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基調報告1: 知財ビジネス評価書の取組みと可能性 神戸大学 経済経営研究所 教授 家森信善 1 知財金融シンポジウム

基調報告1: 知財ビジネス評価書の取組みと可能性 · 2019-06-28 · 地域金融機関を取り巻く環境② • 地方創生のコンテクストが強く意識される中、金融庁が

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基調報告1:知財ビジネス評価書の取組みと可能性

神戸大学 経済経営研究所 教授 家森信善

1知財金融シンポジウム

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地域金融機関を取り巻く環境①

• 日本再興戦略の中で、中小企業・小規模事業者の新陳代謝促進が必要であるとして、地域金融機関に対して、経営改善や事業再生・事業転換等の支援、新たな産業の振興や成長性のある企業の育成に向け、コンサルティング機能の発揮やリスクマネーの供給に積極的に取り組むことを求めた。

• 金融庁は平成26事務年度金融モニタリング基本方針の中で、必要に応じ、外部機関や外部専門家を活用しつつ、様々なライフステージにある企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価(「事業性評価」)した上で、それを踏まえた解決策を検討・提案し、必要な支援等を行っていくことが求められていることを改めて示した。

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地域金融機関を取り巻く環境②

• 地方創生のコンテクストが強く意識される中、金融庁が公表した平成27事務年度金融行政方針では、「企業の価値向上、経済の持続的成長と地方創生に貢献する金融業の実現」を目指すとした項目の中で、「①金融仲介機能の質の改善に向けた取組み」、「②地方創生に向けた金融仲介の取組みに関する評価に係る多様なベンチマークの検討」、「③事業性評価及びそれに基づく解決策の提案・実行支援」を掲げている。

• また同方針に設置の方針が明示されていた「金融仲介の改善に向けた検討会議」が設置され、金融仲介のあるべき姿等についての議論がスタートした。

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中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 (技術に関する記述の抜粋)

〇顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮*技術力・販売力や経営者の資質等を踏まえて新事業の

価値を見極める。

*債務者の技術力、販売力や成長性等を総合的に勘案し、・・・「貸出条件緩和債権」には該当しないこととなる

〇成長可能性を重視した融資等の取組みに係る基本的考え方

*企業の技術力・販売力・成長性等、事業そのものの採算性・将来性又は事業分野の将来見通しを重視した融資態勢の整備が図られていることが期待されている。

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特許庁「中小企業知財金融促進事業」の概要

• 特許等の知的財産を活用している中小企業の事業を適正に評価し、金融機関からの融資可能性拡大に資するために、中小企業の知財ビジネス評価書を無料で作成・提供する

• 事業性評価を行う際に参考となる知的財産を切り口とした事業の見方を具体的に示すことで、金融機関における知的財産に対する関心を高めることを狙いとする

*「知財」の担保価値(売却価値)を見ているのではなく、当該企業のビジネスモデルの中での活用(ときには、リスク)の価値をとらえようとするもの。

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中小企業知財金融促進事業の実施内容

• 知財ビジネス評価書を150件作成。金融機関に対して公募を行った所、多数の応募があり、61の金融機関を採択した

• 金融機関の職員が企業のヒアリングを行う際に参考となる知財を切り口としたヒアリングのポイントを解説するマニュアルの作成(作成中)

• 知財金融ポータルサイト(http://chizai-kinyu.jp/)や事業紹介資料を活用した事業の周知

• 知財金融委員会(議事は非公開)の開催

• シンポジウムの開催(本日の他、昨年7月には大阪でも開催)

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知財ビジネス評価書に係る公募

金融機関が各社のニーズに基づき、8つの評価機関が作

成する評価書作成を申請する方法で公募を実施

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1 北海道 北洋銀⾏

2 岩⼿銀⾏

3 東北銀⾏

4 宮城県 七⼗七銀⾏

5 秋⽥県 秋⽥銀⾏

6 ⼭形県 荘内銀⾏

7 栃⽊県 ⿅沼相互信⽤⾦庫

8 群⾺県 群⾺銀⾏

9 埼⽟県 埼⽟りそな銀⾏

10 京葉銀⾏

11 千葉興業銀⾏

12 朝⽇信⽤⾦庫

13 さわやか信⽤⾦庫

14 城北信⽤⾦庫

15 巣鴨信⽤⾦庫

16 東京シティ信⽤⾦庫

17 東京信⽤⾦庫

18 東京スター銀⾏

19 東京東信⽤⾦庫

20 みずほ銀⾏

21 りそな銀⾏

⾦融機関名

岩⼿県

No

千葉県

東京都

都道府県

22 かながわ信⽤⾦庫

23 横浜信⽤⾦庫

24 新湊信⽤⾦庫

25 北陸銀⾏

26 福井県 福邦銀⾏

27 ⼭梨県 ⼭梨中央銀⾏

28 ⻑野銀⾏

29 ⻑野信⽤⾦庫

30 ⼋⼗⼆銀⾏

31 ⼤垣共⽴銀⾏

32 ⼤垣信⽤⾦庫

33 ⾼⼭信⽤⾦庫

34 磐⽥信⽤⾦庫

35 遠州信⽤⾦庫

36 静岡銀⾏

37 静岡中央銀⾏

38 愛知銀⾏

39 名古屋銀⾏

40 北伊勢上野信⽤⾦庫

41 百五銀⾏三重県

愛知県

⾦融機関名

富⼭県

⻑野県

No

神奈川県

都道府県

岐⾩県

静岡県

42 ⼤阪府 近畿⼤阪銀⾏

43 尼崎信⽤⾦庫

44 神⼾信⽤⾦庫

45 但陽信⽤⾦庫

46 ⻄兵庫信⽤⾦庫

47 播州信⽤⾦庫

48 兵庫県信⽤組合

49 兵庫信⽤⾦庫

50 奈良県 奈良中央信⽤⾦庫

51 ⿃取県 ⿃取銀⾏

52 島根県 ⼭陰合同銀⾏

53 岡⼭県 中国銀⾏

54 広島県 もみじ銀⾏

55 ⼭⼝県 ⼭⼝銀⾏

56 ⾹川県 百⼗四銀⾏

57 ⾼知県 四国銀⾏

58 熊本県 肥後銀⾏

59 ⼤分銀⾏

60 豊和銀⾏

61 沖縄県 琉球銀⾏

⼤分県

兵庫県

⾦融機関名No 都道府県

http://chizai-kinyu.jp/docs/merit.htmlより

知財ビジネス評価書に係る公募結果(採択金融機関一覧)

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メガバン

ク・都市

銀行9%

第一地

31%第二地

16%

信用金

41%

信用組

3%

業態別の評価企業数

9

メガバン

ク・都市

銀行5%

第一地

銀38%第二地

銀16%

信用金

庫39%

信用組

合2%

採択金融機関の業態別内訳

(3社)

(23社)

(10社)

(24社)

(1社) (12件)

(42件)

(21件)

(56件)

(4件)

知財ビジネス評価書に係る公募結果(採択金融機関の業態別内訳)

N=61機関 N=135社

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知財ビジネス評価書に係る公募結果(評価対象企業の特徴)

製造67%

建設13%

卸・小

売7%

サービ

ス4%

情報通

信2%

農業・

林業1% その他

6%

評価対象企業の業種

(91社)(17社)

(9社)

(6社)(2社)

(2社)

(8社) 1~5人15%

6~20人44%

21~50人27%

51~100人9%

101~300人4%

301人~1%

評価対象企業の規模

(20社)

(59社)

(36社)

(13社)

(6社)(1社)

N=135社 N=135社

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特許86%

実用

新案4%

意匠2% 商標

8%

評価対象となった権利の種別

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知財ビジネス評価書に係る公募結果(評価対象となった知的財産権の種類)

(注)調査時点で判明している129案件を対象として集計。また、1案件で複数の権利を評価している場合もあるため、全体の権利数は133件となっている。

(115件)

(10件)

(5件)

(3件)

酒造会社、飲食店等

N=133件

製造業(口腔ケア用品)等

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知財ビジネス評価書の類型

平成27年度は8つの評価機関の協力を得て実施。

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知財ビジネス評価書の特徴①

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評価機関A 評価機関B 評価機関C 評価機関D 評価機関E

評価方法

•インカムアプローチによる簡易な価値評価

•技術や顧客基盤等のビジネスそのものに重点を置いた定性評価

•インカムアプローチによる評価手法であるロイヤルティ免除法を採用

•他者知財非侵害判定(権利侵害として差し止めを受ける可能性の有無の判定)および知財適合性判定(事業内容と権利範囲の比較)

•事業計画の実行可能性の分析による評価

•事業計画の変更の要因分析による評価

調査手法

•財務諸表や各種資料の分析

•対象企業へのヒアリング

•各種文献や公開DBの分析

•対象企業へのヒアリング

•決算書や公開DBの分析

•各種DBの分析•対象企業へのヒアリング

•財務諸表や各種資料の分析

•経営者へのヒアリング

対応業種

•制限なし • [得意業種] 機械、情報

通信、電子機器、化学、ソフトウェア

• [対応が難しい業種] バイオ、製薬、半導体、金融

•主要分野は網羅しているが、バイオ、医薬、化学、素材は価値評価が難しいケースあり

•制限なし •制限なし

作成期間

•ヒアリング後、1週間程度

•受託後40日程度 •2~3週間程度 •ヒアリング後、3週間程度

•2週間~1ヵ月

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知財ビジネス評価書の特徴②

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評価機関F 評価機関G 評価機関H

評価方法

•パテントマップによる定性評価 •定量評価の簡易版•パテントマップによる定性評価•価値評価

•公開DBによる定量評価、価値評価

調査手法

•公開DBの分析

•必要に応じて対象企業へのアンケート又は電話ヒアリング

•各種文献や公開DBの分析

•必要に応じて対象企業へのアンケート又は電話ヒアリング

•公開DBの分析(ヒアリング等なし)

対応業種

•原則制限なし(バイオ、製薬等は要相談)

•制限なし •制限なし

作成期間

•アンケート回収又は電話ヒアリング実施後、3~4週間

•アンケート回収又は電話ヒアリング実施後、2~3週間

•受託後、1週間

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金融機関の反応 ~応募理由

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応募理由 具体的なコメント

事業性評価の検討の一環

•特許を保有する企業に対する経営支援のあり方を考えることが事業性評価に対する取組になる。(信用金庫)【調査会社C】

•事業性評価の一環として、企業の実態把握をより深堀するための方法について検討している。(信用金庫)【調査会社G】

•事業性評価手法の検討を行う中で本事業に興味を持った。したがって、対象企業の事業性を知財の切り口で評価するということを目的としていた。【調査会社B】

•知的財産について、経営の根幹をなしているケースは少ないととらえてきた。知財や技術が経営とどの程度関係しているか曖昧であった。事業性評価を展開していくうえでこうした問題認識へのアプローチの1つと考えた。(第二地銀)【調査会社B、C】

知財を切り口にした企業の理解

•同社は大手との取引があり、技術力はあると想定していたが、それを確認する手段として評価書が活用出来ると考えた。知財を軸に、その企業の特長を掘り下げることができると期待した。(信用金庫)【調査会社G】

•知財ビジネス評価書を通じて、同社の経営実態などが明らかになれば良いと考えた。(信用金庫)【調査会社C】

•業績が良くない担当会社が有する特許の価値についてよく分からない。事業再生を考えるとき、特許が起爆剤になれば良いと考え、知財ビジネス評価書に応募した。(第一地銀)【調査会社H】

•保有知財に着目した企業評価をどのように行内で活用するか、昨年度の経験を踏まえ検討を深めたいと考えていた。(第一地銀)【調査会社H】

•金融機関では大枠のビジネスモデルは理解しているが、各社の細かい技術までは把握していない。そのため、知財の評価などを通じて、こうした技術面に関する情報や評価を得たいと考えていた。(第二地銀)【調査会社D】

•担保融資やABL以外の方法での企業評価を試行するにあたり、技術内容やその価値を把握するために知財ビジネス評価書の活用を考えた。(第一地銀)【調査会社C】

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(前のページの続き)応募理由 具体的なコメント

融資審査でのプラス材料がほしい

•融資の審査上に特許が加点となるかどうかを見極めたかった。(第一地銀)【調査会社A】•この事業を利用することで、融資において何かプラスの材料を見つけることができないかと考えた。(第一地銀)【調査会社A】

•これまで当行との間で取引の実績はなく、事業内容も良く理解していない企業であったため、与信の参考情報として評価書を活用することにした。(信用金庫)【調査会社B】

既存取引先への営業・支援や関係強化

•営業材料の確保という意味合いから、近年取得した商標のビジネス展開を評価・アドバイスする情報として、知財ビジネス評価書の作成を依頼。(第一地銀)【調査会社B】

•融資の付加価値として、知財ビジネス評価書を通じた評価提供を行うことで、疎遠になっていたかつての取引先との関係の再構築を図りたいと考えた。(信用金庫)【調査会社C】

•既存融資先のモニタリングという意味合いが強い。当方は、「取引先のことをここまでわかっているよ」ということを示すために、今回の制度を活用することにした。(第一地銀)【調査会社H】

•知財を評価することが、他金融機関との差異化要因になり、評価書が顧客コミュニケーション上の有効なツールとなると考えた。(信用金庫)【調査会社D、G】

•事業再生の対象企業の評価に関し、金融機関として、第三者との交渉に使える材料が欲しかった。(第一地銀)【調査会社H】

新規営業先に活用するツールがほしい

•新規営業先に対する新たな視点で融資の切り口を見つけたり、他行との差異化をするために、利用することにした。評価をする際に、先方を訪問することで、新たな情報が得られるのではないかと思った。(第一地銀)【調査会社H】

•これまで取引のなかった企業であったため、取引を開始して将来的に融資等につなげていくための営業材料として活用することを想定していた。(第一地銀)【調査会社G】

社内体制の整備への活用など

•金庫内での知財に対する認知度はまだまだであり、活用方法を提起できる事例情報を獲得したかった。(信用金庫)【調査会社B】

•どのようなスキームで評価をするか学びたかった(第二地銀)【調査会社D】

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金融機関の反応 ~評価書の活用効果

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効果 具体的なコメント

与信枠の検討

•今回、当該企業へのモニタリングの材料として評価書の活用を行い、知財の金銭価値評価部分をもとに、本部で融資枠を再検討してもらった。その結果、与信枠の拡大につながり、今後の融資ニーズ発生の際に今までよりも柔軟な提案ができる可能性が高まった。(第一地銀)【調査会社H】

企業の実態把握

•経営改善計画の策定を専門家とともに支援しており、企業側の現状について補足することになった。同社の新しいビジネスモデルについて、評価書の内容を参照して、商品力や信用力の観点から評価して計画書に盛り込む。(信用金庫)【調査会社B】

•事業性を大まかに把握することができたので、行内で今後の支援施策を検討するとともに、具体的なコミュニケーションを取ることができた。(第一地銀)【調査会社B】

•調査会社とともに訪問することで、これまで行内で整理していた情報の中で不足していた新たな情報を入手することができた。その情報を稟議で事業性評価に関するエビデンスとして活用でき、融資に繋げることができた。(第一地銀)【調査会社A】

•これまで同社に対して認識していた視点とは異なる課題があることがわかった。今後の同社に対する支援の方向性を見直すことにつながった。(第一地銀)【調査会社B】

取引先とのコミュニケーション促進

•新規に取引を開始するための営業・コミュニケーション材料として活用し、企業にも非常に良い印象を持ってもらうことができた。(第一地銀)【調査会社G】

•取引のない企業であったので、まずは営業ツールとしての活用であったが、社長とのコミュニケーションの材料としては大いに役立った。(第一地銀)【調査会社G】

•お客様からは、「技術のことをよくわかっている」との評価を受け、コミュニケーションの深化が図られた。(メガバンク)【調査会社D】

•評価書作成時からコミュニケーションを行っていくことで多角的に情報を引き出すことができ、企業のことを良く知ることができた。その結果、企業に対して一歩踏みこんだ新たな経営支援の方策の提案準備につながった。(信用金庫)【調査会社G】

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(前のページの続き)

評価書の活用方法としては、大きく「融資条件・与信枠の検討につながった」「取引先と深くコミュニケーションすることができた」「企業のより詳細な実態把握につながった」という趣旨のコメントが得られた。その他、今後の融資検討や自己査定における加点要素として検討し得るといったコメントが得られた。

効果 具体的なコメント

今後の可能性の検討

•今後、融資することになれば、知財の価値評価の部分を参考資料として活用し、融資条件の緩和や融資金額の拡大につながる可能性がある。つまり、重要な取引先に関しては、普段からこうした情報をストックしておき、必要な場面が来たタイミングで、利用するということになる。(第一地銀)【調査会社H】

•自己査定において、企業格付・案件格付への定性評価において加点評価の材料とするというのは、想定される用途であるが、審査部門との情報の取扱についてルール・基準等の設定検討が必要である。(信用金庫)【調査会社G】

•事業性評価の仕組み作りにおいて、本評価が活用可能か、模索しているという段階にある。(信用金庫)【調査会社B、E、G】

•評価書をみて、新製品の将来性が明るいと感じたため、今後企業が生産拡大をしていく際の融資判断は前向きになると思われる(信用金庫)【調査会社D】

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具体的な活用事例①

評価書を活用して融資を実行した。

融資実績のない先で、今回の事業を利用して、融資へと結び付けたいと考えていた。

特許の内容が、本業とはかけ離れた内容であった。結果的に、融資の審査上にそれが加点となるかどうかを見極めたかった。また、新規先であったため、支店で情報を取ることが難しい先でもあったので、この事業を利用して、新たな情報を得たいと考えた。

調査会社とともに、当行も先方を訪問することで、新たな情報を入手することができた。そういう意味では、このレポートが融資につながる重要な役割を果たしたと言える。

新規先の情報収集を通じて融資につながった事例

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具体的な活用事例②

経営改善計画の策定を専門家とともに支援しており、企業側の現状について毎月キャッチアップしてきたいという意向があった。

既に当該企業の支援を行っている専門家(中小企業診断士等)にはこうした評価書をまとめてもらうことは依頼しにくいと感じていたため、第三者の視点より評価書を作成してもらうことは有用と感じた。

当該企業および事業の市場性や将来性について、金融機関では判断できない部分があり、評価書を通じてそうしたことが明らかになることは有用であった。

海外に生産委託して国内販売を行うビジネスモデルについて、商品力や信用力の観点から評価して計画書に盛り込むことを考えており、評価書の内容を参照できると捉えている。

支援対象となっている企業の事業性の参考材料とした事例

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具体的な活用事例③

将来のファイナンスや、評価対象企業が取り組む事業の将来性についての評価材料に資することを期待して知財ビジネス評価書を活用。

知財ビジネス評価書によって、知的財産を切り口とした事業上の課題の一端が明らかとなった。

従前から連携のあった知財総合支援窓口とも連携し、窓口の支援担当者からの助言や専門家の派遣を受けることで、当該企業の課題解決、経営力の強化に繋がっている。

金融機関としてはこうした公的支援と一体的な支援を検討し、課題を克服しながら次の成長局面を迎えた際には積極的なファイナンスを検討したい。

評価対象企業に対する支援に活用

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金融機関の反応 ~知財に対する意識

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認識・理解度 具体的なコメント

認識・理解度は低い

•特許を持っていることは評価できることという一般論までは理解しているが、知財の価値までを意識している行員は少ないだろう。(信用金庫)

•一部の部署のスタッフに理解度が一定程度ある程度だろう。(信用金庫)•多くの行員に関して、知財全般に関する知識が不足している。(第一地銀)•行員の意識が、特許を含め、知的財産権全般について、十分とは言えない。(第一地銀)

•金融機関の行員は知財に対する知識を持ち合わせていない。(信用金庫)•支店ではたまたま興味を持っていたが、他の支店では相当認識・理解度は低いと思われる。本店では支店以上には認識されているはずである。(第一地銀)

•本店では一部意識が出てきているが、特に支店での理解度は相当低い。(第一地銀)•本店の行員の中では徐々に認識が高まりつつあることを感じているが、支店では認識・理解度はかなり低いと思われる。(第一地銀)

勉強会を実施している

•行員を対象として、知財に係る勉強会を開催したことはある。休日(土曜日)に希望者を募り、オープン講座という形で実施している。(信用金庫)

知的財産に対する認識や理解度は全体として依然として高くないが、勉強会を既に開催している金融機関も見られた。

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専門家の活用意向として、「金融機関向けの研修講師」を望むコメントは複数の金融機関から得られた。

その他、評価書によって明るみになった課題に対する支援を望むコメントも得られた。

意向 具体的なコメント

金融機関向けの研修講師として専門家を活用したい

•金庫内での研修に講師を派遣してもらえることはありがたい。対象をどのように設定するとよいか助言してもらえると企画もしやすい。(信用金庫)

•金庫内での研修に講師を派遣してもらえることはありがたい。(信用金庫)•行内研修への講師派遣は活用してみたい。(第一地銀)•行内研修への講師派遣は検討してみたい。支店長級もしくは現場担当者。融資担当へのインプットはハードルが高いだろう(必要性に対する理解が得にくい現状から)。(信用金庫)

•既に知財窓口は利用したが、専門官に行内研修等で協力いただけるのであればありがたい。今後は企業側から専門家派遣ニーズがあれば、専門官、知財窓口とも踏み込んで相談したい。(信用金庫)

専門家を企業支援として活用したい

•評価書で浮き彫りになった課題に対するソリューションとして、知財の専門家を活用する必要性は強く感じている。(第一地銀)

金融機関の反応 ~専門家の活用意向

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本事業から得られた示唆

• 事業性評価に取り組む地域金融機関にとって、知的財産を切り口とした企業の実態把握を行うことが、有効な手段の1つとなり得る可能性が示唆された。

• 従来、金融実務において「知的財産」は関係のないものと思われてきたとも言えるが、今回の取り組みをきっかけの1つとして、金融機関においても知的財産に対する関心が芽生え始めている。

• 金融庁の取り組み等を受けて、地域金融機関は事業性評価により一層取り組み、企業の成長性を把握し、成長を支援していくことが求められている。従来型の融資姿勢を脱却していくことが求められる中、本事業としては知的財産を切り口とした企業の実態把握手法や企業支援のあり方を金融機関に示していくことが求められる。

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