタリング [下村・辻・稲田・深川 2009:92-93]

(5)I-PRSP について

PRSP を作成することは、世銀等のドナーから援助を受ける条件(コンディショナリティー)であ

る。しかし、PRSP の内容は広範であり様々な分野を含むため、その作成には時間を要する。そ

のため、PRSP 完成前にも、貧困の現状とこれまでの取り組みの分析、PRSP の作成手順を示し

た暫定版 PRSP(Interim PRSP: I-PRSP)を提出することによって、支援を受けられることとなっ

ている。

途上国政府に求められることについて、上記の概要をまとめると、実施においては貧困の多く

の面に注意を払い、貧困削減の長期の方針を踏まえること、実行可能であり成果の高い政策やプ

ログラムを優先すること、などである。また、運営においては、意思決定の過程における広範な

参加を確保し、オーナーシップの下での援助協調およびパートナーシップを図ることである[柳原

2004:20-21]。

第 2 節 PRSP の意義 第 1 節での PRSP の概要を見た上で、本節ではその理念や策定の意義を考えてみたい。

まず、PRSP のようなアプローチの全体の評価としては、IMF や世銀といった資金や権力を持

つ世界的な機関が、貧困削減を 重要課題とし、貧困削減戦略を援助の大もととすることを明示

したことが大きい。そして、世銀と IMF の両機関が共同の方針を打ち出したということは、開発

援助界での援助協調へとつながる[柳原 2004:21]。筆者も、この点については同感である。世銀

のような、援助界でリーダーシップをとってきた国際機関が貧困削減を大々的に掲げることで、

各国政府や国際機関などでその潮流ができる。これまで、たとえば構造調整では、NGO や市民社

会などとの同意がなされないまま行われてきた援助が、貧困削減戦略は国際的なコンセンサスを

得て行われると考えられる。

また、国内の政治的対話の空間が作られたこと、モニタリングのプロセスが貧困削減戦略の質

をあげうること13なども評価される。そして、各国政府が貧困問題に注目するようになったこと、

市民社会がこれまでにないほどに貧困政策に関与していること14などもその成果として挙げられ

ている[高柳 2006:6]。

PRSP の原則は、IMF と世銀の経験や反省を受けて打ち出されたものであるため、正しい認識

であるといえる。世銀がオーナーシップを強調するのも、当該国の関与や誓約がなければ政策条

件は遵守されない、という教訓が構造調整で得られたからである [柳原 2004:21]。

12

13 Booth, David(2003) “Introduction” Development Policy Review,Vol.21,No3. から引用。 14 Driscoll, Ruth& Alison Evans (2005) “Second Generation Poverty Reduction Strategies: New Opportunities and Emerging Issues”, Development Policy Review, Vol.23, No.1 から引用。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

このように、開発援助界において、援助協調ができたこと、過去の反省を踏まえた共通の認識

を持つことなど、PRSP のアプローチや理念には一定の評価があるといえる。しかし、途上国主

導を重視する PRSP の理念には指摘の声もある。第 3 節では、オーナーシップの概念を対象にそ

の問題点を見ていく。

第 3 節 PRSP の考え方の問題点 第 2 節で、PRSP は概ね正しい理念を持っていると述べたが、その理念を実際に実現するには

多くの問題もあると言われている。第 3 節では、PRSP の実際を研究する前に、その理念自体を、

オーナーシップの概念を例に疑ってみる。

ここで、現在の潮流で重視されているオーナーシップという概念についてもう少し詳しく説明

する。オーナーシップとは、主体的な関与の度合いのことであり、「参加」という言葉と類似し

ている。開発援助が成功するには、外部から押し付けられた援助ではなく、途上国がそのプロセ

スを所有しているという当事者意識を持たなければならない。PRSP とはそのための手段であり、

国内の貧困削減に向けた途上国政府自らの戦略を示すものである[秋山・秋山・湊 2003:88]。ま

た、途上国は援助機関間の調整にも主導権を持っていて、市民社会や他の部門の参加を奨励し、

援助機関やドナー側もその主導性を尊重する [高柳 2007:132]。

PRSP が批判されるのは、第一にその過大な想定にある。PRSP はオーナーシップを主要理念

の一つとし、その作成や実施においては途上国が主導するべきだとされている。これは、PRSP

や CDF ならではの概念である。しかし、そのオーナーシップについて、当該国政府の行政能力や、

国内(特に地方レベル)での政治過程の想定が妥当でなく非現実的だ、という指摘がある。PRSP は、

貧困削減への長期的な方針やその政策を途上国が作成・評価することを規定しているが、そのた

めには膨大な情報収集と分析能力が必要となる。そのための人、組織、資金について、貧困であ

ればあるほど、当該国の政府の能力には大きな限界があり、結局外部の援助に頼らざるを得なく

なる [柳原 2004:21]。

13

PRSP のオーナーシップの概念は、途上国政府にオーナーシップの所在を一元化した、

「一元オーナーシップ」と言われるモデルである。このモデルでは、外部の援助機関は、当該国

オーナーシップの概念は途上国主導を意味するが、外部の援助に依拠せざるを得なくなると前

述したように、PRSPの作成には世銀が主導的な役割を果たす傾向があるという。作成において、

世銀スタッフの協力が有効であるということは予想されていたが、協力や支援というよりはむし

ろ不可欠な存在として関わることが多く、これではオーナーシップの意義が薄れてしまう可能性

がある。オーナーシップには、「間違いを犯す権利」も含まれると国連は述べており、世銀自身

も、失敗したプロジェクトは貴重な教訓を与えてくれるもので、重要なのは途上国が体系的な知

識を得たかを問うことである、と述べている[秋山・秋山・湊 2003:76-88]。ここに、PRSPで掲げ

た理念や内容における世銀の矛盾や、実際にPRSPの理念を適用することの難しさが表れている15。

また、

15 また、PRSP の作成は HIPC イニシアティブ適用の条件でもあるため、その適用を急ぐあまり十分な検討なし

に作成されることもあり、外部主導・内政干渉という批判もある[坂元 2008:133]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

14

れない、という危険性がある。

上のようなことから、PRSP は、理念としては当該国のオーナーシップを重視しているが、

実際にその概念が十分に適用されるのは非現実的で問題が多い、ということができる。また、そ

で述べた通り、反省を踏まえ誕生したものであり、押

でなはなく、当該国の政府に

が守られ途上国の主導で進

府の開発戦略に沿って開発活動を進めることが求められ、途上国政府に戦略の所有意識が集中

している。一方、「多元オーナーシップ」とは、南側の当該国政府、地方自治体、NGO や市民社

会などが、北側との関係においてそれぞれオーナーシップを持ち、開発活動が進められるモデル

のことである。「多元オーナーシップ」では、援助のオーナーシップは南側全体が持つが、それ

がそれぞれの主体に分散されている。この 2 つのモデルに対し、NGO や市民社会側は、「一元オ

ーナーシップ」によって NGO が政府の下請け機関になりうることを指摘し、「多元オーナーシ

ップ」に基づいた援助を求めている[高柳 2007:128-132]。

つまり、PRSP のオーナーシップの考え方では、途上国政府のオーナーシップを強調するあま

りに、市民社会や NGO が軽視される、貧困者の声が反映さ

第 4 節 第 2 章のまとめと今後の展開 以

PRSP のオーナーシップの考え方自体に疑問の声もあり、市民社会や貧困者の参加・意思決定

段階における不平等が懸念されている。

筆者としては、第 1 章のこれまでの開発を見てきた上で考えると、途上国主導を重視する概念

には概ね賛同できる。それは、本章第 2 節

付けの援助を変革する可能性を持っているという意義からだ。

しかし、ここから注目したいのは、途上国主導というのが現実的に難しいということ、そして

そのオーナーシップは途上国の国民全体や貧困者に与えられたもの

えられたものである、いう点だ。もし、当該国の政府が貧困者の声をとりいれた民主的な国家

でない場合、PRSP は意味を持たなくなってしまうのではないか。

第 3 章では、PRSP のオーナーシップの概念は正しく効果的であるのか、PRSP の実際や現実

を見て考えていきたい。PRSP 作成や実施の段階で、オーナーシップ

られているのか、それによってどのような効果が出たのか、当該国政府のオーナーシップの強

調が貧困層にどんな影響をもたらすか、などの観点を持ち、具体的な国も例に挙げ考察してみた

い。そしてその際、この「一元オーナーシップ」モデルと呼ばれる PRSP の考え方が正しいのか

どうか、常に疑問を抱きながら研究を進めていきたい。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

第 3 章

貧困削減戦略ペーパー作成の実際

―タンザニアの例―

第 3 章では、前章でみた PRSP のオーナーシップの理念を中心に、筆者がインタビューを行っ

た国際協力機構(JICA)の 2 人のスタッフの話に基づいて論じる。本論文では、話を聞くことので

きたアフリカのタンザニアを例に、第 1 次、第 2 次 PRSP の流れに沿って、オーナーシップの理

念と実際との比較、考察を行う。なお、PRSP に基づいて行われた開発や具体的なプロジェクト

の結果については詳しくは触れず、この論文では主に、作成段階での政府・ドナー間の関与の過

程を見ていくことで、実際に直面した課題等について考えていきたい。

第 1 節では、経済状況、開発計画、またオーナーシップを持つ政府の状況など、タンザニアの

基本的概要を説明し、第 2 節から第 4 節は、タンザニアの PRSP 作成に携わった JICA 研究員へ

のインタビューを元に話を進める。第 2 節で、タンザニア PRSP の概要を述べ、第 3 節と第 4 節

では第 1 次と第 2 次それぞれの PRSP 作成の状況を説明する。そして、第 5 節で、実際を見たう

えでのタンザニア PRSP のオーナーシップについて、先行研究で論じた点と照らし合わせながら

考察する。

第 1 節 タンザニアの概要

はじめに、例として取りあげるタンザニアという国について簡単に説明する。

(1)概要、経済状況

タンザニア連合共和国は、東アフリカに位置し、世銀でも低所得国に分類される 貧困国のひ

とつであり、HIPC(詳細は脚注 11 を参照)適用国である。首都はドドマで、政治体制は共和制で

ある。経済状況や開発指標などについては以下の表を参照のこと。

表 2 タンザニアの主要指標

指標(単位) 2008 年

人口(人) 42,483,923

出生時の平均余命(年) 56

GDP(ドル) 20,490,444,784

総額(億米ドル) 184 GNI

(国民総所得) 一人あたり(ドル) 440

経済成長率(%) 7.5

経常収支(百万ドル) -2,307

貧困線未満人口(%) 35.7(2001 年)

15

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

15 歳以上成人の平均識字率(%) 72.6

その他の重要な開発計画 「タンザニア開発ビジョン 2025」

(世界銀行 HP、外務省国別データブック[2009:573 表-1]より筆者作成)

タンザニアは、東アフリカでも も政治的に安定した国のひとつである。経済は、1961 年の独

立後に推進してきた社会主義経済政策の行き詰まりから、1986 年以降は、世銀・IMF の支援を

得て市場経済へと転換している。GDP の約 4 割が農業部門だが、近年は観光や鉱物資源の産業が

好調で、2009 年の GDP の成長率は 5~6%(推定)と順調に推移している。財政は歳出が超過であ

るが、現在ドナーの協力を得ながら、貧困削減戦略の下でその実施に取り組んでいる。現政権で

の主要な課題は、高い経済成長率をいかに貧困削減につなげるかという問題である[外務省

2009:572]。

(2)開発計画

タンザニアは、1997 年に国家開発戦略として「貧困撲滅戦略(NPES:National Poverty

Eradication Strategy )」を策定し、1999 年には「タンザニア開発ビジョン 2025」によって、開

発の方向性を示した。このビジョンでは、生活の質の向上、グッド・ガバナンスと法の支配の確

保、強く競争力のある経済を目指している[外務省 2009:572]。

(3)政府の状況16

当該国政府のオーナーシップが重視される PRSP において、政府の行政能力や機能は非常に重

要だと筆者は考える。筆者インタビューによると、タンザニア政府には主に人材と予算不足とい

う 2 つの問題が存在する。

タンザニアは、官僚型国家の国とされており、政府の体制自体は比較的整っていた。政府の能

力としては、財政が厳しかったことから、地方への予算やサービスが十分に行き渡らない点があ

ったことが指摘される。このことは、政府と、地方・貧困層との信頼関係が十分であったとはい

えない要因のひとつとしてあげられる。

また、80 年代の構造調整による公務員改革で、政府のスタッフ数が大幅に削減され、人材不足

であったことも問題である。同改革により新規採用にも影響し、また人材育成なども十分に行わ

れなかったと考えられる。構造調整による緊縮財政のため、スタッフ数は減ったものの、予算は

開発に優先すべきところ、まず人件費に充てられ、その残余予算により開発が行われるという状

況にあった。このような点では、第 2 章第 3 節で指摘したような、当該国政府の能力問題が実際

に存在していたといえる。

16 16 2010 年 6 月 16 日 JICA スタッフへの筆者インタビューより。スタッフの詳細は次項脚注 17 を参照。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

第 2 節 タンザニア PRSP 作成の概要 本節から第 4 節は、筆者が行ったインタビュー17に基づいて話を進める。第 2 節ではまず、タ

ンザニアPRSPの概要を説明する。

(1)タンザニア PRSP 策定状況

1999 年に提示した「タンザニア開発ビジョン 2025」を基礎に、2000 年 3 月に暫定版である

I-PRSP を作成、同年 10 月には第 1 次 PRSP を策定している。そして、2005 年 6 月には第 2 次

PRSP、通称 MKUKUTA が策定された[世界銀行 HP 2010/6/27]。

第 1 次 PRSP は主に、社会セクター、教育セクターなどの 7 分野が優先課題とされ、分野別視

点からの貧困削減戦略であった。一方、第 2 次 PRSP では、成長戦略をはじめ、さらに幅広い分

野が取り入れられ、クラスター式の戦略が取られている。

(2)策定関係者

タンザニアの PRSP 作成に携わった主な関係者は以下の通りである。

タンザニア政府(財務省)、NGO、ドナー国、国連、地域開発銀行、世界銀行、

IMF[国際協力機構 2004:84]

PRSP 作成は、セクターによって教育省などライン省庁も関わるが、主に財務省が中心となっ

て協議が進められた。ドナー国には、日本を含め、イギリス、北欧諸国など 20 カ国程度の国が参

加した。中でも、旧宗主国の英国、これまでタンザニアを重点援助国としてきたデンマーク等の

北欧諸国や世銀などは、協議の中でも比較的強い発言権を持っていたとされる。日本からは、JICA

事務所や大使館のスタッフが携わっていて、タンザニア第 1 次 PRSP では第 1 章の作成支援を行

っている。

また、NGO の参加について、タンザニアには非常に多くの NGO が存在するが、PRSP 作成に

は国際 NGO、ローカル NGO 両者が含まれた。

このように、冷戦終結後、特に 90 年代中盤から援助協調が進んだタンザニアでは、以前は衝突

していた政府とドナーとのパートナーシップの構築が図られていた。

第 3 節 I-PRSP から第 1 次 PRSP 作成の実際

1999 年に、世銀と IMF によって策定が提案された PRSP は、タンザニア政府側もドナー側も

初めての試みであったため、終始手探りで試行錯誤しながら作成された。

17

17インタビュースタッフについて:タンザニアの I-PRSP から第 1 次 PRSP と、第 2 次 PRSP にそれぞれ関係した

2 人の現 JICA スタッフに話を聞いた。第 1 次 PRSP のスタッフは、97 年から 2000 年までの 3 年半、タンザニ

アに派遣され、PRSP 策定の協議にドナー国日本として携わった。第 2 次 PRSP に関係したスタッフは、2000 年

代半ばにタンザニアの援助開発に携わった。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

(1)タンザニア政府の姿勢

PRSP の策定は、HIPC の適用、つまり債務削減の条件となるため、タンザニアの I-PRSP と

PRSP は 3 カ月~半年という非常に速いスピードで策定された。予算が潤沢でないタンザニア政

府にとっても PRSP 策定の必要性は高く、債務削減を目指し、国をあげて積極的に関わったとい

える。本論文の第 2 章第 3 節で、HIPC 適用を急ぐあまり PRSP の内容が不十分になる恐れがあ

るという懸念を記したが(脚注 15 参照)、初めての PRSP であり、決まったモデルや評価の判断基

準がなかったため、内容についての評価は分かれると言われる。

(2)政府のオーナーシップとドナー国間の関係

第 1 次 PRSP は、初めての作成だったこともあり、第 2 次に比べ世銀の主導で協議が進められ

た。しかし、全体を通してタンザニア政府のオーナーシップは政府側でも援助側でも常に意識さ

れていたという。構造調整など従来の開発のような押し付けはなく、世銀と IMF 以外のアクター

がこのような開発や貧困削減の協議に参加したことは、現場でも意義が感じられることであった。

関係者の中では、透明性の高い密な協議が行われ、チェックアンドバランスという点が保たれて

いた。

しかし、政府と援助側の関係という問題の他にも、実際にはドナー国同士の中で考え方の違い

があったことがわかった。例えば、日本は基本的に内政干渉をしない姿勢だか、イギリス、オラ

ンダ、北欧諸国などは、開発・援助のみならず、民主主義・人権保護を促進するための政治的側

面も強かったといえる。アメリカは中立であったが、財政支援をしている主要援助国の意見や関

与のあり方は強いと考えられ、ともすればオーナーシップが失われる危険性も存在しているとい

える。

だが、裏を返せば、このような意見の食い違いを協議できる場であったということでもあり、

そこには PRSP の幅広い参加の意義が感じられたとスタッフは話す。

(3)NGO、市民社会との関係

PRSP 策定の協議において、NGO の参加は確保されていた。しかし、その数や割合、または参

画度合いなどは高いとはいえず、形だけであったとの指摘もある。このことは、インタビューし

た JICA スタッフをはじめドナー側も認識しており、その理由としては、NGO の選別の難しさ、

政府と民間という立場の違いが挙げられる。

タンザニアに多数存在する NGO の中から、信頼性や能力を正確に判断して NGO を選別する

ことは困難が伴う。また、PRSP は開発や戦略という投機的な部分を含む国家計画を協議する場

であるため、民間や NGO にすべての情報を公開することは、インサイダー取引のように利益に

結びつく活動が行われる可能性があることも否定できない。

これらの点は、PRSP のオーナーシップ理念、とりわけ NGO や市民社会が望むとされる「多

元オーナーシップ」(第 2 章第 3 節参照)の理念を実際に実現することの難しさを示している。

18

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

(4)地方、貧困者との関係

NGO の問題と同様に、現場では、「多元オーナーシップ」のような、地方自治体なども含んだ

南側全体のオーナーシップの実現までは至っていないといえる。その理由は、PRSP の会議が首

都で行われることや、政府と地方自治体とのパートナーシップの欠如などが考えられる。また、

政府の中でも PRSP 作成の中心となる財務省は、地方や貧困者の声を聞くといった機能が弱い。

PRSP を知らせるため、例えば日本は現地語への翻訳作業や国民へのワークショップなどを行っ

たが、PRSP がタンザニア国民にどれほど認知されたかについては、関係者自身も手応えを感じ

られていない。

第 4 節 第 2 次 PRSP 作成の実際 次に、第 1 次 PRSP の数年後に作成された第 2 次 PRSP について、ここでも JICA スタッフの

インタビューを元に説明する。第 2 次 PRSP の特徴としては、長期的に作成されたこと、タンザ

ニア政府のオーナーシップが大いに強調されたこと、クラスター式に幅広い分野が取り入れられ

たことが挙げられる。

(1)オーナーシップの強調とその背景

第 2 次 PRSP では、第 1 次で HIPC の債務削減が完了したことを受け、タンザニア政府主導の

下、より長い時間をかけじっくりと作成された。それは、ドナー側としては実験的試みであった。

第 1 次 PRSP が早急に策定されたのは、HIPC の要因が非常に大きく、その要因がなくなった第

2 次では、タンザニアのペースでタンザニア政府の意見を元に作成が進められた。作成期間は 2

年ほどであり、第 2 次 PRSP において、ドナー側は一歩下がりオーナーシップを尊重する姿勢を

強く見せていた。

また、第 2 次の作成段階では、政府の実額の予算が増えたことや、第 1 次では必須であった世

銀理事会による認証が不要となったことなどから、政府関係者も口をそろえてタンザニア PRSP

の通称である MKUKUTA と発言するなど、政府の所有意識は第 1 次作成段階より高まっていた

といえる。

(2)第 2 次 PRSP の特色

第 1 次 PRSP とは構成や状況が変わった結果、第 2 次 PRSP は、分野別ではなく課題重視の戦

略として、インフラ整備などの社会セクター、成長・開発、そしてガバナンスという 3 つを中心

に、その他多くの分野が盛り込まれた。姿勢としては成果主義で、より末端のニーズに応える形

をとった。

このような、第 2 次 RPSP の幅広い内容を受け、オーナーシップを尊重して見守っていたドナ

ー側は、優先事項が何なのかわかりづらく困惑したという。PRSP の主要な理念である多方面の

参画を意識し、多くのアクターの意見を取り入れた結果、目標が定まらず、現実的には実行の難

しい野心的な PRSP になったと言われている。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

(3)第 2 次 PRSP の結果

このような PRSP に基づいて行われた政策やプロジェクトの結果、教育などの指標には上昇傾

向が見られたが、第 2 次 PRSP の成果主義が大きく結果を出したとは言えず、直接貧困削減につ

ながったとは断言できない。その要因としては、野心的で予算の障害があること、体制や方法な

ど、実行段階でのやり方が変わらなかったことが挙げられる。また、セクターに絞らずより多く

の問題を意識した結果、第 1 次に比べて難易度が大きく上がったことも成果の上がらなかった要

因である。

第 2 次 PRSP では、多くの問題を認識し、セクターに入らない末端の問題を意識しようとした

意図は評価できる。しかし、現実的にそれらを実行に移す段階では、予算、能力など多くの障害

が生じ、懸念されていた意図と体制、理念と現実とのギャップという問題が存在していた。

(4)第 2 次 PRSP におけるドナー側の声

野心的な第2次PRSPの内容に疑問を抱きつつも、非常に寛大な姿勢でタンザニア政府にPRSP

作成を任せていたドナーだが、現在ではオーナーシップの尊重について今一度より現実的に考え

直す必要性が認識されている。

ドナー側のスタッフは、期待されるような結果が出なかった場合やプロジェクトなどが失敗し

た場合、資金や立場上自身で責任を取ることとなる。しかし、タンザニアにおいてはドナーと途

上国政府など関係者との仲間意識が強く、現場の状況をよく知るドナー側の現地スタッフが、機

関の本部にプロジェクト達成期間の延長を依頼するなどの場面も見られたという。この点で、ド

ナー側は、途上国政府のオーナーシップを尊重し支援する立場と、効果的にプロジェクトを進め

結果として示さなければならないという立場で葛藤する。このようなことから、援助する側の中

でも、現場と本部との認識の違いなどが生じていることがわかる。

第 5 節 タンザニア PRSP 作成の考察 これまでのタンザニア PRSP 作成の過程を見ていくと、第 1 次は援助側が主導で HIPC 適用の

色が強く、第 2 次ではタンザニア政府主導で進められたといえる。ここでは、世銀主導が改善さ

れ、よりオーナーシップが尊重された第 2 次 PRSP の作成段階を中心に考察する。

筆者のインタビューを通し、PRSP のオーナーシップの問題点(第 2 章第 3 節参照)とされる政

府能力の過大想定、世銀主導、「一元オーナーシップ」という問題について見ていくと、世銀主

導、ドナー側主導という点は否定することができる。少なくともタンザニアにおいては、第 2 次

PRSP 作成過程でのドナーの姿勢からもうかがえるように、PRSP の主要理念である途上国政府

のオーナーシップは大いに尊重されていたといえるだろう。世銀自身がオーナーシップの尊重を

提唱している以上、PRSP のような現代の援助の現場において、その理念が無視されることはな

かった。この点は、従来の開発や援助を大きく変化させ、新しい転換点となっていると認識され

ている。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

また、「一元オーナーシップ」、つまり途上国側の NGO や市民の声の軽視については、実際

に「多元オーナーシップ」を実現するには多くの問題があり、困難であるという考えが現場では

強かった。この対策としては、いかにローカル NGO と援助側が信頼関係やパートナーシップを

築いていくかが重要であると筆者は考える。また、貧困者の現状を調査し、ニーズを正確に把握

する能力のある現地機関が存在しないことも問題の要因である。信頼性のある NGO の育成や、

ドナー側の NGO 調査、政府ではない専門援助機関の存在が必要であろう。

そして、途上国政府の能力の過大な想定という問題については、実際に世銀やドナー国などの

援助側にも認識がある。前述したように、政府のオーナーシップを尊重して作成された第 2 次

PRSP が、予算面も含め実現可能性の低いものとなったことから、必ずしもオーナーシップを尊

重すればいいということではない、という教訓を得た。よって、今後の争点は、オーナーシップ

が本当に尊重されているかどうかよりも、尊重されるオーナーシップがどうあるべきか、という

点であろう。

タンザニアを例にとり PRSP 作成段階での実際を見てきて、理念だけでなく現場でも途上国政

府のオーナーシップが尊重され、途上国側と支援する側の関係性が変わってきていることは確か

であり、これは評価できる点であろう。しかし、このオーナーシップの理念には課題も多く残さ

れていることがわかった。終章では、第 3 章までの PRSP のオーナーシップの論議を総合的に見

て、オーナーシップがどうあるべきなのかという点を中心に、現代の貧困削減戦略について筆者

の意見をまとめていきたい。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

終章

貧困削減戦略の課題と今後

これまで、世界銀行と IMF が打ち出す貧困削減戦略ペーパーに基づいて、現代重視される途上

国のオーナーシップについて見てきた。終章では、先行研究とタンザニア PRSP 作成の実際を元

に、望ましいオーナーシップのあり方を考え、日本の貢献の可能性も含め、現代の貧困削減戦略

の考察をまとめたい。

第 1 節 オーナーシップとグッド・ガバナンス

PRSP で掲げるオーナーシップの理念は、前述したように、これまでの開発のあり方と、途上

国と援助する側の関係性を変えつつあるという点で大きな意義を持っている。しかし、第 3 章で

述べたように、その理念と現実にはギャップが生じている。現代は、押し付けの開発への批判と

いう段階を過ぎ、尊重されるオーナーシップの限界とそのあり方についての議論が必要だ。

タンザニアの一例から PRSP のオーナーシップの理念について見ると、実際の現場でも途上国

政府の能力が大きな課題であるということがわかった。オーナーシップの尊重は、もはや現代で

は国際的なコンセンサスを得ているが、その理論が先走りし、現場では未だ試行錯誤して進めら

れている現状がある。

インタビューした JICA スタッフの言葉を借りると、途上国が「責任あるオーナーシップ」を

持つことが重要であるという。ドナー側が資金を出している以上、資金面で途上国とドナーとの

関係性は対等ではなく、圧倒的な力が変わることはない。PRSP や政策に対する予算、情報など

の責任を途上国自身が持つことができれば、より所有意識や現実性が高いものになると考えられ、

それこそが本来あるべきオーナーシップであろう。しかし、現段階で途上国政府にすべての責任

を持ち開発を実行する能力があるとは言い難い。そして、政府のみのオーナーシップになること

を避けるためにも、汚職や腐敗の根絶、ガバナンス改善、NGO・市民社会との協調といった面を

強化することも必要である。

このような考え方は、グッド・ガバナンス18という概念に共通する。グッド・ガバナンスとは、

「良い統治」のことであり、世銀自身も、PRSP以前から開発における国家(政府)の役割は極めて

重要なものと認識している19。PRSPに関連させて言えば、国家の役割を能力に合わせること、国

家を人々に近づけニーズを満たすこと、国家の能力を開発することなどが重要である。そしてそ

れらは、市民社会や他の組織とのパートナーシップの形成や、専門家派遣など外部の協力をなく

しては、改善されないとされている[世界銀行 1997:255]。以上のようなグッド・ガバナンスの議

22

18 グッド・ガバナンスは狭義から広義まで様々な見解があるが、共通して認識されているのが、民主化、権力の

使用のあり方、法の支配、機能する公的部門、汚職・腐敗の抑制、軍事支出の抑制などである[下村 2006:166]。 19 「グッド・ガバナンス」としての世銀の主な定義は、「政府が経済的・社会的な資源を開発に向けて活用する

際の権力行使のあり方」という狭義なものである。具体的には、公的部門の効率、予測可能な法制度、説明責任、

透明性、情報公開などの項目をカギにしている。実際には民主化も不可欠な要素として含まれている[下村 1998]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

論と併せて考えれば、オーナーシップはグッド・ガバナンスと両立して初めて正統性と機能を有す

ることが出来るといえるだろう。

これまで見てきたことから、ガバナンスの不十分な政府に対するオーナーシップの尊重は十分

な成果を発揮しえないと考えられる。よって、PRSP の理念は、政府が発展・成熟していること

を前提とすべきである。

第 2 節 貧困削減戦略の今後

本論文で取り上げてきたPRSPの基本理念20とは、一つ一つが単独で機能するのではなく、理念

すべて、またはガバナンスなどの他の要因も達成されることで成果が現れるものである。オーナ

ーシップが尊重されたタンザニアの例からも、NGOや市民社会とのパートナーシップや、長期的

視野が合わせて必要であるということが理解できる。

長い目で見て、世界 大の援助機関である世銀を中心に、開発のあり方はこれまでと同様、時

代の流れや教訓を経て変化していくだろう。しかし、途上国自身の参加や所有意識を確実に重視

してきている現代の貧困削減戦略は、この考え方が賛同できるものであることからも、今後大き

く変化することはないと筆者は考える。いずれは外部援助が不要になることが望ましいのであり、

途上国主体という概念は有効であり、当然の考えともいえる。

今後、途上国政府の主体性を非常に重要視する PRSP のような貧困削減を進める際には、グッ

ド・ガバナンスとオーナーシップをより強く密接に関連付け、戦略の効率化を図っていく必要が

ある。ガバナンス改善と経済成長・開発との有効性は、以前から認識されているにも関わらず、

PRSP は途上国主導が前提であるために、ガバナンス問題が強く意識されにくいのではないだろ

うか。現代の貧困削減戦略において政府のオーナーシップを尊重する上で、ガバナンスの改善も

今一度重要課題として同時に取り組まれるべきである。オーナーシップを尊重しつつも、質や現

実性を確保した貧困削減を進めるために、政府の能力開発を行うことは不可欠であり、それに向

けて世銀やドナー国がどう関わりパートナーシップを構築していくのかが、今後の論点である。

現在は、途上国とドナーとの関係性が変わりつつある転換期であり、今後の貧困削減戦略の展

開については長期的分析が必要となる。しかし、戦略の模索中とはいえ、その間にも貧困がもた

らす被害が絶えず存在していることを忘れてはならない。例えば、オーナーシップやパートナー

シップなど実際に現時点で垣間見られた課題に対して、日本も含めいかに援助側が迅速、有効に

対処していけるのかを、今後も見守り探っていきたい。

第 3 節 日本の貢献

これまで、世銀を中心に貧困削減戦略について考察してきたが、それを踏まえて 後にわが国

日本として、途上国にどう貢献していけるのか少し考えたい。

23

20 ①当該国政府のオーナーシップ、②結果重視、③包括性、④優先付け、⑤パートナーシップ、⑥長期的取り組

みの 6 つ。詳細は、第 2 章第 1 節、(3)原則・理念を参照。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

現在、日本の外務省では、ODA大綱においても貧困削減を 4 つの重点課題21の中の 1 つとして

とらえ、PRSPに関する活動に積極的に参加する姿勢を示している。PRSPに沿った援助がより効

果的なODAとなると認識し、MDGsの実現と関連させて、PRSPを各国の環境と適合させるため

の現地調査や、他の援助機関との連携を図っている。また、途上国の自助努力支援というODAの

基本方針に基づき、ガバナンス改善にも協力している。しかし、日本政府は、経済成長を通じた

貧困削減戦略を重視する傾向が強く、これは、日本が主導ドナーとなって策定したベトナムの「包

括的貧困削減・成長戦略」PRSPに象徴されている22 [外務省HP 2010/07/15]。

PRSP 策定にスタッフを派遣している JICA においては、より包括的、特に貧困層の潜在能力

を向上させる人間開発に大いに留意した貧困削減協力を目指している印象を受ける。JICA の貧困

削減指針の中には、政府の行政能力などを考慮した上での知的貢献なども含まれ、幅広いアプロ

ーチで途上国の主体性を重んじた協力を目指している [国際協力機構 2009:20]。

このように、日本においても、援助において途上国のオーナーシップを尊重する姿勢は強く認

識されており、また政府の能力やガバナンス改善の必要性も広く知られているということがわか

る。しかし、ドナー国としてどう関わっていくかという点で日本はいくつか検討課題を抱えてい

る。それは、日本自身が経験した開発が途上国にどれだけ意義を持つか、現場でのPRSP作成過程

にどの程度主導ドナーとして関与するか、そして、日本のNGOや市民がいかに関与していくかと

いうことである23[柳原 2003:29]。開発に成功したと言われる日本は、その知見や能力を途上国に

活かすことが期待されるが、そのためには、情報収集や分析を実際に現地で行う体制や、国内一

般レベルでの見解を打ち出す体制を整える必要がある[柳原 2004:20]。そして、そのための人材

育成を行うことが急務だとされている[紀谷 2006:7]。

日本において特に筆者が問題だと感じるのは、先述したような、貧困削減に対する我々一般人・

市民社会の関与の薄さである。日本の市民が途上国の貧困削減に も大きく関与しうるのは ODA

である。市民社会(NGO など)による貧困削減の努力も行われているが、規模の面では ODA に

はるかに及ばない。ODA の問題は、テーマから外れるのでここで詳しくは論じないが、過去の戦

後賠償の色が未だ強く残る ODA から脱却し、MDGs 達成や貧困削減を目的とする複合的な指針

とアプローチに従った援助を進めることが、オーナーシップにおけるガバナンス改善も含め、日

本が途上国の貧困削減に効果的に貢献する道の一つであろう。

24

21 ①貧困削減、②持続的成長、③地球規模の課題への取り組み、④平和の構築の 4 つ[国際協力機構 2009:10]。 22 また、タンザニアの例で先述したような野心的計画の問題点に対しては、予算見積もりを正確に行うことと、

計画と予算の整合性を確保することを解決策として挙げている[外務省 HP 2010/07/15]。 23 これらの他にも、経済成長と貧困削減の比重、プロジェクトレベルから経済全体レベルへの援助調整の移行な

どの課題がある[柳原 2003:29]。

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

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貧困削減戦略の考察―PRSP におけるオーナーシップから―

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