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(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 藤本 康弘 自然災害を見据えて 化学物質のリスクアセスメント の実施を 化学物質対策セミナー 2016年11月1日 1. 労働災害の傾向 2. 地震について 3. 地震による化学災害 4. リスクアセスメント手法 5. 地震におけるリスク管理の考え方 本日の説明の流れ 労働災害の傾向 全体的には,近年は横ばいで推移 製造業では,大幅に減少を続けているが, 重篤度の高い災害に注意 爆発災害では,死者/死傷者の比率が高い

自然災害を見据えて 化学物質のリスクアセスメント の実施を · 10.対象とするプロセスプラントは,意図的に反応(副反応・競合反応なども含む)を起こしているか?

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Page 1: 自然災害を見据えて 化学物質のリスクアセスメント の実施を · 10.対象とするプロセスプラントは,意図的に反応(副反応・競合反応なども含む)を起こしているか?

(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所

藤本 康弘

自然災害を見据えて 化学物質のリスクアセスメント

の実施を

化学物質対策セミナー 2016年11月1日

1.労働災害の傾向

2.地震について

3.地震による化学災害

4.リスクアセスメント手法

5.地震におけるリスク管理の考え方

本日の説明の流れ 労働災害の傾向

•全体的には,近年は横ばいで推移

•製造業では,大幅に減少を続けているが,重篤度の高い災害に注意

•爆発災害では,死者/死傷者の比率が高い

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爆発災害の現状(重大災害)

爆発災害による死傷者は,労働災害全体から見てごく僅か

13%17%

22% 転倒

墜落・転落

はさまれ巻き込まれ

爆発

(平成26年 死傷者数 事故の型別分類より)

11%

2%

37%

24%

10%

3%

13%

爆発災害の現状(重大災害)

製造業において,爆発災害による重大災害は10%以上を占める

爆発

(平成26年までの10年間の重大災害の事故の型別分類ー製造業)

火災・高熱物

交通事故中毒・薬傷

破裂

•死傷者数は製造業における災害の中では,かなり少ない

•一人当たりの労働損失日数は建設業などに次ぎ,比較的多く,重篤度が高めであることがわかる.

爆発災害の傾向概要 労働災害とリスク

頻度

被害規模

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労働災害から見た 頻度と被害規模

被害規模:

• 重大災害の発生件数

• 1人あたりの平均労働損失日数

• 一件あたりの死傷者数

• 死傷者に対する死者の割合

労働災害から見た 頻度と被害規模

頻度:

• 度数率(100万時間あたりの死傷者数)

• 強度率(1000時間あたりの延労働損失日数)

• 単位時間あたりの発生件数

死者/死傷者比(%)

0.1

1

10

100

死傷者数(人)10 100 1000 10000 100000

爆発火災感電

おぼれ

全体

1.労働災害の傾向

2.地震について

3.地震による化学災害

4.リスクアセスメント手法

5.地震におけるリスク管理の考え方

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地震•東日本大震災

•阪神淡路大震災

平成23年度版防災白書 http://www.bousai.go.jp/hakusho/h23/bousai2011/html/hyo/hyo013.htm

地震の被害

•揺れによる損壊

•液状化による損壊

•津波による被害

•広範囲なライフライン停止から派生する被害

地震の揺れと被害

気象庁震度階級関連解説表 (http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/kaisetsu.html#files)

地震の揺れと被害

気象庁震度階級関連解説表 (http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/kaisetsu.html#files)

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地震の揺れと被害

気象庁震度階級関連解説表 (http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/kaisetsu.html#files)

•東日本大震災 •広範囲に震度6~震度7 •津波の襲来

被害を避けるための対策には,膨大なコスト

化学物質を取り扱っている事業所は 何を為すべきか

1.労働災害の傾向

2.地震について

3.地震による化学災害

4.リスクアセスメント手法

5.地震におけるリスク管理の考え方

地震による化学災害• 東北地方太平洋沖地震(M9.0)

•千葉コンビナート火災 •東北地方石油基地火災

• 兵庫県南部地震(M7.2)

• 防油堤の破損,配管からの漏れ

• 十勝沖地震(M8.0)

• 苫小牧タンク火災

可燃物の漏曳

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地震による化学災害•千葉コンビナート •LPGタンク爆発火災 •近隣の工場に延焼

http://www.asahi.com/photonews/gallery/tsunami/images/tsunami1032.jpg

地震による化学災害•A石油千葉製油所

•開放検査工程において,タンク内空気を排除するため満水状態にあったLPGタンクの支柱ブレース破断

•引き続いて発生した余震で支柱が座屈しタンクが倒壊.

•タンク倒壊に伴い複数の配管が破断しLPGが漏曳,着火

•火災によって隣接タンクが爆発炎上し,火災が拡大.

地震火災

地震による化学災害•東北地方石油基地 •津波によるタンク本体の流出 •津波による配管破断

http://www.panoramio.com/photo_explorer#view=photo&position=454&with_photo_id=50810236&order=date_desc&user=5162461

津波火災

地震による化学災害•鹿島コンビナート

• 津波,液状化による構造物の破損

• 爆発,火災等の化学災害はなし

•川崎コンビナート

•スロッシングによる漏曳

•爆発,火災等の化学災害はなし

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地震による化学災害•大地震による災害 ~ (広域)同時被災

•隣接工場等からの延焼 •電源、水、窒素ライン等の保守基盤の崩壊 •公設消防の迅速な対応を期待できない •情報の途絶 •従業員や家族の被災

地震による化学災害•化学工場では ~ •配管破断等による漏洩 •電源喪失、冷却水喪失による反応中断

•このような状況下で、爆発火災が防げるだろうか?

地震による化学災害•大地震による災害への対応

•電源喪失、冷却水喪失で、非常時のシャットダウンができるのか?

•自衛消防は機能するのか? •災害対応に充分な職員を確保できるのか?

•事前に充分に検討された被害拡大防止計画

ハザード(危険性)の把握

•まず、扱っている化学物質のハザードを正確に把握すること ⇒ 最悪の場合の被害想定

被害拡大防止計画

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1.労働災害の傾向

2.地震について

3.地震による化学災害

4.リスクアセスメント手法

5.地震におけるリスク管理の考え方

労働安全衛生総合研究所技術資料 『プロセスプラントのプロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方』

(JNIOSH-TD-No.5(2016)

pdfファイル:  http://www.jniosh.go.jp/publication/td.html

冊子版:  労働全衛生総合研究所HP「お問い合わせ」よりご連絡下さい.

ここでは 火災・爆発・漏洩・破裂などの災害を 「プロセス災害」と総称します.

30

リスクアセスメント等の進め方と検討ポイント

開始

①使用及び合理的に予見  可能な誤使用の定義 Definition of use and reasonably foreseeable misuse

②危険源の同定  Hazard identification

③リスクの見積  Risk estimation

④リスクの評価  Risk evaluation

リスクの低減 Risk reduction

許容可能リスク は達成されたか?

No

Yes終了

リスク分析 Risk analysis

リスクアセスメント Risk assessment

Is tolerable risk achieved?

如何に潜在する危険性を抽出し,トラブルやプロセス災害に至るシナリオを想定

するか?

如何に論理的に有効なリスク低減措置を検討・実施するか?

(JIS Z 8051; ISO/IEC Guide 51)

正常な状態とは? 正しい操作とは?

(想定外としないために!)

31

化学物質取扱い設備・プロセス設計の基本

① 製品を得るために起こさせたい反応・プロセス(挙動)を決める. ② 反応・プロセスを実行するための作業・操作(操作)を決める. ③ 反応・プロセスと作業・操作を行うために必要な反応器や周辺装置等の

設備・装置(構造)を決める.

●挙動:物質特性,反応特性など   危険物質・反応条件/流量・圧力制御;複雑な操作条件/・・・

●操作:作業・操作の手順,タイミング,判断基準など   マニュアルの不備/人のミス;運転員の誤判断・誤操作/・・・

●構造:設備のレイアウト,装置の作動要件・不具合など   安全装置/緊急時避難;レイアウト/腐食・摩耗;設備管理/・・・

挙動

操作 構造

これまでの化学物質RA

32

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かが さて × ×一 タ

S T E P 3

S T E P 2

(

)

fi

S T E P 1

↓× ナ × あ ウ テ

プい

5 、 ↓ △

× あ ウ 」

質問  1.取り扱い物質は,危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を義務付けられているか? はい いいえ

2.取り扱い物質は,いずれかのGHS分類が「分類対象外」「区分外」「タイプG」以外のものか? はい いいえ

3. 取り扱い物質は,可燃性,引火性か? はい いいえ

4.取り扱い物質は,爆発性に関わる原子団,あるいは,自己反応性に関わる原子団を持っているか? はい いいえ

5.取り扱い物質は,可燃性(有機物,金属など)の粉体(可燃性粉じん)か? はい いいえ

6.取り扱い物質は,過酸化物を生成する物質か? はい いいえ

7.取り扱い物質は,重合反応を起こす物質か? はい いいえ

8.取り扱い物質は,液化ガスか? はい いいえ

9.取り扱い物質は,SDSが存在していないけれども,危険有害性が疑われるか? はい いいえ

10.対象とするプロセスプラントは,意図的に反応(副反応・競合反応なども含む)を起こしているか? はい いいえ

11.対象とするプロセスプラントは,何らかの物理的な操作の際に温度が上がるか? はい いいえ

12.対象とするプロセスプラントは,意図した物質の混合や,意図していない物質の混入により,以下のいずれかの可能性があるか?

 (1)温度が上昇する,(2)GHS分類のいずれかの危険源となる物質を生成する(質問2.参照),  (3)大量のガスを発生する,(4)取り扱う物質の熱安定性が低下する

はい いいえ

13.対象とするプロセスプラントは,常温・常圧ではない箇所(高温,低温,高圧,真空(低圧),繰り返し昇温・降温,昇圧・降圧)が存在するか?

はい いいえ

14.対象とするプロセスプラントは,大量保管をしている箇所が存在するか? はい いいえ

15.対象とするプロセスプラントは,腐食が進みやすい個所が存在するか? はい いいえ

16.外界からの影響要因(雨水による外面腐食,紫外線による材料劣化など)はあるか? はい いいえ

17.対象とするプロセスプラントは,高電圧/高電流の箇所が存在するか? はい いいえ

※ 安衛研技術資料には全ての質問に対して,説明と事故事例を示しています.

回答結果を参考にリスクアセスメントを実施する.

   物質に関する質問

   プロセスに関する質問

   その他の質問

物質・プロセスの危険源把握のための17の質問 

別添資料表4参照

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実施日 ○年○月○日

実施者(記載者) ○○○○

STEP 1 取り扱い物質及びプロセスに係る危険源の把握取り扱い物質及びプロセスに係る危険源の把握結果

  質問票で「はい」に○が付いた項目

  STEP 2 リスクアセスメント等の実施

作業・操作,設備・装置と その目的

(作業・操作,設備・装置) (目的)  

①引き金事象特定とシナリオ同定

引き金事象 (初期事象)

  (参考:表5~表7)

プロセス異常 (中間事象)

                 

 

プロセス災害 (結果事象)   (参考:表8,過去の事

故事例など)

②既存のリスク低減措置の確認

・○○○ <種類><目的>      

●リスク低減措置実施(実装)の種類

A) 本質安全対策 B) 工学的対策 C) 管理的対策 D) 保護具着用   ●リスク低減措置の目的 a) 異常発生防止 b) 異常発生検知 c) 事故発生防止 d) 被害の局限化

②リスク見積りと評価 (その1)

既存のリスク低減措置が 無いと仮定した場合

重篤度 頻度 リスクレベル

○△× ○△× ⅠⅡⅢ

②リスク見積りと評価 (その2)

既存のリスク低減措置の 有効性確認

重篤度 頻度 リスクレベル

○△× ○△× ⅠⅡⅢ

③追加のリスク低減措置の検討 &

③リスク見積りと評価 (その3)

追加のリスク低減措置の 有効性確認

  重 頻 リイ) ○○○ <種類><目的> ・追加リスク低減措置毎にリスクを見積り,評価する      ロ)         ハ)         ニ)  

     

③追加のリスク低減措置の実装可否

イ) ~ ニ)       

③リスク低減措置の機能を維持するための現

場作業者への注意事項等

イ) ~ ニ)         

③その他,生産開始後の現場作業者に特に伝

えておくべき事項

残留リスクの有無の確認: 有 無 残留リスクへの対応方法:

備考  

リスクアセスメント等実施シート 一つのシナリオに対する検討過程

解析対象とする工程の作業・操作,設備・装置とその目的などを明記

STEP 1で把握した危険源を記載

プロセス災害発生に至るシナリオを同定 (引き金事象,プロセス異常,プロセス災害を区別)

既存のリスク低減措置の有無確認 (【種類】と【目的】を明記)

多重防護の考え方に従った追加のリスク低減措置の提案と有効性の確認(その3)

既存のリスク低減措置の有効性の確認(その1,その2)

引き金事象(初期事象)を想定

残留リスクへの対応を記載

追加のリスク低減措置の実装可否の確認

別添資料表2参照

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リスク低減措置の機能を維持するために現場作業者に伝えておくべき事項を記載

(ⅰ) 作業・操作の不具合の例 (参考:非定常HAZOP)  ・指示器の確認を怠った(作業を実行しない).  ・ポンプ起動の順番を間違えた(逆の順番で操作を実行する).  ・バルブを開くタイミングが遅れた(作業の実行が遅すぎる).  ・原料の投入量が少なすぎた(充填量が少なすぎる).

(ⅱ) 設備・装置の不具合  ・調節弁の故障閉     (→流量無し,圧力増加,液レベル高など)  ・ポンプの故障停止    (→流れ無しなど)  ・配管の閉塞       (→流れ無し,圧力増加など)  ・熱交換器のチューブ破断 (→圧力増加など)

(ⅲ) 外部要因  ・停電   ・自然災害(豪雨,洪水,高波,高潮,積雪,落雷,竜巻,台風など)  ・大規模な自然災害(地震・津波・土砂崩れ・雪崩・噴火など)  ・近隣の事故による影響  ・車両衝突  ・破壊行為/妨害

引き金事象の特定:  正常状態からの逸脱を発生させる要因を特定する.

別添資料表5参照

別添資料表6参照

別添資料表7参照

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・引き金事象(初期事象)   作業・操作の不具合,設備・装置の不具合,外部要因

    ↓ ・プロセス異常(中間事象)   流量,温度,圧力の異常(ずれ),設備装置の異常状態     ↓ ・プロセス災害(結果事象)   漏洩・火災・爆発・破裂

シナリオの同定:  引き金事象発生からプロセス災害に至るシナリオを同定する.

別添資料表8参照

37

シナリオ検討時の既存のリスク低減措置の取り扱い

既存のリスク低減措置が存在することを前提としてシナリオを検討すると,リスク低減措置が機能しなかった場合のリスクが抽出されない.

“既存のリスク低減措置は設置されていない”と仮定して検討する.

“リスク低減措置は必要なときに,  必ず機能するとは限らない”

失敗!

38

リスク低減措置の種類と目的

・リスク低減措置の種類(信頼性が高い順番)   A) 本質安全対策   B) 工学的対策   C) 管理的対策   D) 保護具の着用 ・リスク低減措置の目的(多重防護:設計意図)   a) 異常発生防止対策   b) 異常発生検知策   c) 事故発生防止対策   d) 被害の局限化対策

39

化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日改定)

10 リスク低減措置の検討及び実施 (1) 事業者は,法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほ

か,法令に定められた措置がない場合には,次に掲げる優先順位でリスク低減措置の内容を検討するものとする.ただし,法令に定められた措置以外の措置にあっては、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として,ばく露濃度等がばく露限界を相当程度下回る場合は,当該リスクは,許容範囲内であり,リスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること.

ア 危険性又は有害性のより低い物質への代替,化学反応のプロセス等の運転条件の変更,取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減(本質安全対策)

イ 化学物質等に係る機械設備等の防爆構造化,安全装置の二重化等の工学的対策又は化学物質等に係る機械設備等の密閉化,局所排気装置の設置等の衛生工学的対策(工学的対策)

ウ 作業手順の改善,立入禁止等の管理的対策

エ 化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用

リスク低減措置の『種類』

別添資料表9参照

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プロセス災害防止のリスク低減措置多重防護の考え方

リスク低減措置の目的       説明

a)異常発生防止対策 (主に原因系の対策)

主に初期事象の発生を防止するための対策.異常を発生させない,又は異常が発生しても封じ込めシステムの適切な設計などにより,正常な運転状態に保つ.

b)異常発生検知手段

異常発生時のプロセス変数(流量,温度,圧力,液レベル,組成など)のずれを検知する手段.検知結果を基にa)c)d)の対策の機能を検討する.

c)事故発生防止対策 (主に中間事象の対策)

主に初期事象発生からプロセス災害発生までの異常伝播(中間事象)を防ぐための対策.危険源が顕在化しても,事故まで発展させないようにする.

d)被害の局限化対策 (主に結果系の対策)

主にプロセス災害発生後の影響(被害)を減らすための対策.事故が発生しても事故の拡大を阻止する,又は避難等により被害をできる限り小さくする.

リスク低減措置の『目的』

別添資料表10参照

41

発生の頻度 内容の目安

高い又は比較的高い(×)

・危害が発生する可能性が高い  (例:1年に一度程度,発生する発生する可能性がある)

可能性がある(△) ・危害が発生することがある  (例:プラント・設備のライフ(30~40年)に一度程度,発生する可能性がある)

ほとんどない(○) ・危害が発生することはほとんど無い (例:100年に一度程度,発生する可能性がある)

重篤度 災害の程度・内容の目安

致命的・重大(×)

・事業場内外の施設,生産に壊滅的なダメージを与える ・死亡災害や身体の一部に永久的損傷を伴うもの ・休業災害(1ヵ月以上のもの),一度に多数の被災者を伴うもの

中程度(△)

・事業場内の施設や一部の生産に大きなダメージがあり,復旧までに長期間を要するもの ・休業災害(1ヵ月未満のもの),一度に複数の被災者を伴うもの

軽度(○)・事業場内の施設や一部の生産に小さなダメージがあるが,その復旧が短期間で完了できるもの ・不休災害やかすり傷程度のもの

危害の重篤度

致命的・ 重大(×)

中程度(△)

軽度(○)

危害発生 の頻度

高い又は比較的高い(×)

Ⅲ Ⅲ Ⅱ

可能性がある (△)

Ⅲ Ⅱ Ⅰ

ほとんどない (○) Ⅱ Ⅰ Ⅰ

リスクレベル 優先度

Ⅲ 直ちに解決すべき,又は重大なリスクがある. 措置を講ずるまで生産を開始してはならない. 十分な経営資源(費用と労力)を投入する必要がある.

Ⅱ 速やかにリスク低減措置を講ずる必要のあるリスクがある.

措置を講ずるまで生産を開始しないことが望ましい. 優先的に経営資源(費用と労力)を投入する必要がある.

Ⅰ 必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスクがある.

必要に応じてリスク低減措置を実施する.

リスクの見積りと評価の基準(例)

(d) リスクレベルの説明

(c) リスクレベル

(b) 危害の重篤度

(a) 危害発生の頻度(可能性) 別添資料表11参照

42

・より低い危険性を有する原料や触媒の使用に変更する,あるいは低温・低

圧条件下での反応プロセスに変更するなどの本質安全対策は危害の重篤度(火災・爆発発生による影響)を下げることができる.

・基本的な工学的対策は危害の発生頻度下げることはできても,重篤度を下げることはできない.

・マニュアルの作成,ルール順守などの管理的対策は危害の発生頻度を

下げることはできるが,確実性が低い(発生頻度を大きく下げるものではない)ことに注意を要する.

・保護具の着用は労働災害防止が目的であり,火災・爆発の発生自体を防ぐことはできない.

リスクを見積もる際のリスク低減措置の取り扱い

43 44

リスクアセスメント等実施結果シート複数のシナリオに対する結果の一覧

取り扱い物質・プロセスの危険源の把握 対象工程・作業,設備・装置(機器)とその目的 実施担当者と実施日 実施担当者と実施日    ○○ ○年○月○日    

  No.

①引き金事象の特定とシナリオ同定 ②既存の

リスク低減措置

②リスク見積もりと

評価(その1) 既存のリスク低減措置が無いと仮定した

場合

②リスク見積もりと

評価(その2) 既存のリスク低減 措置の有効性確認

④追加

のリスク低減措

④リスク見積もりと評

価 (その3)

追加のリスク低減措置の有効性確認

⑤追加

のリスク低減措置の実施可否

⑤リスク低

減措置の機能を維持するための現場作業者への注意事項等

⑤その

他,生産開始後の現場作業者に特に伝えておくべき事

項引き金 事象

(初期事象)

プロセス 異常

(中間事象)

プロセス 災害

(結果事象)

重篤度 頻度 リスク

レベル重篤度

頻度

リスク レベル

重篤度 頻度 リスク

レベル

 

自動集計可能なRA等支援ツールを提供

STEP 1の記録

STEP 2の記録(シナリオ1)

STEP 2の記録(シナリオ2)

リスクレベルが高いシナリオから順番に実装するリスク低減措置を決定する.

別添資料表3参照

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1.労働災害の傾向

2.地震について

3.地震による化学災害

4.リスクアセスメント手法

5.地震におけるリスク管理の考え方

地震におけるリスク管理

• 化学反応(反応暴走)のリスク低減

• 化学品取り扱い時のリスク低減

•プラント全体のリスク低減

残留リスク

残留リスク

受容不可能なリスク

残留リスク残留リスク

許容可能なリスク

広く受け入れ可能なリスク

地震におけるリスク管理

• × 事故を起こさない対策を取ったので,   大地震が発生しても大丈夫. • ⇒ 残留リスクを無視している       社内でリスクを許容すると判断すれば,それでいいのか?

• ○ 大地震が発生したら,事故は避けられない • ⇒ 残留リスク対策が必要であることを忘れない

• 「リスクを許容」とは,これ以上の対策不要という意味ではない

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地震におけるリスク管理

• 地震対策は、「災害を起こさない」ではなく、被害軽減で。

• あまり起こりそうにないリスクについて、さらに発生確率を下げる努力が許容できるのか?

• 発生後の対応策、被害を如何に減らすかに集中すべき

化学品に当てはめると どうなるか

地震におけるリスク管理

•大地震対策は、「災害を起こさない」ではなく「被害を最小限に」

•発生後の対応策~被害をいかに減らすかに集中すべき

リスク低減策

•災害の発生をどのように抑えるのか

•被害の拡大をどのように抑えるのか

化学プロセスの熱的リスク評価, F.Stoessel (訳)三宅 他

リスク低減策

•災害の発生をどのように抑えるのか

• ⇒ 大地震を念頭に置いた場合、これは意味があるのか?

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地震におけるリスク管理

• 化学反応(反応暴走)のリスク低減

• 化学品取り扱い時のリスク低減

•プラント全体のリスク低減

被害軽減,拡大防止

地震におけるリスク管理

•大地震対策は、「災害を起こさない」ではなく「被害を最小限に」

•発生後の対応策~被害をいかに減らすかに集中すべき

リスク低減策

•爆発火災被害の拡大をどのように抑えるのか

•災害時の放出エネルギーの削減

・リスク低減措置の種類(信頼性が高い順番)   A) 本質安全対策   B) 工学的対策   C) 管理的対策   D) 保護具の着用

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リスク低減策

•災害時の放出エネルギーの削減

•“代替” substitution

•“強化” intensification

•“縮減” attenuationby T.Kletz

リスク低減策

•“代替”

•反応工程を見直して、危険性を有する原料の使用をなくし、不安定な中間体の発生を防止、そして高エネルギー物質の生成を止める

• “代替”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

猛毒のメチルイソシアナートが漏洩 (ボパール)

• “代替”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

猛毒のメチルイソシアナートが漏洩 (ボパール)

Page 17: 自然災害を見据えて 化学物質のリスクアセスメント の実施を · 10.対象とするプロセスプラントは,意図的に反応(副反応・競合反応なども含む)を起こしているか?

• “代替”

OHO

• “代替”

OHニトロ化

NO2 NH2

OHO

• “代替”

OHニトロ化

NO2 NH2

NH2

2.

2. は を不純物として含む

リスク低減策

•“強化”

•危険性のある物質の使用量を減らし、発生しうるエネルギー総量を減らす

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•“強化”

化学プロセスの熱的リスク評価, F.Stoessel (訳)三宅 他

A + BA

B A B A

B

•“強化”

A + B

A

B

•“強化”

A B

A

B

リスク低減策

•“縮減”

•危険物をより安全な形で取り扱う

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• “縮減”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

ブロータンクへの排出方法の改善

• “縮減”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

ブロータンクへの排出方法の改善

• “縮減”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

ブロータンクへの排出方法の改善

• “縮減”

化学プラントの本質安全設計,T.Kletz (訳)長谷川

低温反応

ブロータンクへの排出方法の改善

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御清聴ありがとうございました

藤本 康弘 (ふじもと やすひろ)

(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学安全研究グループ

〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 電話:042-491-4512 内線555

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