12
E21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム 礒部雅晴 1.粉の世界へようこそ! 砂のような粒子の集団やその流れは日常どこでも目にします。細かい固体粒子の集まりをここでは粉体と 呼びます。砂や砂糖のように多数の粒子から構成される粉体は、固体や液体とは異なる独特の振る舞いを見 せます。山を形成し固体のように静止し続けることもあれば、砂山の雪崩のように液体のように流れ落ちる こともあります。粒子の大きさが数百μm の微粒子から、海岸を覆いつくす砂浜、極海を漂う漂氷、更には、 土星の環など、粉粒体の科学の対象になるものの大きさは少なくとも 12 桁にわたると考えられます。このよ うな大きさや物性の異なる様々な粉粒体は、共通した普遍的な法則に従っているようにも見えます。もし粉 体の振る舞いを支配する物理法則が存在するとすれば、それは大きさが数桁にわたって異なるものが対象と なるでしょう。工学的な応用面でも、粉粒体物質は我々の日常生活の中で重要な位置を占めています。全世 界で毎年生産されている様々な種類の粉粒体は膨大なものです。地球上で産出されている全エネルギーの中 で粉粒体に関連し消費されるものはかなりの割合を占めます。コンクリート,化学薬品,薬,砂糖,砂山, 雪崩,土石流,液状化,風紋,交通流,果ては惑星のリング形成や銀河の分布まで、粉粒体の研究は非常に 広範な対象の理解を深め、大きな経済的影響をもたらすと考えられます。人間が生活していく上で、粉粒体 は水に次ぎ 2 番目に重要な物質であるといえるでしょう。 ところがこのような身近な粉の動きを科学的に調べようとすると、その振る舞いが複雑すぎてよくわから ず、現代の最先端の物理学でも解けない難問の一つとなっています。粉粒体物質の研究には、伝統的な学問 体系を越えた新しい理論体系が必要とされています。いままでに確立された理論体系を如何に上手に使いこ なすかという工学的問題だけでなく、今までにない全く新しい視点を必要とする第一級の(ニュートンやア インシュタインのような)創造的な若い頭脳によるブレークスルーを必要とする問題が山積しているのです。 電磁気学の創始者 Faraday や、寺田寅彦も注目した古くて新しいこの話題を簡単な実験やシミュレーション を通して体験し、その面白さを実感してみましょう。 (上図)粉体(たとえば金属球)を板の上におき下から加振した際に現れるパターンを再現した計算機シミ ュレーション。振動数を変化させることにより様々なパターンがあわられる。 2.身近にある粉粒体の不思議 ここでは、粉体の特徴をよく示しているいくつかの最先端のトピックを通して粉流体の不思議な性質を紹 介していきます。粉体研究の不思議をまとめたとても面白い啓蒙書として、「砂時計の七不思議-粉流体の動 力学-(中公新書:田口善弘)」を紹介します。興味をもたれた方は、一読されることをお勧めします。 著者のページ:http://www.granular.com/tag/suna/

E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

  • Upload
    lamtruc

  • View
    227

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

E21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム 礒部雅晴

1.粉の世界へようこそ!

砂のような粒子の集団やその流れは日常どこでも目にします。細かい固体粒子の集まりをここでは粉体と

呼びます。砂や砂糖のように多数の粒子から構成される粉体は、固体や液体とは異なる独特の振る舞いを見

せます。山を形成し固体のように静止し続けることもあれば、砂山の雪崩のように液体のように流れ落ちる

こともあります。粒子の大きさが数百μmの微粒子から、海岸を覆いつくす砂浜、極海を漂う漂氷、更には、

土星の環など、粉粒体の科学の対象になるものの大きさは少なくとも 12 桁にわたると考えられます。このよ

うな大きさや物性の異なる様々な粉粒体は、共通した普遍的な法則に従っているようにも見えます。もし粉

体の振る舞いを支配する物理法則が存在するとすれば、それは大きさが数桁にわたって異なるものが対象と

なるでしょう。工学的な応用面でも、粉粒体物質は我々の日常生活の中で重要な位置を占めています。全世

界で毎年生産されている様々な種類の粉粒体は膨大なものです。地球上で産出されている全エネルギーの中

で粉粒体に関連し消費されるものはかなりの割合を占めます。コンクリート,化学薬品,薬,砂糖,砂山,

雪崩,土石流,液状化,風紋,交通流,果ては惑星のリング形成や銀河の分布まで、粉粒体の研究は非常に

広範な対象の理解を深め、大きな経済的影響をもたらすと考えられます。人間が生活していく上で、粉粒体

は水に次ぎ 2番目に重要な物質であるといえるでしょう。

ところがこのような身近な粉の動きを科学的に調べようとすると、その振る舞いが複雑すぎてよくわから

ず、現代の最先端の物理学でも解けない難問の一つとなっています。粉粒体物質の研究には、伝統的な学問

体系を越えた新しい理論体系が必要とされています。いままでに確立された理論体系を如何に上手に使いこ

なすかという工学的問題だけでなく、今までにない全く新しい視点を必要とする第一級の(ニュートンやア

インシュタインのような)創造的な若い頭脳によるブレークスルーを必要とする問題が山積しているのです。

電磁気学の創始者 Faraday や、寺田寅彦も注目した古くて新しいこの話題を簡単な実験やシミュレーション

を通して体験し、その面白さを実感してみましょう。

(上図)粉体(たとえば金属球)を板の上におき下から加振した際に現れるパターンを再現した計算機シミ

ュレーション。振動数を変化させることにより様々なパターンがあわられる。

2.身近にある粉粒体の不思議

ここでは、粉体の特徴をよく示しているいくつかの最先端のトピックを通して粉流体の不思議な性質を紹

介していきます。粉体研究の不思議をまとめたとても面白い啓蒙書として、「砂時計の七不思議-粉流体の動

力学-(中公新書:田口善弘)」を紹介します。興味をもたれた方は、一読されることをお勧めします。

著者のページ:http://www.granular.com/tag/suna/

Page 2: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

ブラジルナッツ効果

粉流体の分離の古典的な例であり経験的に誰もが知っているブラジルナッツ効果は、家庭で簡単に実験で

きます。右図はこの効果の概念図です。透明で

円筒形の小さな入れ物(調味料入れのような

類)を用意します。砂(グラニュー糖や塩でよ

い)を半分くらい入れます。続いて、重くて大

きな塊(たとえば、鉄の六角ナット)と同じく

らいの大きさで軽い塊(たとえば、プラスチッ

クの止めピン)を入れます。まず、容器を上下

に振ってみてください(左)。ナットはすぐに

表面に出てきますがピンは沈みます。次に、容

器を左右に振ってみてください(右)。今度は、ピンが浮いてナットが沈んでしまいます。

では、実際に実験してみましょう!

こんなに簡単な実験は他にないかもしれません。しかし、粉

流体の問題のうちもっとも簡単なこのような実験でさえ、よ

くよく考えると不思議なことだらけで、パラドックスが存在

するということがよくわかるでしょう。そして、もっと複雑

な産業用装置となるとおよそ手に負えるような代物でない

だろうということも想像に難くないはずです。六角ナットの

ような大きな塊に鉛直振動時に生じる浮力の原因を説明す

るモデルはたくさんあるのですが、お互いに矛盾しており、

いまだ統一的な見解が得られておりません。また、押しピン

の沈降の原因、および、水平振動で押しピンと六角ナットの上昇と沈が逆転する理由にいたっては、いまだ

推測の域を出ていません。このような単純な現象さえ現代物理学で説明できないのです。

上下に振動した実験例

左右に振動した実験例

さらに興味を持った人へ:

世界で最も権威のある物理専門誌 Physical Review

Letters2003 年 1 月号にこの問題に取り組んだ論文が掲

載されています。Web ページ:

http://ojps.aip.org/prl/covers/90_1.jsp に掲載され

ている実験の図を見るだけでもこの問題の面白さの一

端に触れることができるでしょう。

図の説明:(a) 8mm ガラスビーズと 15mm ポリプロピレ

ンによるブラジルナッツ効果 (b)10mm 黄銅球と4mmの

ガラスビーズによる “逆”ブラジルナッツ効果

Page 3: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

液状化現象(エッキー)

1964年の新潟地震では、鉄筋アパートは横倒しになったり、建築されたばかりの昭和大橋は崩落し、

マンホールは浮上したりしました。この現象は液状化現象と呼ばれ、地震によって固体状態にあった粉体が

一時的に液体のように溶けてしまう現象です。1995年の阪神大震災では、ポートアイランド・六甲アイ

ランドが被害を受けたことは記憶に新しいと思います。現在、起ることが想定されている東海地震において

も液状化現象による被害が推定されています。

さて、液状化現象はどのようにして起るのでしょうか?これは、振動させると液体のように振る舞い、動

きが止まると一瞬にして固化するという粉粒体の特異な性質と密接に関わってきます。地震が発生する前、

水分をたくさん含んだ砂は、隙間にたくさんの水を含みながらも砂粒同士が接触していることによって、固

化しその上に立っている建築物を支えています。しかし、地震が発生すると砂は強い振動をうけ、支えあっ

ていた砂粒は流動化し固まろうとします。このとき、固まろうとする砂粒の間に含まれている水は、周りの

砂から力が加えられ、水圧が上昇します(間隙水圧)。この水圧が、上に乗っている土の圧力と等しくなる

と、間にある砂粒にかかる力がつりあい、力が加えられてない状態と同じ状態になります。そうすると、砂

粒は液体と同じように動き始めます。このことにより、上にある建造物を支えることができなくなります。

また、水圧の上昇により地中にあった物体が流動化した砂の表面に浮き上がってくるのです。

では、実際に実験してみましょう!

ここでは、エッキーと呼ばれる液状化現象を簡単に体験できる

実験を紹介します。まず、空のペットボトルに砂、マップピン

を入れ、水で完全に満たします。ペットボトルのふたを閉め、ペットボトルを逆さにして、テーブルの上に

置き、砂がペットボトルの底に沈降するまで、そっとしておきます。砂が沈降して、ピンも完全に砂に埋ま

った状態になったところで、ボトルに軽く振動を与えます。そうすると、不思議なことに、ピンが砂と水の

境界面に突然浮上してきます。再び、ペットボトルを逆さにすることで、何度でも同じ実験が可能です。実

は、地震のときの液状化で地中のマンホールが浮上する現象は、この現象と同じものなのです。

用意するもの ペットボトル、粒系 0.2mm くらいの

砂、マップピン、水

Page 4: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

ホッパーの不思議

粉体工学で粉粒体を流すロート状の装置をホッパーと呼びます。

このホッパーの七不思議と呼ばれているものの一つに、出口の直径

が粉粒体の直径の6倍より小さいとき粉粒体は流れ出ず、目詰まり

を起こすというのがあります。どのような粉粒体(米でも、砂でも、

食塩でも)だいたい粒子の直径の6倍程度の穴でないと流れないと

いうことです。

ホッパーの中の砂の流れはどうなっているのでしょうか?粉粒体

の可視化の一つのやり方として奥行きをなくして平面にして、2枚のガラス板にはさまれた部分に直径数ミ

リのガラス球を入れ、直径の長さ程度にあけて鉛直に立てた2枚

の透明な板の間に入れてこれを粉体流の観察のモデルにしてみ

ます。流れの様子をよく観察してみましょう。非対称に流れる奇

妙な流れ方をすることがわかります。また、この非対称な流れに

より、流れが右から左へと移り変わる瞬間にちょっとタイミング

がずれて、右が止まる前に左が流れ出すと、両方の流れがぶつか

ってにっちもさっちもいかなくなってしまいます。(パニック状

態になった人たちが、会場から一つのドアに向かって一斉に一度

に人が外に出ようとしているときに立ち往生してしまう状況に

似ています)この場合に、目詰まりがおこり流れが止まってしまいます。下向きの重力が働いているために、

穴の大きさが粒子の直径の何倍もあるにもかかわらず、ひっかかってしまいます。どうして、そのような目

詰まりが安定なのでしょうか?目詰まりしている付近のホッパーの穴を拡大してよく観察してみましょう。

粒子がきれいなアーチ構造をしていることがわかります。そのようなアーチ構造は人間が考え出した建造物

によく見られることでしょう。

パニック状態に陥った群集の流れを簡単な

粉体モデルを使い、定量的に調べようとする研

究が行われるようになってきました。Web ペー

ジ:http://angel.elte.hu/~panic/ このペー

ジには、Java-Applet によるアニメーションや

実際に起った事件の動画、シミュレーションの

ソースコードがダウンロードできます。ここで

重要なことは、パニック状態が起ったときにや

はり人間は出口付近で目詰まりを起こしてし

まい、そのときにはやはりアーチ状の構造がで

きるということです。一見自由意志で動いていると思われる人の流れもパニック状態の群集化してしまうと、

粉体と同じくらい単純な動きしかしていないということでしょうか?

Page 5: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

粉体系のマックスウェルの悪魔

19世紀の有名な物理学者で電磁気学の基

本方程式にもその名を残しているマックスウ

ェルは、様々な速度で動いている粒子の動きを

選別できる小さな生物「マックスウェルの悪

魔」が存在すれば、永久機関が存在しうるので

はないかと考えました。もし、永久機関が存在

すれば、世の中のエネルギー問題(環境問題な

ど)はすべて解決するでしょう。しかし、実際

はいろいろな理由でこのような「マックスウェルの悪魔」は存在できないことが分かってます。ところが、、、

上図のように中央を仕切りで隔てた二つの箱を用意し、それぞれ同量の粉体を入れ仕切りに小さな穴を開け

て加振させてみます。穴の高さが低く大きな振幅(もしくは振動数)で振動させると、粉体が穴を通して移

動しますが、しばらく時間が経つと、不思議なことにひとりでに粉体が片方の箱に集まってきます。はじめ

に両方の箱の中で活発に動いていた(温度の高い)粒子が、温度の高い粒子が入っている箱と温度の低い粒

子粒子が入っている箱に分けられてしまったかのようです。仕切りの穴に粒子の動きを見分けることのでき

る目に見えない小さな魔物がいるのでしょうか?これは「粉体系のマックスウェルの悪魔」として知られる

有名な実験です(Eggers PRL 1999)。現在までに粉体のわずかな密度差が片方の箱における凝集化を促進する

と考えられてますが、これを説明する精密な理論はいまだ存在せず、未知の問題となってます。またこの実

験は、現代物理学(熱統計力学理論)発展を促す典型的なモデル系としても盛んに研究が行なわれています。

この現象を詳細に調べることにより、月面や微惑星上の

ような微小重力下で、容器をわずかに加振させるだけで

多くの粉体を制御できる効率的なエネルギー輸送の開発

など工学的応用が無限に考えられるでしょう。

では、実際に実験してみましょう!

Page 6: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

粉体気体の不思議

少し内容が高度になりますが、粉体がたくさん集まったときの動きの特徴をよりよく知ろうとするため、

重力と言った力が存在しない系で粉体気体モデルと呼ばれているものが、物理学の最先端でいま盛んに研究

されています。これは粉体を非弾性剛体円盤とよばれる硬い円盤でモデル化し、その動力学を無重力状態で

単に粒子同士が衝突したときに散逸(エネルギーを失う)を導入したという極端に単純な系です。高校の物

理の授業で跳ね返り係数 e(反発係数)とよばれているもの習ったかもしれませんが、跳ね返り係数が e<1

となるようなものが非常にたくさん集まったものを想像してみてください。例えば、下からの空気で円盤を

浮かせているエアホッケーの状態に近いですが、これに空気や重力の影響さえも排除した理想的な系です。

このような理想的な系においてたくさんの粒子系を扱うには、分子動力学法というシミュレーションを用い

て、計算していきます。以下の図は、粒子数が49万、密度(粒子占有率)が 0.75、0.20 の場合を最初空間

的に一様に配置してある温度でシミュレーションしたものです(密度が 0.90 でぎゅうぎゅうに詰まった状態

になります)粒子同士は衝突の際、e=0.9 でエネルギーを失います。たったこれだけの条件でほおっておく

と、エネルギーを失う過程(冷却過程)で自発的に下図のように複雑なパターンが生じます。

このようなパターンは何に見えますか?パターンが生じる原因をどのように理解すればいいのでしょうか?

最近のトピックとして、こういったパターンの形成メカニズムを解明するため、重力を排除した宇宙空間で

実験を行おうとする動きがあります。

Page 7: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

3.砂山におけるパターンの不思議

2種類の混合物からなる粉体の魅惑的な特徴は、振ったり、回転したり、注いだりするときの分離する傾

向にあります。例えば、最初一様に混ぜられたビンに入れられたナッツは、船積みの際に揺すられて分離し

てしまうでしょう。そして、ビンを開けたとき、大きなブラジルナッツはビンの上にあり、小さなナッツは

ビンの底にあることでしょう(2章参照)。

この節では、砂山形成過程において雪崩によって自然に分離する現象に注目しましょう。

雪崩の動力学

粉流体の分離は、製薬・農業の会社といった粒子加工産業の重要な問題であります。最初に砂と砂糖を均質

に混ぜた2成分混合系を準2次元な Hale-Shaw セル(アリの巣を観察するときの容器に似ている)の閉じた

片端から注ぐときに、自発的に交互に層が形成される場合や別々に2つに分離する場合があります。このよ

うな現象は、砂山における相分離(Segregation)と層形成(Stratification)と呼ばれています。

実験装置の仕組み

実験装置は、2枚の高さ25cm、30c

mのアクリルガラスからなります。垂直に

立てられた2枚のアクリルガラスの間にス

ペーサーをかませてネジで締めることによ

って、アクリルガラス間にdcmほど間を

あけることができます。同量の2種類の混

合物をの50/50の混合物を、漏斗を利

用して装置の一端の近くから注ぎます。

実験結果例

Web ページ:

http://lisgi1.engr.ccny.cuny.edu/~makse/index.html

Page 8: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

2種混合系

拡大図

白い粉体は、直径 0.27mm 球形のガラスビーズ。

赤い粉体は、平均サイズ 0.8mm の砂糖の立方体結晶

3種混合系

3種類の砂のパターン

白い粉体は、0.15mm のほとんど球形のガラスビーズ

青い粉体は、直径 0.4mm の砂

赤い粉体は、砂糖結晶で、直径 0.8mm

参考文献

野口真保

砂山における Segregation と Stratification の形成過程

物性研究、72-2 p.102 (1999-5)

H.A.Makse, S.Havlin, P.R.King & H.E.Stanley,

"Spontaneous stratification in granular mixtures"

Nature, Vol.386, p.379 (1997).

Page 9: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

相分離する場合

実験(装置作成)

この実験を行うため、まず装置を作成してみましょう!

作業工程

1. 新聞紙をしく。

2. アクリル板に帯電防止スプレーを塗る。ティッシュでよくふ

き取る。

3. スチレンボードを切り取り、枠を作る。(3x25 を2つ, 3x24

を一つ)

ボールペンと定規で表と裏に線を引き、ダンボールを敷いて、

線に沿ってプラ切カッターを

使って切れ目を入れる。十分に切れ目を入れたら、パキッと

割る。きれいに割らないと後で困る。

4. 添え木で固定して、穴あけドリルでステンレスアームが固定

できるように穴を開ける。

1枚目の最初の下の穴を開けたら、ステンレスアーム棚受をあてがい、そのまま上の穴を開ける。

それを参照板として2枚目を重ね、そのまま添え木に固定してずれないように穴を開ける。

ずれると組み立てられないので、結構難しい。合計8つ(各板につき4つ)穴を開ける。

5. 切り取ったプラスチック板は片側に両面テープを貼りアクリル板に貼って固定する。特に下の部分に

対応するところは、砂がもれないように慎重に貼り付けをする。

6. 貼り付けた後、プラスチック板にも穴を開ける。

7. 固定したプラスチック板のもう片方にも両面テープを貼り、もう一枚のアクリル板をかぶせる。ステン

レスアーム棚受を取り付けネジでとめる。余りきつく閉めないこと。

8. 組み立て完了。

必要なもの(1つ分)

アクリル板 2枚(250x300)

帯電防止スプレー

ティッシュ

スチレンボード

プラ切カッター

ボールペン

30cm定規

穴あけドリル(3mm)

添え木

ステンレスアーム棚受 2つ

ねじ (3x20) 4つ

両面テープ

新聞紙

ダンボール

Page 10: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

2種混合

H.A.Makse, S.Havlin, P.R.King & H.E.Stanley, Nature, Vol.386, p.379 (1997). の結果を概説すると、

1. 小さい粉体粒子

2. 大きい粉体粒子

それぞれの安息角(砂を流して雪崩が収まったときの角度)をθ1、θ2とすると、

層形成(Stratification) → θ1<θ2

相分離(Segregation) → θ2<θ1

2つのパターンに分類される。

実際に実験で検証してみよう!

実験する手順

1. 計4種類の試料を選び、2通りの実験を行う。

2. 試料を選ぶ。試料の選び方。

層形成(Stratification)が起こりそうな組み合わせ。

小さいガラスビーズ(おそらく安息角が小さい)+大きいグラニュー糖(おそらく安息角が大きい)

相分離(Segregation)が起こりそうな組み合わせ。

小さいグラニュー糖(おそらく安息角が大きい)+大きいペレット(おそらく安息角が小さい)

3. 選んだ4種類の試料を計量カップで、80mlずつ取ってボトル(小)に一時的に保管しておく。その

試料単体での安息角を調べる。3回調べて平均を取り、表に記録する。

4. すべての試料で安息角を測り終えたら、表をみて結果を予測する。

5. ボトル(大)で2種類の試料を混合する。よくかき混ぜたら、2種類の2種混合系の実験を行う。

6. パターンができる途中の動力学や出来上がったパターンを詳しく観察する。

7. ラベルに試料、試料の相対的大きさ、安息角を記載し、それを出来上がったパターンと共に、デジカメ

で写真をとって記録する。

Page 11: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

3種混合

安息角の大小で6つのパターンが考えられるが、実際には4つのパターンに分類される。

Segregation と Stratification の混合パターンなどが現れるだろうか?

実際に実験で検証してみよう!

実験する手順

1. さきほどの2種混合で選んだ試料から、さらにもう2種類の試料を選び、計量カップで80mlずつ取

って、同様に安息角を測る。

2. 先に2種混合で作成した2本のボトル(大)に加える。

3. よく混合し、2種類の3種混合系の実験を行う。先に2種混合で使ったラベルの下に新たに加えたもう

1種類を付記し、パターンと共にデジカメ写真で記録する。

4. ボトル(大)は、マイタックラベルに試料名を記載し貼っておく。

砂山のパターン形成のなぞにせまろう!

1. 層形成(Stratification)過程の特徴を述べよ。

Kink 構造のでき方を観察(粉体粒子の流れとは反対向きに上向きに堆積していく特徴的振る舞い)

縞の波長の決定メカニズムと Kink や供給する粉体の流量との関係(シミュレーションでは説明がつかない。

まだ未解決な問題)

2.相分離(Segregation)パターンの特徴を述べよ。

大きな粒子と小さな粒子のどちらが上に来るか?(すべての試料で同じことが言えるか?)

分離機構はまだよくわかっていない。

3. 漏斗の直径を変えるとパターンはどのように変化するだろうか?

4. 大きさだけ違う同種粉体粒子で、Segregation と Stratification パターンは形成されるだろうか?

5.同じサイズで粉体の形状だけが違うときどうなるだろうか?

Page 12: E21.粉粒体の不思議を科学しよう!stat.fm.nitech.ac.jp/~isobe/H20_text.pdf · e21.粉粒体の不思議を科学しよう! 機械工学科計測物理プログラム

4.研究ワークシート

3.砂山におけるパターンの不思議

Q1.( )

Q2.( )

Q3.( )

Q4.( )

Q5.( )

試料と安息角

試料名 色 形 直径 安息角

ガラスビーズ 透明 球 0.07

ガラスビーズ 透明 球 0.1

ガラスビーズ 透明 球 0.2

ペレット 黒色 球

ペレット 白色 球

ペレット 黄色 球

ペレット 緑色 球

ペレット 青色 球

アルミナビーズ 白色 球 0.5

インスタントコーヒー 茶色 球

カラーサンド 青色 多角形

カラーサンド 赤色 多角形

カラーサンド 緑色 多角形

カラーサンド 黄色 多角形

カラーサンド 黒色 多角形

グラニュー糖 白色 多角形

焼き塩(伯方の塩) 白色 多角形

けしの実 黄色 球

せんざい 白色 多角形