13
74 (364)  血圧 vol. 25 no. 5 2018 Key words アドヒアランス,コンコーダンス,高血圧治療,患者の 意識,配合剤 はじめに Hypertension Paradox は 2009 年に Chobanian により 提唱された 1) 概念で,高血圧は診断方法が簡便であり, 優れた治療薬が数多くあるにもかかわらず,受診して高 血圧症と診断される人の割合は少なく,さらに,治療を 受けている人のうち血圧が十分にコントロールされてい る患者の割合が少ないことを意味している.わが国にお いても 1990 年代後半より有力な降圧薬が次々と登場し, また,日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが 定期的に刊行 2)~5) されるなど診断と治療の最適化が図ら れ,医師の高血圧治療に対する満足度は 98.9%に達して いるにもかかわらず 6) ,降圧目標達成率は男性 30%,女 性 40%と低い 7) .さらに,厚生労働省の調査によると高 血圧が原因となった死亡者数は推計で 10 万人を超える と報告されている 8) .高血圧治療ガイドライン2014 (JSH2014) 5) によると高血圧者は 4,300 万人いると推定さ れているにもかかわらず,2014 年の厚生労働省の患者調 査では,高血圧治療のため受診している患者は 1,000 万 人に過ぎない 9) .これらの事実はわが国における高血圧 に対する診療には改善する余地があることを意味して いる. 高血圧の治療において,降圧目標を達成するためには 処方された降圧薬を確実に服用する手立てが必要と考え られており,2003 年に WHO によって提唱された服薬ア ドヒアランス(服薬遵守)の向上を図る方策が必要であ る.服薬アドヒアランスは服薬錠数や回数が増えれば増 えるほど低下することから,今後高齢化が進む中で,多 剤併用や残薬の発生が服薬アドヒアランスを考えるうえ で問題になると考えられている.JSH2014 では,治療の 選択方法に対してアドヒアランスやコンコーダンスの重 要性が示されており,降圧薬の服薬管理に関して配合剤 の有用性が記載されている.コンコーダンスは,① 患者 がパートナーとして参加するうえで十分な知識を持つこ と,② 処方の際のコンサルテーションに患者がパート ナーとして参加すること,③ 患者による薬の使用を支 援することを目標とする,医師と患者のコミュニケー ションを主体とする概念であり,近年わが国における実 地診療にも取り入れられている. さらに最近では,インフォームドチョイスという,患 者が医師から説明を受けたうえで患者自身がどんな治療 を受けるか選択することという,インフォームドコンセ ントをさらに推し進めた患者主体の考え方も出てきてい る.患者と医師による良好なコミュニケーションによる 高血圧診療を実現させ,Hypertension Paradoxを解消し て降圧目標達成率を改善することが今後の高血圧治療に 求められると思われる. 高血圧診療の更なる向上のためには,医師側と患者側 双方からみた高血圧治療のあり方と高血圧治療に対する 認識のギャップを明らかにし,問題点を抽出することが 必要である.そのうえで医師と患者間のコミュニケー ションギャップを埋める対策が必要であると思われる. 今回我々は,医師と患者の高血圧治療に対する認識の現 状とそのギャップを明らかにするためインターネットを 用いた調査を実施したのでその結果を報告する. 医師および高血圧患者の高血圧治療に対する意識の実態調査 西村誠一郎 1 義元郁絵 2 檜垣實男 3 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 1 医薬開発本部, 2 マーケティング本部市場調査グループ 3 愛媛大学名誉教授/医療法人仁友会南松山病院 病院長 調

調 査 研 究 - boehringer-ingelheim.jp · 2018. 5. 15. · 74(364) 血圧 vol. 25 no. 5 2018 Key words アドヒアランス,コンコーダンス,高血圧治療,患者の

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74(364)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

Key words

アドヒアランス,コンコーダンス,高血圧治療,患者の

意識,配合剤

はじめに

 Hypertension Paradox は 2009 年に Chobanian により

提唱された1)概念で,高血圧は診断方法が簡便であり,

優れた治療薬が数多くあるにもかかわらず,受診して高

血圧症と診断される人の割合は少なく,さらに,治療を

受けている人のうち血圧が十分にコントロールされてい

る患者の割合が少ないことを意味している.わが国にお

いても 1990 年代後半より有力な降圧薬が次々と登場し,

また,日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが

定期的に刊行2)~5)されるなど診断と治療の最適化が図ら

れ,医師の高血圧治療に対する満足度は 98.9%に達して

いるにもかかわらず6),降圧目標達成率は男性 30%,女

性 40%と低い7).さらに,厚生労働省の調査によると高

血圧が原因となった死亡者数は推計で 10 万人を超える

と報告されている8).高血圧治療ガイドライン 2014

(JSH2014)5)によると高血圧者は 4,300 万人いると推定さ

れているにもかかわらず,2014 年の厚生労働省の患者調

査では,高血圧治療のため受診している患者は 1,000 万

人に過ぎない9).これらの事実はわが国における高血圧

に対する診療には改善する余地があることを意味して

いる.

 高血圧の治療において,降圧目標を達成するためには

処方された降圧薬を確実に服用する手立てが必要と考え

られており,2003 年に WHO によって提唱された服薬ア

ドヒアランス(服薬遵守)の向上を図る方策が必要であ

る.服薬アドヒアランスは服薬錠数や回数が増えれば増

えるほど低下することから,今後高齢化が進む中で,多

剤併用や残薬の発生が服薬アドヒアランスを考えるうえ

で問題になると考えられている.JSH2014 では,治療の

選択方法に対してアドヒアランスやコンコーダンスの重

要性が示されており,降圧薬の服薬管理に関して配合剤

の有用性が記載されている.コンコーダンスは,① 患者

がパートナーとして参加するうえで十分な知識を持つこ

と,② 処方の際のコンサルテーションに患者がパート

ナーとして参加すること,③ 患者による薬の使用を支

援することを目標とする,医師と患者のコミュニケー

ションを主体とする概念であり,近年わが国における実

地診療にも取り入れられている.

 さらに最近では,インフォームドチョイスという,患

者が医師から説明を受けたうえで患者自身がどんな治療

を受けるか選択することという,インフォームドコンセ

ントをさらに推し進めた患者主体の考え方も出てきてい

る.患者と医師による良好なコミュニケーションによる

高血圧診療を実現させ,Hypertension Paradoxを解消し

て降圧目標達成率を改善することが今後の高血圧治療に

求められると思われる.

 高血圧診療の更なる向上のためには,医師側と患者側

双方からみた高血圧治療のあり方と高血圧治療に対する

認識のギャップを明らかにし,問題点を抽出することが

必要である.そのうえで医師と患者間のコミュニケー

ションギャップを埋める対策が必要であると思われる.

今回我々は,医師と患者の高血圧治療に対する認識の現

状とそのギャップを明らかにするためインターネットを

用いた調査を実施したのでその結果を報告する.

医師および高血圧患者の高血圧治療に対する意識の実態調査

西村誠一郎1  義元郁絵2  檜垣實男3

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 1医薬開発本部,2マーケティング本部市場調査グループ3愛媛大学名誉教授/医療法人仁友会南松山病院 病院長

調 査 研 究

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   75(365)

目的及び方法

1.目的 本研究の目的は,医師と高血圧患者それぞれの治療,

服薬状況,配合剤に対する認識を調査し,それを対比さ

せることによって医師と患者のコミュニケーションの現

状とそのギャップを明らかにすることで,高血圧診療を

進めるうえでの問題点を抽出することである.

2.調査方法及び対象 調査はメドピア株式会社に委託し,インターネットを

用いた全国調査をおこなった.調査対象は医師及び高血

圧患者であり,調査対象医師はメドピアから,高血圧患

者は楽天リサーチのリサーチモニターから調査対象の条

件にすべて合致するものを抽出した.

1)医師 以下の条件をすべて満たす医師を分析対象とした.

 ①  標榜する診療科名が循環器内科,代謝・内分泌科あ

るいは一般内科

 ②  1 ヵ月間の高血圧症診察患者数が 100 名以上

 ③ 年齢が 30 歳以上

2)高血圧患者 以下の条件をすべて満たす高血圧患者 1,000 名を分析

対象とした.

 ①  高血圧症のために医療機関に複数回(2 回以上)通

院したことがあり,現在も定期的に通院している

 ②  高血圧症の治療の目的で薬物治療を実施中

 ③ 年齢が 40 歳以上

 なお,抽出に際しては事前の高血圧患者の調査分布に

基づき,降圧薬配合剤服用中の患者 200 名,降圧薬単剤

服用中の患者 300 名及び降圧薬 2 剤以上を併用している

患者 500 名となるように調整した.

3)調査項目 調査項目を表 1に示した.また,調査に使用した設問

文を Supplementary appendixに示した.

3.調査実施期日 医師に対する調査は 2017 年 12 月 18 日から 2017 年 12

月 24 日の 7 日間,患者に対する調査は 2017 年 12 月 18

日から 2017 年 12 月 20 日の 3 日間で実施した.

4.集計・解析方法 解析はすべて記述的な解析をおこなった.医師用と患

者用で共通な設問に関しては両者の回答についての共通

点や相違点を抽出することとした.集計は各選択肢を選

択した人数を集計し,有効回答者数で除した数字に 100

を乗じた数字を%として表記した.

結 果

1.調査対象の属性1)高血圧患者

 調査対象患者の平均年齢は男女ともに 59.4 歳であっ

た.その他の属性を表 2に示した.

 調査対象は男性(88.0%)が多く,年齢区分は 50 歳代

(38.2%)が最も多く,次いで 60 歳代(36.3%)が多かっ

た.高血圧の治療歴は 10 年以上のものが 51.4%であっ

た.また,受診先は一般診療所(20 病床未満:以下 GP)が

70.2%であった.

2)医師 調査対象となった医師は 321 名であり,GP 勤務医が

51.7%に対し病院(20病床以上:以下HP)勤務医は48.3%

であった.1 ヵ月あたりの高血圧症診察患者数は 100~

150名が43.6%と最も多く,次いで151~200名が28.7%,

201~500 名が 25.9%であった.1 ヵ月あたりの降圧薬処

方患者数は 101~200 名が 55.8%と最も多く,次いで 1~

100 名が 19.9%,201~300 名が 13.7%であった.

2.病態や治療に関する説明 図 1に初診時の説明内容と特に重視する内容(医師),

あるいは詳しく説明を受けたい内容(患者)を示した.

 初診時の説明内容は,医師が「治療の目的」(86%)を

最も多く回答したのに対して,患者は「病気(高血圧症)

の説明」(65%)を最も多く回答した.また,「説明を受

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76(366)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

けていない」あるいは「覚えていない」とする患者が

23%存在したが,「説明していない」とする医師はいな

かった.説明内容のうち特に医師と患者間で説明の有無

に関する意識の乖離が大きかったのは,「治療の目的」

(47%),「食事療法に関する具体的な説明」(40%),「そ

の他の生活習慣の改善指導」(29%)などであった.

表 1.調査項目

項目 医師 患者

共通設問項目

初診時の説明内容 Q4 Q4説明内容への要望(患者),重視している点(医師) Q5 Q5治療選択肢の説明 Q6 Q6初診時の医師(患者)とのコミュニケーションに対する認識 Q7 Q8降圧目標の説明 Q8 Q9降圧目標値 Q9 Q10降圧状況の確認頻度 Q10 Q11降圧目標値達成状況 Q11 Q12降圧目標を達成するための重視点 Q12 Q13再診時の診察時間 Q13 Q14再診時のフォローポイント Q14 Q15再診時の医師(患者)とのコミュニケーションに対する認識 Q15 Q16残薬の確認頻度 Q16 Q18指示どおりに服薬が可能な薬剤数 Q17 Q20残薬数 Q18 Q21残薬発生理由 Q19 Q22処方箋どおりに服用するための工夫 Q20 Q23残薬対策への認識(十分かどうか) Q21 Q24配合剤の説明(希望,必要性) Q24 Q27配合剤の服用(処方)メリット Q25 Q28

非共通設問項目

通院先施設の種類 ― Q2治療期間 ― Q3降圧薬処方患者数 Q1 ―薬効別(降圧薬)処方患者数 Q2 ―単剤/併用/配合剤処方患者数 Q3 ―希望する治療方法の説明 ― Q7残薬に関するコミュニケーション ― Q17薬剤数への希望 ― Q19配合剤の認知の有無と認知経路 ― Q25配合剤が処方可能な患者への使用状況 Q22 ―配合剤の処方経緯 ― Q26配合剤の非使用理由 Q23 ―配合剤もしくは単剤併用の医師の処方意向,及び医師が考える患者の意向 Q26 ―配合剤もしくは単剤併用の患者の服用意向 ― Q29

表 2.調査対象患者の属性

n 配合剤服用患者 単剤服用患者 2剤以上服用患者全体 1,000[100.0] 200(20.0) 300(30.0) 500(50.0)性別 男性    880[88.0]  184(20.9) 256(29.1) 440(50.0)

女性    120[12.0]    16(13.3)   44(36.7)   60(50.0)年齢区分 40歳代    140[14.0]    35(25.0)   38(27.1)   67(47.9)

50歳代    382[38.2]    78(20.4) 117(30.6) 187(49.0)60歳代    363[36.3]    65(17.9) 107(29.5) 191(52.6)70歳代    109[10.9]    19(17.4)   36(33.0)   54(49.5)80歳代        6[0.6]       3(50.0)     2(33.3)     1(16.7)

治療期間 5年未満    194[19.4]    40(20.6)   71(36.6)   83(42.8)5~10年未満    292[29.2]    62(21.2)   94(32.2) 136(46.6)10年以上    514[51.4]    98(19.1) 135(26.3) 281(54.7)

通院先施設 一般診療所    702[70.2]  137(19.5) 225(32.1) 340(48.4)一般診療所以外    298[29.8]    63(21.1)   75(25.2) 160(53.7)

[ ]:%,患者全体(n=1,000)に対する割合,( ):%,各項目合計に対する割合

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   77(367)

図 1.初診時の説明内容

医師(n=321)

病気(高血圧症)の説明

治療の目的

全体的な治療の流れ

食事療法に関する具体的な説明

運動療法に関する具体的な説明

その他生活習慣の改善指導

薬物療法に関する具体的な説明

その他

自分では説明をしていない

重視していることは特にない

0% 20%

8043

8661

5016

6833

4715

5927

5721

00

0

1

40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

0% 20%

病気(高血圧症)の説明 658

治療の目的 394

全体的な治療の流れ 259

食事療法に関する具体的な説明

289

運動療法に関する具体的な説明

227

その他生活習慣の改善指導

306

薬物療法に関する具体的な説明

3411

その他 11

詳しく聞きたい内容はない

覚えていない 15

説明を受けていない 8

48

40% 60% 80% 100%

初診時の説明内容 特に重視する内容 初診時の説明内容 詳しく説明を受けたい内容*:設問に該当せず *:設問に該当せず

図 2.治療選択肢の説明

医師(n=321)

処方決定前の説明

0% 20% 40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

処方決定前の説明

0% 20% 40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

処方決定前の説明の希望

0% 20% 40% 60% 80% 100%

47 421

513 48 1322

39 34 1215

28

複数の選択肢を説明し,患者の希望を確認して薬剤を決定している複数の選択肢について説明しているが,患者の希望は確認していない処方する薬剤についてのみ説明している薬剤の選択に関する説明や確認はしていない

複数の選択肢を説明され,希望を確認された複数の選択肢を説明されたが,希望は確認されなかった処方されるくすりについてのみ説明されたくすりの選択に関する説明や確認はなかった覚えていない

複数の選択肢を説明し,希望を確認してほしい複数の選択肢を説明してほしいが,希望を確認する必要はあまりない処方されるくすりについてのみ説明してもらえればよいくすりの選択に関する説明や確認は必要ない

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78(368)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

1)治療選択肢の説明 図 2に処方決定前の治療選択肢に関する医師と患者の

コミュニケーションの状況,および患者のコミュニケー

ションに関する要望を示した.医師の 49%が治療選択肢

を示したと回答したが,患者でその意識のあるものは

18%であった.処方薬剤の説明は,医師の 47%,患者の

48%が認識しており,両者の間に乖離は認められなかっ

たが,「薬剤選択に関する説明を受けていない」あるいは

「覚えていない」とした患者は 35%存在した.一方,患

者が希望する処方決定前の説明方法は,「複数の治療選

択肢を説明し,希望を確認してほしい」が 39%,「複数

の治療選択肢を説明してほしいが,希望を確認する必要

はあまりない」が 15%と半数以上の患者が治療選択肢の

説明を望んでいた.

2)降圧目標値に関する説明 図 3に降圧目標値に関する説明の調査状況を示した.

医師は説明したと意識しているものが 95%であったの

に対し,患者が降圧目標値の説明を受けたと意識してい

るのは 56%であり乖離が認められた.

 一方,医師が主に説明した降圧目標値(収縮期血圧/拡

張期血圧)は 140/90 mmHg が 30%,135/85 mmHg が

26%,130/80 mmHgが36%と,130~140/80~90 mmHg

での目標設定が 92%であったが,患者では 135/85

mmHg が 10%,130/80 mmHg が 24%,125/75 mmHg

が 12%と,医師の目標設定値より低かった.また,「降

圧目標値の説明を受けていない」あるいは「覚えていな

い」患者が 44%存在した.

 降圧目標達成状況の確認は,79%の医師が「診察の都

度」おこなっていると回答し,「診察 2~3 回に 1 回くら

い」はおこなっていると回答した 16%と合わせると 95%

の医師が降圧目標達成状況を頻繁に患者に確認している

ことが判明した.一方,患者の回答では,49%が「診察

の都度」,2%が「診察 2~3 回に 1 回くらい」医師が確認

していると回答したが,「降圧目標値の説明を受けてい

ない」あるいは「覚えていない」と回答したものも 44%

存在した.

 降圧目標達成のために食事,その他の生活習慣,降圧

薬の服用を重視すると回答した医師の割合は,患者より

20~30%高く,特に服薬アドヒアランスを重視する割合

は医師が78%だったのに対して,患者は48%と両者の間

に大きな乖離がみられた(図 4).

図 3.降圧目標値に関する説明

医師(n=321)

患者への降圧目標値に関する説明

医師からの降圧目標値に関する説明

0% 20% 40% 60% 80% 100%必ず説明しているあまり説明していない

概ね説明している説明することはない

確かに受けた受けていない

受けた気がする覚えていない

患者(n=1,000)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

40 55 5 0

21 35 1727

図 4.降圧目標達成のために重視すること

食事に気をつける

0% 20% 40% 60% 80% 100%

適度に運動を継続する

その他生活習慣(喫煙,飲酒など)を改善する薬剤を医師の指示どおりに服用する

医師(n=321)

食事に気をつける

適度に運動を継続する

その他生活習慣(喫煙,飲酒など)を改善するくすりを医師の指示どおりに服用する

重要である あまり重要ではないまあ重要である 重要でないどちらともいえない

0% 20% 40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

65 3411 11

0

41 5622 22

0

58 4111 11

0

78 2111 00

0

41 48 1010

41 48 1010

38 45

48 43 88

1515

1111101111110

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   79(369)

3.再診する際の確認点 図 5に高血圧患者が再診する際の確認点に関する調査

結果を示した.医師と患者双方の 90%近くが「現在の病

気の状態」を確認点として回答したが,他の項目に関し

ては医師と比べ患者の認識が低かった.特に乖離が大き

かったものは「食事療法について」と「処方薬剤につい

て」であり,それぞれ両者の間に43%,38%の差があった.

4.降圧薬の残薬確認1)残薬の確認頻度

 高血圧患者への残薬の確認頻度を図 6に示した.医師

は「診察の都度」あるいは「診察 2~3 回に 1 回くらい」

は残薬確認をおこなっているとしたものがそれぞれ

58%,30%であったが,その頻度で残薬確認を受けたと

回答した患者はそれぞれ 24%,10%に過ぎず,逆に 63%

の患者がほとんど確認されることがないと回答し,両者

の意識に乖離が認められた.

2)服用薬剤数に関する患者の希望 現在の服用薬剤数別に,服用薬剤数に関する患者の希

望を調査した(図 7).その結果,服用薬剤を減らしたい

と考えている患者は 48%であり,特に 3 種類以上服用し

ている患者でその傾向が強かった.

3)良好な服薬アドヒアランスで服用できる薬剤数 医師と患者に対して,医師の指示どおりの服薬が期待

できる 1 日あたりの全薬剤数とそのうちの降圧薬の薬剤

数を調査した(図 8).全薬剤数は医師が「3 種類まで」

(32%),「4 種類まで」(30%)との回答が多かったが,

患者は「2 種類まで」(24%),「3 種類まで」(19%)との

回答と並んで「5 種類以上」(25%)との回答も多く,両

図 5.高血圧患者が再診する際の確認点

医師(n=321)

現在の病気の状態

0% 20%

87

食事療法について 64

運動療法について 38

その他生活習慣の改善について困っていること 50

処方した薬剤について 68

その他 0

特にない 1

40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

再診時に患者に通常確認すること

現在の病気の状態

0% 20%88

食事療法について 21

運動療法について 22

その他生活習慣の改善について困っていること

23

処方されたくすりについて

30

その他

特にない 10

16

11

10

8

17

60

11

40% 60% 80% 100%

再診時に医師から通常確認されること再診時に医師にもっと確認してもらいたいこと

図 6.高血圧患者への残薬の確認頻度

医師(n=321)

患者に対する残薬の確認頻度

0% 20% 40% 60% 80% 100%

患者(n=1,000)

医師による残薬の確認頻度

0% 20% 40% 60% 80% 100%

診察の都度診察2~3回に1回くらい診察4~5回に1回くらいそれ以下の頻度確認することはない

診察の都度診察2~3回に1回くらい診察4~5回に1回くらいそれ以下の頻度確認されることはない

58 30 7 32

24 10 3 12 51

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80(370)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

者に認識の差が認められた.

 降圧薬の薬剤数では,医師は「2 種類まで」(43%),

「3 種類まで」(36%)との回答が多く,一方で患者は「2

種類まで」(34%),「1 種類まで」(33%)の順に多く,

両者の意識に 1 種類の薬剤数の違いがみられた.

4)残薬の量 高血圧治療における残薬に関する意識を図 9に示し

図 7.現在の服用薬剤数に関する患者の希望

全体(n=1,000)

0% 20%

48%

減少意向

患者

1種類(n=5) 0 20%

2種類(n=278) 31%

3種類(n=326) 45%

4種類(n=151) 47%

5種類以上(n=219)

現在の服用薬剤数*

73%

40% 60% 80% 100%

大幅に減らしたい少し増えてもよい

少し減らしたい大幅に増えてもよい

ちょうどよい

*:現在の服用薬剤数を把握していない患者(n=21)を除く.

11 37 49

20 80

21 66

10 35 52

7 40 52

17 56 26

2 1

00

4 0

3 11

0

11

9

図 8.良好な服薬アドヒアランスで服用できる薬剤数(すべての疾患,高血圧症)

治療中の全疾患の薬剤数

0% 20% 40% 60% 80% 100%

そのうち,高血圧症の薬剤数

1種類まで 4種類まで2種類まで 5種類以上3種類まで わからない

医師(n=321)

治療中の全疾患の薬剤数

0% 20% 40% 60% 80% 100%

そのうち,高血圧症の薬剤数

患者(n=1,000)

32 30 2121 77

43

19

4 36 638

19 12 2525 332417

3433 16 5 9 3

図 9.高血圧症治療における残薬(30 日分の処方のうち薬剤が余る日数)

余らないと思う1~3日分4~6日分7~10日分11~15日分16日分以上

余ることはない1~3日分4~6日分7~10日分11~15日分16日分以上

医師(n=321) 患者(n=1,000)

9%

32%

7%

3% 2% 2%

42%

30%

14%

7%5%

48%

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   81(371)

た.余らないと回答したのは医師が 9%,患者が 42%で

あり患者の意識が高かった.しかしながら,患者の 58%

が薬剤は余っていると回答していた.

5)残薬が生じる理由について 残薬が生じる理由について図 10に医師と患者の意識

を示した.両者ともに「うっかり飲み忘れる」の回答が

多かったが,外出や多忙を理由とする回答及び服薬の必

要性や服用方法の理解不足によるとする回答は医師に比

較して患者では少なかった.他に患者回答で多かったの

は「残薬がないと不安になる」であった.

5.配合剤に対する意識1)配合剤を服用していない患者の配合剤の認知

 配合剤の服用経験のない,あるいはわからないと回答

した患者 770 名を対象として,配合剤の認知について確

認した.その結果,「見聞きしたことはない」との回答が

73%であり認知度は低かった.配合剤を知っていると答

えた患者では,その情報源が,「医師から」が 17%,「薬

剤師から」が 9%であり,その他からの情報入手はほと

んどなかった.また,770 名のうち配合剤に関する「説

明を希望する」と回答した患者は 53%であり,「説明を

希望しない」が 28%,「わからない」が 19%であった.

2)配合剤の説明に関する医師の認識 図 11に高血圧患者に対する配合剤の説明についての

医師の認識を示した.「処方可能な患者には原則説明す

べき」との回答が 45%だったのに対し,「配合剤を薦め

たい患者にのみ」,「患者から希望された場合のみ」説明

すればよい,あるいは「説明する必要は特にない」との

限定的,あるいは不要とする回答が 55%と半数以上で

あった.

3)配合剤の処方割合と非処方の理由 配合剤が処方可能な患者に対する医師の配合剤処方割

合を調査した結果,処方割合が 70%以上の医師は 29%,

50%以上 70%未満の医師は 28%,50%未満(処方しない

医師を含む)の医師は 43%であった.処方割合が 70%未

満と回答した医師 228 名に対しては,配合剤を処方しな

い理由を調査した(図 12).

 配合剤の処方割合が70%未満と回答した理由として最

も多かったのは,「用量調整がしにくい」の72%であった.

図 10.残薬の理由

医師(n=293)*

うっかり飲み忘れる

0% 20%

71

外出時に持参するのを忘れる 45

病態が安定すると患者自身で判断して飲むのをやめる 35

忙しい 27

種類や量が多い 29

残っていないと不安になる 6

薬剤を飲む時間が複雑 15

薬剤の飲む量や回数を正しく理解していない 15

飲みにくい 4

その他 0

40% 60% 80% 100%

患者(n=578)**

うっかり飲み忘れた

0% 20%

61

外出時に持参するのを忘れた 19

病態が安定していたため自分で判断して飲むのをやめた 5

忙しかった 7

種類や量が多かった 2

残っていないと不安になる 20

くすりを飲む時間が複雑だった 2

くすりの飲む量や回数を正しく理解していなかった 1

飲みにくかった 1

その他 12

40% 60% 80% 100%

*:薬剤が余ると思う医師ベース **:薬剤が余ることのある患者ベース

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82(372)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

考 察

 今回の調査の結果,高血圧治療に関する説明について

医師と患者の間で大きな乖離があることが明らかになっ

た.初診時の説明内容について「治療目的」,「食事療

法」,「その他の生活習慣の改善」などの認識に医師と患

者間で大きな乖離が認められた.また,降圧目標値の説

明や達成状況の確認に関しても医師はおこなったと認識

しているが,それを患者が認識していない実態が明らか

となった.このようなコミュニケーションギャップは,

① 説明時間の短さ,② 説明方法の不十分さ,③ お互い

のコミュニケーション技術の未熟さに加えて,初診時に

は患者は病気のことが一番心配で,その状態では,一度

に多くのことを言われても理解できないことがあり,医

師の言うことをすべて理解しきれていない可能性がある.

 また,降圧目標達成のために重視していることの中

で,医師と患者の間で最も認識の差が大きかったのは服

薬アドヒアランスであり(図 4),患者の服薬アドヒアラ

ンスに対する意識も高めることが重要だと考える.健康

日本 21(第二次)によると10),2022 年に収縮期血圧で男

性 134 mmHg,女性 129 mmHg を達成することが目標に

掲げられているが,現実には最新の国民健康・栄養調査

図 11.患者への「配合剤」の説明に関する医師の認識

処方可能な患者には原則説明すべきだと思う配合剤を薦めたい患者にのみ説明すればよいと思う患者から希望された場合のみ説明すればよいと思う説明する必要は特にないと思う

医師(n=321)

45%

39%

12%5%

図 12.処方可能な患者における「配合剤」の処方割合,および「配合剤」の非処方理由

医師(n=321)

8%

36%

28%

19%

10%

0%(処方しない)1%以上50%未満50%以上70%未満70%以上90%未満90%以上

医師(n=228)*

用量調整がしにくい

0% 20%

72

処方したくてもできない環境にある(未採用など) 16

14

併用薬との飲み合わせを懸念している

配合剤を処方するメリットを感じない

11

副作用が懸念される 10

患者が飲みにくい剤状になっている 3

その他 5

40% 60% 80%

配合剤の非処方理由*:配合剤の処方患者割合が 70%未満の医師ベース

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   83(373)

(平成 28 年)11)で男性 134.3 mmHg,女性 127.3 mmHg と

女性では目標が達成されている.また,目標血圧を達成

する方策として健康日本 21(第二次)では「降圧薬服用

率 10%アップ」が掲げられており,この健康施策の成功

に向けて服薬アドヒアランスの改善は一つの要因になる

と思われる.

 実際,薬局の機能に係る実態調査12)や本調査の結果

(図 9)からも,患者の約 60%が薬剤は余っていると回答

していることから,服薬アドヒアランスの改善は今後の

課題と考えられる.今回の調査では,患者の飲み残しは

ないと思っている医師が 9%だったのに対し,飲み残し

はないと回答した患者が 42%であり,服薬状況に関して

は患者の意識の方が高い結果となった.この結果の理由

として,本調査は医師と患者が 1 対 1 対応したものでは

なく,医師は自分が診ている服薬アドヒアランスが悪い

患者を想像している可能性がある一方で,今回の調査対

象患者として多かった 50~60 歳代男性は健康志向が高

く,これらの点を考慮すれば飲み残しの数字はこの程度

であることもうなずける.したがって,医師は服薬アド

ヒアランスが良い患者と悪い患者を見極めて診療にあた

る必要があると考える.

 医師と患者の間のコミュニケーションギャップを埋め

服薬アドヒアランスを向上させるためには,その時の患

者の診療状態を考慮しながら,ステップバイステップで

患者とのコミュニケーションを看護師,薬剤師,コー

ディネーター,ケースワーカーなどを含めた治療チーム

であたること,コミュニケーションツールを工夫するこ

となどの必要があると考える.わが国は世界でも有数の

高学歴社会であり,インターネットなどの情報を受ける

体制が整備されているので,コミュニケーションギャッ

プは医師側から埋めていく努力が必要と思われる.特に

降圧目標値については目標血圧という患者としても理解

しやすい指標(数値)があるにもかかわらず医師と患者

との間にコミュニケーションギャップがあるが,この原

因の一つとしては,降圧目標値が診察室血圧,家庭血圧,

合併症の有無などによって異なることが影響しているこ

とが考えられる.降圧目標値については,継続的な医師

と患者の確認が大切であると思われる.

 一方,現在の服用薬剤数については約半数の患者が減

らしたいとの希望があることが判明した.服用薬剤数に

ついては医師と患者とのコミュニケーションの中で,服

薬アドヒアランスの向上のため話題に挙げる必要性が示

唆される.また,医師が服薬アドヒアランスを上げるた

めの工夫(「配合剤を活用する」,「薬の種類をできるだけ

減らす」,「飲む時間が同じ時間の薬を処方する」など)

を患者に理解させることが必要だと考える.

 配合剤の使用により服薬錠数を少なくし,処方を単純

化することはアドヒアランス改善に有用であることがい

われており13)14),我々も ARB とサイアザイド系降圧利

尿薬,ARB と Ca 拮抗薬の 2 種類の組み合わせで PDC

(Proportion of Days Covered)を指標として検討した結

果,どちらの組み合わせにおいても配合剤の服薬アドヒ

アランスが有意に高かったことを報告している15).さら

に,配合剤使用による服薬アドヒアランスの向上が降圧

効果を改善することが示唆されている16)17).

 配合剤に関する今回の調査結果からは,配合剤は非服

用患者の 73%において認知されていないが,53%の患者

が配合剤の説明を希望している.また,深水らが実施し

た服薬アンケートの結果では,配合剤の存在を認知して

いなかった患者の割合は約 80%であり,認知していな

かった患者の 90%以上が配合剤の服薬を希望していた

ことが報告されている18).これらの結果を踏まえれば,

医師は降圧薬の単剤療法または併用療法をおこなってい

る患者に対して適切なタイミング(単剤療法の場合は治

療薬の変更や増量が必要と判断した時,併用療法の場合

は血圧コントロールが安定していると判断した時など)

で治療選択肢の一つとして配合剤の説明をおこなうべき

と考える.その際には,配合剤の服薬アドヒアランス改

善といったメリットや細かな用量調整の難しさといった

デメリット,さらには,患者の生活スタイルや服薬に対

する考え方も確認したうえで配合剤の使用について患者

と話し合うことが必要であると考える.また,医師のみ

ならず,患者と関わる治療チームメンバーが配合剤を服

薬する患者のメリットをもっと理解することも必要であ

ろう.

 今回の調査におけるリミテーションは,医師と患者が

対応していないこととインターネットを用いた調査のた

め,使い慣れていると思われる 50 歳代,60 歳代の男性

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84(374)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

が多く,本来の高血圧患者の母集団9)と比較して偏りが

認められることである.しかし,本調査対象患者は,高

血圧やその治療に関心が高い患者層と考えられるため,

今回の研究結果を高血圧治療におけるコミュニケーショ

ンの状況と判断することは問題ないと考える.

結 論

1 . インターネットを利用して,医師と高血圧患者の治

療,服薬アドヒアランス,配合剤に関する意識を調

査した.

2 . 治療,生活指導及び降圧目標値について,医師がお

こなった患者への説明と患者が医師より受けた説明

についての認識には大きな乖離が認められた.

3 . 患者の約 60%に残薬がある一方で,患者の半数は現

在の服用薬剤数を減らしたいと思っており,患者が

考える良好な服薬アドヒアランスで服用できる薬剤

数は医師が考える薬剤数より 1 種類少なく,もっと

処方をシンプルにする必要性があると考えられた.

4 . 患者の配合剤に対する認知度は低かったが,説明を

希望する患者が 53%も存在した.一方,積極的に配

合剤を処方する医師の割合はまだまだ低く,その主

な理由は用量調整の困難さであった.

5 . 今回の調査で医師と患者にコミュニケーション

ギャップが存在したが,なぜ患者がそう考えるの

か,患者の立場で考え,各々の患者に適した治療を

おこなうことがわが国における Hypertension Para-

dox を解決する方策と考えられた.

利益相反(Conflict of Interest:COI)について 檜垣實男は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より講演料,監修料,コンサルティング料,奨学寄附金の提供を受けている.西村誠一郎,義元郁絵は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の社員である.なお,本試験の実施,統計解析,論文作成に関する費用は,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社が負担した.

謝 辞 本論文作成に協力くださった児玉知之氏(日本ベーリン

ガーインゲルハイム株式会社:Publication manager),及びメディカルライティングを担当いただいた株式会社リテラメッドに感謝いたします.

文 献 1) Chobanian AV:N Engl J Med 361:878, 2009 2) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高

血圧治療ガイドライン 2000,日本高血圧学会,東京,2000

3) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン 2004,日本高血圧学会,東京,2004

4) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン 2009,日本高血圧学会,東京,2009

5) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン 2014,日本高血圧学会,東京,2014

6) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED):平成27 年度 産学官連携研究の促進に向けた創薬ニーズ等調査研究,公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団,東京,2015

7) Miura K et al:Circ J 77:2226, 2013 8) 厚生労働省:政策科学総合研究事業(政策科学推進研究

事業)(課題番号 H22—政策—指定—033):5—13,2011 9) 厚生労働省:平成 26 年患者調査 http://www.e—stat .go.jp/SG1/estat/List .do?lid=

000001141596 10) 厚生労働省:健康日本 21(第二次)分析評価事業 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/

kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21/index.html 11) 厚生労働省:平成 28 年国民健康・栄養調査 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html 12) 厚生労働省:個別事項(その 4 薬剤使用の適正化等につ

いて),H27 医療課委託調査(薬局の機能に係る実態調査) http://www.mhlw.go.jp/file/05—Shingikai—12404000—

Hokenkyoku—Iryouka/0000103301.pdf 13) Bangalore S et al:Am J Med 120:713, 2007 14) Gupta AK et al:Hypertension 55:399, 2010 15) 西村誠一郎ほか:血圧 24:725,2017 16) 黒木大介ほか:血圧 21:277,2014 17) 伊藤祐司ほか:Prog Med 31:2861,2011 18) 深水圭ほか:血圧 24:118,2017

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■調査研究■

血圧 vol. 25 no. 5 2018   85(375)

設問No 設問文 共通 個別事前設問 有害事象報告に関する注意事項 ○Q1 先生が,直近1ヵ月間で診察された高血圧症の患者数のうち,降圧薬を処方している患者数(カルテベース)を

お教えください. ○

Q2 先生が,直近1ヵ月間で降圧薬を処方している患者数のうち,薬効別の処方患者数(カルテベース)の内訳をお教えください. ○

Q3 先生が,直近1ヵ月間で降圧薬を処方している患者数のうち,降圧薬の成分数別の患者割合をお教えください. ○Q4 高血圧症の治療において,最初の診断時に,先生はご自身で患者さんに高血圧症についてどのような説明をして

いますか. ○

Q5 高血圧症の治療において,最初の診断時に患者さんにしている説明の中で,特に重視していることをお選びください. ○

Q6 高血圧症の治療において,先生が患者さんに初めて薬剤を処方する時に,先生はどのように薬剤を説明し,処方を決定していますか. ○

Q7 高血圧症の診断や治療開始時の患者さんへの説明について,先生はどのようにお感じですか. ○Q8 高血圧症の診察をしている患者さんに対して,先生は「降圧目標値」について説明していますか. ○Q9 現在,高血圧症の診療をしている患者さんに,主に説明をしている「降圧目標値」は次のうちどの値ですか. ○Q10 患者さんの降圧目標値に対する達成状況について,平均して,先生はどの程度の頻度で確認されますか. ○Q11 先生が薬物治療を実施している高血圧症患者さんについて,降圧目標値の達成状況別に割合をお知らせください. ○Q12 患者さんの降圧目標を達成するためには,各項目がどの程度重要だとお考えでしょうか.先生のお考えに最もあ

てはまるものをそれぞれお知らせください. ○

Q13 高血圧症の治療開始後の再診において,患者さん1回あたりの平均的な診察時間はどのくらいですか.待ち時間は含めず,お考えください. ○

Q14 高血圧症の治療開始後の再診において,先生が通常患者さんに対して確認することで,あてはまるものをすべてお選びください. ○

Q15 薬物治療を実施している高血圧症患者さんの再診における先生のご対応(説明ややり取りなど)について,ご自身でどのように感じていますか. ○

Q16 高血圧症患者さんの再診時に,前回処方した薬剤の服薬状況(飲み残しなど)について,先生は平均的にどの程度の頻度で患者さんに確認されていますか. ○

Q17 1日に服用する薬剤が何種類くらいであれば,先生が薬物治療を実施している高血圧症患者さんが,先生の指示どおりに薬剤を服用できると思いますか.患者さんが確実に服薬するための限界と考える薬剤種類数をそれぞれお知らせください.

Q18 高血圧症の薬剤について,仮に処方日数を30日とした場合,平均的な日数として,再診時に前回処方した薬のうち何日分が余ってしまっていると思いますか. ○

Q19 高血圧症患者さんの再診時に前回処方した薬剤が余る理由として,先生があてはまると考えるものをすべてお選びください. ○

Q20 処方した薬剤を高血圧症患者さんに指示どおりに服用してもらうために,先生が通常とっている工夫や対策があればすべてお選びください. ○

Q21 患者さんが指示どおりに薬剤を服用するための先生の工夫や対策について,ご自身でどのようにお感じですか. ○Q22 高血圧症治療薬を処方する際に,先生は「配合剤」の処方が可能な患者さん(単剤を併用処方中など)のうち,

何割くらいに「配合剤」を処方していますか. ○

Q23 配合剤が処方可能な高血圧症患者さんに対して,配合剤を処方されない理由としてあてはまるものをすべてお選びください. ○

Q24 高血圧症の薬剤処方時に,配合剤の処方が可能な患者さんに対して,配合剤の説明をすべきだと思いますか. ○Q25 先生は高血圧症の配合剤にどのようなメリットがあるとお考えですか. ○Q26 高血圧症の薬剤として,「配合剤」が処方可能な患者さんがいた場合の先生のお考えについて,以下の各項目に

あてはまるものをお選びください. ○

Supplementary appendix治療に関するアンケート(医師)

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86(376)   血圧 vol. 25 no. 5 2018

設問No 設問文 共通 個別Q1 有害事象報告に関する注意事項 ○Q2 高血圧症の治療を受けている病院の種類を教えてください. ○Q3 高血圧症と初めて診断された時期は何年前になりますか. ○Q4 高血圧症の治療において,最初の診断時に,医師はあなたに高血圧症についてどのような説明をしましたか. ○Q5 高血圧症の最初の診断時に,医師からもう少し詳しく説明を受けたかったと思う内容として,あてはまるものを

すべてお選びください. ○

Q6 高血圧症の治療において,あなたが初めてくすりを処方された時に,医師はどのようにくすりを説明し,処方を決定しましたか. ○

Q7 一般的にくすりが処方される時に,くすりの選択について,あなたは医師からどのように説明を受けたいと思いますか. ○

Q8 高血圧症の診断や治療開始時の医師の説明について,あなたはどのように感じましたか. ○Q9 高血圧症の治療において,「降圧目標値」について医師から説明を受けたことがありますか. ○Q10 現在の降圧目標値について,医師から説明を受けた「降圧目標値」は次のうちどの値ですか. ○Q11 降圧目標値に対する達成状況について,医師はどの程度の頻度で確認していますか. ○Q12 高血圧症の治療の結果,あなたの降圧目標値はどの程度達成できていますか. ○Q13 降圧目標を達成するためには,各項目がどの程度重要だとお考えでしょうか.あなたのお考えに最もあてはまる

ものをそれぞれお知らせください. ○

Q14 高血圧症の治療開始後の再診で医師に診てもらう際,1回あたりの平均的な診察時間はどのくらいですか.待ち時間は含めず,お考えください. ○

Q15 高血圧症の治療開始後の再診について,下記の項目に対してあてはまるものをすべてお選びください. ○Q16 高血圧症のくすりを処方している医師の再診における対応(説明ややり取りなど)について,あなたはどのよう

に感じていますか. ○

Q17 高血圧症の再診時に,前回処方してもらったくすりが残っているかどうかについて,あなたは通常,医療関係者にどのように状況を伝えていますか.あてはまるものをすべてお知らせください. ○

Q18 高血圧症の再診時に,前回処方してもらったくすりが残っている状況について,医師から確認されることはありますか. ○

Q19 現在,あなたが医師に処方されて服用している,すべてのくすりの数に対して,あなたの気持ちにあてはまるものをお選びください. ○

Q20 1日に服用するくすりが何種類くらいであれば,医師の指示どおりにきちんと服用できると思いますか.確実に服薬するための限界と考える薬剤種類数をそれぞれお知らせください. ○

Q21 現在服用している高血圧症のくすりについて,仮に処方日数を30日とした場合,再診時(30日後)に前回もらったくすりのうち何日分が余っていますか.平均的な日数としてあてはまるものをお選びください. ○

Q22 現在服用している高血圧症のくすりについて,再診時に前回処方されたくすりが余る理由として,あてはまるものをすべてお選びください. ○

Q23 処方されたくすりを医師の指示どおりに服用するための工夫や対策について,下記の項目にあてはまるものがあればすべてお選びください. ○

Q24 くすりを指示どおりに服用するための医師の工夫や対策について,あなたはどのようにお感じですか. ○Q25 高血圧症の「配合剤」(お薬1錠の中に2種類以上の高血圧症に対する薬効成分を含むくすり)について,これ

までに名称や特徴をどこかで目にしたり聞いたことがありますか. ○

Q26 高血圧症に対する「配合剤」が初めて処方された時の経緯について,あてはまるものを下記の中からお選びください. ○

Q27 高血圧症のくすりとして,「配合剤」(お薬1錠の中に2種類以上の高血圧症に対する薬効成分を含むくすり)が服用可能な場合,配合剤について医師に説明してほしいと思いますか. ○

Q28 高血圧症のくすりとして,「配合剤」(お薬1錠の中に2種類以上の高血圧症に対する薬効成分を含むくすり)の服用にはどんなメリットがあると思いますか. ○

Q29 高血圧症のくすりとして,「配合剤」(お薬1錠の中に2種類以上の高血圧症に対する薬効成分を含むくすり)が服用可能な場合の,あなたの服用意向をお知らせください. ○

治療に関するアンケート(患者)