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スギ花粉症緩和米の安全性確保への取り組み 誌名 誌名 育種学研究 = Breeding research ISSN ISSN 13447629 著者 著者 廣瀬, 咲子 高木, 英典 川勝, 泰二 若佐, 雄也 土門, 英司 遠藤, 雄士 村岡, 賢一 平井, 一男 渡邊, 朋也 服部, 誠 立石, 剣 高岩, 文雄 巻/号 巻/号 10巻1号 掲載ページ 掲載ページ p. 23-30 発行年月 発行年月 2008年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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スギ花粉症緩和米の安全性確保への取り組み

誌名誌名 育種学研究 = Breeding research

ISSNISSN 13447629

著者著者

廣瀬, 咲子高木, 英典川勝, 泰二若佐, 雄也土門, 英司遠藤, 雄士村岡, 賢一平井, 一男渡邊, 朋也服部, 誠立石, 剣高岩, 文雄

巻/号巻/号 10巻1号

掲載ページ掲載ページ p. 23-30

発行年月発行年月 2008年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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育種学研究 10:23-30 (2008)

ノート

スギ、花粉症緩和米の安全性確保への取り組み一大規模隔離ほ場栽培と生物多様性

影響評価-

贋瀬咲子 1)・高木英典 1).川勝泰二!)・若佐雄也 1).土門英司 1)・遠藤雄士2)・村岡賢一2)・平井一男 3) •

渡遁朋也4)・服部 誠 1)・立石 剣 1)・高岩文雄 1)

il農業生物資源研究所,つくば市, 〒305-8602

2)全国農業協同組合連合会,平塚市, 干254-0016

3)農業環境技術研究所,つくば市, 干305-8604

4)農業・食品産業技術総合研究機構 ・中央農業総合研究センター,つくば市, 干305-8666

Trials for safety assessments of the仕ansgenicrice expressing T cell epitopes derived丘omJapanese

cedar pollen allergens-Environmental assessments for biodiversity and the large scale cultivation

under the isolated field-

Sakiko Hirose1), Hidenori Takagi1), Taiji Kawakatsu1), Yuhya Wakasa1), Eiji Domon1), Yuji Endo2), Ken・ichiMuraoka2),

Kazuo Hirai3), Tomonari Watanabe4), Makoto Hattoriり, Ken Tateishi1) and Fumio Takaiwa1

)

1) Natl. Inst. Agr・Sci., Tsukuba 305-8602, Japan

2) Natl. Federation Agr. Co-op Associations, Hiratsuka 254-0016, Japan

3) Natl. Inst. Agr. Env. Sci., Tsukuba 305・8604,Japan

4) Natl. Agr. Food Res. Org., Natl. Agr. Res. Center, Tsukuba 305-8666, Japan

キーワード

遺伝子組換えイネ,生物多様性影響評価試験,キタアケ 7Crpベプチド,昆虫飼育実験 2期作

緒言

遺伝子組換え作物を一般ほ場で栽培するためには, 日

本では 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物

の多様性の確保に関する法律(カノレタヘナ法)Jに基づい

た隔離ほ場における環境へのリスク評価が必須である.

わが国で毎年多くの患者が発症しているスギ花粉症の予

防効果が期待されるスギ花粉症緩和米の開発,実用化研

究の一端として,我々はその安全性を検証していくため,

隔離ほ場栽培における環境リスク評価を進めてきた. ま

た,スギ花粉症緩和米においては,摂食した場合の安全

性 ・有効性試験に供する材料確保のため,大規模な栽培

が必要とされたそこで,農業生物資源研究所の隔離ほ

場で生物多様性影響評価試験および材料確保を目的とし

たスギ花粉症緩和米の栽培を 2005 年 6 月 ~9 月, 2006 年

4 月 ~ 8 月および 8 月 ~ 11 月の 3 作にわたり行った.栽

培時期の異なる 3作全てにおいて,イネの生育 ・形態特

性,調査区に飛来する昆虫数 ・種類,調査区の土壌微生

物数,花粉飛散による交雑性を調査しこれらをもとに

編集委員弁辺時雄

2007年 9月 12日受領 2007年 11月 28日受理Correspondence: takaiwa@a百rc伊.jp

スギ花粉症緩和米の野生動植物に対する影響を検討した.

さらに,スギ花粉症緩和米は導入遺伝子産物が匪乳のみ

に蓄積していることから,種子を吸汁する昆虫に対する

影響を直接的に調べる目的で, クモヘリカメムシがスギ

花粉症緩和米を吸汁した際の生存率を調査した.

材料と方法および結果

1. スギ花粉症緩和米の作出と栽培

スギ花粉症の唯一の根本治療である減感作療法は抗原

を皮下注射により 3 ~ 5 年をかけ少しずつ患者に投与し,

抗原に対する反応性を示さない体質に改善する治療法で

ある.しかし,抗原そのものを利用することからアナフィ

ラキシーといった副作用や通院,注射の痛みといった問

題が残る それに対し,安全かつ便利な治療法として,

抗原の一部である T細胞抗原決定基 (T細胞エピト ープ)

の経口 ・経鼻投与による 次世代型の経口ペプチド免疫

療法が提案されている.そこで経口ペプチド免疫療法

の原理を用い,米にスギ花粉抗原の T細胞エピト ープペ

プチドを蓄積させ,これを摂取することでスギ花粉症を

治療 ・予防できるのではないかと考えた.

スギ花粉抗原 (Cryj 1および Cryj 2)に対しヒ トの抗

原特異的T細胞が認識する 7個の主要な T細胞エピトー

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24 民瀬 ・高木 ・川勝 ・若佐 ・土門・ 遠藤 ・村岡 ・平井 ・波没 ・服部 ・立石 ・高岩

LB RB

図 1. 7Crpペプチド遺伝子導入に用いたベクター

pAg7,アグロ パイン合成遺伝子タ ーミ ネータ ー ;HPT,ハイグロマイシン耐性逃伝子 ;35S P,カリ フラ

ワーモザイクウィルス 35Sプロモータ ー;2.3 kb GluB-1 P, グノレテリン 8-1プロモーター ;signal, グノレ

テリン 8-1シグナノレ配列 ;7Crp, 7連結エピト ープペプチド合成逃伝子;KDEL,小胞体保留シグナノレ,

GluB-1 T, グノレテリン 8-1ターミネーター

プ (Hiraharaet al. 2001)から構成されるハイブリッドペ

プチド遺伝子 (70・p)を合成した この遺伝子産物であ

る 7C中ペプチドを種子の匪乳部分に高蓄積させるため,

イネの主要な貯蔵蛋白質であるグルテリン (GluB-J) の

プロモーターに連結した発現遺伝子をノ〈イナ リーベク

ターに挿入し (図 J), イネ品種 “キタアケ"(Oryza sativa

L. cv. Kita-ake)に導入した (Takagiet al. 2005) 作出さ

れた組換えイネ系統の中から, 匹乳に 7Crpペプチドを高

蓄積する系統.7Crp#10を選抜し,閉鎖系温室および非

閉鎖系温室における生物多様性影響評価試験の後,隔離

ほ場での第一種使用の認可をうけ,栽培が可能となった.

以後,栽培試験に用いた組換えイネ系統を 7Crp#10.対

照品種として用いた非組換えイネをキタアケと記す.

7Crp#10の T7世代種子を 2005年 5月 19日に特定網室

で播種 ・育苗後.6月 8日に農業生物資源研究所内の隔

離ほ場 (852m2) に移植 した.生育調査区は隔離ほ場の

北西部分に 1.8m x 4.2 m ずつ 2区画設け,各区画に

7Crp#10およびキタアケを 120株 (10株 xl2条.1株 l本

植えで栽植密度は 30cmx 18 cm)移植した. 7月下旬に

出穂が始まり,スズメ等の鳥害を防 ぐために目合 10mm

の防鳥網で水回全体を覆った 8 月 8 日 ~ 23 日 に昆虫の

飼育試験.9月 8日に形態特性調査を実施. 9月 14日に

収穫作業を行った.

2006年は T8世代の種子を用い 2期作栽培を行った.

l期目 は 3月 22日に播種,4月 17日に 2005年と 同様の

配置で移植した 6月下旬に出穂が始まり ,8月 3日に形

態特性調査を行い.8月 7日に収穫 した 2期 自の播種は

8月 1日に行い 8月 18日に苗を移植 した 出穂期は 10

月上旬, 登熟期は 10月中旬以降となり, 1I月 22日に形

態特性調査を行った.なお,生育調査区のキタアケと

7Crp#1Oの配置は 3作で‘交互に入れ替えた

2 生物多様性影響評価試験の結果

導入遺伝子の存在 ・発現の安定性

隔離ほ場で生育中の T7 および T8世代のイネ葉より

DNAを抽出 し.7Crp遺伝子のコード領域をプロープと

したサザンハイブリダイゼー ションを行った (図 2a).そ

の結果.7Crp遺伝子の挿入コピー数は 4と推定され,バ

ンドのパターンは じ.Ts• T7および T8世代の問で変化

が見られず,世代を通 じて安定であった.また.7Crpペ

プチド抗体を用いた種子タンパクのウエスタンプロッ ト

解析の結果.7Crpペプチドは世代間,個体間で分子量,

主之Z!L2 3 4

玉虫担旦2 3 4

9.4kb

6.6kb

4.4kb

2.3kb-l

a

T.

2 T

5

3 4 6

b

図2. 導入遺伝子の存在 ・発現の安定性

a,サザンハイブリダイゼーション

キタアケおよび T7世代イネ各 4個体の葉よりゲノム

DNAを抽出し.7Crpコード領域内部に切断サイトのな

い制限酵素 Sac1で切断後,7Crp遺伝子のコー ド領域を

プロープとしたサザンハイブリ ダイゼーションを行った

b, 7Crp#10種子タ ンパクのウエスタンプロッティング

6個体のイネより採種した 1-3,T8種子 ;4-6, T9種子よ

りそれぞれ全タンパク質を抽出し,SDS-PAGE, PVDFメ

ンブレンにブロッティングした後, 7Crpベプチ ド抗体で

検出した.7Crpペプチドの予想されるサイス (100アミノ

酸, 11 kDa)の位置にバンドが見られた

蓄積量に変化が見られなかった (図 2b). これらの結果

から.7Crp#10系統において導入遺伝子の存在およびそ

の発現は安定していることが示された次にカルタへナ

法に基づき,以下.1)競合における優位性による生物多

様性影響.2)有害物質産生性による生物多様性影響.3)

交雑性による生物多様性影響 に大別 した 3つの項目に

ついて調査を行った

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花粉症緩和米の安全性 25

1)競合における優位性による生物多様性影響に関わる

項目

「植物遺伝資源特性調査マニュアルJ(農業生物資源研

究所)および 「イネ育種マニ ュア ノレJ(農業研究センター)

に従い,生育特性,一般形態を調査した.調査結果は各

時期, 各調査項目についてキタアケと 7Crp#10の差異を

比較するため,平均値の差の検定 (t検定)を行った各

調査項目の中で, 3作を通じて 7Crp岸10とキタアケの間

で差異の認められた項目は出穂日,穂長,一穂粒数, 玄

米厚であった 7Crp# 1 0 は出穂、がし 、ずれも 1 ~ 2 日 遅く,

穂長,一穂粒数は平均値がそれぞれ 0.6~ 1.9 cm, 8.9 ~

16.5粒,7Crp#10の方が大きく ,玄米厚は 0.1~ 0.15 mm,

7Crp#10の方が小さかった目また, 2作で有意差が認めら

れ,その傾向が 3作を通じて変わらなかった項目は千粒

重,玄米幅(それぞれ平均値が 0.06~ 2.8 g, 0.02 ~ 0.17 mm,

7Crp岸10の方が小さL、)であった.その他の項目につい

ては有意差が無いか,差異があっても時期によりキタア

ケと 7Crp#10の関係が逆転した(表 1,2)ー調査で明ら

かになった 7Crp#10の生育特性,形態特性はキタアケと

の差異の認められた形質を含め,全て関東地方北部で栽

培された 日本型イネ (当該地方におけるキタアケの生育

調査報告は無い)で報告されている形態特性調査結果(農

業生物資源研究所ジーンパンク 2007)の範囲内であった.

次に雑草化の指標とされる形質(脱粒性,穂発芽性,

発芽率, 越冬性)について調査を行った.その結果,

7Crp#10およびキタアケともに脱粒の程度は “難穂発

芽性は“中" で,差異はなかったまた,収穫直後およ

び 40Cで 6ヶ月間保存 した種子の発芽率についても両者

に差異はなかった(データ略).成体の越冬性について,

2005年の栽培終了後,生育調査区のひこばえを観察した

結果,11月 30日から生長が停止し, 葉が黄化して行く

過程が 7Crp#10とキタアケで同様に進行 し 12月 12日に

は,全てのひこばえが枯死した.

2)有害物質産生性による生物多様性影響に関する項目

a アレロパシ一物質

イネはアレロパシーを示すこ とが知られている (藤井

2003) そこで,根から分泌され土壌に残留するアレ ロパ

シ一物質の効果と,植物体茎葉部および玄米から土壌に

表 1.隔離ほ場におけるキタア ケと7Crp#10の形態特性

2005生ド キタアケ

7crp#10

2006年 l期目 キタアケ

7crp# 1 0

2006年 2J羽目 キタアケ

7crp# 10

*全秘;の50%が出穂した日付 1%水準で有意差有り

出穂期事

7月 27日

7月 28日

6月 28日

6月 29日

9月 30日

10月 5日

稗長 (cm) 穂長 (cm) 穂数 (本)

68.4:t2.7 16.4士1.1 17.8:t4.4

68.1 :t3.6 17.1土1.2本* 14.6:t4.2キ*

69.9:t4.2 16.7:t1.6 16.1 :t3.9

72.3:t3.7** 17.3:t 1.3本車 14.1 :t2.8**

51.1 :t6.7 14.3:t2.0 14.6:t5.0

52.6:t4.8 16.2:t 1.4** 14.8:t3.0

調査個体数 2005年,各 100株;2006年,各80株

表 2.隔離ほ場におけるキタアケと 7Cr凶10の種子生産量

一株粒数 一株籾重 (g) 一株玄米重 (g) 一穂粒数

2005年 キタアケ 1 082:t 1 12.5 24.0:t2.8 18.5:t2.2 70.1土5.2

7Crp#10 1162:t172.1 25.7士4.4 19.8:t3.4 80.8:t7.0*市

2006年 1JtJJ目 キタアケ 1136:t155.7 22.4:t3.7 16.7:t2.6 73.8:t 1 0.4

7Crp岸10 1236士118.5 23.8:t2.0 17.6:t 1.4 82.7:t6.7本

2006年 2JtJJ目 キタアケ 805:t 168.3 10.4:t3.5 6.6士2.6 56.8:t4.6

7Crp岸10 988土156.9* 9.4:t2.3 5.5:t 1.6 73.3:t9.0ホ*

千粒重 (g) 玄米長 (mm) 玄米幅 (mm) 玄米厚 (mm)

2005年 キタアケ 21.6:t0.6 4.97:t0.16 2.96:t0.19 1.93:t0.14

7Crp岸10 21.6:t0.4 5.13:t0.22*本 2.95:t0.16 1.90:t0.09本*

2006年 IJt月目 キタ アケ 19.4:t0.6 4.89:t0.10 2.89:t0.04 1.90:t0.04

7Crp岸10 18.7土0.5ホ本 4.99:t0.06** 2.85:t0.02本機 1.79:t0.03**

2006年2期日 キタアケ 22.9:t 1.2 5.16:t0.06 2.97:t0.05 1.97:t0.02

7Crp岸10 20.1:t1.0** 5.1510.13 2.80士0.05*機 1.82:t0.07**

キ5%水準で有意差有り ,** 1%水準で有意差有り.

稔実率 (%)

88.2:t3.4

89.9:t2.6

85.9:t4.3

83.6士5.9

71.3士5.1

67.1士6.6

調査個体数 2005年,各 30株;2006年,各 12株.玄米サイズは 2005年,各300粒;2006年,各 600粒以上

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26 康瀬 ・高木 ・川勝・ 若佐 ・土門 ・遠藤・村岡・平井・渡去を・服部・ 立石 ・高岩

放出されるアレロパシ一物質の効果を検討した.土壌に

残留するアレロパシ一物質については,生育調査区の

7Crp#10およびキタアケの各区画より採取した土壌を乾

燥し, 2mmのふるいにかけて根や切り株の破片を取り

除いた後,直径 6cmのピニールポットに詰め,アレロパ

シーに感度の高いレタス種子 (グレート レークス 366,タ

キイ種苗)を lポットに 20粒ずつ播種, 2週間後にポッ

ト当たりの発芽率と生重量を測定した 各区画で 8反復

調査した結果, 7Cr凶10栽培土とキタアヶ栽培土の間で

発芽率および生重量に有意な差はなかった (表 3A).一

方,茎葉部および玄米のアレロパシ一物質の効果につい

ては乾燥した茎葉の粉末を 3% (重量濃度,以下, w/w)

または 5%(w/w)の割合で野菜用培土 (ヰセキ野菜用培

土)に混和し,栽培後土壌と同様の方法でレタスの発芽

率および、生重量を調べた 茎葉の混合割合が増加するに

つれてレタスの生重量は減少したが,7Crp#10とキタア

ケの聞に有意差は見られなかった(表 3B).7Crpペプチ

ドが匪乳特異的に蓄積していることから,玄米の粉末を

3% (w/w)または 5% (w/w)の割合で野菜用培土に混和

し,同様にレタスの生育を調べた結果,両者に有意差は

見られなかった(データ略) 以上から,イネのアレロパ

シーについて 7Crp岸10とキタアケの間で差異は認められ

なかった.

b 吸汁昆虫に対する影響

7Crp#10は,導入遺伝子産物である 7Crpベプチドを匪

乳特異的に蓄積することから,イネ種子を摂食 ・吸汁す

る昆虫への生物多様性影響の可能性があげられた.隔離

ほ場で遺伝子組換えイネを栽培する際に,第一種使用規

程に従った場合の吸汁昆虫に対する生物多様性影響を評

価するため,登熟期のイネ種子を吸汁する昆虫を 7Crp#10

およびキタアケの穂に放飼し,その影響を生存率調査の

実験により調べた.実験には登熟期のイネ種子を吸汁し,

しいな,屑米,斑点米の被害をもたらすクモヘリカメム

シ (Leptocorisachinensis) (平井 2004)を用いた.

7月上旬~下旬にかけ,イ ネ科雑草の穂、に飛来したク

モヘリカメムシの成虫を捕獲し,雄雌数頭を餌となるエ

ノコログサ等とともにビニール袋に入れ, 250Cの培養器

で数日間飼育し産卵を待った 卵は温度により鮮化が調

節可能なため, 160Cで保存し実験のスケ ジュ ールにあわ

せて 250Cに移し,鮮化を誘導した 鮮化してきた幼虫

を 250C,16時間明期,湿度 70%以上の条件で飼育し

齢から 5齢までの幼虫および成虫を随時得られるように

した.

実際の調査は実験室の培養器内と自然、条件のほ場の 2

つの条件で行った 培養器内では,鮮化後 2 ~ 3 日目 の

l齢幼虫 13頭をほ場から採取した開花後 10日前後の穂、

とともにプラスチック容器内で(図 3a),250C, 16時間

明期,湿度 70% 以上の条件で飼育した. 7Crp#10とキタ

アケの試験区を各 5反復設け, 2週間後までの生存個体

数を継時的に調べたほ場の実験では 2Lのペットボト

ルでト図 3bに示すような飼育容器を作製し,開花後 10日

段ボーノレ板

空気穴2Lベットボトル

テトロンゴース

b

図3 クモヘリカメムシの飼育容器

a,培養器内飼育に用いたプラスチックカップ(直径 8 ~

12 cm,高さ 8cmを2個使用)

b,ほ場での飼育に用いた 2Lベッ トボトノレを改造した飼

育容器

表 3.キタアケと 7Crp#10のアレロパシ一物質の比較

A 栽培後土壌に矯種したレタスの発芽率および生重量

発芽率 (%)

生重盆 (mg)/個体

土壌採取地

キタアヶ 7Crp#10

96.3:t3.5

44.9:t4.1

96.3土5.2

42.5士5.5

B 茎葉粉末を混合した土壌に播種したレタ スの発芽率および生重量

発芽率(%)

生重量 (mg)/個体

0%

98.8:t2.3

66.0:t7.2

キタアケ

95.6:t5.0

56.4:t8.6

茎葉粉末混合割合

3%

7Crp再10

96.3:t6.4

57.4:t7.8

キタアケ

97.5:t2.7

42.4:t3.6

5%

7C叩岸10

96.3:t5.2

39.6:t5.2

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花粉症緩和米の安全性 27

前後の穂 2本にかぶせ,その中に 2齢幼虫を 10頭ずつ放

飼した.7Crp#10とキタアケでそれぞれ 6反復行い.2週

間後に生存個体数を調べた その結果,室内およびほ場

いずれの実験でもクモヘリカメムシの生存率は 60%~

100% と高く,キタアケまたは 7Crp#10種子を吸汁させ

たグループの生存個体数に有意差はなかった (表 4).

この他,イネの葉や穂軸,穂などを吸汁するツマグロ

ヨコバ イ (Nephotettixcincticeps)の羽化直後の成虫を用

いた実験も,クモヘリカメムシとほぼ同様の飼育条件(室

内およびほ場)で行った.しかしツマグロヨコバイは登

熟中の穂での飼育が困難で,成虫の寿命も短いため死因

の特定が難しかった. また,ほ場の実験では他の昆虫等

(ク モ,ハサミム シなど)に捕食され,ほぼ全滅した飼育

ボトルもあり ,データ収集が困難な状況であった 従っ

て,吸汁昆虫に対する遺伝子組換えイネの影響評価試験

としてはクモヘリカメム シを用いる方法が再現性,精度

の点で優れていた

c 飛来昆虫相の調査

遺伝子組換えイネの周囲の動物に対する影響を知るた

め, 開花期から登熟期にかけて週 1回,捕虫網によるす

くい取り法 (岸野 1983)でキタアケおよび 7Crp#10の調

査区に飛来する昆虫の種類,数を調査した.飛来する昆

虫の数,種類は 3作で季節が異なるため,様相が変化し

た 主にクモヘリカメム シ,ツマグロヨコバイ, セジロ

ウンカ, ヒメトピウンカなど代表的な水回害虫の他, コ

パエ,フ。ユ,ユスリカ ,ヌカカ,カニグモなどが捕獲さ

れた 2005年の結果は捕獲頭数の多かったクモヘリカメ

ムシあるいはウンカ ・ヨコバイ類にわけて表 5にまとめ

た.2006年の l期目の結果は大発生したクモヘリカメム

表 4.キタア ケと 7Cゅ岸10の登熱中の穂に放飼したクモヘリカメムシの 2週間後の生存個体数

キタアケ

7Crp再10

室内実験 (13頭)

生存個体数 (頭)

l卜4土1.5

11.4:1: 1.1

ほ場実験(10頭)

生存個体数 (頭)

8.3:1:1.5

7.7:t 1.0

シとその他の昆虫等に分けて解析 した.2期 目はクモヘ

リカメムシは捕獲されず,また, ウンカ類の捕獲頭数も

非常に少なかったため,飛来昆虫等全体をまとめて解析

したいずれも捕獲数の平均値の差の検定 (t検定)を

行った結果.7Cゅ#10とキタアケの聞に有意差は見られ

なかった (データ 略).また,種類についても 7Crp#10と

キタアケの聞に差異は認められなかった さらに.2005

年 8 月 5 ~ 8 日 の 4 日間 (乳熟期) .試験区の水田で地上

1mの位置に lOx20cmの捕虫用粘着版 (青色,黄色各 2

枚)を吊り下げ,付着した昆虫等を調査 した目この調査

ではすくい取り法に比べて双趨目昆虫が多く ,次いでヌ

カカ,ウンカ, ヨコ バイなどがみられたが, 付着した昆

虫数・種類に両調査区の間で差異は見られなかった(デー

タ略)•

d.土壌微生物相の調査

3作と もに,田植え前,出穂期,収穫後に調査区各 l地

点から採取した土壌を用い. 15 mMリン酸ノくッファー

(pH 7.0)で 10-2~ 10-5 (湿重量濃度)の希釈系列を作製

し, 塗抹平板法により培地に展開 した 細菌,放線菌は

YPTG培地,糸状菌はローズベンガル培地 (土壌微生物

研究会編 1975)を使用し 250C暗所で細菌 ・放線菌は 2

日間,糸状菌は 4日間培養後にコロニーを計数した 各

希釈系列につき 5反復調査し.t検定を行ったところ,土

壌微生物数は季節や土壌中の水分量による変動が見られ

たが.7Crp#10とキタアケの聞に有意差は見られなかっ

た(表 6).

3)交雑性による生物多様性影響に関する項目

我が国には栽培イネと交雑する可能性のあるイネ科植

物は自生していないため この項目についての試験は本

来カルタヘナ法では求められていない しかし,遺伝子

組換えイネが他の栽培イネと交雑する可能性があるので,

遺伝子組換えによる交雑性の変化を調査した なお,交

雑の調査には茨城県ではキタアケと開花期が同時期とな

る “は くちょうもち.. (Oryza sativa L. CV. Hakuchomochi)

を用い, キセニア粒の出現を交雑の指標とした.遺伝子

組換えイネとはくちょうもちの開花期をそろえるため,

表 5.キタアケと 7Crp#10の栽培試験区における飛来昆虫相の調査 (2005年,すく い取り法)

クモヘリカメム‘ンの捕獲数変化

調査日調査区

8/3 8110 8/17 8/24 8/31 9110

キタアケ 。 0.8:1: 1.0 1.8:1: 1.3 2.2:1: 1.5 0.8:1: 1.3 。7Crp#10 。 0.5:1:0.8 3.6:1:2.5 0.4:1:0.2 0.2:1:0.3 。

ウンカヨコバイ類の捕獲数変化

調査日調査区

8/3 8110 8117 8/24 8/31 9110

キタアケ 。 1.2:1: 1.2 3.6士3.9 8.8士3.6 13.6士3.9 2.0:1:卜4

7Crp#10 。 1.5:1: 1.9 5.1 :1:3.3 4.8:t2.2 11.2:1:4.0 1.0:1:0.7

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28 蹟瀬・高木 ・川勝・若佐・土門 ・遠藤 ・村岡 ・平井 ・渡溢 ・服部・立石 ・高岩

表 6.キタ アケと 7Crp岸10の栽培試験区における土嬢微生物数の変動

2005年 2006年ーl期目 2006年-2期目

田植え前 出穂、期 収穫後 田植え前 出穂期 収穫後 田植え前 出穂期 収穫後

細菌 (x106/g乾土)

キタアケ 5.1 :t0.6 7.4:t0.2 6.3:t 1.9

7Crp岸10 5.0士0.7 7.3:t0.4 6.0:t2.3

放線菌 (x105/g乾土)

キタアケ 9.3:t3.1 8.4:t2.0 9.6:t0.3

7Crp岸10 7.4:t2.9 7.1:t1.4 9.4:t0.6

糸状菌 (x104/g乾土)

キタアケ 4.4:t0.2 2.0:t0.4 1.5:t0.4

7Crp再10 5.1:t0.7 2.3:t0.5 1.2士0.2

はくちょうもちの播種を組換えイネ播種の前後にも行い,

出穂、が同時期となった個体を交雑およびモニタリングの

調査に用いた. また, これらのはくちょうもちは遺伝子

組換えイネの開花がほぼ終了すると同時に隔離ほ場畑地

の防鳥網の中へ回収し, 未出穂の茎を全て切除した.

a.花粉形態の比較調査

交雑性に影響すると考えられる花粉の形態,稔性を調

べた結果,キタア ケと7Crp#10の間で有意差は認められ

なかった(データ略)•

b. 花粉飛散による交雑性の比較調査

2005年の栽培では,はくちょうもちのポットを中央の

花粉源 (7Crp#10,キタアケ)から 50cm, 1m, 2 mの距

離に放射状に各 8個ずつ配置し,合計 24個のポットで囲

んだ目 これらから登熟種子を採種,乾燥後, 目視により

キセニア粒, もち米を判定した結果,23952粒中,キセ

ニアは検出されなかった.2006年の栽培では花粉源の

ポッ トから 25cm, 50 cm, I m, 2 mの距離に各 8個ずつ

のはくちょうも ちのポ ットを合計 32個ずつ配置し,より

近距離で再度交雑性の比較調査を行った結果期目 は

採種した 9,820粒中,キセ ニアは検出されなかった 2期

目の栽培ではキタ アケの周囲に配置したはくちょ うもち

から採種した 3,830粒中にキセニア粒は無く ,7Crp#10周

囲のはくちょうもちより採種した 3,708粒のうち,7Crp#10

から 50cmと 1m離れた個体から得られた 2粒がはくちょ

うもちと 7Crp#10との交雑個体であるこ とが判明した.

3.花粉飛散のモニタリング調査

農林水産省がその所掌に係わる独立行政法人の試験研

究機関に示した第一種使用規程承認組換え作物栽培実験

指針に従い,農業生物資源研究所のほ場地区の外へ花粉

が飛散していないかモニタリング調査を行った.調査に

は交雑性の調査同様,はくちょうもちを用い,花粉飛散

によるキセニア粒を指標とした

図4に示したとおり ,はくちょうもちのポット 107個

を,ほ場地区全体を囲むかたちで 5mおきに配置した

2.6:t0.4 3.6土0.6

2.3:t0.2 3.9:t0.7

7.4:t1.6 5.8:t 1.5

6.0:t1.6 4.1:t1.3

2.9:t0.8 7.0:t2.3

1.7:t0.8 12.6:t4.6

. 一一ーーーーII

2.9:t0.1

2.5:t0.4

11.8:t2.3

8.9:t2.6

3.3:t0.8

3.3土0.5

3.9:t0.2

4.0士0.4

4.6:t 1.1

3.3:t1.3

3.6:t0.7

3.0:t0.7

160m

J l

3.1 :t0.5

3.9:t 1.3

9.0:t0.9

1 0.4:t 1.9

3.3:t 1.2

3.7:t0.8

一 一 白υ ・¥ / . 防風林 l o .ト、/.' 0 o 0 o 0

O

5.4:t2.7

10.1 :t5.6

5.9:t 1.1

5.1:t1.6

2.0:t0.6

4.0:t0.6

隔離ほ働

図4 交雑のモニタリング用はくちょうもちポットの配置図

(イメージ図)

農業生物資源研究所本館ほ場地区を取り囲む形で 5mお

きにポットを配置した 隔離ほ場の 7C叩#10から最も近

トまでの距離は約 98mとなった

・,はくちょうもちポ ット 0,防風林

配置したポ ットと隔離ほ場の 7C叩#10との距離は約 7.5m

~約 98mであった.3)-bの調査と同様の方法で交雑の

有無を調べた結果,44,957粒 (2005年),28,536粒 (2006

年 l期目 ),12,095粒 (2006年 2期目)中,キセ ニア粒

は認められなかった

考察

スギ花粉症緩和米の隔離ほ場栽培試験では 3作全てに

おいて,生育 ・形態特性,調査区に飛来する昆虫数,調

査区の土壌細菌数, 花粉飛散による交雑性を非組換え体

のキタアケと比較調査し, 差異の有無について検定,野

生動植物に対する影響を検討した.その結果, 1)競合に

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花粉症緩和米の安全性 29

おける優位性による生物多様性影響の項目において 3作

を通じてキタアケとの有意差が認められた項目(出穂日,

穂数, 一穂粒数,玄米厚),2作で有意差があり,その傾

向が 3作を通じ変わらなかった項目 (穂長,千粒重,玄

米幅)があった(表 1,2) これらの差異は特定網室で

は検出されなかったが,温室の限られた条件下で、の栽培

に比べ,隔離ほ場では一般の水田と同様に十分に成長す

るため,遺伝的形質がより顕在化したものと考えられる

一方作においてのみ有意差の認められた項目や 3作

目で数値が逆転した項目もあった このように自然条件

下のほ場における栽培で、は形質が気象条件により大きく

変動するため,本報告のように生育特性,形態特性の調

査を繰り返すことで,その遺伝子組換えイネの性質がよ

り明らかとなるケースもある.隔離ほ場栽培における遺

伝子組換えイネの環境リスク評価については作での

調査報告はあるが(大山ら 2001,長谷川ら2005),異な

る時期に反復して行われた調査をまとめた結果は本報告

が最初であり,生物多様性影響評価試験の参考例として

重要であろう.

3作を通じて本組換えイネが非組換えイネとは異なる

特性を示したのは穂および種子の形態に関する項目で

あった.このイネは 7Crpペプチドが高蓄積している匪乳

の細胞内微細構造がキタアケと異なっていることから(未

発表データ),種子の形態(大きさ)や種子生産量に影響

を及ぼしている可能性が考えられる. しかし,調査で認

められたこれらの特性の差異が導入遺伝子に起因するの

か,培養変異によるものなのかは今の段階では明らかに

されていない

スギ花粉症緩和米の導入遺伝子産物である 7Crpペプチ

ドは匹乳特異的に蓄積するため,特にイネ種子を吸汁す

る昆虫に対して影響が生ずる可能性が考えられたそこ

で,水田に飛来し種子を吸汁する昆虫の中でも代表的な

害虫として知られるクモヘリカメムシを用いてその生理

学的な影響を飼育実験により検証した結果,組換えイネ

とキタアケの種子を吸汁した昆虫の生存率に違いは認め

られなかった この実験によりイネ種子を摂食,吸汁す

る昆虫の多様性 ・生態に対し この組換えイネが非組換

えイネと異なる影響を及ぼす可能性は極めて低いことが

示された

調査の結果, 1)競合における優位性による生物多様性

影響に関わるいくつかの項目において 7Crp#10とキタア

ケの間で差異が認められたが これらの調査結果はすべ

て関東地方で栽培されているイネの生育 ・形態特性の範

囲内であり, 7Crp#10に競合における優位性があるとは

言えない.加えて, 2)有害物質産生性による生物多様性

影響に関する項目 (表 3・6),3)交雑性による生物多様

性影響に関する項目の全てにおいて差異が認められな

かったことから, 7C叩#10は生物多様性影響に関してキ

タアケとの差異は認められないと判断し,研究所内の一

般ほ場での栽培を申請し 2007年 6月 初 日にその栽培が

認可された.

スギ花粉症緩和米の隔離ほ場栽培は生物多様性影響評

価試験の他に材料確保という目的のため,大規模な栽培

が行われたここで遺伝子組換え生物の拡散防止という

観点から大規模栽培の管理について言及すると,①登熟

期から収穫物の不活化が完了するまでの間,ほ場内で生

産(収穫)された数百 Kgという大量の組換えイネ種子

を隔離ほ場の外に l粒も持ち出さずに作業を行うため,

退出時に衣服,持物,靴底等への種子の付着の有無を必

ず入念にチェックすること.②大型脱穀機は内部に籾が

残りやすく,完全な清掃が困難なため組換えイネ専用に

すること ③収穫物全てを 「精米」 という組換え生物で

はない状態でほ場から外へ出すことが,組換えイネの大

規模栽培において最も適切であること.④精米作業が終

了した後,細断した稲わら,切り株,籾殻,糠,落ち穂

等は隔離ほ場に鋤き込み,数回耕起して水を張り,次の

栽培までに組換えイネを完全に不活化することなどがあ

げられる

以上,スギ花粉症緩和米 (7C中#10)に関して 2年間 3

作にわたる隔離ほ場栽培により ,カルタへナ法に基づく

環境リスク評価を進めてきた.遺伝子組換えによ って,

イネ等の作物の形態や生育特性が原品種と異なってしま

う可能性は排除できない. しかしその際重要なことは

変化を正確に把握した上で環境に対する影響を適切に評

価していくことであり,そのための評価方法や項目も従

来行われてきた内容だけにとらわれず,吸汁昆虫による

評価試験等,開発者がその組換え作物独自の性質を考慮

し検討していくことが大切である

7Crp#10系統の米をモデ、ルマウスに経口投与した実験

ではその予防効果がすでに示されており (Takagiet al.

2005) ,また,食品成分分析の結果,キタアケと差異がな

いことも示されている (Takagiet al. 2006).さらに,本

栽培で収穫した米を用いた動物実験 (遺伝毒性,急性 ・

慢性毒性,生殖発生毒性)の結果, この米を投与したサ

ル,マウス, ラット等に対し,異常が無いことが明らか

となった(農業生物資源研究所プレスリリース 2007).今

後も環境リスク評価を含め安全性 ・有効性に関する種々

のデータを積み重ねることがスギ花粉症緩和米の実用化

につながることを期待するー

謝辞

この報告を作成するに当たり ご助言いただいた農業

生物資源研究所の田部井豊氏, クモヘリカメムシの飼育

法についてご指導いただいた農研機構の石崎摩美氏,栽

培にご協力いただいた生物資源研究所の支援室の方々,

調査にご協力いただいた全農ビジネスサポートの津田靖

氏,遺伝子組換え作物開発センターのメンバー全員に感

謝いたします.なお, この研究はアグリバイオ実用化産

業化研究プロジェクトの支援の下で行われました.

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30 贋瀬 ・高木 ・川勝 ・若佐 ・土門・ 遠藤 ・村岡 ・平井 ・渡迭 ・服部・ 立石 ・高岩

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