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生化学Ⅲ 第7回 転写と翻訳のメカニズム-1 今回のSBOs RNAの種類と働きについて説明できる DNAからRNAへの転写について説明できる 生化学Ⅲ SBO-11 RNAの種類と働きについて説明できる RNA Types and Functions SBO-11 課題(予習&復習) RNAの種類と機能に関連する基本的な用語の意味につい て確認し、ノートにまとめること。 hnRNA、mRNA、tRNA、rRNA、snRNA、siRNA、リボ ザイム、RNAワールド、コドン、アンチコドン、 キャップ構造、ポリ(A)鎖 SBO-11 小テスト-1 真核生物のmRNAでは、5’末端側にキャップ構造が、 3’末端側にポリ(A)鎖が付加されている。 Yes No RNAは折りたたまれて独自の構造をとる RNAの相補的な塩基の間で塩基対がつくられることに より、立体構造が形成される。 復習 RNAの種類 名称 特徴 教科書 mRNA タンパク質合成に必要なアミノ酸配 列情報をコードする p402-403 tRNA 特定のアミノ酸と結合し、タンパク 質合成時にmRNAのコドンを認識する p403-404 rRNA リボソームの構成因子 p404-405 snRNA mRNAのプロセシングと遺伝子調節に 関与する p405 miRNA mRNAと二本鎖をつくって翻訳を停止 させる p406 siRNA mRNAと二本鎖をつくって翻訳を制御 する(RNA干渉) p406 RNAワールド説 DNAが遺伝物質として利用される前に、RNAが遺伝情報 の保存と化学反応を担う時代があった? 昔のRNAは、現在のDNAとタンパク質の働きを持っていた。 生命進化とRNA-1 先RNA時代 RNAよりも単純な物質がRNA合成反応を触 RNA時代 RNAが遺伝情報の保存と化学反応の触媒を 担う 発展

DNAからRNAへの転写について説明できるp-bisei/Lecture_files/Biochem-III file 07.pdf生化学Ⅲ 第7回 転写と翻訳のメカニズム-1 今回のSBOs RNAの種類と働きについて説明できる

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生化学Ⅲ 第7回

転写と翻訳のメカニズム-1

今回のSBOs

RNAの種類と働きについて説明できるDNAからRNAへの転写について説明できる

生化学Ⅲ SBO-11

RNAの種類と働きについて説明できる

RNA Types and Functions

SBO-11 課題(予習&復習)

RNAの種類と機能に関連する基本的な用語の意味について確認し、ノートにまとめること。

hnRNA、mRNA、tRNA、rRNA、snRNA、siRNA、リボ

ザイム、RNAワールド、コドン、アンチコドン、

キャップ構造、ポリ(A)鎖

SBO-11 小テスト-1

真核生物のmRNAでは、5’末端側にキャップ構造が、3’末端側にポリ(A)鎖が付加されている。

Yes No

RNAは折りたたまれて独自の構造をとる

RNAの相補的な塩基の間で塩基対がつくられることにより、立体構造が形成される。

復習 RNAの種類

名称 特徴 教科書

mRNAタンパク質合成に必要なアミノ酸配列情報をコードする

p402-403

tRNA特定のアミノ酸と結合し、タンパク質合成時にmRNAのコドンを認識する

p403-404

rRNA リボソームの構成因子 p404-405

snRNAmRNAのプロセシングと遺伝子調節に関与する

p405

miRNAmRNAと二本鎖をつくって翻訳を停止させる

p406

siRNAmRNAと二本鎖をつくって翻訳を制御する(RNA干渉)

p406

RNAワールド説

DNAが遺伝物質として利用される前に、RNAが遺伝情報の保存と化学反応を担う時代があった?

昔のRNAは、現在のDNAとタンパク質の働きを持っていた。

生命進化とRNA-1

先RNA時代RNAよりも単純な物質がRNA合成反応を触媒

RNA時代RNAが遺伝情報の保存と化学反応の触媒を担う

発展

生命進化とRNA-2

RNA時代RNAが遺伝情報の保存と化学反応の触媒を担う

RNA&タンパク質時代RNAが遺伝情報の保存を担い、タンパク質が化学反応の触媒を担う

発展

RNA&タンパク質時代RNAが遺伝情報の保存を担い、タンパク質が化学反応の触媒を担う

生命進化とRNA-3

現在DNAが遺伝情報の保存を担い、タンパク質が化学反応の触媒を担う

発展

mRNAの構造と機能復習

mRNA基本的に1本鎖(部分的に2本鎖になることがある)。

アミノ酸の配列情報を持ち、タンパク質合成に利用される。

原核生物のmRNAの構造と機能

原核生物のmRNAはプロセッシング(化学修飾やスプライシング)されない。

真核生物のmRNAの構造と機能

真核生物では、hnRNAがプロセッシング(化学修飾やスプライシング)されてmRNAになる。

真核生物のmRNAの構造と機能

真核生物のmRNAの5’末端には7-メチルグアノシンが付加され(キャップ構造)、3’末端にはポリアデニル酸(poly A)が付加される(ポリAテール)。

真核生物のmRNAの構造と機能

真核生物では、1分子のmRNAに1つの遺伝子がコードされている。

真核生物のmRNAの構造と機能

真核生物のmRNAには原核生物のようなリボソーム結合配列が存在せず、リボソームがmRNAの5’末端に結合する。

tRNAの特徴

生物系薬学Ⅱ p76参照

70~90ヌクレオチドで構成される。

約60種類存在するtRNAの基本構造は同じ。

多くの修飾塩基を含んでいる。

分子内で塩基対を形成することにより三次構造を形成している。

アンチコドンでmRNAのコドンを認識する。

アミノ酸ステムにアミノ酸が結合する。

tRNAの構造

タンパク質合成には、各コドンに対応したトランスファーRNA(tRNA)が関与する。

修飾塩基の例Ψ:プソイドウリジンD:ジヒドロウリジン

転写後に化学修飾されるため、特殊な塩基を含む。

tRNAの成熟過程

tRNAは前駆体として合成(転写)された後、プロセシングされ、塩基を修飾されて成熟型tRNAになる。

アミノアシルtRNA

tRNAの3’末端にそれぞれのコドンに対応したアミノ酸が付加され、アミノアシルtRNAになる。

mRNAのコドンとアミノアシルtRNAのアンチコドン

リボソームに取り込まれたアミノアシルtRNAのアンチコドンがmRNAのコドンと塩基対を形成する。

tRNAの働き

アミノアシルtRNAのアミノ酸残基のアミノ基が伸長中のペプチド鎖末端のカルボキシル基と反応し、ペプチド結合で連結する(リボソーム必須、ATP不要)。

原核生物と真核生物のリボソーム

真正細菌型 真核生物型

70S複合体

80S複合体

30S

50S

40S

60S

5S rRNA23S rRNA

16S rRNA

5S rRNA5.8S rRNA28S rRNA

18S rRNA

真正細菌は70Sリボソームを持ち、真核生物は

80Sリボソームを持つ。

Sは沈降係数

復習

リボソームRNA(rRNA)の生成

rRNAは前駆体として合成(転写)された後、塩基が修飾され、プロセシングされて成熟型rRNAになる。

大腸菌16S rRNAの構造

rRNAは分子内で塩基対を形成し、特異的な二次構造を形成している。

3'末端付近にmRNA認識に関わる配列を持つ。

生物系薬学Ⅱp77参照

1,540 nt

rRNAの立体構造

リボソームの構造の2/3を占めるrRNAが中心(コア)になって、その周囲にリボソームタンパク質が結合する。

snRNAの機能

各種のsnRNAはそれぞれ特定のタンパク質と結合し、RNAのスプライシングなどに関与する。

miRNAの機能

核内で合成されたmiRNAの初期転写産物が核外に移行し、ダイサーによって切断され、タンパク質と結合する。

miRNAとmRNAが二本鎖を形成すると、mRNAが分解されるか、翻訳が抑制される。

RNA干渉(RNA interfering)

RNA干渉はウイルスなどの二本鎖RNAの排除や、遺伝子発現制御のために真核細胞がもつ機構と考えられている。二本鎖RNAと相補的なRNAが分解される。

転写因子(トランスポゾン)

ウイルスの二本鎖RAN

RNA干渉の発見

mRNA相補的RNA

mRNAと相補的な外来RNAによる翻訳阻害

翻訳阻害

加えたRNAの量に応じて阻害効果が得られると期待したら・・・

RNA干渉の発見

mRNA相補的RNA

mRNAと相補的な外来RNAによるmRNAの分解

RNA分解

加えたRNAよりも大きい効果が得られた

siRNAの生成

二本鎖RNAがダイサーなどを含むタンパク質複合体により切断され、21~25塩基対の断片(siRNA)が生じる。

siRNAの機能

miRNAと同様にsiRNAがRISCと結合し、相補的なRNAを分解する。

生化学Ⅲ SBO-12

DNAからRNAへの転写について説明できる

Transcription

SBO-12 課題(予習&復習)

転写に関連する基本的な用語の意味について確認し、ノートにまとめること。

RNAポリメラーゼ、センス鎖、アンチセンス鎖

SBO-12 小テスト-1

RNAポリメラーゼは、鋳型となるDNA鎖の3’末端側から5’末端側に向けて塩基配列を読み取り、相補的な塩基配列を持つRNAを合成する。

Yes No

RNAポリメラーゼの種類

真核細胞には3種類のRNAポリメラーゼが存在し、細胞内局在と転写するRNAの種類が決まっている。

原核生物 真核生物

種類 1種類 RNAポリメラーゼⅠ RNAポリメラーゼⅡ RNAポリメラーゼⅢ

局在部位 細胞質 核小体 核質 核質

転写産物 全RNA23S rRNA18S rRNA5.8S rRNA

mRNAmiRNAsiRNA

snRNAの一部

5S rRNAtRNA

snRNAの一部

遺伝子の転写

DNA(遺伝子)はRNA合成酵素(RNA polymerase)の働きによってRNAに転写される。

A遺伝子 B遺伝子 C遺伝子

転写因子

RNA合成酵素 RNA

RNA合成酵素はDNAをRNAに転写する(コピーする)。

復習

転写

(transcription)

Recipe for transcription

真正細菌の転写に必要な因子

1,転写制御因子

2,RNAポリメラーゼ

3,ヌクレオチド(4種類)

細菌遺伝子の基本構造

DNA

5'

3'

3'

5'

プロモーター(promoter) 転写開始点 転写終結点

ATG

TAATGATAG

SD配列

RNAAUG

UAAUGAUAG5' 3'

翻訳開始コドン 翻訳終止コドン

日本薬学会編生物系薬学Ⅱ参照

復習 DNAの鋳型鎖とコード鎖

二本鎖DNA

コード鎖をセンス鎖、非コード鎖をアンチセンス鎖と呼ぶことがある

コード鎖(センス鎖)

非コード鎖=鋳型鎖(アンチセンス鎖)

mRNA

復習

遺伝子の方向性復習

矢印は遺伝子の向き(転写時にRNAポリメラーゼが進む方向)を示す。遺伝子aのコード鎖は下側のDNA鎖で、遺伝子bのコード鎖は上側のDNA鎖になる。

遺伝子はそれぞれのDNA鎖にコードされるが、複数の遺伝子がDNAの同じ領域に重複してコードされることは希である。

細菌のプロモーター配列

(promoter sequence)

細菌の遺伝子には、転写開始点上流にプロモーターと呼ばれる共通配列が存在する。

5'--TTGACA---------TATAAT------A--3'3'--AACTGT---------ATATTA------T--5'

-35領域 転写開始点-10領域

共通配列 共通配列非共通配列 非共通配列

6塩基対 約17塩基対 6塩基対 約10塩基対

復習

細菌のシグマ因子の働き

シグマ因子はプロモーター配列を認識し、RNAポリメラーゼを転写開始点に誘導する。

5'--TTGACA---------TATAAT------A----3'3'--AACTGT---------ATATTA------T----5'

-35領域

RNAポリメラーゼ

-10領域

シグマ因子(sigma factor)

転写開始点

復習 細菌の転写ターミネーター

DNAやRNAは相補的な配列があると、同一鎖内でも二次構造をつくることがある。

5'-GTCGAGAGGCGCACTAGCCTCTCAAG-3'3'-CAGCTCTCCGCGTGATCGGAGAGTTC-5'

復習

細菌の転写ターミネーター

ACC TG AC=GG=CG=CA=TG=CA=TG=C5'-GTC AAG-3'

5'-GTCGAGAGGCGCACTAGCCTCTCAAG-3'

核酸の二次~高次構造は随所に存在し、様々な細胞機能と密接に関係する。

相補的な塩基対で二次構造をつくる。

復習

細菌の基本的転写システム

1. 制御因子がプロモーター付近に結合し、発現を制御する(例外有)。

2. シグマ因子とRNAポリメラーゼ複合体が転写開始点に結合する。

3. アンチセンス鎖DNAを鋳型に、RNA鎖が5'→3'方向に合成される。

4. 転写終結点で転写が終了する。

復習

細菌遺伝子の発現モデル

DNA5'

3'

3'

5'

プロモーター(promoter) 転写開始点

シグマ因子

RNAポリメラーゼ

転写単位

復習

細菌遺伝子の発現モデル

5'

3'

3'

5'

復習

細菌遺伝子の発現モデル

RNA

転写終結点

5'

3'

3'

5'

復習 RNAポリメラーゼ

RNAポリメラーゼはアンチセンス鎖DNAを鋳型にして、5'→3'方向にRNAを合成する。

5'-- --3'3'-- --5'

RNAポリメラーゼ(RNA polymerase)

AAGCCCTAGGAGGTCATCTATGC

AAGCCCUAGGAGGUCAUCUA-3'TTCGGGATCCTCCAGTAGATACG

5'-

転写開始点

伸長方向→

DNA

RNA UTP

コード鎖

非コード鎖(鋳型鎖)

復習

転写終結点

5'-- TTTAAT--3'3'-- T GAAATTA--5'

RNAポリメラーゼ

GTCATCTATGC

GUCAUCUAUGCCAGTAGATACG

-3'

ACC TG AC=GG=CG=CA=TG=CA=TA C

転写終結点(terminator)のステムループ構造により、RNAポリメラーゼの進行が停止する。

DNA

RNAT=AC=G

T=AC=G

C=GG=CC T

G ATG

ステム

ループ

復習 p446 図36-11 真核細胞の転写

真核細胞のRNAポリメラーゼⅡ前開始複合体形成のモデル

A.段階的結合GTF(基本転写因子)、PolⅡ(RNAポリメラーゼⅡ)、メディエーター因子がプロモーターに順番に結合する。

B.ホロ酵素形成polⅡ、メディエーター因子、6つのGTFが1つの複合体を形成した後にプロモーターに結合する。

真核細胞の転写-1

TFIIDのTBPサブユニットがTATAボックスを認識してDNAと結合

DNAと結合したTFIIDの隣にTFIIBが結合

TBP:TATA結合タンパク質

TFIIF、TFIIE、TFIIHなどとRNAポリメラーゼが転写開始点付近に結合

真核細胞の転写-2

転写基本因子のほとんどが解離し、RNAポリメラーゼによる転写が始まる

TFIIHがATPを使って転写開始点付近の二本鎖DNAを解離させる

TFIIHがRNAポリメラーゼのC末端領域(CTD)をリン酸化する

真核細胞の転写開始に必要な転写基本因子

因子名 サブユニット数 転写開始における役割

TFIIDTBPサブユニット

1 TATAボックスの認識。

TFIIDTAFサブユニット

約11転写開始点付近の配列を認識と、TBPのDNA結合の調節。

TFIIB 1プロモーターのBRE配列認識と、RNAポリメラーゼの配置。

TFIIF 3RNAポリメラーゼ、TBP、TFIIBの結合安定化。TFIIEとTFIIHの引き寄せ。

TFIIE 2 TFIIHの引き寄せと調節。

TFIIH 9転写開始部位のDNAをほどき、RNAポリメラーゼのCTDのSer5をリン酸化し、RNAポリメラーゼをプロモーターから解離させる。