230
【付属資料】

【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

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付属資料目次

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··················································

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1.ITと成長の先行研究レビュー 付 1 1.1 先行研究事例サーベイ 付 1 1.2 日本の IT効果の推計方法 付 78

2.第3章推計関係資料 付 84

2.1 推計の前提 付 84 2.2 Pohjola(2000)型1 付 86 2.3 Pohjola(2000)型2 付 92 2.4 トランスログ型1 付 99 2.5 トランスログ型2 付109

3.企業インタビュー各国編 付 112

3.1 米国 付 112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137 3.4 フィンランド 付147 3.5 インド 付158 3.6 バングラデシュ 付173 3.7 マレーシア 付182 3.8 中国 付195 3.9 日本(参考) 付207

4.GTAPモデル 付208

4.1 GTAPモデルの概要 付208 4.2 GTAPモデルによる各国の試算結果 付215

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1.ITと成長の先行研究レビュー 1.1 先行研究事例サーベイ 1.1.1 成長会計およびそれから派生したフレームワーク

Solow, R. M. (1957) “Technical Change and the Aggregate Production Function,”

R view of Economics and Statistics, 39 (3), 312-20. e

(1)概要 本論文は、最近ではお馴染みのものとなった「成長会計」という分析的フレームワーク

をはじめて提示した論文であり、前年に出版された理論的論文 (Solow (1956)) と合わせて、ソローの名声を一気に高めたエポック・メイキングな論文である。そこでは、経済効

率の尺度として全要素生産性 (TFP) という概念が使用される。TFP の測定は、経済成長の結果を事後的に社会会計上の収支バランスで捉えた際の、成長要因の分解の手段と考え

ることができる。そこでの TFP は経済成長の成果を全投入要素に関する生産効率の変化というかたちで記述する尺度を与えてくれる。一方で、TFPの成長率は、生産効率に関する総合的尺度というだけではなく、生産物および生産要素市場の完全競争の仮定と 1次同次生産関数の下での生産者の利潤極大化行動の仮定を適用すれば、生産関数の変位、すな

わち「技術進歩率」を表すことにもなるのである。 (2)分析のフレームワーク 成長会計の目的は、総生産の成長率を投入要素 (資本・労働) の成長への寄与分と技術の成長への寄与分に分解することである。まず、次のような、ヒックス中立的な新古典派

生産関数を仮定する。 ( ) ( , )Q A t f K L= .

ただし、 、 、 は、それぞれ産出、資本、労働を表す。 は技術水準の指数であ

る。一般にこの は TFP と呼ばれている。この生産関数より、産出の成長率を求めることができる。すなわち、

Q K L

)

( )A t

(A t

QL

LfA

QK

KfA

AA

QQ &&&&

∂∂

+∂∂

+= .

この式はまた、次のようにも表現できる。

+

+=

LL

QLAf

KK

QKAf

AA

QQ lk

&&&& .

要素市場が完全競争である場合、各投入物の限界生産物は要素価格に一致することにな

る。その結果、 は資本のレンタルコストに、 は労働の賃金率に一致する。したが

って、 は総所得における資本へのレンタルコスト支払いのシェアであり、

は総所得における労働への賃金支払いのシェアである。いまこれらを と で

KAf

Q

LAf

/KAf K

Y/LAf L Kw Lw

付 1

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表すことにすると、

+

+=

LLw

KKw

AA

QQ

lk

&&&& .

規模に関する収穫一定性の仮定の下では、資本シェアと労働シェアを足すと 1になる。ここでα を資本シェアとすると、上の式は次のように書き換えられる。

( )

−+

+=

LL

KK

AA

QQ &&&&

αα 1 .

この式を解釈すると、産出の成長率は、TFPの成長率に 2種類の生産要素の成長率の加重平均を加えたものになっている。ここで TFP成長率を明示的に表すと、

( )

−+

−=

LL

KK

QQ

AA &&&&

αα 1 .

この関係式によって、TFP成長率ないしは技術進歩率を残差として計測することが可能になる。 (3)ソローの分析結果と成長会計の問題点 上記のようなフレームワークを用いてソローは具体的な実証分析に進むことになる。ソ

ローの先駆的業績は、1909-49年のアメリカ経済において、実質 GNPの成長率の約 80%あまりが技術進歩の貢献であるという結果を導いたことにある。TFPを技術進歩の尺度として考えたとき、それが生産関数に明示的に含まれる資本や労働の投入要素量と産出量と

の残差として形式的に表現されるために、残差としての技術進歩率が成長要因のほとんど

を説明することになってしまう。こうした驚くべき結果から、投入や産出の的確な測定へ

の反省がうながされることになった。 成長会計は、投入物の成長と TFPの成長への、産出の成長の形式的な分解方法を提示することにある程度は成功したかもしれない。これはプラスの側面であり、経済成長理論の

健全な発展を促進することが期待される。 <<<調査担当者コメント>>> 成長会計の古典的論文である。周知のように、ITの実証の分野では最も多く利用されている手法であり、極めてスタンダードなものである。やはり問題はデータであり、いかに

精緻な IT 資本ストックデータを作ることができるかが鍵になる。この点があまりに不十分である場合には、Mankiwタイプの実証の方が推奨される。

付 2

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Mankiw, N. G., D. Romer. and D. N. Weil. (1992) “A Contribution to the Empirics of Economic Growth,”

Quarterly Journal of economics, 107 (2), 407-437. (1)概要 本論文は、近年特に隆盛をみせている人的資本と経済成長に関するクロスカントリー分析の分野において、その先駆的な役割を果たした論文である。アウトラインとしては、新

古典派成長理論におけるソローモデルに新たな生産要素として人的資本を導入したものに

なっている。1つの重要な理論的インプリケーションは、定常状態においては 1人あたり生産量が人的資本への投資率や物的資本への投資率とプラスの関係をもつ一方で、外生的

に与えられる人口成長率、技術進歩率、そして資本減耗率とはそれぞれマイナスの関係を

もつことが明らかにされたことである。こうした理論的分析から導かれた誘導形について、

実際のデータを用いて推計していくことになる。分析内容としては、通常のクロスカント

リーの実証に加えて、収束の問題 (convergence problem) にも力点が置かれている。 (2)分析のフレームワーク 分析の基礎には、次のようなコブ=ダグラス生産関数を考える。

( ) ( ) ( ) ( ) ( )( ) βαβα −−= 1tLtAtHtKtY , where 1<+ βα .

ただし、 は人的資本を表している。この生産関数より、以下のような関係式が導出さ

れる。 ( )H t

( )( ) ( ) ( ) ( ) ( )hk ssgngtAtLtY ln

1ln

1ln

10lnln

βαβ

βααδ

βαβα

−−+

−−+++

−−+

−+=

.

ここで、 ( ) ε+=+ agtA 0ln として、コンスタントターム aと誤差項ε を導入すると、具

体的な推計式は以下のように表せる (こうした手続きについては原論文を参照)。 ( )( ) ( ) ( ) ( ) ε

βαβ

βααδ

βαβα

+−−

+−−

+++−−

+−=

hk ssgna

tLtY ln

1ln

1ln

1ln .

ただし、 δ++ gn は人口成長率、技術進歩率、資本減耗率の和であり、 δ+g =0.05 と仮定する。また、 と はそれぞれ物的資本、人的資本への投資率を表す。この推計式をベ

ースとしていくつかの推計が試みられている。 ks

hs

(3)人的資本の取り扱い 注目すべき点は、人的資本の取り扱いについてであろう。Mankiwらは人的資本投資の計測上の困難さを指摘した上で、次のような代理変数を使用した。

人的資本投資=中等教育の進学率×労働年齢人口に占める 15-19歳の人の比率 すなわち、人的資本投資を「労働者の中で実際に中等教育を受けている人々の比率」で捉

えているのである。完全に近い人的資本指標を作ることは、考えただけでも大きな困難の

伴う作業であるが、Mankiwらの方法も第 1次近似としては十分許容可能なものと考えられる。ここでの人的資本変数は、この分野のタームで言うならばもちろん「就学率」に該

付 3

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当するものである。 (4)分析結果 推計期間は 1960-85 年であり、サンプル国は非産油国 98 ヶ国、非産油国からデータの信頼性が低い国と人口 100万人以下の国を排除した 75ヶ国、そして人口が 100万人以上の OECD諸国 22ヶ国であり、この 3つのセットに対してそれぞれ推計を行った。 さまざまな推計が試みられているが、人的資本変数についての全般的な傾向を述べておこう。実際の推計式において、人的資本変数は対数をとったかたちで入ってくるが、その

係数推計値は制約付きモデル、制約無しモデルどちらでも全てのケースでプラスであった。

これは、理論モデルからの予測と整合的な結果である。有意性については、98 ヶ国、75ヶ国のサンプルでは、高い有意性を示しているが、OECDの 22ヶ国サンプルでは有意性の程度は相対的に低く、統計的に有意でない場合も存在する。OECD諸国で人的資本変数の有意性が低いのは、これらのほとんどの国々では中等教育の進学率は既に高い水準にあ

るため、人的資本変数自体各国であまり差がないという事実に起因していると考えられる。 結論として、経済成長と人的資本投資 (就学率で捉えた) の間には、ほとんどのケースで有意にプラスの関係が存在する。ただし、ここで代理変数として用いた「就学率」は、

先進国と開発途上国間の経済成長の違いは説明できるものの、先進国間における成長の違

いを説明するには未だ不十分なものと考えられる。 <<<調査担当者コメント>>> ITと生産性および経済成長の分析おいて注目される Pohjola (2000) 論文のベースとなっている論文である。興味深いのは、やはりサンプル国の対象を変えると注目する変数の

有意性 (特に人的資本変数) が大きく変化することであろう。Mankiw らの研究では「就学率」に限定しているので当然のことではあるが、このフレームワークを用いて分析する

場合、IT投資関連の変数について同様のことが起こる可能性は高い。こうしたことは、実際の変数概念とデータが consistentになっていない場合や、データ自体が不完全な場合にも生じることが多々ある。したがって、ITのインパクトをなるべく正確に捉えているようなデータを探し、それを用いて分析することが何より重要であろう。poorなデータの使用は、IT投資の過少評価を招くことになりかねない。

付 4

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Benhabib, J. and M. M. Spigel. (1994) “The Role of Human Capital in Economic Development:

Evidence from Aggregate Cross-Country Data,” Journal of Monetary Economics, 34, 143-173.

(1)概要 本論文は、人的資本と経済成長の問題を、成長会計のフレームワークで実証的に分析し

た先駆的な研究である。論文中では数多くの推計が行われているが、一貫して注目するの

は人的資本変数の効果である。データとしては、集計化されたクロスカントリーデータが

使用されている。 (2)分析のフレームワークとデータ 通常の成長会計を用いている。分析の基礎には、次のようなコブ=ダグラス型生産関数を仮定する。

ttttt HLKAY εγβα= .

ただし、 tε は誤差項を表している。他の全ての表記は標準的なものである。この生産関数に対して、1 階のオーダーで対数階差をとると、以下のような長期間での成長を考えるための成長会計式が導かれる。

( ) ( ) ( )( ) ( ) ( 000

000

loglogloglogloglogloglogloglogloglog

εεγβ )α

−+−+−+−+−=−

ttt

ttt

HHLLKKAAYY

.

この式を基本的な推計式として、実際の推計を行っていく。 データについては、所得や人口といったものについては、Summers and Heston (1991) による Penn World Tablesのものを利用する。一方人的資本データについては、Kyriacou (1991) のものと Barro and Lee (1993) のものを選択的に用いている。 (3)推計結果 本論文が登場する以前のほとんどの研究では、人的資本変数として学校教育の就学率の

データが頻繁に使用されてきた。これらの研究では、就学率と経済成長の間にプラスの関

係があることが指摘されてきた。この Benhabib and Spiegel (1994) 論文の極めて特徴的な点は、この人的資本変数に学校教育の平均年数を採用した点である。データセットとし

ては、a) Kyriacou (1991)、b) Barro and Lee (1993)、そして c) 識字率、という 3種類のセットを使用した。驚くべきことに、推計結果としては、人的資本投資と経済成長は有意

にプラスの関係にないだけでなく、マイナスの関係にさえなり得るという結果を得た。す

なわちこの結果が人的資本に関するパズルの端緒となったのである。 この推計に続いて、彼らは人的資本変数の成長率ではなく、そのレベル自体を推計式に

導入して追加的な推計を行った。結果は比較的良好なものとなった。このことから、経済

成長にとって重要なのは、人的資本投資ではなく人的資本の水準であるという結論を導き

出している。

付 5

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<<<調査担当者コメント>>> 人的資本変数を自然なかたちで成長会計のフレームワークに built inした、シンプルかつメッセージが明瞭な論文である。本調査の問題意識に関連するメッセージとしては、説明

変数を変化率で考えるのか、それとも水準で考えるのかという点であろう。すなわち、人

的資本を IT 資本としても、彼らと同様の悩ましい問題が生じる可能性があるのである。これを 1つの教訓として、そのことに留意するならば、このような実証分析はアジアの ITと成長を対象とした研究にも比較的容易に応用可能であろう。いつものように、問題点と

しては、IT資本にどのデータを利用するのか、できるのか、といった点にかかっている。

付 6

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Oliner, S. D. and D. E. Sichel. (1994) “Computers and Output Growth Revisited: How Big is the Puzzle,”

B ookings Papers on E onomic A tivity, 2, 273-334. r c c

(1)概要 本論文は、経済成長 (特に生産性の成長) と社会の IT化 (具体的には、コンピューター産業に焦点をあてる) を実証的に分析した論文であり、当該分野における最も代表的な論文の 1 つである。1980 年代を通じて、多くのアメリカの企業は情報技術関連分野への投資を盛んに行ってきたわけであるが、その成果が当時十分に得られたというわけではなか

った。すなわち、多くの論者が指摘しているように、企業は IT投資に見合った報酬 (利潤) を得ていなかったと考えられていたのである。しかしながら、最近になってこうした考え

方を覆すような見解も出てきている。簡単に言うと、情報機器を使いこなすにはある程度

の習熟 (learning by doing) が必要であり、IT投資の成果はそうした習熟プロセスがある程度進行した一定期間後に現れてくるというのである。事実こうした考え方をサポートす

る分析結果も報告されている (IT投資の成果は 1980年代後半には現れているという分析結果)。この論文では、1980 年代における IT 投資に関する「パズル」と、ここ最近の IT投資に関する新たな見解を念頭に置き、過去 20 年間 (1970 年以降) でコンピューターの導入 (ハードウェアのみを対象とする) がどの程度経済成長に貢献してきたのかを実証的に明らかにし、1990年代への展望をひらくことを企図している。 方法論としては、Denisonタイプの標準的な成長会計のフレームワークを利用している。成長会計は、生産投入要素を分解し、それらの成長への寄与度を計測するものであるが、

その際に、IT生産要素を通常の物的資本投入とは区別して分析する点が特徴的である。 (2)分析: ベースライン・モデルに焦点をあてて 1970年から 1992年までのアメリカ経済を対象として、コンピューター投資がどの程度産出の成長に貢献したかを明らかにする。使用するデータのほとんどは、The Bureau of Labor Statistics (BLS) のものである。推計においては、新古典派的状況を仮定する。すなわち、ⅰ) 収穫一定の生産関数の下で、ⅱ) 完全分配が達成され (競争均衡の存在)、ⅲ) 外部性 (externality) の存在しない状況を考える。ただし、後にこれらの諸仮定は緩められる。モデルは以下のように表される。

( ) PFMLsKsKsKsY lcckcc&&&&&& ++−+= .

ただし、 =コンピューター資本投入の成長への貢献分、 =他の全ての資本投入の成長への貢献分、 =総労働投入の成長への貢献分、そして

ccKs &cck KsKs && −

Lsl& PFM & =全要素生産性

(multifactor productivity) の成長への貢献分。 (3)主な分析結果 推計期間は、全期間を対象とした 1970-92、そして 1970-79と 1980-92の 3期間である。

付 7

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まず、大まかに言えることとしては、コンピューター資本投入の成長への貢献はかなり小

さいということである。具体的にみると、1970-92の期間で、2.77%1の成長のうち、コン

ピューターの貢献分はわずか 0.16%である。1980-1992では、0.21%に上昇するものの未だ貢献度は低いままである。またコンピューター以外の物的資本投入と比較してみると、

1970-92で、コンピューター投入の貢献は、他の物的資本投入の 6分の 1程度である。さらに興味深い知見として、コンピューター資本投入の貢献度の上昇と、他の資本投入の貢

献度の下落が同時に起きていることから、コンピューターの貢献が経済全体では相殺され

ていることが報告されている。このことは、企業が生産要素投入に関して、一般的な資本

からコンピューター資本へと生産体系を切り替えている可能性を示唆している。 さらに彼らは、その一連の分析において、個々の企業レベルではコンピューターは生産

的であるが、経済全体ではその影響力は小さいという結果も報告している。この結果は、

先に述べた「パズル」への 1 つの回答であり、経済という 1 つの大きな構造物の中では、コンピューターは未だマイナーな存在であり、成長への寄与という点で目に見えるものに

はなっていないということを意味している。 (4)主要な結論 本稿の主要な結論は、以下の 3つに要約される。まず、第 1点目として、ベースライン・モデル (新古典派モデル) に依れば、1970年以降コンピューター・ハードウェアの投入は、産出の成長にそれほど寄与してはいなかったということである。第 2点目は、追加的な推計から得られた結論であるが、ハードウェアのみではなくソフトウェアやコンピューター

産業への労働投入といった他の要因も考慮に入れるべきであるということである。ラフな

推計の結果であるが、ソフトウェアと労働投入を加えるとハードウェアの成長への貢献は

ほぼそれまでの 2倍になることが確認されている。最後に第 3点目として、コンピューター産業は急速な勢いで拡大を続けているが、それらの成長への貢献は小さいと予測される

ことである。

1 年平均である。

付 8

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Stiroh, K. J. (1998) “Computers, Productivity, and Input Substitution,”

E onomic Inquiry, 36 (2), 175-191. c

(1)概要 本論文では、ロバート・ソローが指摘しているような「コンピューターに関する生産性

パラドックス」について解決を試みる。分析上の特徴は、セクターレベルでの分析にある

だろう。35 の製造およびサービスセクターの 1947-91 年にかけてのデータは、セクターの違いを考慮することがコンピューターのインパクトを理解する上で重要となることを示

している。集計データでの分析では、コンピューター生産部門における生産関数のシフト (MFP の成長) とコンピューターを使用している部門における生産関数上での動き (生産要素代替および資本蓄積) とを明確に区別することができないため、「パラドックス」の解決は困難であるが、これらを区別して捉えることができれば、コンピューターの成長に対

する影響は容易に観察可能なものとなる。 (2)主要な分析結果 分析のフレームワークとしては、セクターレベルでの成長会計が採用される。以下では、

パートごとに分析結果を簡単に要約する。 ①コンピューター生産セクターは、根本的な技術進歩を経験し、現在では安い価格でより

よい品質を備えた製品を生み出している。セクター別のデータによれば、1973-91 年の期間で全要素生産性は急激に成長している。経済全体での全要素生産性の上昇はみられ

ないが、当該セクターの全要素生産性の伸びは経済全体での平均の何倍にも及んでおり、

1981-91年の期間では、その 3分の 1以上がコンピューター生産セクターの全要素生産性の伸びによって占められている。

②コンピューター生産以外の生産セクターについても、情報技術の拡がりは影響を与えて

いる。1970年代および 1980年代において、コンピューターの価格は急激に低下し、企業はそれに反応して生産要素の切り替えを行うようになった。すなわち、高価な労働力

や非コンピューター資本の投入を抑え、安価になったコンピューターに対して大量の投

資を行ったのである。これらコンピューター生産以外の生産セクターにおいては、相対

的にみて、それほどドラマチックな生産性の上昇や産出量の成長はみられなかったが、

相当なテンポでコンピューターの導入が進んだ。その証拠として、分析対象 35セクターの内の 14セクターについて、実質のコンピューターサービスは、1973-91年の期間で年率 20%を上回る率で増加した。

③ほとんど全てのセクターでコンピューター装備の蓄積が進んだものの、そのシェアはそ

れほど大きくなかった。例えば、1991年では、投資に占めるコンピューター投資の割合はたった 10%程度であり、コンピューター投入の成長への貢献は、労働投入や非コンピューター資本の投入に比して相対的に小さいままであった。しかしながら、急速なスピ

付 9

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ードでのコンピューター資本の蓄積は、生産セクターを問わず、それがより重要な成長

の源泉になったことを表している。 ④コンピューター投資の猛烈な勢いでの拡大は、コンピューターがビジネスのやり方を抜

本的に変え、高い全要素生産性の成長を導くといった「大いなる期待」を抱かせること

になった。そうした期待とは裏腹に現実は厳しく、1973年以降の時期において、最もコンピューター集約的なセクターでさえ全要素生産性の成長は急に停滞をみせはじめた。

Trade、FIRE、そして Other Servicesの 3つのサービスセクターには、全コンピューターの 4分の 3が集中しているのだが、これは注意を要すべきことである。すなわち、グリリカスが指摘しているように、これらのセクターにおける産出のほとんどは計測不可

能であり、したがって全要素生産性の成長に関しても理解不能になる部分が多いからで

ある。 ⑤しかしながら、産出の計測がより容易なコンピューター使用セクターでさえ、全要素生

産性の上昇はほとんどみられていない。価格指数として constant-qualityデフレータ―を利用した場合、それは生産性の上昇を体化しているので、直接的な影響は急速な資本

蓄積に現れることになる。仮にコンピューターの利用が生産への外部性やスピルオーヴ

ァーをもたらすならば、コンピューター投資もまた全要素生産性を向上させるはずであ

るが、データからはそうしたことはみられない。 <<<調査担当者コメント>>> この論文を含めて、ジョルゲンソンやスティローによる一連の研究では、産業およびセ

クターレベルでの分析の重要性がいつも指摘されている。すなわち IT のインパクトを正確に捉えるには、単に集計化されたデータのみの分析では不十分だということである。マ

クロ分析を行う場合、実際に産業別の分析が不可能だとしても、このような先行研究から

の知見に対しては一定の留意をするべきである。したがって、こうした点でケーススタデ

ィ等のミクロ的な分析が生かされるかもしれない。

付 10

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Jorgenson, D. W. and K. J. Stiroh. (1999) “Information Technology and Growth,”

American Economic Review, 89 (2), 109-115.

(1)概要 IT技術革新の急速な進展は、例えばコンピューター関連製品の価格を急激に低下させている。経済学的常識に従えば、この価格低下をシグナルに企業ないし消費者はその行動を

変化させると考えられる。企業のケースで考えれば、通常の物的資本や労働の投入に替え

て、コンピューターをはじめとした IT 関連資本の投入を増加させるはずである。しかしながら、IT技術革新が真に経済に対して有効に作用するには、単に生産要素の代替行動を促すだけではなく、生産性 (TFP で捉えられるような) 自体を向上させるものである必要があろう。生産要素の代替のみならば、生産関数の形状は所与のものであるので、単に要

素間でのパイの配分が変化するのみであり、経済全体のパフォーマンスを向上させること

にはならないと考えられる。一方で、技術革新による生産性の向上は生産関数の上方シフ

トをもたらすため、パフォーマンスの向上に寄与するものと考えられる。本論文の主要な

目的は、IT化が急速に進展しているといわれるアメリカ経済において、生産要素間の代替の現状を把握し、そうした IT 化が生産性の向上に寄与しているのかという問題を実証的に検証していくことにある。 (2)分析のフレームワーク 分析上の特徴は、IT関連の資本投入やサービスを、通常の資本や労働とは区別して考える点にある。このことより、総生産関数は次のように表せる。

( , , , , , ) ( , , , , , )c n c n c n c n c ng I I C C S S f K K D D L T= . ただし、 と はそれぞれ「computer」と「non-computer」を表している。また、 は

資本投入、Dは消費者の耐久財サービス投入、L は労働投入、T は技術水準を表しており、

一方で、 は投資財、 は消費財、 は耐久財からのサービスフローを表している。上式

はここで行われる成長会計分析のベースとなり、その誘導形が推計される。

c

I

n K

C S

(3)生産要素代替とコンピューター 投入要素価格の低下もしくは消費財価格の低下は、相対的に安価な生産要素や財への代

替を惹き起こす。1990-96年の期間で、投資財としてのコンピューター価格は年間で 16.6%低下し、消費財としてのコンピューター価格は 24.2%も低下している。一方、急激な価格低下に対応して、企業によって使用されるコンピューター資本サービスのレンタル価格も

14.9%、家計のそれは 23.4%も低下している。当然のことながら、こうした価格低下によって企業の投資量や家計の購入量は大幅に増加している。また、一連の流れによる IT 資本の蓄積は、企業や家計が利用するコンピューターサービスフローを大幅に増加させてい

る。この結果より、ビジネスの世界でも一般の家庭でも、他の生産要素や消費財などとコ

ンピューターとの代替が急激に進んでいることが明らかになった。

付 11

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(4)アメリカ経済の成長の源泉 セクション 2で紹介した成長会計式を利用して、アメリカ経済における成長の源泉を明らかにする。サンプル期間は 1948-96年であり、推計は 3つの期間に分割して行う。急速な勢いで IT 革命が進行する中にありながら、1990 年代において TFP の成長が復活したといった証拠はほとんど存在しない。本論文の分析でも、1990-96 年の期間での年率でのTFP成長率はわずか 0.23%であり、1973-90年の 0.34%を下回る結果になっており、1973年以降で起こっている成長鈍化のかなりの部分は、TFP成長率の低下に帰せられることになると考えられる。 結果的にコンピューター革命ないし IT革命は、IT製品およびサービスの急速な価格低下、ITへの膨大な投資、そして ITと他の生産要素との急速な要素代替といった現象に現れている。しかしながら恐らく驚くべきことに、このような「革命」は経済学的な意味に

おいて、技術革新によっては遂行されておらず、投資のリターンはコンピューター生産者

と彼らの顧客によって獲得されていると予想される。したがって現段階では、IT化の進行は未だ真に生産性を上昇させるものにはなっていないと考えられる。

付 12

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篠崎彰彦 (1999) 「情報化投資の経済効果」,

『情報革命の構図』第 8章所収, 東洋経済新報社, 110-123. (1)概要 本論文では、1994年までのデータを利用して、アメリカにおける情報化投資の資本生産性および労働生産性に与えるインパクトを実証的に検証する。アメリカではいわゆるニュ

ーエコノミー論が台頭して久しく、経済のさまざまなところに大きな影響を及ぼしている

と考えられるが、1980年代に数多くなされた研究では生産性上昇について明確な効果を検証できていなかった。このことは、“We can see the computer age everywhere but in the productivity statistics.”というソローの有名な「生産性パラドックス」についての言明に端的に表現されている。こうしたパラドックスの発生については、コンピューターに代表

される IT 製品はその陳腐化が速く、ストックベースのシェアが他の一般設備に比べて小さいため、マクロ的な効果はそれほど大きくないのではないか、といった指摘もなされて

きた。 このような問題の所在を受けて、本論文では「情報資本ストック」と「一般資本ストッ

ク」に物的資本を decomposeして限界資本生産性の計測を行い、さらに労働生産性の上昇要因を探っていく。ここでの情報資本には、コンピューター関連設備だけではなく、通信

機器等のその他の情報関連機器も加えている。本分析を通して、生産性パラドックスが解

消されたことを明らかにする。 (2)情報化投資の効率性

分析の出発点は、 o iV AK K Lba= gというコブ=ダグラス型生産関数である。ただし、V

は付加価値を、 は一般資本ストックを、 は情報資本ストックを表し、1 次同次 ( ) を仮定する。これらより、以下の推計式が導出される。

oK iK

1a b g+ + =

ln ( ) ln lno i

o

V KC

L La b b= + + +

KK

.

すなわち、この表現より、労働生産性の変化 ( /V L

/V K

) を一般設備装備率 ( ) の変動要因と設備の情報化 ( ) 変動要因で説明できることが明らかになる。推計された係数は、 ( であったので、 ( を考慮する

と、一般資本ストックの限界生産性は 20.2%なのに対し、情報関連ストックの限界生産性は 63.9%とかなり高いことが明らかになる。この数値は、設備の減価を考慮する前のグロス値であるが、これを控除したネットの資本生産性でみた場合も、情報関連ストックの限

界生産性は 48.1%であり、一般資本ストックのそれの 12.0%に比べて相当程度高いことには変わりはない。この推計結果より、情報関連設備投資の投資効率が優れていることが明

らかになった。

/oK

315)

L

o/iK K

,0.120), ) (0.294a b = , / ) (0.687,5.o iV K =

(3)情報化投資による労働生産性の上昇 上で示した推計式は、労働生産性を一般設備装備率要因と設備の情報化要因で説明して

付 13

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いる。資本装備率が高まると生産効率が増し労働生産性が上昇するが、それに加えて、情

報関連ストックの一般ストックに対する比率が高まると、そのことも労働生産性を上昇さ

せる要因になるのである。ここで実際のデータから労働生産性の要因分解を行うと、

1982-94年までの期間の労働生産性は年平均 1.33%上昇しているが、このうち一般設備要因が 0.45%、情報化要因が 0.84%であり、設備の情報化がこの間の労働生産性上昇の主要因となっていることがわかる。 また注目すべき点として、1980年代にはマイナスに寄与していた「その他非設備要因」が、1990年代には 0.19%のプラスの寄与となっていることが挙げられる。ここにはもちろんさまざまな要因が合成されていると考えられるが、経済の情報化という視点に立つと、

情報のもつネットワーク外部性の寄与が示唆されることになる。 (4)結論 ニューエコノミー論には、いささか行き過ぎた言明も散見されるが、1990年代に怒涛の勢いで進んだ最新の情報技術の投入が、経済の供給サイドに何の影響も与えなかったと考

えるのも不自然である。本論文の分析より、情報化がアメリカ経済の生産性にプラスの効

果を与えており、いわゆる生産性パラドックスは、特に 1990 年代に入って解消されたと考えることができよう。 <<<調査担当者コメント>>> マクロデータを用いてニューエコノミー論を検証している論文である。それほど詳細な

分析方法を使用してはいないので、細部に残された課題も当然あるが、明確な結果を導出

できている。本調査のような視点に立つならば、アジア諸国に応用する際にも、ベンチマ

ークとして大いに参考になる論文である。

付 14

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Gordon, R. (2000) “Does the New Economy Measure Up to the Great Inventions of the Past?,”

Journal of E onomic Perspectives, 4 (14), 49-74. c (1)概要 Wall Street Journalの記事、Fortuneの記事、Greenspanの発言等、IT化が経済に大きな効果をもたらしているとの見方が強まっている。しかし、このニューエコノミーは果

たして 19世紀から 20世紀にかけての産業革命に匹敵するほど大きな革命を経済にもたらしているのだろうか。確かに、コンピュータとその関連の耐久財や通信の分野では生産性

の上昇は感知される。しかし、それらが経済に占める割合は 1割程度に過ぎない。残りの9 割弱については、ニューエコノミーの効果はほとんどみることができない。これらを勘案すると、ニューエコノミーによる生産性の上昇や生活の質の向上効果は、過去の大発明

と比べるとかなり小さいのではないかとの問題意識が分析の出発点である。以下において

は、様々な事例を挙げて、ニューエコノミーの効果について統計的な分析を行なっている。 (2)分析結果 成長率を循環的な部分と構造的な部分に分けたのが以下の表である。基本的な見方とし

ては、実際の成長から循環的なものを除き、さらにそこから、95年以前の成長トレンドと、価格変化と労働の質変化を考慮に入れることにより、コンピュータに帰することのできる

成長率を導出している。それをさらに分解すると、資本深化によるものと、コンピュータ

関連の MFP に依るものとなる。表においては、民間産業部門、コンピュータ製造を除いた産業、耐久財を除いた産業の 3 種の結果が提示されている。最終行から分かるとおり、コンピュータ以外の分野におけるスピルオーバー効果は、ほとんどないか、マイナスとな

っている。 図表 1-1 成長率の循環的部分と構造的部分への分解:

1995年第4四半期~1999年第4四半期

注:7行目、9行目、10行目は Oliner and Sichel(2000)の推計結果を用いている。具体的には、Oliner and Sichel(2000)における推計結果を、1974 年から 95 年と、95 年から 99 年までにウェイトをつけて計算し、それぞれの成長率の差を用いている。

N FPBN FPB Excluding Excluding

N onfarm Private Computer H ardware D urableB usiness M anufacturing M anufacturing

1 Actual G rowth 2.75 2.30 1.992 Contribution of Cyclical Effect 0.50 0.51 0.633 G rowth in T rend (line 1- line 2) 2.25 1.79 1.364 T rend, 1972:2-1995:4 1.42 1.18 1.135 Acceleration of T rend (line 3 - line 4) 0.83 0.61 0.236 Contribution of Price M easurement 0.14 0.14 0.147 Contribution of Labor Q uality 0.05 0.05 0.058 Structural Acceleration in Labor P roductivity

(line 5 - line 6) 0.64 0.42 0.049 Contribution of Capital D eepening 0.33 0.33 0.33

10 Contribution of M FP G rowth in Computer andComputer-Related Semiconductor M anufacturing 0.29 0.19 -

11 Structural Acceleration in M FP (line 7 - line 8through 10) 0.02 -0.10 -0.29

この結果の意味する所は、コンピュータ投資は耐久財製造以外の分野においては、ほと

付 15

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んど効果をもたらしていないということである。コンピュータの 4 分の3が卸・小売、金融、不動産、サービス分野で使われており、コンピュータ関連製造分野は 12%程度を占めるに過ぎないことを考えると、驚くほど小さな効果しかもたらさないことが分かる。 (3)結論 1995年以降のインターネットの発達と IT技術の加速で定義されるニューエコノミーは成功と同時に失望をもたらした。コンピュータ、半導体、他の耐久財の分野において、ニ

ューエコノミーは生産性の急成長をもたらし、株価の上昇にもつながった。また、価格の

下落効果は、金融引締めを先延ばしする効果も持った。しかしその一方で、経済の大半を

占める耐久財以外の分野においてはほとんど効果をもたらしていない。実際、その分野に

おけるMFPは低下すらしている。 コンピュータやインターネットが生産性に与える効果が制限されるのは、メモリやコン

ピュータ速度の急速な進化の一方で、それを使う労働力には限りがあるからである。 ニューエコノミーを産業革命と比する見方もあるが、インターネットサーフィンなどを

見ても分かるように、昨今のニューエコノミーは新たな楽しみはもたらしてはいるものの、

電気やモーター、自動車、飛行機、電話、新素材等がもたらしたような生活水準の向上効

果に比べれば、はるかに小さな効果しかない。 <<<調査担当者コメント>>> 結果として、ニューエコノミーが生産性を向上させている効果は、過去の産業革命や、各

種の輸送手段や通信等の発達と比べると、かなり小さなものとなるとの結果を、データの

分解により示している。ただし、一つ指摘できることは、本論文におけるニューエコノミ

ーの対象としては、コンピュータのハードに焦点をあて、ソフトや通信手段の発達は考慮

外であることである。これは、ハードに関してはヘドニック法により質調整のなされた価

格指数が国民経済計算内にあるものの、ソフトや通信機器に関してはそのような調整がな

されていないからである。ただし、Jorgenson and Stiroh(2000)にも示されているとおり、ソフトや通信を含んだ広義な ITの定義により初めて ITの効果が見て取れるとの結果を考えると、適切な価格調整をした上で、ソフトや通信を包含した分析が望まれるところであ

る。

付 16

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Oliner, S. D. and D. E. Sichel. (2000) “The Resurgence of Growth in the Late 1990s: Is Information Technology the Story?,”

Journal of E onomic Persp ctives, 4, 3-22. c e (1)概要 1995年から 99年にかけての米国経済の急成長は、労働生産性の向上によりもたらされたものである。民間経済部門においては、その 4年間で労働時間あたりの産出は年率にして 2.5%と、その前の 25年間における平均ペースの倍となっている。その背景として考えられるものは、米国の経済において広まったハイテク関連の革命と IT投資の隆盛である。実際に、コンピュータとその関連投資は、4年間において実質ベースで 4倍にもなっている。また、ネットワークの中心的な構成要素であるソフトウェアや通信機器への支出も急

騰している。 1994年の論文においては、標準的な新古典派的成長会計のフレームワークを用いることにより、1990年代の前半においては、資本ストックに占める割合が小さかったこともあり、コンピュータが成長にもたらした寄与度が小さかったことを示した。今回は、基本的に同

様のフレームワークを用い、推計をアップデートしている。当時と比べ、ハード、ソフト、

ネットワークインフラはかなり大きくなっており、成長への貢献度、労働生産性上昇への

寄与が高くなっていることが示される。 (2)分析のフレームワークとデータ 基本的なフレームワークは 1994 年論文と同様であり、成長会計に基づくものである。今回は生産要素として、ハード、ソフト、通信機器、その他資本と労働という 5つを考えている。さらに、労働に関しては質も考慮に入れている。これらの5要素ならびに労働の

質により説明できない成長部分(残差)は MFPと見なすことができる。ここで qは労働の質を示している。

PFMqLKKKKY LOOMMSWSWCC&+

+++++=

.......ααααα

なお、IT資本の使用による成長への貢献分はハード、ソフト、通信機器からの貢献分に含まれることとなる。コンピュータや半導体の製造における効率の向上に関しては MFPに含まれる。 データは BEA (Bureau of Economic Analysis) と BLS (Bureau of Labor Statistics)からとっている。 (3)主たる結果 主たる結果は以下の表に示すとおりである。1990年代の前半から後半にかけて、労働生産性は1%ポイント上昇した。そのうち、0.45%ポイントは、民間部門における IT の利用によりもたらされたものである。なお、IT の製造関連部門の貢献は 0.26%ポイントとなっている。これらを併せると、労働生産性上昇分のほぼ 3分の2がこれらの要素により説明できることとなっている。この結果からは、労働生産性の急上昇の主たる要因として、

付 17

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ITが位置付けられることが分かる。

図表 1-2 1991年-95年から 96年-99年における労働生産性加速の分解

1 Labor productivity Contributions from: 1.042 Information technology capital services per hour 0.453 MFP in computer production and computer-related 0.264 Other capital services per hour 0.035 Labor quality -0.136 MFP in other semiconductor production 0.117 MFP in other nonfarm business 0.30

なお、ITの役割を小さく見る Gordonの分析との主たる差は、Gordonは生産性成長トレンドの変化を見ているため、昨今の成長のかなりの部分を循環的な要因として取り除い

ている所にある。さらにそこから、コンピュータ製造部門も含んだ資本深化分と MFP 成長分も取り除いている。しかし、IT の使用部門のみならず製造部門の双方において 1995年来の生産性の上昇に寄与している。 (4)結論 1990 年代後半に急上昇した労働生産性により、IT の果たした役割に注目が集まった。本論文の推計結果によれば、労働生産性上昇分の3分の2は IT により説明できるとのことである。今後については、ITの製造および利用の両部門による成長への貢献は、少なくとも今後数年は続くものと思われる。IT資本に対する需要は強く、昨今の統計からも、これら IT 資本の利用は安定していることが分かる。コンピュータや半導体の製造部門に関しては、効率のさらなる上昇がもたらされるかどうかについては不確かであるものの、IT関連部門全体でみた生産性の上昇は他部門を遥かに凌いでおり、経済に占める割合が大き

くなっていることも勘案すると、今後も生産性上昇に寄与するものと思われる。 <<<調査担当者コメント>>> 1994年の論文と同じ枠組みを用いながらも、ITの成熟化により、ITが労働生産性にプラスの効果を与えていることを示している。なお、本論文の結果は Jorgenson and Stiroh(2000)等と傾向としては同様であるものの、推計値には多少の差がある。これについては、ストック計測法(除却の考え方)等の差や、産出の定義の差によっている。また、

Gordon(2000)の分析との比較から、IT要素の明確な分離は困難なことが分かる。

付 18

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Jorgenson, D. W. and K. J. Stiroh. (2000) “Raising the Speed Limit: U.S. Economic Growth in the Information Age,”

B ookings Papers on E onomic A tivity, 1, 125-235. r c c

(1)概要 アメリカ経済では IT 技術の利用に代表されるような「ニューエコノミー」の台頭によって、その経済構造に変化が生じているという。すなわち、IT技術の利用はビジネスの「やり方」自体を基本的に変更させ、恒久的に高い生産性の成長をもたらすものと期待されて

いる。しかしながら一方では、こうした IT ショックは単に一時的なものであって、永続的な成長をもたらすものではないとする見方も存在している。こうした中で、ここ最近で

は、学界のみならず一般にも、生産性の成長、資本蓄積、そして技術進歩といった要因と

アメリカ経済の成功との関係性について大きな議論を喚起している。この論文では、一般

に良く知られている成長会計のフレームワークを利用して分析を行っていく。その際には、

最近改訂がなされたNIPAs (the U.S. national income and product accounts) を利用している。本論文は、成長および生産性と IT 技術との関連性について包括的に分析がなされた論文であり、当該分野においてベースとなり得るものである。 (2)成長の源泉の推計 (基本的な推計方法) ここでは、ソフトウェアと通信機器を通常の IT 資産とは異なるものとして考え、それらを捉えることができるよう分析のフレームワークを拡張する。成長の源泉としての ITの効果を明示的に計測するために、以下のような「拡張された」生産可能性フロンティア

を考える。

( ) ( )LDDKKKKXADIIICYY cnmscncmsccn ,,,,,,,,,, , ⋅= .

ただし、産出には、コンピューターおよびソフトウェア消費 、コンピューター投資 、

ソフトウェア投資 、通信機器投資 、消費者のコンピューターおよびソフトウェアサ

ービス 、そしてそれら以外の産出

cC cI

sI mI

ncD Y が含まれる。一方でインプットに関しては、資本投入として、コンピューター、ソフトウェア、通信機器、その他の資本を考え、それぞれ 、 、 、 で表す。コンピュータおよびソフトウェアサービス、他の耐久財につ

いては、それぞれ 、D であり、労働投入は で表すことにする。最後に、

cK sK mK nK

cD n L Aは TFP (total factor productivity; 全要素生産性)2 を表している。 生産可能性フロンティアに対応する「拡張された」成長会計方程式は次のようになる。

ALvDvDv

KvKvKvKv

DwIwIwIwCwYw

LcDnD

mKsKcKnK

cDmIsIcIcCnY

cn

mscn

cmsccn

lnlnlnln

lnlnlnln

lnlnlnlnlnln

∆+∆++∆+∆+

∆+∆+∆+∆=

∆+∆+∆+∆+∆+∆

ただし、w とv はそれぞれ、各下付き変数の名目産出と名目所得に占める平均シェアを表

2 TFPは、後の分析においてさらに分解がなされる。

付 19

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している。本論文では、基本的にこの成長会計式に基づいて推計を行っている。 (3)推計結果 ここでは推計結果のごく一部を簡単に紹介する。サンプル期間は 1959-98までを全期間として、それをさらに次の 4つの期間に分割する (1959-73、1973-90、1990-95、1995-98)。この 4 期間での推計結果をみると、産出の成長に対する IT の貢献は期間を追って増加しており、とりわけ 1990-95と 1995-98の間では約 2倍に増加していることが確認できる。さらにこの IT の貢献分についてさらに詳しくみると、期間を追うごとに、単体のコンピューター投資のみならず、ソフトウェア投資や通信機器投資もその重要性を増しているこ

とがわかる。 (4)まとめ 以下のような点を指摘することができる。 第 1点目は、価格指数についてであり (デフレータ―の問題)、本論文では最近とみに重

要性を増す多くのハイテク資産 (IT関連) について constant-quality price indexsを使用していることである。これによって、ハイテク資産による生産性の向上をより正確に捉え

ることが可能になり、ITと生産性との関係についてこれまでより厳密な分析がなされていると考えられる。このような配慮によって、最近の IT 関連の実証分析に対してゴードンが寄せる問題点をある程度解決しているものと思われる。第 2点目は、成長の源泉の分解を産業レベルにまで拡張したところである。これまでは未知のものであった IT の影響があらゆる経済活動に波及していることが明らかになり、また一方で、アメリカ経済全体に

おける産業レベルでの生産性の成長によってその効果自体が顕在化したと考えられる。第

3 点目として、IT 分野での生産性の向上が TFP 成長のかなりの部分を担っており、それはまたハイテク分野および半導体製造業における価格の低下によって生じていることが明

らかになった。最後に彼らは、データの問題にふれ、より適切に IT の効果を計測することの重要性を訴えて、政策当局にその積極的役割を付与している。

付 20

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Schreyer, P. (2000) “The Contribution of Information and Communication Technology to Output Growth:

A Study of the G7 Countries,” STI Working Paper Series (OECD), 2000/2.

(1)概要 本論文では、経済成長、労働生産性、そして全要素生産性に対する情報通信技術 (IT) の貢献を、G7 加盟国をサンプルとして実証的に検討していく。分析のフレームワークとしては、IT資本を明示的に考慮したお馴染みの成長会計のフレームワークが使用される。本論文の主題は、G7の国々における分析を通じて、ITの問題に関しての国際的な展望をひらくことにある。もちろん、IT資本ストックおよび IT資本サービスについてのデータを作成するために、それぞれの国からさまざまな IT 投資支出データを収集している。本論文の分析から、全ての G7の国々では、ITが国の成長に大きく貢献していることが明らかになった。ただし、国際的に比較可能なデータは 1996年までしか作成できなかったため、ここ最近の ITの動向については十分な分析を行えていない。 (2)分析のフレームワーク 通常の成長会計分析を出発点とするが、特別な資本投入要素としての IT の効果を捉えるため、モデルの拡張がなされる。「特別な」というのは、IT がいわゆるネットワーク外部性を発生させるからであり、これに対応した定式化がなされる。具体的には次のような

成長会計式になる。

( ) AKsKsLsQ nknckcLˆˆˆ1ˆˆ ++++= θ .

ただし、 は IT 資本を、 は IT 以外の資本を表している。ここでcK nK θ はスピルオーヴァー効果による外部性を捉えるタームである。外部性が存在する場合には、全要素生産性 (MFP) は通常の技術進歩に加えて IT資本によって生み出される効果をも含むことになる。したがって、MFPは次のように表現される。

AKsKsKsLsQPFM ckcnknckcLˆˆˆˆˆˆ~ +=−−−= θ .

この表現より、もし ITが正の外部効果をもたらすならば、この効果は残差としてのMFPに含まれることになる。 (3)分析結果と課題 IT における技術革新によって、IT 資本財の「price-performance 比」は急激に向上し、ユーザーコストはより安価な水準へと向かった。結果として、生産過程において通常の資

本や労働から IT資本へと生産要素の代替が進み、ITは産出の成長や労働生産性の成長への貢献を増大させてきた。 経済成長への直接的な貢献に加えて、ITはスピルオーヴァーという間接的なかたちでの貢献をももたらすと考えられる。仮にそうしたスピルオーヴァー効果が大きいならば、上

のモデルが示すように MFP の成長はより一層加速するはずである。しかしながら、

付 21

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1985-96 年の期間における G7 の国々では、そうした MFP 成長への効果を捉えることはできなかった。 本論文の問題点として、国際間で比較可能なデータの作成が 1996 年までしか行えなかったために、MFP の計算もその年までとなっていることが挙げられる。しかしより最近の期間について (1996-99年)、Oliner and Sichel (2000) や Jorgenson and Stiroh (2000) は、アメリカでのMFPの相当な成長を確認している。こうしたかなりのスピードでのMFPの成長に ITは貢献しており、それは ITの技術革新と IT生産産業におけるMFPの成長によってもたらされていると考えられる。経済全体でのMFPの成長に関して、ITの直接的な貢献分以外は他産業のMFP成長と考えられるが、そこに ITのスピルオーヴァー効果が反映されている可能性は大いにあるだろう。ただし、この点について明確な言明をするに

は、もちろん国際間で比較可能なデータの期間を延長して分析する必要がある。 最後に方法論上の問題であるが、IT製品に関して国際的に統一された価格指数を用いることが重要である。現時点での指数作成方法には各国間で大きな差異があり、そのことが

国際比較を行う上でバイアスをもたらしている可能性がある。同様に、IT資産への支出データについても、国際的に統一的な見地からの整備が望まれる。 <<<調査担当者コメント>>> 国際比較を行う場合には、価格指数をはじめとしたさまざまな面で、比較可能なデータ

を構築することが必要不可欠であり、この論文からもそうした点への苦労が窺える。分析

としては通常の成長会計に依拠しながらも、ITのネットワーク外部性を捉えようという意図からのモデルの拡張はユニークなものである。また、この論文に限定したことではない

が、ITに関しては 1990年代後半からその効果が顕在化してきているようであり、実証分析を行う際にはなるべく直近までのデータを揃えたいところである。

付 22

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Pohjola, M. (2000) “Information Technology and Economic Growth: A Cross-Country Analysis,”

The United Nations University Working Paper, 173. (1)概要 本稿は、情報技術関連投資 (IT投資) の経済成長への影響を、クロスカントリーデータを用いて実証的に分析した論文である。推計のベースとなるモデルは、新古典派成長モデ

ル (ソローモデル) であるが、マンキューらの論文 (Mankiw, Romer, and Weil (1992; QJE)) にならって、通常の物的資本 (physical capital) 以外の資本投入も考慮できるようモデルの拡張がなされている。マンキューらの論文では人的資本を新たな生産要素に加え、

その経済成長に及ぼす影響を実証的に評価しているが、本論文では当初の目的に合わせ、

物的資本および人的資本に加えて情報技術資本 (information technology capital) を新たな生産要素として考えている。こうした意味で、本論文の推計モデルはマンキューらのも

のの自然な拡張になっており、シンプルかつ取り扱いが比較的容易であるという点で 1つの大きな特徴を有している。なお、マンキューらのアイデアは、ここ最近、経済成長を 1つのトピックスとする多くの応用分野で利用されるようになってきている (例えば、医療経済学における成長と健康資本の問題等)。 (2)データおよび推計モデル 推計に使用されるデータは、IT関連データを除いてはごく標準的なソースのものが使用されている。例えば、1 労働者あたり実質 GDP は、世界銀行の World Development Indicatorsのものが、また実質 GDPに占める実質国内投資シェアについては、Penn World Tables (Mark 5.6) のものが使われている。そして本論文の大きな特徴になる IT関連データについては、International Data Corporation (IDC) のものが使用される。これには世界約 50ヶ国の情報関連技術に関するさまざまなデータが集約化されている。具体的には、名目粗国内生産物に占める IT関連のシェアが、IT投資の代理的指標として使用される。 次に推計モデルについて簡単に説明しよう。マンキューらの論文にならって、通常のハ

ロッド中立的な新古典派生産関数を出発点とする。推計式は基本的に 2種類あり、1つめは各生産要素が GDP 水準に与える効果を計測するものである。それは以下のように表される。

( ) ( ) jjhp

jhjh

pjp

j nasssLY εδβααα

βα

βα

βα

α ττ

τ +++−

++−

−−+

−+= ln

1ln

1ln

1ln

1ln 0 .

ただし、 ( ) atA += 00 lnα 、 1<++= ταααβ hp 、 =+δa 0.05 であり、記法の詳細は標準的なものにしたがっている。例えば労働力増加率は n, 技術進歩は a で、外生的に与えられる。δ は各資本の減価率である。なお、 は実質国内投資の GDP 比(Penn World Tables)、 は人的資本投資(中等教育経験者労働力人口比:Unesco 等)、 は IT 資本投資額の GDPシェア(IDC等)を表している。

pShS τS

もう 1つの定式化は、それぞれの生産要素と 1労働者あたり GDPの成長率との間の関係をみるものであり、次のように定式化される。

付 23

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( ) ( )( ) ( ) ( )( ) ( )

( ) ( ) ( )( ) jjjhp

j

hjh

pjp

jj

LYnas

ssatALYtLtY

εθδβααα

θβ

αθ

βαθ

βα

θθ

ττ

τ +−++−

++−

−+

−+

−++=−

00lnln1

ln1

ln1

ln1

0ln00lnln.

ただし、 ( ) ( )( )[ ]δβθ λ ++−−=−= − nae t exp11 である。

(3)推計結果および結論 推計は通常の方法にしたがって、係数に関する制約がないモデルと制約があるモデルに

ついて行われる。サンプル国数は 39ヶ国であるが、先進国グループである OECD23ヶ国のみを対象とした推計も同時に行われている。大まかに結果をまとめると次のようになる。 まず、通常の物的資本は経済成長に対して強い説明力を有する一方で、人的資本および

IT技術はそれほど強い説明力をもたないという結果が得られた。とりわけ、このクロスカントリー分析における IT 投資の説明力の弱さは、しばしば話題にのぼる情報技術革命の影響力に関して 1 つの反証を突きつけているといえる。しかしながら一方で、OECD23ヶ国にサンプルを限定した場合には、IT資本の説明力は飛躍的に向上することが明らかになった。 このように先進国では IT の重要性が顕在化した一方で、開発途上国を含めたサンプル

ではそうした事実は確認できなかった。この結果をどのように解釈したらよいのだろうか。

1 つの説明として、先進国では既に高度にインフラが整備され、国民は高い教育水準に達しているので、それらが情報技術への投資とうまく絡み合って成長に寄与しているといっ

たことが考えられる。一方で、開発途上国の場合には、IT投資を補完するような重要なファクターが不完備であり、投資が成長を喚起するには至っていないと考えられる。 また、本論文では、IT投資が経済成長を引き起こす (IT投資は成長の原因である) とい

う観点のみに立脚して分析してきたが、実のところその因果関係ははっきりしていない。

例えば、経済主体が将来の経済成長を予見して IT 投資を行ったとしたら、因果の方向は「成長」から「IT 投資」となり逆の因果関係をもつことになる。残念ながら本論文では、因果性のテストに必要な十分長期間にわたるデータ系列を利用できなかったために (おそらく IT関連データが利用可能でなかったと推測される)、このテストは行われていない。この点に関しては、データの蓄積を待って将来への課題となろう。

付 24

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Jorgenson, D. W. (2001) “Information Technology and the U.S. Economy,”

American E onomic Review, 91 (1), 1-32. c

(1)概要 本論文は、2001年 1月 6日に行われた第 113回アメリカ経済学会における会長講演論文であり、ジョルゲンソン教授の最近の研究テーマである、情報技術と成長および生産性

の問題に関する展望論文となっている。この中で分析の主題は、近年のアメリカ経済の復

活と情報技術革新との間の関係に向けられる。この論文はまた、ジョルゲンソン教授が著

した近年の著作の包括的なサーベイともなっている。以下では、扱われているトピックス

について簡単に紹介していく。 (2)情報の時代 ここでは、近年のアメリカ経済の復活が、半導体および半導体製品の発達に端を発して

いるということが明らかにされている。IT製品の価格低下もこの半導体技術の発達によって支えられているという事実は、今や技術者のみならず経済学者にも広く知られているこ

とである。半導体製品はコンピューターや通信機器に利用され、一方でその技術革新によ

って多くの製品の価格低下をもたらしてきたのである。例えば、1995 年に生じた急激なIT製品価格低下は、前年に起きたより急激な半導体製品価格の低下に連動しているという。このような意味で、情報技術の問題を考える際には半導体の動向も重要である。 (3)情報技術の役割 アメリカ経済の復活における、情報技術の役割を分析するための分析的枠組みが提示さ

れる。その際主要な役割を演じるのは、品質を一定とした価格指数 (constant quality price indexes) である。これを使用することによって、価格の変化と品質の変化を分離できるようになる。近年、アメリカ国内でも正確かつタイムリーなコンピューター価格の計測が

NIPA によって精力的になされているが、未だ問題点を内包しており、それは特にソフトウェアや通信機器において顕著であるという。また、情報技術の経済的影響を考える際に、

資本コストの問題は極めて重要である。IT製品価格の低下は資本コストに大きな影響を与えるため、コンピューター、通信機器、ソフトウェアなどの IT 関連資本の急速な成長の影響を正しく評価することが求められる。 (4)アメリカにおける成長の復活 情報技術価格の低下が、アメリカの経済成長に与えた影響を分析するために、IT関連投資等を明示的に考慮した新たな生産可能性フロンティアを考え、それに基づいた成長会計

のフレームワークでの実証分析を行っている。結果としては、IT価格の低下は今後もしばらく継続すると思われ、それによって IT 生産要素と他の生産要素との間での代替が進むと考えられる。また一方で、IT 価格の低下は、IT 製品生産業における急速な生産性向上の指標ともなるであろう。しかしながら、これらの産業で永続的な生産性の成長が起こる

と考えるのは時期なお早であろう。

付 25

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(5)情報技術と経済学 ここでは、情報技術の台頭によって惹起される新たな研究の方向性についての展望がな

されている。現在大量に出回っているビジネス書は、企業や生産市場への IT の影響を論じているものがほとんどである。しかしながら、IT技術と密接な関わりをもつと考えられる半導体市場に関する分析は未だ希薄であり、今後高い優先順位を以って分析の対象にな

らなければならないことが指摘されている。また、資本市場や労働市場に及ぼす IT の影響についても未だ解明され得ぬ問題が数多く存在しており、こうした問題の分析も重要で

あると述べられている。

付 26

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伊藤由樹子 (2001) 「IT革新と日本経済の活性化」,

『IT革命のミクロとマクロ』第 3章所収, 富士通総研経済研究所研究レポート 102, 31-50.

(1)概要 本論文は、いわゆる IT 革新の成果を日本のデータを使用して検証したものである。分析の最も大きな特徴としては、産業別に IT 導入の生産性上昇への影響を評価している点にあるが、ここでは成長会計を用いたマクロ的な分析に焦点をあて、成長の源泉について

の分析結果をみていく。成長会計に際しては、資本投入として資本ストック量をそのまま

用いるのではなく、資本サービス量に変換したものを使用している3。IT 関連資本のように技術革新のスピードが速いものを考慮する場合には、資本サービスを利用して資本投入

を測ることは重要である。 (2)成長の源泉への接近 日本経済における IT のウェイトは、近年相当の勢いで増大しつつある。こうした経済の IT化は、経済成長にどのように影響するのであろうか。ここでは Jorgensonらの一連の研究にならって、成長会計を用いて経済成長の要因を分解し、ITの成長への寄与を推計する。当然のことであるが、成長会計にあたっては、物的な資本を IT 資本とそれ以外の資本に類別する。いま、( , をそれぞれ一般資本、電子計算機、通信機器、

電気通信施設建設、ソフトウェアとする。ヒックス中立的技術進歩を仮定し、さらに通常

の新古典派的な仮定を追加的に用いると、成長会計式は以下のようになる。

, , ,n c m f sK K K K K )

AA

LLv

KKv

KK

vKKv

KKv

KKv

YY

ls

sk

f

fk

m

mk

c

ck

n

nk sfmcn

&&&&&&&&++++++= .

ただし、 は資産の分配率であり、その和は 1に等しくなる。先にも述べているように、資本投入については資本サービス量に変換したものを用いている。

v

具体的に実証結果をみていこう。ソフトウェアを含めた実質 GDP成長率は、90年以前の年平均 4%から 90年代には年平均 1%台にまで鈍化した。その鈍化の主要因は資本サービスの寄与の低下にあるが、TFPの寄与は90年代に資本と労働の寄与度が低下する中で、年平均 1.8%成長を押し上げている。 次に資本サービスの寄与の内訳をみると、IT資本サービスの寄与にここ 20年間大きな変化はみられない。アメリカでは 90年代に IT資本の貢献度が高まっているが、日本ではむしろ最初の IT投資の盛り上がりがみられた 80年代前半が 0.5%の寄与と最も高く、90年代に入ってからは 0.2%の寄与度へ鈍化した。 IT サービスの内訳では、80 年代前半まではコンピューター・電気通信施設のウェイトが比較的大きい。その後徐々にソフトウェアの比重が増し、90年代後半にはソフトウェア 3 資本の限界生産性が実質レンタル価格に等しいとし、各資産が生み出す資本サービス量に変換している。コンピュータ等の、技術革新が早く、価格低下が大きい財に関しては、資本投入を資本サービスで表す

ことが重要となる。

付 27

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と通信機器の寄与度が高くなってきている。アメリカの場合統計の取り方が日本とは異な

る部分もあるため正確な比較はできないが、1959-98年にかけて IT資本サービスの成長への寄与が増加し続けている。また IT資本の分類でも、90年代にソフトウェアの貢献は日本と同様に高まっているが、1995-98 年の寄与の半分がなおコンピューターである点は日本と異なっている。この背景には、日本よりアメリカのコンピューター価格の方がより急

速に低下していることが影響していると思われる。 先ほども確認したように、日本では 90年代に入って TFPが増加しているが、やはりこの背景には ITの影響があると考えられる。例えば、IT供給産業における生産性の上昇が考えられるし、また、他の産業が IT を利用することによって生産性を向上させているといったことも考えられよう。 <<<調査担当者コメント>>> 日本での IT の成長会計としては、貴重な論文である。資本投入に資本サービス量変換値を利用しているといった配慮に加えて、IT資本の分類が比較的丁寧に行われており、信頼性のある成長会計分析である。

付 28

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熊坂有三・峰滝和典 (2001) 日本評論社「ITエコノミー」

IT革新の米国経済への影響につき、詳細かつ意欲的な分析を行なっている。内生的成長モデルによる分析については後述するが、ここでは、新古典派アプローチに基づくマクロ

時系列分析による ITのアメリカ経済への影響、IT革新と収穫逓増の問題、情報技術革新の労働市場への影響について見ていく。なお、本書は 1998年から 2000年までの「経済セミナー」連載が元となっている。

(1)マクロ時系列分析による ITのアメリカ経済への影響 当初、米国においても IT 化による正の経済効果はなかなか見出されにくかった。その理由の一つとして、IT資本が全資本に占める割合がまだ小さいということが指摘されていた。確かに、その後の各種分析において、ITの範囲を広げることにより効果が明確化した部分もある。しかし、これだけでは十分な理由とならない。特にコンピュータについては、

新しく安いコンピュータが古くて高いコンピュータより性能が良いことが一般的で有り、

ゆえに、資本を効率単位で測ることが重要となる(いわゆる「体化した技術進歩」)。その観

点から、R&D 投資支出のデータを用いつつ、情報資本ストックに体化した技術進歩率を計測している。さらに、コンピュータを中心とする情報技術革新においては、労働者にも

能力の向上を要求している。実際、労働も単純な量的労働投入量ではなく、質的変化を考

慮したヒューマンキャピタルを用いる重要性が指摘される。 そこで、IT化苦心の米国経済成長への影響を技術進歩が体化しないケースと、体化したケースに分け、生産関数を推定した結果、単なる成長会計による IT の経済成長分は極めて小さいものに留まるが、ITにコミュニケーション投資を考慮する、あるいは情報技術革新に焦点を当て、技術進歩の情報資本ストックへの体化や、労働への体化をあわせて考慮

に入れると、1990年代の景気拡大における IT革新の経済成長率への寄与はかなり大きくなるとの結果が出た。 なお、この分析フレームの下において、知識ストックを生産要素として導入したものの、

有意な結果は出ておらず、ここからも後の内生的成長分析の必要が生じる。なお、情報投

資は 1990 年代以降に急増するという性格からも、時系列分析での限界性も指摘されている。

(2)IT革新と収穫逓増

IT化が進展する経済の下で優位性を確保するには、規模の経済性を追求することが必要となる。収穫逓増、コスト削減を目指すM&Aが 1990年代に入り急増したことも、IT革命と何らかの関係がある。 通常、規模の経済は全ての投入要素の一定の増加に対してアウトプットが相対的にどの

程度増加するかにより定義される。つまり、経済の規模の程度はアウトプットの限界的な

増加によって全体のコストがどの程度限界的に上昇するかにより測られる。これは、アウ

トプットに関するトータルコストの弾力性ということができる。規模の経済性の定義とし

ては、

付 29

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yCSCE

loglog1∂∂

−=

ここで、Cはトータルコスト、yは実質アウトプットである。アウトプットが1%増加する一方、そのトータルコストの上昇が1%に満たなければ、SCE>0 であり、規模の経済すなわち収穫逓増が働いていることになる。

IT投入要素を含んだコブダグラス型生産関数ならびに CES型生産関数を推定した結果によると、技術進歩率(全要素生産性)は 0.6%程度であるが、米国経済は IT革命により10-15%の収穫逓増の経済になっていることが明らかとなった。 収穫逓増の経済は、知識が知識を生むという内生的成長も出るの特徴を表しており、IT化が進展した国における国際競争力は一層強くなる可能性がある。 (3)情報技術革新の労働市場への影響

IT 革新に伴うビジネス形態の変化は著しい。CES 型の生産関数ならびにそれらに対応するコスト関数から計算した各種弾力性から生産要素間の関係を分析した。 その結果によれば、IT 革新により労働市場における男性優位は無くなりつつあること

(女性労働の価値が高まっていること)、情報投資価格の低下が労働所得分配を改善するこ

と(特にホワイトカラーの労働分配率が改善すること)、情報資本ストックの他の生産要素

との直接弾力性が非常に高いこと等が指摘でき、IT革新が経済構造に大きな変化を与えていることが理解できる。

付 30

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Matambalya, F. and S. Wolf. (2001) “The Role of ICT for the Performance of SMEs in East Africa,”

ZEF-Discussion Papers on Development Policy No. 42.

(1)概要 本論文では、ケニアとタンザニアという東アフリカ地域に属する国を対象として、情報

技術利用と生産性の間の関係性が分析される。その中でも特に中小企業 (small and medium enterprise; SME ) にスポットがあてられる。分析の基礎には、標準的なコブ=ダグラス型生産関数を考え、両国における企業の生産性の決定要因を、情報技術との関連

から検討していく。主要な分析結果としては、ICT (information and communication technology) 投資の係数はいずれのケースでもマイナスであったが、それは有意ではないことが明らかになった。しかしながら、両国において、ファックス機の利用は生産性に対

して正で有意になることが確認された。 (2)分析手法 IT 利用および他の要因が生産性に及ぼす影響を計測するために、以下のようなコブ=ダグラス型生産関数を考える。

δγβα ILICTAKY = . ただし、ノーテーションは通常のものとし、特に と は、それぞれ IT 資本と他の生産投入物を表すものとする。ここで、両辺の対数をとると、

ICT I

ILICTKAY lnlnlnlnlnln δγβα ++++= . ここでAは全要素生産性 (TFP) を表すものとして解釈できる。ここでは、TFPに影響を与える要因として、労働のスキル集約度 、輸出偏向度 、そして IT 装備の利用度

という 3つの要素を考える。すなわち、sil exp

usICT e useICTsilA ϕηλ ++= expln とする。した

がって推計式は以下のように書ける。

useICTsilILICTKY ϕηλδγβα ++++++= explnlnlnlnln .

(3)データ 分析に使用されるデータは、ケニア、タンザニアに所在する、食品加工産業、繊維産業、

そして観光産業のものであり、サンプル数は合計で 150 社程度である。データの収集は1999年 11月に開始し、2000年 5月に完成した。 (4)分析結果 推計はケニア、タンザニアそれぞれの国についてと、両国のデータをプールしたものに

ついて行われている (pooled dataの推計は 2種類)。データをプールするのは、ケニアのデータが 23サンプルしか得られなかったためである (タンザニア: 137)。プールしたデータの推計式には、セクターダミー (部門ダミー) とカントリーダミー (ケニアダミー) も含めることにする。説明変数間での相関は、総じてそれほど高くはなく、多重共線性はほと

んど問題にはならないと考えられる (セクターダミーは国別の推計でももちろん考慮され

付 31

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ている)。 具体的に推計結果をみていくと、資本 (IT含む) および労働といった通常の生産要素に関する変数の推計値は全て 1 より小さいことから、生産関数をコブ=ダグラス型として定式化したことは妥当性をもつと考えられる。またこの結果より、規模の経済性 (収穫逓増) は存在しないことが分かる。ケニアにおいては、資本ストックの推計値はわずかにマイナ

スの値をとったが有意ではなかった。これは資本減耗が適切に計測されていないというデ

ータ上の問題によって発生していると考えられる。また、ケニアにおいて、資源の非効率

的な配分が生じている可能性を想起させるものである。 注目される IT 投資については、全ての推計において推計値はマイナスであったが有意ではなかった。この理由として、ITを有効に使用するには労働者のトレーニングと企業のリストラクチャリングが必要であり、投資が mature するまでにある程度の時間を要するといったことが考えられる。両国において IT に熟練した労働者は未だ稀少であり、企業はまず ITに関するトレーニングを行わなければならない。そうした状況で、高価な IT投資がなされた後に生産性が低下するというのは、ある意味自然なことである。しかしなが

ら、興味深い点として、ファックス機の利用は生産性に対してプラスで有意であったこと

が挙げられる (全ケース)。 データをプールした推計では、カントリーダミーであるケニアダミーはマイナスに有意

であった。このことはケニアの中小企業が、タンザニア企業よりも生産性の点で劣るとい

うことを意味している。プールしたデータを利用した第 2番目の定式化は、ファックス機利用に代えて、市場拡張度を表す変数 (輸出偏向度) を導入したものである。この変数は生産性に対してプラスで有意の効果を与えており、このことは外国市場における高い競争

力が企業の生産性を向上させることを意味していると考えられる。 <<<調査担当者コメント>>> 対象が東アフリカではあるが、開発途上国という意味において本調査におけるアジアの

分析に参考となる論文である。興味深い点は、TFPの部分をいくつかの要素に分解して分析している点である。ここに人的資本や貿易環境といったものが集約化されて表現される

ことになる。いずれにせよ、シンプルな分析ではあるが意味のある (解釈可能な) 結果を出してきている。しかしながら、資本ストックの推計値がマイナスになるといった問題も

発生しており、やはり開発途上国をベースとした実証分析に際しては、データの信頼性の

問題がその種類を問わず (IT関連データ以外にも) 鍵になってくると思われる。

付 32

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Colecchia A. and Schreyer P. (2001) “ICT Investment and Economic Growth in the 1990s: Is the United States a Unique

Case? A Comparative Study of Nine OECD Countries” STI Working Paper, OECD.

(1)概要 IT 投資は米国に限ったものではなく、欧州や日本においてもそれぞれ違った特徴を見て取ることができる。本論文においては IT 資本蓄積が成長に与える効果を、オーストラリア、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国について見

ている。過去 20年において、ITが経済成長に与えた寄与度は国によって多少異なるものの、年率 0.2~0.5%ポイントに留まっていた。1990年代後半において、その寄与度は 0.3から 0.9%ポイントに上昇している。本論文においては、IT 投資による経済の恩恵を受けているのは米国に限られているわけではないことを示す。さらに IT の多様性が重要な役割を果たしており、IT製造セクターは経済成長の加速に必ずしも必要でないことが示される。 (2)分析の枠組み 分析の方法論としては、Oliner and Sichel (1994, 2000)、Jorgenson and Stiroh(2000)

等のアプローチを踏襲している。基本的には以下のような成長会計式を採用している。

AdKdKdLdQd CKC

NKNL lnlnlnlnln +++= εεε

ここでCK は IT資本であり、ハード、通信機器、ソフトが含まれている。それぞれに関

しては、下記のようにウェイト付けがされている。

[ ] .ln/ln 1 1 iR

i

R

iiiiiC KdKuKuKd ∑ ∑=

ここでu は、IT 資本 i が IT 資本総所得に占めるシェアである。u は

の価格であるが、除却率等を考慮に入れた使用価格である。また、観測上の困難性を回避

するため、各資本サービスのフローはそのストック量と比例しており、さらに時間を通じ

てその比率は一定との仮定をしている。なお、

∑ 1/ R

iiiii KuK i I

NK は IT以外の資本である。 データに関しては、基本的にOECD推計ならびに各国の SNA統計等を利用しているが、

各国における IT資本の定義の違いはある。 (3)結論 本論文は OECD9カ国につき、IT資本が成長に与える効果を成長会計のフレームワークを用いて試算している。主たる分析結果は以下のとおりである。

・ 景気循環上は OECD 各国は異なるポジションにあるにもかかわらず、IT 資本財に対する投資は一様に増加している。中でも IT機器とソフトは最も強く、ほとんどの国で年率二桁の伸びを示している。しかし IT投資の投資に占める割合については、国ごとに差がある(米、カナダ、フィンランド、オーストラリアで高い)。

付 33

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・ IT 投資需要と同時に IT 資本財価格の下落も見て取れる。これにより、他の資本財から IT資本財への代替効果が見られる。ソフトウェアに関しては IT機器よりも価格下落の度合いは低いものの、その急速な蓄積は妨げられていない。より高

い収益率の資本財への代替が進んでいると言うことである。 ・ 過去 20 年において、IT の経済成長に対する寄与は 0.2~0.5%ポイント程度であった。1990年代後半においては、寄与度は 0.3~0.9%ポイントに上昇した。米国のみが ITの恩恵を受けているのではなく、オーストラリア、フィンランド、カナダにおいてもその効果は認められる。一方、ドイツ、イタリア、フランス、日本

においては、ITが経済成長にもたらす寄与は小さい。ITのような潜在的な成長源が起動するには、適切な枠組みが必要である。

図表 1-3 資本が成長に与える寄与度

Australia Canada Finland France Germany Italy Japan United Kingdom United States

80-85 3.39 2.66 2.80 1.48 1.13 1.54 3.31 2.59 3.3585-90 3.79 2.90 3.42 3.46 3.59 3.04 5.14 3.90 3.3190-95 3.37 1.79 -0.70 0.97 2.22 1.44 1.33 2.12 2.6495-99 4.72 4.09 5.62 2.60 1.73 1.93 1.10 3.48 4.43

95-2000 4.62 4.20 2.81 2.06 3.55 4.40

80-85 0.24 0.25 0.21 0.13 0.18 0.21 0.16 0.16 0.3685-90 0.34 0.24 0.30 0.17 0.23 0.23 0.23 0.25 0.3290-95 0.37 0.21 0.17 0.16 0.24 0.18 0.25 0.23 0.2995-99 0.53 0.39 0.46 0.23 0.28 0.29 0.36 0.42 0.61

95-2000 0.53 0.43 0.25 0.30 0.43 0.620.20 0.23 0.26 0.30 0.20 0.18 0.05 0.10 0.29

80-85 0.05 0.04 0.07 0.05 0.03 0.02 0.02 0.02 0.0785-90 0.12 0.09 0.12 0.05 0.04 0.08 0.07 0.04 0.1190-95 0.12 0.09 0.07 0.02 0.06 0.02 0.06 0.04 0.1495-99 0.13 0.12 0.16 0.10 0.07 0.07 0.02 0.05 0.25

95-2000 0.15 0.13 0.10 0.07 0.04 0.25

80-85 0.29 0.30 0.28 0.18 0.20 0.23 0.18 0.18 0.4485-90 0.46 0.33 0.42 0.22 0.27 0.31 0.30 0.29 0.4390-95 0.48 0.30 0.24 0.18 0.30 0.21 0.31 0.27 0.4395-99 0.66 0.51 0.62 0.33 0.35 0.36 0.38 0.47 0.86

95-2000 0.68 0.57 0.35 0.38 0.48 0.87

80-85 1.66 1.11 0.77 0.72 0.69 0.82 1.10 0.76 1.2585-90 1.93 1.13 1.00 0.92 0.91 0.97 1.50 1.15 1.1090-95 1.37 0.65 0.26 0.78 1.08 0.73 1.49 0.85 0.9795-99 1.63 0.96 0.57 0.82 0.95 1.01 1.07 1.23 1.69

95-2000 1.03 0.87 0.98 1.25 1.71

growth of output

contribution (percentage points) from:

IT and communications

equipment

software

total ICT

total capital services

・ IT製造産業の存在は経済成長にとっては必要条件でも十分条件でもない。それよりも、ITの多様な広がりと、それを活用するための適切な枠組みが必要である。

・ 限界生産性が高く、比較的効力が短期に留まる資本財の蓄積は、平均的な減価償

却率を高める。よって、IT資本への投資は、総産出には大きな影響を与えるものの、純産出には相対的に小さな影響しか与えない。

付 34

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Kraemer K. and Dedrick J. (2001) “Information Technology and Economic Development: Results and Policy implications

of Cross-Country Studies” Pohjola eds. “Information Technology, Productivity, and E onomic Growth”. c

3

(1)概要

ITに関する支出が急速に伸びているにもかかわらず、それが必ずしも期待される生産性の向上をもたらしてはいない。この傾向は、米国のみならず、他の先進国においても見

られる(いわゆる生産性のパラドクス)。IT が真に経済成長の核心であるならば、開発途上国においては相対的な IT投資水準の低さや、劣っている ITの熟練度、ITを使用するに際してのインフラの欠如等により取り残されてしまう危険がある。しかし、もし IT の経済成長に対する効果が妄想であるのならば、ITに対する投資は無駄となる。 本論文においては、第一に米国では実際に IT の効果はどうであったのかについて分析する。第二に IT が開発途上国にとっても有益と見なすことができる場合、どのようにインフラや人的資本投資、あるいはより基本的な条件を満たすべきであるかについて考察す

る。それらの点を分析するにあたり、包括的なクロスカントリーデータを用いる。 (2)方法論と結果 本論文においては、まず、IT投資と生産性等の関連を見るにあたり、43国の 1985年から 1995年のデータをもとに単純な回帰分析を行なった。推計式は以下のとおりである。

Growth in GDP per worker =(GDP/capita 1985, Labour force growth 85-95, growth in IT investment per worker 85-95, growth in non-IT investment per worker 85-95) 結果は下表のとおりであり、労働者あたりの IT 支出の成長は労働生産性の成長と強く関連していること、IT以外の支出の成長も同様に労働生産性の成長との関連はそれ以上に強いこと、説明変数の中では非 IT投資が最も重要な要素となっているものの、IT投資の寄与度も非常に高いこと等が見て取れる。

図表 1-4 回帰分析の結果

Independent variable(s) Coefficients t SignificanceConstant -0.0218 -1.667 0.104GDP per capita, 1985 0006 0.093 0.926Labour force growth 0.0032 1.111 0.273Non-IT/worker growth 0.2560 5.595 0.000IT/worker growth 0.0942 1.706 0.096R^2 0.497N 4

0.0000-0.0218 0.00000006 0.0032 0.2560 0.0942

次に、成長会計のアプローチを取って以下のような関数を推計している。 Growth in GDP per worker

= f(GDP/capita 1985, labour force growth 85-95, IT/GDP, non-IT/GDP). 先の回帰分析においては、ITと生産性との間には正の相関があったものの、成長会計式

付 35

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においては、ITと生産性の間には有意な関係が見られず、非 ITと生産性の関連のみが認められる。先進国においては IT 投資からの収益が強いものの、開発途上国においてはそのような結果を得ることはできなかった。 成長会計式において、ITと生産性の間に有意な関係が見られなかった理由としては、IT投資の水準が、非 IT 投資と比べて小さいこと、短期間の時系列データしか入手可能でなかったこと等が挙げられる。

図表 1-5 成長会計による推計の結果

Independent variable(s) Coefficients t SignificanceConstant -0.0517 -3.128 0.003GDP per capita, 1985 0001 -0.002 0.991Labour force growth 0.00036 -0.002 0.896Non-IT/GDP 0.290 5.180 0.000IT/GDP 0.436 0.634 0.530R^2 0.422N 443 3

0.0000-0.0517 0.00000001 0.00036 0.290 0.436

なお、年毎の推計からは、ITの産出弾力性は年々高くなっていることが見て取れる。よって、IT投資に関しては、どのようにすれば ITによる恩恵を受けることができるのかと言う条件を考察することが重要となっている。 (3)結論 広範な国のクロスセクションの分析結果からは、IT投資は経済成長に十分資するもの

であることが判明した。この点において、過去の国/企業レベルにおける生産性パラドク

スを否定する形となっている。このことは開発途上国にとって、IT投資の増加を人的資本投資とインフラ投資とともに行なっていくことを促す。IT の効果を発現させるためには、IT の生産と利用をともに推し進めねばならない。しかし開発途上国にとって、新たに IT関連の製造分野に進出することはやさしいものではない。しかし、IT関連のサービスやソフトウェア産業は、最も急速に成長している産業であり、小さなニッチ企業にも門戸が開

放されており、開発途上国の産業においても十分に参入して競争していける分野であり、

しかも将来的には世界的にも競争力のある企業に育つ可能性もある。開発途上国にとって

は、IT利用に近い分野への注力が最も望まれるところである。

付 36

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1.1.2 情報技術革新と内生的成長モデル

Romer, P. M. (1986) “Increasing Returns and Long Run Growth,” Journal of Political Economy, 94 (5), 1002-1037.

(1)概要 新古典派成長モデルの代表格であるソローモデルでは、経済成長にとって極めて重要な

技術進歩が、残念ながら「外生的な」ものとして与えられているに過ぎなかった。この事

実を受けて、経済成長を生み出すメカニズムをモデルの内部で (すなわち内生変数として) 説明しようという試みがなされるようになった。ここで扱う Romer の論文は、その中でも先駆的な役割を果たした論文であり、後の内生的成長理論の研究に大きなインパクトを

与えることになった。 Romerのモデルは、経済的な外部性に基づく収穫逓増がエンジンとなって、持続的な経済成長が生み出されるというモデルである。ここでは、外部性によって収穫逓増が働く資

本として「知識資本」の存在を考えることになる。この知識資本の蓄積によって内生的経

済成長が生じるわけであるが、それは個々の企業の分権的な意思決定に基づいた R&D 投資を通じて行われる。知識というものは、専有が困難な性質をもつものであり、いずれ他

の経済主体へスピルオーヴァーしていくことによって外部性を生み出すと考えられる。結

果的にこの外部性の存在によって、社会的な最適成長経路と分権的成長経路の間には乖離

が生じることになる。Romerの著しい貢献は、このような収穫逓増の世界において解の存在を示した点にあると考えられる。論文の中の第 1定理および第 2定理は、いわば解の存在定理になっている。 (2)分析のフレームワーク ここではより具体的にモデルをみていこう。いま、N 企業が存在するものとすると、個々

の企業の生産関数は次のように書ける。

( , , )i i i iy F k K x= , where ∑ ==

N

i ikK1

.

ik は第 企業の知識資本ストック、 は第 企業のその他の生産要素を表す。先に述べた

ように、知識資本には外部性が存在することから、経済全体での総知識資本ストック量

は各企業の生産性を高めることに貢献する。すなわち、

i ix i

K

0>∂∂ KFi

)ix

である。いま、生産

関数 が と に関して 1 次同次だとすると、( , については収穫逓増になる。し

かしながら、この privateなレベルでの収穫逓増性が Romerモデルの本質ではない。重要なのは社会的なレベルでの収穫逓増性である。

iF ik ix ,ik K

ここで、企業に関してはシンメトリックを仮定するので、総知識資本ストックはK Nk=

となる。これを社会的生産関数 ( )⋅F に代入すると、以下のようになる。

( , , )y F k Nk x= .

付 37

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つまり、外部性を生み出す が の関数であることを考慮に入れた社会的生産関数 が、

に関して収穫逓増になるという点が決定的に重要なのである。このプロパティをフォー

マルに表現すると、次のようになる。

K k ( )⋅Fk

0dFdk> ,

2

20

d F

dk> .

(3)モデルの帰結 Romerモデルでは、知識資本の蓄積が各企業の分権的な意思決定によって内生的に進められるため、それと関連する技術進歩率も内生的に決定される。この点がまずソローモデ

ルとは異なる点である。一方で、知識資本は外部効果をもつため、私的な限界生産性が社

会的な限界生産性を下回ることになる (最適成長経路と分権的成長経路の乖離)。このことから、分権的な市場経済の下では知識資本の蓄積が過少であり、パレート最適な状態に移

行させるには知識資本に対する補助金の拠出 (より具体的には R&D活動に対する補助金) が必要になってくることが理解されよう。 <<<調査担当者コメント>>> ITの実証分析とは直接の関係がないように見えるものの、この Romer論文の強調する「知識資本の蓄積による外部効果」はまさに IT に対応するものと考えられる。情報技術が経済のそこかしこに拡がれば、以前にはみられないような効率的な経済システムが生ま

れる可能性がある。よく言われているように、ITのもたらすネットワーク外部性は、収穫逓増とまではいかなくとも、経済システムを大きく変える可能性をもっており、現にその

胎動が日本でも起こりつつあるように思える。

付 38

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Romer, P. M. (1990) “Endogenous Technological Change,”

Journal of Political Economy, 98 (5), S71-S102. (1)概要 内生的成長モデルの発展において、公共的知識の外部性をエンジンとする Romer (1986)、

人的資本の蓄積をエンジンとする Lucas (1988) を第 1世代のモデルと考えれば、第 2世代に該当するのはおそらく Romer (1990) であろう4。Romer モデルでは経済成長のエンジンとして内生的な技術進歩プロセスを考え、それを最適成長モデルの上で表現した。技

術進歩の形式としては、新しい知識の開発によって利用可能な資本財の範囲が拡大してい

くという expanding varietyという技術進歩概念を適用した。結果的にこの Romerモデルでは、ソローモデル等の新古典派成長モデルとは異なった定常状態でのプロパティが現れ

ることになる。 (2)分析のフレームワーク モデルには、最終財部門・中間財部門・R&D 部門という 3 つの生産セクターが存在す

る。R&D部門で発明される新しい資本財のパテント (blue print) の数が経済の技術進歩を描写することになる。R&D 部門はこのパテントを中間資本財生産部門に販売して利潤を得るが (完全競争)、中間財部門はそれぞれのパテントごとに 1つの企業が新しい中間資本財を生産しそれを独占的に販売する (独占的競争)。最終財部門は中間財部門の生産した新しい資本財を購入して、それと労働力 (未熟練労働者と熟練労働者) を組み合わせて最終財を生産する。これがモデルの全体的構造であり、一方で代表的経済主体の存在を仮定

する。ここでは、特徴的な最終財部門および R&D部門の生産関数に注目しよう。 まず、最終財の生産関数は次のように定式化される。

( ) diixLHYA

Y

βαβα

−−

∫=1

0.

YH は熟練労働者 (人的資本)、 は未熟練労働者、L Aは知識ストック (パテント)、そしてはさまざまなタイプの資本財を表している。この生産関数は、技術進歩を中間資本財

の種類の増加として定式化している。この時、新技術の開発・発明とは、最終財の代替的

な生産方法を提供する新しいタイプの資本財の開発を意味することになる。パテントと結

びついた新しい資本財が創出されることによって、資本ストックの限界生産力の逓減性は

阻止されることになる。

( )x i

次に R&D部門の生産関数をみる。いま、新しい資本財のパテント ( A ) が、熟練労働者と現存する知識ストック

&

AH Aを用いて生産されると考える。したがって、

AHA Aδ=& .

この関数形より、新しいパテントの生産は、それに投入される熟練労働者と知識ストック

4 言うまでもなく、他の第 1世代のモデルとしては、quality ladderによる内生的技術進歩をエンジンとした Grossman and Helpman (1991)、Aghion and Howitt (1992) がある。

付 39

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各々に関してリニアな増加関数となる。すなわち、より多くの熟練労働者が R&D 部門に投入されるほど、また知識ストックの量 (パテントの数) が多いほど (知識の漏出効果)、Aの成長は速くなることがわかる。 以上の設定を核として、家計は自らの効用積分を最大化するように異時点間の最適化問

題を解くことになる。もちろん、social planning problemも通常の手続きにしたがって定式化されるが、この Romer モデルでは中間財部門における独占的競争状態の存在と新しいパテントの発明に伴う知識の外部性の存在によって、市場均衡解と社会的最適解の間に

は乖離が生じることになる。 (3)モデルの帰結 ここでは、市場均衡解に注目しよう。上で説明してきたような動学的一般均衡体系をハ

ミルトン関数によって特徴づけられる最大値原理を用いて解くと、定常状態での 1人あたり GDP成長率は以下のように与えられる。

1+ΛΛ−

ρδHg , where ( )( )βαβαα

+−−=Λ

1.

したがって、定常状態での成長率は主に熟練労働者数によって決定されることがわかる5。

この帰結は、ソローモデルとは大きく異なるものであるが、その源泉は R&D 生産関数の定式化にある。Romer の定式化した関数形には、理論的な観点 (Solow、吉川等) と実証的な観点 (Jones 等) 双方から批判が投げかけられているが、技術進歩を企業の利潤追求的な行動から内生的に説明しようとした試みは大いに称賛されるべきであり、このモデル

が一定の成果を収めている証拠として、Romerモデルをベースとしたモデルは各分野で数多く応用されている。 <<<調査担当者コメント>>> 本モデルは、比較的シンプルな枠組みにも拘らず、内生的成長のエッセンスがふんだん

に組み込まれている。それだけに批判もあるが、そのシンプルさゆえに各応用分野で頻繁

に使用されており、例えば ITとの関係では峰滝・熊坂 (2000) がある。

5 これは規模効果の問題として、成長モデルにおける 1つの重要な論点になっている。

付 40

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Jones, C. I. (1995) “R&D-Based Models of Economic Growth,”

Journal of Political Economy, 103 (4), 759-784.

(1)概要 本論文では、多くの R&D based growth modelsにみられる規模効果 (scale effects) が現実のデータによっては支持されないことを示した上で、代替的なモデルを提示する。こ

の新たなモデルでは、それまでの R&D based growth modelsで得られた主要なインプリケーションは変更され、定常状態での成長率は R&D 部門の生産性パラメーターと人口成長率に依存して決定されることになる。すなわち、「内生的成長」のプロセスを経て、モデ

ルはソローの世界に立ち戻ることになるのである。 (2)データから得られる事実と R&D部門の生産関数の定式化 Jonesの批判は、初期の R&D based growth modelsのほぼ全てに向けられるが、構造上 Romer (1990) を例にとり説明していこう。ここでは、Jonesモデル、Romerモデルを同じ枠組みの下で考えていく。モデルには最終財部門・中間財部門・R&D 部門という 3つの部門が存在し、中間財部門のみを独占的競争、他の部門を完全競争と仮定する。2 つのモデルで基本的に異なるのは知識創出関数 (R&D 部門の生産関数) である。Romer モデルは Jones モデルの特殊ケースなので、2つのモデルの R&D 関数は次のように定式化される。

φλδ ALA A=& .

ただし、Aは現存する知識ストックを、 は R&D部門の雇用者数であるAL 6。Romerモデルは 1=λ 、 1=φ としたケースであり、この時新たな知識の創出は知識ストックAに関し

てリニアになる。一方 Jones モデルは0 1≤< λ 、 1<φ としたケースであり、新知識の創

出は知識ストックに関して収穫逓減のプロパティをもつ。 Jones の示した事実とは、まさにこの R&D 関数の定式化に直結するものである。すなわち、アメリカにおける科学者およびエンジニアの R&D活動への従事者数は、1950年から 1988年でほぼ 2倍になっているのに対し、TFP成長率は同期間でほぼコンスタントである、という事実の提示である。もし、Romerモデルにみられるような規模効果を主張するモデルが現実的妥当性をもつならば、TFP成長率も約 2倍になっているはずである。こうしたことから、Jones はより現実的妥当性をもつ関数形として、上のような定式化を行ったのである。しかしながら、Romerの関数形が特殊ケースであり Jonesの示した経験的事実と矛盾するとはいっても、企業の利潤追求行動から技術進歩を内生的に説明しようと

する試みは重要な貢献であると考えられる。

6 Romer は未熟練労働と人的資本を区別し、R&D 部門における知識生産は人的資本のみによって行われると仮定しているが、本稿では議論の単純化のためそうした区別は行わない。つまり、 は未熟練労

働と人的資本を一定割合で含むものと考える。 AL

付 41

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(3)モデルの帰結 R&D関数の定式化は、R&D based growth modelの全体のプロパティを決定する上で極めて重要である。ここでは、2 つのモデルにおける定常状態の成長率を比較して、直観的にその違いをみる。

Jonesモデル φ

λ−

=1

ng .

Romerモデル 1+ΛΛ−

ρδHg , where ( )( )βαβαα

+−−=Λ

1.

まず、Romerモデルをみよう。 は R&D部門に雇用される知識労働者の数を表し、他はパラメーターなので、定常状態での成長率

H

gは主に R&D 部門の労働サイズによって決定される。これは外生的なパラメーターによって成長率が決定される、ソローをはじめと

した新古典派的世界とは大きく異なる特徴をもつ一方で、同時に現実的妥当性に乏しい規

模効果を発生させている。もちろんこの帰結の源泉は先に示した線形の R&D関数にある。 次に Jonesモデルに目を転じると、そこにはもはや規模効果は存在せず、成長率は主に

人口成長率 によって特徴付けられる。これは帰結的にはソローの世界であり、Jones が自らのモデルを「準内生的成長モデル」と呼ぶゆえんである。現在の学界では、Romerの先駆的業績を認めた上で、R&D based growth modelsに関するコンセンサスは Jonesモデルおよびそれをベースにしたモデルにあると考えられる。

n

<<<調査担当者コメント>>> 本稿での議論は、IT知識の新知識 (経済全体での) 創出に対する貢献を具体的にモデル化する場合などに有用であると思われる。一般に線形性の仮定は便利であり、内生的成長

モデルにとっては極めて重要であるが、時にかなり限定的な状況を想定していることにな

ってしまう。したがって、モデルビルディング (もちろん実証分析でも) の際に、地道にファクトを追い求めそれに基づいた定式化を行うことは重要である。

付 42

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峰滝和典・熊坂有三 (2000) 「情報技術革新とアメリカ経済 6-内生的成長モデルを用いた分析」 経済セミナー4月号)(日本評論社「ITエコノミー」(2001)所収)

(1)概要 本論文ではまず、Romer (1990) および Jones (1995) をベースとした内生的技術進歩モデルが構築される。次にそれを用いて情報通信分野における技術革新が生産性の向上に及

ぼす影響を実証的に分析している。その結果、生産性の上昇率に対する乗数が 1を上回るという興味深い事実を得た。このことから、生産性パラドックスに代表されるような ITの効果に対する否定的見方は一面的なものであり、一般に考えられている以上に、情報通

信分野の技術革新が生産性の上昇に結実しているということが明らかにされた。 (2)モデル 家計は通常の CRRA タイプの効用関数をもつと仮定されるので、最適化行動の結果 1人あたり消費の成長率はお馴染みの形式で与えられる。すなわち ( ) θρ−= rc&c である。

次に財の生産関数は、次のように与えられる。 αασ −= 1LKAY .

ただし、Aは知識ストックであり、このモデルでは内生変数となる。またこれを 1人あたり表記にすると となる。次に知識の創出関数について考えよう。これは以下の

ように与えられる。

ασ kAy =

φλγ AHA =& .

ここで は人的資本であり、それは新しい知識を生み出す研究者やエンジニアの数になる。

これより、知識ストックの成長率はG で与えられる。いま、仮定として人的

資本が

H1−= φλγ AHA

µという率で成長していくと考えると、Aは のみの関数となる。すなわち、 H

( ) ( )( )φ

φ

λµφγ −

−= 11

111 HA .

企業の利潤関数は rkwy −−=π で与えられるので、利潤最大化行動の結果、市場利子

率は となる。以上より、1人あたり消費の成長率は次のように与えられる。 1−= ασα kAr( ) ( ) ( )( ) ( )[ ] ( )θρλµφγθα

φσαφσλ −−=−−− 1

111 kHGc .

最後に 1 人あたり所得の成長率は、 µ=HG という関係を使用して、以下のように求めら

れる。

( )[ ] ( )[ ]µαφσλ −−= 111yG .

すなわち、 yG は研究者およびエンジニアの成長率µという観察可能な変数で決定される。ここで右辺のµの係数は、いわば乗数に相当するものである。以上でひととおりのモデルワーキングが終了した。

付43

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(3)実証分析 具体的な推計は 1人あたり消費の成長率決定式から導出される誘導形を用いて行われる。推計式は以下のようなものである。

( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )( ) ( )[ ]φσ

λµφγθααφσλθρ−

−+−−−=+1

1loglog1log1log kHGy .

ただし、 θρ =0.1と仮定した。

に関するデータは、推計の中でも中心的な説明変数となる。ここではアメリカの情報

通信分野における小規模事業所数を使用する。つまり、小規模な事業所が IT の担い手となって、生産性の向上に貢献するという仮説を考えている。また州ごとの資本ストックデ

ータに関しては、既存のものがないのでフローデータから実際に推計を行って作成した。

H

推計方法は、パネルの fixed effectsモデルである。サンプル期間は 1989-96年で、サンプル数は 389 である。推計の結果、全ての変数が有意となった。ここで注目されるのは、µ の yG に対する乗数である。推計されたパラメーターに基づいて計算された乗数の値は

1.047 であった。この結果より、情報通信分野の技術革新が生産性の向上に及ぼす影響は相当程度大きいということが明らかになった。 <<<調査担当者コメント>>> 内生的成長モデルを構築した上で、それを IT に応用して実証的なテストを行うという試みは貴重であり評価されて良い。ただし、要検討事項として、0.764 という非常に高い資本分配率や、ITの効果をその事業所数のみで捉えるという点が指摘できる。モデルが想定している知識ストックは、IT以外のものも含むようなより広義の概念であるものの、本論文では労働インプット (人的資本) として IT関係事業所数のみをカウントしている。最後に、これは筆者も言明していることだが、固定パラメーターの設定がやや人為的なこと

がある。これらの問題点に鑑みると、内生的成長モデルを用いての実証はやはり多くの困

難がつきまとうということである。したがって、対象国の経済環境が内生的成長モデルの

前提条件を満たし、また推計にあたって十分なデータが利用可能ならば、本調査の様な問

題意識で分析を行う場合に、このラインの方法論は現実的な選択肢となるだろうが、もし

これらの条件が満たされない場合には他のフレームワークの適用が推奨される。

付44

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1.1.3 ミクロ的分析

Brynjolfsson, E. and L. Hitt. (1996) “Information Technology and Organizational Design: Evidence from Micro Data,”

MIT Sloan School of Management, Working Paper, January, 1998.

(1)概要 IT技術と組織構成の関連性についての理論は数多く存在するものの、実証的分析は乏し

い。本論文においては、組織構造が ITの需要や IT投資の生産性に及ぼす影響を、380企業のデータから分析している。その結果、ITの需要度は、分権的管理組織(特に自己管理型チームによる)が進んでおり、人的資本に対する投資が盛んな企業において高いものと

なっていることを示した。さらに IT の生産弾力性は、分権的管理組織を採用し、人的資本特化型の環境において、より高いものとなっていることが判明した。本調査結果は、組

織構造が ITへの需要と、生産性の重要な決定要因となることを示している。 (2)手法

手法については、アンケート結果の個票を用いたスピアマンの順位相関分析が中心で

ある。具体的には、スピアマンの順位相関係数は以下のように表わすことができる。なお、

ここで、Xi, Yiの順位をそれぞれ Ri, Siとし、それらの平均が R bar, Sbarである。

( )( )( ) ( )

ρXYi i

i i

R R S S

R R S S=

− −

− −

∑∑2 2

なお、同順位の取扱いについては、平均順位を付けて計測する。 (3)結論 本論文の主たる結論は以下のようにまとめることができる。 ① 構造的な分権化に関しては、自己管理型チームの活用と IT利用の強い相関、IT活用

企業の幅広い仕事の細分化と従業員参加型グループ活用の強い相関という結果が得ら

れている。いずれにしても、チームを基盤とした組織を活用する誘因がある。そして

IT特化型企業は人的投資にも積極的である。 ② ITの活用度の高い企業は従業員の業務決定権限が強い。管理者よりも労働者が業務遂

行方法を決定する責任がある企業が特に IT化に対する需要が強い。このことからは、ITは管理職によるモニタリングに使われるというよりむしろ、労働者の的確な判断を可能とする道具である。

③ IT化は、チーム基盤型組織、決定権の分権化、人的資本の獲得と相関している。これらの要素が補完的に(全て)採用されるのである。

④ 分権的な企業ほど IT資本を用い、IT投資を増加させている。企業はコンピュータ化と分権化に向かっている。

⑤ この結果からは、ITはチーム主導型組織、意思決定の分権化、人的資本の獲得等の相互補完的な要素と関わりが強いことが分かる。

付45

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⑥ 時系列データと単年度の組織データをマッチングさせた結果からは、分権的な企業ほど IT 資本を活用し、その度合いも高めつつある。ここからは、企業はコンピュータ化と分権化の方向に向かっているとみる解釈が可能である。

―今まで記述してきた関係を構造的に分析するために ITの需要関数を推定した。ITの需要パターンに対する解釈は以下のとおりである。 ① IT投資は、企業の中でも利潤率の最も高い部署から起こる。ゆえに分権化システムを

採用している部署においては、ITを採用することにより利潤を最も享受している部分である。

② その一方、分権的組織においては IT 投資の重複も多いとの解釈もできる。中央集権型組織の方が IT 投資額が少ないからといって、必ずしもそこから得ている利益が少ないわけではない。

③ 分権型組織を採用している企業の方が学歴が高く、IT投資に伴う各種調整費用も少なくてすむと見ることができる。

付46

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Bresnahan, T. F., E. Brynjolfsson. and L. M. Hitt. (1999) “Information Technology, Workplace Organization, and the Demand for Skilled Labor:

Firm-Level Evidence,” NBER W rking Pape , 7136. o r

(1)概要 この論文においては、熟練を要する労働の技術の変化について研究している。IT化を推

進する企業が、企業における組織や提供するサービスにおいて、IT化と補完的になるように革新を図る例も多い。この論文における仮説は、IT、企業組織、提供するサービスにおける補完的な変化が、熟練を要する技術進歩の要素となっているのではないかということ

である。 この論文においては、ITの利用、企業組織、熟練労働需要の企業データを組合わせ分析を行ない、短期の需要的側面と、(より長期の)生産関数的側面から、各要素の相互補完性

の存在を確認することができた。IT の利用はラインの労働者により広範な責任を持たせ、分権的な意思決定を行ない、自己管理型のチームで管理するという方向と相互補完的であ

る。さらに、IT化の進展は企業内における熟練度と自律性の要求を高める。ITと IT化の進展を可能とする組織の双方が、熟練を要する技術が進歩する重要な構成要素なっている。 (2)手法 本研究における主たる分析手法はスピアマンの順位相関係数によっている。 今回の推計においては、偏りを排除し、見かけ上の相関を取り除くため、特定の変数で制

御し、偏相関計数を計測している。具体的には、産業分類、従業員数、 従業員に占める生産工の割合、熟練工に占める事務職の割合等により制御を行なっている。 基本的な変数の作成方法としては、米国の約 400の大企業を対象として組織構造、労働特性、等の項目につき順位付けを行なう形の設問項目を設けたアンケート調査により、組

織構造、労働特性等のデータ収集を行なうと同時に、対象企業の財務データを組み合わせ

ることによりデータセットを作成している。 (3)主たる結論 結論としては、以下の点を指摘することができる。 ・ 熟練労働に対する需要は、IT利用の増加のみならず組織や提供する財サービスの質の向上という技術変化の群と強く関わっている。ITの利用は人的資本と熟練とに強く関連している。また IT の利用は、分権的な意思決定とチームの活用とも強く関わっている。しかし、これら補完的要素のどれかが欠けている場合は、その生産性は大きく

落ちる。 ・ コンピュータ化の進展、組織と熟練労働に対する需要は昨今の企業における変化の群

として認識される。これは、各要素が補完的であるからである。熟練を要する技術変

化のメカニズムは、IT化を可能とする組織変化を研究することにより、より深く理解することができる。

・ 全面的に、IT導入による「高い生産性、効率性、収益拡大」効果は ITだけでは創り

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出すことができない。人材とコンピューター、組織構造は相互補完的である。よって、

ホワイトカラーに求められるのは、情報分析能力(認識能力)とモニタリング能力で

ある。前者はコンピューターが蓄積した情報の取捨選択と分析、後者はコンピュータ

ーがプロセスをやりこなしているかの管理である。 ・ 生産性の度合いをかなり高めた企業は、生産やプロセスイノベーションの調整コストを、IT化と企業組織、人的資本の相互作用により克服した企業である。

・ IT化は熟練労働需要の源泉である一方で、賃金格差の原因でもある。 ・ 技術変化に伴う組織構造の変化は、熟練度に大きな影響を与える。 ・ IT化が安価で強力になるに伴い、より多くの補完的投資がもたらされ、それにより変

化が起こる。中でも熟練労働力の変化は最も重要なものの一つである。 米国におけるミクロ関連の先行研究の要点をまとめると以下のような点を指摘すること

ができる。基本的には IT 化の進展単独ではなく、それと補完的な種々の要因を充実させることにより、IT化の効果は大きなものとなるという点を指摘することができる。

・ IT化が活かされるためには、適した組織構造が採用される必要がある。分権型の管理

組織(自己管理チーム)、人的資本の充実が伴った時、IT 化の効果は最大限に発揮される。

・ 上記要素が有機的に結びついた時、IT 化の効果が高い。IT 導入による高い生産性、効率性、収益拡大効果は IT 化だけでは創り出すことができない。逆に言うと、これら補完的要素のどれかがかけた場合、企業の生産性は大きく鈍化する。

・ IT化の進展を、組織構造の変化とともに行なうには多大な費用がかかる。しかし、それらのコストを、IT化と企業組織、人的資本の相互作用により克服した企業が成功している。

・ IT化が生産性に与える影響は、短期的には非常に小さい(もしくは認められない)ものの、中長期を見ると生産性に大きく寄与している。この解釈としては、IT化を補完する要素(各種無形資産)が中長期において整うからと言う点を指摘することができ

る。 ・ コンピュータ等の IT 資産への投資は、その他の通常の投資をかなり上回る市場価値を生み出す。それは、コンピュータに関わる種々の無形資産(ソフトウェアのみなら

ず、新たなビジネスプロセス、新たな組織構造、新たな市場戦略等)との相互補完作

用が働くゆえである。

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1.1.4 その他

Levine, R. and D. Renelt. (1992) “A Sensitivity Analysis of Cross-Country Growth Regressions,”

American E onomic Review, 82 (4), 942-963. c

(1)概要 1990年代に入って、長期での経済成長と、経済政策、政治的安定性、そして制度的諸機構の整備、といった諸変数との間の関係性を実証的に捉えるために、クロスカントリーデ

ータを用いた数多くの実証分析がなされるようになってきた。本論文では、それらの分析

で採用されてきた種々の説明変数が、推計の際同時に考慮される他の説明変数セットの変

更に対してロバストか (頑健) どうかが検討される。すなわち、推計式のロバストネスの問題が厳密に議論される。そうしたテストによって、ほとんど全ての変数が「ロバストで

ない」という結果を得るに至った。しかし、数少ないながらも、成長率と GDP に占める投資シェア、投資シェアと GDP に対する国際貿易比率との間には正でロバストな関係がみられた。 (2)ロバストネスの検定 いま、ある Xという変数の経済成長に対する影響を分析することにしたとしよう。このとき通常は、Xに加えて一部の典型的な説明変数のセットが推計式の右辺に投入されるであろう。したがって「ある」追加的説明変数のセットを用いたときに Xの係数が有意だったとしても、その結果が「他の」追加的説明変数のセットを用いたときにも保持されるか

どうかは一般に明らかではない。時に有意性等の点で推計結果ががらっと変わる場合もあ

る。このようなとき、当初の Xに関する推計結果は「ロバストではない」ことになる。 推計上極めて重要なロバストネス問題を、成長の実証分析の中ではじめて厳密に取り扱ったのがこの論文である。Levine らは、Leamer (1983) によって試みられたExtreme-Bounds Analysis (EBA) と呼ばれる検定法を用いて、各説明変数のロバストネスを検証した。簡単にこの検定のアイディアを説明しよう。いま、Xの係数のロバストネスをみるのに、追加的説明変数のセットを色々と変化させて推計を行ってみて、係数の有

意性が常に保たれるかをチェックするのである。Levineらの用いた判定基準は、試行された「全ての」追加的説明変数セットの下で、係数が「同一符号で有意のとき」のみ、その

結果をロバストと呼ぼうというものである。 以上のような極めて厳密な基準の下でのロバストネスチェックより、ほとんど全ての変数は「ロバストではない」という結果がもたらされた。この衝撃的な帰結は、成長のクロ

スカントリー分析自体の意味を問い直すものであるが、後に Sala-i-Martin は、より緩やかな基準に基づくテストを行った結果、かなり多くの変数がロバスト変数として復活する

ことになった。 (3)推計結果の例 推計は 1960-89年の期間で、101ヶ国を対象として行われた。結果として、例えば 1人

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あたり実質 GDPの成長率を被説明変数とした場合、1960年における中等教育の就学率はプラスでロバストな変数と判定された (Coefficient=3.17; Standard error=1.29)。しかしながら、1960-89 年における投資シェアを被説明変数としたケースでは、ロバストネスは保証されなかった。また、同じく 1 人あたり GDP 成長率を被説明変数として、人口成長率は各推計で共通してマイナスのスロープをもつものの、EBAによってそのロバストネスは否定される結果となった (Coefficient=-0.38; Standard error=0.22)。投資シェアを被説明変数としたケースでも、人口成長率のロバストネスは否定された。 <<<調査担当者コメント>>> 本論文は、EBAという厳密な検定法を利用して説明変数のロバストネスチェックを行っている。もし IT の実証をする際に、成長会計や理論モデルのある実証ではなく、モデルなしの実証を行わざるを得ない場合には、この論文の観点は重要である。ITの効果を紡ぎ出すという方向性からすれば、やや本筋からそれる話題であるが、「このようなやり方も

ある」ということを知るだけでも大いに価値がある。

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Bartelsman, E. J., R. J. Caballero. and R. K. Lyons. (1994) “Customer- and Supplier-Driven Externalities,”

American E onomic R view, 84 (4), 1075-1084. c e

(1)概要 本論文では、異なったタイプの外部性を識別するのに有用な実証的方法論の提示がなさ

れており、ITのもたらす外部効果を考えていく際にも有益なものであると考えられる。なお、具体的にはパネル分析の手法が利用され、「withinモデル」、「betweenモデル」、そしてそれらの「mixedモデル」という 3つのモデルの推計が行われている。推計方法は、OLSと操作変数法である。 (2)ベースとなる推計モデルおよびデータ 生産関数は、一般的な外部効果を含むかたちで、以下のように定式化されている。なお、

すべての変数は log differenceのかたちで定義されるので、以下の各々の変数は成長率を表すことになる。

itaititit vxxy ++= βγ .

ただし、 ity は産業 における生産の成長をあらわしている。 は産業 における投入の成

長を、そして は他の産業における投入の成長をそれぞれ表している。また、 は産業

の技術進歩率に対応する。上記の設定の下で、係数

i itx iaitx itv i

γ は通常の内部的リターンの程度を意味することになる。一方で β (複数産業を考慮した場合には、ベクトルになる) は経済全体からの影響を表すさまざまな外部効果を捉えることになる。 推計の基本となるのは、「within」と「between」の 2つのモデルである。前者のモデル

は、通常言われる「固定効果」モデルであり、各産業で共通のスロープをもつが、それぞ

れの産業には固有の定数項がある場合を考えることになる。後者の「betweenモデル」は、個々の産業の平均間では同じ安定的な関係があるということが背後に仮定されている。そ

のため、より長期の関係をみるモデルとなっている。結局、推計モデルは以下のように定

式化されることになる。

( ) ( ) itiaii

ai

aitiitit vxxxxxxy θβγβγθ ++++−+−+= 0 .

ただし、バー付き変数は、期間平均値を表している。この定式化との対応では、「withinモデル」は β と γ のみを、「between モデル」は β と γ のみを推計することになる。「mixedモデル」は基本的に両者を統合した推計モデルである。 このベースラインとなる推計の後で、外部効果チャネルの時間的変遷を捉えるために、

短期と長期の間での影響の動学的なプロファイルが議論される。 使用するデータは、①NBER productivity data base、②The input-output accounts for the U.S. economy、③ロバート・ホールのデータセットの一部 (Hall (1988, 1990)) である。

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(3)推計結果の簡単なまとめ 外部効果の識別に関する、パネルデータによる実証分析から、3 つの主要な結果が得られた。それを以下に簡単にまとめる。まず第 1点目は、時系列方向を考慮する「withinモデル」の推計から得られたことであり、インダストリーレベルでの生産性とカスタマーレ

ベルでの活動水準 (input growth) には有意に強い相関関係があることが確認された。それとは逆に、サプライヤーの活動水準との関係では有意な結果は得られなかった。第 2点目として、産業間での長期的関係を考慮する「betweenモデル」では、前の結果 (第 1点目) とは全く逆の結果がもたらされた。すなわち、産業レベルでの生産性は、サプライヤーの活動水準と密接な関わりをもつ一方で、カスタマーの活動水準とはほとんど関係がな

いということである。この第 1、第 2の帰結を解釈すると次のようになるであろう。つまり、短期では、産業とカスタマーの間での結びつきは、外部効果の伝達という意味におい

て中心的かつ重要な役割を果たすが、長期では、上の短期的関係に加えて中間財を介した

外部効果というものがその重要性を増すと考えられる (産業の生産性とサプライヤーの活動水準とが有意な関係にあるという点で)。最後は、短期から長期への移行過程に関するものである。「within モデル」と「between モデル」の推計結果から類推すると、短期から長期への移行過程では、外部効果のチャネル (カスタマーからサプライヤーへ) にスムースな変化が生じていることが予想される。このような、カスタマーとサプライヤーとの間

での相対的な重要性の変化 (外部効果のチャネルとしての) は、本論文の分析によって具体的に確認された。

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“Productivity Growth and Information Technology.”(2000) Mckinsey Global Institute

(1)概要

1995年から 2000年の米国において同時に 2つの大きな変化が起こった。1つは、生産性の急上昇であり、1972年から 95年まで平均年 1.4パーセントであったものが 2.5パーセントに急上昇した。2 つ目は、IT への企業の名目的な投資率が 87 年から 95 年の年 9パーセントから年年 17 パーセントに上昇した。そこで、何が生産性の急上昇をもたらしたのか、生産性急上昇における IT投資の役割は何であったのか、の 2つの問題を考える。ここで、このケーススタディーでは、生産性の計測において物理的な産出量を基準に用い

ることとする。まず、いくつかの研究結果をみてみる。 ・ 1995年以後の生産性急上昇のほとんど全てはたった 6産業(通信、産業機械、電機、証券、小売、卸売)のパフォーマンスによって説明可能であり、経済の残りの 70パーセントは小さな生産性成長や低下によって互いに相殺されてしまっている。

・ IT支出が増加した期間にこの 6産業は IT増加全体の 38パーセントしか占めていなかった。また、生産性急上昇と IT増加の間の直接的な単純相関関係はラグをとっても統計的に有意な結果が得られなかった。以上の結果は、IT の利用と生産性の間の関係は明らかに直接的でも単純なものでもないことを示している。

・ ITに大きく投資したにもかかわらず生産性が上昇しなかった「パラドックス」産業が 3つあり、このことは ITだけが生産性成長をもたらし得るのではないことを示している。

(2)IT生産・供給産業 経済の 5パーセントしか占めない半導体産業、コンピューター製造業、電気通信業の 3産業が生産性急上昇全体の 29 パーセントに寄与しており、これは単に製品やサービスの生産や供給をとおして寄与している。 半導体産業の生産性上昇は主に競争圧力に対応してなされたものである。コンピュータ

ー製造業においては生産性急上昇のほとんど全てはその産業自体ではなく外部の技術革新

によってなされた。電気通信産業においては規制の変化や専門技術的な革新が生産性急上

昇をもたらした。 (3)ITの利用と生産性

1995年の生産性急上昇は IT以外のはるかに多くの要因によるものであり、ITの適用はそれほど寄与していなかった。例えば、コンピューター組み立ての生産性上昇の 90 パーセントはコンピュータの性能の急上昇によって説明される。

6産業を除いた経済の 95から 99年の間の全要素生産性(TFP)の成長はマイナスであり、IT資本は他の資本ストックの形態とせいぜい同様の生産性の利益しかもたらしていない。 (4)IT投資急増

Y2Kやインターネットの出現など通常外の要因が重なった結果として、性能の改善を考

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慮に入れた実質的な資本ストックは 95から 99年の間にほぼ 2倍になっている。しかし、2001年代 2四半期までに従業員 1人当たりの IT投資は前年比マイナス 10パーセントに落ち込むなど、最近米国のコンピューター製造業は初めてマイナス成長に直面しており、

IT産業は未知の領域に入りつつある。 (5)IT産業の将来に対する implication 将来の IT 投資の行方は非常に不確実であり多くの要因に依存している。政治的な要因やマクロ経済的な要因がより大きな役割を果たすであろうが、IT生産者や利用者の技術革新能力に多くを依存している。 (6)まとめ 米国の生産性成長の上昇は事実であったし、その大半は持続可能であるが、その多くは

IT 以外に基づくものであった。IT は競争的な産業における起業家が製品や生産過程、サービスの技術革新を助ける場合に最も効率的である。他方で、IT投資の増加は通常外の要因が重なって生じたものであり、それが再び繰り返されることはなさそうである。ITの生産者利用者の間での競争によってもたらされる技術革新はその産業がより高い成長を取り

戻すのに重要である。

図表 1-6 IT増資と生産性のパラドックス

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OECD (2001) “The New Economy: Beyond the Hype,”

Paris: OECD Publications Service.

(1)概要 「hype」とは「誇大広告」といった意味であり、主題の意味を汲み取ると、大げさな言明やごまかしを避けて、OECD諸国におけるニューエコノミーの実像に接近しようという意図で書かれたものである。この報告書は数多くのトピックスを含んでおり、部分的に密

接な関連性を有する部分も存在するが、ここでは情報通信技術 (information and communications technology; ICT) 関連のトピックスに焦点をあてて議論していく。 情報通信技術は、OECD諸国の発展の背後で重要な役割を果たしている。日本のように

大規模なハードウェア産業を有している国の成長が緩慢なケースもあれば、一方でそうし

た産業をもたなくともオーストラリアのように成長を謳歌する国も存在する。ITの導入に最も成功していると思われるアメリカ経済の近年の停滞という事実もあるが、アメリカの

経験や優れた成長パフォーマンスを呈した国々の経験が、極めて例外的なものであると結

論付けるのは誤りであるように思われる。事実として、OECD諸国の経済には「何か」新しい構造変化が生じていると考えられる。ITへの投資は 1990年代において最もダイナミックな変化を起こしており、情報通信技術関連製品の価格を急激に低下させ、これらの技

術の利用可能性および利用機会を飛躍的に増大させた。 (2)ITがもたらす便益 (政府の政策を基軸において) IT はすでに国の成長に大きく貢献してきたが、IT 産業を有していなければ成長しないというわけではない。OECD の一部の国は、その成長が IT ハードウェアの生産によってもたらされているが、強い IT 産業をもっていても緩慢な成長に甘んじている国もある。また高い生産性の成長を遂げている国の中には、大規模な IT 産業をもたない国もある。すなわち、ITから 1国が便益を得る鍵は、その生産よりもむしろ ITの利用を育む政策にあると考えられる。 例えば、ITに関して競争的な市場環境を形成していくことは極めて重要である。アメリカが IT から多くの便益を得てきた背景には、1980 年代の激しい競争があったのである。また、ITを取り巻く規制の緩和や、貿易および投資の障壁をより一層低くしていくことは、ITのコストを軽減する上で重要であり、産業自体の活力を引き出すことに貢献するであろう。 通信産業を考えると、その自由化は通信費用を軽減させ IT のより一層の拡大をもたらすことになる。現在 OECDの国々では、通信に関して独占状態が保持されている国は数少ないが、未だ多くの国々で既存の企業が支配力をもっており、そのことが通信費用の高さ

に影響していると考えられる。よって効率的な市場を形成する上で、政府のさらなる行動

が求められる。 インターネットのケースでは、企業間競争によって、一定の費用を払えば無制限にアク

セスが可能になるようなシステムの導入が望まれる。こうすることでユーザーはインター

ネットに慣れ親しみ、ひいてはそのことが電子商取引 (electronic commerce) の発達を促

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すことになろう。事実として、インターネットへの無制限アクセスが行われている国々で

は、取引に適した安全なサーバー (secure server) の数がより多くなっており、このことは、それらの国々において電子商取引が十分に浸透していることの証左となる。 「e-commerce」がビジネスの方法として収益的であって、それが浸透していくならば、適切な規制および法体系の整備が必要であり、特にプライバシー、セキュリティ、そして

消費者保護といった場面でそれらが必要とされると考えられる。政府はこうした問題に対

して機動的に対応すべきであろう。 最後に、徴税システムなどに関して、政府自身も IT の利用を推進すべきであり、そのことが公共部門の効率性を高めることにつながる。こうした政府自身の積極的な行動によ

って、IT利用によるさらなる追加的便益が期待される。 (3)IT利用によるその他の便益 <雇用>

ITを効率的に利用することによって新技術が具現化される場合、それを遂行するのに見合ったスキルと能力をもった人材が必要になる。すなわち、知識集約的な労働が行える人

材への需要が相当程度増大すると考えられる。この意味で ITは、IT産業以外でも雇用創出に一役買うことになる。 <ネットワーク性>

ITを利用することの有利性の 1つは、それ自身が創り出すネットワークからの潜在的な便益にある (ネットワーク外部性)。そのような技術を利用する人が増えるほど、その技術の価値は高められる (4)まとめに代えて IT関連企業は極めてイノベーティブであり、ここ最近、生産性の成長に貢献してきたと考えられる。しかしながら、スタートアップコストの問題に象徴されるように、そうした

企業の経営が軌道に乗るためにはいくつもの困難な課題をクリアしなければならない。し

たがって、IT関連企業のようないわゆるベンチャー企業をより多く生み育むには、政府などの手によって望ましい競争環境の整備が極めて重要になってくると考えられる。

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Quibria, M. G. and T. Tschang. (2001) “Information and Communication Technology and Poverty: An Asian Perspective,”

ADB Institute Working Paper, 12. (1)概要 新しい情報通信技術 (ICTs) は貧困を緩和させ、生活水準を向上させるものとして、数多くの論者がそれを賞賛してきた。本論文では、情報通信技術と貧困緩和の間の関係につ

いてよりバランスのとれた分析が展開される。分析の基軸には 2つのアプローチを採用している。1つは ICTsが貧困や経済発展に及ぼす「直接的」影響を考えることであり、もう1つは経済成長や輸出といった多くのマクロ変数に対する ICTsの「間接的」影響を考えることにある。また、ICTsが雇用、教育、医療といったものに対して及ぼす影響に関しても、ケーススタディを通じて議論していく。 本論文ではまた、社会経済的要因が ICTs の吸収や利用に対して及ぼす影響について、クロスカントリーでの実証分析が行われる。この分析によって、所得水準と人的資源への

投資が重要なファクターになることが明らかになり、特に中等・高等教育への投資と物的

インフラストラクチャーの重要性が確認される。経済成長および経済発展についての伝統

的な見方に従えば、そこでは初等教育の重要性が強調されるわけであるが、新しい情報通

信技術産業は初等教育の領域を越えるような知識を必要とするため、中等・高等教育の有

用性が浮き彫りになったと考えられる。これ以外にも、ICTsの利用・吸収にとっては、整備された教育システムの存在や政府の産業規制の少なさといった要素も重要であることが

明らかにされる。以下では、具体的な実証分析の結果について取り上げ議論する。 (2)新しい情報通信技術の利用についての決定要因 本論文では、数多くのトピックスが扱われているが、その中心的内容は ICTs の利用にどのような要因が深く関わっているのかを探ることにある。この分析では、アジア諸国に

注目する。アジア諸国に注目する理由としては、これらの国々では貧困の問題が重要であ

り、一方でデータの入手が比較的容易であることによる。このようにアジア地域に注目し

た分析ではあるが、ここで得られる洞察は多くの開発途上国にも応用可能であると考えら

れる。 はじめに、所得水準と人口サイズが ICTs の利用に及ぼす影響を考える。パーソナル・コンピューター、インターネット、ファックス機といった、分析に含まれる全ての被説明

変数について、1 人あたり GDP は極めて強い正の有意性をもっており、その弾性値もほとんどが 1.5以上であり、テレビに関しては 2.5を上回っている。人口サイズについては、パーソナル・コンピューターに関して負で有意である。しかしながら、所得をコントロー

ルした場合には、携帯電話とテレビは人口と有意に正の関係にあることがわかる。このこ

とはそれらの操作が比較的容易であり、また多くの国で入手可能であることを反映してい

ると思われる。すなわちこれらは、開発途上国でもある程度大衆化した製品であると考え

られる。なお、アジアダミーはどのケースでも有意ではなかった。 次に ICTs 利用への教育の及ぼす影響をみてみよう。初等教育はどのケースでも有意性をもたなかった。この意味で初等教育を受けることと、ICTsの利用の間には明瞭な関係が

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ないことが明らかになった。中等教育は、電話のみと有意な関係にあった。注目は高等教

育であり、これはパーソナル・コンピューターとインターネットで高い有意性をもつこと

が明らかになった。このことは、それらを使いこなすにはある程度の教育水準が必要とな

ることを物語っており、事実、アメリカと日本における企業レベルでの分析では、大学レ

ベルの教育段階と ICTs の利用との間には補完的な関係があることが報告されている (Bresnahan, Brynjolfsson, and Hitt (1999); 経済企画庁 (2000))。 異なったタイプの ICTs との間の補完関係についてはどうであろうか。電話の利用は、パーソナル・コンピューターおよびインターネットの利用と強く関係していることが明ら

かになった。特にインターネットとの関係性は強く、これはそもそもの補完性を強く反映

した結果であると考えられる。また、電話利用をコントロールした場合に、インターネッ

ト利用と所得水準の間には正で有意な関係のあることが明らかになった。このことは、電

話インフラの存在を所与として、インターネット利用を行うかどうかについて、所得水準

がその基本的な決定要因になっていることの証左であると考えられる。 以上いくつかの実証結果を概観してきたが、要約するならば、開発途上国における ICTs普及の基本的な決定要因は、「所得水準」、「人的資源への投資」、そして「インフラの発達」

にあると考えられる。しかしながら、それら key variablesの影響の程度は ICTsのタイプによって異なることが明らかになった。 <<<調査担当者コメント>>> トピックス豊富であるが、その中心はケーススタディと本サマリーで紹介した primitiveな実証分析である。しかし一応説得的な議論は行われている。なお筆者はアジアの国々で

はデータが入手しやすいとしているが、ICTs関連ではおそらく以下の 2つから引用していると考えられる。 International Telecommunication Union (2000). ITU Telecommunication Indicators. http://www.itu.int/ti/industryoverview/index.htm Nua Internet Surveys (2000). http://www.nua.ie

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峰滝和典 (2001) 『日本の IT革新と労働市場』

E onomic Review, Vol. 5, No. 3, July, pp.39-60. c (1)概要 現在、世界の幾つかの国や地域で産業革命の新しい潮流、すなわち IT(情報通信技術:

Information Technology)による変革の波が起きている。1990年代後半日本経済においては、投資や消費といった需要面における IT 革新の効果はある程度確認できている。しかし、ITが技術進歩を促し経済の長期トレンドを上向かせるためには需要効果だけでは不十分である。また、日本経済が抱える重要なテーマの 1つである少子化と高齢化による労働力人口の減少はサプライ・サイドから見た日本の長期的経済成長率を押し下げる方向に働

くことは間違いなく、労働投入要因のマイナスの影響を相殺する要因として、技術進歩率

の上昇が望まれる。したがって、長期的な潜在成長率を上昇させるために IT 革新による技術進歩率の向上が期待されている。IT革新が労働生産性を上昇させるには、短期的には資本装備率の上昇、長期的には全要素生産性の上昇と 2つのルートがある。短期的には IT革新によって労働市場も大きな影響を受けることになる。そこで、日本において IT 資本が労働と代替的な関係にあるのか補完的な関係にあるのか実証分析を試みている。IT資本が労働に対して代替的に働くのであれば IT は雇用削減効果を持ち、補完的に働くのであれば雇用創出効果を持つと考えられる。そして、それに続いて、IT革新が労働生産性を上昇させるメカニズムについて実証分析を試みている。さらに、日本の IT 革新と労働市場の今後を考えるために IT 先進国である米国とフィンランド、その他北欧諸国、アイルランド、ドイツの事例を紹介し、最後に日本への教訓を提言している。 (2)IT資本と労働の代替・補完関係

IT革新の大きな特徴は、IT財の価格を大幅に低下させたことである。IT資本に対する相対価格の上昇が、ITが労働投入など他の生産要素を代替することを促しており、このメカニズムを理論的かつ実証的に検証する。実証分析においては、生産投入間の代替の弾性

値を計測するために、トランス=ログ型の費用関数に基づいてシェア関数の推計を行う。

生産投入要素は、労働投入として生産労働、非生産労働の 2 つ、資本投入として IT 以外の一般資本(Structure)、IT以外の一般資本(Equipment)、IT資本の 3つの計 5つである。生産関数は、変動要素を含む稼働率関数の部分と短期固定要素を含む生産キャパシテ

ィ関数の部分の積で定義されており、コスト最小化により得られるシェア関数に短期固定

要素は入ってこないという特徴がある。また、短期的には規模に関して必ずしも収穫一定

であるという必要がないということも特徴である。推定期間は 1980年から 1998年まであり、対象産業は主要製造業の 11産業でる。推定式は以下の式である。

IT

iii

j IT

jlij

l IT

iliil

j IT

jiji

llili

V

ii

ppD

pp

DIND

pp

INDpp

DINDC

xp

loglog

loglog

9090,9090,

11

19090,

11

1

⋅⋅+⋅⋅⋅+

⋅⋅+⋅+⋅+⋅+=

∑∑∑==

γγ

γγβββ

     

付59

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ただし、pは生産要素価格、xは生産要素需要量、D90は 1990年から 98年までが 1である期間ダミー変数であり、iは各変動要素、lは各産業をあらわす。19年 11産業(サンプル数 209)のプーリングデータに対して完全情報最尤法を用いて推計している。まず、費用関数の凹性の条件の検定 5つの生産要素から変動要素を決定する。変動要素が 5つとして扱ったケースから費用関数が凹性の条件を満たさない場合にはその変数を 1つずつ変動要素を外していった結果、変動要素が IT資本、一般資本(Equipment)、生産労働の 3つのケースを採用した(実際には IT資本で基準化し 2本のシェア関数を推計している)。そして、この各生産要素間の代替の弾性値を推計した。主要製造業全ての産業において IT資本と生産労働は代替関係にある。その傾向は特に、IT投資が進んでいる化学、電気機械産業、精密機器産業で顕著である。製造業全体では、生産労働は企業の生産活動にとって

変動要素であるが、非生産労働は短期固定要素という傾向があることがわかった。つぎに、

一般資本も生産労働に対して代替的である。さらに、IT投資が進んでいる化学、電気機械産業、精密機器産業では、IT資本の方が一般資本(Equipment)と比べて生産労働に対してより代替的な関係にある一方、その他の主要製造業では一般資本(Equipment)の方がより代替的な関係にあるという対照的な結果となった。 つぎに、IT供給セクターである電気機械産業についてのみコストシェア関数を同様に推計した(推定期間も 1980年から 1998年でサンプル数は 19)。変動要素は生産労働、非生産労働、IT資本の 3つのケースを採用した(実際には生産労働で基準化し 2本のシェア関数を推計している)。この各生産投入要素の間の代替の推計値をみてみると、生産労働と非

生産労働は代替的であり、IT資本は生産労働に対して代替的であり、非生産労働に対しては 80年代前半は補完的であったものの、90年代に入って、代替的な関係に変わってきている。この結果から、電気機械産業において非生産労働のなかでも管理・事務労働の部分

に対する代替関係が高まってきていることが推察される。 これまでの技術革新と比較して IT革新においては IT資本の価格の低下が著しい。理論的には、企業はコスト最小化を行うために相対的に安価となった IT 資本を増加させ、その他の生産投入を減少させるといった行動をとるものと考えられる。IT投資が進んでいる産業で IT資本が生産労働に対して代替的であるという実証結果は、今後日本において IT投資が進むと少なくとも製造業において生産労働に対して雇用削減効果をもたらす可能性

があることを示唆する。 (3)IT並びに年功型スキルと全要素生産性

IT 革新による技術進歩や外部性効果が全要素生産性を上昇させ、IT 革新が長期的には労働生産性を上昇させる。ここでは、特に年功型のスキルと IT 投資のいずれが製造業の全要素生産性の上昇に寄与してきたかという視点をもとに実証分析を行った。実証分析は、

主要製造業 11産業における 1980年から 1998年までのデータを用いてパネルデータを作成し変量効果モデルを用いて推定した。被説明変数は全要素生産性とし、説明変数は生産

労働における熟年比率、非生産労働における熟年比率、総費用に対する純利益の比率、IT投資比率、一般資本(Equipment)比率とし、さらに 80年代から 90年代かけての構造変化の有無をみるために生産労働と非生産労働の熟年比率に対する 90 年代係数ダミーをそれぞれ加えた。推計結果をみてみると、非生産労働における熟年要因は 80 年代には全要

付60

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素生産性にプラスに寄与していたのが、90年代ではほとんど寄与していないという結果になった。IT資本比率は全要素生産性に対して大きなプラスの効果をもたらしている。以上より、日本の IT 革新の効果は長期の効果である全要素生産性においても確認できた。それに対して年功要因は 80年代には一部効果があったものの、90年代には全要素生産性に対して寄与していないということがわかった。これは日本のこれまでの年功序列的な雇用

システムが崩れてきていることを裏付けるとともに、IT革新の進展が日本の中長期の成長率を上昇させる可能性があることを示唆している。 (4)IT先進国の経験と日本への教訓 日本の IT革新と労働市場の今後を考えるために欧米の IT先進国の事例を紹介する。ま

ず、米国では IT 革新が労働市場に大きな影響を及ぼしている。IT 革新の進展に伴い ITを用いたサービス分野(ホーム・ヘルス・ケアや IT サービス等)の雇用が増加した一方で、製造業においては雇用吸収面で対照的な動きがみられる。日本においても IT 革新が進展するにつれて、労働市場が大きく変化することになるであろう。IT主導の経済再生に成功したフィンランドは IT 分野に集中した研究開発を支援した。また、フィンランドを含め北欧諸国ではテレワークと呼ばれる就業形態が特に IT 分野の企業で浸透してきている。IT 先進国の特徴として、IT による雇用削減効果よりも効用創出効果が上回ってきていることと、雇用形態に変化がみられるということが言えるであろう。 日本が IT 革新について欧米から学び政策として行うべきことは、第 1 に今後の戦略分

野における研究開発体制のサポートである。第 2にどのように研究開発費用を提供していくかである。第 3に人材育成および教育投資である。IT革新の進展とともに教育投資の重要性が高まる。特に日本ではこれまで社内教育が充実していたものの、雇用システムの変

貌を受けて、今後国の政策として社会人教育に取り組むことが急務であろう。

付61

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Nishimura, Kiyohiko G., Kazunori Minetaki, Masato Shirai, and Futoshi Kurokawa, (2002)

“Effects of Information Technology and Aging Work Force on Labor Demand and Technological Progress in Japanese Industries: 1980-1998,”

Fourth Revision, University of Tokyo, Discussion Pap r Series 2002-CF-145 e

(1)概要 日本経済は、1990 年の資産市場の暴落以来長い停滞に陥っており、同時に高齢化と情

報通信技術の急速な発展(IT革新)という 2つの経済的な力による大きな変化の只中にある。この 2 つの要因は互いに相互作用し経済に対して複雑な影響をもたらすであろうが、知る限りにおいてこの相互作用と日本経済に与える影響に関する研究はほとんどなされて

いない。本論文においては、経済の供給サイドに焦点を当て、IT革新と労働投入構成の間の相互作用とその経済成長に対する影響を分析する。そこで、まず、IT革新の労働需要への影響を分析するために IT 資本と様々な労働投入要素の間の代替性もしくは補完性とその大きさを計測する。つぎに、1980年代と 90年代の日本経済の付加価値の成長に対するIT資本と様々な労働投入要素の寄与度を推計し、技術革新の決定要因を分析する。 (2)短期固定要素と変動要素の費用関数と技術革新の推計 本論文では、生産要素間の代替性と補完性を分析できるように非常に弾力的なトランス

=ログ型の費用関数を用いるが、その満たすべき条件に対して短期固定要素の存在が問題

となるので、生産キャパシティ・稼動率関数の理論を利用する。そこで、n 個の変動要素とm個の短期固定要素をを持つ一般的な生産関数を考える。生産関数に関して 2つの仮定を置く。仮定 1:生産関数 Fは変動要素の稼動率関数 Gと短期固定要素の生産キャパシティ関数 Sに乗法的に分割可能である((1)式(本文 p.9))。仮定 2:稼動率関数 Gは k次同次、生産キャパシティ関数 Sは 1-k次同次関数である。したがって、生産関数 Fは全ての生産要素に関して 1次同次であり、短期固定要素が最適に調整される「長期」においては規模に関して収穫一定である。また、仮定 3:短期固定要素は生産の 1期前に決定されている、とする。 このような生産関数 F の下で支出制約下での(変動)費用最小化問題を解くと、(変動

要素の費用関数は (3)式(本文 p.11)のようにあらわされ(さらに、その cvは(10)式(本文 p.42)とあらわされ変動要素価格に対して 1 次同次である))変動要素の費用シェアは生産水準 Yと生産キャパシティ Sから独立であることがわかる。 つぎに、産出量は総利潤を最大化させるように決定されるので、利潤最大化問題を解く

と、限界費用を越えるマークアップが 1以上である不完全競争をこのモデルのなかで扱えることがわかる。生産キャパシティ S制約下での短期固定要素の費用関数最小化問題を解くと、短期固定要素を決定する最適な生産キャパシティ関数が得られる。 技術革新の推計を考える。ここで、仮定 1と 2の下で技術進歩率はその産業の完全競争

を仮定することなしに推定できることを示す。通常のように、技術進歩率を生産要素投入

を上回る産出量の成長率と定義する(技術進歩率 RTPは本文 p.14の 2番目の式で定義される(ただし、Aは生産技術の状態を示す))。生産関数から産出量の成長率に近似式を用

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いると、変動要素の費用シェアと短期固定要素のシェアが観察可能なので kさえわかれば技術進歩率が計算可能であることがわかる。ここで、将来に対する不確実性が存在しない

とすれば、所与の Y に対する「定常状態の総費用関数」の最適化問題を解いてみると、kは不確実性が存在しない場合の定常状態における総費用に対する変動要素のシェアに等し

く、実証分析においては対象期間の変動要素の平均費用シェアで kを近似することができる。 (3)データ 資本ストックは、IT 資本と IT 以外の資本に分類し、さらにそれを IT 以外の資本

(Structure)と IT以外の資本(Equipment)に分類した。まず、IT資本には、ITハードウェアと ITソフトウェアが含まれており、『産業連関表』の固定資本形成表の分類された資本ストック形成の産業別 5年ごとのデータから年次の時系列データを作成した。その際には、Schreyer(2000)の ITハードウェア投資と ITソフトウェア投資のデフレーターを用いて恒久棚卸法(PI 法)を適用した。つぎに、IT 以外の資本(Structure)と IT 以外の資本(Equipment)は、Miyagawa et al(2001)の産業別の資本ストックデータを用いた。以上の結果、資本ストックとして IT資本と IT以外の 4つの資本の計 5つの時系列データを構築した。また、各資本ストックのレンタル価格の推計には、Jorgensonian user-cost formulaを用いた。 労働投入要素は、高教育水準労働者と低教育水準労働者に分類し、さらにそれぞれ若年

労働者と熟年労働者に分類し、4 つの時系列データを構築した。また、製造業においては生産労働者と非生産労働者にも分類した。分類された労働投入要素のデータは『賃金構造

基本統計調査』のデータを一部未公表のデータセットを含めて利用して構築した。 産業分類は SNA分類を利用し、製造業は 13産業のうち 11産業を、非製造業は 7産業

のうち 5産業を対象産業とした(Table1)。対象期間は 1980年から 98年とした(ただし、金融保険業は 1992年まで)。 (4)IT資本と労働投入の代替性

IT 革新の労働投入需要への影響を分析する。特に、IT 資本が様々な労働投入要素に対して代替的か補完的かを調べ、1980年代から 90年代の間にその大きさが変化しているかどうかを分析する。 生産要素間の代替性と補完性双方を考慮するために費用関数として弾力的な関数形で

ある以下のようなトランス=ログ型の費用関数を用いる。変動要素の費用関数 CV が費用

関数であるためには、cvは非減少関数でかつ変動要素価格に対して 1次同次でなければならないが、cvの係数に対する(本文 p.22の中央の 3つの式の)条件はこの条件の十分条件である。この制約の下で変動費用のシェア関数は本文 p.22の最も下の式になり、変動要素の費用シェアと変動要素価格の情報を用いてこの式を推計することができる。費用関数 CV

は変動要素価格に対して凹性を満たしていなければならないが、この費用関数の凹性は生

産要素が変動要素であるための必要条件であり、この性質を利用してある生産要素が短期

固定要素かどうかを調べる。さらに、Aの変化によって表される生産技術の変化の影響を考える。生産技術におけるヒックス中立的でない技術進歩を考慮するために期間ダミーを

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加えて、以下の(8)式のような変動要素のシェア関数を推計する。

( )12

,,,, loglog ppDDC

xpj

n

l k

Ssi

Ssijij

k

Isi

Isii

V

iikkkk

−⋅

⋅++

⋅+= ∑ ∑∑

=

γγββ (8)

ただし、Di,skIは定数項期間ダミー、Di,skSはヒックス中立的でない技術進歩の影響をあら

わす係数期間ダミーであり、期間 skにおけるヒックス中立的でない技術進歩の影響をあら

わす。 以下のような手続きで推定を行った。(step1)どの生産要素が変動要素であるかを決定するために生産要素が含まれている推定された費用関数が単調性と凹性の条件を満たして

いるかどうかを検定する。IT資本を第 1変動要素として基準化に用いる。そして、その他の変動要素として 4 つを変動要素として期間ダミーなしの(8)式を推定し、推定値γiiの中

に正で統計的に有意なものがあれば変動要素を減らしていくことを繰り返す。ここでは技

術進歩は無視している。各産業ごとに仮定している変動要素の費用シェア関数を推計し、

推計期間は 1980年から 98年までであり、推計方法は完全情報最尤法を用いている。その結果、8産業は IT資本と低教育水準若年労働者、高教育水準若年労働者もしくは高教育水準熟年労働者の 3 つが、9 産業は IT 資本と低教育水準若年労働者の 2 つが、一般機械は80年代と 90年代で短期固定要素の数に変化があり 80年代には IT資本と低教育水準若年労働者の 2つが、90年代には IT資本と低教育水準若年労働者、高教育水準若年労働の 3つが変動要素であった(Table4.1)。 (step2)step2つぎに、技術変化をあらわす期間ダミー付きの(8)式をさらに推計し、有意でない定数項ダミーと係数ダミーを落としていき、推定された係数が凹性の条件を満た

しているかどうか検定する。 (step3)製造業に対して労働投入要素をさらに生産労働者と非生産労働者分類し、同様の手続きで推計を行った。しかし、多重共線性の問題のため、労働投入要素を低教育水準

生産労働者、高教育水準生産労働者、低教育水準若年非生産労働者、高教育水準若年非生

産労働者、低教育水準熟年非生産労働者、高教育水準熟年非生産労働者の 6つに分類したことにより満足な結果が得られた。 推計結果をまとめると次のようになる。

・ 全産業において IT 資本と低教育水準若年労働者は変動要素であり、製造業に関しても全産業で IT資本と低教育水準生産労働者は変動要素であった。

・ 全産業において低教育水準熟年労働者は短期固定要素であった。この結果は、長期間 1つの特定の企業で働くことによって企業特有の技術を習得した低教育水準熟年労働者

がより生産的でより協力的になり、企業もそのような労働者を短期固定要素とみなして

いるということである。 ・ ほぼ半数の産業において高教育水準労働者が変動要素である。ここで、アレン=宇沢の

代替の弾力性(本文 p.48)を計算してみると、高教育水準労働が変動要素である全ての産業において IT資本と高教育水準労働者が補完的な関係にある。これは、IT投資の急速な増加が IT を生産的に利用できる高教育労働者への需要をより誘発しているのである。

付64

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・ 高教育水準若年労働者と低教育水準若年労働者は双方が変動要素である産業において

代替的な関係にある。 ・ 電気機械産業とその他機械産業、サービス産業の IT 集約的な 3 産業においては高教育水準熟年労働者は IT資本と補完的な関係にある。

・ 多くの産業においては IT 資本と低教育水準若年労働者の間のアレン=宇沢の代替の弾力性は 1980年代から 90年代へ小さくなり、高教育水準労働者と IT資本の間の補完性の大きさもまた消えていった。

・ 総費用に占める変動費用のシェアは 1980年代から 90年代へ小さくなっていったが、これは需要が非常に弱い 90 年代における日本企業のパフォーマンスの弱さの原因の一つであろう。

以上の結果から、IT投資と人的資本蓄積が急速な高齢化によってもたらされるであろう低教育水準若年労働者の相対的な不足を克服するのに最も重要である、といえる。 (5)IT資本と人的資本、そして技術革新 まず、産業別の付加価値成長率を調べ 1981から 98年の間の経済成長率に対する各生産

要素投入の寄与度を分析する。つぎに、80年代から 90年代の技術進歩率の急激な低下を確かめ、技術進歩率とその変化の決定要因を調べることによって技術進歩率の低下の原因

を分析する。対象産業は製造業 11 産業と非製造業 4 産業とする。生産要素投入として、資本ストックは structureと buildingを集計して IT以外の資本(structure)とmachines and toolsと transportation machinesを集計して IT以外の資本(equipment)の 2つに分類し、労働投入要素は 4 つに分類する。また、成長率の分析の対象期間として 81 から84年、85から 89年、90から 94年、95から 98年の 4期間に分ける。 ① 付加価値成長率と成長に対する生産要素投入の寄与度 産業別の付加価値成長率を調べると、ほとんどの産業において 1980 年代に非常に高い

付加価値成長率を示していたのに対して、90年頃の株式市場や不動産市場の暴落以降その成長率は大きく下がり、最新の 95年から 98年の期間には特にマイナス成長に陥る産業もなかにはあった。4期間を対象期間として付加価値成長率を 90年代ダミー変数で単純回帰してみると、ダミー変数はマイナスで有意であった。しかし、さらに製造業ダミー変数を

入れてみたところ製造業と非製造業の間に統計的に有意な差はみられなかった。 IT 資本と IT 以外の資本(equipment)の付加価値成長への寄与度は 90 年代後半には

ほとんど全ての産業においてプラスであるのに対して、IT 以外の資本(structure)の寄与度は小さく 90 年代後半には 4 産業においてマイナスになった。このことは各産業の成長が物理的な拡張から設備の内的な品質改良へと向かっていることを示している。

90 年代において低教育水準の若年労働者の寄与度は全産業においてその付加価値成長率にかかわらずマイナスであったのに対して、高教育水準若年労働者の寄与度は 90 年代にはほぼ全ての産業でプラスであった。90年代において、高教育水準熟年労働者は寄与度は全産業でプラスであったのに対して、低教育水準熟年労働者の寄与度はサービス産業を

除く全ての産業でマイナスであった。この結果から、低教育水準熟年労働者は自然減少や

雇用調整によって長期的には調整されることを示している。 ② 技術革新と ITの外部性効果、IT誘発的な技術の衰退

付65

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1990 年代における付加価値成長率の大幅な低下は、需要の不振やその結果の生産要素投入の減少のせいだけではなく、技術進歩率も多くの産業で大きく低下しており供給も大

きな役割を果たしている。生産要素投入の貢献を上回る付加価値成長の残差である技術進

歩率を 4期間にわたって 90年代ダミーに単純回帰させてみると、90年代ダミー変数の係数は統計的に有意にマイナスであり、80年代から 90年代への技術進歩における下方シフトが示されている。さらに製造業ダミーを入れてみるとその係数は統計的に有意ではなく、

この下方シフトが製造業と非製造業双方に共通のものであることがわかる。 技術進歩率に影響を与え得る要因がいくつか考えられる。1つには、IT革新による正の

外部性効果である。2 つ目は、若年層と熟年層のデジタルディバイドである。3 つ目は、長年の経験を持つ熟年労働が生産において重要であると考えた場合、IT資本が急速に増加する以前は熟年労働者比率と残差成長率の間に正の相関関係が期待できたが、以後は負の

相関関係が期待されることである。4 つ目は、企業が独占力を持つ場合、純利潤と成長残差の間の相関関係が正とも負とも考えられることである。最後に、資本ストックの残差成

長率への影響が IT以外の資本(structure)と IT以外の資本(equipment)の間で異なることである。ここで、15産業 4期間のパネルデータを用いて、成長残差すなわち技術進歩率を(1)総労働投入に対する低教育水準熟年労働者比率、(2) 高教育水準熟年労働者比率、(3)総費用に対する純利潤比率、(4)総資本ストックに対する IT資本比率、(5) IT以外の資本(equipment)比率で 90 年代係数ダミーを加えて回帰させる。固定効果モデルと変量効果モデルの双方を推計したが、Hausman 検定によりいずれの場合にも変量効果モデルを採用した。また、説明変数が内正的に決定され誤差項間の相関が生じるので、GMM 推定も行った。その結果によると、製造業全体に対しては高教育水準熟年労働者比率とその

係数ダミーと IT資本比率のそれぞれの係数が統計的に有意であり、ITの外部性効果の存在や 80年代における熟年労働者の長年の経験の生産性成長に対するプラスの効果、90年代における長年の経験への負の IT 効果が支持された。一方で、熟年労働者の非弾力性の効果や純利潤の効果、IT以外の資本(equipment)の外部性効果のいずれもが観察されなかった。しかし、これらの結果は製造業により影響を受けている。さらに、ITの外部性効果は頑健ではなかった。結局、ITの効果は IT供給産業である電気機械産業にほとんど集中しており、ITの外部性効果が一般的に存在するという結果は得られなかった。この結果は、Sitoh(2001)による米国の製造業における結果とも整合的である。 (6)教訓

IT 資本が低教育水準労働者の重要な代替物であるという結果は、IT 投資が高齢化による若年労働者の来るべき不足を相殺するのに有効である、ということを示す。さらに、こ

の結果と高教育水準労働者と低教育水準労働者が代替的であるという結果から、労働力の

教育水準の改善が必要であることを示している。というのも、さもなければ IT 投資の効果がその補完物である高教育水準労働者の不足によって相殺されしまうのである。

IT供給産業における生産性の上昇が際立ち、これはあらゆる産業をかえる「革命」ではなくむしろこの産業特有の現象であった。この結果は、IT時代の到来が相対的な技術面での経営面の優位性を大きく変化させ、職場での労働者の learning-by-doing に基づいていた日本の製造業のかつての強みが失われていくであろう、ことを示す。

付66

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須田、今川、宮原、指宿(2002) ITが経済社会に及ぼす影響についてのエコノミストアンケート調査結果報告

内閣府経済社会総合研究所

IT が経済社会に与える影響について、16 の論点を整理し、エコノミストの見解をアンケート形式で集め、その結果を集計整理している。概要は以下の点にまとめられる。 (1)ITの生産性の向上効果発揮には時間を要する ・ ITが生産性の向上に貢献していることについては、全体的に肯定的。 ・ 「非 IT関連産業」 の生産性に関しても多数は ITの導入の効果を肯定的。 ・ しかし、その効果の発揮には時間がかかるとする見方が多い。 ・ 「ニューエコノミー」は「強いドル政策」と一体化し、外国の貯蓄率を無尽蔵に

利用できることが前提となっている。「ニューエコノミー」は米経済のパフォーマ

ンスの良さの結果ではなく、与件として用いられている。グローバル化のメリッ

トを最も享受する米国において生産性を「ソローの残差」で計算することに問題

がある。生産関数の左辺である Y (実質 GDP 成長率)は、外国の貯蓄率を通常では考えられないほどに利用する一方(経常赤字の拡大にもかかわらず、ドル安

金利上昇という景気のブレーキ要因が働かない)、K と L は米国内のみ存在する量を把握している。外国の貯蓄を利用するということは、外国の K と L を利用していることに他ならない。米国の K と L に日本の K と L の一部をある前提条件の下で加えると、90 年代後半の米 TFP は 90 年代前半のそれと変わらない。外国の貯蓄を無尽蔵に利用するための「株高」の前提が組み込まれており、それ

自体持続性に欠けているという点で「バブル」である。以上は「強いドル政策」

と一体化した「ニューエコノミー」に対する評価であるが、長期的には IT が 21 世紀の経済を変えていくという点ではそのとおりである(国際証券水野氏)。

・ ニューエコノミー論の台頭とともに IT化や経済のグローバル化が進んだ結果、景気循環が消滅したとの主張も出てきた。しかし、それにかんしては、8 割強が否定的回答となっている。ただしその影響の仕方としては、景気変動を弱める、強

める、スピードを加速させる、世界的循環の同時性をもたらすと多様である。 ・ 米国の 90 年代後半のインフレ率の抑制には、IT 関連製品・サービス価格の低下が寄与したことに対しては、肯定的な回答が 5 割を占めた。価格等の商品情報の流通、市場競争の激化、中抜きによる効率化等が主たる理由である。

(2)一定の前提条件のもと、ITは労働需要を増大させる

・ ITは労働需要に対して新規産業の創出などによるプラスの影響と企業効率化などによるマイナスの影響がある。

・ プラスの効果が上回るには、労働市場の流動化等の前提条件や時間軸の取り方い

かんによる

付67

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(3)ITが経済成長に貢献するための条件 ・ ITが経済成長に貢献するために整備されるべき経済環境、経済関連制度については各種規制の緩和」、「教育制度の充実」、「知的所有権制度」、「労働市場の流動

化」が高い回答率となっている。

(4)ITは都市部への集中を促進する ・ 情報通信は交通代替手段となり得ること、インターネットは分散型ネットワーク

であることなどから、ITは分散を進めると考えられやすい。 ・ しかし、調査結果では分散化が進むとする回答は少数で、東京や都市部への集中

化が進むとみる回答が半数近くとなる。ただし、これら集中化の傾向は好ましい

と思われていない。

(5)社会的枠組みも含んだ社会資本の整備が重要 ・ ITを生かすための諸制度など社会的枠組みも含んだ社会資本の整備が必要との認識が強い。ITを活用するために社会システムとして捉える必要性を強調するコメントが多い。

・ IT の進歩が人と社会の関係を一変させる のであれば、社会資本概念もこれまでのものと違ったものとなっていくのが自然である。

(6)ITのミクロ的影響 ・ ITによるネットワークの進展は、電子商取引の急速な広がりという形で企業関係にも影響を与えている。BtoBの普及に伴い、企業関係はよりオープンなものとなる。

・ しかし、BtoBの進展が必ずしも企業関係をオープンにするわけではない。また企業間の結びつきについては、弱くなる面もあれば強くなる面もある。

・ IT化の進展により、消費者の力が強まるとの見方が強い。これは、情報の非対称性の解消、選択の幅の拡大、企業間競争の激化による。

(7)デジタルデバイド

・ IT化の進展に伴い、デジタルデバイドの解消が大きな問題となる。特に「情報アクセス」、「情報バリアフリー」、「情報リテラシー」を非常に重要と見る向きが強

い。一方、「所得格差の拡大」や「世代間分断・断絶」は結果の平等と捉えてやむ

をえないとみる向きが多い。 ・ 情報インフラの整備、英語教育等を含め幅広く捉えるべきとの見方が注目される。

付68

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Jesus Dumagan and Gurmukh Gill

Digital Economy 2002 産業レベルにおける IT利用の生産性およびインフレーションへの効果

New Economy懐疑論者は、生産性の上昇は製造業の伸びによるものであり、ITに対する投資を行った企業において生じているものではないと主張している。しかし、本ペーパ

ーでは、米国における生産性の伸びの 18%しか消費財製造業から生じていないことや IT利用の盛んな産業ではインフレ率の上昇を抑制したことを示している。 (1)データおよび方法 マクロレベルの IT インパクト分析は一般的に成長会計を用いて把握する。このレベルでの分析は、技術進歩や、労働・IT資本・非 IT資本といった投入物の生産性向上に焦点を当てているが、産業レベル分析では GDPやフルタイム雇用者(FTE)、全体的な生産性である GDP/FTE比率およびインフレーションを捉えており、一産業および多産業間の影響を把握することが可能である。 全体の生産性成長率は GDP全体の成長率と FTEの成長率との差で表され、産業別に分

類することもできる。具体的には以下の方法を用いる。 「全体の生産性成長に対する産業別の貢献」 経済全体の生産性は総 GDPの FTEに対する比率である。よって、全体の生産性は、総

GDP成長から合計 FTEの成長を引いたもので表せる。全体の成長に対する産業の貢献度を明らかにするために、簡単な例を挙げて説明する。ここでは Aと Bの 2つの産業があると仮定し、それぞれの産業のデータは以下の表中(1)~(4)に示すとおりであるとする:

図表 1-7 全体の生産性成長に対する産業別の貢献度

全体の生産性成長に対する産業の貢献のパーセント・ポイントは、総 GDP成長((1)×(2))から合計 FTE 成長((3)×(4))を引いたものである。パーセント・ポイントで表した貢献度は、A産業で 0.2、B産業で-0.4であり、全体の生産性成長は合計で-0.2パーセント・ポイントとなる。 各産業を個別にみてみると、生産性の成長はその産業の GDP 成長(1)から FTE 成長(3)

を引いて求められる。従って、A産業の個別の生産性成長は 3.0-5.0=-2.0でマイナスとなり、プラス 0.2 である全体の生産性成長に対する産業の貢献のパーセント・ポイントとは

付69

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逆になっている。一方、B 産業の個別の生産性成長は 4.0-3.5=0.5 でプラスとなり、産業の貢献のパーセント・ポイント-0.4とは逆になる。 上記の例から分かるとおり、各産業の生産性傾向を個別にみるだけでは全体の生産性に

対する産業の貢献度を判断することはできない。よって、経済全体の生産性の成長源を産

業レベルで割り出すためのより厳密で正確な方法として、全体の生産性成長度を各産業の

実際の貢献度に分解する方法を用いることが有効である。 (2)ITの役割 生産性の成長に対する ITのインパクトを決定するには、PC、周辺機器、ソフトウェア、その他の情報処理機器等の IT設備の利用度に基づいて FTEごとに全産業を分類する必要がある。その上で、IT設備利用度(ITEQ)と FTEとの比率を産業別に算出し、それらを合計することによって全産業の比率を導き出すことができる。ITEQと FTEとの比率が 1を超えるものは IT 集約的であり、1 を下回るものは IT 集約的ではないといえる。1996年のアメリカにおけるこの比率は電信電話業界において 22.98と最も高く、パイプライン業界で 14.25、ラジオ・テレビ業界で 10.07 などとなっている。一方で低いものとしては教育サービス(0.06)、アミューズメント施設(0.10)、建設業界(0.11)などが挙げられる(図表 1-8)。

付70

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図表 1-8 IT集約度ランキング

付71

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1989年から 2000年の間に IT集約度の高い業界の生産性の伸びは年率 2.95%と、IT集約度の低い業界の生産性上昇率(年率 0.58%)よりも大幅に高く、非農業部門全体の生産性成長率を 1.68%/年まで引き上げた。また、生産量も前者は 4.75%/年、後者は 2.74%/年の割合の伸びを示しており、IT 利用の高い産業において大きい。IT 利用度の高い産業では雇用の伸びは遅く、これが高い生産性の達成につながっているといえる。図表 1-9は 1995~2000年の IT集約度別の生産性の加速度(対 1989~1995年)を示したものである。図表から明らかなとおり、IT集約度が上位半分の産業からは全産業の生産性の加速度である 1.46%の 69%に相当する 1.01%の加速度を記録している。

図表 1-9 1995~2000年の米国非農業部門における IT集約度別の

生産性加速度(対 1989~1995年)

(3)生産性向上に対する産業別貢献度 生産性の上昇は、コンピュータ製造業や半導体産業を含む耐久消費財産業においてのみ

発生するという主張があるが、実際は卸売業、金融・保険業、小売業等の他産業において

も発生している。図表 1-10は、1989年~2000年の米国非農業部門における生産性向上への各産業の貢献度を図示している。耐久消費財産業が全体 1.68%の伸びの 40%以上に相当する 0.68%の貢献をしているが、その他卸売業や金融・保険業もそれぞれ 25%弱の0.41%と高い貢献度を記録している。

付72

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図表 1-10 生産性に対する産業別貢献度(1989~2000年)

Mining

Construction

Manufacturing, Durable Goods

Manufacturing, Nondurable Goods

Transportation and public Utilities

Wholesale Trade

Retail Trade

Finance and Insurance

Services

Source : ESA estimates derived from BEA data.

また、1995~2000年の生産性上昇の対 1989~1995年加速度は前述のとおり 1.46%で

あったが、そのうち耐久消費財産業による貢献は 0.27%と、それほど大きくない。しかし、金融・保険業界は 0.54%、小売業 0.41%、卸売業 0.30%と大きく、耐久消費財産業を上回っている。これは、1990年代後半にこれらの産業において非常に生産性が上昇したことを如実に表している。

図表 1-11 1995~2000年の米国非農業部門における生産性加速度に

対する産業別貢献(対 1989~1995年)

Mining

Construction

Manufacturing, Durable Goods

Manufacturing, Nondurable Goods

Transportation and public Utilities

Wholesale Trade

Retail Trade

Finance and Insurance

Services

Source : ESA estimates derived from BEA data.

付73

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(4)IT集約性とインフレーションとの関係 IT 生産と利用により 1990 年代インフレーションは相当程度抑制された。図表 1-12 にインフレ率を IT集約度別に示しているとおり、価格上昇は 1995年を除いて IT集約度の低い産業において常に高くなっている。

図表 1-12 IT集約度上位半分および下位半分の非農業部門に

おける価格上昇率(1989~2000年)

(5)結論 本分析により、IT集約度の高い産業が生産性の向上に結びついていることが明らかとなった。 ・ 1989 年から 2000 年にかけて名目 GDP の 50%を占める IT集約度の高い産業が生産性上昇に対してほぼ 100%の貢献をしている。

・ 耐久消費財産業の生産性向上は全産業の 40%を占めているものの、それ以外の 60%は非耐久消費財産業や金融・保険業、卸売・小売業等、幅広い業種に広がっている。

・ 1995 年から 2000 年にかけては、生産性上昇の加速度は 1989 年~1995 年に対して1.46%であったが、そのうち 8 割以上が耐久消費財産業以外の部分の伸びによるものである。

・ IT集約度が高いほうがインフレーションを抑制する効果が高い。1989年から 2000年の間のインフレーションの 7割は IT集約度の低い産業において引き起こされた。

・ 本分析により、生産性の加速はあらゆる業種において起こっており、IT投資は経済的なポテンシャルを向上・持続させるのに大きな役割を果たしていると見られる。

付74

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Stefano Scarpetta, Philip Hemmings, Thierry Tressel and Jaejoon Woo (2002) “THE ROLE OF POLICY AND INSTITUTIONS FOR PRODUCTIVITY AND FIRM

DYNAMICS: EVIDENCE FROM MICRO AND INDUSTRY DATA SUMMARY AND

CONCLUTIONS” OECD WORKING PAPER No.329

(1)概要 本論文は、欧米諸国の企業ベースおよび産業ベースのデータを分析し、製品市場および

労働市場における制度や規制が企業行動や生産性に与える影響を分析している。主要な結

論として、①マクロの生産性上昇は既存企業内の生産性パフォーマンスに大きく影響され

ているが、新旧企業の参入・退出による影響も大きいこと、②産業レベルの生産性の高さ

は、特にハイテク分野において、規制の強さと逆相関の関係にあること、③労働市場の柔

軟性の欠如による雇用コストの高さが生産性上昇を妨げていること、④こうした規制や雇

用コストが新規企業の参入の障壁となっていること、⑤米国では新規参入する企業の規模

は小さいが、事業を継続できれば急成長を遂げるのに対し、欧州ではヨーロッパでは参入

時の企業規模は大きいもののその後の成長率が低いこと、が挙げられている。 (2)実証結果概要 1980年後半から 1990年中頃のデータに基づいた欧米の企業レベル分析の主要な結果概要は以下のとおりである。 ・ マクロ労働生産性上昇の大部分が個別企業ベースのパフォーマンスにより決定され、

生産性の低い企業から高い企業へのマーケット・シェアにおけるシフトが及ぼす影響

は顕著ではない。企業内生産性の成長は、またビジネス・サイクルにおける生産性成

長の変動をもたらす。 ・ 労働生産性上昇は低生産性設備からの脱却によって促進される(成熟した業界におい

てこの傾向が強い)。特に急激なテクノロジー変化がある産業(ICTなど)では新設備の採用が大きく貢献する。

・ 企業内成長が労働生産性に与える影響は、全要素生産性の成長に対して与える影響よ

りも顕著であることから、既存の企業は資本集約率増加あるいは労働力の削減により

労働生産性を高めていることが推察される。逆に、新規企業は全要素生産性の成長に

比較的大きく貢献していることから、これらの企業は資本と労働のより効率的な組み

合わせおよび新技術を伴って市場に参入していると推測される。 ・ 企業の興廃を分析した結果、毎年多数の企業が市場参入・撤退していることが明らか

となった。新規企業にとって市場参入初期が最も困難で、その 30~40%が参入後 2 年で市場から撤退している。その後、撤退率は低下するが、参入後 7 年まで市場に残っている企業は、調査対象年一年間の総参入企業数の 40~50%である。

・ 新事業が頓挫する確率は規模が小さいほど急激に増加する。また規模が大きいだけで

はなく、成長の速い企業が市場に残る傾向が認められる。小企業の撤退と生存企業の

成長の結果、企業の平均規模は急速に調査対象産業の最小効率規模まで拡大する。

付75

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・ 企業レベル分析の結果、米国と同程度の企業の濫立が欧州でも起こっていることが判

明した。EU諸国との比較において、米国市場の企業行動の中で特記すべき事項は①参入企業の規模が(産業平均に比べ)小さい、②既存企業平均に比べ(大きな変動性は

あるが)労働生産性が低い、③参入初期に成功した企業はその後の(雇用)拡大が大

きいことである。 また計量経済学的分析観点から、規制や制度が生産性パターンと企業興廃に及ぼす影響

の中で特記すべきものは以下のとおりである。 ・ 製品市場における厳しい規制の存在は、全要素生産性と、(より暫定的結果ではある

が)新規企業の市場参入にマイナスの影響を与える。同様に、雇用・解雇にかかるコ

ストは、賃金引き下げや内部トレーニングの増強で相殺されない限り、生産性パフォ

ーマンスの妨げとなる。加えて、こうしたコストは、(特に小中規模)企業の市場参入

意欲を削減する傾向にある。 ・ 厳しい製品市場規制が全要素生産性にもたらす直接的な負荷は、最先端テクノロジー

を有する国・産業から遅れを取れば取るほど大きくなる。従って、厳しい規制は競争

圧力、テクノロジーの波及、新規ハイテク企業の参入を妨げ、現存のテクノロジーの

採用だけではなくイノベーションにも有害な影響を及ぼす。 ・ 参入企業の実証的分析から、製品市場規制と雇用保護法制(EPL)が中小企業の市場参入に大きな影響を与えることが分かった。しかしこうした規制から除外されること

が多い零細企業の市場参入に対して EPL がもたらす影響は顕著ではない。また EPL製品市場規制は、これらが市場参入時・参入後の調整コストに占める割合が小さくな

るため、大企業の参入に大きな影響を及ぼすことはない。 (3)規制に対する考察 本論文では総生産性パターンは企業内パフォーマンスと企業興廃に依存することを実証

したが、この 2 つの要因がもたらす効果は産業、国によって異なり、特に産業の成熟度、市場、規制枠組条件に影響を受ける。企業内パフォーマンスに関して、欧州諸国に存在す

るような厳しい製品市場規制は、特にテクノロジー・リーダーとの間に大きな格差が存在

する場合には、全要素生産性上昇を妨げると考えられる。 起業に対する厳しい規制、労働力の調整にかかるコストが、新規(小)企業の参入に悪

影響を与えるという関係は比較的明らかである。しかし、企業興廃の大きさが生産性パフ

ォーマンスの強さと一義的に結びつかない限り、マクロ的パフォーマンスとの関連性はそ

れ程明白ではない。 これらの結論は、次のような対象国の企業行動の相違と整合的である:①欧州諸国に比

べ、米国の新規参入企業は小規模であり生産性は平均以下であるが、成功すればより急速

に成長を遂げる、②市場により大きな基盤を置いた資金調達システムは、米国におけるプ

ロジェクト資金調達の低リスク回避につながり、資金欠乏と担保不足の問題がしばしば見

られる小規模あるいは革新的なプロジェクトの起業家に対し大きな資金調達の可能性を与

える、③米国において起業にかかる経営コストが低いことと、労働力調整に対する過度に

厳しくはない規制は、起業家が小規模事業を起こし、市場で成功を収めた後、最小効率規

付76

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模まで急速に拡大することを促進する、④反対に、欧州における市場参入コストと調整コ

ストの高さは、市場によりテストされるのではなく、市場参入以前に事業計画が選択され

る傾向があることである。 マクロレベルでどちらの企業モデルが優位かを立証できるデータは現在存在しないが、

今日のように ICTが急速に普及している時代には、より多く市場のテストを経ることによって、新しいアイデアや生産方法が急速に生みだされ、イノベーションや新規技術の採用

が一層加速すると思われる。これは、本論文で分析した OECD諸国の例に見られるようにICT関連産業の新規企業が総剛的な生産性に好ましい影響を与えていることによって裏付けられるであろう。

付77

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1.2 日本の IT効果の推計方法 1.2.1 資本ストックデータ(公的、民間別)の推計方法 (1)推計方法 恒久棚卸法による (2)ストックの概念 純ストック 1995年価格表示実質 (3)ITの範囲 複写機 電機音響機器 ラジオ、テレビ、ビデオ、民生用電気機器 電子計算機本体 電子計算機付属装置 有線電気通信機器 無線電気通信機器 その他の電気通信機器 ソフトウェア 情報記録物 電気通信施設建設 (4)使用データと加工方法 ①投資額 産業連関表における国内総固定資本形成の公的、民間別の IT の範囲の財に相当する固定資本形成額を投資額として用いる。 産業連関表(基本表) 接続産業連関表 産業連関表(延長表) 工業統計表 特定サービス業実態調査(情報サービス業) 貿易統計 国内卸売物価指数 企業向けサービス価格指数(情報サービス) 以上の統計から産業連関表の基本表のある時点に関しては該当する投資額が生産者価格

および購入者価格で得られる。資産形成される投資額は、購入者価格評価で積み上げられ

るため、5年ごとに両方の価格評価の投資額を整備する。ここから、投資額毎の運賃マー

付78

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ジン比率が得られる。間の年次については、直線補間して運賃マージン率を設定する。 生産者価格ベースの該当する投資額は、産業連関表延長表から得られる。このデータを

「国内卸売物価指数」および情報サービスについては「企業向けサービス価格指数」によ

って 1995年価格表示に実質化する。 実質化された該当する投資額を運賃マージン率によって購入者価格評価に変換する。こ

のデータを用いて恒久棚卸法によりストック額を作成する。 なお、旧時点において、産業連関表における明示的な取扱がなされていなかったソフト

ウェア、情報記録物、および産業連関表延長表が整備されていない時点の投資額について

はソフトウェアに関しては「特定サービス業実態調査(情報サービス)」の受託ソフトウェ

ア開発を、その他の財に関しては工業統計表品目編の出荷額を用い、輸出入を差し引いて

国内需要に調整し、内需の内訳構成については一番近い時点の産出(販売)構成を産業連

関表から投資額を設定した。 ②耐用年数、減価償却率 大蔵省「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」平成12年改正に基づき、対応する

品目の耐用年数および償却率を用いることとした。ただし、ここでデータが得られる品目

が大蔵省令で定める品目にくらべて統合度合いが高いため、複数の耐用年数の加重平均と

すべきであるが、もともとデータが得られないため、以下の耐用年数と償却方法を用いた。

耐用年数 償却率 償却方法 電子計算機本体 6年 定額 電子計算機付属装置 6年 定額 有線電気通信機器 6年 0.3187 定率 無線電気通信機器 6年 0.3187 定率 その他の電気通信機器 6年 0.3187 定率 ソフトウェア(受託開発) 5年 0.3690 定率 複写機 6年 0.3187 定率 ラジオ・テレビ受信機 6年 0.3187 定率 ビデオ機器 6年 0.3187 定率 民生用電気機器 6年 0.3187 定率

(5)非 IT資本ストックの推計方法 ①民間非 IT資本ストック 民間非 IT 資本は、設備の除却のみを考慮した粗資本ストックではなく、資本減耗分を控除した固定資産額、すなわち、純資本ストックから IT ストックを差し引く形で非IT分を求めた。なお、対応する投資額は概念的には民間企業の新設投資額になる。 ②公的非 IT資本ストック 国民経済計算の非金融資産、生産資産のうちの固定資産を「国内卸売物価指数」で実

付79

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質化したものから公的 IT資本を差し引いたものを公的非 IT資本とした。 (6)注意事項 NTTの民営化に伴って、特に電気通信施設建設投資額は公的から民間に移っている。ストック推計に当たってはその部分は考慮せずに推計している。使用に当たっては、現状に

民間扱いにすべきであり、公的に置かれている過去の電気通信施設建設の投資額およびス

トック額は、民間に含めた。 1.2.2 その他データの推計方法 (1)労働力 「労働力調査」の就業者数と「毎月勤労統計」の事業所規模 30 人以上の一ヶ月あた

り総実労働時間を用いた。この両者を掛け合わせて人・時間表示の労働投入量を作成し

た。 (2)要素所得 ITストックが生み出す要素所得は、その特定が困難である。そのため、極めてきつい前提の下で推計した。その前提は、IT 投資額の大きい産業の生み出す要素所得が、IT 資本ストックが生み出す要素所得に等しいとするものである。 この前提の下で、産業連関表の固定資本マトリックスを用い、生産活動のための分類別

の投資額を公的 IT、公的非 IT、民間 IT、民間非 IT4つの投資額に集計し、その比率で国民経済計算の産業別要素所得の営業余剰、固定資本減耗引当を分割した。その結果を、産

業合計を求めて、一国の公的 IT、公的非 IT、民間 IT、民間非 IT の生み出した要素所得とした。 1.2.3 トランスログ型生産関数の推計

今回の推計で用いるトランスログ型関数は、被説明変数を実質 GDP(Y)、説明変数を4種の資本ストック(IT関連とそれ以外、それぞれ公共と民間)、労働(L)とすることを想定している。具体的な関数形は以下のとおりである。

! 関数形

( ) ( ) ( ) ( ) ( )( )

LKLKKK

LKKKKKLKKKKKKK

LKKKK

TLKKKKY

LK

LKKK

LKKKKK

LKKKKKKK

LLKKKKKKKK

TLKKKK

lnlnlnlnlnln

lnlnlnlnlnlnlnlnlnlnlnlnlnln

lnlnlnlnln21

lnlnlnlnlnln

44

334343

2242423232

11414131312121

22444

2333

2222

2111

443322110

ααα

ααααααα

ααααα

ααααααα

+++

+++++++

+++++

++++++=

付80

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! k1, k2, Lに関する一次同次条件

0:0:0:0:

0:1

21

442414

332313

222212

121111

21

=++=++=++=++=++

=++

LLLKLK

LKKKKK

LKKKKK

LKKKKK

LKKKKK

LKK

LKKKK

ααααααααααααααα

ααα

! 生産者均衡条件

LKKKKLYS

LKKKKKYS

LKKKKKYS

LKKKKKYS

LKKKKKYS

LLLKLKLKLKLL

LKKKKKKKKKKK

LKKKKKKKKKKK

LKKKKKKKKKKK

LKKKKKKKKKKK

lnlnlnlnlnlnln

lnlnlnlnlnlnln

lnlnlnlnlnlnln

lnlnlnlnlnlnln

lnlnlnlnlnlnln

44332211

444434324214144

4

344333323213133

3

244233222212122

2

144133122111111

1

αααααα

αααααα

αααααα

αααααα

αααααα

+++++=∂∂

=

+++++=∂∂

=

+++++=∂∂

=

+++++=∂∂

=

+++++=∂∂

=

規模に関する収穫一定の条件から 012111 =++ LKKKKK ααα を利用すると、

0ln)( 12111 =++ LLKKKKK ααα である。そこで、S の式からこの式を引くと以下の式が

得られる。 1K

4413312

211

1111 lnlnlnln KKL

KLKS KKKKKKKKKK ααααα ++

+

+=

以下同様に、

4443432

421

4144

4433332

321

3133

4423322

221

2122

lnlnlnln

lnlnlnln

lnlnlnln

KKL

KLKS

KKL

KLKS

KKL

KLKS

KKKKKKKKKK

KKKKKKKKKK

KKKKKKKKKK

ααααα

ααααα

ααααα

++

+

+=

++

+

+=

++

+

+=

付81

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推計結果は以下のとおり。 (1)ITの範囲 ・ 複写機 ・ 電機音響機器 ・ ラジオ、テレビ、ビデオ、民生用電気機器 ・ 電子計算機本体 ・ 電子計算機付属装置 ・ 有線電気通信機器 ・ 無線電気通信機器 ・ その他の電気通信機器 ・ ソフトウェア ・ 情報記録物 ・ 電気通信施設建設 なお、上記 ITは公的と民間部分に分ける。

(2)推計期間 ・ 1980年~1998年

(3)説明変数および生産関数の形 ・ 民間 IT、民間非 IT、公的 IT、公的非 ITの4つの資本ストックと、労働。 ・ 民間 IT、民間非 IT、労働に関して一次同次を満たすトランスログ関数

(4)推計結果 民間 ITの係数はプラスであるものの有意水準がやや低い一方、公的 ITの係数はプラスで有意水準も高い結果となった。民間 ITと民間非 IT、公的 IT並びに公的非 ITとの関係は、いずれも相乗的な効果をもつ。特に民間 ITと民間非 IT、公的 ITとの関連の有意度が高い。労働の資本の関係を見ると、民公、IT非 ITを問わず、いずれも代替的に働いている。係数的には特に労働と民間 ITの代替性が強い。

付82

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付83

図表 1-13 ITの生産性効果推計結果

Parameter Estimate StandardError t-statistic AK1(民 IT) 0.028717 0.026271 1.093110 AK1K1 -0.004302 0.006298 -0.682998 AK1K2 0.029259 0.008999 3.251420 AK1K3 0.001090 0.000408 2.667950 AK1K4 0.000586 0.000315 1.861060 AK2(民非 IT) 0.336068 0.046418 7.240010 AK2K2 -0.008378 0.015012 -0.558102 AK2K3 -0.004645 0.000951 -4.886970 AK2K4 -0.004312 0.000697 -6.186690 AK3(公 IT) 0.017280 0.003015 5.730800 AK3K3 0.002360 0.000399 5.907140 AK3K4 0.002334 0.000237 9.860770 AK4(公非 IT) 0.008622 0.001686 5.113950 AK4K4 0.005363 0.000429 12.502700 AL(労働) 0.609312 0.030011 20.302900 AK1L -0.026633 0.003743 -7.115950 AK2L -0.011923 0.008695 -1.371280 AK3L -0.001138 0.000543 -2.094930 AK4L -0.003970 0.000204 -19.463100 ALL 0.043664 0.007567 5.770090 A0 -1.604100 0.013587 -118.064000 G(全要素生産性) 0.012202 0.000904 13.501200

出所:三菱総合研究所

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2.第3章推計関係資料 2.1 推計の前提 各指標と”労働力人口一人当り GDP”との相関関係(通常最小自乗法による対数回帰) (1)全サンプル7

被説明変数 係数 t値 Adj-R squared 資本形成/GDP(91-00平均) 1.455 1.674 0.060 資本形成/GDP(98-00平均) 1.556 1.825 0.041 15歳以上識字率 (1997) 2.972 3.529 0.183 15-24歳識字率 (1997) 4.517 3.460 0.180 教育への公的支出/GNP(96) 2.663 6.723 0.424 電話普及率 1.041 15.560 0.788 携帯普及率 0.617 18.329 0.840 ネットホスト普及率 0.437 8.270 0.517 PC普及率 0.844 27.161 0.928 (2)アジア+APEC諸国

被説明変数 係数 t値 Adj-R squared 資本形成/GDP(91-00平均) 1.765 1.864 0.066 資本形成/GDP(98-00平均) 2.209 2.315 0.114 15歳以上識字率 (1997) 1.252 1.349 0.027 15-24歳識字率 (1997) 2.401 1.763 0.068 教育への公的支出/GNP(96) 2.108 4.425 0.317 電話普及率 0.968 10.844 0.722 携帯普及率 0.603 13.191 0.797 ネットホスト普及率 0.330 8.107 0.601 PC普及率 0.842 21.268 0.924

7 全サンプルにおいては、アジアサンプル(Afghanistan, Armenia, Azerbaijan, Bahrain, Bangladesh, Bhutan, Brunei Darussalam, Cambodia, China, D.P.R. Korea, Georgia, Hongkong SAR, India, Indonesia, Iran(I.R.) , Iraq, Israel, Japan, Jordan, Kazakhstan, Korea (Rep.) , Kuwait, Kyrgyzstan, Lao P.D.R. , Lebanon, Macao SAR, Malaysia, Maldives, Mongolia, Myanmar, Nepal, Oman, Pakistan, Palestine, Philippines, Qatar, Saudi Arabia, Singapore, Sri Lanka, Syria, Taiwan-China, Tajikistan, Thailand, Turkmenistan, United Arab Emirates, Uzbekistan, Viet Nam, West Bank and Gaza, Yemen)に以下の APEC諸国、Australia, Brunei Darussalam, Canada, Chile, Mexico, New Zealand, Papua New Guinea, Peru, Russia, United Statesと OECD諸国 Austria, Belgium, Czech, Denmark, Finland, France, Germany, Greece, Hungary, Iceland, Ireland, Italy, Luxemburg, Netherlands, Norway, Poland, Portugal, Slovak, Spain, Sweden, Switzerland, United Kingdomを加えている。

付84

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(3)アジアサンプル 被説明変数 係数 t値 Adj-R squared

資本形成/GDP(91-00平均) 2.442 2.526 0.171 資本形成/GDP(98-00平均) 2.459 2.453 0.167 15歳以上識字率 (1997) 1.057 1.010 0.806 15-24歳識字率 (1997) 2.188 1.472 0.045 教育への公的支出/GNP(96) 1.655 3.265 0.232 電話普及率 0.936 8.635 0.671 携帯普及率 0.586 10.778 0.767 ネットホスト普及率 0.422 7.453 0.616 PC普及率 0.871 16.917 0.908 (4)開発途上国サンプル(全サンプルから OECD加盟国を除いたもの)

被説明変数 係数 t値 Adj-R squared 資本形成/GDP(91-00平均) 1.916 2.047 0.096 資本形成/GDP(98-00平均) 2.020 2.168 0.113 15歳以上識字率 (1997) 1.013 1.127 0.924 15-24歳識字率 (1997) 2.115 1.610 0.054 教育への公的支出/GNP(96) 1.529 3.117 0.199 電話普及率 0.899 8.638 0.648 携帯普及率 0.564 11.135 0.759 ネットホスト普及率 0.302 6.215 0.497 PC普及率 0.858 17.814 0.908 ・ 資本要因は全てのサンプルにおいて正で有意であるものの、決定係数は低い。 ・ 人的資本要因に関しては、識字率の有意度は低いが、教育への公的支出の GNP比の有意度は全サンプルにおいて高くなっている。

・ IT関連指標に関しては、全サンプル、全ての指標につき正で高い有意度を示している。 ・ 有意度の順位はいずれのサンプルにおいても、PC 普及率、携帯普及率、電話普及率、ネットホスト普及率の順である。なお、弾力性の観点からは、電話普及率と PC普及率が高い。なお、サンプル毎の弾力性の差は小さい。

付85

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2.2 Pohjola(2000)型1 ・ 推計式は以下の通り。各生産要素が労働力一人当り GDP水準に与える効果を計測する。なお添字jは国を表す。

・ ( ) ( ) jjhp

jhjh

pjp

j nasssLY εδβααα

βα

βα

βα

α ττ

τ +++−

++−

−+

−+

−+= ln

1ln

1ln

1ln

1ln 0

・ 上式を通常最小自乗法で推計した(εは誤差項)。 ・ 5.0=+ δa とおく。

・ は実質国内投資の GDP比(98-00)、 は人的資本指標(教育への公的支出

対 GNP 比)、 は電話普及率、 は携帯普及率、 はネットホスト普及率、

は PC普及率。

2pS

4τS

3hS1τS 2τS 3τS

・ なお、Oildumは産油国ダミーである。 (1)全サンプル

.826squared-R Adjusted.836squared-R

(.416) (11.704) (1.361) (1.100) (13.956)

)ln(064.1ln066.1ln425.ln427.819.10)/ln( 132

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.909squared-R Adjusted.914squared-R

(.949) (17.399) (3.744) (3.732) (20.150)

)ln(333.ln602.ln788.ln057.1052.11)/ln( 232

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.557squared-R Adjusted.585squared-R

(2.281) (5.836) (2.659) (1.345) (10.846)

)ln(743.ln312.ln239.1ln808.144.13)/ln( 332

==

++−++−= δjthpj nasssLY

付86

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.951squared-R Adjusted.954squared-R

(.914) (20.657) (2.170) (3.117) (26.048)

)ln(544.ln813.ln414.ln683.132.11)/ln( 432

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.954squared-R Adjusted.958squared-R

(2.055) (.711) (21.410) (2.153) (2.707) (27.041)

532.)ln(625.ln814.ln397.ln586.163.11)/ln( 432

==

+++−++−= OildumnasssLY jthpj δ

(参考)IT資本を除いたMankiw, Romer, Weil型

.322squared-R Adjusted.350squared-R

(1.314) (5.020) (.652) (10.814)

)ln(031.2ln530.1ln499.833.14)/ln( 32

==

++−++= δjhpj nassLY

・ IT資本を表す代理変数として 4種の変数を入れて推計を行なった。結果を見ると、PCを入れたものの推計が最も良く、携帯普及率、電話普及率がそれに次ぐ。ネットホス

トの推計結果はあまり良いものとはなっていない。 ・ いずれの推計においても、人的資本要因と IT要因は正で有意となっており、これらの要因が経済成長に資することが見て取れる。

・ しかし、一般資本要因に関しては、符号は全てマイナスであり、PC普及率、携帯普及率を入れた推計については有意となっている(その他は非有意)。この結果は、第3章

で見た IT資本と一般資本の代替関係とも関わっているものと思われる。 ・ なお、一般資本として用いられている変数は、Pohjolaと同様投資の対 GDP比である。 (2)アジア+APEC諸国

.789squared-R Adjusted.811squared-R

(.495) (6.781) (1.361) (.674) (11.077)

)ln(087.1ln897.ln565.ln375.563.11)/ln( 132

==

++−++−= δjthpj nasssLY

付87

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.890squared-R Adjusted.901squared-R

(.469) (10.589) (3.139) (1.837) (15.615)

)ln(644.ln590.ln858.ln804.475.11)/ln( 232

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.691squared-R Adjusted.724squared-R

(.340) (5.495) (2.552) (1.103) (10.958)

)ln(751.ln266.ln206.1ln721.694.13)/ln( 332

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.963squared-R Adjusted.967squared-R

(.079) (16.708) (3.527) (1.523) (26.027)

)ln(061.1ln742.ln720.ln401.961.11)/ln( 432

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.978squared-R Adjusted.982squared-R

(4.262) 863.

(.563) (20.417) (4.519) (.040) (34.350)

)ln(531.ln710.ln705.ln884.129.12)/ln( 432

==

+

++−++−=

Oildum

nasssLY jthpj δ

・ IT資本の代理変数として 4種の変数を入れた推計を行なった。結果を見ると、PCを入れたものの推計が最も良く、携帯普及率がそれに次ぐ。

・ いずれの推計においても、人的資本要因と IT要因は正で有意となっており、これらの要因が経済成長に資することが見て取れる。

・ しかし、一般資本要因に関しては、符号は全てマイナスであり、しかもいずれの推計

においても有意度が低い(携帯普及率を入れた推計のみ、有意度は比較的高い)。この

結果は、第3章で見た IT資本と一般資本の代替関係とも関わっているものと思われる。 ・ なお一般資本として用いられている変数は、Pohjolaと同様投資の対 GDP比である。

付88

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(3)アジアサンプル

.707squared-R Adjusted.749squared-R

(.487) (4.754) (1.121) (.645) (9.142)

)ln(826.1ln834.ln563.ln429.397.11)/ln( 132

==

++−+++= δjthpj nasssLY

.848squared-R Adjusted.869squared-R

(.174) (7.749) (2.553) (1.359) (13.167)

)ln(706.ln581.ln849.ln724.489.11)/ln( 232

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.583squared-R Adjusted.645squared-R

(.975) (3.887) (1.427) (.786) (8.722)

)ln(821.1ln352.ln866.ln603.486.13)/ln( 332

==

++−+++= δjthpj nasssLY

.959squared-R Adjusted.965squared-R

(.499) (14.389) (3.638) (2.252) (24.007)

)ln(969.ln799.ln844.ln674.298.12)/ln( 432

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.970squared-R Adjusted.976squared-R

(2.647) 741.

(.786) (13.447) (4.003) (.559) (28.172)

)ln(347.1ln729.ln795.ln177.306.12)/ln( 432

==

+

++−++−=

Oildum

nasssLY jthpj δ

付89

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(参考)IT資本を除いたMankiw, Romer, Weil型

.437squared-R Adjusted.475squared-R

(1.914) (4.189) (1.503) (10.570)

)ln(585.3ln263.2ln322.1300.15)/ln( 32

==

++−++= δjhpj nassLY

・ アジアサンプルにおいても、IT 要因として PC を入れたものの結果が最も良く、携帯普及率がそれに次ぐ。ネットホストを入れたものの結果は良くない。

・ PC と携帯普及率を入れた推計においては、人的資本要因と IT 要因は正で有意となっており、これらの要因が経済成長に資することが見て取れる。しかし、その他の推計

では、IT要因は全て正で有意なものの、人的資本要因の有意度は低い。 ・ 一般資本要因に関しては、PCを入れた推計において負で有意、その他では電話とネットホストを入れた推計では符号は正であるものの非有意、携帯は負で有意度が低くな

っている。ここからは、IT資本と一般資本の代替関係が、PCにおいてはある程度関わっていると見ることができ、人的資本との補完関係があることが推察される。

(4)開発途上国サンプル(全サンプルから OECD加盟国を除いたもの)

.688squared-R Adjusted.727squared-R

(.336) (5.294) (1.103) (.708) (9.457)

)ln(788.1ln838.ln504.ln446.305.11)/ln( 132

==

++−+++= δjthpj nasssLY

.845squared-R Adjusted.864squared-R

(.249) (8.814) (2.515) (1.436) (13.385)

)ln(617.ln560.ln752.ln695.148.11)/ln( 232

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.532squared-R Adjusted.593squared-R

(.383) (4.169) (1.910) (.790) (8.243) )ln(883.1ln246.ln040.1ln597.944.12)/ln( 332

==

++−+++= δjthpj nasssLY

付90

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.953squared-R Adjusted.959squared-R

(.264) (15.166) (3.244) (1.621) (23.753)

)ln(014.1ln777.ln700.ln463.993.11)/ln( 432

==

++−++−= δjthpj nasssLY

.973squared-R Adjusted.978squared-R

(3.940) .861Oildum

(4.126) (17.318) (4.008) (.018) (31.641)

)ln(824.1ln718.ln653.ln453.031.12)/ln( 432

==

+

++−+++= δjthpj nasssLY

・ 開発途上国サンプルにおいても、IT 要因として PC を入れたものの結果が最も良く、携帯普及率がそれに次ぐ。ネットホストを入れたものの結果は良くない(アジアサン

プルと同様)。 ・ PC と携帯普及率を入れた推計においては、人的資本要因と IT 要因は正で有意となっており、これらの要因が経済成長に資することが見て取れる。しかし、その他の推計

では、IT 要因は全て正で有意なものの、人的資本要因の有意度は低い(アジアサンプルと同様)。

・ 一般資本要因に関しては、電話とネットホストを入れた推計では符号は正であるもの

の非有意、PCと携帯を入れた推計においては負で有意度が低くなっている。ここからは、IT資本と一般資本の代替関係が、PCや携帯においてはある程度関わっていると見ることができ、人的資本との補完関係があることが推察される。

付91

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2.3 Pohjola(2000)型2 ・ 推計式は以下の通り。各生産要素と一人当り GDP成長率との関係を見ることを目的とする。推計は通常最小自乗法で行った。

( ) ( )( ) ( ) ( )( )

( ) ( ) ( )( ) jjjhp

j

hjh

pjp

jj

LYnas

ssALYtLtY

εθδβααα

θβ

αθ

βα

θβ

αθ

ττ

τ +−++−

++−

−+

−+

−+=−

00lnln1

ln1

ln1

ln1

00lnln

・ 0地点は 97年、t地点は 99年。 ・ 5.0=+ δa とおく。 ・ 説明変数の定義は 2.2と同様。

(1)全サンプル

.237squared-R Adjusted.299squared-R

(4.186) (1.748)

))97(/)97(ln(130.)ln(230.(3.622) (1.396) (.176) (4.380)

ln142.ln104.ln016.642.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 132

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.099squared-R Adjusted.173squared-R

(2.643) (1.453)

))97(/)97(ln(128.)ln(168.(2.060) (2.315) (.759) (3.137)

ln066.ln188.ln086.733.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 232

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

付92

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.185squared-R Adjusted.253squared-R

(3.755) (.153)

))97(/)97(ln(077.)ln(006.(2.877) (.685) (.946) (3.062)

ln029.ln050.ln085.992.))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 332

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.180squared-R Adjusted.250squared-R

(3.469) (1.519)

))97(/)97(ln(208.)ln(224.(3.392) (.975) (.347) (3.646)

ln175.ln087.ln038.492.2))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

−++−

+

+−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.271squared-R

(1.112) (3.647) (1.410)

139.))97(/)97(ln(226.)ln(252.(3.569) (1.008) (.247) (3.818)

ln189.ln090.ln027.690.2))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 32

=

+−++−

+

.185squared-R Adjusted =

+−=−

OildumLYna

sssLYLY

jj

thpjj

δ

(1.876) (1.042) ))97(/)97(ln(036.)ln(178.

(1.856) (.246) (2.428)

ln153.ln025.807.))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 32

−++−

++=−

jj

hpjj

LYna

ssLYLY

δ

4

(参考)IT資本を除いたMankiw, Romer, Weil型

.094squared-R Adjusted.182squared-R

==

付93

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・ Pohjola型で基本となるこのモデルにおいては、基本的には IT変数に関しては全て正で有意な関係となった。しかし、人的資本要因に関しては、携帯を入れた推

計においてのみ正で有意となったものの、その他においては正ではあるものの有

意な結果を得ることはできなかった。なお、一般資本要因に関しては、符号は負

であり、全ての推計で有意な結果を出すことができなかった。決定係数は全ての

推計において高くない。 ・ 一般資本要因に関しては、他の要因間との関係によるものと思われる。 ・ なお Pohjola(2000)においても、OECD 以外の国を含んだ推計においては、一般資本以外の説明変数で有意な結果が出ていない。

(2)アジア+APEC

.240squared-R Adjusted.445squared-R

(3.270) (.920)

))97(/)97(ln(151.)ln(260.(3.096) (1.042) (.158) (3.270)

ln165.ln119.ln024.943.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 132

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.101squared-R Adjusted.225squared-R

(2.437) (1.123)

))97(/)97(ln(174.)ln(216.(2.057) (2.001) (.686) (2.760)

ln099.ln245.ln128.328.2))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 232

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.132squared-R Adjusted.256squared-R

(2.566) (1.156)

))97(/)97(ln(107.)ln(053.(2.460) (.587) (.359) (2.123)

ln038.ln070.ln055.359.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 332

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

付94

Page 97: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

.299squared-R Adjusted.403squared-R

(3.694) (.521)

))97(/)97(ln(360.)ln(466.(3.685) (1.764) (.384) (3.778)

ln279.ln251.ln064.453.4))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.429squared-R Adjusted.535squared-R

(2.497) (4.794) (.886)

426.))97(/)97(ln(499.)ln(764.(4.767) (2.576) (.358) (4.872)

ln363.ln345.ln057.158.6))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

+−++−

+++=−

OildumLYna

sssLYLY

jj

thpjj

δ

・ IT 変数に関しては正で有意な関係となった。しかし、人的資本要因に関しては、携帯および PC を入れた推計においては正で有意となったものの、その他においては正ではあるものの有意な結果を得ることはできなかった。なお、一般資本要

因に関しては、符号は負であり、全ての推計で有意な結果を出すことができなか

った。決定係数は全ての推計において高くない。

(3)アジアサンプル

.231squared-R Adjusted.378squared-R

(2.127) (.080)

))97(/)97(ln(094.)ln(509.(2.104) (1.783) (.059) (2.772)

ln106.ln184.ln799.508.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 132

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

付95

Page 98: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

.164squared-R Adjusted.323squared-R

(1.856) (.081)

))97(/)97(ln(118.)ln(228.(1.643) (2.495) (.661) (2.505)

ln070.ln265.ln107.853.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 232

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.188squared-R Adjusted.351squared-R

(2.284) (.553)

))97(/)97(ln(077.)ln(028.(2.548) (.819) (.814) (2.339)

ln045.ln078.ln095.182.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 332

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.187squared-R Adjusted.358squared-R

(2.152) (.107)

))97(/)97(ln(241.)ln(382.(2.216) (1.734) (.438) (2.410)

ln204.ln255.ln077.268.3))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.207squared-R Adjusted.416squared-R

(1.177) (2.476) (.097)

226.))97(/)97(ln(316.)ln(556.(2.508) (1.993) (.077) (2.704)

ln242.ln299.ln015.167.4))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

+−++−

+++=−

OildumLYna

sssLYLY

jj

thpjj

δ

付96

Page 99: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

(参考)IT資本を除いたMankiw, Romer, Weil型

.093squared-R Adjusted.236squared-R

(1.248) (1.381) ))97(/)97(ln(044.)ln(257.

(1.570) (.326) (1.736)

ln201.ln056.034.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 32

==

+++−

++=−

jj

hpjj

LYna

ssLYLY

δ

・ サンプルをアジアに限った推計においても、結果は全サンプルの時と同様である。

基本的には IT変数に関しては正で有意な関係となった。しかし、人的資本要因に関しては、携帯および PC を入れた推計においては正で有意となったものの、その他においては正ではあるものの有意な結果を得ることはできなかった。なお、

一般資本要因に関しては、産油国ダミーを入れても符号は負であり、全ての推計

で有意な結果を出すことができなかった。決定係数は全ての推計において高くな

い。

(4)開発途上国サンプル(全サンプルから OECD加盟国を除いたもの)

.274squared-R Adjusted.395squared-R

(2.472) (1.011)

))97(/)97(ln(127.)ln(583.(3.032) (1.103) (.053) (2.811)

ln172.ln134.ln889.798.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 132

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.141squared-R Adjusted.290squared-R

(1.989) (1.014)

))97(/)97(ln(091.)ln(023.(2.578) (.713) (.653) (1.894)

ln043.ln092.ln112.296.1))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 332

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

付97

Page 100: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

.398squared-R Adjusted.507squared-R

(3.680) (.515)

))97(/)97(ln(382.)ln(480.(3.950) (2.000) (.762) (3.911)

ln324.ln292.ln136.842.4))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

−++−

++−=−

jj

thpjj

LYna

sssLYLY

δ

.463squared-R Adjusted.585squared-R

(1.786) (4.175) (.666)

369.))97(/)97(ln(517.)ln(001.(4.531) (2.523) (.041) (4.379)

ln398.ln361.ln759.424.6))97(/)97(ln())99(/)99(ln( 432

==

+−++−

++−=−

OildumLYna

sssLYLY

jj

thpjj

δ

・開発途上国サンプルにおいても、全サンプル、アジアサンプルと同様な結果となる。

付98

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2.4 トランスログ型1 トランスログ関数に制約条件を用いず、通常最小自乗法による推計を行なった。ここに

おける被説明変数は労働力人口当り GDPである。 (1)全サンプル

.34849slopes) zerostatistic(-F.899squared-R Adjusted

917.squared-R

(3.119) (1.095) (.942)

lnln837.lnln540.ln1.160ln (1.000) (3.707) (1.153)

)ln(062.)ln(090.2)1.280(ln (3.527) (2.912) (.263) (.343)

ln083.3ln243.9ln465.1290.2)/ln(

131232

21

23

22

132

==

=

+−+

+−−

+−−−=

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ssssss

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( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :電話普及率 2ps 3hs 1ts

.37459slopes) zerostatistic(-F.915squared-R Adjusted

930.squared-R

(1.014) (.950) (.544)

lnln144.lnln191.lnln.534 (1.506) (1.864) (.063)

)ln(030.)ln(974.)ln.067( (1.724) (1.255) (.025) (.695)

ln933.ln136.4ln122.584.4)/ln(

232232

22

23

22

232

==

=

+−+

+−−

+−−=

thtphp

thp

thp

ssssss

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sssLY

( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :携帯普及率 2ps 3hs 2ts

付99

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.9048slopes) zerostatistic(-F.597squared-R Adjusted

673.squared-R

(.435) (.726) (.289)

lnln106.lnln285.lnln.685 (1.329) (.960) (1.591)

)ln(027.)ln(107.1)ln2.854( (.797) (.628) (1.218) (.012)

ln645.ln479.4ln985.10175.)/ln(

333232

23

23

22

332

==

=

+−−

+−−

+−−−=

thtphp

thp

thp

ssssss

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sssLY

( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :ネットホスト普及率 2ps 3hs 3ts

.398106slopes) zerostatistic(-F.953squared-R Adjusted

962.squared-R

(1.370) (.324) (.431)

lnln245.lnln108.lnln.550 (1.654) (.194) (.931)

)ln(040.)ln(113.)ln.722( (.975) (.315) (1.009) (1.184)

ln495.ln821.ln456.4523.5)/ln(

434232

24

23

22

432

==

=

−+−

++−

+−−=

thtphp

thp

thp

ssssss

sss

sssLY

( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率 2ps 3hs 4ts

.30365slopes) zerostatistic(-F.923squared-R Adjusted

938.squared-R

(.490) (.565) (.293) lnln119.lnln028.lnln.055

(1.178) (.077) (.011) )ln(716.)ln(052.)ln.289(

(.452) (.225) (.472) (1.658) ln302.ln789.ln285.643.8)/ln(

4343

24

23

2

43

==

=

−++

+−−

+−+=

thth

th

th

sssKsK

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付100

Page 103: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

・K:資本ストック変数8、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率 3hs 4ts

・ IT 要因としては、PC 普及率を入れたものが最も良好な結果となった。携帯普及率、電話普及率に関しても結果は良好であり、ネットホストに関しては、やや劣

る結果となった。 ・ IT要因として PCを入れた推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は正であり補完関係、ITと人的資本の係数は負であり、代替的と見なすことができる。ただし、両方とも非有意である。

・ ただし、IT要素として PC以外を入れた推計の交差項においては基本的に上記と逆の関係となっている。電話普及率を IT 要素とした推計においては、IT と人的資本の関係が有意な補完関係、ITと一般資本は有意度が低いながらも代替関係となっていることが見て取れる。

(2)アジア+APEC諸国

24.633slopes) zerostatistic(-F.880squared-R Adjusted

917.squared-R

(2.728) (1.285) (1.703)

lnln994.lnln798.ln2.658ln (.267) (3.687) (.314)

)ln(023.)ln(600.2).450(ln (2.868) (2.494) (1.110) (.708)

ln952.2ln516.9ln913.8189.6)/ln(

131232

21

23

22

132

==

=

+−+

+−+

+−−=

thtphp

thp

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ssssss

sss

sssLY

( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :電話普及率 2ps 3hs 1ts

8 ここで資本ストック変数は各国のフロー変数から、多くの国で統計を採ることができる 1992年から

2000年の数値を用い作成している。また、実質化においては、各国各年度の GDPデフレータを用いている。なお、作成に際し通常は除却率を用いる(前期のストックの一定部分が除却されたものに、今

期のフローが加わる形でストック変数が作成される)が、今回は簡単化のため除却率を 0としている。

付101

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.62503slopes) zerostatistic(-F.902squared-R Adjusted

932.squared-R

(1.002) (1.008) (.739)

lnln229.lnln250.lnln.959 (.768) (1.837) (.662)

)ln(027.)ln(220.1)ln1.066( (1.553) (1.150) (.667) (1.095)

ln095.1ln456.4ln917.4101.9)/ln(

232232

22

23

22

232

==

=

+−+

+−+

+−−=

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thp

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sssLY

( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :携帯普及率 2ps 3hs 2ts

.5888slopes) zerostatistic(-F.709squared-R Adjusted

803.squared-R

(1.820) (.732) (1.321)

lnln253.lnln242.lnln.3993 (.157) (1.891) (.972)

)ln(208.)ln(210.2)ln2.218( (1.046) (.725) (1.389) (1.115)

ln703.ln559.5ln909.16936.18)/ln(

333232

23

23

22

332

==

=

+−+

+−+

+−+=

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thp

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( ) 内は t値

・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :ネットホスト普及率 2ps 3hs 3ts

.16773slopes) zerostatistic(-F.960squared-R Adjusted

973.squared-R

(.259) (.839) (.913)

lnln050.lnln310.lnln.5061 (.215) (1.251) (1.722)

)ln(630.)ln(898.)ln1.791( (.840) (.883) (1.408) (2.633)

ln459.ln529.2ln124.9477.14)/ln(

434232

24

23

22

432

==

=

+−+

+−+

+−+=

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( ) 内は t値

付102

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・ :資本形成/GDP比(98-00)、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率 2ps 3hs 4ts

.01638slopes) zerostatistic(-F.922squared-R Adjusted

947.squared-R

(.271) (.032) (.125) lnln081.lnln204.lnln.026

(.340) (.240) (.532) )ln(018.)ln(190.)ln.017(

(.919) (.014) (.414) (1.987) ln863.ln059.ln308.275.13)/ln(

4343

24

23

2

43

==

=

++−

−−+

+−−=

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th

th

sssKsK

ssK

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・K:資本ストック変数、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率 3hs 4ts

・ IT 要因としては、PC 普及率を入れたものが最も良好な結果となった。携帯普及率、電話普及率に関しても結果は良好であり、ネットホストに関しては、やや劣

る結果となった。 ・ IT要因として PCを入れた推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと人的資本の係数は正であり、補完的と見なすことができる。ただし、両方とも非有意である。

・ なお、IT要素として PC以外を入れた推計の交差項においても基本的に上記と同様の関係となっている。電話普及率を IT 要素とした推計においては、IT と人的資本の関係が有意な補完関係、ITと一般資本は低いながらも有意な代替関係となっていることが見て取れる。

(3)アジアサンプル

.41013slopes) zerostatistic(-F.842squared-R Adjusted

910.squared-R

(2.320) (1.610) (1.509)

lnln014.1lnln238.1lnln.7582 (.970) (3.125) (.389)

)ln(114.)ln(520.2)ln.766( (2.337) (2.002) (.878) (.698)

ln879.2ln741.8ln836.8240.7)/ln(

131232

21

23

22

132

==

=

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+−+

+−+=

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付103

Page 106: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

.30115slopes) zerostatistic(-F.860squared-R Adjusted

920.squared-R

(1.113) (.828) (.127)

lnln426.lnln251.lnln.233 (.319) (1.400) (.430)

)ln(019.)ln(281.1)ln1.083( (1.645) (1.054) (.232) (.752)

ln634.1ln912.4ln710.2166.8)/ln(

232232

22

23

22

232

==

=

+−+

+−+

+−+=

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ssssss

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.2206slopes) zerostatistic(-F.701squared-R Adjusted

836.squared-R

(.779) (.871) (.554)

lnln217.lnln409.lnln.1712 (2.390) (1.828) (1.074)

)ln(089.)ln(265.2)ln3.497( (2.252) (1.696) (1.089) (.939)

ln066.2ln220.16ln074.22246.25)/ln(

333232

23

23

22

332

==

=

+−−

+−−

+−−−=

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thp

thp

ssssss

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.62047slopes) zerostatistic(-F.957squared-R Adjusted

977.squared-R

(.101) (.849) (.161)

lnln025.lnln385.lnln.368 (1.854) (.189) (.297)

)ln(100.)ln(188.)ln.499( (1.526) (.386) (.465) (.823)

ln112.1ln315.1ln977.4820.5)/ln(

434232

24

23

22

432

==

=

+−−

+−−

+−−=

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thp

thp

ssssss

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付104

Page 107: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

.39418slopes) zerostatistic(-F.867squared-R Adjusted

938.squared-R

(.854) (.307) (.766) lnln591.lnln025.lnln.295

(.479) (.622) (.055) )ln(037.)ln(801.)ln.232(

(1.153) (.028) (.748) (1.838) ln200.2ln153.ln930.092.19)/ln(

4343

24

23

2

43

==

=

+−−

−−+

++−=

thth

th

th

sssKsK

ssK

ssKLY

3hs 4ts

)(185.)ln1.701()ln4.784( (.949) (.931) (1.386) (1.815)

716.4ln268.10ln820.62020.56)/ln(

223

22

32

−+−

−−−=

Factorss

FactorssLY

hp

hp

・K:資本ストック変数、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率

・ IT 要因としては、PC 普及率を入れたものが最も良好な結果となった。携帯普及率、電話普及率に関しても結果は良好であり、ネットホストに関しては、やや劣

る結果となった。これは全サンプルと同じ傾向である。 ・ IT要因として PCを入れた推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと人的資本の係数は正であり、補完的と見なすことができる。ただし、両方とも非有意である。

・ なお、IT要素として PC以外を入れた推計の交差項においても基本的に上記と同様の関係となっている。電話普及率を IT 要素とした推計においては、IT と人的資本の関係が有意な補完関係、ITと一般資本は低いながらも有意な代替関係となっていることが見て取れる。(これらの結果も全サンプルと同様である)

次に、IT要素として、主成分分析による IT総合指標(Factor)を用いた推計を試みた。

結果は以下の通りである。なお、当指標は負であるほど IT化が進んでいることを表すように作られている。 交差項をみると、IT要因と一般資本要因、IT要因と人的資本要因ともに補完的となって

いるものの、有意ではない。

046.10slopes) zerostatistic(-F.828squared-R Adjusted

919.squared-R(.392) (.782) (1.375)

ln233.ln994.1lnln294.41 (1.147) (.481) (1.074)

3232

==

=

−−− FactorsFactorsss hphp

付105

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(4)開発途上国サンプル(全サンプルから OECD加盟国を除いたもの)

.29513slopes) zerostatistic(-F.822squared-R Adjusted

889.squared-R

(2.444) (1.096) (1.442)

lnln002.1lnln804.lnln.4732 (.744) (3.378) (.154)

)ln(080.)ln(591.2)ln.268( (2.878) (2.270) (.856) (.558)

ln362.3ln714.9ln604.7508.5)/ln(

131232

21

23

22

132

==

=

+−+

+−+

+−+=

thtphp

thp

thp

ssssss

sss

sssLY

.92915slopes) zerostatistic(-F.848squared-R Adjusted

905.squared-R

(.488) (.770) (.831)

lnln134.lnln221.lnln.2321 (.739) (1.753) (.653)

)ln(032.)ln(288.1)ln.195(1 (1.047) (1.165) (.748) (.910)

ln879.ln006.5ln339.6620.8)/ln(

232232

22

23

22

232

==

=

+−+

+−+

+−+=

thtphp

thp

thp

ssssss

sss

sssLY

.6833slopes) zerostatistic(-F.512squared-R Adjusted

703.squared-R

(1.507) (.495) (.827)

lnln266.lnln211.lnln.5942 (.350) (1.654) (.688)

)ln(614.)ln(354.2)ln.828(1 (1.031) (.786) (.897) (.569)

ln855.ln769.7ln158.13659.12)/ln(

333232

23

23

22

332

==

=

+−+

+−+

+−+=

thtphp

thp

thp

ssssss

sss

sssLY

付106

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.46365slopes) zerostatistic(-F.963squared-R Adjusted

978.squared-R

(.566) (1.558) (1.189)

lnln099.lnln557.lnln.8011 (2.373) (1.918) (1.387)

)ln(093.)ln(249.1)ln.317(1 (.699) (2.082) (1.273) (1.299)

ln350.ln601.5ln566.7977.6)/ln(

434232

24

23

22

432

==

=

−−+

+−+

+−+=

thtphp

thp

thp

ssssss

sss

sssLY

.82021slopes) zerostatistic(-F.891squared-R Adjusted

933.squared-R

(.365) (.451) (.537) lnln125.lnln033.lnln.153

(.093) (.591) (.053) )ln(585.)ln(573.)ln.218(

(.967) (.366) (.481) (1.397) ln062.1ln841.1ln425.900.10)/ln(

4343

24

23

2

43

==

=

+−−

+−+

+−−=

thth

th

th

sssKsK

ssK

ssKLY

・K:資本ストック変数、 :教育公的支出/GNP比、 :PC普及率 3hs 4ts

・ IT 要因としては、PC 普及率を入れたものが最も良好な結果となった。携帯普及率、電話普及率に関しても結果は良好であり、ネットホストに関しては、やや劣

る結果となった。これは上記 2つのサンプルと同様の傾向である。 ・ ただし、IT要因として PCを入れた推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数も、ITと人的資本の係数もともに負であり代替的な関係にあると見なすことができる。ただし、後者については非有意である。

・ IT要素として PC以外を入れた推計の交差項においては、他のサンプルにおける推計と同様、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと人的資本の係数は正であり、補完的と見なすことができる。IT資本として、電話普及率、ネットホスト普及率を入れた場合の人的資本との補完関係の有意度は比較的高い。

・ 上記の点を総括すると、基本的に全てのサンプルにおいてアジアが多くを占める

ということもあり、サンプルごとの差は小さい。 ・ 基本的な関係としては、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと人的資本

付107

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の係数は正であり、補完的な関係があると見なすことができる。ここから、ITの蓄積のみならず、それを活用できるだけの人的資本育成の必要性を指摘できよう。

この点に関しては、Nishimura, Minetaki, Shirai, Kurokawa (2002)の、IT資本と高教育水準労働者の補完性の指摘とも合致する。即ち、IT投資の増加は、ITを生産的に利用できる高教育労働者への需要をより誘発する。ただし多くの推計に

おいて有意度は低くなっている。

付108

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2.5 トランスログ型2 (1)全サンプル

732.105slopes) zerostatistic(-F.948squared-R Adjusted

957.squared-R

(2.180) (4.491) (3.726) lnln100.lnln208.lnln.171

(2.863) (.655) (2.802) )ln(757.)ln.026()ln.110(

(2.205) (1.862) (3.225) (.954) ln866.ln598.ln800.1880.1ln

44

24

22

4

==

=

−++

−−−

−−+−=

tt

t

t

sLFsKLFK

sLFK

sLFKY

( ) 内は t値

・ K:資本ストック変数、LF:労働力人口、 :PC普及率 4ts

(以下で用いる資本ストック変数は各国のフロー変数より作成している。なお、作成

に際し通常は除却率を用いるが、今回は簡単化のため除却率を 0としている。) ・ 2.4 のトランスログ推計に関し、被説明変数を GDP、説明変数の人的資本要因を労働力人口、資本を資本ストックにした推計である。IT 要素としては、PC 普及率を入れている。

・ 一次項は一般資本要因は正、労働力要因と IT資本要因は負である。 ・ 推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は正であり補完関係、ITと労働力の係数は負であり代替的であり、2.4の結果と合致する。

(2)アジア+APEC諸国

771.75slopes) zerostatistic(-F.955squared-R Adjusted

967.squared-R

(2.302) (3.119) (3.437) lnln132.lnln209.lnln.186

(2.765) (.886) (1.796) )ln(102.)ln.043()ln.091(

(1.710) (1.797) (2.057) (.538) ln038.1ln734.ln582.1574.1ln

44

24

22

4

==

=

−++

−−−

−−+−=

tt

t

t

sLFsKLFK

sLFK

sLFKY

( ) 内は t値

付109

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・ K:資本ストック変数、LF:労働力人口、 :PC普及率 4ts

・ 一次項は一般資本要因のみ正である。 ・ 推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は正であり補完関係、ITと労働力の係数は負であり代替的であり、2.4の結果と合致する。

(3)アジアサンプル

756.57slopes) zerostatistic(-F.955squared-R Adjusted

972.squared-R

(2.119) (3.231) (3.190) lnln200.lnln219.lnln.205

(2.636) (.999) (1.625) )ln(114.)ln(069.)ln(086.

(1.743) (2.028) (1.957) (.435) ln039.1ln010.1ln569.1303.1ln

44

24

22

4

==

=

+−+

−−−

−−+−=

tt

t

t

sLFsKLFK

sLFK

sLFKY

( ) 内は t値

・ K:資本ストック変数、LF:労働力人口、 :PC普及率 4ts

・ 一次項は一般資本要因のみ正である。 ・ 推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと労働力の係数は正であり、補完的であり、2.4の結果と合致する。

(4)開発途上国サンプル(全サンプルから OECD加盟国を除いたもの)

102.40slopes) zerostatistic(-F.929squared-R Adjusted

952.squared-R

(2.174) (2.844) (2.630) lnln193.lnln197.lnln.178

(3.074) (.759) (1.768) )ln(141.)ln(055.)ln.105(

(1.905) (1.958) (1.993) (.590) ln175.1ln904.ln695.1837.1ln

44

24

22

4

==

=

+−+

−−−

−−+−=

tt

t

t

sLFsKLFK

sLFK

sLFKY

( ) 内は t値

付110

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・ K:資本ストック変数、LF:労働力人口、 :PC普及率 4ts

・ 一次項は一般資本要因のみ正である。 ・ 推計式の交差項についてみると、ITと一般資本の係数は負であり代替関係、ITと労働力の係数は正であり、補完的であり、2.4の結果と合致する。

・ アジアサンプルにおいては、IT資本と労働に関して有意な補完関係が見て取れる。 ・ 峰滝(2001)の日本産業の推計によれば、主要製造業において IT 資本と生産労働の代替性が見て取れる。(ただし、北欧諸国のようにテレワークという形で、む

しろ IT 化による雇用創出を実現し、IT 化の雇用削減効果を上回る結果となった国も紹介されている。)

・ 一方、Nishimura, Minetaki, Shirai, Kurokawa (2002)によれば、IT資本と高教育水準労働者の補完性を指摘している。ここから、IT投資の増加が、ITを生産的に利用できる高教育労働者への需要をより誘発すると考えられる。

・ 以上を総合すれば、IT化により労働市場は大きく変化するため、今後はそれに対応できるような人材育成、教育投資を一層重視する必要がある。

付111

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3.企業インタビュー各国編

企業インタビュー調査では、先進国企業と開発途上国企業のリンケージやビジネスモデル

の差異等の、IT化が企業行動に及ぼす影響に関する実態調査を、インタビュー調査によって実施し、定量分析では捉えられない定性的な分析に資する情報収集を行っている。 3.1 米国(インタビュー実施時期:2002年 2月上旬) 3.1.1 概要

米国の IT産業は 2000 年の半ば以降停滞期に入っている。現在の IT不況は 1999 年から 2000年前半にかけて証券市場で低コストで資金調達を行い積極的に IT関連の先行投資をしてきたインターネット関連企業、通信関連企業の財務状況悪化に伴う倒産、これらの

企業に製品を販売していたシステム設備製造業者の財務状況悪化、さらに米国全体の景気

低迷によるコンピューター関連需要の減少によるものであるという見方が一般的である。

しかし、2001 年第 4 四半期に入ってその状況は改善の兆しを見せてきている。一方、企業サイドの IT’投資は金額ベースでは減少はしているものの、コンピューター関連機器の価格下落に伴い、投資量のベースでは 2001年では 2000年から 3%の減少に留まっており、引き続き企業サイドの IT 投資は旺盛な状況にあると言える。そのため、インタビューにおいても、現在の低迷は 2000年までの ITブーム終焉後の停滞期にあるが、再び回復基調に入ると回答する人がほとんどであった。一方、電子商取引の分野では、未だ販売量全体

に占める割合は小さく、例えば一般小売業の販売総額に占めるオンライン販売の割合は

1%程度である。そのため、一時のアイデア勝負のみで利用者の利便性や何らかの付加価値を有さないオンライン企業の多くは淘汰されている。一方、B2B に関しても B2C に比して堅調であるものの、単なるオンライン調達市場のような業者をサイトに集めるだけの

ものは淘汰されてきている。 企業の IT利用は引き続き積極的であり、競争市場で生き残るためには ITを活用して労

働生産性向上、顧客サービスの改善、コスト削減を達成する必要が生じている。そのため、

企業の IT化の目的もやはりこの 3点が主要項目となっている。IT投資の中では設備投資の割合よりも人件費の割合が最大となっている。これは IT 技術者の確保と共に、従業員が新システムに対応するためのトレーニング等、人的資本の充実を企業が重視しているた

めである。また、企業の新情報システム導入の障害として挙げているのが、保守的な企業

内文化である。特に、大幅なシステム変更には利用者の抵抗が激しく、これを成功裡に収

めるためにはトップダウン方式による全社員の意識改革をする方法が採られている。企業

全体の IT 化の効果を測定している企業はインタビューでは存在しなかった。しかし、一般的な効果測定指標としては、ROI、顧客・利用者の満足度の向上、製品の早期製造・販売を指標にしている企業が多い。 米国の「New Economy」という概念における、IT導入による労働生産性上昇を通じた継続的経済成長と低インフレーションの同時達成については、通常のビジネスサイクルが

付 112

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平準化するまでには達していないものの、最近の景気停滞期での労働生産性の上昇は、米

国産業が引き続き過去からの IT 機器投資およびそれに関連する人的資本への投資からの便益を享受していることを示すものであろうと考えられる。さらにこのことを可能にして

いる米国の要因として、IT投資のほかに労働市場の流動性の高さ、資金調達の容易さおよび柔軟な教育システムの存在が挙げられる。 最後に開発途上国における IT化の必要条件を考察する。まず、ITはあくまでも何かの目的を達成するための手段であるので、その手段を有効に利用するための長期的なビジョ

ンに立った国の経済発展政策の構築が必要である。これは、IT産業育成、産業、市民の IT利用についても当てはまる。つまり、外国 IT 企業誘致による経済発展戦略を展開するためには、そのためのインフラ整備、基礎教育からの技術教育までの教育制度の充実を通じ

た優秀な労働者の育成、税制優遇措置等外国企業の参入コスト低減化等の措置を採用する

必要がある。これらの措置は短期間では達成されないので、そのために国としての長期的

戦略に基づく措置が必要である。国内の IT 産業育成も同様であり、教育制度の充実を通じた優秀な労働者の育成、インフラ整備、国内産業を育成するための R&D 投資、インキュベータの設立、製品販売市場の開拓等、政府による国内産業育成政策が重要な鍵となる。

一般国民の IT利用については、最大の障害は ITリテラシーおよびインフラ、特に通信インフラの未整備であろう。そのためには、基礎教育および生涯学習を通じた全国民に対す

る IT リテラシー向上のための方策や、通信事業の開放を通じた電話料金の低下等の措置が必要となる。 3.1.2 IT産業の動向

米国の IT産業は 80年代後半から 90年代前半にかけてコンピュータハードウェア、ネットワーキング産業を中心として急成長した。この急成長を支える要因としては、コンピ

ュータの小型化、価格低下、マイクロソフト・ウィンドゥズの誕生による利用者の利便性

向上、高度マイクロチップの開発等が挙げられる。95年前後に一時その成長は緩和されたが、90 年代後半に再びソフトウェア、インターネットを中心にして年平均 40%の急成長を遂げた経緯がある。しかし、2000 年の半ば頃以降、その成長がマイナスに転じ、2001年もその傾向が続いている。2001年には IT機器への投資は 16%減、コンピュータ周辺機器は 29%の減であり、ソフトウェアについては 3%の減に留まっている9。 現在の IT不況は、証券市場における IT関連企業の株価バブルがはじけ、これまで株式市場で資金調達をして過剰な設備投資を実施してきたインターネット関連企業、通信関連

企業の財務状況悪化、これらの企業の設備投資に依存してきた設備・システム製造業者の

著しい業績悪化、さらに米国全体の景気減速に伴うコンピュータ需要の低迷が相俟って、

IT業界全体が深刻な不況に突入しているというのが一般的な意見である。 ただし、2001 年の第 4 四半期のデータを見ると状況は少し変化してきているようであ

る。つまり、IT全体の生産は 9月から 12月までの間にプラス 3%の成長となっている。金額ベースで見ても、2001年の 1月から 9月の間には 33%の減少であったが、10月、11

9 Department of Commerce (2002). “Digital Economy 2002”.

付 113

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月にはほぼ横這いとなっており IT不況が終わりに近づきつつある感がある。

IT製品は性能が飛躍的に上昇する一方、価格が下落するという特徴がある。例えば、2001年の第 4 四半期ではコンピュータおよび周辺機器に対する投資は US804 億ドルで前年同期比 20%減となっているが、同時期に価格が 30%下落していることから、実際の投資ベースで見ると、2001年の第 4四半期では 2001年の 1月から 9月よりも 14%多くの製品が販売されていることになる。そのため、IT に対する投資全体でみると、2001 年の実質IT投資ベースは、2000年からは 3%減少したに過ぎず、1999年の水準からは 16%増加していることになり10、米国ビジネスセクターは低率ではあるが引き続き ITへの投資をしていることが判る。 インタビュー調査でも、IT産業は現在停滞期に入っているが、これはある意味で循環的な短期間の下降期であり、いずれ近いうちに上昇に向かって、これまでのような急速な成

長ではないものの、成長を続けていくという見解が多かった。これはほとんどの米国企業

には何らかの情報通信技術が導入され、ビジネスの様々な分野で重要な役割を果たしてお

り、企業が競争力を維持するためには情報通信技術の利用は不可欠であるという考えに基

づくものである。 電子商取引の分野では、一時のドットコム・ブームは過ぎ去り、多数の倒産が発生して

いる。Webmergers.comによれば、図表 3-1のように 200年 1月から 2002年 1月の間にインターネット企業は 788社が倒産していると報告されている。特に倒産件数は 2000年の後半から著しい。電子商取引を実施している企業がどれだけ存在するかの統計は存在し

ないため、正確なデータは不明であるが、Webmergers.comによればベンチャーキャピタル等から資金提供を受けているインターネット企業は少なく見積もっても 7,000~10,000存在すると推計されている。つまり、インターネット企業の約 10%程度が倒産している計算になる。

図表 3-1 ドットコム企業の倒産件数(2000年 1月~2002年 1月)

0

10

20

30

40

50

60

70

Jan

-00

Feb-00

Mar

-00

Apr-

00

May

-00

Jun-00

Jul-

00

Aug-

00

Sep-00

Oct-

00

Nov-

00

Dec-00

Jan

-01

Feb-01

Mar

-01

Apr-

01

May

-01

Jun-01

Jul-

01

Aug-

01

Sep-01

Oct-

01

Nov-

01

Dec-01

Jan

-02

出所:webmergers.com

ベンチャーキャピタルからインターネット関連企業に対する旺盛な資金提供が、インタ

ーネット関連企業の増加をもたらしている要因でもあるが、その状況も 2000 年の半ば以降変化してきている。図表 3-2が示すように、ベンチャーキャピタルからのインターネッ

10 同掲

付 114

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ト関連企業への資金提供は 2000年第 2四半期から減少を始め、2001年の第 4四半期には2000年第 1四半期の約 80%以下の資金しか提供されていない。また、図表 3-3に示すように、ベンチャーキャピタルから資金提供を受けているインターネット関連企業の内訳を

見ると、資金の大半がインフラ企業と他の企業に商品、サービスを提供する企業に対して

提供されており、電子商取引企業の占める割合は従来からそれほど高いシェアでは無かっ

たが、それが激減している(1999年の 10%から 2001年の 1%)。一方、ソフトウェア企業については、総額は減少しているものの、そのシェアは上昇している(2000 年の 23%から 2001年には 31%)。 これらの要因は、電子商取引企業がアイデア勝負で次々と設立され、株価の上昇に乗じ

て IPOで低コストの資金調達を行い多額の設備投資を実施してきたが、電子商取引、特にB2Cの分野では、データから判断すると、一部のセクターを除いて販売総額に占めるオンラインセールスの部分がそれ程増加していないことも、ベンチャーキャピタルの資金が向

いていないことの要因として挙げられる。例えば、米国商務省統計局の資料では小売業者

の販売に占めるオンラインセールスの割合は増加傾向にあるものの 2001 年の第 4 四半期時点で 1.2%に過ぎない11。

図表 3-2 インターネット関連企業向けベンチャー投資の推移(単位:10億ドル)

$4.2$7.6 $9.0

$16.8

$23.1$20.9

$18.4$14.3

$8.2$5.9 $4.5 $3.7

$2.7

$1.7

$2.7 $2.5

$2.6$2.1$2.7

$2.4

$3.7

$3.9

$3.3$4.0

$0.0

$5.0

$10.0

$15.0

$20.0

$25.0

$30.0

1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q

1999 2000 2001

出所:www.vi.com

単位:10億ドル

インターネット企業向け その他

11 www.census.gov/mrts/current.html

付 115

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図表 3-3 インターネット関連企業向けベンチャーキャピタル投資(単位:10億ドル) 1998 1999 2000 2001 Internet Dimension

Business Services $3,525 $15,338 $31,797 $6,337

Content $431 $1,942 $2,356 $510 Electronic Commerce $584 $4,114 $1,944 $226 Infrastructure $1,372 $4,631 $14,095 $6,674 ISPs $1,080 $3,679 $8,946 $1,617 Software/Database $2,723 $7,892 $17,542 $6,969

Total Internet Financings $9,716 $37,596 $76,681 $22,333 All Financings $17,553 $47,154 $91,611 $32,129

% of Amount Raised Overall 55% 80% 84% 70%

出所:www.vi.com その一方で、米国商務省統計局「1999 Annual Trade Survey12」によれば、製造業者お

よび卸売業者の電子商取引による取引高の割合はそれぞれ 12%および 5.3%と比較的高いものになっており、一般個人を対象とする電子商取引よりも高い利用率を示している。そ

の中でも、製薬業者および輸送機器製造業者については、それぞれ 32.3%および 20.8%と高い比率でオンラインによる販売が進んでいる。特にこれらの業者は、インターネットに

よる取引が始まる以前から、Electronic Data Exchange (EDI)を利用したオンラインによる商取引を実施していた産業であり、これらの産業では現在でも、インターネットではな

く EDIが電子商取引ネットワークの中核となっている。 今回のインタビューでも、電子商取引産業はリスクが高く、特に、アイデアのみでの商

売は消滅していく傾向にあり、生き残っていく企業は、ユーザーの利便性を十分に考慮し

た商品設定、利用者にとって使い勝手のよいコンテンツ、サイト運営を実施している企業

であり、或いは、実際に店舗を有してプレゼンスを維持しながらも、別の販売チャネルを

活用するマルチ・チャネル小売業者は堅調に推移しているとのことであった。例えば、アマ

ゾン・ドットコムのように、ようやく最近になりキャッシュフローが黒字になった企業が

これまで生存可能であった要因は、どこで居住していても都会で大きな本屋が近くにある

人々と全く同様に本が手に入るという販売方針が利用者の利便性を高めたこと、商品の多

様化を図っていること、常に最新のウェブ技術を導入して多様な情報提供に努めているこ

とによるものである。つまり、電子商取引の分野では、ユーザーの便益を高めるともに、

情報提供量の豊富さ、高い利用性を有するサイトが生き残っているのではないかと考えら

れる。 B2Bにおいても、B2Cに比して堅調ではあるものの、オンライン上での調達市場等、単

に種々の商品・部品メーカーが集結して販売するだけのサイト・コンテンツでは、業者は

費用面のメリットよりも販売されている物の質、価値を重要視する傾向にあるため、それ

らが確認できないサイト運営では、費用面でのメリットが存在しても失敗に終わる傾向に

ある。 12 U.S. Bureau of the Census, E-Stats, March, 2001, http//www.census.gov/estats.

付 116

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3.1.3 企業の IT利用動向およびその効果 (1)企業の IT利用動向 現在、多くの民間企業が、調達、製造、販売、事務処理等多様なビジネスセグメントに

おいて多様な情報システムを活用している。また、企業規模、産業によって、その導入内

容、導入の規模、目的、効果は異なる。しかし、今や情報技術の導入は製造業、販売業、

サービス業を問わず進んでおり、企業の競争力を維持するためには不可欠な存在となって

いる。また、新技術を他よりも早く導入することが、競争を勝ち抜くための手段の一つと

もなってきている13。 ①IT化の目的 本インタビュー調査における IT の利用状況に関しては、インタビュー数に限りがあるため IT利用状況の全体像を把握することは困難であった。しかし IT導入に関して共通なのは、その目的が労働生産性向上、顧客サービス改善、コスト削減等にあるという

ことであった。例えば CITIBANK では、オンライン・バンキングの推進理由は、オンライン・バンキング利用者は窓口利用者よりも銀行にとって多くの利益を残す顧客であ

ること(保有商品数の多さ等)、窓口や顧客サービスのコストを削減する効果、およびオ

ンライン・バンキングのコンテンツを充実させることによる顧客サービスの向上であっ

た。また、アイルランドの DCC(コンピュータ等のディストリビューター)では、従来の電話、紙ベースでの注文受注、配送から、仕入先、配達先、配送トラック間のネット

ワーク化により DCC 自体の事務の効率化が進んだことのみならず、顧客への注文・配送システムの販売という新たな業務展開も可能となり、顧客サービス、利益機会の拡大

にも貢献している。なお、米国の製造業のプラントの 90%がインターネット等のネットワークで連結され、オンラインでの注文受注を可能として事務の効率化を図っている14。 このような状況は、Informationweek 500 の調査でも判明している。この調査では、

顧客サービスの改善、労働生産性の向上、ビジネスプロセスの近代化が最近のビジネス

の最優先事項であると報告されており、IT化はこのプライオリティをサポートするものであると考えられる(図表 3-4)。

13 Informationweek500,September 2001.Informationweek 500は、電話、ファクス、電子メール等を通じて全米内で ITの革新的なユーザー500社を確認し、その中の 250社に対して ITの利用状況等に関する調査をしたものである。www.informationweek.com

14 U.S Department of Commerce, “Digital Economy 2001”.

付 117

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図表 3-4 ビジネスプライオリティ(%)

96

96

94

93

91

91

91

90

89

87

82 84 86 88 90 92 94 96 98

顧客サービス改善

労働生産性向上

ビジネスプロセスの近代化

顧客のニーズ

従業員間の協力促進

顧客との協力関係強化

熟練スタッフの確保

IT投資からの収益確保

顧客データ整理

調達、製造、販売コスト削減

出所:Informationweek500、September 2001

②IT導入に対する障害

導入している情報技術についても、産業、企業規模、IT化の進展状況等により異なる

が、初期段階では、まず、インターネット、電子メール等の従業員間のネットワーク化

が実施され、徐々に情報化を推進しているようである。新規技術の導入の際に一番の障

害となり得る事項は、従業員のマインド或いは会社文化である。保守的な会社文化では

新技術導入は社員からの抵抗が激しい。また、システム自体を大きく変更するような IT

化についても導入は容易ではない。この障害を克服する方法として、社長のトップダウ

ンによる IT化の進展を採用する場合と、従業員が実際に使ってみて徐々に浸透させてい

く2つの方法が実践されている。アイルランドの IONA Technologyは社内ネットワーク

システムのフレームワークを製造販売している会社であるが、そのインタビューによれ

ば、システムの大幅な変更の場合にはトップの強い指導力がなければその IT化は成功し

ないと述べている。また、GE の E-ビジネス戦略成功の一つの教訓として、Line 56

Magazineによれば、当時 CEOの Jack Welchの強い指導力の下で、E-Businessを信じ、

全レベルの従業員が会社の戦略に合致する行動を採る文化を構築するための革新的なチ

ームを利用したことが挙げられている。このように大幅な IT化はある意味で企業文化の

変革或いはこれまでの業務手法の大幅な変更であるので、トップによる明確な戦略、ビ

ジョンの下での導入体制の構築は成功の重要な鍵となっているようである。

また、小規模の変更の場合には、むしろボトムアップのアプローチが効果的なようで

ある。例えば、Simplex.Inc では、新システム導入の際の従業員からの抵抗感を解決す

るために、そのシステムを既に利用している人々を普及グループに仕立て、従業員内で

その使用性、効果等に関する議論をして導入を進めている。最終的な使用者である従業

員が納得するものでなければその導入効果は高くならないのでこれは有効な方法である

と考えられる。

付 118

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③産業別 IT導入状況

本インタビュー調査ではどのような産業が積極的に IT を導入しているかを充分に把握することができなかった。しかし、Informationweek 500による産業別の年間売上に対する IT’向け予算の割合を見ると、通信セクター、金融サービス、銀行、コンサルティングサービスのセクターがその比率が高いことが判る(図表 3-5)。ただし、2000年と 2001年を比較した場合には、全体的に 2001年に IT向けの予算割合が減少しているセクターの方が若干多い。

IT関連予算の内訳を見ると、最大を占めているのが人件費であり、ハード・ソフトウェアの購入を上回る。これは優秀な IT 技術者の確保のほかに、従業員に対する新システムに対応するためのトレーニング等、人に対する投資が重要視されていることを示す。イン

タビューでも指摘されたが、従業員トレーニングや IT技術者の雇用は IT化による生産性向上にとって必要条件となっている。

図表 3-5 産業別 IT予算(総売上高に対する割合)

2.2

8.1

5.4

2.1

2.2

4

2.4

1.8

3.9

1.5

13.9

1.5

3.1

2.2

3.5

5.6

3.4

4.3

1.8

2.9

6.3

17.3

5.3

2.7

2

8.4

4.1

4.3

2.1

6.8

2.7

2.7

2.8

1.7

8.8

2.1

4.8

2.7

3.5

4

3.1

4.5

1.5

1.8

2

10.6

3.9

2.5

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

自動車

銀行

バイオテクノロジー/製薬

化学

建設

コンサルティング

消費者商品

配送

電器

エネルギー

金融サービス

食品

ヘルスケア

ホスピタリティ・旅行

情報技術

保険

製造業

メディア・エンターテイメント

金属、天然資源

一般小売

専門小売

通信・ISP

運輸・ロジスティクス

電気・水道

出所:Informationweek500,September 2001

2001

2000

付 119

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図表 3-6 IT関連予算の内訳

その他11%

R&D5%

ITサービス15%

アプリケーション購入18%

新製品、技術購入19%

人件費32%

出所:InformationWeek500、September 2001

(2)IT導入の効果

IT導入による効果は、その導入システム、導入目的、産業等により異なる。インタビュー調査によれば、例えば、約 19%の Fortune1000 Companyが導入していると推定されている販売員用ソフトウェアにより、販売員の日程管理の効率化、外出先からの種々の情報

入手を通じた時間ロス削減、出張費等の無駄な出費の削減が可能となる。一人当たりの削

減額が小額でも、全体で考えれば膨大なコストを削減することができる。農業部門でも ITの効果は高く、例えば、リアルタイムの天候情報収集はその日の収穫、配送、貯蔵計画の

効率的な策定に影響を及ぼしコストの削減に貢献している。ディストリビューターではネ

ットワーク、携帯技術の導入により注文受注、配送、商品仕入れに関する情報がリアルタ

イムで把握されることにより効率的な配送業務が実施できるだけでなく、仕入先、配送先

からのリアルタイムの商品注文状況、配送は顧客サービスの向上にもつながる。インター

ネット・バンキングの部門では、オンライン・バンキングの普及により顧客サービス、窓

口業務に関する運営コストの削減につながるだけでなく、顧客の多様なニーズに Onlineで対応することにより顧客サービスの改善にもつながる。 このように、それぞれの産業により、IT 導入の効果は様々であるが、前述のように IT

導入の効果は、主に労働生産性の向上、顧客サービスの改善、コスト削減に集約されてい

るようである。GEのウェブページ(www.ge.com)では、GE全体の E-Business Strategyの効果が数的に表されているので興味深い。GEは全 CEOの Jack Welchの指導力の下、全社的に IT を様々なビジネスセグメントに導入している。その効果として、製造サイドでは製造プロセスの効率化により 2001年では約 15億ドルのコストが削減され、調達サイドでは電子調達の推進(約 30%の調達をオンラインで実施)により、約 6億ドルのコスト削減を見込んでいる。販売サイドではウェブベースでのオンライン販売が 2001 年には全体の 15%になり、顧客サービスの改善につながる見通しである。例えば、GEの家電販売では、Home Depot Inc. と提携して Home Depot Incの店舗内にオンラインで家電を購入可能な Kiosk を設置し、顧客がその場で商品購入、配達日時の指定をすることができる。この注文はインターネットベースで GEの倉庫に伝達され、15分以内に顧客のオーダーが

付 120

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確認されるシステムを 2000年に構築している。そのため、GEは引き続き IT投資を増加する予定であり、2001年には 12%増の 30億ドルを IT投資に向けている15。 (3)IT導入効果測定方法

IT導入効果の測定方法として、上述のような GEの例のように定量化した形で全社的なIT の効果を測定している企業は、今回のインタビューでは確認できなかった。もちろん、新システムを導入する際にはそのプロジェクトのビジネスモデルを構築して費用対効果を

計算した上で新システムの導入をしている場合が多い。また、そのシステムが予算内であ

ること、利用者が新システムに満足していることつまり苦情数が少ないことが IT 担当者としての効果指標であると考えているようである。一般的指標としては、インタビュー企

業のほとんどが投下資本利益率(ROI)および顧客の満足度合いが効果指標となっていた。これは Informationweek 500の調査でも同様の結果が出ている(図表 3-7)。

図表 3-7 IT投資に対する便益の測定指標

80%

78%

77%

71%

65%

ROI

競争業者とのサービス、製品の質、速さの違い

顧客の満足度、リピータ-の数向上

製品、サービスを市場に提供するスピード

IT導入によるコスト削減等の財務的数値

出所:Informationweek500, September 2001

3.1.4 New Economyについて

本インタビュー調査では「New Economy」に関する質問も実施した。New Economyの定義には一般的に2つ存在すると考えられている。一つは、IT導入による生産性上昇を通じて、通常のビジネスサイクルを平準化し、恒久的な経済成長、低失業率、低インフレー

ションを同時に達成するというもの。もう一つは、ビジネスサイクルの波は存在し好・不

景気の循環はあるものの、IT導入による生産性上昇を通じて、経済成長と低インフレーションが同時に達成されるというものである。本インタビューの結果では、通常のビジネス

サイクルを平準化するほど、IT による効果は浸透していないという意見が多い。つまり、2000年から 2001年にかけての景気停滞時期において、労働生産性はその上昇のペースを落としながらも引き続き上昇していることが確認されてはいるものの、在庫・生産調整が

IT 利用により 100%効率的に実施されているわけではないためである。ただし、企業はCRM、 Just In Time等の導入により在庫コストの削減を図っているため、ビジネスサイ

15 Eweek (November 12, 2001). www.eweek.com/article

付 121

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クルの振動幅およびその期間は短縮されてきているのではないかと考えられる。しかし、

これももう少し時間が経過したいとはっきりとは証明できない。一方、ビジネスサイクル

は消滅しないものの、IT化が経済成長、低インフレ率をもたらすという定義であるならば該当するのと言えよう。米国商務省発表の「Digital Economy 200216」においても、過去

1950年以降で、2四半期連続でマイナス成長を記録した場合には、同時期の生産性も下降したが、2001年の景気低迷時には 1.9%の生産性上昇が達成されている。この経済低迷期の生産性上昇は、米国産業が引き続き過去および現在の IT 機器投資および関連する人的資本への投資からの便益を享受していることを示すものであると記されている。 このように、現実的に景気低迷期においても労働生産性が上昇している現象は、おそら

く米国の労働市場の流動性の高さ、柔軟な教育システム、資金調達の容易さに依存する点

が大きいのではないかと考えられる。そのため、本インタビューでも、米国とヨーロッパ

における IT 化の効果を比較すると、米国の方が効果が高いのではないかという意見があった。つまり、IT化による労働生産性の上昇は、別の意味では IT導入に伴い人員を削減することを意味する。そしてこの削減された人員を別の企業に移転することが可能な労働

市場の流動性の存在、IT化に対応することができるような再教育の場の存在、新規企業を設立するためのベンチャーファンド等の資金調達の可能性の高さが、景気低迷期において

労働生産性を高めつつ失業率も急激に上昇していない要因ではないかと考えられる。例え

ば、ドットコム企業の相次ぐ倒産により、ドットコム関係の失業者は 1999 年 12 月から2001年 6月までに 134,727人となっている17。しかし、「Digital Economy2002」によれば、これらの失業者の多くは新しい職場を見つけているようであり、この失業に対する米

国経済への影響はあまりないと報告している。また、2001 年 6 月以降インターネット関連企業によるレイオフは 10月を除いて毎月減少している18。 3.1.5 開発途上国への教訓

本インタビュー調査において、開発途上国の IT化推進或いは IT産業を通じた経済発展

に関する共通の見解は、教育の充実を通じた優秀な労働者の育成、通信を中心としたイン

フラ整備、政府の通信セクター政策、資金調達の多様化、種々の税制優遇措置、起業家精

神の構築等が重要であるということであった。例えば、インドではその英語教育およびそ

の優秀な人材により自国のソフトウェア産業の育成に成功している。また、アイルランド

でも高学歴を通じた優秀な労働者の存在や低法人税率が外国のハイテク企業を惹き付ける

一つの要因となっている。フィンランド、スウェーデンは高い技術力、充実した教育しシ

ステム、通信セクターの開放政策による通信コストの低減、資金調達の多様性を通じて、

世界最先端の IT国家を形成している。 これらの中で、IT産業を利用した経済発展、産業の IT利用、社会の IT利用を促進のい

ずれにも共通な条件としては基礎段階の充実を通じた教育レベル、労働者能力の向上が挙

16 U.S. Department of Commerce, Economics and Statistics Administration. (February, 2002). 17 The Industry Standard Layoff Tracker, July 26, 2001(htto://www.thestandard.com/tracker/layoffs). 18 2002年 10月は 9月 11日の事件の影響で旅行業関連でのレイオフにより増加した。E-commerce Times

(January 31, 2002), www.ecommercetimes.com/perl/story/16094.html.

付 122

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げられる。例えば、Iconceptual のインタビューでも、フィリピンでのオンライン教育用のソフトウェアを導入しようとした際、対象の利用者はコンピュータが使えないどころか、

文字も読めない等、IT化の意味が全くなく、あえなく撤退したという発言があった。教育への投資は全社会・経済活動の発展にとって不可欠な存在であり、これは IT 分野には限らない。しかし、社会での IT利用、例えば PC、インターネット利用には基礎教育の充実を通じた識字率の向上は最低条件である。また、IT産業を振興する場合にも教育レベルの高い労働者の存在は比較優位性を高めると考えられる。 以下では、社会における IT利用、産業における IT利用、IT産業育成の 3点に分けて、米国におけるインタビュー調査を通じた確認された事実を記述する。さらに開発途上国に

おける電子商取引による自国製品の販売についても最後に言及する。 (1) 社会における ITの普及 情報通信技術はあくまでも何かの目標を達成するための手段でしかなく、その効果はそ

の利用者の能力に大きく依存する。そのため、社会の中で IT を利用して何かを実施する場合には、利用者の IT リテラシーの向上が最優先事項であると考えられる。しかし、その前提条件として、基礎教育の充実を通じた最低限の教育レベルの確保が重要であり、そ

の上でコンピュータ利用に関する IT リテラシーの向上が必須である。例えば、基礎教育の徹底が不足している段階で仮にオンライン教育を導入したとしても、利用者がそれを利

用するまでに到らなければ、単なる宝の持ち腐れになってしまう。米国においても IT リテラシー向上を目的として、Technology Literacy Challenge Fund や Technology Innovation Challenge Grants等のプログラムを通じて学校におけるパソコン普及、インターネット接続向上に取り組んでいる(年間予算約 15億ドル)。これらのイニシアティブは、PC、インターネットへのアクセス向上を通じてその利用能力を高めると共に、年少期から新技術への適応能力を高めることにより、より高度な技術利用・開発に繋がる可能性

がある。 また、通信インフラの整備、通信セクターの自由化を通じた競争促進は通信料金の低下

を導き、市民の通信サービスへのアクセス向上をもたらすと考えられる。米国では、市内

電話料金は一律料金であるほか、ISPの料金も競争激化により低価格となってきている。 米国の場合、現在でも、PC やインターネット普及率はかなり高水準であるが、更なる

普及を考える場合、問題は PC へのアクセスというよりも、むしろ一般ユーザー向けのコンテンツの充実が重要であるという点も指摘された。つまり、米国では、ビジネス目的で

の PC ユーザーはほぼ充足されている状況であり、一層の普及にはビジネス目的以外のユーザー層の拡大が焦点となっている。つまり、インターネットにおいて、オンライン・バ

ンキングやゲーム、ビデオ等のエンターテイメント、政府サービス等、一般人向けのコン

テンツの充実が、PC やインタ―ネットの更なる普及を助長すると考えられる。開発途上国の場合には、それ以前に PC・インターネットへのアクセスの問題があるものの、やはり一般向けのコンテンツの充実、例えば、政府サービスのオンライン化やエンターテイメ

ント、は一般社会への PC・インターネットの普及に有効であろう。そのため、政府として、アクセスの向上(学校、図書館等公的施設への PC導入による一般へのアクセス拡大)政策を図ると共に、その内容についても一般向けの内容を充実させ、利用者の向上を図る

付 123

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べきであると考えられる。 (2)産業における IT利用 上述のように、米国企業における IT 利用は、今や企業の競争力維持のために不可欠な存在となっており、業種を問わず各企業とも積極的に何らかの情報通信技術を導入してい

る。その中でも、ネットワーク型のシステムがもたらす効果は大きいと考えられる。つま

り、企業の IT 導入主要目的である、顧客サービス改善、労働生産性向上、ビジネスプロセスの近代化を達成するためには、LAN、WAN、インターネット、ワイアレス等の何らかのネットワーク型の情報技術を導入して、取引費用、プロセス時間を削減することが必

要となるためである。これらのネットワーク型のシステム導入を開発途上国で考える場合、

その効果的導入を阻害する要因として、通信インフラの未整備、高コストが挙げられる。

ネットワーク型のシステムには、通信インフラの利用が不可欠であり、固定電話だけでな

く、ブロードバンド網、ワイアレス網等の整備を実施すると共に、通信市場の開放を通じ

た通信料金の低減化は、これらのシステム導入を促進すると考えられる。 また、ハード・ソフトウェアよりも、人件費が企業の IT 関連予算の中で最大の割合を占める。つまり、優秀な IT 関連技術者の確保および新システムに対する従業員のトレーニング付与が IT 導入の効果を発現するためには不可欠な要素であることが分かった。これは開発途上国でも同様であり、仮に IT 設備を導入してもその利用者側の利用能力向上がなければ効果はない。また、IT関連技術者の育成も、産業における IT利用を促進させるためには必要条件であると考えられる。 (3)IT産業の育成

IT産業には、従来の発展経路(第一次産業から第二次・第三次産業へと経済発展に伴ってその重心が移動していく)とは異なる成長経路を可能にするポテンシャルが存在する。

これは、ソフトウェア産業はインフラ整備が従来の産業程には必要ではなく、飛び地的な

開発が可能であるためである。例えば、インドのように国全体としては未だ貧困状況が厳

しい国でも、幾つかのサイエンスパークが世界トップレベルのソフトウェア開発を実施し、

米国に輸出している。このような現象がなぜ発生するのか。これを発生させるための政府、

民間企業の役割は何であるのか。これに関し、米国シリコンバレーの発展の経緯は一つの

教訓を提示すると考えられる。 米国のシリコンバレー地域は、50年前の果樹中心の農業地域から現在では世界最大のハイテク企業集積地域となった。その要因として挙げられるのが、産官学協調による発展の

スキームである。官サイドの役割として、電力、水道、道路等のインフラ整備、種々の税

制優遇措置、土地利用政策の変更、ビジネスインキュベーター設立による起業支援が挙げ

られる。大学サイドの役割としては、スタンフォード、バークリー、サンノゼ州立大学等、

近隣に位置する大学等からの優秀な人材輩出、大学と民間企業との提携があり、民間企業

サイドでは、シリコンバレー内外の企業間のパートナーシップ、ネットワークの構築、起

業化文化の育成等、ベンチャーキャピタル等の資金調達等がある。この他にシリコンバレ

ーの特徴としては、目前に巨大米国市場が存在することである。そのため、シリコンバレ

ー内に新規参入する企業の 90%以上が米国人以外であり、特にインド、中国、韓国人によ

付 124

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り創業された企業が多い。これの企業の多くは米国において人的ネットワーク、販売チャ

ネルを構築して、自国に戻る場合も多い。例えば、インドのソフトウェア産業の場合には、

インド起業家がシリコンバレーでソフトウェア企業を設立し米国内での販売チャネルを構

築した後、母国に戻って米国向けにソフトウェア製品を製造している。 つまり、IT産業に限らず、産業成長の主体は民間企業であるので、政府の役割はその民

間企業の活動インセンティブを高めるための環境造りであろうと考えられる。米国の場合

には、政府の周辺環境整備の下に、民間企業主導により IT 産業の成長が可能であるが、開発途上国の場合には、この民間企業が成長する土台が異なると考えられるので、政府の

役割は、民間企業主導であるにもかからわず、より高いものがあると考えられる。 Joint Venture Silicon Valley Networkによる報告書「Internet Cluster: Analysis 2000」

19は、ハイテク企業を誘致してハイテク企業クラスターを設立するために必要な条件を提

示している。これらは主に先進国を対象とした調査であるが、開発途上国が外国企業誘致、

或いは国内のハイテク企業誘致をする際の参考になると考えられる。 ① タレントの存在(高い教育レベル、熟練労働者等)。 ② 地域に中核となる企業が存在し、その企業が優秀な人材、資金、マネージメント、技

術的ノウハウ等を当該地域に呼び込み、それがインターネット企業や起業家をサポー

トする環境にあること。たとえば、アトランタの UPS、シアトルの Boeing、インド、中国の Compaq、HP、Cisco、Microsoft、IBM。

③ ベンチャーファンド等からの資金調達が容易であること。 ④ 優秀な技術者および新技術の輩出する大学が存在すること(中国の Tsing Hua

Universityは中国中に技術開発センターを設立している)。 ⑤ ハイテク企業の設立を支援する技術系の弁護士、会計士、ヘッドハンターの存在およ

び起業の際のバックオフィス、資金等を提供して起業コストを支援するインキュベー

タが存在すること。 ⑥ 域の経済成長、地元労働力の強化、生活水準の向上、インフラ整備、資金調達の多様

化促進等を実施して、クラスターを育成するための中央・地方政府の支援が存在する

こと(例えば、インドにおけるベンチャーキャピタルに関する新ルール設立のための

Securities Exchange Board of India(SEBI)の設立、英国、ドイツ等でのストックオプションにかかるキャピタルゲインの軽減・免除、中国、シンガポールのハイテクパー

ク設立、英国政府によるインキュベータへの金銭支援等)。

19 この報告書は Joint Venture Silicon Valley Networkが A.T.Kearneyと共同で、主要インターネット企業へのインタビュー調査により、インターネット企業が設立場所を選択する際の要因等を調査したも

のである。

付 125

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以上を図示すると下図のようになる。

図表 3-8 インターネットクラスターの構成要素

出所:Internet Clust

このように、ハイテク企業の推進或いはハイテク企業誘致を通じた経済成長政策を念頭

4)電子商取引 国に置いて、インターネットにより自国の安い商品を国際的に販売でき

起業文化

タレント・マネージメント・エンジニア・マーケティング

大学

・タレント・調査研究・ネットワーク サポートサービス

・ハイテク関連弁護士、会計士・インキュベーター・産業協会

投資家・ベンチャーキャピタル・顧客、ビジネスパートナーとのネットワーク

政府・税制優遇・ルール・インフラ整備

中核企業・資本・マネージメント・技術資源・ビジネスパートナー

er Analysis, 1999: A.T. Kearney Analysis

置く場合には、国内の比較優位性を十分に考慮した上で、政府の長期的ビジョンを構築

し、種々の政府のイニシアティブによる環境整備をするとともに、民間企業の海外販売先

の開拓も支援する必要があると考えられる。特に、自国内での IT 産業育成を考える場合には、教育、技術者、インフラ等の国内要因のみならず、比較優位性(例えばハードウェ

アの分野かソフトウェアか等)および市場の需要に応じた製品の選択および販売市場の開

拓が不可欠である。 (

多くの開発途上

いかという検討がなされている。しかし、本インタビュー調査では、購入者は、特に B2Bの場合には、商品の値段だけが購入の判断材料となるのではなく、それ以上に製造業者および製品の質、製品保証、仕様への適合性がより重要な判断材料となっている。この

ため、インターネット上だけはこれらを十分に判断することは不可能であろうと考えられ

る。重要なことは、その製品の質を顧客に理解させるための見本市の開催等、製品の宣伝

手段から始めるべきことである。また、既存の販売チャネルから大きく離れた販売方法は

リスクが高いので、既存の販売チャネルを維持しながら、インターネットでどのような販

売手法を採用するのか、販売戦略を十分に考慮する必要がある。また、電子商取引の場合

には、そのシステム維持者も存在することが必要である。米国においても、国内中に電子

商取引業者は散在しているものの、シリコンバレー等のシステム開発業者が集積している

ところには、電子商取引業者も集積しているのである。つまり、電子商取引業者のサポー

ティング産業の存在が重要であることを意味している。

付 126

Page 129: 【付属資料】 - JICA...2.5 トランスログ型2 付109 3.企業インタビュー各国編 付112 3.1 米国 付112 3.2 アイルランド 付127 3.3 スウェーデン 付137

3.2 アイルランド(インタビュー実施時期:2002年 2月中旬) 3.2.1 概要 アイルランド経済は 1990年代前半の深刻な経済不況から脱出し、1995年から 1999年の 5年間で年平均 9%と、先進国の中でも最高の経済成長率を達成した。2001年においても、実質 GDP成長率は世界的不況の中で 6.75%が見込まれており、2001年の EU諸国平均 1.7%成長を大きく上回る伸びを示している20。この高い経済成長率は、アイルランドに

進出して国際市場で製品を販売する海外企業、特に IT、製薬、ヘルスケア、国際商社に拠るところが大きい。その中でも、特に IT 産業は、雇用、生産、輸出の各面で多大な貢献をしている。例えば、ITセクターは 1999年には輸出総額の約 3分の 1、GDPの約 10%を構成し、80,000 人(総雇用数の 5%以下)の雇用を創出している21。また、ソフトウェ

アの輸出規模では世界最大になっている。これらの IT産業は主に外国企業が中心であり、主要外国 IT企業のほとんどがアイルランドに生産工場を有している22。 このような外国ハイテク企業主導による経済成長は、1990年代初頭の深刻な経済不況か

ら脱却するための政府が採用した経済政策に端を発する。当時のアイルランド産業は、農

業が中心であり、大量の失業率(20%程度)を抱え、産業構造のシフトが必要となっていた。そこで、Investment and Development Agency(以下 IDA)が中心となって、外国ハイテク産業のうちで、IT関連企業の主にローエンドの組立工場の誘致を積極的に行い、雇用増加を図った。外国ハイテク企業主導による経済政策は、その後の IT ブームの影響もあり、アイルランドの経済状況を著しく変化させた。1995年から 2000年までの間に年平均9%の高経済成長率を記録すると共に、失業率は実質完全雇用の状況に近い 4%以下にまで下落した。その一方で、アイルランド経済の外国 IT 企業への高い依存度を緩和するために、政府は国内産業の育成も推進し始めた。政府機関である Enterprise Ireland が IDAから独立する形で 1996 年に設立され、国内産業育成にも注力し始めている。その結果、特にソフトウェアの分野では多くの国内企業が誕生しており、2000年時点では外資系企業140社に対しアイルランド企業 760社となっている。これらの国内企業の中には、外国 IT企業で働いて技術と知識を培った後に、独立して開業するケースが多く、この点では外国

IT 企業からの Spin-off 効果も認められる。ただし、国内企業は未だ小規模であり、IT セクターにおける雇用数では圧倒的に外国企業が多く、外国企業への依存度は依然として高

い。また、外国企業のコールセンターの誘致も積極的に進めており、70社程度のコールセンターがアイルランドでヨーロッパ諸国を対象にして業務を実施している。 上述のように、外国 IT 企業のうちでハードウェア部門の生産拠点をアイルランドに誘致している企業は、主に教育・技術レベルがあまり高くない人々を雇用して、ローエンド

20 Forfas 2001 Review and 2002 Outlook Statement and Ireland-Stability Programme December

2001 Update – Department of Finance. 21 Central Bank Report, Autumn 2001. 22 アイルランドに生産工場を有する外国 IT企業としては、IBM、Intel、Hewlett-Packard、Motorola、3Com、SCI、Lucent Technology、Siebel、Ericsson、EDS、Novell、Microsoft、Oracle、SAP、CMG等が挙げられる。

付 127

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の組立作業を実施している一方、ソフトウェア関係の外国企業は、高教育・高技術レベル

の人々を雇用し、ソフトウェア開発を実施している23。 このように、外国ハイテク企業誘致による経済政策はアイルランドの高経済成長、雇用

圧力により、外国企業誘致における現在の地位を今のまま継続していくことができるどう

かは不確実である。つまり、他の国に見られるように、ローエンドの作業については、外

国企業がより低労働コストを求めて開発途上国に向かう可能性もあるので、アイルランド

が外国企業誘致に関する優位性を保つためには、現在のローエンド作業から、よりハイエ

ンドの熟練 IT 労働者へと労働者技術力の向上を図っていく必要があると共に、ブロードバンド対応等のインフラ整備、英語のみで拡大に大きく貢献してきたが、過去数年の高経

済成長率によるインフレ懸念および賃金上昇なく外国語教育にも重点を置いた教育システ

ムへの変更が必要となっている。 3.2.2 アイルランドの外国 IT産業誘致政策

1990年代初頭の深刻なアイルランド経済不況から脱出するために、政府の産業政策として、アイルランドの競争的優位性を利用した高付加価値産業、ハイテク産業をその主要産

業の一つとして採用した24。この採択の基となっているアイルランドの外国ハイテク企業

誘致に関する競争的優位性は以下であると考えられる。 ・ アイルランドの母国語が英語であること ・ 若い労働者層:アイルランドの労働者層はヨーロッパの中での一番若く、例えば、

25歳以下の人口構成は 40%以上になっている (図表 3-9参照)。 ・ 教育レベルの高さ:1992 年以降、大学進学率が 25%増加し、特に、エンジニアが

35%増、応用科学が 16%増、ビジネスが 16%増加している。また、IMD World Competitiveness Report, 2000 では、アイルランドを教育の質の点ではヨーロッパの中でもトップに属すると記している。

・ 低法人税率(10%) ・ 移民等により米国との深い関係 ・ アイルランドの労働コストは他のヨーロッパ諸国に比して低く、また、賃金は国、

労働組合、企業間での合意により低く抑えられていること(図表 3-10) ・ アイルランド人の転職率がヨーロッパ平均以下であること ・ インフラが整備されていること ・ EU市場の窓口であること ・ IT関連産業の労働組合が弱いこと

23 例えば、Intel, Ericsson, EDS、Sun Microsystems等は多くの技術者を雇用してハイレベルのソフトウェア開発をアイルランドで実施している。

24 その他の産業としては、エンジニアリング、ヘルスケア、金融サービス、バイオテクノロジーが対象となっている。

付 128

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図表 3-9 2010年における労働者人口に占める 25歳以下の割合 アイルランド 35.50% 英国 31.00% フランス 30.10% オランダ 28.70% ポルトガル 28.60% ドイツ 24.40% スペイン 24.30%

米国 34.20%

日本 25.30%

出所:United Nations

図表 3-10 製造業における時給比較 アイルランド 14.43英国 17.07フランス 17.60ドイツ 25.80オランダ 20.51スペイン 11.66米国 21.34

日本 23.64

出所:US Department of Labor, 2001 これらの競争優位性を基にして、アイルランド政府は IDA Irelandを利用して積極的に

外国企業、特に外国ハイテク企業誘致政策を展開し、雇用の創出を図ってきた。特に、ハ

イテク産業の中でも低熟練労働者の雇用を創出するために、低労働コスト地域での単純産

業、例えば、組立工場、包装等の部門で外国企業の誘致を積極的に進めてきた。それと同

時に、高学歴、高技術労働者の雇用も確保するために、ソフトウェア産業の誘致も積極的

に進めている。その中で IDAは外国企業との仲介的役割を果たし、外国企業とのヒアリング等を通じて、必要なインフラの整備等を提言すると共に、外国企業誘致に関する競争力

維持のために積極的に活動している。特に外国誘致企業に対する IDAからのグラントはアイルランドへの進出コストを低減させる役目を果たしている。以下に外国企業誘致に対す

る種々の政府施策を挙げる。 (1)税制優遇措置 アイルランドの製造業、金融サービス、コンピュータ関連サービス、デザイン、プラ

ンニングサービス等には 10%の法人税率が適用され、資本投資に対する特別償却措置が実施されている他、規雇用者に対する社会保険料の当初 2 年間の免除が実施されている。

(2)IDAによるグラントの提供 外国企業の進出に際する初期投資に対するグラントが IDAから提供されている。これらには、ビルディング、プラント、機材購入等固定資産投資費用に対するグラント、

雇用ポジションに対するグラント、職員のトレーニング費用に対するグラント、およ

付 129

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び R&D施設の拡張に伴う費用に対するグラントが含まれる。(提供されるグラントの金額については、産業等により異なり、全て交渉ベースであるので詳細はできなかっ

た。) また、IDAは外国企業が撤退する際にも、企業を説得し、また新規企業を探して撤退後のプラント等をそのまま利用するように勧める等の業務を実施している。例えば、DECがダブリン西部の町から撤退した際には、IDAがその町に別の外国企業を誘致するために積極的に活動し、結局 Boston Scientificが DECのプラントをそのまま利用してその解雇者を受け入れることになった。 このように外国企業に対する種々のインセンティブおよび IDAの努力を受け、アイルラ

ンドには外国 IT 企業が 300 社以上参入し、生産・販売活動を実施している。特に、米国企業の進出が多く、1980年以降、ヨーロッパに対する IT産業海外直接投資のうち 40%がアイルランドに流入しており、主要 IT メーカーは何らかの形でアイルランドに進出している。 雇用面を見ると、ITセクターの雇用数は全雇用数の 5%以下とその割合は少ないものの、増加傾向にあり、2000 年時点で総雇用数 82,000 人に対し、外国企業による雇用数は約65,000人と、全体の 79%にも及ぶ(図表 3-11)。

図表 3-11 ITセクターにおける雇用者数(2000年) アイルランド企業 外国企業 計 割合 割合

電機・電子機器 7,271 14% 45,683 86% 52,954ソフトウェア 7,056 40% 10,502 60% 17,558その他コンピュータ関連 2,855 23% 9,357 77% 12,212

計 17,182 21% 65,542 79% 82,724

出所:Forfas

3.2.3 外国企業のコールセンター 上述のような外国企業誘致政策により、アイルランドは外国企業のコールセンターの誘

致にも積極的であり、現在 60~70社程度の外国企業コールセンターが約 12,000人を雇用して、主にヨーロッパ市場向けに顧客からの質問、オーダー受理、技術サポート等の電話

による応対業務を実施している。外国企業がコールセンターをアイルランドに設立する要

因としては、前述の IDAからのグラント提供による初期投資額の軽減、低法人税率の他に、英語が母国語であること、教育水準が高いこと、労働コストが比較的安いこと、通信イン

フラシステムが整備され低価格で利用できること、がある。近年には 50 億ドル以上の投資により光ファイバーネットワークが整備され、また通信セクターの自由化による競争促

進のおかげで電話料金は低く抑えられている他(図表 3-12)、コールセンター用の割引料金も存在する。

付 130

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図表 3-12 ビジネス用国際電話費用比較(1分間)単位ユーロ アイルランド 0.15フランス 0.11オランダ 0.10フィンランド 0.25ベルギー 0.26イタリア 0.19ドイツ 0.19

英国 0.16

出所: Analysis, January 2001

また、最近ではテレサービス用にデザインされたコースが実施され、テレセンターのオ

ペレーター育成に注力している他、コールセンター用に英語以外の言語を話すことができ

る人のデータベースを有するリクルート会社まで存在する。ただし、UPSによるインタビューでは、アイルランドの外国語教育は不十分で、英語以外の語学をネイティブ並に使え

る人が限られており、ヨーロッパ中から業務対象言語の人々を連れてくる必要性が生じて

いる会社も存在する。そのため、政府がコールセンターの誘致による雇用促進を積極的に

進めるのであれば、外国語教育を充実すべきであるとの指摘がある。

3.2.4 国内産業の育成

アイルランドは外国ハイテク企業誘致により雇用促進および高い経済成長率を達成して

いるものの、その一方で国内産業の育成が従来は不十分であり、国内企業の R&D へのインセンティブがなく、またベンチャーキャピタル育成等の国内企業にとっての起業資金調

達も困難な状況であった。そのため外資企業誘致主導の産業政策は、当初は国内産業の育

成には大きな問題となっていた。そこで、政府は 1996年に IDAから国内企業育成のために Enterprise Irelandを独立させた。これは起業に際する助言、市場情報の提供、法的支援、R&D支援、Seed Moneyの提供、ベンチャーキャピタルへの出資、外国市場の開拓およびネットワークの構築等、一連のインキュベータ的な役割を果たしている。これまでに

支援した企業は 3,500社にのぼっており、その中でもソフトウェア産業(特に、通信関連製品、マルチメディア、バンキング、インターネット・アプリケーション)では企業数(図

表 3-13)、雇用数が増加しており、国内産業育成に一定の効果を挙げていると考えられる(図表 3-14) 。これらのソフトウェア新規企業の中には、外資 IT 企業で働いて知識、技術を身に付けた技術者が、のちに独立して開業するケースも多く、インタビューに訪れた IONA Technologyもその 1例である。

付 131

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図表 3-13 ソフトウェア企業数の推移

図表 3-14 ソフトウェア企業の雇用者数および売上高

336 390561 640

7608193

108

140

130

0

200

400

600

800

1000

1993 1995 1997 1998 2000

出所:NSD Survey

海外企業

国内企業

企業数 雇用者数 売上高 輸出高 (10 ) (10 ) イルランド企業 760 14,000 5

1

出所:Tec logy Ireland, V , No ary 2002

億ユーロ 億ユーロア 1.4 0.87外国企業 140 16,000 8.75 7.625

計 900 30,000 0.15 8.5

hno ol 32 .8, Janu

また資金調達面でも、政府主導によるベンチャーキャピタルへの資金提供等により、新

.2.5 IT利用状況

図表 3-15 はアイルランド国民の携帯電話、PC、インターネットの利用状況を示したも

業資金の調達環境は改善されてきている。”Operational Programme for Industrial Development”の下で、EU Seed and Venture Capital Measureが、初期段階のアイルランド中小企業育成に資金を提供するベンチャーキャピタルファンド設立を目的としてスタ

ートした。このプログラムの下で、1996年に初めてハイテク産業向けのベンチャーキャピタルが設立され、2000年末までに Enterprise Irelandは計 EUR約 38百万を 15のベンチャーキャピタルに出資しており、これらのベンチャーファンドが 2000年末までに、101企業に対して出資を実施しており、その投資先はソフトウェア産業が中心となっている。 しかし、未だに政府の政策は外資企業誘致に重点が置かれており、国内産業育成に対す

支援が不十分であり、もっと国内産業育成向けに資金を回すべきであるという意見もあ

る。特に、アイルランド企業にとっての問題点は、国内企業数は増加しているものの、全

体的にどの企業も未だ小規模であり、優秀な技術力を持っていても海外への販売・マーケ

ティングチャネルが限られ、それが国内企業の成長を阻害しているということである。特

に ITセクターの分野では創業者は技術者が多く、販売に関する知識・経験が不足しているため、政府は国内企業向けに市場を開拓する努力をもっとすべきとの希望が多い。 3

のである。いずれも普及割合急速にが増加しており、携帯電話の利用状況は世界的に見て

高い水準にある。しかし、PC やインターネットの利用率は、米国やスカンジナビア国等の IT 利用先進国家と比較すると未だ低水準に留まっている。2000 年の National

付 132

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Competitiveness Council でも、「アイルランドは情報社会の点で政策、戦略をすばやく構築しているが、そのデリバリーは遅い」と報告されている。

図表 3-15 国民の IT利用状況

利用率 アクセス率 1996 01 1996 2001 帯電話 21% 65% % 62%

ーネット

n Society Ireland, T Report of Irel Inform on Society Commi n

Mid-20 Mid-携 23PC 21% 26% 20% 44%

インタ 5% 36% 5% 35%

出所:Informatio hird and's ati ssio

Information Society Irelandはその要因として以下の点を挙げている。

• ギャップ(デジタルディバイドの存在) •

• より異なる •

• れられていない(47%の人々が情報通信技

こ する啓蒙活動の推進、

.2.6 外国 IT企業主導経済のメリット、デメリット

前述のようにアイルランド経済は IT を中心とした外国ハイテク企業誘致政策により、大

、アイルランドの ITセクターの輸出総額に占める割合は 3分の 1を越え、生産

• 新技術の適用に対する人々の意識不足 新技術利用、アクセスに対する国民間の

通信サービスコストの高さ ブロードバンド利用が地域に

人々の生活への新技術に対する理解不足 情報通信技術が学校カリキュラムに組み入

術に関する何らかのトレーニングを受けているに過ぎない。) れらの情報技術利用阻害要因に対処するために、情報技術に関

共図書館でのインターネットアクセス、生涯学習の提供、教育システムにおける情報技

術の活用、学校において情報通信技術に関する教材を利用するための教師支援およびトレ

ーニング、社会的脆弱者に対する特別なプログラム、ブロードバンド等のインフラ整備等

が今後実施される予定である。2001 年には 120 以上の市町村において光ファイバーケーブルの敷設を完了している。 3

幅な失業率の改善、高い経済成長率を達成している。また、ITセクターは、生活水準の向上、生産性向上に関連するハイスキル、高賃金雇用も創出している。更に、国内企業の

原料やサービス提供への支出の面でも IT セクターは国内企業にも重要なインパクトを与えている。技術移転面では、外国 IT 企業で勤務中に技術、知識を吸収し、その後独立・開業するケースが多く、特にソフトウェア産業ではそれが著しく、国内ソフトウェア産業

の急成長をもたらしている。このように、外国ハイテク企業誘致を 1990 年代初頭の経済不況から脱出するためのエンジンとして採用した政府の政策は、一応の成功を収めたとい

えよう。 こうして

面でも 2000年には GDPの約 10%を構成している。また雇用面で IT産業は全体の 5%程度であるものの、そのうちの約 8 割が外国企業に雇用されている。このように外国 IT企業に依存した状態であり、外的ショックの影響を受けやすい体質となっている。特に、

付 133

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最近の世界的な IT製品需要の減少は、外国 ITセクターに大きく依存したアイルランドの経済体質の持続性について疑問を投げかけることになった。多くの IT 企業が費用削減のため人員を削減し、アイルランドでも2001年の1~8月の間に4,500人が失業している25。

この点について、本ヒアリングでは、外国 IT 企業主導の経済構造は短期的には成功しているものの、中長期的に見ると、外国企業はアイルランドに忠誠心がなく、自国、自社の

景気動向によって撤退するケースもあるので国内産業の育成にもっと注力する必要がある

という意見もあれば、IT需要は継続するのでそれほど悲観的になる必要はないという意見もあった。例えば、アイルランド中央銀行の報告書では、最近の IT 不況に伴う失業者は主に、ローエンドの労働者ではなく、比較的高賃金のハイエンドの技術者であり、彼らは

これまでのように失業した後は、ソフトウェア開発を中心として、独立・起業するケース

が増え、国内産業の育成にはむしろ貢献するのではないかという意見もある26。また、米

国内での IT 関連企業は何千人もの雇用者を削減しているにもかからわず、アイルランド内では昨年は 2社のみが工場を閉鎖したに過ぎず、アイルランドの比較優位が継続する限りは、IT不況に伴う失業者の増加はそれほど多くないのではないかという意見も聞かれた。実際、下表 3-16にもあるように、アイルランド参入外国企業のネットの雇用数は引き続き増加傾向にあり、ITセクターにおける失業者を他のセクターが吸収していることが伺われる。

図表 3-16 IDA支援企業の雇用者数の推移(1994-2000) 1999 2000 1994 1995 1996 1997 1998

新規雇用数 1 1 1 1 1 24,717 9,873 1,725 3,206 4,733 6,058 7,831 雇用減少 4,929 5,125 5,997 4,935 7,223 9,289 8,302 ネット雇用数変化

fas employm ey

4,944 6,600 7,209 9,798 8,835 8,542 16,415

変化率 (6.3%) (7.9%) (8.0%) (10.0%) (8.2%) (7.3%) (13.1%)

出所:For ent surv

また、ITセクターにおける失業は、生産プロセスにおける急速な技術革新を結果とした製

品寿命の短さを反映した短期的な生産サイクルの一部であり、今や IT 製品は全産業の生産・販売プロセスの中に組み込まれ、新情報通信技術の導入無くしては国際市場での競

争力を維持できない状況にある中で、ITの需要は継続していくと予想される。このことから、長期的に見てもリスクは高い一方で引き続き成長は見込めるという意見が多かった。

ただし、外国ハイテク企業で雇用されている人のうち、ソフトウェア関連企業に雇用され

ている人々は、進出企業がアイルランドでソフトウェア開発を実施している関係で高教育

レベルの熟練技術者を採用していることから、これらの人々が失業した場合には、比較的

容易に再雇用或いは起業が可能となっているが、ローエンドの組立工場での就労者の場合

には教育レベル・技術レベルが高くないため、再雇用が比較的困難な状況であることに留

25 Central Bank Report, Autumn 2001. 26 前掲

付 134

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意する必要がある27。 このように、全体として見ると、現在の IT不況の中でアイルランドの IT関連セクター

は雇用面、経済面で比較的堅調に推移しているが、アイルランドが引き続き現在の競争的

地位を維持することができるかどうかはまた別問題である。高い経済成長を反映して賃金

上昇圧力は高く、労働コスト面の比較優位性の維持が困難であると考えられるため、今後

どのようにしてハイテク企業を誘致するための競争的地位を継続させるのかが課題である。

そのためには、政府は長期的な視点に立って産業政策を構築することが不可欠であり、特

に、現在のローエンドの生産活動からソフトウェア開発、サプライ・チェーン・マネージ

メント、システム統合等の高付加価値生産活動への移行、労働者のスキルの向上、インフ

ラ整備、規制フレームワークの改善、国内産業の育成、外国市場とのネットワークの構築

等が必要だと考えられる。IT Irelandはそのための方策として以下の7つの提言を纏めている。①国内産業への R&D 支援の増加、②労働者技術向上を目的としたトレーニングの実施および技術系大学の充実、③道路、鉄道、通信等のインフラストラクチャーの整備、

④ITセクター発展のための税制優遇措置、⑤起業に際する問題点把握、金銭的支援、起業家精神構築等の起業推進支援および外国 IT 企業とのリンケージ強化等による国内産業育成援、⑥国際市場との関係強化、⑦ITセクターに関する一般啓蒙活動。 3.2.7 開発途上国への教訓

アイルランドの 90 年代における外国ハイテク企業誘致を中心とした高経済成長の達成は、開発途上国の経済発展戦略における一つのモデルとなる可能性がある。ただし、上記

のようにアイルランドが外国 IT 企業の誘致に成功した最大の要因は、教育レベルの高さと EUという巨大市場の存在であると考えられる。つまり、IT企業の場合には、繊維産業等の労働集約的産業と異なり、ある程度の教育水準のある労働者が存在する国々に進出す

る場合が多い。また、その高い教育レベルを基にして、外国企業内でもマネージャーレベ

ルにまでアイルランド人を雇用することが可能であり、それがアイルランドの比較優位性

を維持している理由にもつながっていると考えられる。また、ソフトウェア企業等ではア

イルランド人の高学歴、高技術者に着目してアイルランド内でソフトウェア開発を実施し

ており、それが更に、国内ソフトウェア産業の発展にも貢献していると言える。また、ア

イルランドには EUという巨大市場が目の前に存在するということも、アイルランドが外国企業の誘致を可能にしている大きな要因であると考えられる。 このように、アイルランドのような外国ハイテク企業の誘致による開発途上国の発展戦

略を考える場合には、教育レベルの高さ、販売市場へのアクセスが既にある程度備わって

いることが前提条件となると考えられる。また、製品を輸送するための国内の道路、空港、

港湾等のインフラ整備も重要である。さらに、この政策を持続可能にするためには、単な

271977年の調査では、ソフトウェア企業の入職者のうち、70%が大学卒業であり、20%が高卒又はそれ以上の何らかの Certificateを保有することが報告されている。一方、ハードウェア産業では、ソフトウェア産業に比して低い学歴の人々が雇用されており、例えばデル・コンピュータでは大学卒業者は

25%程度と言われている。そのため、ソフトウェア企業での勤務者は比較的容易に新たな職を見つけることも可能であるが、低い学歴、低いスキルの人の場合には、新たな雇用は簡単ではない。

付 135

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る労働集約的な作業に留まることなく、技術教育の充実により技術者の輩出させるなど労

働者の技術レベルを向上させ、さらに外国企業に対する国内サプライヤー等の育成を通じ

た自国産業を発展させることが、外国企業誘致を持続可能にする要素であると考えられる。

その他にも、外国企業誘致に関する税制優遇等の措置も重要な要因であると考えられる。

付 136

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3.3 スウェーデン(インタビュー実施時期:2002年 2月中旬) 3.3.1 概要

スウェーデンは過去数年の間に情報技術、特にワイアレス・コミュニケーションとイン

ターネットの分野で急成長を遂げ、世界でも有数の IT 先端国家としてみなされている。例えば、International Data Corporationの調査では世界第一位にランクされている(図表 3-17)。インターネット、PCの家庭への普及率は高く、携帯電話の普及率も世界でトップクラスである。国内産業においても、IT 産業、特に Ericsson を中心とした携帯電話関連産業やソフトウェア産業が急成長している他、人々の教育レベルおよび IT リテラシーの高さ、良好な通信インフラ整備状況、IT関連技術教育等の理由により、多くの外国のハイテク企業がスウェーデンに参入して R&D および新製品の試験的市場としてスウェーデンを活用しており、今やスウェーデンは“Wireless Valley”として世界的に注目されている。

図表 3-17 世界のトップ 10 IT国家

0 1 2 3 4 5 6 7

スウェーデン

ノルウェー

フィンランド

米国

デンマーク

英国

スイス

オーストリア

シンガポール

オランダ

出所:IDC World Times Survey 2001

このようなスウェーデンの IT 国家への移行は、伝統的に新技術の開発推進および基礎教育、技術教育を重視する傾向があることと共に、ITに対する国内外需要と相俟って、ITの新技術開発推進および一般社会の IT リテラシーの向上を国の政策としたことに大きく寄与している。つまり、政府による通信インフラ整備、教育投資(基礎教育{英語教育お

よび IT リテラシーの向上}および IT 技術教育)、IT 投資、R&D 投資、通信セクターの自由化、家庭でのパソコン普及等の政策が、IT国家の基礎を作りだすものとして効果を発揮している。国内産業における IT需要も、この最先端 IT国家における IT産業の発展に大きく貢献している。つまり ABB、Electrolux、SKF、Saab、Scania、Volvo等のスウェーデン発祥の国際的企業が種々の IT関連投資を実施したことが、多くのスウェーデン IT企業の創設、発展に寄与している。また、世界的な携帯電話メーカーである Ericssonの存在もまた、通信ハード・ソフトウェア産業の発展に主導的役割を果たしている。 スウェーデン国内には複数のハイテクパークが存在し、その中でもストックホルム内に

あるKista Science Parkは米国のシリコンバレーに次ぐハイテク企業集積地域として世界的に注目を浴び、多くの外国企業、国内企業がワイアレス技術、インターネット技術のR&D

付 137

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を実施している。大学・研究機関においても、ストックホルム大学および Royal Institute of Technologyが共同で Kistaに設立した IT大学が IT関連技術者を輩出している。 このような状況で、スウェーデン経済に占める IT セクターの割合は増加しており、例えば、通信関連機器輸出額の輸出総額に占める比率は 1990年代初頭の 5%程度から 2000年には 15%にまで上昇している。そのためにスウェーデン経済は、外国での IT需要の変動に対する脆弱性が増していると考えられる。特に、最近の IT 関連需要の減少はスウェーデンの最近の経済構造に影響を与える可能性があるほか、ハイテク関連株の下落は負の

資産効果を招いており、消費を減少させている。 3.3.2 IT利用状況

スウェーデンでは ITの利用は社会全体に浸透している。特にインターネット、携帯電話および PCの普及は世界でもトップレベルである(図表 3-18)。Swedish Mobile Telecommunication Association(MTB)の 2000年末のデータによれば、人口の 72%が携帯電話を利用し、12歳から 79歳の人口のうち 57%がインターネット利用し、全スウェーデン人の 80%が家庭、オフィス、学校でインターネットへのアクセスを有する。特に、スウェーデンで特徴的なこととして、性別によるインターネット利用割合がほとんど変わ

らないこと、老齢者のインターネット利用率が他国に比して高いことが挙げられる。これ

には後述するように、政府による IT社会構築に向けた種々の政策の効果、およびインターネットのコンテンツが女性向けの趣味、買い物、健康等の日常の生活に密着した物が多

いことが要因として考えられる。またインターネットバンキングの普及率が高いのもその

特徴であり、インターネットバンキングの分野では、スウェーデンの銀行は CITIBANKに次ぐ世界第2位から第4位を占める28。B2Cの電子商取引の分野では、2000年のSwedish Research Institute of Tradeの調査で、2000年の第 1四半期における小売業のオンライン販売割合は全体の 1.6%に過ぎない。

図表 3-18 携帯電話、PC、インターネット普及率(人口比、1999)

0

20

40

60

80

スウェーデン 米国 EU平均 スウェーデン 米国 EU平均 スウェーデン 米国 EU平均

携帯電話 PC インターネット

出所:EITO,Global Mobile, ITU, World Competitiveness Report 2000

28 出所:IBM and Interbrand, June 1999

付 138

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3.3.3 スウェーデンを IT国家へと発展させた要因 スウェーデンを今日のハイテク IT 国家に成長させた技術面での発端は、政府と民間企業によるハイテク技術開発である。携帯電話の分野では、政府が Ericssonに対し携帯電話産業を推進するために開発を促した。その Ericssonは 70年代に最初の携帯ネットワークである、NMT System(Nordic Mobile Telephony System)の開発イニシアティブをとり、1981年に NMTはスカンジナビア半島における標準携帯システムとなった。また、旧国営電話会社である Teliaが Ericssonに対し、現在欧州でのデジタル携帯電話標準となっている GSM(Global System for Mobile Communications)の開発を促し、今や世界中で 4億人が利用するシステムとなっている。 また、その他のハイテク分野ではスウェーデン軍が Saab に対し、ハイテク戦闘機の開

発を要請したことから始まる。戦闘機開発を進めることにより、国内でのハイテク関連の

技術能力が培われ、それが今日ハイテク技術開発につながっている。その他の要因として

は以下が挙げられる。 (1)インフラ整備 スウェーデンはヨーロッパ最大の国土を有する一方、人口が分散して居住しているため、

経済、社会を効率的に発展させるためにインフラが整備は不可欠であった。特に、国内市

場規模が小さい故に、昔から製品販売市場を海外に求めていた国内企業にとって、鉄道、

道路、港湾、通信網等の整備は必要であることから、これらのインフラが積極的に拡充さ

れた。それとともに、これらの業務を実施する運送会社、トラック製造企業、例えば Volvo, Scaniaの誕生も促している。特に、国内企業が国際的競争力を有するためには、良質な通信網整備が不可欠であるため、旧国営電話会社である Telia は、全家庭への電話回線接続を目標に掲げて電話網を整備し、現在では 1家庭当たり 1.6本という世界的にも高い電話接続率を達成している。このように、スウェーデンは国内の産業需要に基づいて従来から

積極的にインフラ整備に取り組んでおり、それが現在の ITの活用に大きく貢献している。 (2)教育投資 スウェーデンが IT 国家として構築していく上で重要な要素となっているのが、伝統的に重点を置かれている教育への投資であり、これは IT 関連技術者、熟練 IT 労働者育成、一般市民の IT リテラシーの向上に大きく寄与していると考えられる。スウェーデンはGDP比で公的資金を最も教育に投資している国であり、民間資金も含んでも韓国に次いで世界第 2位である。また、英語教育も初等教育段階から導入され、ほとんどの人が英語を話すことできる他、フランス語、ドイツ語、スペイン語の知識も有する人々が多く存在す

る。 加えて、高等教育および生涯学習もスウェーデンの教育政策の中で重要な位置を占めて

おり、OECDの報告29では、スウェーデンの成人は情報利用に関する知識、能力の点で世

29 OECD、2000. Literacy in the Information Age – Final Report of the International Adult Literacy

Survey

付 139

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界で最高点を記録している。生涯学習では、企業内トレーニングのほかに、老齢者(55歳以上)の ITリテラシー、特にインターネット利用向上を図る目的で設立された Senior Netが、政府、民間企業の支援により運営されている30。SeniorNet は老齢者を対象として、老齢者間のバーチャルコミュニティ創設、Seniornet メンバーのコミュニティクラブ創設支援等、種々のプロジェクトを実施している。これまでに 50,000 以上の老齢者がインターネット利用に関する基礎コースを受講しており、55歳以上のインターネット利用の伸びは過去 2年間で 80%増と、年代別では最高の伸びを記録している。 スウェーデンは、伝統的に技術開発系の大学教育を通じた新科学技術の開発・発展にも

注力している。例えば、ノーベル財団がスウェーデンにあることに代表されるように、昔

から新技術の開発を重点事項にしており、そのため IT関連の新技術開発に関する R&D投資および技術者養成が盛んであることも、ハイテク技術立国を達成した重要な要素である。

例えば、ストックホルムにある The Royal Institute of Technologyはストックホルム大学の共同で Kista Science Park 内にヨーロッパ最大の IT 大学を設立して、Kista Science Park 内に位置する国内外の IT 企業と共同で新技術の開発を実施し、5 年以内に 6,000~7,000人の IT関連技術者を養成する予定としている。この他にも、Goteborgの IT大学、Bleking Institute of Technology, Linkoping Institute of Technology等 IT関連を重点にしたカリキュラムを構成している技術系大学が数多く存在しており、新技術開発および IT関連技術者の育成を図っている。 (3)R&D スウェーデンの IT関連技術力の向上は、旺盛な民間および公的 R&D投資に拠るところ

が大きく、GDP比では先進国の中で最も高い(図表 3-19)。このうち、約 68%が民間 R&D投資で、これは EU諸国平均 54%を上回っており、民間企業による R&D投資が活発なことが伺われる。公的機関による R&D 支援は、幾つかの基金が設立され、そこを通じて実施されている。例えば、The Foundation for Knowledge and Competence Development (KK-stiftelsen)は、1994年に設立され、約 SEK20億(約 2.25億ドル)をスウェーデンの国際協力強化およびスウェーデン社会での IT利用の促進に関する IT関連プロジェクトに投資している。また、The Swedish Foundation for Strategic Research(SSF)は、スウェーデンで IT 関連調査プログラムとして最大であるが、自然科学、テクノロジー、製薬の分野で 90のプログラムに対し SEK27億(約 3億ドル)を確保しており、そのうち 10のプログラムが IT関連である。

30 SeniorNetは 1997年に設立された非営利団体であり、当初は政府からの資金援助を受けていたが、現在では独立採算となっている。50以上のローカル SeniorNetクラブやウェブベースでのコミュニティがあり、そこで老齢者がウェブ上で趣味、社会活動等の情報交換をしており、これらは全て SeniorNetのウェブサイトを通じて実施されている(www.seniornet.se)。

付 140

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図表 3-19 総 R&D投資(対 GDP比)

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

スウェーデン

日本

フィンランド

米国

スイス

韓国

ドイツ

フランス

オランダ

デンマーク

出所:OECD、2000

(4)国内需要サイド ヨーロッパ内で大企業 500 社のうち 25 社がスウェーデンに起源を有する。これらの企

業が国際競争力を維持するためには情報通信技術の活用は不可欠であり、これらの企業の

需要が新技術の開発、IT産業の発展に寄与していると考えられる。つまり ABB、Electrolux、SKF、Saab、Scania、Volvo 等のスウェーデン発祥の国際的企業31が種々の IT 関連投資を実施し、多くのスウェーデン IT 企業の創設、発展に寄与している。また世界的な携帯電話メーカ―である Ericssonも、通信ハード・ソフトウェア産業の発展に主導的役割を果たしている。スウェーデンの IT 産業の中で、電話、インターネット関連企業に次いで急成長をしているのがソフトウェア産業である。現在約 600のソフトウェア企業がスウェーデンに存在し、この 2~3 年の間に倍増している。ソフトウェアの分野で、特に強いのが金融セクター向けであり、OM Groupはストックホルム証券取引所を所有し、証券取引に関する諸手続きに関する電子化のソフトウェアを提供している。このように、スウェーデ

ンのソフトウェア企業が成長している要因として、スウェーデンが他の国に比して、人口

一人当たりの国際企業数が多いことが挙げられる。即ち、これらの企業は国際市場におけ

る競争力を維持するために新情報技術を積極的に採用していると考えられる。 (5)資金調達

IT産業における新規起業の増加を支えているのが、ベンチャーキャピタルの急成長および証券市場の発達による資金調達の容易さである。1995-1999 年の間のスウェーデンにおけるベンチャーキャピタル成長率は、件数ベースで年平均 200%と世界最高の成長率を遂げた (図表 3-20)。European Venture Capital Associationの調査では、スウェーデンは、一人当たりのプライベート・エクイティおよびベンチャーキャピタルの利用可能性の点で

31 スウェーデンの国際企業としては、ABB(建設)、AstraZeneca(製薬)、Electrolux(家電)、Ericsson(携帯電話)、Ikea(家具)、Pharmacia Corp(製薬)、Saab(自動車、飛行機)、Scania(自動車)、SKF(ベアリング)、Stora-Enso(紙・パルプ)、Volvo(自動車)等が挙げられる。

付 141

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は、米国、英国に次ぐ世界第 3位の国であると報告されている。現在、スウェーデンには200 以上ベンチャーキャピタルが存在し、起業に際する資金提供および助言業務を実施している。これらのベンチャーの大半が通信、IT、インターネットセクターに資金提供しており、IT関連企業の成長に貢献している。例えば、Ericsson Venture Partners, BrainHeart Capital, Startupfactoryは、世界でも最大規模のワイアレス・コミュニケーション、モバイル・インターネット向けベンチャーキャピタルである。同時に、新規ハイテク企業は外

国のベンチャーキャピタルの資金も誘引しており、現在、ヨーロッパ、米国のベンチャー

キャピタルがスウェーデンにオフィスを構えている。

図表 3-20 ベンチャーキャピタルの成長(1995-99の年平均成長率)

0 50 100 150 200 250

スウェーデン

スイス

台湾

イタリア

ベルギー

イスラエル

ドイツ

スペイン

米国

英国

出所:Pricewaterhouse Coopers and 3i, 2000

また証券市場を見ると、スウェーデンの証券市場はかなり発達しており、例えば成人人

口の約 80%が直接或いはミューチャルファンド等を通じ間接的に株式を保有している。システム的にも全て電子化された最先端の証券取引所を有している。このような状況の下、

ハイテク企業の株式市場における新規公開も活発であり、2000 年だけで 35 の IT 関連企業が新規上場をしており、2000 年末時点ではストックホルム証券取引所の上場企業 311社中、IT関連企業は 95社(約 30%)に及んでいる。 (6)通信セクターの規制緩和

1993年の通信市場の規制緩和は、スウェーデンの“Wireless Valley”の構築に多大な影響を及ぼした。スウェーデンは通信セクターの完全自由化を実施したヨーロッパ最初の国

であり、電話サービス市場の独占状態が撤廃され、民間企業間の競争が促進された。その

結果、現在では国内・外国企業併せて 40 社もの電話・通信会社が存在し、最先端の技術の開発、利用が促進されると共に、サービスも向上され、通信料金が著しく下落した。 (7)その他 この他に、スウェーデンが IT 国家となっている要因としては、伝統的に新技術の開発および新技術を率先して利用する Early Adopterであること、および起業家精神が培われていることが挙げられる。スウェーデンには多くの国際的な企業が存在するが、それらは

付 142

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元々国内の小企業から成長した企業である。また、2000年の ECの調査では、スウェーデンは EU圏内の最も技術革新にフレンドリーな国であることが報告されている。 3.3.4 政府の IT普及のための諸政策 前述のように、スウェーデン政府は IT国家の構築に向け、R&D投資、基礎教育、技術

教育の充実、インフラ整備を実施しているほかに、2000年春に成立した政府 IT法で、全国民が IT利用から得られる便益を享受することができるように、「全国民のための情報社会の構築」という目標を掲げ、IT社会の構築に向けて種々のイニシアティブを実施している。 (1)家庭でのパソコン購入支援 スウェーデン政府は、1998年から、企業が従業員の家庭へのパソコン供与に要する費用についての税額控除、社会保障免除を実施している。さらに労働組合は、組合員に対する

パソコンの販売の際の大幅割引価格での販売をサプライヤーと合意している。このような

措置により、家庭のパソコン普及率は著しく向上し、社会の全レベルでの IT リテラシー向上に寄与している。 (2)National Action Program for IT in School 本プログラムは公立学校におけるコンピュータの導入を支援するプログラムであり、

1999-2001年の間に SEK17億(約 2億ドル)が政府から提供されている。このプログラムにより、インターネット、電子メールへのアクセスが向上したほか、約 35,000 の教員がトレーニングを受講しており、幼年期からの情報社会への適応能力向上に寄与している。 3.3.5 ITセクターへの FDI流入 スウェーデン政府は、良好なインフラ整備、教育水準の高さ、充実した技術教育、スウ

ェーデン人の新技術への高い適応力等を基にして、積極的に外国のハイテク企業を誘致し

ている。こうして 90年代後半では、金額ベースでは世界第 7位、GDP比では世界最大のFDI 流入国となっている(図表 3-21)。特に、最近では IT および通信、製薬、自動車セクターで活発であり、スウェーデン内に R&Dセンターを設立するケースが多い。1990年から 1999年の間にスウェーデン内の外国企業は 2600社から 4300社に急増しており、これらの企業の R&D投資は全体の民間 R&D投資の 5分の 1を占めるに至っている32。

32 Investment in Sweden Agency, Report 2001

付 143

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図表 3-21 トップ 10FDI受入国(1995-99)(年平均、10億ドル)

0 20 40 60 80 100 120 140 160

米国

英国

中国

ベルギー

フランス

オランダ

スウェーデン

ドイツ

ブラジル

カナダ

出所:UNCTAD 2001

スウェーデンへの外国参入企業は、通信セクターの完全自由化に伴い参入した通信企業

の他に、IT企業を中心としたハイテク企業も多い。こうした企業はスウェーデン内の充実したインフラ、豊富なハイテク技術者を利用して R&D施設を設立し、研究開発をすると共に、新製品の試験的市場としてスウェーデンを活用している。これらの企業を誘致して

いるのが、スウェーデン内にある8つのハイテク・クラスターであり、その中でもストッ

クホルム内の Kistaにある Kista Science Parkはハイテク・クラスターとして米国のシリコンバレーに次ぐ世界で 2番目に重要なクラスター33として注目され、多くの IT企業がここで主にインターネットおよびワイアレス技術の R&D を実施している。ここは元々

Ericssonの本拠地であるが、現在では約 700企業がここに位置し、そのうちの約半数が外国企業である。また、ここには IT大学が存在し、地域全体として 29,000人の雇用者、学生 2,500人から構成されている。Park内は全て光ファイバー網で連結され、IT大学と企業の研究所との緊密な交流により産学協同での研究活動が可能となり、IT企業および大学の両サイドにとって技術開発、技術者養成に最適な場所となっている。なお、このクラス

ターのインフラ整備はストックホルム市により実施されている。 3.3.6 スウェーデン経済に占める IT産業 スウェーデン内で IT産業が活発になるにつれ、スウェーデン経済に占める ITセクター

の割合は上昇している。例えば、通信関連機器輸出額の輸出総額に占める比率は 1990 年代初頭の 5%程度から 2000年には 15%にまで増加している。そのため、スウェーデンの経済は外的要因、特に世界的な IT需要の動向に大きく左右され易くなっている。2001年の IT 需要の減少および米国経済のスローダウンは、スウェーデンの GDP 成長率を1998-2000年の間の平均4%成長から2001年には2%程度にまで低下させている34。また、

33 Wired Magazine 34 International Monetary Fund (2001), “Staff Report for the 2001 Article IV Consultation, Sweden”.

付 144

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前述にようにスウェーデン国内の多くの IT 関連企業は、IPO による株式市場での資金調達をしているため、これらの株式保有者の逆資産効果が発生し、消費の減少も招いている。

このように、スウェーデン経済の外的要因に対する脆弱性が従来の産業構造と比べて増加

していると考えられる。

3.3.7 Ericssonの影響

Ericssonはスウェーデン経済に大きなシェアを有する。例えば、Ericssonのみでスウェーデンの GDPの約 5%、総輸出額の約 16%を構成していると言われているほか、ストックホルム証券取引所での Ericsson 関連のキャピタリゼーションは、全体の 3 分の 1 を占める。しかし、スウェーデン国内には 25 社の国際的大企業が存在し、また上記のように多くの IT 関連外国企業の参入、多くの国内ソフトウェア会社の誕生もあることから、Ericsson 偏重の経済であるという認識は本インタビューの中からは伺えなかった。また、Ericssonの成功は国内企業にエネルギーを与えると共に、Ericssonに勤務していた人々が技術と知識をもって、独立・開業するケースも見られ、Spin-Off効果もある。 3.3.8 開発途上国への教訓 スウェーデンの IT 国家への発展は、地理的不利条件を克服して国際市場を開拓するために従来からインフラが整備されていたこと、新技術開発・使用を積極的に推進する国民

性であることに加え、政府の教育投資、特に基礎教育と技術教育、新技術開発に対する公

的・民間部門の積極的投資、国内産業の IT 需要、ベンチャーキャピタル、資本市場の発達による起業資金調達の容易さ、スウェーデン人の新技術に対する適応能力が大きく寄与

したと考えられる。また政府主導による IT 社会構築のための種々の努力は、一般市民のITリテラシーの向上、将来の情報化社会への適応力向上に大きく寄与し、スウェーデン社会を IT社会へと変貌させる要因になっていると考えられる。 こうした経験の開発途上国への適用性を考える場合には、IT産業と IT社会の両側面からの検討が必要である。スウェーデンの場合、国内 IT 産業の発展には、市場開放策を通じた国際競争力の育成による国内企業の IT 需要の存在、および新技術開発を伝統的に積極的に実施している政府、民間、大学の技術革新に向けた努力が重要な要素となっている。

また、国内企業が小国故に従前から積極的に海外に市場を求める傾向は海外市場の開拓に

も貢献している。このように、国内需要、積極的な技術開発に対する支援、海外市場の開

拓が国内の IT産業育成に不可欠な要素であると考えられる。 社会の IT 化に際しては、国民の新技術への適応能力を高めるための、年代差別のない

ITリテラシーの向上に対する政府の施策が重要であると考えられる。特に、初等・中等教育へのコンピュータ等の導入施策は、将来の担い手である若年層の新 IT 技術への適応力の向上を図るためには有効な手段であると考えられる。しかし、基礎教育の充実無しに ITリテラシーの向上をすることは困難である。つまり、スウェーデンの場合には教育はほぼ

無料で受講できるという特殊要因はあるものの、従前からの基礎教育の充実、英語教育の

充実が IT リテラシーを高めるための施策実施上の前提条件となっている。また、家庭に

付 145

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おける PC 普及、インターネット普及に関する施策を政府が実施したところで、この前提条件が無ければその効果は少ないと考えられる。もちろん、国内 IT産業の発展が IT社会の発展に貢献していることは言うまでもない。

付 146

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3.4 フィンランド 3.4.1 概要 フィンランドは、1991年に深刻な経済不況に直面した。政府はこの経済不況から脱出するために、情報通信技術産業を重点産業として採用し、TEKESや SITRAからの R&D資金の増加による新技術開発の推進、新技術系大学の設立による産業との共同研究推進、市

場開放の促進を実施した。これにより、経済不況から脱却し、産業構造の中心が従来の林

業および鉄鋼業中心からハイテク産業へと移行したことが、94年以降の実質 GDP成長率年平均 5%達成の大きな原動力となっている。 ハイテク産業の中でも特に ITセクターの成長は著しく、1988年から2000年の間にGDP

が約 40%成長したのに対し、IT セクターは 400%以上成長している(図表 3-22 参照)。このため、GDPに占める ITセクターのシェア(図表 3-23)および輸出総額に占めるシェアも著しく増加した。IT産業は今や従来の基幹産業である林業を上回る最大の輸出シェアを記録している(図表 3-24)。また、ITセクターによる経済成長への貢献度も過去 3年間のGDP経済成長率の 1.5%から 2.5%と推計されており35、ITセクターにおける生産性上昇はフィンランドの輸出主導経済を加速させていると考えられる。特筆すべきは、外国企業

のハイテクセクターの割合は約 10%と少なく、IT 産業の発展が国内産業主導型で達成されたことである36。このように、フィンランドは 1990年代初頭の経済不況から IT産業を軸として脱出し、今や世界の中でも有数な IT国家となった。特に ITの中でも、携帯電話製造の分野で世界の 3割以上のシェアを誇るNokiaを中心としたワイアレス産業がその成長の中心となっている。 図表 3-22 フィンランドにおける GDPと ITセクター、通信セクターの成長推移

1995

1990

1999

1992

1994

1996

1987

1998

1991

2000

1993

1997

1989

1988

1988 = 100, weights from 1995) 出所:Statistics Finland, National Accounts

付 147

35 International Monetary Fund (2001), “Staff Report for the 2001 Article IV Consultation, Finland”. 36 同時期に ICT産業主導り大幅な経済成長を遂げているアイルランドでは、ハイテク産業の 90%が外国企業によるものであることに留意する必要がある。

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図表 3-23 フィンランドの GDPに占める ITセクターのシェア推移

5.54 5.836.29 6.43

0

2

4

6

8

10

1997 1998 1999 2000

出所: European Information Technology Observatory 2001

図表 3-24 フィンランドの産業別輸出シェア

2 4 122823 25

31

2540 30

3123

1615

8 6

19 26 18 18

1970 1980 1990 1999

出所:TEKES 'Global Networking in Wirelsss Teletechnology Business'

その他

産業木材

紙・パルプ

金属産業

電器産業

3.4.2 ITセクターが成長した要因 このような産業構造の大きな変化が可能であった理由は、以下によると考えられる。た

だし、この産業構造変化は種々のイニシアティブにより突然可能となったわけではなく、

それまでの政策の積み重ねもあって達成されていることに留意する必要がある。 ① 電話産業は従来から民間で運営され、1920年には 100以上の電話会社が存在し、巨大な国土と少ない人口という地理的不利条件を通信インフラの整備により克服してきた

こと、 ② 1985年以降の通信セクターの完全自由化が国内通信業者間の競争を促進し、通信コストを著しく低下させていること、

③ 1980年代初頭に形成された Association of Telephone Companies37がGroupe Special Mobile(GSM)デジタルネットワークを運営するためのジョイントベンチャーを形成し、欧州でのデジタル携帯電話標準である GSMの最初の民間提供業者となったこと、

④ 1980 年代の資本市場の自由化は海外からの資金流入を加速させるとともに、1990 年代におけるベンチャーキャピタルの登場がハイテク起業の資金調達を容易にしたこと、

37 フィンランドの国内電話会社のグループ

付 148

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⑤ 従来からの国内産業である紙・パルプ産業、鉄鋼業が、政府の市場開放策の下で国際

市場で競争的な地位を維持するため、生産性向上、マーケティング能力向上等を目的

に積極的に IT技術を導入したこと、 ⑥ ソ連崩壊以降、輸出先拡大のために民間企業の競争力強化が必要であり、政府は市場

開放政策をとり、国内産業の競争力強化を図ったこと、 ⑦ 1992年に Nokiaが従来のタイヤ、ケーブル、皮靴等の業務から撤退し、携帯電話、ネットワーク産業に重点を移行し、成功したこと、

⑧ R&Dの急速な増加による新技術開発の促進を図ったこと(R&Dの分野は、90年代に年平均 14%増の急成長をしており、GDP 比ではスウェーデンに次いで世界第 2 位となっている(図表 3-27参照)。これは 1980年代初頭からの SITRA(Finish National Fund for Research and Development)、TEKES(National Technology Agency: フィンランド技術庁)等の R&D資金提供機関創設など政府の R&D投資増加政策を反映した公的 R&D 投資額の増加の他に、民間セクターによる R&D が旺盛であることが挙げられる。)、

⑨ IT産業の労働者賃金が政府、産業、労働組合の協力によりその上昇が抑制され、その代わりにボーナス、ストックオプションを利用することで、新規IT企業でも熟練労

働者の雇用を可能としたこと、 ⑩ 基礎教育から技術教育までの教育制度の充実と IT リテラシーを高めるための種々の政策、

⑪ ブロードバンドの設置率が世界一であり、図書館、公共施設等からのインターネット

アクセスや、全ての学校がインターネットコネクションを有するなど、国内での通信

関連インフラが整備されていること、 ⑫ 国内で最先端の IT技術を活用(特に携帯電話とインターネット)していること。 ⑬ フィンランド国民が新技術の利用を好む Early Adapterの傾向にあること(これは外国企業がフィンランドを新製品の試験市場として選択していることからも伺える。)、

3.4.3 フィンランド国内の IT利用状況 フィンランドは世界でも有数の情報化社会として位置付けられており、特に携帯電話と

インターネットの普及は著しい。携帯電話の普及率は世界でもトップクラスで(図表 3-25)38、1998年以降は固定電話数を上回っている。特徴として挙げられるのが、携帯電話のみを所有する家計が全体の約 20%を占めている点であり、これらは主に学生等の若年層および定年退職後の老齢者層である。また、携帯電話を通じた電子メールの利用も著しく、現

在では最低 1日に一度は全ユーザーが携帯電話による電子メールを利用していることになる。

38 図表 4-4のデータは Pre-Paid形式で携帯電話を利用している数も含まれているため、実際の加入者数を正確に把握することは不可能(例えばイタリア)。フィンランドの数字は純粋な加入者数を反映したものであり、そのベースではおそらく欧州第 1位になると推測される。

付 149

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図表 3-25 欧州における携帯電話加入率(2001年末)

94.58

88.66

84.81

81.99

79.61

79.12

77.64

74.66

67.96

62.62

0 20 40 60 80 1

ルクセンブルグ

イタリア

ポルトガル

フィンランド

スウェーデン

アイルランド

英国

オランダ

ドイツ

フランス

出所:Mobile Communication, Feb 5, 2002

00

インターネットの利用に関しても、100 年以上前からの固定電話回線の高い普及率および家庭での PC の高い普及率を背景として世界トップクラスの普及率となっている(図表3-26)。特に注目すべきは、電子商取引における個人の電子バンキング利用であり、銀行と電子バンキングの契約をしている人数は 2 百万人を超え、人口の約半数が利用している。これは主に携帯電話を通じた商品購買に関する資金決済が普及しているためであり、フィ

ンランドにとって電子バンキングは不可欠な存在となっている。その背景に、1990年代初頭から金融セクターが最先端の決済システム、セキュリティ、内部認証システム等を開発

してきたことがあり、フィンランドは世界で最初にオンラインバンキング、モバイルバン

キングサービスを提供した国となった。その他にも、オンラインのショッピング、求職は

世界のトップクラスの利用率となっている。企業のインターネット利用に関しては、企業

の 8割以上がウェブサイトを持って何らかの宣伝、マーケティングを実施している他、オンライン調達も約 60%、顧客或いはサプライヤーとのデータ交換を実施している企業が全体の約 60%、と企業サイドにとってもインターネットの利用が不可欠な状態となっている。 インターネットの普及が高い理由として、上述のインフラ整備のほかに、全ての学校が

インターネットアクセス可能であり、児童期からインターネット、コンピューター利用に

慣れ親むことで IT リテラシーの向上を図っている点が挙げられる。また、ヘルシンキ市内では光ファイバーによるブロードバンド網がほぼ整備されている。その他に、情報化社

会に向けた施策および国内のデジタルデバイドを解消する施策として、農村地域における

IT機材購入を支援する目的で、政府は村毎に年間約 US$250,000の補助金を支給している。また、政府は Information Strategy for Education and Research 2002-2004の政策の下で、貧困層およびマイノリティグループに対し、優先的に必要なリテラシートレーニングや ITアクセスの提供を支援している。 これらの携帯電話およびインターネットの普及には、政府の市場競争政策の導入による

電話料金、ISP 加入料金が劇的に下落したことにも大きく寄与している。これらの価格は世界中でも低い部類に属する。

付 150

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図表 3-26 100人当たりのインターネット利用者数(2001年 4月)

0

20

40

60

80

スウェーデン

デンマーク

オランダ

フィンランド

英国

ドイツ

ルクセンブルグ

アイルランド

イタリア

フランス

出所:Eurosat, Statistics in Focus 23/2001

3.4.4 IT産業育成に関する国の政策 前述のように、フィンランドが従来の紙・パルプ産業、鉄鋼業中心の経済から IT 産業中心経済へと転換したことには、政府も重要な役割を果たしている。その中でも、市場開

放策による民間企業の国際競争力の強化および R&D支援による新技術開発の 2点が重要な政策として挙げられる。 フィンランド経済は従来、林業、金属産業が中心であったが、フィンランドが小国であ

るが故に、政府は市場開放策を取ってきた。このためこれらの産業は従来から国際競争に

晒されており、一層の国際競争力を強化するためには、新情報通信技術の導入が不可避で

あった。これが国内企業の IT導入需要を増加させ、国内の IT企業育成促進にもつながっている。また、通信セクターの分野では、従来から民間による通信事業が実施されており、

業者間の技術的競争により通信インフラが昔から整備されていたことに加え、1985年以降の通信セクターの完全自由化は国内競争をさらに促し、通話料金やインターネット・サー

ビス料金の低下を招き、その結果インターネットの普及に大きく貢献している39。 また、R&D投資の分野では 1990年代を通じて年平均 9%の急速な増加を記録した。対

GDP比では、1991年の 2%から 1999年には 3.2%にまで増加した40。表図 3-27のように、現在では先進国内でもスウェーデンに次いで第 2位となっている。

39 フィンランドは、通信セクターの自由化を、1980年代初頭の英国、米国における通信セクター自由化に次いで、早く実施した国である

40 Statistics Finland

付 151

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図表 3-27 R&D投資の GDP比

4.0

3.5

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

% % 4.0

3.5

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

1991 1993 1995 1997 1998 1999 1991 1993 1995 1997 1998 1999Partly preliminary data or estimates 出所:Main Science and Technology Indicators No.2, 2000, OECD

この R&D 投資の増加は主に民間セクターのもので、1990 年代を通じて年平均 11%増加した。R&D 投資全体に占める民間セクターの割合も 1991 年の 57%から 1999 年には68%にまで増加している41(図表 3-28)。その中でも電器産業の伸びは著しく、同時期に約 8倍となっており、全体に占めるシェアも 1991年の 17%から 1999年には 53%に達してる。

図表 3-28 セクター別 R&D投資の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

1989 1991 1993 1995 1997 1998 1999 2000

出所:Statistics Finland

単位:百万

EU

RO

公的セクター

民間セクター

大学

政府による R&D投資は、1990年代初頭の産業構造変化の開始時期に、民間セクターの

R&D 投資の触媒的な役割を果たしており、1993 年には公的セクターの占めるシェアは20%を超えていた。その後の民間投資の増加によりそのシェアは減少し 2000 年には

付 152

41 前掲

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11.2%になっている。現在では政府による R&D 投資は、民間投資を補完する形で戦略的に提供されているが、公的機関による R&D 投資の GDP 比では依然として EU 内では最高(1999年の 1.05%、EU平均 0.75%)となっている。 公的セクターによるR&D投資は図表 3-29にあるように、TEKES(National Technology

Agency(フィンランド技術庁))、大学、Academy of Finland42等を中心にして実施されて

おり、特に TEKESは他の機関の R&D投資額が 1997-99年の間に微増なのに対し、同期間に 25%増加するなど、その果たす役割は大きい。

図表 3-29 公的セクターによる R&D投資(2001)

出所:Information on Finish Science and Technology

Academy ofFinland

14%Universities26%

University centralhospitals

4%

State ResearchInstitute

16%

Others10%

TEKES30%

TEKES は、フィンランドの産業ベース拡張、輸出振興、雇用創出、福祉向上を目的として、産業研究、大学や研究機関への資金提供、中小企業の R&D支援を実施している国の科学技術調査・研究実施機関であり、上述のようにフィンランドの公的 R&D 投資の約3割を実施している。2000年度では、2,297件の技術プロジェクトに EUR373百万が提供され、そのうち EUR233百万が企業の実施する R&Dプロジェクトに対するグラントおよびローン、EUR140百万が大学、研究機関が実施する研究プロジェクトに対して提供されている43。

TEKESによる支援分野は、バイオ・テクノロジー、情報通信技術、エネルギー・環境、生産・物質技術分野がその大層を占め、特に最近では ITセクターに対する R&D支援の提供が増加しており、今や支援額では最大となっている(図表 3-30参照)。

42 Academy of Finland も TEKES同様に国の科学技術開発機関であるが、その対象を基礎研究に重点を置いている。

43 TEKES Annual Review 2000. 企業向け R&D資金のうち、約 7割がグラント、残り 3割がローンである。

付 153

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図表 3-30 2000年度の TEKESによる科学技術分野の研究開発資金 百万ユーロ 割合(%)

情報通信技術 101 0.28

化学技術およびバイオ技術 103 0.28

エネルギー・環境・建設技術 76 0.21

生産および物質技術 59 0.16

宇宙開発技術 19 0.05

実行可能性調査に対する資金 3 0.01

その他 2 0.01

出所:TEKES「21世紀のフィンランドでの TEKES」

特に、TEKES 支援の約半分を占める科学技術プログラムは、大学の研究者、民間企業

が共通の目的を達成するために実施されるプロジェクトベースでの支援であり、民間企業、

研究機関、大学研究所間のネットワーク構築を通じた実践的な協力体制を構築する他、組

織間の技術移転も推進し、国内企業全体の技術力底上げに貢献していると考えられる。こ

のプログラムでは TEKESからの資金の他に、参加団体からの資金も提供され、2000年度では、56 件の科学技術プログラムに総額 EUR130 億の資金が投入されている。大規模なプロジェクトでは、User-Oriented Information Technology (TEKESから EUR25百万)、Electronics for the Information Society (同 EUR12 百万)、Telecommunications – Creating a Global Village(同 EUR10百万)が挙げられる。 この他に、IT国家の創設に貢献している国の政策として、その教育システムの充実による基本的な ITリテラシーの向上および IT技術者の輩出が挙げられる。フィンランドでは、全国民がほぼ無料で教育システムを利用できることから、基本的な教育レベルは従前から

高い。その上にたって、政府は 1995年に National Strategy for Education, Training, and Research in the Information Societyを策定し、教育システム全体のカリキュラムの中でITリテラシー向上のための施策を包含すると共に、学校、大学、図書館等にコンピュータ、インターネットアクセスを構築し、現在ではフィンランド中の全学校がインターネットア

クセスを有するようになった。これらのインターネット網の構築は、幼少期からゲーム、

エンターテイメント等により新技術への適応能力の向上を図ると共に、大学、図書館等に

おいては生涯学習のコース提供等により、市民の全レベルでの IT リテラシー向上に寄与している。また、2000年には、更なる IT社会構築を目的に、Information Strategy for Education and Research 2000-2004を開始し、一般市民に対する ITリテラシーを高めるための生涯学習、トレーニングの提供、教師へのトレーニング等を実施する予定としている。 IT 技術者教育の養成の点では、政府の教育政策は高等教育に重点が置かれ、各世代で65~70%が大学或いは技術訓練教育を受けられるような予算確保がなされている。また教育省と産業の共同プロジェクトとして、1998年に ITに関する追加教育プログラムが設立され、約 11,000人の生徒がこのプログラムを受講することができる予算措置が採られてい

付 154

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る。このような情報技術開発に関する戦略的教育システムを採用したのはフィンランドが

欧州で最初である。技術教育の分野でも産業発展のためにカリキュラムが変更されている

他、上述のように初等、中等教育でも ITリテラシー向上、技術者教育養成のために科学、数学に注力するようなカリキュラムの変更を実施している。その結果、1993-98 年の間に大学卒業生の数は 2倍、技術訓練学校卒業生数は 3倍となっている。 3.4.5 NOKIAによる効果 フィンランドの IT セクターの中心は携帯電話産業であり、この産業の中心にあるのが

Nokia である。Nokia 1社でフィンランドの IT 関連輸出総額の 70~80%、IT 生産高の45%、IT セクター総雇用数の 45%を達成している。また、フィンランド GDP に占めるNokia のシェアは生産高ベースで 5%と、フィンランド経済の中でも重要な位置を占めている44。ETLA(The Research Institute of the Finish Economy)によれば、2000年度のフィンランドの実質 GDP成長率 5.7%のうち Nokiaの貢献度は 1.9%と言われている。同時に、Nokiaはフィンランドで最大の納税者でもあり、総税収入の約 4%が Nokiaから支払われている。このように、数字的に見ると、Nokia はフィンランドの IT セクターだけでなく、経済全体に強い影響力をもっており、強い Nokia依存体質が見受けられる。実際、国の経済予測をする場合には、従来の経済指標の分析だけでなく、Nokiaの収支状況の分析もされているのが実情のようである。 しかし、Nokia だけがフィンランドの IT 産業であるという認識はない。Nokia 以外に

も、約 4000 もの IT 関連中小企業が存在し、そのうち 200 社はヨーロッパ最大の EMS(Electronics Manufacturing Companies)企業である Eloteq等の EMS関連企業、350社が Nokia、Linux へのサプライヤーである。IT セクター全体で 2000 年度の実質 GDP成長の約 3%、Nokia以外の IT産業で約 1%に貢献していると言われている45。このよう

に、フィンランドの IT産業の裾野は広く、フィンランドの経済成長に大きく貢献している。 これらの企業の多くは Nokia へのサプライヤーやパートナーであるが、一方で Nokia

への協力により培った経験、技術を基にして、他の携帯電話企業とも提携して業務を実施

しているケースが見られる。また、Nokiaは常に新規企業で使えそうな製品、アイデアを有している企業を探して、これらの企業に対して、ビジネスプランの共同作成等、積極的

な支援を行い、新たな国内 IT企業育成に大きく貢献している。また、国内 IT企業への一番の貢献は、Nokia は国策会社ではないにもかかわらず、独力で 10 年という短期間に世界的な携帯電話機器メーカーにまで成長したことである。即ち、他の国内 IT 企業にポジティブなエネルギーを与え、同様の成功が他の国内企業でも可能であることを示したので

ある46。このように、Nokia 関連企業から Spill-Over する企業も多く47、また、Nokia と

44 前掲 45 前掲 46 Nokiaは 1865年に森林関連サービス企業として設立され、その後、皮製品、電子ケーブル、プラスティック、化学製品、家電へその業務を拡大していった。80年代後半から 90年代前半にかけての業績不振により、その業務を携帯電話、関連ネットワークに集中し現在に至る。

47 2000年末までに Nokiaを主要顧客とするサプライヤーのうち 8社が上場している。

付 155

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は全く関連しないソフトウェア産業等も育ってきているのは事実であり、Nokia依存経済は徐々に減少しつつあると言える。 3.4.6 IT主導経済の持続性

前述のように、フィンランドの過去 10年の経済成長は IT企業の成長に大きく依存して

いる。この IT 産業の成長は、フィンランドが小国である故に、外国からの需要にその大半を依存している。そのため、フィンランドの IT産業主導による経済成長は世界的な IT製品の需要動向に大きく左右されることになる。例えば、2001年の第 1四半期の GDP成長率は輸出額の減少によりマイナスとなっている。このようにフィンランド経済は IT 経済へと移行したことにより、外的要因に影響されやすい体質となっている。また、携帯電

話市場については、普及率が向上するにつれ、競争が激化して利益マージン率が下がる傾

向にある。また、3Gの登場はこれまでの GSM(2G)におけるフィンランドの Early Moverによる有利なポジションを消滅させてしまう恐れもある。 労働市場では、ハイテク産業向けの熟練 IT労働者の供給が国内の IT関連大学からの卒

業生だけでは不十分な状況にあり、現状では熟練 IT労働者不足が IT主導経済の持続性を阻害する可能性がある。政府はこの点に対処するために、2001年に移民法を改正し、外国人 IT労働者の国内流入方針を緩和し、国内での熟練 IT労働者不足に対処することとしている。 3.4.6 開発途上国への教訓 これまで述べたように、フィンランドが現在の IT国家となっている背景に、100年以上前からの民間電話会社の競争を通じた技術革新の進展および通信インフラの整備等の民間

企業によるイニシアティブ、国内民間部門で IT に対する需要が強いこと、および政府による市場開放政策での競争力のある民間セクターの育成および民間セクターの技術的優位

性を確保するための R&D投資、充実した教育システム等、官と民のバランスにより IT社会が構築されていること、がある。特に、政府の役割は民間企業発展のための触媒的な役

割を果たしていると考えられる。 IT 産業発展という観点からは、政府による基礎教育から高等教育までの充実のほかに、全教育レベルにおける IT リテラシーの向上を通じた全国民の新技術への適応能力の向上は、技術者養成ばかりでなく、国内の IT’機器に対する需要も創出するものであると考えられる。また、政府の市場開放政策は、国内企業の国際競争力を高めると共に、国内企業

での IT 需要創出に貢献していると考えられる。このように、フィンランドの場合には国内での IT需要および国外での市場開拓が、IT産業の発展に大きく寄与していると考えられる。更に、国際競争力を引き続き維持していくためには、新技術の開発は不可欠であり、

その点で TEKES を始めとする政府の R&D 投資は、民間セクターの R&D 投資の触媒的な役割を果たし、民間セクターの技術力向上に大きく貢献していると考えられる。 IT社会の構築の観点から、やはり教育制度の充実は不可欠である。特に、フィンランド

付 156

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で実施されているような幼年期からのコンピュータ利用等、新技術への対応能力向上は上

述のように ITリテラシーの向上だけでなく、国内 IT需要も創出する可能性を有する。また、全教育レベル、全市民を対象とした IT リテラシー向上を目的としたプログラムは国内でのデジタルデバイドの解消のために効果を発揮すると考えられる。ただし、ITリテラシーの向上の前提として、いわゆる「読み書算盤」の基礎教育は不可欠である。フィンラ

ンドの教育システムはほとんど無料で受講できるという特殊要因が存在するものの、この

基礎教育がベースとなって IT リテラシー向上のトレーニングが可能になっていることは言うまでもない。 ただし、フィンランドにおける IT産業、IT社会の発展経緯の開発途上国への適用に関しては、その可能性は低いと考えられる。なぜなら、IT産業が発達する前の 80年代までのフィンランドと開発途上国を比較した場合に、IT 産業、IT 社会が発展する土台が大きく異なるためである。フィンランドには、インフラ整備、基礎教育から技術教育までの充

実、国内産業の存在、海外市場の開拓、EU 市場が目前に存在すること等、多くの開発途上国が直面している諸問題が既に解決されている上に、これらの競争優位を基にして IT産業、IT国家の育成が実施されているためである。そのため、これらの土台が存在しない国において同様の政策を実施しても IT産業、IT社会発展は不可能であると考えられる。こうした条件の差異を別にして、あえて最も重要な要因を挙げるとすれば、やはり IT 技術者養成および一般社会の IT リテラシー向上を可能とする教育制度の充実であると考えられる。ただし、全国民がほぼ無料で教育を受けることができるというフィンランドの特

殊性があるため、同様の施策を開発途上国に適用することは困難であろう。

付 157

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3.5 インド(インタビュー実施時期:2002年 3月下旬)

3.5.1 インドにおける IT産業の概況 インドでは近年、経済成長を主導する産業構造に大きな変化がみられる。鉄鋼、自動

車といった伝統的な産業からサービスや知識産業に至るあらゆる産業において、抜本的

な産業構造の転換が図られている。最も活況を呈している新興産業の一つとして、IT関連産業、特にソフトウェア産業を挙げることができる。 インドにおける IT関連産業の発展において、政府が大きな役割を果たしてきた。その政策の変遷を以下に簡潔にまとめてみる。

1984 年のコンピュータ政策の下で、ハードウェアとソフトウェアの輸入関税が 60%に引き下げられた。また、ソフトウェア産業への民間部門の参入が完全に自由化され、

ソフトウェア産業とハードウェア産業ともに 40%まで外資の参加が認められた。さらに、1986 年に発表されたソフトウェア政策では、100%の輸出であれば 100%外資のソフトウェア企業が認められるようになった。一方、後述するが、1991年からソフトウェア・テクノロジー・パークを創設し、情報通信インフラの整備を強化するようになった。こ

のように、インド政府は、IT 関連産業における自由化を促進すると同時に、STPI による情報通信インフラを整備し、IT産業の発展を促した。 近年の動きとしては、99年に首相直属の諮問機関である ITタスクフォースが 108項

目からなる IT政策振興策を公表したことが挙げられる。その一環として 2000年 1月に旧電子工業省を改組し、IT省を新設し、IT主導の経済発展を目指している。 (1)さらなる成長の可能性の大きい IT産業

1995年から 2000年までインドにおける IT関連産業の年平均成長率は 30%で、ソフトウェア産業については 50%を超えた。このような急成長はインド産業史上、かつて経験したことがない。実際、インドにおける全産業の平均成長率は 6~7%であることや、全世界の IT 業界の成長率が 11%程度にとどまっていることからもその大きさがうかがえる。また、インドの IT関連産業の IT世界市場における現在のマーケットシェアは、世界における生産で 0.74%、輸出で 0.58%とごく僅かな割合しか占めておらず、今後さらなる拡大の余地が残されている。

付 158

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図表 3-31 全世界とインドの IT産業生産高の推移 世界生産高 インド生産高

年 ハードウェア ソフトウェア 合計 ハードウェア ソフトウェア 合計

世界生産に

占めるイン

ドのシェア

1995-1996 977 298 1275 5.40 1.20 6.60 0.52

1996-1997 1050 350 1400 5.70 1.77 7.47 0.53

1997-1998 1124 403 1527 5.89 2.80 8.69 0.57

1998-1999 1202 463 1665 5.85 4.40 10.25 0.62

1999-2000 1286 532 1818 6.43 5.72 12.15 0.67

2000-2001 1376 612 1988 6.67 8.04 14.71 0.74

年成長率(CAGR)% 7 15 30 53

出所:ESC(Electronics and Computer Software Export Promotion Council)

図表 3-32 国際貿易におけるインドの輸出シェア

国際貿易高 インド輸出高

年 ハードウェア ソフトウェア 合計 ハードウェア ソフトウェア 合計

国際貿易に

占めるイン

ドのシェア

1995-1996 651 180 831 0.71 0.79 1.50 0.18

1996-1997 700 200 900 0.88 1.15 2.03 0.23

1997-1998 749 220 969 0.75 1.81 2.56 0.26

1998-1999 801 242 1043 0.49 3.01 3.50 0.34

1999-2000 858 266 1124 0.60 4.02 4.62 0.41

2000-2001 918 293 1211 1.04 5.97 7.01 0.58

年成長率(CAGR)% 7 10

出所:図表 3-31と同じ。

(2)輸出志向的なソフトウェア産業

2000-01 年 の NASSCOM (National Association of Software and Services Companies) によるソフトウェアメーカーに関する年次調査によれば、インドの ITソフトウェアおよびサービスの規模は US $ 82.6 億 (Rs 37,760 千万) で、うち輸出用 US $ 62 億 ( Rs 28,350 千万) 、国内用 US $ 20.6 億( Rs 9,410 千万)となっている。

付 159

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図表 3-33 インドのソフトウェア市場の推移

3 5 0 4 9 0 6 7 0 9 5 0 1 ,2 5 02 ,0 6 0

2 ,7 0 0

4 8 5 7 3 41 ,0 8 3

1 ,7 5 0

2 ,6 5 0

4 ,0 0 0

8 ,5 0 0

8 3 51 ,2 2 4

1 ,7 5 3

2 ,7 0 0

3 ,9 0 0

5 ,7 0 0

8 ,2 6 0

1 ,7 0 0

6 ,2 0 0

1 1 ,2 0 0

0

2 ,0 0 0

4 ,0 0 0

6 ,0 0 0

8 ,0 0 0

1 0 ,0 0 0

1 2 ,0 0 0

1994‐9

5

1995‐9

6

1996‐9

7

1997‐9

8

1998‐9

9

1999‐0

0

2000‐0

1

2001‐0

2(f)

百 U S $ 国 内 用 ソ フ トウ ェア 市 場

輸 出 用 ソ フ ト市 場

合 計

出所:NASSCOM

(3)ハードウェア主導からソフトウェア主導へ 図表 3-34にあるように、IT関連産業の構成は、輸出向けソフトが 57.4%と最も多く、

国内向けソフト 17.3%、ハードウェア・周辺機器・ネットワーク 22.3%、トレーニング2.9%となっている。図表 3-35に示しているとおり、これは 1994年時点のハードウェア主導的な産業構造から、輸出向けソフトウェア主導の構造への変換を意味している。 同時に、輸出向けソフトウェア業界ではパラダイムの転換が起きている。オフショア・

サービスが 44%、オンサイトは 56%となっており、オフショア・サービスが僅か 5%、オンサイトが約 99%であった 1991-1992 年とは全く異なる様相を呈している。オフショアサービスが増加したのは、インド国内での ITインフラの整備による海外とのデータ通信が発達したこと、国内企業の CMM5級の取得による優れるソフトウェア開発手法と高品質が認められていることによるところが大きい。

付 160

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図表 3-34 インドIT産業の構成(2001年~2002年)

国内用ソフトウェア及びサービス

17%

輸出用ソフトウェア及びサービス

58%

ハードウェア、周辺機器、ネットワーキ

ング22%

トレーニング3%

出所:図表 3-33と同じ。

図表 3-35 インドIT産業の構成(1994年~1995年)

国内用ソフトウェア及びサービス

18%

トレーニング5%

輸出用ソフトウェア及びサービス

28%

ハードウェア、周辺機器、ネットワーキ

ング49%

出所:図表 3-33と同じ。 (4)主に米国に向けた輸出 図表 3-36のとおり、インドのソフトウェアの輸出については、北米向けが 62%を占め、

次いで欧州 24%、日本 4% 、その他 10%となっているように、圧倒的に米国市場に依存している。しかしながら、2000年後半に起こったドットコム産業のバブル崩壊と米国経済の低迷により、2001-2002 年の成長予測は下方修正され、2003 年も同様と予想されている。それにもかかわらず、2002 年の IT 産業の成長は平均 30%と見込まれているように、IT関連産業は高い成長を堅持している。

付 161

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図表 3-36 ソフトウェアの輸出先(2000年-2001年)

北米62%

アジア(日本以外)

7%

日本4%

ラテンアメリカ、その他

3%

欧州24%

出所:図表 3-33と同じ。

(5)政府主導の IT産業の内需 政府部門はインド国内 IT産業48の最大の需要先であり、銀行・金融、製造業、その他が

続く。 図表 3-37 インド国内 IT市場の構成(2000年-2001年)

銀行・金融18%

製造12%

交通・運輸8%

教育3%

SOHO8%

電気通信10%

小売2%石油・

石油化学製品4%

その他1%

政府34%

出所:図表 3-33と同じ。

(6)輸出依存度の高いトップソフトウェアメーカー 図表 3-38は、インドにおけるソフトウェア企業上位 20社のリストであり、そのほとんどがインド系企業である。例えば、Tata Consultancy Services(TCS)、Wipro、Infosys Technology、HCL Technology、Satyamといったトップ 5社は、全て地元企業である。

IBM、オラクル、マイクロソフト、SAP等の大手欧米系企業がインド市場に参入してい

付 162

48 ここでいう IT関連産業はソフトウェア、ハードウェア、周辺機器、訓練をさす。

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るが、規模面では大手地元企業に及ばないところが多い49。また、多くの欧米企業は、ソ

フトウェア開発センターを設立し、海外向けのソフトウェア開発を行っている。例えば、

マイクロソフト社は 95年にデリーにインド本社をおき、98年に同社初の海外 R&Dセンターをハイデラバードに設立し、主に本社向けの開発を行っている。 次頁の図表 3-39にもあるように、これらのトップソフトウェアメーカーの製品はほとんど海外向けである。上位 5社の売上高に占める輸出率は 93%であり、海外市場依存が非常に高いことがうかがえる。特に、Infosys 社と Satyam 社はそれぞれ 98.6%、97.8%であり、輸出に特化した企業とも言える。 ヒアリングによれば、ソフトウェア企業の多くで海外輸出依存度が高い要因は、インド

国内市場の規模が小さいことの他に、最大の需要先である政府部門での入札手続の煩雑さ

および不公正取引の存在、支払い条件の悪さ、単価の低さ等、である。しかしながら、規

制緩和された国内金融業界では、今後グルーバルな競争に勝ち取るために、IT導入が不可欠であり、国内需要の拡大が予想される。

図表 3-38 ソフトウェア企業上位 20社(2000年-2001年)

売上高 ランキング 企業名

(千万 Rs.) (百万 US$)

1 Tata Consultancy Services 3,142.43 641.06

2 Wipro Ltd. 1,965.90 401.04

3 Infosys Technologies Ltd. 1,900.57 387.72

4 HCL Technologies 1,276.23 260.35

5 Satyam Computer Service Lid. 1,269.10 258.90

6 IBM India 832.15 169.76

7 Silverline Technologies Ltd. 714.24 145.70

8 Cognizant Technlogy Solutions. 704.48 143.71

9 NIIT Ltd. 682.84 139.30

10 Pentasoft Technologies Ltd. 642.65 131.10

11 Pentamedia Graphics Ltd. 574.71 117.24

12 Patni Computer Systems 518.69 105.81

13 Mahindra British Telecom Limited 439.50 89.66

14 HCL Perot Systems 439.24 89.60

15 DSQ Software Ltd. 438.17 89.39

16 Mascon Global Ltd. 341.86 69.74

17 Mascot Systems Ltd. 340.31 69.42

18 Tata Infotech Ltd. 334.13 68.16

19 I-Flex Solutions Ltd. 308.29 62.89

20 Mphasis BFL Ltd. 283.31 57.80

出所:図表 3-33と同じ。

49 外資系ソフトウェア企業の進出先としては、南のバンガロール、首都デリーとその近郊のノイダが主である。例えば、マイクロソフト、オラクル、H&P等の米系大手企業の開発業務は、後述の STPIの多い南インドで行われている場合が多い。

付 163

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図表 3-39 ソフトウェア輸出企業上位 20社(2000年-2001年)

輸出高 ランキング 企業名

(千万 Rs.) (百万 US$)

1 Tata Consultancy Services 2,870.26 585.53

2 Infosys Technologies Ltd. 1,874.03 382.30

3 Wipro Ltd. 1,756.39 358.30

4 Satyam Computer Service Lid. 1,241.22 253.21

5 HCL Technologies 1,126.92 229.89

6 Silverline Technologies Ltd. 709.00 144.64

7 Cognizant Technlogy Solutions. 703.08 143.43

8 NIIT Ltd. 570.02 116.28

9 Pentasoft Technologies Ltd. 555.50 113.32

10 Pentamedia Graphics Ltd. 548.02 111.80

11 Patni Computer Systems 515.60 105.18

12 IBM India 506.02 103.23

13 HCL Perot Systems 439.24 89.60

14 DSQ Software Ltd. 438.17 89.39

15 Mahindra British Telecom Limited 424.80 86.66

16 Mascon Global Ltd. 339.87 69.33

17 Mascot Systems Ltd. 338.69 69.09

18 I-Flex Solutions Ltd. 293.74 59.92

19 Tata Infotech Ltd. 288.03 58.76

20 Mphasis BFL Ltd. 283.31 57.80

出所:図表 3-33と同じ。 (7)成長エンジンとしての IT産業 インドの ITソフトウェアおよびサービス産業は、GDPの 2%、全輸出の 14%を占めている。NASSCOMとMc Kinseyの共同調査によると、2008年までにはインドにおけるソフト産業の対 GDP 比率は約 7.7%、全輸出の 35% に増加すると予想されている。このように、IT産業の比重はますます大きくなっていくとみられる。 また、IT関連産業に対する政府のイニシアティブやインドの優位性が認識されたことで、同産業に比類なき成長がもたらされている。シンガポール、中国、フィリピン、ア

イルランド、メキシコ等の競合国に比べて、インドは高品質の製品を低コストで提供で

きるという優位性を有していると言われている50。 世界経済は景気後退に突入し世界的に投資は減少しており、国内経済も同様に景気減

退に直面している。90 年代後半に IT 産業の巨大な購買によってもたらされたテクノロジーの波は、大幅に勢いを失っている。同産業は強い基盤を持ってはいるが、経済規模

は未だ十分とはいえない。それでもなお、30% という他産業の水準をはるかに超える高い成長率を見込んでいることから、IT産業が同国の経済成長を牽引していることが分かる。

50 ESC(Electronics and Computer Software Export Promotion Council)「Indian Exhibitor’s Profileを参照。

付 164

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3.5.2 インドにおける IT産業の特徴 インドのソフトウェアメーカーは世界的にも確固たる地位を占めるようになった。こ

れは特に 1997年以降、先進国向けのアプリケーション分野で画期的な成長を遂げたからである。このことはインドのソフトウェアおよびサービス市場の形成にとって大きな転

機となった。 (1)ソフトウェア分野の長所 国際的な視野から見たインドのソフトウェアメーカーの長所としては、以下を挙げる

ことができる51。 ・ 世界第 2位52を誇る科学系・技術系人材ベース(図表 3-40を参照) ・ 英語能力 ・ 数学的な能力と把握力 ・ 広い範囲アプリケーションの経験 ・ ハードウェアとソフトウェア環境の知識 ・ 給料が一番高い ・ 才能のある人々を引っ張る ・ 費用対効果が大きい ・ 多くのスタッフ(従業員)に対する管理能力 ・ よい質で生産性が高くて仕事の倫理が高いというイメージで国際的に知られている ・ 政府による、高速データ通信リンク、インフラと電力などのサービスを整えたソ

フトウェア・テクノロジー・パークの設立 ・ 世界初のサイバー法の制定、ソフトウェア企業の法人税免除等、政府による積極

的な ITイニシアチブと支援政策の実施 インドでは科学技術系の人材が多いのは、コンピュータ・サイエンスおよび数学を重視

するインドの教育システムに由来する。例えば、バンガロールにある科学大学院

(IISc:Indian Institute of Science)は 1909年に創設された理系専門大学院で、450人の教授と研究スタッフを有する最高峰の技術系大学である。また、1950年代に米国のMITをモデルにインド工科大学(IIT:Indian Insitute of Technology)が設立され、いまやデリー、ムンバイなど全国に6つのキャンパスを有し、技術系人材を養成している。さらに、イン

ドの教育カリキュラムにおいては伝統的に数学が重視される。また数学のゼロという概念

を発見したのもインド人である。なお、インタビューにおいても、インドが伝統的に数学

に強いという指摘があった。 1999年現在では、全国に約 1,900校の IT関連教育を行う高等教育機関があり、毎年 7万人あまりのエンジニアを輩出している(図表 3-40参照)。

51 前掲 52 NASSCOMによれば、2000年 3月ではインド国内のソフトウェア・サービス企業で雇用されている技術者が 34万人と推計されている。この数字は、米国に次いで世界第 2位である。

付 165

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図表 3-40 インドにおける新規 IT従事者数の推移

出所:図表 3-33と同

図表 3-40にもあるように、インドでは多くの IT技術者を輩出できるのは、IT教育の旺

比較的安いコストで優秀な人材を確保できるのは、Infosys 等の大手インドソフ

2)ソフトウェア・テクノロジー・パーク・オフ・インド(STPI)の設立 工業省(現

種 別 2000-01 2001-02 2002-03 2003-04 2004-05

ITプロフェッショナル(カレッジ学位・デプロマ・コース出身)

74.364 90.867 99.959 110.495 115.533

IT以外のプロフェッショナル(カレッジ学位・デプロマ・コース出身)

32.025 35.612 38.423 43.261 55.877

IT従事者(エンジニアリング以外を専攻) 26.597 31.620 34.595 38.439 42.853

新規IT従事者 132.986 158.099 172.977 192.194 214.263

エンジニアリングの総定員数 290.088 333.094 361.076 401.791 464.743

エンジニアリングの定員数に対するカレッジ学位・デプロマ・コース出身のITプロフェッショナル

26% 27% 28% 28% 25%

エンジニアリング系卒業者数に対するIT系卒業者数 33% 35% 35% 35% 31%

じ。

盛なニーズに対応できるように、国全体が IT 教育を産業として取り組んでいるからである53。 また、

トウェアメーカーに対する従業員の評判や働きがいによると考えられる。例えば、インタ

ビューで訪れた Infosysは、Business Today-Hewitt Associatesの調査で 2001年と 2002年にナンバーワンの雇用主としてランクされているように、ストックオプションの供与等

により従業員の評価が高い。実際 Infosys の本社を訪問した際、広大な敷地内に立派な建物が立ち並んでいた。このように、インド国内においても、評判のよい企業が存在してお

りかつ快適な環境で働けることは優秀な人材を確保できる背景であると考えられる。 シリコンバレーとの人的交流に関しては、ヒアリングしたトップソフトウェア企業に

いては、トップマネジメント以外はあまりないのが現状である。また、多くの元シリコン

バレー技術者は、インドの大手企業で務めるよりも、自らベンチャー企業を興したり、在

インド米国企業の責任者になったりする場合が多いようである54。 (

STPIは、データ通信回線を通じたソフトウェアの輸出拡大を目的として電子信情報技術省)が 1990 年に設立した独立行政法人である。2002 年 3 月現在、全国で

19 の STPI が設立されており、その多くで高速データ通信の地方基地が整備されている。また、STPIに加盟すれば、売上税免除が 5年から 10年に延長されるなどの特別優遇措置がとられたため、各地での加盟企業が激増した。例えば、STPIデリーでは、98-99年時点では 220社であったのが、99-00年では 623社に急増した。

53 中国ソフトウェア産業協会でのヒアリングにおいて、インドのソフトウェア産業の強みとして IT教育を産業として取り込むことが挙げられた。例えば、IT教育を義務教育ではなくビジネスとして IT訓練機関の創設が積極的に行われており、官民ともに IT人材育成に力を入れている。

54 三和総合研究所調査部「アジアの IT革命」による。

付 166

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19の STPIが設立されているのは主に以下の都市であるが、南部の州に多く設立されてい

ジャブ州)、Delhi(デリー、STPI 本部)、Noida(ウッタル・プ

・ (西ベンガル州)、Bhuvaneswar(オリッサ州) )、Navi Mumbai

・ alore(カルナカタ州)、Manipal

イ いては、STPI はソフトウェアのクラスターを作り、完備されたインフ

3)IT活用の効果 IT技術はサービスの提供や業務プロセス遂行にとって重要な要素で

化が必要

るのが特徴である。 ・ 北部:Mohali(パンラデシュ州) 東部:Calcutta

・ 西部:Jaipur(ラジャスタン州)、Gandihinagar(グジャラート州(マハラシュトラ州)、Pune(マハラシュトラ州) 南部:Hyderabad(アンドラ・プラデシュ州)、Bang(カルナカタ州)、Mysore(カルナカタ州)、Chennai(タミル・ドゥ州)、Trivandram(ケララ州) ンタビューにお

ラを提供し、ソフトウェアの輸出増に貢献していると評価されている。また、政府主導

で設立された STPIは IT発展の初期の段階では非常に重要な役割を果たしたが、国際的にみても競争力をもつようになった現在では、民間企業による自発的な取り込みが必要であ

ると指摘された。その一環として、アンドラ・プラデシュ州ではいつくかの民間による ITパークが計画されている。 (

インドでは今日、

ると認識されている。ITの活用により、顧客の利便性向上、コスト削減、業務速度の向上、生産性向上、e-ビジネスによるサプライ・チェーン・マネージメントが可能となろう55。本インタビューでもある大手民間銀行で、IT 分野に投資したことで、行員の事務処理の正確性やスピードが大幅に改善され、費やす作業時間の短縮ができたとの指摘

があった。このように、事務処理時間の短縮した分を顧客対応に回すことができ、その

結果として行員の生産性向上だけでなく、顧客満足度にもつながっている。 IT導入効果を十分に引き出すためには、情報技術を駆使した管理方法の近代あると同時に、組織自身が IT 導入を切に望んでいること、IT 導入のための必要条件が揃っていること、チェーンマネジメントの準備が十分であること、ITや変革を進んで受け入れる企業文化があることが重要であろう。また組織のトップが ITの導入効果を十分に認識していることも重要である。例えば、インドの中でも先駆的に IT導入を図るアンドラ・プラデシュ(AP州)州知事(Chief Minister)は、自らが外国の要人等を招いて同州の IT化政策を積極的に紹介するほど IT効果を認識していることがインタビューで指摘された。民間企業へのインタビューにおいても、既存業務の方法を抜本的に変革する IT導入を成功させるには、トップマネジメントによる IT化の効果の認識が肝要であるということがしばしば指摘された。

55 Satyamでのヒアリングによる。

付 167

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(4)IT導入の有望分野 IT導入を図りつつある主な産業としては、銀行、金融サービス、自動車等の資本集約産

業、鉄鋼、情報通信が挙げられる。今後の国内の IT 関連産業拡大には、これらの業界における IT化推進が重要であるといえる。特に銀行や金融サービス業界では、ITの導入なしには競争力の発揮およびその持続は考えにくいため、今後も国内 IT 需要の拡大が予想されるであろう。 中でも有望視される分野としては、e-コマース、トランスクリプション、データ処理、

ビジネス・プロセス・アウトソーシング、バック・オフィス業務、動画、ヘルプ・デスク、

コール・センター、カスタマー・インターアクション・サービス、データ・デジタル処理、

デジタル・コンテンツ開発、ウェブ・テクノロジーに用いられる IT エネブルド・サービスが挙げられる。 (5)高付加価値分野への移行 ソフトウェア市場に関しては、現在、カスタマイズされるアプリケーションの開発およ

びメンテナンス分野に積極的に投資が行われている。しかし、世界の IT 関連サービス市場におけるインドのシェアは 5%と非常に低い。インドのソフトウェア企業は、高付加価値分野に焦点を当てる必要性がある。現在の輸出市場において、インドの同分野でのプレ

ゼンスは低い。インドではまた、国内ソフトウェア市場を強化する必要性も認識されてい

る。 (6)ITイネイブルドサービス産業が有望 ITイネイブルドサービスの世界市場規模は、2000年では約 135億ドルであったが、2008年では 1,520 億ドルと予想されるように急拡大している(図表 3-41)。このうちインドについては、2001-2002年では約 15億ドル、2008年では 170億ドルと予想される。こういsた IT イネイブルドサービス産業の急成長は、通信ネットワークの整備が進むことによるところが大きい。 IT イネイブルドサービス産業については、図表 3-42のように、コールセンターを含むカスタム-インタラクション、バックオフィス・データ入力、トランスクリプション、コ

ンテンツ開発、遠隔教育等といった5つのカテゴリーに分けることができる。インドは、

特にメディカルトランスクリプション、コンテンツ開発・動画・エンジニアリングデザイ

ン分野で競争力を発揮し、2割以上の世界シェアを獲得するものと予想される。

付 168

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図表 3-41 ITイネイブルドサービスの市場規模

注:世界市場規模は価 を想定。

出所:図表 3-33と同じ。

また、ITイネイブルドサービスの雇用効果については、2000-2001年では僅か 7万人で

図表 3-42 インドにおける ITイネイブルドサービス市場の推移

における国内企業のプレゼンスが小さい

インド国内の IT市場においては、図表 3-43に示すとおり、ソフトウェア・サービスように、インドにおける

資が膨大である。一方、ソフトウェア分野では、人材志向で膨大な初期投資が必要

による情報通信インフラの整備等、多くの支援政策を打ち出しているが、

合 計

世界市場規模  2000年 (百ドル) 8.600 2.000 425 2.200 250 13.475

世界市場規模  2008年(予測) (百ドル) 33.000 59.000 1.200 10.000 48.800 152.000

インド市場規模  2001年-02年(予想) (百ドル) 350 600 32 440 43 1.465

インド市場規模 2008年(予測) (百ドル) 3.700 5.100 300 2.200 5.700 17.000

インド市場シェア 2008年 (%) 11 9 25 22 12 11

その他サービス(遠隔教育、データ検索、市場調査、ネットワーク、経営コンサルティング等)

カスタマー・インターラクション・サービス(コールセンターを含む)

バック・オフィス・オペレーション、財務・会計、データ入力、データ変換、HR

トランスクリプション・サービストランスレーション・サービス

コンテンツ開発、動画、エンジニアリング・デザイン、GIS

格格差調整済み。2008年の為替レートは 1米ドル=58.5ルピー

ったが、2008年では 110万人と急拡大が予想される。特に、コンテンツ開発・動画・エ

ンジニアリング&デザイン分野は 30万人の雇用機会を生む最大分野であると見込まれる。

注:2001-02年予想は、同年公表された生産能力の増強計画に基づく。

出所:図表 3-33と同じ。

従業員数 市場規模 従業員数 市場規模 従業員数 市場規模 成長率(%) 従業員数 市場規模

カスタマー・インターラクション・サービス(コールセンターを含む)

8.600 400 16.000 850 33.000 1.650 94 270.000 20.000

バック・オフィス・オペレーション(財務・会計、データ入力、データ変換、HR)

15.000 950 19.000 1.350 35.000 2.850 111 300.000 21.000

トランスクリプション・サービストランスレーション・サービス

5.000 120 6.000 160 5.200 150 -6 50.000 4.000

コンテンツ開発、動画、エンジニアリング・デザイン、GIS

15.000 820 27.000 1.600 30.000 2.100 31 300.000 25.000

その他サービス(遠隔教育、データ検索、市場調査、ネットワーク等)

1.400 110 2.000 140 3.000 210 50 180.000 11.000

合 計 45.000 2.400 70.000 4.100 106.200 6.960 70 1.100.000 81.000

2008予測1999-2000 2000-2001 2001-2002(予想)

(7)ハードウェア分野

りもハードウェアのウェイトが大きい。しかしながら、既述したよ

ソフトウェアのトップメーカーがインド企業で独占されているのに対して、ハードウェア

分野では外国企業がメインである。 ソフトウェアに比べ、ハードウェアの成長が遅れている要因としては、以下があげられ

る。 ・ 膨大な設備投資が必要。ハードウェア分野は製造ベースが必要であり、それに対する

としない。 政府の支援政策の欠如。インド政府はソフトウェアメーカーに対する所得税の免除、

STPI の創設

付 169

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ハードウェア分野では目立った優遇政策が見当たらない。

図表 3-43 インド国内における IT市場の構成

(単位:百万ルビー)

国内市場セグメント 1994-95 1995-96 1996-97 1997-98 1998-99 1999-00 2000-01 2001-02(E)

ハードウェア 9,375 1,190 1,830 3,560 3,735 3,719 6,234 9,102

周辺機器 459 672 653 822 1,431 2,070 2,517 2,900

ネットワーキング 112 240 559 641 952 1,234 1,789 2,100

ハードウェア サービス 176 266 328 820 940 1,209 1,651 1,800

ソフトウェア 1 3 5 5 7 9,134 760 ,400 2,300 ,827 ,152 ,759 ,920

パッケージ 1,956 2,246 1,620 1,944 2,100

カスタム・ソフトウェア 569 825 1,145 1,603 1,700

ターンキー・プロジェクト 629 944 1,255 1,650 1,700

コンサルティング他 305 456 547 725 850

キャプティブ・デベロップメント 368 681 1,192 1,998 2,784

ITエネブルド・サービス 90 170 320 700

ソフトウェア及びサービス 計 936 1,666 2,628 4,647 6,182 7,138 9,891 11,634

研修 331 497 660 856 1,194 1,561 2,329 1,800

国内市場 合計 3,892 6,081 9,438 11,203 13,976 18,391 25,751 27,959

為替レート 31.39 0 7 2 8 9 0 033.4 35.4 37.1 40.0 43.2 45.6 47.5

合計(百万ドル) 4 2 6 2 2 5 5 9s1.2 1.8 2.6 3.0 3.3 4.2 5.6 5.8

出所:図表 3-33と同じ。

RI)とのリンケージ

NRI(非居住インド人)とはインド国外に暮らしているインド人のことであり、商売熱00万人弱の NRIがおり、高度な専門職につ

なくむしろ中堅企業やベンチャー企業が強いリンケージを持っていると言われ

9年にインドに進出した。同社の基

その他 600 850 1,050 502 498 154 123 150

ハードウェア 計 2,625 3,918 6,150 5,700 6,600 9,692 13,531 14,525

(8)先進国の人材(N

心、商売上手と言われている。世界中に約 20ている人材が多く、米国の億万長者 28万人のうち、およそ 10%がインド系で占められていると言われている。また、91年から 99年の間に行われたインドへの外資投資総額 100億ドルのうち、25%弱が NRIによるものであり、とりわけ IT関連分野への投資が顕著である56。 しかしながら、先進国に居住する NRIとの本国との間のリンケージについては、大手地元企業では

いる57。これは、大手企業では既に人材が豊富に揃っていること、中堅企業やベンチャ

ー企業のほうが成長速度が高いことによると推察される。 また、インドの IT産業を活用する NRI系企業としては、バンガロールに拠点をもつ以下の注目の NRI系ソフトウェア企業を挙げられる。 IMRインディア(IMR India):パンジャブ出身の NRIのサティシュ・サナン氏が 1987年にフロリダに設立したソフトウェア企業で、198本業務は、顧客システムの 24時間メンテナンスを中心とするアウトソーシングであり、「フォーチェン」200社のうち 57社が同社の顧客となっている。インド法人は社員数が約 2000名で、同社の 8割のソフトウェア開発を担当している。 ダルマ・ソフトウェア(Darma Software):チェンナイ出身の元アポロ研究所研究員

56 インドベンチャーキャピタル協会によれば、インドのベンチャーキャピタル資金の現状は、世界 IT不況にもかかわらず 2001-2002年では 11億ドルの規模があり、その多くは ITイネイブルドサービス関連である。

57 大手ソフトウェアメーカーに対するヒアリング。

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である J.シャシダール氏が 1986 年ニューハンプシャーに設立したダルマ・システム

大き

を早急に克服しなければ、インドの IT 関連産業のさらなる展の可能性が限られてしまう恐れがある。

インドのソフトウェアが世界中に注目されている中で、世界ソフトウェア市場におけ

めて低い。2008年までに US $ 500億、2010年ま

練の下で、分野に関する知識の深化だけでなく、機能的知識の

インドは、今後欧州や日本を視野に入れ、海外市場の地理的な拡大を図らなければな

上の米国向け輸出の規模を維持しつつ輸出を安定的に拡

インターネットの普及、e-ビジネス、WAPイネイブルド技術によって成長が期待されアのリンケージを強化する時期に来ている。

ズが親会社。インド法人は、航空、通信、薬学の研究機関などのデータベース用 SQLインターフェース技術開発のアウトソーシング先として 1987年に設立された。その後、インドのモトローラ、AT&T、HPなどのソフトウェア開発業務も現地で請け負っている社員数 100名ほどの中堅企業である。 のように、インドのソフトウェア産業の発展に、NRIによる資金面や技術面の貢献がく影響していると考えられる。

3.5.3 将来展望と主な課題 しかしながら、以下の課題

(1)高付加価値分野への参入の必要性

るインドのマーケットシェアは未だに極

でに US $ 1000 億という目標を達成するためには、それに合った手段を講じる必要がある。これらの目標達成は容易ではないが、不可能なものでもない。例えば、海外市場

におけるバリュー・チェーンの上流分野への参入、戦略的コンサルティング、ブランド・

マネジメント、研究開発、顧客に対しインターアクティブなサービスを提供する e-コマース等の強化がある。 ヒアリングにおいては、高付加価値分野への参入方策としては、ソフトウェアエンジ

ニアに対する継続的な訓

化も欠かせないと指摘された。また、国内においてより高度なソフトウェア・アプリ

ケーションが有望視されている部門は、保険、小売・流通、CRM、電気通信、銀行・金融機関、政府、製造である。例えば、規制緩和やグルーバル化の進展を促進すれば、上

記の産業が国際競争力を確保するために、IT化を導入せざるをえず、高度なソフトウェア・アプリケーションのニーズが創出することができる。 2)海外市場の地理的な拡大

らない。前述のとおり、6 割以するには、欧州や日本市場を戦略的に開拓しなければならない。現に、多くのインド

ソフトウェア企業は対日進出を強化しており、日本法人の設立に伴いインドでの日本語

クラスの開設や日本人の雇用を積極的に行っている。

3)ハードウェアとのリンケージの強化

る国内市場で、ソフトウェアとハードウェ

ードウェアとソフトウェアは補完する産業であり、ソフトウェアはハードウェアの産

付 171

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業のサポートなしには、更なる成長を達成することは困難である。つまり、ソフトウェ

アはハードウェアの心臓部であり、ハードウェアが発展すればするほど、それに対応す

るソフトウェアの需要や製品革新ニーズも高まってくるであろう。

4)ITインフラ整備の強化 (

ンドでは 2000年現在、100人当たり電話回線が 3.2、100人当たり携帯電話が 0.35、利用者数が 0.54、100 人当たりパソコン台数が 0.30 であ

インドにおけるコスト上昇の中、IT関連産業における中国の台頭が脅威になりつつあれ始めている。インドと違って英語という言語の優位性は持たない

1000 人当たりインターネットように、通信情報インフラの普及率がきわめて低く、普及の促進が急がれる58。 今後国内外市場をさらに拡大・深化するためには、ソフトウェア・テクノロジー・パ

ーク(STPI)でのインフラ整備にとどまらず、国内で広範囲に情報通信インフラや空港力等他の物理的なインフラを整備・強化し、かつパソコンの減税等によってパソコン

普及度を向上させなければならないと考えられる。 5)中国の急成長

るとの見方があらわ

のの、中国は人口の大きさ、IT人材の豊富さ、コストの安さ、国内市場の大きさ等においてインドの脅威となる可能性に関して、多くのインド企業の経営者が危機感を抱い

ている。

58 ITU、Nassomによる

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3.6 バングラデシュ(インタビュー実施時期:2002年4月上旬) 3.6.1 概況

バングラデシュの IT産業は、固定電話が 100人当たり 0.52人、携帯電話が 0.52人といった低い普及率にみられるように、今回同時期にヒアリングした 3 カ国の中では IT 化の進展が一番遅れている。最近バングラデシュ政府は、IT産業を発展させるため、首相を議長とし関連省庁および民間の有識者で構成されている「ITタスクフォース」で IT産業に関する政策を議論している。この IT タスクフォースは前政権が発足させたものだが、2001年 10月にできた現政権が引き継いでいる。現政権発足後の今年 1月に、第 1回目の会合が開かれ、①ITセクターにおける人的資源の開発および②データ通信接続における民間ケーブルの使用が提言された。 バングラデシュの IT政策については、ITポリシードラフトが挙げられるが、そのアクションプランが2001年発表された59。IT ポリシーアクションにおいては、監督省庁、人的資源の開発、インフラの開発、法的整備等の重要性が唱えられており、短期的(2001年~2002年)と中期的(2002年~2005年)にわけ、取り組むべき内容が示されている。 また、IT産業に関する主な業界団体として、BCC (Bangladesh Computer Council)、

BCS (Bangladesh Computer Samity60)、BASIS (Bangladesh Association for Software & Information Services)、ISP協会、e-コマース協会、インターネットユーザー協会等がある。

1991年に発表された産業政策では、今後 10年間に工業分野の GDPシェア 25%の達成および同分野の就業人口の 20%実現を目標に掲げている。また、それを実現するため、16の戦略的育成分野61が指定され、中にはコンピュータソフトウェアが含まれている。この

ように、コンピュータソフトウェア産業の育成が政策レベルで行われるようになった。 また、現在バングラデシュ政府計画省では国家の中長期計画として第 6 次 5 ヵ年計画(2003年-2008年)を策定中である。その中で、ITインフラとして海底光ファイバーケーブルの敷設、インターネットの接続が中心課題として挙げられており、人的資源開発に

対して重点的に投資することも言及されている。特に IT インフラの整備については、IT産業の発展のためには固定電話回線よりも高速かつ大量なデータ送受信が可能な光ファイ

バー敷設が重要であると考えられる。 バングラデシュにおける固定電話事業者としては、国営の BTTB62と 2 社の民間事業者

59 詳しくは http://bccbd.org/html/itpolicy.htm; http://bccbd.org/html/actplan.htmを参照。 60 BCSは 1987年に 14社によって設立されたコンピュータ業界団体であり、現在ではハードウェア、ソフトウェア、訓練等の 300社の会員企業をもつバングラデシュの IT分野の代表的な業界団体である。当協会の会員になるためには、税金支払登録番号、商品販売・取扱実績、既存会員の推薦状、事業ライセンス、銀行の推薦状等が必要である。ITセクターが民間金融機関に対する融資の申請では、BCSの会員になるのが融資の条件の1つになっているように、BCSの役割が大きい。

61 コンピュータソフトウェア以外に、農業関連産業、造花製造、電子機器、冷凍食品、生花栽培、スーベリア商品、インフラ整備、ジュート製品、宝石・ダイヤモンド/カットおよび研磨、皮革製品、石油・ガス、ぬいぐるみ玩具、繊維、観光である。

62 BTTBは 1976年に政府より分離した全額政府出資の公社であり、1971年のバングラデシュ独立時に設立されたMinistry of Post, Telegraph & Telephone (現在のMinistry of Post & Telecommunication)の電信・電話局を母体としている。

付 173

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が事業を展開しており、携帯電話についてはグラミンフォン、シテイ・セイ、シェバ、ア

クテルの 4 社がある(図表 3-44 参照)。バングラデシュでは、図表 3-45 に示すとおり、1999-2000年では固定電話回線が約 60万、100人あたり 0.63回線であるように、普及率が非常に低い。 現在、携帯電話回線数が固定回線数を上回っているものの、その多くが固定電話との接

続ができない状態にある。つまり、全携帯電話回線のうち固定電話と接続可能なのは約 10万回線のみである。全 65万台のうち、約 50万台を占めている最大手がグラミンフォンであり、その利用者の多くは農村部の住民である。また、2002年末までには国内の携帯電話数は 100万台に達すると予想されている。

図表 3-44 バングラデシュにおける主要な民間通信事業者

ライセンス

取得年 社名 サービス

1 1989 Bangladesh Telecom Private Ltd. 呼び出し、ラジオ中継、および電子通

信.

2 1989 Bangladesh Rural Telecom Authority. バングラデシュ北部の農村部における

基本電子通信サービス

3 1989 PacifITelecom Ltd. 移動携帯電話 (Ams & CDMA).

4 1994 Sheba Telecom Ltd. バングラデシュ南部の農村部における

基本電子通信サービス

5 1996 Grameen Phone 移動携帯電話 (GSM).

6 1996 Akatel Bangladesh Ltd. 移動携帯電話 (GSM).

7 1996 Sheba Telecom Ltd. 移動携帯電話 (GSM).

8 2000

Bangladesh Broadcasting and Telecom

Technology (Joint operation with

Bangladesh T&T Board)

PHS

9 交渉中 WorldTel Holding Ltd. ダッカ市における 300,000 機の基本的

な電話機。 500,000機まで拡張できる.

10 1996-2000 Internet Service Provider 100 社以上がライセンスを取得してい

るが、そのうち25社はサービス提供中。

出所:Ministry of Posts & Telecommunications資料

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図表 3-45 バングラデシュにおける固定電話数 年度 BTTB電話機数量 電話密度(100人あたり)

1973/74 60,000 0.001

1979/80 120,000 0.13

1984/85 182,000 0.18

1989/90 241,190 0.21

1994/95 314,980 (319,480*) 0.26

1996/97 440,491 (474,000*) 0.39

1998/99 474,322 (591,000*) 0.50

1999/2000 579,794 (814,486*) 0.63

2000/2001 667,944 (1,106,569*) 0.84 (計画)

2001/2002 1,334,000* 1.00 (目標) 注:*民間事業者を含む。

出所:図表 3-44と同じ。

図表 3-46 バングラデシュにおける情報通信の現状(2000年 6月)

814,486

579,794 固定電話回線数 うち BTTB うち民間事業者総計 234,692

電話回線普及率 (100人あたり) 0.63

移動携帯電話 212,639

登録待ち回線数 172,096

ページングとラジオ中継加入者 7,000

テレックス加入者 1,602

公衆電話局 695

カード電話 1,433

パケット交換加入者 60

国際音声回路 2,302

国際中継線交換局 3

国際回路合計 2,499

NWD回路 23,282

77.25%

ネットワーク数値化 うちスイッチング うち伝送 75.00%

VSAT 66 (ISP-40)

衛星地上局 4

出所:図表 3-44と同じ。

65の民間 ISPがインターネット関連サービスを提供しており、約 12万人のアカウントホルダーがいるが、インターネットユーザーは約 65万人とされている。 バングラデシュのソフトウェア業界は、カスタマイズされたソフトウェアのパッケージ

が中心である。インターネット関連ビジネスについては、電子署名を認めるサイバー法が

実施されれば、今後成長が望める。サイバー法は既に制定されており、2003年半ばに施行予定であるが、施行には時間がかかると民間企業は予想している。現在では、インターネ

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ット上のサービスは金銭的な取引を伴わないサービスがほとんどである。 ソフトウェアを導入する業界としては、民間レベルでは銀行業界、多国籍企業、医薬等

の地元企業がある。一方、防衛分野、国有銀行、電力公社等の政府部門においては、パソ

コンをあまり活用しておらず、ほとんどの手続きはペーパーベースで行われている。従っ

て、政府部門における電子化・情報化のニーズは高く、IT関連産業の有望分野である。 ソフトウェア業界には、ビジネスソリューションプロバイダー、外資系企業との共同事

業によるハイエンドサービスプロバイダー、ハードウェアについての訓練業者といった3

つのタイプがある。7割以上はビジネスソリューションプロバイダーであり、またハイエ

ンドサービスプロバイダーは輸出志向である。バングラデシュのトップソフトウェアメー

カーは、Data Soft社、Techno Vista社、Millennium社、Leades社、Decode社である。ただし、これらのトップ企業においても、所有しているソフトウェアエンジニアが 100名前後と、規模は小さい。 バングラデシュ政府は数年前にパソコン輸入関税の減税を行い、これがパソコンの普及

に貢献した。バングラデシュの IT産業の市場構成については、ハードウェアが 95%、ソフトウェアが 5%と、圧倒的にハードウェア偏重である。言い換えると、今後ソフトウェア分野の成長が期待できるとも言える。

IT 関連市場の規模は、公的セクターを除けば 2,000~2,500 万ドルであるが、将来的には電子政府等が推進されれば市場が大きく拡大されよう。現在の IT 産業の有望分野は、民間企業のオートメーションに係わる分野であるが、将来には公的セクター、つまり政府

機関の電子化・情報化が有望分野になると思われる。 IT技術の活用については、生産性の改善につながるものの、適切な ITソリューションがないというのが一般的な認識である。適切なソリューションを提供できるスキルを持つ

人材が欠如しているからである。また、IT化が進展しないのは、ペーパーベースの民間企業の商慣行と政府部門における統一的な情報化フォーマットがないことに起因するところ

が大きい。前者の対応策としては、例えば会計事務所が電子ファイル形式の財務データの

みを受け付けるようにすることが考えられる。後者については、政府部門における統一方

式の電子情報化システムを導入することが考えられる。現状では、統一フォーマットがな

いため、収集した全国のデータが有効に活用されていない。 3.6.2 グラミン銀行グループ バングラデシュでは、グラミン銀行による農村部の貧しい女性に対する小口融資に続き、

最近ではグラミンフォンによる農村部での携帯電話の普及、グラミンテレコムによる女性

携帯電話事業の展開が、国際社会から注目を浴びている。以下にグラミン銀行グループに

ついて簡単に触れておく。 (1)グラミンテレコム グラミンテレコムは Muhammad Yunus 教授のイニシアティブの下で設立された非営利組織であり、全国 2万箇所以上の遠隔地や農村部において、1万人以上の女性携帯電話事業者が事業を展開している、。具体的には、グラミンテレコムが農村部の女性に共有携帯

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電話の代表者になってもらい、共有電話事業者として村民に携帯電話を貸し出している。

また、グラミン銀行は、事業者の選定や利用料金の回収等において、グラミンテレコムが

必要とする組織的なサポートを提供している。 2002年 3月時点では、バングラデシュ全土で計 10,006名の女性共有携帯電話事業者がおり、その多くが平均 4,000~5,000 タカという高収入を得ている。この収入は、これまでの農村での収入よりもかなり魅力な額である。通信ネットワークの完備に伴い、2004年まで 40,000 携帯電話事業者が予想され、その年間経済効果は 2,400 万ドルとの推計もある63。 政府が農村部の女性共有携帯電話事業者にローンを提供していることが、この事業の高

成長の要因である。その結果、遠隔地や農村部において携帯電話が普及しただけでなく、

貧しい女性の収入増加にもつながった。 (2)グラミンフォン グラミンフォンは、1996 年 11 月にバングラデシュ郵政・通信省(Ministry of Posts

andTelecommunications)より携帯電話事業者のライセンスを取得し、翌年の 1997年 3月に携帯電話サービスを開始した。当社の事業目的は、投資に対する経済的見返りを受け取

ることと、通信分野でバングラデシュの経済発展に寄与することにある。当社の株主構成

については、ノルウェーの国有通信会社 Telenorが 51%と最大の株主であり、グラミンテレコムが 35%、日本の総合商社丸紅が 9.5%、米国の通信開発企業 Gonofone Development社が 4.5%であろ。このように、当社は現地企業と日米欧企業との合弁企業である。 当社はバングラデシュ政府鉄道局より全国の鉄道に敷設されている光ファイバー網をリ

ースで通信インフラとして活用し、全国で事業を展開している。言い換えると、通信イン

フラに対する膨大な初期投資を回避できたと同時に、広い範囲でサービスを提供すること

ができた。インタビューにおいても、鉄道局から安い借りた光ファイバー網の活用がグラ

ミンフォンの成功の一因として指摘された。 当社の成功要因としては、日米欧の資本や技術提供の下で、鉄道局の光ファイバーを活

用し人口の多い遠隔地や農村部に携帯電話を提供したことと、全ての人が購入可能なほど

の低価格で提供したことにある。また、グラミンフォンの成功モデルをほかの開発途上国

への移転可能性については、インタビューにおいて、市場の規模性があれば移転可能との

指摘が多かった。 (3)その他 IT関連企業 グラミングループは以上のほか、グラミンサイバーネット、グラミンコミュニケーショ

ン、グラミンインフォメーションハイウェー、グラミンファンド(VC)等、IT 関連企業を多く保有している。 6.6.3 ITイネイブルドサービス ITイネイブルドサービスの世界規模については、Nasscomの調査によれば、2000年で

63 グラミンテレコムホームページによる。

付 177

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は 135億ドルであったが、2008年では 1,520億ドルに拡大すると予想される。ITイネイブルドサービスは、コールセンターを含むカスタマ・インターアクション・サービス、バ

ックオフィス・データ入力、トランスクリプション・翻訳サービス、コンテンツ開発・ア

ニメーション・エンジニアリング&デザイン、遠隔教育データリサーチ等が含まれる。 バングラデシュでは、通信インフラが未整備であるものの、以下の長所で市場が急拡大

中の ITイネイブルド分野に参入できると考えられる64。 ・ 英語を話せるスキルを持っている人材がいること ・ 北米とは 12時間の時間差があること ・ スキルを持っているあるいは簡単に訓練できる膨大人材プールがいること ・ 人件費が安い(約北米の 10%) 6.6.4 課題

今後 IT 産業を発展させていくためには、政府や民間企業等による以下の取り組みが重要である。政府に求められる取り組みとしては、通信産業の規制緩和による通信関連費用

のコストダウンと電話回線普及率の向上、人的資源開発(HRD)への重点的投資、ベンチャーキャピタル資金の創設および国際社会における民間企業の宣伝活動の促進が挙げられ

る。民間企業の取り組みとしては、IT産業に必要な専門性の確認およびそれに対する訓練の実施、有能なエンジニアの確保、メディアによる IT認知度の喚起である。

90年代後半以降バングラデシュは、パソコン減税策、IT産業の他産業からの優先宣言、IT ローン創設のための政策の実施など、IT 産業に力を入れてきた。しかしながら、官僚主義等により、これらの政策実施面ではうまくいかない場合が多かったと指摘されている。

例えば、ITローンは申請手続が煩雑なために実際に活用される場合が少なく、たとえ支援制度があっても、民間がその恩恵を受けられないことが多いと言われている。今後、主に

政府主導の下で解決しなければならない課題を以下に述べる。 (1)固定電話機の低普及率 現在、約 60 万の固定電話回線は主に都市部に集中しており、その普及率は 100 人当たり 0.63台と非常に低い。しかも電話回線の新規申請には、300米ドルという高い申請料金だけでなく、申請から許可まで 4~5 年もの時間がかかる。さらに、賄賂等の手段を使えば 3~4ヶ月で許可が下りるなどの噂もある。 バングラデシュで通信産業における通信料金が高いのは、政府系 BTTB(バングラデシュ電信電話局)の市場独占によるところが大きいためといえる。BTTBは規制当局であると同時に最大のオペレーターでもあり、バングラデシュの通信市場を独占してきた。その

結果、海底ケーブルへの接続の失敗等により通信費が非常に高くなり、IT産業の発展を阻害しているとの意見もある。その結果、バングラデシュ国内では、BTTBの民営化についての議論がなされている。たとえば、1998 年に発表された国家情報通信政策においても

64 BRAC学長 Choudhury教授「Promotion of IT for Human Welfare and Opportunities for

Bangladesh」(2001)。

付 178

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BTTBの民営化といった通信セクターの改善の必要性が示されている。インタビューでは通信産業における規制緩和の必要性を指摘する発言が多かった。 (2)ITインフラの未整備 デジタルデータネットワークは未だに 20 の地区しかカバーしておらず、データ通信の

インフラが整っていない。2002 年末までには 65 の地区をカバーする予定である。なお、グローバルコネクタビリティーは光ファイバーでなく、未だに V-SATという小さい衛星を使っている。その結果として、海外との接続はスピードが遅いうえに料金が高くなっている。 (3)IT人材の不足 人口は 1億 3000万人に及ぶものの、バングラデシュでは IT関連人材を育成する高等教

育機関が少ない。図表 3-47にあるように、IT関連人材の年間卒業者数が約 8万人強しかいない現状では、IT関連産業の推進は困難な状況と言わざるを得ない。例えばインドでは既述したとおり、教育システムではコンピュータサイエンスおよび数学が重んじられ、年

間数多くの IT関連人材が輩出される。Nasscomによれば、2001-2002年インドでは約 52万人がソフトウェアや IT イネイブルドサービス分野の従事者であると予想される。しかしバングラデシュでは、コンピュータプログラムのスキルを有する人材は民間セクター、

公的セクター共に不足している。このほどバングラデシュ政府は、IT人材育成の一環として、ダッカ大学、バングラデシュ工科大学(BUET)等の5大学に対し、各 3,000万タカ(約 300万ドル)の予算を付与し、60名の学生を受容できる Post Graduate Diplomaコースを開設し、年間 300名の IT人材を養成することとした。 インタビューにおいて、多くの人口を擁すバングラデシュでは優秀な人材も多いため、

これらの人材に対して IT 分野に関する訓練を実施すれば、国際市場に提供できる人材が育成できると指摘された。このように同分野での人材育成は重要である。また、IT訓練については、大学理系卒業生を中心にコース別の実地訓練が肝要である。例えば、公的高等

教育機関や民間訓練機関による、ワードプロセッサ、データベース、オペレーティング・

システム等のコンピュータリテラシーコース、C 言語、C++、VC++、オラクルなどのプログラミングコース、E-コマース、ウェブデザイン、ネットワーキング、JAVA、マルチメディア等の特殊コースの提供が考えられる。

図表 3-47 高等教育機関における年間卒業者数 専 攻 教育機関・課程の種別 年間卒業者数

国公立大学 512 コンピュータ・サイエンス

私立大学 745

国公立大学 4,678

私立大学 -

カレッジ 理工学士 69,123 サイエンス

カレッジ 理工学士(オーナー) 9,105

合 計 84,163

出所:科学技術省資料

付 179

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(4)ベンチャーキャピタルの不足 政府はソフトウェア産業を促進するために、EEFファンドというソフトウェア開発に対する特別な予算を講じた。しかしながら、申請の手続きの煩雑さや要求水準の高さにより、

実際このファンドを活用したベンチャー企業はほとんどないのが現状である。従って、イ

ンタビューにおいては、ベンチャー企業等の設立を後押しするために、海外の公的機関よ

り提供されたファンドを民間セクターに運営してもらうことが必要であると指摘された。

これは、例えば中央銀行のバングラデシュ銀行等の国有金融機関に運営資金を委託した場

合、煩雑な手続き等によりうまく機能しない場合が多いと考えられているためである。 また、多くの銀行がソフトウェアの開発という無形の分野に融資したがらない傾向が強

いのも問題であるとの指摘もあった。 (5)IT産業を包括的に監督する省庁がない 科学技術省(現科学情報通信技術省)内には、バングラデシュコンピュータ委員会

(Bangladesh Computer Council)というコンピュータ産業を監督する下部組織が設けられている。一方、通信産業の監督省庁は前通信省の下に位置する BTTBである。つまり、二つの省庁が IT という新しい産業を監督しており、政策的な調整が難航する場合が多い。また、主要監督省庁である科学・情報通信技術省は予算や人員が少なく、政策形成プロセ

スにおける影響力が小さいので、政策実施面でマイナスになることがあるとの指摘もある。 (6)政府の政策的イニシアティブの不足 行政効率化のためにも、政府は公的セクターにおける情報化や電子化を推進し、国内 IT市場の需要創出に向けた政策的イニシアティブをとる必要がある。バングラデシュでは、

IT タスクフォースの設立、IT ポリシーの制定、ハイテクパーク建設の検討がなされているものの、今回のインタビューでは、実施レベルでの政策的イニシアティブが不足してい

ると指摘された。また、IT 産業に対するニーズが高いものの、IT 人材を教育・訓練するための人的資源開発に対する公的投資が欠如しているとの指摘もあった。 (7)高価かつ低品質の民間 IT訓練機関の台頭

ITに対する教育・訓練ニーズが高いにもかかわらず、高度教育機関が不足しているバングラデシュでは、外国との間でフランチャイズされた訓練機関が濫立している。しかしな

がら、高い授業料を払っているわりには質の低い訓練しか受けられず、大きな社会問題を

引き起こしている。これは、今まで政府がこのような民間の訓練機関に対してシラバス、

教員、物理的な施設等に関する基準を設けていないことに起因するところが大きいためと

言われている。 (8)国内外市場が小さい 市場の小さいバングラデシュにとっては、国内外市場の開拓や拡大が重要な戦略目標と

なる。対応策としては、国内市場については公的セクターでの電子政府等の推進による市

場の開拓が考えられる。海外市場を拡大する方法としては、外国企業からのソフトウェア

付 180

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開発の受注、アウトソーシングサービスの提供、外資との合弁事業の推進がある。特に外

資との合弁事業については、インドよりも安価な労働力、高い学習能力、5 年間所得免税等の政府の政策的サポート、といった面での有利さを活かして今後推進していくことが望

まれる。 3.6.5 今後の見通し 今後、バングラデシュは、IT イネイブルドサービスに力をいれるべき、と考えられる。

中でも比較的人的資源の開発が容易な IT イネイブルドサービス、特にメディカルトランスクリプションが、近い将来に有望な産業であると考えられる。このメディカルトランス

クリプションはオンラインの転送が必要ないので、インフラ整備が遅れているバングラデ

シュには適応しているといえる。 中長期的にみれば、必要投資規模、人的資源面、技術面から考えて、ソフトウェア産業

の隆起が目指すべき方向性であろう。また、今後の政策遂行においては、まず短期的にソ

フトウェア産業の育成・拡大のため、国内ソフトウェアメーカーに対するベンチャーキャ

ピタル資金の提供が先決である。IT 人材育成のために、中長期的に、IT 系大学の増設や既存大学での増員、IT訓練機関の創設等が不可欠である。一方、通信セクターでの競争を促進し、通信コストを下げると同時に、情報通信インフラを整備しなければならない。

付 181

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3.7 マレーシア(インタビュー実施時期:2002年 4月上旬) 3.7.1 概要 マレーシアでは、これまでに経済の中心産業を農業から外資導入による輸出志向的の製

造業へと移行してきたが、90年代の半ば頃から IT産業を中心とした知識集約型経済への脱皮を試みている。 (1)市場規模 図表 3-48にあるように、IT市場規模は 93年の 24.3億リンギ(約 850億円)から 2002年の 71.5億リンギ(2,502億円)への約 3倍増と予想されている。 次頁の図表 3-49は、マレーシアにおける IT市場規模の成長率を示したものである。IT

市場規模の成長率は、98 年を除けば年平均 10%以上伸びており、特に 96 年までは 20%以上の伸び率を達成した。

図表 3-48 IT市場規模

2,430

3,020

3,800

4,940

5,380

4,8405,230

5,910

6,501

7,151

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

百万リンギ

出所:PIKOM(コンピュータ・マルチメディア産業協会)

付 182

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図表 3-49 IT市場規模の成長率

成長率

2624

26

30

9

-10

8

1310 10

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 年

(%)

出所:図表 3-48と同じ。

(2)パソコン台数とインターネットユーザーの推移 図表 3-50は、パソコン台数の推移を示したものであり、年間 20%以上増加していることがうかがえる。2000年現在、約 220万台が所有されており、マレーシアの人口が約 2300万人なので、その普及率は高い。

図表 3-50 パソコン台数

400490

610760

1,030

1,300

1,800

2,200

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 年

千ユニット

出所:図表 3-48と同じ。

付 183

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インターネットユーザー数は、2000年現在、約 100万人である。図表 3-51にもあるように、1993 年の 300 人と比べると、驚異的に増加したといえよう。インターネットユーザー数の増加は、インターネット関連の e-ビジネスの発展を助長すると考えられる。

図表 3-51 インターネットユーザー数

300 900 18,00090,000

200,000

400,000

700,000

1,000,000

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000年

出所:図表 3-48と同じ。

(3)IT関連産業の支出 マレーシアにおけるセクター別の ITの支出については、図表 3-52のように、トップの

製造分野、銀行・金融分野の民間部門に続き、MSC等 IT関連産業を推進している政府部門が大きなウェイトを占めている。

図表 3-52 セクター別 ITの支出(2000年)

その他9%

電力4%

政府11%

製造18%

個人8%

流通11%

石油・ガス5%

専門サービス4%

ヘルスケア1%

教育・研究4%

運輸3%

電気通信8%

銀行・金融14%

出所:図表 3-48と同じ。

付 184

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図表 3-53 のタイプ別 IT の支出構造から読み取れるように、支出はパソコンや周辺機器・付属品・ネットワークといったハードウェアが中心になっている。また、ソフトウェ

アが 20%、サービスが 12%、システム関連が 12%である。

図表 3-53 タイプ別 IT支出(2000年)

周辺機器、付属品、ネットワーク

19%

中規模システム11%

サービス12%

法人用ソフト4%

個人用ソフト16%

パソコン37%

大規模システム1%

出所:図表 3-48と同じ。 (4)電子・電機産業の推移 外資輸出志向、特に外資系電子・電機企業の輸出により経済発展を遂げてきたマレーシ

アでは、その市場規模は、狭義の IT 市場をはるかに超えている。エレクトロニクス用部品、産業向けエレクトロニクスと消費者向けエレクトロニクスで構成される電子・電機産

業の規模は、1999年現在 1,792億リンギ、とりわけ産業向けエレクトロニクスとエレクトロニクス用部品の市場が、それぞれ 765億リンギと 813億リンギであり、ITの 52億リンギとは大きくかけ離れている。

図表 3-54 エレクトロニクス用部品市場の推移

20,12627,306

36,42239,553

46,317

65,346

76,501

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 年

百万リンギ

出所:図表 3-48と同じ。

付 185

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図表 3-55は、マレーシアにおける産業向けエレクトロニクス市場の動向を示したものである。産業向けエレクトロニクス市場については、その規模が大きくかつ一貫して拡大し

てきたことが特徴である。

図表 3-55 産業向けエレクトロニクス市場の推移

13,970

21,23527,148

32,365

43,178

60,430

81,033

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999年

百万リンギ

出所:図表 3-48と同じ

消費者向けエレクトロニクス市場は、拡大傾向にはあるが、既述したエレクトロニクス

用部品や産業向けエレクトロニクス市場ほど大きく伸びてはいない。

図表 3-56 消費者向けエレクトロニクス市場の推移

12,577

17,832

21,40719,756

17,766

20,65721,748

0

2,500

5,000

7,500

10,000

12,500

15,000

17,500

20,000

22,500

25,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 年

百万リンギ

出所:図表 3-48と同じ

付 186

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(5)主要輸出品の推移 図表 3-57はマレーシアにおける主要輸出品の推移を示すものである。マレーシアにおける輸出額に占める機械・輸送機器のシェアは増加の一途を辿っており、最大品目として総

輸出額の 63%を占めている。

図表 3-57 マレーシアにおける主要輸出品の推移 (単位:百万リンギ)

1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年

食料品 4,515.8 4,722.8 5,304.9 6,193.6 6,229.3 6,476.9

飲料・タバコ 397.8 557.0 746.8 924.9 1,046.5 1,214.6

非食料原材料 11,991.6 10,759.4 10,102.1 9,312.8 9,910.4 10,298.6

鉱物性燃料 12,932.3 15,884.8 17,943.9 17,661.6 22,480.0 35,776.5

動植物性油脂 12,634.0 11,726.8 13,000.0 21,386.1 18,280.0 12,929.5

化学品 5,629.3 6,255.8 7,878.0 9,961.9 10,353.0 14,298.8

製品 16,339.9 18,289.9 19,870.6 23,819.2 24,242.8 25,896.0

機械・輸送機器 101,995.0 108,930.0 123,984.1 169,701.7 200,071.5 233,331.8

雑製品 16,131.6 17,713.6 19,325.5 24,945.7 26,188.4 29,876.1

その他 2,419.3 2,186.0 2,734.5 2,655.6 2,757.6 3,208.4

合計 182,567.3 194,840.1 218,155.9 283,907.5 318,801.9 370,098.8出所:財団法人世界経済情報サービス(ワイス)「マレーシア 経済・貿易の動向と見通し(ARC レポー

ト 2001)」より

特に、今日マレーシア最大の輸出品目であるエレクトロニクスや電気機械は同国の輸出

の要であり、今後も有望視される分野であることがわかる(図表 3-58)。 なお、電気機械の輸出減は 1997 年の通貨危機に起因し、エレクトロニクスの輸出減は2001年の IT不況に起因すると考えられるが、今日ではいずれの輸出も堅調な回復を示している。 図表 3-58 マレーシアにおけるエレクトロニクスおよび電気機械の輸出の推移

(単位:百万ドル) 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年

(予測) 2003年(予測)

輸出額 28,713 29,094 38,128 43,892 35,526 38,158 41,250エレクトロニクス

輸出シェア(%) (36.5) (39.7) (45.1) (44.7) (40.8) (42.6) (41.4)

輸出額 13,596 12,119 13,201 16,747 16,842 17,895 18,000電気機械

輸出シェア(%) (17.3) (16.5) (15.6) (17.0) (19.3) (20.0) (18.1)

輸出額 42,310 41,212 51,328 60,639 52,368 56,053 59,250エレクトロニクスお

よび電気機械合

計 輸出シェア(%) (53.7) (56.3) (60.7) (61.7) (60.1) (62.6) (59.5)

輸 出 総 額 78,741 73,256 84,621 98,239 87,041 89,557 99,602

出所:EIU(Economic Intelligence Unit)2002年より三菱総合研究所作成

付 187

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3.7.2 マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC) マレーシアの経済発展の経緯は、50 年代にゴム等の農業から、70 年代~80 年代 FTZ

創設による外資系電子・電機企業の輸出志向型産業構造へ、そして 90年代に IT産業を中心とする知識集約型経済へと変化してきた。マレーシア政府は、90年代半ばに、知識集約型の経済発展を達成するために、マルチメディアスーパーコリドー(MSC)を提唱し、積極的に外資系 IT関連企業の誘致を行ってきた。

MSCは幅 15キロメートル、長さ 50キロメートルに及ぶ地域で、北はクアラルンプール・シティ・センター(KLCC)にある世界一高いツインタワー「ペトロナス・ツイン・タワー」から、南は新クアラルンプール国際空港(KLIA)に渡り、主に電脳都市であるサイバージャヤと行政都市であるプトラジャヤが構築されている地域である(詳しくは図

表 3-59参照)。 プトラジャヤは中央省庁が集結している新行政都市であり、サイバージャヤは 1999 年にオープンした電脳都市で、世界最先端のマルチメディア関連企業や公的機関が進出してい

る。マルチメディア大学、NTTコムの R&Dセンター、スマートホーム、スマートスクール、民間企業の研究開発センターやリージョナルテクニカル拠点が建設されている。

MSC が既存のテクノロジーパークと大きく異なる点としては、最先端の情報通信インフラ65の上に電子政府、多目的カード、遠隔医療、スマートスクール、R&D クラスター、e ビジネスといった6つのフラッグシップをもつことや、サイバー法や企業優遇措置といったソフトインフラの整備が挙げられる。フラッグシップについては後述する。

(1)MSCの開発構想

MSC構想は 3つのフェーズに分け、25年間という長期間で実施される大計画であり、それぞれのフェーズの概要は以下のとおりである。 フェーズ1:1996年から 2003年にかけ、MSCの完成 フェーズ2:2004年から 2010年にかけ、マレーシアや世界のサイバーシティとの接続 フェーズ3:2011年から 2020年までに、マレーシアを知識社会へと転換させる 以上の 3つのフェーズを経て、情報化時代におけるリーダーシップへの大躍進を図る。

(2)マルチメディア開発公社 マルチメディア開発公社(MDC)は、ワンストップスーパーショップとして、MSCの開発とMSCへの企業誘致を促進するために設立された組織である。MDCは、MSCへの進出希望企業に対してMSCステータスを与えると同時に、IT分野における地元の企業家を生み出す役割も担っている。そのために MDCは、政府や民間企業・大学と協力し、市場進出への援助活動、人材開発や研修のサポート、優遇措置、R&D 基金、ベンチャーキャピタル資金と融資、インキュベーションセンター等を率先して運営している。

65 情報通信インフラとしては、10ギガビットまで拡張可能な 2.5ギガビットの光デジタル通信網を整備した。

付 188

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図表 3-59 マルチメディア・スーパー・コリドー

スマート・スクール

マルチメディア開発

多目的カード

遠隔医療

電子政府

マルチメディア環境

世界製造業ネットワーク

ボーダレス・マーケティング

R&Dクラスター

フラッグシップ・アプリケーション

マルチメディア開発公社(MDC)

サイバー法

マルチメディア・コミュニケーション法 電子政府法

遠隔医療法

コンピューター犯罪法

著作権法(修正)

デジタル署名法

・外資 100%の許可 ・外国人労働者の無制限雇用 ・10年までの法人税免除と投資控除 ・インターネットの非検閲

各種優遇措置

店頭株式市場(MESDAQ)

クアラルンプール・シティーセンター(KLCC)

高速鉄道 高速道路

都市開発・インフラ整備

高速通信網

クアラルンプール新国際空港(KLIA)

新行政都市プトラジャヤ 新情報産業都市サイバージャヤ

出所:北村かよこ編『情報化の進展とアジア諸国の対応』アジア経済研究所(2000年)

付 189

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(3)MSCステータスに付与される優遇措置=Bill of Guarantee

MSCの審査基準に合格した企業には、MDCよりMSCステータスが付与され、以下の優遇措置が与えられる。

・ 最高水準の物理インフラと情報通信インフラの提供 ・ 知的労働者への無制限雇用許可 ・ 100%外資出資 ・ 自由な資金調達 ・ 最長 10年間の投資税額控除の適用、マルチメディア機器の輸入関税免除 ・ サイバー法の制定による知的所有権保護 ・ インターネットの検閲なし ・ 非常に低い通信コスト ・ MSCのインフラ整備に関する入札参加権利の付与 ・ 効率的なワンストップスーパーショップの設立(MDCの設立)

2002年現在、約 600社がMSCステータスを付与され、うち 60%が地元企業、40%が外資系企業である。また、外資系企業の中には約 50 社の世界クラスの多国籍企業が含まれている。 (4)MSCで操業している多国籍企業の例 現に多くの IT関連多国籍企業はサイバージャヤに ITサービスに関するリージョナルオ

フィスを設けており、その一部は以下のとおりである。 ・ DHL:DHLの IT部門から分離独立し、DHLに ITサービスのサポートと ITシステムを提供している企業。ITサポートセンターをMSCに置く。

・ Shell:Shell社はサイバージャヤにリージョナルハブという位置付けで国際 ITサービスセンターを設立

・ 華為公司:リージョナルテクニカルサポートセンターを設立 ・ Lotus Engineering:デザインセンターを設立 ・ Ericsson:リージョナルテクニカルサポートセンターを設立 (5)フラッグシップ・アプリケーション

MSC は物理的なインフラを整備している一般的なハイテークパークを超えて、多くのインセンティブの付与と法的整備をもつ知的クラスターである。つまり、物理的および情

報通信のインフラに加えて、6つのフラッグシップアプリケーションの推進による、知的

クラスターなのである。 ・ 電子政府:マルチメディア技術を利用し、政府業務の効率化や行政サービス向上を目

指すプロジェクト。一般的職場環境(Generic Office Environment)、電子調達、プロジェクト・モニタリング・システム、人的資源管理情報システム、電子サービスといっ

た 5つのパイロットプロジェクトが計画されている。

付 190

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・ 多目的カード:政府向け多目的カード(GMPC)と決済多目的カード(OMOC)があり、前者は身分証明、ライセンス、健康その他の個人情報を 32Kのマイクロプロセッサーチップを埋め込まれたカード、後者は電子現金、金融および ATMの機能をもつカードである。

・ 遠隔医療:保健医療情報へのアクセスを提供し、個人の研究管理向上を目指すもの。

生涯健康計画(Lifetime Health Plan)、パーソナル化した健康情報教育、継続的医療教育、テレコンサルテーションから構成される。

・ スマートスクール:カリキュラム、教育、評価、指導・学習教材の向上を主目的とし

たプログラム。現在、スマートスクールの実験校として、遠隔地にある 90校を実施し、2002年に実験完了した後、全国に導入される予定。

・ R&Dクラスター:次世代のマルチメディア技術開発を促進するため、企業の資源をコーディネートし、R&D 環境を創造する。R&D プロジェクトに対し、インフラ、情報インフラ、R&Dセンター、優遇措置等を提供する。

・ 電子ビジネス:マレーシアの電子商取引を奨励するため、第一級のハード、ソフト両

方のインフラ開発を目的とするアプリケーション。 (6)マルチメディア大学(MMU)の創設による IT人材の輩出

MMUは 1996年にマレーシア電信・電話公社(Telekom Malaysia)によってマラッカに設立された私立大学であったが、1997 年 3 月にマレーシアでの最初のマルチメディア大学としてサイバージャヤに立地するMMUと統合し、MMUと改名された。マラッカキャンパスとサイバージャヤキャンパスをもつ MMU では、7つの学部に約 12,000 名の学部生、700名の大学院生が在籍している。

MMU では e-マネジメントシステムを導入し、全ての手続きを電子化している。また、学生の宿舎では自由にインターネットにアクセスできる環境が整備されている。さらに、

校舎内の一部では、無線でインターネットに接続できる環境を学生に提供している。 MMU は産学協同研究にも力を入れている。例えば、サイバージャヤに進出している

NTTコム、インテル、IBM、マイクロソフト等の IT関連外資系企業から研究ファンドを引き出し、産学共同研究を行っている。 卒業生については、2000年に 126名、2001年に 550名、2002年に 1200名の学生が卒

業し、MSC プロジェクトをサポートする職についている。2003 年には 2,300 名の学生、2004年には 4,000名の学生が卒業する予定である。また、MMUには約 30名の外国人教員および 20 ヶ国からの留学生がおり、人材の国際化を図っている。また、中国や南アフリカに、現地の教育機関と提携してMBAコースを開設する予定である。 (7)インドの STPIとの相違点 既述したとおり、MSC は最先端の情報通信インフラに加え、6つのフラッグシップ、サイバー法や企業優遇措置といったソフトインフラの整備の強化点は既存のハイテックパ

ークとは異なっている。インドの STPIとの相違点は、以下のとおりである。

付 191

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図表 3-60 MSCと STPIとの比較 STPI MSC 設立目的 ソフトウェアおよび IT サービスの輸

出促進 マルチメディア産業の育成

対象産業 ソフトウェア関連産業 IT関連産業、バイオ 政府関与 税制優遇措置はあるものの、基本的に

政府の関与が少ない 新行政都市プトラジャヤの立地や

MDCの創設等、関与度が高い 規模 基本的にソフトウェア関連企業が数

棟の建物に入っている程度 幅 15キロメートル、長さ 50キロメートルの範囲で、IT関連企業、行政機関、大学等が入っている

出所:各資料より三菱総合研究所作成

3.7.3 IT関連産業の現状 (1)マレーシアベンチャーキャピタルマネジメント社の創設 ソフトウェア企業の開発活動には多大の資金が必要であるにもかかわらず、公的資金が

不足しており、銀行からの借り入れも 97年の経済危機以降難しくなった。そのため、JBICはマレーシアベンチャーキャピタルマネジメント社 (Malaysia Venture Capital Management Bhd)の設立に総額 2億 2千万ドルの融資を行った。マレーシアベンチャーキャピタルマネジメント社を通じて、マレーシアのコンピュータソフトウェア関連企業を

中心とする IT関連企業を対象に、ITを用いたシステムの開発・導入プロジェクトなどに必要な資金を提供するもので、この資金は分野ごとに政府に指定された民間企業にその審

査機能等を委託し、運営する予定である。 (2)中小企業における IT導入 多くの中小企業は、パソコンが高価ということもあるが、ITの導入に対して積極的では

ない。導入したとしても、業務の電子化ではなく、会計、人的資源管理といったオフィス

分野に限られる場合が多い。これは、IT導入効果についての経営者の認識が希薄なことによる場合が多いと考えられる。 3.7.4 課題 外資による輸出志向型経済発展から IT 関連を中心とした知識集約型経済へと脱皮し、持続的な経済発展を遂げるためには、以下の課題をクリアしなければならない。特に、IT人材が少なくかつ国内市場の小さいマレーシアにおいては、IT関連人材の育成および強化、国内外市場の拡大が欠かせない。 (1)IT人材の育成および強化

97 年に設立されたマルチメディア大学や高度教育機関の増設により、IT 人材が輩出されてはいるが、その数は不足している。そのため、MSC ステータスを付与されている外

付 192

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国企業に対して外国人エンジニア等の知的労働者への労働許可を無制限に与えている。今

後、IT 分野の人材の育成とそのスキルの向上は、IT 産業の拡大および国際競争力の向上のためにクリアしなければならない最大の課題と考えられる。 (2)国内市場の拡大と海外市場の開拓 電子政府の推進による公的セクターにおける IT 関連投資の増加、中小企業における情

報化の導入、一般消費者におけるパソコンの普及等により、国内市場の拡大を図らなけれ

ばならない。マレーシア政府は、国内市場拡大のための政策を積極的に実施している。例

えば、3,500 リンギまでのパソコンを政府指定業者から購入する場合、公的年金の使用を認める政策を実施し、パソコンを買いやすい環境を整備している。また、産業界に対しては、

中小企業 e-コーマスファンドを創設し、ウェブサイトを構築したい中小企業に対し 2万リンギまでのグラントを与え、中小企業の e-コマースを推進している。さらに、6,000から 7,000万リンギを投じて創設した技術革新ファンドの下で、製造業者が製造工程を情報化するため

の資金を提供している。 前述のとおり、マレーシアの国内市場規模は約 69 億リンギと非常に小さく、さらなる発展のためには海外市場を拡大しなければならない。例えば、マルチメディア開発公社の

Technopreneur Development部隊は、マレーシアの IT関連中小企業を引率し、中国、韓国、中東諸国、フィリピン、東欧諸国等を訪問し、海外市場を開拓している。このように、

今後海外市場開拓のために官民の協力がますます重要となる。 (3)国内ソフトウェアニーズの不足

IT 関連産業においてはハードウェアとソフトウェアとのバランスのとれた発展がなければ、その効果が限られてしまうおそれがある。つまり、ハードウェアとソフトウェアと

のリンケージが重要なのである。マレーシアの場合、既述したように、外資輸出志向の電

子・電機産業の市場規模の大きさ、パソコンや周辺機器等のハードウェア中心な IT 産業の支出といったように、ハードウェアの比重がソフトウェアよりもはるかに大きい。実際

ヒアリングで訪問したソフトウェア企業の経営者は、国内ソフトウェア産業の需要が小さ

いことを指摘した。ソフトウェア関連ニーズを発掘しなければ、IT関連産業の裾野が拡大できないのは明白であろう。

(4)国内製品に対する消費者の認識不足 「外国企業製の方が良い品質」という消費者の認識がよく指摘されている。地元大企業

の多くも、地元企業の開発した製品よりも外国企業製の製品の方が品質がよいという認識

を持っている。その結果として、地元のソフトウェア企業は、地元の中小企業に販売する

か海外市場を開拓するという選択肢しかなく、苦戦しているところが多い。今後、業界団

体やメーカーによる、国内消費者に対する啓蒙活動が必要である。

付 193

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3.7.5 今後の方向性 マレーシア政府は 1996 年に第二次工業化基本計画 (Industrial Master Plan-2 : IMP-266)を発表し、自国産業の国際競争力の強化を図ろうとしている。マレーシア政府は、製造業をバリュー・チェーンとしてとらえ、「R&D」、「製品デザイン」、「組立・生産」、「流通」、「マーケティング」といった川上から川下までの流れの中で、自国は最も付加価値の

低い「組立・生産」に位置付けられている限り、成長の鈍化が避けられないと認識してい

る。このように、自国産業における国際競争力の強化の一環として、電子・電機産業を製

造機能から R&Dやマーケティングまで拡大しようとしている。 今後マレーシアは、政府主導の下で、人的資源や国内市場の制約条件を克服しながら、

国際競争力をもつ電子・電機分野における R&D 分野の強化と同時に、既存のハードウェア関連分野の強みを活かせる IT関連分野の発展を指向していくものと考えられる。

66 Ministry of International Trade and Industry(1996), The Second Industrial Master Plan 1996-2005,

Kuala Lumpur

付 194

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3.8 中国(インタビュー実施時期:2002年4月中旬)

3.8.1 概要 中国は 2001年、IT不況によりアジア諸国の GDP成長率が大きく落ち込む中、7%という高成長を示した。近年の中国経済の成長には、国内外の IT 関連企業が大きく寄与している。 中国における IT関連産業の市場規模は、2001 年においては約 1700 億人民元(約 180億ドル)であり、GDPに占める割合は 2%弱であった。図表 3-61が示すとおり、その 85%がハードウェア、15%がソフトウェアと、ハードウェア偏重的な産業構造である。

図表 3-61 中国の IT関連産業の構造 製品カテゴリー サブカテゴリー 主要メーカー 今後の市場動向

ノート型パソコン デスクトップ型パソコン パソコンサーバー

主に国内企業 (但し直販のデルが急

成長)

①パソコン・同周

辺機器 (50%)

周辺機器(プリンター等) 主に海外企業

平均 15%~18%の成長率の見込み

②企業向け (10数%)

サーバー 外国勢:IBM、HP、Sun等が圧倒的なシェアを

もつ

価格の変化が著しく、単

純比較できないが、15%~30%の成長見込み

LAN WAN RAS(ASP) 無線

ハード ウェア (85%)

③ネットワーク (10数%)

光ファイバー

60%のシェアをもつ首位の Cisco以外、神州、華為、3Com、インテル、Nortel、Lucentは拮抗

ハードウェアの中でも

35%と最も高い成長率の見込み

プラットフォーム ミドルウェア

外国勢:マイクロソフト、オラクル

等が優勢 ④ソフトウェア

(9%) 応用ソフトウェア 財務ソフトは、国内企業

の用友軟件や神州数碼

のシェアが高い

40%の成長見込み。特に応用ソフトウェア分野

の成長が著しい。

ハードウェア維持・補修 システムアウトソーシング 研修

ソフト ウェア (15%)

⑤サービス (6%)

コンサルティング

IBMが最大手。国内企業のプレゼンスは小さい

30%~40%成長の見込み

注:括弧内の値は市場シェアである。 出所:ヒアリングより三菱総合研究所作成 過去 5年における中国 IT関連産業の平均成長率は 30%と、同国の GDPの平均成長率 7

~8%と比較しても、非常に高い。図表 3-61が示すように、IT関連産業の今後の市場動向は、製品カテゴリーによって異なるが、15%~40%と高い成長が見込まれる。特に、ソフトウェア分野は 30%~40%という高成長が予想される。またWTO加盟による、パソコン等の輸入税の引き下げ、ハードウェア価格の大幅な低下、それによるパソコン需要の増大

が見込まれる。

付 195

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中国は今や米国や日本を凌ぐ世界最大の携帯電話市場を形成している。2001年末の携帯電話所有台数は 1億 1000万台であったが、2005年には 2億 5000万台への増加が見込まれる。コンピュータについては、個人用パソコン所有台数の過去 5年の平均成長率は 28%で、世界レベルで見ても非常に高い。

IT需要は、金融(銀行、証券、保険)、通信、政府、製造(特に外資系企業)、教育、電力、交通分野で顕著である。しかし、売上高 3000万人民元の企業においては、ERP導入率は未だ 5%と低い。 IT関連産業における人的資源については、2000年に 41,000名、2001年に 62,000名の大卒者が輩出されたように、中国では関連人材の育成に力を入れてきた。しかし絶対数か

ら見れば未だ人材不足にあるため、2002年には全国計 2万人を育成する 35校の私立ソフトウェア訓練機関の設立が予定される等、同分野における人材の育成はさらに強化されつ

つある。これらの私立ソフトウェア訓練機関の特徴は、外国人の教師陣を迎えていること、

英語による授業の強化、理論より実務に重点をおいたカリキュラムの編成等にある。その

授業料は 1単位 1,200人民元と比較的に高額である。また、コースについては、高卒者向け、大学 2年次編入用、ソフトウェア分野に従事している高卒者向けの 3つのコースが設けられている。

IT関連産業の従事者数については、1998年 13万人、1999年 15万人、2000年 19万人、2001年約 25万人と、その数は増加の一途をたどっている。 企業における IT 導入効果については、例えば企業内への ERP、SCM、CRM、E-コマース等の導入は、生産性や効率性の向上に貢献すると考えられる。インタビューでは、E-コマースの一環としてある民間企業のポータブルサイトで事務用品等を発注する会員企業

は、約 70%の購買管理コスト削減に成功していると指摘された。また、政府機関におけるIT 化は、IT 関連産業のニーズ創出効果だけでなく、行政の効率性向上に寄与すると考えられる。 図表 3-62が示すとおり、中国における半導体市場の規模は、2001年では 15.2億ドルであったが、2005年にはその規模は 2倍以上に拡大すると見込まれる。半導体業界の 2000年~2005 年の年平均成長率は 25%と高成長が予測されるが、国内需要と国内生産能力のギャップは著しくその縮小は見込めていない。

図表 3-62 中国の半導体市場規模

2001年 2002年 2003年 2004年 2005年

国内需要(億ドル) 15.2 19.4 24.8 31.8 36.1

国内生産能力(億ドル) 2.9 3.7 4.8 6.3 8.0

国内生産率 19% 19% 19% 19% 22%

出所:ヒアリングにより三菱総合研究所作成

国内半導体企業の製造技術については、例えばウエハー3~4 インチが 15 社、5 インチが 2社、6インチが 3社、8インチが 5社と、ローエンド技術の企業が多い。また、5μm~1.2μmが 13社、1.2μm~0.8μmが 2社、0.8μm~0.35μmが 5社、0.35μm~0.25μm が 5 社(中芯国際、上海宏力、モトローラ、華虹 NEC、北京華夏)であり、高い製

付 196

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造技術を有する企業は未だに少ない。 図表 3-63は中国における主要半導体メーカーの製造概要を示したものである。ほとんどの半導体メーカーは外国企業、特に台湾企業から技術を導入し、操業している。また、上

海に立地する企業が多いのが特徴である。

図表 3-63 中国における主要な半導体ウエハー製造企業

企業名 海外投資社 所在地 ウエハーサイズ 月産(万枚) 操業開始 上海先進 蘭:フィリップス 上海 5インチ、6インチ2工場 各 1.5 1992年 上海貝嶺 ベルギー:ベル 上海 4インチ、1.2μm 1.3 1994年 華虹 NEC 日:NEC 上海 8インチ、0.35μm 1 1999年 中芯国際 台:個人投資家 上海 8インチ、0.25μm 2.5 2001年 上海宏力 台:宏仁 上海 8インチ、0.25μm 4 2002年 華晶 台:上華 無錫 4インチ、5 インチ、6 インチ

3工場、1μm 各 1.4 1998年

華越 (国有企業) 紹興 3~4インチ、2μm 5インチ、2μm

1.5 0.8

1999年

首鋼日電 日:NEC 北京 6インチ、0.5μm 0.8 1999年 北京華夏 米国企業 北京 8インチ、0.25μm 3~4 2002年 天津モトローラ 米:モトローラ 天津 8インチ、0.25μm n.a 2001年 南科 台:大王電子 珠海 6 インチ n.a 2000年 出所:寺島実郎監修「動きだした中国 IT市場」より作成

2001年における中国ソフトウェア業界の市場規模は、796億人民元であった。また図表

3-64が示すように、95年から 2000年までの年平均成長率は約 30%であった。2001年における国内用ソフトウェアは 330億人民元、サービス 406億人民元、輸出用 60億人民元と、同市場は圧倒的に国内市場主導的な構造となっている。なお応用は 198億人民元、システムは 50億人民元、サポートは 81億人民元であった。

IT関連企業の事業規模については、売上高が 10億人民元以上の企業が 11社、5億以上10億以下が 17社、1億以上 5億以下が 17社、自社内で開発能力をもつ 1億以下の企業が 5,700社となっている。 特に応用分野のソフトウェアについては、中国の顧客は技術的に優れていれば国内製か

外国製かを問わない傾向にあるが、ローエンドソフトウェアやハードウェアについては外

国製が競争優位性を有し、財務ソフトウェア、ERP、ロジスティクスの応用ソフトウェア分野等については、国内製が優位性を有している。インタビューでは、中国の財務ソフト

ウェアが中国独自の商慣行や制度の運用と密接に関わっており、外国勢はなかなか財務ソ

フトウェアに参入できないと指摘された。また、税務ソフトウェアについては、国家機密

上、外国企業の参入が許されず国内企業にしか発注できないことも判明した。

付 197

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0

100

200

300

400

500

600

145 205 260 325 421 560

32.7 46.8 31 26.4 27 33

1995 1996 1997 1998 1999 2000

図表3-64 中国国内ソフト市場規模の推移

販売総額(億元)

年成長率(%)

出所: 中国軟件行業協会編『2000年度中国軟件産業研究報告』より作成

次頁の図表 3-65は中国主要地域のソフトウェア産業の概要を示す。ソフトウェア企業は北京市、上海市、深せん市を含む広東省に多く立地しており、その最大地域は北京市であ

る(但し現在その具体数は不明)。輸出については、上海が 2000年においては 7.2億ドルの最大輸出拠点となっている。 次々頁の図表 3-66が示すとおり、ソフトウェアの集積地である中関村が所在する北京に本社を置くソフトウェア企業が多い。ソフトウェア最大手、北大方正の 2000 年の売上高は約 35億人民元であった。

付 198

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図表 3-65 中国主要地域ソフトウェア産業の概要(2000年)

ソフト企業数

(社)

ソフト企業従

業員数(人)

販売総額

(億元)

ソフト製品販

売額(億元)

ソフトウェア・サー

ビス (億元)

ソフトウェア輸出

(万㌦)

北京市 - - - - - - 広東省 (深セン除外) 1,500 40,000 135.00 47.00 78.00

上海市 600 12,637 48.00 11.97 11.60 7,276

遼寧省 600 15,000 40.00 25.00 12.00 -

陜西省 500 6,000 31.80 - - -

江蘇省 2,000 12,900 25.00 15.00 10.00 -

深セン市 600 23,000 23.18 14.34 - 1,250

浙江省 330 - 21.80 - - 580

山東省 540 30,000 21.30 11.80 9.50 -

天津市 316 10,000 21.20 11.10 - 3,126

湖南省 - - 18.00 - - 800

吉林省 - - 13.00 - - 300

四川省 80 3,000 11.65 5.50 - 1,000

黒龍江省 320 12,000 10.00 - - 1,000

湖北省 300 6,000 8.00 3.00 5.00 615

安徽省 - - 7.80 - - 800

山西省 - - 6.00 - - -

江西省 95 2,500 5.50 3.00 2.50 140

河南省 200 6,000 5.00 3.50 1.50 -

重慶市 361 2,000 5.00 3.00 0.30 -

雲南省 - - 4.10 - - -

河北省 90 2,400 4.00 - - -

包頭市 50 600 3.20 1.20 0.20 -

甘粛省 - - 2.40 - - -

新疆区 150 - 1.50 - - -

江西区 50 585 1.29 - - -

122

注:北京の販売総額は全国でトップではあるが、具体的な数字は不明である。 出所:中国軟件行業協会編『2000年度中国軟件産業研究報告』より作成

付 199

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図表 3-66 中国のトップソフトウェア企業一覧(2000年) 順 位

会 社 本 部 所 在 地 会 社 名

売 上 高 (億 元) 分 野

1 北 京 北 大 方 正 35.00 SI、ソフト 2 北 京 普 天 信 息 14.88 SI、ソフト

3 北 京 聯 想 集 団 14.00 SI、ソフト 4 瀋 陽 東 方 軟 件 10.68 ソフト、SI 5 北 京 中 軟 総 公 司 10.09 ソフト、SI 6 北 京 長 天 企 業 10.00 SI 7 北 京 清 華 同 方 9.20 SI、ソフト 8 煙 台 煙 台 東 方 電 子 8.56 SI、ソフト

9 済 南 中 創 軟 件 7.50 SI、ソフト 10 成 都 托 普 軟 件 7.41 SI、ソフト

11 北 京 用 友 軟 件 6.80 ソフト、SI 12 深 セ ン 金 蝶 軟 件 6.80 ソフト、SI 13 北 京 太 極 公 司 6.00 SI、ソフト 14 南 京 南 京 聯 創 5.30 SI 15 北 京 北 大 青 鳥 5.17 ソフト、SI 16 上 海 華 東 電 脳 有 限 公 司 4.50 SI 17 天 津 天 大 天 財 4.00 SI、ソフト 18 上 海 上 海 聯 想 神 州 数 碼 3.50 SI、ソフト

19 上 海 上 海 市 計 算 所 3.47 SI、ソフト 20 杭 州 杭 州 恒 生 3.47 SI、ソフト

21 北 京 科 利 華 3.23 ソフト 22 北 京 中 科 軟 件 公 司 3.05 ソフト、SI 23 杭 州 新 中 大 2.99 ソフト 24 済 南 浪 潮 通 軟 2.80 ソフト

25 上 海 申 通 網 絡 2.75 SI 26 長 沙 湘 計 算 機 2.43 ソフト、SI 27 上 海 新 華 控 制 工 程 公 司 2.27 SI 28 杭 州 杭 州 士 蘭 2.20 SI 29 長 春 吉 林 啓 明 2.11 ソフト、SI 30 北 京 華 迪 公 司 2.10 SI 31 上 海 上 海 宝 鋼 2.09 SI 32 昆 明 南 天 信 息 2.08 SI、ソフト

33 北 京 合 力 金 橋 2.00 SI 34 上 海 中 国 航 空 無 線 電 子 所 2.00 SI 35 北 京 北 京 騰 図 1.93 SI、ソフト 36 北 京 安 易 公 司 1.93 ソフト、SI 37 杭 州 杭 州 大 自 然 1.90 SI、ソフト 38 杭 州 杭 州 友 旺 1.90 SI、ソフト

39 天 津 天 津 日 電 1.90 SI、ソフト 40 包 頭 華 姿 数 碼 1.80 SI、ソフト

41 上 海 上 海 復 旦 金 仕 達 1.76 SI、ソフト 42 南 京 南 大 蘇 富 特 1.60 ソフト、SI 43 上 海 上 海 亜 太 1.58 SI 44 上 海 上 海 P F V 1.55 SI 45 済 南 浪 潮 股 份 1.40 SI 46 広 州 広 州 京 華 網 1.35 SI 47 上 海 上 海 時 運 高 1.32 SI 48 広 州 広 州 誠 毅 科 研 開 発 1.31 SI 49 西 安 西 安 必 特 思 維 1.30 SI 50 南 昌 江 西 東 方 科 技 1.29 SI 51 深 セ ン 博 科 公 司 1.25 ソフト、SI 52 南 昌 南 昌 先 鋒 1.22 SI 53 長 沙 湘 計 信 息 軟 件 1.21 ソフト、SI 54 杭 州 浙 大 快 威 科 技 1.20 SI 55 広 州 広 州 新 太 1.18 SI 56 北 京 日 電 系 統 集 成 1.15 SI 57 深 セ ン 深 セ ン 奥 尊 1.13 SI 58 上 海 上 海 欣 国 信 息 1.13 SI 59 杭 州 杭 州 信 雅 達 1.10 SI 60 深 セ ン 深 セ ン 現 代 1.09 SI 61 青 島 青 島 海 信 1.07 SI 62 深 セ ン 深 セ ン 金 証 1.06 ソフト、SI 63 上 海 華 東 計 算 所 1.06 ソフト、SI 64 済 南 山 東 国 安 信 息 1.06 SI 65 南 京 南 京 高 能 1.04 SI 66 寧 波 寧 波 三 豊 1.04 SI 67 深 セ ン 深 セ ン 西 風 1.02 SI 68 北 京 四 創 公 司 1.00 SI 69 成 都 四 川 華 威 1.00 SI 合 計 257.26

出所:中国軟件行業協会編『2000年度中国軟件産業研究報告』より作成

付 200

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3.8.2 ソフトウェアと半導体産業育成奨励政策 中国政府国務院はソフトウェアと半導体産業育成のため、2000年に「ソフト産業と集積回路産業の発展を奨励する若干の政策」を公布した。図表 3-67が示すとおり、ソフトウェア産業の発展を促進するために、投融資支援、税優遇政策、人材育成・誘致等の政策を実

施している。 図表 3-67 ソフトウェアの奨励支援策

出所: 国務院国発【2000】18号文献『ソフト産業と集積回路産業の発展を奨励するための若干政策』

付 201

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今回企業訪問を実施した北京、上海、深せんにおいては、各市政府は税制上の優遇政策

や技術研究開発支援策等を導入し、積極的なソフトウェア産業の育成を行っている。その

結果として、上記の 3地域において IT産業が集積している。

図表 3-68 3大都市ソフトウェア産業育成策

出所:李石「中国の IT

項目 北京 上海 深セン

税収優遇措置 ・国務院の規定と同様。

・国務院の規定と同様。・上海で登録した企業が2000年1月1日以降の利益で地元ソフト企業に投資し、投資契約期が5年以上の場合、当該投資額に相当する所得税地方税部分の既課徴額を同企業に払い戻す。

・普通の新設ソフト企業の所得税は「2免3減」、「高新技術企業」と認定されたのもは「2免8減」、省・市の「重点的ソフト企業」と認定されたものは「5免5減」の優遇を受ける。

ソフト企業の設立を支援する特別ファンド

・市政府がソフト産業創業ファンドを設置し、ソフト企業の創立を支援。・市政府の予算でソフト企業経営者と技術者が設置した企業の資本金拡大、個人住宅と車購入を補助するための特別ファンドを設立。

・市政府が5億元を拠出し、ソフト産業のインフラ建設、重点プロジェクト、研究成果の産業化を支援するためのファンドを設置。

・市政府は2004年まで財政予算から5億元を拠出してソフト産業発展特別資金を設置し、ソフト産業の発展を支持。・国家級の「軟件園」を設置し、市政府が毎年5000万元を拠出して「軟件園」の建設に投入。・ソフト企業インキューベーターを設置し、新設ソフト企業を補助するための資金を科技特別資金から拠出。

R&Dへを支援する特別ファンド

・市計画委、科技委、経済委が共同出資して独自の知的財産権のあるソフト製品と技術の開発、高級人材の育成、ソフト輸出企業の国際的品質認証の獲得を援助するための特別ファンドを設置。

・市政府毎年の各種科技発展資金のうち、25%以上の金額を基礎ソフトや汎用ソフトの研究開発に投入。

・市政府はソフト研究開発を同市の科学技術発展資金計画における優先分野とし、毎年同分野への配分金額は5000万元以上とする。

ソフト企業と研究機関の設立を支援するためのほかの措置

・国内外研究・教育機関が北京で設置した各種のソフト研究開発センターに優遇措置を適用。・ソフト企業が土地使用権を獲得する場合、土地使用権譲渡金が免除。

・ソフト企業の設立は「審査認可制」から「登記制」(届け出制)へ簡素化。

・深セン市政府の『高新技術産業の発展への更なる支援に関する若干規定』に基づき、国内外のソフト企業と研究機関に優遇政策を適用。

輸出支援策

・国家の規定と同様。・ソフト製品の年間輸出額100万㌦以上、登録資本金200万元以上のソフト企業に輸出入権限を付与。

・国家の規定と同様。・ソフト製品や技術を輸入して二次開発を経てから輸出する予定がある場合、輸入ソフト製品と技術に保税又は加工貿易の方法が適用。

・国家の規定と同様。・ソフト企業と認定されたものは全て輸出入経営権が付与される。

ソフト開発技術者への奨励策

・国有ソフト企業の場合、毎年資産純増部分の35%を上限にストックオプションの形で業績の優秀な管理者と技術者を奨励することができる。

・独自の知的財産権を有するソフトを開発した技術者に対する奨励金に個人所得税は認可を得て免除。・企業が実物で技術者に奨励をする場合、賞品を企業の賃金総額に計上することができる。

・深セン市政府の『高新技術産業の発展への更なる支援に関する若干規定』に基づき、ソフト企業と研究開発人材を奨励。

ソフト開発技術者の誘致と養成

・ソフト企業の従業員は、大学卒以上学歴且つ高級技術資格を有するもの、及び国内外で修士以上学位を取得したものであれば、外地にいる家族の北京戸籍の取得ができる。・人材の養成策は中央の政策と同様。

・他専門大学生のソフト専門への転向、及び在学中大学生のソフト企業でのインターンが可能。・学校や教育機関が企業と提携して、ソフト人材の養成機関を設置することを奨励。

・条件のある大学にソフト学院又はソフト専門を創設し、複合型人材を養成。・大学卒以上又は短大卒且つ中級以上技術資格のあるソフト企業技術者、及び重大な発明をしたソフト開発技術者本人及びその家族に深センでの戸籍を与え、都市建設費の徴収を免除。

産業」日中経協ジャーナル 2002年4&5月号

付 202

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以下では、政府の多大な支援を受けて、世界トップクラスの経営資源:人材、生産設備、

資金、技術を上手く導入し、半導体生産を開始した中国企業 2社を紹介する。 (1)半導体メーカーA社 同社は 2000 年 4 月に半導体製品のワン・ストップ・フル・サービス・ファウンドリ・プロバイダーとして上海浦東新区に設立された。同社は 2000年 9月に米国、台湾、香港、シンガポールの投資機関より 10 億ドルの投資を獲得した。また地元の銀行からも 4 億 8千万ドルの融資を受け、計 14.8億ドルを世界最先端の IC工場の建設に投じた。 2002年 1月に ICの量産を開始した。現在月産 5000枚の 8インチのウエハーを生産しており、2002年 12月には月産 2万 5千枚に増産する予定。また、工場の拡大により 2004年には月産 8万 5千枚の生産能力に増強する予定である。全工場の拡大計画は、3つのフェーズに分けられ、計 9つの工場棟を建設する予定。 世界中からのトップ人材を誘致するために、同社は隣接する広大な敷地内に、レクリエ

ーション設備付きの宿舎(単身、家族)とバイリンガル学校を建設している。現在では、

幼稚園から高校まで約 130 名の生徒が在籍している。同社 1887 名の従業員のうち、3 割に当たる 588名が外国人であり、その多くがエンジニアである。また従業員の学歴については、博士が 72名、修士が 309名、学士が 660名、残りの 846名が高卒以上と高学歴者が多い。さらに従業員の卒業国を見ると、406名が台湾、114名が米国、27名が欧州、56名がその他(日本、マレーシア等)と海外経験者が多い。なお国内からの人材は 1284 名である。 同社の強みは、世界トップレベルの経営資源の活用にある。以下では、人、もの、資金、

技術といった経営資源にわけ、同社の強みに触れてみる。 ・ 人:トップマネジメント層では、全て海外 IT系企業での経験豊富な人材をスカウトし、登用している。例えば、社長の Dr. R 氏は海外大手ファウンドリメーカーC 社の元社長であり、その他全ての部門の長は長年外資系企業で経験を積んだ専門家である。ま

た、エンジニアや中間マネジメント層では、積極的に外国人を採用している。 ・ 設備:最先端の半導体の製造設備を世界のトップメーカーから購入している。 ・ 資金:資金面では、前述したとおり、米国、台湾、香港、シンガポールの投資機関か

ら 10億ドル投資を獲得し、また地元の銀行からも 4億 8千万ドルの融資を受けた。このような膨大な設備投資が半導体業界には欠かせない。

・ 技術:主に日米の半導体メーカーから技術協力を得ている。社内に強力な R&D 部門を有し、技術力のキャッチアップに努めている。

(2)半導体メーカーB社 同社は半導体製品の設計、開発、生産、販売企業として、2000年 11月に上海市浦東張江高科技園区に設立された民間資本 100%の企業である。16 億ドルを投じ、2002 年末に操業を開始する予定。同社の計画は、今後 10 年間で 60 億ドルの投資を行い、計 4 棟の0.25μmの8インチと12インチウエハーの工場を建設し、月産20万枚の生産能力を備え、年商 50億ドルの世界でもトップクラスの企業に成長するというものである。 競争の激しい半導体業界で、後発にもかかわらず、同社を設立した理由としては、巨大

付 203

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な中国国内市場の需要があり、日本の大手半導体メーカーD社等日米半導体企業からの技術的サポートが得られ、経験のあるトップ人材をマネジメント層にすえることが可能であ

ったこと、中国政府の多大な支持があったことが挙げられる。政府からは、地価の 50%減額、生産設備輸入税の免除、低利の融資、5 年間所得税の免除、国内向け商品の付加価値税の 17%から 6%への減免等の支援を得た。また、経験豊かな海外からの人材を幹部に迎えた。総裁には海外大手ファウンドリメーカーE社のトップのW氏を、社長(董事長)には同 E社取締役の S氏を、技術最高顧問には、日本の大手半導体メーカーD社執行取締役の H氏を迎えた。さらに同社は、廉価な労働力・人件費、製造費、流通コストに加え、政府の優遇政策による付加価値税の減免により、総合的なコスト優位性を有している。 3.8.3 IT産業の課題 中国における IT 関連産業は中国経済の成長とともに目覚しい発展を示してきたが、技術レベルの向上、人的資源の強化、制度的整備、IT効果の認識の浸透等、多くの課題も山積している。以下では、半導体産業等のハードウェア分野と、ソフトウェア分野にわけ、

中国が直面している問題、課題について、インタビュー先での指摘事項を取りまとめる。 (1)ハード分野の課題 ・ 日米企業からのハイエンド技術の移転の遅れへの対処。多くの半導体企業は日米の半

導体メーカーより技術援助を受け操業しているが、日米の半導体メーカーが本国から

のハイエンド技術の移転をコントロールしている。今後、いかにローエンドとミドル

エンドの技術を中国企業が日米企業からうまく学習し、自力でハイエンドの技術を開

発できるようになるかがポイントである。その方策の 1 つは、中国企業内の R&D 能力の強化が必要となる。半導体業界において世界レベルに達するためには、R&D能力を強化しなければならない。

・ 人材の訓練・育成。多くの新興半導体企業では、経験豊富なトップ人材を有するもの

の、十分に研修を積んだ人材は不足している。多くの中国企業は、外国から経験豊か

な外国人エンジニアを採用しているが、国内人材の育成には時間を要する。例えば、

今年 1 月に量産を開始した中芯国際で働いている従業員の半導体業界での経験年数は、1年未満が 747名、1年以上 5年未満が 479名、5年以上が 661名と、半分以上の従業員の経験は浅く、人材の育成に時間を要している。

・ 政府とのコミュニケーションの改善。多くの企業は政府から多大なサポートを得てい

るが、コミュニケーションの不足は否定できない。特に税関の手続き面等で時間を要

する場合がある。例えば、機械の輸入通関手続きに予想以上の時間を要し、生産計画

の遅れを招くことがある。 (2)ソフト分野の課題 ソフトウェア業界の問題については、開発プロセスの標準化の遅れ、ベンチャーキャピ

タル資金の不足、トップ人材の海外流出、ソフトウェアやサービスに対するコスト支払い

意識の欠如、IT導入効果についての認識の希薄さが挙げられた。

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・ ソフトウェアに関する開発プロセスの標準化。既述したように、中国では CMM5級を取得している企業は 1 社のみで、国際的に認められる開発プロセスの標準化が遅れている。同プロセスの標準化の遅れから、多くの国内ソフトウェア開発企業では開発管

理能力が不足して開発コストが上昇し、これにより IT導入を望む企業、特に中小企業における ITの導入が阻まれている。またプロセスの標準化の遅れは海外市場の開拓の妨げにもなっている。開発管理の標準化を推進すれば、安くシステムエンジニアを利

用できるようになり、開発コストは低減し、一般企業での IT導入はより容易となるであろう。IT導入は企業のコスト競争力の向上、国際競争力の向上をもたらすため、開発プロセスの標準化は重要な課題である。

・ ベンチャーキャピタル資金の調達。多くのソフトウェア開発企業は、ベンチャーキャ

ピタル資金の不足により、大規模な開発が実施しにくいという問題に直面している。

これには、中国の金融業界は国有銀行の影響力が強いため、国有企業は銀行から融資

が受けられやすいが、民間企業は融資をうけにくいという背景がある。IT関連の民間企業で、製品開発に多大な資金が必要であるにもかかわらず、融資を受けられずに苦

戦している企業は少なくない。その結果、多くのソフトウェア企業では、多くの技術

者をプロジェクトに投入せざるをえず、R&Dのための時間的余裕がなく、革新的な製品開発の妨げとなっている。中国政府は、2001年に工程応用ソフトウェア開発企業を育成するために、1億人民元規模の「ベンチャーキャピタル投資基金」を設立し、1社に 1000万人民元を無償で提供している。この基金に申請する基準は先進国における販売実績や販売量等であり、現在では多くの企業が申請しているが、許可された企業は

まだない。ベンチャーキャピタル分野については、中国には投資の専門知識をもつ投

資家が不足している。中国では企業家精神は十分に発達しておらず、企業文化構築力

や管理能力が不足している。例えば、中国の企業の平均操業年数は 5.7 年、新興企業のそれが 2.9 年と非常に短い。従って、国内投資家の育成が肝要である。また、新興起業家の信用度を公平に評価する仕組みの欠如がベンチャーキャピタル発展の阻害要

因になっている。ベンチャーキャピタル分野では、いかに投資した企業をモニターす

るかが重要となる。社会的信用が希薄であれば慎重に投資先を厳選せざるをえないた

めである。 ・ トップ人材の引き留め。多くのトップクラスの人材が、海外企業に高給で引き抜かれ、

その結果として中国における国有技術の開発が阻まれている。例えば、中国科学院の

ある月給 3000人民元のトップクラスの光ファイバー通信専門家が、月給 75万ドルで米国企業にスカウトされ、そのために中国の光ファイバー通信技術開発が遅れたと言

われている。また、中国製の CPUが作れないのもトップ人材の流出が原因と言われている。政府がトップ人材を引き留める政策を策定すべきとの意見もある。

・ 違法コピーに対する取締りの強化、全国民の意識の向上。多くの中国企業や消費者は、

ハードウェアに対する対価は支払うが、ソフトウェアやサービスに対する対価を支払

うという意識が十分ではない。これがソフトウェア市場の拡大に大きな障害となって

いる。最近では銀行の入札は、ハードウェアとソフトウェアに別けて実施されるなど、

改善の兆しが見られるものの、依然大規模な産業や企業ではハードウェアとソフトウ

ェアを一括に入札するところが多い。また、個人市場の規模も大きいが、違法コピー

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が行われているとの指摘も多い。 ・ IT 導入効果についての認識の向上、IT 化に関する啓発。中国の多くの企業は、IT 導入効果についての認識が希薄である。これは、企業における IT導入の遅れにつながっている。実際、多くの伝統的な製造分野、政府関連機関、国有銀行等のサービス分野

において、IT導入およびその応用が遅れている。従って、民間企業や公的機関の生産性向上のためにも、IT関連市場の拡大のためにも、公的機関、民間企業、特に中小企業に対する IT 化に関する啓発が不可欠である。多くの企業や公的機関では、IT 予算の中に占めるソフトウェアの割合が小さいことも、IT導入の遅れを招いている。また、たとえ IT導入が進んだとしても、その効果が限定される場合がある。企業経営の近代化に組織が適して入ない場合、つまり仕事のしかたや管理者の資質が改善されていな

い場合、IT導入の効果は充分に発揮できない。今後、企業におけるトップマネジメントの管理資質の向上や IT効果認識の強化、IT化の効果を高めることが不可欠である。

・ 法的側面の整備。中国では知的財産権、外国為替、優先株、企業設立、株式転換手続

きに関する法的側面の整備を強化し適切な運用が行わなければ、外国資本の誘致によ

る IT産業の更なる発展を期待することは難しい。

3.8.4 今後の展望 ハードウェア分野については、中国国内企業の技術力や品質の向上、外資企業との技術

協力により、付加価値の低いパソコンや半導体分野は中国の企業が競争優位性を有すると

しても、通信ネットワーク設備等の分野では、依然外国勢の優勢が続くと見られる。 WTO加盟により、国際標準の下で、知的財産保護法、中国情報安全保護条例等の IT産業に関する法的整備が進むであろう。消費者に違法コピーは道徳に反するという認識が芽

生え、違法コピーの問題が解消されれば、ソフトウェア市場の拡大が期待できるとの指摘

もあった。 またWTOの加盟により、中国国内は厳しい競争にされされるようになり、IT関連産業も甚大な影響を受けるであろう。中国の IT 関連産業の市場は、潜在力は高いものの、技術レベルは国際水準にキャッチアップすべき点も多く、更なる飛躍のためには、これまで

述べた諸課題を政府のイニシアチブの発揮と民間企業の自助努力により解決する必要があ

るといえよう。

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3.9 日本(参考)(インタビュー実施時期:2002年 5月下旬) アジアの開発途上国との関連の深い日本企業が、双方の国における IT 導入の結果、どのようにビジネスが変化し、今後はどのような分野において展望が見られるかに関して、

アジアでも活動している日本企業(電器)に対するインタビューを実施した。その結果は、

以下のとおりである。 ・ 開発途上国では IT化の推進に際して規制が少なく、民間企業にとっては活動しやすい面がある。一方で、保護政策により守られている企業には甘えが生じ、国際的な競争

力を失いやすい傾向もある。 ・ ビジネス上で、ITは依然として導入段階であるといわざるを得ない。インフラは存在しても、これまでのビジネス慣習から人海戦術からの脱却が困難であり、これは開発

途上国、日本双方の問題である。ただ、シンガポールやマレーシアでは欧米式にWeeklyな取引処理を行っているものの、日本では未だMonthlyな処理を行っており、整合性が取れていないことが問題のひとつとして挙げられる。このような取引形態の違いか

ら取引そのものに時間の差が生じてしまっており、非効率性につながっている。 ・ 一度取引交渉が成立すると、生産面では ITの活用がうまくいっていることから、効率性は高い。

・ IT化は地理的・時間的制約を取り除くため、取引が効率的に進むようになるとその費用は半減するであろう。国際的な競争力の向上のためにも IT化の推進は不可欠である。

・ IT化が進展すると、最適地生産と最適地調達を国際的に行うことができるようになると考えている。

・ マレーシアは IT化に熱心であり積極的に推進しているが、人材に乏しいという欠点を感じることが多い。これは、政府のマレー系優遇政策の影響であり、マレー系の向上

心の欠如につながっている面も否定できない面がある。ちなみに、向上心の欠如とい

う点は近年の日本にも当てはまっている。 ・ 今後、開発途上国各国は比較優位を生かしつつも、ハード生産よりもソフト面での人材の育成を促進することが必要となるであろう。ソフト部門はハード生産に比べてコスト

が低く参入が容易であり、開発途上国でも国際的な競争力を十分に有することのできる

分野である。その意味でもソフト開発に対応できる人材を創出することが求められる。 ・ ITの活用においては、非常に細かな技術の使い方のみに精通した「技術者型」の人材よりも、数字の正しい扱い方を知り、アイデア開発能力があり、全体を見渡せる視野

をもつ、統計学や経済学一般をバックグラウンドとする人材の確保がより必要となる

だろう。 ・ 法的規制の少なさがビジネス展開につながることを前述したが、日本には「下請法」という非常に硬直的な法律が存在する。資本金 3 億円以下の企業を保護する側面を持っており、取引には様々な規制がある。IT に関しては、そのような企業が IT 化できないことを理由に、当該企業との取引を停止してはならないという条項が設けられて

いる。このような法律は企業の IT化にとって大きな障害となっていると感じる。このような法律は、知る限りでは日本と韓国にしか存在しない。

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4.GTAPモデル 4.1 GTAPモデルの概要 4.1.1 CGEモデルの概要

(1)一般均衡理論の考え方 第 5章において使用した国際経済モデルである GTAP(Global Trade Analysis Project)

モデルは、CGEモデル(計算可能な一般均衡モデル)の一つである。CGEモデルとは、ミ

クロ経済学の一般均衡理論に基づく経済モデルである。 一般均衡理論は、フランス人の経済学者ワルラスが始祖となり 1870 年代後半から研究

が開始された。マーシャルによれば経済学には部分均衡分析と一般均衡分析がある。この

うち部分均衡分析とは、生産財市場、消費財市場、労働市場、貨幣市場といった個別市場

を対象とする分析手法であり、他の条件は一定とした場合の当該市場における価格と取引

量の関係、具体的には需要曲線と供給曲線の一致点を均衡点として各曲線の形状や均衡点

の性質、を研究する。 一方、一般均衡分析では、全ての経済主体および市場は、最終的には相互依存関係にあ

るので、その挙動を分析するには、あらゆる経済市場を同時に考慮していく必要があると

考え、関係する全ての市場を扱う。一般均衡理論とは、このような全ての経済主体、市場

の行動をモデル式として記述し、その均衡解の有無、安定性、あるいはショック時におけ

る解の挙動を研究していく経済学である。一般均衡モデルは、具体的には多数の変数を持

つ連立方程式体系として表される。その理論モデルは 1950年代には完成をみた。 (2)マクロ経済学との相違点 経済における取引循環を扱うという点では、一般均衡理論とマクロ経済学は類似してい

る。しかし、一般均衡理論はミクロ経済学に立脚するものであり、集計量に基づくマクロ

経済学とは、その性質が異なる。 例えば、消費関数について考えてみると、これはマクロ経済学的には、国民所得、家計

資産などが決定する関数として記述される(C=f(Y、W))。一方、ミクロ経済学的には、効用最大化を図る消費者による所得および価格の関数として記述される。つまり、ミクロ

経済学は、消費者、生産者などの経済主体の経済的合理性(効用最大化、利潤最大化)に

立脚した経済行動を記述するモデルを用意している点が、マクロ経済学と異なる。一般均

衡モデルでは、各方程式はすべて各主体の経済合理性に基づいて定式化されており、全体

はそれらを束ねた連立方程式体系となっている。 (3)一般均衡モデルを利用するメリット 一般均衡理論はミクロ経済学に基礎を置き、家計・企業などの各経済主体の経済合理性

(最適化行動)に重点を置いて、経済行動の動きを説明する。この一般均衡理論に基きつ

つ、実際の経済分析を可能にするように手を加えたのが CGE モデルである。このように

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CGEモデルは市場分析に立脚しており、価格を媒介として各経済主体が自らの行動を調整するメカニズムを説明している。その特徴として、以下の3点が指摘できる。 第1に、家計、企業などの経済的合理性を考慮しているので、経済政策や外部環境の変

化によって、どのように家計や企業の行動が変化するかの分析に適している。家計、企業

などの主体の経済合理性から導かれるモデルであり、モデルおよび分析結果において、経

済理論との整合性が確保されている 第2に、価格、市場を明示的に導入しているので、価格変化をもたらすような政策変更

の効果を分析しやすい。例えばマクロモデルと比較すると、マクロモデルは一般に価格と

の関係づけが弱い70が、一般均衡モデルは、価格と財貨(消費量、生産量)との関係を明

確に定義している 第3に、分析において市場、産業の細分化を行うことが可能であり、マクロ経済への効

果と同時に、特定産業への効果の分析を行うことができる。つまり経済の相互依存関係が

考慮されているので、最終的な波及効果まで分析することが可能となる上、家計、産業別

企業など、よりミクロレベルでの分析、検討が可能となる。また、ある政策の結果プラス

になる産業とマイナスになる産業の差が明確に試算結果として示されることが多いという

ことも、政策シミュレーションとして用いられることが多い理由の一つである。

4.1.2 GTAPモデルの概要 (1)GTAPモデルの概要

GTAPモデルは、1992年に米国パーデュ大学のハーテル教授が中心となって開発した、世界全地域を対照とした応用一般均衡モデルである。開発の目的は、国際貿易における関

税引き下げ・撤廃などの効果を測定することであり、ウルグアイ・ラウンド、APECの効果などの分析が行われた。GTAP モデルは 1992 年以降データ更新を繰り返してきており、データベースの整合・作成作業はパーデュ大学で行われている。

GTAPモデルの大きな特徴は、スタート以来主要な国際機関や各国政府機関の協力を受け続けて発展してきているということである。これらの国際機関や各国政府機関によるデ

ータ提供が、GTAPモデルのデータベース作成に大きく貢献してきた。現在 GTAPの理事会には OECD、WTO、世界銀行、UNCTADなどの国際機関に加え、米国・オーストラリア・欧州各国・日本の政府機関や研究機関の代表者が参加し、データベースの改訂やモデル

の改良などについて、継続的に検討を行っている。また GTAP研究者による国際会議は年1回定期的に開催されており、2002年で第 5回目を迎える。 現在では GTAPモデルは世界 50カ国以上で使用され、GTAPモデルを用いた研究が多

数発表されている。研究者達によりモデルの方程式体系にも改良が行われ続け、後述する

ように研究対象となるテーマも幅が広がっている。

(2)GTAPモデルの構造 ①モデルの全体構造

70 マークアップ原理やフィリップス曲線などの経験則が用いられることが多い。

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モデルの全体構造は、下記の図表に示される通りである。 各国ごとに家計、産業別企業、政府が存在している。まず、家計は、1)消費活動とし

て産業別企業から財・サービスを購入、2)貯蓄活動として金融部門に資金を貯蓄、3)納税活動として政府部門に租税支払いを行う。この逆方向の流れとして財・サービスがある。 産業別企業は、1)雇用活動として賃金を家計に支払う、2)生産活動として購入費を他

産業企業に支払う、という2つの活動をしている。この逆方向の流れとして、財・サービ

スがあるが、金銭支払いの流れは上述の2つである。GTAPでは、産業間の取引を明示的に考慮している点が注目される。最後に政府は、1)消費活動として、産業別企業に購入費を支払う。以上が国内活動である。 国外との取引については、1)国内の産業別企業による国外の産業別企業からの購入、2)国内の家計による国外の産業別企業からの購入、3)国内の政府による国外の産業別企業からの購入、の3つが挙げられる。 上述の取引が、国別、産業別に存在するので、これらの取引関係の既述だけで、GTAP

のモデル式が膨大なものとなる点は、容易に想像できよう。これらの取引量は基本的には

取引ごとに、(数量)×(価格)として記述される。

図表 モデルの全体構造

出所:Hertel(1997) ”Global Trade Analysis” CUPより転載

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②市場における均衡条件 市場の均衡条件は、各市場における財の需要と供給が一致することである。例えば、A

産業(商品)に関しては、各国の A産業の生産額が供給であり、各国の他産業の購入額+各国の家計消費+各国の政府消費を合算したものが需要となる。この両者が等しくなるこ

とが均衡条件(市場の清算)である。また、需要、供給のそれぞれに、数量および価格の

2変数が付随している。 需給の一致は恒等的に保証されることはなく、価格に応じた需要量、供給量の変化、家

計消費、企業の生産要素需要、外国貿易などの様々な要因が同時に満足されて、はじめて

均衡点に到達する。各変化要因が、取引量の変化に及ぼす影響度がパラメータである。パ

ラメータには実数値が与えられているが、これは主に実証分析の結果から得られたもので

あり、初期時点のデータセットが均衡として再現できるように定められる。 ③モデルの解き方

GTAPモデルによるシミュレーションとは、以下のようなものである。 例えば、当該国の輸入関税率(価格に関係している)が下落するというショックが外生

的に与えられる。これは輸入価格を下落させるので、当該国の家計、企業、政府は他国企

業からの購入量を増やすと考えられる。これは輸出国の企業からみれば、生産の拡大につ

ながるので、家計からの労働投入や他産業からの商品購入が増加してさらに取引が拡大す

る。しかし、一方では世界的な需要増大により、各商品の価格が上昇するため需要の拡大

には限界がある。このような波及効果の大きさは、企業の生産構造、家計の消費構造、各

市場の需給の均衡条件から決定される。そして、最終的には新たな均衡点(群)に到達し、

そこで当初のショックが収束することになる。 このようなシミュレーションを、GTAP ではモデルの線型化の手法により解いている。

線型化とは、GTAP では全ての取引量が、(数量)×(価格)の2変数により記述されているが、これを変化率表示にして(取引量の変化率)=(数量の変化率)+(価格の変化

率)という線型式(一次式)に、置き換えることである。線型化のメリットについては、

直観的には以下のように説明される。即ち、全ての変数が同時に変化するモデル体系にお

いて、非線型(掛け算)によって表示されているモデルを変化率によって表示すれば、線

型体系、つまり連立一次方程式により記述されることになる。そのため外生的なショック

に対する新たな均衡解の算出、シミュレーションが容易となる。 実際には(数量)×(価格)という構造が二重化したり、あるいはパラメータが加わる

ことになるので、上記のように簡単な解き方にはならないが、モデルを変化率表示に置き

換えることから、演算上の負荷を軽減させている点は GTAPモデルの特徴のひとつである。 ④GTAPモデルにおける具体的方程式

GTAPモデルの説明書としてはシステムマニュアル以外に、GTAPモデルの開発者であるハーテル教授による”Global Trade Analysis – Modeling and Applications”(1997年)が広く用いられている。同書の出版後、GTAPモデルには改良が加えられ若干変化は生じているが、基本的には現在も同書で説明されている基本構造が用いられている。以下同書

の解説に基づき、GTAPモデルにおける具体的方程式の概要を示す。

付211

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GTAP では全部で 98 の方程式が用意されている。これらの方程式は、全てが各国別に定義されるため、10国モデルではその数が 10倍となる。さらに、方程式によっては、産業別(商品別)に定義されるので、全体の方程式数はさらに多くなる。

GTAPモデルは、大別すると以下の方程式群から構成される。 1)会計式(1)~(14):取引高、所得などの定義式 2)価格式(15)~(27):市場・取引価格が記述される 3)貿易式(28)(29):貿易財の構成を示す 4)企業行動式(30)~(36):生産関数(CES型およびレオンティフ型の混合。最新バージョ

ンでは、オプションとしてレオンティフ型の採択は可能である

が、基本的には CES型に統一) 5)家計行動式(37)~(49):ストーン-ゲリー型効用関数に基づく支出関数 6)初期賦存量式(50)(51):家計が当初保有する資源式 7)投資関数(52)~(60):投資、利益率、貯蓄などの関数式 8)輸送産業式(61)(62):世界貿易における輸送価格・輸送量を記述する式 9)要約式(64)~(98):GDPなどのマクロ変化を算出する式 ⑤GTAPパラメータ

GTAPモデルにおけるパラメータは、生産関数における代替率、効用関数における選好率などである。パラメータの推計方法は、計量分析とカリブレーションとの2つに大別さ

れる。 ・計量分析:消費や生産関連のデータに関しては、比較的データが揃っているので計量分

析によるパラメータ推計が可能である。また、他の計量研究の結果、得られたパラメー

タを転用することもある。 ・カリブレーション:計量分析により特定化できないパラメータはカリブレーションによ

り推計する。モデルの全体系はすでに決定されており、主要パラメータとデータセット

は用意されているので、これらを制約条件として残りのパラメータを非線形計画法など

により特定化する。 ⑥GTAP変数

GTAPにおける変数群は、大別すると以下から構成される。これらは上記方程式における構成要素である。

1) 数量変数:頭文字は Q 2) 価格変数:頭文字は P 3) 政策変数:頭文字は T(税率) 4) 技術変数:頭文字は A(技術進歩率) 5) ダミー変数:頭文字は D 6) スラック変数 7) 価値・所得変数:取引高、GDPなどの所得変数

付212

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8) 効用変数:頭文字は U(一人当たり効用) 9) 効用変数:等価変分 10) 貿易バランス変数:貿易バランスの変化率 4.1.3 GTAPモデルを用いた定量分析

GTAPモデルを用いたこれまでの主な分析例は、国際機関によるウルグアイ・ラウンドや APEC貿易自由化の経済効果の分析などである。また、各種税・技術などの変数を外生変数として備えていることや、各産業別の影響や他地域・世界全体への影響が測定可能で

あることから、炭素税の導入効果や減税・増税の効果など、各国における諸々の政策関連

シミュレーションにも広く用いられている。 国際貿易の研究に関しても、FTAなどによる関税引き下げや関税撤廃の効果分析に加え

て、近年は輸入による技術進歩の効果など、価格低下や技術進歩の効果に着目して分析が

行われることが多い。2001 年に GTAP モデルの創始者であるハーテル教授らが発表した研究においては、日本・シンガポール間自由貿易協定の効果について、特に E コマースにおける規制緩和の効果に重点を置いた分析が行われている。また近年では、国際貿易に加

えて、経済発展や開発経済、貧困、技術進歩、環境政策などの分野において、多数の研究

が発表されている。 4.1.4 GTAPモデルにおける技術変数

・GTAPモデルにおける技術変数 従来使用されてきた GTAPモデルの技術変数は、以下の5つであり、いずれも外生変数として用いられていた。したがって、特別に設定を行わない限り、変化はないものとして

推計が行われる。なお、GTAPモデルにおいては、小文字で書かれた変数は変化率を表すため、以下の変数は「技術進歩の変化率」である。

GTAPモデルにおける基本技術変数

・ao(j,r) : output augmenting technical change in sector j of r. ・ava(i,r) : value added augmenting tech change in sector i of r. ・af(i,j,r) : composite intermed. input i augmenting tech change by j of r. ・afe(i,j,r) : primary factor i augmenting tech change by j of r. ・atr(i,r,s) :technical change parameter in shipping of i from region r to s. 最新版のバージョン 6.1では、以下の技術変数が備えられ、上記の5つの技術関連の外

生変数は、さらに細かい技術変数の合計値として計算される。新たな細かい技術変数は外

生変数として設定されており、これらの変数に変化がなければ、結局は atr 以外の技術変数は前バージョンと同様の形で用いられる。交通関連の技術変数である atr のみ、バージョン 6.1では atmfsdとして、さらに詳細に扱われている。

付213

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付214

GTAPモデルバージョン 6.1における基本技術変数

・ams (i,r,s) :import i from region r augmenting tech change in region s. ・aosec (j) :output tech change of sector j, worldwide. ・aoreg (r) :output tech change in region r. ・aoall (j,r) :output augmenting technical change in sector j of r. ・avasec (j) :value added tech change of sector j, worldwide. ・avareg (r) :value added tech change in region r. ・afcom (i) :intermediate tech change of input i, worldwide. ・afsec (j) :intermediate tech change of sector j, worldwide. ・afreg (r) :intermediate tech change in region r. ・afall (i,j,r) :intermediate input i augmenting tech change by j in r. ・afecom (i) :factor input tech change of input i, worldwide. ・afesec (j) :factor input tech change of sector j, worldwide. ・afereg (r) :factor input tech change in region r. ・afeall (i,j,r) :primary factor i augmenting tech change sector j in r. ・atmfsd (m,i,r,s) :tech change in m's shipping of i from region r to s. ・atm (m) :tech change in mode m, worldwide. ・atf (i) :tech change shipping of i, worldwide. ・ats (r) :tech change shipping from region r. ・atd (s) :tech change shipping to s. ・atall (m,i,r,s) :tech change in m's shipping of i from region r to s. ao(j,r) = aosec(j) + aoreg(r) + aoall(j,r); ava(j,r) = avasec(j) + avareg(r) + avaall(j,r); af(i,j,r) = afcom(i) + afsec(j) + afreg(r) + afall(i,j,r); afe(i,j,r) = afecom(i) + afesec(j) + afereg(r) + afeall(i,j,r); atmfsd(m,i,r,s) = atm(m) + atf(i) + ats(r) + atd(s) + atall(m,i,r,s);

GTAPモデルバージョン 6.1においては、以下の技術変数が基本的には外生変数として用いられている。 ams atm atf ats atd aosec aoreg avasec avareg afcom afsec afreg afecom afesec afereg aoall afall afeall 本調査におけるシミュレーションでは、本文中に記載したように、労働にかかる afe を変化させている。

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4.2 GTAPモデルによる各国の試算結果 4.2.1 米国 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 -0.8 -0.9 0.2 -0.2 -0.5 -0.7 -0.2 -1.0 -1.0 -0.9

非熟練労働 0.2 0.6 0.3 0.1 0.4 0.5 0.4 -1.3 0.4 0.1

熟練労働 0.2 0.6 0.3 0.1 0.4 0.5 0.5 -1.3 0.4 0.1

資本 0.3 0.5 0.2 0.2 0.4 0.4 0.3 0.1 0.3 0.3

農業 0.1 0.3 0.2 0.0 0.1 0.1 0.2 -0.5 0.2 0.0

鉱業 0.1 0.4 0.2 0.1 0.1 0.2 0.2 -0.3 0.0 0.0

建設業 0.2 0.5 0.2 0.2 0.4 0.4 0.4 -0.6 0.4 0.2

耐久財製造業 0.2 0.5 0.2 0.2 0.3 0.4 0.4 -0.2 0.3 0.2

機械・電気設備 0.4 0.6 0.3 0.3 0.7 0.6 0.5 2.8 0.5 0.5

非耐久財製造業 0.2 0.4 0.2 0.1 0.2 0.3 0.3 -0.3 0.3 0.2

輸送・公共 0.2 0.5 0.2 0.1 0.3 0.4 0.4 -0.3 0.3 0.2

通信 0.3 0.5 0.2 0.2 0.4 0.5 0.4 0.0 0.4 0.3

卸売・小売業 0.2 0.5 0.2 0.1 0.3 0.4 0.4 -0.2 0.4 0.2

金融・保険業 0.2 0.5 0.2 0.1 0.4 0.4 0.4 -0.1 0.4 0.2

その他サービス業 0.2 0.5 0.2 0.1 0.4 0.4 0.4 -0.8 0.4 0.2

ビジネス・サービス業 0.2 0.5 0.2 0.2 0.4 0.4 0.4 -0.3 0.4 0.2

・生産量

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 -0.1 0.2 0.1 0.0 0.1 0.1 0.2 -1.5 0.0 -0.2

農業 -0.1 -0.2 0.0 0.0 -0.1 -0.1 -0.1 0.0 -0.2 -0.1

鉱業 -0.2 -0.4 -0.2 -0.1 -0.3 -0.3 -0.2 -0.2 -0.3 -0.2

建設業 -0.1 0.1 0.1 -0.1 0.1 0.0 0.2 -1.2 0.0 -0.2

耐久財製造業 0.1 -0.4 0.1 0.2 -0.2 -0.4 0.0 -0.5 -0.2 -0.2

機械・電気設備 1.7 1.0 0.8 1.0 1.5 1.4 1.1 -5.9 1.4 1.6

非耐久財製造業 0.0 -0.1 0.0 0.0 -0.1 -0.2 -0.1 -0.5 -0.2 -0.1

輸送・公共 -0.1 -0.1 0.1 0.0 -0.1 -0.1 -0.1 -0.6 -0.2 -0.1

通信 -0.1 0.0 0.1 0.0 -0.1 -0.1 0.1 -1.2 0.0 -0.2

卸売・小売業 0.0 0.1 0.1 0.0 0.1 -0.1 0.1 -1.3 0.0 -0.1

金融・保険業 -0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 -1.2 -0.1 -0.1

その他サービス業 -0.1 0.1 0.1 -0.1 -0.1 0.0 0.0 -0.6 0.0 -0.2

ビジネス・サービス業 0.0 0.1 0.1 0.0 -0.4 -0.1 0.0 -1.0 0.0 -0.1

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.2 0.6 0.4 0.3 0.2 0.2 0.7 -1.6 0.1 0.2

鉱業 0.0 -0.1 0.3 0.1 0.0 -0.1 0.5 -1.0 -0.1 -0.1

建設業 -0.2 0.6 -0.1 -0.3 0.2 0.6 0.3 -2.6 0.2 -0.2

耐久財製造業 0.0 0.9 0.1 -0.2 0.3 0.3 0.4 -2.7 0.1 0.1

機械・電気設備 -0.6 -1.1 -0.9 -0.3 0.7 0.0 -0.3 1.5 0.0 -1.0

非耐久財製造業 0.0 0.5 0.1 -0.2 0.1 0.1 0.1 -1.9 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.6 0.0 -0.1 0.3 0.3 0.3 -2.2 0.2 -0.1

通信 -0.1 0.6 0.0 -0.2 0.2 0.1 0.4 -1.8 0.2 -0.2

卸売・小売業 -0.2 0.6 -0.1 -0.4 0.2 0.3 0.1 -2.2 0.1 -0.3

金融・保険業 -0.1 0.5 -0.1 -0.2 0.2 0.5 0.3 -2.0 0.2 -0.2

その他サービス業 0.5 1.1 0.5 0.6 0.8 0.9 0.8 -2.8 0.8 0.5

ビジネス・サービス業 -0.1 0.5 0.1 -0.1 0.4 0.3 0.3 -2.3 0.3 0.0

付215

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・輸出 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 -0.4 -1.4 -1.1 -0.2 -0.4 -0.4 -1.3 2.1 -0.6 -0.2

鉱業 -0.3 -2.0 -0.8 -0.7 -0.5 -1.1 -1.4 1.7 -0.4 -0.3

建設業 0.1 -0.9 0.1 0.3 -0.4 -1.1 -0.3 3.4 -0.2 0.2

耐久財製造業 0.2 -2.2 -0.5 0.3 -0.6 -1.2 -1.4 3.3 -0.7 -0.6

機械・電気設備 3.0 1.8 3.5 3.5 1.6 1.7 2.5 -9.5 2.0 2.3

非耐久財製造業 -0.1 -1.3 -0.3 -0.1 -0.3 -0.6 -0.8 2.1 -0.5 -0.3

輸送・公共 -0.4 -0.9 -0.3 -0.1 -0.5 -0.6 -0.5 1.4 -0.6 -0.3

通信 -0.5 -1.4 0.0 -0.2 -1.0 -1.2 -0.9 1.2 -0.9 -0.4

卸売・小売業 0.1 -1.1 0.4 0.7 -0.1 -1.0 -0.2 1.8 -0.3 0.2

金融・保険業 -0.1 -1.3 0.0 0.3 -0.5 -1.0 -0.6 1.3 -0.6 0.0

その他サービス業 -0.8 -2.1 -0.9 -1.1 -1.4 -1.8 -1.4 3.3 -1.5 -0.8

ビジネス・サービス業 -0.1 -1.0 -0.1 0.2 -0.6 -1.0 -0.5 2.3 -0.6 -0.2

4.2.2 日本

・供給価格 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.8 1.7 0.2 0.3 0.7 0.7 0.6 0.8 0.6 0.5

非熟練労働 0.0 1.4 0.0 0.0 0.0 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1

熟練労働 0.0 1.4 -0.1 -0.1 0.0 -0.1 -0.1 -0.2 -0.1 -0.1

資本 -0.2 0.2 -0.2 -0.2 -0.3 -0.3 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2

農業 0.1 0.8 0.0 0.0 0.2 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.0

鉱業 0.1 0.5 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 -0.1 0.8 -0.1 -0.1 -0.1 -0.2 -0.1 -0.2 -0.2 -0.1

耐久財製造業 0.0 0.4 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.2 -0.1 -0.1

機械・電気設備 -0.2 -1.8 -0.2 -0.2 -0.4 -0.4 -0.3 -0.2 -0.2 -0.2

非耐久財製造業 0.0 0.4 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1

輸送・公共 -0.1 0.5 -0.1 -0.1 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

通信 -0.1 0.2 -0.1 -0.2 -0.3 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

卸売・小売業 -0.1 0.3 -0.1 -0.1 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

金融・保険業 -0.1 0.2 -0.1 -0.1 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

その他サービス業 -0.1 0.7 -0.1 -0.1 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

ビジネス・サービス業 -0.1 0.5 -0.1 -0.1 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.2 -0.1

・生産量

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.2 1.3 0.2 0.2 0.3 0.3 0.1 0.1 0.2 0.2

農業 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1

鉱業 0.1 0.3 0.2 0.2 0.2 0.4 0.2 0.1 0.2 0.1

建設業 0.2 1.2 0.1 0.2 0.3 0.3 0.1 0.1 0.2 0.2

耐久財製造業 0.2 0.3 0.1 0.2 0.6 0.5 0.2 0.2 0.2 0.2

機械・電気設備 -0.9 4.2 -0.2 -0.5 -0.5 -0.7 -0.7 -0.5 -0.6 -0.6

非耐久財製造業 0.1 0.6 0.1 0.1 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1

輸送・公共 0.1 0.7 0.1 0.1 0.3 0.2 0.1 0.1 0.2 0.1

通信 0.1 1.1 0.1 0.1 0.3 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1

卸売・小売業 0.1 1.2 0.1 0.1 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1

金融・保険業 0.1 1.0 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1

その他サービス業 0.1 0.8 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1

ビジネス・サービス業 0.1 1.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1

付216

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・輸入 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.1 1.9 0.0 0.1 0.5 0.3 0.1 0.0 0.0 0.1

鉱業 0.1 0.7 0.0 0.0 0.2 0.2 0.0 0.1 0.1 0.1

建設業 0.3 2.8 0.2 0.1 -0.1 -0.1 -0.3 -0.1 -0.3 -0.2

耐久財製造業 0.1 2.8 0.1 0.0 0.1 -0.1 -0.4 -0.2 0.0 0.1

機械・電気設備 0.4 -1.0 0.6 0.4 0.0 0.4 1.0 0.7 0.1 0.2

非耐久財製造業 0.2 1.8 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.1

輸送・公共 0.2 2.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.1

通信 0.2 1.8 0.1 0.1 0.1 0.1 -0.1 0.0 0.0 0.1

卸売・小売業 0.3 2.0 0.2 0.2 0.1 -0.1 0.1 0.0 0.0 0.1

金融・保険業 0.2 1.7 0.1 0.1 0.2 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.1

その他サービス業 0.2 2.6 0.1 0.1 0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 0.1

ビジネス・サービス業 0.3 2.5 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.2 -3.3 0.1 0.1 -0.4 0.8 0.4 0.6 0.2 0.2

鉱業 0.2 -2.4 0.5 0.4 0.2 0.6 0.7 0.2 0.2 0.2

建設業 0.5 -3.0 0.4 0.6 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 0.8

耐久財製造業 0.3 -3.4 0.5 0.3 0.9 0.9 0.8 0.7 0.4 0.3

機械・電気設備 -1.9 7.2 -1.6 -1.4 -0.5 -0.8 -1.0 -1.0 -0.9 -1.3

非耐久財製造業 0.1 -2.2 0.0 0.0 0.2 0.4 0.4 0.5 0.2 0.1

輸送・公共 0.2 -1.2 0.3 0.3 0.4 0.4 0.3 0.4 0.3 0.3

通信 0.0 -1.2 0.1 0.1 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2

卸売・小売業 -0.1 -1.5 0.0 -0.1 0.2 0.3 0.1 0.4 0.3 0.2

金融・保険業 0.0 -1.1 0.2 0.2 0.3 0.4 0.4 0.4 0.4 0.2

その他サービス業 0.1 -3.0 0.3 0.2 0.5 0.6 0.5 0.6 0.5 0.3

ビジネス・サービス業 -0.2 -2.5 -0.1 -0.1 0.2 0.5 0.1 0.2 0.2 0.0

4.2.3 インド (1)シナリオ1 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.1 0.0 1.5 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1

非熟練労働 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

機械・電気設備 0.0 0.0 -1.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 -0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 -0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 -0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

付217

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・生産量 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

機械・電気設備 0.0 0.0 2.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 0.0 1.7 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

機械・電気設備 0.0 0.0 -1.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.1 0.1 -2.7 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.1 -0.7 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 1.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

機械・電気設備 0.0 0.0 7.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 1.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 1.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 1.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

付218

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(2)シナリオ2 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

資本 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

農業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 -0.05 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

・生産量

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

資本 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

農業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.04 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.00 0.00 0.02 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.02 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.02 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

付219

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・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.00 0.00 -0.03 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 -0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.19 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

4.2.4 南アジア (1)シナリオ1 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 1.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 -1.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 -0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 -0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・生産量 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 2.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

付220

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・輸入 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 0.0 0.0 -1.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 5.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 1.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 1.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 1.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

(2)シナリオ2 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.00 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

資本 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

農業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.00 -0.04 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

付221

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・生産量 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

熟練労働 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

資本 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

農業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.00 0.04 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.00 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

鉱業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.00 -0.02 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

00

00

00

00

00

00

00

00

00

00

00

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.00 0.00 0.00 -0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

鉱業 0.00 0.00 0.00 -0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

建設業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

電気製品 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

非耐久財製造業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

輸送・公共 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

通信 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

卸売・小売業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

金融・保険業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

その他サービス業 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

ビジネス・サービス業 0.00 0.00 0.00 0.15 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

付222

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4.2.5 ASEAN (1)シナリオ1 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.2 0.1 0.1 0.1 0.7 0.2 0.1 0.2 0.2 0.1

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・生産量 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.1 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 3.2 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 -0.1 -0.1 0.0 0.9 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.6 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.1 0.3 0.2 0.1 1.7 0.1 0.1 0.2 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.1 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.1 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.7 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.3 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.9 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.1 0.0 0.0 0.0 1.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

付223

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・輸出 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.2 0.2 0.1 0.1 -1.5 0.0 0.3 0.1 0.1 0.1

鉱業 0.0 0.2 0.1 0.1 -0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.1 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0

電気製品 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 3.4 0.0 -0.2 -0.1 -0.1 -0.3

非耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.2 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0

通信 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.1 0.1 0.3 0.1 0.1 0.0 0.1 0.0

金融・保険業 -0.1 0.0 0.0 0.0 1.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.9 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.1 0.1 0.1 -0.2 0.1 0.1 0.2 0.2 0.1

(2)シナリオ2 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.2 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・生産量

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

農業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 3.2 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

付224

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・輸入 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.5 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0

建設業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.5 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.1 0.3 0.2 0.1 1.6 0.1 0.1 0.2 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.8 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0

鉱業 0.0 0.2 0.1 0.1 -0.3 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.5 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0

電気製品 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 3.4 0.0 -0.2 -0.1 -0.1 -0.3

非耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.4 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.2 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.1 0.1 0.1 -0.4 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1

金融・保険業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.7 0.0 0.1 0.0 0.1 0.0

その他サービス業 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.1 0.1 0.1 -0.2 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1

4.2.6 中国 (1)シナリオ1 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.5 0.4 0.2 0.3 0.4 0.5 2.2 0.5 0.4 0.3

非熟練労働 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0

資本 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1

農業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.2 0.8 0.1 0.0 0.1

鉱業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.3 0.1 0.1 0.1

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 -0.1 0.0 -0.1 -0.1 0.0 -1.1 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 -0.3 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.2 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

付225

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・生産量 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.6 0.1 0.1 0.1

農業 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.2 0.1 0.1 0.0

鉱業 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.4 0.1 0.1 0.1

建設業 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.6 0.1 0.1 0.1

耐久財製造業 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.8 0.1 0.1 0.0

電気製品 -0.1 -0.1 0.0 -0.1 -0.1 -0.2 3.2 -0.1 -0.1 -0.1

非耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.3 0.1 0.1 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.6 0.0 0.1 0.0

通信 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.8 0.0 0.0 0.1

卸売・小売業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.7 0.0 0.0 0.1

金融・保険業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.8 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.6 0.0 0.1 0.0

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 -0.1 0.0 0.1 0.0 0.2 2.1 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 1.1 0.1 0.1 0.0

建設業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.9 0.0 0.1 0.1

耐久財製造業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 1.4 0.0 0.0 0.1

電気製品 0.1 0.4 0.2 0.2 0.0 0.0 -0.6 0.2 0.1 0.1

非耐久財製造業 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.1

通信 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.1

卸売・小売業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.6 0.0 0.0 0.1

金融・保険業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.5 0.0 0.0 0.1

その他サービス業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 1.2 0.0 0.0 0.1

ビジネス・サービス業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 1.2 0.0 0.0 0.1

・輸出

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.3 0.6 0.1 0.1 0.0 -0.1 -3.3 0.3 0.1 0.1

鉱業 0.1 0.5 0.4 0.3 0.1 0.4 -1.3 0.1 0.1 0.1

建設業 0.0 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 -0.6 0.1 0.1 0.1

耐久財製造業 0.0 0.2 0.0 0.0 0.1 0.2 -0.5 0.1 0.1 0.0

電気製品 -0.3 -0.2 -0.3 -0.2 -0.1 -0.3 6.1 -0.2 -0.2 -0.3

非耐久財製造業 0.0 0.3 0.0 0.0 0.1 0.3 -0.8 0.2 0.1 0.1

輸送・公共 0.0 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0

通信 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 1.0 0.1 0.0 0.0

卸売・小売業 -0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.3 0.0 0.1 0.0

金融・保険業 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.6 0.0 0.1 0.0

その他サービス業 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 -1.1 0.1 0.1 0.0

ビジネス・サービス業 -0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 -0.8 0.1 0.1 0.0

付226

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(2)シナリオ2 ・供給価格

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.4 0.3 0.2 0.2 0.3 0.4 1.4 0.4 0.3 0.3

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.0

資本 0.0 -0.1 0.0 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 0.0

農業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.6 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.1 0.0 0.1 0.0 0.1 0.1 0.3 0.1 0.1 0.1

建設業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 -1.1 0.0 0.0 0.0

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.0 0.0 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0

・生産量

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

土地 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

非熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

熟練労働 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

資本 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.5 0.1 0.1 0.1

農業 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0

鉱業 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.0 0.1 0.1

建設業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.5 0.0 0.1 0.1

耐久財製造業 0.0 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.5 0.1 0.1 0.0

電気製品 -0.2 -0.1 0.0 -0.1 -0.1 -0.2 3.0 -0.1 -0.1 -0.1

非耐久財製造業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1 0.0

輸送・公共 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0

通信 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 0.0 0.0

その他サービス業 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0

ビジネス・サービス業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0

・輸入

オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.0 -0.1 0.0 0.1 0.0 0.1 1.5 0.0 0.0 0.0

鉱業 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.1 0.9 0.0 0.0 0.0

建設業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.8 0.0 0.0 0.1

耐久財製造業 0.1 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 1.5 0.0 0.0 0.0

電気製品 0.1 0.3 0.2 0.2 0.0 0.0 -0.7 0.2 0.1 0.1

非耐久財製造業 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.8 -0.1 0.0 0.0

輸送・公共 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.7 0.0 0.0 0.1

通信 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.1

卸売・小売業 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.0

金融・保険業 0.1 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.9 0.0 0.0 0.1

その他サービス業 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 1.0 0.0 0.0 0.1

ビジネス・サービス業 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 1.0 0.0 0.0 0.1

付227

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・輸出 オセアニア 日本 インド 南アジア ASEAN その他アジア 中国 米国 欧州 その他地域

農業 0.2 0.5 0.1 0.1 0.0 -0.1 -2.3 0.2 0.1 0.1

鉱業 0.1 0.5 0.3 0.2 0.1 0.4 -1.4 0.1 0.1 0.1

建設業 0.0 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 -0.6 0.1 0.1 0.0

耐久財製造業 0.0 0.2 0.0 0.0 0.1 0.2 -1.1 0.1 0.1 0.0

電気製品 -0.4 -0.2 -0.3 -0.3 -0.2 -0.3 5.9 -0.2 -0.2 -0.3

非耐久財製造業 0.1 0.3 0.0 0.0 0.1 0.2 -1.0 0.2 0.1 0.1

輸送・公共 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 -0.1 0.1 0.1 0.0

通信 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.4 0.1 0.0 0.0

卸売・小売業 0.0 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 -0.8 0.1 0.1 0.1

金融・保険業 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 -0.6 0.1 0.1 0.0

その他サービス業 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 -0.8 0.1 0.1 0.0

ビジネス・サービス業 -0.1 0.1 0.0 -0.1 0.1 0.1 -0.7 0.0 0.1 0.0

付228